(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092537
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】アミノ酸またはペプチド増強剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240701BHJP
A23K 50/75 20160101ALI20240701BHJP
A23K 10/16 20160101ALN20240701BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A23K50/75
A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208552
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】桑原 大知
(72)【発明者】
【氏名】岨 稔康
(72)【発明者】
【氏名】和才 昌史
(72)【発明者】
【氏名】大塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】井尻 大地
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B065
【Fターム(参考)】
2B005DA03
2B005DA05
2B005MA01
2B150AA05
2B150AA20
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2B150DD47
4B065AA01X
4B065AC14
4B065CA05
4B065CA09
4B065CA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】家禽中のアミノ酸又はペプチドの含有量を増加させるアミノ酸もしくはペプチド増強剤、又はアミノ酸又はペプチドの増強方法の提供。
【解決手段】カロテノイドを産生する微生物を含む、アミノ酸もしくはペプチド増強剤、又はカロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸又はペプチドの増強方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロテノイドを産生する微生物を含む、アミノ酸又はペプチド増強剤。
【請求項2】
前記微生物がグラム陰性菌である、請求項1に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
【請求項3】
前記微生物がパラコッカス属細菌である、請求項1又は2に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
【請求項4】
前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、スレオニン、アルギニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、プロリン、及びβ-アラニンから選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
【請求項5】
前記ペプチドがカルノシンである、請求項1~4のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む、家禽用飼料。
【請求項7】
前記微生物を0.01~3質量%含む、請求項6に記載の家禽用飼料。
【請求項8】
カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸又はペプチドの増強方法。
【請求項9】
カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を給餌することを含む、アミノ酸又はペプチドの含有量が増加した家禽肉の製造方法。
【請求項10】
前記微生物がグラム陰性菌である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物がパラコッカス属細菌である、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、スレオニン、アルギニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、プロリン、及びβ-アラニンから選ばれる少なくとも一種である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドがカルノシンである、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記家禽用飼料が、前記微生物を0.01~3質量%含む、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽体内のアミノ酸又はペプチドの含有量を増強するアミノ酸又はペプチド増強剤、当該増強剤を含む家禽用飼料、及び当該家禽用飼料を家禽に給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸もしくはペプチドの増強方法又は家禽肉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、微生物、藻類、細菌、植物及び動物の組織及び器官など天然に広く存在する色素である。カロテノイドは食品、飲料の着色剤としての食品分野、サケ、マス、マダイ、エビなどの魚介類の肉あるいは表皮、ニワトリなどの家禽類の肉、表皮、卵黄の色調改善などを目的とした飼料分野での用途が拡大している。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2011-55792)には、家禽の食肉の肉質を軟化させ、食感を向上させる食感改善用家禽飼料、食感の改善された食肉の製造方法及び家禽の飼育方法、並びに家禽用肉質軟化剤が開示されている。特許文献1には、飼料中にファフィア酵母由来のアスタキサンチンを含有させて家禽に給餌することで、せん断応力を減少させ、食感を大幅に改善したことが示されている。しかしながら、特許文献1には、飼料中にファフィア酵母由来のアスタキサンチンを含有させて家禽に給餌するにより、家禽体内のアミノ酸やペプチド量が増加することは示されていない。
【0004】
ところで、特許文献2(WO2021/177464A1)には、バチルス属細菌の生菌剤が配合された鶏用飼料を特徴とする、鶏肉における遊離アミノ酸又はその誘導体量を増強するための鶏用飼料及び鶏の飼育方法が開示されている。特許文献2には、バチルス・ズブチルス生菌の給餌により、鶏肉においてうま味を向上するアミノ酸及びその誘導体含量等の増強が可能であることが示唆されているが、バチルス属細菌はアスタキサンチンを生産しないことも知られている。
【0005】
特許文献3(特開2014-93987)には、オキアミ脱脂粉末及び/又はオキアミ抽出物が配合された鶏用飼料を特徴とする、鶏の胸肉及びササミにおけるイミダゾールペプチドを増強するための鶏用飼料及び鶏の飼育方法が開示されている。特許文献3では、オキアミの有するヒスチジンに着目し、オキアミの給餌により、鶏の胸肉及びササミにおけるカルノシン及びアンセリン含量増強が可能であることが示唆されている。
【0006】
ここで、カルノシンは、β-アラニンとヒスチジンが結合したペプチドである。カルノシンは、生体内において筋肉や脳組織に存在していることが知られている。また、カルノシンは、疲労回復や健康維持に関連することが知られており、機能性成分としてサプリメントや機能性食品等に添加されている。
【0007】
これまでに家禽体内のアミノ酸又はペプチド量と、パラコッカス属細菌等のカロテノイドを産生する微生物との関係は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-55792号公報
【特許文献2】国際公開第2021/177464号パンフレット
【特許文献3】特開2014-93987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況において、家禽体内のアミノ酸又はペプチド含有量を増加させるアミノ酸又はペプチド増強剤や方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、鋭意研究を行った結果、パラコッカス属細菌を含む飼料で家禽を飼育すると、アミノ酸又はペプチドが増加することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] カロテノイドを産生する微生物を含む、アミノ酸又はペプチド増強剤。
[2] 前記微生物がグラム陰性菌である、請求項1に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
[3] 前記微生物がパラコッカス属細菌である、請求項1又は2に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
[4] 前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、スレオニン、アルギニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、プロリン、及びβ-アラニンから選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
[5] 前記ペプチドがカルノシンである、請求項1~4のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤。
[6] 請求項1~5のいずれか1項に記載のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む、家禽用飼料。
[7] 前記微生物を0.01~3質量%含む、請求項6に記載の家禽用飼料。
[8] カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸又はペプチドの増強方法。
[9] カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を給餌することを含む、アミノ酸又はペプチドの含有量が増加した家禽肉の製造方法。
[10] 前記微生物がグラム陰性菌である、請求項8又は9に記載の方法。
[11] 前記微生物がパラコッカス属細菌である、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、スレオニン、アルギニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、プロリン、及びβ-アラニンから選ばれる少なくとも一種である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
[13] 前記ペプチドがカルノシンである、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
[14] 前記家禽用飼料が、前記微生物を0.01~3質量%含む、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、カロテノイドを産生する微生物を含むアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は家禽用飼料を提供することができる。本発明の一態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤により、家禽体内(浅胸筋等の肉を含む)のアミノ酸又はペプチドの総量を増加させることができる。本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤により、家禽体内(浅胸筋等の肉を含む)における特定のアミノ酸量又は特定のペプチド量を増加させることができる。また、本発明は、カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を家禽に給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸もしくはペプチドの増強方法又はアミノ酸もしくはペプチドの含有量が増加した家禽肉の製造方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤によってカルノシンが家禽体中に高含量で蓄積されるため、家禽の疲労を回復させる又は健康状態を改善させることが期待される。また、カルノシンの含有量が増加した家禽肉をヒトが摂取することにより、疲労回復効果又は健康状態改善効果が期待される。グルタミン酸やアスパラギン酸は旨み成分であり、本発明により家禽体内のグルタミン酸量やアスパラギン酸量が増加することにより、家禽の旨みが増すことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、カロテノイドを産生する微生物を含むアミノ酸又はペプチドの増強剤、当該増強剤を含む家禽用飼料、当該家禽用飼料を家禽に給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸もしくはペプチドの増強方法又はアミノ酸もしくはペプチドの含有量が増加した家禽肉の製造方法に関する。また、本発明は、アミノ酸又はペプチド増強剤として使用するためのカロテノイドを産生する微生物にも関する。
【0015】
本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む家禽用飼料を家禽に給餌して飼育すると、家禽体内のアミノ酸含有量又はペプチド含有量が、対照家禽と比較して顕著に増大する。本明細書において、家禽体内とは、家禽全体又は家禽の部分を意味し、例えば家禽の肉(例えば胸肉)、血液、脂肪又は皮を挙げることができる。
【0016】
アミノ酸又はイミダゾールジペプチド等のペプチドは、疲労回復作用又は健康維持作用を有することが知られている。したがって、本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の方法により、アミノ酸又はペプチドが家禽体内に高含量で蓄積されると、家禽の疲労を回復させること又は家禽の健康を維持すること、あるいは、当該家禽の肉を摂取するヒトにおける疲労を回復させること又は健康を維持することが期待される。
【0017】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物は、カロテノイドを産生する微生物であれば特に限定されない。本発明の一態様において、カロテノイドを産生する微生物は、例えば、カロテノイドを産生するグラム陰性菌である。グラム陰性菌は、グラム染色により紫色に染色されない細菌である。グラム陰性菌はカロテノイドを産生するグラム陰性菌であればいずれでもよいが、病原性を有さないグラム陰性菌が好ましい。病原性を有さないグラム陰性菌は、本発明のアミノ酸若しくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料として用いた場合、発熱や低血圧やエンドトキシンショックを誘発しないグラム陰性菌である。カロテノイドを産生し、かつ病原菌を有さないグラム陰性菌は、限定されるわけではないが、例えば、プロテオバクテリア門(シュードモナス菌、パラコッカス菌等)、シアノバクテリア門、スピロヘータ門、クロロビウム門、バクテロイデス門が挙げられる。本発明において、グラム陰性菌は、好ましくはParacoccus属に属する細菌(以下、「パラコッカス属細菌」ともいう)である。また、本発明の別の態様において、カロテノイドを産生する微生物は、例えば、緑藻類Haematococcus pluvialis等のカロテノイドを産生する藻類、赤色酵母Phaffia rhodozyma等のカロテノイドを産生する酵母、Paracoccus属に属する細菌、Brevundimonas属に属する細菌、Erythrobacter属に属する細菌等のカロテノイドを産生する細菌が挙げられる。本発明においては、好ましくはParacoccus属に属する細菌、Brevundimonas属に属する細菌又はErythrobacter属に属する細菌が用いられ、より好ましくはParacoccus属に属する細菌が用いられる。Paracoccus属、Erythrobacter属及びBrevundimonas属は、いずれもProteobacteria門、Alphaproteobacteria鋼に分類され、細菌分類学上の共通性があるため、これらの属に属する細菌を使用することが可能である。
【0018】
本発明において、パラコッカス属細菌は、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcusii、Paracoccus haeundaensis及びParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ、Paracoccus carotinifaciens又はParacoccus zeaxanthinifaciensがより好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。パラコッカス属細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)及びParacoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。Erythrobacter属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばErythrobacter JPCC M種(特開2008-259452)、Erythrobacter JPCC O種(特開2008-259449)などが挙げられる。Brevundimonas属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばBrevundimonas SD212株(特開2009-27995)、Brevundimonas FERM P-20515, 20516株(特開2006-340676)、Brevundimonas vesicularis(Gene, Vol.379, p.101-108, 1 Sep 2006)などが挙げられる。E-396株及びA-581-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)を国際寄託当局として以下のとおり国際寄託されている。
E-396株
識別のための表示:E-396、受託番号:FERM BP-4283、原寄託日:平成5年(1993年)4月27日
A-581-1株
識別のための表示:A-581-1、受託番号:FERM BP-4671、原寄託日:平成6年(1994年)5月20日
【0019】
本発明において、カロテノイドを産生する細菌は、好ましくは16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列がE-396株の塩基配列と実質的に同一である細菌が用いられる。ここで、「実質的に同一」とは、DNAの塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し、塩基配列が好ましくは90%以上、95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上相同であることを意味する。同一性・相同性は、例えば、遺伝子解析ソフトClustal Wにより決定することができる。
【0020】
この16SリボソームRNAの塩基配列の同一性・相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAの塩基配列は遺伝的に安定であるので、その同一性・相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の信頼度が格段に向上する。
【0021】
Paracoccus carotinifaciens E-396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、他のカロテノイド産生細菌である、Paracoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、及びParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95.7%、及び95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。よって、これらの菌株はカロテノイドを産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。このため、これらの菌株は本発明に好ましく用いられる。
【0022】
本発明の実施例において使用したアミノ酸又はペプチド増強剤は、パラコッカス属細菌の乾燥菌体を含むが、その他のカロテノイド産生微生物、例えば、カロテノイドを産生する酵母や藻類も、本発明の目的に対して同様に有効であることが期待される。
【0023】
本発明の実施例において使用した乾燥菌体は、カロテノイドを含む細菌を乾燥した粉末を含む。例えば、本発明において、このような乾燥菌体は、カロテノイドを産生する微生物を培養して得られる培養物を乾燥し、粉末化することにより得ることができる。本発明において、カロテノイドを産生する微生物は、微生物の培養物を含む。微生物の培養物は、当該微生物の培養液、培養菌体そのもの(乾燥菌体を含む)、微生物の分解物又は微生物の破砕物を含む。本発明において、カロテノイドを産生する微生物は、微生物の培養物からアスタキサンチン等のカロテノイドを抽出したものでもよい。
【0024】
微生物の培養方法は、カロテノイドを産生する条件であればいずれの方法でもよく、当業者であれば、公知の方法から適宜選択、変更することができる。
【0025】
例えば、培養培地には、カロテノイドを産生する微生物が生育するのに必要な炭素源、窒素源、無機塩及び必要に応じてビタミン、アミノ酸、核酸塩基等の物質を含み得る。培地のpHは、好ましくは6~10に調整し、培養条件は、15~80℃、好ましくは20~35℃であり、通常、1~20日間、好ましくは2~12日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振盪培養あるいは攪拌培養が挙げられる。
【0026】
また、培養物の乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥、流動乾燥、噴霧造粒乾燥、噴霧造粒流動乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。
【0027】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物は、粉末、ペレット状、ペースト状又はフレーク状に成形して用いてもよい。
【0028】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物の乾燥菌体は、市販品を使用することもできる。そのような市販品としては、例えば、Panaferd-P又はPanaferd-AX(ENEOSテクノマテリアル株式会社、東京)を挙げることができる。
【0029】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物に含まれるカロテノイドの種類は、アスタキサンチンを含む限り特に限定されず、アドニルビン、アドニキサンチン等を含んでいてもよい。また、本発明のカロテノイドを産生する微生物に含まれるカロテノイドの量は特に限定されない。Panaferd-Pに含まれるカロテノイドをHPLCにて測定した結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
本発明において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む家禽用飼料を家禽に給餌することにより、家禽体内におけるアミノ酸又はペプチドの含有量が増加する。したがって、本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む家禽用飼料を家禽に給餌することを含む、アミノ酸もしくはペプチドの増強方法又は家禽肉の製造方法が提供される。家禽肉の製造方法により製造される家禽肉は、アミノ酸の含有量又はペプチドの含有量が増加している。
【0032】
本発明のカロテノイドを産生する微生物は、家禽用の基本飼料と混合して使用することができる。すなわち、本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤を含む、家禽用飼料が提供される。本発明において、カロテノイドを産生する微生物と混合する家禽用の基本飼料は、家禽の飼育に通常使用されるものであれば、特に限定されない。
【0033】
本発明において、カロテノイドを産生する微生物と混合する家禽用の基本飼料は、家禽の飼育に通常使用されるものであれば、特に限定されず、当業者であれば、家禽の種類や成長段階等に応じて、適宜選択することができる。例えば、動物性飼料原料(魚粉など)、植物性油粕(大豆油粕、ナタネ油粕など)、穀類(トウモロコシなど)、糟糠類(フスマ、ヌカなど)、炭酸カルシウム及びカキガラ等の家禽に給餌される任意の飼料原料を主成分として含む配合飼料を用いてもよい。本発明において使用される家禽用の基本飼料は、アミノ酸又はペプチドを含有してもよい。飼料中のアミノ酸又はペプチドの量は、飼料を有機溶媒で抽出し、HPLCにて測定することで確認することができる。基本飼料に含まれるアミノ酸は、例えば、メチオニン、リシン、バリン又はスレオニンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の一態様において、本発明の家禽用飼料はカロテノイドを産生する微生物を、例えば、0.005~10質量%(終濃度、すなわち、当該微生物と家禽用の基本飼料との混合時の濃度)又は0.005~5質量%(終濃度)、好ましくは0.01~3質量%(終濃度)、さらに好ましくは0.01~1質量%、最も好ましくは0.025~0.15質量%、例えば0.15質量%含む。また、本発明の家禽用飼料はアスタキサンチンを、例えば、0.0001~0.2質量%(終濃度)、好ましくは0.0005~0.06質量%(終濃度)、より好ましくは0.0002~0.02質量%(終濃度)、さらに好ましくは0.0005~0.003質量%(終濃度)、例えば0.003質量%含んでもよい。本発明の家禽用飼料は、カロテノイドを、例えば、0.0002~0.4質量%、好ましくは0.001~0.12質量%、最も好ましくは0.001~0.03質量%含んでもよい。
【0035】
本発明の家禽用飼料は、任意の形状であってよく、対象となる家禽の種類や成長段階等に応じて適宜選択することができる。家禽用飼料の形状としては、例えば、粉末、ペレット状、フレーク状、ペースト状などが挙げられるがこれに限定されない。
【0036】
本発明において、家禽は、ニワトリ、ホロホロチョウ、シチメンチョウ、ウズラ、カモ、ガチョウ、アヒル、チャボ及びハトからなる群から選択することができる。本発明における家禽は、好ましくはニワトリである。
【0037】
本発明において、ニワトリは、例えば、肉用鶏、採卵鶏が挙げられる。本発明におけるニワトリは、好ましくは肉用鶏、特にブロイラーが好ましい。
【0038】
本発明における家禽の飼育方法は特に限定されないが、例えば、成体に通常与える飼料を給餌可能となった時点以降の全期間で本発明の飼料を使用すること、幼体から継続して本発明の飼料を使用すること、本飼料を部分的に使用して他の期間は別の飼料で飼育すること等を挙げることができる。家禽への本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は家禽用飼料の給餌期間は、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、2月間、3月間、4月間等が挙げられるが、これに限定されない。当業者であれば給水、室温、飼育環境は通常の家禽の飼育に適した条件を適宜設定することができる。
【0039】
本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料を家禽に給餌することは、本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料を家禽に摂取させること、本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料の存在下で家禽を飼育すること、本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料を家禽に投与することなどを含む。
【0040】
本発明の細菌乾燥粉末又は本発明の家禽用飼料で家禽を飼育することにより、家禽におけるアミノ酸又はペプチドの含有量が増加する。すなわち、本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は本発明の家禽用飼料を家禽に給餌することにより、家禽におけるカロテノイドの含有量が対照の家禽と比較して増加する。「アミノ酸又はペプチドの増強」とは、家禽におけるアミノ酸の含有量又はペプチドの含有量が増加すること、詳しくは、家禽におけるアミノ酸の含有量又はペプチドの含有量が対照家禽の含有量に比べて増加することを意味する。
【0041】
本発明において、対照家禽とは、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤を含まない家禽用の(基本)飼料を給餌された家禽、カロテノイドを産生する微生物を含まない家禽用の(基本)飼料を給餌された家禽、又は本発明のアミノ酸もしくはペプチド増強剤又はカロテノイドを産生する微生物を含む本発明の家禽用飼料で飼育される前の家禽等を含む。
【0042】
本発明において含有量が増強されるペプチドは、特に限定されないが、ジペプチド又はトリペプチドが挙げられ、好ましくはジペプチドである。本発明において、ジペプチドは、好ましくは、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン等のイミダゾールジペプチドであり、より好ましくはカルノシンである。
【0043】
本発明において含有量が増強されるアミノ酸は、特に限定されないが、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン、スレオニン、アルギニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、プロリン、及びβ-アラニンから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。本明細書において、特に記載しない限り、アミノ酸はαアミノ酸を意味する。
【0044】
本発明において含有量が増強されるアミノ酸又はペプチドは、特に限定されないが、好ましくはカルノシン、β-アラニン及びヒスチジンから選ばれる少なくとも一種である。カロテノイドを産生する微生物は、カルノシンを含有しない、あるいはカルノシンを合成しないと考えられている。
【0045】
本発明において、アミノ酸又はペプチドの含有量は、家禽体内で増大し、例えば、肉、例えば腿肉、胸肉、血液、例えば血漿、皮、脂肪で増大する。したがって、本発明は、アミノ酸又はペプチドの含有量が増加した家禽、好ましくは家禽肉の製造方法を関する。本明細書において「肉」とは、ヒトが通常食する家禽の肉を意味し、生鮮肉及び加工肉を含む。本発明において、家禽から取得された肉、血液、皮、脂肪等は、冷蔵保存されることによりこれらに含有されるアミノ酸又はペプチドの量が増加することが期待される。通常、鶏園での処理時から市場に出て消費者に届くまでの期間にわたり、家禽から取得された肉、血液、皮、脂肪等は冷蔵される。冷蔵保存の期間は例えば、1~72時間、12~60時間、48時間、24時間等が含まれる。
【0046】
本発明の方法により製造される家禽の肉(例えば、胸肉)は、含有量の増加したカルノシン、β-アラニン及びヒスチジンから選ばれる少なくとも一種を含み得る。
【0047】
家禽に含まれるアミノ酸又はペプチド量は、家禽試料から抽出したアミノ酸又はペプチドを、HPLCにより測定することにより定量化することができる。
【0048】
本発明の方法により製造される家禽の肉は、例えば:
・3mg/g以上、3.5mg/g以上又は4mg/g以上のカルノシン;
・25μg/g以上、28μg/g以上、30μg/g以上又は33μg/g以上のヒスチジン;又は
・20μg/g以上、30μg/g又は35g/g以上のβアラニンを含み得る。
【0049】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例0050】
[実験方法]
1.試験区の設定
各試験区に給餌される試験飼料は次のとおりとした。
対照区:基礎飼料
P-30ppm区:基礎飼料にアスタキサンチンが30ppmになるようにPanaferd-Pを添加した飼料。
AX-5ppm区:基礎飼料にアスタキサンチンが5ppmになるようにPanaferd-AXを添加した飼料。
AX-10ppm区:基礎飼料にアスタキサンチンが10ppmになるようにPanaferd-AXを添加した飼料。
AX-30ppm区:基礎飼料にアスタキサンチンが30ppmになるようにPanaferd-AXを添加した飼料。
家禽用の基本飼料の組成は、表2-2に示した。Panaferd-P及びPanaferd-AXはいずれもパラコッカス乾燥菌体であり、ENEOSテクノマテリアル株式会社(東京)より入手した。
【0051】
2.動物実験
0日齢のチャンキー(ROSS308)系ブロイラー雄ヒナ40羽を入手し、育雛用飼料(表2-1)を用いて、10日間群飼育で育雛した。10日齢時点で個別ケージに移し、10日齢から14日齢までを予備飼育期間とし、育雛用飼料を与えた。14日齢時点で体重が均等になるように8羽ずつ5区に分けた。室温25℃、20時間明期/4時間暗期の明暗周期、飼料及び水は自由摂取の環境で、各試験区のブロイラーに試験飼料の給餌を開始した。28日齢で試験を終了し、ブロイラーを解体した。
【0052】
【0053】
【0054】
家禽用の基礎飼料には、0.32%(3200ppm)のメチオニン、0.15%(1500ppm)リシン塩酸塩、0.10%(1000ppm)のトレオニン及び0.05%(500ppm)のバリンが含まれていた。
【0055】
3.アミノ酸及びカルノシンの分析
28日齢時点で浅胸筋を採取し、48時間冷蔵保管した。その後、浅胸筋に含まれるアミノ酸又はペプチド(カルノシン)の量についてHPLC分析した。
<HPLC分析用試料の調製>
HPLC分析用の試料は、以下のとおり調製した。
(1) ホモジナイズ用チューブ(50 mLチューブ)に浅胸筋を1.0g秤量し、0.1N HCl(100μM nor-valine)を10 mL加えてホモジナイズした。
(2) ホモジェネートにヘキサン10 mLを加えてボルテックスミックスを行った後、遠心分離(4,000×g, 15分)を行い、上層のヘキサン画分は回収して廃棄した(除脂肪処理)。下層の水層画分を以降で使用した。
(3) 2 mLのマイクロチューブに水層400μL、純水400μL、アセトニトリル800μLを入れ、ボルテックスしたのち、遠心分離(15,000×g, 2分)した(除タンパク質処理)。
(4) 遠心分離後の上清を別の2 mL容チューブに200μLを移し取り、水:アセトニトリル=1:1溶液を800μL加えた(希釈)。
(5) シリンジフィルター(島津ジーエルシー、直径:13 mm、孔径:0.22μm)を用いてろ過を行い、HPLC専用バイアル瓶に約1 mL入れたものをHPLC分析用試料とした。
【0056】
<HPLC条件>
装置:NexeraX2(島津製作所)
カラム:Kinetex 2.6μm EVO C18 100×3 mm)
移動相A:20 mmol/Lリン酸緩衝液
移動相B:15/45/40(V/V/V)=水/アセトニトリル/メタノール
初期濃度:B液 10.5%
カラム温度:35℃
流速:0.85 mL/min
注入量 :1μL
検出器 :蛍光検出器 RF-20AXS 2波長モード
検出波長 :Ch1 EX 350 nm Em 450 nm
Ch2 EX 266 nm Em 305 nm
【0057】
4.統計分析
得られたデータは、対照区と各試験区に対して2標本t検定により比較した。
【0058】
[測定結果]
浅胸筋中のアミノ酸又はペプチド濃度の測定結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3において、対照区とのt検定の結果、0.05≦P<0.1を有意傾向あり(*)、P<0.05を有意差あり(**)とした。
【0061】
P-30ppm区、AX-5ppm区、AX-15ppm区及びAX-30ppm区では、対照区に比べて、測定したアミノ酸とカルノシンの合計量が増加した。また、P-30ppm区、AX-5ppm区、AX-15ppm区又はAX-30ppm区では、対照区に比べて、測定したすべてのアミノ酸及びカルノシンの量が増加する傾向にあった。
【0062】
P-30ppm区、AX-5ppm区、AX-15ppm区及びAX-30ppm区では、家禽体内でのアミノ酸又はペプチドの蓄積量が、対照区と比べて増加した。例えばAX-5ppm区(基礎飼料にアスタキサンチンが5ppmになるようにPanaferd-AX(乾燥パラコッカス属細菌)を添加した飼料を給餌した区)で用いた飼料は、Panaferd-AX(乾燥パラコッカス属細菌)を0.025wt%含有することから、飼料中のパラコッカス属細菌の含有量は非常に小さいことが理解される。メチオニンを例に挙げると、基礎飼料にはメチオニンが0.32wt%含まれるが、仮に添加したパラコッカス属細菌(0.025wt%)が全てメチオニンだったと仮定すると、AX-5ppm区の飼料中のメチオニンは、対照区の飼料よりも約10%(以下)多いことになる。一方、実施例においてAX-5ppm区の浅胸筋中のメチオニンは、対照区よりも30%以上増加した。このように、パラコッカス属細菌を飼料に加えることにより、対照区に比べて効率よくアミノ酸又はペプチドを蓄積することができることが示された。
【0063】
本実施例より、パラコッカス属細菌を含む飼料を与えることにより、筋肉中のアミノ酸又はペプチドの量が顕著に増加されることが示された。特に、パラコッカス属細菌を含む飼料を与えることにより、カルノシン量の増加が顕著であった。カルノシンはβアラニンとヒスチジンのジペプチドであり、βアラニンとヒスチジンの量も増加した。
したがって、本実施例により、本発明のアミノ酸又はペプチドの増強剤により、家禽中のアミノ酸又はペプチド量を増強させ得ることが示された。
本発明により、カロテノイドを産生する微生物を含むアミノ酸もしくはペプチド増強剤又は家禽用飼料を提供することができる。本発明の一態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤により、家禽体内(浅胸筋等の肉を含む)のアミノ酸又はペプチドの総量を増加させることができる。本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤により、家家禽体内(浅胸筋等の肉を含む)における特定のアミノ酸量又は特定のペプチド量を増加させることができる。また、本発明は、カロテノイドを産生する微生物を含む家禽用飼料を家禽に給餌することを含む、家禽体内におけるアミノ酸もしくはペプチドの増強方法又はアミノ酸もしくはペプチドの含有量が増加した家禽肉の製造方法を提供することができる。
また、本発明の別の態様において、本発明のアミノ酸又はペプチド増強剤によってカルノシンが家禽体中に高含量で蓄積されるため、家禽の疲労を回復させる又は健康状態を改善させることが期待される。また、カルノシンの含有量が増加した家禽肉をヒトが摂取することにより、疲労回復効果又は健康状態改善効果が期待される。