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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092587
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/14 20060101AFI20240701BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
F16H55/14
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208631
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA12
3J027GB03
3J027GC02
3J030AA05
3J030BA01
3J030BB02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的の一つは、ギヤの噛み合い騒音をより低減可能な減速装置を提供することにある。
【解決手段】減速装置100は、第1ギヤ3の周方向周りに複数配置され、第1ギヤ3と噛み合う複数の第2ギヤ4と、第2ギヤ4の回転を減速して出力する減速機構11と、を有する減速装置であって、第2ギヤ4は、第1ギヤ3と噛み合うギヤ部41と、ギヤ部41の径方向内側に配置される基部40と、を有し、基部40とギヤ部41との間に、ギヤ部41よりも変形容易な弾性体構造5を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤの周方向周りに複数配置され、前記第1ギヤと噛み合う複数の第2ギヤと、
前記第2ギヤの回転を減速して出力する減速機構と、を有する減速装置であって、
前記第2ギヤは、前記第1ギヤと噛み合うギヤ部と、前記ギヤ部の径方向内側に配置される基部と、を有し、
前記基部と前記ギヤ部との間に、前記ギヤ部よりも変形容易な弾性体構造を有する減速装置。
【請求項2】
前記第2ギヤの回転軸同士は、周方向位相が180度ではない、請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記弾性体構造は、板状の弾性体を有する、請求項1に記載の減速装置。
【請求項4】
前記ギヤ部と前記弾性体構造は、第1接続点および第2接続点において互いに接続されており、前記第2接続点は、前記第1接続点と前記第2ギヤの中心軸とを通る直線に垂直な線を挟んで前記第1接続点と反対側に位置する、請求項1に記載の減速装置。
【請求項5】
前記第1接続点および前記第2接続点は、周方向に重なる、請求項4に記載の減速装置。
【請求項6】
前記基部と前記弾性体構造は、第1接続点および第2接続点において互いに接続されており、前記第2接続点は、前記第1接続点と前記第2ギヤの中心軸とを通る直線に垂直な線を挟んで前記第1接続点と反対側に位置する、請求項1に記載の減速装置。
【請求項7】
前記第1接続点および前記第2接続点は、周方向で前記基部と前記弾性体構造の接続部から90°ずれた位置にある、請求項5に記載の減速装置。
【請求項8】
前記弾性体構造は、前記ギヤ部の側部に配置され、
前記弾性体構造は、前記第2ギヤの中心軸と径方向に重なる、請求項5に記載の減速装置。
【請求項9】
前記基部は、長軸部と前記長軸部より長さが短い短軸部を有し、前記長軸部で前記弾性体に固定され、前記短軸部の径方向外側で前記ギヤ部が前記弾性体に固定される、請求項3に記載の減速装置。
【請求項10】
前記基部と前記ギヤ部は、隙間を空けて配置され、前記弾性体構造に連結されることにより、当該隙間が維持されている、請求項1に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータ等の駆動源から入力された回転を減速して駆動対象の相手装置に出力する減速機が知られている。例えば、特許文献1には、第1ギヤと第2ギヤと減速機構とを備える減速機が記載されている。この減速機では、減速機構は、第1ギヤの第1回転軸の周りでの回転を減速して出力する。第2ギヤは、第1ギヤと噛み合っており、駆動源から入力される回転によって第2回転軸の周りで回転する。この第2ギヤは、減速機構に揺動可能に設けられ、第1ギヤから受ける力により揺動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-14860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機では、入力ギヤが減速機のスパーギヤに対して平行になるように揺動可能に支持される。しかし、入力ギヤが揺動して1個のスパーギヤに平行になったとき、2~3個ある他のスパーギヤ全てに対しては平行にならない場合がある。これにより入力ギヤの噛み合い騒音が低減されない問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、ギヤの噛み合い騒音をより低減可能な減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の減速装置は、第1ギヤの周方向周りに複数配置され、第1ギヤと噛み合う複数の第2ギヤと、第2ギヤの回転を減速して出力する減速機構と、を有する減速装置であって、第2ギヤは、第1ギヤと噛み合うギヤ部と、ギヤ部の径方向内側に配置される基部と、を有する。基部とギヤ部との間に、ギヤ部よりも変形容易な弾性体構造を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ギヤの噛み合い騒音をより低減可能な減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る減速装置の一例を示す断面図である。
図2図1の減速装置の噛合機構を示す斜視図である。
図3図2の噛合機構を示す正面図と断面図である。
図4図2の第2ギヤの基部を示す正面図と断面図である。
図5図2の第2ギヤのギヤ部を示す正面図と断面図である。
図6図2の第2ギヤの弾性体構造を示す正面図と断面図である。
図7】弾性体の別例を備えた噛合機構の第2ギヤを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る減速装置100の構成を説明する。図1は、減速装置100を示す側面断面図である。減速装置100は、騒音を低減可能なギヤの噛合機構10と、第2ギヤ4の回転を減速して出力する減速機構11とを備える。噛合機構10は、第1ギヤ3と、第1ギヤ3の周方向周りに複数配置され、第1ギヤ3と噛み合う複数の第2ギヤ4とを有し、第2ギヤ4は、第1ギヤ3と噛み合うギヤ部41と、ギヤ部41の径方向内側に配置される基部40と、弾性体構造5と、を有し、弾性体構造5は、基部40とギヤ部41との間に配置され、ギヤ部41よりも変形容易に構成される。第1ギヤ3は、駆動源(不図示)からの回転が入力される入力ギヤである。減速機構11は、第2ギヤ4と一体に回転するクランク軸12を有する。噛合機構10については、後に詳述する。
【0013】
減速機構11の構成を説明する。減速機構11の構成に限定はないが、実施形態の減速機構11は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型である。この減速機構11は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動装置に出力するように構成される。
【0014】
減速機構11は、第2ギヤ4と、クランク軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26とを主に備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」という。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。この例では、クランク軸12の回転軸線Lbは、中心軸線Laと平行に延び、第2ギヤ4の中心軸と略一致している。符号Lbは、第2ギヤ4の中心軸を示すことがある。
【0015】
第2ギヤ4は、内歯歯車16の中心軸線La周りに3つ配設される。3つの第2ギヤ4は、中心軸線Laからオフセットされた位置に120°の等間隔に配置される。図1では一つの第2ギヤ4のみを示す。クランク軸12は、3つの第2ギヤ4に対応して3つ設けられる。クランク軸12は、第2ギヤ4の中央部に挿通され、第2ギヤ4を支持する。クランク軸12の軸方向両側には、一対のクランク軸軸受23が設けられる。クランク軸12は、第2ギヤ4と一体的に回転可能に設けられる。3つの第2ギヤ4は、中心軸線La上に設けられる回転軸30に支持された第1ギヤ3と噛み合う。第1ギヤ3には、回転軸30を介して不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、回転軸30の回転により第2ギヤ4がクランク軸12と一体的に回転する。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0016】
クランク軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する偏心体軸である。偏心部12aの軸芯は、クランク軸12の回転中心線に対して偏心している。実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0017】
クランク軸12は、その入力側がクランク軸軸受23を介して第2キャリヤ20に支持され、その反入力側がクランク軸軸受23を介して第1キャリヤ18に支持される。反入力側のクランク軸軸受23は、第1キャリヤ18のクランク軸孔18hに嵌入・支持され、入力側のクランク軸軸受23は、第2キャリヤ20のクランク軸孔20hに嵌入・支持される。つまり、クランク軸12は、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20に対して回転自在に支持されている。クランク軸軸受23は、その構成に特別の制限はないが、この例では、円筒状の転動体を有するころ軸受けである。
【0018】
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22に一体化された内歯歯車本体16aと、当該内歯歯車本体16aに周方向に間隔を空けて複数形成された各ピン溝に配置された外ピン17と、を有している。外ピン17は、内歯歯車本体16aに回転自在に支持される円筒状のピン部材である。外ピン17は、中空部材であってもよいが、実施形態では中実部材である。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成している。内歯歯車16の外ピン17の数(内歯の数)は、外歯歯車14の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0019】
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心ころ21を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に3つのシャフト孔14pと、3つの揺動孔14jと、が所定の間隔で形成されている。
【0020】
シャフト孔14pは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。シャフト孔14pは、軸方向に貫通しており、シャフト部18sが挿通される。シャフト孔14pは、シャフト部18sの外径より大きく形成され、シャフト部18sに接触しない大きさを有する。
【0021】
揺動孔14jは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。揺動孔14jは、軸方向に貫通しており、クランク軸12の偏心部12aが挿通される。揺動孔14jは、偏心部12aの外径より大きく形成され、揺動孔14jと偏心部12aとの間には複数の偏心ころ21が介在する。複数の偏心ころ21は、偏心部12aの周りに略等間隔で配列され、偏心部12aの偏心運動を揺動孔14jに円滑に伝える。
【0022】
外歯歯車14には、軸方向に貫通する中央孔14hが設けられる。外歯歯車14の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車14が揺動できるようになっている。
【0023】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第2キャリヤ20とを含む。以下、第1キャリヤ18と、第2キャリヤ20とを総称する場合は「キャリヤ」という。キャリヤは、第1主軸受24、第2主軸受26を介してケーシング22に回転自在に支持されている。キャリヤは全体として中空の円盤状または円筒状をなしている。キャリヤは、クランク軸軸受23を介してクランク軸12を回転自在に支持する。
【0024】
第1キャリヤ18は、第1キャリヤ18の径方向中央に形成された中央孔18kを有する。第2キャリヤ20は、第2キャリヤ20の径方向中央に形成された中央孔20kを有する。第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とは、シャフト部18sを介して連結される。
【0025】
シャフト部18sは、第1キャリヤ18から第2キャリヤ20に向かって軸方向に延びる柱状の部分であり、第1キャリヤ18と一体的に形成される。シャフト部18sは、外歯歯車14(第1キャリヤ18)の軸芯から径方向にオフセットした位置に複数(実施形態では3本)設けられる。シャフト部18sは、外歯歯車14に貫通形成されたシャフト孔14pに隙間を有した状態で挿通される。
【0026】
シャフト部18sの端部は、第2キャリヤ20の反入力側の端面に接しており、連結ボルト36によって第2キャリヤ20に固定される。この構成により、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20は互いに連結される。
【0027】
ケーシング22は、全体として中空の筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。ケーシング22には、第1主軸受24の外輪を収容する凹部22mと、第2主軸受26の外輪を収容する凹部22nと、が設けられる。ケーシング22とキャリヤとは、第1主軸受24と第2主軸受26とを介して、互いに相対回転可能に構成される。
【0028】
主軸受24、26は、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される第1主軸受24と、第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される第2主軸受26とを含む。実施形態の主軸受24、26は、球体の転動体28を有する玉軸受である。主軸受24、26は、ころ軸受であってもよいし、クロスローラベアリングであってもよい。実施形態の主軸受24、26は、ケーシング22に固定された外輪27を備え、内輪は、キャリヤ18,20と一体である。
【0029】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は減速装置100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。例えば、第1キャリヤ18を出力部材とし、ケーシング22を被固定部材とする場合、第1キャリヤ18の中央孔18kに被駆動装置の回転軸30が連結されてもよい。
【0030】
以上のように構成された減速装置100の動作を説明する。駆動装置から回転軸30に回転動力が伝達されると、回転軸30複数の第2ギヤ4に回転動力が振り分けられ、各第2ギヤ4が同じ位相で回転する。各第2ギヤ4が回転すると、クランク軸12の偏心部12aがクランク軸12を通る回転軸線Lb周りに回転し、その偏心部12aにより偏心ころ21を介して外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車14の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。このとき、外歯歯車14の自転成分と第1キャリヤ18の自転成分が同期する。実施形態では、外歯歯車14が自転し、第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0031】
噛合機構10を説明する。図2は、噛合機構10を示す斜視図である。図3は、噛合機構10を示す正面図と、A-A線断面図と、B-B線断面図である。噛合機構10の説明では、クランク軸12の回転軸線Lbに沿った方向を、噛合機構10について「軸方向」といい、回転軸線Lbを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ噛合機構10について「周方向」、「径方向」という。
【0032】
特許文献1に記載の減速機では、入力ギヤが1個のスパーギヤと噛み合う構成において噛み合い音を低減する効果が考えられる。しかし、入力ギヤが2~3個のスパーギヤと噛み合う構成では、入力ギヤが揺動して1個のスパーギヤに平行になったとしても、他のスパーギヤとは平行にならない場合がある。この場合、平行でないスパーギヤとの噛み合い音は改善されず、騒音低減効果は限定的である。また、入力ギヤの振れ回りによる振動が発生する問題がある。
【0033】
そこで、発明者は、第1ギヤ3と、第1ギヤ3と噛み合う第2ギヤ4とを有する噛合機構10において、第2ギヤ4に噛み合い音を低減可能な騒音低減手段を設ける構成に着目した。噛合機構10では、第2ギヤ4は、第1ギヤ3と噛み合うギヤ部41と、ギヤ部41の径方向内側に配置される基部40とを有し、基部40とギヤ部41との間に、ギヤ部41よりも変形容易な弾性体構造5を有する。
【0034】
この構成により、第2ギヤ4は基部40とギヤ部41に分けられ、ギヤ部41は、弾性体構造5を介して基部40に接続される。この場合、弾性体構造5の曲剛性を調整することができ、曲剛性を小さくすることでギヤ部41が基部40に対して揺動させることができる。これにより、第2ギヤ4の軸心が第1ギヤ3の軸心に対して傾いても、ギヤ部41は、軸心の傾きに追従して揺動できる。第2ギヤ4の軸心が第1ギヤ3の軸心に対して一時的に傾いても、ギヤ部41の姿勢は、ギヤ部41の軸心が第1ギヤ3の軸心と平行になるように補正される。よって、第1ギヤ3とギヤ部41との噛み合いを均一に保て、これらの不均一な噛み合いに起因する噛み合い音を抑制できる。一方で、弾性体構造5の面方向の剛性を高くすることにより、第2ギヤ4が第1ギヤ3から外れにくくなる。
【0035】
実施形態では、噛合機構10は、1つの第1ギヤ3と、3つの第2ギヤ4とを有する。3つの第2ギヤ4は、中心軸線Laからオフセットされた位置に120°の等間隔に配置される。図1では一つの第2ギヤ4のみを示す。各第2ギヤ4に対応してクランク軸12が設けられる。第2ギヤ4は、第2ギヤ4の中央部にクランク軸12が挿通される。第2ギヤ4は、クランク軸12の入力側の端部に所望の強度を有する嵌合構造で固定される。第2ギヤ4は、クランク軸12の周溝に嵌められたワッシャW1、W2に挟まれ、ワッシャW1、W2よって軸方向位置が規制される。第2ギヤ4は、クランク軸12の回転軸線Lb周りに回転する。
【0036】
第1ギヤ3の構成に限定はないが、図1に示す第1ギヤ3は、第2ギヤ4の径方向内側に配置される平歯車である。例えば、第1ギヤ3は、第2ギヤ4の径方向外側に配置された内歯を有するリングギヤであってもよいし、他の形式のギヤであってもよい。第2ギヤ4の形式に限定はないが、図1に示す第2ギヤ4は、平歯車である。
【0037】
図4も参照して基部40を説明する。図4は、基部40を示す正面図と、C-C線断面図と、D-D線断面図である。一例として、基部40は、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼など、所望の強度を有する素材で形成できる。この例の基部40は、正面視で円弧状の短辺と略直線状の長辺とを有する略矩形状を有する。基部40は、中央に設けられる中央孔401と、中央孔401を挟んで配置される2つのタップ孔404、405とを有する。正面視で、タップ孔404、405の中心を通る直線は、中央孔401の長辺に平行で、中央孔401の中心を通る。中央孔401およびタップ孔404、405は、軸方向に貫通する。タップ孔404、405は、止まり孔であってもよい。中央孔401の周囲には、基部40の入力側から反入力側に向かって軸方向に凹む段状凹部402が設けられる。図3に示すように、段状凹部402は、ワッシャW1の一部または全部を収容できる。
【0038】
図5も参照してギヤ部41を説明する。図5は、第2ギヤ4のギヤ部を示す正面図と、E-E線断面図と、F-F線断面図である。一例として、ギヤ部41は、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼など、所望の強度を有する素材で形成できる。この例のギヤ部41は、正面視で円形で、外周部にギヤ歯418を有する。ギヤ部41は、中央に設けられる中央開口413と、中央開口413を挟んで配置される2つのタップ孔414、415とを有する。
【0039】
中央開口413は、基部40を収容可能な収容孔であり、ギヤ部41が基部40に対して揺動したとき、ギヤ部41が基部40に接触しない程度の大きさを有する。つまり、ギヤ部41は、隙間を介して基部40を収容できる。この例の中央開口413は、正面視で円弧状の短辺と略直線状の長辺とを有する略矩形状の長孔である。正面視で、タップ孔414、415の中心を通る直線は、中央開口413の長辺に直交し、中央開口413を長手方向に二等分する。ギヤ部41の軸方向厚さは、基部40の軸方向厚さと略等しく、基部40の段状凹部402の軸方向厚さより段差の分だけ大きい。タップ孔414、415は、止まり孔であってもよいが、この例では貫通している。
【0040】
図6も参照して弾性体構造5を説明する。図6は、第2ギヤ4の弾性体構造を示す正面図と、G-G線断面図である。弾性体構造5の構成に限定はないが、この例の弾性体構造5は、弾性体50を有する。一例として、弾性体50は、板状のばね用冷間圧延鋼帯、ばね用ステンレス鋼帯、炭素工具鋼等の金属素材または樹脂等の非金属素材で形成できる。この場合、板状部材の大きさで弾性力を調整できる。
【0041】
弾性体構造5は、ギヤ部41と基部40の間の隙間に充填される充填材を含んでもよい。例えば、弾性体50が、金属材料よりもヤング率が低い樹脂等の非金属素材等の素材で形成される場合に、充填材によって弾性体構造5の剛性を補うことができる。この充填材の素材、充填量、および充填範囲は、所望の弾性と剛性とを実現できる範囲で実験等によって設定できる。一例として、充填材は、ギヤ部41と基部40の径方向の隙間に充填されてもよい。弾性体構造5の充填材の素材に限定はないが、一例として、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトリルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0042】
弾性体50は、所望の弾性と強度とを達成できる形状に形成される。この例の弾性体50は、正面視で略正方形で軸方向に薄い平板形状を有する。弾性体50の4つの角部はR形状に面取される。弾性体50は、板ばね502で構成される。
【0043】
正面視で、弾性体50は、中央に設けられる円形の貫通孔51と、貫通孔51の中心から径方向にオフセットした位置に、周方向に間隔をあけて配置される4つの円形の接続孔52、53、54、55とを有する。接続孔52、53、54、55のうち接続孔52、53は、基部40のタップ孔404、405に対応する位置に配置され、接続孔54、55は、ギヤ部41のタップ孔414、415に対応する位置に配置される。接続孔52、53、54、55は貫通孔である。
【0044】
ギヤ部41と弾性体50の接続方法、および基部40と弾性体50の接続方法としては公知の様々な方法を採用できる。この接続方法としては、ねじやボルトを用いる方法、リベットを用いる方法、かしめを用いる方法、溶接を用いる方法、ろう付けを用いる方法、接着を用いる方法、これらを併用する方法などが挙げられる。この例では、ボルトを用いる方法が採用されている。
【0045】
基部40と弾性体50とは、周方向に略均等な位置で接続されることが望ましい。そこで、実施形態では、基部40と弾性体50は、第2ギヤ4の中心軸Lbを挟んで互いに反対の位置にある2か所で接続される。この場合、ギヤ部41や基部40が弾性体50を介して撓みやすくなる。また、互いに対称な位置で接続されるため、荷重がかかったときにバランスよく荷重を支えることができる。また、基部40と弾性体構造5は、第1接続点および第2接続点において互いに接続されており、第2接続点は、第1接続点と第2ギヤ4の中心軸Lbとを通る直線に垂直な線を挟んで第1接続点と反対側に位置してもよい。つまり、第1接続点と第2接続点とは、中心軸Lb周りに90°~270°の範囲で離れて配置されてもよい。この場合、第1接続点と第2接続点の配置の自由度が向上する。一例として、基部40と弾性体構造5の第1接続点、第2接続点に対応して後述する接続部46、47が設けられる。
【0046】
図3に示すように、弾性体50は、弾性体50の接続孔52、53を貫通させたボルトB4が基部40のタップ孔404、405にねじ込まれることにより基部40に接続される。接続孔52、タップ孔404、およびボルトB4は、接続部46を構成する。接続孔53、タップ孔405、およびボルトB4は、接続部47を構成する。実施形態では、弾性体50と基部40の間に、ワッシャW3が介在する。
【0047】
ギヤ部41と弾性体構造5は、第1接続点および第2接続点において互いに接続されており、第2接続点は、第1接続点と第2ギヤ4の中心軸Lbとを通る直線に垂直な線を挟んで第1接続点と反対側に位置してもよい。また、ギヤ部41と弾性体構造5の第1接続点および第2接続点は、周方向に重なるように設けられてもよい。また、ギヤ部41と弾性体構造5の第1接続点および第2接続点は、周方向で基部40と弾性体50の接続部46、47から90°ずれた位置に設けられてもよい。一例として、ギヤ部41と弾性体構造5の第1接続点、第2接続点に対応して後述する接続部48、49が設けられる。
【0048】
ギヤ部41と弾性体50とは、周方向に略均等な位置で接続されることが望ましい。そこで、実施形態では、ギヤ部41と弾性体50は、第2ギヤ4の中心軸Lbを挟んで互いに反対の位置にある2か所で接続される。互いに対象な位置で接続されるため、荷重がかかったときにバランスよく荷重を支えることができる。また、ギヤ部41や基部40が弾性体50を介して撓みやすくなる。
【0049】
弾性体50は、弾性体50の接続孔54、55を貫通させたボルトB4をギヤ部41のタップ孔414、415にねじ込みすることによりギヤ部41に接続される。接続孔54、タップ孔414、およびボルトB4は、接続部48を構成する。接続孔55、タップ孔415、およびボルトB4は、接続部49を構成する。実施形態では、弾性体50とギヤ部41の間に、ワッシャW3が介在する。
【0050】
一例として、ワッシャW1、W2、W3およびボルトB4は、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の素材で形成できる。基部40の接続部46、47と、ギヤ部41の接続部48、49とが、周方向に近接して配置される場合、基部40に対するギヤ部41の揺動が制限される。そこで、実施形態では、ギヤ部41と弾性体50の接続部48、49は、基部40と弾性体50の接続部46、47から90°ずれた位置にある。接続部46、47と、接続部48、49とが、90°ずれた位置にあるので、周方向のどの方向にも基部40と弾性体50の間またはギヤ部41と弾性体50の間のどちらかが撓みやすい状態になり、この結果、撓みにくい方向がないので、ギヤ部41が揺動しやすくなる。図3に示すように、接続部46、47、48、49を結ぶと四角形(正方形)を形成する。
【0051】
ギヤ部41と基部40とが径方向に重ならない構成では、一方が他方よりも軸方向に突出するので、減速装置100の軸方向の小型化に不利となる。そこで、実施形態では、図3に示すように、ギヤ部41は、基部40と径方向に重なっており、軸方向の小型化に有利である。弾性体50は、第2ギヤ4の中心軸Lbが通る貫通孔51を有し、基部40と径方向に重なっていない1枚の板ばね502を含む。なお、弾性体50は、基部40および中心軸Lbのどちらか一方が径方向に重なっていないものであればよく、これらの一方に重なっていてもよい。この場合、ボルトB4を用いた簡易な構成で、弾性体50を基部40に固定できる。弾性体50は、1枚の板ばねまたは複数枚の板ばねの組合せで、第2ギヤ4の中心軸Lb(クランク軸12の回転軸線Lb)が通る貫通孔を有するリング状または多角形状に構成できる。この場合、中心軸Lbが通る貫通孔の大きさで弾性体50の弾性を調整できる。図2の例では、弾性体50が1枚の板ばね502で構成されており、部品点数低減に有利である。
【0052】
一例として、弾性体50は、複数の板ばねを次の(1)~(3)のように組み合わせて構成できる。
(1)複数枚の同形状の板ばねを層状に重ねて弾性体50を構成する。この場合、重ねる枚数によって弾性を調整できる。
(2)複数の板ばねを多角形状に組み合わせて弾性体50を構成する。この場合、複数の板ばねの組合せの形態によって弾性を調整できる。例えば、基部40と弾性体50の接続部と、ギヤ部41と弾性体50との接続部とを周方向に連結して形成される四角形の各辺に配置された4枚の板ばねを組み合わせて弾性体50を構成できる。
(3)上記(1)と(2)を組み合わせて構成する。
【0053】
図7を参照して、弾性体50の別例を説明する。図7は、弾性体50の別例を備えた噛合機構10の第2ギヤ4を示す正面図であり、図3の正面図に対応する。重複する説明を省き相違点を重点的に説明する。図7の例では、弾性体50は、基部40と弾性体50の接続部46、47と、ギヤ部41と弾性体50との接続部48、49と、を周方向に連結して形成される正方形の各辺に配置された4枚の板ばね56で構成される。
【0054】
板ばね56は、長辺と短辺を有する略矩形の平板部材である。板ばね56は、短辺が円弧状であり、長辺が略直線状であり、長辺の中央にクランク軸12を逃げるための凹部58が形成される。板ばね56は、長手方向に離隔して配置される2つの円形の接続孔57を有する。
【0055】
4枚の板ばね56はそれぞれ四角形の各辺に配置される。この四角形の各頂点では、2枚の板ばね56の接続孔57が互いに軸方向に連通する。この例では、4枚の板ばね56は正方形に組合わされる。4枚の板ばね56は、軸方向に連通する接続孔57を貫通させたボルトB4が、基部40のタップ孔404、405およびギヤ部41のタップ孔414、415にねじ込まれることによりギヤ部41および基部40に接続される。
【0056】
複数の第2ギヤ4の周方向の配置を説明する。揺動運動の相互干渉を低減する観点で、2つの第2ギヤ4は、第1ギヤ3の中心を挟んで直線上に配置されないことが望ましい。ギヤ部41が基部40に対して揺動するとき、ギヤ部41は、第1ギヤ3に対してラジアル方向の偏荷重を与える。2つの第2ギヤ4が、中心軸Lbを挟んで径方向反対側に配置される構成では、一方の第2ギヤ4が第1ギヤ3に加えたラジアル荷重が、他方の第2ギヤ4に干渉し、他方の第2ギヤ4のギヤ部41の揺動運動が制限されることが考えられる。そこで、実施形態では、複数の第2ギヤ4は、第1ギヤ3と径方向反対側(径方向外側)では噛合わない。つまり、第2ギヤ4の回転軸同士は、周方向位相が180度ではない。この場合、複数のギヤ部41の揺動運動の相互干渉を小さくできる。
【0057】
実施形態の減速装置100のその他の特徴を説明する。ギヤ部41と弾性体50の接続部48、49および基部40と弾性体50の接続部46、47は、周方向に重なる。このように構成することにより、変形量に異方性が小さくなり、固定箇所を小さく収められる。また、弾性体50は、ギヤ部41の側部に配置され、弾性体50は、第2ギヤ4の中心軸と径方向に重なる。このように構成することにより、弾性体50周りを軸方向に小さく収められる。また、基部40は、長軸部と長軸部より長さが短い短軸部を有し、長軸部で弾性体50に固定され、短軸部の径方向外側でギヤ部41が弾性体50に固定される。このように構成することにより、ギヤ部41や基部40が弾性体50を介して撓みやすくなり、基部40およびギヤ部41周りを軸方向に小さく収められる。また、仮に弾性体50が外れてもギヤ部41と基部40とが相対回転不能の状態(一体に回転する状態)を維持できる。また、基部40とギヤ部41は、隙間を空けて配置され、弾性体50構造に連結されることにより、当該隙間が維持されている。このように隙間が維持されることにより、基部40とギヤ部41の接触を回避できる。
【0058】
以上が、実施形態の説明である。実施形態の構成によれば、ギヤ部41が基部40に対して揺動できるので、第2ギヤ4の軸心が第1ギヤ3の軸心に対して傾いても、ギヤ部41は、軸心の傾きに追従できる。この結果、ギヤ部41の姿勢は、ギヤ部41の軸心が第1ギヤ3の軸心と平行になるように補正され、これらの不均一な噛み合いに起因する噛み合い音を抑制できる。この効果は、複数の第2ギヤ4を備える場合、各第2ギヤ4について生じうる。
【0059】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容にも設計変更が許容される。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0060】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0061】
[変形例]
実施形態の説明では、減速機構11が偏心揺動型である例を示したが、本発明はこれに限定されず、偏心揺動型以外の減速機にも適用可能である。
【0062】
実施形態の説明では、クランク軸12および第2ギヤ4の数が3である例を示したが、本発明はこれに限定されない。クランク軸12および第2ギヤ4の数は2または4以上であってもよい。
【0063】
実施形態の説明では、外歯歯車14の数が2である例を示したが、本発明はこれに限定されない。外歯歯車14の数は1または3以上であってもよい。
【0064】
実施形態の説明では、主軸受24、26が内輪を有しない例を示したが、本発明はこれに限定されない。主軸受は、内輪を有する軸受であってもよい。
【0065】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0066】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0067】
3 第1ギヤ、 4 第2ギヤ、 5 弾性体構造、 11 減速機構、 40 基部、 41 ギヤ部、 46,47,48 接続部、 50 弾性体、 56 板ばね、 100 減速装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7