(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000925
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】パラメータ取得方法及びパラメータ取得プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20231226BHJP
G01N 3/20 20060101ALI20231226BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N3/20
B21D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099923
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(71)【出願人】
【識別番号】522249291
【氏名又は名称】有限会社石川鉄工所
(71)【出願人】
【識別番号】522247725
【氏名又は名称】株式会社鈴木工業
(71)【出願人】
【識別番号】522247736
【氏名又は名称】有限会社永井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118315
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 博道
(72)【発明者】
【氏名】荻野 直彦
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】小谷 雄二
(72)【発明者】
【氏名】林 和
(72)【発明者】
【氏名】鏑木 哲志
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏章
(72)【発明者】
【氏名】石川 一仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
(72)【発明者】
【氏名】永井 慎也
【テーマコード(参考)】
2G061
4E137
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA02
2G061AA07
2G061AB01
2G061BA07
2G061BA18
2G061CB01
2G061DA11
2G061DA12
4E137AA21
4E137BB01
4E137CB01
4E137CB03
(57)【要約】
【課題】弾試験片である弾塑性材料に対する引張圧縮試験を行うことなく、試験片の引張試験と曲げ試験とによる試験結果を利用することにより、YUパラメータを簡易に取得する。
【解決手段】シミュレーションシステム10は、物性値データ及び試験結果データと吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加してシミュレーションすることにより、試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成する。シミュレーションシステム10は、試験結果データと解析結果データとの間の差分を計算し、当該差分が小さくなるように、吉田上森モデルにおけるYUパラメータを繰り返し調整する。シミュレーションシステム10は、差分が閾値以下になるまで、YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的なYUパラメータを得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に対する単純引張試験により得られる前記試験片の物性値データと、前記試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付け、
前記物性値データ及び前記試験結果データと、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、前記曲げ試験及び前記与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加するシミュレーションであるプレス成形シミュレーションを実行することにより、前記試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成し、
前記試験結果データと前記解析結果データとの間の差分を計算し、
前記差分が小さくなるように、前記YUパラメータを繰り返し調整し、
前記差分が閾値以下になるまで、前記YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的な前記YUパラメータを得る、
処理をコンピュータが実行するパラメータ取得方法。
【請求項2】
前記試験結果データと前記解析結果データとの間の差分は、スプリングバック量の差分及びスプリングバックした後の曲げ角度の差分の少なくとも一方である、
請求項1に記載のパラメータ取得方法。
【請求項3】
前記試験結果データを取得する際の前記曲げ試験は、前記試験片が曲げられた際の曲げ終点が円の接線上に位置するように実施され、
前記解析結果データを取得する際の前記曲げ試験に応じた加工履歴は、前記試験片データが曲げられた際の曲げ終点が円の接線上に位置するように実施されたものである、
請求項1又は請求項2に記載のパラメータ取得方法。
【請求項4】
試験片に対する単純引張試験により得られる前記試験片の物性値データと、前記試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付け、
前記物性値データ及び前記試験結果データと、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、前記曲げ試験及び前記与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加するシミュレーションであるプレス成形シミュレーションを実行することにより、前記試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成し、
前記試験結果データと前記解析結果データとの間の差分を計算し、
前記差分が小さくなるように、前記YUパラメータを繰り返し調整し、
前記差分が閾値以下になるまで、前記YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的な前記YUパラメータを得る、
処理をコンピュータに実行させるためのパラメータ取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ取得方法及びパラメータ取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス成形時の弾塑性材料のスプリングバック量を予測する技術が知られている(例えば、特許文献1,2)。特許文献1、2の技術は、引張圧縮試験を行った際の除荷時の応力―歪み関係の近似方法及び応力ひずみ曲線を非線形で数式化するものである。特に、特許文献2では、背応力の項を考慮することにより応力ひずみ関係の推定精度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5866892号公報
【特許文献2】特許第5582211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1,2に開示されている吉田‐上森モデルにおいて計算されるYUパラメータを取得するためには、弾塑性材料に対して引張圧縮試験を行う必要がある。しかし、弾塑性材料に対して引張圧縮試験を実施する場合、圧縮過程において弾塑性材料に座屈等が発生することが多く、その成功率は低い。
【0005】
このため、従来技術では、弾塑性材料に対して引張圧縮試験を実施する必要があるため、吉田‐上森モデルにおいて計算されるYUパラメータを簡易に取得することができない、という課題があった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、試験片である弾塑性材料に対する引張圧縮試験を行うことなく、試験片の引張試験と曲げ試験とによる試験結果を利用することにより、YUパラメータを簡易に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様は、試験片に対する単純引張試験により得られる前記試験片の物性値データと、前記試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付け、前記物性値データ及び前記試験結果データと、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、前記曲げ試験及び前記与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加するシミュレーションであるプレス成形シミュレーションを実行することにより、前記試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成し、前記試験結果データと前記解析結果データとの間の差分を計算し、前記差分が小さくなるように、前記YUパラメータを繰り返し調整し、前記差分が閾値以下になるまで、前記YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的な前記YUパラメータを得る、処理をコンピュータが実行するパラメータ取得方法である。
【0008】
本発明の第2態様は、試験片に対する単純引張試験により得られる前記試験片の物性値データと、前記試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付け、前記物性値データ及び前記試験結果データと、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、前記曲げ試験及び前記与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加するシミュレーションであるプレス成形シミュレーションを実行することにより、前記試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成し、前記試験結果データと前記解析結果データとの間の差分を計算し、前記差分が小さくなるように、前記YUパラメータを繰り返し調整し、前記差分が閾値以下になるまで、前記YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的な前記YUパラメータを得る、処理をコンピュータに実行させるためのパラメータ取得プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試験片である弾塑性材料に対する引張圧縮試験を行うことなく、試験片の引張試験と曲げ試験とによる試験結果を利用することにより、YUパラメータを簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】引張圧縮実験の引張と圧縮とを説明するための図である。
【
図2】実施形態に係るシミュレーションシステムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態における曲げ試験を説明するための図である。
【
図4】実施形態のパラメータ取得装置のコンピュータの構成例を示す図である。
【
図5】パラメータ取得装置が実行する処理ルーチンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
従来、吉田‐上森モデルにおいて計算されるYUパラメータを取得するためには、試験片に対して引張圧縮実験を行い、バウジンガー効果を再現する必要があった。
【0013】
試験片である弾塑性材料に対して引張圧縮実験を行うことにより、その試験片の応力歪み線図が得られる。応力歪み線図では、試験片の早期再降伏点を経た後、バウジンガー効果による試験片の遷移的軟化及び試験片の永久軟化が現れる。なお、引張圧縮実験の引張と圧縮は、応力歪み線図において
図1に示されるような関係となっている。
【0014】
試験片に対する圧縮実験は論理的には可能である。しかし、現実的には圧縮実験によって試験片が座屈してしまい、その成功率が低いため、実際の製造現場で使用できるものではない。
【0015】
そこで、本実施形態のパラメータ取得方法は、試験片である弾塑性材料の応力‐ひずみ関係を再現するコンピュータシミュレーションを利用することにより、YUパラメータを取得する。対象となるYUパラメータとしては、例えば、遷移軟化領域を表す降伏曲面の移動硬化収束速度C1、遷移軟化領域を表す降伏曲面の移動硬化収束速度C2、及び平均ヤング率漸近値Eav等である。
【0016】
具体的には、本実施形態のパラメータ取得方法は、試験片である弾塑性材料に対して曲げ試験及び与ひずみ引張試験を行うことにより、その試験結果データを得る。次に、本実施形態のパラメータ取得方法は、曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴をコンピュータ上の試験片データへ付加するシミュレーションであるプレス成形シミュレーションを実行する。そして、本実施形態のパラメータ取得方法は、実際の試験により得られた試験結果データと、プレス成形シミュレーションにより得られた解析結果データとの差分が小さくなるように、YUパラメータを逐次調整する。そして、その差分が所定閾値以下となった際のYUパラメータを最終的なYUパラメータとして取得する。これにより、弾塑性材料に対する引張圧縮試験を行うことなく、弾塑性材料に対する引張試験と曲げ試験とによる試験結果を利用することにより、YUパラメータを簡易に取得することができる。以下、具体的に説明する。
【0017】
<シミュレーションシステムの構成>
図2は、実施形態に係るシミュレーションシステム10の構成の一例を示すブロック図である。シミュレーションシステム10は、機能的には、
図3に示されるように、操作部12と、パラメータ取得装置14と、表示部16と、を含んだ構成で表すことができる。
【0018】
操作部12は、ユーザから入力された操作情報を受け付ける。操作部12は、例えばキーボードやマウス等である。具体的には、ユーザは、シミュレーションを実行するための各種情報を操作部12により入力する。
【0019】
表示部16には、パラメータ取得装置14から出力された情報が表示される。表示部16は、例えばディスプレイ等によって実現される。
【0020】
パラメータ取得装置14は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。パラメータ取得装置14は、機能的には、
図1に示されるように、データ記憶部20と、結果記憶部22と、受付部24と、シミュレーション部26と、計算部28とを備えている。
【0021】
データ記憶部20には、後述するシミュレーションを実行するための各種データが記憶される。
【0022】
結果記憶部22には、本実施形態のパラメータ取得方法により取得されたYUパラメータが格納される。
【0023】
受付部24は、ユーザから入力された情報を受け付ける。
【0024】
具体的には、ユーザは、単純引張試験用の機器を用いて弾塑性材料の試験片に対して単純引張試験を行い、その試験結果である試験片の物性値データをパラメータ取得装置14へ入力する。また、ユーザは、試験片に対して与ひずみ引張試験を実施した後に、曲げ試験用の治具を用いて試験片に対して曲げ試験を行い、その試験結果である試験結果データをパラメータ取得装置14へ入力する。なお、引張圧縮試験における圧縮過程は、本実施形態の曲げ試験によってある程度再現される。
【0025】
受付部24は、物性値データと、試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付ける。物性値データは、試験片の一般的な物性値であり、試験片の弾性率、ポアソン比、及び降伏応力等である。また、試験結果データは、試験片のスプリングバック量及び試験片がスプリングバックした後の曲げ角度等である。
【0026】
なお、本実施形態における曲げ試験は、試験片が曲げられた際の曲げ終点が円の接線上に位置するように実施される。
図3に、本実施形態における曲げ試験を説明するための図を示す。
図3のV1に示されるように、板厚tの試験片Tに対して曲げ試験が実施された場合には、曲げ角度θ、曲率半径ρとなる。一方で、V1の後のV2の場面では、試験片Tにスプリングバックが発生し、曲げ角度θ’、スプリングバック後の曲率半径ρ’となる。
【0027】
本実施形態の曲げ試験は、
図3の右側に示されるように、試験片Tが曲げられた際の曲げ終点P1,P2が円Cの接線上に位置するように実施される。このような曲げ試験は、以下の実験式を再現することが可能であるため、後述するシミュレーションによって得られる解析結果が反映されやすいという特徴を有する。なお、引張圧縮試験における圧縮過程が、本実施形態の曲げ試験によってある程度再現される。
【0028】
【0029】
なお、上記式におけるMは曲げモーメントを表し、Iは断面二次モーメントを表し、Eはヤング率を表し、Yは降伏応力を表す。
【0030】
シミュレーション部26は、受付部24により受け付けられた物性値データ及び試験結果データと、設定された吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加してプレス成形シミュレーションを実行することにより、試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成する。なお、プレス成形シミュレーションは、既知の手法を用いて実行することが可能である。これにより、解析結果データとして、コンピュータ上の試験片データに対して仮想的な曲げ試験及び与ひずみ試験を実施した際のスプリングバック量、スプリングバックした後の曲げ角度、及び試験片の形状に関するデータが得られる。
【0031】
なお、解析結果データを取得する際の曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴のプレス成形シミュレーションは、コンピュータ上の試験片データが曲げられた際の曲げ終点が円の接線上に位置するように実施される。
【0032】
計算部28は、受付部24により受け付けた試験結果データと、シミュレーション部26により生成された解析結果データとの間の差分を計算する。そして、計算部28は、差分が所定閾値以下であるか否かを判定する。差分が所定閾値以下である場合には、その際に利用したYUパラメータを最終的なYUパラメータとして結果記憶部22へ格納する。一方、差分が所定閾値より大きい場合には、YUパラメータを変更し、上記シミュレーション部26によるプレス成形シミュレーションが繰り返される。このように、試験結果データと解析結果データとの間の差分が小さくなるように、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータを繰り返し調整し、当該差分が閾値以下になるまで、YUパラメータの繰り返し調整が実行されることにより最終的なYUパラメータが取得される。
【0033】
パラメータ取得装置14は、例えば、
図4に示すようなコンピュータ50によって実現することができる。パラメータ取得装置14を実現するコンピュータ50は、CPU51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ50は、入出力装置等(図示省略)が接続される入出力interface(I/F)54、及び記録媒体59に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータは、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0034】
記憶部53は、Hard Disk Drive(HDD)、Solid State Drive(SSD)、フラッシュメモリ等によって実現できる。記憶媒体としての記憶部53には、コンピュータを機能させるためのプログラムが記憶されている。CPU51は、プログラムを記憶部53から読み出してメモリ52に展開し、プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0035】
<シミュレーションシステムの作用>
【0036】
次に、シミュレーションシステム10の作用を説明する。
【0037】
ユーザが、単純引張試験用の機器を用いて弾塑性材料の試験片に対して単純引張試験を行い、その試験結果である物性値データをパラメータ取得装置14へ入力する。また、ユーザは、与ひずみ引張試験を試験片に対して実施した後に、曲げ試験用の治具を用いて試験片に対して曲げ試験を行い、その試験結果である試験結果データをパラメータ取得装置14へ入力する。そして、パラメータ取得装置14は所定の指示信号を受け付けると、
図5に示される処理ルーチンを実行する。
【0038】
ステップS100において、受付部24は、物性値データと試験結果データとを受け付ける。
【0039】
ステップS102において、シミュレーション部26は、YUパラメータの初期値を設定する。
【0040】
ステップS104において、シミュレーション部26は、ステップS100で受け付けられた物性値データ及び試験結果データと、ステップS102で設定されたYUパラメータの初期値とに基づいて、曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加する既知のプレス成形シミュレーションすることにより、試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成する。
【0041】
ステップS106において、計算部28は、ステップS100で受け付けた試験結果データと、ステップS104で生成された解析結果データとの間の差分を計算する。具体的には、計算部28は、試験結果データに含まれる実際の試験片のスプリングバック量と、解析結果データに含まれる試験片データに含まれるスプリングバック量との差分を計算する。また、計算部28は、試験結果データに含まれる実際の試験片のスプリングバックした後の曲げ角度と、解析結果データに含まれる試験片データのスプリングバックした後の曲げ角度との差分を計算する。また、計算部28は、試験結果データに含まれる実際の試験片の形状を表すその他の値と、解析結果データに含まれる試験片データの形状を表すその他の値との差分を計算する。
【0042】
ステップS108において、計算部28は、ステップS106で計算された差分が所定閾値以下であるか否かを判定する。ステップS106で計算された差分が所定閾値以下である場合には、ステップS110へ進む。一方、ステップS106で計算された差分が所定閾値より大きい場合には、ステップS112においてYUパラメータを調整する。
【0043】
なお、差分が閾値以下であるか否かの判定方法としては様々な方法が考えられる。例えば、スプリングバック量に関する差分、曲げ角度の差分、及び試験片の形状を表すその他の値の差分のそれぞれが、それぞれ毎に予め設定された閾値以下であるか否かを判定するような判定方法が考えられる。または、スプリングバック量に関する差分、曲げ角度の差分、及び試験片の形状を表すその他の値の差分のうちの少なくとも1つが、それぞれ毎に予め設定された閾値以下であるか否かを判定するような判定方法が考えられる。
【0044】
ステップS110において、計算部28は、前回のステップS112で調整されたYUパラメータを最終的なYUパラメータとして結果記憶部22へ格納する。
【0045】
結果記憶部22に格納された最終的なYUパラメータは、ユーザによって利用される。
【0046】
以上説明したように、実施形態のシミュレーションシステム10は、試験片に対する実際の単純引張試験の結果を表す物性値データと、試験片に対する曲げ試験及び与ひずみ引張試験の結果を表す試験結果データとを受け付ける。そして、シミュレーションシステム10は、物性値データ及び試験結果データと吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータとに基づいて、曲げ試験及び与ひずみ引張試験に応じた加工履歴を、コンピュータ上の試験片データへ付加してシミュレーションすることにより、試験片データの変形度合いを表す解析結果データを生成する。シミュレーションシステム10は、試験結果データと解析結果データとの間の差分を計算し、当該差分が小さくなるように、吉田‐上森モデルにおけるYUパラメータを繰り返し調整する。シミュレーションシステム10は、差分が閾値以下になるまで、YUパラメータの繰り返し調整を実行することにより、最終的なYUパラメータを得る。これにより、弾塑性材料に対する引張圧縮試験を行うことなく、弾塑性材料に対する引張試験と曲げ試験とによる試験結果を利用することにより、吉田‐上森モデルにおいて計算されるYUパラメータを簡易に取得することができる。
【0047】
また、YUパラメータの取得に要していた期間を大幅に短縮することが可能となるため、設計時間を短縮させることが可能となると共に、型修正工数の削減が可能となり、製品納期の短縮も図られることとなる。
【0048】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 シミュレーションシステム
12 操作部
14 パラメータ取得装置
16 表示部
20 データ記憶部
22 結果記憶部
24 受付部
26 シミュレーション部
28 計算部
50 コンピュータ