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特開2024-925029,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092502
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20240701BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20240701BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/17
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208478
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】圓井 邦昌
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB92
4H006AC25
4H006BA14
4H006BA30
4H006BA35
4H006BC10
4H006FC56
4H006FE13
4H039CA41
4H039CD40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物のより効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】ヒドロキシアリール化合物と、一般式(3)で表されるフルオレノン化合物を、酸性触媒の存在下に反応させる反応工程において、1モルのヒドロキシアリール化合物に対して、1.1~20モルの一般式(3)で表されるフルオレノン化合物の存在下に反応を行う、一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法。


(Xは1つのヒドロキシ基を有するC10~20の1価の芳香族炭化水素基;Rは各々独立にC1~6のアルキル基等;aは各々独立に0又は1~4の整数)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)と、
【化1】
(式中、Xは1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示す。)
一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)を、
【化2】
(式中、Rは各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
酸性触媒の存在下に反応させる反応工程において、1モルの一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)に対して、1.1~20モルの一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)の存在下に反応を行う、一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)の製造方法。
【化3】
(式中、Xは1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示し、Rは各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
【請求項2】
前記Xが、2-ヒドロキシナフタレン-6-イル基、4-ヒドロキシ-3-フェニルベンゼン-1-イル基及び9-ヒドロキシフェナントレン-3-イル基からなる群から選択されるいずれか1種の基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記aが0である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程において、さらにチオール化合物の存在下に反応を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程における反応温度が、80℃以上150℃以下の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物は、その化学構造に由来して優れた光学的特性を備えており、光学部材を形成するための樹脂材料(光学材料)などとして利用されている。
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物として、例えば、6,6-(9-フルオレニリデン)-ジ(2-ナフトール)(特許文献1)や、9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン(特許文献2)が知られており、1モルの9-フルオレノン化合物と、2モル以上のヒドロキシナフタレンやヒドロキシフェナントレンといったヒドロキシアリール化合物を、酸性触媒の存在下に縮合反応により得る製造方法が知られている。
特許文献2には、9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン化合物の合成について、具体的には、9-フェナントロールを9-フルオレノンに対して、2.2モル倍又は2.0モル倍使用して、減圧下に100℃の条件で反応を行った例が記載されている。
また、特許文献3には、フェノールや2-ナフトールなどのヒドロキシ基を有する芳香族化合物を、フルオレノンに対して1~6モル倍の範囲で使用して、100℃超の温度で反応させて、ヒドロキシ基を有する芳香族化合物とフルオレノンが重縮合して生成する分子量が大きなフルオレン縮合体を含む、フルオレン縮合体組成物を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-099741号公報
【特許文献2】国際公開第2022/038997号
【特許文献3】特開2017-114947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2による9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン化合物の合成方法は、減圧装置を要し、反応の時間は10~14時間と長く、目的化合物の収率が31%と低い。
また、本発明者が9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン化合物の合成反応を、特許文献2の実施例2に記載の反応条件で同様に行ったものの、後述する比較例1の通り、原料の9-フルオレノンの多くが消費されないままで、目的とする化合物(A)の生成は確認できなかった。さらに、反応を促進するために、反応触媒の使用量を増やしたり、反応温度を高めたりして反応を継続したものの、目的化合物の生成を確認することができなかった。
特許文献3に記載の反応は、フルオレン縮合体を多く含むフルオレン縮合体組成物を製造することが目的であるから、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物を効率的に製造する方法ではない。
上記背景から、9-フルオレノン化合物とヒドロキシアリール化合物を反応させることにより得られる9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物を、より効率的に製造する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上述の課題解決のために鋭意検討した結果、従来公知の9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法では、フルオレノン化合物とヒドロキシアリール化合物を反応量論比である1:2に対して、ヒドロキシアリール化合物が多いモル比で反応を行うところ、反応量論比に対してフルオレノン化合物が多いモル比で反応を行うことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)と、
【化1】
(式中、Xは1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示す。)
一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)を、
【化2】
(式中、Rは各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
酸性触媒の存在下に反応させる反応工程において、1モルの一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)に対して、1.1~20モルの一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)の存在下に反応を行う、一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)の製造方法。
【化3】
(式中、Xは1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示し、Rは各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
2.前記Xが、2-ヒドロキシナフタレン-6-イル基、4-ヒドロキシ-3-フェニルベンゼン-1-イル基及び9-ヒドロキシフェナントレン-3-イル基からなる群から選択されるいずれか1種の基である、1.に記載の製造方法。
3.前記aが0である、1.に記載の製造方法。
4.前記反応工程において、さらにチオール化合物の存在下に反応を行う、1.に記載の製造方法。
5.前記反応工程における反応温度が、80℃以上150℃以下の範囲である、1.に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物の製造方法によれば、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物を、反応時間を短縮し、向上した収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)の製造方法>
本発明の一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)の製造方法は、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)と、一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)を、酸性触媒の存在下に反応させる反応工程において、1モルの一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)に対して、1.1~20モルの一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)の存在下に反応を行う。
【化4】
(式中、Xは、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示し、Rは、各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
【化5】
(式中、Xは、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基を示す。)
【化6】
(式中、Rは、各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示し、aは各々独立して0又は1~4の整数を示す。)
【0009】
<一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)>
一般式(1)におけるXは、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基であり、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~16の1価の芳香族炭化水素基であることが好ましく、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~14の1価の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数12又は14の1価の芳香族炭化水素基であることがさらに好ましく、1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数14の1価の芳香族炭化水素基であることが特に好ましい。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、1-ヒドロキシナフタレン-4-イル基、1-ヒドロキシナフタレン-5-イル基、2-ヒドロキシナフタレン-6-イル基、2-ヒドロキシナフタレン-7-イル基が挙げられる。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数12の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、4-ヒドロキシ-3-フェニルベンゼン-1-イル基が挙げられる。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数14の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、9-ヒドロキシフェナントレン-3-イル基、10-ヒドロキシフェナントレン-9-イル基、2-ヒドロキシアントラセン―7-イル基が挙げられる。1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数14の1価の芳香族炭化水素基は、その中でも1つのヒドロキシ基を有するフェナントレニル基であることがより好ましい。そのため、さらにその中でも9-ヒドロキシフェナントレン-3-イル基又は10-ヒドロキシフェナントレン-9-イル基であることが好ましい。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数16の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、1-ヒドロキシ-3-フェニルナフタレン-4-イル基、1-ヒドロキシ-3-フェニルナフタレン-5-イル基、2-ヒドロキシ-1-フェニルナフタレン-6-イル基、2-ヒドロキシ-1-フェニルナフタレン-7-イル基、2-ヒドロキシ-3-フェニルナフタレン-6-イル基、2-ヒドロキシ-3-フェニルナフタレン-7-イル基、4-ヒドロキシ-3-(1-ナフチル)ベンゼン-1-イル基、4-ヒドロキシ-3-(2-ナフチル)ベンゼン-1-イル基が挙げられる。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数18の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニルベンゼン-1-イル基が挙げられる。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数20の1価の芳香族炭化水素基の具体例としては、4-ヒドロキシ-2-フェニルフェナントレン-6-イル基、4-ヒドロキシ-2-フェニルフェナントレン-7-イル基、4-ヒドロキシ-2-フェニルフェナントレン-8-イル基、4-ヒドロキシ-2-フェニルフェナントレン-9-イル基、4-ヒドロキシ-2-フェニルフェナントレン-10-イル基、2-ヒドロキシ-3-フェニルアントラセン-7-イル基が挙げられる。
1つのヒドロキシ基を有する炭素原子数10~20の1価の芳香族炭化水素基の上記具体例からなる群から選択されるいずれか1種の基を選択することもできる。この中でも2-ヒドロキシナフタレン-6-イル基、4-ヒドロキシ-3-フェニルベンゼン-1-イル基及び9-ヒドロキシフェナントレン-3-イル基からなる群より選択されるいずれか1種の基であることが好ましく、4-ヒドロキシ-3-フェニルベンゼン-1-イル基又は9-ヒドロキシ-3-フェナントリル基であることがさらに好ましく、9-ヒドロキシ-3-フェナントリル基であることが特に好ましい。
一般式(1)におけるRは、各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又はハロゲン原子を示すが、この中でも、各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子であることが好ましく、各々独立してフェニル基又は臭素原子であることがより好ましい。
一般式(1)におけるaは、各々独立して0又は1~4の整数を示すが、この中でも、各々独立して0又は1であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
【0010】
一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)として、具体的には、例えば、9,9-ビス(1-ヒドロキシ-4-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-6-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-7-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン、9,9-ビス(10-ヒドロキシ-9-フェナントリル)フルオレンが挙げられ、これらからなる群から選択される1種の化合物が好ましい。この中でも9,9-ビス(2-ヒドロキシ-6-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン又は9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレンがより好ましく、9,9-ビス(2-ヒドロキシ-6-ナフチル)フルオレン又は9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレンがさらに好ましく、9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレンが特に好ましい。
【0011】
<一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)>
一般式(2)におけるXは、一般式(1)におけるXの定義と同じであり、その具体例や好ましい態様も同様である。
一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)として、具体的には、例えば、1-ナフトール、2-ナフトール、2-ヒドロキシ-1-フェニルナフタレン、2-ヒドロキシ-3-フェニルナフタレン、2-フェニルフェノール、2-(1-ナフチル)フェノール、2-(2-ナフチル)フェノール、9-フェナントロール、2-フェニル-4-フェナントロール、2-ヒドロキシアントラセン、2-ヒドロキシ-3-フェニルアントラセンが挙げられ、これらからなる群から選択される1種の化合物を使用することができ、これらが好ましい。この中でも2-ナフトール、2-フェニルフェノール又は9-フェナントロールがより好ましく、2-ナフトール又は9-フェナントロールがさらに好ましく、9-フェナントロールが特に好ましい。
【0012】
<一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)>
一般式(3)におけるR及びaは、一般式(1)におけるR及びaの定義と同じであり、その具体例や好ましい態様も同様である。
一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)として、具体的には、例えば、9-フルオレノン、2,7-ジブロモ-9-フルオレノン、2,7-ジフェニル-9-フルオレノンが挙げられ、これらからなる群から選択される1種の化合物を使用することができ、これらが好ましい。この中でも、9-フルオレノンが特に好ましい。
【0013】
<酸性触媒>
酸性触媒として、具体的には、例えば、硫酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸などのヘテロポリ酸が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができ、これらが好ましい。この中でも、アルカンスルホン酸、芳香族スルホン酸及びヘテロポリ酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸性触媒がより好ましく、ヘテロポリ酸が特に好ましい。ヘテロポリ酸の中でも、リンタングステン酸が好ましい。酸性触媒は、1種を使用しても良いし、2種以上を併用しても良いが、1種を使用することが好ましい。
【0014】
<チオール化合物>
本発明の製造方法における反応工程では、酸性触媒と併用してチオール化合物を助触媒として使用して、その存在下に反応することができ、その存在下に反応することが好ましい。使用するチオール化合物としては、メルカプト基を有する化合物であり、反応選択率などに悪影響を与えなければ特に限定されない。
具体的なチオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸などのメルカプト基を有するカルボン酸類、メチルメルカプタン、1-オクタンチオール(オクチルメルカプタン)、1-ドデカンチオール(ラウリルメルカプタン)などの炭素原子数1~12のアルキルメルカプタン類、メルカプトエタノール、メルカプトブタノールなどのメルカプトアルコール類が挙げられる。この中でも、炭素原子数1~12のアルキルメルカプタン類が好ましく、炭素原子数6~12のアルキルメルカプタン類がより好ましく、炭素原子数8~12のアルキルメルカプタン類がさらに好ましい。また、チオール化合物を使用する場合には、予め該チオール化合物をナトリウム塩とし、水溶液とした状態で使用してもよい。チオール化合物は、1種を使用しても良いし、2種以上を併用しても良いが、1種を使用することが好ましい。
【0015】
<反応条件>
一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)の使用量は、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)1モルに対して、1.1モル以上20モル以下の範囲であり、1.5モル以上15モル以下の範囲が好ましく、2モル以上10モル以下の範囲がより好ましく、2.5モル以上10モル以下の範囲が特に好ましい。
酸性触媒の使用量は特に限定されるものではないが、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)1モルに対して、0.0001~1.0モルの範囲が好ましく、0.001~0.02モルの範囲がより好ましい。
チオール化合物を使用する場合の使用量としては、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)1モルに対して、0.001~1.0モルの範囲が好ましく、0.01~0.1モルの範囲がより好ましい。
反応溶媒は使用しても良く、使用しなくても良いが、使用しない方が好ましい。
反応溶媒を使用する場合は、反応に不活性であれば特に制限はない。使用することができる反応溶媒としては、具体的には、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等のラクトン溶媒、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド等のスルホン溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、2種類以上混合して用いてもよい。
反応溶媒を使用する場合の使用量としては、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)1重量部に対して、0.01重量部以上15重量部以下の範囲であることが好ましく、0.01重量部以上10重量部以下の範囲であることがより好ましく、0.01重量部以上5重量部以下の範囲であることがさらに好ましく、0.01重量部以上2重量部以下の範囲であることが特に好ましい。
反応温度は80℃以上150℃以下の範囲が好ましく、90℃以上150℃以下の範囲がより好ましく、90℃以上130℃以下の範囲がさらに好ましく、90℃以上110℃以下の範囲が特に好ましい。
反応圧力は、常圧下でもよく、反応により生成する水を反応系外に排出して反応を促進するために減圧下でもよい。
反応時間は触媒量、反応温度にもよるが、通常は1~24時間の範囲となり、1~10時間の範囲で完結することが好ましい。
【0016】
反応に際し、原料等の添加方法は特に限定されないが、一般式(2)で表されるヒドロキシアリール化合物(2)と、一般式(3)で表されるフルオレノン化合物(3)が十分に混合された状態で酸性触媒を添加する方法が、反応選択率の観点から好ましい。
【0017】
<後処理操作>
上記反応工程により得られた一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)を含む反応混合液に対して、常法に従い、中和、水洗、晶析、ろ過、蒸留、カラムクロマトグラフィーによる分離などの後処理操作を行って、一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)を単離、精製することができる。さらに純度を高めるため、常法に従い、蒸留や再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよい。反応後、反応終了液の酸性触媒の中和、除去をするための水洗を行った後、晶析操作を行うことが好ましい。
一般式(1)で表される9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン化合物(1)にかかる反応、中和、水洗、晶析、ろ過、蒸留、カラムクロマトグラフィーによる分離、乾燥、梱包、溶融、冷却などの等の各工程は、酸素の影響による酸化、劣化、着色などを抑制するために、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下若しくは空気よりも酸素濃度が低い雰囲気下にて行うことが好ましい。
【実施例0018】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
[分析方法]
1.反応組成、純度分析(液体クロマトグラフィー)
下記分析装置及び条件による液体クロマトグラフィーにより、目的化合物の絶対検量線を作成した。反応液より算出した数値を用いて、下記式(I)で算出される値から目的生成物の収率を算出した。
装置:株式会社島津製作所製 ProminenceUFLC
ポンプ:LC-20AD
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:SPD-20A
カラム:HALO C18(内径3mm、長さ75mm)
オーブン温度:50℃
流量:0.7mL/min.
移動相:(A)0.2体積%酢酸水溶液、(B)アセトニトリル
グラジエント条件:(B)体積%(分析開始からの時間)
50%(0min.)→70%(7min.)→70%(13min.)→100%(20min.)→100%(23min.)
試料注入量:5μL
検出波長:280nm
式(I):「収率%」=[(i)÷(ii)]×100
式(I)中の(i)、(ii)は、下記を意味する。
(i):絶対検量線から算出される目的物収量
(ii):反応に使用した原料の使用量から算出される理論収量
【0019】
<化合物(A)の合成>
比較例1及び2と、実施例1~15において、下記反応式の反応により、目的化合物である9,9-ビス(9-ヒドロキシ-3-フェナントリル)フルオレン(以下、化合物Aと称する場合がある)を合成した。
【化7】
【0020】
(比較例1)
500mLの4つ口フラスコに、9-フェナントロール(53.93g、277.7mmol)、9-フルオレノン(25.00g、138.7mmol)、1-オクタンチオール(1.00g、6.8mmol)、リンタングステン酸(0.47g、0.14mmol)、トルエン(86.09g)、γ-ブチロラクトン(25.48g)を加え、液温95℃~100℃、フラスコ内の圧力(内圧)45~50kPaで7時間撹拌した。
その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の生成を確認することができなかった。
そのため、さらにリンタングステン酸(1.81g、0.53mmol)を加えて液温95℃~100℃、内圧45~50kPaで9時間撹拌したが、化合物(A)の生成を確認することができなかった。
そこで、上記反応液を液温130℃、常圧下で水とトルエンの留出が無くなるまで、3時間加熱撹拌した。しかし、化合物(A)の生成を確認することができなかった。
さらに、液温140℃、常圧下で3時間加熱撹拌した。未反応のフルオレノンが使用した量の87%が反応液中に確認され、複数の副生成物の生成は確認されたものの、化合物(A)の生成を確認することが出来なかった。
【0021】
(実施例1)
100mLの試験管に、9-フェナントロール(1.76g、9.1mmol)、9-フルオレノン(9.74g、54.0mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.31g、0.091mmol)を加え、6時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は5%であった。
【0022】
従来公知の製造方法に従い、比較例1は、9-フルオレノン1モルに対して9-フェナントロールを2.0モル使用し、そして、酸性触媒とチオール化合物の存在下に行ったことに加えて、反応触媒の使用量を増やしたり、反応温度を高めたりして反応を継続したが、原料の9-フルオレノンの多くが消費されないまま反応が進行せず、化合物(A)の生成を確認できなかった。
一方、本発明の製造方法では、9-フルオレノンと9-フェナントロールの反応の量論比である1:2よりも9-フルオレノンが多い、9-フェナントロール1モルに対して9-フルオレノンを5.9モル使用し、そして、酸性触媒の存在下に反応を行うことで、化合物(A)を製造できることが明らかになった。
【0023】
<9-フェナントロールと9-フルオレノンのモル比の影響>
(実施例2)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.17g、6.0mmol)、9-フルオレノン(10.82g、60.1mmol)、1-ドデカンチオール(0.07g、0.34mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.21g、0.060mmol)を加え、4時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は88%であった。
【0024】
(実施例3)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.41g、7.3mmol)、9-フルオレノン(10.38g、57.6mmol)、1-ドデカンチオール(0.07g、0.37mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.31g、0.090mmol)を加え、4時間撹拌した。その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は88%であった。
【0025】
(実施例4)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、9-フルオレノン(9.73g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.12g、0.60mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.25g、0.073mmol)を加え、4時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は84%であった。
【0026】
(実施例5)
100mLの試験管に9-フェナントロール(2.34g、12.0mmol)、9-フルオレノン(8.65g、48.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.12g、0.61mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.41g、0.12mmol)を加え、4時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は74%であった。
【0027】
上記実施例1~5の反応条件と収率を、表1にまとめて示す。なお、表中の「mol比」は、9-フェナントロールの物質量に対する、各成分の物質量の比を示す。
【表1】
【0028】
実施例1と実施例4の結果を対比することにより、チオール化合物の存在下に反応を行うことで、反応時間が短くなり、かつ反応収率が著しく向上することが明らかになった。
また、実施例2~5の結果より、9-フェナントロールに対して9-フルオレノンを使用する量を増やすことで、反応収率が向上する傾向にあることが明らかになった。
【0029】
<酸性触媒とチオール化合物の影響>
(実施例6)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.76g、9.1mmol)、9-フルオレノン(9.74g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.10g、0.50mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.15g、0.045mmol)を加え、4時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は93%であった。
【0030】
(実施例7)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、9-フルオレノン(9.73g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.04g、0.20mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.15g、0.045mmol)を加え、6時間撹拌した。その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は88%であった。
【0031】
(実施例8)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、9-フルオレノン(9.73g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.22g、1.09mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、メタンスルホン酸(0.22g、2.32mmol)を加え、6時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は38%であった。
【0032】
(実施例9)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、フルオレノン(9.73g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.91g、4.49mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、メタンスルホン酸(0.23g、2.41mmol)を加え、6時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は37%であった。
【0033】
(実施例10)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、フルオレノン(9.73g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.09g、0.42mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、トリフルオロメタンスルホン酸(0.04g、0.28mmol)を加え、6時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は86%であった。
【0034】
(実施例11)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.75g、9.0mmol)、フルオレノン(9.72g、54.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.09g、0.40mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、p-トルエンスルホン酸(0.71g、4.1mmol)を加え、6時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、目的化合物(A)の収率は59%であった。
【0035】
上記実施例4、6~11の反応条件と収率を、表2にまとめて示す。なお、表中の「mol比」は、9-フェナントロールの物質量に対する、各成分の物質量の比を示す。
【表2】
【0036】
実施例6及び7では、実施例4と比べて、リンタングステン酸と1-ドデカンチオールを使用する量を少なくして反応を行った。その結果、実施例4と大きく変わらない短い反応時間(4時間又は6時間)で、良好な収率で化合物(A)を製造できることが明らかになった。
また、実施例8~11では、実施例4と同様に、9-フェナントロール1モルに対して9-フルオレノンを6.0モル使用し、そして、チオール化合物と、酸性触媒としてメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸並びにパラトルエンスルホン酸の存在下に反応を行った。この結果より、酸性触媒として、リンタングステン酸の他の酸性触媒の存在下に反応を行っても、化合物(A)を製造することができることが明らかになった。
【0037】
<反応溶媒の影響>
(実施例12)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.17g、6.0mmol)、フルオレノン(8.65g、48.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.06g、0.32mmol)、γ-ブチロラクトン(2.17g、25.2mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.21g、0.060mmol)を加え、12時間撹拌した。
反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は64%であった。
【0038】
(実施例13)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.17g、6.0mmol)、フルオレノン(6.49g、36.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.07g、0.32mmol)、γ-ブチロラクトン(4.33g、50.3mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.21g、0.060mmol)を加え、12時間撹拌した。その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は36%であった。
【0039】
(実施例14)
1100mLの試験管に9-フェナントロール(1.17g、6.0mmol)、フルオレノン(4.32g、24.0mmol)、1-ドデカンチオール(0.07g、0.34mmol)、γ-ブチロラクトン(6.48g、75.3mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.21g、0.060mmol)を加え、12時間撹拌した。その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は17%であった。
【0040】
(実施例15)
100mLの試験管に9-フェナントロール(1.17g、6.0mmol)、フルオレノン(2.11g、11.7mmol)、1-ドデカンチオール(0.07g、0.34mmol)、γ-ブチロラクトン(8.68g、100.8mmol)を加え、90℃で加熱撹拌した。均一溶液となった後、リンタングステン酸(0.21g、0.060mmol)を加え、12時間撹拌した。その反応液の反応組成を上記方法により分析した結果、化合物(A)の収率は8%であった。
【0041】
上記実施例2、12~15の反応条件と収率を、表3にまとめて示す。なお、表中の「mol比」は、9-フェナントロールの物質量に対する、各成分の物質量の比を示す。
【表3】
【0042】
実施例12~15では、反応溶媒としてγ-ブチロラクトンを使用しその使用量を変えて反応を行った。その結果、反応溶媒を使用しても化合物(A)を製造することができることが明らかになった。一方、反応溶媒を使用しないほうが化合物(A)の収率が良好であることも確認された。