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特開2024-92474電縫鋼管の渦流探傷装置、電縫鋼管の渦流探傷方法及び電縫鋼管
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  • 特開-電縫鋼管の渦流探傷装置、電縫鋼管の渦流探傷方法及び電縫鋼管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092474
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】電縫鋼管の渦流探傷装置、電縫鋼管の渦流探傷方法及び電縫鋼管
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20240701BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208424
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】522502680
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 繁俊
(72)【発明者】
【氏名】北澤 諭
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BA30
2G053BB04
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB12
2G053DA02
2G053DA08
2G053DA09
(57)【要約】
【課題】電縫鋼管の造管工程において、造管速度が変化する場合であっても安定した欠陥検出能を得ることができる渦流探傷装置等を提供する。
【解決手段】渦流探傷装置100は、電縫鋼管Pに誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイル1と、探傷信号が入力される探傷器2と、を備える。探傷器は、探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、電縫鋼管の造管速度が入力され、造管速度に応じたハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段26と、を具備する。カットオフ周波数設定手段は、ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF、電縫鋼管の造管速度をV、検出コイルの長さをL、0.1≦K≦0.4の所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、カットオフ周波数Fを設定する。
F=K・V/L ・・・(1)
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、
前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、
前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、
前記カットオフ周波数設定手段は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0より大きく1より小さい所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定し、
前記係数Kの値は、性能評価装置を用いて予め決定されており、
前記性能評価装置は、
人工欠陥が設けられた、所定の軸周りに回転可能な回転体と、
前記人工欠陥による渦電流の変化を検出可能な、前記検出コイルとコイルデザインが同一である差動型の性能評価用検出コイルと、
前記回転体の回転速度を制御する回転制御手段と、
前記人工欠陥の周速度を検出する周速度検出手段と、を備え、
前記検出コイルに代えて前記性能評価用検出コイルが前記探傷器に接続されると共に、前記探傷器の前記カットオフ周波数設定手段に前記周速度検出手段によって検出された前記人工欠陥の周速度が入力される状態で、前記回転制御手段が、前記人工欠陥の周速度の変化パターンが前記電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、前記回転体の回転速度を制御した場合に、前記ハイパスフィルタを通過した前記人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、前記係数Kの値が決定されている、
ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷装置。
F=K・V/L ・・・(1)
【請求項2】
造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、
前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、
前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、
前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、
前記カットオフ周波数設定手段は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0.1以上0.4以下の所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定する、
ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷装置。
F=K・V/L ・・・(1)
【請求項3】
造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、渦流探傷装置を用いて、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷方法であって、
前記渦流探傷装置は、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、
前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、
前記カットオフ周波数設定手段によって、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0より大きく1より小さい所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定するカットオフ周波数設定工程と、
人工欠陥が設けられた、所定の軸周りに回転可能な回転体と、前記人工欠陥による渦電流の変化を検出可能な、前記検出コイルとコイルデザインが同一である差動型の性能評価用検出コイルと、前記回転体の回転速度を制御する回転制御手段と、前記人工欠陥の周速度を検出する周速度検出手段と、を備える性能評価装置を用いて、前記係数Kの値を予め決定する係数決定工程と、を有し、
前記係数決定工程では、前記検出コイルに代えて前記性能評価用検出コイルを前記探傷器に接続すると共に、前記探傷器の前記カットオフ周波数設定手段に前記周速度検出手段によって検出された前記人工欠陥の周速度を入力する状態で、前記回転制御手段によって、前記人工欠陥の周速度の変化パターンが前記電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、前記回転体の回転速度を制御した場合に、前記ハイパスフィルタを通過した前記人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、前記係数Kの値を決定する、
ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷方法。
F=K・V/L ・・・(1)
【請求項4】
造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、渦流探傷装置を用いて、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷方法であって、
前記渦流探傷装置は、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、
前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、
前記カットオフ周波数設定手段によって、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0.1以上0.4以下の所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定するカットオフ周波数設定工程を有する、
ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷方法。
F=K・V/L ・・・(1)
【請求項5】
請求項3又は4に記載の渦流探傷方法によって渦流探傷された電縫鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管の溶接部等に存在する欠陥を検出する渦流探傷装置、渦流探傷方法及びこの渦流探傷方法によって渦流探傷された電縫鋼管に関する。特に、本発明は、電縫鋼管の造管工程において、造管速度が一定ではなく変化する場合であっても、安定した欠陥検出能を得ることができる渦流探傷装置、渦流探傷方法及び電縫鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管、ERW鋼管ともいう)は、公知のように、電縫鋼管を製造する造管工程において、コイルから巻き出された板材(フープ材と称される)をロールで管状に成形し、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて電気抵抗溶接することで製造される。この電気抵抗溶接は、高周波電力が印加されたインダクションコイルを用いて、板材の端部に渦電流を生成し、この渦電流によって加熱(誘導加熱)された板材の端部をロールで圧接する方法である。電気抵抗溶接によって鋼管の内外面に押し出された溶鋼は、冷却してビードとして鋼管に残存するため、このビードは溶接直後に切削工具で切削される。
【0003】
上記の造管工程で得られた電縫鋼管には、二次加工工程として、一般的に、冷間抽伸工程が実行される。冷間抽伸工程は、鋼管内にプラグやマンドレルを挿入した状態で、ダイスに鋼管を通して引き抜く冷間抽伸を行う工程である。この冷間抽伸工程は、造管工程後の鋼管を素材として、種々の寸法を有する電縫鋼管を製造するのに適したものであり、内外面にビードの切削痕が残る造管工程後の鋼管に比べて、冷間抽伸工程後の電縫鋼管は、外径・肉厚寸法が均一で、表面粗さが改善されるという利点がある。
【0004】
ここで、造管工程において、突き合わせた板材の端部間にスケールが侵入すると、溶接部に欠陥(溶接欠陥)が生じる場合がある。侵入するスケールは、造管工程で使用する冷却水に含有される場合や、板材の成形の際に雰囲気中に浮遊している場合が考えられる。造管工程で生じた溶接欠陥が、次工程である冷間抽伸工程等の二次加工工程まで残存すると、二次加工工程において、この溶接欠陥に応力集中が生じることで、鋼管に割れが生じる可能性がある。鋼管に割れが生じると、鋼管の歩留まりが低下する他、二次加工工程にトラブルが発生してその修復に多大な工数が掛かるおそれがある。このため、造管工程において、溶接欠陥を精度良く検出可能とすることが望まれている。
【0005】
従来、造管工程では、一般的に、貫通型で且つ差動型の検出コイルを用いた電縫鋼管の渦流探傷が行われている。
しかしながら、造管工程における造管速度(溶接直後の電縫鋼管の長手方向への送り速度に相当)は、渦流探傷の際、一定ではなく、変化するのが一般的である。
図1は、造管速度が変化する例を模式的に示す図である。図1に示すように、溶接条件の変更や、ビード切削工具の交換や位置の微調整等の条件出しを行う場合には、造管速度は0又は低速であり、造管後の管の品質を確認する場合には、造管速度は中速であり、品質確認後は高速で造管が行われる。また、1本の電縫鋼管の造管が完了したり、昼休みや就業時間外となった場合には、造管が停止し、造管速度が0となる。このように、造管速度が、低速から高速に変化する、或いは、高速から低速に変化する状況で渦流探傷を行うと、検出コイルから出力される探傷信号のうち、欠陥に対応する探傷信号の大きさが、造管速度の変化に応じて変化することで、安定した欠陥検出能が得られないおそれがある。
【0006】
例えば、特許文献1には、探傷信号が入力される周波数フィルタを用いた渦流探傷装置(渦電流探傷装置)が提案されているものの、上記の問題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭58-83253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、電縫鋼管の造管工程において、造管速度が一定ではなく変化する場合であっても、安定した欠陥検出能を得ることができる渦流探傷装置、渦流探傷方法及び電縫鋼管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った。まず、本発明者らは、差動型の検出コイルを用いた渦流探傷の場合、欠陥に対応する探傷信号の中心周波数f[Hz]が、以下の式(A)に基づいて簡易的に計算できることに着目した。
=V/L ・・・(A)
上記の式(A)において、V[mm/sec]は電縫鋼管の造管速度であり、L[mm]は検出コイルの長さである。検出コイルの長さとは、検出コイルを構成する一対の検出コイル要素の各長さをL1、L2とし、一対の検出コイル要素の間隙の長さをL3とした場合に、L=L1+L2+L3で表される寸法である。
なお、欠陥が検出コイルに接近する際、欠陥による渦電流の変化が検出コイルに影響を与えるため、検出コイルから出力される探傷信号には低周波の信号成分が生じる。一方、検出コイルを構成する一対の検出コイル要素のうち、先行する(先に欠陥が到達する)検出コイル要素の中心に欠陥が到達した時点から、後続の検出コイル要素の中心に欠陥が到達する時点までにおいて、検出コイルから出力される探傷信号の大きさは、最大値から最小値へと(或いは、最小値から最大値へと)直線的に変化するため、高周波の信号成分が生じる。このため、欠陥に対応する探傷信号の中心周波数fは上記の式(A)に基づいて簡易的に計算可能であるが、欠陥に対応する探傷信号の周波数帯域は、中心周波数fのみではなく、幅広い帯域を有する。したがって、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、中心周波数fよりも小さな値に設定する必要がある。
【0010】
そして、本発明者らは、探傷信号が入力されるハイパスフィルタとして、カットオフ周波数可変型のハイパスフィルタを用い、このハイパスフィルタのカットオフ周波数F[Hz]を、上記の中心周波数fに、0<K<1の所定の係数Kを乗算した値であるK・fに設定すれば、造管速度Vが変化したとしても、ハイパスフィルタを通過した欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となり、安定した欠陥検出能が得られることを見出した。すなわち、ハイパスフィルタのカットオフ周波数F[Hz]を以下の式(B)に基づいて設定すればよいことを見出した。
F=K・f ・・・(B)
なお、上記の式(A)及び式(B)から、以下の式(1)が成立する。
F=K・V/L ・・・(1)
【0011】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき、完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、第1の手段として、造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、前記カットオフ周波数設定手段は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0より大きく1より小さい所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定し、前記係数Kの値は、性能評価装置を用いて予め決定されており、前記性能評価装置は、人工欠陥が設けられた、所定の軸周りに回転可能な回転体と、前記人工欠陥による渦電流の変化を検出可能な、前記検出コイルとコイルデザインが同一である性能評価用検出コイルと、前記回転体の回転速度を制御する回転制御手段と、前記人工欠陥の周速度を検出する周速度検出手段と、を備え、前記検出コイルに代えて前記性能評価用検出コイルが前記探傷器に接続されると共に、前記探傷器の前記カットオフ周波数設定手段に前記周速度検出手段によって検出された前記人工欠陥の周速度が入力される状態で、前記回転制御手段が、前記人工欠陥の周速度の変化パターンが前記電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、前記回転体の回転速度を制御した場合に、前記ハイパスフィルタを通過した前記人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、前記係数Kの値が決定されている、ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷装置を提供する。
F=K・V/L ・・・(1)
【0012】
本発明に係る第1の手段において、「検出コイルの長さ」とは、差動型の検出コイルを構成する一対の検出コイル要素の各長さと、一対の検出コイル要素の間隙の長さと、を加算した寸法を意味する。検出コイルを構成する検出コイル要素の長さは、渦電流の検出対象である電縫鋼管の送り方向についての検出コイル要素の寸法を意味する。
「コイルデザイン」とは、差動型の検出コイルを構成する一対の検出コイル要素の各長さと、一対の検出コイル要素の間隙の長さと、を意味する。
「検出コイルとコイルデザインが同一である性能評価用検出コイル」とは、性能評価用検出コイルを構成する一対の検出コイル要素の各長さ(後述の図3(b)に示すL1’、L2’に相当)及び間隙の長さ(後述の図3(b)に示すL3’に相当)が、渦流探傷装置が備える検出コイルを構成する一対の検出コイル要素の各長さ(後述の図2に示すL1、L2に相当)及び間隙の長さ(後述の図2に示すL3に相当)と、それぞれ同一であることを意味する。性能評価用検出コイルを構成する検出コイル要素の長さは、渦電流の検出対象である回転体の送り方向(回転方向)についての検出コイル要素の寸法を意味する。
「速度の変化パターン」とは、加速レート、最大速度、最大速度の維持時間、減速レート等で表される、速度(人工欠陥の周速度、造管速度)の変化の推移を意味する。
【0013】
本発明に係る第1の手段の渦流探傷装置は、探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、検出コイルに接続され、探傷信号が入力される探傷器と、を備える。探傷器は、探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、電縫鋼管の造管速度が入力され、造管速度に応じたハイパスフィルタのカットオフ周波数F[Hz]を式(1)に基づいて設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備する。そして、式(1)の係数Kの値が、性能評価装置を用いて予め決定されている。渦流探傷装置は、造管工程を実行する際に造管ラインに配置される必要があるが、性能評価装置は、造管工程を実行する際には造管ラインから外れたオフラインに配置しておけばよい。
性能評価装置は、人工欠陥が設けられた回転体と、人工欠陥による渦電流の変化を検出可能な性能評価用検出コイルと、回転体の回転速度を制御する回転制御手段と、人工欠陥の周速度を検出する周速度検出手段とを備える。性能評価検出コイルは、検出コイル(渦流探傷装置が備える差動型の検出コイル)とコイルデザインが同一である。また、回転制御手段は、人工欠陥の周速度の変化パターンが電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、回転体の回転速度を制御する。したがって、性能評価用検出コイルから出力される探傷信号は、造管工程において渦流探傷装置の検出コイルから出力される探傷信号を模擬したものとなる。また、周速度検出手段で検出される人工欠陥の周速度は、造管工程において渦流探傷装置の探傷器が具備するカットオフ周波数設定手段に入力される電縫鋼管の造管速度を模擬したものとなる。
【0014】
そして、本発明に係る第1の手段では、検出コイルに代えて性能評価用検出コイルが渦流探傷装置が備える探傷器に接続されると共に、探傷器が具備するカットオフ周波数設定手段に周速度検出手段によって検出された人工欠陥の周速度が入力される状態で、回転制御手段が、人工欠陥の周速度の変化パターンが電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、回転体の回転速度を制御した場合に、ハイパスフィルタを通過した人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、係数Kの値が決定されている。換言すれば、渦流探傷装置の検出コイルから出力される探傷信号を模擬したもの(性能評価用検出コイルから出力される探傷信号)が探傷器に入力され、電縫鋼管の造管速度を模擬したもの(周速度検出手段で検出される人工欠陥の周速度)がカットオフ周波数設定手段に入力される状態で、ハイパスフィルタを通過した人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、係数Kの値が決定されている。
このため、カットオフ周波数設定手段が、上記のようにして決定された値の係数Kを用いて、式(1)に基づきカットオフ周波数Fを設定すれば、造管速度が変化する実際の造管工程において電縫鋼管を渦流探傷する場合にも、ハイパスフィルタを通過した実際の欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となり、安定した欠陥検出能が得られることが期待できる。
【0015】
また、本発明者らは、上記の性能評価装置を用いて、コイルデザインが互いに異なる複数の性能評価用検出コイルと、変化パターンが互いに異なる複数の人工欠陥の周速度と、互いに異なる複数の係数Kの値とについて、ハイパスフィルタを通過した人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動を評価した。具体的には、電縫鋼管の造管工程において通常用いられる検出コイルのコイルデザインの範囲内で、コイルデザインが互いに異なる複数の性能評価用検出コイルを用い、電縫鋼管の造管工程において通常設定される造管速度の変化パターンの範囲内で、変化パターンが互いに異なる複数の人工欠陥の周速度を用い、更に、互いに異なる複数の係数Kの値を用いた場合に、ハイパスフィルタを通過した人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動を評価した。その結果、係数Kの値を0.1≦K≦0.4に設定すれば、性能評価用検出コイルのコイルデザインや人工欠陥の周速度に関わらず(換言すれば、渦流探傷装置が備える検出コイルのコイルデザインや、電縫鋼管の造管速度に関わらず)、探傷信号の大きさの変動を十分に小さくできることを知見した。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、第2の手段として、造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷装置であって、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、前記カットオフ周波数設定手段は、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0.1以上0.4以下の所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定する、ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷装置を提供する。
F=K・V/L ・・・(1)
【0016】
本発明に係る第2の手段によれば、造管速度が変化する実際の造管工程において電縫鋼管を渦流探傷する場合に、ハイパスフィルタを通過した実際の欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となり、安定した欠陥検出能が得られることが期待できる。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明は、造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、渦流探傷装置を用いて、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷方法であって、前記渦流探傷装置は、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、前記カットオフ周波数設定手段によって、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0より大きく1より小さい所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定するカットオフ周波数設定工程と、人工欠陥が設けられた、所定の軸周りに回転可能な回転体と、前記人工欠陥による渦電流の変化を検出可能な、前記検出コイルとコイルデザインが同一である差動型の性能評価用検出コイルと、前記回転体の回転速度を制御する回転制御手段と、前記人工欠陥の周速度を検出する周速度検出手段と、を備える性能評価装置を用いて、前記係数Kの値を予め決定する係数決定工程と、を有し、前記係数決定工程では、前記検出コイルに代えて前記性能評価用検出コイルを前記探傷器に接続すると共に、前記探傷器の前記カットオフ周波数設定手段に前記周速度検出手段によって検出された前記人工欠陥の周速度を入力する状態で、前記回転制御手段によって、前記人工欠陥の周速度の変化パターンが前記電縫鋼管の造管速度の変化パターンと合致するように、前記回転体の回転速度を制御した場合に、前記ハイパスフィルタを通過した前記人工欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、前記係数Kの値を決定する、ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷方法としても提供される。
F=K・V/L ・・・(1)
【0018】
また、前記課題を解決するため、本発明は、造管速度が変化する電縫鋼管の造管工程において、渦流探傷装置を用いて、前記電縫鋼管を渦流探傷する渦流探傷方法であって、前記渦流探傷装置は、前記電縫鋼管に誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号を出力する差動型の検出コイルと、前記検出コイルに接続され、前記探傷信号が入力される探傷器と、を備え、前記探傷器は、前記探傷信号が入力されるカットオフ周波数可変型のハイパスフィルタと、前記電縫鋼管の造管速度が入力され、前記造管速度に応じた前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、を具備し、前記カットオフ周波数設定手段によって、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、前記電縫鋼管の造管速度をV[mm/sec]、前記検出コイルの長さをL[mm]、0.1以上0.4以下の所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、前記カットオフ周波数Fを設定するカットオフ周波数設定工程を有する、ことを特徴とする電縫鋼管の渦流探傷方法としても提供される。
F=K・V/L ・・・(1)
【0019】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、前記何れかの渦流探傷方法によって渦流探傷された電縫鋼管としても提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電縫鋼管の造管工程において、造管速度が一定ではなく変化する場合であっても、安定した欠陥検出能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】造管速度が変化する例を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態で用いる性能評価装置200の概略構成を模式的に示す図である。
図4図3に示す性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動に対する係数Kの値の影響を試験した結果の一例を示す。
図5図3に示す性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動に対するコイルデザインの影響を試験した結果の一例を示す。
図6図2に示すカットオフ周波数設定手段26が異なる比較例の渦流探傷装置を用いて電縫鋼管Pを渦流探傷する場合を想定して、図3に示す性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動を評価した試験の結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る電縫鋼管の渦流探傷装置について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置100の概略構成を模式的に示す図である。図2において、電縫鋼管P及び検出コイル1は側面視断面で示している。
本実施形態に係る渦流探傷装置100は、管状に成形された板材の端部同士を突き合わせて溶接することで電縫鋼管Pを製造する造管工程において、電縫鋼管Pを渦流探傷する装置である。渦流探傷装置100は、例えば、造管工程を実行する造管ラインに設置された溶接装置(図示せず)の出側に配置(固定設置)される。図1を参照して前述したように、電縫鋼管Pの造管速度(図2に太線矢印で示す溶接直後の電縫鋼管Pの長手方向への送り速度に相当)は、渦流探傷装置100によって渦流探傷する際に、一定ではなく、変化するのが一般的である。
【0023】
図2に示すように、渦流探傷装置100は、内部に電縫鋼管Pが挿入される貫通型の検出コイル1と、検出コイル1に接続された探傷器2と、を備える。図2に示す検出コイル1は、励磁コイルとしても機能する自己誘導型のコイルであるが、これに限るものではなく、励磁コイルが検出コイル1とは別に設けられた相互誘導型のコイルを採用することも可能である。また、検出コイル1は、一対の検出コイル要素1a及び検出コイル要素1bから構成され、探傷信号として各検出コイル要素1a、1bの差動信号が出力される、差動型(自己比較方式)のコイルである。すなわち、本実施形態の検出コイル1は、自己誘導型自己比較方式のコイルである。
【0024】
探傷器2の基本的な構成は、渦流探傷に通常用いられる公知の探傷器と同様の構成である。ただし、本実施形態の探傷器2は、カットオフ周波数設定手段26による周波数フィルタ25のカットオフ周波数の設定の内容に特徴を有する点で、公知の探傷器と異なる。
具体的には、探傷器2は、励磁回路21と、受信回路22と、同期検波回路23と、増幅器24と、周波数フィルタ25と、カットオフ周波数設定手段26と、判定部27と、を具備する。
励磁回路21は、励磁コイルとしても機能する検出コイル1に交流の励磁電流を供給する。これにより、電縫鋼管Pに交流磁界が作用し、電縫鋼管Pに渦電流が誘起される。
検出コイル1は、電縫鋼管Pに誘起された渦電流を検出することで得られる探傷信号(差動信号)を受信回路22に出力する。受信回路22は、受信した探傷信号をその後の処理に必要な大きさに調整し、同期検波回路23に出力する。
同期検波回路23は、励磁回路21から出力される参照信号(検出コイル1に供給する励磁電流と同一の周波数を有する参照信号)に基づき、受信回路22から出力された探傷信号を同期検波し、同期検波後の探傷信号を増幅器24に出力する。同期検波回路23は、位相調整機能を有し、欠陥に対応する探傷信号を所定の位相に調整している。
増幅器24には、探傷感度(探傷信号の増幅度)が設定されている。増幅器24は、同期検波回路23から出力された探傷信号を、設定された探傷感度に応じて増幅し、周波数フィルタ25に出力する。
周波数フィルタ25は、増幅器24から出力された探傷信号の不要な周波数成分を除去し、特定の周波数成分のみを抽出して、判定部27に出力する。本実施形態の周波数フィルタ25は、ハイパスフィルタ及びローパスフィルタから構成されており、何れのフィルタもカットオフ周波数可変型のフィルタである。増幅器24から周波数フィルタ25に出力された探傷信号は、ハイパスフィルタを通過した後、ローパスフィルタを通過して、周波数フィルタ25から出力される。
【0025】
カットオフ周波数設定手段26には、外部から電縫鋼管Pの造管速度が入力される。入力される造管速度は、パルス信号(例えば、1パルス/mm)の形態であってもよいし、速度に応じた電圧値を有する電圧信号の形態であってもよい。造管速度は、例えば、電縫鋼管Pに接触して回転するタッチローラを用いて計測される。具体的には、タッチローラの回転軸に、1回転当たりに所定数のパルス信号を出力するロータリーエンコーダが取り付けられる。例えば、周長1000mm(外径318.5mm)のタッチローラを用いて、この回転軸に、1000パルス/回転を出力するロータリーエンコーダを取り付ければ、電縫鋼管Pの長手方向への移動距離1mm毎に1パルスが発生するパルス信号が得られることになる。なお、このようなタッチローラを用いて計測される造管速度は、溶接装置の出力制御や、電縫鋼管Pを製品長さに切断する短管切断長さ制御に用いられることが公知であるため、同じ造管速度をカットオフ周波数設定手段26にも入力して用いればよい。造管速度を速度に応じた電圧信号の形態でカットオフ周波数設定手段26に入力する必要がある場合には、ロータリーエンコーダの出力をF/V変換回路に入力し、F/V変換回路の出力をカットオフ周波数設定手段26に入力すればよい。
そして、カットオフ周波数設定手段26は、入力された造管速度に応じたカットオフ周波数を周波数フィルタ25に設定する。具体的には、カットオフ周波数設定手段26は、造管速度に応じた適切なカットオフ周波数を計算し、計算したカットオフ周波数を指令値として周波数フィルタ25に送信する。これにより、周波数フィルタ25のカットオフ周波数は、指令値と同じ値に変更される。カットオフ周波数設定手段26によるカットオフ周波数の設定の具体的な内容については後述する。
判定部27には、欠陥検出しきい値が設定されている。判定部27は、周波数フィルタ25から出力された探傷信号をA/D変換した後、A/D変換後の探傷信号と欠陥検出しきい値とを比較し、欠陥検出しきい値を超える探傷信号を欠陥に対応する探傷信号として検出する。
【0026】
以下、カットオフ周波数設定手段26によるカットオフ周波数の設定の具体的な内容について説明する。
カットオフ周波数設定手段26は、周波数フィルタ25を構成するハイパスフィルタのカットオフ周波数をF[Hz]、電縫鋼管Pの造管速度をV[mm/sec]、検出コイル1の長さをL[mm]、0より大きく1より小さい所定の係数をKとしたときに、以下の式(1)に基づいて、ハイパスフィルタのカットオフ周波数Fを設定する。
F=K・V/L ・・・(1)
換言すれば、カットオフ周波数設定手段26は、以下の式(A)に基づいて、欠陥に対応する探傷信号の中心周波数f[Hz]を簡易的に計算し、以下の式(B)のように、この中心周波数fに0<K<1の所定の係数Kを乗算した値をカットオフ周波数Fとして設定する。
=V/L ・・・(A)
F=K・f ・・・(B)
なお、図2に示すように、検出コイル1の長さLは、検出コイル1を構成する一対の検出コイル要素1a、1bの各長さをL1、L2とし、一対の検出コイル要素1a、1bの間隙の長さをL3とした場合に、L=L1+L2+L3で表される寸法である。
【0027】
本実施形態において、ハイパスフィルタのカットオフ周波数Fを決定するための係数Kの値は、性能評価装置を用いて予め決定され、カットオフ周波数設定手段26に記憶されている。
なお、周波数フィルタ25を構成するローパスフィルタのカットオフ周波数Fも上記の式(1)に基づいて設定されるが、係数Kの値がハイパスフィルタの場合と異なる。例えば、ローパスフィルタのカットオフ周波数Fを決定するためのKの値は、1.5≦K≦2.0に設定される。
【0028】
図3は、本実施形態で用いる性能評価装置200の概略構成を模式的に示す図である。図3(a)は、渦流探傷装置100の探傷器2に接続された状態の性能評価装置200の全体構成を示す斜視図である。図3(b)は、性能評価装置200が備える性能評価用検出コイル33の構成を示す側面視断面図である。性能評価装置200は、移動可能な構成となっている。造管工程を実行する際には、性能評価装置200は、渦流探傷装置100が配置されている造管ラインから外れたオフラインに配置しておけばよい。そして、渦流探傷装置100の性能を評価する(係数Kの値を決定する)際に、性能評価装置200を造管ラインに移動させて、具体的には後述のようにして渦流探傷装置100と接続し、係数Kの値を決定する。
図3(a)に示すように、性能評価装置200は、人工欠陥(例えば、回転体31の厚み方向に貫通するドリルホール)ADが設けられた、軸部材32周りに回転可能な回転体31を備える。具体的には、回転体31は軸部材32に固定されており、軸部材32の一端(図3(a)に示す例では上端)に回転モータ36が取り付けられている。回転モータ36によって軸部材32が回転することで、軸部材32に固定された回転体31も軸部材32と一体的に回転することになる。
なお、図3(a)に示す回転体31は円盤状の形状を有するが、これに限るものではなく、厚みのより大きな円柱状や円筒状など、所定の軸周りに回転可能である限り、種々の形状を有する回転体31を用いることができる。
【0029】
また、性能評価装置200は、人工欠陥ADによる渦電流の変化を検出可能な、図2に示す検出コイル1とコイルデザインが同一である性能評価用検出コイル33を備える。具体的には、本実施形態の性能評価用検出コイル33は、人工欠陥ADによる渦電流の変化を検出できるように、回転体31が回転して人工欠陥ADが移動したときに、人工欠陥ADの直上に位置するように配置された上置コイルである。
図3に示す性能評価用検出コイル33は、検出コイル1と同様に、励磁コイルとしても機能する自己誘導型のコイルであるが、これに限るものではなく、励磁コイルが性能評価用検出コイル33とは別に設けられた相互誘導型のコイルを採用することも可能である。また、性能評価用検出コイル33は、一対の検出コイル要素33a及び検出コイル要素33bから構成され、探傷信号として各検出コイル要素33a、33bの差動信号が出力される、差動型(自己比較方式)のコイルである。すなわち、本実施形態の性能評価用検出コイル33は、検出コイル1と同じ自己誘導型自己比較方式のコイルである。なお、性能評価装置200と、渦流探傷装置100の探傷器2との接続を容易にするためには、渦流探傷装置100の検出コイル1が自己誘導型である場合には、性能評価装置200の性能評価用検出コイル33も自己誘導型とし、検出コイル1が相互誘導型である場合には、性能評価用検出コイル33も相互誘導型とすることが好ましい。
前述のように、性能評価用検出コイル33は、図2に示す検出コイル1とコイルデザインが同一である。すなわち、図3(b)に示すように、性能評価用検出コイル33を構成する一対の検出コイル要素33a、33bの各長さL1’、L2’及び間隙の長さL3’が、渦流探傷装置100が備える検出コイル1を構成する一対の検出コイル要素1a、1bの各長さL1、L2及び間隙の長さL3と、それぞれ同一である。したがって、性能評価用検出コイル33の長さL’(L’=L1’+L2’+L3’)も検出コイル1の長さLと同一である。
【0030】
さらに、性能評価装置200は、回転体31の回転速度を制御する回転制御手段34と、人工欠陥ADの周速度を検出する周速度検出手段35と、を備える。
回転制御手段34は、回転速度の変化パターンを示す制御信号を回転モータ36に送信し、回転モータ36は、送信された制御信号が示す変化パターンに従って変化する回転速度で回転する。これにより、回転モータ36が取り付けられた軸部材32、ひいては回転体31及び人工欠陥ADも、回転制御手段34から送信された制御信号が示す変化パターンに従って変化する回転速度で回転することになる。
周速度検出手段35は、軸部材32の他端(図3(a)に示す例では下端)に取り付けられ、例えば、1回転当たりに所定数のパルス信号を出力するロータリーエンコーダから構成される。例えば、回転体31の人工欠陥ADが設けられている部位の周長(人工欠陥ADが1回転する間に移動する長さ)を100mmとし、ロータリーエンコーダの出力を100パルス/回転とすれば、周速度検出手段35は、人工欠陥ADの周速度として、1パルス/mmのパルス信号を出力することになる。なお、渦流探傷装置100のカットオフ周波数設定手段26に、速度に応じた電圧値を有する電圧信号が入力される場合には、周速度検出手段35を、例えば、ロータリーエンコーダとF/V変換回路とから構成し、ロータリーエンコーダの出力を電圧信号に変換して出力するようにすればよい。
【0031】
以上の構成を有する性能評価装置200を用いて係数K(ハイパスフィルタのカットオフ周波数Fを決定するための係数K)の値を決定する際には、性能評価装置200を造管ラインに移動させて、図3(a)に示すように、渦流探傷装置100の検出コイル1に代えて性能評価用検出コイル33を探傷器2に接続する。具体的には、渦流探傷装置100の検出コイル1と、検出コイル1と探傷器2とを接続する検出コイル用の信号ケーブルとを探傷器2から取り外す。そして、図3(a)では図示を省略しているが、性能評価用検出コイル33を性能評価装置200が備える性能評価用検出コイル用の信号ケーブルを介して、探傷器2の励磁回路21及び受信回路22に接続する。また、渦流探傷装置100の造管速度が入力される造管速度用の信号ケーブルを探傷器2から取り外し、図3(a)に示すように、探傷器2のカットオフ周波数設定手段26(図3(a)では図示省略)に、性能評価装置200が備える周速度用の信号ケーブルを介して、周速度検出手段35によって検出された人工欠陥ADの周速度が入力される状態とする。
一方、回転制御手段34には、人工欠陥ADの周速度の変化パターンが電縫鋼管Pの造管速度の変化パターンと合致するように決められた、回転速度の変化パターンが予め記憶されている。そして、上記の接続状態で、回転制御手段34が、人工欠陥ADの周速度の変化パターンが電縫鋼管Pの造管速度の変化パターンと合致するように(予め記憶された回転速度の変化パターンを示す制御信号によって)、回転体31の回転速度を制御する。この場合に、探傷器2が具備する周波数フィルタ25を構成するハイパスフィルタを通過した人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動が所定の範囲内となるように、係数Kの値を決定する。
【0032】
図4は、性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動に対する係数K(ハイパスフィルタのカットオフ周波数Fを決定するための係数K)の値の影響を試験(試験1)した結果の一例を示す。
試験1においては、回転制御手段34によって、人工欠陥ADの周速度の最大速度が60m/minで、停止した状態(周速度=0m/min)から3.5secの加速レートで最大速度に到達し、最大速度を7sec維持し、最大速度から1.0secの減速レートで停止した状態に到達する周速度の変化パターンとなるように、回転体31の回転速度を制御した。この状態で、カットオフ周波数設定手段26に設定するKの値を0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0にそれぞれ変更し、各Kの値のときの人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさ(周波数フィルタ25を構成するハイパスフィルタを通過した探傷信号の大きさ)を、それぞれ複数回に亘って評価した。性能評価用検出コイル33としては、L1’=L2’=L3’=2mmの上置コイルを用いた。人工欠陥ADは、外径1.5mmのドリルホールとした。
図4は、試験1のうち、加速時における人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動に対する係数Kの値の影響を試験した結果の一例である。図4の横軸は係数Kであり、縦軸は探傷信号の大きさの変動の3σ(σは標準偏差)を探傷信号の大きさの平均値aveで除算した値である。
図4に示すように、0.1≦K≦0.4であれば、3σ/aveの値は10%以下であり、係数Kの値を0.1≦K≦0.4に設定すれば、人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動が小さく、安定した欠陥検出能が得られるといえる。したがって、実際の造管工程において渦流探傷装置100を用いて電縫鋼管Pを渦流探傷する場合にも、ハイパスフィルタを通過した実際の欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が小さくなり、安定した欠陥検出能が得られることが期待できる。
【0033】
図5は、性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動に対するコイルデザインの影響を試験(試験2)した結果の一例を示す。図5(a)は試験2で用いたコイルデザイン等の試験条件及び結果を示す表であり、図5(b)は試験2の結果である。図5(a)に示す「コイルデザイン」の欄の「〇-□-△」の表記は、性能評価用検出コイル33のL1’=〇mm、L2’=△mm、L3’=□mmであることを意味する。例えば、「2-1-2」は、性能評価用検出コイル33のL1’=L2’=2mmで、L3’=1mmであることを意味する。図5(b)の横軸は人工欠陥ADの周速度の最大速度であり、縦軸は、図4と同様に、3σ/aveである。
試験2においては、回転制御手段34によって、人工欠陥ADの周速度が、停止した状態(周速度=0m/min)から4.0secの加速レートで図5(a)に示す各最大速度に到達し、最大速度を5sec維持し、各最大速度から4.0secの減速レートで停止した状態に到達する周速度の変化パターンとなるように、回転体31の回転速度を制御した。この状態で、カットオフ周波数設定手段26に設定する係数K(ハイパスフィルタのカットオフ周波数Fを決定するための係数K)の値を図5(a)に示す0.3又は0.4とし、人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさ(周波数フィルタ25を構成するハイパスフィルタを通過した探傷信号の大きさ)を、それぞれ複数回に亘って評価した。人工欠陥ADは、外径1.5mmのドリルホールとした。
図5に示すように、K=0.3又は0.4の場合、何れのコイルデザインについても、3σ/aveの値は5%以下であり、人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動が小さく、安定した欠陥検出能が得られるといえる。したがって、実際の造管工程において渦流探傷装置100を用いて電縫鋼管Pを渦流探傷する場合にも、何れのコイルデザインの検出コイル1を用いたとしても、ハイパスフィルタを通過した実際の欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が小さくなり、安定した欠陥検出能が得られることが期待できる。
【0034】
図6は、カットオフ周波数設定手段26が異なる比較例の渦流探傷装置を用いて電縫鋼管Pを渦流探傷する場合を想定して、図3に示す性能評価装置200を用いて人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動を評価した試験(試験3)の結果の一例を示す。図6の横軸は経過時間であり、縦軸は人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさである。
試験3においては、回転制御手段34によって、人工欠陥ADの周速度の最大速度が60m/minで、停止した状態(周速度=0m/min)から3.5secの加速レートで最大速度に到達し、最大速度を7sec維持し、最大速度から3.5secの減速レートで停止した状態に到達する周速度の変化パターンとなるように、回転体31の回転速度を制御した。
試験3のカットオフ周波数設定手段26は、試験1、2のカットオフ周波数設定手段26と異なり、カットオフ周波数を決定する際に係数Kを用いない。試験3のカットオフ周波数設定手段26は、人工欠陥ADの周速度が最大値であるときに、人工欠陥ADの欠陥検出能が最大となるハイパスフィルタ(周波数フィルタ25を構成するハイパスフィルタ)のカットオフ周波数が予め調査され、その調査されたカットオフ周波数が基準として予め記憶されている。そして、試験3のカットオフ周波数設定手段26は、入力される人工欠陥ADの周速度に応じて、記憶されている基準のカットオフ周波数をリニアに変更する構成である。例えば、人工欠陥ADの周速度の最大値がV’であるときに、人工欠陥ADの欠陥検出能が最大となるハイパスフィルタのカットオフ周波数がF’であった(したがって、基準のカットオフ周波数がF’として記憶されている)とすると、カットオフ周波数設定手段26に入力される人工欠陥ADの周速度が0.5V’に低下すると、カットオフ周波数も0.5F’に低下させることになる。
図6に示すように、比較例の渦流探傷装置を用いる場合には、人工欠陥ADに対応する探傷信号の大きさの変動が大きく、試験1、2と同様に3σ/aveで評価すると65.4%となった。したがって、実際の造管工程において比較例の渦流探傷装置を用いて電縫鋼管Pを渦流探傷する場合にも、ハイパスフィルタを通過した実際の欠陥に対応する探傷信号の大きさの変動が大きくなり、安定した欠陥検出能が得られないと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1・・・検出コイル
1a、1b・・・検出コイル要素
2・・・探傷器
25・・・周波数フィルタ
26・・・カットオフ周波数設定手段
100・・・渦流探傷装置
200・・・性能評価装置
P・・・電縫鋼管
図1
図2
図3
図4
図5
図6