(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092531
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】コンバージョン車、コンバージョンキット、車両制御装置および電子制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240701BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B60L15/20 J
F02D45/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208541
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】522143656
【氏名又は名称】Freet株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 敏司
(72)【発明者】
【氏名】八木 則彦
【テーマコード(参考)】
3G384
5H125
【Fターム(参考)】
3G384DA44
3G384EE31
3G384FA06Z
3G384FA64Z
3G384FA66Z
3G384FA70Z
3G384FA74Z
3G384FA75Z
3G384FA78Z
3G384FA79Z
3G384FA86Z
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CC01
5H125CC04
5H125EE31
5H125EE51
5H125EE70
(57)【要約】
【課題】制御対象の改造に伴う電子制御装置の追加搭載を簡易かつ有効に実現する。
【解決手段】ある態様のコンバージョン車は、エンジン車の制御に使用されていた既存の第1車両制御装置と、回転機を新たな駆動部として制御するために追加された第2車両制御装置と、を備える。第2車両制御装置は、第1車両制御装置から出力されるOBD情報に基づいて回転機を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン車の駆動部であったエンジンを回転機に置換したコンバージョン車であって、
前記エンジン車の制御に使用されていた既存の第1車両制御装置と、
前記回転機を新たな駆動部として制御するために追加された第2車両制御装置と、
を備え、
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置から出力されるOBD(On-Board Diagnostics)情報に基づいて前記回転機を制御する、コンバージョン車。
【請求項2】
前記第1車両制御装置と前記第2車両制御装置とがOBDコネクタを介して接続されている、請求項1に記載のコンバージョン車。
【請求項3】
前記第1車両制御装置から出力される制御信号を受信し、正常な制御が実行されていると認識させるための疑似信号を前記第1車両制御装置へ送信する疑似信号発生装置をさらに備え、
前記第1車両制御装置は、前記疑似信号に基づいて前記エンジン車の改造前に実行していた制御演算処理を継続する、請求項1又は2に記載のコンバージョン車。
【請求項4】
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置から出力される前記エンジン車に固有の制御信号を利用した前記回転機の制御は行わない、請求項3に記載のコンバージョン車。
【請求項5】
前記第2車両制御装置は、
前記第1車両制御装置を介さずに外部情報を受信可能な受信部を含み、
前記OBD情報と、受信した外部情報とに基づいて前記回転機の回転を制御する、請求項1又は2に記載のコンバージョン車。
【請求項6】
エンジン車の駆動部であったエンジンを回転機に置換したコンバージョン車であって、
前記エンジン車の制御に使用されていた既存の第1車両制御装置と、
前記回転機を新たな駆動部として制御するために追加された第2車両制御装置と、
を備え、
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置から出力されるセンサ情報に基づいて前記回転機の回転を制御する、コンバージョン車。
【請求項7】
既存の第1車両制御装置により駆動制御されていた車両の改造に適用されるコンバージョンキットであって、
前記車両の改造に伴い、前記第1車両制御装置が制御していた第1駆動部と置換される第2駆動部と、
前記車両の改造に伴って追加され、前記第2駆動部を制御する第2車両制御装置と、
を備え、
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置から出力されるセンサ情報に基づいて前記第2駆動部を制御する、コンバージョンキット。
【請求項8】
前記第1車両制御装置から出力される前記車両の駆動に関する制御指令を受信し、前記制御指令に関して正常な制御が実行されていると認識させるための疑似信号を前記第1車両制御装置へ送信する疑似信号発生装置をさらに備え、
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置に代わって前記車両の駆動に関する制御を実行する、請求項7に記載のコンバージョンキット。
【請求項9】
前記第2車両制御装置は、前記第1車両制御装置に対して制御指令信号を出力しない、請求項7に記載のコンバージョンキット。
【請求項10】
前記第1車両制御装置と接続されていない固有のセンサをさらに備え、
前記第2車両制御装置は、前記固有のセンサからのセンサ入力に基づいて取得されるセンサ情報に基づいて特定の制御を実行する、請求項7に記載のコンバージョンキット。
【請求項11】
既存制御装置により制御されていた車両の駆動部の改造に伴い、改造後の駆動部を制御するために前記車両に追加搭載される車両制御装置であって、
前記既存制御装置から出力されるセンサ情報を受信するセンサ情報取得部と、
受信されたセンサ情報に基づいて前記車両の駆動を制御する制御部と、
を備える、車両制御装置。
【請求項12】
前記車両がエンジン車のエンジンを回転機に置換したコンバージョン車であり、
前記センサ情報取得部は、前記既存制御装置から出力されるOBD情報から前記センサ情報を取得し、
前記制御部は、前記センサ情報に基づいて前記回転機の回転を制御する、請求項11に記載の車両制御装置。
【請求項13】
前記センサ情報取得部は、取得されたセンサ情報のうち、前記制御部による制御演算処理に不要な情報を破棄ないし無視する、請求項11又は12に記載の車両制御装置。
【請求項14】
既存制御装置により制御されていた制御対象の改造に伴い、改造後の駆動部を制御するために前記制御対象に追加搭載される電子制御装置であって、
前記既存制御装置から出力されるセンサ情報を受信するセンサ情報取得部と、
受信されたセンサ情報に基づいて前記制御対象を制御する制御部と、
を備える、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバージョン車に搭載される車両制御装置など、制御対象の改造に伴って追加搭載される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会の実現に向けて、自動車や航空機などあらゆるモビリティの電動化が加速している。自動車業界では内燃機関(エンジン)を搭載したエンジン車の生産が徐々に制限され、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの電動車両の生産にシフトされつつある。
【0003】
一方、既に市場に出回ったエンジン車については今後も長期間、二酸化炭素を排出し続けることとなる。しかし、エンジン車の外観に愛着をもつユーザにとっては、電動化の流れに賛同しつつも電動車両への買い替えが容易でない場合も想定される。こうした中、既存のエンジン車(中古車両)を電気自動車に改造するコンバージョン車の需要も増えている。エンジン車の駆動部であるエンジンをモータとバッテリに置き換え、電気自動車として駆動させるものである。
【0004】
このようなコンバージョン車は、駆動部をモータに置き換えることに伴い、モータを制御する制御装置を追加する必要がある。この点、エンジンを制御していた既存の制御装置(旧制御装置)を取り外し、新たな制御装置(新制御装置)と交換することが考えられるが、新制御装置が旧制御装置の全ての機能を代替することになるため設計コストや開発コストを要し高価となる。また、旧制御装置に接続されていたセンサ・スイッチ類の全てを新制御装置に接続し直す必要があるため、作業コストも嵩む。
【0005】
そこで、旧制御装置を搭載したまま新制御装置を追加搭載し、旧制御装置から出力される制御信号を新制御装置で変換してモータの駆動を制御するシステムも提案されている(特許文献1参照)。このような構成によれば、旧制御装置を利用しながら新たな駆動部(モータ)を制御できるため、新制御装置にもたせるべき機能を少なくでき、コストを抑えられる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、旧制御装置から出力される制御信号を新制御装置において解析(解読)する必要があり、その解析が十分でなければコンバージョン車を正常に作動させることはできない。このため、エンジン車を製造した車両メーカが改造するのは可能かもしれないが、サードパーティには困難となる可能性がある。コンバージョン車の市場を活性化させるためには、このような制約がないことが望ましい。なお、このような問題は車両に限らず、既存制御装置により制御されていた制御対象を改造する場合にも同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、上記課題認識に基づいてなされた発明であり、その主たる目的は、制御対象の改造に伴う電子制御装置の追加搭載を簡易かつ有効に実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、エンジン車の駆動部であったエンジンを回転機に置換したコンバージョン車である。このコンバージョン車は、エンジン車の制御に使用されていた既存の第1車両制御装置と、回転機を新たな駆動部として制御するために追加された第2車両制御装置と、を備える。第2車両制御装置は、第1車両制御装置から出力されるOBD情報に基づいて回転機を制御する。
【0010】
本発明の別の態様も、エンジン車の駆動部であったエンジンを回転機に置換したコンバージョン車である。このコンバージョン車は、エンジン車の制御に使用されていた既存の第1車両制御装置と、回転機を新たな駆動部として制御するために追加された第2車両制御装置と、を備える。第2車両制御装置は、第1車両制御装置から出力されるセンサ情報に基づいて回転機の回転を制御する。「センサ情報」は、第1車両制御装置に接続されたセンサからの出力信号(センサ信号)に基づいて取得される情報であればよく、第1車両制御装置において制御演算用に演算処理が施されたものでもよい。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、既存の第1車両制御装置により駆動制御されていた車両の改造に適用されるコンバージョンキットである。このコンバージョンキットは、車両の改造に伴い、第1車両制御装置が制御していた第1駆動部と置換される第2駆動部と、車両の改造に伴って追加され、第2駆動部を制御する第2車両制御装置と、を備える。第2車両制御装置は、第1車両制御装置から出力されるセンサ情報に基づいて第2駆動部を制御する。「センサ情報」は、第1車両制御装置に接続されたセンサからのセンサ信号に基づいて取得される情報であればよく、第1車両制御装置において制御演算用に演算処理が施されたものでもよい。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、既存制御装置により制御されていた車両の駆動部の改造に伴い、改造後の駆動部を制御するために車両に追加搭載される車両制御装置である。この車両制御装置は、既存制御装置から出力されるセンサ情報を受信するセンサ情報取得部と、受信されたセンサ情報に基づいて車両の駆動を制御する制御部と、を備える。「センサ情報」は、既存制御装置に接続されたセンサからのセンサ信号に基づいて取得される情報であればよく、既存制御装置において制御演算用に演算処理が施されたものでもよい。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、既存制御装置により制御されていた制御対象の改造に伴い、改造後の駆動部を制御するために制御対象に追加搭載される電子制御装置である。この電子制御装置は、既存制御装置から出力されるセンサ情報を受信するセンサ情報取得部と、受信されたセンサ情報に基づいて制御対象を制御する制御部と、を備える。「センサ情報」は、既存制御装置に接続されたセンサからのセンサ信号に基づいて取得される情報であればよく、既存制御装置において制御演算用に演算処理が施されたものでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、制御対象の改造に伴う電子制御装置の追加搭載を簡易かつ有効に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】コンバージョンEVへの改造の概略を表す図である。
【
図2】コンバージョンEVの構成を模式的に表す図である。
【
図4】コンバージョンEVの制御時におけるVCU1、VCU2および疑似信号発生装置の通信の概要を表すシーケンス図である。
【
図5】VCU2が実行する車両制御処理の例を表すフローチャートである。
【
図6】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図7】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図8】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図9】疑似信号発生装置が実行する信号処理を表すフローチャートである。
【
図10】変形例1に係るコンバージョンEVの制御時における各装置の通信の概要を表すシーケンス図である。
【
図11】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図12】変形例2に係るコンバージョンEVの制御時における各装置の通信の概要を表すシーケンス図である。
【
図13】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図14】車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
【
図15】変形例3に係る車両制御処理の例を表すフローチャートである。
【
図16】変形例4に係るコンバージョンEVの主要部を模式的に表す図である。
【
図17】変形例5に係るコンバージョンEVの主要部を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0017】
本実施形態では、エンジン車を電気自動車に改造したコンバージョン車(コンバージョンEV)を例示する。コンバージョンEVは、エンジン車の駆動部であったエンジン(第1駆動部)をモータ(第2駆動部:回転機)に置換したものである。その改造に際して、エンジン車に搭載されていた既存の車両制御装置(第1車両制御装置)を取り外すことなく、電気自動車として機能させるための車両制御装置(第2車両制御装置)を追加する。
【0018】
第1車両制御装置と第2車両制御装置とがOBDコネクタを介して接続されており、第1車両制御装置が取得するセンサ情報は、OBD情報として第2車両制御装置に出力される。なお、「センサ情報」は、車両制御装置に接続されたセンサからのセンサ信号に基づいて取得される情報であればよく、その車両制御装置において制御演算用に演算処理が施されたものでもよい。「センサ情報」は、センサ信号をA/D変換した値(センサ値)そのものであってもよいし、センサ値を制御演算用に変換又は置換した値であってもよい。「センサ情報の取得」は、このような演算を経て取得されるものでもよい。
【0019】
第2車両制御装置は、第1車両制御装置から出力されるOBD情報に含まれる第1のセンサ情報と、第2車両制御装置へのセンサ信号の入力(センサ入力)に基づいて直接的に取得される第2のセンサ情報とに基づいて制御量を演算し、モータを適切に制御できる。
【0020】
なお、各車両制御装置は単一の電子制御装置からなるものでもよいし、複数の電子制御装置を含むものでもよい。以下の説明では、車両制御装置を「VCU」と表記し、電子制御装置を「ECU」と表記する。
【0021】
まず、エンジン車からコンバージョンEVへの改造について簡単に説明する。
図1は、コンバージョンEVへの改造の概略を表す図である。図中上段は改造前のエンジン車を示し、下段は改造後のコンバージョンEVを示す。
エンジン車のコンバージョンEVへの改造に際しては、エンジン車のエンジン10、トランスミッション12,燃料タンク14等を取り外し、モータ20、インバータ22、バッテリ24等を新たに搭載する。バッテリ24は、充電可能な二次電池であり、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池として構成され、電力ラインを介してインバータ22に接続される。本実施形態では、エンジン車を制御していたVCU1をそのまま残し、さらにモータ20を制御するためのVCU2を追加搭載する。VCU1が「第1車両制御装置」として機能し、VCU2が「第2車両制御装置」として機能する。
【0022】
コンバージョンEVは、モータ20の駆動により駆動軸26が回転し、その回転力がデファレンシャルギヤ28を介して駆動輪30a,30bに伝達される。インバータ22はスイッチング素子を有し、バッテリ24から供給される直流電流を三相交流に変換してモータ20に供給し、モータ20を回転駆動する。VCU2は、インバータ22の作動ひいてはモータ20の駆動を制御する。なお、図示を省略するが、回生ブレーキによりバッテリ24を充電する回路を設けてもよく、その場合にはモータ20とバッテリ24との間にコンバータが設けられる。VCU2は、コンバージョンEVの制御の際、VCU1に接続されたセンサの検出信号(センサ信号)に基づく情報(センサ情報)も利用する。以下、その詳細について説明する。
【0023】
図2は、コンバージョンEVの構成を模式的に表す図である。
本実施形態のコンバージョンEVは、エンジン車にもともと搭載されていた既存システム50と、新たに追加搭載された追加システム52を備える。既存システム50がVCU1を含み、追加システム52がVCU2を含む。VCU1とVCU2とは、OBDコネクタ54を介して接続されている。OBDコネクタ54は、通信ラインL1を介してVCU1に接続されている。
【0024】
OBD(On-Board Diagnostics)は、車両の異常を監視・検出し、故障内容を記録するシステムであり、改造前のエンジン車にもともと搭載されたものである。現行のOBDII規格では故障診断ツールを用いることにより、車両の故障情報のほか、エンジンの制御情報など、その他の車両情報もモニタできる。この車両情報には本来、VCU1に接続されるセンサのセンサ信号に基づく情報、つまりスロットル開度、吸気温度、外気温度、アクセル開度など種々のセンサ情報が含まれる。なお、「OBD情報」は、車両の故障診断情報としてセンサ情報が含まれるものであればよく、OBDII規格に沿った情報に限られないことは言うまでもない。
【0025】
既存システム50において、VCU1には、エンジンを始動させるために操作されるイグニッション(IGN)スイッチ60、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ62、車速又は車輪速を検出する車速センサ64、操舵角を検出するステアリングセンサ66、外気温を検出する外気温センサ68、ドアを施錠するための施錠スイッチ70などのセンサ・スイッチ類が接続されるとともに、エアコン72、ブレーキ74その他の機器を駆動制御するための各種アクチュエータが接続されている。なお、エンジン車からコンバージョンEVへの改造に際し、スロットル開度や吸気温度などのエンジン制御に特有のセンサ情報を取得するためのセンサについては取り外される。
【0026】
センサ・スイッチ類からVCU1に入力された信号に基づく情報の少なくとも一部はOBD情報に含められ、VCU1からOBDコネクタ54を介して外部に出力される。なお、特定のメータ76は、VCU1に接続される一方、通信ラインL2を介してOBDコネクタ54に直接接続される。このため、メータ76から出力される情報は、VCU1を介することなくOBDコネクタ54を介して外部に出力され得る。メータ76から出力される情報は、VCU1にも入力されてもよい。その場合、メータ76から出力されるOBD情報をVCU1が出力しない構成としてもよい。
【0027】
一方、追加システム52は、モータ20、インバータ22およびバッテリ24を含む追加機器と、追加機器を制御するVCU2と、疑似信号発生装置80とを含むコンバージョンキットとして提供される。コンバージョンキットは、改造前の車両を電動化(EV化)するための改造キットであり、改造前の車両の機能の一部を変更し、新たな機能を追加するパワーアップキットでもある。VCU2には、モータ20の状態(回転位置や相電流など)を検出するセンサ、バッテリ24の状態(電流、電圧、温度など)を検出するセンサなど、VCU1に接続されていない図示略のセンサ(追加機器に固有のセンサ・スイッチ類)が接続されている。
【0028】
VCU2は、通信ラインL3およびコネクタ82を介してOBDコネクタ54と接続されている。それにより、VCU2は、VCU1から出力されるOBD情報を取得できる。VCU2は、そのOBD情報に含まれるセンサ情報と、固有のセンサからのセンサ入力に基づいて取得したセンサ情報とに基づき、モータ20の回転を制御する。
【0029】
疑似信号発生装置80は、所定の通信ラインを介してVCU1と接続される。疑似信号発生装置80は、VCU1から出力される制御信号を受信し、正常な制御が実行されていると認識させるための疑似信号をVCU1へ送信する。VCU1は、本来、エンジンの制御状態が異常であると判定した場合に制御を停止したり、予め設定されたフェイルセーフ処理を実行する(この異常判定時に実行する処理を「異常時処理」ともいう)。このため、改造により制御対象がなくなると異常時処理を実行すべきところ、疑似信号を受信することで異常判定を行わずに済み、改造前に実行していた制御演算処理を継続することができる。この制御の詳細については後述する。
【0030】
なお、本実施形態では疑似信号発生装置80を含めてコンバージョンキットとしたが、コンバージョンキットから疑似信号発生装置80を外してもよい。疑似信号発生装置80は、その制御においてVCU2と直接連携しないため、コンバージョンキットとは分離したオプション装置と位置づけてもよい。VCU2およびそれが制御する追加機器をコンバージョンキットと位置づけてもよい。
【0031】
図3は、VCU2の機能ブロック図である。
VCU2の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コプロセッサ(Co-processor)などの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0032】
なお、VCU1および疑似信号発生装置80も、プロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され演算器に処理命令を供給するソフトウェアにより実現されてもよい。
【0033】
VCU2は、入出力インタフェース部110、通信部112、データ処理部114およびデータ格納部116を含む。入出力インタフェース部110は、外部装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。通信部112は、無線による外部装置との通信処理を担当する。データ処理部114は、入出力インタフェース部110により取得されたデータ、通信部112により取得されたデータ、およびデータ格納部116に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部114は、入出力インタフェース部110、通信部112およびデータ格納部116のインタフェースとしても機能する。データ格納部116は、各種プログラム、設定データおよび取得された各種情報を格納する。データ格納部116は、データ処理部114が演算処理を行う場合のワーキングエリアとして機能するメモリを含む。
【0034】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。入力部120はセンサ情報取得部124を含む。センサ情報取得部124は、VCU1から出力されたOBD情報を取得する。OBD情報にはセンサ情報が含まれる。センサ情報取得部124は、また、VCU2に接続されたセンサからセンサ入力に基づくセンサ情報を取得する。出力部122は、インバータ22等に対して制御指令を出力する。
【0035】
通信部112は、受信部130および送信部132を含む。受信部130は外部情報取得部134を含む。外部情報取得部134は、外部装置から送信される外部情報を受信する。外部情報取得部134は、路車間通信により路側機から外部情報を取得してもよいし、GPS受信機により車両の位置情報を外部情報として取得してもよい。あるいは、インターネットを介してWEB情報を取得してもよい。送信部132は、外部装置に向けて所定のデータを送信する。
【0036】
データ格納部116は、各種プログラムやデータを格納する。データ格納部116は、センサ情報記憶部150、制御情報記憶部152および補正情報記憶部154を含む。センサ情報記憶部150はOBD情報記憶部156を含む。OBD情報記憶部156は、OBD情報に含まれるコードとセンサ情報との対応関係を記憶する。制御情報記憶部152は、OBD情報に含まれるセンサ情報とモータ20の制御量との対応関係を記憶する。補正情報記憶部154は、センサ情報や外部情報に基づく制御量の補正情報(補正値)を記憶する。これらの詳細については後述する。
【0037】
データ処理部114は、制御部140を含む。制御部140は、センサ情報解析部142、制御量演算部144および制御指令部146を含む。センサ情報解析部142は、OBD情報記憶部156が記憶する対応関係に基づき、取得したOBD情報に含まれるセンサ情報を解析する。制御量演算部144は、各センサ情報等に基づき、モータ20の出力とインバータ22の制御電圧などの制御量を演算する。制御指令部146は、演算結果に基づいてインバータ22に制御指令を出力する。
【0038】
図4は、コンバージョンEVの制御時におけるVCU1、VCU2および疑似信号発生装置80の通信の概要を表すシーケンス図である。
コンバージョンEVの制御中において、VCU1に接続された各センサは、車両改造前と同様に検出対象である物理量を検出し(S10)、センサ信号をVCU1へ出力する(S12)。VCU1は、センサ信号に基づくセンサ情報を含むOBD情報を生成し(S14)、出力する(S16)。なお、このOBD情報の生成はOBDII規格に則って行われる。
【0039】
VCU2は、VCU1から出力されたOBD情報を取得すると(S18)、そのOBD情報に含まれるセンサ情報に基づいて制御量を演算し(S20)、各アクチュエータに制御指令を出力する(S22)。それによりモータ20の回転ひいてはコンバージョンEVの走行が制御される。
【0040】
一方、VCU1は、取得したセンサ情報に基づき、車両改造前と同様に制御量を演算し(S24)、制御指令を出力する(S26)。ただし、改造によって取り外されたエンジン等に対する制御指令は、疑似信号発生装置80へ出力される(S28)。疑似信号発生装置80は、その制御指令情報を解析し(S30)、VCU1に対してダミーの正常応答を出力する(S32)。この正常応答は、VCU1の指令に基づいた制御が正常に実行されていることを示す疑似信号である。また、制御指令に限らず、ヘルスチェックとして出力された信号に対しても疑似信号を返却する。
【0041】
すなわち、VCU1の制御対象であるエンジンやトランスミッションが取り外されているため、本来であれば異常検知がなされて通常の制御が中断されてしまうところ、疑似信号を出力することで、VCU1が異常時処理を実行することを回避するものである。VCU1は、あたかもエンジンやトランスミッションが車両改造後も依然として備わっているように制御を継続することとなる。
【0042】
その一方で、VCU2が、電動化された駆動部を実際に駆動することでコンバージョンEVの走行を制御する。エアコンやブレーキなど、車両改造後もそのまま残存する機器(
図2参照)については、VCU1が引き続きそれらの制御を実行する。すなわち、既存のVCU1の機能の一部を引き続き利用しつつ、新たに追加された機器をVCU2が制御することとなる。このため、改造に伴う無駄が少ない。VCU2の機能を必要最小限に留めることができるため、コストも抑制できる。
【0043】
なお、本実施形態では、VCU1からVCU2へエンジン車に固有の制御信号が送信されることはない。VCU2は、VCU1から出力されるセンサ情報を利用してモータ20の制御を行うが、VCU1から出力されるエンジン車に固有の制御信号を利用したモータ20の制御は行わない。また、VCU2からVCU1へ制御信号が送信されることもない。セキュリティの都合上、エンジン車に搭載されていなかった外部装置からの制御指令を、VCU1が受け付けないためである。
【0044】
ここで、VCU2が実行する制御の具体例について説明する。
図5は、VCU2が実行する車両制御処理の例を表すフローチャートである。本図の処理は所定の制御周期で繰り返し実行される。
図6~
図8は、車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。以下、VCU2による制御処理を、
図3に示した各機能を適示しながら説明する。
【0045】
図5に示すように、まず、センサ情報取得部124がOBD情報を取得し(S40)、センサ情報解析部142がそのOBD情報に含まれるセンサ情報を解析する(S42)。この解析には
図6に示すセンサ情報参照テーブル170が用いられる。OBD情報記憶部156がセンサ情報参照テーブル170を保持している。センサ情報参照テーブル170では、複数のパラメータIDが設定され、そのパラメータIDごとにパラメータ(センサ情報の種別)およびデータ(検出値)が対応づけられる。OBDII規格においては、パラメータIDのことをPID(Parameter ID)と称す。
【0046】
図示の例ではパラメータID:「11」がアクセル開度を示し、そのデータが0~100(%)の範囲で示される。パラメータID:「0D」が車速を示し、そのデータが0~255(km/h)の範囲で示される。OBD情報のコードとしてパラメータIDが記録されているため、センサ情報解析部142は、OBD情報におけるパラメータIDを特定することによりセンサ情報を解析できる。
【0047】
なお、センサ情報参照テーブル170には、VCU2による制御で用いられるパラメータのみが設定されている。このため、OBD情報にパラメータIDに対応するコード(以下、「パラメータコード」ともいう)が含まれない場合、センサ情報解析部142は、そのOBD情報を無視する。あるいは、センサ情報取得部124が、パラメータコードが含まれないOBD情報を不要とみなして取得しない、あるいは破棄するようにしてもよい。
【0048】
図5に戻り、制御量演算部144は、解析されたセンサ情報に基づいてモータ出力を演算し(S44)、インバータ22に供給すべき制御電圧を演算する(S46)。この演算には、
図7に示す制御量参照テーブル172および
図8に示す制御量補正テーブル174が用いられる。制御情報記憶部152が制御量参照テーブル172を保持し、補正情報記憶部154が制御量補正テーブル174を保持している。
【0049】
制御量参照テーブル172では、センサ情報に基づいて必要なモータ出力(kW)、制御電圧(V)が対応づけられている。図示の例ではアクセル開度(%)に対してモータ出力W、制御電圧Vが設定される。添え字はアクセル開度に対応する値であることを示している。なお、制御電圧Vは、三相交流の電圧パターンとして設定される。アクセル開度が大きいほどモータ出力が大きく、制御電圧も大きくなる。
【0050】
制御量補正テーブル174では、センサ情報に基づく制御量の補正情報(補正値)が対応づけられている。図示の例ではセンサ情報としての外気温に基づく補正係数が設定されている。この補正係数は、インバータ22の制御の時定数であり、
図7の制御電圧(V)に到達するまでの時間値として設定される。
【0051】
具体的には、外気温の基準値を3.0℃とし、取得した外気温が基準値よりも高ければ時定数Taが設定され、基準値以下であれば時定数Tbが設定される。添え字はアクセル開度に対応する値であることを示している。外気温が基準値以下であれば、車両走行時にスリップが生じる可能性があるため、時定数が大きく設定される(Tb>Tb)。それにより、制御目標値への応答性が緩和され、スリップが防止される。アクセル開度が大きいほど時定数も大きくなる。
【0052】
図5に戻り、このようにして制御量が演算されると、制御指令部146がインバータ22に対してその制御量に応じた制御指令を出力する(S48)。
【0053】
図9は、疑似信号発生装置80が実行する信号処理を表すフローチャートである。
疑似信号発生装置80は、VCU1から制御指令を受信すると(S50)、その制御指令を解析する。疑似信号発生装置80は、VCU1から出力される制御信号と制御パラメータとを対応づけたテーブルを保持する。例えば、VCU1からはエンジン制御のパラメータであるスロットル開度や燃料噴射量などに関する指令信号が出力されるため、疑似信号発生装置80がこれを受信する。
【0054】
疑似信号発生装置80は、解析結果に応じた疑似応答を設定し(S54)、疑似信号としてVCU1へ出力する(S56)。すなわち、疑似信号発生装置80は、VCU1からスロットル開度の指令信号を受信した場合には、その指令どおりにスロットルが制御されたことを示す正常応答を出力する。燃料噴射量の指令信号を受信した場合には、その指令どおりに燃料噴射が制御されたことを示す正常応答を出力する(
図4参照)。ここでの説明においては、便宜的に制御指令を用いて動作を説明したが、ヘルスチェック信号についても同様であることは言うまでもない。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態のコンバージョンEVでは、新たに追加したVCU2が、既存のVCU1から出力されるOBD情報を取得し、そのOBD情報に含まれるセンサ情報に基づいてモータ20を制御する。このため、VCU1に接続されたセンサをVCU2に接続し直す必要がなく、VCU2の設置に伴う部品や配線等の増加を最小限に抑えることができ、エンジン車の改造に伴う作業負担が少なくなる。VCU2の機能を必要最小限に留めることができるため、コストも抑制できる。
【0056】
また、既存のVCU1およびその周辺部品を有効活用することで、交換する部品点数を最小限に留めることができ、また部品のレイアウト変更も少なくて済む。部品製造時や廃棄時に発生する二酸化炭素も削減できる。さらに、VCU2へのセンサ入力に基づいて取得されるセンサ情報と、VCU2が受信する外部情報を利用することで、安全性のより高い制御や運転者に対してより充実した情報提供を実現できる。
【0057】
VCU2は、VCU1から出力されるセンサ情報をそのまま利用する。つまり、VCU1から出力されるエンジン制御用の制御信号をモータ制御の制御信号に変換するわけではない。VCU2は、VCU1を経由して入力されるセンサ情報をそのまま利用する。すなわち、特許文献1に記載のシステムのようにエンジンの制御量をセンサ情報に戻したうえでモータの制御量を演算するなど、VCU2がVCU1の制御信号を詳細に解析する必要はない。このため、VCU1の制御コードの詳細を知らないサードパーティであってもシステムの構築が可能となる。すなわち、車両改造に伴う制約が少ない。このことが、コンバージョン車の市場の活性化ひいては低炭素社会への実現にも貢献する。
【0058】
また、OBD情報の取得のためにエンジン車に設けられていたOBDコネクタ54を利用できる。すなわち、VCU2のコネクタ82をOBDコネクタ54に接続するだけでセンサ情報を取得でき、エンジン車に既存の構成をそのまま活用できる。エンジン車としてOBDコネクタの設置が法規上義務づけられた車両が多数存在するため、上記実施形態の運用が円滑に行えるといった利点もある。
【0059】
さらに、疑似信号発生装置80を追加搭載することで、VCU1から出力される制御信号に対してエンジン等から正常応答を受信できないことで異常処理を実行してしまうことを防止できる。疑似信号発生装置80がその制御信号を受信し、正常な制御が実行されていると認識させるための疑似信号をVCU1へ送信する。このため、VCU1は、あたかもエンジン等が取り外されていないかのように、改造前に実行していた制御演算処理を継続する。一方、VCU2は、VCU1から出力されるセンサ情報は利用するものの、VCU1から出力される制御信号を利用してモータ20の制御を行うことはない。すなわち、VCU1が制御エラー等を認識して異常処理を行ってしまうことを防止でき、かつ、VCU2がVCU1から必要な情報のみを取得して用いることで、改造後のシステムを滞りなく運用できる。
【0060】
本実施形態では
図1に示したように、車両の改造に伴い、エンジン10,トランスミッション12,燃料タンク14等が取り外され、モータ20,インバータ22,バッテリ24等に置換される。そしてさらにVCU2が搭載される。この新たに追加搭載されるモータ20,インバータ22,バッテリ24,VCU2等をコンバージョンキットとして構成し、市場に流通させてもよい。このコンバージョンキットに疑似信号発生装置80を加えてもよい。そのコンバージョンキットにマニュアルをつけるなどすることで、追加搭載部品の詳細を知らなくても手軽に改造を行えるようになる。そのことがコンバージョン車の普及にもつながる。
【0061】
[変形例]
(変形例1)
図10は、変形例1に係るコンバージョンEVの制御時における各装置の通信の概要を表すシーケンス図である。
図11は、車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
図10に示すように、変形例1では、VCU2が、VCU1から出力されるOBD情報に含まれるセンサ情報(第1センサ情報)と、センサ入力に基づいて取得されるセンサ情報(第2センサ情報)とに基づいてモータ20の回転を制御する。ここでは、第2センサ情報として、雨検知センサの検出信号に基づいて取得される降雨量が取得される場合を例に説明する。
【0062】
VCU2は、第2センサ情報(例えば降雨量情報)を取得する一方(S15)、OBD情報を取得する(S18)。VCU2は、OBD情報に含まれる第1センサ情報と、第2センサ情報とに基づいて制御量を演算する(S21)。この演算に際し、
図8の制御量補正テーブル174に代えて
図11に示す制御量補正テーブル180が用いられる。
【0063】
図11の例では、外気温および降雨量に基づく補正係数が設定されている。この補正係数は、インバータ22の制御の時定数であり、
図7の制御電圧Vに到達するまでの時間値として設定される。
【0064】
具体的には、外気温の基準値を3.0℃とする一方、降雨量の基準値を5mm/hとし、外気温が3.0℃よりも高く、降雨量が5mm/hよりも少ない状況を基準範囲とする。そして、外気温および降雨量が基準範囲であれば、通常の時定数Taが設定される。外気温が3.0℃よりも高く、降雨量が5mm/h以上であれば時定数Tcが設定される。外気温が3.0℃以下であり、降雨量が5mm/hより少なければ時定数Tbが設定される。外気温が3.0℃以下であり、降雨量が5mm/hより多ければ時定数Tdが設定される。時定数の大きさは、Ta<Tc<Tb<Tdとされる。なお、各時定数の添え字はアクセル開度に対応する値であることを示している。アクセル開度が大きいほど時定数も大きくなる。
【0065】
図10に戻り、このようにして制御量が演算されると、制御指令部146がインバータ22に対してその制御量に応じた制御指令を出力する(S22)。
【0066】
(変形例2)
図12は、変形例2に係るコンバージョンEVの制御時における各装置の通信の概要を表すシーケンス図である。
図13および
図14は、車両制御処理において参照されるテーブルの構成を表す概念図である。
図12に示すように、変形例2では、VCU2が、入力部120に入力されたOBD情報およびセンサ情報と、受信部130が受信した外部情報とに基づいてモータ20の回転を制御する。ここでは、外部情報として車両の位置情報(地図情報)が取得される場合を例に説明する。
【0067】
VCU2は、外部情報を受信し(S13)、センサ入力に基づいて第2センサ情報を取得する一方(S15)、VCU1からのOBD情報を取得する(S18)。VCU2は、OBD情報に含まれる第1センサ情報と、第2センサ情報と、外部情報とに基づいて制御量を演算する(S21)。第1センサ情報として車速情報が含まれる。この演算に際し、
図13に示す速度参照テーブル182および
図14に示す制御量参照テーブル184が用いられる。
【0068】
速度参照テーブル182では、車両前方のカーブの曲率半径(m)に対し、そのカーブを通過するのに安全な車速である安全速度Vs(km/h)が設定されている。カーブの曲率半径が大きいほど安全速度Vsが高くなる。添え字はカーブの曲率半径に対応する値であることを示している。
【0069】
制御量参照テーブル184では、車速(km/h)に対し、その車速を得るために必要なモータ出力(kW)、制御電圧(V)が対応づけられている。図示の例では車速(km/h)に対してモータ出力Ws、制御電圧Vsが設定される。添え字は車速に対応する値であることを示している。車速が速いほどモータ出力が大きく、制御電圧も大きくなる。
【0070】
図12に戻り、制御量演算部144は、取得された地図情報から車両前方のカーブの曲率半径を取得し、速度参照テーブル182を参照して車速を設定し、さらに制御量参照テーブル184を参照してインバータ22の制御電圧を設定する。このようにして制御量が演算されると、制御指令部146がインバータ22に対してその制御量に応じた制御指令を出力する(S22)。
【0071】
(変形例3)
図15は、変形例3に係る車両制御処理の例を表すフローチャートである。
変形例3では、上記実施形態の制御に対し、さらにバッテリ温度が異常に上昇したときにモータ20の負荷を軽減する異常時処理が追加される。すなわち、バッテリ24の温度が予め定める正常範囲を外れた場合(許容温度を超えた場合)、モータ20の出力を低減するなどしてバッテリ24のさらなる過熱を防止する。
【0072】
まず、センサ情報取得部124がOBD情報およびセンサ情報(第2センサ情報)を取得する一方(S60)、外部情報取得部134が外部情報を取得する(S62)。第2センサ情報には、バッテリ24の温度情報と、車両の積載重量の情報が含まれる。このバッテリ温度情報はバッテリ24に取り付けられた温度センサにより検出され、積載重量情報は車両に取り付けられた積載重量センサにより検出され、いずれもVCU2に入力される。一方、外部情報には、車両が走行する道路の勾配情報(地図情報)が含まれる。地図情報は、例えば所定のWEBサイトから入手してもよい。センサ情報解析部142は、OBD情報に含まれるセンサ情報を解析し、アクセル開度情報および外気温情報を取得する(S64)。
【0073】
制御量演算部144は、まず、アクセル開度および外気温に基づき、上記実施形態と同様にモータ出力を演算し(S66)、インバータ22に供給すべき制御電圧を演算する(S68)。続いて、車両の走行状態に基づいてバッテリ24が過熱しないようその制御電圧を適宜補正する。
【0074】
すなわち、制御量演算部144は、道路勾配および車両総重量に基づいて車両の走行抵抗を算出する(S70)。車両総重量は、車両重量(既知)に積載重量を加算することで得られる。そして、アクセル開度、走行抵抗および外気温に基づき、バッテリ24の許容温度(バッテリ温度の正常範囲)を設定する。この設定には、図示略のバッテリ温度参照テーブルを用いてもよい。
【0075】
アクセル開度が大きいほど、道路勾配が大きいほど、また車両総重量が重いほどモータ負荷が大きくなり、バッテリ温度は高くなる。さらに外気温が高いほどバッテリ温度は上昇しやすい。外気温が低ければバッテリ24の冷却効果があるため、バッテリ温度の一時的な上昇は許容されるが、外気温が高ければバッテリ温度の上昇がバッテリ24の機能を低下させる可能性がある。そこで、状況に応じたバッテリ温度の正常範囲が設定され、検出されたバッテリ温度がその正常範囲を外れている場合に対処することとしている。
【0076】
バッテリ温度が正常範囲にあれば(S74のY)、制御指令部146は、S68の演算結果に基づき、インバータ22に制御指令を出力する(S76)。バッテリ温度が正常範囲になければ(S74のN)、制御部140は、インバータ22に印加する制御電圧を低減するか又は電圧印加を停止し(S78)、エラー報知する(S80)。エラー報知は、車内の表示装置に表示させてもよいし、警告音を出力してもよい。このような処理により、バッテリ24の劣化を抑制できる。
【0077】
(変形例4)
図16は、変形例4に係るコンバージョンEVの主要部を模式的に表す図である。
上記実施形態では、
図2に示したように、VCU2のコネクタ82をOBDコネクタ54に接続した。これに対し、変形例4では、VCU1とOBDコネクタ54とを接続するハーネス200から分岐させたハーネス210にVCU2を接続する。それにより、OBDコネクタ54には改造前と同様、外部から故障診断ツール220を接続できる。このような構成であっても、VCU2は、VCU1から出力されるOBD情報を取得できる。
【0078】
(変形例5)
図17は、変形例5に係るコンバージョンEVの主要部を模式的に表す図である。
変形例5では、OBDコネクタ54にコネクタ282を介して接続可能なハブ230(OBDハブ)が設けられる。ハブ230に対し、VCU2および故障診断ツール220をそれぞれ接続できる。このような構成であっても、VCU2は、VCU1から出力されるOBD情報を取得できる。
【0079】
[他の変形例]
上記実施形態では述べなかったが、VCU1とOBDコネクタ54との間に別の回路や機器が介在してもよい。同様に、VCU2とコネクタ82との間に別の回路や機器が介在してもよい。「VCU1とVCU2とがOBDコネクタ54を介して接続されること」は、VCU1とVCU2との間にOBDコネクタ54が存在すれば足りる概念であり、OBD情報がそのOBDコネクタ54を経由して送信されればよい。すなわち、ここでいう「接続」とは、両VCUの間に別の介在物がある場合も含まれる概念である。
【0080】
上記実施形態(
図2参照)の構成において、VCU2にさらにOBDコネクタを設け、故障診断ツールを接続可能に構成してもよい。それにより改造前と同様、VCU1から出力されるOBD情報を故障診断ツールによっても取得できる。
【0081】
上記実施形態では、VCU1に入力されたセンサ情報をVCU2がOBDコネクタ54を介して取得する構成を例示した。変形例においては、VCU2がOBDコネクタ54とは別の通信ラインを介してVCU1と接続され、その通信ラインを介してセンサ情報を取得するようにしてもよい。VCU2がVCU1と無線接続され、センサ情報を取得できるようにしてもよい。
【0082】
上記実施形態では、車両制御の制御量を予め用意した参照テーブルを用いて順次設定する例を示した。変形例においては、複数のセンサ情報を用いて参照される制御マップを利用してもよい。また、少なくともいずれかの制御量についてはテーブル等を用いることなく、数式を用いた演算処理により算出してもよい。
【0083】
上記実施形態では、VCU1が取得したセンサ情報をそのままOBD情報に含めてVCU2へ出力する構成を例示した。変形例においては、VCU1が取得したセンサ情報をVCU1において補正し、その補正後のセンサ情報をOBD情報に含めてVCU2へ出力してもよい。VCU1へのセンサ入力に基づくセンサ情報を、エンジン制御に用いるに際してより正確に補正する場合など、VCU1が取得するセンサ情報とVCU1から出力されるセンサ情報とが若干異なる場合が該当する。
【0084】
上記実施形態では述べなかったが、センサ情報であるアクセル開度および車速に基づいて駆動軸26に要求される要求トルクを設定し、モータ20によってその要求トルクが出力されるようインバータ22の制御量を設定してもよい。
【0085】
上記実施形態では、エンジン車から電気自動車への改造に伴ってトランスミッションを取り外す例を示した。変形例においては、トランスミッションを残し、モータに接続してもよい。
【0086】
上記実施形態では述べなかったが、VCU1は単一のECUからなるものでもよいし、複数のECUを含むものでもよい。具体的には、VCU1が、エンジンを制御するエンジンECU、トランスミッションを制御するトランスミッションECU、ブレーキを制御するブレーキECU、エアコンを制御するエアコンECUなど、種々のECUを含むものでもよい。各ECUが通信ラインにて接続され、CAN等の通信プロトコルにしたがって互いに通信可能に構成されてもよい。
【0087】
そして、各ECUがOBDコネクタ54に接続されてもよい。エンジン車をコンバージョン車に改造した際、VCU2が、エンジンECUに入力されるセンサ情報をOBD情報として受信してもよい。トランスミッションECUなど、入力されるセンサ情報がVCU2にて用いられないECUについては取り外してもよい。
【0088】
あるいは、VCU1が、エンジンECU、トランスミッションECU、ブレーキECU、エアコンECUなどの種々のECUを統合制御するマネージャECUを含むものでもよい。各ECUが通信ラインにて接続され、マネージャECUに他のECUのセンサ情報等が入力される構成としてもよい。マネージャECUがOBDコネクタ54に接続される。そして、エンジン車をコンバージョン車に改造した際、VCU2が、マネージャECUに入力されるセンサ情報をOBD情報として受信してもよい。
【0089】
上記実施形態では、コンバージョン車としてエンジン車から電気自動車(EV)に改造する車両を示した。変形例においては、エンジン車から燃料電池車(FCV)に改造するコンバージョン車(コンバージョンFCV)についてもVCU1とVCU2との関係、すなわち上記実施形態の構成を同様に適用できる。コンバージョンFCVは、モータ、インバータおよびバッテリに加えて燃料電池、燃料タンクが搭載される。
【0090】
また、エンジン車からハイブリッド車(HV)に改造するコンバージョン車、エンジン車からプラグインハイブリッド車(PHV)に改造するコンバージョン車、ハイブリッド車(HV)から電気自動車(EV)に改造するコンバージョン車についても、既存のVCUに新たなVCUを追加する場合、上記実施形態の構成を同様に適用できる。すなわち、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)およびプラグインハイブリッド車(PHV)など、駆動部としてモータを用いるものを「電動車両」と捉える場合、エンジン車から電動車両に改造するコンバージョン車について上記実施形態の構成を適用できる。
【0091】
さらに、例えば電気自動車(EV)を改良する場合など、駆動方式が同じ分類の車両において制御系をアップグレードするような場合にも、既存のVCU(ECU)に新たなECUを追加する場合には上記実施形態の構成を同様に適用できる。
【0092】
また、既存のECU(ECU1)により制御されていた制御対象の改造に伴い、改造後の駆動部を制御するために新たなECU(ECU2)が追加搭載される場合にも、上記実施形態の構成を同様に適用できる。より詳細には、ECU1が受信したセンサ情報等の情報の少なくとも一部をECU2に伝達し、ECU2が伝達された情報に基づいて駆動部を制御することで適用することができる。制御対象はエアモビリティ、船舶、二輪車、フォークリフト、工業用車両、農業用車両その他のモビリティであってもよい。あるいは、ECUが搭載されるロボットであってもよい。
【0093】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0094】
10 エンジン、12 トランスミッション、20 モータ、22 インバータ、24 バッテリ、26 駆動軸、28 デファレンシャルギヤ、50 既存システム、52 追加システム、54 OBDコネクタ、60 イグニッションスイッチ、62 アクセル開度センサ、64 車速センサ、66 ステアリングセンサ、68 外気温センサ、70 施錠スイッチ、72 エアコン、76 メータ、80 疑似信号発生装置、82 コネクタ、110 入出力インタフェース部、112 通信部、114 データ処理部、116 データ格納部、120 入力部、122 出力部、124 センサ情報取得部、130 受信部、132 送信部、134 外部情報取得部、140 制御部、142 センサ情報解析部、144 制御量演算部、146 制御指令部、150 センサ情報記憶部、152 制御情報記憶部、154 補正情報記憶部、156 OBD情報記憶部、170 センサ情報参照テーブル、172 制御量参照テーブル、174 制御量補正テーブル、180 制御量補正テーブル、182 速度参照テーブル、184 制御量参照テーブル、200 ハーネス、210 ハーネス、220 故障診断ツール、230 ハブ、L1 通信ライン、L2 通信ライン、L3 通信ライン。