(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092555
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
H04W 88/06 20090101AFI20240701BHJP
H04W 4/00 20180101ALI20240701BHJP
H04W 64/00 20090101ALI20240701BHJP
H04W 56/00 20090101ALI20240701BHJP
H04B 17/18 20150101ALI20240701BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20240701BHJP
H04B 17/27 20150101ALI20240701BHJP
【FI】
H04W88/06
H04W4/00 110
H04W64/00
H04W56/00 130
H04B17/18
H04B17/29 300
H04B17/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208584
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】荘司 洋三
(72)【発明者】
【氏名】寳迫 巌
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067DD30
5K067EE02
5K067EE34
(57)【要約】
【課題】広域通信が可能な別周波数帯を用いて端末間の時刻同期と事前交渉を行うことで、超狭域な通信可能エリアを最大限に有効活用可能な通信装置を提供する。
【解決手段】二周波数を用いる通信装置2、3において、ミリ波・テラヘルツ波によって他の通信装置との間で通信を行う第1無線通信部(20、30)と、前記第1無線通信部(20、30)より低い周波数の電波によって、前記他の通信装置との間での事前交渉情報を含むフレームを送受信し、前記事前交渉情報が少なくとも第1無線通信部の開始時刻を含む第2無線通信部(21、31)と、前記第1無線通信部(20、30)が前記開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御する制御部(24、34)と、を備え、前記制御部は、通信装置の内部又は外部に設けられることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二周波数を用いる通信装置において、
ミリ波・テラヘルツ波によって他の通信装置との間で通信を行う第1無線通信部と、
前記第1無線通信部より低い周波数の電波によって、前記他の通信装置との間での事前交渉情報を含むフレームを送受信し、前記事前交渉情報が少なくとも第1無線通信部の開始時刻を含む第2無線通信部と、
前記第1無線通信部が前記開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、通信装置の内部又は外部に設けられることを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記開始時刻を前記他の通信装置との間の位置関係に基づいて定期的に更新し、最新の前記開始時刻を含む前記事前交渉情報を同じく定期的に送受信することにより、前記通信装置と前記他の通信装置との間で特定のアルゴリズムに従って同一の共通開始時刻となるように協議し、かつ前記位置関係は、測距により得られた装置間の距離、あるいは各装置における測位情報であり、前記共通開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御することを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記通信装置がさらに時刻同期部と基準発振器を備え、
前記時刻同期部は前記他の通信装置との相互のコード送受信により、相互の基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間に基づいて、前記通信装置と前記他の通信装置の間の時刻を合わせ、
前記コード送受信は前記第2無線通信部によって行われることを特徴とする請求項1又は2記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信装置がさらに測距部を備え、
前記測距部は前記伝搬遅延時間に基づいて前記通信装置と前記他の通信装置の間の距離を計測し、
前記位置関係が前記測距部により得られた通信装置間の距離であることを特徴とする請求項3記載の通信装置。
【請求項5】
前記事前交渉情報が、前記第1無線通信部で送受信するコンテンツを示す情報と、ロールと、変調方式と、暗号化のための鍵と、時刻合わせのための情報のいずれか、あるいは組合せを含むことを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項6】
前記制御部は、さらに前記第1無線通信部による通信が終了したあとに前記第2無線通信部を用いて事後交渉情報を含むフレームを少なくとも一回以上送受信し、
前記事後交渉情報が、前記第1無線通信部によって転送されたデータを検証するための情報を含むことを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項7】
前記通信装置がさらに前記時刻同期部は他の通信装置との間で時刻を一致させるように時刻同期を行う時刻同期部と、
自装置の位置、あるいは他の通信装置との間の位置関係を計測する測位部と、を備え、
前記制御部は、前記第1無線通信部の少なくとも受信電波強度、通信イベント、転送レート、変調・符号化状況の時系列データに、タイムスタンプと測位データを付与した時空間スタンプ付き通信ログを生成し、記録することを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項8】
前記制御部は、自装置あるいは他の通信装置が過去に取得した前記時空間スタンプ付き通信ログに基づいて、第1無線通信が良好な領域に進入する時間を前記開始時刻として算出することを特徴とする請求項7記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二周波数帯を用いる通信装置に関し、特にミリ波・テラヘルツ波を用いた広帯域通信の通信可能エリアを有効活用するのに好適な通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミリ波・テラヘルツ波を用いた広帯域通信により、高速・大容量なデータ転送を行うことができる。使用周波数帯が上がるにつれて広帯域となり転送レートを向上させることが可能となるが、一方で電波の減衰が強くなるため伝搬距離がとれなくなる。すなわち、これは、高周波を利用した通信においては通信可能エリアが空間的に制限されることを意味し、特にミリ波では数十メートル内、テラヘルツ波ともなれば数メートル内でしか通信が成立しない特徴がある。本明細書においては、マイクロ波の周波数は30GHz以下、ミリ波の周波数は30GHz~100GHz、テラヘルツ波の周波数は100GHz~3THzと定義される。従って、ミリ波・テラヘルツ波という用語の周波数帯は、30GHz~3THzと定義される範囲で使用している。
【0003】
超広帯域通信UWB(Ultra Wide Band)を用いる移動端末は常に信号が受信可能な状態で待機する必要があり、その待機時間によって消費電力が増加する課題に対し、BLE(Bluetooth Low Energy)を用いたアドバタイズを受信トリガとしてUWB通信のタイミングを計ることで消費電力を低減する(特許文献1)。また、BLE通信によってUWB通信用の鍵を事前に交換する構成の記載もある。また、高速な移動体に搭載してミリ波通信を行うために、有指向性のアンテナを有する無線(特許文献2、3の実施形態では60GHz)と無指向性のアンテナを有する無線(特許文献2、3の実施形態では5.9GHz)を備え、後者によって前者のアソシエーション手続きを制御する(特許文献2、特許文献3)。
【0004】
上記特許文献2、特許文献3は、無指向性と有指向性の2つの異なる無線通信部を備え、無指向性の通信に基づいて有指向性の無線のアソシエーションやアンテナ指向性を制御するものであり、二周波数帯を用いる通信装置に関連する特許として挙げた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-137878号公報
【特許文献2】特開2021-158597号公報
【特許文献3】特開2021-158598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固定端末同士の通信であれば双方の位置が既知であるため、上記の超狭域な通信可能エリアに通信機を据え置くことができるが、少なくとも通信端末の片側が移動端末であったときには、移動端末特有な下記の課題が生じる。つまり、互いの通信可能エリアに入るまでは同帯域を用いた通信が成立せず、そのためいつ、どこで通信が成立する機会が得られるかを別の手段に頼り情報を得る必要がある。さらに、移動しながら通信可能エリアを利用することになるため、時間的にもそのエリアの利用が限定され、空間的・時間的に限定された通信可能エリアでしか通信できない新たな課題が生じる。
【0007】
したがって、従来であれば同帯域で行っていた、本来のデータ転送に寄与しないアソシエーション、認証、鍵の交換などが、時間的に制限された貴重な通信可能期間を有効に活用するための障害となる。また、時間あたりの転送レートが従来の通信と比較して桁違いに高く、同帯域のRF(Radio Frequency)トランシーバの起動に要する時間さえも同様にデータ転送に寄与しない時間として問題となる。有線接続によるPTP(Precision Time Protocol)などの高精度時刻同期が利用できず、端末間の同期性能が劣ることから、高速通信がもたらす時分割による多数同時接続性を活かすことができない。加えて、上記の時間的に限定されたエリアを互いに認識するための十分な時刻同期性能を得ることができない。
【0008】
特許文献1では、アドバタイズ受信時だと双方のタイミングがずれるため、さらにスキャンリクエスト受信時をトリガとして用いるクレームや、固定の遅延を追加する構成の記載もあるが、BLE送受信にかかる遅延や受信時点でUWB通信が利用可能であるかが保証されず、UWB通信が可能となるタイミングに合わせてUWB通信を開始することができないため、UWB通信の機会を損失し転送量に制限が生じる。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、二周波数帯を用いる通信装置において、超狭域な通信可能エリアを作るミリ波・テラヘルツ波通信を利用する際、その通信可能エリアに入る直前に通信機能を有効にし、かつ滞在期間中に実データ転送に資する時間を最大化することで、高効率な大容量・超高速通信が可能な通信装置を提供することにある。
【0010】
また、別の目的は、上記ミリ波・テラヘルツ波通信がいつ、どこで、どのような通信が行われたかのモニタリングを可能とし、モニタリングの結果から、過去の通信履歴から適切な通信開始時期を決定可能にするモニタリング機能を搭載した通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、第1発明に係る通信装置は、二周波数を用いる通信装置において、ミリ波・テラヘルツ波によって他の通信装置との間で通信を行う第1無線通信部と、前記第1無線通信部より低い周波数の電波によって、前記他の通信装置との間での事前交渉情報を含むフレームを送受信し、前記事前交渉情報が少なくとも第1無線通信部の開始時刻を含む第2無線通信部と、前記第1無線通信部が前記開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御する制御部と、を備え、前記制御部は、通信装置の内部又は外部に設けられることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る通信装置は、第1発明において、前記制御部は、前記開始時刻を前記他の通信装置との間の位置関係に基づいて定期的に更新し、最新の前記開始時刻を含む前記事前交渉情報を同じく定期的の送受信することにより、前記通信装置と前記他の通信装置との間で特定のアルゴリズムに従って同一の共通開始時刻となるように協議し、かつ前記位置関係は、測距により得られた装置間の距離、あるいは各装置における測位情報であり、前記共通開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る通信装置は、第1発明又は第2発明において、前記通信装置がさらに時刻同期部と基準発振器を備え、前記時刻同期部は前記他の通信装置との相互のコード送受信により、相互の基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間に基づいて、前記通信装置と前記他の通信装置の間の時刻を合わせ、前記コード送受信は前記第2無線通信部によって行われることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る通信装置は、第3発明において、前記通信装置がさらに測距部を備え、前記測距部は前記伝搬遅延時間に基づいて前記通信装置と前記他の通信装置の間の距離を計測し、前記位置関係が前記測距部により得られた通信装置間の距離であることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る通信装置は、第1発明において、前記事前交渉情報が、前記第1無線通信部で送受信するコンテンツを示す情報と、ロールと、変調方式と、暗号化のための鍵と、時刻合わせのための情報のいずれか、あるいは組合せを含むことを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る通信装置は、第1発明において、前記制御部は、さらに前記第1無線通信部による通信が終了したあとに前記第2無線通信部を用いて事後交渉情報を含むフレームを少なくとも一回以上送受信し、前記事後交渉情報が、前記第1無線通信部によって転送されたデータを検証するための情報を含むことを特徴とする。
【0017】
第7発明に係る通信装置は、第1発明において、前記通信装置がさらに前記時刻同期部は他の通信装置との間で時刻を一致させるように時刻同期を行う時刻同期部と、自装置の位置、あるいは他の通信装置との間の位置関係を計測する測位部と、を備え、前記制御部は、前記第1無線通信部の少なくとも受信電波強度、通信イベント、転送レート、変調・符号化状況の時系列データに、タイムスタンプと測位データを付与した時空間スタンプ付き通信ログを生成し、記録することを特徴とする。
【0018】
第8発明に係る通信装置は、第7発明において、前記制御部は、自装置あるいは他の通信装置が過去に取得した前記時空間スタンプ付き通信ログに基づいて、第1無線通信部が良好な領域に進入する時間を前記開始時刻として算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上述した構成からなる本発明によれば、二周波数帯を用いる通信装置において、超狭域な通信可能エリアを作るミリ波・テラヘルツ波通信を利用する際、その通信可能エリアに入る直前に通信機能を有効にし、かつ滞在期間中に実データ転送に資する時間を最大化することで、高効率な大容量・超高速通信が可能な通信装置を実現することができる。
【0020】
第1の発明によれば、通信可能エリアが時空間的に限定される50GHz以上の周波数帯の無線通信において、その通信可能エリア滞在の機会を最大限に活用するために、より低い周波数(より伝搬距離の長い)の無線で通信可能エリアに入る前に事前交渉を行い、そこで広帯域無線の開始時間を協議することによって電波利用効率の向上および消費電力を低減できる。
【0021】
第2の発明によれば、事前交渉する開始時間は端末間の距離に基づいて通信可能エリアの到達予想時刻を推定することで、移動端末が通信可能エリアに到達するタイミングで広帯域無線を開始できる。また、その時刻を定期的に更新することで、移動体の速度変化や経路変化などにも対応できる。
【0022】
第3の発明によれば、事前交渉を行うものと同じ周波数で高精度な時刻同期を行うことで、協議した時刻に互いの端末が同時に制御可能となる。
【0023】
第4の発明によれば、さらに事前交渉を行うものと同じ周波数で、電波の伝搬遅延に基づく測距を行うことで、同一の無線帯域を使って通信可能エリアへの到着予想の情報を得ることができる。
【0024】
第5の発明によれば、コンテンツ有無の問い合わせや鍵の生成・交換などの時間のかかる処理(通信よりも処理に時間がかかるもの)を、事前交渉で行うことで、通信可能エリア内の広帯域通信を用いたデータ転送を最大限活用できる。
【0025】
第6の発明によれば、事後検証を行い、広帯域通信の終了や転送データの検証を行うことで、利用可能エリアを離脱直前まで有効利用できる。
【0026】
第7の発明によれば、ミリ波・テラヘルツ波通信は極めて時空間的に限定された通信可能エリアとなるミリ波・テラヘルツ波通信において、いつ・どこで、どのような(転送レートや変復調状態、接続・切断状況など)通信が行われたかを把握することができる。
【0027】
第8の発明によれば、さらに上記で把握した、いつ・どこで通信を行ったかの過去の履歴から、各個体の通信条件(アンテナのゲインや指向性、送信パワーなど)が未知であっても、適切な通信開始時刻、すなわちいつ通信可能エリアに入るか、を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態を示す通信装置の機能ブロック図である。
【
図2】
図2(a)(b)は、固定局が作る狭域な広帯域通信可能エリアの概念図である。
【
図3】
図3は、ミリ波・テラヘルツ波付近の電波伝搬距離の周波数特性図である。
【
図4】
図4は、本発明による異なる周波数帯を用いたアソシエーションとデータ転送説明図である。
【
図5】
図5は、本発明による電波遅延を用いた端末間距離によって通信開始時刻を合意するフロー図である。
【
図6】
図6は、本発明による測位情報の交換によって通信開始時刻を合意するフロー図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態を示す通信装置の機能ブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施形態を示す通信装置のモニタリングの概念図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施形態の通信装置のモニタリングログの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明による異なる周波数帯を用いたアソシエーションとデータ転送説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を適用した通信装置及び通信システムについて、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0030】
<第1実施形態>
<ミリ波・テラヘルツ波帯移動通信端末とミリ波・テラヘルツ波帯固定基地局間通信>
本第1実施形態の通信装置は、二周波数帯を用いる通信装置であり、第1図に示すように、ミリ波・テラヘルツ波帯固定基地局(以下、単に固定局という)2である通信装置とミリ波・テラヘルツ波帯移動通信端末(以下、単に移動端末という)3である通信装置とから構成される。本第1実施形態では、固定局(固定端末)2と移動端末3との間で広帯域通信を行う通信システム1を構成し、超狭域な通信可能エリアを作るミリ波・テラヘルツ波通信を移動端末が利用するに際して、広域通信が可能な別周波数帯を用いて端末間の時刻同期(時空間同期でも良い)と事前交渉を行い、ミリ波・テラヘルツ波帯の超狭域な通信可能エリアに入る直前に通信機能を有効にし、かつ滞在期間中に実データ転送に資する時間を最大化するものである。これにより、ミリ波・テラヘルツ波帯の通信可能エリアを最大限に有効活用し、高効率な大容量・超高速通信を可能とする。以下では、1台のミリ波・テラヘルツ波帯の固定局2と1台のミリ波・テラヘルツ波帯の移動端末3との間で広帯域通信を行う通信システム1について説明する。
【0031】
<第1実施形態の構成>
図1は、本発明の第1実施形態を示す通信装置の機能ブロック図である。
本第1実施形態の固定局2は、
図1左図に示すように、第1無線通信部20と、第2無線通信部21と、時刻同期部22と、測距部23と、制御部24と、を有し、第1無線通信部20は第1無線通信用アンテナ25を有し、第2無線通信部21は第2無線通信用アンテナ26を有する。
本第1実施形態の移動端末3は、
図1右図に示すように、第1無線通信部30と、第2無線通信部31と、時刻同期部32と、測距部33と、制御部34と、を有し、第1無線通信部30は第1無線通信用アンテナ35を有し、第2無線通信部31は第2無線通信用アンテナ36を有する。以下では、固定局2と移動端末3とは、同等な機能を有しているものとして説明する。従って、第1実施形態の構成は、並列的に記載して説明する。
【0032】
<第1実施形態の構成の説明>
第1無線通信部20、30は、ミリ波・テラヘルツ波によって他の通信装置との間(例えば、固定局と移動端末間又は移動端末と移動端末間)で通信を行う。第1無線通信部20、30は、広帯域通信トランシーバや広帯域通信用アンテナを有し、広帯域通信を行う。第1無線通信部20、30は、例えばミリ波通信や、テラヘルツ通信のような高周波数帯を用いる通信を行う。本発明が解決する課題である数十m以内程度の狭域な利用可能エリアが出現する、おおよそ50GHzを超える無線通信であることを想定している。例えば、広帯域通信トランシーバはIEEE802.15.3e規格に準拠する60GHz帯トランシーバであり、第1無線通信用アンテナ25としての広帯域通信用アンテナはホーンアンテナである。このとき、移動端末3はIEEE802.15.3eで定義されるDEV(device;デバイス)、固定局2はPRC(PaiRnet Coordinator;コーディネータ)の役割を担う。また、DEV(デバイス)およびPRCなどのロールにおいても、後述する事前交渉の末に決定されてもよい。なお、ここでいう広帯域通信トランシーバは、RF(Radio Frequency:高周波)回路やPHY(PHYsical layer:物理層)制御回路を含む。
【0033】
第2無線通信部21、31は、第1無線通信部20、30より低い周波数の電波によって、他の通信装置との間での事前交渉情報を含むフレームを送受信し、事前交渉情報が少なくとも第1無線通信部の開始時刻を含む。第2無線通信部21、31は、長距離通信トランシーバや長距離通信用アンテナを有し、長距離通信を行う。例えば、920MHz帯などを用いた数百~数km以上のエリアで通信可能な無線帯を用いる。第2無線通信部21、31による長距離通信には、低消費電力広域通信可能なLPWA(Low Power Wide Area)技術を利用することができる。LPWAの通信規格としては、例えばWi-SUN FAN(Wireless Smart Utility Network Field Area Network)、Zigbee(登録商標)IP、Sigfox(登録商標)、LoRa(登録商標)、ELTRES(登録商標)(Extremely Long range Transmission using Robust and Efficient Systems)等があり、各種通信規格を適用して構成しても良い。また、長距離通信は広帯域通信よりも長い伝搬距離を有すればよく、例えばBluetooth(登録商標)、BLE(登録商標)(Bluetooth (登録商標)Low Energy)、Wi-Fi(登録商標)などであってもよい。また、長距離通信用アンテナはPCBアンテナ、チップアンテナ、あるいはダイポールアンテナであってもよい。
上記した通信装置は、例えば、920MHzのIEEE802.15.4G(Wi-SUN FANの物理層)や、IEEE802.15.4G(Wi-SUN FANのMAC層)などに準拠しても良い。また、例えば、IEEE802.15.4(Zigbee(登録商標)IPの物理層)に準拠しても良い。
【0034】
時刻同期部22、32は、第2無線通信部21、31による相互の同期コードの送受信により、すなわち、他の通信装置(例えば、固定局と移動端末間、移動端末と移動端末間)との相互のコード送受信により、相互の基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間に基づいて、前記通信装置と前記他の通信装置の間の時刻合わせを行う。
【0035】
測距部23、33は、同期コード送受信に伴う伝搬遅延時間に基づいて固定局2(通信装置)と移動端末3(通信装置)の間の距離を計測し、固定局2(通信装置)と移動端末3(通信装置)との位置関係が得られる。この位置関係が通信装置間の距離である。
【0036】
制御部24、34は、第1無線通信部20、30が第2無線通信部21、31の事前交渉のフレーム送受信で受取った第1無線通信部20、30の開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御する。制御部24、34は、固定局2や移動端末3の通信装置の内部に設けられるように構成されているが、通信装置の外部に設けられるように構成しても良い。制御部24、34は、前記開始時刻を前記他の通信装置との間の位置関係に基づいて定期的に更新し、最新の前記開始時刻を含む前記事前交渉情報を同じく定期的の送受信することにより、前記通信装置と前記他の通信装置との間で特定のアルゴリズムに従って同一の共通開始時刻となるように協議し、かつ前記位置関係は、測距により得られた装置間の距離、あるいは各装置における測位情報であり、前記共通開始時刻に基づいて電波送受信が開始されるように制御するように構成しても良い。
【0037】
第1無線通信用アンテナ25、35は、広帯域通信用アンテナであり、例えば、ホーンアンテナである。開口面が角錐台形状や円錐台形状のホーンアンテナを利用することができる。例えば、固定局2の通信装置が自動販売機に設置されているとすると、通信装置は自動販売機上又は自動販売機に内蔵され、第1無線通信用アンテナ25としての広帯域通信用アンテナが自動販売機上の天上部分などに設置される。また、移動端末3の通信装置が自動車などの車両に搭載されたものであれば、通信装置としての車載装置は運転席や助手席の座席の下などに設置され、第1無線通信用アンテナ35は車両の屋根などに設置され、固定局や他の移動端末との広帯域通信が可能となる。
【0038】
第2無線通信用アンテナ26、36は、長距離通信用アンテナであり、例えばPCBアンテナ、チップアンテナ、あるいはダイポールアンテナを利用することができる。
【0039】
上記本第1実施形態において、事前交渉情報が、第1無線通信部20、30間で送受信するコンテンツを示す情報と、ロールと、変調方式と、暗号化のための鍵と、時刻合わせのための情報のいずれか、あるいは組合せを含んでいても良い。上述した説明では、事前交渉のやり取りについて説明したが、制御部24、34は、第1無線通信部20、30による通信が終了したあとに第2無線通信部21、31を用いて事後交渉情報を含むフレームを少なくとも一回以上送受信し、事後交渉情報が、第1無線通信部20、30によって転送されたデータを検証するための情報を含むように構成しても良い。
【0040】
なお、ここでいうコンテンツを示す情報は、例えば、ファイル名や、ファイルパス、ファイル識別子、URL(Uniform Resource Locator)、URI(Uniform Resource Identifier)などである。また、ロールは、受信側あるいは送信側などのコンテンツを送受信する役割や、あるいはPRC、PRDEVなどのビーコンを送受信する役割のどちらか、などを表す。変調方式はBPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)など、第1無線通信部が通信を行うにあたりデータを符号化する手法を含む。時刻合わせのための情報は、例えば、自機の時刻やクロックカウントなどである。
【0041】
<固定局が作る狭域な広帯域通信可能エリア>
図2(a)(b)に固定局が作る狭域な広帯域通信可能エリアの従来と本発明の比較図を示す。
図2(a)は従来の例を示し、
図2(b)に本発明の例を示す。
図2に示すように、固定局2は移動端末3の進路上に狭域な広帯域通信可能なエリアを生じる。通信可能エリアは広帯域通信用アンテナのゲインにも依存するが、広帯域通信の周波数が高くなるほど伝搬距離が減少し小さなエリアを作る。例えば、300GHzのテラヘルツ波通信の場合は数mの通信可能エリアに留まることが予想される。
図2中では1mの通信可能エリアが生じることを示している。この通信可能エリアに向けて走行する移動端末は同様の通信可能エリアを有し、双方の通信可能エリアが被る位置関係(すなわち、双方向通信が可能となる位置)にて広帯域通信が成立する。このとき、当然各々の通信可能エリアは空間的に限定された領域に存在することになるが、さらに、移動端末が一定速度で移動することを考えると、通信可能エリアに到達した時点から通信可能エリアから脱したときまでが広帯域通信が可能となるため、時間的にも限定されたエリアとなる(以降、時空間的に限定される、と表現)ことが特徴である。
【0042】
<ミリ波・テラヘルツ波付近の電波伝搬距離の周波数依存性>
図3に自由空間伝搬損から計算された伝搬距離(-100dBの自由空間伝搬損が生じる距離)を示す。ミリ波からテラヘルツ波領域においては空気や水蒸気による追加の減衰が生じるため、
図3に記載した伝搬距離よりもさらに通信可能エリアは小さくなり、500GHz以上の高周波での通信では実質数mしか通信可能エリアが確保できない。また、60GHz付近には酸素分子の強い吸収体があり、かつテラヘルツ領域には大気中の降雨などによる吸収が強くみられるため、おおよそ50GHz以上の領域で特に顕著である。
【0043】
従来の広帯域通信では、固定局2は常にビーコンを出力し(PRC)、それを受信した移動端末(DEV)3がアソシエーションリクエストを行うことでアソシエーションを開始する。その後の工程で、互いの通信条件のすり合わせや、鍵の交換などを経て、実際のデータ転送に移る(IEEE802.15.3e規格などで規定されている)。
【0044】
本発明では、このアソシエーションから鍵の交換などを含めた、実際のデータ転送に関わらない通信(以降、事前交渉)を広帯域通信内ではなく、長距離通信を用いて行う。これにより、本来広帯域通信の通信可能エリアに到着するまでには不可能だった事前交渉が、長距離通信によって別帯域を用いて行うことができる。したがって、制御部34は
図4又は
図10に示すように、事前交渉を第1無線通信部30(長距離通信部)により事前に行っておき、広帯域通信可能エリアに到着した段階で同帯域における事前交渉をスキップした上で即座にデータ転送を開始することができる。このとき、事前交渉を行う内容は、例えば広帯域通信における役割(すなわちDEVあるいはPRCをどちらが担うか)、データ転送が行われるコンテンツの指定(ファイルパスやファイルIDなど)、各端末の位置情報、広帯域通信を開始する時刻、などを含んでいてもよい。
【0045】
図10では、
図4に加えてさらにインターネット等を経由してクラウド上のコンテンツサーバにアクセスすることを想定している。前述の通り、第2無線通信部によって事前アソシエーションを行うが、ここで並行してコンテンツサーバにコンテンツリクエストを行う。すなわち、第1無線通信部による高速なデータ転送が開始される前に、コンテンツサーバから自機にコンテンツのダウンロードを開始する(キャッシュ)。このように構成することで、コンテンツサーバ間との回線における転送レートが第1無線通信部の通信に比べて遅い場合であっても、キャッシュされたコンテンツデータを送信できることから通信可能エリア内にいる間に最大の転送レートで他の通信装置にデータを送信することができる。このとき、コンテンツリクエストを行うのは、データ要求元が直接コンテンツサーバに行ってもよいし、データ要求元がアソシエーションの中でコンテンツを指定し、それを基にデータ送信元が代理で行ってもよい。
加えて、
図10中ではエッジ環境(動的キャッシュ環境)が用意されており、コンテンツサーバからキャッシュ生成するにあたり二次のキャッシュとしての役割を担う。つまり、コンテンツサーバから二次キャッシュとしてエッジ環境がコンテンツの一部あるいは全部を保持し、かつ本発明の通信装置内に一次キャッシュとしてコンテンツの一部を保持する形となる。このような構成とすることで、特にリクエストの多いコンテンツが、通信回線的により近い場所にキャッシュされることとなり、次回以降のコンテンツリクエスト時のキャッシュ速度が向上する。
【0046】
従来は通信相手がいつ通信可能エリアに現れるかが分からない固定局PRCは常にビーコンを送信していなければならず、著しい電力消費を伴う(IEEE802.15.3eでは150μsごとにビーコンを送出し、一般的なトランシーバでは1W弱の電力消費となる)。さらに、移動端末3(DEV)もいつビーコンを受信すべきか分からないため常にビーコン受信状態でなければならず、こちらも同様に消費電力が増大する(PRC側と同程度)。このとき、ビーコンの送出間隔を広げて影響を少なくすることもできるが、これは移動端末3が通信可能エリアに到達してからリンク確立までの遅延をもたらすことになるため、時空間的に限定された通信可能エリアを有効活用することができない(例えば、1mの通信可能エリアに60km/hの移動端末3が走行する場合、エリア内に留まる時間はたかだか60ms程度であるため、数msの遅延であっても無視できない転送量の低下を招く。走行速度が速いほど顕著になるため、高速車両や高速航行ドローンなどでは、著しい性能劣化となる)。一方で、本発明によれば、低消費電力な長距離通信規格を用いて、通信可能エリアに到達前に事前交渉が可能であって、いつ、どこで移動端末が通信可能エリアに到達するかを固定局が把握できるため、ビーコンを常に送信する必要はなく、定常的な消費電力を大幅に削減でき、かつ干渉波となりうる電波を放出することなく電波資源の有効活用にも貢献する。本明細書に使用する用語のドローンは、国土交通省が定義する「重量が200g以上の遠隔操作か自動操縦できる無人航空機」より広い概念で使用している。例えば、人が乗る小型な自動操縦機体や水中や地上を移動する無人機もドローンに含まれる。ドローンの種類としては、例えば、トイドローン、空撮用ドローン、レーシングドローン、産業用ドローン、エンターテインメント用ドローンなどが挙げられる。更に、産業用ドローンには、例えば、空輸ドローン、救助ドローン、農業ドローン、点検ドローン、消防ドローン、清掃ドローンなどが含まれる。
これらの移動体としてのドローンは、時間や空間的な位置情報を利用し、時間的に、更に空間的な情報も活用して、超スポット通信に適用して、広帯域通信の通信可能エリアを最大限有効化を図ることができる。
【0047】
また、理想的には、事前交渉した到達時間で第1無線通信部からビーコンを発出すれば通信可能エリアへの到着とほぼ同時にデータ転送を開始することができ、時空間的に限定された通信可能エリアを最大限に有効活用できる。先に述べたように時間的にも限りある通信可能エリアを有効に活用するためには、コンテンツの指定、アソシエーション、鍵の交換、RFトランシーバの起動などのデータ転送を行うために必要な事前交渉を、通信可能エリアに突入する前であっても通信可能な長距離無線を通じてやりとりすることが望ましい。
【0048】
ここで、通信可能エリアへの到着とほぼ同時にデータ転送を開始するためには、事前交渉段階にて移動端末が固定局の作る通信可能エリアに突入するタイミングを共有しておくことが重要となる。実際に通信可能エリアに突入するよりも早い時間を指定した場合には、PRCは無駄なビーコン送出をすることになるため消費電流の増大につながる。また遅い時間を指定した場合には通信可能エリアを最大限有効に使うことができない。好ましい手法として、測距部を用いて固定局と移動端末の間の距離・位置関係を測りながら、到着時刻を予測し、事前交渉を行う方法が考えられる。
【0049】
測距部23、33は端末間の距離を直接計測する方法、例えばレーダや電波の伝搬遅延を測る手法をとってもよい。このとき、端末間の距離が直接得られるため、移動端末3は自身の移動速度と、得られた固定局2との距離を用いて通信可能エリアへの到着時刻を予測する。予測には、直線距離を用いた方法であっても、障害物などが存在する場合には迂回経路などを考慮したアルゴリズムを用いてもよい。事前交渉は例えば20Hzなどの頻度で双方向にデータを送信し、最新の到着時刻を逐次共有する。したがって、端末間が接近すればするほどより正確な到着時刻が共有できることになる。両端末は、この事前交渉で決定した最終の到着時刻に広帯域通信のデータ転送が可能になるように、アソシエーションや鍵の交換などを事前に行っておく(
図5参照)。
【0050】
図5の例では、装置Aを移動端末、装置Bを移動端末として装置Aと装置B間で広帯域通信を行う前に、測位情報の交換によって通信開始時刻を合意する事前交渉フローを示している。まず、装置Aの第2無線通信部から装置Bに対して事前交渉情報(同期コード)を送信すると(ステップ501)、装置Bの第2無線通信部で事前交渉情報(同期コード)を受信する。装置Bの制御部は伝播遅延による距離dB1が測距できる(ステップ502)。装置Bの制御部はその測距情報から予測到着時刻TB1を計算し、優先度PB1を付けて、装置Bの第2無線通信部に転送する(ステップ503)。次に装置Bの第2無線通信部は事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TB1、優先度PB1)を装置Aの第2無線通信部に送信する(ステップ504)。
【0051】
次に装置Aの第2無線通信部は、事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TB1、優先度PB1)を受信する(ステップ504)。装置Aの制御部は、装置Bからの情報、伝播遅延による距離dA1が測距できる(ステップ505)。装置Aの制御部はその測距情報から予測到着時刻A1を計算し、優先度PA1を付けて、装置Aの第2無線通信部に転送する(ステップ506)。次に装置Aの第2無線通信部は事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TA1、優先度PA1)を装置Bの第2無線通信部に送信する(ステップ507)。次に装置Bの第2無線通信部は、事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TA1、優先度PA1)を受信する(ステップ507)。装置Bの制御部は、装置Aからの情報、伝播遅延による距離dB2が測距できる(ステップ508)。装置Bの制御部はその測距情報から予測到着時刻TB2を計算し、優先度PB2を付けて、装置Bの第2無線通信部に転送する(ステップ509)。ここで、移動端末は優先度に応じて通信開始時刻の合意を取られる(ステップ510)。優先度PA1<優先度PB1の場合はA1が優先される。装置Bの第2無線通信部は事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TB2、優先度PB2)を装置Aの第2無線通信部に送信する(ステップ511)。
次に装置Aの第2無線通信部は、事前交渉情報(同期コード、予測到着時刻TB2、優先度PB2)を受信する(ステップ511)。次に装置Aの制御部は、装置Bからの情報、伝播遅延による距離dA1が測距できる(ステップ512)。
【0052】
このような事前交渉を繰り返して最新の到着時刻と合意を更新する(ステップ513)。事前交渉を繰り返した結果、装置Aの制御部と装置Bの制御部との間で最終の合意時刻に達した時(ステップ514、515)、装置Aの制御部は装置Aの第1無線通信部に対し、無線通信の開始を指示し(ステップ516)、装置Bの制御部は装置Bの第1無線通信部に対し、無線通信の開始を指示する(ステップ517)。合意時刻にほぼ同時に装置Aの第1無線通信部と装置Bの第1無線通信部との間でミリ波・テラヘルツ波帯の広域無線通信が可能となる(ステップ518、519)。
【0053】
また、各端末でGPS(Global Positioning System)やSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)などを用いて測位を行い、その測位情報を端末間で交換することで、測距を行ってもよい。この場合であれば、事前交渉のパケットには各機体の測位情報を載せて交換し、互いの測位情報から位置関係を割り出し、到着時刻を予想してもよい(
図6参照)。
図6の例では、
図5の伝播遅延による距離を測距し、予測到着時刻を計算した代わりに、装置A、Bからの情報として互いの測位情報LA1、LB1、LA2、LB2(LAは装置Aの測位情報、LBは装置Bの測位情報を示す。LA、LBの符号1、2は時系列データの順番を示す。)を取得し(ステップ601、604、607、608、612)、移動端末間で取得した測位情報LA1、LB1、LA2、LB2を交換して(ステップ603、605、607、609、611、613、616)、位置関係を割り出した(ステップ605、609、613)例を示している。それ以外の事前交渉フローのステップ602、606、610、614、615、617、618、619、620、621、622、623の処理は、それぞれ
図5のステップ501、504、507、510、511、513、514、515、516、517、518、519の処理と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0054】
また、固定局2も移動端末であってもよく、その場合は二つの移動端末が異なる到着時刻予想をする可能性がある。このときは、例えば遅い側の時間に合わせる、や平均の時間を共通の到着時刻にするなどの協議を行う。
【0055】
前記事前交渉情報が、前記第1無線通信部で送受信するコンテンツを示す情報と、ロールと、変調方式と、暗号化のための鍵と、時刻合わせのための情報のいずれか、あるいは組合せを含んでよい。また、協議・アルゴリズム等は装置内に搭載していてもよいし、クラウド・サーバー等で処理してもよい。加えて、上記に記載するアルゴリズムには、機械学習アルゴリズム、強化学習等も活用してよい。
【0056】
ここで、到着時刻の代わりに直接位置関係を利用し、互いに通信可能エリアに突入したであろう位置関係となったときに広帯域通信を開始するようにしてもよい。ただし、一般的に測位や測距は高頻度には行うことはできず、例えばGPS(Global Positioning System)やSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)であれば測位データの更新レートは10~20Hz程度に留まるため、通信可能エリアの突入時点で両端末が同時にデータ転送を開始するには不十分な頻度である。一方で、到着時刻で指定しておけば、コンピュータにおける時刻の分解能は十分にとれるため事前交渉した時刻で端末間にほぼ同時にビーコン送受信が開始できる。
【0057】
事前交渉による到着時刻に基づいて両端末で同時にビーコン送受信を開始するためには、両端末の時刻が高精度に同期していなければならない。そこで、本発明では、さらに時刻同期部によって高精度に端末間の同期をとる。この同期はグローバル時刻に同期しても良いし、端末間のみで成立するローカル時刻に同期してもよい(すなわち、指し示す時刻が相対的に一致していればよい)。特に、有線通信によって高精度な同期が可能なPTP(Precision Time Protocol)などを利用することができないため、無線によって端末間を高精度に同期できる、電波の位相を用いた周波数校正システム(特許第6548120号)を利用してもよい。これにより、数十ps(ピコ秒)オーダーでの高精度な同期が可能となる。電波の位相比較によって、伝搬距離に基づく伝搬遅延を計測することができ、対象の距離を数mmオーダーで検出できる。したがって、前述した測距部とも併用できる。加えて、この周波数校正の電波の周波数帯を使って事前交渉を行うことにより、事前交渉と同時に測距および時刻同期を行うことができ、構成のシンプル化、電波資源の有効活用に利する(
図7参照)。
【0058】
このように、第1の実施形態によれば、二周波数帯を用いる通信装置において、超狭域な通信可能エリアを作るミリ波・テラヘルツ波通信を利用する際、その通信可能エリアに入る直前に通信機能を有効にし、かつ滞在期間中に実データ転送に資する時間を最大化することで、高効率な大容量・超高速通信が可能な通信装置を実現することができる。
本実施形態においては、高速移動体に適用して顕著な作用効果を奏するが、一方で、トランシーバを同時に起動して消費電力を抑える観点では、移動端末を持って移動する人間による移動体通信、いわゆるモバイル通信に適用しても有効である。
【0059】
<第2実施形態>
<第2実施形態 時刻同期に周波数校正システムを利用した例>
本第2実施形態の通信装置は、二周波数帯を用いる通信装置であり、第7図に示すように、ミリ波・テラヘルツ波帯固定基地局(以下、単に固定局という)5である通信装置とミリ波・テラヘルツ波帯移動通信端末(以下、単に移動端末という)6である通信装置とから構成され、通信システム4を構成する。
【0060】
図7は、本発明の第2実施形態を示す通信装置のシステム構成図である。
本第2実施形態の固定局5は、
図7左図に示すように、第1無線通信部50と、周波数校正システム51と、事前交渉データ抽出部52と、制御部53と、第1無線通信用アンテナ54と、第2無線通信用アンテナ55と、を有する。
本第2実施形態の移動端末6は、
図7右図に示すように、第1無線通信部60と、周波数校正システム61と、事前交渉データ抽出部62と、制御部63と、第1無線通信用アンテナ64と、第2無線通信用アンテナ65と、を有する。固定局5と移動端末6とは、同等な機能を有している。
本第2実施形態の通信装置は、本第1実施形態の通信装置は時刻同期部と測距部の代わりに、周波数校正システム51、61と、事前交渉データ抽出部52、62を設けたものであり、その他の構成は第1同様であるので、個々では説明を省略する。
【0061】
図7の例では、本発明によるコントロールプレーンとして時刻同期、測距、および事前交渉を行うシステム構成を示している。周波数校正システム51、61としては、無線通信によって端末間を高精度に同期できる、電波の位相を用いた周波数校正システム(例えば、特許第6548120号等)を利用してもよい。
周波数校正システムでは、簡単に説明すると、仮基準局より第1時刻t1に送信された校正信号を固定局(マスター局とする)と移動端末(スレーブ局とする)で受信し、移動端末は校正信号の搬送波とマスタークロックで生成した基準周波数信号との位相差である固定局位相差ΦMt1を取得し、移動端末は校正信号の搬送波と被校正クロックで生成した基準周波数信号との位相差である移動端末位相差ΦSt1を取得し、仮基準局より第2時刻t2に送信された校正信号を受信した移動端末は、校正信号に乗せられた情報である固定局位相差ΦMt1を取得し、移動端末位相差ΦSt1と固定局位相差ΦMt1との差である校正位相差ΔΦt1を求める。このような原理を用いて、固定局と移動端末の時刻補正情報と距離情報を取得し、高精度な時刻同期を実現し、事前交渉データ抽出部52、62で上述したような事前交渉データを抽出し、固定局や移動端末の制御部53、63は、合意時刻を合わせて、第1無線通信部50、60の合意した無線通信の開始時刻にミリ波・テラヘルツ波帯の広帯域無線通信を行うものである。
【0062】
加えて、長距離無線通信によって事後交渉を行ってもよい。事後交渉には、例えば広帯域通信の切断要求(例えばディスアソシエーション)を含めてもよい。一般的にデータ転送途中で通信可能エリアを抜けると、広帯域通信は疎通しなくなるためタイムアウト待ちの状態となる(干渉による疎通不可と通信相手がいないものは区別できない)。タイムアウト待ちの状態ではACK(ACKnowledgement)を得るために互いに電波を送信しあうため、不要な電力消費が生じる。一方で、これを回避するために通信可能エリア中に切断要求を行うと、通信可能エリアを最大限に利用することができなくなる。これに対し、広帯域通信の接続可能エリアを抜けたとしても長距離無線通信は依然として疎通状態を維持できるため、通信可能エリアを抜けた段階で切断要求を送ることによって、不要な電波放出を抑えつつ転送量を最大化できる。すなわち、前記制御部は、さらに前記第1無線通信部による通信が終了したあとに前記第2無線通信部を用いて事後交渉情報を含むフレームを少なくとも一回以上送受信し、前記事後交渉情報が、前記第1無線通信部によって転送されたデータを検証するための情報を含んでよい。
【0063】
さらに、事後交渉には転送コンテンツの検証を含んでもよい。例えば、ハッシュなどを交換し、転送されたデータが正常であるかを確認してもよいし、あるいは一度の通信可能エリア内で転送が完了しなかった場合の報告を行ってもよい。
全体を通して、本発明では、無線通信にかかるデータプレーンとして高速・大容量のデータ転送が可能である広帯域通信を用い、かつコントロールプレーンとして広域をカバーする長距離無線通信を用いることによって、各無線帯の特性を相補的に活用し、広帯域通信の高速性・同時接続性を最大限に活用することに寄与するものである。
このように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態に加えて、高精度な時刻同期を実現できるので、高速車両や高速航行ドローンに搭載された通信装置における高効率な大容量・超高速通信が可能な通信装置を実現することができる。
【0064】
<第3実施形態>
<モニタリング機能を搭載した通信装置>
図8に示すように、さらに通信装置はミリ波・テラヘルツ波のモニタリング機能を搭載してもよい。
図8の例では、モニタリング機能を有する固定局としての自動販売機8と、モニタリング機能を有する移動端末が搭載された自動車9、貨物自動車7、ドローン10、11が高速移動する環境において、狭域な通信可能エリアを有効活用してミリ波・テラヘルツ波帯の広帯域無線通信を行う例を示している。通信装置81、82、83、84、85は、主要な構成として、ミリ波・テラヘルツ波帯トランシーバと時刻同期部とGPS、IMUなどのデバイスを有している。通信装置81、83、84、85は、移動端末であり、通信装置82は固定局(基地局)である。例えば、ドローン10に搭載された通信装置84(移動端末)は、他の固定局又は移動端末とそれぞれ時刻同期がとられており、絶対位置や相対位置の測位が可能なシステム環境である。
【0065】
本実施形態3では、実施形態1、2に加えて、モニタリング機能を追加したものである。構成自体は同様だが、固定局又は移動端末の制御部は、第1無線通信部の通信状況を記録する機能を持つ。ここでいう通信状況は、受信電波(信号)強度(RSSI)、通信イベント(接続・切断・ビーコン送出・接続要求など)、転送レート、変調・符号化状況(MCS:Modulation and Coding Scheme)を含む。通信状況の時系列データには、高精度なタイムスタンプと測位データを付与し、通信ログとして記録する(
図9)。
図9の例では、例えば、ドローン10と11が同一の高度を維持してミリ波・テラヘルツ波帯の無線通信を行った時のモニタリング結果を示したものである。
図9には、タイムスタンプ、測位データ(緯度、経度、高度)、イベント(通信イベント)、受信信号強度(dBm)、データ転送レート(Mbps)、変調・符号化状況(MCS:Modulation and Coding Scheme)などが示されている。タイムスタンプは、例えばマイクロ秒の分解能で、受信電波(信号)強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)や転送レート、MCSなどの計測時およびイベント発生時の自機の時刻を記録する。ここで、上記時刻同期部によって複数端末間で時刻同期がとれているため、通信ログは複数端末間で整合性がとれたものになる。端末間の時刻同期の精度は、通信イベントの発生を正確に記録するために1ms未満であることが望ましい。測位データは測位部(測距部)から得たものを同様に時系列データに付与する。測位データは、GPS(Global Positioning System)・GNSS(Global Navigation Satellite System Profile)などから得られるグローバル測位による位置情報であってもよいし、あるいは他の通信装置との間でだけ成立する相対的な位置情報であってもよい(例えば、高度はなくてもよいし、あるいは特定のルートとそのルート内の位置(国道1号のある点から〇mなど)のような位置表現であっても構わない)。また、相対的な位置情報は3次元、2次元、1次元いずれでも構わない。また、位置情報にはモビリティの姿勢(方位)等も含まれてよい。図中では高精度な時刻同期と空間同期(測位・測距)をあわせて時空間同期としている。
【0066】
ミリ波・テラヘルツ波通信は極めて時空間的に限定された通信可能エリアとなる。したがって、一般的なマイクロ波による通信などとは異なり、瞬間的に疎通状態の変化や通信イベントの推移などが発生する。通信装置の特性を把握するために、いつ・どこで、どのような(転送レートや変復調状態、接続・切断状況など)通信が行われたかを把握することは重要である。上記のようにモニタリング機能を有することで、通信装置は自身の通信特性を正確に記録することができる。これにより、各テラヘルツIoTデバイスの通信・イベントログについて、発生時刻と発生場所が高精度に同期された状態で、記録・突合・分析が可能となり、各種通信フローや通信イベントの異常時の原因特定が可能となる。これを用いて、例えばミリ波・テラヘルツ波通信におけるハードウェアの改善やプロトコルの開発、モビリティ搭載時の通信品質評価などに寄与できる。
【0067】
なお、このモニタリングの機能は、先に述べた事前アソシエーションを用いるものでなくともよい。すなわち、最小構成として、第1無線通信部と、制御部と、時刻同期部と、測位部と、を備えて、第1無線通信部にタイムスタンプと測位情報を付与するだけでも構わない。
【0068】
モニタリング機能がない場合、前記の通信開始時刻を正確に求めるためには、各装置のアンテナゲインや指向性、送信パワーなどが既知である必要がある。これは、通信開始時刻は通信エリアに進入する時刻であることが望ましいため、その通信エリアを定義するパラメータを予め把握しておくことが必要となる。一方で、モニタリング機能によって通信ログを取得しておけば、いつ・どこで通信を行ったかの履歴が取得できる。したがって、第1通信機能が疎通するタイミングや位置を予め把握しておくことができるため、別途各個体の通信条件(アンテナのゲインや指向性、送信パワーなど)が分かっていなくても、適切な通信開始時刻を決定できる。基となる通信ログは、自機が過去に取得したものであってもよいし、あるいは別の通信装置が取得したものをクラウドなどを介して取得したものであってもかまわない。また、モニタリングは、実際のデータ転送を行った際の時系列データであってもよいし、モニタリング専用のダミーデータを送受信することによりデータ収集することに特化したものであってもよい。また、アルゴリズム等は装置内に搭載していてもよいし、クラウド・サーバー等で処理してもよい。加えて、上記に記載するアルゴリズムには、機械学習アルゴリズム、強化学習等も活用してよい。
【0069】
このように、本第3実施形態によれば、一般的なマイクロ波等と異なり、ミリ波・テラヘルツ波通信は極めて時空間的に限定された通信可能エリアとなるが、通信装置にモニタリング機能を搭載したことにより、いつ・どこで、どのような(転送レートや変復調状態、接続・切断状況など)通信が行われたかを把握することが可能となる。さらに上記で把握した、いつ・どこで通信を行ったかの過去の履歴から、各個体の通信条件(アンテナのゲインや指向性、送信パワーなど)が未知であっても、適切な通信開始時刻、すなわちいつ通信可能エリアに入るか、を決定できる。
【符号の説明】
【0070】
1 通信装置
2 固定局
3 移動端末
4 通信システム
5 固定局
6 移動端末
7 貨物自動車
8 自動販売機
9 自動車
10、11 ドローン
20 第1無線通信部
21 第2無線通信部
22 時刻同期部
23 測距部
24 制御部
25 第1無線通信用アンテナ
26 第2無線通信用アンテナ
30 第1無線通信部
31 第2無線通信部
32 時刻同期部
33 測距部
34 制御部
35 第1無線通信用アンテナ
36 第2無線通信用アンテナ
50、60 第1無線通信部
51、61 周波数校正システム
52、62 事前交渉データ抽出部
53、63 制御部
54、64 第1無線通信用アンテナ
55、65 第2無線通信用アンテナ
81、83、84、85 モニタリング機能付き通信装置(移動端末)
82 モニタリング機能付き通信装置(固定端末)