(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092589
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208633
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小田 真暉
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA10
3J027FA50
3J027FB12
3J027GB03
3J027GC02
3J027GC23
3J027GC26
3J027GC27
3J027GE29
(57)【要約】
【課題】主駆動装置から主クランク軸に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、駆動対象に補助トルクを出力できる駆動ユニットを提供する。
【解決手段】駆動トルクを出力する主出力軸40を有する主駆動装置32と、補助トルクを出力する補助出力軸46を有する補助出力装置34と、主出力軸40から駆動トルクが入力される主クランク軸50と、補助出力軸46から補助トルクが入力される補助クランク軸52と、主クランク軸50及び補助クランク軸52のそれぞれに入力されたトルクを増幅して出力回転体56に伝達する第1減速機構54とを有する減速機36と、を備え、補助クランク軸52に入力された補助トルクを、主出力軸40から主クランク軸50に至る第1動力伝達経路を介さずに減速機構に伝達可能に構成される駆動ユニット18である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動トルクを出力する主出力軸を有する主駆動装置と、
補助トルクを出力する補助出力軸を有する補助出力装置と、
前記主出力軸から前記駆動トルクが入力される主クランク軸と、前記補助出力軸から前記補助トルクが入力される補助クランク軸と、前記主クランク軸及び前記補助クランク軸のそれぞれに入力されたトルクを増幅して出力回転体に伝達する減速機構とを有する偏心揺動型減速機と、を備え、
前記補助クランク軸に入力された前記補助トルクを、前記主出力軸から前記主クランク軸に至る第1動力伝達経路を介さずに前記減速機構に伝達可能に構成される駆動ユニット。
【請求項2】
前記主クランク軸は、前記出力回転体の回転中心線からオフセットした位置に配置されるオフセットクランク軸であり、
前記補助クランク軸は、前記オフセットクランク軸よりも径方向内側に配置される内側クランク軸である請求項1に記載の駆動ユニット。
【請求項3】
前記第1動力伝達経路を構成する複数の伝動部材を備え、
前記第1動力伝達経路において隣り合う前記伝動部材には互いに噛み合う個別の噛合部が設けられる請求項1に記載の駆動ユニット。
【請求項4】
前記第1動力伝達経路を構成する複数の伝動部材を備え、
前記伝動部材には、前記主出力軸から前記出力回転体に至る第2動力伝達経路上の他の箇所よりも脆弱な脆弱部が設けられる請求項1から3のいずれかに記載の駆動ユニット。
【請求項5】
前記補助クランク軸は、前記主クランク軸が回転したときに前記減速機構により連動して回転し、
前記補助クランク軸の回転速度は、前記主出力軸の回転速度よりも遅くなる請求項1に記載の駆動ユニット。
【請求項6】
前記補助出力装置は、前記補助トルクとして駆動トルクを出力する駆動装置である請求項1に記載の駆動ユニット。
【請求項7】
前記補助出力装置は、前記補助トルクとして制動トルクを出力する制動装置である請求項1に記載の駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、主出力軸を有する主駆動装置と、補助出力軸を有する補助出力装置と、減速機構を有する減速機とを備える駆動ユニットを開示する。特許文献1の減速機構は、主クランク軸(特許文献1のオフセットクランク軸)に入力されたトルクを増幅して出力回転体に伝達している。特許文献1の駆動ユニットでは、減速機の主クランク軸に主出力軸及び補助出力軸のそれぞれがトルクを伝達可能に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の駆動ユニットでは、主駆動装置から主クランク軸に動力を伝達不能となる故障が生じた場合、補助出力装置の補助トルクを減速機構に伝達不能となってしまい得る。このため、この場合に、駆動ユニットの駆動対象に補助トルクを出力不能になってしまうという問題がある。
【0005】
本開示の目的の1つは、主駆動装置から主クランク軸に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、駆動対象に補助トルクを出力できる駆動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の駆動ユニットは、駆動トルクを出力する主出力軸を有する主駆動装置と、補助トルクを出力する補助出力軸を有する補助出力装置と、前記主出力軸から駆動トルクが入力される主クランク軸と、前記補助出力軸から補助トルクが入力される補助クランク軸と、前記主クランク軸及び前記補助クランク軸のそれぞれに入力されたトルクを増幅して出力回転体に伝達する減速機構とを有する減速機と、を備え、前記補助クランク軸に入力された前記補助トルクを、前記主出力軸から前記主クランク軸に至る第1動力伝達経路を介さずに前記減速機構に伝達可能に構成される駆動ユニット。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、主駆動装置から主クランク軸に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、駆動対象に補助トルクを出力できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の模式的な構成図である。
【
図2】実施形態の駆動ユニットの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の駆動ユニットを実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。本実施形態の駆動ユニット18は、車両の運転者による車輪Wの操舵操作をアシストする電動パワーステアリング装置10に用いられる。電動パワーステアリング装置10は、ステアリングホイール12と、ステアリングシャフト14と、ギヤボックス16と、駆動ユニット18と、操舵機構20と、を備える。
【0011】
ステアリングホイール12は、運転者による操舵操作によって操舵トルクを受ける。ステアリングシャフト14は、ステアリングホイール12に連結され、ステアリングホイール12の操舵トルクを伝達する。ギヤボックス16は、ステアリングシャフト14に連結され、増幅されたステアリングシャフト14の操舵トルクを出力する。駆動ユニット18は、操舵操作をアシストするためのアシストトルクを出力する。操舵機構20は、ギヤボックス16、駆動ユニット18から出力されたトルクを車両の左右の車輪Wに伝達することで車輪Wを操舵する。本実施形態の操舵機構20は、ギヤボックス16、駆動ユニット18からトルクが出力されるアーム20aと、アーム20aに伝達されたトルクを左右の車輪Wに伝達するタイロッド20bとを備える。
【0012】
ステアリングシャフト14には、ステアリングホイール12が受ける操舵トルク及び操作方向を検出するためのセンサが取り付けられている。制御装置(不図示)は、そのセンサから出力される信号に基づいてステアリングホイール12の操舵操作に応じた制御信号を駆動ユニットに出力する。駆動ユニットは、制御信号に基づいて各駆動装置(後述する)を作動させることにより、運転者によるステアリングホイール12の操舵操作に応じたアシストトルクを出力し、それにより運転者の操舵操作をアシストする。
【0013】
図2を参照する。駆動ユニット18は、駆動トルク又は制動トルクを出力することで駆動対象を駆動又は制動する。駆動トルクは、駆動対象を駆動するためのトルクをいう。制動トルクとは、駆動対象を制動するためのトルクをいう。本実施形態での駆動対象は、アシストトルクとしての駆動トルクにより操舵される車輪Wである。
【0014】
駆動ユニット18は、主駆動装置32と、補助出力装置34と、偏心揺動型減速機36と、故障検出センサ38と、制御装置(不図示)と、を備える。故障検出センサ38は、主駆動装置32の故障を検出する。故障検出センサ38の検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、主駆動装置32、補助出力装置34の動作を制御する。
【0015】
主駆動装置32は、駆動トルクを出力する主出力軸40を有する。主駆動装置32は、主駆動源(例えば、バッテリー)のエネルギーを受けて回転することで駆動トルクを生成し、その生成した駆動トルクを主出力軸40から出力する。本実施形態の主駆動装置32は電動モータであるが、この他にもエンジン等でもよい。主駆動装置32は、主出力軸40の他に、第1装置本体42を有する。本実施形態の第1装置本体42は、主出力軸40を回転させる回転磁界を生成するステータ及びロータ(不図示)と、これらを収容する第1装置ケーシングとを有する。第1装置本体42は、第1アダプタ44を介して減速機36の第1キャリヤ70A(後述する)に連結される。
【0016】
補助出力装置34は、補助トルクを出力する補助出力軸46を有する。本実施形態の補助出力装置34は、補助トルクとして駆動トルクを補助出力軸46から出力する駆動装置である。これを実現するうえで、本実施形態の補助出力装置34は電動モータであるが、この他にもエンジン等でもよい。この補助出力装置34は、主駆動源又は補助駆動源(例えば、バッテリー)のエネルギーを受けて回転することで補助トルクとなる駆動トルクを生成し、その生成した駆動トルクを補助出力軸46から出力する。補助出力装置34は、補助出力軸46の他に、第2装置本体48を有する。本実施形態の第2装置本体48は、補助出力軸46を回転させる回転磁界を生成するステータ及びロータ(不図示)と、これらを収容する第2装置ケーシングとを有する。
【0017】
偏心揺動型減速機36(以下、減速機36ともいう)は、主出力軸40から駆動トルクが入力される主クランク軸50と、補助出力軸46から補助トルクが入力される補助クランク軸52と、主クランク軸50及び補助クランク軸52のそれぞれに入力されたトルクを増幅して出力回転体56に伝達する第1減速機構54と、を備える。この他に、減速機36は、第1減速機構54から伝達されたトルクを外部に出力する出力回転体56と、外部の被固定部材(不図示)に固定される固定体58と、を備える。被固定部材は、例えば、車両の車体等である。本明細書では、特に言及がない限り、出力回転体56の中心線C56に沿った方向に関して単に「軸方向」といい、その中心線C56を円中心とする半径方向及び円周方向に関して、単に「径方向」という。
【0018】
本実施形態の偏心揺動型減速機36は振り分け型である。この減速機36は、少なくとも一つ(本実施形態では二つ)の偏心体60を有する複数のクランク軸62A、62Bと、偏心体60により揺動される揺動歯車64と、揺動歯車64と噛み合う噛合歯車66と、揺動歯車64の径方向外側に配置されるケーシング68と、揺動歯車64に対して軸方向側方に配置されるキャリヤ70A、70Bと、を備える。揺動歯車64及び噛合歯車66は第1減速機構54、ケーシング68は出力回転体56、固定体58はキャリヤ70A、70Bの一例となる。
【0019】
クランク軸62A、62Bは、出力回転体56の回転中心線C56から径方向にオフセットした位置に配置されるオフセットクランク軸62Aと、オフセットクランク軸62Aよりも径方向内側に配置される内側クランク軸62Bとを含む。オフセットクランク軸62Aは主クランク軸50、内側クランク軸62Bは補助クランク軸52となる。本実施形態の内側クランク軸62Bは出力回転体56の回転中心線C56上に設けられる。オフセットクランク軸62Aは、回転中心線C56周りの径方向に間隔を空けて複数(ここでは一つのみ図示)設けられる。クランク軸62A、62Bは揺動歯車64及びキャリヤ70A、70Bを貫通している。複数の偏心体60の偏心位相は、偏心体60の個数をM個(本実施形態では2個)とするとき、360°/Mの分だけずれている。偏心体60の個数は特に限定されず、単数及び三つ以上のいずれでもよい。
【0020】
揺動歯車64及び噛合歯車66の一方(本実施形態では揺動歯車64)は外歯歯車となり、他方(本実施形態では噛合歯車66)は内歯歯車となる。揺動歯車64は、オフセットクランク軸62A及び内側クランク軸62Bそれぞれの回転により揺動する。揺動歯車64は、複数の偏心体60のそれぞれに対応して個別に設けられ、個別の偏心軸受72を介して偏心体60に相対回転自在に支持される。本実施形態の噛合歯車66は、ケーシング68と一体化されている。ケーシング68とキャリヤ70A、70Bとの間には主軸受74が配置される。キャリヤ70A、70Bは、揺動歯車64の自転成分(ゼロを含む)と同期可能である。本実施形態のキャリヤ70A、70Bは、揺動歯車64に対して軸方向で主駆動装置32側に配置される第1キャリヤ70Aと、揺動歯車64に対して軸方向で主駆動装置32とは反対側に配置される第2キャリヤ70Bとを含む。第1キャリヤ70Aと第2キャリヤ70Bは、複数の揺動歯車64を貫通する柱部76により連結される。キャリヤ70A、70Bは、クランク軸受78を介してクランク軸62A、62Bを回転自在に支持している。
【0021】
主クランク軸50は、主出力軸40から出力される駆動トルクを伝達可能に主出力軸40に連結される。これを実現するうえで、本実施形態の主クランク軸50は、第2減速機構80を介して主出力軸40に連結される。この他にも主クランク軸50は主出力軸40に直接に連結されてもよいし、第2減速機構80以外の各種伝動機構(歯車、ベルト等)を介して主出力軸40に連結されてもよい。本実施形態の第2減速機構80は、主出力軸40と一体回転可能に設けられる入力歯車82と、主クランク軸50と一体回転可能に設けられ入力歯車82と噛み合うクランク軸歯車84とを備える。本実施形態の入力歯車82は主出力軸40と同じ部材の一部として設けられるが、主出力軸40と別体に設けられてもよい。
【0022】
補助クランク軸52は、補助出力軸46から出力される補助トルクを伝達可能に補助出力軸46に連結される。本実施形態の補助クランク軸52は、補助出力軸46に直接に連結される。これを実現するうえで、補助クランク軸52及び補助出力軸46の一方(ここでは補助クランク軸52)にはテーパ軸部86が設けられ、それらの他方(ここでは補助出力軸46)にはテーパ軸部86が嵌合可能なテーパ穴88が形成される。テーパ軸部86がテーパ穴88に圧入されることで補助クランク軸52が補助出力軸46に連結される。この他にも、補助クランク軸52は、各種伝動機構(歯車、ベルト等)を介して補助出力軸46に連結されてもよい。
【0023】
主クランク軸50及び補助クランク軸52の一方が回転したとき、第1減速機構54により他方が連動して同じ回転速度で回転する。例えば、補助クランク軸52は、主クランク軸50が回転したとき、第1減速機構54により連動して主クランク軸50と同じ回転速度で回転する。
【0024】
第2減速機構80は、主出力軸40の回転を所定の減速比Srで減速して主クランク軸50に伝達する。これを実現するうえで、クランク軸歯車84の歯数は入力歯車82の歯数よりも大きくなる。これにより、補助クランク軸52が主クランク軸50の回転に連動して回転したとき、補助クランク軸52の回転速度W2は、主出力軸40の回転速度W1よりも遅くなる。この回転速度W2は、主出力軸40の回転速度W1と第2減速機構80の減速比Srに応じた大きさ(=回転速度W1×(1/減速比Sr))となる。
【0025】
以上の減速機36の動作を説明する。主クランク軸50、補助クランク軸52にトルクが入力されると、そのトルクが第1減速機構54により増幅されて出力回転体56に伝達され、出力回転体56から出力される。本実施形態のようなクランク軸62A、62Bにトルクが入力されると、クランク軸62A、62Bの偏心体60によって、揺動歯車64の中心が噛合歯車66の中心周りを回転するように揺動歯車64が揺動する。揺動歯車64が揺動すると、揺動歯車64と噛合歯車66の噛合位置が周方向に変化する。これに伴い、クランク軸62A、62Bが一回転する毎に、揺動歯車64と噛合歯車66の歯数差分だけ揺動歯車64及び噛合歯車66の一方(ここでは揺動歯車64)が自転し、その自転成分が出力回転体56に伝達される。
【0026】
以上の駆動ユニット18全体の動作を説明する。故障検出センサ38によって主駆動装置32の故障が検出されていない場合(主駆動装置32が正常に作動する場合)、制御装置による制御に従って、主駆動装置32の主出力軸40が駆動トルクを出力する。主出力軸40から出力された駆動トルクは、主出力軸40に連結される主クランク軸50に入力される。第1減速機構54は、主クランク軸50に入力された駆動トルクを増幅して出力回転体56に伝達する。出力回転体56は、第1減速機構54から伝達された駆動トルクを外部の駆動対象(ここでは車輪W)に出力し、駆動対象が駆動される。このとき、補助出力装置34は、補助トルクを補助出力軸46から出力しない。
【0027】
一方、主駆動装置32の故障が故障検出センサ38によって検出された場合、制御装置による制御に従って、補助出力装置34の補助出力軸46が補助トルクを出力する。補助出力軸46から出力された補助トルクは、補助出力軸46に連結される補助クランク軸52に入力される。第1減速機構54は、補助クランク軸52に入力された補助トルクを増幅して出力回転体56に伝達する。出力回転体56は、第1減速機構54から伝達された補助トルクを外部の駆動対象に出力する。これにより、補助トルクが駆動トルクの場合は駆動対象が駆動され、補助トルクが制動トルクの場合は駆動対象が制動される。このとき、主駆動装置32は、駆動トルクを主出力軸40から出力しない。
【0028】
図3を参照する。
図3は、
図2と同じ視点から見た断面図である。駆動ユニット18は、主出力軸40から主クランク軸50に至る第1動力伝達経路100を構成する複数の伝動部材102を備える。本実施形態の第1動力伝達経路100には、上流側から下流側に向かって順に、主出力軸40→入力歯車82→クランク軸歯車84→主クランク軸50が設けられる。複数の伝動部材102は、これら主出力軸40と、入力歯車82と、クランク軸歯車84と、主クランク軸50とを含んでいる。
【0029】
第1動力伝達経路100は、主出力軸40から出力回転体56に至る第2動力伝達経路104の一部となる。本実施形態の第2動力伝達経路104には、上流側から下流側に向かって順に、第1動力伝達経路100(主出力軸40、主クランク軸50を含む)→第1減速機構54(揺動歯車64、噛合歯車66)→出力回転体56が設けられる。
【0030】
駆動ユニット18は、補助クランク軸52に入力された補助トルクを、第1動力伝達経路100を介さずに第1減速機構54に伝達可能に構成される。第1減速機構54は、この第1動力伝達経路100を介さずに補助クランク軸52から伝達された補助トルクを増幅して出力回転体56に伝達することになる。これを実現するうえで、補助クランク軸52は、第1動力伝達経路100を構成する伝動部材102(ここでは主出力軸40、入力歯車82、クランク軸歯車84、主クランク軸50)に動力を伝達可能に直接に連結されていない。
【0031】
なお、第1動力伝達経路100を経由して動力を伝達不能となる故障が生じていない場合、補助クランク軸50Bの補助トルクは、第1減速機構54を介して第1動力伝達経路100を構成する伝動部材102に伝達される。このような故障が生じていない場合、補助クランク軸50Bの補助トルクは、第1減速機構54のみを介して伝動部材102に伝達可能であるともいえる。
【0032】
第1動力伝達経路100において隣り合う伝動部材102には互いに噛み合う個別の噛合部106A、106Bが設けられる。隣り合う伝動部材102の個別の噛合部106A、106Bが噛み合うことで、上流側の伝動部材102から下流側の伝動部材102に動力が伝達される。
【0033】
本実施形態では、隣り合う入力歯車82及びクランク軸歯車84のそれぞれには互いに噛み合う個別の歯車噛合部106Aが対になって設けられる。歯車噛合部106Aは、複数の歯車歯によって構成される。この対の歯車噛合部106Aの一方は入力歯車82の外周部に設けられる複数の歯車歯により構成される。また、対の歯車噛合部106Aの他方はクランク軸歯車84の外周部に設けられる複数の歯車歯により構成される。対の歯車噛合部106Aは、互いの周方向範囲の一部においてのみ噛み合っている。
【0034】
本実施形態では、隣り合うクランク軸歯車84及び主クランク軸50のそれぞれには互いに噛み合う個別のスプライン噛合部106Bが対になって設けられる。スプライン噛合部106Bの一方は雌スプラインからなり、他方は雌スプラインと嵌合する雄スプラインからなる。本実施形態ではクランク軸歯車84の内周部に雌スプラインからなるスプライン噛合部106Bが設けられ、主クランク軸50の外周部に雄スプラインからなるスプライン噛合部106Bが設けられる。対のスプライン噛合部106Bは、互いの周方向範囲の全周において噛み合っている。
【0035】
第1動力伝達経路100を構成する伝動部材102には、主出力軸40から出力回転体56に至る第2動力伝達経路104上の他の箇所よりも脆弱な脆弱部108が設けられる。脆弱部108は、予め定められる許容荷重を超える過大荷重が作用した場合に、第2動力伝達経路104上の他の箇所よりも先に破壊される箇所となる。この過大荷重は、例えば、衝撃荷重、異常荷重が作用する場合を想定している。脆弱部108が破壊されることで、第1動力伝達経路100を経由して動力を伝達不能となる。
【0036】
本実施形態の脆弱部108は、互いに噛み合う対の歯車噛合部106Aの少なくとも一方により構成される。詳しくは、本実施形態の脆弱部108は、互いに噛み合う対の歯車噛合部106Aのうち歯数の少ない歯車噛合部106Aにより構成される。この他にも、脆弱部108は、互いに噛み合う対の歯車噛合部106Aの双方により構成されてもよい。この他にも、脆弱部108は、互いに噛み合う対のスプライン噛合部106Bにより構成されてもよい。
【0037】
脆弱部108が噛合部106A、106Bにより構成される場合、噛合部106A、106Bを構成する歯の強度に影響するパラメータを調整することで、第2動力伝達経路104上の他の箇所よりも強度を低下させればよい。ここでのパラメータとは、例えば、歯のモジュール、噛合部106A、106Bでの歯の歯幅、噛合部106A、106Bの表面硬さ、伝動部材102の材料等をいう。例えば、歯のモジュールを調整する場合、歯の歯数を増やすことで歯の大きさを小さくして歯の強度を低下させればよい。
【0038】
以上の駆動ユニット18の効果を説明する。
【0039】
駆動ユニット18は、補助クランク軸52に入力された補助トルクを、主出力軸40から主クランク軸50に至る第1動力伝達経路100を介さずに第1減速機構54に伝達可能に構成される。よって、主駆動装置32から主クランク軸50に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、補助出力軸46から出力した補助トルクを補助クランク軸52を介して第1減速機構54に伝達することで、出力回転体56から駆動対象に補助トルクを出力可能となる。ここでの故障とは、例えば、第1動力伝達経路100を構成する伝動部材102の破損、主駆動装置32の故障、主駆動装置32にエネルギーを供給する主駆動源の故障等をいう。
【0040】
主クランク軸50はオフセットクランク軸62Aである。この場合、減速機36は、通常、第1減速機構54の前段に、主出力軸40の回転を減速してオフセットクランク軸62Aに伝達する第2減速機構80を備える。よって、主クランク軸50が内側クランク軸62Bになる場合と比べ、第1減速機構54、第2減速機構80の双方により減速機36を高減速比化できる。また、第1減速機構54のみとするより、共振の発生を抑制できる。また、クランク軸歯車84の歯数変更が容易であるため、減速機36の減速比の調整が容易となる。また、揺動歯車64とオフセットクランク軸62Aとの間でのトルクの伝達は、内側クランク軸62Bが貫通する揺動歯車64の中心孔から径方向にオフセットしており、オフセットクランク軸62Aが貫通するオフセット孔でなされる。よって、揺動歯車64の中心孔でトルクを伝達する場合と比べ、軌跡精度が良好となる。また、第1動力伝達経路100を経由して動力を伝達不能になった場合、補助出力軸46の駆動トルクにより第1減速機構54を作動させたとき、オフセットクランク軸62Aは、いわゆる内ピンの役割をするに過ぎない。このため、オフセットクランク軸62Aが多少壊れたとしても、問題なく、補助出力軸46の駆動トルクを増幅して出力することができる。
【0041】
伝動部材102の噛合部106A、106Bでは、衝撃荷重、異常荷重等による折損等に起因して動力を伝達不能となり得る。特に、伝動部材102の歯車噛合部106Aでは、異物の噛み込み等に起因して動力を伝達不能となり得る。このような箇所で動力を伝達不能になっても、前述のように、補助出力軸46から出力した補助トルクを第1減速機構54に伝達することで、出力回転体56から駆動対象に補助トルクを出力可能となる。
【0042】
第1動力伝達経路100を構成する伝動部材102には、第2動力伝達経路104上の他の箇所よりも脆弱な脆弱部108が設けられる。よって、第2動力伝達経路104上において衝撃荷重、異常荷重等の過大荷重が付与された場合に、第2動力伝達経路104上の他の箇所よりも先に伝動部材102の脆弱部108を破壊させることができる。言い換えると、第2動力伝達経路104上において過大荷重が付与された場合に、補助クランク軸52に入力された補助トルクを出力回転体56まで伝達するうえで妨げにならない第1動力伝達経路100上の脆弱部108を先に破壊させることができる。これにより、第2動力伝達経路104上にある第1減速機構54から出力回転体56に至る動力伝達経路を残したままにできる。よって、過大荷重が付与されることで第2動力伝達経路104上にある部材の一部が破壊された場合でも、補助クランク軸52に入力された補助トルクを第1減速機構54を介して出力回転体56まで安定して伝達できるようになる。
【0043】
補助クランク軸52は、主クランク軸50が回転したときに第1減速機構54により連動して回転する。よって、主駆動装置32の駆動トルクを第1減速機構54を介して出力回転体56から出力するうえでは、補助クランク軸52の慣性モーメントの影響を受ける。回転体に作用する慣性モーメントは、回転体の回転速度が大きくなるほど大きくなる。ここで、本実施形態では、補助クランク軸52の回転速度W2が、主出力軸40の回転速度W1よりも遅くなる。よって、補助クランク軸52の回転速度W2が主出力軸40の回転速度W1と同じになる場合と比べ、補助クランク軸52に作用する慣性モーメントを小さくできる。ひいては、駆動ユニット18から駆動トルクを出力するうえで応答性を高めることができる。
【0044】
本実施形態の補助出力装置34は、補助トルクとして駆動トルクを出力する駆動装置である。よって、主出力軸40から主クランク軸50に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、補助出力装置34の駆動トルクを駆動ユニット18から出力することで、駆動対象を駆動できるようになる。
【0045】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0046】
駆動ユニット18の用途は電動パワーステアリング装置10に限定されない。駆動ユニット18は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)に適用されてもよい。車両に適用される場合、電動パワーステアリング装置以外の車輪駆動装置等に適用されてもよい。
【0047】
本実施形態の主クランク軸50はオフセットクランク軸62Aであり、補助クランク軸52は内側クランク軸62Bである例を説明した。これに替えて、主クランク軸50を内側クランク軸62Bとし、補助クランク軸52をオフセットクランク軸62Aとしてもよい。つまり、主クランク軸50及び補助クランク軸52の一方がオフセットクランク軸62Aであり、他方が内側クランク軸であってもよい。この他にも、主クランク軸50及び補助クランク軸52の双方が異なるオフセットクランク軸62Aでもよい。
【0048】
複数の伝動部材102のそれぞれは個別の噛合部106A、106Bが設けられていなくともよい。例えば、動力伝達経路において隣り合う伝動部材102は、対の噛合部106A、106Bの噛合を利用せずに、圧入、摩擦等により動力を伝達していてもよい。
【0049】
伝動部材102には脆弱部108が設けられていなくともよい。また、脆弱部108の具体例は噛合部106A、106Bに限定されない。脆弱部108は、例えば、ディスク部材の外周側部分と内周側部分を接続する部分により構成されてもよい。
【0050】
補助クランク軸52の回転速度W2は主出力軸40の回転速度W1と同じであってもよい。駆動ユニット18は第2減速機構80を備えていなくともよいともいえる。この他にも、補助クランク軸52の回転速度W2は主出力軸40の回転速度1よりも早くともよい。
【0051】
補助出力装置34は、実施形態の駆動装置に替えて、補助トルクとして制動トルクを補助出力軸46から出力する制動装置であってもよい。この補助出力装置34は、主駆動源又は補助駆動源からエネルギーを受けて生成した制動トルクを補助出力軸46から出力してもよい。これを実現するうえで、制動装置は、例えば、摩擦ブレーキ、過電流ブレーキ等により構成されてもよい。この他にも制動装置は、回生ブレーキ等により構成されてもよい。これにより、主出力軸40から主クランク軸50に動力を伝達不能となる故障が生じた場合でも、補助出力装置34の制動トルクを駆動ユニット18から出力することで、駆動対象を制動できるようになる。ひいては、そのような故障が生じた場合の安全性を高めることができる。
【0052】
補助出力装置34は、駆動トルクを出力する駆動装置と制動トルクを出力する制動装置とを兼ねていてもよい。これは、補助出力装置34に駆動装置として機能する部位と制動装置として機能する部位の双方を内蔵する場合を想定している。
【0053】
故障検出センサ38により検出される主駆動装置32の故障は、主出力軸40が回転不能となる故障、主出力軸40が過大速度で回転する故障、主駆動装置32にエネルギーを供給する主駆動源の故障等が含まれる。主出力軸40が回転不能となる故障は、例えば、伝動部材102の噛合部106A、106Bでの異物の噛合に起因して生じ得る。この故障は、例えば、故障検出センサ38により主出力軸40の回転速度を検知し、規定の下限回転速度を下回る回転速度検出値を取得した場合に検出してもよい。主出力軸40が過大速度で回転する故障は、例えば、伝動部材102の噛合部106A、106B(脆弱部108)が破壊された場合に生じ得る。この故障は、例えば、故障検出センサ38により主出力軸40の回転速度を検知し、規定の上限回転速度を上回る回転速度検出値を取得した場合に検出してもよい。ここでの故障の具体例、検出方法は一例であり、各種態様の故障、各種検出方法を採用してもよい。
【0054】
補助出力装置34は、このような主駆動装置32の故障を故障検出センサ38により検出した場合に、制御装置による制御に従って、補助トルクを補助出力軸46から出力してもよい。この補助トルクは、駆動トルクであってもよいし制動トルクであってもよい。
【0055】
駆動ユニット18は、補助クランク軸52に対する補助出力軸46の接続の有無を切り替え可能な接続装置を備えていてもよい。この場合、主駆動装置32が故障していないときは接続装置による補助クランク軸52に対する補助出力軸46の接続を解除し、主駆動装置32が故障しているときに接続装置により補助クランク軸52に対して補助出力軸46を接続してもよい。主駆動装置32の故障の有無は故障検出センサ38の検出信号を用いて制御装置により判断すればよい。
【0056】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0057】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。実施形態において単数部材により構成された構成要素は複数部材で構成されてもよい。同様に、実施形態において複数部材により構成された構成要素は単数部材で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
18…駆動ユニット、32…主駆動装置、34…補助出力装置、36…偏心揺動型減速機、40…主出力軸、46…補助出力軸、50…主クランク軸、52…補助クランク軸、54…減速機構、56…出力回転体、62A…オフセットクランク軸、62B…内側クランク軸、64…揺動歯車、100…第1動力伝達経路、102…伝動部材、104…第2動力伝達経路、106A、106B…噛合部、108…脆弱部。