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  • 特開-金属成形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092466
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】金属成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/02 20060101AFI20240701BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20240701BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B22D18/02 C
B21J5/06 C
B21J5/02 A
B22D18/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208403
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中尾 拡
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA04
4E087AA08
4E087BA04
4E087CA07
4E087CA15
4E087CA24
4E087CB01
4E087CB13
4E087EC17
4E087HA76
4E087HB06
(57)【要約】
【課題】プレスによる金型の変形を抑制する技術を提供する。
【解決手段】第1金型及び第2金型によって半凝固金属材料をプレス成形することで成形される金属成形物の製造方法である。製造方法は、下方に位置する第1金型又は第2金型に、半凝固金属材料を配置することを備える。また、製造方法は、上方に位置する第1金型又は第2金型が下死点へ変位するまで第1金型及び第2金型を接近させて、半凝固金属材料をプレスすることを備える。また、製造方法は、下死点まで変位した第1金型又は第2金型が、下死点に到達後に、第1金型及び第2金型を下死点より離れた保持点へ変位させて、当該第1金型及び当該第2金型を保持することを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に互いに対向するように配置される第1金型及び第2金型によって半凝固金属材料をプレス成形することで成形される金属成形物の製造方法であって、
前記第1金型は、前記半凝固金属材料を押圧可能な突出部を有し、
前記第2金型は、基部及び当該基部から前記第1金型が配置される方向に延びる側壁部を有し、前記第1金型と組み合わされたときに前記基部及び前記側壁部が前記突出部と隙間を空けて位置するように当該突出部を覆い、
前記金属成形物の製造方法は、
下方に位置する前記第1金型又は前記第2金型に、前記半凝固金属材料を配置することと、
上方に位置する前記第1金型又は前記第2金型が下死点へ変位するまで前記第1金型及び前記第2金型を接近させて、前記半凝固金属材料をプレスすることと、
前記下死点まで変位した前記第1金型又は前記第2金型が、前記下死点に到達後に、前記第1金型及び前記第2金型を前記下死点より離れた保持点へ変位させて、当該第1金型及び当該第2金型を保持することと、
を備える、金属成形物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属成形物の製造方法であって、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、サーボモータを用いた制御により変位する、金属成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半凝固金属材料をプレス成形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金型の中に半凝固金属材料を配置して、プレス成形することで成形物を製造する方法が知られている。特許文献1では、上型、上型スライダ及び下型を有する金型によって、当該金型の中に配置されたアルミニウム合金の半凝固金属をプレスして製品を成形するプレス成形方法が開示されている。このプレス成形方法では、上型及び上型スライダを下降させて、アルミニウム合金の温度が凝固終了温度に達する時点までアルミニウム合金に圧力を加え続けて一次成形品を成形する。その後、上型スライダのみを下降させて、一次成形品に更に圧力を加えることでアルミニウム合金の鍛造を行い、機械的性質の優れた製品を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-118030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半凝固金属材料のプレス成形では、プレスする工程において成形物の端部まで材料を行き渡らせたり、成形物の表面剥がれの抑制のために材料を馴染ませたり、材料内部に生じた気泡を除去したり等をするために、プレスの圧力は大きい方が好ましい。
【0005】
しかし、底面及び底面から延び出す側壁を有する下型に配置された半凝固金属材料が、上型によるプレスにより上型及び下型の側壁の間に流れ込むようなプレス成形の場合、上型から半凝固金属材料に加わる圧力が下型の側壁に伝達される。このため、プレスの圧力が大きくなると、下型の側壁に大きな圧力が加わり、下型の変形が生じやすくなり、成形物の成形精度に影響が出やすくなるという問題があった。
【0006】
本開示の一局面は、プレスによる金型の変形を抑制する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、上下方向に互いに対向するように配置される第1金型及び第2金型によって半凝固金属材料をプレス成形することで成形される金属成形物の製造方法である。第1金型は、半凝固金属材料を押圧可能な突出部を有する。第2金型は、基部及び当該基部から第1金型が配置される方向に延びる側壁部を有する。第2金型は、第1金型と組み合わされたときに、基部及び側壁部が突出部と隙間を空けて位置するように当該突出部を覆う。金属成形物の製造方法は、下方に位置する第1金型又は第2金型に、半凝固金属材料を配置することを備える。また、金属成形物の製造方法は、上方に位置する第1金型又は第2金型が下死点へ変位するまで第1金型及び第2金型を接近させて、半凝固金属材料をプレスすることを備える。また、金属成形物の製造方法は、下死点まで変位した第1金型又は第2金型が、下死点に到達後に、第1金型及び第2金型を下死点より離れた保持点へ変位させて、当該第1金型及び当該第2金型を保持することを備える。
【0008】
このような構成では、上方に位置する第1金型又は第2金型が下死点から変位した位置である保持点にある状態で第1金型及び第2金型の位置が保持される。このため、上方に位置する第1金型又は第2金型が下死点にある状態で第1金型及び第2金型が保持される場合と比較して、プレス時に半凝固金属材料に加わる圧力によって半凝固金属材料を介して第2金型の側壁部に伝達する圧力が軽減される。したがって、プレスによる金型の変形を抑制することができる。
【0009】
本開示の一態様では、第1金型及び第2金型の少なくとも一方は、サーボモータを用いた制御により変位してもよい。このような構成によれば、上方に位置する第1金型又は第2金型が下死点から保持点へ変位するタイミング及び変位度合いを精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】プレス成形装置の断面構造を模式的に示す図である。
図2図2A図2Dは、プレス成形装置を用いた実施形態の成形物の製造方法を説明する図である。
図3】第1金型における下死点及び保持点の位置を模式的に示す図である。
図4図4A図4Dは、図2A図2Dに示す成形物の製造方法の各工程における第2金型の形状を上面視において模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.プレス成形装置の構成]
図1に示すプレス成形装置100は、後述する第1金型1及び第2金型2によって半凝固金属材料をプレス成形して金属成形物を製造するための装置である。金属成形物とは、例えば、鍋である。以下の説明では、半凝固金属材料の一例として、半凝固アルミニウム材料を例示する。なお、半凝固金属材料の金属種は、アルミニウムに限定されるものではなく、他の様々な金属を用いることができる。また、以下の説明における上下、左右、前後の方向は、説明の便宜上用いるものであり、プレス成形装置100の使用態様を限定するものではない。
【0012】
プレス成形装置100は、第1金型1と、第2金型2と、スライド3と、ボルスタ4と、を備える。
第1金型1及び第2金型2は、上下方向に互いに対向するように配置される。本実施形態では、第1金型1が上方に位置し、第2金型2が下方に位置する。具体的には、モータ等により上下方向に動くスライド3の下面に第1金型1が固定され、スライド3の下方に配置されるボルスタ4の上面に第2金型2が固定される。本実施形態では、図1に示すサーボモータ200を用いた制御により第1金型1を上下方向に移動させることによって、第1金型1と第2金型2とによるプレス加工が行われる。
【0013】
第1金型1は、本体部11及び突出部12を有する。突出部12は、本体部11から下方に突出する円柱状の部分であり、半凝固金属材料を押圧可能である。なお、突出部の形状は、円柱状に限定されるものではなく、金属成形物の形状に対応する様々な形状を取り得る。
第2金型2は、上方が開口する箱状であり、第1金型1の突出部12の直径よりも直径の大きい円柱状の内部空間を有する。なお、第2金型の内部空間の形状は、円柱状に限定されるものではなく、金属成形物の形状に対応する様々な形状を取り得る。第2金型2は、基部21及び側壁部22を有する。基部21は、突出部12の先端部分と対向する。側壁部22は、基部21の縁から第1金型1が配置される方向、すなわち上方に延びる。側壁部22は、基部21の縁を周回するように設けられる。
【0014】
第2金型2の内部空間は、基部21及び側壁部22によって囲われた空間であり、当該内部空間には、第1金型1の突出部12が挿入可能である。第2金型2は、第1金型1と組み合わされたときに、基部21及び側壁部22の全内周面が第1金型1の突出部12と隙間を空けて位置するように、当該突出部12を覆う。第1金型1と第2金型2とが組み合わされたときに、基部21及び側壁部22と、突出部12と、の間に形成される隙間は、半凝固アルミニウム材料の成形を行うための空間(以下、成形空間5とする)である。
【0015】
[2.プレス成形装置による金属成形物の製造方法]
次に、図2A図2Dを用いて、上述したプレス成形装置100によって、半凝固アルミニウム材料(以下、材料6とする)をプレス成形による金属成形物(以下、成形物60とする)の製造方法を説明する。本実施形態の成形物60の製造方法には、配置工程と、プレス工程と、保持工程と、離脱工程と、が含まれる。なお、図4A図4Dを用いて、図2A図2Dに示す各工程において上面視した第2金型2の形状の変化を示す。
【0016】
<配置工程>
まず、図2Aに示すように、第2金型2の内部空間内に、材料6を配置する。図4Aに示すように、配置工程における第2金型2の初期状態では、第2金型2に変形はない。
【0017】
<プレス工程>
続いて、図2Bに示すように、第1金型1が下死点P1へ変位するまで第1金型1及び第2金型2を接近させて、材料6をプレスする。具体的には、図1に示すサーボモータ200を用いた制御によって、第1金型1を下死点P1まで下降させて、材料6を突出部12により押圧する。材料6は、プレスされることによって圧縮変形し、成形空間5内に充填される。
【0018】
第1金型1が下死点P1にあるときには、大きな圧力(例えば、数百トンの圧力)が材料6に加わる。なお、第1金型1が下死点P1にあるときに材料6に加わる大きな圧力は、第1金型1及び第2金型2の大きさや剛性等によって変わる。これにより、成形空間5内の端部まで材料6が行き渡りやすく、材料6が固まるときに発生する界面が生じにくく、材料6内部に生じた気泡が除去されやすい等の効果が得られる。一方、第1金型1から材料6に加わる大きな圧力は、材料6を介して第2金型2の側壁部22に伝達される。これにより、第2金型2の側壁部22に大きな圧力が加わり、第2金型2に変形が生じる。具体的には、図4Bに示すように、第2金型2が膨張し、第2金型2の側壁部22のうち前後の側壁と比較して薄肉な部分である左右の側壁が外側に向かって突出するように湾曲する。
【0019】
<保持工程>
続いて、図2C及び図3に示すように、第1金型1を下死点P1に到達した直後に保持点P2へ変位させるために、第1金型1及び第2金型2をわずかに引き離した後、その引き離された位置にて当該第1金型1及び当該第2金型2を保持する。具体的には、サーボモータ200を用いた制御によって、第1金型1を下死点P1に到達した直後に保持点P2まで微上昇させた後、第1金型1を保持点P2にて保持する。下死点P1に到達した直後とは、例えば、下死点P1に到達してから0.5秒未満であることが好ましい。なお、第1金型1が変位するタイミングは、材料6が冷却される速さによって変わる。換言すると、材料6が冷却される速さは第1金型1及び第2金型2の材質等により変わるため、第1金型1が変位するタイミングは、第1金型1及び第2金型2の材質等によって変わる。また、下死点P1から保持点P2までの距離は、例えば、1mm未満であることが好ましい。なお、下死点P1から保持点P2までの距離は、第1金型1及び第2金型2の大きさや剛性等によって変わる。
【0020】
上述したように、第1金型1を下死点P1から保持点P2へ変位させる、すなわち第1金型1を1mm未満の範囲で微上昇させると、第1金型1から材料6に加わる圧力が、例えば、第1金型1が下死点P1にあるときに加わった圧力の約半分に軽減される。これにより、上述したプレス工程で生じた図4Bに示す第2金型2の変形が解消又は軽減され、図4Cで示すように、第2金型2の形状は、図4Aに示す初期状態に近い変形がほぼない状態に戻る。そして、第2金型2の変形がほぼない状態において、第1金型1及び第2金型2の相対的な距離が保持され、圧縮変形された材料6の冷却が行われる。
【0021】
<離脱工程>
続いて、図2Dに示すように、第1金型1がプレス前の初期状態の位置へ戻るまで第1金型1及び第2金型2を引き離して、第2金型2から成形物60を離脱させる。具体的には、サーボモータ200を用いた制御によって、第1金型1を上方に移動させて、第2金型2から成形物60を離脱させる。その後、第1金型1から成形物60を取り外すことで、成形物60の製造が完了する。上述したように、図4Cに示す第2金型2の変形がほぼない状態において、圧縮変形された材料6が冷却されるため、精度の高い形状の成形物60が得られる。
【0022】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)本実施形態では、材料6のプレス後、第1金型1が下死点P1から微上昇した位置である保持点P2で保持される。このため、第1金型1が下死点P1で保持されるような金属成形物の製造方法と比較して、プレス時に材料6に加わる圧力によって材料6を介して第2金型2の側壁部22に伝達する圧力が軽減される。すなわち、保持工程を有することによって、プレス工程において生じた第2金型2の変形が解消又は軽減される。したがって、プレスによる第2金型2の変形を抑制することができる。
【0023】
その結果、プレス工程における材料6に加わる圧力が大きい場合でも、第2金型2にほぼ変形がない状態において圧縮変形された材料6が冷却されるため、金型の形状に影響を受けやすい材料6により成形される成形物60の成形精度を向上させることができる。なお、保持工程を有しないような金属成形物の製造方法では、プレス工程において材料6に大きな圧力が加わることで変形した第2金型の状態のまま、圧縮変形された材料6が冷却される。このため、歪んだ形状の成形物61が成形されやすい。
【0024】
(3b)本実施形態では、プレス工程において材料6に大きな圧力が加わるため、成形空間5内の端部まで材料6が行き渡りやすい。このため、成形物60の端部が欠けた状態の不良品が発生することを抑制したり、必要重量よりも多い量で配置された材料6の余剰を第1金型1及び第2金型2のクリアランスからバリとして出しやすくしたりすることができる。
【0025】
また、プレス工程において材料6に大きな圧力が加わるため、材料6が固まるときに発生する界面が成形物60に生じにくい。その結果、界面による材料剥がれが抑制されるため、成形物60の表面状態を向上させることができる。
【0026】
また、プレス工程において材料6に大きな圧力が加わるため、材料6の内部に生じた気泡が除去されやすい。このため、成形物60内に気泡が含まれることを抑制することができる。
【0027】
(3c)本実施形態では、第1金型1がサーボモータ200を用いた制御により移動する。このため、第1金型1が下死点P1から保持点P2へ微上昇するタイミング及び上昇度合いを精度よく制御することができる。
【0028】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0029】
(4a)上記実施形態では、第1金型1が上下方向に移動する構成を例示したが、移動する金型は、第1金型1に限定されるものではない。例えば、第2金型2が上下方向に移動してもよいし、第1金型1及び第2金型2の両方が上下方向に移動してもよい。
【0030】
(4b)上記実施形態では、プレス成形装置100において、第1金型1が上方に位置し、第2金型2が下方に位置する構成を例示したが、プレス成形装置の構成はこれに限定されるものではない。例えば、プレス成形装置は、第2金型2が上方に位置し、第1金型1が下方に位置する構成であってもよい。
【0031】
このような構成では、下方に位置する第1金型1の突出部12上に材料6が配置される。そして、サーボモータ200の制御によって、第1金型1及び第2金型2の少なくとも一方を変位させて、プレス加工を行う。例えば、下方に位置する第1金型1が上下方向に移動してもよいし、上方に位置する第2金型2が上下方向に移動してもよいし、第1金型1及び第2金型2の両方が上下方向に移動してもよい。
【0032】
(4c)上記実施形態では、第1金型1がサーボモータ200を用いた制御により上下方向に移動する構成を例示したが、第1金型1及び第2金型2の少なくとも一方を移動させる方法はこれに限定されるものではない。例えば、第1金型1及び第2金型2の少なくとも一方の移動は、油圧やクレンクプレスを用いた制御により行われてもよい。
【0033】
(4d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…第1金型、2…第2金型、3…スライド、4…ボルスタ、5…成形空間、6…材料、11…本体部、12…突出部、21…基部、22…側壁部、60…成形物、100…プレス成形装置、200…サーボモータ、P1…下死点、P2…保持点。
図1
図2
図3
図4