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特開2024-92592チェーンコンベアシステム、異常検出装置、異常検出プログラム、記録媒体、および異常検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092592
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】チェーンコンベアシステム、異常検出装置、異常検出プログラム、記録媒体、および異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/023 20190101AFI20240701BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240701BHJP
【FI】
G01M13/023
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208637
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】杉本 巖生
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB08
2G024AD15
2G024BA27
2G024CA12
2G024CA13
2G024CA18
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA04
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】コンベアの駆動に用いられるチェーンの固着による異常を検出する。
【解決手段】チェーンコンベアシステム(100)は、コンベア(80)の駆動に用いられる左右一対のチェーン(CH)と異常検出装置(1)とを備える。異常検出装置(1)は、スプロケット(SP)において生じる物理量を取得する取得部(11)と、物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいてチェーン(CH)の異常を検出する検出部(12)と、を有する。注目する周波数成分は、チェーン(CH)に対して設けられる付随部材の、チェーン(CH)に対する設置位置に対応する周波数成分である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンと、
前記チェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部、および、前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部を有する異常検出装置と、を備え、
前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である、チェーンコンベアシステム。
【請求項2】
前記取得部は、前記スプロケットの回転に必要な力の変化を反映した数値の経時的変化を示すデータを取得し、
前記検出部は、前記付随部材の設置位置に対応する周波数成分の有無または強度に基づいて前記チェーンの異常を検出する、請求項1に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項3】
前記チェーンは、複数のリンク部材が連結されてなるものであり、前記付随部材として複数のスクレーパが前記複数のリンク部材に対して予め定められたパターンで設置されている、請求項1または2に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項4】
前記チェーンに基準位置が予め定められており、
前記異常検出装置は、所定の閾値を超えた前記注目する周波数成分の発生タイミングと、前記基準位置とに基づいて、前記チェーンの固着位置を特定する特定部をさらに備える、請求項3に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項5】
前記チェーンは、複数の前記スクレーパがそれぞれ設置されている複数の第1のリンク部材と、前記チェーンの移動方向において複数の前記第1のリンク部材のそれぞれの直前に位置する複数の第2のリンク部材とを有し、
前記特定部は、前記第1のリンク部材に対応する周波数成分の強度に基づいて、複数の前記第1のリンク部材のうち、前記第2のリンク部材との連結部分において異常が発生している前記第1のリンク部材を特定する、請求項4に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項6】
前記検出部は、前記注目する周波数成分の強度の経時的変化に基づいて、当該注目する周波数成分の強度が所定の閾値に達する時期を予測する、請求項1に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項7】
前記スプロケットの回転に必要な力の変化を反映した数値を検出する検出器をさらに備える、請求項1に記載のチェーンコンベアシステム。
【請求項8】
コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部とを備え、
前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である、異常検出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の異常検出装置としてコンピュータを機能させるための異常検出プログラムであって、前記取得部および前記検出部としてコンピュータを機能させるための異常検出プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の異常検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項11】
コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得工程と、
前記取得工程にて取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出工程と、を含み、
前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である、異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、チェーンコンベアシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スプロケットに巻き回されて周回する無端チェーンに所定の間隔で取り付けられたフライト(掻寄板)を移動させて、沈殿池内に沈殿した汚泥を連続的にかき寄せる汚泥かき寄せ機の異常を診断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-153784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明は、スプロケットの摩耗及び/又は無端チェーンの伸びを診断する方法に関するものであり、チェーンの固着による異常を判定するものではない。
【0005】
本発明の一態様は、コンベアの駆動に用いられるチェーンの固着による異常を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るチェーンコンベアシステムは、コンベアの駆動に用いられるチェーンと、前記チェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部、および、前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部を有する異常検出装置と、を備え、前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【0007】
また、本発明の一態様に係る異常検出装置は、コンベアの駆動に用いられるチェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部とを備え、前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【0008】
また、本発明の一態様に係る異常検出方法は、コンベアの駆動に用いられるチェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得工程と、前記取得工程にて取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出工程と、を含み、前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、コンベアの駆動に用いられるチェーンの固着による異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1におけるチェーンコンベアシステムの構成を模式的に示す側面図である。
図2図1に示すチェーンコンベアシステムを図1に示すA1方向から視た平面図である。
図3図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図1に示すチェーンコンベアシステムの駆動スプロケットの周辺を拡大して模式的に示す側面図である。
図5】チェーンコンベアシステムの一構成例を示すブロック図である。
図6】駆動スプロケットの回転に伴ってスプロケットにおいて生じる物理量を反映した数値の時系列データの一例を示すグラフである。
図7】オーバラップ率とFFT対象データとの関係について説明するための図である。
図8図6に示す例のモータ電流値の時系列データを用いて、検出部によって導出された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
図9】検出部によって導出された、チェーンの固着傾向を示す指標の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。但し、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものであり、公知の技術的事項については、簡潔化のために説明を適宜省略する。よって、本実施形態におけるチェーンコンベアシステムは、参照する各図に示されていない公知の構成部材を任意に備えていてよい。また、各図中の部材の形状および寸法は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0012】
本実施形態では、例えば焼却炉を有するプラント(例:ゴミ焼却設備)内に配置される、焼却炉によって発生した灰を搬送する灰コンベアに用いられるチェーンコンベアシステムについて説明する。
【0013】
(チェーンコンベアシステムの全体概要)
始めに、図1図4を参照して、実施形態1のチェーンコンベアシステム100の全体構成について概略的に説明する。図1は、チェーンコンベアシステム100の構成を模式的に示す側面図である。図2は、図1に示すチェーンコンベアシステム100をA1方向から視た平面図である。なお、図2では、コンベア80におけるチェーンCHに関する一部について、拡大して示している。図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。図4は、チェーンコンベアシステム100の駆動スプロケットSP1の周辺を拡大して模式的に示す側面図である。
【0014】
図1図4に示すように、チェーンコンベアシステム100は、コンベア80およびコンベア駆動装置81を備えている。コンベア80は、所定の搬送方向(図1ではD1方向)に搬送対象物を移動させる。本実施形態では、搬送対象物が灰である場合を例示して説明する。
【0015】
コンベア80は、左右一対のチェーンCH(以下、単に「チェーンCH」と称する)と、左右一対の駆動スプロケット(第1のスプロケット)SP1と、左右一対の従動スプロケット(第2のスプロケット)SP2と、テーブルTBと、を備えていてよい。図1では、片方(1個)の駆動スプロケットSP1および片方(1個)の従動スプロケットSP2のみ図示している。
【0016】
チェーンCHは、コンベア80の駆動に用いられる無端チェーンであってよい。チェーンCHに対して付随部材が設けられていてよい。付随部材の一例としては、スクレーパSK、フライトおよび搬送ジグ等が挙げられる。本実施形態では、チェーンCHに対して複数のスクレーパSKが設けられていてよい。
【0017】
スクレーパSKは、チェーンCHに接続して設けられる。チェーンCHが周回することにより、チェーンCHの移動に伴ってスクレーパSKが移動する。つまり、複数のスクレーパSKは、チェーンCHと同じ速度で搬送方向に移動する。スクレーパSKの移動によって、対象物としての灰が搬送される。具体的には、スクレーパSKによって灰が押し出されることにより、テーブルTB上の灰を搬送することができる。スクレーパSKは、灰を押し出す押出面P1を有する。スクレーパSKは、押出面P1がチェーンCHの搬送方向D1を向くように、チェーンCHに対して設けられる。
【0018】
チェーンCHは、図1等に示すXYZ軸のY軸方向において、一方側に位置する第1のチェーンCH1と、他方側に位置する第2のチェーンCH2とを有する。第1のチェーンCH1について以下に説明することは第2のチェーンCH2についても同じである。そのため、第2のチェーンCH2について繰り返して説明することは省略する。
【0019】
第1のチェーンCH1は、複数のリンク部材LKを有していてよい(図2および図3を参照)。第1のチェーンCH1は、複数のリンク部材LKが連結されることによって構成されていてよい。第1のチェーンCH1としては公知の構造を有するローラチェーンを使用することができる。そのため、第1のチェーンCH1の構造について詳細な説明は省略するが、第1のチェーンCH1は、例えば、外リンクOLKおよび内リンクILKを交互に組み合わせて連結することにより構成されていてよい。外リンクOLKは2枚のプレート(外プレート)を有し、内リンクILKは2枚のプレート(内プレート)を有する。第1のチェーンCH1は、さらに、ピン、ローラ、ブシュ等を含んでいてよい。
【0020】
本実施形態では、第1のチェーンCH1の外リンクOLKにおける2枚のプレートのうち、第2のチェーンCH2側に位置するプレートに保持部材20(例えばアングル等)が取り付けられており、保持部材20にスクレーパSKが取り付けられていてよい。スクレーパSKは、ボルトおよびナット等の固定部材によって保持部材20に固定されていてよい。同様に、第2のチェーンCH2の外リンクOLKにスクレーパSKが固定されていてよい。これにより、複数のスクレーパSKのそれぞれの押出面P1がチェーンCHの搬送方向D1を向くように、チェーンCHに対して複数のスクレーパSKが設けられていてよい。
【0021】
複数のスクレーパSKは、複数のリンク部材LKに対して予め定められたパターンで設置されていてよい。一例として、複数のスクレーパSKのそれぞれは、チェーンCHに対して、搬送方向D1に沿って等間隔に設置されていてよい。なお、上記の例に限定されず、スクレーパSKは、外リンクOLKのプレートと一体に形成されていてもよく、内リンクILKのプレートに固定されていてもよい。
【0022】
第1のチェーンCH1は、図1等に示すY軸方向の一方の側(Y軸正方向側)に位置する1個の駆動スプロケットSP1および1個の従動スプロケットSP2に架け渡されており、環形状を有する。第2のチェーンCH2は、図1等に示すY軸方向の他方の側(Y軸負方向側)に位置する1個の駆動スプロケットSP1および1個の従動スプロケットSP2に架け渡されており、環形状を有する。
【0023】
駆動スプロケットSP1および従動スプロケットSP2は、それぞれ、チェーンCHと歯合するように構成された外周部を有していてよい。駆動スプロケットSP1および従動スプロケットSP2としては、公知の部材を使用できる。そのため、駆動スプロケットSP1および従動スプロケットSP2について詳細な説明は省略する。
【0024】
一対の駆動スプロケットSP1はそれぞれ、互いに共通する駆動軸(図示省略)に連結されており、当該駆動軸の回転に伴って回転する。上記駆動軸は、コンベア駆動装置81から伝達される動力によって回転する。
【0025】
一例として、コンベア駆動装置81は、モータMTおよび動力伝達機構PTを備えていてよい。動力伝達機構PTは、例えばチェーンであってよい。モータMTが回転方向R1に回転すると、動力伝達機構PTを介して上記駆動軸に動力が伝達され、駆動スプロケットSP1が回転方向R2に回転する。駆動スプロケットSP1の回転に伴い、環状のチェーンCHは、駆動スプロケットSP1と従動スプロケットSP2との間を周回する(循環する)。チェーンCHの動作に伴って、回転方向R3に従動スプロケットSP2が回転する。図1に示す例では、回転方向R1、回転方向R2、および回転方向R3は、XYZ軸のY軸正方向に向かって反時計回り方向である。なお、動力伝達機構PTは歯車等を含んでいてもよく、歯車伝達の段数が奇数の場合、回転方向R1と回転方向R2とは互いに逆方向であってもよく、直交軸を有するウォーム減速機を用いる場合、互いに回転軸が非平行であってもよい。
【0026】
(発明の知見の概要)
図1図4をさらに参照して、上述のような全体構成を有するチェーンコンベアシステムに関して本発明者らの見出した知見の概要について、以下に説明する。
【0027】
ゴミ焼却設備におけるゴミ処理の流れの一例では、チェーンコンベアシステム100よりもゴミ処理の流れの上流側に配置されている焼却炉によって灰が発生する。焼却炉から灰押出機90に送出された灰は、典型的には灰押出機90内において水により冷却される。そして、灰押出機90は、或る程度水分が除去された灰を間欠的に押し出す。例えば、灰押出機90における排出口91の下方にテーブルTBの少なくとも一部が位置しており、排出口91から灰AS1が排出されることにより、テーブルTB上に灰AS1が堆積する。
【0028】
スクレーパSKによってテーブルTB上の灰を押し出すことにより、スクレーパSKの移動に伴って灰集積物AS2が搬送方向D1に搬送される。また、コンベア80によって搬送された灰集積物AS2が、テーブルTBの端部から押し出されて垂直下方に落下する場合、テーブルTBから落下した灰AS3は、灰シュートCTを通じてゴミ処理の流れの下流へと送られる。
【0029】
一般に、上記灰AS1および上記灰AS3は水分を含んでいる。時間の経過に伴って乾燥し固化した灰によって、チェーンCHの固着が生じ得る。チェーンCHの固着に起因して、チェーンCHに破断が生じる可能性がある。
【0030】
従来、コンベアの異常の有無を判定する技術(特許文献1)として、コンベアのモータ電流の周波数解析結果により得られる波形において、側帯波成分の波高の増加傾向を把握することによって異常の有無を判定する技術が知られている。この技術では、チェーン伸びを検知するため、チェーン伸びはピッチ誤差として現れる。周波数解析結果により得られる波形において、ピッチ誤差による側帯波(サイドバンド)が発生することから、側帯波成分の波高の増加傾向を把握することによって異常の有無を判定できる。しかしながら、上述のような灰コンベアにおける固着は、チェーン伸びとは異なるため、従来と同様の考え方では検知はできない。
【0031】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の知見を得た。すなわち、コンベア80の駆動スプロケットSP1に関して生じる物理量の時系列データを周波数解析すると、チェーンCHに固着が生じたときにのみ、コンベア80の構成に対応する特有の周波数成分が出現する。上記物理量は、例えば、駆動スプロケットSP1に伝達するための動力を発生させるモータMTの電流値であってよく、または、回転のトルク値、スプロケットSP1周辺の振動、等であってよい。本明細書において、或る周波数成分が出現する(現れる)とは、周波数解析結果を示すグラフにおいて当該周波数成分に対応するピークが出現する(現れる)ことを意味する。
【0032】
より詳しくは、例えば、上記物理量を、回転速度に対して十分に小さいサンプリング周期で測定することにより時系列データを得る。そして、当該時系列データを周波数分析する。固着の生じていない場合、周波数分析した結果のグラフにおいて、チェーンピッチに相当する周波数成分のみが表れる。一方で、固着が生じている場合、チェーンCHに固着が生じている部分が駆動スプロケットSP1を通過するタイミングでは、周波数分析した結果のグラフにおいて、スクレーパピッチに相当する周波数成分のピークが出現する。スクレーパピッチに相当する周波数成分のピーク強度を用いて例えば閾値判定を行うことにより、チェーンの固着による異常の有無を判定することができる。チェーンの固着とスクレーパピッチとの関係について、より詳しくは、具体例を挙げて後述する。
【0033】
(システム構成)
図5は、チェーンコンベアシステム100の一構成例を示すブロック図である。図5に示すように、本実施形態におけるチェーンコンベアシステム100は、コンベア80およびコンベア駆動装置81に加えて、異常検出装置1を備えている。
【0034】
コンベア駆動装置81は、制御装置70を有している。制御装置70は、コンベア駆動装置81の外部に設けられていてもよく、例えば、コンベア駆動装置81よりも上位のコンピュータ(例えば制御システム)に含まれていてもよい。
【0035】
制御装置70からの電気信号に基づいてモータMTが駆動する。モータMTの回転が、動力伝達機構PTを介して駆動スプロケットSP1に伝達される。駆動スプロケットSP1の回転によりチェーンCHを移動させることができる。
【0036】
異常検出装置1は、チェーンCHの異常を検出する。異常検出装置1は、取得部11と検出部12とを有する。異常検出装置1は、特定部13をさらに有していてよい。
【0037】
取得部11は、駆動スプロケットSP1の回転に伴って当該駆動スプロケットSP1において生じる物理量を取得する。したがって、取得部11は、当該物理量の時系列データを取得する。本実施形態では、物理量としてモータ電流値を取得する例について説明する。取得部11は、例えば、上記時系列データを、制御装置70から取得してもよく、モータMTのケーブルに取り付けたセンサ(図示省略)から取得してもよい。或いは、例えばデータロガーを用いて上記時系列データを取得することもできる。
【0038】
検出部12は、取得部11から上記時系列データを取得する。検出部12は、上記時系列データから物理量(モータ電流値)の周波数成分を導出してよい。検出部12は、当該周波数成分のうちの注目する周波数成分(以下、注目周波数成分と称する)に基づいて、チェーンCHの異常を検出することができる。
【0039】
実施形態1の例では、注目周波数成分は、スクレーパSKの、チェーンCHに対する設置位置に対応する周波数成分である。一例として、検出部12は、注目周波数成分の強度の経時的変化に基づいて、当該注目周波数成分の強度の数値が所定の閾値に達する時期を予測してよい。この場合、制御装置70は、検出器DTとして機能してよく、検出部12は、取得部11を介して、制御装置70から上記数値の時系列データを取得してよい。そして、検出部12は、上記数値の時系列データに基づいて、チェーンCHの異常を検出してよい。したがって、例えば、検出部12は、スクレーパSKの設置位置に対応する周波数成分の有無または強度に基づいて、チェーンCHの異常を検出してよい。検出部12における処理について、以下に説明する。
【0040】
図6は、駆動スプロケットSP1の回転に伴って駆動スプロケットSP1において生じる物理量を反映した数値の時系列データの一例を示すグラフである。図6では、上記物理量を反映した数値をモータ電流値とする例について示しており、図6の縦軸はモータ電流値を表している。
【0041】
検出部12は、取得部11を介して、制御装置70からモータ電流値の時系列データを取得してよい。図6の例では、所定のサンプリング周期Ts(単位:s)によって、24h(時間)に亘り電流を検出した結果を示している。
【0042】
図6の例では、
・チェーンCHの全長:60m
・コンベアライン速度(コンベア80の搬送速度):0.85m/min(分)
・スクレーパピッチ(複数のスクレーパSKのそれぞれの間隔):1m
・チェーンピッチ:0.25m
に設定されている。チェーンピッチは、チェーンCHにおける或るローラから隣りのローラまでの間隔に対応する。以下では、チェーンCHの全体においてスクレーパピッチが均等である(スクレーパSKが均等に配置されている)例について説明する。
【0043】
コンベアライン速度は、チェーンCHの移動速度(あるいは、スクレーパSKの移動速度)と読み換えることができる。
【0044】
検出部12は、モータ電流値の時系列データに対して周波数分析を行ってよい。例えば、検出部12は、モータ電流値の時系列データに対してFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理を行ってよい。
【0045】
サンプリング周期Tsは、
Ts≦CH_PITCT/(V_CONV×2)…(1)
を満たしていてよい。CH_PITCTは、チェーンピッチ(単位:m)であり、V_CONVはコンベアライン速度(単位:m/s)である。式(1)の右辺における2という係数は、FFTによってサンプリング周波数の1/2までの周波数帯域のスペクトル情報を得ることを意図して設定されている。
【0046】
図6の例では、CH_PITCT=0.25m、V_CONV=0.85m/min≒0.0142m/sである。したがって、Ts≦8.80sに設定されていればよい。これにより、FFT処理を適切に行い易くできる。図6の例では、Ts=1sに設定されている。したがって、取得部11は、1秒ごとに電流値をサンプリングしてよい。
【0047】
続いて、検出部12は、所定の長さTw(単位:s)を有する時間窓400を用いて、時系列データの一部の区間を抽出してよい。Twは、時間窓長とも称される。FFT処理における窓関数の例としては、ハニング窓、レクタンギュラ窓、およびフラットトップ窓を挙げることができる。実施形態1の例における窓関数は、ハニング窓である。
【0048】
FFT処理のためには、データ数(サンプリング点の個数)nは、2の累乗と等しい値に設定されることが望ましい。このことから、Ts=1sという条件下におけるTwは、Tw=2と表される。
【0049】
そして、Ts=1sという条件下における時間窓長の最小値Tw(min)は、例えば、
Tw(min)=2n1≧(SK_PITCT×2)/V_CONV …(2)
と表される。n1は、Tw(min)に対応するデータ数である。SK_PITCTは、スクレーパピッチである。
【0050】
一例として、Ts=1sという条件下における時間窓長の最大値Tw(max)は、式(2)の最右辺の値の5倍を超えないように設定されていてよい。この場合、Tw(max)は、
Tw(max)=2n2≦(SK_PITCT×10)/V_CONV …(3)
と表される。n2は、Tw(max)に対応するデータ数である。当然ながら、n2は、n1より大きい任意の自然数である。
【0051】
図6の例では、nは、n1以上かつn2以下の値に設定されていればよい。このようにnを設定することにより、Twを、Tw(min)以上かつTw(max)以下の値に設定できる。図6の例では、SK_PITCH=1mであるので、式(2)の最右辺の値は、約140sである。したがって、式(3)の最右辺の値は、約700sである。
【0052】
このことから、図6の例では、n1=8、n2=9に設定すれば、上述の式(2)および(3)が満たされる。そこで、図6の例では、ユーザによってn=9に設定されている。それゆえ、図6の例では、検出部12は、n=9という設定値に従って、Tw=512sとしてTwを設定する。
【0053】
検出部12は、所定のオーバラップ率に従って、時間窓400を用いて抽出した時系列データの一部(以下、抽出後時系列データ)から、FFT対象データを生成してよい。実施形態1では、オーバラップ率が50%に設定されている場合を例示する。
【0054】
図7は、オーバラップ率とFFT対象データとの関係について説明するための図である。図7における符号501、502、および503はそれぞれ、オーバラップ率50%にて生成されたFFT対象データ内の1番目、2番目、および3番目のスロット(タイムスロット)の例を示す。以下の説明では、FFT対象データの1スロット長をTFと表す。また、図7では、開始時点(初期時点)を0とし、TFは、時間窓400の時間窓長Twと同じ値(512s≒8.5min)である。
【0055】
まず、符号501に示す通り、検出部12は、開始時点からTFまでの期間における抽出後時系列データを、FFT対象データの1番目のスロットとして取得する。FFT対象データ内の1つのスロットの終了時点は、開始時点に対してTFだけ後の時点である。
【0056】
以下、1つのスロットにおける開始時点と終了時点との平均時点を、中央時点と称する。そして、1つのスロットにおける開始時点から中央時点までの部分を、前半部と称する。その一方、1つのスロットにおける中央時点から終了時点までの部分を、後半部と称する。
【0057】
次いで、検出部12は、1番目のスロットの後半部をコピー(複製)する。そして、符号502に示す通り、検出部12は、コピーした1番目のスロットの後半部を、2番目のスロットの前半部として割り当てる。このため、2番目のスロットは、半スロット長(スロット長の50%の期間)に亘り、1番目のスロットとオーバラップしている。続いて、検出部12は、時点TFからTF×3/2までの期間における抽出後時系列データを、2番目のスロットの後半部として取得する。
【0058】
次いで、検出部12は、2番目のスロットの後半部をコピーする。そして、符号503に示す通り、検出部12は、コピーした2番目のスロットの後半部を、3番目のスロットの前半部として割り当てる。このため、3番目のスロットは、半スロット長に亘り、2番目のスロットとオーバラップしている。続いて、検出部12は、時点TF×3/2からTF×2までの期間における抽出後時系列データを、3番目のスロットの後半部として取得する。以上の通り、オーバラップ率50%の場合、抽出後時系列データのデータが半スロット長ごとに漸進的に取得される。
【0059】
検出部12は、上記の通り生成したFFT対象データに対して、窓関数(例:ハニング窓)を用いたFFTを施すことにより、モータ電流値の周波数スペクトルを導出してよい。図8は、図6に示す例のモータ電流値の時系列データを用いて、検出部12によって導出された周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
【0060】
図8のグラフにおける横軸および縦軸はそれぞれ、周波数スペクトルにおける換算周波数および強度を表す。図8のグラフにおける強度は、電流波形の振幅を表す指標として用いられてよい。図8のグラフにおける換算周波数は、単位時間あたりの変動回数(周波数)を、スクレーパ1ピッチあたりの変動回数に換算した値である。具体的には、FFT後のデータ(横軸単位:1/min)をライン速度(m/min)で割ることにより単位長さあたりの変動回数を求め、その結果をスクレーパピッチ(1/m)でさらに割ることにより、スクレーパ1ピッチあたりの変動回数を求めることができる。図8の例では、1という換算周波数は、スクレーパピッチ(1m)に対応している。
【0061】
前述のような図6の例において、ライン速度が0.85(m/min)であるため、512sという時間窓長Twの範囲内には7~8個のスクレーパSKが位置している。窓関数としてハニング窓を用いる場合、各スロットの両端に近づくにつれてデータがゼロに近づくような重み関数(窓関数)を用いることになる。そのため、スロットの両端部におけるスクレーパSKの情報はFFT結果に反映されない。よって、各スロットにおけるFFT結果には、上記中央時点に位置するスクレーパSKの特徴が有効に反映される。
【0062】
以上に説明したことについて、整理すると以下のとおりである。すなわち、チェーンCHのうち時間窓長Twに相当する長さの部分に複数のスクレーパSK(例えば3個以上、典型的には5~7個程度)が含まれるように、時間窓長Twを設定することができる。上記の例では、ライン速度が0.85m/minであり、時間窓長Twの512s(約8.5min)に相当するチェーンCHの長さは7.25mであるため、時間窓長Twの期間に7.25個のスクレーパSKが含まれることになる。
【0063】
ハニング窓またはフラットトップ窓等の窓関数(上記の例ではハニング窓)を用いてFFT解析した結果のグラフには、時間窓長Twのスロットにおける中央時点付近に相当するスクレーパSK、すなわち7.25個のスクレーパSKのうちの3.6番目(四捨五入して4番目)のスクレーパSKの特徴が有効に反映される。
【0064】
そして、時系列データについて、例えば、オーバラップ率を50%として、時間窓長Tw毎に各スロットを分析する。これにより、例えば解析対象の時系列データが1番目のスクレーパSKから開始しているとすると、3.6番目毎(四捨五入により、例えば4番目、7番目、11番目、14番目・・・)のスクレーパSKについて、周波数分析結果に基づいて固着の有無を判定することができる。周回するチェーンCHの1周目では分析対象とならなかったスクレーパSK(例えば1~3番目、5、6番目、・・・)については、チェーンCHの2週目以降(の時期)に上記スロットの中央時点に位置するため、チェーンCHの2週目以降に分析対象とすることができる。
【0065】
上記のことから、チェーンコンベアシステム100では、チェーンCHに設置されているスクレーパSKの総数X(上記の例では60個)が、分析対象となるスクレーパSKの個数間隔Y(上記の例では3.6個)の整数倍とならない(上記総数Xを上記間隔Yで割り切れない)ように設定されていてよい。時系列データにおける或る程度の期間(上記の例ではチェーンCHの3周分)を分析することにより、全てのスクレーパSKについて分析対象とすることができる。チェーンコンベアシステム100は、上記総数Xと個数間隔Yとが最小公倍数(上記の例では180)を有する関係となるようになっていてもよい。
【0066】
オーバラップ率は必ずしも50%に限定されず、適宜設定されてよい。オーバラップ率を大きく設定するほど、環状のチェーンCHの各部分について固着の有無を判定する個数間隔が短くなり得るが、検出部12の時間当たりの計算量(負荷)が増加する。オーバラップ率を小さく設定するほど、環状のチェーンCHの各部分について固着の有無を判定する間隔が大きくなり、全てのスクレーパSKを分析対象とするために要する時間が増大する。
【0067】
図8の符号810を付したグラフに示すように、チェーンCHに固着が生じていない場合、換算周波数4.00の位置に顕著なピーク(メインピークと称する)が現れる。このピークは、チェーンピッチに対応するピークであることから、チェーンCHに固着が生じているか否かに関わらず出現する。
【0068】
一方、図8の符号820を付したグラフに示すように、チェーンCHに固着が生じている場合、メインピークに加え、周波数スペクトルの第1のピーク(換算周波数が1の位置におけるピーク)が出現する。周波数スペクトルの第2のピーク(換算周波数が2の位置におけるピーク)は、上記第1のピークの出現に伴って現れる傾向にある。
【0069】
本実施形態におけるチェーンコンベアシステム100では、上記第1のピークを注目周波数成分とすることができる。また、上記第1のピークおよび上記第2のピークを注目周波数成分としてもよい。つまり、注目周波数成分は、スクレーパSK(付随部材)の、チェーンCHに対する設置位置に対応する周波数成分であってよい。
【0070】
検出部12は、注目周波数成分の有無または強度に基づいてチェーンCHの異常を検出してよい。注目周波数成分の有無とは、上記周波数スペクトルにおいて注目周波数成分のピークが存在するか否かを意味する。ピークが存在するか否かは、上記周波数スペクトルにおいて、ベースラインのノイズと区別可能であるかによって判定されてよく、或いは、ピーク強度が所定の閾値を超えるか否かによって判定されてよい。
【0071】
例えば、検出部12は、注目周波数成分のピークが存在しない場合には、チェーンCHが正常状態にある(チェーンCHに異常が生じていない)と判定してよく、注目周波数成分のピークが存在している場合には、チェーンCHに異常が生じていると判定してよい。
【0072】
別の例として、検出部12は、注目周波数成分が所定の閾値を下回っている場合には、チェーンCHが正常状態にあると判定してもよい。この場合、検出部12は、注目周波数成分が当該閾値以上である場合に、チェーンCHに異常が生じていると判定してよい。
【0073】
検出部12は、周波数分析を行うことによって、複数のスクレーパSKのそれぞれについて、チェーンCHの固着傾向を示す指標を導出してよい。図9は、検出部12によって導出された当該指標の一例を示す。例えば、チェーンCHには、基準位置が予め定められていてよく、図9の例では、チェーンCHの全長が60mであり、スクレーパピッチが1mの条件下で60個のスクレーパSKが配置されている。そして、図9の例では、チェーンCHの基準位置に基づいて、60個のスクレーパSKのそれぞれに1~60のスクレーパ番号が付与されている。チェーンCHの基準位置はユーザにより適宜設定可能であり、チェーンCHの基準位置を設定する具体的な手法は特に限定されない。
【0074】
図9の例では、検出部12は、24時間に亘る時系列データの全体に対し、前述のように時間窓長Twを512sとして、オーバラップ率50%でのFFT処理を行う。そして、検出部12は、スクレーパ番号1~60のそれぞれについて、換算周波数1における強度(第1強度)を導出する。換算周波数が2の位置におけるピーク(上述の第2のピーク)は、換算周波数が1の位置におけるピーク(上述の第1のピーク)が出現するときには現れる傾向があるため、換算周波数2における強度(第2強度)を考慮しなくてもよい。第1強度および第2強度は、チェーンCHの固着傾向を示す指標の一例である。第1強度は上述の第1のピークにおけるピーク強度であってよく、第2強度は上述の第2のピークにおけるピーク強度であってよい。図9のグラフでは、24時間に亘る時系列データの全体に対して計算された全データが示されているので、1つのスクレーパ番号に対して、複数の第1強度がプロットされている。
【0075】
図9の例において、大部分のデータ点は、指標0付近の位置に偏在している。或るデータ点の指標が小さい(例:0に近い)ことは、当該データ点に対応するチェーンCHの部分において注目周波数成分の強度が小さいことを意味し、チェーンCHにおける当該部分は正常状態にあることを示唆している。
【0076】
その一方、或るデータ点の指標が大きいことは、当該データ点に対応するチェーンCHの部分において注目周波数成分の強度が大きいことを意味し、チェーンCHにおける当該部分に異常が生じていることを示唆している。
【0077】
そこで、特定部13は、データ点の指標に基づいて、チェーンCHの固着位置を特定してよい。例えば、特定部13は、或るデータ点の指標が所定の閾値以上である場合に、当該データ点に対応する位置においてチェーンCHに固着が生じていると判定してよい。上述のように、図9に示すデータ点は、スクレーパ番号に対応している。図9の例では、所定の閾値は0.10に設定されている。
【0078】
一例として、図9における点P_ab2(スクレーパ番号2に対応する複数の点のうち、最も高い指標を有する点)は、0.10よりも高い指標を有している。したがって、特定部13は、点P_ab2を異常点として特定する。そして、特定部13は、点P_ab2が検出された時点において、チェーンCHにおけるスクレーパ番号2の位置に固着が生じていると特定してよい。
【0079】
また、別の例として、図9における点P_ab42(スクレーパ番号42に対応する複数の点のうち、最も高い指標を有する点)も、0.10よりも高い指標を有している。したがって、特定部13は、点P_ab42を異常点として特定する。そして、特定部13は、点P_ab42が検出された時点において、チェーンCHにおけるスクレーパ番号42の位置に固着が生じていると判定してよい。
【0080】
以上のように、特定部13は、(i)所定の閾値を超えた注目周波数成分の発生タイミングと、(ii)基準位置と、に基づいて、チェーンCHの固着位置を特定してよい。
【0081】
ここで、チェーンCHにおいて、互いに連結された複数のリンク部材LKのうち、複数のスクレーパSKがそれぞれ設置されているリンク部材LK(図2を参照)を第1のリンク部材LK1と称する。複数の第1のリンク部材LK1は、複数のスクレーパSKと1対1に対応していてよい。そして、チェーンCHの移動方向(搬送方向D1)において複数の前記第1のリンク部材LK1のそれぞれの直前に位置するリンク部材LKを第2のリンク部材LK2と称する。上記「直前に位置する」とは、以下のことを意味する。すなわち、例えば搬送方向D1に直交する仮想的な1つの面(仮想面)を任意の位置に設定した場合に、チェーンCHが搬送方向D1に移動することによって当該仮想面を第1のリンク部材LK1が通過するタイミングよりも時間的な直前に、第2のリンク部材LK2が当該仮想面を通過することを意味する。
【0082】
第1のリンク部材LK1および第2のリンク部材LK2の具体例について、図2および図3を再び参照して説明する。図2および図3に示す例では、第1のリンク部材LK1は、スクレーパSKが設置された外リンクOLKである。第2のリンク部材LK2は、スクレーパSKが設置された外リンクOLKに連結されているとともに、搬送方向D1における下流側(図2および図3における紙面左側)に位置する内リンクILKである。
【0083】
本発明者らの知見によれば、チェーンCHの固着は、第1のリンク部材LK1と、第2のリンク部材LK2との連結部分において発生する傾向がある。前述のように、スクレーパSKの押出面P1は、搬送方向D1を向いており、チェーンCHとともに搬送方向D1に移動する。灰がスクレーパSKで搬送方向D1に搬送されるため、スクレーパSKの高さを上回る灰は、こぼれて上流側(図2および図3における紙面右側))のスクレーパSKで搬送される。第1のリンク部材LK1に設置されているスクレーパSKを乗り越えた際の灰は、第1のリンク部材LK1の連結部分に被ることが多い。例えば、図2に示すようなスクレーパSKの形状および設置態様においては、第1のリンク部材LK1に設置されているスクレーパSKを乗り越えた際の灰が、第1のリンク部材LK1とその直前の第2のリンク部材LK2との連結部分に被ることが多い。図2および図3に示す例では、上記連結部分は、スクレーパSKの押出面P1の幅方向における両端のそれぞれの近傍に位置している。押出面P1の幅方向とは、押出面P1におけるテーブルTBからの高さ方向、および搬送方向D1の両方に直交する方向である。典型的には、押出面P1の幅方向は、長手方向であってよい。
【0084】
そこで、特定部13は、複数の第1のリンク部材LK1に対応する周波数成分の強度に基づいて、前述のように例えばスクレーパSKのスクレーパ番号によって複数の第1のリンク部材LK1を区別することで、複数の第1のリンク部材LK1のうち、第2のリンク部材LK2との連結部分において異常が発生している第1のリンク部材LK1を特定してよい。
【0085】
また、特定部13が、異常が発生している第1のリンク部材LK1を、以下のように特定してもよい。すなわち、チェーンCHの移動方向(搬送方向D1)において複数の前記第1のリンク部材LK1のそれぞれの直後に位置するリンク部材LKを第3のリンク部材LK3と称する。第3のリンク部材LK3は、スクレーパSKが設置された外リンクOLKに連結されているとともに、搬送方向D1における上流側(図2および図3における紙面右側)に位置する内リンクILKである。スクレーパSKの形状および設置態様によっては、第1のリンク部材LK1に設置されているスクレーパSKを乗り越えた際の灰が、第1のリンク部材LK1とその直後の第3のリンク部材LK3との連結部分に被ることが多い。特定部13は、複数の第1のリンク部材LK1に対応する周波数成分の強度に基づいて、前述のように例えばスクレーパSKのスクレーパ番号によって複数の第1のリンク部材LK1を区別することで、複数の第1のリンク部材LK1のうち、第3のリンク部材LK3との連結部分において異常が発生している第1のリンク部材LK1を特定してよい。
【0086】
(チェーンコンベアシステムの利点)
以上のように、本実施形態におけるチェーンコンベアシステム100によれば、チェーンCHの固着を検出することができる。そのため、チェーンCHの固着によってチェーンCHに破断が生じる可能性を低減できる。その結果、コンベア80の駆動を停止する事態を防止できる。また、固着箇所を特定することにより、メンテナンス時間を短縮できる。固着が生じる可能性がある箇所を特定することによれば、チェーンCHに固着が生じる前に、保全対策を講じることもできる。
【0087】
(異常検出方法)
上述のようなチェーンコンベアシステム100において行われる異常検出処理に対応する、異常検出方法についても本発明の範疇に入る。このことは、例えば以下のように整理することができる。
【0088】
本発明の一実施形態における異常検出方法は、コンベア80の駆動に用いられる左右一対のチェーンCHを周回させるスプロケット(例えば駆動スプロケットSP1)の回転に伴って上記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得工程と、上記取得工程にて取得した上記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目周波数成分に基づいてチェーンCHの異常を検出する検出工程と、を含む。上記注目周波数成分は、チェーンCHに対して設けられる付随部材(例えばスクレーパSK)の、チェーンCHに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【0089】
上記検出工程では、チェーンCHの異常を検出するとともに、前述のように例えばスクレーパSKのスクレーパ番号に基づいて、チェーンCHにおける異常が発生している部分(例えば上記第1のリンク部材LK1)の位置を特定してもよい。
【0090】
(その他の構成例)
(a)搬送対象物は、灰に限定されない。チェーンCHに固着が生じるような使用態様において、チェーンコンベアシステム100は、チェーンCHの固着を効果的に検出することができる。
【0091】
(b)コンベア駆動装置81は、コンベア80を駆動可能であればよく、具体的な構成は特に限定されない。駆動スプロケットSP1の回転に伴って駆動スプロケットSP1において生じる物理量の情報が取得可能であればよい(具体的には後述の実施形態2を参照)。
【0092】
〔実施形態2〕
別の一実施形態におけるチェーンコンベアシステム100について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明したコンポーネント(構成要素)と同じコンポーネントを有する部材については、以降の各実施形態では同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0093】
チェーンコンベアシステム100は、検出器DTをさらに備えていてよい。検出器DTは、スプロケットSPの回転に必要な力の変化を反映した数値を検出してよく、当該数値の経時的変化を示すデータ(当該数値の時系列データ)を取得してよい。取得部11は、検出器DTから、当該数値の時系列データを取得してよい。
【0094】
例えば、スプロケットSPの回転に必要な力は、モータMTからスプロケットSPに供給されるトルク(モータトルク)であってよい。一般的に、モータトルクは、モータMTに供給される電流に応じて変化する。このことから、電流値に基づいて、モータトルクを検出してもよい。検出器DTは、電流を検出する電流センサであってよい。例えばモータMTがインバータモータである場合、取得部11は、制御盤から電流値を取得してもよい。モータMTが汎用モータである場合、クランプ式電流計を用いて2次側電流を検出することもできる。三相誘導電動機の等価回路の場合、2次側にクランプ式電流計を設けて電流値を計測すればよい。
【0095】
また、モータトルクが増加した場合には、モータMTまたは関連するコンポーネントに生じる振動(以下、単に振動と称する)が増加しうる。したがって、振動は、スプロケットSPの回転に必要な力の変化を反映した数値の別の例である。このため、検出器DTは、振動を検出する振動センサであってもよい。
【0096】
一例として、モータMTは、モータMTとスプロケットSPとの接続部に、当該スプロケットSPの荷重を支える軸受を有していてよい。この場合、軸受に生じる振動は、モータトルクに対してある程度高い相関を有していると期待される。そこで、上記振動センサは、軸受に取り付けられていてよい。
【0097】
ただし、振動センサが取り付けられる位置は、上記の例に限定されない。別の例として、モータMTのフレームに、振動センサが取り付けられていてもよい。この場合、振動センサを軸受に取り付ける場合に比べ、振動センサの取り付け作業が容易化される。
【0098】
さらに別の例として、スプロケットSPの回転に必要な力の変化を反映した数値としてモータトルクを用いる場合、検出器DTは、モータトルクを検出するトルクメータであってもよい。
【0099】
以上のように、スプロケットSPの回転に必要な力を示す値(例えばモータトルク値)またはモータMT等に関連して生じる振動(例えばスプロケットSPの周辺の振動)を測定対象とする時系列データからも周波数成分を得ることができる。そして、当該周波数成分のうちの注目周波数成分に基づいてチェーンの異常を検出することができる。
【0100】
〔ソフトウェアによる実現例〕
チェーンコンベアシステム100(以下では便宜上、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に、異常検出装置1に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(異常検出プログラム)により実現することができる。
【0101】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0102】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0103】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0104】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0105】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るチェーンコンベアシステムは、コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンと、前記チェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部、および、前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部を有する異常検出装置と、を備え、前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【0106】
本発明の態様2に係るチェーンコンベアシステムでは、前記態様1において、前記取得部は、前記スプロケットの回転に必要な力の変化を反映した数値の経時的変化を示すデータを取得し、前記検出部は、前記付随部材の設置位置に対応する周波数成分の有無または強度に基づいて前記チェーンの異常を検出してよい。
【0107】
本発明の態様3に係るチェーンコンベアシステムでは、前記態様1または2において、前記チェーンは、複数のリンク部材が連結されてなるものであり、前記付随部材として複数のスクレーパが前記複数のリンク部材に対して予め定められたパターンで設置されていてよい。
【0108】
本発明の態様4に係るチェーンコンベアシステムでは、前記態様3において、前記チェーンに基準位置が予め定められており、前記異常検出装置は、所定の閾値を超えた前記注目する周波数成分の発生タイミングと、前記基準位置とに基づいて、前記チェーンの固着位置を特定する特定部をさらに備えていてよい。
【0109】
本発明の態様5に係るチェーンコンベアシステムでは、前記態様4において、前記チェーンは、複数の前記スクレーパがそれぞれ設置されている複数の第1のリンク部材と、前記チェーンの移動方向において複数の前記第1のリンク部材のそれぞれの直前に位置する複数の第2のリンク部材とを有し、前記特定部は、前記第1のリンク部材に対応する周波数成分の強度に基づいて、複数の前記第1のリンク部材のうち、前記第2のリンク部材との連結部分において異常が発生している前記第1のリンク部材を特定してよい。
【0110】
本発明の態様6に係るチェーンコンベアシステムでは、前記態様1から5のいずれか1つにおいて、前記検出部は、前記注目する周波数成分の強度の経時的変化に基づいて、当該注目する周波数成分の強度が所定の閾値に達する時期を予測してよい。
【0111】
本発明の態様7に係るチェーンコンベアシステムは、前記態様1から6のいずれか1つにおいて、前記スプロケットの回転に必要な力の変化を反映した数値を検出する検出器をさらに備えていてよい。
【0112】
本発明の態様8に係る異常検出装置は、コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンを周回させるスプロケットの回転に伴って前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出部とを備え、前記注目する周波数成分は、前記チェーンに対して設けられる付随部材の、前記チェーンに対する設置位置に対応する周波数成分である。
【0113】
本発明の態様9に係る異常検出プログラムは、前記態様8に記載の異常検出装置としてコンピュータを機能させるための異常検出プログラムであって、前記取得部および前記検出部としてコンピュータを機能させてよい。
【0114】
本発明の態様10に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、前記態様9に記載の異常検出プログラムを記録していてよい。
【0115】
本発明の態様11に係る異常検出方法は、コンベアの駆動に用いられる左右一対のチェーンを周回させるスプロケットを回転させる際に前記スプロケットにおいて生じる物理量を取得する取得工程と、前記取得工程にて取得した前記物理量の時系列データから得られる周波数成分のうちの注目する周波数成分に基づいて前記チェーンの異常を検出する検出工程とを含み、前記注目する周波数成分は、前記チェーンの構成部材の設置位置に対応する周波数成分である。
【0116】
〔付記事項〕
本発明の一態様は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1 異常検出装置
11 取得部
12 検出部
13 特定部
80 コンベア
81 コンベア駆動装置
100 チェーンコンベアシステム
CH チェーン
SP スプロケット
SK スクレーパ(付随部材)
LK リンク部材
LK1 第1のリンク部材
LK2 第2のリンク部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9