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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092598
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240701BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240701BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
G03G9/08 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208646
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】和泉谷 勇太
(72)【発明者】
【氏名】神吉 伸通
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA08
2H500BA03
2H500CA06
2H500CA08
2H500EA39B
2H500EA41B
(57)【要約】
【課題】耐久性と耐擦過性に優れた静電荷像現像用トナー及びその製造方法に関すること。
【解決手段】結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナー、並びに結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、工程1:少なくとも前記結着樹脂と前記離型剤を溶融混練する工程、及び工程2:工程1で得られた溶融混練物を、粉砕及び分級する工程を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
複合樹脂Xにおける水添テルペンフェノール樹脂のポリエステル樹脂の原料モノマーに対する質量比が、5/95以上40/60以下である、請求項1記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
複合樹脂Xが非晶質樹脂である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
工程1:少なくとも前記結着樹脂と前記離型剤を溶融混練する工程、及び
工程2:工程1で得られた溶融混練物を、粉砕及び分級する工程
を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トナーに用いられる新たな樹脂材料として、テルペンフェノール樹脂が検討されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-196504号公報
【特許文献2】特開2019-28261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テルペンフェノール樹脂は、ワックス(離型剤)との馴染みが良好であるため耐久性の向上に有効であり、さらに表面張力が低いため滑り性が高く、印刷物の耐擦過性を向上する作用が期待できる。しかしながら、テルペンフェノール樹脂を、結着樹脂として汎用されているポリエステル樹脂と単純に混合しても、ポリエステル樹脂中のテルペンフェノール樹脂の分散不良が生じ、上記の効果が発現し難いという課題がある。
【0005】
本発明は、耐久性と耐擦過性に優れた静電荷像現像用トナー及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナー、並びに
〔2〕 結着樹脂及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
工程1:少なくとも前記結着樹脂と前記離型剤を溶融混練する工程、及び
工程2:工程1で得られた溶融混練物を、粉砕及び分級する工程
を含む、静電荷像現像用トナーの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の静電荷像現像用トナーは、耐久性と耐擦過性において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーは、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む複合樹脂Xを含有する結着樹脂と、離型剤とを含有するものであり、詳細は不明なるも、以下のメカニズムにより本発明の効果が奏されるものと推察される。
【0009】
テルペンフェノール樹脂は、ポリエステル樹脂の原料モノマーとの反応性が低く樹脂への複合化が困難である。しかしながら、本発明では、テルペンフェノール樹脂に水素付加した水添テルペンフェノール樹脂を用いることでポリエステル樹脂との複合化が容易になり、テルペンフェノール樹脂とポリエステル樹脂を単純に混合しただけでは得られない効果が奏されることを見出した。即ち、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂を重縮合し、複合化することで、ポリエステル樹脂中に水添テルペンフェノール樹脂が均一に存在した状態となる。その結果、水添テルペンフェノール樹脂と馴染みの良いワックス(離型剤)も同様にポリエステル樹脂中に均一に存在することが可能となり、トナーの耐久性が向上する。さらに、滑り性が高い水添テルペンフェノール樹脂がトナー中に均一に存在した状態となることで印刷物の耐擦過性が向上する。
【0010】
複合樹脂Xは、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物を含む。
【0011】
複合樹脂Xは、非晶質樹脂であっても、結晶性樹脂であってもよいが、耐久性の観点から、非晶質樹脂であることが好ましい。
【0012】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最大ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。
結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である。
一方、非晶質樹脂は、吸熱ピークが観測されないか、観測される場合は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。
樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最大ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0013】
以下に、複合樹脂Xが非晶質樹脂(非晶質複合樹脂AX)である態様(第一の態様)と結晶性樹脂(結晶性複合樹脂CX)である態様(第二の態様)について、それぞれ説明する。
【0014】
第一の態様において、ポリエステル樹脂の原料モノマーは、耐久性の観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分であることが好ましい。
【0015】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、式(I):
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、OR及びROはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン基及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である)
で表される化合物が好ましい。
【0018】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0019】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0020】
他のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0021】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、低温定着性の観点から、テレフタル酸又はイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、耐熱保存性の観点から、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0023】
他のカルボン酸成分としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、炭化水素基で置換されたコハク酸誘導体、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸、これらの酸の無水物、これらの酸の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0024】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0025】
なお、本明細書において、マクロモノマーやヒドロキシカルボン酸は、アルコール成分及びカルボン酸成分には含めない。
【0026】
カルボン酸成分のカルボキシ基のアルコール成分の水酸基に対する当量比(COOH基/OH基)は、ポリエステル樹脂の軟化点を調整する観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.75以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.15以下である。
【0027】
本明細書において、水添テルペンフェノール樹脂とは、テルペンモノマーとフェノールを共重合したテルペン樹脂を水素添加した樹脂を指す。
【0028】
テルペンモノマーとしては、α-ピネン、β-ピネン及びリモネンからなる群より選ばれた少なくとも1種のモノテルペン類が好ましい。
【0029】
例えば、α-ピネンとフェノールを共重合したテルペンフェノール樹脂を水素添加した水添テルペンフェノール樹脂は、式(II):
【0030】
【化2】
【0031】
で表される繰り返し単位を有する樹脂である。
【0032】
水添テルペンフェノール樹脂の市販品としては、YSポリスターUH115(ヤスハラケミカル社製)等が挙げられる。
【0033】
水添テルペンフェノール樹脂の軟化点は、耐久性を向上する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、そして、低温定着性を向上する観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
【0034】
水添テルペンフェノール樹脂のガラス転移温度は、転写性の観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0035】
水添テルペンフェノール樹脂の重量平均分子量は、転写性の観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、さらに好ましくは2,000以下である。
【0036】
水添テルペンフェノール樹脂の水酸基価は、転写性を向上する観点から、好ましくは5mg/KOH以上、より好ましくは10mg/KOH以上、さらに好ましくは15mg/KOH以上であり、そして、好ましくは200mg/KOH以下、より好ましくは160mg/KOH以下、さらに好ましくは120mg/KOH以下、さらに好ましくは80mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。
【0037】
ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物は、ポリエステル樹脂の原料モノマーとしてアルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させる際に、これらの原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂をともに用い、重縮合反応に供することで得られる。
【0038】
アルコール成分とカルボン酸成分は、不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは160℃以上、より好ましくは200℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させることができる。
【0039】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0040】
複合樹脂Xにおける水添テルペンフェノール樹脂のポリエステル樹脂の原料モノマーに対する質量比(水添テルペンフェノール樹脂/ポリエステル樹脂の原料モノマー)は、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、さらに好ましくは15/85以上であり、そして、好ましくは40/60以下、より好ましくは30/70以下、さらに好ましくは25/75以下である。
【0041】
非晶質複合樹脂AXは、さらに、スチレン系樹脂の原料モノマーを用いて得られる樹脂であってもよい。
【0042】
スチレン系樹脂の原料モノマーは、少なくとも、スチレン、又はα-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体(以下、スチレンとスチレン誘導体をまとめて「スチレン化合物」という)を含む。
【0043】
スチレン化合物、好ましくはスチレンの含有量は、スチレン系樹脂の原料モノマー中、保存性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、低温定着性の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0044】
また、スチレン系樹脂は、原料モノマーとしてアルキル基の炭素数が7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含んでも良い。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸(イソ)オクチル、(メタ)アクリル酸(イソ)デシル、(メタ)アクリル酸(イソ)ステアリル等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。なお、本明細書において、「(イソ)」は、この基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸、メタクリル酸、又はその両者を示す。
【0045】
スチレン系樹脂の原料モノマーとしての(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数をいう。
【0046】
スチレン系樹脂の原料モノマーには、スチレン化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の原料モノマー、例えば、エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸エステル;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が含まれていてもよい。
【0047】
スチレン系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、ジブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の重合開始剤、連鎖移動剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件としては、好ましくは110℃以上、より好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0048】
付加重合反応の際に有機溶媒を使用する場合、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。有機溶媒の使用量は、スチレン系樹脂の原料モノマー100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0049】
非晶質複合樹脂AXにおいて、ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂とは、ポリエステル樹脂の原料モノマーとスチレン系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る両反応性モノマーを介して化学的に結合した樹脂であることがより好ましい。
【0050】
両反応性モノマーは、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸からなる群より選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。但し、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等のエチレン性不飽和結合を有する多価カルボン酸系化合物は、ポリエステル樹脂の原料モノマーとして機能する。この場合、フマル酸等は両反応性モノマーではなく、ポリエステル樹脂の原料モノマーである。
【0051】
両反応性モノマーの使用量は、スチレン系樹脂とポリエステル樹脂との分散性を高め、トナーの耐久性を向上させる観点から、ポリエステル樹脂のアルコール成分の合計100モルに対して、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30モル以下、より好ましくは20モル以下、さらに好ましくは10モル以下である。
また、両反応性モノマーの使用量は、スチレン系樹脂とポリエステル樹脂との分散性を高め、トナーの耐久性を向上させる観点から、スチレン系樹脂の原料モノマーの合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。ここで、スチレン系樹脂の原料モノマーの合計に重合開始剤は含める。
【0052】
スチレン系樹脂を含む非晶質複合樹脂AXは、具体的には、以下の方法により製造することが好ましい。水添テルペンフェノール樹脂は、ポリエステル樹脂の原料モノマーとともに用い、両反応性モノマーを用いる場合、両反応性モノマーは、スチレン系樹脂の原料モノマーとともに付加重合反応に用いることが好ましい。
【0053】
(i) ポリエステル樹脂の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)の後に、スチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)を行う方法
この方法では、重縮合反応に適した反応温度条件下で工程(A)を行い、反応温度を低下させ、付加重合反応に適した温度条件下で工程(B)を行う。スチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーは、付加重合反応に適した温度で反応系内に添加することが好ましい。両反応性モノマーは付加重合反応をすると共にポリエステル樹脂とも反応する。
工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上のポリエステル樹脂の原料モノマー等を重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応や両反応性モノマーとの反応をさらに進めることができる。
【0054】
(ii) スチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)の後に、ポリエステル樹脂の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)を行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(B)を行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、工程(A)の重縮合反応を行う。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
ポリエステル樹脂の原料モノマーは、付加重合反応時に反応系内に存在してもよく、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に添加してもよい。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加することで重縮合反応の進行を調節できる。
【0055】
(iii) ポリエステル樹脂の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)とスチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)とを、並行して進行する条件で反応を行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを並行して行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて架橋剤となる3価以上のポリエステル樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応をさらに行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
【0056】
上記(i)の方法においては、重縮合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合した重縮合系樹脂を用いてもよい。上記(iii)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して進行する条件で反応を行う際には、ポリエステル樹脂の原料モノマーを含有した混合物中に、スチレン系樹脂の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
【0057】
上記(i)~(iii)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
【0058】
非晶質複合樹脂AXにおけるポリエステル樹脂のスチレン系樹脂に対する質量比(ポリエステル樹脂/スチレン系樹脂)は、耐久性の観点から、好ましくは98/2以下、より好ましくは95/5以下、さらに好ましくは90/10以下であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは70/30以上、さらに好ましくは75/25以上である。なお、上記の計算において、ポリエステル樹脂の質量は、用いられるポリエステル樹脂の原料モノマーの質量から、重縮合反応により脱水される反応水の量(計算値)を除いた量であり、両反応性モノマーの量は、ポリエステル樹脂の原料モノマー量に含める。また、スチレン系樹脂の量は、スチレン系樹脂の原料モノマーと重合開始剤の合計量である。
【0059】
非晶質複合樹脂AXの軟化点は、耐熱保存性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0060】
非晶質複合樹脂AXのガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下である。
【0061】
非晶質複合樹脂AXの重量平均分子量は、耐熱保存性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは4,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは150,000以下、より好ましくは125,000以下である。
【0062】
非晶質複合樹脂AXの含有量は、結着樹脂中、低温定着性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
【0063】
第一の態様の結着樹脂は、さらに、非晶質複合樹脂AXと水添テルペンフェノール樹脂を含まない非晶質ポリエステル樹脂B1、即ち、ポリエステル樹脂の原料モノマーの重縮合物であり、水添テルペンフェノール樹脂を用いて得られる樹脂ではない非晶質ポリエステル樹脂B1を含有していることが好ましい。
【0064】
非晶質ポリエステル樹脂B1は、非晶質複合樹脂AXよりも軟化点が低い樹脂であっても高い樹脂であってもよいが、耐ホットオフセット性の観点から、非晶質複合樹脂AXよりも軟化点が高い樹脂(非晶質ポリエステル樹脂BH1)であることが好ましい。非晶質複合樹脂AXと非晶質ポリエステル樹脂B1の軟化点の差は、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは55℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下である。
【0065】
非晶質ポリエステル樹脂BH1の軟化点は、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0066】
非晶質ポリエステル樹脂BH1を含有する場合の非晶質複合樹脂AXの軟化点は、耐熱保存性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。
【0067】
非晶質ポリエステル樹脂BH1は、カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸系化合物と3価以上のカルボン酸系化合物を含有していることが好ましい点以外は、複合樹脂AXにおけるポリエステル樹脂の原料モノマーと同様の原料モノマーを用いて得られる。
【0068】
芳香族ジカルボン系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは25モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下である。
【0069】
3価以上のカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、軟化点調整の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0070】
非晶質ポリエステル樹脂BH1のガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下である。
【0071】
非晶質ポリエステル樹脂BH1の重量平均分子量は、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは30,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下である。
【0072】
非晶質ポリエステル樹脂B1の含有量は、結着樹脂中、低温定着性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0073】
非晶質複合樹脂AXの非晶質ポリエステル樹脂B1に対する質量比(非晶質複合樹脂AX/非晶質ポリエステル樹脂B1)は、好ましくは10/90以上、より好ましくは15/85以上、さらに好ましくは20/80以上であり、そして、好ましくは80/20以下、より好ましくは75/25以下、さらに好ましくは70/30以下である。
【0074】
第一の態様の結着樹脂は、低温定着性の観点から、さらに、結晶性ポリエステル樹脂C1を含有することが好ましい。
【0075】
結晶性ポリエステル樹脂C1としては、脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分の重縮合物が好ましい。
【0076】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0077】
脂肪族ジオールの炭素数は、非晶質ポリエステルと適度に相溶させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。
【0078】
また、脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性を向上させる観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有していることが好ましく、α,ω-直鎖アルカンジオールであることがより好ましい。
【0079】
脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、アルコール成分がモノアルコールを含む場合は、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下である。
【0080】
他のアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0081】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、これらの酸の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。ここで、脂肪族ジカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0082】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、疎水性の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは16以下であり、より好ましくは14以下である。
【0083】
脂肪族ジカルボン酸系化合物は、飽和脂肪族ジカルボン酸系化合物であっても、不飽和脂肪族ジカルボン酸系化合物であってもよいが、耐久性の観点から、飽和脂肪族ジカルボン酸系化合物であることが好ましい。
【0084】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、耐久性の観点から、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、カルボン酸成分がモノカルボン酸系化合物を含む場合は、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下である。
【0085】
他のカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の等の3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0086】
さらに、結晶性ポリエステル樹脂C1のアルコール成分及び/又はカルボン酸成分は、非晶質ポリエステルと適度に相溶させる観点から、1官能のモノマーを含有することが好ましい。
【0087】
アルコール成分に含まれる1官能のモノマーとしては、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の脂肪族モノアルコール等が挙げられる。
【0088】
カルボン酸成分に含まれる1官能のモノマーとしては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族モノカルボン酸、これらの酸のアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等の脂肪族モノカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0089】
1官能のモノマーは、疎水性の観点から、脂肪族モノカルボン酸系化合物及び/又は脂肪族モノアルコールを含有することが好ましい。
【0090】
脂肪族モノアルコールの炭素数は、疎水性の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。
【0091】
脂肪族モノカルボン酸系化合物の炭素数は、疎水性の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは12以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは22以下であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。ここで、脂肪族モノカルボン酸系化合物がアルキルエステルである場合のアルキル基の炭素数は、上記炭素数には含めない。
【0092】
1官能のモノマーの含有量は、原料モノマー中(アルコール成分とカルボン酸成分の合計量中)、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。
【0093】
カルボン酸成分のカルボキシ基のアルコール成分の水酸基に対する当量比(COOH基/OH基)は、耐久性の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0094】
結晶性ポリエステル樹脂C1の、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応条件は、好適な反応温度が好ましくは120℃以上、より好ましくは180℃以上、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下であること以外は、非晶質複合樹脂AXのポリエステル樹脂の原料モノマーの反応条件と同様である。
【0095】
結晶性ポリエステル樹脂C1の軟化点は、耐久性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。
【0096】
結晶性ポリエステル樹脂C1の融点は、耐久性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。
【0097】
結晶性ポリエステル樹脂C1の重量平均分子量は、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30,000以下、より好ましくは25,000以下である。
【0098】
結晶性ポリエステル樹脂C1の含有量は、結着樹脂中、低温定着性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0099】
非晶質複合樹脂AXと非晶質ポリエステル樹脂B1の合計の結晶性ポリエステル樹脂C1に対する質量比(非晶質複合樹脂AXと非晶質ポリエステル樹脂B1の合計/結晶性ポリエステル樹脂C1)は、好ましくは70/30以上、より好ましくは75/25以上、さらに好ましくは80/20以上であり、そして、好ましくは97/3以下、より好ましくは95/5以下、さらに好ましくは93/7以下である。
【0100】
非晶質複合樹脂AX、非晶質ポリエステル樹脂B1、及び結晶性ポリエステル樹脂C1の合計量は、結着樹脂中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0101】
第二の態様において、ポリエステル樹脂の原料モノマーは、脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分であることが好ましく、第一の態様における結晶性ポリエステル樹脂C1と同様である。
【0102】
水添テルペンフェノール樹脂については、第一の態様と同様であり、ポリエステル樹脂の原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂の重縮合物は、第一の態様と同様に、ポリエステル樹脂の原料モノマーとしてアルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させる際に、これらの原料モノマーと水添テルペンフェノール樹脂をともに用い、重縮合反応に供することで得られる。
【0103】
結晶性複合樹脂CXの軟化点は、耐久性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。
【0104】
結晶性複合樹脂CXの融点は、耐久性の観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。
【0105】
結晶性複合樹脂CXの重量平均分子量は、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30,000以下、より好ましくは25,000以下である。
【0106】
結晶性複合樹脂CXの含有量は、結着樹脂中、低温定着性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0107】
第二の態様の結着樹脂は、帯電安定性の観点から、さらに、軟化点の異なる複数の樹脂からなる非晶質ポリエステル樹脂B2を含有していることが好ましい。
【0108】
軟化点の低い方の非晶質ポリエステル樹脂BL2は、水添テルペンフェノール樹脂を用いない以外は、前記非晶質複合樹脂AXと同様にアルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させて得られ、軟化点が高い方の非晶質ポリエステル樹脂BH2は、第一の態様における非晶質ポリエステル樹脂BH1と同様である。
【0109】
非晶質ポリエステル樹脂BL2とBH2の軟化点の差は、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
【0110】
非晶質ポリエステル樹脂BL2の軟化点は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。
【0111】
非晶質ポリエステル樹脂BL2のガラス転移温度及び重量平均分子量は、前記非晶質複合樹脂AXと同様である。
【0112】
非晶質ポリエステル樹脂BH2の軟化点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0113】
非晶質ポリエステル樹脂BH2のガラス転移温度及び重量平均分子量は、前記非晶質ポリエステル樹脂BH1と同様である。
【0114】
非晶質ポリエステル樹脂BL2の非晶質ポリエステル樹脂BH2に対する質量比(非晶質ポリエステル樹脂BL2/非晶質ポリエステル樹脂BH2)は、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、さらに好ましくは60/40以上であり、そして、好ましくは85/15以下、より好ましくは80/20以下、さらに好ましくは75/25以下である。
【0115】
非晶質ポリエステル樹脂B2の含有量は、結着樹脂中、低温定着性の観点から、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0116】
結晶性複合樹脂CXの非晶質ポリエステル樹脂B2に対する質量比(結晶性複合樹脂CX/非晶質ポリエステル樹脂B2)は、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、さらに好ましくは15/85以上であり、そして、好ましくは35/65以下、より好ましくは30/70以下、さらに好ましくは25/75以下である。
【0117】
前記複合樹脂X及びポリエステル樹脂以外の結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、これらの樹脂を2種以上含む複合樹脂等が挙げられる。
【0118】
結着樹脂の含有量は、トナー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0119】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。
【0120】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0121】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。
【0122】
本発明の静電荷像現像用トナーには、結着樹脂及び離型剤以外に、着色剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0123】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0124】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0125】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0126】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリヱント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料;4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリヱント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリヱント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」、「FCA-201-PS」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0127】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリヱント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0128】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0129】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、離型剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、
工程1:少なくとも結着樹脂と離型剤を溶融混練する工程、及び
工程2:工程1で得られた溶融混練物を、粉砕及び分級する工程
を含む方法により得られる。
【0130】
溶融混練に供する混合物は、一度に混練に供しても、分割して混練に供してもよいが、あらかじめヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機で混合した後、混練機に供給することが好ましい。
【0131】
溶融混練には、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて行うことができるが、離型剤の分散性の観点から、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0132】
工程1の後、混練物を粉砕可能な硬度に達するまで適宜冷却して、工程2を行う。ここで、冷却とは、混練物を0℃以上50℃以下まで冷却すること、または、混練物中の結着樹脂のガラス転移温度以下まで冷却することを言う。
【0133】
工程2において、工程1で得られた溶融混練物の粉砕は、溶融混練物を所望の粒径まで一度に粉砕しても、段階的に粉砕してもよいが、効率よく、かつより均一に粉砕する観点から、粗粉砕と微粉砕の2段階で行うことが好ましい。
【0134】
粗粉砕に用いられる粉砕機としては、ハンマーミル、カッターミル、アトマイザー、ロートプレックス等が挙げられる。
【0135】
微粉砕に用いる粉砕機としては、流動層式ジェットミル、衝突板式ジェットミル等のジェットミル、機械式ミル等が挙げられる。
【0136】
微粉砕の程度は、目的とするトナー粒子の粒径に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0137】
分級に用いられる分級機としては、気流式分級機、慣性式分級機、篩式分級機等が挙げられる。分級の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕に供してもよく、必要に応じて粉砕と分級を繰り返してもよい。
【0138】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0139】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、環状シラザン、シリコーンオイル、アミノシラン、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0140】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0141】
トナー粒子と外添剤との混合による外添処理は、常法に従って行うことができ、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いることができる。
【0142】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0143】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0144】
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例0145】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0146】
〔樹脂の軟化点(Tm)〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0147】
〔樹脂の吸熱の最大ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とする。結晶性樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0148】
〔樹脂のガラス転移温度(Tg)〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に、試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0149】
〔樹脂の水酸基価(OHV)〕
JIS K 0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒からテトラヒドロフランに変更する。
【0150】
〔樹脂の重量平均分子量(Mw)〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により重量平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフラン(非晶質樹脂)又はクロロホルム(結晶性樹脂)に、40℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター「DISMIC-25JP」(ADVANTEC製)(非晶質ポリエステル樹脂の場合)又はポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業(株)製)(結晶性ポリエステル樹脂の場合)を用いて濾過して不溶解分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフラン(非晶質樹脂)又はクロロホルム(結晶性樹脂)を、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:「HLC-8220CPC」(東ソー(株)製)(非晶質ポリエステル樹脂の場合)又は「CO-8010」(東ソー(株)製)(結晶性ポリエステル樹脂の場合)
分析カラム:TSKgel GMHXL+TSKgel G3000HXL(東ソー(株)製)
【0151】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最大ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0152】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0153】
〔トナーの体積中位粒径〕
・測定機:コールターマルチサイザーIII(ベックマン・コールター(株)製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:マルチサイザーIII バージョン 3.51(ベックマン・コールター(株)製)
・電解液:「アイソトン(登録商標)II」(ベックマン・コールター(株)製)
・分散液:電解液に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン(登録商標)109P」〔花王(株)製、HLB(グリフィン)=13.6〕を溶解して5質量%に調整したもの
・分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒径分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0154】
樹脂製造例1
表1、2にアルコール成分、カルボン酸成分、エステル化触媒、エステル化助触媒、及び水添テルペンフェノール樹脂(樹脂B1では使用せず)を、温度計、ステンレス製攪拌棒、脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後、235℃にて8時間重縮合反応させ、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質複合樹脂(樹脂A1、A5、A6)及び非晶質ポリエステル樹脂(樹脂B1)を得た。
【0155】
樹脂製造例2
表1に示すポリエステル樹脂の原料モノマー、エステル化触媒、エステル化助触媒、及び水添テルペンフェノール樹脂を、温度計、ステンレス製攪拌棒、脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後、235℃にて8時間重縮合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。160℃まで冷却した後、表1に示すスチレン系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及び重合開始剤の混合溶液を1時間かけて滴下した。その後、30分間160℃に保持したのち、200℃まで昇温し、さらに40kPaの減圧下で所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質複合樹脂(樹脂A2)を得た。
【0156】
樹脂製造例3
表1、2に示すアルコール成分、アジピン酸と無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分、エステル化触媒、エステル化助触媒、及び水添テルペンフェノール樹脂(樹脂A3のみ使用)を、温度計、ステンレス製攪拌棒、脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後、235℃にて反応率が95%に到達したのを確認し、180℃まで冷却した後、表1、2に示すアジピン酸及び無水トリメリット酸を加え、2時間かけて220℃まで昇温した。その後、220℃にて1時間反応後、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質複合樹脂(樹脂A3)及び非晶質ポリエステル樹脂(樹脂B2)を得た。なお、本明細書における反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0157】
樹脂製造例4
表1に示すアルコール成分、カルボン酸成分、エステル化触媒、及び水添テルペンフェノール樹脂を、温度計、ステンレス製攪拌棒、分留塔、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃で1時間保温した後に180℃から230℃まで10℃/hで昇温した。その後、230℃で10時間重縮合反応させ、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質複合樹脂(樹脂A4)を得た。
【0158】
樹脂製造例5
表2に示すアルコール成分、カルボン酸成分、エステル化触媒、エステル化助触媒、及びテルペンフェノール樹脂を、温度計、ステンレス製攪拌棒、脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後、235℃にて8時間重縮合反応させ、8kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質樹脂(樹脂B3)を得た。ただし、水素添加されていないテルペンフェノール樹脂は、フェノール性水酸基のエステル化に対する反応性が著しく低いために、ポリエステル樹脂との複合化は困難なものと推測される。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
樹脂製造例6
表3に示すアルコール成分、カルボン酸成分、エステル化触媒、及び水添テルペンフェノール樹脂(樹脂C2では使用せず)を、温度計、ステンレス製攪拌棒、脱水管、冷却管、及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃で1時間保温した後に140℃から200℃まで10℃/hで昇温した。その後、200℃で1時間重縮合反応させ、さらに200℃、8.0kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って、結晶性複合樹脂(樹脂C1)及び結晶性ポリエステル樹脂(樹脂C2)を得た。
【0162】
【表3】
【0163】
実施例1~7及び比較例1~4
表4に示す結着樹脂100質量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロンE-81」(オリヱント化学工業(株)製)1質量部、着色剤「Pigment blue 15:3」(大日精化工業(株)製、フタロシアニンブルー)5質量部、及び離型剤「HNP-9」(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス、融点:75℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーで十分混合した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度100℃で溶融混練した。混合物の供給速度は20kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
【0164】
得られたトナー粒子100質量部に、外添剤として、疎水性シリカ「AEROSIL NAX 50」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:HMDS、平均粒子径:約30nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0165】
試験例1〔耐擦過性〕
評価紙として「Business4200」(秤量105g/m2、Xerox社製)を用い、トナーの載り量を0.50mg/cm2としたベタ画像を180℃に温調した定着器に通して定着させた。定着画像を、40℃、相対湿度80%の環境下にて1か月放置した。500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、放置後の定着画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、(1-(擦り後の反射密度/擦り前の反射密度))×100から、画像濃度の低下率(%)を算出し、定着画像の耐擦過性を評価した。結果を表4に示す。
【0166】
試験例2〔耐久性〕
印刷機「ページプレスト N-4」(カシオ計算機(株)製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、温度32℃、相対湿度85%の環境下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンを連続して印刷した。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印刷し、画像上のスジの有無を確認した。印刷は、画像上にスジが発生した時点で中止し、最高9000枚まで行った。
画像上にスジが目視にて観察された時点までの印刷枚数を、現像ロールにトナーが融着及び固着したことによりスジが発生した枚数とし、耐久性を評価した。即ち、スジの発生しない枚数が多いほど、トナーの耐久性が高いものと判断できる。結果を表4に示す。表中、「>9000」は9000枚目の印刷においてもスジが発生しないことを意味する。
【0167】
【表4】
【0168】
以上の結果より、テルペンフェノール樹脂又は水添テルペンフェノール樹脂をポリエステル樹脂と溶融混合して用いた比較例1、2及び水添テルペンフェノール樹脂を用いていない比較例3、ポリエステル樹脂の原料モノマーとともにテルペンフェノール樹脂を用いて得られた樹脂を用いた比較例4と対比して、実施例1~7のトナーは、耐擦過性と耐久性のいずれもが良好であることが分かる。
また、ポリエステル樹脂をテルペンフェノール樹脂と混練した比較例1のトナーと、テルペンフェノール樹脂の存在下でポリエステル樹脂を合成した樹脂を用いた比較例4のトナーの評価結果がほぼ同程度であることから、比較例4で用いた樹脂(樹脂B3)は、ポリエステル樹脂とテルペンフェノール樹脂とが複合化した樹脂ではないものと推察される。この結果は、水素添加されていないテルペンフェノール樹脂はポリエステル樹脂との複合化が困難であるとの推測とも一致している。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の静電荷像現像用トナーは、静電荷像現像法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるものである。