(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092582
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/10 20060101AFI20240701BHJP
B63B 1/14 20060101ALI20240701BHJP
B63B 39/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B63B1/10 Z
B63B1/14
B63B39/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208624
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 直裕
(72)【発明者】
【氏名】福川 智哉
(72)【発明者】
【氏名】木村 行彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 宣雄
(57)【要約】
【課題】摩擦力センサを用いることなく、デッキの少なくとも一部を目標高さ位置に保つことができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶は、ハルと、油圧シリンダと、ハルと油圧シリンダを介して連結されるデッキと、油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する油圧ポンプと、油圧シリンダがデッキを支持する支持力を算出する支持力算出部と、支持力に基づいて油圧ポンプを制御して、回路を流れる作動油の流量を調整する流量制御部と、を備える。流量制御部は、油圧シリンダの支持力が、油圧シリンダが支持する重量として予め設定された基準重量に近づくように、流量を調整する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハルと、
油圧シリンダと、
前記ハルと前記油圧シリンダを介して連結されるデッキと、
前記油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する油圧ポンプと、
前記油圧シリンダが前記デッキを支持する支持力を算出する支持力算出部と、
前記支持力に基づいて前記油圧ポンプを制御して、前記回路を流れる作動油の流量を調整する流量制御部と、を備え、
前記流量制御部は、前記油圧シリンダの前記支持力が、前記油圧シリンダが支持する重量として予め設定された基準重量に近づくように、前記流量を調整する、船舶。
【請求項2】
前記流量制御部は、前記油圧シリンダの前記支持力と前記基準重量との偏差が閾値以上である場合に、前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記油圧ポンプを制御する、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記流量制御部は、前記支持力が前記基準重量以上である場合には、前記油圧ポンプを制御して、前記油圧シリンダから前記作動油を排出させる一方、前記支持力が前記基準重量未満である場合には、前記油圧ポンプを制御して、前記油圧シリンダに前記作動油を供給させる、請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記油圧シリンダを複数備え、
前記基準重量は、前記デッキの重量を、前記油圧シリンダの総数で割った値である、請求項1に記載の船舶。
【請求項5】
前記ハルを複数備え、
前記複数の油圧シリンダは、前記複数のハルの前部に連結される前側油圧シリンダを含み、
前記油圧ポンプは、前記前側油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する前側油圧ポンプを含み、
前記流量制御部は、少なくとも、前記前側油圧シリンダの前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記前側油圧ポンプを制御する、請求項4に記載の船舶。
【請求項6】
前記複数の油圧シリンダは、前記複数のハルの後部に連結される後側油圧シリンダを含み、
前記油圧ポンプは、前記後側油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する後側油圧ポンプを含み、
前記流量制御部は、前記後側油圧シリンダの前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記後側油圧ポンプを制御する、請求項5に記載の船舶。
【請求項7】
前記回路に設けられ、前記油圧シリンダに付与される外力に応じて変化する圧力を検出する圧力検出部をさらに備え、
前記支持力算出部は、前記圧力に基づいて、前記支持力を算出する、請求項1から6のいずれかに記載の船舶。
【請求項8】
前記支持力算出部は、前記圧力検出部によって検出される前記圧力と、前記油圧シリンダのシリンダ面積と、に基づいて、前記支持力を算出する、請求項7に記載の船舶。
【請求項9】
前記デッキの高さ位置を検出する高さ検出装置をさらに備え、
前記流量制御部は、前記高さ検出装置によって検出された前記デッキの高さ位置と、前記油圧シリンダの長さと、に基づいて、前記ハルの高さ位置を推定するとともに、前記ハルの高さ位置が上下方向に周期的に変動するときの上下方向の変動中心を認識し、前記変動中心に所定値を上乗せした位置を目標高さ位置として決定し、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づくように、前記油圧ポンプを制御して、前記回路を流れる作動油の流量を調整する、請求項1に記載の船舶。
【請求項10】
前記所定値は、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの中央に相当する値である、請求項9に記載の船舶。
【請求項11】
前記流量制御部は、前記高さ検出装置によって検出された前記デッキの高さ位置が、前記目標高さ位置に対して、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの範囲内にあるとき、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づき、かつ、前記デッキが水平姿勢に近づくように、前記油圧ポンプを制御する一方、前記デッキの高さ位置が、前記目標高さ位置に対して、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの範囲を超えるとき、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づくように、前記油圧ポンプを制御する、請求項9または10に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶として、トリマラン(三胴船)、カタマラン(双胴船)などの多胴船が種々提案されている。例えば特許文献1では、少なくとも2つの船殻(ハルに相当)と、2つの船殻の上方に位置するシャシー部(デッキに相当)と、シャシー部に対して2つの船殻を移動させることが可能なサスペンションシステムと、摩擦力センサと、上記サスペンションシステムを制御する制御システムと、を含む船舶(多胴船)が開示されている。上記摩擦力センサは、オブジェクト(例えばパイロン)とシャシー部との間の摩擦力を示す信号を出力する。上記制御システムは、上記摩擦力の入力に応じて、上記摩擦力を減少させるために、シャシー部と少なくとも2つの船殻との間の支持力を調節する。これにより、オブジェクトとシャシー部との間の相対運動を最小にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2015/085352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1では、オブジェクトとシャシー部との間の相対運動を最小にして、シャシー部の少なくとも一部(例えば船首)を目標高さ位置に保つにあたって、摩擦力センサ(摩擦力入力)が必要であり、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、摩擦力センサを用いることなく、デッキの少なくとも一部(例えば船首)を目標高さ位置に保つことができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る船舶は、ハルと、油圧シリンダと、前記ハルと前記油圧シリンダを介して連結されるデッキと、前記油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する油圧ポンプと、前記油圧シリンダが前記デッキを支持する支持力を算出する支持力算出部と、前記支持力に基づいて前記油圧ポンプを制御して、前記回路を流れる作動油の流量を調整する流量制御部と、を備え、前記流量制御部は、前記油圧シリンダの前記支持力が、前記油圧シリンダが支持する重量として予め設定された基準重量に近づくように、前記流量を調整する。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、摩擦力センサを用いることなく、デッキの少なくとも一部を目標高さ位置に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る船舶としての多胴船を前方から見たときの正面図である。
【
図2】上記多胴船を右前上方から見たときの斜視図である。
【
図3】上記多胴船を右側から見たときの側面図である。
【
図4】上記多胴船の右前側に位置する支持機構を拡大して示す側面図である。
【
図5】上記支持機構の油圧シリンダが伸長した状態を示す側面図である。
【
図6】洋上の構造物の土台部に設けられたポールに、上記多胴船のデッキの船首を接触させたときに生じる各力を示す説明図である。
【
図7】上記多胴船が備える油圧回路の構成を模式的に示す説明図である。
【
図8】上記多胴船が備える制御装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図9】上記多胴船における船首保持制御による動作の流れを示すフローチャートである。
【
図10】上記船首保持制御による効果の一例を示す説明図である。
【
図11】上記船首保持制御による効果の他の例を示す説明図である。
【
図12】上記多胴船のハルと、上記デッキと、上記デッキの基準高さ位置との関係を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本明細書では、方向を以下のように定義する。まず、船舶としての多胴船の船尾から船首に向かう方向を「前」とし、船首から船尾に向かう方向を「後」とする。そして、前後方向に垂直な横方向を左右方向とする。このとき、多胴船の前進時に操船者から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。なお、上下移動のことを昇降とも言う。図面では、適宜、前方向をFで示し、後方向をBで示し、左方向をLで示し、右方向をRで示し、上方向をUで示し、下方向をDで示す。
【0010】
本実施形態の多胴船は、例えばCTV(Crew Transfer Vessel)と呼ばれる作業員輸送船として利用可能である。CTVは、陸上と洋上(海上)の構造物との間で、作業員、装置、部品等の輸送を行うための船である。例えば、洋上風力発電に用いられる洋上風車のメンテナンスを行うとき、上記の構造物としては、洋上風車の土台部を考えることができる。本実施形態の多胴船は、上記のCTVに限定されるわけではなく、例えば旅客船としても利用可能である。
【0011】
〔1.多胴船の構成〕
図1は、本実施形態の多胴船1を前方から見たときの正面図である。
図2は、多胴船1を右前上方から見たときの斜視図である。多胴船1は、複数のハル2と、デッキ3と、支持機構4と、主船体5と、を備える。多胴船1に搭乗した作業員は、デッキ3から主船体5の内部の部屋に乗り込むことができる。支持機構4を備えた多胴船1は、サスペンションボートとも呼ばれる。
【0012】
なお、
図1および
図2では、説明の便宜上、左右の支持機構4により、左側のハル2を下降させ(左側のハル2に対してデッキ3を相対的に上昇させ)、右側のハル2を上昇させた(右側のハル2に対してデッキ3を相対的に下降させた)場合を示している。このような支持機構4によるデッキ3の昇降は、例えば多胴船1の右旋回のときに行われる。
【0013】
(1-1.ハル)
ハル2は、前後方向に長尺状のフロート(船殻)であり、主船体5の左右両側に1つずつ位置する。なお、ハル2の数は2個に限定されるわけではなく、3つ以上であってもよい。つまり、主船体5の左側および右側にそれぞれ2個以上のハル2が位置していてもよい。
【0014】
図3は、多胴船1を右側から見たときの側面図である。なお、
図3では、便宜的に、左側のハル2の図示を省略している。また、
図3以降の図面では、便宜的に、デッキ3の柵3aの図示も省略している。ハル2の内部には、エンジンEが配置されている。エンジンEの駆動により、図示しないタービンが回り、海中に水流が噴射される。これにより、多胴船1が走行する。
【0015】
ハル2は、吸排気口2aを有する。吸排気口2aは、突出部21の上部に位置する。突出部21は、ハル2の後端部から上方に突出して位置する。エンジンEへの空気の供給およびエンジンEからの排気は、エンジンEよりも後方に位置する吸排気口2aを介して行われる。
【0016】
ハル2の内部には、エンジンEの他、油圧ポンプHPも配置されている。油圧ポンプHPには、後述する油圧ホース46aおよび46b(
図4、
図5参照)が接続される。
【0017】
(1-2.デッキ)
図1~
図3に示すデッキ3は、複数のハル2および主船体5の上方に位置する甲板である。デッキ3は、複数のハル2のそれぞれと、支持機構4の後述する油圧シリンダ41を介して連結される。主船体5は、デッキ3の下方に位置してデッキ3と連結される。
【0018】
デッキ3は、
図1に示すように、上板部31と、骨組構造部32と、を有する。骨組構造部32は、格子状に形成され、上板部31の骨組みを構成する。骨組構造部32の上方は、上板部31で覆われる。一方、骨組構造部32は、下方に露出している。これにより、デッキ3の軽量化、ひいては多胴船1の軽量化が図られている。
【0019】
デッキ3の左右方向の両端には、柵3a(
図1、
図2参照)が前後方向にわたって設けられている。柵3aは、デッキ3からの作業員の転落防止の目的で設けられている。
【0020】
デッキ3上には、操縦室3cが設けられる。操縦室3cの内部前方には、操縦部3c1(
図3参照)が設けられる。操縦部3c1は、デッキ3のほぼ中央に位置する。操船者は、操縦部3c1において、レバー、ハンドル、各種スイッチなどを操作することにより、多胴船1の操縦を行う。
【0021】
(1-3.支持機構)
図1~
図3に示す支持機構4は、複数のハル2に対してデッキ3を支持するとともに、複数のハル2のそれぞれを、デッキ3に対して相対的に昇降させる機構である。本実施形態では、支持機構4は、左右のハル2のそれぞれに対応して2つずつ設けられる。より詳しくは、支持機構4は、右側のハル2の前側上部および後側上部に1つずつ設けられ、左側のハル2の前側上部および後側上部に1つずつ設けられる。各支持機構4は、油圧シリンダ41を有する。
【0022】
図4は、右前側に位置する支持機構4を拡大して示す側面図である。油圧シリンダ41は、油圧により移動するピストンロッド412等を含んで構成され、一方向に伸縮する伸縮部材である。油圧シリンダ41の伸縮方向における一端部41aは、ハル2の上面2Sに連結される。なお、ハル2の上面2Sとは、ここでは、ハル2から突出部21を(
図2、
図3参照)取り除いたときのハル2の上面を指す。上面2Sは、ほぼ平坦な面である。一方、油圧シリンダ41の伸縮方向における他端部41bは、デッキ3の下面に直接支持される。
【0023】
上記の油圧シリンダ41は、4つの支持機構4のそれぞれに設けられる。すなわち、本実施形態の多胴船1は、複数の油圧シリンダ41を備える。
【0024】
なお、本実施形態の多胴船1は、図示しないリンク機構を有する。リンク機構は、左右のハル2のそれぞれに対応して設けられ、ハル2とデッキ3とを連結する。各リンク機構は、各油圧シリンダ41の伸縮に伴って、デッキ3がハル2に対して前方または後方に倒れることを防止する目的で設けられる。
【0025】
〔2.支持機構の詳細〕
次に、上記した支持機構4の詳細について説明する。ここでは、便宜的に、
図4で示す、右前側に位置する支持機構4の詳細について説明するが、右後側、左前側、左後側に位置する支持機構4についても、基本的な構成は同じであるため、その説明を省略する。
【0026】
支持機構4の油圧シリンダ41は、シリンダチューブ411と、ピストンロッド412と、を有する。シリンダチューブ411は、ピストンロッド412を収容する円筒状のカバーである。シリンダチューブ411の後端部(下端部)は、ハル2の上面2Sに第1ブラケット44を介して回動可能に連結される。ピストンロッド412は、シリンダチューブ411に対して油圧により移動する。ピストンロッド412の先端部(上端部)は、デッキ3の下面に第2ブラケット45を介して回動可能に連結され、支持される。ピストンロッド412の後端部(下端部)は、シリンダチューブ411内に位置する。
【0027】
また、支持機構4は、2本の油圧ホース46aおよび46bを有する。油圧ホース46aの一端部は、シリンダチューブ411の上端部に接続され、他端部はハル2内の油圧ポンプHP(
図3参照)に接続される。一方、油圧ホース46bの一端部は、シリンダチューブ411の下端部に接続され、他端部はハル2内の油圧ポンプHPに接続される。
【0028】
油圧ポンプHPからシリンダチューブ411への油圧の供給を制御することにより、シリンダチューブ411に対してピストンロッド412を出し入れすることができる。つまり、油圧シリンダ41をピストンロッド412の軸方向に伸縮させることができる。より詳しくは、以下の通りである。なお、シリンダチューブ411への油圧の供給制御(油圧ポンプHPの制御)は、後述する流量制御部72(
図8参照)によって行われる。
【0029】
図5は、油圧シリンダ41が伸長した状態を示す側面図である。例えば、油圧ポンプHPから油圧ホース46bを介してシリンダチューブ411の下部に作動油を供給する一方、油圧ホース46aを介してシリンダチューブ411の上部から作動油を排出させることにより、
図5に示すように、シリンダチューブ411からピストンロッド412を押し出す、つまり、油圧シリンダ41を伸長させることができる。
【0030】
逆に、油圧ポンプHPから油圧ホース46aを介してシリンダチューブ411の上部に作動油を供給する一方、油圧ホース46bを介してシリンダチューブ411の下部から作動油を排出させることにより、
図4に示すように、シリンダチューブ411内にピストンロッド412を引き込む、つまり、油圧シリンダ41を収縮させることができる。
【0031】
このように、各油圧ポンプHPが各油圧シリンダ41を伸縮させることにより、ハル2に対するデッキ3の相対的な距離(高さ位置)を調整することができる。例えば、各油圧シリンダ41を収縮させることにより、デッキ3を下げる、つまり、デッキ3をハル2に近づけることができる。逆に、各油圧シリンダ41を伸長させることにより、デッキ3を上げる、つまり、デッキ3をハル2から遠ざけることができる。したがって、桟橋または洋上の構造物と、多胴船1との間で作業員が乗降するとき、各油圧シリンダ41への油圧の供給を、流量制御部72によって適切に制御して、各油圧シリンダ41の伸縮を適切に制御することにより、デッキ3の高さ位置を桟橋等の位置に合わせて、作業員のスムーズかつ安全な乗降を実現することができる。
【0032】
また、多胴船1が右旋回して走行するとき、
図1に示すように、右側のハル2と連結される前後2つの油圧シリンダ41を収縮させ、左側のハル2と連結される前後2つの油圧シリンダ41を伸長させることにより、デッキ3の右側よりも左側を上げて、多胴船1の左側へのロールによる転覆をしにくくすることができる。逆に、左側のハル2と連結される前後2つの油圧シリンダ41を伸長させ、右側のハル2と連結される前後2つの油圧シリンダ41を収縮させることにより、デッキ3の左側よりも右側を上げて、多胴船1の右側へのロールによる転覆をしにくくすることができる。
【0033】
〔3.船首保持制御について〕
本実施形態では、洋上風車の土台部にデッキ3の先端部(以下、船首とも言う)を接触させ、デッキ3と土台部との間で乗船員が乗り降りする場面において、摩擦力センサを用いることなく、土台部とデッキ3との相対運動が最小となる船首保持制御を行う。
【0034】
(3-1.船首保持制御の原理)
まず、本実施形態の船首保持制御の原理について説明する。
図6は、土台部に設けられたポールPOにデッキ3の船首を接触させたときに生じる各力を示している。図中、黒丸部は、デッキ3におけるポールPOとの接触部である。なお、
図6では、便宜的に、上記接触部をポールPOから離して図示している。Wdはデッキ3の重量(N)を示し、Whはハル2の重量(N)を示す。Sは、油圧シリンダ41からデッキ3とハル2とに作用する力(N)を示す。Bはハル2に働く浮力(N)を示し、Tはハル2に働く推力(N)を示す。VはポールPOからデッキ3に作用する垂直抗力(N)を示し、Fは摩擦力(N)を示す。WSは水面である。なお、同図では、デッキ3がZ方向に運動し、摩擦力は-Z方向に作用すると仮定する。Z方向の正方向は、上下方向の下方とする。
【0035】
デッキ3について、Z方向の運動方程式を立てると、以下の(1)式となる。
Md×a=Wd-S-F ・・・(1)
ここで、Mdはデッキ3の質量を示し(kg)、aはデッキ3の加速度(m/s2)を示す。油圧シリンダ41の弾性力(上記のSに相当)がデッキ3の重量Wdに等しいとき、以下の(2)式が成立する。
Md×a=-F ・・・(2)
【0036】
摩擦力は減衰力として働くため、加速度aはゼロに収束する。つまり、デッキ3は静止し、ポールPOとデッキ3との相対運動が最小となる。このとき、デッキ3の支持部の点数、すなわち、油圧シリンダ41の数をn(個)とすると、1個の油圧シリンダ41がデッキ3を支持する支持力は、Wd/n(支持重量相当)になる。つまり、各油圧シリンダ41の支持力がWd/nに近づくように、油圧ポンプHPを制御して、各油圧シリンダ41に供給される油圧(作動油の流量)を調整することにより、摩擦力センサを用いることなく、ポールPOとデッキ3との相対運動を最小にすることができる。
【0037】
(3-2.油圧回路について)
本実施形態の多胴船1は、上記の船首保持制御を実現するため、
図7に示す油圧回路を含んで構成される。
図7は、本実施形態の多胴船1において、右側のハル2の内部に設けられる油圧ポンプHPを含む油圧回路の構成を模式的に示している。なお、左側のハル2の内部に設けられる油圧ポンプHPを含む油圧回路の構成は、右側の油圧回路と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0038】
なお、
図7において、「FR」は右前部を示し、「RR」は右後部を示す。また、破線の矢印は出力信号を示す。また、ハル2に連結される2つの油圧シリンダ41のうち、ハル2の前部に連結される油圧シリンダ41を、前側油圧シリンダ41Fとして示し、ハル2の後部に連結される油圧シリンダ41を、後側油圧シリンダ41Rとして示す。
【0039】
ハル2の内部には、右前部および右後部に位置する各油圧シリンダ41に対応して、2つの油圧ポンプHPが設けられている。各油圧ポンプHPは、可変容量型ポンプであり、それぞれエンジンEから伝達される動力によって駆動される。各油圧ポンプHPはそれぞれ、上述の油圧ホース46aおよび46bを介して油圧シリンダ41と接続され、作動油が流れる閉回路を構成する。すなわち、多胴船1は、油圧シリンダ41と接続されて閉回路を構成する油圧ポンプHPを備える。なお、
図7において、2つの油圧ポンプHPのうち、前側油圧シリンダ41Fに作動油を供給する油圧ポンプHPを、前側油圧ポンプHP1として示し、後側油圧シリンダ41Rに作動油を供給する油圧ポンプHPを、後側油圧ポンプHP2として示す。
【0040】
上記閉回路には、圧力検出部61が設けられている。圧力検出部61は、油圧シリンダ41に伸縮方向の外力が付与されたときに、その外力に応じて変化する圧力を検出する。すなわち、多胴船1は、閉回路に設けられる上記の圧力検出部61を備える。圧力検出部61は、例えば圧力センサで構成される。上記閉回路には、作動油を蓄積するアキュムレータ(図示せず)が設けられており、圧力検出部61は、上記アキュムレータに蓄積される作動油の圧力(油圧)を検出する。圧力検出部61で検出された圧力(アキュムレータ圧力)の検出信号は、制御装置70に出力される。
【0041】
図8は、制御装置70の概略の構成を示すブロック図である。制御装置70は、例えばCPU(Central Processing Unit)と呼ばれる中央演算処理装置で構成され、多胴船1の各部の動作を制御する。特に、制御装置70は、支持力算出部71および流量制御部72の機能を備える。すなわち、多胴船1は、支持力算出部71と、流量制御部72と、を備える。
【0042】
支持力算出部71は、圧力検出部61によって検出された圧力に基づいて、油圧シリンダ41がデッキ3を支持する支持力を算出する。流量制御部72は、支持力算出部71によって算出された支持力に基づいて油圧ポンプHPを制御して、閉回路を流れる作動油の流量を調整する。
【0043】
また、本実施形態の多胴船1は、高さ検出装置80を備える。高さ検出装置80は、デッキ3の高さ位置を検出する。このような高さ検出装置80は、例えば加速度センサを含む慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)で構成される。加速度センサによって検出される上下方向の加速度を2階積分することにより、高さを求めることができる。高さ検出装置80は、デッキ3の四隅(右前部、右後部、左前部、左後部)に設けられる。流量制御部72は、各高さ検出位置80で検出されたデッキ3の高さ位置をもとに、デッキ3の船首をポールPOに接触させる際の目標高さ位置H0(
図10参照)を設定することができるが、その詳細については後述する。
【0044】
(3-3.船首保持制御による動作)
図9は、本実施形態の船首保持制御による動作の流れを示すフローチャートである。以下、上記動作について説明する。
【0045】
まず、はじめに、油圧シリンダ41がデッキ3を支持する基準重量Wref(N)を予め設定しておく(S1)。この基準重量Wrefは、デッキ3の重量Wd(N)を、油圧シリンダ41の総数n(個)で割った値である。本実施形態では、油圧シリンダ41の総数は4つ(右側のハル2に対して前後2つ、左側のハル2に対して前後2つの計4つ)であるため、Wref=Wd/n=Wd/4となる。
【0046】
洋上の構造物(例えば洋上風車の土台部に設けられたポール)にデッキ3の船首を接触させて停船を保つ場合において、水面のうねりによる上昇により、ハル2が上昇してデッキ3に近づこうとすると、油圧シリンダ41は収縮方向の外力を受ける。この場合、圧力検出部61によって検出される圧力(アキュムレータ圧力)は増加する。逆に、水面の下降により、ハル2が下降してデッキ3から遠ざかろうとすると、油圧シリンダ41は伸長方向の外力を受ける。この場合、圧力検出部61によって検出されるアキュムレータ圧力は減少する。いずれにしても、圧力検出部61で検出されたアキュムレータ圧力は、制御装置70に入力される(S2)。本実施形態では、4つの油圧シリンダ41に対応して設けられる4つの圧力検出部61から、制御装置70に対してアキュムレータ圧力が入力される。
【0047】
すると、制御装置70の支持力算出部71は、各油圧シリンダ41に対応する圧力検出部61で検出された圧力に基づいて、油圧シリンダ41がデッキ3を支持する支持力Sを算出する(S3)。具体的には、圧力検出部61で検出されたアキュムレータ圧力をP(MPa)とし、油圧シリンダ41のシリンダ面積(シリンダチューブ411の底面積)をCs(cm2)とし、油圧シリンダ41の支持力をS(N)としたとき、支持力算出部71は、以下の(3)式より、支持力Sを算出する。
S=P×Cs×10-2 ・・・(3)
【0048】
なお、S3では、支持力算出部71は、4つの油圧シリンダ41のうち、少なくとも左右の前側に位置する2つの前側油圧シリンダ41Fに対応する圧力検出部61で検出された圧力に基づいて、それぞれの前側油圧シリンダ41Fがデッキ3を支持する支持力S(支持力SFとも称する)を算出すればよい。したがって、S3では、支持力算出部71は、4つの油圧シリンダ41のうち、左右の後側に位置する2つの後側油圧シリンダ41Rに対応する圧力検出部61で検出された圧力に基づいて、それぞれの後側油圧シリンダ41Rがデッキ3を支持する支持力S(支持力SRとも称する)を算出することは必ずしも必要でない。ただし、後述するデッキ3の位置制御(姿勢制御)を併せて行う点では、S3では、支持力SFに加えて、支持力SRを算出しておくことが望ましい。以下では、支持力Sは、上記した支持力SFと支持力SRとの両方を含むとする。
【0049】
流量制御部72は、S3で算出された支持力Sと、S1で設定された基準重量Wrefとの偏差D(N)を算出する(S4)。すなわち、偏差Dは、支持力Sと基準重量Wrefとの差の絶対値である。そして、流量制御部72は、S4で算出した偏差Dが閾値Dth以上であるか否かを判断する(S5)。S5にて、偏差Dが閾値Dth未満である場合(S5にてNo)、流量制御部72は、以下に示す作動油の流量補正制御(流量操作)を行わず、待機する。すなわち、偏差Dが、0≦D<Dthを満足する範囲では、流量操作は行われない。このため、上記範囲を、流量操作が行われない「不感帯」と呼ぶこともできる。
【0050】
一方、S5にて、偏差Dが閾値Dth以上である場合(S5にてYes)、流量制御部72は、以下に示す作動油の流量補正制御を行う。すなわち、流量制御部72は、偏差Dがゼロに近づくように(究極的には偏差Dがゼロになるように)、閉回路を流れる作動油の流量の調整する(S6~S8)。
【0051】
具体的には、流量制御部72は、偏差Dがゼロとなるような閉回路の圧力補正量に相当する作動油の流量補正量を決定する。なお、上記の流量補正量とは、1秒間に流れる作動油の流量の補正量(mL/s)である。上記圧力補正量と流量補正量との関係は、油圧シリンダ41の伸縮特性(弾性特性、ばね定数)に応じて予め求められる。
【0052】
そして、流量制御部72は、決定した流量補正量で作動油が閉回路を流れるように、油圧ポンプHPを制御する(作動油の流量操作を行う)。
【0053】
例えば、油圧シリンダ41の支持力Sが基準重量Wref以上である場合(S6にてYes)、流量制御部72は、油圧ポンプHPを制御して、油圧シリンダ41(シリンダチューブ411の上端部)から作動油を排出させる流量操作を行い、作動油の単位時間あたりの流量を上記流量補正量に減少させる(S7)。一方、油圧シリンダ41の支持力Sが基準重量Wref未満である場合(S6にてNo)、流量制御部72は、油圧ポンプHPを制御して、油圧シリンダ41(シリンダチューブ411の上端部)に作動油を供給するような流量操作を行い、作動油の単位時間あたりの流量を上記流量補正量に増加させる(S8)。いずれにしても、油圧ポンプHPが吐出する作動油の流量を上記のように制御することにより、支持力Sを基準重量Wrefに近づけることができ、究極的には、基準重量Wrefに一致させることができる。
【0054】
なお、例えば水面のうねりが大きく、ハル2の前端部が水面に着水していない状態では、ハル2にデッキ3を支持する踏ん張りがきいていない。このため、油圧ポンプHPの制御によって油圧シリンダ41への作動油の供給量を増大させても、油圧シリンダ41によるデッキ3の支持力Sはすぐには増大せず、ハル2が水面に着水してから(ハル2に踏ん張りがきくようになってから)、支持力Sが増大し始める。このため、S8では、作動油の流量補正量についてフィードバック制御を行って、時間経過に伴って流量補正量(油圧ポンプHPによる作動油の吐出量)を調整することが望ましい。
【0055】
〔4.効果〕
以上のように、本実施形態では、流量制御部72は、油圧シリンダ41の支持力Sが、油圧シリンダ41が支持する重量として予め設定された基準重量Wrefに近づくように、(油圧ポンプHPを制御して)閉回路を流れる作動油の流量を調整する(S4~S8)。
【0056】
上記のように、水面のうねりによってハル2がデッキ3に近づき、圧力検出部61によって検出される圧力が増加すると、流量制御部72は、油圧シリンダ41から作動油が排出されるように油圧ポンプHPを制御する(S7)。これにより、上記圧力の増加を、油圧シリンダ41からの作動油の排出によって吸収することができる。逆に、圧力検出部61によって検出される圧力が減少した場合には、流量制御部72は、油圧シリンダ41に作動油が供給されるように油圧ポンプHPを制御する(S8)。これにより、上記圧力の減少を、作動油の供給によって補うことができる。
【0057】
したがって、
図10に示すように、デッキ3の特定部分(例えば船首)をポールPOに接触させた状態において、水面WSのうねりによりハル2が上下動し、これによって油圧シリンダ41が伸縮方向の外力を受けた場合でも、デッキ3の少なくとも上記特定部分の上下動を抑えることができる。その結果、上記特定部分を上下方向の目標高さ位置H0に留まらせることができる。よって、従来のような、構造物と船舶との相対運動を最小にすべく、構造物に対する摩擦力を検出する摩擦力センサは不要となる。つまり、摩擦力センサを必要とせずに、ハル2の上下動に伴うデッキ3の船首の上下動を抑えることができる。また、摩擦力センサは不要であるため、デッキ3とポールPOとの間で摩擦力を発生させるために、デッキ3をポールPOに押し付ける押付力も不要である。つまり、本実施形態の制御によれば、上記押付力に頼らずに、デッキ3の特定部分(船首)をポールPOに固定することができる。
【0058】
また、摩擦力センサは不要であるため、デッキ3をポールPOに接触させなくても、本実施形態で述べた上記制御を行うことができる。したがって、例えば、
図11に示すように、多胴船1をポールPOに近づける接近段階(航走中)においても、本実施形態の制御を適用することができる。その結果、多胴船1のデッキ3を、ポールPOに対して目標高さ位置H0で接触させることが容易となる。
【0059】
ここで、例えば、多胴船1に搭載した資材の増減、乗船員の乗り降り等による重量の増減は、載貨重量の範囲内での増減である。なお、載貨重量とは、満載喫水線の限度まで貨物を積載したときの全重量から船舶自体の重量を差し引いたトン数(重量)である。載貨重量の範囲内での重量の増減は、予め想定される範囲内であり、誤差(不感帯)として許容することが望ましい。この点では、流量制御部72は、本実施形態のように、油圧シリンダ41の支持力Sと基準重量Wrefとの偏差Dが閾値Dth以上である場合に、支持力Sが基準重量Wrefに近づくように、油圧ポンプHPを制御することが望ましい(S5~S8)。
【0060】
また、水面WSのうねりによるハル2の上下動により、油圧シリンダ41に伸縮方向の外力が加わった場合でも、その外力の影響をキャンセルして、デッキの少なくとも特定部分(例えば船首部分)の上下動を確実に抑える観点では、流量制御部72は、以下の制御を行うことが望ましい。すなわち、流量制御部72は、支持力Sが基準重量Wref以上である場合には、油圧ポンプHPを制御して、油圧シリンダ41から作動油を排出させる一方、支持力Sが基準重量Wref未満である場合には、油圧ポンプHPを制御して、油圧シリンダ41に作動油を供給させる(S6~S8)。
【0061】
また、上記した基準重量Wrefの設定を容易にする観点では、基準重量Wrefは、デッキ3の重量Wdを油圧シリンダ41の総数nで割った値であることが望ましい。
【0062】
また、
図10(特に中央の図および右側の図参照)および
図11で示したように、デッキ3の少なくとも船首を上下方向の目標高さ位置H0に留まらせる、つまり、デッキ3の船首高さを一定にキープすると、デッキ3の船首を構造物(例えばポールPO)に接触させて、デッキ3と構造物との間で乗船員が乗り降りするときに、その乗り降りがしやすくなる。また、デッキ3の船首高さを一定にキープすると、デッキ3を構造物に近づけるときに、デッキ3の船首を構造物に対して目標高さ位置H0で接触させることが容易となる。さらに、デッキ3の船首高さを一定にキープすると、デッキ3の船首を目標高さ位置H0に合わせつつ、船尾を(目標高さ位置H0よりも)若干下げて、航走をスムーズにすることが可能となる。このような観点では、複数の油圧シリンダ41が、複数のハル2の前部に連結される前側油圧シリンダ41Fを含み(
図7参照)、油圧ポンプHPが前側油圧シリンダ41Fと接続されて閉回路を構成する前側油圧ポンプHP1を含む構成において(
図7参照)、流量制御部72は、以下の制御を行うことが望ましい。すなわち、流量制御部72は、少なくとも前側油圧シリンダ41Fの支持力SFが基準重量Wrefに近づくように、前側油圧ポンプHP1を制御する(S3~S8)。
【0063】
また、水面WSにうねりがあり、ハル2が上下動する場合に、デッキ3と構造物との接触状態において、乗船員の乗り降りをさらにしやすくし、デッキ3を構造物に近づける際に、デッキ3の船首を構造物に対して目標高さ位置H0で接触させることをさらに容易にする観点では、デッキ3を水平に保つ、または水平に近づけることが望ましい。そのためには、後側油圧ポンプHP2に対しても、前側油圧ポンプHP1と同様に流量操作を行うことが望ましい。つまり、複数の油圧シリンダ41が複数のハル2の後部に連結される後側油圧シリンダ41Rを含み(
図7参照)、油圧ポンプHPが後側油圧シリンダ41Rと接続されて閉回路を構成する後側油圧ポンプHP2を含む構成において(
図7参照)、流量制御部72は、後側油圧シリンダ41Rの支持力SRが基準重量Wrefに近づくように、後側油圧ポンプHP2を制御することが望ましい(S3~S8)。
【0064】
また、各油圧シリンダ41がデッキ3を支持する支持力Sを確実にかつ容易に求める観点では、支持力算出部71は、上記した(3)式により、支持力Sを算出することが望ましい(S3)。つまり、支持力算出部71は、圧力検出部61によって検出される圧力と、油圧シリンダ41のシリンダ面積と、に基づいて、支持力Sを算出することが望ましい。
【0065】
〔5.目標高さ位置の設定について〕
ところで、上記の目標高さ位置H0は、以下のようにして決定することができる。
図12は、基準高さ位置Hrefに対する目標高さ位置H0と、ハル2と、デッキ3との位置関係を模式的に示す説明図である。まず、流量制御部72は、水面のうねりによるハル2の上下動の変動の中心となる基準高さ位置Hrefを求める。
【0066】
ここで、ハル2の高さ位置は、水面のうねりによって周期的に変動するが、高さ検出装置80によって検出されるデッキ3の高さ位置から、油圧シリンダ41の上下方向の長さを差し引くことにより推定することができる。なお、油圧シリンダ41の上下方向の長さは、監視によって検出される油圧シリンダ41の伸縮方向のストローク長と、油圧シリンダ41のハル2(またはデッキ3)に対する傾斜角とに基づいて演算により求めることができる。
【0067】
したがって、流量制御部72は、デッキ3の高さ位置と油圧シリンダ41の上下方向の長さとに基づいて、上下方向に周期的に変動するハル2の高さの最小値(最低位置)および最大値(最高位置)を求めることができる。流量制御部72は、上記最小値と上記最大値との平均をハル2の振動振幅の中心として認識し、この中心位置を基準高さ位置Hrefとして求める。
【0068】
基準高さ位置Hrefを求めると、流量制御部72は、基準高さ位置Hrefに所定値Hdを足し合わせた位置を、目標高さ位置H0として決定する。
【0069】
高さ位置検出装置80として、IMUなどの一般的に容易に入手可能な装置を用いて、本実施形態の船首保持制御を行う、つまり、目標高さ位置H0を求めるにあたり、例えば海抜0mからの絶対的な高さを検出可能な特殊なセンサを用いることなく、船首保持制御を行う観点では、流量制御部72は、以下の制御を行うことが望ましい。すなわち、流量制御部72は、高さ検出装置80によって検出されたデッキ3の高さ位置と、油圧シリンダ41の長さと、に基づいて、ハル2の高さ位置を推定するとともに、ハル2の高さ位置が上下方向に周期的に変動するときの上下方向の変動中心(基準高さ位置Href)を認識し、上記変動中心に所定値Hdを上乗せした位置を目標高さ位置H0として決定する。そして、流量制御部72は、上述のように、デッキ3の船首が目標高さ位置H0に近づくように、油圧ポンプHPを制御して、閉回路を流れる作動油の流量を調整する。
【0070】
また、水面のうねりによるハル2の上下方向の変動に対して、デッキ3の船首を目標高さ位置H0に近づけるにあたって、上記の所定値Hdは、以下の観点で、油圧シリンダ41の伸縮ストロークの中央に相当する値であることが望ましい。ここで、上記観点は、目標高さ位置H0に対して油圧シリンダ41を収縮させる方向または伸長させる方向のどちらにも、同程度の最大調整幅を確保し、その最大調整幅の範囲内で、油圧シリンダ41を伸縮または伸長させて、デッキ3の船首を目標高さ位置H0に近づける点である。
【0071】
なお、デッキ3の船首を目標高さ位置H0に近づける位置制御は、油圧シリンダ41の支持力Sを調整する上述の力制御と合わせて行われてもよいし、独立して行われてもよい。流量制御部72が位置制御と力制御とを合わせて行う場合、位置制御に要する作動油の流量補正値と、力制御に要する作動油の流量補正値とは、合算される。
【0072】
ところで、デッキ3の高さ位置が、目標高さ位置H0に対して油圧シリンダ41の伸縮ストロークの範囲内にある場合、各油圧シリンダ41の伸縮によってデッキ3を水平に近づけることが可能である。したがって、この場合、各油圧シリンダ41の伸縮によって、デッキ3の船首高さ位置のキープと、デッキ3の水平姿勢のキープとを同時に行ってもよい。つまり、流量制御部72は、高さ検出装置80によって検出されたデッキ3の高さ位置が、目標高さ位置H0に対して、油圧シリンダ41の伸縮ストロークの範囲内にあるとき、デッキ3の船首が目標高さ位置H0に近づき、かつ、デッキ3が水平姿勢に近づくように、油圧ポンプHPを制御してもよい。
【0073】
一方、デッキ3の高さ位置が、目標高さ位置H0に対して油圧シリンダ41の伸縮ストロークの範囲を超える場合、各油圧シリンダ41の伸縮のみで、デッキ3を水平に近づけることが困難である。したがって、この場合、デッキ3の船首が目標高さ位置H0に近づくように、油圧ポンプHPを制御して、最低限、デッキ3の船首高さ位置をキープすることが望ましい。つまり、流量制御部72は、デッキ3の高さ位置が、目標高さ位置H0に対して、油圧シリンダ41の伸縮ストロークの範囲を超えるとき、デッキ3の船首が目標高さ位置H0に近づくように、油圧ポンプHPを制御してもよい。
【0074】
〔6.その他〕
本実施形態のように、左右のハル2および主船体5の上方にデッキ3が位置する多胴船1は、トリマラン(三胴船)とも呼ばれる。トリマランの構造では、デッキ3を広く確保することができるため、作業に必要な機器および部品等をデッキ3上に多く載せて目的地まで輸送することができる。また、作業員は、上述のように、デッキ3の下方の主船体5に乗り込むことができる。したがって、トリマランは、作業員および機器等の輸送を効率よく行うことができる点で非常に有用である。
【0075】
しかし、本実施形態の多胴船1は、トリマランに限定されず、カタマラン(双胴船)などの他の多胴船であってもよい。例えば、カタマランは、
図1等で示した多胴船1から主船体5を省くことによって構成される。多胴船1がカタマランであっても、本実施形態と同様の油圧ポンプHPの制御によるデッキの船首保持制御および位置制御は可能であり、これによって、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
本実施形態で述べた船首保持制御は、ハル2を1つのみ有する船舶にも勿論適用可能である。つまり、1つのハル2の上方にデッキ3が位置し、支持機構4がハル2に対してデッキ3を支持する船舶にも、本実施形態の船首保持制御を適用することは可能である。
【0077】
〔7.付記〕
本実施形態で説明した船舶は、以下の付記に示す船舶と表現することもできる。
【0078】
付記(1)の船舶は、
ハルと、
油圧シリンダと、
前記ハルと前記油圧シリンダを介して連結されるデッキと、
前記油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する油圧ポンプと、
前記油圧シリンダが前記デッキを支持する支持力を算出する支持力算出部と、
前記支持力に基づいて前記油圧ポンプを制御して、前記(閉)回路を流れる作動油の流量を調整する流量制御部と、を備え、
前記流量制御部は、前記油圧シリンダの前記支持力が、前記油圧シリンダが支持する重量として予め設定された基準重量に近づくように、前記流量を調整する。
【0079】
付記(2)の船舶は、付記(1)に記載の船舶において、
前記流量制御部は、前記油圧シリンダの前記支持力と前記基準重量との偏差(の絶対値)が閾値以上である場合に、前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記油圧ポンプを制御する。
【0080】
付記(3)の船舶は、付記(2)に記載の船舶において、
前記流量制御部は、前記支持力が前記基準重量以上である場合には、前記油圧ポンプを制御して、前記油圧シリンダから前記作動油を排出させる一方、前記支持力が前記基準重量未満である場合には、前記油圧ポンプを制御して、前記油圧シリンダに前記作動油を供給させる。
【0081】
付記(4)の船舶は、付記(1)から(3)のいずれかに記載の船舶において、
前記油圧シリンダを複数備え、
前記基準重量は、前記デッキの重量を、前記油圧シリンダの総数で割った値である。
【0082】
付記(5)の船舶は、付記(4)に記載の船舶において、
前記ハルを複数備え、
前記複数の油圧シリンダは、前記複数のハルの前部に連結される前側油圧シリンダを含み、
前記油圧ポンプは、前記前側油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する前側油圧ポンプを含み、
前記流量制御部は、少なくとも、前記前側油圧シリンダの前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記前側油圧ポンプを制御する。
【0083】
付記(6)の船舶は、付記(5)に記載の船舶において、
前記複数の油圧シリンダは、前記複数のハルの後部に連結される後側油圧シリンダを含み、
前記油圧ポンプは、前記後側油圧シリンダと接続されて閉回路を構成する後側油圧ポンプを含み、
前記流量制御部は、前記後側油圧シリンダの前記支持力が前記基準重量に近づくように、前記後側油圧ポンプを制御する。
【0084】
付記(7)の船舶は、付記(1)から(6)のいずれかに記載の船舶において、
前記(閉)回路に設けられ、前記油圧シリンダに付与される外力に応じて変化する圧力を検出する圧力検出部をさらに備え、
前記支持力算出部は、前記圧力に基づいて、前記支持力を算出する。
【0085】
付記(8)の船舶は、付記(7)に記載の船舶において、
前記支持力算出部は、前記圧力検出部によって検出される前記圧力と、前記油圧シリンダのシリンダ面積と、に基づいて、前記支持力を算出する。
【0086】
付記(9)の船舶は、付記(1)から(8)のいずれかに記載の船舶において、
前記デッキの高さ位置を検出する高さ検出装置をさらに備え、
前記流量制御部は、前記高さ検出装置によって検出された前記デッキの高さ位置と、前記油圧シリンダの長さと、に基づいて、前記ハルの高さ位置を推定するとともに、前記ハルの高さ位置が上下方向に周期的に変動するときの上下方向の変動中心を認識し、前記変動中心に所定値を上乗せした位置を目標高さ位置として決定し、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づくように、前記油圧ポンプを制御して、前記(閉)回路を流れる作動油の流量を調整する。
【0087】
付記(10)の船舶は、付記(9)に記載の船舶において、
前記所定値は、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの中央に相当する値である。
【0088】
付記(11)の船舶は、付記(9)または(10)に記載の船舶において、
前記流量制御部は、前記高さ検出装置によって検出された前記デッキの高さ位置が、前記目標高さ位置に対して、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの範囲内にあるとき、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づき、かつ、前記デッキが水平姿勢に近づくように、前記油圧ポンプを制御する一方、前記デッキの高さ位置が、前記目標高さ位置に対して、前記油圧シリンダの伸縮ストロークの範囲を超えるとき、前記デッキの船首が前記目標高さ位置に近づくように、前記油圧ポンプを制御する。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えばトリマラン、カタマランなどの多胴船に利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 多胴船
2 ハル
3 デッキ
41 油圧シリンダ
41F 前側油圧シリンダ
41R 後側油圧シリンダ
61 圧力検出部
71 支持力算出部
72 流量制御部
80 高さ検出装置
HP 油圧ポンプ
HP1 前側油圧ポンプ
HP2 後側油圧ポンプ