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特開2024-92549信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092549
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01F 19/04 20060101AFI20240701BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01F19/04 U
H01F17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208572
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水谷 安幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】坂井 義則
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA11
5E070AA14
5E070AB03
5E070CB12
(57)【要約】
【課題】パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減する信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラムを提供する。
【解決手段】信号伝送回路100の制御システム1であって、複数の層を含む多層基板と、多層基板に設けられる複数のパターントランス10とを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御システムは、動作させるパターントランスの組み合わせ、又は、動作させるパターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させるパターントランスの各パルス信号を制御する制御部5を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を含む多層基板と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランスとを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御システムであって、
動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号を制御する制御部を備える信号伝送回路の制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、複数の前記パターントランスを動作させる場合に、動作させる前記パターントランスの位置関係に基づいて、動作させる前記パターントランスのパルス信号の位相極性を制御する請求項1に記載の信号伝送回路の制御システム。
【請求項3】
前記多層基板には、複数の前記パターントランスの動作時に放射されるノイズを低減するためのダミーのパターントランスが設けられ、
前記制御部は、動作させる前記パターントランスの数が奇数である場合に、前記ダミーのパターントランスを動作させるとともに、動作させる前記パターントランスの組み合わせに応じて、前記ダミーのパターントランスのパルス信号の位相極性を制御する請求項1又は2に記載の信号伝送回路の制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、複数の前記パターントランスを動作させる場合に、前記第1パターントランスのパルス信号に対して、前記第1パターントランス以外の前記パターントランスのパルス信号の位相を所定量変化させるように各パルス信号を制御する請求項1に記載の信号伝送回路の制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載の信号伝送回路の制御システムを備えたI/Oモジュール。
【請求項6】
複数の層を含む多層基板と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランスとを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御方法であって、
動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号の制御を行うコンピュータが実行する信号伝送回路の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の信号伝送回路の制御方法をコンピュータに実行させる信号伝送回路の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の制御を行う回路基板には、電力を供給するための変圧器として電子部品であるトランスが実装される場合がある。回路基板に電子部品のトランスを実装する場合、実装数に応じてコストが増加する。このため、回路基板の設計において、電子部品のトランスを実装することに代わって、回路基板上に巻線状のパターンを形成することにより電子部品のトランスと同様の機能を有するパターントランスを実装することが採用される場合がある。
【0003】
特許文献1には、回路基板の表面及び裏面のそれぞれにコイルパターン(パターントランス)を形成し、縦横に隣接する隣り合わせのコイルパターンが互いに逆巻きのパターンであるコイル装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-181018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回路基板上に複数のパターントランスが形成され、これらのパターントランスを動作させる場合、各パターントランスから発生する外部へ漏れる漏れ磁束(ノイズ)が互いに干渉し合う。なお、パターントランスから発生する漏れ磁束は、動作させるパターントランスの数に比例して増加する。
【0006】
このように、パターントランスの数が増加することに比例して、各パターントランスから発生する漏れ磁束が増加してしまうと、回路基板上の信号伝送が適切に行なわれず、回路基板を備える電子機器に正常な動作を行わせることができない可能性がある。
【0007】
また、回路基板を備える電子機器の制御内容によっては、複数のパターントランスを動作させる際に、動作させるパターントランスが一意に定まっていない場合がある。この場合、例えば、互いに近くに位置するパターントランスの磁束の向きが同じ場合等、動作させるパターントランスの組合せによっては、各パターントランスから発生する漏れ磁束の総量が増加してしまう場合がある。
【0008】
また、パターントランスはその形状から、電子部品のトランスと異なり、フェライトコア等のノイズ対策用の部品を用いることができないため、パターントランスから発生する漏れ磁束を低減する手法を確立することが課題となっている。
【0009】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減する信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の幾つかの実施形態における一態様に係る信号伝送回路の制御システムは、複数の層を含む多層基板と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランスとを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御システムであって、動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号を制御する制御部を備える。
【0011】
本開示の幾つかの実施形態における一態様に係るI/Oモジュールは、上記信号伝送回路の制御システムを備える。
【0012】
本開示の幾つかの実施形態における一態様に係る信号伝送回路の制御方法は、複数の層を含む多層基板と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランスとを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御方法であって、動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号の制御を行うコンピュータが実行する。
【0013】
本開示の幾つかの実施形態における一態様に係る信号伝送回路の制御プログラムは、前述の信号伝送回路の制御方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係る信号伝送回路の構成図である。
図2】本開示の一実施形態に係るパターントランスの構成を示す概略図である。
図3】本開示の一実施形態に係る複数のパターントランス(16Ch)が形成された多層基板の平面図である。
図4】本開示の一実施形態に係る全てのパターントランスを動作させる場合の各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。
図5図4に対応した一部のパターントランスのパルス信号の波形図である。
図6図4に対応した一部のパターントランスによって生じる磁束を表す概略図である。
図7】本開示の一実施形態に係る複数のパターントランスの動作有無及び各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。
図8図7に対応した一部のパターントランスのパルス信号の波形図である。
図9図7に対応した各パターントランスによって生じる磁束を表す概略図である。
図10】本開示の一実施形態に係るダミーのパターントランスが形成された多層基板の平面図、及び各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性に対応してダミーのパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。
図11】本開示の一実施形態に係る複数のパターントランス(8Ch)が形成された多層基板の平面図である。
図12】本開示の一実施形態に係る各パターントランスのパルス信号に位相差を設けた場合の例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本開示に係る信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御方法及び制御プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて説明した各構成要素の位置関係は、各々鉛直上方側、鉛直下方側を示すものである。また、本実施形態では、上下方向と水平方向で同様な効果を得られるものは、紙面における上下方向が必ずしも鉛直上下方向に限定することなく、例えば鉛直方向に直交する水平方向に対応してもよい。
【0018】
以下、図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係る信号伝送回路100の構成について説明する。信号伝送回路100は、絶縁信号を伝送するための回路である。図1は、本開示の一実施形態に係る信号伝送回路の構成図である。
【0019】
図1に示すように、制御システム1は、制御部5と、信号伝送回路100によって構成される。信号伝送回路100は、パターントランス10と、一以上の半導体スイッチング素子としてのFET40、50を備えている。パターントランス10は、通常のトランスと同じように機能する。パターントランス10の詳細な構成については後述する。FET40、50は、2つのN型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。FET40のソース(S)端子は、FET50のソース(S)端子に接続される。
【0020】
なお、信号伝送回路100が備える一以上の半導体スイッチング素子は、MOSFETではなく、JFET(Junction Field-Effect Transistor)やトランジスタ等であってもよい。また、信号伝送回路100が備える一以上の半導体スイッチング素子は、2つの半導体スイッチング素子に限られず、1つの半導体スイッチング素子であってもよいし、3つ以上の半導体スイッチング素子であってもよい。
【0021】
信号伝送回路100の入力側には、パルス信号を出力する制御部5とバッファ30(バッファアンプ)が設けられる。バッファ30の正極側の入力端子には、例えば、制御部5によって生成された+3.3Vと0Vを交互に繰り返すパルス信号が入力される。バッファ30の負極側の入力端子には、例えば、0Vと-3.3Vを交互に繰り返すパルス信号が入力される。これにより、バッファ30の正極側及び負極側の入力端子の間には、合計6.6Vのパルス波形の交流電圧が印加される。
また、制御部5は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のように信号を生成する機能を備えた素子又は装置である。なお、パルス信号を生成する手法については公知の手法を用いることとし、説明を省略する。
【0022】
バッファ30の正極側の出力端子には、抵抗Rの一端が接続され、抵抗Rの他端はコンデンサCの一端に接続される。バッファ30の負極側の出力端子には、抵抗Rの一端が接続され、抵抗Rの他端はコンデンサCの一端に接続される。抵抗Rと抵抗Rは、過負荷を防止するための抵抗値を有するように設計される。
【0023】
コンデンサCの他端は、パターントランス10の一次側巻線11の正極側端子に接続される。コンデンサCの他端は、パターントランス10の一次側巻線11の負極側端子に接続される。コンデンサC及びコンデンサCは、入力される信号の直流分を除去する。そのため、パターントランス10の一次側巻線11には、直流分が除去された交流電圧が印加される。
【0024】
パターントランス10の二次側巻線12の正極側端子には、コイルLの一端が接続される。コイルLの他端は、コンデンサCの一端に接続される。コンデンサCの他端は、パターントランス10の二次側巻線12の負極側端子に接続される。
【0025】
このように、パターントランス10の二次側の一端にはコイルLの一端が接続され、コイルLの他端には、第1コンデンサ(コンデンサC)の一端が接続され、第1コンデンサ(コンデンサC)の他端は、パターントランス10の二次側の他端に接続される。また、パターントランス10の一次側の一端には第2コンデンサ(コンデンサC)が接続され、パターントランス10の一次側の他端には第3コンデンサ(コンデンサC)が接続される。
【0026】
ここで、コイルL及び第1コンデンサ(コンデンサC)は、パターントランス10の二次側から出力される交流信号を共振する共振回路を形成するように設計される。すなわち、コイルLのインダクタンスとコンデンサCの静電容量は、パターントランス10の二次側から出力される交流信号の周波数に近い周波数を共振周波数とする共振回路を構成するようにパラメータ設計される。かかる共振回路の共振により、パターントランス10における損失による二次側の電圧低下分を補うことができる。
【0027】
第2コンデンサ(コンデンサC)及び第3コンデンサ(コンデンサC)は、パターントランス10の一次側巻線のインダクタンス分との組み合わせにより共振するように構成される。すなわち、パターントランス10の一次側と二次側の両方においてRLC共振が生じるように構成される。
【0028】
また、第2コンデンサ(コンデンサC)及び第3コンデンサ(コンデンサC)は、コイルL及び第1コンデンサ(コンデンサC)が形成する共振回路の半値幅を大きくするように作用する静電容量を有するようにパラメータ設計される。この場合、共振回路の半値幅が大きくなるため、素子のパラメータによって共振回路の共振周波数と交流信号の周波数の若干のずれが生じても、共振効果の低減を抑えることができる。
【0029】
コンデンサCの一端は、ダイオードDのアノード端子に接続される。ダイオードDのカソード端子は、コンデンサCの一端に接続される。コンデンサCの他端は、コンデンサCの他端に接続される。これらは、パターントランス10の二次側電圧である交流電圧の半波分を整流する第1整流回路を構成する。
【0030】
コンデンサCの他端は、コンデンサCの一端に接続される。コンデンサCの他端は、ダイオードDのアノード端子に接続される。ダイオードDのカソード端子は、ダイオードDのアノード端子に接続される。これらは、パターントランス10の二次側電圧である交流電圧の半波分を整流する第2整流回路を構成する。
【0031】
コンデンサCの他端とコンデンサCの一端は、パターントランス10の二次側巻線12の負極端子に接続されている。そのため、コンデンサC及びコンデンサCの充電電圧は、第1整流回路と第2整流回路によって全波整流された直流電圧となる。
【0032】
コンデンサCの一端には、抵抗Rの一端が接続される。抵抗Rの他端は、コンデンサCの他端に接続される。抵抗Rは、コンデンサC及びコンデンサCの充電電圧を放電する場合に適した抵抗値を有するようパラメータ設計される。
【0033】
抵抗Rの一端は、抵抗Rの一端及び抵抗Rの一端に接続される。抵抗Rの他端は、FET40のゲート(G)端子に接続される。抵抗Rの他端は、FET50のゲート(G)端子に接続される。抵抗Rの他端は、抵抗Rの一端に接続される。抵抗Rの他端は、FET40のソース(S)端子及びFET50のソース(S)端子に接続される。
【0034】
FET40のドレイン(D)端子は、信号伝送回路100の正極側の出力端子に接続される。FET50のドレイン(D)端子は信号伝送回路100の負極側の出力端子に接続される。FET40、50は、それぞれゲート(G)端子とソース(S)端子との間の電圧が、パターントランス10の二次側電圧に応じて変化するため、スイッチング動作する。
【0035】
このように、パターントランス10の二次側に設けられている一以上の半導体スイッチング素子(例えば、FET40、50)は、パターントランス10の二次側電圧によってオンオフされ、接点出力信号を出力するように構成される。なお、上記構成において、ソース(S)端子を相互に接続したFET40、50は、無極性の接点出力信号を出力できる点で有利である。すなわち、このような信号伝送回路100によれば、I/Oモジュールとして、正極側と負極側の制限がない接点出力信号を出力するため、交流電圧で動作する電磁弁等もオンオフできる。
【0036】
また、信号伝送回路100は、制御部5を除く上述の構成を複数備えていてもよい。この場合、制御部5は、複数のパターントランスを動作させるための各パルス信号を各バッファへ出力可能である。ここで、制御部5は、複数のパターントランスを動作させるための各パルス信号について、各パターントランスの動作有無に応じて各パルス信号の成分量を制御する。なお、パルス信号の成分量とは、例えば、周期、周波数、振幅、位相、パルス幅、デューティ比等である。
【0037】
また、制御部5は、複数の信号伝送回路のそれぞれが備えるパターントランスの動作有無の組合せと、動作させる複数のパターントランスのそれぞれに対応したパルス信号の成分量とが対応付けられたテーブルが記憶された外部の記憶部(不図示)と双方向通信可能であってもよい。制御部5は、例えば、動作させるパターントランスの数と動作させるパターントランスのChとを含む情報を記憶部へ送信し、この情報を記憶部に記憶されたテーブルと照合することにより、動作させるパターントランスの各パルス信号の成分量を決定し、動作させるパターントランスのそれぞれに対応したパルス信号を生成するようにパルス信号の成分量を制御することとしてもよい。
【0038】
また、記憶部は、信号伝送回路の外部に備えられたものに限らず、信号伝送回路に設けられる記憶素子(メモリチップ)であってもよい。記憶素子は、例えば、ROMやフラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。
【0039】
また、制御部5は、演算処理を行う演算部(不図示)を備えていてもよい。演算部は、複数の信号伝送回路のそれぞれが備えるパターントランスの動作有無の組合せに応じて、動作させる複数のパターントランスのそれぞれに対応したパルス信号の成分量を演算する。そして、制御部5は、演算部によって演算された演算結果に基づいて、動作させるパターントランスのそれぞれに対応したパルス信号を生成するようにパルス信号の成分量を制御することとしてもよい。
【0040】
なお、上述する構成は、一例であり、制御部が、動作させるパターントランスの組合せに応じて、動作させる複数のパターントランスのそれぞれに対応したパルス信号の成分量を制御することができる構成であれば、適宜変更されてもよい。
また、制御部5は、これらの構成を用いて後述するパターントランスのパルス信号の制御を行うこととしてもよい。
【0041】
図2は、本開示の一実施形態に係るパターントランスの構成を示す概略図である。図2に示すようにパターントランス10は、複数の層を含む多層基板20に設けられる。
多層基板20の複数の層は、第1パターン層21、第2パターン層22、第3パターン層23、及び第4パターン層24を含む。これらの層にはプリントパターン配線が形成される。第2パターン層22は、第1パターン層21の一面側に形成される。第3パターン層23は、第2パターン層22の一面側に形成される。第4パターン層24は、第3パターン層23の一面側に形成される。
【0042】
図2に示す例では、一面側は、図における上下方向(層方向)の下側であり、他面側は、上下方向の上側である。第1パターン層21の一面側と第2パターン層22の他面側は対向している。第2パターン層22の一面側と第3パターン層23の他面側は対向している。第3パターン層23の一面側と第4パターン層24の他面側は対向している。このように、複数の層が層方向に配列されている。
【0043】
また、多層基板20の複数の層は、第1パターン層21と第2パターン層22との間に設けられた第1絶縁層27(コア層)と、第2パターン層22と第3パターン層23との間に設けられた第2絶縁層28(プリプレグ層)と、第3パターン層23と第4パターン層24との間に設けられた第3絶縁層29(コア層)と、を含む。これらの層は、絶縁性を有する絶縁層である。
【0044】
第1絶縁層27及び第3絶縁層29には、それぞれ層方向に隣接するプリントパターン配線同士を接続する接続部60が設けられる。接続部60は、第1平面領域に設けられる第1接続部60(60A、60C)と、第2平面領域に設けられる第2接続部60(60B、60D)と、を含む。一方、第2絶縁層28(プリプレグ層)には接続部60が設けられていない。
【0045】
接続部60は、例えば、第1絶縁層27と第3絶縁層29とのそれぞれを貫通するように設けられた各々のスルーホールに導電性材料を注入することによって形成される。なお、接続部60は、第1絶縁層27と第3絶縁層29とのそれぞれを貫通するように設けられた導体であってもよい。
【0046】
第1パターン層21、第2パターン層22、第3パターン層23、及び第4パターン層24は、例えば、厚さ0.018mmに設計される。プリプレグ層はコア層よりも厚いことが好ましい。例えば、第1絶縁層27と第3絶縁層29の厚さは、0.1mmであるのに対し、第2絶縁層28の厚さは、0.3mmであってもよい。この場合、一次側巻線11と二次側巻線12の絶縁性を確保しつつ、接続部60によるプリントパターン配線同士の接続を容易にすることができる。
【0047】
なお、図2に示す一例のように、多層基板20は、上記の4つのパターン層と3つの絶縁層に加えて、さらに第5パターン層25と第6パターン層26と第4絶縁層(プリプレグ層)と第5絶縁層(コア層)とを含んでいてもよい。例えば、第4絶縁層(プリプレグ層)の厚さは、0.6mmであり、第5絶縁層(コア層)の厚さは、0.1mmである。
【0048】
図2に示すように、パターントランス10は、多層基板20における第1平面領域及び第2平面領域のそれぞれに設けられる巻線状のプリントパターン配線を含む一次側巻線11と、一次側巻線11とは異なる層方向位置に設けられ、多層基板20における第1平面領域及び第2平面領域のそれぞれに設けられる巻線状のプリントパターン配線を含む二次側巻線12と、を有する。一次側巻線11と二次側巻線12は、電磁的に結合するように構成される。
【0049】
第1平面領域と第2平面領域は、それぞれ接続部60を含む領域である。第1平面領域と第2平面領域は、異なる平面領域であり、互いに重複しない領域であることが好ましい。「第1平面領域に設けられる」とは、第1平面領域と少なくとも一部が重なるように設けられることを意味する。「第2平面領域に設けられる」も同様である。すなわち、一次側巻線11の巻線状のプリントパターン配線と二次側巻線12のプリントパターン配線とは、平面視でずれていても一部が重なっていればよい。
【0050】
図2に示すように、一次側巻線11のプリントパターン配線は、第1パターン層21及び第2パターン層22に形成される。一次側巻線11のプリントパターン配線は、第1巻線部11A、第2巻線部11B、第3巻線部11C、及び第4巻線部11Dを含む。
【0051】
第1巻線部11Aは、第1パターン層21の第1平面領域において、正極側の端部を起点として、第1絶縁層27に設けられている第1接続部60(60A)の周囲に時計回りで内側に向かって巻回され、第1接続部60(60A)に接続されるように延在する。第2巻線部11Bは、第2パターン層22の第1平面領域において、第1接続部60(60A)を介して第1巻線部11Aと接続され、第2パターン層22において第1接続部60(60A)を起点として該第1接続部60(60A)の周囲に時計回りで外側に向かって巻回される。
【0052】
第3巻線部11Cは、第2パターン層22の第2平面領域において、第2巻線部11Bの負極側の端部に接続され、第2巻線部11Bの負極側の端部を起点として、第2接続部60(60B)の周囲に反時計回りで内側に向かって巻回され、第2接続部60(60B)に接続されるように延在する。第4巻線部11Dは、第1パターン層21の第2平面領域において、第2接続部60(60B)を介して第3巻線部11Cと接続され、第1パターン層21において第2接続部60(60B)を起点として該第2接続部60(60B)の周囲に反時計回りで外側に向かって巻回されるとともに、負極側の端部に接続される。
【0053】
図2に示すように、二次側巻線12のプリントパターン配線は、第4パターン層24及び第3パターン層23に形成される。二次側巻線12のプリントパターン配線は、第5巻線部12A、第6巻線部12B、第7巻線部12C、及び第8巻線部12Dを含む。
【0054】
第5巻線部12Aは、第4パターン層24の第2平面領域において、正極側の端部を起点として、第3絶縁層29に設けられている第2接続部60(60D)の周囲に時計回りで内側に向かって巻回され、第2接続部60(60D)に接続されるように延在する。第6巻線部12Bは、第3パターン層23の第2平面領域において、第2接続部60(60D)を介して第5巻線部12Aと接続され、第3パターン層23において第2接続部60(60D)を起点として該第2接続部60(60D)の周囲に時計回りで外側に向かって巻回される。
【0055】
第7巻線部12Cは、第3パターン層23の第1平面領域において、第6巻線部12Bの負極側の端部に接続され、第6巻線部12Bの負極側の端部を起点として、第1接続部60(60C)の周囲に反時計回りで内側に向かって巻回され、第1接続部60(60C)に接続されるように延在する。第8巻線部12Dは、第4パターン層24の第1平面領域において、第1接続部60(60C)を介して第7巻線部12Cと接続され、第4パターン層24において第1接続部60(60C)を起点として該第1接続部60(60C)の周囲に反時計回りで外側に向かって巻回されるとともに、負極側の端部に接続される。
【0056】
なお、多層基板20には、上述のパターントランス10が複数個形成されていてもよい。複数のパターントランス10の動作は、いずれも制御部によって制御される。
【0057】
図3は、本開示の一実施形態に係る複数のパターントランスが形成された多層基板の平面図である。図3に示すように、多層基板20には、パターントランス10が16Ch形成される。なお、複数のパターントランス10は、図3の紙面左端の1Chのパターントランス10aから、図3の紙面右端の16Chのパターントランス10pまで紙面左右方向に並列するように形成される。また、図3の平面図において、紙面上側は図2における第1平面領域に相当し、紙面下側は第2平面領域に相当する。
【0058】
多層基板20に形成されるパターントランス10は、奇数Chのパターントランスと偶数Chのパターントランスとが、紙面上下方向において互いにずらされた位置に形成されている。より具体的には、奇数Chのパターントランスの第1平面領域側の渦巻部と偶数Chのパターントランスの第2平面領域側の渦巻部が、紙面左右方向に並列するように各パターントランスが形成されている。
【0059】
このように、奇数Chのパターントランスの第1平面領域側の渦巻部と、奇数Chのパターントランスの第2平面領域側の渦巻部とが隣り合う配置となるため、互いに近くに位置するパターントランス同士が動作される場合、各パターントランスの動作状態に応じて各渦巻部に発生する漏れ磁束が互いに干渉し合う。
【0060】
(複数のパターントランスのパルス信号の制御に関する実施形態1)
図4は、16Ch全てのパターントランスを動作させる場合の各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。
16Ch全てのパターントランス10を動作させる場合において、複数のパターントランス10の各パルス信号は、制御部によって正相又は逆相のいずれかに設定される。
【0061】
例えば、奇数Chのパターントランスのパルス信号について、まず、1Chのパターントランス10aのパルス信号の位相極性は、制御部によって正相に設定される。次に、3Chのパターントランス10cのパルス信号の位相極性は、制御部によって1Chのパターントランス10aのパルス信号の位相極性と反対の位相極性である逆相に設定される。そして、5Chのパターントランス10eのパルス信号の位相極性は、制御部によって3Chのパターントランス10cのパルス信号の位相極性と反対の位相極性である正相に設定される。このように、奇数Chのパターントランスの各パルス信号の位相極性は、制御部によって正相と逆相が交互に設定される。
【0062】
さらに、制御部によって、7Chのパターントランス10gから15Chのパターントランス10оの奇数Chの各パルス信号の位相極性は、正相と逆相が交互に設定される。
【0063】
また、偶数Chのパターントランスのパルス信号について、奇数Chのパターントランスのパルス信号と同様に、2Chのパターントランス10bのパルス信号の位相極性は、制御部によって正相に設定される。次に、4Chのパターントランス10dのパルス信号の位相極性は、制御部によって2Chのパターントランス10bのパルス信号の位相極性と反対の位相極性である逆相に設定される。そして、6Chのパターントランス10fのパルス信号の位相極性は、制御部によって4Chのパターントランス10dのパルス信号の位相極性と反対の位相極性である正相に設定される。このように、偶数Chのパターントランスの各パルス信号の位相極性は、正相と逆相が交互に設定される。
【0064】
さらに、制御部によって、8Chのパターントランス10hから16Chのパターントランス10pの偶数Chの各パルス信号の位相極性は、正相と逆相が交互に設定される。
【0065】
図5は、図4に対応した一部のパターントランスのパルス信号の波形図である。また、図6は、図4に対応した一部のパターントランスによって生じる磁束を表す概略図である。なお、図5及び図6では、例として、1Chから5Chまでのパターントランス及びパルス信号について説明する。また、図2と同様に、図6において、紙面下側を第1平面領域側とし、紙面上側を第2平面領域側とする。
【0066】
まず、図5に示すように、全Chのパターントランスを動作させる場合の各パターントランスのパルス信号は、制御部によって、1Chのパターントランスのパルス信号と、2Chのパターントランスのパルス信号と、5Chのパターントランスのパルス信号とが同じ位相極性に設定される。また、制御部によって、3Chのパターントランスのパルス信号と、4Chのパターントランスのパルス信号とが同じ位相極性に設定される。そして、1Chのパターントランスのパルス信号と3Chのパターントランスのパルス信号は互いに位相極性が反転した状態に設定される。
【0067】
このように、16Ch全てのパターントランスを動作させる場合においては、任意の数をnとすると、(2n-1)Chのパターントランスのパルス信号と、2nChのパターントランスのパルス信号とが同じ位相極性となる。また、nChのパターントランスのパルス信号と、(n+2)Chのパターントランスのパルス信号は互いに位相極性が反転した状態に設定される。
【0068】
そして、各パターントランスが各パルス信号に基づいて動作されると、各パターントランスに磁束が生じ、図6に示すように磁束線ができる。ここで、各パターントランスは、奇数Chのパターントランスの第1平面領域側の渦巻部と偶数Chのパターントランスの第2平面領域側の渦巻部が、紙面左右方向に並列するように形成されている(図6の破線部)。
【0069】
この時、1Chのパターントランス10aの第2平面領域側の渦巻部に生じる磁束(磁束線)と、2Chのパターントランス10bの第1平面領域側の渦巻部に生じる磁束(磁束線)とが互いに逆向きとなる。同様に、この他の(2n-1)Chのパターントランスに生じる磁束と2nChのパターントランスに生じる磁束も互いに逆向きの関係となる。
【0070】
このように、隣り合うパターントランスに生じる磁束が互いに逆向きとなり、互いの磁束を打消し合うように作用するため、パターントランスから発生する漏れ磁束により発せられる電波放射が抑制される。
【0071】
(実施形態2)
実施形態1では、全てのパターントランスを動作させる場合の各パルス信号の制御について説明したが、本実施形態では、動作させる複数のパターントランス(信号伝送回路)が選択的に設定される場合の各パルス信号の制御について説明する。
図7は、複数のパターントランスの動作有無及び各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。図8は、図7に対応した一部のパターントランスのパルス信号の波形図である。また、図9は、図7に対応した各パターントランスによって生じる磁束を表す概略図である。図8及び図9では、例として、1Chから5Chまでのパターントランス及びパルス信号について説明する。また、図2と同様に、図9において、紙面下側を第1平面領域側とし、紙面上側を第2平面領域側とする。
【0072】
図7は、複数のパターントランスの動作有無及び各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を示す。例えば、制御部は、2Chのパターントランス、8Chのパターントランス及び11Chのパターントランスの動作をOFFとして、その他のパターントランスを動作させる。
【0073】
この場合、奇数Chのパターントランスの各パルス信号の位相極性は、動作させない11Chのパターントランスのパルス信号を除いて、制御部によって正相と逆相が交互に設定される。同様に、偶数Chのパターントランスの各パルス信号の位相極性は、動作させない2Chのパターントランスのパルス信号及び8Chのパターントランスのパルス信号を除いて、制御部によって正相と逆相が交互に設定される。
【0074】
このように、動作させないパターントランスが存在する場合、制御部は、奇数Ch及び偶数Chのいずれにおいても、動作させないパターントランスのパルス信号を制御対象から省き、動作させるパターントランスのパルス信号の位相極性が正相と逆相が交互に配置されるように各パルス信号を制御する。すなわち、制御部は、動作させるパターントランスの組み合わせに応じて、各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性を制御する。
【0075】
図8は、図7に対応した一部のパターントランスのパルス信号の波形図である。1Ch~5Chの各パターントランスのパルス信号が、制御部によって図7に示すように制御される。
制御部は、1Chのパターントランスを正相のパルス信号によって動作させる。また、2Chのパターントランスを動作させず、3Chのパターントランスを逆相のパルス信号によって動作させる。さらに、4Chのパターントランス及び5Chのパターントランスを正相のパルス信号によって動作させる。
【0076】
なお、本実施形態では、2Chのパターントランスを動作させないことに対応して、4Chのパターントランスのパルス信号の位相極性が、制御部によって正相に制御されている点が、実施形態1と異なる。
【0077】
図9は、図7に対応した各パターントランスによって生じる磁束を表す概略図である。全Chのトランスパターンを動作させる場合において、1Chのパターントランス10aに生じる磁束は、2Chのパターントランス10bによって生じる磁束と打消し合っていた。本実施形態では、2Chのパターントランス10bは動作させないため、1Chのパターントランス10aに生じる磁束は、動作させるパターントランスのうち、1Chのパターントランス10aの最も近くに位置する3Chのパターントランス10cに生じる磁束と打消し合う。なお、1Chのパターントランス10aのパルス信号の位相極性は正相であり、3Chのパターントランス10cのパルス信号の位相極性は逆相であるため、1Chのパターントランス10aに生じる磁束と3Chのパターントランス10cに生じる磁束は互いに逆向きとなる。
【0078】
このように、動作させないパターントランスが存在する場合、所定の動作させるパターントランスのパルス信号と、動作させるパターントランスのうち、その動作させるパターントランスの最も近くに位置するパターントランスのパルス信号の各位相極性が異なるように、各パルス信号の位相極性が制御部によって制御される。
【0079】
また、本実施形態において、4Chのパターントランス10dのパルス信号の位相極性は正相であり、5Chのパターントランス10eのパルス信号の位相極性と同じとなる。すなわち、4Chのパターントランス10dの第2平面領域側の渦巻部に生じる磁束と、5Chのパターントランス10eの第1平面領域側の渦巻部に生じる磁束とが互いに逆向きとなる。これにより、4Chのパターントランス10dに生じる磁束は、5Chのパターントランス10eによって生じる磁束と打消し合う。
【0080】
このように、制御部は、各パターントランスに生じる磁束がそれぞれ近くに位置するパターントランスで生じる磁束と互いに打消し合うように、各パターントランスのパルス信号を制御する。これにより、互いに近くに位置するパターントランス同士で磁束を打消し合うことができるため、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズをより効果的に低減することができる。
【0081】
(実施形態3)
本実施形態では、動作させる複数のパターントランスが選択的に設定される場合の各パルス信号の制御について説明したが、本実施形態では、動作させる複数のパターントランス(信号伝送回路)が奇数である場合にダミーのトランスパターンを動作させる制御について説明する。なお、ダミーのパターントランス(以下「Dパターントランス」という)とは、信号伝送回路の動作において使用されることはないが、他のパターントランスを動作させた際にパターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減するために動作させるパターントランスである。Dパターントランスの構成は、他のパターントランスと同様である。
【0082】
図10の(a)は、Dパターントランスが形成された多層基板の平面図を示す。また図10の(b)は、各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性に対応してDパターントランスのパルス信号の位相極性を例示する図である。
図10の(a)に示すように、多層基板にDパターントランス10qが形成される場合、Dパターントランス10qは、17Chのパターントランスとして、16Chのパターントランス10pの隣に形成される。このような位置にDパターントランス10qが形成されることにより、他のパターントランスと同様にDパターントランス10qの近くで動作させるパターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減するように動作可能となる。
【0083】
例えば、1Ch~16Chの各パターントランスのパルス信号の位相極性が図10(b)に示すものである場合、1Ch~16Chのパターントランスのうち、動作させるパターントランスの数が奇数である。この場合、各Chのパターントランスのパルス信号の位相極性は、近くに形成されたパターントランス同士で、互いにパターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減するように、制御部によって設定される。
【0084】
しかしながら、動作させるパターントランスの数が奇数であるため、近くに形成されたパターントランス同士を組とした場合、16Chのパターントランス10pと組めるパターントランスが存在せず、16Chのパターントランス10pから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができない。
【0085】
そこで、このような場合に、制御部は、16Chのパターントランス10pから発生する漏れ磁束を打ち消すために、他のChの各パターントランスのパルス信号の位相極性に基づいて、Dパターントランス10qのパルス信号の位相極性を設定し、Dパターントランス10qを動作させる。なお、本実施形態においては、Dパターントランス10qのパルス信号の位相極性は逆相に設定される。
また、Dパターントランス10qは、Dパターントランス10qに最も近いパターントランスから発生する漏れ磁束を打ち消すために動作されるものであって、Dパターントランス10qのパルス信号の位相極性は16Chのパターントランス10p以外のパターントランスに対応するように設定されてもよい。
【0086】
このように、制御部が、Dパターントランス10qのパルス信号を逆相に設定し、Dパターントランス10qを動作させることにより、16Chのパターントランス10pから漏れる磁束をDパターントランス10qから発生する漏れ磁束によって打ち消すことができる。これにより、動作させる複数のパターントランスの数が奇数の場合でも、Dパターントランス10qを動作せることにより、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
【0087】
(実施形態4)
実施形態1~実施形態3では、各パターントランスのパルス信号の位相極性を制御することにより、パターントランスから放射されるノイズを低減する制御を説明したが、本実施形態では、動作させるパターントランスのパルス信号の位相をずらすことにより、パターントランスから放射されるノイズを低減する制御を説明する。
【0088】
図11は、複数のパターントランスが形成された多層基板の平面図である。また、図12は、各パターントランスのパルス信号に位相差を設けた場合を例示する図である。
図11に示すように、本実施形態のパターントランスは8Chであり、各パターントランス及び各パターントランスが有する巻線部は、紙面上下方向における位置が等しく紙面左右方向に並列するように形成される。また、図12に示すように、制御部は、各Chのパターントランスのパルス信号の立上がりのタイミングが他のChのパターントランスのパルス信号と重複しないように位相差を設けるよう各パルス信号の位相を制御する。
【0089】
制御部は、各パルス信号同士の位相差を決定する際に、動作させるパターントランスの数に基づいて、各パルス信号同士の位相差を決定する。例えば、1Ch~8Chの8個のパターントランスを動作させる場合、1Chのパターントランスのパルス信号~8Chのパターントランスのパルス信号は、1Chのパターントランス(第1パターントランス)のパルス信号を基準として、2Chのパターントランスのパルス信号~8Chのパターントランスのパルス信号のそれぞれに位相差を設けるように制御される。
【0090】
各パルス信号に設ける位相差は、例えば、Chに基づいて決められ、8Chのパターントランスを動作させる場合には、2π*1/8[rad]ずつ位相を遅らせることとする。ここで、Chの数については、8Chに限らず、8Ch以上でもよく、仮に、動作させるパターントランスの数をnとした場合、位相差を2π*1/n[rad]としてもよい。
【0091】
例えば、制御部は、1Chのパターントランス10a’のパルス信号の立ち上がりのタイミングに対して、2Chのパターントランス10b’のパルス信号の立ち上がりのタイミングを2π*1/8[rad]遅らせるように、2Chのパターントランスのパルス信号を制御する。
【0092】
次に、制御部は、2Chのパターントランス10b’のパルス信号の立ち上がりのタイミングに対して、3Chのパターントランス10c’のパルス信号の立ち上がりのタイミングを2π*1/8[rad]遅らせるように、3Chのパターントランス10c’のパルス信号を制御する。
【0093】
このように、制御部によって、4Ch以降のパターントランスのパルス信号についても、1つ前のChのパターントランスのパルス信号に対して、2π*1/8[rad]遅らせるように制御される。この結果、1Chのパターントランス~8Chのパターントランスの各パルス信号の立ち上がりの各タイミングが同じになることがなくなる。
【0094】
このように、制御部によって、各パターントランスのパルス信号同士に位相差が設けられることにより、各パターントランス10a’~10h’のパルス信号の立ち上がりタイミングが重複することが無くなり、パルス信号の立ち上がりのエッジが増大することを抑制することができる。これにより、各パルス信号の立ち上がりのエッジが増大することを抑制され、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
なお、本実施形態の手法は、一例に過ぎず、各パルス信号の位相差を算出及び制御する手法については適宜変更されてもよい。
【0095】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施形態の信号伝送回路100を制御する制御システム1において、複数のパターントランス10(10a~10p)の各パルス信号を制御する制御部5は、動作させるパターントランス10a~10pの組み合わせ、又は、動作させるパターントランスの1つである第1パターントランス10a’のパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させるパターントランス10の各パルス信号を制御する。
複数のパターントランス10を動作させる場合、パターントランス10から発生する漏れ磁束が外部へ放射されるノイズとなる場合がある。このような場合に制御部5は、動作させるパターントランス10a~10pの組み合わせ、又は、動作させるパターントランスの1つである第1パターントランス10a’のパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させるパターントランスの各パルス信号を制御する。これにより、パターントランスを動作させる場合においても、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
【0096】
制御部5は、例えば、動作させるパターントランス10a~10pの位置関係に基づいて、動作させるパターントランス10a~10pのパルス信号の位相極性を制御することとしてもよい。例えば、制御部5は、各パターントランス10a~10pがそれぞれどのようなパターンで形成されているかを把握しており、所定のパターントランスから発生する漏れ磁束を低減するために、このパターントランスの近くに位置する他のパターントランスのパルス信号の位相極性を制御することにより、各パターントランスに互いに逆向きの漏れ磁束を発生させ、パターントランスから発生する漏れ磁束を打ち消すことができる。
【0097】
また、多層基板20に、信号伝送回路の動作において使用されることはないが、他のパターントランス10a~10pを動作させた際にパターントランスから発生する漏れ磁束を低減するために動作させるDパターントランス10qが形成されていてもよい。この場合、制御部5が、動作させるパターントランス10a~10pの数が奇数の場合において、Dパターントランス10qを動作させることにより、パターントランス10a~10pは必ずいずれかのパターントランスと漏れ磁束を打消し合うことができるため、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズをより確実に低減することができる。
【0098】
また、制御部5は、第1パターントランス10a’のパルス信号に対して、第1パターントランス10a’以外のパターントランス10b’~10h’のパルス信号の位相を所定量変化させるように各パルス信号を制御することとしてもよい。この場合、制御部5によって、各パターントランス10a’~10h’のパルス信号同士に位相差が設けられることにより、各パターントランス10a’~10h’のパルス信号の立ち上がりタイミングが重複することが無くなり、パルス信号の立ち上がりのエッジが増大することを抑制することができる。これにより、各パルス信号の立ち上がりのエッジが増大することを抑制され、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
【0099】
以上、本開示について実施形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。本開示の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0100】
(付記事項)
上述した実施形態に記載の信号伝送回路の制御システム、これを備えたI/Oモジュール、制御システムの制御方法及び制御システムの制御プログラムは、例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係る信号伝送回路(100)の制御システム(1)は、複数の層を含む多層基板(20)と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランス(10)とを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御システムであって、動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランス(10a’)のパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号を制御する制御部(5)を備える。
【0101】
本開示に係る信号伝送回路の制御システムによれば、複数のパターントランスの各パルス信号を制御する制御部は、動作させるパターントランスの組み合わせ、又は、動作させるパターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号を制御する。例えば、複数のパターントランスを動作させる場合、パターントランスから発生する漏れ磁束が外部へ放射されるノイズとなる。したがって、各パターントランスを同位相のパルス信号で動作させる場合、パターントランスから外部へ放射されるノイズが増大してしまう。そのため、制御部は、動作させるパターントランスの組み合わせ、又は、動作させるパターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させるパターントランスの各パルス信号を制御する。これにより、パターントランスを動作させる場合においても、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
【0102】
本開示の第2態様に係る信号伝送回路の制御システムは、前記第1態様において、前記制御部は、複数の前記パターントランスを動作させる場合に、動作させる前記パターントランスの位置関係に基づいて、動作させる前記パターントランスのパルス信号の位相極性を制御する。
【0103】
本開示に係る信号伝送回路の制御システムによれば、制御部は、複数のパターントランスを動作させる場合に、動作させるパターントランスのパルス信号の位相極性を制御する。これにより、互いに近くに位置するパターントランス同士で、パターントランスから発生する漏れ磁束を打消し合うように各パルス信号の位相極性を制御することができるため、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズをより効果的に低減することができる。
【0104】
本開示の第3態様に係る信号伝送回路の制御システムは、前記第1態様又は前記第2態様において、前記多層基板には、複数の前記パターントランスの動作時に放射されるノイズを低減するためのダミーのパターントランスが設けられ、前記制御部は、動作させる前記パターントランスの数が奇数である場合に、前記ダミーのパターントランスを動作させるとともに、動作させる前記パターントランスの組み合わせに応じて、前記ダミーのパターントランスのパルス信号の位相極性を制御する。
【0105】
本開示に係る信号伝送回路の制御システムによれば、多層基板には、複数のパターントランスの動作時に放射されるノイズを低減するためのダミーのパターントランスが設けられ、制御部は、動作させるパターントランスの数が奇数である場合に、前記ダミーのパターントランスを動作させるとともに、動作させるパターントランスの組み合わせに応じて、ダミーのパターントランスのパルス信号の位相極性を制御する。これにより、動作させる複数のパターントランスの数が奇数の場合でも、ダミーのトランスパターンを動作せることにより、互いに逆の位相となるパターントランスのペアをつくることができる。したがって、各パターントランスは必ずいずれかのパターントランスから発生する漏れ磁束を打消し合うことができるため、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズをより確実に低減することができる。
【0106】
本開示の第4態様に係る信号伝送回路の制御システムは、前記第1態様において、前記制御部は、複数の前記パターントランスを動作させる場合に、前記第1パターントランスのパルス信号に対して、前記第1パターントランス以外の前記パターントランスのパルス信号の位相を所定量変化させるように各パルス信号を制御する。
【0107】
本開示に係る信号伝送回路の制御システムによれば、制御部は、複数のパターントランスを動作させる場合に、第1パターントランスのパルス信号に対して、動作させる各パターントランスのパルス信号の位相を所定量変化させる、例えば、各パルス信号の立ち上がりのタイミングに位相差を設けることにより、他のパターントランスのパルス信号の立ち上がりのエッジが増大することを抑制する。これにより、各パルス信号の立ち上がり時において、パターントランスから発生する漏れ磁束によって外部へ放射されるノイズを低減することができる。
【0108】
本開示の第5態様に係るI/Oモジュールによれば、前記第1態様から前記第4態様のいずれかの信号伝送回路の制御システムを備える。
【0109】
本開示の第6態様に係る信号伝送回路の制御方法は、複数の層を含む多層基板と、前記多層基板に設けられる複数のパターントランスとを備え、絶縁信号を伝送するための信号伝送回路を制御する制御方法であって、動作させる前記パターントランスの組み合わせ、又は、動作させる前記パターントランスの1つである第1パターントランスのパルス信号の少なくとも1つに基づいて、動作させる前記パターントランスの各パルス信号の制御を行うコンピュータが実行する。
【0110】
本開示の第7態様に係る信号伝送回路の制御プログラムは、前記第6態様の信号伝送回路の制御方法をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0111】
1 制御システム
5 制御部
10(10a~10p,10a’~10h’) パターントランス
10q Dパターントランス(ダミーのパターントランス)
11 一次側巻線
11A~11D 第1巻線部~第4巻線部
12 二次側巻線
12A~12D 第5巻線部~第8巻線部
20 多層基板
21~26 第1パターン層~第6パターン層
27~29 第1絶縁層~第3絶縁層
30 バッファ
40,50 FET
60(60A~60D) 接続部(第1接続部,第2接続部)
100 信号伝送回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12