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  • 特開-車室空調用ヒーターエレメント 図1A
  • 特開-車室空調用ヒーターエレメント 図1B
  • 特開-車室空調用ヒーターエレメント 図2A
  • 特開-車室空調用ヒーターエレメント 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092578
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】車室空調用ヒーターエレメント
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
H05B3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208619
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】昆野 由規
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP15
3K092QA08
3K092QB21
3K092QB37
3K092VV16
3K092VV31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ハニカム構造体の隔壁の厚さが小さくても隔壁のクラックの発生を抑制でき、しかも昇温時間の短縮化及び圧力損失の低減が可能な車室空調用ヒーターエレメントを提供する。
【解決手段】外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面12aから第2端面12bまで延びる流路となる複数のセル13を区画形成する隔壁14とを有するハニカム構造体10、並びに第1端面12a及び第2端面12bに設けられた一対の電極20a,20bを備える車室空調用ヒーターエレメント100である。隔壁14の厚さは0.14mm以下である。車室空調用ヒーターエレメント100は、以下の式(1)及び(2)を満たす。
(1)y≦-0.0004x2+0.5299x-12.128
(2)y≧0.00007x2-0.0133x+44.223
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、並びに
前記第1端面及び前記第2端面に設けられた一対の電極
を備え、
前記隔壁の厚さが0.14mm以下であり、
以下の式(1)及び(2)を満たす、車室空調用ヒーターエレメント。
(1)y≦-0.0004x2+0.5299x-12.128
(2)y≧0.00007x2-0.0133x+44.223
式中、yは、10~13.5Vの電圧を前記車室空調用ヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間[秒]、xは、以下の式(3)で表される加熱特性因子である。
(3)加熱特性因子=前記ハニカム構造体の体積抵抗[Ω・cm]/前記ハニカム構造体の開口率[%]×前記ハニカム構造体の比熱[J/kg・K]×前記ハニカム構造体の密度[g/m3
【請求項2】
前記ハニカム構造体の開口率が71.7~80.3%である、請求項1に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項3】
前記ハニカム構造体の体積抵抗が10~20Ω・cmである、請求項1又は2に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の比熱が400~500J/kg・Kである、請求項1又は2に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項5】
前記ハニカム構造体の密度が5.6~5.8g/m3である、請求項1又は2に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項6】
前記隔壁が、PTC特性を有する材料で構成されている、請求項1又は2に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項7】
前記セルが延びる方向に平行な前記隔壁の表面に設けられた機能材含有層を更に備える、請求項1又は2に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項8】
前記機能材含有層が水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有する機能材を含有する、請求項7に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【請求項9】
前記機能材含有層が触媒を含有する、請求項7に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室空調用ヒーターエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの各種車両において、車室環境の向上に対する要求が高まっている。具体的な要求としては、車室内のCO2を低減して運転者の眠気を抑制すること、車室内を調湿すること、及び車室内のにおい成分やアレルギー誘因成分などの有害な揮発成分を除去することなどが挙げられる。このような要求に有効な対策として換気が挙げられるが、換気は、冬場のヒーターエネルギーを大きくロスする要因となり、冬場のエネルギー効率の低下を招く。特に電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)では、そのエネルギーロスにより、航続距離が大幅に減少するという問題がある。
【0003】
上記の問題を解決する方法として、特許文献1及び2には、車室の空気中の水蒸気及びCO2などの除去対象成分を吸着材などの機能材に捕捉した後、加熱によって除去対象成分を反応又は離脱させて車外に放出し、機能材を再生する車室空調システムが開示されている。このような車室空調システムでは、除去対象成分の捕捉性能を確保するために空気と機能材との接触ができるだけ多いこと、及び機能材の再生を促進するために機能材を所定の温度に加熱できることが求められる。再生は、例えば、機能材に吸着した物質を酸化反応により除去する方法、及び機能材に吸着した物質を脱離させて排出する方法などにより行われるが、いずれにしても吸着物質に応じて機能材を適切な温度に加熱することが必要である。
【0004】
他方、特許文献3には、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム構造体を備え、隔壁がPTC特性を有しており、隔壁の厚さが0.13mm以下であり、第1端面及び第2端面における開口率が0.81以上であるヒーターエレメントが開示されている。このヒーターエレメントは、車室の暖房用途に用いられるものであるが、効率の良い加熱手段であるため、機能材の担体として使用すると、機能材の再生時間の短縮化に貢献できる。特に、このヒーターエレメントは、通電による加熱が可能であり且つPTC特性を有するため、機能材を容易に加熱できる一方で、過剰な発熱を抑制し、機能材の熱劣化を抑制することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-104774号公報
【特許文献2】特開2020-111282号公報
【特許文献3】国際公開第2020/036067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載のヒーターエレメントは、ハニカム構造体の隔壁の厚さが0.13mm以下であるため、加熱面積が広くなることにより、昇温時間(機能材の再生時間)を短縮化できると考えられる。
しかしながら、ハニカム構造体の隔壁の厚さが小さいと、ハニカム構造体内の温度差の影響によって隔壁にクラックが発生することがある。隔壁のクラックは、隔壁の厚さを大きくすることで抑制することができる。また、隔壁の厚さを大きくすると、通電抵抗が低下するため昇温時間の短縮化を図ることもできる。その一方で、隔壁の厚さを大きくすると、圧力損失が大きくなってしまう。そのため、ヒーターエレメントの前後に設置されるブロアの回転数を高く設定することが必要となり、エネルギー効率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ハニカム構造体の隔壁の厚さが小さくても隔壁のクラックの発生を抑制でき、しかも昇温時間の短縮化及び圧力損失の低減が可能な車室空調用ヒーターエレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、車室空調用ヒーターエレメントに用いられるハニカム構造体について鋭意研究を行った結果、10~13.5Vの電圧を車室空調用ヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間と、ハニカム構造体の体積抵抗、開口率、比熱及び密度によって表される加熱特性因子との関係を制御することにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のように例示される。
【0009】
[1] 外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、並びに
前記第1端面及び前記第2端面に設けられた一対の電極
を備え、
前記隔壁の厚さが0.14mm以下であり、
以下の式(1)及び(2)を満たす、車室空調用ヒーターエレメント。
(1)y≦-0.0004x2+0.5299x-12.128
(2)y≧0.00007x2-0.0133x+44.223
式中、yは、10~13.5Vの電圧を前記車室空調用ヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間[秒]、xは、以下の式(3)で表される加熱特性因子である。
(3)加熱特性因子=前記ハニカム構造体の体積抵抗[Ω・cm]/前記ハニカム構造体の開口率[%]×前記ハニカム構造体の比熱[J/kg・K]×前記ハニカム構造体の密度[g/m3
【0010】
[2] 前記ハニカム構造体の開口率が71.7~80.3%である、[1]に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0011】
[3] 前記ハニカム構造体の体積抵抗が10~20Ω・cmである、[1]又は[2]に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0012】
[4] 前記ハニカム構造体の比熱が400~500J/kg・Kである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0013】
[5] 前記ハニカム構造体の密度が5.6~5.8g/m3である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0014】
[6] 前記隔壁が、PTC特性を有する材料で構成されている、[1]~[5]のいずれか一つに記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0015】
[7] 前記セルが延びる方向に平行な前記隔壁の表面に設けられた機能材含有層を更に備える、[1]~[6]のいずれか一つに記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0016】
[8] 前記機能材含有層が水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有する機能材を含有する、[7]に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【0017】
[9] 前記機能材含有層が触媒を含有する、[7]又は[8]に記載の車室空調用ヒーターエレメント。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハニカム構造体の隔壁の厚さが小さくても隔壁のクラックの発生を抑制でき、しかも昇温時間の短縮化及び圧力損失の低減が可能な車室空調用ヒーターエレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明の実施形態に係るヒーターエレメントのセル(流路)の延びる方向に平行な断面の模式図である。
図1B図1Aのヒーターエレメントの両端面の模式図である。
図2A】本発明の別の実施形態に係るヒーターエレメントのセル(流路)の延びる方向に平行な断面の模式図である。
図2B図2Aのヒーターエレメントの両端面の模式図である。
図3】ハニカム構造体の体積抵抗、開口率、比熱及び密度によって表される加熱特性因子と、10~13.5Vの電圧をヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る車室空調用ヒーターエレメント(以下、「ヒーターエレメント」と略す)は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、並びに第1端面及び第2端面に設けられた一対の電極を備え;隔壁の厚さが0.14mm以下であり;以下の式(1)及び(2)を満たす。
(1)y≦-0.0004x2+0.5299x-12.128
(2)y≧0.00007x2-0.0133x+44.223
式中、yは、10~13.5Vの電圧を車室空調用ヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間[秒]、xは、以下の式(3)で表される加熱特性因子である。
(3)加熱特性因子=ハニカム構造体の体積抵抗[Ω・cm]/ハニカム構造体の開口率[%]×ハニカム構造体の比熱[J/kg・K]×ハニカム構造体の密度[g/m3
本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、上記のような構成とすることにより、隔壁の厚さが0.14mm以下と小さくても、隔壁のクラックの発生を抑制でき、しかも昇温時間の短縮化及び圧力損失の低減が可能となる。
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
(1.ヒーターエレメント)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、自動車などの各種車両における車室空調システムに用いられるヒーターエレメントとして好適に利用可能である。車両としては、特に限定されないが、自動車及び電車が挙げられる。自動車としては、特に限定されないが、ガソリン車、ディーゼル車、CNG(圧縮天然ガス)やLNG(液化天然ガス)などを用いるガス燃料車、燃料電池自動車、電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車が挙げられる。本発明の実施形態に係るヒーターエレメントは、特に電気自動車及び電車のような内燃機関を持たない車両に好適に利用可能である。
【0023】
図1Aは、本発明の実施形態に係るヒーターエレメントのセル(流路)の延びる方向に平行な断面の模式図である。また、図1Bは、図1Aのヒーターエレメントの両端面の模式図である。
図1A及び1Bに示されるように、ヒーターエレメント100は、ハニカム構造体10と、一対の電極20a,20bとを備える。ハニカム構造体10は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面12aから第2端面12bまで延びる流路となる複数のセル13を区画形成する隔壁14とを有する。一対の電極20a,20bは、ハニカム構造体10の第1端面12a及び第2端面12bに設けられている。
【0024】
ヒーターエレメント100は、機能材含有層30を形成するための支持体(担体)として用いることができる。ヒーターエレメント100に機能材含有層を形成した状態のセル(流路)の延びる方向に平行な断面の模式図を図2A図2Aのヒーターエレメントの両端面の模式図を図2Bに示す。なお、図2A及び2Bは、機能材含有層30が形成されていること以外は、図1A及び1Bと同じ構成である。
図2A及び2Bに示されるように、ヒーターエレメント100は、セル13が延びる方向に平行な隔壁14の表面に設けられた機能材含有層30を更に備えている。
以下、ヒーターエレメント100の各構成部材について詳細に説明する。
【0025】
(1-1.ハニカム構造体)
ハニカム構造体10の形状は、特に限定されない。例えば、ハニカム構造体10の流路方向(セル13が延びる方向)に直交する断面の外形を、四角形(長方形、正方形)、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形、円形、オーバル形状(卵形、楕円形、長円形、角丸長方形など)などにすることができる。なお、端面(第1端面12a及び第2端面12b)は、当該断面と同一の形状である。また、断面及び端面が多角形の場合、角部を面取りしてもよい。
【0026】
セル13の形状は、特に限定されないが、ハニカム構造体10の流路方向に直交する断面において、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形、円形、オーバル形状にすることができる。これらの形状は、単一であってもよいし、又は二種以上を組み合わせてもよい。また、これらの形状の中でも四角形又は六角形が好ましい。このような形状のセル13を設けることにより、空気が流通する際の圧力損失を小さくすることができる。なお、図1A及び1Bでは、流路方向に直交する断面において、断面の外形及びセル13の形状が四角形であるハニカム構造体10を一例として示している。
【0027】
ハニカム構造体10は、複数のハニカムセグメントと、複数のハニカムセグメントの外周側面同士間を接合する接合層とを有するハニカム接合体であってもよい。ハニカム接合体を用いることにより、クラックの発生を抑えながら空気の流量確保に重要なセル13の総断面積を増やすことが可能となる。
なお、接合層は、接合材を用いて形成することができる。接合材としては、特に限定されないが、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いることができる。接合材は、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有する材料を含有してもよく、外周壁11及び隔壁14と同一の材料を含有してもよい。接合材は、ハニカムセグメント同士を接合する役割に加えて、ハニカムセグメントを接合した後の外周コート材として用いることも可能である。
【0028】
隔壁14の厚さは、0.14mm以下、好ましくは0.10~0.14mm、より好ましくは0.11~0.13mmである。このような範囲に隔壁14の厚さを制御することにより、加熱面積(セル13内を流れる空気との接触面積)が広くなるため、昇温時間(機能材の再生時間)を短縮化することができる。また、機能材の担持量も増やすことができる。
ここで、本明細書において隔壁14の厚さとは、流路方向に直交する断面において、隣接するセル13の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁14を横切る長さを指す。隔壁14の厚さは、全ての隔壁14の厚さの平均値を指す。
【0029】
外周壁11の厚さは、特に限定されないが、次の観点に基づいて決定することが望ましい。まず、ハニカム構造体10を補強するという観点から、外周壁11の厚さは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.06mm以上、更に好ましくは0.08mm以上である。一方、電気抵抗を大きくして初期電流を抑える観点、及び空気がセル13を流通する際の圧力損失を低減する観点から、外周壁11の厚さは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下、更に好ましくは0.4mm以下、更により好ましくは0.3mm以下である。
ここで、本明細書において外周壁11の厚さとは、流路方向に直交する断面において、外周壁11と最も外周側のセル13又は隔壁14との境界からハニカム構造体10の側面までの、当該側面の法線方向の長さを指す。
【0030】
セル密度は、特に限定されないが、好ましくは2.54~140セル/cm2、より好ましくは15~100セル/cm2、20~90セル/cm2である。このような範囲にセル密度を制御することにより、ハニカム構造体10の強度を確保しつつ、空気がセル13を流通する際の圧力損失を低減し易くなる。
ここで、本明細書においてセル密度とは、ハニカム構造体10の一方の端面(第1端面12a又は第2端面12b)の面積(外周壁11を除く隔壁14及びセル13の合計面積)でセル数を除して得られる値である。
【0031】
セルピッチは、特に限定されないが、好ましくは1.0~2.0mm、より好ましくは1.1~1.8mm、更に好ましくは1.2~1.6mmである。このような範囲にセルピッチを制御することにより、ハニカム構造体10の強度を確保しつつ、空気がセル13を流通する際の圧力損失を低減し易くなる。
ここで、本明細書においてセルピッチとは、以下の計算によって求められる値を指す。まず、セル数で、ハニカム構造体10の一方の端面(第1端面12a又は第2端面12b)の面積(外周壁11を除く隔壁14及びセル13の合計面積)を除して1セル当たりの面積を算出する。次いで、1セル当たりの面積の平方根を算出し、これをセルピッチとする。
【0032】
ハニカム構造体10の開口率(セル13の開口率)は、特に限定されないが、好ましくは71.7~80.3%、より好ましくは72.6~76.0%である。このような範囲に開口率を制御することにより、ハニカム構造体10の強度を確保しつつ、空気がセル13を流通する際の圧力損失を低減し易くなる。
ここで、本明細書においてハニカム構造体10の開口率とは、ハニカム構造体10の流路方向に直交する断面において、隔壁14によって区画されるセル13の合計面積を、一方の端面(第1端面12a又は第2端面12b)の面積(外周壁11を除く隔壁14及びセル13の合計面積)で除し、100倍して得られた値である。なお、ハニカム構造体10の開口率を算出するに当たり、一対の電極20a,20b及び機能材含有層30は考慮しない。
【0033】
ハニカム構造体10の流路方向の長さ及び流路方向に直交する断面積は、要求されるヒーターエレメント100のサイズに合わせて調整すればよく、特に限定されない。例えば、所定の機能を確保しつつコンパクトなヒーターエレメント100に用いられる場合、ハニカム構造体10は、流路方向の長さを2~20mm、流路方向に直交する断面積を10cm2以上とすることができる。なお、流路方向に直交する断面積の上限値は、特に限定されないが、例えば、300cm2である。
【0034】
ハニカム構造体10の体積抵抗は、特に限定されないが、好ましくは10~20Ω・cm、より好ましくは13~18Ω・cmである。このような範囲に体積抵抗を制御することにより、隔壁14にクラックが発生することを抑制しつつ昇温時間を短縮化し易くなる。また、低い駆動電圧で発熱させることができる。
ここで、本明細書において、ハニカム構造体10の体積抵抗とは、25℃における体積抵抗のことを意味する。また、ハニカム構造体10の体積抵抗は、JIS K6271:2008に従って測定される。
【0035】
ハニカム構造体10の比熱は、特に限定されないが、好ましくは400~500J/kg・K、より好ましくは430~480J/kg・Kである。このような範囲に比熱を制御することにより、隔壁14にクラックが発生することを抑制しつつ昇温時間を短縮化し易くなる。
ここで、ハニカム構造体10の比熱は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される。
【0036】
ハニカム構造体10の密度は、特に限定されないが、好ましくは5.6~5.8g/m3、より好ましくは5.65~5.75g/m3である。このような範囲に密度を制御することにより、隔壁14にクラックが発生することを抑制しつつ昇温時間を短縮化し易くなる。
【0037】
ハニカム構造体10を構成する隔壁14は、通電によって発熱可能な材料で構成されており、具体的にはPTC特性を有する材料で構成されていることが好ましい。必要に応じて外周壁11も隔壁14と同様にPTC特性を有する材料で構成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、発熱する隔壁14(及び必要に応じて外周壁11)からの伝熱によって機能材含有層30を加熱することが可能である。また、PTC特性を有する材料は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有する。そのため、隔壁14(及び必要に応じて外周壁11)は、ヒーターエレメント100が高温になったときに、これらに流れる電流が制限されるので、ヒーターエレメント100の過剰な発熱が抑制される。したがって、過剰な発熱に起因する機能材含有層30の熱劣化を抑制することも可能である。
【0038】
通電発熱可能であり、且つPTC特性を有するという観点から、外周壁11及び隔壁14は、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とする材料から構成されていることが好ましい。また、この材料は、Baの一部が希土類元素で置換されたチタン酸バリウム(BaTiO3)系結晶粒子を主成分とする材料で構成されるセラミックスであることがより好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、成分全体に占める割合が50質量%を超える成分のことを意味する。BaTiO3系結晶粒子の含有量は、蛍光X線分析により求めることができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0039】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子の組成式は、(Ba1-xx)TiO3で表すことができる。組成式中、Aは一種以上の希土類元素を表し、0.0001≦x≦0.010である。
Aは、希土類元素であれば特に限定されないが、好ましくはLa、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Y及びYbからなる群から選択される一種以上であり、より好ましくはLaである。xは、室温における電気抵抗が高くなり過ぎることを抑制する観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.0015以上である。一方、xは、焼結不足となって室温における電気抵抗が高くなりすぎることを抑制する観点から、好ましくは0.009以下である。
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子のセラミックスにおける含有量は、主成分となる量であれば特に限定されないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、更に好ましくは94質量%以上である。なお、BaTiO3系結晶粒子の含有量の上限値は、特に限定されないが、一般的に99質量%、好ましくは98質量%である。
このBaTiO3系結晶粒子の含有量は、蛍光X線分析によって測定することができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0040】
外周壁11及び隔壁14に用いられる材料は、環境負荷を軽減するという観点から、鉛(Pb)を実質的に含まないことが望ましい。具体的には、外周壁11及び隔壁14は、Pb含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。Pb含有量が少ないことにより、例えば、発熱中の隔壁14に接触させることで加温された空気をヒトなどの生物に安全に当てることができる。なお、外周壁11及び隔壁14において、Pb含有量は、PbOに換算すると、好ましくは0.03質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0質量%である。鉛の含有量は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)により求めることができる。
【0041】
外周壁11及び隔壁14を構成する材料のキュリー点の下限は、空気を効率良く加熱する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは125℃以上である。また、キュリー点の上限については、車室又は車室近傍に置かれる部品としての安全性の観点から、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは225℃以下であり、更に好ましくは200℃以下であり、更により好ましくは150℃以下である。
【0042】
外周壁11及び隔壁14を構成する材料のキュリー点は、シフターの種類及び添加量によって調整可能である。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のキュリー点は約120℃であるが、Ba及びTiの一部をSr、Sn及びZrの一種以上で置換することにより、キュリー点を低温側にシフトさせることができる。
【0043】
本明細書において、キュリー点は以下の方法により測定される。試料を測定用の試料ホルダーに取りつけ、測定槽(例:MINI-SUBZERO MC-810P エスペック株式会社製)内に装着して、10℃から昇温したときの温度変化に対する試料の電気抵抗の変化を、直流抵抗計(例:マルチメーター3478A YOKOGAWA HEWLETT PACKARD,LTD製)を用いて測定する。測定により得られた電気抵抗-温度プロットにより、抵抗値が室温(20℃)における抵抗値の2倍になるときの温度をキュリー点とする。
【0044】
(1-2.一対の電極)
一対の電極20a,20bは、第1端面12a及び第2端面12bに設けられる。
一対の電極20a,20bの間に電圧を印加することで、ジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能となる。
【0045】
一対の電極20a,20bとしては、例えば、Cu、Ag、Al、Ni及びSiから選択される少なくとも一種を含有する金属又は合金を使用することができる。また、PTC特性を有する外周壁11及び/又は隔壁14とオーミック接触が可能なオーミック電極を使用することもできる。オーミック電極は、例えば、ベース金属としてAl、Au、Ag及びInから選択される少なくとも一種を含有し、ドーパントとしてn型半導体用のNi、Si、Zn、Ge、Sn、Se及びTeから選択される少なくとも一種を含有するオーミック電極を使用することができる。また、一対の電極20a,20bは、1層構造としてもよいし、2層以上の積層構造としてもよい。一対の電極20a,20bが2層以上の積層構造を有する場合、各層の材質は、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0046】
一対の電極20a,20bの厚さは、一対の電極20a,20bの形成方法に応じて適宜設定することができる。一対の電極20a,20bの形成方法としては、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法が挙げられる。また、電極ペーストを塗布した後、焼き付ける方法や、溶射によっても一対の電極20a,20bを形成することができる。さらに、金属板又は合金板を接合することによって一対の電極20a,20bとしてもよい。
【0047】
一対の電極20a,20bの厚さは、例えば、電極ペーストの焼付けでは5~30μm程度、スパッタリング及び蒸着のような乾式めっきでは100~1000nm程度、溶射では10~100μm程度、電解析出及び化学析出のような湿式めっきでは5~30μm程度とすることが好ましい。また、金属板又は合金板の接合では、それらの厚さを5~100μm程度とすることが好ましい。
【0048】
(1-3.機能材含有層)
機能材含有層30は、セル13が延びる方向に平行な隔壁14(最外周のセル13の場合は、最外周のセル13を区画形成する隔壁14及び外周壁11)の表面に設けられる。このように機能材含有層30を設けることにより、機能材を加熱し易くなるため、機能材による所望の機能を発揮させることができる。
【0049】
機能材含有層30に含有される機能材としては、所望の機能を発揮させることができる材料であれば特に限定されないが、吸着材、触媒などを用いることができる。吸着材は、空気中の除去対象成分、例えば水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有することが好ましい。また、触媒を用いることにより、除去対象成分を浄化することができる。更に、吸着材による除去対象成分の捕捉機能を高めるなどの目的で、吸着材と触媒とを併用してもよい。
【0050】
吸着材は、除去対象成分、例えば、水蒸気、二酸化炭素及び揮発成分などを-20~40℃で吸着し、60℃以上の高温で離脱することが可能な機能を有することが好ましい。このような機能を有する吸着材としては、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、アルミナ、シリカ、低結晶性粘土、非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体などが挙げられる。吸着材の種類は、除去対象成分の種類に応じて適宜選択すればよい。吸着材は一種を単独使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
触媒としては、酸化還元反応を促進させることが可能な機能を有することが好ましい。このような機能を有する触媒としては、Pt、Pd、Agなどの金属触媒、CeO2、ZrO2などの酸化物触媒などが挙げられる。触媒は一種を単独使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
車室の空気中に含まれる揮発成分は、例えば、揮発性有機化合物(VOC)や、VOC以外のにおい成分などである。揮発成分の具体例としては、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド、N-メチルカルバミン酸-2-(1-メチルプロピル)フェニルなどが挙げられる。
【0053】
機能材含有層30の厚さは、セル13の大きさに応じて決定すればよく、特に限定されない。例えば、機能材含有層30の厚さは、空気との接触を十分確保する観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは30μm以上である。一方、隔壁14や外周壁11から機能材含有層30が剥離することを抑制する観点から、機能材含有層30の厚さは、好ましくは400μm以下、より好ましくは380μm以下、更に好ましくは350μm以下である。
【0054】
機能材含有層30の厚さは、以下の手順で測定する。ハニカム構造体10の流路方向に平行な任意の断面を切り出し、走査型電子顕微鏡などで50倍程度の断面画像を取得する。また、この断面は、ハニカム構造体10の流路に直交する断面における重心位置を通るようにする。断面画像から視認される各機能材含有層30について、断面積をセル13の流路方向の長さで除することで厚さを算出する。この計算を当該断面画像から視認される全ての機能材含有層30について行い、全体の平均値を機能材含有層30の厚さとする。
【0055】
機能材がヒーターエレメント100内で所望の機能を発揮するという観点から、機能材含有層30の量は、ハニカム構造体10の容積に対して、50~500g/Lであることが好ましく、100~400g/Lであることがより好ましく、150~350g/Lであることが更に好ましい。なお、ハニカム構造体10の容積は、ハニカム構造体10の外形寸法により定まる値である。
【0056】
(2.ヒーターエレメントの特性)
ヒーターエレメント100は、以下の式(1)及び(2)を満たす。
(1)y≦-0.0004x2+0.5299x-12.128
(2)y≧0.00007x2-0.0133x+44.223
式中、yは、10~13.5Vの電圧をヒーターエレメント100に印加した時に80℃に到達するまでの時間[秒]、xは、以下の式(3)で表される加熱特性因子である。
(3)加熱特性因子=ハニカム構造体10の体積抵抗[Ω・cm]/ハニカム構造体10の開口率[%]×ハニカム構造体10の比熱[J/kg・K]×ハニカム構造体10の密度[g/m3
上記の式(1)及び(2)は、ヒーターエレメント100の各種サンプルを作製し、加熱時(機能材の再生処理時)のクラックの発生の有無(耐熱衝撃性)、昇温性(昇温速度)、及び圧力損失を測定し、その測定結果から実験的に導出された関係式である。この測定結果について説明する。
【0057】
ヒーターエレメント100の各種サンプルは、次のようにして作製した。
まず、セラミックス原料としてBaCO3粉末、TiO2粉末及びLa(NH33・6H2O粉末を準備した。これらの粉末を、焼成後に所定の組成となるように秤量して、乾式混合して混合粉末を得た。乾式混合は、30分間実施した。次いで、得られた混合粉末100質量部に対して、押出成形後に相対密度が64.8%のセラミックス成形体が得られるように、水、バインダ、可塑剤及び分散剤を合計で3~30質量部の範囲で適量ずつ添加して混練し、坏土を得た。バインダとしてはメチルセルロースを使用した。可塑剤及び分散剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用した。
【0058】
次に、得られた坏土を押出成形機に投入し、焼成後に以下に示されるような形状のハニカム構造体10となるように所定の口金を用いて押出成形した。
流路方向に直交するハニカム構造体10の断面及び端面の形状:四角形
流路方向に直交するセル13の断面の形状:四角形
外周壁11の厚さ:0.127mm
セルピッチ:1.08mm
ハニカム構造体10の流路の延びる方向の長さ:10mm
ハニカム構造体10の流路の延びる方向に直交する断面積:11074mm2
外周壁11及び隔壁14を構成する材料のキュリー点:120℃
ハニカム構造体10のその他の特徴:表1に示す
【0059】
次に、得られたハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、焼成炉内にて大気雰囲気下で脱脂(450℃×4時間)し、次いで大気雰囲気下で焼成することにより、ハニカム構造体10を得た。焼成は、950℃で1時間保持した後、1200℃まで昇温して1200℃で1時間保持し、次いで200℃/時の昇温速度で1400℃(最高温度)に昇温し、1400℃で2時間保持することによって行った。
【0060】
次に、得られたハニカム構造体10の両端面(第1端面12a及び第2端面12b)に、一対の電極20a,20bを形成した。一対の電極20a,20bは、次のようにして形成した。まず、アルミニウム(電極材)、エチルセルロース及びジエチレングリコールモノブチルエーテル(有機バインダ)を含む電極スラリーを調製し、第1端面12aに塗布した。次に、ハニカム構造体10の外周の余分な電極スラリーをブロー及び拭き取りによって除去した後、電極スラリーを乾燥させることによって第1端面12aに電極20aを形成した。同様にして、第2端面12bにも電極20bを形成することにより、ヒーターエレメント100を得た。
このようにして得られたヒーターエレメント100に対して以下の評価を行った。
【0061】
<耐熱衝撃性>
下記の昇温速度の試験を行った後、隔壁14におけるクラックの発生の有無を目視にて観察した。この評価において、隔壁14にクラックの発生が確認されなかったものをA、隔壁14にクラックの発生が確認されたものをBと表す。
【0062】
<昇温性>
表1に示す電圧をヒーターエレメント100に印加した時に80℃に到達するまでの時間を測定した。温度の測定は、熱電対を用い、5箇所(ヒーターエレメントを構成するハニカム構造体のセル(流路)の延びる方向に垂直な断面の中心部1箇所及び外周部4箇所)の位置で実施した。なお、温度は5箇所の平均とした。この評価において、到達時間が185秒以内であったものをA、到達時間が185秒を超えたものをBと表す。
【0063】
<圧力損失>
各サンプルの上流及び下流に差圧計を設置し、流量45m3/hの空気を流通させ、圧力損失(上流側の圧力-下流側の圧力)を求めた。この評価において、圧力損失100Pa以下であったものをA、圧力損失が100Paを超えたものをBと表す。
【0064】
上記の各評価結果を表1に示す。また、ハニカム構造体10の体積抵抗、開口率、比熱及び密度によって表される加熱特性因子と、10~13.5Vの電圧をヒーターエレメントに印加した時に80℃に到達するまでの時間との関係を表すグラフを図3に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図3に示されるように、上記の式(1)及び(2)で表される範囲内のヒーターエレメント(実施例)は、耐熱衝撃性、昇温性及び圧力損失の結果が全て良好(A)であったのに対し、上記の式(1)及び(2)で表される範囲外のヒーターエレメント(実施例)は、耐熱衝撃性、昇温性及び圧力損失のいずれか一つの結果が不良(B)であった。したがって、上記の式(1)及び(2)で表される範囲内に制御することにより、ハニカム構造体の隔壁の厚さが小さくても隔壁のクラックの発生を抑制でき、しかも昇温時間の短縮化及び圧力損失の低減ができる。
【0067】
(3.ヒーターエレメントの製造方法)
本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100の製造方法は、上記の特徴を有するヒーターエレメント100を製造し得る方法であれば特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。以下、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント100を製造する方法について例示的に説明する。
【0068】
ヒーターエレメント100を構成するハニカム構造体10の製造方法は、成形工程及び焼成工程を含む。
成形工程では、BaCO3粉末、TiO2粉末、及び希土類の硝酸塩又は水酸化物の粉末を含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のハニカム成形体を作製する。
セラミックス原料は、所望する組成となるように各粉末を乾式混合することによって得ることができる。
坏土は、セラミックス原料に、分散媒、バインダ、可塑剤及び分散剤を添加して混練することによって得ることができる。坏土には、シフター、金属酸化物、特性改善剤、導電体粉末などの添加剤を必要に応じて含有させてもよい。
セラミックス原料以外の成分の配合量は、ハニカム成形体の相対密度が60%以上となるような量であれば特に限定されない。
【0069】
ここで、本明細書において「ハニカム成形体の相対密度」とは、セラミックス原料全体の真密度に対するハニカム成形体の密度の割合のことを意味する。具体的には、以下の式によって求めることができる。
ハニカム成形体の相対密度(%)=ハニカム成形体の密度(g/cm3)/セラミックス原料全体の真密度(g/cm3)×100
ハニカム成形体の密度は、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。また、セラミックス原料全体の真密度は、各原料の質量を合計した値(g)を、各原料の実の体積を合計した値(cm3)で除することによって求めることができる。
【0070】
分散媒としては、水、又は水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0071】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの有機バインダを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。バインダは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよいが、アルカリ金属元素を含有していないことが好ましい。
【0072】
可塑剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリカルボン酸系高分子、アルキルリン酸エステルなどを例示することができる。
【0073】
分散剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどの界面活性剤を用いることができる。分散剤は、一種を単独で使用するものであっても、二種以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0074】
ハニカム成形体は、坏土を押出成形することによって作製することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度などを有する口金を用いることができる。
【0075】
押出成形によって得られるハニカム成形体の相対密度は、60%以上、好ましくは65%以上である。このような範囲にハニカム成形体の相対密度を制御することにより、ハニカム成形体を緻密化し、室温における電気抵抗を低下させることが可能となる。なお、ハニカム成形体の相対密度の上限値は、特に限定されないが、一般に80%、好ましくは75%である。
【0076】
ハニカム成形体は、焼成工程の前に乾燥させることができる。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0077】
焼成工程は、1150~1250℃で保持した後、20~600℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~10時間保持することを含む。
ハニカム成形体を1360~1430℃の最高温度で0.5~10時間保持することにより、Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするハニカム構造体10を得ることができる。
また、1150~1250℃で保持することにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が除去され易くなるため、ハニカム構造体10を緻密化させることができる。
さらに、1150~1250℃から1360~1430℃の最高温度までの昇温速度を20~600℃/時とすることにより、1.0~10.0質量%のBa6Ti1740結晶粒子をハニカム構造体10に生成させることができる。
【0078】
1150~1250℃での保持時間は、特に限定されないが、好ましくは0.5~10時間である。このような保持時間とすることにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が安定して除去され易くなる。
【0079】
焼成工程は、昇温時に900~950℃で0.5~5時間保持することを含むことが好ましい。900~950℃で0.5~5時間保持することにより、BaCO3が効率良く分解し、所定の組成を有するハニカム構造体10が得られ易くなる。
【0080】
なお、焼成工程の前には、バインダを除去するための脱脂工程を行ってもよい。脱脂工程の雰囲気は、有機成分を完全に分解するために大気雰囲気とすることが好ましい。
また、焼成工程の雰囲気も、電気特性の制御と製造コストの観点から大気雰囲気とすることが好ましい。
焼成工程や脱脂工程に用いられる焼成炉としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉などを用いることができる。
【0081】
上記のようにして得られたハニカム構造体10に、一対の電極20a,20bを形成することで、ヒーターエレメント100を製造することができる。
一対の電極20a,20bは、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法によって形成することができる。また、一対の電極20a,20bは、電極ペーストを塗布した後、焼き付けることによっても形成することもできる。さらに、一対の電極20a,20bは、溶射によって形成することもできる。一対の電極20a,20bは単層で構成してもよいが、組成の異なる複数の電極層で構成することもできる。以下、一対の電極20a,20bの代表的な形成方法を説明する。
【0082】
まず、電極材、有機バインダ及び分散媒を含む電極スラリーを調製し、ハニカム構造体10の第1端面12a又は第2端面12bにおける外周壁11及び隔壁14の表面に塗布する。分散媒は、水、有機溶媒(例:トルエン、キシレン、エタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)又はこれらの混合液とすることができる。ハニカム構造体10の外周の余分なスラリーをブロー及び拭き取りによって除去する。その後、スラリーを乾燥させることによってハニカム構造体10の第1端面12a又は第2端面12bに一対の電極20a,20bを形成することができる。乾燥は、例えば120~600℃程度の温度にヒーターエレメント100を加熱しながら行うことができる。塗布、スラリー除去、及び乾燥の一連の工程は1回のみ実施してもよいが、複数回繰り返すことによって所望の厚さの一対の電極20a,20bを設けることができる。
【0083】
次に、上記のようにして得られたヒーターエレメント100の隔壁14などの表面に機能材含有層30を形成することで、機能材含有層30付のヒーターエレメント100を製造することができる。
機能材含有層30の形成方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程により形成可能である。機能材、有機バインダ及び分散媒を含むスラリーにヒーターエレメント100を所定時間浸漬し、ハニカム構造体10の端面及び外周の余分なスラリーをブロー及び拭き取りによって除去する。分散媒は、水、有機溶媒(例:トルエン、キシレン、エタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)又はこれらの混合液とすることができる。その後、スラリーを乾燥させることによって隔壁14の表面に機能材含有層30を形成することができる。乾燥は、例えば120~600℃程度の温度にヒーターエレメント100を加熱しながら行うことができる。浸漬、スラリー除去、及び乾燥の一連の工程は1回のみ実施してもよいが、複数回繰り返すことによって所望の厚さの機能材含有層30を隔壁14などの表面に設けることができる。
【符号の説明】
【0084】
10 ハニカム構造体
11 外周壁
12a 第1端面
12b 第2端面
13 セル
14 隔壁
20a,20b 電極
30 機能材含有層
100 ヒーターエレメント
図1A
図1B
図2A
図2B
図3