(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092581
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】カルボン酸生産能を有する好塩性の組換え微生物
(51)【国際特許分類】
C12P 7/40 20060101AFI20240701BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240701BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240701BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240701BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240701BHJP
C12N 15/60 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C12P7/40 ZNA
C12N1/21
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
C12N15/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208623
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】牛木 章友
(72)【発明者】
【氏名】宮武 令
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD09
4B064AD30
4B064AD50
4B065AA15X
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カルボン酸類の生産能を有する、好塩性の組換え微生物を提供する。
【解決手段】カルボン酸生産能を有する、好塩性の組換え微生物であって、当該カルボン酸が、C5カルボン酸、C6カルボン酸および芳香族カルボン酸から選択される、組換え微生物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸生産能を有する、好塩性の組換え微生物であって、
当該カルボン酸が、C5カルボン酸、C6カルボン酸および芳香族カルボン酸から選択される、組換え微生物。
【請求項2】
前記カルボン酸が、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸および2,3-デヒドロアジピン酸から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項3】
前記組換え微生物が、β-ケトアジピルCoAチオラーゼ(EC:2.3.1.174)、3-オキソアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.1.1.157)、3-ヒドロキシアジピルCoAヒドラターゼ(EC:4.2.1.17)、2,3-デヒドロアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC: 1.3.99.-)およびアシルCoAチオエステラーゼ(EC:3.1.2.-)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、請求項1または2に記載の組換え微生物。
【請求項4】
前記タンパク質をコードする塩基配列の上流に、Pslpプロモーター、PaldプロモーターおよびPsodプロモーターから選択される上流配列が配置されている、請求項3に記載の組換え微生物。
【請求項5】
前記タンパク質をコードする塩基配列からレアコドンが除去されている、請求項3に記載の組換え微生物。
【請求項6】
前記カルボン酸が、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項7】
前記組換え微生物が、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(EC:4.2.1.118)、プロトカテク酸デカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.63)およびカテコール1,2―ジオキシゲナーゼ(EC:1.13.11.1)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、請求項6に記載の組換え微生物。
【請求項8】
エノレートレダクターゼ(EC:1.3.1.31)さらに発現する、請求項7に記載の組換え微生物。
【請求項9】
前記タンパク質をコードする塩基配列の上流に、Pslpプロモーター、Paldプロモーター、および、Psodプロモーターから選択されるプロモーターの塩基配列が配置されている、請求項8に記載の組換え微生物。
【請求項10】
前記微生物が、Bacillus属である、請求項2または7に記載の組換え微生物。
【請求項11】
前記微生物が、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)またはバチルス・マーマエンシス(Bacillus marmarensis)である、請求項10に記載の組換え微生物。
【請求項12】
前記微生物が、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)である請求項11に記載の組換え微生物。
【請求項13】
請求項1に記載の組換え微生物を用いる、カルボン酸の製造方法。
【請求項14】
前記カルボン酸が、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸および2,3-デヒドロアジピン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記カルボン酸が、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の組換え微生物を用いてcis,cis-ムコン酸を生成し、生成したムコン酸を水素化によってアジピン酸へ変換する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記組換え微生物を5質量%以上の無機塩を含有する培地で培養することによりカルボン酸を含む培養液を得る培養工程を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
前記組換え微生物を培養して、菌体を含む培養液を得る培養工程と、
前記培養液および/または前記菌体を、5質量%以上の無機塩を含有する水溶液と接触させてカルボン酸を含む反応液を得る反応工程と
を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項19】
前記培養液または反応液から前記組換え微生物を除去する除去工程を含む、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記培養液または反応液を濃縮する濃縮工程を含む、請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
前記無機塩が、炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムである、請求項17に記載の製造方法。
【請求項22】
前記カルボン酸が、前記組換え微生物による、糖、二酸化炭素、合成ガス、メタノール、及びアミノ酸のうちの少なくとも1つ以上の発酵により生成されたものである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項23】
得られたカルボン酸を精製する精製工程を含む、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業上有用な化合物であるカルボン酸生産能を有する好塩性の組換え微生物、および、当該組換え微生物を用いたカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸(CAS No.124-04-9)は、ナイロン-66などに代表されるポリアミド原料、ウレタン、および可塑剤原料として使用されるモノマー化合物であり、工業的に重要な化合物である。
【0003】
アジピン酸は現在、一般的に、化学合成法、例えば、シクロヘキサノール単独、または、シクロヘキサノールとシクロヘキサノンとの混合物(K/Aオイル)を硝酸で酸化する方法によって製造されている。
【0004】
近年、化石燃料は、枯渇が危惧され、かつ、地球温暖化の一因とされていることから、化学品製造プロセスにおいては、化石燃料由来の原料から再生可能な原料、例えばバイオマス由来原料への移行が望まれており、遺伝子組換えにより代謝が改変された微生物の発酵生産による製造方法が提案されている。例えば、微生物による、アジピン酸、6-アミノカプロン酸、またはカプロラクタム生合成が報告されている(特許文献1)。
【0005】
また、アジピン酸は化学的水素化によりムコン酸の3つの異性体、すなわちcis,cis-ムコン酸;cis,trans-ムコン酸;およびtrans,trans-ムコン酸のいずれかから作製することができる。例えば、遺伝子組換えにより代謝が改変された微生物の発酵によるcis,cis-ムコン酸生合成の後、水素化することにより、再生可能なバイオマス原料からアジピン酸を生成できることが報告されている(特許文献2)。
【0006】
一方、コハク酸などのジカルボン酸の微生物による発酵生産においては、pH調整のため、合成するジカルボン酸と同量以上のアンモニアおよび/または水酸化ナトリウムを加える必要がある。pH調整剤の多量添加は微生物の生育と目的化合物の生産性を大きく低下させる。コハク酸の発酵生産において種々のpH調整剤を検討し、生産性を改善させた報告があるが(非特許文献1)、コハク酸塩の蓄積に伴う生産性の低下を根本的には解決できていない。
【0007】
微生物による高い生産性を維持したままジカルボン酸を発酵生産するためには、ジカルボン酸塩濃度が高い環境でも生育可能な、耐塩性または好塩性を有する微生物を生産宿主として用いることが望ましいと考えられる。例えば、好塩性微生物の高塩濃度環境への耐性を活かして、塩基性の廃棄グリセロールから、生分解性ポリマーの原料となるポリヒドロキシ酪酸(Polyhydroxybutyrate;PHB)の蓄積が可能であることが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
しかしながら、汎用的な大腸菌を生産宿主として用いる場合とは異なり、好塩性微生物では目的のタンパク質の生産量を高めるための技術が確立されていない。そのため、カルボン酸類を生産する好塩性微生物はこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5951990号明細書
【特許文献2】特許第5487987号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】American Institute of Chemical Engineers Biotechnol. Prog., 25: 116-123, 2009
【非特許文献2】Kawata and Aiba, Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 175-177, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の現状に鑑み、本発明の課題は、カルボン酸類の生産能を有する、好塩性の組換え微生物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、発明者らは鋭意検討を行った結果、好塩性の宿主微生物に、外来性の遺伝子を導入することで、目的のカルボン酸の生産能を付与することができることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は以下を提供する:
[1]カルボン酸生産能を有する、好塩性の組換え微生物であって、
当該カルボン酸が、C5カルボン酸、C6カルボン酸および芳香族カルボン酸から選択される、組換え微生物;
[2]前記カルボン酸が、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸および2,3-デヒドロアジピン酸から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の組換え微生物;
[3]前記組換え微生物が、β-ケトアジピルCoAチオラーゼ(EC:2.3.1.174)、3-オキソアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.1.1.157)、3-ヒドロキシアジピルCoAヒドラターゼ(EC:4.2.1.17)、2,3-デヒドロアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC: 1.3.99.-)およびアシルCoAチオエステラーゼ(EC:3.1.2.-)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、[1]または[2]に記載の組換え微生物;
[4]前記タンパク質をコードする塩基配列の上流に、Pslpプロモーター、PaldプロモーターおよびPsodプロモーターから選択される上流配列が配置されている、[3]に記載の組換え微生物;
[5]前記タンパク質をコードする塩基配列からレアコドンが除去されている、[3]に記載の組換え微生物;
[6]前記カルボン酸が、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の組換え微生物;
[7]前記組換え微生物が、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(EC:4.2.1.118)、プロトカテク酸デカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.63)およびカテコール1,2―ジオキシゲナーゼ(EC:1.13.11.1)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、[6]に記載の組換え微生物;
[8]エノレートレダクターゼ(EC:1.3.1.31)をさらに発現する、[7]記載の組換え微生物;
[9]前記タンパク質をコードする塩基配列の上流に、Pslpプロモーター、Paldプロモーター、および、Psodプロモーターから選択されるプロモーターの塩基配列が配置されている、[8]に記載の組換え微生物:
[10]前記微生物が、Bacillus属である、[2]または[7]に記載の組換え微生物;
[11]前記微生物が、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)またはバチルス・マーマエンシス(Bacillus marmarensis)である、[10]に記載の組換え微生物;
[12]前記微生物が、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)である[11]に記載の組換え微生物;
[13][1]に記載の組換え微生物を用いる、カルボン酸の製造方法;
[14]前記カルボン酸が、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸および2,3-デヒドロアジピン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、[13]に記載の製造方法;
[15]前記カルボン酸が、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸からなる群より選択される少なくとも1つである、[13]に記載の製造方法;
[16][1]に記載の組換え微生物を用いてcis,cis-ムコン酸を生成し、生成したムコン酸を水素化によってアジピン酸へ変換する、[15]に記載の製造方法;
[17]前記組換え微生物を5質量%以上の無機塩を含有する培地で培養することによりカルボン酸を含む培養液を得る培養工程を含む、[13]に記載の製造方法;
[18]前記組換え微生物を培養して、菌体を含む培養液を得る培養工程と、
前記培養液および/または前記菌体を、5質量%以上の無機塩を含有する水溶液と接触させてカルボン酸を含む反応液を得る反応工程と
を含む、[13]に記載の製造方法;
[19]前記培養液または反応液から前記組換え微生物を除去する除去工程を含む、[18]に記載の製造方法;
[20]前記培養液または反応液を濃縮する濃縮工程を含む、[18]に記載の製造方法;
[21]前記無機塩が、炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムである、[17]に記載の製造方法;
[22]前記カルボン酸が、前記組換え微生物による、糖、二酸化炭素、合成ガス、メタノール、及びアミノ酸のうちの少なくとも1つ以上の発酵により生成されたものである、[13]に記載の製造方法;
[23]得られたカルボン酸を精製する精製工程を含む、[13]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、カルボン酸生産能を有する、好塩性の微生物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、カルボン酸の合成経路の一例の概略を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、カルボン酸の合成経路の一例の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、各酵素のアミノ酸配列および塩基配列を示す図である。
【
図3】
図3は、各酵素のアミノ酸配列および塩基配列を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例で遺伝子合成した配列番号17~19の塩基配列を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例で使用した各プライマーの塩基配列を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例で構築したpAKAD08~16の塩基配列を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例で使用した各プライマーの塩基配列を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例で使用したプロモーターの塩基配列を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例で作成したAKAD-401株およびAKAD-402株の塩基配列を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例で使用した各プライマーの塩基配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本明細書に記述されているDNAの取得、ベクターの調製および形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 4th Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、および、遺伝子工学実験ノート(羊土社 田村隆明)等の公知の文献に記載されている方法により行うことができる。本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’方向から3’方向に向けて記載される。本明細書において、「ポリペプチド」および「タンパク質」の語は、互換可能に使用される。「遺伝子組換え微生物」の語は、単に「組換え微生物」とも称する。
【0017】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
【0018】
本明細書において、「内因」または「内因性」の用語は、遺伝子組換えによる改変がなされていない宿主微生物が、言及している遺伝子ないしはそれによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)を、当該宿主細胞内で優位な生化学的反応を進行させ得る程度に機能的に発現しているかどうかに関わらず、宿主微生物が有していることを意味するために用いられる。
【0019】
本明細書において、「外来」または「外来性」の用語は、遺伝子組換え前の宿主微生物が本発明により導入されるべき遺伝子を有していない場合、その遺伝子による酵素を実質的に発現していない場合、及び異なる遺伝子により当該酵素のアミノ酸配列をコードしているが、遺伝子組換え後に匹敵する内因性酵素活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子または核酸配列を宿主に導入することを意味するために用いられる。「外来性」および「外因性」の用語は、本明細書において互換可能に用いられる。
【0020】
本発明にかかる組換え微生物は、カルボン酸生産能を有する、好塩性の組換え微生物である。具体的には、好塩性宿主微生物に、カルボン酸生産能を有するように改変を行ったものである。本発明にかかる組換え微生物は、塩耐性を有するため、高濃度のカルボン酸塩の生産に適した微生物である。
【0021】
本発明にかかる組換え微生物は、カルボン酸生産能を有する。本発明の微生物に関し、「カルボン酸生産能を有する」とは、その微生物を使用したカルボン酸生産のプロセスのいずれかの段階において、カルボン酸が生産される微生物をいう。具体的には、当該微生物の培養によって得られた培地にカルボン酸が含まれていてもよいし、培地にカルボン酸の前駆体、例えば、プロトカテク酸および/またはカテコールを添加し、カルボン酸前駆体をカルボン酸に変換する微生物を培養することによってカルボン酸を生産してもよい。「カルボン酸生産能を有する微生物」には、これらの性質の1つまたは複数を有する微生物が含まれる。
【0022】
本発明にかかる組換え微生物に関し、「カルボン酸生産能を有する」とは、当該微生物がカルボン酸の生産経路を有することを意味する。本明細書において、ある化合物に関し、「生産経路を有する」とは、本発明にかかる遺伝子組換え微生物が、その化合物の生産経路の各反応段階が進行するために十分な量の酵素を発現し、その化合物を生合成可能であることを意味する。すなわち、本発明にかかる組換え微生物は、カルボン酸の生産経路の各反応段階が進行するために十分な量の酵素を発現し、カルボン酸を生合成することが可能である。本発明の組換え微生物は、カルボン酸を生産する能力を本来有する宿主微生物を用いたものであってもよく、本来は当該化合物を生産する能力を有さない宿主微生物に対して、カルボン酸の生産能を有するように改変を行ったものであってもよい。
【0023】
本発明において、宿主として利用することのできる好塩性微生物は、高濃度の塩ストレスに対応できる微生物の総称である。最適増殖塩濃度による微生物の分類では、塩化ナトリウム濃度0~0.2M未満が最適増殖塩濃度である非好塩菌、0.2M以上~0.5M未満が最適増殖塩濃度である低度好塩菌、0.5M以上~2.5M未満が最適増殖塩濃度である中度好塩菌、2.5M以上~5.2M未満が最適増殖塩濃度である高度好塩菌に分類される。これらのうち非好塩菌を除くいずれもが、本発明にかかる好塩性微生物である。ここで、塩化ナトリウム濃度0.2M以上が最適増殖塩濃度である好塩菌を耐塩性とし、「耐塩性」微生物には、「好塩性」微生物が含まれるものとする。
【0024】
本発明者らは、自然界に存在する、0.2M以上の塩化ナトリウム濃度の環境でも生育することができる好塩性の性質を持つ微生物をカルボン酸の生産に使用することができれば、培地中にカルボン酸塩が蓄積した場合であっても、蓄積に伴う生産性の低下を回避できると考え、鋭意検討の結果、100g/Lという高濃度のアジピン酸塩存在下でも生育できる好塩性微生物を宿主とし、カルボン酸生産能を有するように改変した組換え微生物を構築した。なお、好塩性の性質を有する微生物を、カルボン酸生産に適用した例はこれまでにない。
【0025】
すなわち、本発明者らは、好塩性微生物にカルボン酸生産能を付与することに成功し、かかる微生物を用いることで、培地中にカルボン酸塩が蓄積した場合であっても、蓄積に伴う生産性の低下を回避できることを見出した。
【0026】
宿主微生物には、好塩性を持つ様々な微生物が含まれるが、その非限定的な例としては、バチルス属、ハロモナス属、ハロバクテロイデス属、サリニバクター属の細菌等が挙げられる。宿主微生物は、好ましくは、バチルス属の細菌であり、具体例としては、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・マーマエンシス(Bacillus marmarensis)である。中でも、バチルス・シュードフィラマス(Bacillus psuedofirmus)を使用することが特に好ましい。
【0027】
本明細書において、「カルボン酸」には、モノカルボン酸の他、ジカルボン酸等のカルボキシル基を複数有するカルボン酸が包含される。カルボン酸としては、例えば、C5カルボン酸、C6カルボン酸および芳香族カルボン酸が挙げられる。C5カルボン酸としては、例えばレブリン酸が挙げられ、C6カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸、2,3-デヒドロアジピン酸、cis,cis-ムコン酸が挙げられ、芳香族カルボン酸としては、例えばプロトカテク酸が挙げられるが、カルボン酸はこれらに限定されない。
【0028】
本発明にかかる組換え微生物によるカルボン酸の生合成経路としては、以下で説明する2つの経路が挙げられる(
図1Aおよび
図1B)。
【0029】
<経路1>
経路1では、宿主微生物が本来有する、グルコースを出発物質とする代謝経路において生成するアセチル-CoAおよびスクシニル-CoAが3-オキソアジピル-CoAに変換され、3-オキソアジピル-CoAからカルボン酸を生合成する。本経路において生合成されるカルボン酸は、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸および2,3-デヒドロアジピン酸から選択される少なくとも1つである。以下、カルボン酸がアジピン酸である例について、
図1Aを参照しながら説明する。
【0030】
本経路に関連する一態様では、宿主微生物において、β-ケトアジピルCoAチオラーゼ(EC:2.3.1.174)、3-オキソアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.1.1.157)、3-ヒドロキシアジピルCoAヒドラターゼ(EC:4.2.1.17)、2,3-デヒドロアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.3.99.-)およびアシルCoAチオエステラーゼ(EC:3.1.2.-)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現するような改変が行われている。具体的には、β-ケトアジピルCoAチオラーゼ、3-オキソアジピルCoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピルCoAヒドラターゼ、2,3-デヒドロアジピルCoAデヒドロゲナーゼおよびアシルCoAチオエステラーゼの1つ以上を上記宿主微生物の細胞に導入する。かかる改変を行うことによって、カルボン酸生合成経路が構築される。好ましくは、上記酵素遺伝子配列は、上記宿主微生物のゲノム配列に挿入される。
【0031】
図1Aに示す例では、宿主微生物が本来有する代謝経路において生成するアセチル-CoAとスクシニル-CoAとを縮合し、3-オキソアジピル-CoAを生成する(
図1A、ステップ1)。本変換は、例えば、β-ケトアジピルCoAチオラーゼ(EC:2.3.1.174)に触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のPaaJが挙げられる。大腸菌PaaJ酵素のアミノ酸配列を配列番号1に、塩基配列を配列番号2に示す(
図2)。
【0032】
次いで、ステップ2において、3-オキソアジピル-CoAが還元され、3-ヒドロキシアジピル-CoAが生成する。本変換は、例えば、3-オキソアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.1.1.157)に触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のPaaHが挙げられる。大腸菌PaaH酵素のアミノ酸配列を配列番号3に、塩基配列を配列番号4に示す(
図2)。
【0033】
ステップ3において、3-ヒドロキシアジピル-CoAが脱水され、2,3-デヒドロアジピルCoAが生成する。本変換は、例えば、3-ヒドロキシアジピルCoAヒドラターゼ(EC:4.2.1.17)に触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のPaaFが挙げられる。大腸菌PaaF酵素のアミノ酸配列を配列番号5に、塩基配列を配列番号6に示す(
図2)。
【0034】
ステップ4において、2,3-デヒドロキシアジピル-CoAが還元され、アジピルCoAが生成する。本変換は、例えば、2,3-デヒドロアジピルCoAデヒドロゲナーゼ(EC:1.3.99.-)に触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、Thermobifida fuscaのTerが挙げられる。Ter酵素のアミノ酸配列を配列番号7に、塩基配列を配列番号8に示す(
図2)。
【0035】
ステップ5において、アジピル-CoAが加水分解され、アジピン酸が生成する。本変換は、例えば、アシルCoAチオエステラーゼ(EC:3.1.2.-)に触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、Escherichia coliのTesBが挙げられる。TesB酵素のアミノ酸配列を配列番号9に、塩基配列を配列番号10に示す(
図2)。
【0036】
図1Aに示す経路では、レブリン酸が副産物として生成する。具体的には、3-オキソアジピルCoAが3-オキソアジピン酸を経てレブリン酸へと変換される。アシルCoAチオエステラーゼによって3-オキソアジピルCoAが3-オキソアジピン酸へと加水分解され、デカルボキシラーゼによって3-オキソアジピン酸の脱炭酸によりレブリン酸が生成すると予測される。前述の反応は、宿主微生物が有するいずれかの内因性のデカルボキシラーゼによって触媒される。
【0037】
上記のように、宿主微生物に、外来性の5つの遺伝子を導入することで、当該微生物の代謝経路において生成するアセチル-CoAとスクシニル-CoAとからカルボン酸(
図1Aではアジピン酸)を生産する能力を宿主微生物に付与することができる。
【0038】
本実施形態の遺伝子組換え微生物の作製において、例えば、好塩性を有する微生物の細胞内に外来の遺伝子を導入する技術、ゲノム配列に任意の外来の遺伝子配列を導入する技術、またはゲノム配列から不要な遺伝子配列を取り除く技術を利用することができる。
【0039】
すなわち、以下のような技術が挙げられる。
(1)好塩性を有する微生物にて発現可能なプロモーターとカルボン酸生産に関わる遺伝子を組み合わせた技術、
(1-1)前記技術の対象となるプロモーターとして、S-Layerタンパク質(「Slp」とも称する。)をコードする遺伝子、アラニンデヒドロゲナーゼ(「Ald」とも称する。)をコードする遺伝子またはスーパーオキシドディスムターゼ(「Sod」とも称する。)をコードする遺伝子の上流領域の配列を使用する、上記(1)の技術、
(1-2)宿主微生物の全遺伝子のコドン頻度から使用頻度が少ないレアコドンを、前技術の対象となるカルボン酸生産に関わる遺伝子をコードする塩基配列から除去している、上記(1)の技術、
(2)前記技術が、好塩性を有する微生物の細胞内で安定的に複製されるプラスミドベクターを使用することを特徴とする、上記(1)の技術、
(2-1)前記技術の対象となるプラスミドベクターがpUB110である、上記(1)の技術、
(3)前記技術が、好塩性を有する微生物の細胞内で所望する形質が安定的に発現することを特徴とする、上記(1)の技術、
(4)温度感受性プラスミドベクターとネガティブセレクションを組み合わせた染色体上の遺伝子配列を任意に改変する技術、
(5)前記技術が、37℃以上の温度において微生物が保有するプラスミドの複製を停止させる、もしくは保有しているプラスミドのコピー数が減少させることを特徴とする、上記(4)の技術、
(6)前記技術が、スクロースおよび4-クロロフェニルアラニン等の物質が存在する条件において特定の遺伝子を保有する微生物の増殖が阻害されることで、特定の遺伝子を保有しない微生物をセレクション(ネガティブセレクション)することを特徴とする、上記の(4)の技術、
(6-1)前記技術の対象となる特定の遺伝子が、レバンスクラーゼ遺伝子(sacB遺伝子)である、上記(4)の技術、
(6-2)前記技術の対象となる特定の遺伝子が、塩基配列に変異を導入した宿主由来のフェニルアラニンtRNA合成酵素αサブユニット遺伝子(pheS遺伝子)である、上記(4)の技術。
【0040】
本発明においては、高発現プロモーターと外来遺伝子とをプラスミドベクターに保有させ、好塩性を有する微生物の細胞内に導入することにより、外来遺伝子を安定的に高発現させてよい。また、温度感受性のプラスミドベクターとネガティブセレクションとを組み合わせた技術により、好塩性を有数する微生物が保持するゲノム配列が任意に編集される。当該技術を利用して遺伝子導入またはゲノム配列が編集された細胞株は、通常の意味での野生型であってよく、或いは、栄養要求性変異株、抗生物質耐性変異株であってもよい。更に、本発明の宿主細胞として利用できる細胞株は、上記のような変異に関する各種マーカー遺伝子を有するように既に形質転換されていてもよい。これらの技術により、本発明の組換微生物の作製、維持および/または管理に有益な性質を提供することができる。
【0041】
本発明の経路1にかかる実施形態では、組換え微生物において、前記タンパク質(酵素)をコードする塩基配列の上流に、プロモーターの塩基配列が配置されていてもよい。一態様において、2以上のプロモーターを選択し、複数のタンパク質のそれぞれの遺伝子の上流に、プロモーターを配置してもよいし、複数のタンパク質の遺伝子を含む一連の塩基配列の上流に、1つのプロモーターを配置してもよい。
【0042】
本実施形態では、組換え微生物において、前記タンパク質(酵素)をコードする塩基配列の上流に、S-Layerタンパク質(「Slp」とも称する。)をコードする遺伝子、アラニンデヒドロゲナーゼ(「Ald」とも称する。)をコードする遺伝子またはスーパーオキシドディスムターゼ(「Sod」とも称する。)をコードする遺伝子の上流配列がプロモーターとして配置されていることが好ましく(上記(1-1))、具体的には、前記タンパク質(酵素)をコードする塩基配列の上流に:
・Pslpプロモーター、
・Paldプロモーター、および、
・Psodプロモーター
から選択されるプロモーターの塩基配列が配置されていることが好ましい。各プロモーターの配列の例を、配列番号104~106に示す(
図9)。このように、目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流にプロモーター配列を配置することによって、目的とするタンパク質をコードする遺伝子の転写効率を向上させることができる。
【0043】
本発明の組換え微生物において、さらに、コドン最適化を行ってもよい。コドン最適化を行うことによって、目的とするタンパク質(酵素)への翻訳効率を向上させることができる。遺伝子配列のコドン最適化は、使用頻度の低いコドンを除去する操作である。よって、一態様において、組換え組成物は、タンパク質(酵素)をコードする塩基配列からレアコドンが除去されている。好ましくは、使用頻度の低いコドンを使用頻度の高いコドンに変更する操作であり、さらに好ましくは使用頻度の最も高いコドンのみで構成される遺伝子配列に変更する操作である。
【0044】
<経路2>
本経路では、宿主微生物が本来有する、グルコースを出発物質とする代謝経路において生成する3-デヒドロシキミ酸(Dehydro shikimic acid;DHS)が、プロトカテク酸およびカテコールを経て、cis,cis-ムコン酸へと変換される(
図1B)。本経路において生合成されるカルボン酸は、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸から選択される少なくとも1つである。
【0045】
本経路に関連する一態様では、宿主微生物において、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(EC:4.2.1.118)、プロトカテク酸デカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.63)およびカテコール1,2-ジオキシゲナーゼ(EC:1.13.11.1)の1以上を上記宿主微生物の細胞に導入する。かかる改変を行うことによって、カルボン酸生合成経路が構築される。好ましくは、上記酵素遺伝子配列は、上記宿主微生物のゲノム配列に挿入される。
【0046】
図1Bに示す例では、宿主微生物が本来有する代謝経路において生成する3-デヒドロシキミ酸(Dehydro shikimic acid;DHS)が脱水によって3,4-ジヒドロキシ安息香酸(プロトカテク酸)に変換される(
図1B、ステップ1)。本変換は、例えば、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼにより触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、Acinetobacter BaylyiのQuiCが挙げられる。QuiC酵素のアミノ酸配列を配列番号11に、塩基配列を配列番号12に示す(
図3)。
【0047】
ステップ2において、3,4-ジヒドロキシ安息香酸が脱炭酸され、1,2-ベンゼンジオール(カテコール)が生成する。本変換は、例えば、プロトカテク酸デカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.63)により触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、Klebsiella pneumoniaeのUbiDが挙げられる。UbiD酵素のアミノ酸配列を配列番号13に、塩基配列を配列番号14に示す(
図3)。
【0048】
ステップ3において、1,2-ベンゼンジオールが酸化され、cis,cis-ムコン酸が生成する。本変換は、例えば、カテコール1,2-ジオキシゲナーゼ(EC:1.13.11.1)により触媒される。本酵素の遺伝子配列として代表的なものは、Acinetobacter BaylyiのCatAが挙げられる。CatA酵素のアミノ酸配列を配列番号15に、塩基配列を配列番号16に示す(
図3)。
【0049】
上記のように、外来性の3つの遺伝子を宿主微生物に導入することで、当該微生物の代謝経路において生成する3-デヒドロシキミ酸から、カルボン酸(
図1Bではプロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸)を生産する能力を宿主微生物に付与することができる。ここで生成したカルボン酸は、さらに反応に供され、別のカルボン酸に変換されてもよい。例えば、cis,cis-ムコン酸は、さらに水素化に供され、アジピン酸へと変換されてもよい。当該水素化において、cis,cis-ムコン酸は例えば、2,3デヒドロアジピン酸を経て、アジピン酸へと変換される。cis,cis-ムコン酸の水素化の方法は、特に限定されず、例えば、金属触媒による水素化、および、酵素による水素化が挙げられる。好ましい態様において、cis,cis-ムコン酸の水素化は金属触媒により行われる。別の好ましい態様では、cis,cis-ムコン酸は、エノレートレダクターゼ(EC:1.3.1.31)によって水素化され、アジピン酸へと変換される。
【0050】
経路2にかかる実施形態の遺伝子組換え微生物の作製において、例えば、好塩性を有する微生物の細胞内に外来の遺伝子を導入する技術、ゲノム配列に任意の外来の遺伝子配列を導入する技術、またはゲノム配列から不要な遺伝子配列を取り除く技術を利用することができ、経路1にかかる実施形態について説明した、上記(1)~(6)の技術を、経路2にかかる実施形態においても利用することができる。
【0051】
本発明の経路2にかかる実施形態では、組換え微生物において、前記タンパク質をコードする塩基配列の上流に、上記表Aに記載するプロモーター群から選択されるプロモーターが、上流配列が配置されている。組換え微生物において、前記タンパク質(酵素)をコードする塩基配列の上流に、Slpをコードする遺伝子、Aldをコードする遺伝子またはSodをコードする遺伝子の上流配列がプロモーターとして配置されていることが好ましく(上記(1-1))、具体的には、前記タンパク質(酵素)をコードする塩基配列の上流に:
・Pslpプロモーター、
・Paldプロモーター、および、
・Psodプロモーター
から選択されるプロモーターの塩基配列が配置されていることが好ましい。各プロモーターの配列の例を、配列番号104~106に示す(
図9)。このように、目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流にプロモーター配列を配置することによって、目的とするタンパク質をコードする遺伝子の転写効率を向上させることができる。
【0052】
さらに、本発明の組換え微生物において、コドン最適化を行ってもよい。コドン最適化を行うことによって、目的とするタンパク質(酵素)への翻訳効率を向上させることができる。遺伝子配列のコドン最適化は、使用頻度の低いコドンを除去する操作である。よって、一態様において、組換え組成物は、タンパク質(酵素)をコードする塩基配列からレアコドンが除去されている。好ましくは、使用頻度の低いコドンを使用頻度の高いコドンに変更する操作であり、さらに好ましくは使用頻度の最も高いコドンのみで構成される遺伝子配列に変更する操作である。
【0053】
経路1および2に関して説明した外来性のタンパク質(すなわち酵素)は、下記(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)宿主微生物に、前記タンパク質をコードする外来性遺伝子を導入する操作、
(B)宿主微生物内の前記タンパク質の内因性遺伝子のコピー数を増加させる操作、
(C)宿主微生物内の前記タンパク質の内因性遺伝子の発現調整領域に変異を導入する操作、
(D)宿主微生物内の前記タンパク質の内因性遺伝子の発現調整領域を、高発現可能な外来調整領域で置換する操作、および
(E)宿主微生物内の前記タンパク質の内因性遺伝子の調整領域を欠失させる操作
から成る群より選択される1以上の遺伝子操作を行うことによって、導入および/または発現することができる。
【0054】
上記のようにして得られる遺伝子組み換え体は、カルボン酸生産のために、その生育及び/または維持に適した条件下で培養及び維持される。従って、本発明の別の側面は、先述の組換え微生物を用いる、カルボン酸の製造方法に関する。カルボン酸は、例えば、C5カルボン酸、C6カルボン酸および芳香族カルボン酸より選択される少なくとも1つであり、好ましくは、レブリン酸、アジピン酸、3-オキソアジピン酸、3-ヒドロキシアジピン酸、2,3-デヒドロアジピン酸、プロトカテク酸およびcis,cis-ムコン酸からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0055】
本発明にかかる製造方法は、例えば以下の工程を含む。
【0056】
(培養工程)
本工程では、先述の組換え微生物を培地中で培養する。一態様において、組換え微生物を、無機塩を含有する培地で培養することによりカルボン酸を含む培養液を得る。培地中の無機塩の濃度は、例えば5質量%以上である。培地に含まれる無機塩は、炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムである。別の一態様では、組換え微生物を培養して、菌体を含む培養液を得る。
【0057】
(反応工程)
本工程では、培養工程において菌体を含む培養液を得たのち、培養液および/または菌体を、5質量%以上の無機塩を含有する水溶液と接触させてカルボン酸を含む反応液を得る。
【0058】
本発明にかかる製造方法は、先の工程で得られた培養液または反応液から組換え微生物を除去する除去工程、および/または、先の工程で得られた培養液または反応液を濃縮する濃縮工程を、さらに含んでもよい。
【0059】
(分離工程)
本工程では、先の工程で得られた培養液または反応液から、目的化合物であるカルボン酸を分離および/または精製する工程を含んでよい。当該分離および/または精製する工程では、任意の手法、例えば、遠心分離、ろ過、膜分離、晶析、抽出、蒸留、吸着、相分離、イオン交換および各種のクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに限定されない。分離および/または精製工程では、一種類の方法を選択しても良く、また複数の方法を組み合わせても良い。
【0060】
本発明にかかる製造方法において、各種の宿主微生物細胞に由来する形質転換体のための好適な培地組成、培養条件、培養時間は当業者により容易に設定することができる。
【0061】
培地は、1つ以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン、及び場合により微量元素ないしビタミン等の微量成分を含む天然、半合成、合成培地であってよい。しかし、使用する培地は、培養すべき遺伝子組み換え体の栄養要求を適切に満たさなければならないことは言うまでもない。
【0062】
炭素源としては、D-グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、油脂(例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヤシ油など)、脂肪酸(例えばパルミチン酸、リノール酸、リノレン酸など)、アルコール(例えばグリセロール、エタノールなど)、有機酸(例えば酢酸、乳酸、コハク酸など)が挙げられる。更にD-グルコースを含有するバイオマスであり得る。好適なバイオマスとしては、トウモロコシ分解液およびセルロース分解液が例示される。さらにその他の炭素源として、糖、二酸化炭素、合成ガス、メタノールおよびアミノ酸等も挙げられる。すなわち、一態様において、本発明にかかる製造方法では、カルボン酸は、組換え微生物による、糖、二酸化炭素、合成ガス、メタノールおよびアミノ酸のうちの少なくとも1つ以上の発酵により生成されたものである。上記炭素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0063】
バイオマス由来の原料を用いた場合、製品であるカルボン酸は、ISO16620-2またはASTM D6866に規定されるCarbon-14(放射性炭素)分析に基づくバイオベース炭素含有率の測定により、例えば石油、天然ガス、石炭などを由来とする合成原料と明確に区別することができる。
【0064】
窒素源としては、含窒素有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、コーンスティープリカー、大豆粉および尿素など)、または無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなど)が挙げられる。これらの窒素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0065】
また、培地は、形質転換体が有用な付加的形質を発現する場合、例えば抗生物質への耐性マーカーを有する場合、対応する抗生物質を含んでいてよい。それにより、発酵中の雑菌による汚染リスクが低減される。抗生物質としては、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
セルロースおよび多糖類などの上記炭素源を宿主微生物が資化できない場合は、当該宿主微生物に外来遺伝子を導入するなどの公知の遺伝子工学的手法を施すことで、これら炭素源を使用したカルボン酸生産に適応させることができる。外来遺伝子としては、例えば、セルラーゼ遺伝子およびアミラーゼ遺伝子などを挙げることができる。
【0067】
培養は、バッチ式であっても連続式であってもよい。また、いずれの場合にも、培養の適切な時点で追加の前記炭素源等を補給する形式であってもよい。更に、培養は、好適な温度、酸素濃度、pH等を維持しながら継続されるべきである。一般的な微生物宿主細胞に由来する形質転換体の好適な培養温度は、通常15℃~50℃、好ましくは25℃~37℃の範囲である。宿主微生物が好気性の場合、発酵中の適切な酸素濃度を確保するために振盪(フラスコ培養等)、攪拌/通気(ジャー・ファーメンター培養等)を行う必要がある。それらの培養条件は、当業者にとって容易に設定可能である。
【0068】
本発明によれば、カルボン酸生産能を有する好塩性の組換え微生物を提供することができる。当該組換え微生物は、好塩性の宿主微生物に改変を行ったものであるため、微生物により生成したカルボン酸塩が培地中に蓄積し、塩濃度が上昇した場合でも、塩の蓄積に伴う生産性の低下を回避することができる。また、宿主微生物が本来有するグルコース代謝経路を利用した、新規なカルボン酸生合成経路を提供することができる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
本実施例に示す全てのPCRは、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品名、タカラバイオ製)、RNA抽出はQuiagen(製品名、Quiagen製)、RNAの逆転写はPrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser(製品名、タカラバイオ製)、定量PCRはTB Green Premix Ex Taq(製品名、タカラバイオ製)を用いて実施した。
【0071】
バチルス・シュードフィラマス(Bacillus pseudofirmus)の形質転換には、エレクトロポレーション法を用いた。エレクトロポレーション法では、1μlのプラスミドDNAを60μlのコンピテントセルと共に入れた幅0.1cmのキュベットをgene pulsar(Bio-Rad製)に装着して、電圧2.5kV・抵抗200Ω・キャパシタンス25μFのパルスをキュベットに負荷した。30℃にて3時間復帰培養した後、クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地に塗布し、形質転換体を取得した。181培地組成を表1に示す。
【0072】
【0073】
実施例1:好塩性カルボン酸生産菌の構築
(実施例1-a)染色体挿入プラスミドの作製
バチルス・シュードフィラマスOF4株(JCM17055株、本株は文部科学省ナショナルリソースプロジェクトを介して、理研BRCから提供された)を181培地中(2ml)で37℃にて振盪培養した。培養終了後、培養液から菌体を回収し、Nucleo Spin Tissue(製品名、MACHEREY-NAGEL社製)を使用してゲノムDNAを抽出した。AおよびBを付したプライマーセット(
図5)により、プロモーター領域を含む相同性領域をPCR増幅した(断片1)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。
【0074】
プラスミドpE197CTPK(NITE BP-03287として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2020年9月16日付けで国際寄託されている。)を、CおよびDを付したプライマーセット(
図5)によりPCR増幅した(断片2)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。断片2をベクター側とし、インサートとして断片1をライゲーションし、pAKAD01~03を構築した。
【0075】
(実施例1-b)カルボン酸合成遺伝子のクローニング
配列番号17~19記載の配列の遺伝子を、遺伝子合成した(
図4)。合成遺伝子を鋳型に、EおよびFを付したプライマーセット(
図5)にてPCR増幅した(断片3)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。上記の染色体挿入プラスミドを鋳型に、GおよびHを付したプライマーセット(
図5)にてPCR増幅した(断片4)。断片4をベクター側とし、インサートとして断片3をライゲーションし、pAKAD04~06を構築した。すなわち、人工遺伝子合成で作製した配列番号17~19をベクタープラスミド(pAKAD01~03)にそれぞれ組み込むことにより、プラスミドpAKAD04~06を構築した。
【0076】
(実施例1-c)形質転換体の取得
実施例1-bで構築したpAKAD04をバチルス・シュードフィラマスOF4株に形質転換し、AKADp-101株を取得した。
【0077】
(実施例1-d)プラスミド挿入株の取得
実施例1-cで取得したAKADp-101株を30℃にてクロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地で1日間培養した後、100倍希釈してクロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地に塗布し、43℃にて培養し、プラスミドが染色体に相同組み換えされた染色体挿入株AKADp-201株を取得した。
【0078】
(実施例1-e)遺伝子挿入株の取得(1)
実施例1-dで取得したAKADp-201株を30℃にてクロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地で1日間培養した後、100倍希釈して4-クロロフェニルアラニン5mMを含む181培地に塗布し、30℃にて培養し、染色体からプラスミドとそれぞれの遺伝子領域が除去され、外部遺伝子が挿入された遺伝子挿入株AKAD-001株を取得した。プラスミドの除去および遺伝子の挿入はIおよびKを付したプライマーセット(
図5)を用いたPCRにより確認した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。
【0079】
(実施例1-f)遺伝子挿入株の習得(2)
実施例1-bで構築したpAKAD05と実施例1-eで取得したAKAD-001株を用いて、実施例1-c~実施例1-eと同様の操作を行い、外部遺伝子が挿入された遺伝子挿入株AKAD-002株を取得した。
【0080】
(実施例1-g)遺伝子挿入株の習得(3)
実施例1-bで構築したpAKAD06と実施例1-fで取得したAKAD-002株を用いて、実施例1-c~実施例1-eと同様の操作を行い、外部遺伝子が挿入された遺伝子挿入株AKAD-003株を取得した。
【0081】
取得した遺伝子挿入株の遺伝子型を表2に記載する。使用した各プライマーの塩基配列を配列番号20~89として
図5に示す。
【0082】
【0083】
実施例2:構築した菌株におけるカルボン酸生産能の評価(ファーメンター培養)
AKAD-001~003株を、181培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。181培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0084】
100mL容のジャー培養装置(機種名:Bio Jr.8、バイオット社製)に40g/Lグルコースを含むBSジャー培地(表4に示す)を入れ、1mLの前培養液を添加し本培養を行った(カダベリン生産試験)。培養条件は、培養温度:37℃、培養pH:7.5、アルカリ添加:10%アンモニア水、攪拌速度:750rpm、通気速度:0.1vvmとした。培養中に経時的にサンプリングを行い、培養液中の菌体濁度および培養上清中のカルボン酸濃度を定量した。培養開始24時間および48時間後に50%グルコース溶液を8ml添加した。
【0085】
上記の培養液を、10,000g×3分間遠心分離して上清を回収し、培養上清のカルボン酸濃度を測定した。分析は、トリメチルシリル誘導体化を用いたGC/MS分析によって行った。培養液遠心上清40μL(内部標準としてセバシン酸二ナトリウムを終濃度10mMとなるように添加)に水:メタノール:クロロホルム=5:2:2(v/v/v)となるように混合された抽出液を360μL添加し、ボルテックスミキサーでよく攪拌した。遠心分離(16,000×g、5分)後、上清40μLを別のマイクロチューブに採取し、遠心エバポレータで1時間遠心乾固した。得られた乾固物にメトキシアミン塩酸塩20mg/mLピリジン溶液100μLを添加し、30℃で90分振盪した。N-メチル-N-トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド50μLを添加し、37℃で30分振盪した。反応溶液をGC/MS測定試料とし、下記の条件で分析を行った。
【0086】
GC/MS分析条件
装置:GCMS-QP-2020NX(島津製作所製)
カラム:フューズドシリカキャピラリーチューブ 不活性処理チューブ(長さ1m、外径0.35mm、内径0.25mm、GLサイエンス社製)、InertCap 5MS/NP(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、GLサイエンス社製)
試料注入量:1μL
試料導入法:スプリット(スプリット比25:1)
気化室温度:230℃
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス線速度:39.0cm/秒
オーブン温度:80℃、2分保持→15℃/分昇温→325℃、13分保持
イオン化法:電子イオン化法(EI)
イオン化エネルギー:70eV
イオン源温度:230℃
スキャン範囲:m/z=50~500
【0087】
【0088】
41時間および67.5時間後の菌体密度(OD)、C6ジカルボン酸およびレブリン酸濃度(g/l)を表4に示す(レブリン酸は3-オキソアジピン酸の分解物)。AKAD-001の培養上清からは、レブリン酸およびC6ジカルボン酸は検出されなかった。一方、AKAD-002の培養上清からはレブリン酸および3-ヒドロキシアジピン酸が検出され、AKAD-003の培養上清からはレブリン酸、3-ヒドロキシアジピン酸およびアジピン酸が検出された。
【0089】
【0090】
実施例3:カルボン酸生産経路の強化
(実施例3-a)遺伝子発現プラスミドの作製
バチルス・シュードフィラマスOF4株を181培地中(2ml)で37℃にて振盪培養した。培養終了後、培養液から菌体を回収し、Nucleo Spin Tissue(製品名、MACHEREY-NAGEL社製)を使用してゲノムDNAを抽出した。AおよびBを付したプライマーセットにより、プロモーター領域を含む相同性領域をPCR増幅した(断片5)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。
【0091】
プラスミドpAL351(NITE BP-02918として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2019年3月18日付けで国際寄託されている。)を、CおよびDを付したプライマーセットによりPCR増幅した(断片6)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。断片6をベクター側とし、インサートとして断片5をライゲーションし、pAKAD07を構築した。
【0092】
(実施例3-b)エノイルCoAデヒドロゲナーゼのクローニング
配列番号90~98記載の配列の遺伝子(計9つ)を遺伝子合成した(
図6)。前述した合成遺伝子と(実施例1-b)で合成した遺伝子(配列番号18)を鋳型に、EおよびFを付したプライマーセットにてPCR増幅した(断片7)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。上記の遺伝子発現プラスミドを鋳型に、GおよびHを付したプライマーセット(
図5)にてPCR増幅した(断片8)。断片8をベクター側とし、インサートとして断片7をライゲーションし、pAKAD08~16を構築した。
【0093】
(実施例3-c)形質転換体の取得
実施例2-bで構築したpAKAD08~16をAKAD-003株に形質転換し、AKADp-301~309株を取得した。
【0094】
(実施例3-d)取得した菌株におけるC6ジカルボン酸生産能の評価
AKADp-301~309株を、クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0095】
100mL容のジャー培養装置(機種名:Bio Jr.8、バイオット社製)に40g/Lグルコースを含むBSジャー培地(表5に示す)を入れ、1mLの前培養液を添加し本培養を行った(カダベリン生産試験)。培養条件は、培養温度:37℃、培養pH:7.5、アルカリ添加:10%アンモニア水、攪拌速度:750rpm、通気速度:0.1vvmとした。培養中に経時的にサンプリングを行い、培養液中の菌体濁度および培養上清中のカルボン酸濃度を定量した。培養開始24時間および48時間後に50%グルコース溶液を8ml添加した。
【0096】
上記の培養液を、10,000g×3分間遠心分離して上清を回収し、培養上清のC6ジカルボン酸およびレブリン酸の濃度を測定した。具体的には、GC-MS分析を行うことで、培養上清中のカルボン酸濃度を定量した。
【0097】
【0098】
41時間後、48時間後および67.5時間後の菌体密度(OD)、C6ジカルボン酸およびレブリン酸濃度(g/l)を表6に示す(レブリン酸は3-オキソアジピン酸の分解物)。AKADp-301~309株のすべての培養上清からは、150mg/L以上のアジピン酸が検出された。実施例2において、プラスミドを形質転換していないAKAD-003の培養上清では、アジピン酸が6mg/L検出されており、形質転換体ではアジピン酸の分泌量が顕著に向上している。また、実施例に2におけるAKAD-003の培養上清ではアジピン酸よりもレブリン酸濃度が高いが、すべての形質転換体ではレブリン酸よりもアジピン酸の濃度が高かった。
【0099】
【0100】
実施例4:C6化合物への耐性
大腸菌K12株をLB培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。LB培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0101】
バチルス・シュードフィラマスOF4株を、181培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。181培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0102】
2mL容のディープウェルに、アジピン酸2ナトリウム(ADA2Na)の濃度を0、20、40、60、80および100g/Lで調整したBS培地(表7に示す)を添加した。大腸菌もしくはバチルス・シュードフィラマスOF4株を50μLの前培養液を添加し本培養を行った。培養条件は37℃で、180rpmとした。43時間後にサンプリングを行い、培養液中の菌体濁度を定量した。
【0103】
【0104】
ADA2Na濃度を0g/Lに調整した条件の生育を100とし、各濃度における生育比率を算出した(表8)。大腸菌はADA2Na20g/Lで生育比が半減するのに対し、バチルス・シュードフィラマスOF4株はADA2Na100g/Lの条件でも生育比は変化しなかった。
【0105】
【0106】
実施例5:高発現プロモーターの選定
実施例1-c~実施例1-eと同様の操作を行い、上流に下記の4種類の塩基配列を付与したpaaJ-paaH遺伝子カセットをバチルス・シュードフィラマスOF4株の染色体に挿入した。挿入した4種類の塩基配列はそれぞれgapA遺伝子、sod遺伝子、ald遺伝子、slpA遺伝子の上流に存在するプロモーター配列であり、それぞれの株をAKAD-004~007株と命名した。各株と、使用したプロモーターとの対応関係を下記表(表9)に示し、プロモーターの配列を
図9に示す。なお、挿入した4種類の塩基配列は、バチルス・シュードフィラマスOF4株のトランスクリプトーム解析によって得られた配列から選択した。具体的には、バチルス・シュードフィラマスOF4株をBS培地で培養した時のRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行い、検出された数千個の遺伝子の中から、遺伝子の発現量の比較等に基づき、上記4種類のプロモーター配列を選択して用いた。
【0107】
AKAD-004~007株を181培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。181培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0108】
14mL容の試験管に、BS培地を2ml添加した。前培養したAKAD-004~007株を50μLの前培養液を添加し本培養を行った。培養条件は37℃で、180rpmとした。6時間後に全量回収し、RNA抽出を行った。抽出したRNAを逆転写した後に、定量PCRを行い、PpaaJ遺伝子とpaaH遺伝子の発現量を測定した(
図7)。定量PCRに
図8のプライマーリストを使用し、反応条件は95℃(30sec),{95℃(5sec),60℃(30sec)}×40cycle、Melt curveとした。
【0109】
【0110】
paaJ遺伝子、paaH遺伝子ともに、プロモーターにP_slpAを用いた場合、遺伝子発現量が最も高かった。P_gapAおよびP_slpAをそれぞれ用いた際のPpaaJ遺伝子およびPpaaH遺伝子の発現量は約100倍以上異なっており、バチルス・シュードフィラマスOF4株にいてP_slpAが強力な高発現プロモーターであることを明らかにした。
【0111】
実施例6:コドン最適化
(実施例6-a)ddh遺伝子発現プラスミドの作製
配列番号107および108記載の遺伝子を遺伝子合成した。配列番号107はCorynebacteria glutamicum ATCC13032株のddh遺伝子であり、配列番号108はバチルス・シュードフィラマスOF4株のコドン使用頻度を基に配列番号107をコドン最適化した塩基配列である。具体的には表10に示すように、使用頻度が低いコドンを使用頻度が高いコドンに変更した。
【0112】
前述した合成遺伝子をAおよびB付した表13のプライマーセットにてPCR増幅した(断片9)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。実施例3-aで作製したpAKAD07を鋳型に、CおよびDを付した表13のプライマーセットにてPCR増幅した(断片10)。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(60sec),30cycleとした。断片9をベクター側とし、インサートとして断片10をライゲーションし、pAKAD17~18を構築した。
【0113】
(実施例6-b)ddh遺伝子発現プラスミドの作製
構築したpAKAD17~18をバチルス・シュードフィラマスOF4株株に形質転換し、AKADp-401~402株を取得した。使用したプライマーの配列を
図12に示す。
【0114】
(実施例6-c)Ddh活性の比較
AKADp-401~402株を、クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地プレート上で、37℃、1日間培養して、コロニーを形成させた。クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地2mLを14mL容の試験管に入れ、上記プレートからコロニーを白金耳で植菌し、37℃で、180rpmで培養を行い、十分な濁度を得るまで培養し、これを本培養のための前培養液とした。
【0115】
14mL容の試験管に、クロラムフェニコール10μg/mLを含む181培地を2ml添加した。前培養したAKADp-401~402株を50μLの前培養液を添加し本培養を行った。培養条件は37℃で、180rpmとした。6時間後に遠心分離にて菌体を回収し、氷上での超音波処理にて菌体を破砕した。菌体破砕液を表11に示す組成にて、37℃で1時間インキュベーションし、マルチリーダーInfinite200にてOD340nmの波長を経時的に測定した。菌体破砕液中のタンパク質濃度をバイオ・ラッドプロテインアッセイキット(製品名、バイオラッド)で測定した。
【0116】
コドン最適化の有無でDdh活性を比較した結果、コドン最適化を施していない塩基配列(配列番号107(
図11))を保有するAKAD-401株ではほとんど活性が確認できなかった(
図7)。一方、コドン最適化を施した塩基配列(配列番号108(
図11))を保有するAKAD-402株では高い活性が確認できた(
図10)。
【0117】
【0118】