(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092457
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240701BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20240701BHJP
【FI】
H01L21/304 621E
B24B37/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208387
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川端 丈
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA02
3C158DA17
3C158EA28
3C158EB01
3C158EB10
3C158ED00
5F057AA25
5F057AA44
5F057BA11
5F057BB03
5F057CA22
5F057DA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、研磨スラリーによる軟質化が抑制された研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨装置100において、ウェーハ2のノッチ部21の研磨に用いられる円板状の研磨パッド1は、不織布を備える。不織布は、ノッチ部21を研磨するための外周縁部11と、研磨パッド1における大部分の表面をなす一対の側面部12とを有し、側面部12から、シリカ粒子で構成された砥粒と、該砥粒を分散させる溶剤とを含む研磨スラリーが浸透しないように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハのノッチ部の研磨に用いられる円板状の研磨パッドであって、
不織布を備え、
前記不織布は、前記ノッチ部を研磨するための外周縁部と、一対の側面部とを構成し、
前記側面部から研磨スラリーが浸透しないように構成されている、研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨パッドは、空隙を有し、
前記空隙が、前記側面部において樹脂で閉塞されている、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項2に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関し、より具体的には、ウェーハのノッチ部の研磨に用いられる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ等のウェーハは、LSI等の半導体装置の原料として用いられている。かかるウェーハは、その結晶方位を示すためのノッチ部を備えている。通常、ノッチ部は、ウェーハの外周縁部を切り欠くことによって形成され、V字状、U字状等の形状を有する。
【0003】
ノッチ部を有するウェーハの製造では、ノッチ部の研磨が行われる。一般的に、ノッチ部の研磨では、砥粒を含む研磨スラリーと、円板状の研磨パッドとが用いられる。そして、ノッチ部に研磨スラリーを供給しつつ、高速回転させた研磨パッドをノッチ部に接触させることによってノッチ部を研磨する。
【0004】
かかる用途の研磨パッドとして、柔軟性に優れる不織布を基材として備えるものが知られている。しかしながら、不織布で構成された研磨パッドは、ノッチ部との接触によって摩耗し易いという問題点を有する。よって、従来、かかる研磨パッドの寿命を延ばすための提案がなされている。例えば、特許文献1では、円形に形成された不織布にウレタン系の熱硬化性樹脂を含浸させることが提案されている。かかる研磨パッドは、硬化した樹脂と不織布の繊維とが一体化することによって強度が向上し、耐摩耗性を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の半導体装置の需要の高まりから、将来的には半導体装置のさらなる低コスト化が求められ得る。これに伴い、研磨パッドに対する要求事項として、例えば、より長期にわたって使用可能で且つ研磨性能に優れることが要求される可能性がある。
【0007】
ここで、不織布に樹脂を含浸した構成の研磨パッドは、研磨スラリーを吸収して保持し得る空隙を有する。かかる研磨パッドを用いるウェーハのノッチ部の研磨では、研磨パッドとノッチ部との接触部分に研磨スラリーが供給される。このとき、研磨スラリーの一部は、研磨パッドに吸収された後、高速回転による遠心力で研磨パッドの外周縁部からノッチ部に向かって移動する。そして、この研磨スラリーの間接的な供給は、研磨速度の向上に寄与するものと考えられる。かかる観点からすれば、研磨スラリーを吸収し易い研磨パッドが好ましいと考えられる。
【0008】
しかしながら、本発明者らは、研磨スラリーを吸収させ過ぎると研磨パッドが膨潤して軟質化し、摩耗し易くなるという知見を得た。言い換えれば、従来のこの種の研磨パッドは、研磨スラリーを過剰に吸収し、このために長期にわたる使用を困難にしていたと考えられる。この他、膨潤して軟質化した研磨パッドでは、所望の研磨性能を得られないおそれもある。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、研磨スラリーによる軟質化が抑制された研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る研磨パッドは、
ウェーハのノッチ部の研磨に用いられる円板状の研磨パッドであって、
不織布を備え、
前記不織布は、前記ノッチ部を研磨するための外周縁部と、一対の側面部とを構成し、
前記側面部から研磨スラリーが浸透しないように構成されている。
【0011】
かかる構成によれば、研磨パッドにおける大部分の表面をなす側面部から研磨スラリーが浸透しないように構成されているため、研磨スラリーによる軟質化が抑制される。
【0012】
本発明の一態様に係る研磨パッドは、
前記研磨パッドは、空隙を有し、
前記空隙が、前記側面部において樹脂で閉塞されている。前記樹脂は、前記空隙を閉塞させる性能を有していれば特に限定されるものではないが、特に熱可塑性樹脂が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、研磨スラリーによる軟質化が抑制された研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態の研磨パッドを備える研磨装置を上方から見た概略図であり、研磨パッドの外周縁部を視認することができる。
【
図2】
図1の研磨装置を水平方向の一方側から見た概略図であり、研磨パッドの一方の側面部を視認することができる。
【
図3】実施例におけるCT画像取得用の試験片の形状を示す概略図である。
【
図4】比較例2の研磨パッドのCT画像であり、側面部から厚み方向の内方に浸み込んだ研磨スラリーを視認することができる。
【
図5】比較例2及び実施例1の研磨パッドの側面部における表面を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る研磨パッドについて説明する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の研磨パッド1は、シリコンウェーハ2のノッチ部21を研磨する研磨装置100に組み込まれて用いられる。より詳しくは、本実施形態の研磨パッド1は、円板状であり、直立させた状態で研磨装置100に組み込まれて用いられる。一方、シリコンウェーハ2は、研磨装置100において水平面に沿うように支持される。そして、本実施形態の研磨パッド1は、周方向に回転した状態で外周縁部11をシリコンウェーハ2のノッチ部21に接触させて用いられる。すなわち、研磨装置100に組み込まれた研磨パッド1は、ノッチ部21との接触部分において垂直方向に沿って移動する外周縁部11と、鉛直面に沿って延在する一対の側面部12とを有する。
【0017】
研磨装置100についてより具体的に説明すると、研磨装置100は、研磨パッド1を直立状態で支持しつつ高速回転(例えば500rpm以上)させるための治具3を備えている。治具3は、ドラムと呼ばれ、研磨パッド1の一方の側面部12の中央領域に当接する円板状の第1支持部31と、他方の側面部12の中央領域に当接する円板状の第2支持部32とを有する。そして、治具3は、第1支持部31と第2支持部32とで研磨パッド1を挟持した状態で各支持部を周方向に高速回転させるように構成されている。
【0018】
また、研磨装置100は、ノッチ部21に対して上方から研磨スラリーを供給するスラリー供給部(図示せず)と、シリコンウェーハ2を支持する支持台(図示せず)とを備えている。前記支持台は、シリコンウェーハ2を載置する円形の支持面を有する。また、前記支持台は、ノッチ部21を中心としてシリコンウェーハ2を上方傾斜させた状態から下方傾斜させた状態となるように前記支持面を旋回可能に構成されている。これによって、研磨装置100は、ノッチ部21を全体的に研磨することができる。
【0019】
本実施形態の研磨パッド1と併用される研磨スラリーは、シリカ粒子で構成された砥粒と、該砥粒を分散させる溶剤とを含む。
【0020】
本実施形態の研磨パッド1は、基材として一枚の不織布を備えている。前記一枚の不織布は、外周縁部11及び一対の側面部12を構成している。本実施形態の不織布は、熱可塑性樹脂が含浸されている。すなわち、本実施形態の研磨パッド1は、樹脂が含浸された不織布で構成されている。かかる研磨パッド1では、不織布を構成する繊維に熱可塑性樹脂が付着している。また、熱可塑性樹脂が付着した繊維の間には隙間が形成されている。すなわち、本実施形態の研磨パッド1は、該隙間たる空隙を有する。そして、本実施形態の研磨パッド1は、該空隙が側面部12において熱可塑性樹脂で閉塞されている。これによって、本実施形態の研磨パッド1は、側面部12からは研磨スラリーが浸透しないよう構成されたものとなっている。なお、前記空隙は、繊維上で凝固した熱可塑性樹脂の間に形成されたものであってもよく、熱可塑性樹脂が付着していない繊維の間に形成されたものであってもよく、これらが混在してなるものであってもよい。
【0021】
本実施形態における「側面部12から研磨スラリーが浸透しない」とは、側面部12に所定の研磨スラリーを接触させたときの該研磨スラリーの浸透深さが0.80mm以下であることを意味する。なお、この浸透深さは、下記のX線CTを用いた測定方法によって測定することができる。
【0022】
[浸透深さの測定方法]
(試験片の作成)
乾燥状態(通常の保管状態を意味し、乾燥による前処理は不要)の研磨パッドから
図3に示す寸法の10個の試験片(縦8mm×横8mm×厚み4.5mm)を切り出す。なお、
図3の試験片における上面部は研磨パッドの側面部に相当する部分である。
(測定用研磨スラリー)
研磨スラリー(ニッタ・デュポン社製EG1103、砥粒:コロイダルシリカ、砥粒サイズ:80~140nm、砥粒の比重:1.25、溶剤:水)をイオン交換水(表面張力71mN/m)で21倍希釈し、表面張力が70mN/mの測定用研磨スラリーとする。
なお、表面張力は、24℃に調整した試料について、測定装置(協和界面科学社製、Drop Master 500)を用い、懸滴法(ペンダントドロップ法)によって測定することができる。
また、砥粒サイズはメジアン径を意味し、次のようにして測定することができる。すなわち、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ-2(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により体積粒度分布を求める。そして、得られた体積粒度分布の累積体積頻度が50%となる粒子径を砥粒のメジアン径とする。なお、測定は、超純水で50倍に希釈した研磨スラリーを測定セルに充填して行う。また、レーザーとしては、半導体レーザーを用いる。
(X線CTスキャン)
X線CT装置(ヤマト科学株式会社製、三次元計測X線CT装置 TDM1000H-1)にセットし、まず乾燥状態でのX線CTの測定を行う。その後、試験片の上面部にスポイト(アズワン社製、E-222、材質:ポリエチレン、容量:1mL、全長:150mm)で測定用研磨スラリーを1滴滴下し、1分経過するまで待ち、滴下後の研磨パッドとしての撮影を開始する。なお、滴下から測定終了まで、試験片は動かさない。その後、乾燥状態の試験片及び滴下後1分経過時の試験片の厚み方向にわたるCT画像を下記の条件で取得する。なお、スポイトでの滴下量の範囲は20~50mgであるが、実施例での実際の測定によれば、この程度の滴下量の変化は浸透深さの値に影響しないことがわかっている。
(X線CTの測定条件)
1回転あたりのビュー数 : 600
フレーム数/ビュー : 9
X線管電圧[KV] : 32.000
X線管電圧[mA] : 0.080
拡大軸位置[mm] : 7.416
再構成の画素サイズX[mm] : 0.003880
再構成の画素サイズY[mm] : 0.003880
再構成の画素サイズZ[mm] : 0.003880
(X線CT画像の取得)
CT画像処理ソフトとしては、日本ビジュアルサイエンスボリュームグラフィックス株式会社製の画像処理ソフトVGStudio Max 2.1を用いることができる。さらに、浸透深さを算出する画像解析ソフトとしては、ImageJ(Rasband,W.S.,U.S.National Institutes of Health,Bethesda,Maryland,USA)を用いることができる。
各測定領域において、空隙と空隙以外の部分(形成材料及び研磨液が存在する部分)とに分類する二値化処理は、以下の通りである。二値化処理では、前記画像処理ソフトVGStudio Maxで、空隙と空隙以外の部分(形成材料が存在する部分)とに分類するために、測定領域の画像に関して、コントラストの調整を行う。コントラストの調整は、Rampモードで行う。VGStudio Maxでは、コントラストの調整が“不透明度調整”と表記される。このコントラストのヒストグラムにおいては、空隙のピーク、研磨パッドのピーク、さらに砥粒のピークが混在して現れる。コントラストの調整では、この3者がCT画像で明確になるようにグレイバリューを調整する。具体的には、グレイバリューの下限値を空隙のピーク直下(=ゼロ)に置き、グレイバリューの上限値が材料存在部のピークを+100から+400ほど越えるように設定する。なお、材料やスラリーの有無、さらにはスラリーの浸透具合によって透過率が異なるので、コントラスト調整は必ずしもこの限りではない。
コントラストを調整した2D画像に対して、測定領域のスライス画像を取得する。本件における視野の大きさ(縦×横×高さ)は、1.986650mm×1.986650mm×1.994410mmであり、測定の際には研磨パッドの側面部が視野角の半分以上の位置になるよう高さを調整している。
(浸透深さの算出)
図4に示すように、2つのCT画像を取得し、横一列に並べる。なお、以下において、各画像における厚み方向(
図4の上下方向)に直交する方向を幅方向(
図4の左右方向)と称する。そして、乾燥状態の試験片の最も上方に認められる繊維を含むように側面部12の表面を画定する基準線L0を引く。なお、基準線L0は、直線状の線分であり、画像の横幅に相当する長さを有する。次に、滴下後1分経過後の画像において、基準線L0と平行する任意の線分のうち、研磨スラリーと交差する部分の長さが基準線L0の長さに対して10%となる線分を抽出し、底線L1とする。基準線L0と底線L1との厚み方向における間隔を試験片の浸透深さとする。なお、基準線L0、底線L1、及び浸透深さの算出においては、上記のImage Jを用いてピクセル数を測定することにより算出した。そして、10個の試験片の浸透深さの平均値を側面部12における浸透深さとする。
【0023】
側面部12からの浸透深さは、好ましくは0.5mm以下である。なお、本実施形態の研磨パッド1の厚みは、4~6mmであり、この種の研磨パッドにおける一般的な厚みである。本実施形態の研磨パッド1は、側面部12から研磨スラリーが浸透しないように構成されているため、基材たる不織布及び不織布を構成する繊維に付着した熱可塑性樹脂の軟質化が抑制されて摩耗しにくくなる。
【0024】
かかる側面部12は、熱可塑性樹脂が含浸された前記不織布を該熱可塑性樹脂が軟化し得る温度で熱プレスすることによって形成され得る。熱可塑性樹脂は、熱プレスによって側面部12にわたって流動し得るため好ましい。これによって、前記空隙が、側面部12において閉塞される。
【0025】
本実施形態の不織布を構成する繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、及びポリアミド繊維からなる群より選択される1種以上である。前記不織布の目付は、500~1000g/m2であることが好ましい。また、前記不織布を構成する繊維の繊度は、1~10dtexであることが好ましい。これによって、研磨パッド1に適度な柔軟性を付与できるとともに、前記空隙が熱可塑性樹脂で閉塞され易くなる。なお、前記目付は、JIS L 1913:2010(一般不織布試験方法)の「6.2 単位面積当たりの質量」に規定の方法によって測定される。また、前記繊度は、JIS L 1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)の「8.3 繊度 a)A法」によって測定される。
【0026】
前記熱可塑性樹脂は、軟化温度が前記不織布の繊維を構成する樹脂の融点よりも低いものがよい。かかる熱可塑性樹脂を用いることによって、前記熱プレス時に、不織布構造に起因する強度や柔軟性等の性能を維持しつつ、前記空隙を閉塞させることが可能となり得る。
【0027】
前記熱可塑性樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アセタール樹脂等の合成樹脂を好適に用いることができる。そして、上述のごとく、これらの熱可塑性樹脂は、その軟化点と、前記不織布を構成する繊維(の樹脂)の融点との関係から選択されるとよい。
【0028】
本実施形態の研磨パッド1は、上記の一対の側面部12と、各側面部12の間の内層部とを有する。該内層部は、前記空隙を有する。より詳しくは、該内層部では、前記空隙が前記熱可塑性樹脂で閉塞されずに残っており、多孔質構造が形成されている。また、前記内層部の周縁は露出しており、一対の側面部12とともに研磨パッド1の外周縁部11をなしている。言い換えれば、研磨パッド1の外周縁部11は、一対の側面部12及び前記内層部のそれぞれの周縁によって構成されている。そして、研磨装置100において前記スラリー供給部から研磨パッド1に供給された研磨スラリーは、主に前記内層部の周縁から研磨パッド1に吸収されることとなる。次いで、吸収された研磨スラリーは、高速回転する研磨パッド1の遠心力によって外周縁部11からノッチ部21に向かって飛散する。このとき、一対の側面部12が内壁となって吸収された研磨スラリーの該側面部12からの飛散を防止するとともに、研磨スラリーのノッチ部21に対する飛散を方向付けるように機能し、外周縁部11とノッチ部21との間に形成されるスラリー膜の厚みを大きくする。これによって、ノッチ部21に研磨スラリーが集中的に供給されるため、研磨性能を高めることができる。また、研磨スラリーの集中的な供給によって、外周縁部11における発熱を抑制することができる。すなわち、外周縁部11の摩耗を抑制することができる。
【0029】
本実施形態の研磨パッド1は、以下の製造方法によって製造することができる。すなわち、研磨パッド1の製造方法は、前記熱可塑性樹脂を含む含浸溶液を不織布に浸漬する浸漬工程と、該熱可塑性樹脂を凝固させる凝固工程と、該不織布から前記溶剤を除去した後に乾燥する洗浄乾燥工程と、前記熱可塑性樹脂が含浸された不織布を熱プレスする表面処理工程とを備える。
【0030】
前記浸漬工程では、準備段階として、前記含浸溶液を調製する。前記含浸溶液は、前記熱可塑性樹脂と、これを溶解する溶剤とを含む。かかる溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。そして、前記含浸溶液を満たした容器に不織布を浸漬させ、所定時間で引き上げる。なお、この際は、余分な樹脂をマングル等で搾り取り除去する。次に、前記凝固工程において、含浸溶液で満たした不織布を凝固液に満たし、湿式凝固させる。その後、前記洗浄乾燥工程において、水で含浸溶液の溶媒を除去し、乾燥させる。
【0031】
前記表面処理工程では、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で前記不織布を熱プレスし、前記不織布のポアに前記熱可塑性樹脂を流動させることによって前記ポアを前記熱可塑性樹脂で閉塞させる。熱プレス時の温度は、前記不織布を構成する樹脂の融点以下がよい。この場合、前記不織布の基材としての性能が維持され易くなる。
【0032】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る研磨パッドは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る研磨パッドは、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る研磨パッドは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0033】
例えば、前記不織布のポアの閉塞剤として、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が用いられてもよい。また、閉塞剤として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂の2種以上が併用されてもよい。これらのなかでも熱可塑性樹脂が含浸された研磨パッドは、ノッチ部の形状にフィットし易くなるため、削り残し(研磨ムラ)を低減することができ好ましい。
【0034】
また、前記研磨パッドの円板状に関し、前記中央領域のない円環状であってもよい。
【0035】
また、前記研磨パッドは、アルミナ砥粒などの他の砥粒と併用されてもよい。
【0036】
また、前記側面部は、治具3の支持部が接触する領域(前記中央領域)においては前記ポアが閉塞されていなくてもよい。言い換えれば、前記側面部は、前記中央領域よりも外側の領域において前記ポアが閉塞されていればよい。
【0037】
また、前記研磨パッドの製造方法に関し、前記不織布の両面に熱可塑性樹脂などの樹脂シートを積層し、熱プレスすることによって、該ポアを閉塞してもよい。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0039】
[比較例の製造例]
熱可塑性樹脂としてウレタン樹脂を含む含浸溶液をポリエステル繊維の不織布へ含浸、凝固、洗浄、乾燥させた後、バフ仕上げによる表面処理を行い、比較例としての研磨パッドを作製した。
【0040】
[実施例の製造例]
比較例と同種の熱可塑性樹脂を含む含浸溶液を用いて不織布への含浸、凝固、洗浄、乾燥を実施した後、ポリエステル繊維の融点以下の温度での熱プレスによる表面処理を行い、実施例としての研磨パッドを作製した。
【0041】
[寿命の評価方法]
表1の研磨条件でシリコンウェーハのノッチ部を3時間にわたって研磨し、1時間あたりの摩耗量を観察することによって、各研磨パッドの寿命を評価した。結果は、表2及び表3に示したとおりである。表2は、上記の測定方法によって測定した各研磨パッドの浸透深さを示す。また、表3は、各研磨パッドの評価結果を示す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
図5の研磨パッドの側面部における表面を示すSEM画像から、比較例2では熱可塑性樹脂で閉塞されていない空隙に由来する開口が側面部に比較的多く認められる。一方、実施例1では大部分の空隙が熱可塑性樹脂で閉塞されており、空隙に由来する開口が少ないことが認められる。これによって、表2に示すごとく、それぞれの研磨パッドにおいて浸透深さに差が生じたと考えられる。そして、表3に示すように、浸透深さが小さいほど、研磨パッドの膨潤、軟質化が抑制されて、研磨パッドの寿命が長くなる傾向が認められた。
【0046】
また、各比較例と各実施例との研磨性能についての有意な差は認められなかった。このことから、実施例の研磨パッドは、研磨スラリーの吸収量が比較的少ないにも関わらず比較例のものと遜色のない研磨性能を有しており、研磨スラリーの供給量を低減可能な効率的な研磨を可能にするものと考えられる。