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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092464
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240701BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20240701BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20240701BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20240701BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/09
B60T8/1755 A
B60T8/1761
B60T7/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208400
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 祐介
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA31
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD05
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D246BA02
3D246DA01
3D246EA18
3D246GB01
3D246GB05
3D246GB30
3D246GC14
3D246HA13A
3D246HA15A
3D246HA64A
3D246HA72B
3D246HA81A
3D246HA86A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246HB02B
3D246HB12A
3D246JA04
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB10
3D246JB12
3D246JB22
3D246JB27
3D246JB28
(57)【要約】
【課題】車両の走行安定性向上を図る。
【解決手段】本発明に係る車両制御システムは、車両を制動する制動部を備えた車両における車両制御システムであって、車両の制動力が一定制動力以上であるとの制動力条件と、車両の旋回度が一定旋回度以上であるとの条件である旋回条件とを少なくとも含む処理前提条件の成立有無を判定する前提条件判定処理と、処理前提条件が成立している状態で制動部による制動を解除すべき状態となったとの条件である処理実行条件の成立有無を判定する実行条件判定処理と、処理実行条件の成立に応じて、制動力を漸減させる制動力漸減処理として、車両の前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理とを実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制動する制動部を備えた前記車両における車両制御システムであって、
一又は複数のプロセッサと、
前記一又は複数のプロセッサによって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体と、を備え、
前記プログラムは、一又は複数の指示を含み、
前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、
前記車両の制動力が一定制動力以上であるとの制動力条件と、前記車両の旋回度が一定旋回度以上であるとの条件である旋回条件とを少なくとも含む処理前提条件の成立有無を判定する前提条件判定処理と、
前記処理前提条件が成立している状態で前記制動部による制動を解除すべき状態となったとの条件である処理実行条件の成立有無を判定する実行条件判定処理と、
前記処理実行条件の成立に応じて、前記制動力を漸減させる制動力漸減処理として、前記車両の前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理と、を実行させる
車両制御システム。
【請求項2】
前記車両は、前記制動部を用いた衝突回避制動制御、横滑り防止制御、及びABS制御を実行可能に構成されており、
前記前提条件判定処理では、
前記制動力条件の成立有無の判定として、前記ABS制御が作動中であるか否かを判定し、前記処理前提条件の成立有無の判定として、前記衝突回避制動制御が作動中であるとの条件と、前記制動力条件と、前記旋回条件と、前記横滑り防止制御が無効化されているとの条件の少なくとも4条件が成立しているか否かを判定し、
前記実行条件判定処理では、
前記処理実行条件の成立有無の判定として、前記衝突回避制動制御を終了すべき状態となったか否かを判定する
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記前提条件判定処理では、
前記制動力条件が満たされている期間における前記制動力に応じて求めた旋回閾値に基づいて前記旋回条件の成立有無を判定する
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記後輪優先減力処理では、
前記制動力条件が成立してから後輪優先減力処理が開始されるまでの間の期間である処理待機期間中における前記車両の車速、前記旋回度の少なくとも何れか一方に基づいて前記制動力漸減処理における前記前輪と前記後輪の制動力の減少率差を定める
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記処理前提条件は、前記車両が低μ路を走行中であるとの条件を含む
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制動する制動部を備えた車両における車両制御システムに関するものであり、特には、車両の走行安定性に係る制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両が旋回している状況下で車両に制動力が付与されているときに、車両の旋回時内側の後輪及び旋回時外側の前輪の少なくとも一方を含む対象車輪に対する制動力の分配比率を調整することによって、車両のローリング運動を制御する技術が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2には、車両における左右の車輪の駆動力あるいは制動力を調整して旋回走行を制御するトルクベクタリング制御部と、トルクベクタリング制御部による駆動力あるいは制動力の調整により付加される車体のロールに応じて緩衝器(サスペンション)の減衰力を補正制御する減衰力制御ユニットとを備えて、車両の姿勢制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-117216号公報
【特許文献2】特開2021-146808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両の走行安定性向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御システムは、車両を制動する制動部を備えた前記車両における車両制御システムであって、一又は複数のプロセッサと、前記一又は複数のプロセッサによって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体と、を備える。
そして、前記プログラムは、一又は複数の指示を含み、前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、前記車両の制動力が一定制動力以上であるとの制動力条件と、前記車両の旋回度が一定旋回度以上であるとの条件である旋回条件とを少なくとも含む処理前提条件の成立有無を判定する前提条件判定処理と、前記処理前提条件が成立している状態で前記制動部による制動を解除すべき状態となったとの条件である処理実行条件の成立有無を判定する実行条件判定処理と、前記処理実行条件の成立に応じて、前記制動力を漸減させる制動力漸減処理として、前記車両の前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理と、を実行させるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の走行安定性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態としての車両制御システムを備える車両の構成概要を示す図である。
図2】実施形態としての車両制御システムの要部の構成例の説明図である。
図3】実施形態における衝突回避制御の具体的な処理例を示したフローチャートである。
図4】車両制御システムが有する実施形態としての機能を説明するための機能ブロック図である。
図5】比較例としての制動力漸減処理についての説明図である。
図6】実施形態としての制動力漸減処理についての説明図である。
図7】実施形態における旋回条件の判定手法例の説明図である。
図8】実施形態としての走行安定性制御を実現するための具体的な処理手順例を示したフローチャートである。
図9】変形例としての走行安定性制御を実現するための具体的な処理手順例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.装置構成>
以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態としての車両制御システム1を備える車両100の構成概要を示す図であり、図2は、実施形態としての車両制御システム1の要部の構成例の説明図である。なお、図2では、車両制御システム1の構成例と共に、車両100が有するステアリング機構30の構成例も併せて示している。
【0010】
本実施形態において車両100は、例えば四輪自動車として構成され、車輪の駆動源としてエンジン、走行用モータの少なくとも何れかを有している。つまり車両100としては、車輪の駆動源としてエンジン及び走行用モータのうち走行用モータのみを有するEV(Electric Vehicle)車、エンジンと走行用モータの双方を有するHEV(Hybrid Electric Vehicle)車、或いはエンジンのみを有するエンジン車としての構成を採り得る。
【0011】
車両100は、車両100を制動する制動部(不図示)と、車両を旋回自在とする操舵部(後述するステアリング機構30)とを備えている。
ここで言う制動部は、例えばディスクブレーキやドラムブレーキ等によるブレーキ機構のみでなく、EV車やHEV車として構成された場合における走行用モータによる回生ブレーキにより車両制動を行う構成を広く意味する。
また、操舵部としては、ステアリング機構30等、左右方向への車両旋回を自在とするための構成を広く意味する。
【0012】
また、車両100は、車外環境の認識機能を有する。具体的に本例における車両100は、後述する撮像ユニット10を備えることで車外環境の認識機能を有する。
【0013】
図1に示すように車両100に設けられた車両制御システム1は、本発明に係る制御を行うブレーキ制御ユニット20を備えている。
また、車両制御システム1は、運転支援のための各種制御を行う運転支援制御部13を備え、この運転支援制御部13には、衝突回避制御ユニット14が設けられている。後述もするように衝突回避制御ユニット14は、車両100について、衝突回避制動制御を行う。ここで言う衝突回避制動制御とは、ブレーキ機構等の制動部を用いて車両の衝突回避を図る制御を意味するものである。車両制動を伴う衝突回避制御全般を含む概念であり、AEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)を始めとして、AES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)のような操舵回避を伴う制動制御も含む。
【0014】
また、車両制御システム1には、ESC(Electronic Stability Control:横滑り防止制御)ユニット25が設けられている。ここで言うESCとは、制動部やエンジン出力(走行用モータを有する車両の場合はモータ出力制御も含む)の制御によって、旋回中の車両が横滑りせずに安定した姿勢を維持できるように図る制御を意味する。
【0015】
図2において、車両制御システム1には、衝突回避制御に係るセンサ類として、車速センサ16、動きセンサ17、実舵角センサ18、及び操舵トルクセンサ19が設けられる。
さらに、衝突回避制御の関連部として、表示部23及び発音部24が設けられる。
【0016】
車速センサ16は、車両100の速度を自車速vとして検出するセンサである。
動きセンサ17は、例えばヨーレート(角速度)センサや加速度センサ等、車両の動きを検出するセンサ類を包括的に示したものである。
【0017】
実舵角センサ18は、操舵輪40(後述する左右の操舵輪40L、40R)の実際の切れ角(例えば、車両100の前後方向軸とのなす角度)を実舵角として検出する。
操舵トルクセンサ19は、例えば、ステアリング軸32に対する入力トルクを検出することで、ステアリングホイール34を介して運転者が入力した操舵力(操舵入力トルク)を検出する。
【0018】
撮像ユニット10は、車両100において進行方向(前方)を撮像可能に設置された撮像部11L、撮像部11Rと、画像処理部12と、運転支援制御部13とを備えている。
撮像ユニット10には、車速センサ16、動きセンサ17、及び実舵角センサ18が接続され、撮像ユニット10内に設けられた画像処理部12や運転支援制御部13は、これらセンサによる検出信号を入力可能とされている。
【0019】
また、撮像ユニット10に対しては、車両100の運転者等の乗員からの操作入力を受け付ける操作部26が接続されている。これにより、画像処理部12や運転支援制御部13、及び予測制御ユニット15は、操作部26を介した運転者等からの操作入力情報に応じた処理を実行可能とされている。
【0020】
撮像部11L、11Rは、いわゆるステレオ法による測距が可能となるように、例えば車両100のフロントガラスの上部付近において車幅方向に所定間隔を空けて配置されている。撮像部11L、11Rの光軸は平行とされ、焦点距離はそれぞれ同値とされる。また、フレーム周期は同期し、フレームレートも一致している。
【0021】
撮像部11L、11Rの各撮像素子で得られた電気信号(撮像画像信号)はそれぞれA/D(Analog to Digital)変換され、画素単位で所定階調による輝度値を表すデジタル画像信号(撮像画像データ)とされる。撮像画像データは例えばカラー画像データとされる。
【0022】
画像処理部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びワークエリアとしてのRAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、CPUがROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
画像処理部12は、撮像部11L、11Rが車両100の前方を撮像して得た撮像画像データとしての各フレーム画像データを内部メモリに格納していく。そして、各フレームとしての二つの撮像画像データに基づき、車外環境を認識するための処理、具体的には、車両100前方に存在する物体を認識するための各種処理を実行する。例えば、道路上に形成された規制線(例えば白線やオレンジ線等)の認識や、先行車両、歩行者、障害物、道路に沿って存在するガードレールや縁石、側壁などの各種立体物の認識を行う。
ここで、規制線は、車両の走行車線(走行レーン)を仕切る線を意味する。画像処理部12は、認識した規制線の情報に基づき、車両100の走行車線(自車走行車線)を認識する。
【0023】
画像処理部12は、車両100前方の立体物の認識にあたり、撮像部11L、11Rにより得られた一対の撮像画像データ(ステレオ画像)に対し、画像内の対応する位置同士のずれ量(つまり視差)から三角測量の原理によって距離情報を求める処理を行い、この距離情報に基づいて三次元の距離分布を表すデータ(距離画像)を生成する。そして、この距離画像を基に、公知のグルーピング処理等を行うことで、上述した規制線やガードレール、縁石、側壁物、歩行者や車両等の立体物の認識を行う。
【0024】
また、画像処理部12は、認識した立体物の位置を、車両100前後方向をz軸、車両100左右方向(横方向)をx軸としたx-z座標系の座標位置として表した立体物位置の情報として記憶する。具体的に、本例における画像処理部12は、特に先行車両や歩行者、障害物等については、立体物の後面の左端点と右端点の位置の情報を記憶する。さらに、この後面における左端点と右端点との中心位置を立体物の中心位置の情報として記憶する。
【0025】
さらに、画像処理部12は、認識した立体物について、立体物縦距離(立体物とのz軸方向における離間距離:以下「立体物縦距離dz」と表記)、立体物縦相対速度(立体物縦距離dzの単位時間あたりの変化量:以下「縦相対速度vrz」と表記)、立体物縦速度(「縦相対速度vrz」+「自車速v」:以下「縦速度vz」と表記)、立体物縦加速度(縦速度vzの微分値:以下「縦加速度az」と表記)の情報も計算し、記憶する。
また、画像処理部12は、認識した立体物について、立体物横距離(立体物とのx軸方向における離間距離:以下「立体物横距離dx」と表記)、立体物横相対速度(立体物横距離dxの単位時間あたりの変化量:以下「横相対速度vrx」と表記)、立体物横速度(「横相対速度vrx」+「車両100の横方向移動速度」:以下「横速度vx」と表記)、立体物横加速度(横速度vxの微分値:以下「横加速度ax」と表記)の情報も計算し、記憶する。
【0026】
画像処理部12は、認識した車両としての立体物のうち、特に自車走行車線上にある最も近い車両で、車両100と略同方向を向くものを先行車両として認識する。なお、先行車両の中で走行速度が約0km/hである車両は停止した先行車両として認識される。
【0027】
画像処理部12により得られる上記のような立体物の位置や速度、加速度の情報、自車走行車線の情報等の画像認識結果情報は、各種の運転支援制御に用いられる。
【0028】
運転支援制御部13は、画像処理部12による画像認識結果情報に基づき、各種運転支援のための制御を行う。
運転支援制御部13は、衝突回避制御ユニット14を備えている。衝突回避制御ユニット14は、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
具体的に、衝突回避制御ユニット14は、AEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)やAES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)に係る処理を行う。
ここで、AEBやAESとしての衝突回避制御においては、車外環境の認識結果に基づき、物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値を計算し、該リスク評価値が示すリスクの大きさに基づいて制動や操舵の介入タイミングを判定する。
具体的に、本例の衝突回避制御ユニット14は、画像処理部12で認識された立体物ごとに、上述した立体物縦距離dz及び縦相対速度vrzの情報に基づきTTC(Time To Collision:衝突余裕時間)としてのリスク評価値を計算する。ここで、TTCは、現在の縦相対速度vrzが維持された場合にあと何秒で衝突するかを表わす指標であり、具体的には、例えば下記式により計算される。

TTC=dz/vrz

このようなTTCは、その値が小さいほど衝突リスクが大きいことを表すリスク評価値となる。
【0029】
衝突回避制御ユニット14は、上記のようなTTCの値に基づき、画像処理部12で認識されている立体物のうち特定種類の立体物である対象物体について、衝突予測物体が存在するか否かの判定を行う。ここで、衝突予測物体とは、車両100との衝突が予測される物体を意味する。
本例において、上記「特定種類の対象物体」とは、人物や動物等の動く生物(以下「動生物」と表記する)を含む立体物を意味する。具体的に本例では、動生物を含む立体物のうち、先行車両として認識されている立体物を除く立体物を意味する。従って、衝突回避の対象物となる立体物には、上述したガードレールや縁石、側壁等も含まれる。
【0030】
衝突予測物体の有無の判定は、TTCに基づいて、例えば以下のようにして行う。
すなわち、「特定種類の対象物体」に該当する立体物のうち、車両100との横方向におけるラップ率が所定値以上の立体物であって且つTTCが所定閾値以下の立体物が存在するか否かを判定する。該当する立体物が存在しなければ、衝突回避制御ユニット14は、衝突予測物体がないとの判定結果を得る。
また、上記の判定により、該当する立体物が一つのみであった場合は、その立体物を衝突予測物体として決定する。該当する立体物が複数あった場合は、例えばそれら立体物のうちTTCの値が最小の立体物を衝突予測物体として決定する。
【0031】
衝突予測物体が存在する場合、衝突回避制御ユニット14は、衝突予測物体についてAEBを実行し、また必要に応じてAESを実行する。具体的には、先ずはAEBのみを開始し、AEBのみで衝突を回避できないと判定される場合には、AEBによる制動を継続させつつ、AESによる衝突回避のための操舵介入を行う。
【0032】
衝突回避制御ユニット14は、AEBの作動時には、ブレーキ制御ユニット20に制動指示を行うことで車両100を制動させる。
また、衝突回避制御ユニット14は、AESの作動時においては、画像処理部12による画像認識結果に基づいて、目標とする操舵角(目標操舵角)を求める。そして、この目標操舵角に応じたステアリング指示電流値を、後述するEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)制御ユニット22に出力する。
【0033】
運転支援制御部13は、運転者に対し運転支援に関する各種通知も行う。具体的に、運転支援制御部13は、表示部23や発音部24に対して表示情報や発音指示情報を供給する。
表示部23は、例えばマイクロコンピュータによる表示制御ユニットと表示デバイスを包括的に示している。表示デバイスとは、例えば運転者の前方に設置されたメータパネル内に設けられるスピードメータやタコメータ等の各種メータやMFD(Multi Function Display)、その他運転者に情報提示を行うためのデバイスである。表示部23では、衝突回避制御に関しては、物体衝突の危険性に係る警告表示や、AEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための表示が行われる。
【0034】
また、表示部23では、以降で説明するESCユニット25による横滑り防止制御が有効化されていること、無効化されていることの少なくとも何れか一方を示す表示を行うことが可能とされる。
【0035】
ここで、本明細書において、制御の有効化とは、当該制御を実行可能な状態(実行が許可された状態)とすることを意味する。制御の無効化とは、当該制御を実行不能な状態(実行が許可されない状態)とすることを意味する。
【0036】
発音部24は、例えばマイクロコンピュータによる発音制御ユニットと、アンプ/スピーカ等の発音デバイスとを包括的に示している。発音部24では、衝突回避制御に関しては、警告音出力やAEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための通知音等の出力が行われる。
【0037】
車両制御システム1には、車両100の制動制御を実現するための構成として、ブレーキ制御ユニット20及びブレーキ関連アクチュエータ21が設けられている。
ブレーキ制御ユニット20は、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ブレーキ関連アクチュエータ21として設けられた各種のアクチュエータを制御する。ブレーキ関連アクチュエータ21としては、例えば、ブレーキブースターからマスターシリンダへの出力液圧やブレーキ液配管内の液圧をコントロールするための液圧制御アクチュエータ等、ブレーキ関連の各種のアクチュエータが設けられる。
【0038】
本実施形態において、ブレーキ制御ユニット20には、車速センサ16、動きセンサ17、及び実舵角センサ18が接続され、ブレーキ制御ユニット20はこれらセンサによる検出信号を入力可能とされている。
【0039】
また、ブレーキ制御ユニット20は、ABS(Anti-lock Brake System)処理部20aを有している。ABS処理部20aは、車両100の制動中において、操舵輪40R、40Lを含む各車輪のスリップ率に基づき、車輪の空転が抑制されるように上記の液圧制御アクチュエータの制御を行う。
ここで、ABSの制御に用いるスリップ率については公知の手法で算出可能であり、特定の算出手法に限定されるものではない。スリップ率は、例えば、車輪速センサにより検出される車輪速度と車体速度とに基づき算出されるものである。
【0040】
また、ブレーキ制御ユニット20は、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14を含む)からの指示に基づき、上記の液圧制御アクチュエータを制御して車両100の制動制御を行う。これにより、上述したAEBとしての制動制御が実現される。
【0041】
また、ブレーキ制御ユニット20は、実施形態としての各種の判定処理や判定処理結果に基づく制動力漸減処理を行うが、これら実施形態としての処理の具体的な内容については改めて説明する。
【0042】
ESCユニット25は、横滑り防止制御を実現するための制御ユニットであり、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行することで横滑り防止制御を実現する。
本例において、ESCユニット25には、横滑り防止制御に用いられる各種のセンサ、具体的には、車輪速センサやヨーレートセンサ等が設けられており、ESCユニット25のCPUは、これらセンサの検出情報に基づいて上述したブレーキ制御ユニット20を制御することで、横滑り防止制御を実現する。
【0043】
ESCユニット25には、操作部26が接続されている。本例の車両100に対しては、操作部26を用いた操作として、ESCユニット25による横滑り防止制御を有効化する操作、及び無効化する操作を行うことが可能とされている。
ESCユニット25は、該操作に従って、横滑り防止制御を有効化、無効化する機能を有している。
【0044】
EPS制御ユニット22は、例えばマイクロコンピュータを有して構成され、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14)からのステアリング指示電流値や操舵トルクセンサ19による検出信号に基づき、ステアリング機構30におけるEPSモータ42を制御する。
【0045】
EPS制御ユニット22は、操舵トルクセンサ19の検出信号から取得される運転者による操舵入力トルクの情報に基づき、該操舵入力トルクに応じた操舵のアシストトルクが得られるようにするためのステアリング指示電流値を求め、該指示電流値に基づきEPSモータ42を駆動する。これにより、運転者による操舵をアシストするパワーステアリング制御が実現される。
なお、運転者は、衝突回避制御ユニット14による操舵制御の実行時においても操舵操作を行うことが可能とされているが、このように操舵制御中に手動操舵が行われた際には、EPS制御ユニット22において衝突回避制御ユニット14からのステアリング指示電流値と上記のように求められたパワーステアリング制御のためのステアリング指示電流値とが合算され、合算された電流値に基づいてEPSモータ42が駆動される。
【0046】
操舵制御の対象となるステアリング機構30は、例えば次のように構成される。
ステアリング機構30は、ステアリング軸32が、図示しない車体フレームにステアリングコラム33を介して回動自在に支持されている。ステアリング軸32の一端は運転席側に延出され、このステアリング軸32の一端部には、ステアリングホイール34が取り付けられている。ステアリング軸32の他端部にはピニオン軸35が連結されている。
このピニオン軸35におけるピニオン(図示せず)が、ステアリングギヤボックス36に往復移動自在に挿通支持されているラック軸37に設けられたラックに噛合している。これにより、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が構成されている。
【0047】
また、ラック軸37の左右両端はステアリングギヤボックス36から各々突出されており、該左右両端には、それぞれタイロッド38が連接されている。各タイロッド38は、それぞれラック軸37と連接される側とは逆側の端部にフロントナックル39が接続されている。それぞれのフロントナックル39は、操舵輪40L,40Rのうち対応する操舵輪40を支持すると共に、キングピン(図示せず)を介して車体フレームに支持されている。各フロントナックル39は、それぞれキングピンを中心に回動自在となるように対応するタイロッド38の端部に接続されている。
従って、ステアリングホイール34を操作し、ステアリング軸32、ピニオン軸35を回動させると、このピニオン軸35の回転によりラック軸37が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル39がキングピンを中心に回動して、操舵輪40L、40Rが左右方向へ転舵される。
【0048】
また、ピニオン軸35には、アシスト伝達機構41を介してEPSモータ42が連設されており、このEPSモータ42により、ステアリングホイール34に加える操舵トルクのアシストや、目標の舵角となるような操舵トルクの付加が行われる。
【0049】
<2.衝突回避制動制御について>
ここで、上述のように本実施形態の車両制御システム1では、衝突予測物体が検出された場合は、AEBの制御が行われ、AEBによる車両100の制動のみでは衝突を回避できないと判定された場合は、AESによる操舵介入が行われる。
確認のため、このような衝突回避制御の具体的な処理例を図3のフローチャートを参照して説明しておく。
【0050】
図3に示すように、衝突回避制御ユニット14は、先ずステップS11で、衝突予測物体を検出したか否かを判定する。すなわち、先に説明した手法により、画像処理部12で認識されている立体物のうち、前述したラップ率及びTTCに係る条件を満たす立体物の有無を判定し、該条件を満たす立体物がある場合には衝突予測物体が検出されたとの判定結果を得る。なお、先の説明のように、該条件を満たす立体物が複数ある場合には、TTCの値に基づいて一つの立体物を衝突予測物体として決定する。
【0051】
ステップS11に続くステップS12で衝突回避制御ユニット14は、ブレーキ介入を開始する。すなわち、AEBの制御を開始する。具体的には、ブレーキ制御ユニット20に対する指示を行って、AEBによる車両100の制動を開始させる。
【0052】
ステップS12に続くステップS13で衝突回避制御ユニット14は、ブレーキのみで衝突回避可能か否かを判定する。この判定処理は、例えば、公知の手法により実現可能である。一例としては、衝突予測物体についての現在の縦相対速度vrzと、縦相対速度vrzごとに衝突回避可能なTTCの値を示すマップ情報とに基づき行うことができる。
【0053】
ステップS13において、ブレーキのみで衝突回避可能と判定した場合、衝突回避制御ユニット14は図3に示す一連の処理を終える。つまりこの場合は、AEBのみでの衝突回避が試みられる。
【0054】
一方、ステップS13において、ブレーキのみで衝突回避が不能であると判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS14に進み、衝突回避のための目標操舵角を算出する。すなわち、衝突予測物体として認識された物体との衝突を回避するための目標操舵角を算出する。
【0055】
ステップS14で目標操舵角を算出したことに応じ、衝突回避制御ユニット14はステップS15に進み、操舵介入を開始する、すなわち、AESの制御を開始する。具体的には、衝突回避のための目標操舵角をEPS制御ユニット22に指示して、衝突回避のための操舵介入を開始させるものである。
【0056】
ステップS15で操舵介入を開始する処理を行ったことに応じて、衝突回避制御ユニット14は図3に示す一連の処理を終える。
【0057】
<3.実施形態としての走行安定性制御>
ここで、車両100の制動力が一定制動力以上の状態(急制動状態)で且つ車両100の旋回度が一定旋回度以上である状態で車両100が走行中において、急制動状態が解消された場合を考える。
本明細書において、「旋回度」は、車両の旋回度合い、つまりは旋回時外側輪への荷重の偏重度合いを示すものである。
【0058】
上記の場合、急制動状態が解消されて、制動力が徐々に減少していく過程では、前輪側に荷重が乗り且つ前輪側が徐々にグリップを回復していくという状況となるため、旋回状態が継続していると車両100がオーバーステア傾向となり、車両100がスピン挙動を示す虞がある。特に、雪上路や氷上路等の低μ(ミュー:摩擦係数)路を走行中であった場合には、スピンが誘発され易くなる。
【0059】
本実施形態の車両100のようにESC(横滑り防止制御)機能を有する車両であれば、上記の状況に対してESCが機能することで、車両100がスピン挙動に陥ることを回避することが可能である。
【0060】
しかしながら、ESCが無効化されていたり、そもそもESC機能を有していない車両であったりした場合には、スピン抑制は運転者の操作に頼ることになり、特に、不慣れな運転者であった場合には車両100のスピンを回避できない虞がある。
【0061】
本実施形態では、上記事情に鑑み、次の目的の達成を図る。
すなわち、制動力が一定制動力以上の状態で且つ旋回度が一定旋回度以上である状態で車両100が走行中において急制動状態が解消された際に、車両100がスピン挙動に陥ることの防止を図ることで、車両100の走行安定性向上を図る。
【0062】
このため、車両制御システム1においては、ブレーキ制御ユニット20が図4に示す各機能を有する。
図4は、ブレーキ制御ユニット20が有する実施形態としての機能を説明するための機能ブロック図である。
ブレーキ制御ユニット20は、前述したABS処理部20aとしての機能と共に、前提条件判定処理部F1、実行条件判定処理部F2、及び後輪優先減力処理部F3としての機能を有している。
【0063】
前提条件判定処理部F1は、車両100の制動力が一定制動力以上であるとの「制動力条件」と、車両100の旋回度が一定旋回度以上であるとの条件である「旋回条件」とを少なくとも含む「処理前提条件」の成立有無を判定する前提条件判定処理を行う。
【0064】
実行条件判定処理部F2は、上記の「処理前提条件」が成立している状態で車両100の制動を解除すべき状態となったとの条件である「処理実行条件」の成立有無を判定する実行条件判定処理を実行する。
【0065】
後輪優先減力処理部F3は、上記の「処理実行条件」の成立に応じて、制動力を漸減させる制動力漸減処理として、車両100の前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理を実行する。
この後輪優先減力処理は、前輪側の制動力を後輪側よりも多めに残す処理と換言できるものである。
【0066】
車両100の制動力が一定制動力以上であり且つ車両100の旋回度が一定旋回度以上である状態(つまり「処理前提条件」の成立状態)で、車両100の制動を解除すべき状態となった場合(つまり「処理実行条件」が成立した場合)において、仮に、各車輪の制動力を一様に減少させてしまうと、荷重が前輪側に偏重し且つ前輪がグリップを回復しているという状態となるため、オーバーステア傾向が強くなり、車両100がスピン挙動に陥り易くなる。
そこで、本実施形態では、上記の「処理実行条件」の成立に応じて制動力を漸減させる制動力漸減処理として、前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理を行うものとしている。
これにより、車両100の制動力が一定制動力以上の状態(急制動状態)で且つ車両100の旋回度が一定旋回度以上である状態から、制動を解除すべき状態となって急制動が解消される場合に、車両100がオーバーステア傾向となることの防止が図られ、車両100がスピンしないように図ることが可能となる。
【0067】
ここで、制動力が一定制動力以上であり且つ車両100の旋回度が一定旋回度以上である状態で車両100が走行中の状態から、車両100の制動を解除すべき状態となるケースとしては、衝突回避制動制御が作動した後に、該衝突回避制動制御が終了するケースを挙げることができる。
この場合、急制動状態の解消は、運転者の意図で生じたものではないため、運転者の操作でスピンを抑え込むことが困難となる。
この場合も、ESCが有効化されていれば、ESCが機能することでスピン挙動に陥ることを回避することが可能であるが、ESCが無効化されていた場合にはスピン回避は困難となってしまう。
【0068】
そこで、本例では、後輪優先減力処理の「処理前提条件」として、上記した「制動力条件」「旋回条件」と共に、衝突回避制動制御が作動中であるとの条件、及びESC(横滑り防止制御)が無効化されているとの条件を追加すると共に、「処理実行条件」は、「処理前提条件」が成立している状態で、衝突回避制動制御を終了すべき状態となったとの条件であるものとする。
このとき、本例では、「制動力条件」の成立有無は、ABSの作動/非作動から推定するという手法を採る。
【0069】
上記の条件に対応するべく、本例では、前提条件判定処理部F1、実行条件判定処理部F2がそれぞれ以下のような判定処理を行う。
すなわち、前提条件判定処理部F1は、「制動力条件」の成立有無の判定として、ABS制御が作動中であるか否かを判定し、「処理前提条件」の成立有無の判定として、衝突回避制動制御が作動中であるとの条件と、「制動力条件」と、「旋回条件」と、ESCが無効化されているとの条件の少なくとも4条件が成立しているか否かを判定する。
また、実行条件判定処理部F2は、「処理実行条件」の成立有無の判定として、衝突回避制動制御を終了すべき状態となったか否かを判定する。
【0070】
さらに、本例においては、「処理前提条件」に、車両100が低μ路を走行中であるとの条件を追加する。
すなわち、この場合における前提条件判定処理部F1は、「処理前提条件」の成立有無の判定として、衝突回避制動制御が作動中であり、且つESCが無効化されており、且つ低μ路を走行中であり、且つABSが作動中であり(「制動力条件」)、且つ旋回度が一定旋回度以上である(「旋回条件」)か否かを判定する。
【0071】
図5及び図6を参照し、後輪優先減力処理の具体例について説明する。
先ずは、図5を参照して、比較例としての制動力漸減処理について説明する。
図中、時点t1は衝突回避制動制御が作動したタイミングを、時点t2はABSが作動したタイミングを、時点t3は上述した「処理実行条件」の成立タイミング、つまり本例では衝突回避制動制御を終了すべきとなったタイミングを示している。
実線が前輪のブレーキ液圧の遷移を示し、点線が後輪のブレーキ液圧の遷移を示す。
【0072】
時点t3で「処理実行条件」が成立したことに応じては、図中に例示するように、前輪側と後輪側のブレーキ液圧を同じ減少率で漸減させていくことが順当には考えられる。
【0073】
これに対し本実施形態では、図6に示すように、時点t3で「処理実行条件」が成立したことに応じて、ブレーキ液圧の漸減処理として、前輪よりも後輪側のブレーキ液圧を優先して減少させる処理を行う。具体的には、前輪側のブレーキ液圧の減少率よりも後輪側のブレーキ液圧の減少率の方が大きくなるように、前後輪のブレーキ液圧を漸減させていく。
【0074】
このとき、本例の後輪優先減力処理部F3は、「制動力条件」が成立してから後輪優先減力処理が開始されるまでの間の期間である処理待機期間中における車両100の車速、旋回度の少なくとも何れか一方に基づいて、制動力漸減処理における前輪と後輪の制動力の減少率差を定める。
本例では、上記の減少率差に相当する情報として、前輪のブレーキ液圧の漸減傾きである傾きθfと、後輪のブレーキ液圧の漸減傾きを示す傾きθrとを定める。
【0075】
ここで、「処理実行条件」が成立したタイミングとしての、急制動状態が解消されるタイミングにおいて、車速が速い場合や旋回度が大きい場合には、車両100がよりスピンし易い傾向となる。そこで、上記のように「処理待機期間中」における車速、旋回度の少なくとも何れか一方に基づいて制動力漸減処理における前後輪の制動力の減少率差を定める。具体的に、本例では、「処理待機期間中」における車速、旋回度として、例えば「処理実行条件」が成立したタイミングでの車速、旋回度を用いる。
そして、車速や旋回度が大きく、急制動状態の解消に伴い車両100がスピンする可能性が高い場合には前後輪の制動力の減少率差を大きくする。すなわち、後輪側の制動力減少率を大きくする。これにより、車両100がよりスピンし難くなるように図ることができる。
逆に、車速や旋回度が小さく急制動状態の解消に伴い車両100がスピンする可能性が低い場合には、前後輪の制動力の減少率差を小さくする。すなわち、後輪側の制動力減少率を小さくする。これにより、車両100が不必要にアンダーステア傾向となることを防止しドライバビリティの向上を図ることができる。
【0076】
ここで、車速が高いか否かは、例えば、自車速vが所定値以上であるか否かにより判定することが考えられ、また、旋回度が高いか否かは、例えば実舵角センサ18により検出される実舵角の値が所定値以上であるか否かにより判定することが考えられる。
【0077】
また、車速と旋回度の双方に基づいて前輪と後輪の制動力の減少率差を求める場合には、例えば、車速と旋回度の組み合わせごとに減少率差の情報を対応づけたマップ情報を用いることが考えられる。この場合、マップ特性としては、車速、旋回度が高いほど減少率差が大きくなるように定める。
【0078】
ここで、「処理待機期間中」における車速、旋回度としては、当該期間中における任意のタイミングで取得された車速、旋回度を用いる以外にも、期間中に取得された車速、旋回度の平均値を用いることも考えられる。
何れにしても、ここでの車速、旋回度としては、急制動状態が解消された際の車両100のスピンし易さを推し量ることが可能なものであればよく、その意味で、「処理待機期間中」における車速、旋回度であればよい。
【0079】
なお、図6中では、前輪のブレーキ液圧を当初の傾きθfから後輪の傾きθrと同じ傾きで減少させるように、減少傾きを途中で変更する例を示しているが、後輪の傾きθrと同じ傾きに変更することは必須ではなく、傾きθr以外の傾きに変更することも考えられる。或いは、途中での傾き変更は行わないことも考えられる。
何れにしても、実施形態としての後輪優先減力処理としては、前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させるものであればよい。
【0080】
図7は、「旋回条件」の判定手法例の説明図である。
なお、図中の時点t2は、図5図6と同様に「制動力条件」の成立タイミング、すなわち本例ではABS制御が作動したタイミングを表している。
本例における前提条件判定処理部F1は、「制動力条件」が満たされている期間における制動力に応じて求めた旋回閾値に基づいて、「旋回条件」の成立有無を判定する。
【0081】
具体的に、前提条件判定処理部F1は、時点t2でABS制御が作動して以降、ABS制御作動中における制動力の平均値を計算し、該平均値に基づき旋回限界舵角を算出するという処理を逐次行う(例えば、所定の処理周期で繰り替えし行う)。
旋回限界舵角は、或る制動力が車両100に付与されている状態で該制動力の付与状態が解消された際に、車両100がスピン挙動に陥ることが予測される舵角を定めた値である。換言すれば、或る制動力が車両100に付与されている状態で該制動力の付与状態が解消された際に、車両100の舵角が当該旋回限界舵角以上であった場合は、車両100がスピン挙動に陥ると予測されるものである。
ここで、制動力と旋回限界舵角との対応関係は予め実験的(又はシミュレーションにより)割り出しておき、それら制動力と旋回限界舵角との対応関係情報(例えばマップや関数情報)を用いて、ABS作動中の制動力から旋回限界舵角を算出することが考えられる。
なお、制動力が大きいほど、旋回限界舵角は小さくなる傾向となる。
【0082】
前提条件判定処理部F1は、上記のように算出した旋回限界舵角を用いて、「旋回条件」の成立有無を判定する。具体的には、実舵角センサ18から取得した現在の実舵角が、旋回限界舵角以上であるか否かの判定を、「旋回条件」の成立有無の判定として行う。
【0083】
上記のように「制動力条件」が満たされている期間における制動力に応じて求めた旋回限界舵角に基づいて「旋回条件」の成立有無の判定を行うことで、「処理前提条件」の判定、すなわち急制動状態の解消時にスピン挙動に陥る虞がある状態であるかの判定を、制動力の大きさに応じて正確に行うことができる。
【0084】
<4.処理手順>
図8のフローチャートを参照し、上記により説明した実施形態としての走行安定性制御を実現するための具体的な処理手順例を説明する。
本例では、図8に示す処理は、ブレーキ制御ユニット20のCPUが、例えばブレーキ制御ユニット20が備えるROM等の記憶媒体に記憶されたプログラムに従って実行する。
【0085】
先ず、ブレーキ制御ユニット20はステップS101で、AEBが作動するまで待機する。すなわち、衝突回避制御ユニット14によるAEBの開始(図3のS12参照)を待機する。
【0086】
ステップS101に続くステップS102でブレーキ制御ユニット20は、低μ路走行中であるか否かを判定する。すなわち、車両100の走行路の路面μが所定値以下であるか否かを判定する。
なお、路面μの推定手法については公知の手法を採用することができ、特定の手法に限定されるものではない。一例として、例えば路面μは、画像処理部12による画像処理により推定することができる。或いは路面μは、車輪のスリップ率に基づき推定することも考えられる。
【0087】
ここで、低μ路としては、例えば降雨等により濡れた道路や雪上路、氷上路、泥濘路等が考えられる。本明細書において「低μ路」は、路面μが所定値以下であるか否かの判定を行った際に、肯定結果が得られる道路を意味するものと定義する。この際の「所定値」は、車両100の旋回性能等に応じて変わり得るものであり、該「所定値」について、具体的な数値は限定されるべきではない。
【0088】
ステップS102において、路面μが所定値以下ではなく、低μ路走行中ではないと判定した場合、ブレーキ制御ユニット20は図8に示す一連の処理を終える。
つまり、本例では、後輪優先減力処理の「処理前提条件」として低μ路を走行中であるとの条件が課されているため、低μ路走行中でなければ後輪優先減力処理は実行されない。
【0089】
一方ステップS102において、低μ路走行中であると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS103に進み、ESCが無効化されているか否かを判定する。
ステップS103でESCが無効化されていないと判定した場合、ブレーキ制御ユニット20は図8に示す一連の処理を終える。
つまり、本例では、後輪優先減力処理の「処理前提条件」としてESCが無効化されているとの条件が課されているため、ESCが無効化されていなければ後輪優先減力処理は実行されない。
【0090】
ステップS103において、ESCが無効化されていると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS104に進み、ABS作動中であるか否かを判定する。すなわち、前述したABS処理部20aによるABS制御が作動中であるか否かを判定するものであり、本例において該ステップS104の判定処理は、「制動力条件」を満たすか否かの判定処理に相当する。
【0091】
ステップS104において、ABS作動中であると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS105に進み、旋回限界舵角の算出を行う。具体的に本例では、ABS制御作動中における制動力(本例ではブレーキ液圧)の平均値を計算し、該平均値に基づき旋回限界舵角を算出する。なお、制動力の値に基づき旋回限界舵角を算出する手法については既に説明済みであるため重複説明は避ける。
【0092】
ステップS105に続くステップS106でブレーキ制御ユニット20は、舵角が旋回限界舵角以上であるか否かを判定する。具体的に本例では、実舵角センサ18から取得した実舵角が、ステップS105で算出した旋回限界舵角以上であるか否かを判定する。
【0093】
ステップS106において、舵角が旋回限界舵角以上であると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS107に進み、AEBが終了か否かを判定する。すなわち、AEBを終了すべき状態となったか否かを判定するものであり、これは「処理実行条件」の成立有無の判定に相当する。
なお、AEBを終了すべき状態に至るケースについては種々考えられる。例えば、衝突予測物体側が移動して衝突回避の必要性がなくなった場合や、そもそも衝突予測物体を誤認識していて該誤認識が判明した場合等が考えられる。
【0094】
ステップS107において、AEBが終了であると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS109に進み、後輪優先減力処理を実行し、図8に示す一連の処理を追える。上述したように、本例では後輪優先減力処理において、制動力漸減処理における前輪と後輪の制動力の減少率差を「処理待機期間中」(「制動力条件」が成立してから後輪優先減力処理が開始されるまでの間の期間)における自車速v、旋回度(例えば実舵角)の少なくとも何れか一方に基づいて定める処理を行う(図6参照)。本例の後輪優先減力処理では、このように定めた制動力の減少率差が実現されるように、後輪と前輪のブレーキ液圧を漸減させていく処理を行う。
【0095】
図8において、ブレーキ制御ユニット20は、ステップS104でABS作動中でないと判定した場合、ステップS106で舵角が旋回限界舵角以上でないと判定した場合、ステップS107でAEBが終了でないと判定した場合のそれぞれにおいて、処理をステップS108に進める。
ステップS108でブレーキ制御ユニット20は、処理終了であるか否かを判定する。すなわち、例えばステップS101でAEB作動と判定されてからの経過時間が所定時間以上となる等、予め図8に示す一連の処理を終了すべきとして定められた所定の処理終了条件の成立有無を判定する。
【0096】
ステップS108において、上記の処理終了条件が成立しておらず、処理終了ではないと判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS104に戻る。
これにより、AEBが作動後(S101:Yes)、低μ路走行中(S102:Yes)且つESCが無効化されている(S103:Yes)ことが確認された以降では、ABS作動中(S104:Yes)且つ舵角が旋回限界舵角以上(S106:Yes)且つAEBが終了(S107:Yes)との条件が成立するか、或いは処理終了(S108:Yes)となるかの何れかを待機するループ処理が形成される。
【0097】
一方、ステップS108において、上記の処理終了条件が成立しており処理終了であると判定した場合、ブレーキ制御ユニット20は図8に示す一連の処理を終える。
【0098】
<5.変形例>
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明としては上記した具体例に限定されるものではなく、多様な変形例としての構成を採り得る。
例えば、上記では、AEBの作動後にAEBが終了となることに起因して車両100がスピン挙動に陥るケースを想定して、「処理前提条件」の一つに「AEBが作動」の条件が、また「処理実行条件」に「AEBが終了」との条件が含まれる例としたが、スピン挙動に陥る要因となる制動は、AEBによる制動ではなく、運転者の制動操作による制動であることも考えられる。
【0099】
この場合にブレーキ制御ユニット20が実行すべき処理の手順例を図9のフローチャートを参照して説明する。
なお図9において、既にこれまでで説明済みとなった処理と同様となる処理については同一符号を付して説明を省略する。
この場合、ブレーキ制御ユニット20は、先ずステップS201で、運転者による急制動操作が行われるまで待機する。具体的には、運転者により、制動力が一定制動力以上となる制動操作(ブレーキペダル操作)が行われるまで待機する。ステップS201の判定処理は、例えば、ブレーキペダルの踏み込み量が所定量以上となる状態の到来を待機する処理として実行することが考えられる。
【0100】
ステップS201において、急制動操作が行われたと判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS102に進み、低μ路走行中であるか否かを判定する。この場合のブレーキ制御ユニット20は、ステップS102で低μ路走行中であると判定した場合は、ステップS104に進んでABS作動中であるか否かを判定する。
この場合もブレーキ制御ユニット20は、ステップS104でABS作動中であると判定した場合には、ステップS105の処理を実行後、ステップS106で舵角が旋回限界舵角以上であるか否かを判定する。
【0101】
この場合のブレーキ制御ユニット20は、ステップS106で舵角が旋回限界舵角以上であると判定した場合は、ステップS202で急制動操作が解消したか否かを判定する。急制動操作が解消したか否かは、例えば、ブレーキペダルの踏み込み量が所定量未満となったか否か(例えば、ブレーキペダルの踏み込み量が0となったか否か)により判定することが考えられる。
【0102】
ステップS202で急制動操作が解消したと判定した場合、ブレーキ制御ユニット20はステップS109の後輪優先減力処理を実行し、図9に示す一連の処理を終える。
【0103】
この場合のブレーキ制御ユニット20は、ステップS104でABS作動中でないと判定した場合、ステップS106で舵角が旋回限界舵角以上でないと判定した場合、ステップS202で急制動操作が解消されていないと判定した場合のそれぞれにおいて、処理をステップS108に進めて、処理終了か否かを判定する。処理終了でなければ、ブレーキ制御ユニット20はステップS104に戻る。これにより、急制動操作が開始後(S201:Yes)、低μ路走行中(S102:Yes)であることが確認された以降では、ABS作動中(S104:Yes)且つ舵角が旋回限界舵角以上(S106:Yes)且つ急制動操作が解消(S202:Yes)との条件が成立するか、或いは処理終了(S108:Yes)となるかの何れかを待機するループ処理が形成される。
【0104】
一方、ステップS108において、処理終了と判定した場合、ブレーキ制御ユニット20は図9に示す一連の処理を終える。
【0105】
なお、図9ではステップS103を省略し、「処理前提条件」に「ESCが無効化中」の条件を含めない例としているが、この場合もステップS103の処理を実行するものとして「処理前提条件」に「ESCが無効化中」の条件を含めるようにすることも可能である。
ここで、図9に示したような運転者の急制動操作を前提とした走行安定性処理は、ESCの一つのモード時の処理(例えば、安全重視型モード時の処理等)として実行することが考えられ、その場合は、図9に示した通りステップS103を省略した処理を実行すべきである。
【0106】
ここで、上記では、「制動力条件」の成立有無をABS作動中であるか否かにより判定する例を挙げたが、例えば、ブレーキ液圧が所定圧以上であるか否かの判定として行うことも考えられる。或いは、「制動力条件」の成立有無の判定は、ブレーキペダルの踏み込み量に基づき判定してもよいし、前後Gに基づき判定すること等も考えられるものであって、特定の判定手法には限定されない。
【0107】
また、上記では、後輪優先減力処理においてブレーキ液圧を漸減させる説明を行ったが、HEVやEVの場合、制動力は、モータ・ジェネレータの回生力に基づく制動力も含み得るものであり、その場合、後輪優先減力処理では、これらブレーキ液圧と回生力とで実現される制動力について漸減処理を行うことが考えられる。
また、制動力に係る条件判定についても、ブレーキ液圧のみでなく、ブレーキ液圧と回生力とで実現される制動力を基準とした判定を行うことが考えられる。
【0108】
また、上記では「旋回条件」の成立有無を実舵角に基づき判定する例としたが、「旋回条件」の成立有無の判定は、操舵トルクセンサ19が検出する操舵トルク等に基づく判定としたり、ステアリングの操作量に基づく判定としたりする等が考えられ、また、ヨーレートや横Gに基づく判定とすること等も考えられ、特定の判定手法に限定されるものではない。
また、旋回条件としては、「AESの介入」を条件の一つに含むことも考えられる。
【0109】
また、上記ではAEBについて、車外環境認識処理をカメラによる撮像画像に基づき行う例を挙げたが、当該車外環境認識処理は、例えばレーダーや地図ロケータ(車両位置を検出する位置センサと高精度地図情報とに基づく車両付近の物体認識)を用いて行う等、他の手法により行うことも可能である。
【0110】
また、上記では、前提条件判定処理、実行条件判定処理、及び後輪優先減力処理の実行主体がブレーキ制御ユニット20である例を挙げたが、これらの処理の実行主体はブレーキ制御ユニット20に限定されるものではなく、車両制御システム1が備える他の制御ユニットとすることも考えられる。
また、上記各処理の一部を第一の制御ユニットが、他の処理を第二の制御ユニットが実行する等、上記各処理を複数の制御ユニットが分担して行う構成とすること等も考えられる。
【0111】
<6.実施形態のまとめ>
以上で説明してきたように、実施形態としての車両制御システム(同1)は、車両(同100)を制動する制動部を備えた車両における車両制御システムであって、一又は複数のプロセッサ(ブレーキ制御ユニット20のCPU)と、一又は複数のプロセッサによって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体(ブレーキ制御ユニット20のROM)と、を備える。
そして、プログラムは、一又は複数の指示を含み、指示は、一又は複数のプロセッサに、車両の制動力が一定制動力以上であるとの制動力条件と、車両の旋回度が一定旋回度以上であるとの条件である旋回条件とを少なくとも含む処理前提条件の成立有無を判定する前提条件判定処理と、処理前提条件が成立している状態で制動部による制動を解除すべき状態となったとの条件である処理実行条件の成立有無を判定する実行条件判定処理と、処理実行条件の成立に応じて、制動力を漸減させる制動力漸減処理として、車両の前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理と、を実行させるものである。
車両の制動力が一定制動力以上であり且つ車両の旋回度が一定旋回度以上である状態(処理前提条件の成立状態)で、制動部による制動を解除すべき状態となった場合(処理実行条件が成立した場合)において、仮に、各車輪の制動力を一様に減少させてしまうと、荷重が前輪側に偏重し且つ前輪がグリップを回復しているという状態となるため、オーバーステア傾向が強くなり、車両がスピン挙動に陥り易くなる。そこで本実施形態では、上記の処理実行条件の成立に応じて制動力を漸減させる制動力漸減処理として、前輪よりも後輪側の制動力を優先して減少させる後輪優先減力処理を行うものとしている。
これにより、車両の制動力が一定制動力以上の状態(急制動の状態)で且つ車両の旋回度が一定旋回度以上である状態から、制動部による制動を解除すべき状態となって急制動が解消される場合に、車両がオーバーステア傾向となることの防止が図られ、車両がスピンしないように図ることが可能となる。
従って、車両の走行安定性向上を図ることができる。
【0112】
また、実施形態としての車両制御システムにおいて、車両は、制動部を用いた衝突回避制動制御(AEB、又はAEB+AES)、横滑り防止制御(ESC)、及びABS制御を実行可能に構成されており、前提条件判定処理では、制動力条件の成立有無の判定として、ABS制御が作動中であるか否か(ステップS104参照)を判定し、処理前提条件の成立有無の判定として、衝突回避制動制御が作動中であるとの条件(ステップS101参照)と、制動力条件と、旋回条件(ステップS106参照)と、横滑り防止制御が無効化されているとの条件(ステップS103参照)の少なくとも4条件が成立しているか否かを判定し、実行条件判定処理では、処理実行条件の成立有無の判定として、衝突回避制動制御を終了すべき状態となったか否かを判定する(ステップS107参照)。
すなわち、処理前提条件の成立有無の判定は、衝突回避制動制御が作動中、且つABS制御が作動中、且つ旋回度が一定旋回度以上、且つ横滑り防止制御が無効化されているとの条件の成立有無の判定として行われ、処理実行条件の成立の有無の判定が、作動中であった衝突回避制動制御を終了すべき状態となったか否かの判定として行われるものである。
横滑り防止制御がオフの状態で、衝突回避制動制御が作動し、これに連動してABS制御が作動中となって且つ旋回度が一定旋回度以上とされている状態において、衝突回避制動制御が終了する、すなわち衝突回避制動制御による急制動状態が解消される場合には、車両がスピン挙動に陥り易い傾向となる。このような状態に対し、実施形態としての後輪優先減力処理が行われることで、衝突回避制動制御の終了に応じて急制動状態が解消されて車両がスピンしてしまうことの防止を図ることができ、車両の走行安定性向上を図ることができる。
【0113】
ここで、下記参考文献1には、横滑り防止制御が無効化されている状態において、衝突回避制動制御が発動したことを条件に、横滑り防止制御を有効化するという技術が開示されている。これにより、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性が担保されるように図っている。
・参考文献1:特開2015-048006号公報
【0114】
上記参考文献1の技術によれば、車両が衝突回避制動制御の作動に伴い急制動状態で且つ旋回度が一定旋回度以上である状態から衝突回避制動制御が終了して急制動状態が解消された際には、横滑り防止制御が有効化された状態にある。このとき、運転者が、スピン挙動に陥りそうになった状況に対し横滑り防止制御が無効化されているなりのスピン回避運転操作を行ったとすると、横滑り防止制御によるスピン抑制制御と運転者のスピン回避操作とが重なってしまい、逆方向へのスピン(振り返し)が生じてしまう虞がある。本実施形態では、無効化状態の横滑り防止制御を衝突回避制動制御の作動に応じて自動で復帰させることは行っていないため、このような振り返しが生じてしまうことの防止を図ることができ、この点において、車両の走行安定性向上が図られる。
【0115】
さらに、実施形態としての車両制御システムにおいて、前提条件判定処理では、制動力条件が満たされている期間における制動力に応じて求めた旋回閾値(旋回限界舵角)に基づいて旋回条件の成立有無を判定する(図7、ステップS105及びS106参照)。
急制動状態の解消時においては、旋回度が高いほどスピン挙動に陥り易い傾向となるが、この際の、スピン挙動に陥るか否かに係る旋回度の閾値(旋回閾値)は、急制動状態が解消される際の制動力に応じて変化する(制動力が大きいほど旋回閾値は低くなる傾向)。そこで、上記のように制動力条件が満たされている期間における制動力に応じて求めた旋回閾値に基づき、旋回条件の成立有無を判定する。
これにより、処理前提条件の判定、すなわち急制動状態の解消時にスピン挙動に陥る虞がある状態であるかの判定を、制動力の大きさに応じて正確に行うことができる。
【0116】
さらにまた、実施形態としての車両制御システムにおいて、後輪優先減力処理では、制動力条件が成立してから後輪優先減力処理が開始されるまでの間の期間である処理待機期間中における車両の車速、旋回度の少なくとも何れか一方に基づいて制動力漸減処理における前輪と後輪の制動力の減少率差を定める(ステップS109参照)。
処理実行条件が成立したタイミングとしての、急制動状態が解消されるタイミングにおいて、車速や旋回度が高い場合には、車両がよりスピンし易い傾向となる。そこで、上記のように処理実行条件が成立した際の車速、旋回度の少なくとも何れか一方に基づいて制動力漸減処理における前後輪の制動力の減少率差を定める。これにより、車速や旋回度が高く、急制動状態の解消に伴い車両がスピンする可能性が高い場合には前後輪の制動力の減少率差を大きく(後輪側の制動力減少率を大きく)して、車両がよりスピンし難くなるように図ったり、逆に車速や旋回度が低く急制動状態の解消に伴い車両がスピンする可能性が低い場合には前後輪の制動力の減少率差を小さく(後輪側の制動力減少率を小さく)して、車両が不必要にアンダーステア傾向となることを防止しドライバビリティの向上を図ったりする等が可能となる。すなわち、急制動状態の解消の際における車両のスピンし易さに応じて、後輪優先減力処理における前後輪の制動力の減少率差を適切に定めることができるものである。
【0117】
また、実施形態としての車両制御システムにおいて、処理前提条件は、車両が低μ路を走行中であるとの条件を含んでいる(ステップS102参照)。
例えば、降雨等により濡れた道路や雪上路、氷上路、泥濘路等の低μ路においては、制動力が一定制動力以上の急制動状態で且つ旋回度が一定旋回度以上である状態から急制動状態が解消された際に、車両がよりスピン挙動に陥り易くなる。
このため、低μ路を走行中である場合に対応して、本実施形態としての後輪優先減力処理を行うことが好適である。
【符号の説明】
【0118】
100 車両
1 車両制御システム
10 撮像ユニット
11L、11R 撮像部
12 画像処理部
13 運転支援制御部
14 衝突回避制御ユニット
16 車速センサ
17 動きセンサ
18 実舵角センサ
19 操舵トルクセンサ
20 ブレーキ制御ユニット
20a ABS処理部
21 ブレーキ関連アクチュエータ
25 ESCユニット
26 操作部
30 ステアリング機構
40L、40R 操舵輪
42 EPSモータ
F1 前提条件判定処理部
F2 実行条件判定処理部
F3 後輪優先減力処理部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9