(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092538
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】作業車両の遠隔制御システム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240701BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20240701BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240701BHJP
【FI】
A01B69/00 B
A01B69/00 303M
G05D1/00 B
G05D1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208553
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】池内 伸明
(72)【発明者】
【氏名】今井 征典
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩二
【テーマコード(参考)】
2B043
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB15
2B043BB01
2B043BB03
2B043DA07
2B043DA15
2B043DA17
2B043EA04
2B043EA32
2B043EB05
2B043EB15
2B043EB18
2B043EC12
2B043EC13
2B043EC14
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE06
5H301AA03
5H301AA10
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD17
5H301GG07
5H301GG09
(57)【要約】
【課題】遠隔管理可能な作業車両において、作業の均一性を保持できる作業車両の遠隔制御システムを提供することを目的とする。
【解決手段】作業車両100の自己位置を測定する測位装置203と、通信機202を介して作業車両100の位置および作業状況を表示し操作に応じて作業車両100を制御する遠隔管理装置200を備え、圃場内に直進しながら作業走行する作業領域を設定し、前記遠隔管理装置200と作業車両100の自動運転ECU302との間に、発信信号送信時刻と受信信号受信時刻とのずれを演算できる遅延時間算出手段Zを構成し、遅延時間算出手段Zによる遅延時間tdが予め設定した時間tsを超えるとき、作業車両100は作業領域の端部に到達すると遅延時間tsに応じた時間分一時停止するよう構成した作業車両の遠隔制御システムとする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両(100)の自己位置を測定する測位装置(203)と、通信機(202)を介して作業車両(100)の位置および作業状況を表示し操作に応じて作業車両(100)を制御する遠隔管理装置(200)を備え、圃場内に直進しながら作業走行する作業領域を設定し、前記遠隔管理装置(200)と作業車両(100)の自動運転ECU(302)との間に、発信信号送信時刻と受信信号受信時刻とのずれを演算できる遅延時間算出手段(Z)を構成し、遅延時間算出手段(Z)による遅延時間(td)が予め設定した時間(ts)を超えるとき、作業車両(100)は作業領域の端部に到達すると遅延時間(ts)に応じた時間分一時停止するよう構成した作業車両の遠隔制御システム。
【請求項2】
作業車両(100)にカメラ(109)を搭載し、遠隔管理装置(200)から送信された旋回の指示を自動運転ECU(302)が受信したとき、カメラ(109)で撮影した周囲の画像に基づいて作業車両(100)が次工程に移るために旋回可能な位置であるか否か判定する次工程移行可否判定手段(Y)を設け、次工程移行許可信号を自動運転ECU(302)が受信すると作業車両(100)の旋回を実行する構成とした請求項1に記載の作業車両の遠隔制御システム。
【請求項3】
自動運転作業中、作業中断信号を受信し、作業再開のため作業中断位置に復帰移動させる場合に、作業中断指令信号出力時の位置(X0)に復帰する作業車両(100)は作業保留距離(L2)を走行後作業再開する構成とした請求項1に記載の作業車両の遠隔制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農用トラクタのような作業車両の遠隔制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
操作装置により遠隔操作する作業機械と作業機械により積み込まれた積み荷を運搬する運搬車両と操作装置と作業機械間に通信障害の発生を検知すると運搬車両の走行を抑制する制御装置が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、遠隔操作される作業機械と運搬車両とが作業現場に配備される場合に、通信障害に鑑みて運搬車両を制御することができる。しかしながら、農業に用いられる作業車両において通信の遅延が発生すると、作業の均一性が損なわれる恐れがあった。
【0005】
本発明は、遠隔管理可能な作業車両において、作業の均一性を保持できる作業車両の遠隔制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、作業車両100の自己位置を測定する測位装置203と、通信機202を介して作業車両100の位置および作業状況を表示し操作に応じて作業車両100を制御する遠隔管理装置200を備え、圃場内に直進しながら作業走行する作業領域を設定し、前記遠隔管理装置200と作業車両100の自動運転ECU302との間に、発信信号送信時刻と受信信号受信時刻とのずれを演算できる遅延時間算出手段Zを構成し、遅延時間算出手段Zによる遅延時間tdが予め設定した時間tsを超えるとき、作業車両100は作業領域の端部に到達すると遅延時間tsに応じた時間分一時停止するよう構成した作業車両の遠隔制御システムとする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、作業車両100にカメラ109を搭載し、遠隔管理装置200から送信された旋回の指示を自動運転ECU302が受信したとき、カメラ109で撮影した周囲の画像に基づいて作業車両100が次工程に移るために旋回可能な位置であるか否か判定する次工程移行可否判定手段Yを設け、次工程移行許可信号を自動運転ECU302が受信すると作業車両100の旋回を実行する構成とした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、自動運転作業中、作業中断信号を受信し、作業再開のため作業中断位置に復帰移動させる場合に、作業中断指令信号出力時の位置X0に復帰する作業車両100は作業保留距離L2を走行後作業再開する構成とした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、遅延時間td分作業車両を停止制御することにより、端点Q1までは作業を継続でき、端点Q1での停止によって遅延時間td分待機することとなるから、作業の節目に操作される、例えば肥料や苗補給のための退避移動の場合に操作遅延を生じることなく作業車両を走行させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載の効果に加え、遅延時間tdが発生していると、端点Q1に達して後の旋回に入った場合に畦との接触が懸念されるが、次工程移行許可信号の受信によって安全に旋回できる。
【0011】
請求項3に記載の発明によると、請求項1に記載の効果に加え、施肥作業や播種作業など、作業の重複を避けたい場合、作業再開時作業の重複を回避し、作業の均一性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態にかかる作業車両の遠隔制御システムが適用される農用トラクタの側面図である。
【
図3】管理端末と複数の圃場との位置関係を示す模式図である。
【
図5】枕地走行経路及び往復走行経路の一例を示す図である。
【
図6】枕地走行経路における自律走行一例の概要図である。
【
図7】開始点自動移動モードのフローチャートである。
【
図8】遅延時間算出手段に基づく制御のフローチャートである。
【
図9】(A)次工程移行可否判定手段の概要説明図、(B)作業中断後作業再開の概要説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面に基づき説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施態様に係る作業車両管理システムの作業車両100の構成を示す略側面図である。作業車両100は、往復隣接作業走行範囲13を走行可能な農作業用の車両であり、車体前部には、ボンネット107に覆われたエンジン105が配設され、このエンジン105の回転動力を複数の変速装置を介して前輪103及び後輪104に伝達することで走行できるように構成されている。また、エンジン105の後方には、操縦部106が設けられており、操縦部106後方の車体後部には往復隣接作業走行範囲13を耕耘可能な作業機140が取り付けられている。
【0015】
操縦部106には、作業者が操作するステアリングハンドルと操縦席とを備えているキャビンが設けられている。また、キャビンの天井であるキャビンルーフ108にはGNSS受信機102が設けられており、人工衛星170から所定の時間間隔で電波を受信して作業車両100の位置を測定することができるように構成されている。
【0016】
作業車両100の車体後部には、上側にあるトップリンク145aと下側にある左右のロアリンク145bとからなる3点リンク機構145が設けられており、これに作業機140が連結されている。作業機140は耕耘作業機とされ、圃場の土を耕す耕耘爪146と、耕耘爪146の上方を覆うロータリカバー147と、ロータリカバー147の後部で上下動自在に支持されるリヤカバー148とが設けられる。
【0017】
3点リンク機構145のロアリンク145bには、リフトアーム142を介して作業機昇降シリンダ141が接続されており、作業機昇降シリンダ141を伸縮させることによりロアリンク145bを上下させることができるように構成されている。
【0018】
以下、作業車両100が作業機140を下ろした状態で、往復隣接作業走行範囲13の土を耕しながら走行することを作業走行と呼ぶ。
【0019】
図2は、本発明の好ましい実施態様に係る作業車両管理システム1の構成を示すブロック図である。作業車両100は、
図1のGNSS受信装置102が受信した電波から自機の位置情報を取得する位置情報取得手段である位置情報取得部301と、車両の自律走行を制御する自動運転ECU302と、車両の走行及び作業機の操作を制御する車両ECU303とを備えており、車両ECU303は、通信網をなすクラウドCと相互に通信を行う通信部304と、位置情報や地形情報から走行経路を算定する経路算定部306とを備えている。
【0020】
したがって、作業車両100は、位置情報取得部301により取得した自機の位置情報を、所定時間毎に、通信部304を介してクラウドCに送信して格納することができ、また、クラウドCに格納された情報を取得することができるように構成されている。
【0021】
遠隔管理装置200は、携帯可能な電子演算機器であり、管理ユーザにより操作可能な管理端末201によって構成されている。管理端末201は、クラウドCと相互に通信可能な通信機202と、管理端末201を制御する端末制御部204とを備えている。したがって、管理ユーザは、管理端末201を所持することにより、通信機202を介してクラウドCと情報のやり取りをすることができる。
【0022】
このように、作業車両100と遠隔管理装置200とがクラウドCを媒介して通信可能に構成されているので、管理ユーザは、遠隔管理装置200により、作業車両100の状態を監視したり、指令を送ったりすることができ、遠隔的に作業車両100を管理することが可能になる。
【0023】
クラウドCには管理サーバ320が設けられており、この管理サーバ320には圃場やその周辺の地形情報を格納する地形情報データベース322と、作業車両100の位置情報を格納する位置情報データベース323とが記録されている。したがって、管理ユーザは、管理サーバ320にアクセスし、地形情報データベース322および位置情報データベース323を参照することにより、作業車両100と圃場との位置関係を把握することができる。
【0024】
図3は、管理区域10における、管理端末201と、複数の往復隣接作業走行範囲13との位置関係を示す模式図であり、管理区域10には複数の往復隣接作業走行範囲13(A1~An)が設けられており、それぞれの往復隣接作業走行範囲13で走行車両100(V1~Vn)が作業走行するように構成されている。各往復隣接作業走行範囲13は管理通路12に接しており、出入口11から作業車両100が出入りできるように構成されている。
【0025】
管理端末201は、どの往復隣接作業走行範囲13にどの作業車両100が作業しているかを特定する圃場特定手段を備えており、
図2に示したクラウドCを介して管理サーバ320にアクセスし、地形情報データベース322に格納されている各往復隣接作業走行範囲13(A1~An)の位置情報と、位置情報データベース323に格納されている作業車両100(V1~Vn)の位置情報とを比較参照することで、往復隣接作業走行範囲13が位置する範囲に存在する作業車両100を特定し、作業車両Vx(x=1,2,・・・,n)と、その作業車両Vxが作業している圃場Ax(x=1,2,・・・,n)とを対応付けることができるように構成されている。
【0026】
ここで、管理端末201において、端末制御部204は、測位装置203により、クラウドCを介して
図2に示した地形情報データベース322から管理区域10の管理通路12と、往復隣接作業走行範囲13(A1~An)とのそれぞれの地形情報を取得することができる。さらに、管理端末201の現在位置から管理通路12を通って往復隣接作業走行範囲13の出入り口11の位置に達する経路(L1~Ln)を算出して、これらの経路(L1~Ln)の距離から、所定の速度における往復隣接作業走行範囲13(A1~An)への移動時間T(T1~Tn)を算出可能に構成されている。
【0027】
図4は、圃場Hの枕地走行を記録する作業車両100の様子を示す模式図であり、
図5は、圃場H内を作業走行する作業車両100の様子を示す略平面図である。
【0028】
図4に示されるよう、畦15に囲まれ、この畦15による外形Pe形状で区画される圃場Hは、往復隣接作業走行範囲13と、枕地走行範囲14とからなり、管理通路12に対し、出入口11によって走行車両100が出入り可能に構成されている。枕地走行範囲14は、走行車両100が走行可能であり、往復隣接作業走行範囲13の外を周回するための枕地走行経路22に基づいて作業走行することによりこの枕地走行範囲14を耕耘処理できる。
【0029】
作業車両100は、圃場の形状を示す地形情報を取得する圃場形状取得手段を備えている。その前提として、作業車両100は、あらかじめ、
図2の位置情報取得部301で現在位置を測定しながら枕地走行経路22を走行し、
図2の経路算定部306が走行した経路の位置情報をつなげることにより、外周の枕地走行経路22としての経路情報を作成し、かつ、枕地走行経路22の経路情報において走行した経路が囲む範囲を計算して圃場Hの地形情報(圃場の位置座標、面積および縦横の長さ)を作成し、これらの情報を、クラウドCを介して、地形情報データベース322に記録する地形情報記録モードを備えている。そして、作業車両100は、地形情報記録モードの実行で圃場形状取得手段によって、地形情報データベース322に記録された外周Pe形状情報による枕地走行経路22の経路情報及び地形情報データベース322に記録された往復隣接作業走行範囲13の地形情報を取得することができるように構成されている。
【0030】
地形情報記録モードにより作業車両100が作成した枕地走行経路22の経路情報と往復隣接作業走行範囲13の地形情報とは、クラウドCを介して管理サーバ320に送信され、枕地走行経路22の経路情報と往復隣接作業走行範囲13の地形情報とを受け取った管理サーバ320は、その情報を地形情報データベース322に記録する。これにより、作業車両100は、クラウドCを介して管理サーバ320にアクセスすることで、任意のタイミングで枕地走行経路22の経路情報と往復隣接作業走行範囲13の地形情報とを取得することができる。作業車両100は、例えば、エンジン105を起動した際に、圃場形状取得手段によって、枕地走行経路22の経路情報及び往復隣接作業走行範囲13の地形情報を取得する。
【0031】
このように、作業車両100が地形情報記録モードを備えていることにより、あらかじめ往復隣接作業走行範囲13を測量して地形情報を取得しておく必要がなく、任意の往復隣接作業走行範囲13での作業車両100に作業走行をさせるために必要な手間を軽減することができる。
【0032】
図5に示されるように、作業車両100は、往復隣接作業走行範囲13内を作業走行するにあたり、
図2に示した経路算定部306により往復隣接作業走行範囲13の地形情報と作業車両100の作業幅wとに基づいて往復隣接作業走行範囲13を作業走行するための経路である往復走行経路20を算定する。往復隣接作業走行範囲13を万遍なく耕耘するように作業走行するには、往復隣接作業走行範囲13の幅を作業幅wで割った数の分だけ往復隣接作業走行範囲13を直進すればよいので(
図5では7回)、往復走行経路20は、往復隣接作業走行範囲13上を直進する直進経路と、往復隣接作業走行範囲13を出て枕地14で旋回し往復隣接作業走行範囲13に戻る旋回経路とにより、往復隣接作業走行範囲13を往復するように算定される。以下、往復走行経路20が往復隣接作業走行範囲13の端と交差する点を圃場端点21a(P1~P7)、21b(Q1~Q7)と呼ぶ。
【0033】
往復走行経路20が算定されると、作業車両100は、自律走行により、往復走行経路20に沿って、往復隣接作業走行範囲13の一端から他の一端まで往復しながら、圃場全体を作業走行で通過するように構成されている。
【0034】
具体的には、作業車両100は、往復隣接作業走行範囲13の隅にある圃場端点21a(P1(以下、開始点P1))から往復隣接作業走行範囲13に進入すると、対向する位置にある圃場端点21b(Q1)まで直進して、一旦、往復隣接作業走行範囲13を出てから枕地14で左旋回し、隣接する圃場端点21b(Q2)から再度、往復隣接作業走行範囲13に進入する。その後、対向する位置にある圃場端点21a(P2)まで直進し、往復隣接作業走行範囲13を出てから枕地14で右旋回し、隣接する圃場端点21a(P3)から再度、往復隣接作業走行範囲13に進入する。作業車両100は、このような走行を圃場端点21a(Q7)に着くまで繰り返すことで、圃場全体を万遍なく耕耘することができる。
【0035】
次いで、
図5に基づき枕地走行範囲14の枕地走行経路22について具体的に説明する。畦15と往復隣接走行範囲13との間における枕地走行範囲14は、複数回の周回作業で耕耘できる範囲に設定されている。畦15に近い枕地は作業者の手動操作による枕地走行運転で耕耘するものとし、枕地最内周は上記往復隣接作業自律走行に継続して自律走行する構成としている。したがって、作業者は作業車両100が管理通路12から出入口11に達すると、圃場Hの枕地走行範囲14を管理端末201に表示される枕地走行経路22に従って枕地耕耘を行い、往復隣接作業走行範囲13の圃場端点21aのうち往復隣接作業走行経路20の開始点P1へ向けて移動する。なお、出入口11を通過した後、以降は枕地走行範囲14を自律走行する構成でもよい。
【0036】
次いで、
図6,
図7に基づいて、開始点自動移動モードMについて説明する。作業車両100が圃場H内に入り、手動操作の周回作業または外周Pe形状情報に基づき作成された枕地走行経路22による自律走行を実行した後、管理端末201の所定操作、すなわちモードスイッチ操作によって、開始点自動移動モードMに移行する。開始点自動移動モードMは、車両の自律走行を制御する前記自動運転ECU302に設定された開始点自動移動制御部308の実行に基づいて、圃場H内枕地走行経路22に移動した作業車両100を往復隣接走行範囲13の圃場端点21aのうち、往復隣接作業の開始点P1へ至る開始点自動移動経路24を演算し指定するものである。
図7により説明すると、作業車両100の電源投入とともに方位検出手段310によって作業車両の方位が認識され、自律走行経路から大きく逸脱しているか否かが判定される(S101,S102)。方位が確定している時のみ自動移動を許可することで、自動移動開始時の安全性を確保できる。なお、方位判定にあたっては自律走行軌跡と枕地走行経路22との比較によって方位の異常の有無を判定できる構成としてもよい。次いで作業車両100の前端部Fが圃場H領域から逸脱していないか判定される(S103)。次に車両前端部Fと作業機140の後端中央部Rが圃場H外周(畦15内周)Peに対して所定距離D1以上離れているか否か判定される(S104)。ここで所定距離D1は、例えば作業機140幅Wの1/2に安全距離α(例えば30cm)を加えた値とし、圃場外周Peから車両中央Fまでの距離Dfとし、同様に圃場外周Peから作業機後端中央までの距離Drとしたとき、D1≒(W/2)+αであり、Df<D1かつDr<D1となる。次に、最内周の枕地走行経路22から圃場H内側に向けた距離が所定距離D2以内であるか否か判定される(S105)。ここで、所定距離D2は例えば1mである。したがって、車両中央F及び作業機後端中央Fが
図6に示す許可範囲Dにあるときに許可される。以下、順に車両は枕地走行経路22に沿う方向であるか判定される(S105)。枕地走行経路22に向かってあまり操舵角を変更することなく移動でき安全である。
【0037】
S102~S106の条件が整うと、開始点自動移動モードMの実行が許可状態となり(S107)、管理端末201の画面に「開始」スイッチ部が表示され(S108)、これをタッチ操作することで(S109)、自動運転ECU302は、開始点自動移動経路24が演算され(S110)、車両は開始点自動移動経路24に沿い開始点P1に向けて自律走行する。なお、開始点自動移動経路24の演算にあたっては、予め設定された枕地走行経路22に重複させるようになっており、無闇に往復隣接走行範囲13に進入しないようになっている。
【0038】
前記のように、作業車両100と遠隔管理装置200とがクラウドCを媒介して通信可能に構成されているので、管理ユーザは、遠隔管理装置200により、作業車両100の状態を監視したり、指令を送ることができ、遠隔的に作業車両100を管理するものである。そして、管理端末201は、通信機202を介してクラウドCにおける作業車両の位置および作業状況を取得して作業状況を表示し、必要な操作をもって走行車両を制御することができる。ところで前記作業車両100はGNSS受信装置102が受信した電波から自機の位置情報を取得する位置情報取得手段を構成し、自位置を認識可能なD-GNSSがあるが、時間的な誤差が大きい。またRTK-GNSSの様に圃場内全域に走行経路を設計することには不向きである。
【0039】
そこで、通信制御にかかわる前記遠隔管理装置200と作業車両100の前記自動運転ECU302との間に、発信信号送信時刻と受信信号受信時刻とのずれを演算できる遅延時間算出手段Zを構成する。前記往復走行経路20のうち開始点P1と対向する端点Q1に向けて直線の作業領域を走行する場合を例にすると、作業車両100へ向けて遠隔管理装置200側から作業開始指令信号出力した時点(時刻)と実際に作業車両100の自動運転ECU302が作業開始指令信号を入力して作業車両100が移動開始した時点(時刻)とを管理し、遅延時間算出手段Zとするものである。
【0040】
上記遅延時間算出手段Zによる遅延時間tdが、予め設定した時間ts(例えば5秒)を超えるとき、次のように対応するものである。まず、開始点P1と対向する端点Q1に達すると、当該遅延時間td相当の時間分一時停止して待つ構成としている。そして、再開信号が出力されると次工程、本実施例では旋回モードに入ることとなる。
【0041】
上記のように、遅延時間td分作業車両を停止制御することにより、端点Q1までは作業を継続でき、端点Q1での停止によって遅延時間td分待機することとなるから、作業の節目に操作される、例えば肥料や苗補給のための退避移動の場合に操作遅延を生じることなく作業車両を走行させることができる。
【0042】
図8のフローチャートに基づき説明すると、自動運転開始に入ると(S201)、作業車両100は開始点P1に向け走行し(S202)、開始点P1に至ると遠隔管理装置200による作業開始信号が出力される(S203,S204)。同時にこの出力時刻が読み込まれ記憶される(S204)。自動運転ECU302は、開始信号を入力し作業車両100に自動走行指令を行うが、同時に入力時刻を読み込み記憶する(S205)。
【0043】
作業車両100は目標端点Q1に向け走行開始するが(S206)、遠隔管理装置200の管理端末201に設定された遅延時間算出手段Zは、前記入力時刻と出力時刻の差から遅延時間tdを算出し、予め設定した設定時間tsと対比する(S207,S208)。そして、td>tsの場合には、“一時停止”出力する(S209,S210)。作業車両100が目標の圃場端点Q1に達すると、遠隔管理装置200はこの端点G1到達を出力する(S211,S212)。自動運転ECU302は遅延時間td後にこのG1到達を受けて作業車両100を停止する(S213,S214)そして、上記“一時停止”信号を自動運転ECU302が受信して記憶しているか否か判定し(S215)、記憶している場合は作業車両100はtd時間分停止する(S216)。こうして遅延時間td分待機する。
【0044】
次いで遠隔管理装置216は次工程作業開始信号を出力し(S216)、自動運転ECU302は、この開始信号を入力して上記待機位置から旋回して隣接する次工程作業(端点Q2からP1に向けて自動直進作業)に入る(S217~S219)。同時にS217で出力時刻を読み込み記憶し、S218で入力時刻を読み込み記憶して遅延時間td´を算出する(S220)。以後S208~S216を繰り返す。
【0045】
このように、上記の例では隣接作業の開始時点で遅延時間td,td´を取り直し、設定時間tsと対比できる構成とし、異なる場所や時間帯での通信環境の影響に伴う遅延時間の有無や程度を確認しつつ作業を継続するものである。
【0046】
なお、上記の例では遅延時間算出手段Zによる遅延時間算出は開始点P1の作業開始時点としたが、作業車両の作業走行中の一定時間T毎に遅延時間の変化Δtdを累積しその累積値ΣΔtdが設定時間tsを超えたか否かで端点Q1で一時停止する構成としてもよい。
【0047】
図9(A)、(B)に示すように、ところで、前記遅延時間tdが生じると、作業車両100は目標の端点Q1を越えて、距離L1(L1=td×v1)分ずれた位置Q1´まで移動してしまう(v1は作業車両の移動速度)。このため、設定された走行経路を自動で直進制御する操舵装置を設ける場合に、作業車両100にカメラ109を装備し、畔、畝あるいは耕耘跡等の画像情報を取得できる構成とし、この画像情報に基づいて自動運転ECU302は、作業車両100が次工程に移るために旋回可能な位置であるか否か判定する次工程移行可否判定手段Yを設け、次工程移行許可信号又は不可信号を出力する構成とする。このように構成すると、遅延時間tdが発生していると、端点Q1に達して後の旋回に入った場合に畦との接触が懸念されるが、次工程移行許可信号の受信によって安全に旋回できる。
【0048】
次に、作業機140として施肥作業機や播種作業機を用いて、自動運転作業中肥料や播種の補充のため作業中断する場合について説明する。自動運転作業における遅延時間tdを算出し肥料や播種が少なくなって補充のため作業中断指令を出力する。この作業中断出力自体にも遅延が生じているため、遠隔管理装置200が作業中断指令出力した作業車両位置X0よりも所定に走行した後で作業車両100は作業中断する(X1位置)。この位置X1から肥料又は播種補充位置Bに移動後、作業再開のため作業中断位置に復帰移動させる場合に、作業中断指令信号出力時の位置X0に作業車両100が復帰するが、所定距離、すなわち作業保留距離L2(L2=td×v2)を走行後作業再開する構成としている。このように構成すると、施肥作業や播種作業など、作業の重複を避けたい場合、作業再開時作業の重複を回避し、作業の均一性を確保できる。
【符号の説明】
【0049】
100 作業車両
109 カメラ
200 遠隔管理装置
202 通信機
203 測位装置
302 自動運転ECU
td 遅延時間
ts 設定時間
Y 次工程移行可否判定手段
Z 遅延時間算出手段