(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092529
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び自動車用部材
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20240701BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240701BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240701BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240701BHJP
B29C 45/26 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L1/02
C08L23/26
B29C70/42
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208538
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】荒井 貴大
【テーマコード(参考)】
4F202
4F205
4J002
【Fターム(参考)】
4F202AA03
4F202AA45
4F202AB11
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4F202AH23
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4J002AB01Y
4J002BB02X
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4J002GN00
(57)【要約】
【課題】フィラーとしてセルロースファイバーを含む樹脂組成物及びこれを用いた自動車用部材において、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立させること。
【解決手段】樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂と、前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散している熱可塑性エラストマーと、前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散しているセルロースファイバーとを含む。前記セルロースファイバーは、直径が5.0μm以上100.0μm以下であり、アスペクト比が1.5以上40.0以下である。自動車用部材は、本発明に係る樹脂組成物を備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性樹脂と、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散している熱可塑性エラストマーと、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散しているセルロースファイバーと
を備え、
前記セルロースファイバーは、直径が5.0μm以上100.0μm以下であり、アスペクト比が1.5以上40.0以下である
樹脂組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が40.0mass%以上80.0mass%以下であり、
前記熱可塑性エラストマーの含有量が5.0mass%以上20.0mass%以下であり、
前記セルロースファイバーの含有量が15.0mass%以上40.0mass%以下である
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
相溶化剤をさらに含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
化学吸着剤をさらに含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂組成物を備えた自動車用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び自動車用部材に関し、さらに詳しくは、オレフィン系熱可塑性樹脂内に熱可塑性エラストマー及びセルロースファイバーが分散している樹脂組成物、及び、これを備えた自動車用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるオレフィン系熱可塑性樹脂は、強度、耐衝撃性、耐熱性等に優れているため、各種の用途に用いられている。特に、ポリプロピレンにフィラーを分散させたフィラー強化ポリプロピレン(PPF)は、剛性が高く、耐衝撃性にも優れているため、自動車用内装部品の材料として賞用されている。PPFのようなフィラー強化プラスチックは、一般に、樹脂とフィラーの混合物を高温で成形加工することにより製造されている。
【0003】
近年、地球環境の保全のために、持続可能な開発が求められている。フィラー強化プラスチックにおいても、樹脂だけでなく、フィラーに対してもバイオマス資源を活用することが望まれている。バイオマス由来のフィラーとしては、例えば、ホタテ貝殻、卵殻、木、パルプ、竹、バガス、もみ殻、セルロース繊維などがある。
これらの内、セルロース繊維は、植物由来の繊維であり、環境負荷の小さいフィラーとして有用である。しかしながら、セルロース繊維は、他のバイオマス由来のフィラーと同様に、オレフィン系熱可塑性樹脂との相溶性が低いために、オレフィン系熱可塑性樹脂内に均一に分散させるのが難しい。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
平均繊維径が1~3000nmのセルロース繊維と、
側鎖及び酸性基含有α-オレフィン共重合物(B)と、
ポリオレフィンと
を含む樹脂組成物が開示されている。
同文献には、
(A)共重合物(B)に含まれるαオレフィンは、ポリオレフィンと共重合物(B)との相溶性を向上させる点、及び、
(B)共重合物(B)に含まれる酸基は、セルロース繊維と共重合物(B)との親和性を向上させ、セルロース繊維とポリオレフィン樹脂との相溶性をより向上させる点
が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ポリプロピレン樹脂と、疎水化したセルロースナノファイバー(直径:4~100nm、長さ:5μm以上)とを二軸押出機内にて混練することにより得られるポリオレフィン樹脂組成物が開示されている。
同文献には、このような方法により、ポリオレフィン樹脂組成物の軽量化と剛性の両立が可能となる点が記載されている。
【0006】
特許文献3には、フィラーとしてセルロース繊維を用いた樹脂組成物ではないが、
融点が150℃以上のポリプロピレン樹脂(A)と、
融点が110℃以上150℃未満のポリプロピレン樹脂(B)と、
木粉と
を含むポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
同文献には、
(a)ポリプロピレン樹脂(B)の融点を150℃未満にすることにより、ポリプロピレン樹脂組成物を成形するときの温度を比較的低くすることができる点、及び、
(b)これによって木粉からの臭気の発生を抑制し、かつ、成形性や製品の品質を確保することができる点
が記載されている。
【0007】
特許文献4には、フィラーとしてセルロース繊維を用いた樹脂組成物ではないが、
バイオマス材料と、
高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、メタロセン系低密度ポリエチレン樹脂、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、及び、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる樹脂材料と
を含むバイオマスコンパウンドが開示されている。
同文献には、樹脂材料として特定の樹脂を用いると、バイオマス材料を高濃度に含有するバイオマスコンパウンドが得られる点が記載されている。
【0008】
特許文献1には、ポリオレフィンに直径がナノメートルサイズのセルロースファイバー(以下、「セルロースナノファイバー」ともいう)を分散させると、曲げ強度が20.0~26.8MPaであり、曲げ弾性率が1900~2200MPaである樹脂組成物が得られる点が記載されている。しかしながら、同文献に記載の樹脂組成物は、耐衝撃性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-183022号公報
【特許文献2】国際公開第2016/063914号
【特許文献3】特開2021-050270号公報
【特許文献4】特開2022-012572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、フィラーとしてセルロースファイバーを含む樹脂組成物において、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立させることにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような樹脂組成物を備えた自動車用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る樹脂組成物は、
オレフィン系熱可塑性樹脂と、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散している熱可塑性エラストマーと、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散しているセルロースファイバーと
を含み、
前記セルロースファイバーは、直径が5.0μm以上100.0μm以下であり、アスペクト比が1.5以上40.0以下である。
【0012】
本発明に係る自動車用部材は、本発明に係る樹脂組成物を備えている。
【発明の効果】
【0013】
オレフィン系熱可塑性樹脂に、フィラーとしてセルロースナノファイバーを分散させると、樹脂組成物の剛性は向上するが、耐衝撃性は低下する。一方、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物に熱可塑性エラストマーをさらに添加すると、樹脂組成物の耐衝撃性は向上するが、剛性が低下する。
これに対し、オレフィン系熱可塑性樹脂にフィラーと熱可塑性エラストマーとを分散させる場合において、フィラーとして直径が5.0~100.0μmであるセルロースファイバー(以下、これを「セルロースマイクロファイバー」ともいう)を用いると、熱可塑性エラストマーの添加に起因する樹脂組成物の剛性の低下が抑制される。その結果、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、
オレフィン系熱可塑性樹脂と、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散している熱可塑性エラストマーと、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散しているセルロースファイバーと
を備えている。
【0015】
[1.1. 主成分]
[1.1.1. オレフィン系熱可塑性樹脂]
樹脂組成物のマトリックスは、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成される。本発明において、オレフィン系熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0016】
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種のオレフィン系熱可塑性樹脂を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
さらに、以下に示すオレフィン系熱可塑性樹脂は、化石燃料由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良く、あるいは、バイオマス由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良い。
【0017】
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などがある。これらの中でも、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、及び、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0018】
(A)ポリエチレン樹脂:
ポリエチレン樹脂としては、例えば、
(a)高密度ポリエチレン、
(b)直鎖状低密度ポリエチレン、
(c)低密度ポリエチレン
などがある。
直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと、少量のα-オレフィンとを共重合させることにより得られる。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンなどがある。
【0019】
(B)ポリプロピレン樹脂:
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、
(a)ホモポリプロピレン(H-PP)、
(b)H-PPとポリエチレン(PE)との界面に相溶化剤(例えば、エチレンプロピレンラバー(EPR))が存在するブロックポリプロピレン(B-PP)、
(c)プロピレン-α-オレフィン共重合体(R-PP)
などがある。
プロピレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンなどがある。
【0020】
(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体。
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)は、エチレンと、酢酸ビニルとの共重合体である。EVA中の酢酸ビニルの含有量は、通常、10~40mass%である。
【0021】
[1.1.2. 熱可塑性樹脂エラストマー]
本発明に係る樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散している熱可塑性エラストマーを備えている。熱可塑性エラストマーは、樹脂組成物の耐衝撃性を向上させる作用がある。本発明において、熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0022】
熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種の熱可塑性エラストマーを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
さらに、以下に示す熱可塑性エラストマーは、化石燃料由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良く、あるいは、バイオマス由来オレフィンを原料に用いて合成されたものでも良い。
【0023】
(A)オレフィン系熱可塑性エラストマー:
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、
(a)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体、
(b)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、
(c)スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするエチレン系共重合体、
(d)プロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体、
(e)プロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、
(f)スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の各種ビニル化合物をコモノマーとするプロピレン系共重合体、
(g)ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1つと、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン、ポリイソブチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、水素添加スチレンブタジエン、α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つとの混合物
などがある。
【0024】
オレフィン系熱可塑性エラストマーが共重合体である場合、共重合の形態は、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでも良い。
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基、及び、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基で変性されていても良い。
【0025】
(B)スチレン系熱可塑性エラストマー:
スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレンの重合体又は共重合体のブロックと、共役ジエン化合物の重合体又は共重合体ブロックとを有するブロックコポリマーである。共役ジエン化合物としては、例えば、イソプレン、ブタジエンなどがある。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーは、二重結合部分に水素添加されているものでも良い。
【0026】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、
(a)スチレン-イソプレンブロック共重合体、
(b)スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、
(c)スチレン-ブタジエンブロック共重合体、
(d)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、
(e)スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、
(f)スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、
(g)スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、
(h)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、
(i)スチレン-エチレン/ブチレン-結晶性オレフィンブロック共重合体(SEBC)
などがある。
【0027】
(F)塩化ビニル系熱可塑性エラストマー:
塩化ビニル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント及びソフトセグメントの双方がポリ塩化ビニルからなるエラストマーである。
【0028】
(G)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー:
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリウレタンからなり、ソフトセグメントがポリエーテル、ポリエステル等からなるエラストマーである。
【0029】
(H)ポリエステル系熱可塑性エラストマー:
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリエステルからなり、ソフトセグメントがポリエーテルからなるエラストマーである。
【0030】
(I)ポリアミド系熱可塑性エラストマー:
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリアミドからなり、ソフトセグメントがポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などからなるエラストマーである。
【0031】
[1.1.3. セルロースファイバー]
[A. 材料]
本発明に係る樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂内に分散しているフィラーを備えている。本発明において、フィラーには、所定の条件を満たすセルロースファイバーが用いられる。本発明において、セルロースファイバーの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
セルロースファイバーは、一般に、木材、古紙等を細断し、薬品処理によって難燃処理、撥水処理、防カビ処理等を施すことにより製造されている。
【0032】
[B. 直径]
セルロースファイバーは、樹脂組成物の剛性を向上させる作用がある。しかしながら、熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物に対してセルロースファイバーを添加する場合において、セルロースファイバーの直径が小さくなりすぎると、樹脂組成物の剛性が過度に小さくなる場合がある。従って、セルロースファイバーの直径は、5.0μm以上である必要がある。直径は、好ましくは、6.0μm以上、7.0μm以上、あるいは、8.0μm以上である。
【0033】
一方、セルロースファイバーの直径が大きくなりすぎると、セルロースファイバーの分散性が低下し、その結果として剛性及び/又は耐衝撃性が低下する場合がある。従って、セルロースファイバーの直径は、100.0μm以下である必要がある。直径は、好ましくは、90.0μm以下、80.0μm以下、あるいは、70.0μm以下である。
【0034】
[C. アスペクト比]
セルロースファイバーのアスペクト比は、樹脂組成物の剛性及び耐衝撃性に影響を与える。セルロースファイバーのアスペクト比が大きくほど、樹脂組成物の剛性及び/又は耐衝撃性が向上する。このような効果を得るためには、セルロースファイバーのアスペクト比は、1.5以上である必要がある。アスペクト比は、好ましくは、1.6以上、あるいは、1.7以上である。
【0035】
一方、アスペクト比が大きくなりすぎると、セルロースファイバーがかさ高くなることで押出機への原料投入が困難となる場合がある。従って、セルロースファイバーのアスペクト比は、40.0以下である必要がある。アスペクト比は、好ましくは、35.0以下、30.0以下、あるいは、20.0以下である。
【0036】
[1.2. 副成分]
本発明に係る樹脂組成物は、上述した主成分及び不可避的不純物のみからなるものでも良く、あるいは、これらに加えて、1種又は2種以上の副成分がさらに含まれていても良い。副成分としては、具体的には、以下のようなものがある。
【0037】
[1.2.1. 相溶化剤]
本発明に係る樹脂組成物は、相溶化剤を含んでいても良い。
「相溶化剤」とは、オレフィン系熱可塑性樹脂とセルロースファイバーとを相溶させるための添加剤をいう。本発明において、相溶化剤は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。相溶化剤としては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、これらのいずれか1種の相溶化剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0038】
(A)飽和カルボン酸系相溶化剤:
飽和カルボン酸系相溶化剤としては、例えば、飽和カルボン酸、飽和カルボン酸の誘導体などがある。
飽和カルボン酸としては、例えば、無水コハク酸、コハク酸、無水フタル酸、フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水アジピン酸などがある。
飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステルなどがある。
【0039】
(B)不飽和カルボン酸系相溶化剤:
不飽和カルボン酸系相溶化剤としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂などがある。
不飽和カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、イタコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、アクリル酸などがある。
不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、不飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステルなどがある。
【0040】
これらの中でも、相溶化剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。相溶化剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いると、高弾性率及び高衝撃率に加えて、高引張強度を有する樹脂組成物が得られる。
【0041】
[1.2.2. 化学吸着剤]
本発明に係る樹脂組成物は、化学吸着剤を含んでいても良い。
「化学吸着剤」とは、樹脂組成物又はこれを製造するための原料混合物に対して加熱、光照射等を行った時に、主としてフィラーから発生する揮発性有機化合物(VOC)を化学的に吸着することが可能な反応性を備えた化合物(添加剤)をいう。VOCとしては、例えば、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類などがある。
化学吸着剤としては、具体的には、以下のようなものがある。樹脂組成物は、以下のいずれか1種の化学吸着剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0042】
(A)アミノ基又はアミド基を有する有機化合物からなる化学吸着剤:
アミノ基を有する有機化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、アルキルアミン、テトラメチレンジアミン、エタノールアミン、ピペリジンなどがある。
アミド基を有する化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などがある。
【0043】
(B)塩基性の無機化合物からなる化学吸着剤:
塩基性の無機化合物からなる化学吸着剤としては、例えば、
(a)水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄などの水酸化物、
(b)酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどの塩基性酸化物、
(c)炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩若しくは炭酸水素塩
などがある。
【0044】
これらの中でも、酸化カルシウムは、VOC及びガラス曇り成分の吸着効果に優れているので、化学吸着剤として好適である。例えば、熱や光などでアルデヒドが酸化されてカルボン酸になると、速やかに酸化カルシウムがカルボン酸を吸着する。酸化カルシウムは、鉱物由来のものでも良く、あるいは、生物由来のもの(例えば、ホタテ貝殻や卵殻の焼成品)でも良い。
【0045】
化学吸着剤は、樹脂組成物に直接、添加されていても良い。あるいは、化学吸着剤を無機多孔体の表面に担持させ、これを樹脂組成物に添加しても良い。
無機多孔体は、その表面に多数の細孔を有する無機化合物である限りにおいて、特に限定されない。無機多孔体の材料としては、例えば、ゼオライト、二酸化ケイ素、活性炭、チタニア、リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどがある。また、無機多孔体の形状としては、例えば、球状、棒状、楕円状などがある。
【0046】
[1.2.3. 酸化防止剤]
本発明に係る樹脂組成物は、酸化防止剤を含んでいても良い。
「酸化防止剤」とは、ラジカルによる樹脂組成物の酸化を抑制するための添加剤をいう。酸化防止剤としては、例えば、ラジカルを捕捉する機能を有するフェノール系酸化防止剤、過酸化水素を分解する機能を有するリン系酸化防止剤などがある。本発明に係る樹脂組成物は、これらのいずれか1種の酸化防止剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0047】
[1.2.4. 耐候剤]
本発明に係る樹脂組成物は、耐候剤を含んでいても良い。
「耐候剤」とは、太陽光、温度、湿度、雨等の屋外の自然環境による樹脂組成物の劣化を抑制するための添加剤をいう。耐候剤としては、例えば、紫外線を吸収するための紫外線吸収剤、紫外線により発生したラジカルを安定化させるための光安定剤などがある。本発明に係る樹脂組成物は、これらのいずれか1種の耐候剤を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0048】
[1.2.5. その他の副成分]
本発明に係る樹脂組成物は、上記以外の副成分をさらに含んでいても良い。
その他の副成分としては、例えば、造核剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、抗ブロッキング剤、防曇剤、中和剤、金属不活性剤、界面活性剤、着色剤、抗菌・防カビ剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、充填剤、発泡剤、架橋剤、導電剤、防腐剤、芳香剤、消臭剤、防虫剤などがある。樹脂組成物は、これらのいずれか1種の副成分をさらに含むものでも良く、あるいは、2種以上をさらに含むものでも良い。
【0049】
[1.3. 組成]
[1.3.1. オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量]
「オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、オレフィン系熱可塑性樹脂の質量の割合をいう。
【0050】
オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が少なくなりすぎると、熱可塑性エラストマー及び/又はセルロースファイバーの含有量が相対的に過剰となり、これらの分散が不均一となる場合がある。その結果、流動性や耐衝撃性が低下し、剛性あるいは引張強度が低下する場合がある。従って、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量は、40.0mass%以上が好ましい。含有量は、好ましくは、45.0mass%以上、あるいは、50.0mass%以上である。
【0051】
一方、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が過剰になると、熱可塑性エラストマー及び/又はセルロースファイバーの含有量が相対的に少なくなる。その結果、かえって耐衝撃性が低下し、あるいは、剛性が低下する場合がある。従って、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量は、80.0mass%以下が好ましい。含有量は、好ましくは、75.0mass%以下、70.0mass%以下、あるいは、65.0mass%以下である。
【0052】
[1.3.2. 熱可塑性エラストマーの含有量]
「熱可塑性エラストマーの含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、熱可塑性エラストマーの質量の割合をいう。
【0053】
一般に、熱可塑性エラストマーの含有量が多くなるほど、樹脂組成物の耐衝撃性が向上する。このような効果を得るためには、熱可塑性エラストマーの含有量は、5.0mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、6.0mass%以上、7.0mass%以上、8.0mass%以上、あるいは、9.0mass%以上である。
【0054】
一方、熱可塑性エラストマーの含有量が過剰になると、樹脂組成物の剛性が低下する場合がある。従って、熱可塑性エラストマーの含有量は、20.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、19.0mass%以下、18.0mass%以下、17.0mass%以下、あるいは、16.0mass%以下である。
【0055】
[1.3.3. セルロースファイバーの含有量]
「セルロースファイバーの含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、セルロースファイバーの質量の割合をいう。
【0056】
一般に、セルロースファイバーの含有量が多くなるほど、樹脂組成物の剛性が向上する。このような効果を得るためには、セルロースファイバーの含有量は、15.0mass%以上が好ましい。含有量は、好ましくは、16.0mass%以上、17.0mass%以上、18.0mass%以上、あるいは、19.0mass%以上である。
【0057】
一方、セルロースファイバーの含有量が過剰になると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合がある。従って、セルロースファイバーの含有量は、40.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、39.0mass%以下、38.0mass%以下、37.0mass%以下、36.0mass%以下、あるいは、35.0mass%以下である。
【0058】
[1.3.4. 相溶化剤の含有量]
「相溶化剤の含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、相溶化剤の質量の割合をいう。
【0059】
一般に、相溶化剤の含有量が多くなるほど、セルロースファイバーがポリオレフィン系熱可塑性樹脂内に均一に分散しやすくなる。その結果、相溶化剤無添加の場合に比べて、引張強度、剛性、及び/又は、耐衝撃性が向上する。このような効果を得るためには、相溶化剤の含有量は、0.5mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、1.0mass%以上、あるいは、1.5mass%以上である。
【0060】
一方、相溶化剤の含有量が過剰になると、樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、剛性あるいは高荷重下における耐熱変形性が低下する場合がある。従って、相溶化剤の含有量は、5.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、4.5mass%以下、あるいは、4.0mass%以下である。
【0061】
[1.3.5. 化学吸着剤の含有量]
「化学吸着剤の含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、化学吸着剤の質量の割合をいう。
【0062】
化学吸着剤の含有量が少なくなりすぎると、臭気の発生やフォギングを抑制するのが困難となる場合がある。従って、化学吸着剤の含有量は、0.1mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.2mass%以上、0.3mass%以上、あるいは、0.4mass%以上である。
【0063】
一方、化学吸着剤の含有量が過剰になると、化学吸着剤としての効果が飽和するだけでなく、機械物性が低下する場合がある。従って、化学吸着剤の含有量は、2.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、1.5mass%以下、1.2mass%以下、あるいは、0.8mass%以下である。
【0064】
[1.3.6. その他の副成分の含有量]
「その他の副成分の含有量」とは、樹脂組成物の総質量に対する、その他の副成分の質量の割合をいう。
樹脂組成物にその他の副成分が含まれる場合、その含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択するのが好ましい。
【0065】
[1.4. 特性]
[1.4.1. 弾性率]
「弾性率」とは、ISO 527-2に準拠して測定された値をいう。
【0066】
本発明に係る樹脂組成物は、セルロースマイクロファイバーを含むので、熱可塑性エラストマーを含むにもかかわらず、高い弾性率を示す。製造条件を最適化すると、樹脂組成物の弾性率は、1500MPa以上となる。製造条件をさらに最適化すると、弾性率は、1650MPa以上、あるいは、1750MPa以上となる。弾性率の上限は特にないが、通常、3000MPa以下である。
【0067】
[1.4.2. 衝撃値]
「衝撃値」とは、ISO 179/1eAに準拠して測定された値(23℃・ノッチ付き、又は、-30℃・ノッチ付き)をいう。
【0068】
本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを含むので、高い衝撃値を示す。製造条件を最適化すると、樹脂組成物の衝撃値(23℃・ノッチ付き)は、5.0kJ/cm2以上となる。製造条件をさらに最適化すると、衝撃値(23℃・ノッチ付き)は、6.0kJ/cm2以上、あるいは、7.0kJ/cm2以上となる。衝撃値(23℃・ノッチ付き)は、大きいほど良い。
【0069】
同様に、製造条件を最適化すると、樹脂組成物の衝撃値(-30℃・ノッチ付き)は、2.3kJ/cm2以上となる。製造条件をさらに最適化すると、衝撃値(-30℃・ノッチ付き)は、2.5kJ/cm2以上、あるいは、3.0kJ/cm2以上となる。衝撃値(-30℃・ノッチ付き)は、大きいほど良い。
【0070】
[1.4.3. 引張強度]
「引張強度」とは、ISO 527-2に準拠して測定された値をいう。
【0071】
本発明に係る樹脂組成物は、セルロースマイクロファイバーを含むので、高い引張強度を示す。製造条件を最適化すると、樹脂組成物の引張強度は、13MPa以上となる。製造条件をさらに最適化すると、引張強度は、15MPa以上、17MPa以上、あるいは、20MPa以上となる。引張強度の上限は特にないが、通常、50MPa以下である。
【0072】
[1.4.4. 荷重たわみ温度]
「荷重たわみ温度(HDT)」とは、ISO 75-2に準拠して測定された値(曲げ応力:0.45MPa)をいう。
【0073】
本発明に係る樹脂組成物は、セルロースマイクロファイバーを含むので、高いHDTを示す。製造条件を最適化すると、樹脂組成物のHDTは、90℃以上となる。製造条件をさらに最適化すると、HDTは、100℃以上、あるいは、110℃以上となる。HDTの上限は特にないが、通常は、200℃以下である。
【0074】
[1.4.5. 臭気特性]
揮発性有機化合物(VOC)の「揮発量」とは、後述する方法を用いて測定された値をいう。
【0075】
樹脂組成物からVOCが揮発すると、異臭の原因となる。そのため、VOCの揮発量は、少ないほど良い。好適な揮発量は、VOCの種類により異なる。
例えば、VOCがHCHOである場合、揮発量は、0.10μg/個以下が好ましい。揮発量は、さらに好ましくは、0.09μg/個以下、0.08μg/個以下、あるいは、0.07μg/個以下である。
また、VOCがCH3CHOである場合、揮発量は、0.90μg/個以下が好ましい。揮発量は、さらに好ましくは、0.5μg/個以下、0.3μg/個以下、あるいは、0.1μg/個以下である。
【0076】
[1.5. 用途]
本発明に係る樹脂組成物は、各種の用途に用いることができる。本発明に係る樹脂組成物の用途としては、例えば、
(a)自動車用部材、
(b)射出成形体を製造するための原料となるペレット、
(c)フィラーを高濃度に分散させたマスターバッチ
などがある。
【0077】
本発明に係る樹脂組成物を備えた自動車用部材としては、例えば、
(a-1)インストルメントパネル、トリム、デッキボード、ピラー、エンジンカバーなどの内装部材、
(a-2)バンパー、モール、フェンダー、スパッツ、ウェザーストリップ、ガラスラン、ワイパーなどの外装部材
などがある。
【0078】
[2. 樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物は、
(a)所定の比率となるように主成分、及び、必要に応じて副成分を配合し、
(b)原料混合物を所定の温度で加熱しながら混練し、混練物を所定の形状に成形する
ことにより得られる。
【0079】
原料の加熱温度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な温度を選択することができる。一般に、加熱温度が高くなるほど、セルロースファイバーを均一分散しやすくなる。一方、加熱温度が高くなりすぎると、樹脂が変色したり、あるいは、セルロースファイバーから揮発性有機化合物(VOC)が発生しやすくなる。樹脂の変色やVOCの発生を抑制するためには、加熱温度は、200℃以下が好ましい。
【0080】
[3. 作用]
オレフィン系熱可塑性樹脂に、フィラーとしてセルロースナノファイバーを分散させると、樹脂組成物の剛性は向上するが、耐衝撃性は低下する。一方、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物に熱可塑性エラストマーをさらに添加すると、樹脂組成物の耐衝撃性は向上するが、剛性が低下する。
これに対し、オレフィン系熱可塑性樹脂にフィラーと熱可塑性エラストマーとを分散させる場合において、フィラーとして直径が5.0~100.0μmであるセルロースマイクロファイバーを用いると、熱可塑性エラストマーの添加に起因する樹脂組成物の剛性の低下が抑制される。その結果、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立させることができる。
【実施例0081】
(実施例1~13、比較例1~4)
[1. 試料の作製]
オレフィン系熱可塑性樹脂には、ブロックポリプロピレン(B-PP)(日本ポリプロ(株)製、BC04ASW)を用いた。
熱可塑性エラストマーには、エチレンオクテンラバー(EOR)(ダウ・ケミカル日本(株)製、ENGAGE8180)を用いた。
【0082】
フィラーには、
(a)直径:18μm、アスペクト比:1.7のセルロースマイクロファイバー(CMF1)(レッテンマイヤージャパン(株)製、ARBOCEL(登録商標) BE600-30)、
(b)直径:20μm、アスペクト比:3.0のセルロースマイクロファイバー(CMF2)(レッテンマイヤージャパン(株)製、ARBOCEL(登録商標) B600)、又は、
(c)直径:20μm、アスペクト比:10.0のセルロースマイクロファイバー(CMF3)(レッテンマイヤージャパン(株)製、ARBOCEL(登録商標) BWW40)
を用いた。
【0083】
相溶化剤には、
(a)相溶化剤1:無水マレイン酸系変性ポリプロピレン(ビックケミー・ジャパン(株)製、PRIEX 20097)、又は、
(b)相溶化剤2:α-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体(三菱ケミカル(株)製、ダイヤカルナ(登録商標) 30M)
を用いた。
【0084】
さらに、その他の添加剤として、
(a)化学吸着剤(アルデヒドキャッチャー剤):アミン系化学吸着剤(大塚化学(株)製、ケムキャッチ(登録商標) H-6000HS)、
(b)酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤((株)ADEKA製、AO-60)、
(c)酸化防止剤2:リン系酸化防止剤((株)ADEKA製、2112)、及び、
(d)耐候剤(BASF(株)製、XT-855)
を用いた。
【0085】
各原料を所定の比率で配合し、原料混合物を得た。原料混合物を二軸押出機で溶融混練し、ペレットを作製した。成形温度は、170℃とした。
次に、ペレットを射出成形機に投入し、試験片素材の射出成形を行った。射出成形温度は、180℃とした。得られた試験片素材から所定の大きさの試験片を切り出し、各種試験を実施した。
【0086】
[2. 試験方法]
[2.1. 機械物性]
[2.1.1. 比重]
JIS K 7112に準拠して、試験片の比重を測定した。
【0087】
[2.1.2. 曲げ強度]
ISO 527-2に準拠して、引張強度及び弾性率を測定した。
【0088】
[2.1.3. 衝撃値]
ISO 179/1eAに準拠して、シャルピー衝撃試験を行った。試験条件は、23℃・ノッチ付き、又は、-30℃・ノッチ付きとした。
【0089】
[2.1.4. 荷重たわみ温度(HDT)]
ISO 75-2に準拠して、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。曲げ応力(荷重)は、0.45MPaとした。
【0090】
[2.2. 臭気特性-VOC-]
揮発性有機化合物(VOC)の測定は、温度:23±2℃、湿度:50±5%RHの室内条件で実施した。試験片を作製してから14日以内に分析を行った。
10Lのテドラー(登録商標)バッグ内を純窒素ガスで3回充満させることで、バッグ内のガス置換を行った。試験片(100mm×80mm×t2mm)をバッグ内に投入して密封した。熱風式乾燥機でバッグを65℃で2時間加熱した後、バッグ内の揮発成分をシリカゲルに吸着させた。さらに、シリカゲルに吸着させた揮発成分を溶剤で抽出し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により分析した。標準試料との比較により、揮発成分(アルデヒド類)の総量を測定した。
【0091】
[3. 結果]
表1及び表2に、結果を示す。なお、表1及び表2には、各試料の原料配合も併せて示した。表1及び表2より、以下のことが分かる。
【0092】
(1)比較例2~3は、比較例1に比べて衝撃値は高くなったが、引張強度及び弾性率は低下した。これは、オレフィン系熱可塑性樹脂に熱可塑性エラストマーのみを添加したためと考えられる。
(2)比較例4は、実施例1に比べて引張強度及び弾性率は高くなったが、衝撃値は低下した。これは、オレフィン系熱可塑性樹脂に対してセルロースマイクロファイバーのみを添加したためと考えられる。
【0093】
(3)実施例1~12は、いずれも、比較例2~3に比べて、衝撃値は若干低下したが、引張強度はほぼ同等以上であり、弾性率は大幅に向上した。これは、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂中に、適量の熱可塑性エラストマーと適量のセルロースマイクロファイバーとを同時に添加し、かつ、両者が均一に分散しているためと考えられる。
(4)熱可塑性エラストマーを含むポリオレフィン系熱可塑性樹脂にさらにセルロースマイクロファイバーを添加する場合、セルロースマイクロファイバーのアスペクト比が大きくなるほど、剛性及び耐衝撃性が向上する傾向が見られた。
(5)化学吸着剤無添加の実施例11は、VOCが若干増大した。一方、化学吸着剤を添加した実施例12は、VOCが比較例1とほぼ同程度まで低下した。
【0094】
(6)実施例13は、相溶化剤として、α-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体(特許文献1において使用されている相溶化剤と類似の相溶化剤)を用いた例である。実施例13は、比較例1に比べて弾性率が高くなったが、衝撃値はほぼ同等であり、引張強度は低下した。これは、α-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体は、セルロースマイクロファイバーとの相溶性よりもEORとの相溶性が高いために相溶化剤がEORの周囲に偏在し、セルロースマイクロファイバーの分散性が低下したためと考えられる。
【0095】
【0096】
【0097】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。