(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092624
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】採血不良判定方法、血液凝固解析方法、コンピュータプログラム、及び血液凝固解析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G01N33/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208700
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】西 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】田渕 有香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健史
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA10
2G045CA25
2G045CA26
2G045GC30
(57)【要約】
【課題】客観的に採血不良を検出する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製し、測定試料から血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得し、複数の前記測定値に基づいて、血液検体の凝固波形データを取得し、前記凝固波形データに基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定結果を取得することにより、上記の課題を解決する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製する工程と、
前記測定試料から前記血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得する工程と、
複数の前記測定値に基づいて、前記血液検体の凝固波形データを取得する工程と、
前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、
を含む、採血不良判定方法。
【請求項2】
前記判定を行う工程が、前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の凝固に関する複数種のパラメータの値を取得し、取得した前記複数種のパラメータの値に基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程を含む、
請求項1に記載の採血不良判定方法。
【請求項3】
前記複数種のパラメータが、前記凝固波形データに基づいて決定される前記血液検体の凝固速度に関するパラメータ及び前記血液検体の凝固時間に関するパラメータの少なくとも一方を含む、
請求項2に記載の採血不良判定方法。
【請求項4】
前記複数種のパラメータの少なくとも1つのパラメータの値は、前記凝固波形データに基づく凝固波形の微分凝固波形に基づいて決定される、
請求項2に記載の採血不良判定方法。
【請求項5】
前記複数種のパラメータの値は、前記凝固波形データに基づく凝固波形にフィッティングされた所定の数理モデルに基づいて決定される、
請求項2に記載の採血不良判定方法。
【請求項6】
前記血液検体の凝固時間に関するパラメータは、前記血液検体に血液凝固を開始する試薬を添加してから、又は、前記血液検体の凝固反応開始から、前記血液検体が所定の凝固状態に達するまでの時間である、
請求項3に記載の採血不良判定方法。
【請求項7】
前記血液検体の凝固速度に関するパラメータは、前記血液検体の凝固速度が所定の速度に達したときの凝固速度である、
請求項3に記載の採血不良判定方法。
【請求項8】
前記所定の速度は、最大速度である、
請求項7に記載の採血不良判定方法。
【請求項9】
前記判定を行う工程が、前記凝固波形データを深層学習アルゴリズムに入力し、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程を含む、
請求項1に記載の採血不良判定方法。
【請求項10】
前記血液凝固測定試薬は、活性化部分トロンボプラスチン時間を測定するための試薬である、
請求項1に記載の採血不良判定方法。
【請求項11】
前記判定の結果が、前記血液検体の採血不良を示す場合、前記判定の結果を示す情報を提示する、
請求項1に記載の採血不良判定方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の採血不良判定方法の工程と、
前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の凝固能に関する解析値を取得する工程と、
を含む、血液凝固解析方法。
【請求項13】
前記解析値は、前記血液検体に血液凝固を開始する試薬を添加してから、又は、前記血液検体の凝固反応開始から、前記血液検体が所定の凝固状態に達するまでの時間である、
請求項12に記載の血液凝固解析方法。
【請求項14】
前記判定の結果が、前記血液検体の採血不良を示す場合、前記解析値の提示を禁止する、
請求項12に記載の血液凝固解析方法。
【請求項15】
コンピュータによって、血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法であって、
血液検体と血液凝固測定試薬とを含む測定試料から取得された前記血液検体の凝固の程度を示す測定値に基づく、前記血液検体の凝固波形データを受信する工程と、
前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、
を含む、血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法。
【請求項16】
前記凝固波形データを受信する工程は、前記測定値を取得する測定装置に基づいて凝固波形データを生成した装置からネットワークを介して前記血液検体の凝固波形データを受信する工程を含む、請求項15に記載の血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法。
【請求項17】
コンピュータによって、血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法であって、
血液検体と血液凝固測定試薬とを含む測定試料から取得された前記血液検体の凝固の程度を示す測定値に基づく前記血液検体の凝固波形データから取得された、前記血液検体の凝固に関する複数種のパラメータの値を受信する工程と、
前記複数種のパラメータの値に基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、
を含む、血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法。
【請求項18】
請求項1~11、15~17のいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項19】
血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製する試料調製部と、
前記測定試料から前記血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得する検出部と、
前記測定値に基づいて、前記血液検体の凝固波形データを生成し、前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の凝固能に関する解析値を取得し、前記凝固波形データに基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う制御部と、
を備える血液凝固解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体の採血の不良に関する判定を行う採血不良判定方法、血液凝固解析方法、コンピュータプログラム、及び血液凝固解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査において、採血手技の影響によって、注射器内に組織液が混入する場合がある。組織因子を含む組織液が血液検体に混入すると、血液凝固が惹起されてフィブリン析出が開始するため、検査結果が患者の病態を反映しないおそれがある。このため、採血不良と認められる場合には、再採血を行う必要がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】小宮山 豊 著、「血栓止血の臨床-研修医のためにV 8.臨床検査室から臨床へ(データとともに情報を)」、一般社団法人血栓止血学会、2008年9月9日、血栓止血学会誌19巻4号 p.474-477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
採血不良の判定は目視にて検体の確認が実施されるが、判断者の熟練度によって判定精度に違いが生じうる。そのため、客観的に採血不良を検出する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の採血不良判定方法は、血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製する工程と、測定試料から血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得する工程と、複数の測定値に基づいて、血液検体の凝固波形データを取得する工程と、凝固波形データに基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、を含む。
【0006】
本発明の血液凝固解析方法は、前述の本発明の採血不良判定方法の各工程と、凝固波形データに基づいて、血液検体の凝固能に関する解析値を取得する工程と、を含む。
【0007】
本発明の血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法は、コンピュータによって、血液検体と血液凝固測定試薬とを含む測定試料から取得された血液検体の凝固の程度を示す測定値に基づく、血液検体の凝固波形データを受信する工程と、凝固波形データに基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、を含む。
【0008】
本発明の血液検体の採血の不良に関する判定を行う方法は、コンピュータによって、血液検体と血液凝固測定試薬とを含む測定試料から取得された前記血液検体の凝固の程度を示す測定値に基づく前記血液検体の凝固波形データから決定された、前記血液検体の凝固に関する複数種のパラメータの値を受信する工程と、前記複数種のパラメータの値に基づいて、前記血液検体の採血の不良に関する判定を行う工程と、を含む。
【0009】
本発明の血液凝固解析システム(1000、2000)は、血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製する試料調製部(23)と、測定試料から血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得する検出部(22)と、測定値に基づいて、血液検体の凝固波形データを生成し、凝固波形データに基づいて、血液検体の凝固能に関する解析値を取得し、凝固波形データに基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定を行う制御部(10、24、101、102)と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、判断者の主観によらず客観的に採血不良を検出する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】解析システム1000の外観を示す図である。
【
図2】解析システム1000の機能構成を示す図である。
【
図3】記憶部13が記憶している情報を示す図である。
【
図5A】キュベット80がない状態の検出部22の構成を示す図である。
【
図5B】キュベット80がある状態の検出部22の構成を示す図である。
【
図6】試料調製部23を上側から見たときの平面図である。
【
図7】制御部10及び制御部24が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図8】制御部24による測定処理を示すフローチャートである。
【
図9】制御部10による採血不良判定処理を示すフローチャートである。
【
図10C】正規化した凝固波形の一例を示す図である。
【
図11】凝固波形の一次微分曲線の一例を示す図である。
【
図12】凝固時間及び凝固速度の散布図の一例を示す図である。
【
図13A】採血不良検体の凝固波形の一例を示す図である。
【
図13B】通常検体の凝固波形の一例を示す図である。
【
図14A】採血不良検体及び通常検体の分画線を含む散布図の一例を示す図である。
【
図14B】採血不良判定処理の検定データの一例を示す表である。
【
図14C】学習モデルの分画性能を評価するためのROC曲線の一例を示す図である。
【
図15A】解析結果出力画面の一例を示す図である。
【
図15B】解析結果出力画面の一例を示す図である。
【
図15C】解析結果出力画面の一例を示す図である。
【
図15D】解析結果出力画面の一例を示す図である。
【
図16】数理モデルをフィッティングした凝固波形を示す図である。
【
図17】採血不良判定処理の検定データの一例を示す表である。
【
図18】凝固波形の二次微分曲線の一例を示す図である。
【
図19】異なる種類のパラメータに基づく散布図の一例を示す図である。
【
図20】採血不良判定処理の検定データの一例を示す表である。
【
図21】解析システム2000の外観を示す図である。
【
図22】制御部10、制御部24及び制御部30が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図24】深層学習アルゴリズムの学習を模式的に示す図である。
【
図25】制御部10又は制御部30による採血不良判定処理を示すフローチャートである。
【
図26】深層学習アルゴリズムによる解析を模式的に示す図である。
【
図27】採血不良判定処理の検定データの一例を示す表である。
【
図28】深層学習アルゴリズムの分画性能を評価するためのROC曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
1.解析システム1000
図1を参照して、本実施形態に係る血液凝固解析システム1000(以下、解析システム1000とよぶ)について説明する。解析システム1000は、血液検体の凝固能の解析を行う解析装置100と、血液検体に光を照射し、光学情報を取得し、凝固波形データを取得する測定装置200とを備える。解析装置100と、測定装置200とは、通信ケーブル25により接続される。なお、解析装置100と測定装置200とを一体化して一つの装置によって構成するようにしてもよい。
【0013】
解析システム1000が解析の対象とする血液検体としては、例えば全血及び血漿が挙げられる。好ましい血液検体は血漿である。採血時に、ヘパリン、ワーファリン及び直接抗凝固薬(DOAC)以外の抗凝固剤が、血液検体に添加されてもよい。そのような抗凝固剤として、クエン酸三ナトリウムなどのクエン酸塩を用いることができる。被検者は特に限定されないが、例えば、凝固検査を用いた病態の把握等が必要とされる被検者が挙げられる。凝固検査の対象とされる凝固能に関する測定項目の種類は特に限定されないが、例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、トロンビン時間(TT)などの凝固時間が挙げられる。
【0014】
1.1 解析装置100
図2を参照して、本実施形態に係る解析装置100について説明する。解析装置100は、通信ケーブル25を介して測定装置200と通信可能に接続されている。また、解析装置100は、メディアドライブ97と接続されている。解析装置100は、ネットワーク98を介して電子カルテシステム99と接続されている。ネットワーク98は、例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)である。ネットワーク98は、インターネットであってもよい。
【0015】
解析装置100は、制御部10、入力部16、及び出力部17を備える。制御部10は、データ処理を行うCPU(Central Processing Unit)11と、データ処理の作業領域に使用する記憶部12と、記憶部12に転送される情報を保存する記憶部13と、各装置の間でデータを伝送するバス14と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース(I/F)15とを備えている。入力部16、出力部17、メディアドライブ97、ネットワーク98及び測定装置200は、インタフェース15に接続されている。
【0016】
記憶部12は、DRAM及びSRAMである。記憶部13は、ソリッドステートドライブである。記憶部13は、ハードディスクドライブであってもよい。インタフェース15は、イーサネット(登録商標)である。インタフェース15は、IEEE1394又はUSB等であってもよい。入力部16は、キーボード及びマウスである。出力部17は、液晶ディスプレイである。出力部17は、有機ELディスプレイであってもよい。出力部17には、血液検体の採血の不良に関する判定結果及び凝固能に関する解析値が出力される。
図3に示すように、記憶部13は、被検対象の血液検体の採血不良を判定するための採血不良判定プログラム131と、採血不良の判定基準として用いられる判定基準データ132と、被検対象の血液検体の凝固能を解析するための解析プログラム133と、を記憶している。
【0017】
1.2 測定装置の構成
図2を参照して測定装置200について説明する。測定装置200は、光照射部20と、検出部22と、試料調製部23と、制御部24とを備える。
【0018】
制御部24は、光照射部20、検出部22、及び試料調製部23を制御するとともに、解析装置100の制御部10とデータ通信を行う。制御部24は、制御部10と同様に、CPU、DRAM、SRAM、ソリッドステートドライブ、及びイーサネットを備える。ソリッドステートドライブには、測定装置200が血液凝固測定を行うための測定プログラムが記憶されている
【0019】
図4を参照して、本実施形態に係る光照射部20について説明する。光照射部20は、5つの光源321、322、323、324及び325と、5つの光ファイバ部330a、330b、330c、330d及び330eと、1つの保持部材340とを含む。光ファイバ部330a~330eはそれぞれ、5つの光源321~325に対応して設けられている。保持部材340は、光源321~325と、光ファイバ部330a~330eの入射端331とを保持する。光源321~325、光ファイバ部330a~330e及び保持部材340は、金属製のハウジング310内に収容されている。光源321~325は、いずれもLEDにより構成される。第1光源321は660 nmの光を発生し、第2光源322は405 nmの光を発生し、第3光源323は800 nmの光を発生し、第4光源324は340 nmの光を発生し、第5光源325は575 nmの光を発生する。制御部24は光源321~325の発光及び消灯を制御する。
【0020】
光ファイバ部330a~330eはそれぞれ、1本のコアを有する光ファイバ素線を束ねたケーブルとして構成されている。光ファイバ部330a~330eは、中間部333において1つに束ねられている。1つに束ねられた光ファイバ部330a~330eは、それぞれの束に光ファイバ部330a~330eの光ファイバ素線が均等に含まれるように2つの束に分けられ、それぞれの束の出射端332が、ハウジング310に設けられた取出口311によって保持されている。取出口311には、光ファイバ21の入射端352も保持されている。光ファイバ21は、光照射部20と検出部22とを接続する。光照射部20からの光は、光ファイバ21を介して検出部22に供給される。光ファイバ部330a~330eの出射端332と光ファイバ21の入射端352との間には、均一化部材350が設けられている。均一化部材350は、出射端332から出射した光の強度分布を均一化する。均一化部材350は、入射面351から入射した光を内部で多重反射させる部材であり、多角柱状のロッドホモジナイザーである。
【0021】
図5A及び
図5Bを参照して、本実施形態に係る検出部22について説明する。検出部22は、光照射部20に接続された各光ファイバ21に設けられているが、光ファイバ21と検出部22の接続の構成、及び、検出部22のハードウエア構成は、全ての検出部22について同一である。よって、ここでは1つの検出部22について説明する。
図5Aを参照して、検出部22には、光ファイバ21の他端353が挿入される穴22bが形成されている。ここで、光ファイバ21の入射端352は、光照射部20の取出口311に保持されている(
図4参照)。検出部22には、キュベット80を保持するための保持部22aと、穴22bと、連通孔22cとが形成されている。連通孔22cは、穴22bを保持部22aに連通させる。
【0022】
穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、保持部22aの内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成されている。この孔22fの奥に、受光部22gが配置されている。受光部22gは、フォトダイオードであり、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、保持部22a及び孔22fを介して、受光部22gの受光面に入射する。光ファイバ21は、端部353が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって固定されている。
【0023】
図5Bは、保持部22aにキュベット80が保持されており、レンズ22dによって集光された光が、キュベット80及びキュベット80に収容された試料を透過して、受光部22gに入射する様子を示す。試料において凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇する。これに伴い、試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、受光部22gから出力される電気信号のレベルが低下する。受光部22gから出力される電気信号は、A/D変換器22hによりデジタル信号に変換され、制御部24に送信される。受光部22gから出力され、A/D変換器22hにより変換された信号は、透過光量を示す測定値を反映した光学情報である。試料における凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇し、透過光量が減少することから、透過光量は凝固の程度を示す測定値である。
【0024】
上記の例では、検出部22の受光部22gは透過光を検出しているが、検出部22を、キュベット80に収容された試料により散乱した光(散乱光)を受光するように構成してもよい。例えば、レンズ22dによって集光された光の進行方向と交差する方向に受光部22gを配置してもよい。この場合、制御部10は、散乱光強度の変化に基づいて凝固反応を解析する。散乱光を検出する検出部22は、保持部22aの内側面において、連通孔22cと同じ高さの位置に孔が設けられ、この孔の奥に光検出器が配置された構成をしている。保持部22aにキュベット80が保持され、光が照射されると、キュベット80内の試料によって散乱された光が、孔を介して光検出器に照射される。この光検出器からの検出信号は、試料による散乱光の強度を示す。試料における凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇し、散乱光の強度が増加することから、散乱光の強度は凝固の程度を示す測定値である。
【0025】
図6を参照して、本実施形態に係る試料調製部23について説明する。試薬テーブル411及び412とキュベットテーブル413は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル411及び412は試薬収納部に相当し、ここには試薬容器81a、81b等が載せ置かれる。試薬容器81は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。試薬容器81a、81b等には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベルが貼付されている。試薬テーブル411及び412に載せ置かれた試薬容器81a、81bのバーコードは、バーコードリーダ414により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御部10に入力され、記憶部13(
図2参照)に記憶される。試薬テーブル411及び/又は412には、APTT測定試薬が収容された試薬容器81a及びカルシウム液が収容された試薬容器81bが載せ置かれる。
【0026】
キュベットテーブル413には、キュベット80a、80b等を支持可能な複数の孔からなる支持部413aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部415に投入された新しいキュベット80a、80b等は、キュベット供給部415により順次移送され、キュベット移送部416によりキュベットテーブル413の支持部413aに設置される。なお、キュベット80a、80b等は、互いに同一の構造を有する。
【0027】
検体分注アーム417と試薬分注アーム418には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム417の先端には、検体容器の蓋を穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピペット417aが設置されている。試薬分注アーム418の先端にはピペット418aが設置されている。ピペット418aの先端は、ピペット417aと異なり平坦に形成されている。
【0028】
加温部424は、複数の加温孔424aを備え、加温孔424aにセットされたキュベット80a、80b等に収容された試料を加温するように構成されている。キュベット移送部423は、キュベット80a、80b等を保持するキャッチャ423aを備え、キュベットテーブル413のキュベット80a、80b等を、加温部424の加温孔424a及び検出部22の保持部22aに移送するように構成されている。
【0029】
測定装置200として、米国特許第10,048,249号明細書に記載の装置を使用できる。米国特許第10,048,249号明細書は参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
1.3 測定処理及び解析処理
測定装置200による測定処理は、制御部24の制御の下で行われ、解析装置100による解析処理は、制御部10の制御の下で行われる。なお、本発明はこの例に限定されない。例えば、測定処理及び解析処理を、制御部10の制御の下で行ってもよいし、測定処理及び解析処理を、制御部24の制御の下で行ってもよい。
【0031】
図7を参照して、制御部10及び制御部24による測定処理及び解析処理について説明する。ステップS11において、制御部10は、入力部16からユーザにより入力された測定開始指示を受け付ける。ステップS12において、制御部10は、測定装置200の制御部24に測定開始を指示する指示データを送信する。制御部24は、ステップS13において指示データを受信すると、ステップS14において、測定プログラムに基づく測定処理を実行する。ステップS15において、制御部24は、測定処理によって得られた測定値に基づく凝固波形データを制御部10へ送信して処理を終了する。制御部10は、ステップS16において凝固波形データを受信し、記憶部13に記憶する。制御部10は、ステップS17において血液検体の採血の不良に関する判定を行う処理を実行する。ステップS18において、制御部10は、血液検体の凝固能に関する解析値を取得する処理を実行する。ステップS19において、制御部10は、判定結果および解析値を出力部17に出力する。また、制御部10は、ステップS19において、判定結果および解析値を記憶部13に記憶する。
【0032】
1.4 測定プログラムに基づく測定処理(ステップS14)
ステップS14の測定処理では、血液検体とAPTT測定試薬とを混合して測定試料を調製し、調製された測定試料について凝固時間を測定する。測定においては、血液検体にAPTT測定試薬を混合し、測定試料をインキュベーションした後、カルシウム液を添加して、凝固の程度を示す測定値を取得し、複数の測定値に基づいて凝固波形データを取得する。測定試料のインキュベーションは、例えば、30℃以上42℃以下の範囲から決定される一定の温度で行われる。好ましくは、測定試料のインキュベーションは37℃で行われる。
【0033】
APTT測定試薬とは、活性化剤及びリン脂質を含む試薬をいう。活性化剤とは、内因系凝固経路における接触因子を活性化する物質をいう。活性化剤としては、例えば、エラグ酸化合物、シリカ、カオリン、セライトなどが挙げられる。エラグ酸化合物は、エラグ酸、エラグ酸塩、及びエラグ酸の金属錯体のいずれであってもよい。活性化剤は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、活性化剤としてエラグ酸化合物を用いる。エラグ酸化合物は、亜鉛イオン、マンガンイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオンを含むエラグ酸の金属錯体であることが特に好ましい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。APTT測定試薬は、PE、PC及びPSから選択される1種、好ましくは2種、より好ましくは全種のリン脂質を含む。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよいし、合成リン脂質であってもよい。
【0034】
APTT測定試薬として、レボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)、トロンボチェック(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)、コアグピア(登録商標)APTT-N(積水メディカル株式会社)、データファイ・APTT(Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbH社)などの市販の試薬を用いてもよい。
【0035】
カルシウム液は、血液検体とAPTT測定試薬との混合物にカルシウムイオンを供給することにより、血液凝固を開始する試薬である。カルシウム液は、カルシウムイオン含有水溶液であり得る。好ましいカルシウム液は、塩化カルシウムなどのカルシウム塩の水溶液である。カルシウム液中のカルシウムイオン濃度は、例えば10 mM以上30 mM以下、好ましくは20 mM又は25 mMである。塩化カルシウムなどの水に容易に溶けるカルシウム塩を用いる場合、カルシウム液中のカルシウムイオン濃度は、該カルシウム塩の濃度で表すことができる。
【0036】
図7に示すステップS14が開始すると、
図8に示す測定処理が実行される。
図6及び
図8を参照して、ステップS101について説明する。ステップS101において、制御部24は、血液検体と血液凝固測定試薬とを混合して測定試料を調製するように、試料調製部23を制御する。この制御により、検体分注アーム417のピペット417aが、検体容器中の被検者の血液検体(血漿)を吸引し、これを、キュベットテーブル413上の空のキュベット80aに分注する。次いで、キュベットテーブル413が回転し、キュベット移送部423が、被検者の血液検体が入っているキュベット80aを試薬分注アーム418のピペット418aの可動範囲に移送し、ピペット418aは、試薬容器81aから吸引したAPTT測定試薬をキュベット80aに添加する。これにより、測定試料が調製される。その後、キュベット移送部423は、キュベット80aを加温部424に移送して、キュベット80a内の測定試料を所定温度(37℃)に加温する。
【0037】
ステップS102において、制御部24は、測定試料にカルシウム液を添加し、キュベットを検出部22に移送するように、試料調製部23を制御する。この制御により、キュベット移送部423は、加温された測定試料を収容したキュベット80aを加温部424からピペット418aの可動範囲に移送する。そして、ピペット418aが、試薬容器81bから吸引したカルシウム液をキュベット80aに添加する。カルシウム液の添加後すぐに、キュベット移送部423は、カルシウム液が添加されたキュベット80aを、検出部22の保持部22aに移送する。
【0038】
図4、
図5B、
図6及び
図8を参照して、ステップS103について説明する。ステップS103において、制御部24は、測定試料から血液検体の凝固の程度を示す測定値を取得するように、測定装置200を制御する。この制御により、光照射部20は、保持部22aに移送されたキュベット80aに光を照射する。なお、この例では、第1光源321のみが光を照射する。検出部22は、受光した光の強度に応じたデジタルデータを、制御部24に送信する。具体的には、受光部22gは、キュベット80a及びキュベット80a内の試料を介して受光した光の強度(透過光強度)に応じたアナログ信号を出力し、当該信号は、A/D変換器22hによりデジタル変換され、制御部24に送信される。制御部24は、キュベット80aへの光照射を開始した時点から、所定の測定時間(180秒)に達するまで継続して、デジタルデータを受信する。このデジタルデータは、受光した光の強度に応じたものであるから、血液検体の凝固の程度を示す測定値であり、デジタルデータを受信することにより測定値を取得する。
【0039】
ステップS104において、制御部24は、継続的に受信した各デジタルデータを、キュベット80aへの光照射を開始した時点からの経過時間と対応付けて、凝固波形データとして取得して記憶する。制御部24がデジタルデータを受信する時間間隔は、例えば、0.1秒から0.5秒である。
図10Aに示すように、凝固波形データは、上段が測定値の一例である透過光強度を示し、下段が各透過光強度を取得したときの時間(キュベット80への光照射を開始した時点からの経過時間)を示す二次元配列データのセットである。
【0040】
1.5 採血不良判定プログラムに基づく採血不良判定処理(ステップS17)
図7に示すステップS17が開始すると、
図9に示す採血不良の判定を行う処理が制御部10によって実行される。採血不良に関する判定を行う処理は、凝固波形データに基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定を行う処理である。採血の不良に関する判定結果は100%の確度に基づく判定である必要はない。採血不良であるとの判定は採血不良の可能性がある場合を含む。
【0041】
採血不良の判定を行う処理は、凝固の程度を示す測定値に基づく凝固波形データに基づいて、血液検体の凝固に関する複数種のパラメータの値を取得し、取得した複数種のパラメータの値に基づいて、血液検体の採血の不良に関する判定を行う。好ましくは、複数種のパラメータは、凝固波形データに基づいて決定される血液検体の凝固速度に関するパラメータ及び血液検体の凝固時間に関するパラメータの少なくとも一方を含み、より好ましくは、複数種のパラメータは、1種類以上の血液検体の凝固速度に関するパラメータと1種類上の血液検体の凝固時間に関するパラメータとを含む。パラメータの種類数は3種類以上としてもよい。
【0042】
凝固時間に関連するパラメータは、例えば、凝固時間、凝固反応開始時間又は凝固反応終了時間である。凝固時間は、血液検体とAPTT測定試薬とを混合した試料にカルシウム液を添加してから、所定の凝固状態に到達するまでの時間である。凝固反応開始時間は、血液検体とAPTT測定試薬とを混合した試料にカルシウム液を添加してから、凝固反応が開始した時間であり、凝固反応終了時間は、血液検体とAPTT測定試薬とを混合した試料にカルシウム液を添加してから、凝固反応が終了した時間である。凝固時間に関連するパラメータは、例えば凝固反応開始時間から凝固時間までの時間など、血液検体が所定の状態に至るまでの時間としてもよい。凝固速度に関連するパラメータは、例えば、最大凝固速度、最大凝固加速度又は最大凝固減速度である。最大凝固速度は、凝固反応の最大速度であり、最大凝固加速度は凝固反応速度の最大加速度であり、最大凝固減速度は凝固反応速度の最大減速度である。
【0043】
ステップS201において、制御部10は、ステップS16において記憶部13に記憶した凝固波形データを読み出す。制御部10は、読み出した凝固波形データを、縦軸(Y軸)が透過光強度を示し、横軸(X軸)が透過光強度をモニタリングした測定時間(秒:sec)を示す二次元グラフ上にプロットし、
図10Bに示されるような凝固波形を生成する。さらに、制御部10は、凝固波形を正規化する。
図10Cに示すように、正規化された凝固波形は、縦軸が0%(L1:ベースライン)から100%(L2)の間で表されるように、凝固波形データに含まれる各透過光強度が相対値化されている。
【0044】
ステップS202において、制御部10は、正規化された凝固波形を微分して、
図11に示されるような、凝固波形の一次微分曲線(微分凝固波形)を生成する。なお、ステップS201では、凝固波形の正規化は省略できる。その場合、制御部10は、正規化されていない凝固波形(
図10B参照)を微分することにより、一次微分曲線を取得する。
図11では、凝固速度(dT/dt)が正の値となるように一次微分曲線が表示されているが、凝固速度が負の値となるように表示してもよい。すなわち、
図11の曲線について、縦軸の正負が反転した曲線を生成してもよい。一次微分曲線は、凝固波形を示す関数を時間で微分することによって生成する。なお、一次微分曲線は、所定期間間隔で取得された測定値を含む凝固波形データに基づいて測定間隔毎の差分をその時間間隔によって除算することによって算出される傾き(速度)に基づくものであってもよい。
【0045】
ステップS203において、制御部10は、試料について、凝固時間及び凝固速度を取得する。凝固時間は、凝固波形から取得することができる。凝固波形から凝固時間を得ることは凝固波形を示す数値データに基づいて凝固時間を決定することを含む。凝固速度は、凝固波形の一次微分曲線から得られる。凝固波形の一次微分曲線から凝固速度を得ることは一次微分曲線を示す数値データに基づいて凝固速度を決定することを含む。例えば、算出された離散的な速度データは一次微分曲線を示すものであり、離散的な速度データから最大速度を決定することによって凝固速度を取得することを含む。
【0046】
図10Cを参照して、凝固波形データに基づく凝固時間t
cの取得について説明する。横軸は、血液検体と血液凝固測定試薬とを混合した測定試料に測定装置200において光照射を開始してからの時間を示す。ステップS201で読み出した凝固波形データにおいて、時間t
Iは、キュベット80aへの光照射を開始した時点であり、この時間を0とする。なお、カルシウム液を測定試料に添加した時刻と光照射を開始した時刻との差は0に近いため、時間(0)は、カルシウム液を測定試料に添加した時点とみなすことができる。時間t
Iでは、フィブリンの析出が起こらない。そのため、時間t
Iにおける透過光強度は高値を示す。その後、凝固反応が進行してフィブリンが析出し始めると、析出したフィブリンが光を遮り、透過光強度が減少し始める。この時点が、時間t
IIであり、凝固反応開始時間となる。制御部10は、凝固波形において、透過光強度が減少し始めた時間を演算によって取得し、時間t
IIとする。制御部10は、時間t
IIのときの透過光強度の変化量を0%とする。
【0047】
その後、フィブリンの析出が進行するにつれて、透過光強度はさらに減少する。試料中のフィブリノゲンの大半がフィブリンに変化すると、反応は収束し、凝固波形はプラトーになる。ステップS203において、制御部10は、凝固波形がプラトーになり始めた時間を演算によって取得し、時間tIIIとする。時間tIIIは、凝固反応終了時間である。制御部10は、時間tIIIのときの透過光強度の変化量を100%とする。そして、制御部10は、透過光強度の変化量が50%のときの時間(ラインL3と凝固波形との交点における時間)を時間tcとし、これを凝固時間として取得する。凝固時間は、透過光強度の変化量が50%のときの時間に限られず、任意の変化量、例えば30%、40%、60%、70%又は100%などのときの時間を凝固時間として取得してよい。また、凝固時間(時間tc)は、例えば、凝固反応開始時間である時間tIIからカウントした一定の時間であってもよい。凝固波形の正規化を省略する場合、制御部10は、正規化していない凝固波形から凝固時間tcを取得する。
【0048】
凝固時間に関連するパラメータの値は、制御部10によってステップS202で生成する凝固波形の一次微分曲線に基づいて取得することもできる。
図11を用いて一次微分曲線と凝固時間に関連するパラメータの値について説明する。最大速度到達時間(Min1_time)は、一次微分曲線において、光照射開始時間(時間t
I)から凝固速度が最大となる時間(時間t
V)までの時間である。
【0049】
ステップS203において、制御部10は、ステップS202で生成した凝固波形の一次微分曲線に基づいて、凝固速度を取得する。凝固速度は血液検体の凝固速度が所定の速度に達したときの凝固速度である。
図11に示すように、|min 1|とは、一次微分曲線における凝固速度のピーク値(min1)の絶対値であり、最大凝固速度を表す。本実施形態においては最大凝固速度を凝固速度として取得する。なお、本実施形態では、血液検体の凝固に関連するパラメータの値を取得するために、凝固波形および凝固波形の一次微分曲線のグラフを生成しているが、凝固波形および/又は凝固波形の一次微分曲線のグラフの生成は省略可能であり、凝固波形データに対する演算処理により、血液検体の凝固に関連するパラメータの値を取得してもよい。すなわち、本発明において、ステップS201および/又はステップS202の処理は省略可能である。
【0050】
S204において、制御部10は、ステップS203で取得した凝固時間及び凝固速度に基づいて採血不良の判定を行うことで、採血不良の判定を行う。本実施形態において、採血不良の判定は、判定対象の血液検体の凝固時間及び凝固速度を、予め記憶部13に記憶された判定基準データ132と比較することによって行われる。本実施形態において、判定基準データ132は、
図14Aに示すように、凝固時間および凝固速度をパラメータとする散布図における分画線1401に相当するデータを含む。制御部10は、凝固時間及び凝固速度に基づき、判定対象の血液検体が、領域Bよりも凝固時間が短く凝固速度が遅い領域Aに位置するか、領域Aよりも凝固時間が長く凝固速度が速い領域Bに位置するかを判定し、領域Aに位置すると当該血液検体は採血不良の検体(以下、「採血不良検体」とよぶ)であると判定し、領域Bに位置すると当該血液検体は採血不良ではない検体(以下、「通常検体」とよぶ)であると判定する。採血手技の影響によって注射器内に組織因子を含む組織液が混入すると、血液凝固が惹起されてフィブリン析出が開始する。このため、採血不良検体においては、カルシウム液の添加の前から凝固因子が活性化しているため、カルシウム液の添加を行った時点から、凝固反応開始及び凝固反応終了までに要する時間は、通常検体の場合と比べて短くなるものと考えられる。一方、カルシウム液の添加以前から凝固反応が一部で開始していれば血液凝固に寄与する成分が消費されているため、カルシウム液の添加後の凝固反応開始から凝固反応終了までに要する時間は、通常検体の場合と比べて長くなる、すなわち、凝固速度が遅くなると考えられる。このように、採血不良によって血液検体に組織液が混入している場合には、凝固時間に関するパラメータの値及び凝固速度に関するパラメータの値が影響を受けると考えられるから、凝固時間に関するパラメータ及び凝固速度に関するパラメータに基づいて、採血不良の判定を行うことができると考えられる。なお、分画線1401に相当するデータの決定方法については後述する。
【0051】
次に、S18(
図7)において、制御部10は、検査対象の血液検体に対して、凝固検査の目的とする病態の把握等に用いられる、凝固能に関する解析値を取得する。本実施形態においては、止血機能の予測をする検査として凝固時間(APTT)を解析値として取得する。凝固時間(APTT)は、カルシウム添加から血液検体が所定の凝固状態に達するまでの時間である。解析値は血液検体の凝固反応開始から、血液検体が所定の凝固状態に達するまでの時間としてもよい。
【0052】
制御部10は、ステップS18(
図7)において解析値を取得すると、ステップS19(
図7)において、ステップS17で取得した採血不良の判定結果およびステップS18で取得した解析値を含む解析結果を出力部17により出力する。出力部17が解析結果を表示する出力画面の一例を
図15A~Dに示す。
図15Aは、解析した複数の血液検体のリストを示すリスト表示領域1501及びリスト表示領域1501においてユーザ入力に基づいて選択された血液検体の解析結果の概要情報を示す個別概要表示領域1502を含む解析結果一覧表示画面1500を示す。リスト表示領域1501は、複数の行を含み、各行が各血液検体の情報を示す。
【0053】
リスト表示領域1501の複数の列のうちの一つの列に採血不良と判定された血液検体を示す採血不良指示列1503が含まれる。
図15Aに示す例においては、採血不良指示列1503において「V」と表示されている行の血液検体は採血不良が疑われることを示している。これはステップS17の採血不良判定処理において取得された採血不良についての判定結果に基づいて表示される。すなわち、採血不良判定処理において採血不良との判定がなされた血液検体について採血不良が疑われることを示す情報を提示する。個別概要表示領域1502の採血不良指示領域1504において、採血不良が疑われることを示す情報を表示する。
図15Bは一つの血液検体の解析結果の詳細情報を示す画面1510の一例である。画面1510は採血不良指示領域1511を含み、解析結果を表示している血液検体は採血不良が疑われることを示す情報が表示される。
【0054】
図15C及び
図15Dは解析結果を表示する出力画面の変形例を示す。
図15Cは
図15Aの変形例を示し、個別概要表示領域1522において、採血不良と判定された血液検体の解析値(APTT, AT3等の各解析値)の代わりにマスク1525を表示することにより解析値を表示しない。すなわち、採血不良と判定された血液検体の解析値の出力を禁止する。例えば、解析結果を表示する処理を実行する際に、採血不良判定の結果が採血不良を示しているか否かを判定し、採血不良と判定される場合には解析値を示す値を表示することに代えて、マスクされた画像を出力する。同様に、
図15Dに示す一つの血液検体の解析結果の詳細情報を示す画面1530においても、APPTの解析値に代えてマスク1525を表示することにより解析値の出力を禁止する。凝固検査を用いた病態の把握等に用いるための解析値の表示を禁止することにより、採血不良が疑われる検体であるにもかかわらず、誤って通常検体から得られた解析値として病態等の把握を行うことを防止する。なお、
図15Dにおいては、APPTの値に加え、他の測定項目(
図15Dではxxxと表示)の解析値もマスクしている。採血不良が疑われる場合、採血不良の判定に用いた測定項目以外の測定項目の解析値の出力も禁止することにより、より確実に、誤って通常検体から得られた解析値として病態等の把握を行うことを防止する。
【0055】
以下、記憶部13に記憶される判定基準データ132の一例である分画線1401(
図14A)の決定方法について説明する。分画線1401は、解析システム1000の開発段階において開発者が以下の手順を実行することにより決定される。
【0056】
本実施形態においては、複数のドナーのそれぞれから採取した採血不良検体と通常検体とを1検体ずつ準備し、複数の採血不良検体と複数の通常検体のそれぞれについて凝固時間及び凝固速度を取得し、凝固時間及び凝固速度の散布図を作成し、作成された散布図に基づいて採血不良検体と通常検体との境界となる分画線を決定する。採血不良検体は、血液検体におけるクロット形成の有無、解析値と臨床情報との乖離の有無等の臨床検査の現場において採血不良を判定する条件に基づき、検査の熟練者が採血不良と認める検体を選定する。通常検体は、採血不良検体が認められた検体を採取したドナーから再度検体を採取し、上記採血不良を判定する条件に基づき、検査の熟練者が採血不良を認めない検体を選定する。
【0057】
散布図を作成するための検体の凝固時間及び凝固速度の取得は、前述のステップS11~S16及びステップS201~S203において実行される方法と同様とする。
図12は、作成された散布図の一例を示す。
図12において、●および▼は、熟練者により採血不良検体として選定された検体を示し、□および×は、熟練者により通常検体として選定された検体を示す。なお、●は、本実施形態の方法により生成された学習モデルによっても採血不良検体と判定された検体を示し、▼は、本実施形態の学習モデルによっては通常検体と判定された検体を示す。□は、本実施形態の学習モデルによっても通常検体と判定された検体を示し、×は、本実施形態の学習モデルによっては採血不良検体と判定された検体を示す。
【0058】
図13Aは採血不良検体の凝固波形の一例を示し、
図13Bは
図13Aの採血不良検体と同一のドナーから採取した通常検体の凝固波形の一例を示す。採血不良検体の凝固時間は27.0秒であったのに対して、通常検体の凝固時間は33.3秒であった。また、凝固反応が開始してからの凝固波形の傾きは
図13Aの方が緩やかであるから、凝固速度は採血不良検体の方が小さいことがわかる。
図13Aに示された採血不良検体は、組織液が検体に混入することによって、凝固時間が短くなり、凝固速度は小さくなったものと考えられる。
図12に示した散布図においてこの傾向が見て取れる。すなわち、採血不良検体の方が凝固時間が短く、凝固速度が遅いため、散布図の左下側に分布し、通常検体は散布図の右上側に分布している。この傾向を用いて、分画線を決定して採血不良検体と通常検体とを分類する。
【0059】
採血不良検体と通常検体とは分画線を用いることにより分類することができる。分画線の決定は、採血不良検体及び通常検体から取得された凝固速度及び凝固時間を教師データとして線形SVM(Support Vector Machine)を用いた機械学習によって決定する。決定された分画線に相当するデータを含む学習済みモデルは、記憶部13に判定基準データ132の一部として記憶される。線形SVMは教師データを用いて機械学習を行うことによって生成されるパターン認識モデルの一つである。線形SVMは一般的によく知られたものを用いることができる。なお、分画線の決定は、非線形SVMやその他のパターン認識モデルを用いてもよいし、システム設計者によって決定されてもよい。なお、検査対象の血液検体の採血不良検体又は通常検体への分類手法は、決定木、ベイズ分類、ロジスティック回帰及びNeural Networkなどの一般的な分類方法を用いてもよい。
【0060】
図14Aに、決定された分画線1401を
図12の散布図上に示す。この分画線1401は
図12に示された採血不良検体及び通常検体から取得された凝固速度及び凝固時間を教師データとして線形SVMを用いた機械学習によって決定される。検査対象の血液検体から取得された凝固時間及び凝固速度によって決定されるプロット位置が、この分画線によって分割された散布図のいずれの領域に位置するかを判定することによって、採血不良検体であるか通常検体であるかを判定することができる。分画線1401よりも下方の領域を採血不良検体と判定される領域Aとし、上方の領域を通常検体と判定される領域Bとする。検査対象の血液検体のプロット位置が領域Aに位置すると判定されれば、その血液検体は採血不良検体と判定し、領域Bに位置すると判定されれば、その血液検体は通常検体と判定する。
【0061】
(実施例1)
図14Bに、
図14Aに示した分画線に基づく学習済みモデルを用いて採血不良判定処理を実行した場合の実施例を示す。上記した臨床検査の現場において採血不良を判定する条件及び選定方法に従い、検査の熟練者が採血不良検体と通常検体を選定することにより、採血不良検体と通常検体のペアを46セット(92検体)準備した。APTT測定試薬としてレボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)を用いて各検体を測定し、各検体の凝固速度及び凝固時間を取得した。各検体の凝固速度及び凝固時間を教師データとして線形SVMを用いた機械学習によって分画線1401(
図14A)を決定した。この分画線1401を含む学習済みモデルを用いて採血不良判定処理を実行し、凝固速度及び凝固時間に基づき採血不良検体であるか通常検体であるかを判定した。
【0062】
図14Bにおいて、2列目の採血不良検体は熟練者によって選定された採血不良検体を示し、その数は、46(=29+17)検体であった。3列目の通常検体は熟練者によって選定された通常検体を示し、その数は、46(=4+42)検体であった。2行目の採血不良検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された採血不良検体を示し、その数は、33(=29+4)検体であった。3行目の通常検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された通常検体を示し、その数は、59(=17+42)検体で合った。熟練者および学習済みモデルの両方で採血不良検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって採血不良検体と判定された検体の数の割合が感度であり、ここでは、感度は63.0%(=29/46×100)であった。熟練者および学習済みモデルの両方で通常検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって通常検体と判定された検体の数の割合が特異度であり、ここでは、特異度は91.3%(=42/46×100)であった。
図14Cは、学習モデルの分画性能を評価するために上記ペアに基づいて生成したROC曲線である。AUCは0.83であり、高い分画性能を有することが確認できた。なお、
図12及び14Aにおいて、●は、熟練者および学習済みモデルの両方で採血不良検体と判定された検体を示し、×は、熟練者によって通常検体と判定されたが学習済みモデルによって採血不良検体と判定された検体を示し、□は、熟練者および学習済みモデルの両方で通常検体と判定された検体を示し、▼は、熟練者によって採血不良検体と判定されたが学習済みモデルによって通常検体と判定された検体を示す。
【0063】
(変形例1)
本実施形態の変形例1として、
図9に示したステップS202及びS203における凝固波形の微分曲線の取得及びこれに基づく凝固波形に関連するパラメータ値の取得に代えて、数理モデルの凝固波形へのフィッティング処理を行い、フィッティングされた数理モデルに基づいて、凝固時間及び凝固速度に関連するパラメータの値を取得する。本変形例において用いる所定の数理モデルは以下に示すシグモイド関数である。なお、所定の数理モデルは凝固波形の形状を表現可能なものであれば、シグモイド関数に限定されない。例えば、ゴンぺルツ関数、累積正規分布関数及びグーデルマン関数が挙げられる。
【0064】
【0065】
制御部10は、上記数1(数式1)のシグモイド関数をステップS201で読み出した凝固波形データにフィッティングさせる処理を行い、フィッティングされたときの各係数の値から各パラメータの値を取得する。この数式1を凝固波形にフィッティングさせた場合の波形の一例を
図16に示す。フィッティング処理によって取得された波形のシグモイド関数におけるαを反応波形の振幅とし、βを変曲点における反応速度とし、tを反応波形の変曲点とし、δを透過光強度の最小値とする。ここでは、tを凝固時間に関連するパラメータ、βを凝固速度に関連するパラメータとして、t及びβの値を取得する。α(反応波形の振幅)は
図10Cにおける透過光強度の相対値のL1とL2との差(dH)にほぼ等しいと考え、δはL2の高さ(bH-dH)にほぼ等しいと考えて、これらの値として取り扱うことができる。数理モデルをフィッティングする手法は、ノイズやERE波形異常などの波形異常による影響に対してロバスト性が高い。また、数理モデルを変更することで、様々な波形特性を定量可能な拡張性を有するという利点がある。ステップS204以降は、第1実施形態と同様である。
【0066】
(実施例2)
図17に、本変形例1による実施例を示す。上記した臨床検査の現場において採血不良を判定する条件及び選定方法に従い、検査の熟練者が採血不良検体と通常検体を選定することにより、採血不良検体と通常検体のペアを32セット(64検体)準備した。APTT測定試薬としてレボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)を用いて各検体を測定し、各検体の凝固速度及び凝固時間を取得した。各検体のt及びβを教師データとして線形SVMを用いた機械学習によって分画線を決定した。この分画線を含む学習済みモデルを用いて採血不良判定処理を実行し、t及びβに基づき採血不良検体であるか通常検体であるかを判定した。
【0067】
図17において、2列目の採血不良検体は熟練者によって選定された採血不良検体を示し、その数は、32(=25+7)検体であった。3列目の通常検体は熟練者によって選定された通常検体を示し、その数は、33(=4+29)検体であった。2行目の採血不良検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された採血不良検体を示し、その数は、29(=25+4)検体であった。3行目の通常検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された通常検体を示し、その数は、36(=7+29)検体で合った。熟練者および学習済みモデルの両方で採血不良検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって採血不良検体と判定された検体の数の割合が感度であり、ここでは、感度は78.1%(=25/32×100)であった。熟練者および学習済みモデルの両方で通常検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって通常検体と判定された検体の数の割合が特異度であり、ここでは、特異度は87.9%(=29/33×100)であった。感度及び特異度が高い数値を示しており、本変形例においても高い分画性能を有することが認められた。
【0068】
(変形例2)
本実施形態の変形例2として、凝固に関連する他のパラメータを用いる例を説明する。本変形例では、凝固波形の一次微分曲線をさらに微分することによって取得される二次微分曲線に基づいてパラメータを取得することもできる。
図11の一次微分曲線に基づいて取得された二次微分曲線の一例を
図18に示す。
【0069】
図10C、
図11及び18を参照して、凝固に関連する他のパラメータについて説明する。凝固時間に関連するパラメータは、凝固時間の他に、例えば、最大速度到達時間(Min1_time)(
図11)、最大加速度到達時間(Min2_time)(
図18)、最大減速度時間(Max2_time)(
図18)などが挙げられるが、これらに限定されない。前述のとおり、最大速度到達時間(Min1_time)は、一次微分曲線において、光照射開始時間(時間t
I)から凝固速度が最大となる時間(時間t
V)までの時間である。最大加速度到達時間(Min2_time)は、二次微分曲線において、光照射開始時間(時間t
I)から凝固加速度が最大となる時間(t
VI)までの時間である。最大減速度時間(Max2_time)は、二次微分曲線において、光照射開始時間(時間t
I)から凝固減速度が最大となる時間(t
VII)までの時間である。最大速度到達時間(Min1_time)は、凝固波形データに基づいて取得される凝固時間(時間t
c)にほぼ等しいから、最大速度到達時間(Min1_time)を凝固時間(時間t
c)として取り扱うことができる。同様に、最大加速度到達時間(Min2_time)は凝固反応開始時間(時間t
II)にほぼ等しく、最大減速度時間(Max2_time)は凝固反応終了時間(時間t
III)にほぼ等しいから、それぞれ凝固反応開始時間(時間t
II)及び凝固反応終了時間(時間t
III)として取り扱うことができる。
【0070】
凝固速度に関連するパラメータの値としては、|min 1|、|min 2|及び|max 2|などが挙げられるが、これらに限定されない。前述したとおり、|min 1|とは、一次微分曲線における凝固速度のピーク値(min1)(
図11)の絶対値であり、最大凝固速度を表す。
図18に示すように、|min 2|とは、二次微分曲線における凝固加速度のピーク値(min2)の絶対値であり、最大凝固加速度を表す。|max 2|とは、二次微分曲線における凝固減速度のピーク値(max2)の絶対値であり、最大凝固減速度を表す。
【0071】
図19の(a)~(i)はそれぞれ、凝固時間及び凝固速度に関連するパラメータを縦軸及び横軸とした場合の採血不良検体と通常検体の散布図を示す。いずれの散布図においても縦軸は凝固時間に関連するパラメータであり、横軸は凝固速度に関連するパラメータである。散布図において、●は採血不良検体を示し、〇は通常検体を示す。
図19の(a)~(i)に示された散布図から採血不良検体と通常検体とはそれぞれ一定の領域に分布する傾向があることがわかる。これらの例においては、採血不良検体は散布図の左下の領域に分布し、通常検体は右上の領域に分布する傾向がある。したがって、これらの凝固時間及び凝固速度に関連するパラメータを用いた散布図においても前述の実施形態及び変形例と同様の手法によって、検査対象の血液検体の採血不良判定を行うことができることが理解される。
【0072】
(変形例3)
本実施形態の変形例3として、凝固に関連する3つのパラメータを用いて採血不良判定処理を行う。凝固波形に関連する3つのパラメータのうち1つは凝固時間に関連するパラメータであり、別の一つは凝固速度に関連するパラメータであることが好ましい。もう一つのパラメータは凝固時間に関連するパラメータであってもよいし、凝固速度に関連するパラメータであってもよいし、いずれにも関連しないパラメータであってもよい。
【0073】
本変形例においては、変形例1と同様にシグモイド関数を凝固波形にフィッティングを行い、フィッティングされたシグモイド関数におけるα、β及びtを凝固時間及び凝固速度に関連する3つのパラメータとする。αは反応波形の振幅であり、βは変曲点における反応速度であり、tは反応波形の変曲点である。ここでは凝固波形に関連する3つのパラメータのうち1つのパラメータは凝固時間に関するパラメータとしてtを採用し、凝固速度に関連するパラメータとしてβを採用する。
【0074】
(実施例3)
図20に、本変形例3による実施例を示す。上記した臨床検査の現場において採血不良を判定する条件及び選定方法に従い、検査の熟練者が採血不良検体と通常検体を選定することにより、採血不良検体と通常検体のペアを32セット(64検体)準備した。APTT測定試薬としてレボヘム(登録商標)APTT SLA(シスメックス株式会社)を用いて各検体を測定し、各検体の凝固速度及び凝固時間を取得した。各検体のt、α及びβを教師データとして線形SVMを用いた機械学習によって分画線を決定した。この分画線を含む学習済みモデルを用いて採血不良判定処理を実行し、t、α及びβに基づき採血不良検体であるか通常検体であるかを判定した。
【0075】
図20において、2列目の採血不良検体は熟練者によって選定された採血不良検体を示し、その数は、32(=24+8)検体であった。3列目の通常検体は熟練者によって選定された通常検体を示し、その数は、33(=5+28)検体であった。2行目の採血不良検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された採血不良検体を示し、その数は、29(=24+5)検体であった。3行目の通常検体は学習済みモデルを用いた採血不良判定処理によって判定された通常検体を示し、その数は、36(=8+28)検体で合った。熟練者および学習済みモデルの両方で採血不良検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって採血不良検体と判定された検体の数の割合が感度であり、ここでは、感度は75.0%(=24/32×100)であった。熟練者および学習済みモデルの両方で通常検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって通常検体と判定された検体の数の割合が特異度であり、ここでは、特異度は84.8%(=28/33×100)であった。感度及び特異度が高い数値を示しており、本変形例においても高い分画性能を有することが認められた。
【0076】
(変形例4)
本実施形態の変形例4として、制御部10は、ステップS11,12,16,17を実行するが、ステップS18の解析値を取得する処理を実行しない。また制御部10は、ステップS19において、採血不良の判定結果の出力及び記憶処理のみを実行する。採血不良判定処理のみを行う解析システムを提供することができる。
【0077】
(変形例5)
本実施形態の変形例5として、測定値に基づく凝固波形データの取得は、制御部24ではなく、制御部10が実行する。制御部24は、ステップS103の実行後、ステップS104を実行せず、ステップS15においてステップS103で得られた各測定値を解析装置100に送信する。制御部10は、ステップS16において、測定装置200から各測定値を受信し、受信した各測定値を光照射からの経過時間と対応付けて凝固波形データとして記憶部13に記憶する。その後、制御部10は、ステップS17以降の処理を実行する。
【0078】
(第2実施形態)
本実施形態は、採血不良判定処理(ステップS17)を解析装置100ではなく、サーバ102が実行する点で、第1実施形態と異なる。本実施形態のシステムは、解析装置100に代えて、採血不良判定処理を実行しないクライアント装置101を備える。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。特に言及のない構成については、第1実施形態と同様である。なお、クライアント装置101は、解析値の取得処理(ステップS18の処理)を実行してもよいし、実行しなくてもよい。クライアント装置101が解析値の取得処理を実行しない場合、サーバ102が解析値の取得処理を実行してもよい。以下に説明する解析システム2000では、クライアント装置101が解析値の取得処理を実行せず、サーバ102が解析値の取得処理を実行する。
【0079】
2.解析システム2000
図21に本実施形態の解析システム2000の外観図を示す。解析システム2000には血液検体の測定データを取得し、出力するための複数の解析サブシステム1001及び複数の解析サブシステム1001によって取得された血液検体の凝固波形データについての凝固解析を行うサーバ102とを含む。解析サブシステム1001は、測定装置200を制御し、血液検体の凝固解析結果の出力を行うクライアント装置101と、凝固反応を開始した血液検体に光を照射し、光学情報を取得し、凝固波形データを取得する測定装置200とを備える。クライアント装置101と測定装置200とは、通信ケーブル25により接続される。サーバ102は複数のクライアント装置101とネットワーク98を介して接続される。ネットワークは例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)である。ネットワーク98は、インターネットであってもよい。
【0080】
クライアント装置101は、採血不良判定処理および解析値の取得処理を実行しない点で解析装置100と異なるが、その他の点においては解析装置100と同じである。サーバ102及びクライアント装置101の構成は
図2に示された解析装置100と同様である。サーバ102は、制御部30を備える。制御部30は、制御部10と同様に、CPU、DRAM、SRAM、ソリッドステートドライブ、及びイーサネットを備える。サーバ102の制御部30の記憶部においては採血不良判定プログラム、解析プログラム、及び判定基準データが格納される。クライアント装置101の記憶部においては採血不良判定結果を含む解析結果を出力するためのプログラムが格納される。
【0081】
2.1 測定処理、採血不良判定処理、解析値の取得処理及び出力処理
図22を参照して、本実施形態における測定処理、採血不良判定処理、解析値の取得処理及び出力処理のフローを説明する。
図7と同様の処理については
図7と同じ参照番号を付す。第1実施形態と同様に、ステップS11において、制御部10が、入力部16からユーザにより入力された測定開始指示を受け付けると、制御部24によって測定処理が実行されて、制御部10が凝固波形データを受信する(S12~S16)。その後、採血不良判定処理および解析値の取得処理は制御部10によっては実行されず、ステップS221において、制御部10は、受信した凝固波形データをサーバ102へ送信する。ステップS222において、制御部30は、凝固波形データを受信すると、ステップS223において、採血不良判定処理を実行する。ここで実行される採血不良判定処理はサーバ102によって実行されることを除き
図9に示される採血不良判定処理と同じである。制御部30は、ステップS224において、解析値の取得処理を実行する。ここで実行される解析値の取得処理はサーバ102によって実行されることを除き
図7に示される解析値の取得処理と同じである。ステップS225において、サーバ102は取得された採血不良の判定結果及び解析値をクライアント装置101へ送信する。ステップS226において、制御部10は、採血不良の判定結果及び解析値を受信し、ステップS19において、採血不良の判定結果及び解析値の出力及び記憶処理を実行する。
【0082】
2.2 変形例の処理
第2実施形態の変形例として、凝固時間及び凝固速度の取得処理(ステップS203まで)までを制御部10において実行し、制御部10は、凝固波形データの送信に代えて、血液検体の凝固に関する複数のパラメータの値、例えば、凝固時間及び凝固速度の値をサーバ102へ送信するようにしてもよい。この場合サーバ102は凝固時間及び凝固速度の値を受信すると、採血不良の判定(S204)及び解析値の取得処理(S224)以降を実行する。
【0083】
2.3 変形例のパラメータ
第2実施形態の変形例として、制御部30は、第1実施形態の変形例1~3で示したパラメータを用いて採血不良の判定処理を実行する。
【0084】
(第3実施形態)
本実施形態は、ステップS104において、凝固波形データとして、測定値の一例である透過光強度を時系列に並べた一次元の配列データを取得し、採血不良判定処理(ステップS17、ステップS223)において、学習済みの深層学習アルゴリズムに凝固波形データを入力し、採血不良の判定を行う点で、第1及び第2実施形態と異なる。
図23に、本実施形態で取得される凝固波形データを示す。
図23に示すとおり、凝固波形データは、制御部24が取得した透過光強度を取得順に時系列に並べた一次元の配列データである。なお、凝固波形データは、実施形態1の凝固波形データと同様に、透過光強度と、各透過光強度を取得したときの時間を示す二次元の配列データ(
図10A参照)であってもよい。
【0085】
本実施形態における深層学習アルゴリズムの学習方法について、
図24を用いて説明する。深層学習アルゴリズム50は、ニューラルネットワーク構造を有するアルゴリズムである限り制限されず、畳み込みニューラルネットワーク、フルコネクトニューラルネットワークおよびこれらの組み合わせ等であり得る。深層学習アルゴリズム50を学習するための学習データには、熟練者により採血不良検体と判定された検体から得られた凝固波形データと、その検体と同一のドナーから採取され、熟練者により通常検体と判定された検体から得られた凝固波形データと、が用いられる。また、採血不良検体と判定された検体から得られた凝固波形データには、採血不良検体であることを示すラベルが付与され、通常検体と判定された検体から得られた凝固波形データには、通常検体であることを示すラベルが付与される。このようなラベルが付与された凝固波形データを複数のドナーの検体から準備し、複数(例えば、採血不良検体と通常検体の両方を含む100検体以上)の凝固波形データおよび各凝固波形データに付与されたラベルを深層学習アルゴリズム50に入力する。
【0086】
深層学習アルゴリズム50は、入力層50aと、出力層50bと、複数層からなる中間層50cとを含む。凝固波形データは、入力層50aに入力され、その凝固波形データに付与されたラベルは、出力層50bに入力される。
図24では、出力層50bに採血不良検体であることを示すラベルが入力された例を示している。これらの入力により、中間層50cの各層の重みを算出し、学習済みの深層学習アルゴリズム60(
図26)を生成する。学習済みの深層学習アルゴリズム60は、記憶部13に記憶される。
【0087】
図25は、本実施形態における採血不良判定処理を示すフローチャートである。制御部10又は制御部30は、ステップS2001において、記憶部13に記憶した凝固波形データを読み出し、読み出した凝固波形データを深層学習アルゴリズム60に入力する。制御部10又は制御部30は、S2002において、深層学習アルゴリズム60から出力されるラベルに基づき、採血不良の判定を行う。
【0088】
図26は、ステップS2001及びS2002の処理を模式的に示す。深層学習アルゴリズム60は、深層学習アルゴリズム50と同様に、入力層60aと、出力層60bと、複数層からなる中間層60cとを含む。採血不良の判定の対象となる検体から得られた凝固波形データは、入力層60aに入力される。深層学習アルゴリズム60は、中間層60cにおける処理結果に応じて、出力層60bから、採血不良検体又は通常検体である確率に基づき、採血不良検体を示すラベル又は通常検体を示すラベルを出力する。
図26では、採血不良検体を示すラベルが出力された例を示している。制御部10又は制御部30は、ステップS2002において、出力層60bから採血不良検体を示すラベルが出力された場合、検体は採血不良検体であると判定し、通常検体を示すラベルが出力された場合、検体は通常検体であると判定する。なお、出力層60bからの出力は、ラベルに代えて、採血不良検体又は通常検体である確率であってもよい。この場合、制御部10又は制御部30は、採血不良検体及び通常検体のうち確率が高い方を判定結果としてもよいし、出力層60bから出力された確率を判定結果としてもよい。
【0089】
(実施例4)
図27、28に、第3実施形態による実施例を示す。上記した臨床検査の現場において採血不良を判定する条件及び選定方法に従い、検査の熟練者が採血不良検体と通常検体を選定することにより、採血不良検体を126検体、通常検体を124検体の計250検体を準備した。このうち、採血不良検体81検体、通常検体94検体の計175検体の凝固波形データを学習用データとして、深層学習アルゴリズム50に学習させた。残りの検体の凝固波形データを、学習によって得られた深層学習アルゴリズム60に入力し、採血不良の判定結果を取得した。残りの検体は、採血不良検体が45検体、通常検体が30検体の計75検体であった。深層学習アルゴリズム60は、出力層60bから出力される採血不良検体である確率が0.50(50%)以上の場合、採血不良検体を示すラベルを出力し、採血不良検体である確率が0.50(50%)未満の場合、通常検体を示すラベルを出力するように設定した。すなわち、採血不良検体と判定する確率のカットオフを0.50に設定した。
【0090】
図27において、2列目の採血不良検体は熟練者によって選定された採血不良検体を示し、その数は、45(=40+5)検体であった。3列目の通常検体は熟練者によって選定された通常検体を示し、その数は、30(=8+22)検体であった。2行目の採血不良検体は深層学習アルゴリズムを用いた採血不良判定処理によって判定された採血不良検体を示し、その数は、48(=40+8)検体であった。3行目の通常検体は深層学習アルゴリズムを用いた採血不良判定処理によって判定された通常検体を示し、その数は、27(=5+22)検体で合った。熟練者および深層学習アルゴリズムの両方で採血不良検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって採血不良検体と判定された検体の数の割合が感度であり、ここでは、感度は88.9%(=40/45×100)であった。熟練者および深層学習アルゴリズムの両方で通常検体と判定された検体の数に対する、熟練者によって通常検体と判定された検体の数の割合が特異度であり、ここでは、特異度は73.3%(=22/30×100)であった。感度及び特異度が高い数値を示しており、本変形例においても高い分画性能を有することが認められた。
【0091】
図28は、採血不良検体と判定する確率のカットオフを変化させたときの感度と特異度とを示すROC曲線を示す。このROC曲線から得られたAUCは、0.876であり、このことからも、変形例が高い分画性能を有することが認められた。
【0092】
以上に説明した処理又は動作において、あるステップにおいて、そのステップではまだ利用できないはずのデータを利用しているなどの処理又は動作上の矛盾が生じない限りにおいて、処理又は動作の順序及び実行主体等を自由に変更することができる。また以上に説明してきた各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0093】
1000 解析システム
100 解析装置
200 測定装置
10 制御部
25 通信ケーブル
2000 解析システム
1001 解析サブシステム
101 クライアント装置
102 サーバ