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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092506
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】作業用椅子
(51)【国際特許分類】
   E04G 3/30 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
E04G3/30 303J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208487
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】上岡 克司
(72)【発明者】
【氏名】名取 孝
(72)【発明者】
【氏名】黒川 晃澄
【テーマコード(参考)】
2E003
【Fターム(参考)】
2E003EA04
2E003EB05
(57)【要約】
【課題】着座した姿勢で作業者の自由度を確保しつつ身体部を確実に保持することができ、身体への負荷が低減された状態でかつ安定した姿勢で作業を行えることから、作業効率を向上できる。
【解決手段】高所作業用に吊り下げられた状態において使用される作業用椅子1であって、ワイヤロープ2に吊り下げられ幅方向に所定幅を有するように形成された梁部材20と、梁部材20の一端側から吊り下げられた右側吊り下げ部材30Aと梁部材20の他端側から吊り下げられた左側吊り下げ部材30Bとに吊り下げられた椅子部40と、梁部材20と椅子部40との間に設けられ右側吊り下げ部材30Aと左側吊り下げ部材30Bとを連結すると共に、作業者の身体部を拘束するベルト部50と、を備える作業用椅子を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高所作業用に吊り下げられた状態において使用される作業用椅子であって、
ロープ体に吊り下げられ幅方向に所定幅を有するように形成された梁部材と、
前記梁部材の一端側から吊り下げられた第1吊り下げ部材と前記梁部材の他端側から吊り下げられた第2吊り下げ部材とに吊り下げられた椅子部と、
前記梁部材と前記椅子部との間に設けられ前記第1吊り下げ部材と前記第2吊り下げ部材とを連結すると共に、作業者の身体部を拘束するベルト部と、を備える、
作業用椅子。
【請求項2】
前記梁部材は、前記作業者の身体幅に比して広い前記所定幅に形成されている、
請求項1に記載の作業用椅子。
【請求項3】
前記梁部材は、棒状に形成されている、
請求項2に記載の作業用椅子。
【請求項4】
前記第1吊り下げ部材及び前記第2吊り下げ部材は、前記梁部材及び前記椅子部のうち少なくとも一方に対して着脱可能とする第1着脱機構を備える、
請求項3に記載の作業用椅子。
【請求項5】
前記椅子部に吊り下げられ、前記作業者の足裏が載置される足置部を備える、
請求項4に記載の作業用椅子。
【請求項6】
前記足置部は、前記椅子部に対して着脱可能とする第2着脱機構を備える、
請求項5に記載の作業用椅子。
【請求項7】
前記足置部は、前記作業者の前記足裏の少なくとも土踏まず部を支持するように形成されている、
請求項6に記載の作業用椅子。
【請求項8】
前記第1吊り下げ部材及び前記第2吊り下げ部材は、帯状に形成されている、
請求項7に記載の作業用椅子。
【請求項9】
前記ベルト部は、前記作業者の身体部の周囲を拘束する環状に形成されると共に、前記身体部の拘束度合いを調整可能に形成されている、
請求項8に記載の作業用椅子。
【請求項10】
前記椅子部は、板状に形成された板状部を備え、
前記板状部は、一端側が前記第1吊り下げ部材に吊り下げられ、他端側が前記第2吊り下げ部材に吊り下げられている、
請求項9に記載の作業用椅子。
【請求項11】
前記板状部は、前記作業者の両腿を保持する保持部を備える、
請求項10に記載の作業用椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電鉄塔などの構造物において、保守、点検として例えば防錆等の目的で塗装作業が定期的に行われている。このような高所での作業は、足場を設置する方法、あるいは箱状のゴンドラを構造物上部から吊り下げる方法により実施されている。このような足場やゴンドラを使用する方法は、設備が大掛かりであり、多大なコストを要するという課題がある。
これに対して、ベルトによって身体部の一部が保持された作業者をベルトとともにワイヤで吊り、ワイヤを上下左右に移動させることで、作業者が吊り下げられた状態のまま所望の作業を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、作業者の臀部を支持するいす部と一体になって作業者の大腿部を取外し可能に固定するベルト部からなる大腿部固定部と、作業者の上胴を支持して取外し可能に固定するベルト部からなる上胴固定部と、を備えた作業補助装置を吊りロープによって作業者とともにウインチによって吊り上げる構成の保守作業保持装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-110128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の吊り下げ式の保守作業保持装置では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に記載される保持装置は、作業者の大腿部や上胴を保持するベルト部が吊りロープによって吊り下げられる構成であり、作業者の身体部が吊りロープを介してベルト部に引っ張られて吊られた状態となり、作業者がベルト部を介して吊り荷重を直接受けてしまうことから作業者への負担が大きく、さらに作業者への拘束も大きく作業者の自由度が低いことから、作業がし難く作業効率が低下するという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、着座した姿勢で作業者の自由度を確保しつつ身体部を確実に保持することができ、身体への負荷が低減された状態でかつ安定した姿勢で作業を行えることから、作業効率を向上できる作業用椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る作業用椅子の態様1は、高所作業用に吊り下げられた状態において使用される作業用椅子であって、ロープ体に吊り下げられ幅方向に所定幅を有するように形成された梁部材と、前記梁部材の一端側から吊り下げられた第1吊り下げ部材と前記梁部材の他端側から吊り下げられた第2吊り下げ部材とに吊り下げられた椅子部と、前記梁部材と前記椅子部との間に設けられ前記第1吊り下げ部材と前記第2吊り下げ部材とを連結すると共に、作業者の身体部を拘束するベルト部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る作業用椅子によれば、作業者は地上等において、第1吊り下げ部材と第2吊り下げ部材との間で椅子部に着座し、ベルト部によって作業者の身体部を固定することで、吊り下げ準備が完了となり、作業用椅子とともに作業者が高所に吊り下げられて高所において所定作業を行うことができる。このとき、作業者の身体部がベルト部によって確実に保持され、拘束されているものの、椅子部に着座して安定姿勢となり、少なくとも手を含む上半身が拘束されることなく自由度を確保することができる。また、本発明では、ロープ体が梁部材および一対の吊り下げ部材(第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材)を介して椅子部を吊った状態で固定しているので、椅子部に着座する作業者がロープ体の吊り荷重を直接負担することがなく、楽な状態で安定した姿勢で作業を行うことができ、作業効率を向上させることができるので、長時間にわたって保守作業を行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る作業用椅子では、幅方向に所定幅を有する梁部材にロープ体が繋がれ、梁部材、椅子部、第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材によって囲まれた作業空間を確保でき、2支点で固定された椅子部に作業中の作業者がバランスよく着座できる構成となる。そのため、ロープ体の吊り上げ、吊り下げ時、水平方向への移動時において、例えばロープ体が捩れた場合でも、その捩れが第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材に直接伝達されにくく、第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材が捩れたり、交差することがなく、前記作業空間を維持することができ、さらに第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材に連結されるベルト部もずれることも抑制されるので、作業者の作業を妨げるようなことがない。
【0010】
(2)本発明の態様2は、態様1の作業用椅子において、前記梁部材は、前記作業者の身体幅に比して広い前記所定幅に形成されていることが好ましい。
【0011】
この場合には、椅子部に着座した作業者が梁部材の両端から吊り下げられる第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材に干渉することを抑制できる。第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材が作業者の作業の邪魔になることを防止できる。
【0012】
(3)本発明の態様3は、態様1の作業用椅子において、前記梁部材は、棒状に形成されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、梁部材が棒状で幅方向に延びる形状であるので、前後方向のバランスを保ちやすく、椅子部に着座した作業者の姿勢をより確実に安定させることができる。
【0014】
(4)本発明の態様4は、態様1の作業用椅子において、前記第1吊り下げ部材及び前記第2吊り下げ部材は、前記梁部材及び前記椅子部に対して着脱可能とする第1着脱機構を備えることを特徴としてもよい。
【0015】
この場合には、第1着脱機構により梁部材と椅子部との着脱を容易に行うことができる。そのため、作業用椅子を使用する際、片付ける際の組立作業、分解作業を効率よく行うことが可能である。また、例えば第1着座機構に長さ調整機能を備えることにより、作業者の座高や使用する作業等に合わせて梁部材と椅子部との間の高さ寸法を調整することができる。
【0016】
(5)本発明の態様5は、態様1の作業用椅子において、前記椅子部に吊り下げられ、前記作業者の足裏が載置される足置部を備えることを特徴としてもよい。
【0017】
この場合、作業者は、足置部に足裏を載せた状態で椅子部に着座できることから、足が保持されずフリーな状態となる場合に比べて作業者の姿勢を安定させることができる。
【0018】
(6)本発明の態様6は、態様1の作業用椅子において、前記足置部は、前記椅子部に対して着脱可能とする第2着脱機構を備えることを特徴としてもよい。
【0019】
この場合には、足置部が第2着脱機構によって椅子部に対して取り外し可能であるので、足置部が必要なときに容易に装着することができる。
【0020】
(7)本発明の態様7は、態様1の作業用椅子において、前記足置部は、前記作業者の前記足裏の少なくとも土踏まず部を支持するように形成されていることを特徴としてもよい。
【0021】
この場合には、作業者の土踏まず部が足置部によって支持されるので、足裏が足置部からずれたり、ずれ落ちたりすることなく、高い安定性をもたせることができる。
【0022】
(8)本発明の態様8は、態様1の作業用椅子において、前記第1吊り下げ部材及び前記第2吊り下げ部材は、帯状に形成されていることを特徴としてもよい。
【0023】
この場合には、帯状の吊り下げ部材に対して帯状のベルト部を面で接触させてより安定した状態で固定することができる。このようなベルト部によって保持される作業者の身体部への負担も軽減することができる。
【0024】
(9)本発明の態様9は、態様1の作業用椅子において、前記ベルト部は、前記作業者の身体部の周囲を拘束する環状に形成されると共に、前記身体部の拘束度合いを調整可能に形成されていることを特徴としてもよい。
【0025】
この場合には、ベルト部によって作業者の身体部の全周にわたって巻き回すように拘束して取り付けることができ、椅子部に着座する作業者が変わっても、その作業者の身体部の寸法に合わせてベルト部による拘束度合いを調整することで、安定且つ確実に身体部を保持して固定することができる。
【0026】
(10)本発明の態様10は、態様1の作業用椅子において、前記椅子部は、板状に形成された板状部を備え、前記板状部は、一端側が前記第1吊り下げ部材に吊り下げられ、他端側が前記第2吊り下げ部材に吊り下げられていることを特徴としてもよい。
【0027】
この場合には、椅子部が板面を有する板状部であるので、尻部を板状部に載せてより安定した姿勢で着座することができる。また、板状部の空いている隙間を利用して手を置いたり、例えば作業で使用している治具等を一時的に置くことも可能となり、高所作業における使い勝手が良好となる。
【0028】
(11)本発明の態様11は、態様1の作業用椅子において、前記板状部は、前記作業者の両腿を保持する保持部を備えることを特徴としてもよい。
【0029】
この場合には、作業者は、ベルト部による身体部だけでなく、両腿も保持部で保持されるので、足を椅子部に拘束することができる。そのため、作業者がバランスよく安定した姿勢で着座でき、板状部に対してずれることを抑制できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る作業用椅子によれば、着座した姿勢で作業者の自由度を確保しつつ身体部を確実に保持することができ、身体への負荷が低減された状態でかつ安定した姿勢で作業を行えることから、作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態による作業用椅子を示す正面図である。
図2図1に示す作業用椅子に作業者が着座した状態を右側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る作業用椅子の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0033】
図1および図2に示すように、本実施形態の作業用椅子1は、例えば送電用の鉄塔等での塗装等の保全作業時において、高所作業用に吊り下げられた状態において作業者Mが着座した姿勢で使用されるものである。
【0034】
ここで、以下の説明において、説明の便宜上、作業用椅子1に正規姿勢で着座した作業者Mが前を向く方向を「前方」と称し、その反対方向を「後方」と称する。また、以下の説明における上下、左右の向きは、作業者Mが正規姿勢で着座したときの作業者Mを中心とした向きと合致する向きを意味するものとする。以下の説明では、このときの左右方向を幅方向(身体幅方向)ともいう。また、左右方向の右側、左側とは、作業者Mを正面視したときを基準とする。
【0035】
作業用椅子1は、ワイヤロープ2(ロープ体)に吊り下げられ幅方向に所定幅を有するように形成された梁部材20と、梁部材20の幅方向をなす長さ方向の両端部(右端部20aと左端部20b)から吊り下げられた一対の吊り下げ部材30(30A、30B)と、一対の吊り下げ部材30に吊り下げられた椅子部40と、梁部材20と椅子部40との間に設けられ一対の吊り下げ部材30を連結すると共に、作業者Mの身体部Maを拘束するベルト部50と、を備えている。
【0036】
梁部材20は、幅方向中心部20cが1本のワイヤロープ2によって1本吊りの状態で上方から吊り下げられている。梁部材20は、作業者Mの身体幅に比して広い所定幅に形成されている。梁部材20は、例えば断面矩形状の棒状に形成されている。梁部材20の右端部20aと左端部20bとのそれぞれの下面には、例えば金属製からなる第1係止リング21が強固に固定されている。ここで、梁部材20の右端部20aと左端部20bとの間の間隔、および左右一対の第1係止リング21同士の間隔は、作業者Mの身体幅に比して広く設定されている。
【0037】
吊り下げ部材30は、梁部材20の一端(右端部20a)側の第1係止リング21から後述する第1着脱棒材31を介して吊り下げられた右側吊り下げ部材30A(第1吊り下げ部材)と、梁部材20の他端(左端部20b)側の第1係止リング21から後述する第1着脱棒材31を介して吊り下げられた左側吊り下げ部材30B(第2吊り下げ部材)と、を有する。右側吊り下げ部材30Aおよび左側吊り下げ部材30B同士の間隔は、作業者Mの身体幅に比して広く設定されている。つまり、右側吊り下げ部材30Aおよび左側吊り下げ部材30B同士の間に椅子部40に着座した作業者Mが位置することになる。
【0038】
右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、それぞれ帯状に形成されている。右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、それぞれ同じ長さであり、椅子部40に着座した作業者Mの頭部Mbが梁部材20に当たらないように頭部Mbから上方に十分に離れた寸法に設定されている。
【0039】
右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bの上端30aには、第2係止リング32が強固に固定されている。右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bの下端30bは、椅子部40に強固に固定された第3係止リング42に固定されている。
【0040】
右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、それぞれ梁部材20に対して着脱可能とする第1着脱棒材31(第1着脱機構)を備えている。
【0041】
第1着脱棒材31は、長手方向を上下方向に向けて取り付けられる。第1着脱棒材31の上端及び下端のそれぞれには、ロック式の係止フック33A、33Bが設けられている。第1着脱棒材31の上側係止フック33Aは、梁部材20の第1係止リング21にロックされた状態で係止される。上側係止フック33Aのロックを解除することで、上側係止フック33Aを第1係止リング21から取り外すことができる。また、第1着脱棒材31の下側係止フック33Bは、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bの第2係止リング32にロックされた状態で係止される。下側係止フック33Bのロックを解除することで、下側係止フック33Bを第2係止リング32から取り外すことができる。
【0042】
また、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bのそれぞれの上下方向中間部同士を連結するようにベルト部50が設けられている。
【0043】
椅子部40は、右側吊り下げ部材30Aと左側吊り下げ部材30Bとに吊り下げられている。椅子部40は、板状に形成された板状部41を備えている。板状部41は、右側部41a(一端側)が右側吊り下げ部材30Aに吊り下げられ、左側部41b(他端側)が左側吊り下げ部材30Bに吊り下げられている。板状部41の幅寸法は、梁部材20と同等であり、それぞれの幅方向中心が幅方向で一致している。板状部41の上面41cにおける右側部41a及び左側部41bには、前後方向で中央寄り後側の位置に金属製からなる第3係止リング42が強固に固定されている。第3係止リング42には、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bのそれぞれの下端30bが固定される。
【0044】
左右一対の第3係止リング42の幅方向中心からの幅方向の距離は、第1係止リング21の梁部材20における幅方向中心からの幅方向の距離と一致している。すなわち、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、正面から見て傾斜することなく鉛直方向に延びた状態で配置される。
【0045】
椅子部40には、作業者Mの足裏Mcが載置される板状の足置板43(足置部)が吊り下げられている。足置板43は、椅子部40に対して着脱可能とする第2着脱棒材44(第2着脱機構)を備えている。足置板43は、作業者Mの足裏Mcの少なくとも土踏まず部Mdを支持するように形成されている。足置板43は、椅子部40の板状部41の前部側下方に配置される。足置板43の幅は、板状部41よりも短く設定されている。
【0046】
第2着脱棒材44は、上側係止部44aが板状部41の下面41dに着脱可能に固定され、下側係止部44bが足置板43に着脱可能に固定されている。
【0047】
ベルト部50は、椅子部40に着している作業者Mの身体部Maの周囲を拘束する環状に形成されると共に、身体部Maの拘束度合いを調整可能に形成されている。ベルト部50は、左右一対の右側吊り下げ部材30Aと左側吊り下げ部材30Bに支持され、作業者Mの身体部Maを巻き付けるように保持するベルト本体51と、ベルト本体51の前部に設けられてベルト本体51を身体部Maから取り外し可能に固定するためのバックル52と、を有している。ベルト本体51は、前部で左右に分割され、分割されている一方のベルト先端にバックル52が固定されている。バックル52に他方のベルト先端を係合させることで締め付けて固定することで、ベルト本体51によって身体部Maが保持される。
【0048】
さらに、板状部41は、作業者Mの両腿Meを保持する帯状の大腿保持帯45(保持部)を備えている。大腿保持帯45は、板状部41の前部上面に固定され、椅子部40に着座した作業者Mの各腿Meが挿通可能な環状に形成されている。
なお、図示はしていないが、大腿保持帯45は、長さ調整機構を備え、両腿Meを締め付けることにより固定されることが好ましい。
【0049】
次に、作業用椅子1の作用について、図1に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による作業用椅子1は、不図示の高所作業用に吊り下げられた状態において使用される。作業用椅子1は、ワイヤロープ2に吊り下げられ幅方向に所定幅を有するように形成された梁部材20と、梁部材20の一端側から吊り下げられた右側吊り下げ部材30Aと梁部材20の他端側から吊り下げられた左側吊り下げ部材30Bとに吊り下げられた椅子部40と、梁部材20と椅子部40との間に設けられ右側吊り下げ部材30Aと左側吊り下げ部材30Bとを連結すると共に、作業者Mの身体部Maを拘束するベルト部50と、を備える。
【0050】
本実施形態による作業用椅子1によれば、作業者Mは地上等において、右側吊り下げ部材30Aと左側吊り下げ部材30Bとの間で椅子部40に着座し、ベルト部50によって作業者Mの身体部Maを固定することで、吊り下げ準備が完了となり、作業用椅子1とともに作業者Mが高所に吊り下げられて高所において所定作業を行うことができる。
このとき、作業者Mの身体部Maがベルト部50によって確実に保持され、拘束されているものの、椅子部40に着座して安定姿勢となり、少なくとも手を含む上半身が拘束されることなく自由度を確保することができる。
【0051】
また、本実施形態では、ワイヤロープ2が梁部材20および一対の吊り下げ部材(右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30B)を介して椅子部40を吊った状態で固定しているので、椅子部40に着座する作業者Mがワイヤロープ2の吊り荷重を直接負担することがなく、楽な状態で安定した姿勢で作業を行うことができ、作業効率を向上させることができるので、長時間にわたって保守作業を行うことが可能となる。
【0052】
また、本実施形態による作業用椅子1では、幅方向に所定幅を有する梁部材20にワイヤロープ2が繋がれ、梁部材20、椅子部40、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bによって囲まれた作業空間を確保でき、2支点で固定された椅子部40に作業中の作業者Mがバランスよく着座できる構成となる。
そのため、ワイヤロープ2の吊り上げ、吊り下げ時、水平方向への移動時において、例えばワイヤロープ2が捩れた場合でも、その捩れが右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bに直接伝達されにくく、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bが捩れたり、交差することがなく、作業空間を維持することができ、さらに右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bに連結されるベルト部50もずれることも抑制されるので、作業者Mの作業を妨げるようなことがない。
【0053】
また、本実施形態では、梁部材20は、作業者Mの身体幅に比して広い所定幅に形成されている。
そのため、椅子部40に着座した作業者Mが梁部材20の両端から吊り下げられる右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bに干渉することを抑制できる。右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bが作業者Mの作業の邪魔になることを防止できる。
【0054】
また、本実施形態では、梁部材20は、棒状に形成されている。
そのため、梁部材20が棒状で幅方向に延びる形状であるので、前後方向のバランスを保ちやすく、椅子部40に着座した作業者Mの姿勢をより確実に安定させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、梁部材20及び椅子部40に対して着脱可能とする第1着脱棒材31を備える。
そのため、第1着脱棒材31により梁部材20と椅子部40との着脱を容易に行うことができる。そのため、作業用椅子1を使用する際、片付ける際の組立作業、分解作業を効率よく行うことが可能である。また、例えば第1着脱棒材31に長さ調整機能を備えることにより、作業者Mの座高や使用する作業等に合わせて梁部材20と椅子部40との間の高さ寸法を調整することができる。
【0056】
また、本実施形態では、椅子部40に吊り下げられ、作業者Mの足裏が載置される足置板43を備える。
そのため、作業者Mは、足置板43に足裏を載せた状態で椅子部40に着座できることから、足が保持されずフリーな状態となる場合に比べて作業者Mの姿勢を安定させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、足置板43は、椅子部40に対して着脱可能とする第2着脱棒材44を備える。
そのため、足置板43が第2着脱棒材44によって椅子部40に対して取り外し可能であるので、足置板43が必要なときに容易に装着することができる。
【0058】
また、本実施形態では、足置板43は、作業者Mの足裏Mcの少なくとも土踏まず部Mdを支持するように形成されている。
そのため、作業者Mの土踏まず部Mdが足置板43によって支持されるので、足裏Mcが足置板43からずれたり、ずれ落ちたりすることなく、高い安定性をもたせることができる。
【0059】
また、本実施形態では、右側吊り下げ部材30A及び左側吊り下げ部材30Bは、帯状に形成されている。
そのため、帯状の吊り下げ部材30A、30Bに対して帯状のベルト部50を面で接触させてより安定した状態で固定することができる。このようなベルト部50によって保持される作業者Mの身体部Maへの負担も軽減することができる。
【0060】
また、本実施形態では、ベルト部は、作業者Mの身体部Maの周囲を拘束する環状に形成されると共に、身体部Maの拘束度合いを調整可能に形成されている。
そのため、ベルト部50によって作業者Mの身体部Maの全周にわたって巻き回すように拘束して取り付けることができ、椅子部40に着座する作業者Mが変わっても、その作業者Mの身体部Maの寸法に合わせてベルト部50による拘束度合いを調整することで、安定且つ確実に身体部Maを保持して固定することができる。
【0061】
また、本実施形態では、椅子部40は、板状に形成された板状部41を備えている。板状部41は、一端側が右側吊り下げ部材30Aに吊り下げられ、他端側が左側吊り下げ部材30Bに吊り下げられている。
そのため、椅子部40が板面を有する板状部41であるので、尻部を板状部41に載せてより安定した姿勢で着座することができる。また、板状部41の空いている隙間を利用して手を置いたり、例えば作業で使用している治具等を一時的に置くことも可能となり、高所作業における使い勝手が良好となる。
【0062】
また、本実施形態では、板状部41は、作業者Mの両腿Meを保持する大腿保持帯45を備える。
そのため、作業者Mは、ベルト部50による身体部Maだけでなく、両腿Meも大腿保持帯45で保持されるので、足を椅子部40に拘束することができる。そのため、作業者Mがバランスよく安定した姿勢で着座でき、板状部41に対してずれることを抑制できる。
【0063】
上述のように構成された本実施形態による作業用椅子1では、着座した姿勢で作業者Mの自由度を確保しつつ身体部Maを確実に保持することができ、身体への負荷が低減された状態でかつ安定した姿勢で作業を行えることから、作業効率を向上できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0065】
例えば、上記実施形態の作業用椅子1は、高所作業用として使用する対象の一例として送電用の鉄塔を挙げたが、送電鉄塔にに限定されることはなく、他の構造物にも適用可能である。例えば、高層ビル等の建物にも適用できる。
また、作業用椅子1に着座する作業者による高所作業としても、上述した実施形態のように鉄塔の塗装作業に限定されることはなく、清掃、点検等の保全作業にも適用することができる。
【0066】
また、本実施形態では、梁部材20が作業者Mの身体幅に比して広い所定幅に形成されているが、これに限定されることはない。梁部材20が、作業者Mの身体幅よりも幅に形成されていてもよい。
さらに、梁部材20が棒状に形成されることにも限定されることはなく、例えば一定の面積を有する板状に形成されるものであったり、H形鋼やI形鋼などの断面が円形でない部材を採用してもよい。
【0067】
また、第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材は、梁部材20及び椅子部40のうち少なくとも一方に対して着脱可能とする第1着脱棒材31(第1着脱機構)を使用しているが、棒材でない他の形状のものを採用することも可能であり、また、第1着脱機構を省略することも可能である。
そして、第1吊り下げ部材及び第2吊り下げ部材が帯状に形成される構成に限定されることもない。
【0068】
また、本実施形態では、椅子部40に吊り下げられ、作業者Mの足裏Mcが載置される板状の足置板43を備えた構成としているが、板状以外の足置部を適用してもよい。また、足置部を省略することも可能である。
【0069】
そして、足置板43は、椅子部40に対して着脱可能な第2着脱棒材44(第2着脱機構)を備えているが、要は椅子部40に連結される足置部が椅子部40の下方に設けられていればよく、第2着脱機構が棒材であることに制限されることはなく、例えば板状の部材であってもよいし、本実施形態のように作業者Mの足裏Mcの少なくとも土踏まず部Mdを支持するように足置部が形成されていることにも限定されることはない。
【0070】
さらに、ベルト部50の形状についても、本実施形態では作業者Mの身体部Maの周囲を拘束する環状に形成されると共に、身体部Maの拘束度合いを調整可能に形成された構成としているが、これに限定されることはない。要は、一対の吊り下げ部材30に支持され、身体部Maを拘束する構成のベルト部であればよいのである。
【0071】
また、本実施形態では、椅子部40が板状に形成された板状部41を備え、板状部41の幅方向両端のそれぞれが吊り下げ部材30によって吊り下げられた構成としているが、板状部41を備えていることに限定されることはない。例えば、板状部に代えて棒状部であってもよい。
【0072】
また、本実施形態において、板状部41には作業者Mの両腿Meを保持する大腿保持帯45(保持部)を備えているが、このような保持部は省略してもよいし、本実施形態のような帯状でない形状の保持部を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 作業用椅子
2 ワイヤロープ(ロープ体)
20 梁部材
20a 右端部
20b 左端部
21 第1係止リング
30 吊り下げ部材
30A 右側吊り下げ部材(第1吊り下げ部材)
30B 左側吊り下げ部材(第2吊り下げ部材)
31 第1着脱棒材(第1着脱機構)
32 第2係止リング
33A 上側係止フック
33B 下側係止フック
40 椅子部
41 板状部
42 第3係止リング
43 足置板(足置部)
44 第2着脱棒材(第2着脱機構)
45 大腿保持帯(保持部)
50 ベルト部
52 バックル
M 作業者
Ma 身体部
Mc 足裏
Md 土踏まず部
Me 腿
図1
図2