(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092632
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】複層塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240701BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240701BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240701BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/00 D
C09D7/63
C09D201/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208713
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 敏雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038GA07
4J038GA09
4J038GA11
4J038JB26
4J038JC18
4J038JC24
4J038JC30
4J038KA03
4J038KA05
4J038KA08
4J038MA08
4J038NA24
4J038PA07
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本開示は、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装した場合においても、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の複層塗膜の製造方法は、
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、下塗り塗装膜を形成する、下塗り塗装膜形成工程、
前記下塗り塗装膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、上塗り塗装膜を形成する、上塗り塗装膜形成工程、及び、
前記下塗り塗装膜及び前記上塗り塗装膜を同時に乾燥させて、複層塗膜を形成する、乾燥工程、を含む、複層塗膜の製造方法であって、
前記下塗り塗料組成物は、
水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を含む水性塗料組成物であり、
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂(A)の水分散体を含み、
前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含み、
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)を含み、
前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び/又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、下塗り塗装膜を形成する、下塗り塗装膜形成工程、
前記下塗り塗装膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、上塗り塗装膜を形成する、上塗り塗装膜形成工程、及び、
前記下塗り塗装膜及び前記上塗り塗装膜を同時に乾燥させて、複層塗膜を形成する、乾燥工程、を含む、複層塗膜の製造方法であって、
前記下塗り塗料組成物は、
水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を含む水性塗料組成物であり、
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂(A)の水分散体を含み、
前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含み、
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)を含み、
前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び/又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含む、
複層塗膜の製造方法。
【請求項2】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、以下の式(1a)又は(1b):
X1-R2-SiR1
n(OR1)3-n (1a)
X1-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (1b)
[式(1a)及び(1b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X1は、アミノ基を含む有機基を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含み、
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)は、以下の式(2a)又は(2b):
X2-R2-SiR1
n(OR1)3-n (2a)
X2-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (2b)
[式(2a)及び(2b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X2は、エポキシ基、エポキシシクロアルキル基及びグリシドキシ基から選ばれる1種を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含む、請求項1に記載の複層塗膜の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤(D)の含有量は、樹脂固形分100質量部に対し、3質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の複層塗膜の製造方法。
【請求項4】
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、防錆顔料(E1)及び/又は防錆剤(E2)を更に含み、
前記防錆顔料(E1)は、リン酸系防錆顔料を含み、
前記防錆剤(E2)は、亜硝酸塩、アゾール系化合物及びチアゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の複層塗膜の製造方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、100g/eq以上10,000g/eq以下である、請求項1に記載の複層塗膜の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミン化合物(B)の活性水素当量と、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が0.3以上1.0以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複層塗膜の製造方法。
【請求項7】
前記上塗り塗料組成物は、主剤(III)及び硬化剤(IV)を含む塗料組成物であり、
前記主剤(III)は、塗膜形成樹脂を含み、
前記塗膜形成樹脂は、水酸基を有し、
前記硬化剤(IV)は、ポリイソシアネート化合物を含む、請求項1に記載の複層塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複層塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の意識が高まり、環境に配慮した商品への置換が求められている。塗料分野においては、例えば、有機溶媒の使用量を低減することが要求されており、溶媒として水を使用した水性塗料組成物を用いることにより、このような要求を満たすことができる。産業機械や建設機械に用いられる塗料分野においても、水性塗料組成物への転換が求められつつある。
【0003】
産業機械及び建設機械等は、一般に大型であり、そして強い荷重に耐えうるため、自動車車体等と比較して構成基材(鋼板)の厚みがあるという特徴がある。そのため、このような産業機械、建設機械が被塗物である場合は、被塗物の熱容量が大きく、加熱炉中において被塗物に熱が十分に伝達しないという問題がある。そのため、このような被塗物を塗装する場合は、高温加熱工程を必須とせず、常温でも塗膜形成を行うことができる、常温塗膜形成形塗料組成物が選択されている。
【0004】
産業機械及び建設機械等においては、物理的に過酷な環境下で使用されることも多いため、その表面を保護する塗膜には、一般に、優れた耐食性に加えて、優れた耐候性も要求される。耐食性及び耐候性の両方の性能を満足する塗膜を形成する方法としては、下塗り塗料組成物として、耐食性に優れる塗料組成物を用い、その後に、耐候性に優れた上塗り塗料組成物を用いて、複層塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、バインダー樹脂成分の全質量を基準にしてエポキシ当量が400~2,000g/eqである変性エポキシ樹脂、アミン樹脂及び反応性希釈剤からなるバインダー樹脂成分を含む弱溶剤型ハイソリッド変性エポキシ樹脂塗料を下塗りし、次いで、水酸基価が10~100mgKOH/gであるポリオール樹脂及びポリイソシアネート化合物からなるバインダー樹脂成分を含む弱溶剤型ハイソリッドポリウレタン樹脂塗料を上塗りすることを特徴とする、厚膜型防食塗膜の形成方法が記載されている。
【0006】
この方法によれば、それぞれ1回の下塗り塗装及び上塗り塗装で従来の各層の多層塗りによる防食効果と同等の防食効果を得ることができると記載されている。しかしながら、この方法は、下塗り塗装後に常温で24時間乾燥させた後に上塗り塗料の塗装が行われており、複層塗膜の形成工程に長時間を要するため、塗装工程の効率(塗装作業性ともいう)が悪いという問題がある。
【0007】
近年、塗装工程の短縮の観点から、ウェットオンウェットと称される塗装方法が注目されている。この塗装方法は、下塗り塗料組成物を塗装した後、下塗り塗料組成物を乾燥させずに上塗り塗料組成物を塗装し、その後に2種類の塗装膜を同時に乾燥させることによって、塗装工程を短縮することができる塗装方法である。
【0008】
ウェットオンウェット塗装に関して、特許文献2では被塗物上に、エポキシ樹脂、脂環式炭化水素樹脂、及びポリイソシアネート化合物を含有する下塗塗料組成物を塗装して、未硬化の下塗塗膜を形成し、該未硬化の下塗塗膜上に、アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する上塗り塗料ベース塗料組成物を塗装することを含む、複層塗膜形成方法について検討されている。
特許文献3では、エポキシ樹脂及び顔料の反応物を含むプライマー塗膜と、該プライマー塗膜上に形成され、アクリル樹脂とブロックイソシアネート化合物と顔料の反応物を含む上塗塗膜とを有する積層塗装物において、プライマー塗膜と上塗塗膜中の顔料の含有率や体質顔料の含有量を調整することが検討されている。
特許文献4には、下塗り塗料組成物として、アクリル樹脂とエポキシ樹脂とイソシアネート化合物と表面調整剤を含む組成物を用い、上塗り塗料組成物として、アクリル樹脂とイソシアネート化合物と表面調整剤を含む組成物を用い、下塗り塗料組成物と上塗り塗料組成物との表面張力の差を2~8mN/mとすることなどが記載されている。
特許文献5には、プライマー塗料組成物として、エポキシ樹脂、防錆顔料、着色顔料及び体質顔料を含む組成物を用い、上塗塗料組成物として、アクリル樹脂及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物を含む組成物を用いて、アクリル樹脂と活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物との比率(アクリル樹脂/活性メチレンブロックポリイソシアネート)を60/40~80/20とすることなどが記載されている。
特許文献6には、エポキシ樹脂及びアミン系硬化剤を含有する防食塗料組成物において、エポキシ樹脂として、重量平均分子量が470~900であるとともに、エポキシ当量が180~1,000g/eqであるビスフェノール型エポキシ樹脂と、重量平均分子量が10,000~100,000である高分子型エポキシ樹脂を用いることなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-188239号公報
【特許文献2】特開2020-192516号公報
【特許文献3】特開2021-160120号公報
【特許文献4】国際公開第2013/024784号
【特許文献5】特開2018-008205号公報
【特許文献6】特開2021-54932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、下塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物をウェットオンウェット塗装する場合、未乾燥の2種類の塗装膜の層間において塗料組成物が混じり合い(混層ともいう)、乾燥後に得られる複層塗膜の外観が悪化するという不具合が生じやすいという問題があり、かかる問題は、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を使用する場合に特に顕著である。特に、産業機械及び建設機械が被塗物の場合は、自動車車体等と比較して、塗装膜厚が大きく、且つ前記のとおり常温塗膜形成形塗料組成物が選択されている。そのため、従来から知られる特許文献1~6に記載の塗料組成物は、いずれも溶剤を分散媒体として用いる溶剤系塗料組成物であり、水性塗料組成物を用いてウェットオンウェット塗装した場合については、十分に検討されているとは言えない。
【0011】
加えて、水性塗料組成物を使用する場合、複層塗膜の耐食性を向上することが困難であり、水性塗料組成物を用いてウェットオンウェット塗装した場合においても、高い耐食性を発揮できることが求められている。
【0012】
本開示は、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装した場合においても、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、以下を含む。
[1] 被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、下塗り塗装膜を形成する、下塗り塗装膜形成工程、
前記下塗り塗装膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、上塗り塗装膜を形成する、上塗り塗装膜形成工程、及び、
前記下塗り塗装膜及び前記上塗り塗装膜を同時に乾燥させて、複層塗膜を形成する、乾燥工程、を含む、複層塗膜の製造方法であって、
前記下塗り塗料組成物は、
水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を含む水性塗料組成物であり、
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂(A)の水分散体を含み、
前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含み、
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)を含み、
前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び/又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含む、
複層塗膜の製造方法。
[2] 前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、以下の式(1a)又は(1b):
X1-R2-SiR1
n(OR1)3-n (1a)
X1-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (1b)
[式(1a)及び(1b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X1は、アミノ基を含む有機基を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含み、
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)は、以下の式(2a)又は(2b):
X2-R2-SiR1
n(OR1)3-n (2a)
X2-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (2b)
[式(2a)及び(2b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X2は、エポキシ基、エポキシシクロアルキル基及びグリシドキシ基から選ばれる1種を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含む、[1]に記載の複層塗膜の製造方法。
[3] 前記シランカップリング剤(D)の含有量は、樹脂固形分100質量部に対し、3質量部以上10質量部以下である、[1]又は[2]に記載の複層塗膜の製造方法。
[4] 前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、防錆顔料(E1)及び/又は防錆剤(E2)を更に含み、
前記防錆顔料(E1)は、リン酸系防錆顔料を含み、
前記防錆剤(E2)は、亜硝酸塩、アゾール系化合物及びチアゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の複層塗膜の製造方法。
[5] 前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、100g/eq以上10,000g/eq以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の複層塗膜の製造方法。
[6] 前記ポリアミン化合物(B)の活性水素当量と、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が0.3以上1.0以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の複層塗膜の製造方法。
[7] 前記上塗り塗料組成物は、主剤(III)及び硬化剤(IV)を含む塗料組成物であり、
前記主剤(III)は、塗膜形成樹脂を含み、
前記塗膜形成樹脂は、水酸基を有し、
前記硬化剤(IV)は、ポリイソシアネート化合物を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の複層塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示の複層塗膜の製造方法によれば、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装した場合においても、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の複層塗膜の製造方法は、
被塗物上に、下塗り塗料組成物を塗装して、下塗り塗装膜を形成する、下塗り塗装膜形成工程、
前記下塗り塗装膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、上塗り塗装膜を形成する、上塗り塗装膜形成工程、及び、
前記下塗り塗装膜及び前記上塗り塗装膜を同時に乾燥させて、複層塗膜を形成する、乾燥工程、を含む、複層塗膜の製造方法であって、
前記下塗り塗料組成物は、
水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を含む水性塗料組成物であり、
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂(A)の水分散体を含み、
前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含み、
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)を含み、
前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び/又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含む。
【0016】
本開示の複層塗膜の製造方法によれば、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装した場合においても、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能である。
【0017】
特定の理論に拘束されないが、本開示の製造方法が前記効果を発揮できる理由は、以下のように考えられる。すなわち、本発明者らの検討によれば、水性塗料組成物の製造の際にシランカップリング剤(D)を用いることで、水性塗料組成物に含まれる水性媒体とシランカップリング剤(D)が反応し得、シランカップリング剤(D)の加水分解性シリル基の加水分解及び縮合が、ある程度進行した状態になり得ると考えられる。この状態において、塗装膜を乾燥させると、エポキシ基及び/又はアミノ基がポリアミン化合物及び/又はエポキシ樹脂と反応し得るため、シランカップリング剤(D)の加水分解性シリル基に由来する部分が被塗物への密着性を向上し得ると同時に、下塗り塗膜中に適度に分散されつつ固定化されると考えられる。その結果、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能になると考えられる。
【0018】
本開示において、塗料組成物を塗装した後、乾燥乃至硬化前の膜を塗装膜ともいい、乾燥乃至硬化した後の膜を塗膜ともいう。
【0019】
(下塗り塗装膜形成工程)
前記下塗り塗装膜形成工程では、下塗り塗料組成物を被塗物上に塗装する。これにより、下塗り塗装膜が形成される。
【0020】
かかる下塗り塗料組成物の塗装方法は、特に限定されないが、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアスプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。前記スプレー塗装においては、必要に応じて2液混合ガンを用いてもよい。これらは被塗物に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記下塗り塗料組成物の塗装は、下塗り塗装膜の乾燥膜厚(以下、「塗装膜の乾燥膜」を「塗膜」ともいい、「塗装膜の乾燥膜厚」を「塗膜の膜厚」ともいう)が10~100μm、好ましくは15~70μmとなるように実施されうる。一態様において、前記下塗り塗料組成物の塗装は、下塗り塗膜の膜厚が、30~70μm、30~60μm、更に40~60μmとなるように実施されうる。後述する下塗り塗料組成物を用いることで、厚膜に塗装した場合でも、平滑で欠陥の無い複層塗膜を得ることができる。また、下塗り塗膜を10μm以上とすることで、基材を十分に保護することが容易となり、100μm以下とすることで、複層塗膜におけるワキ等の不具合の発生を抑制することが容易となる。
【0022】
前記被塗物としては、例えば、鉄、亜鉛、錫、銅、チタン、ブリキトタン等の金属基材が挙げられる。これらの金属基材には、亜鉛、銅、クロム等のメッキが施されていてもよく、また、クロム酸、リン酸亜鉛又はジルコニウム塩等の表面処理剤を用いた表面処理が施されていてもよい。
【0023】
本開示の複層塗膜の製造方法は、熱容量が大きい被塗物、例えば、金属基材等のように、加熱炉中で熱が十分に伝達し難い被塗物に対しても好適に用いることができる。このような被塗物として、具体的には、建設機械(例えば、ブルドーザー、スクレイパー、油圧ショベル、堀削機、運搬機械(トラック、トレーラー等)、クレーン・荷役機械、基礎工事用機械(ディーゼルハンマー、油圧ハンマー等)、トンネル工事用機械(ボーリングマシーン等)、ロードローラー等);一般工業用と呼ばれる弱電・重電機器、農業機械、鋼製家具、工作機械及び大型車両等の産業機械;その他熱容量が大きく加熱しても昇温し難い被塗物等が挙げられる。本開示における複層塗膜の製造方法は、熱容量が大きく加熱しても昇温し難い被塗物である建設機械又は産業機械の塗装に好適に用いることができる。
【0024】
(上塗り塗装膜形成工程)
上塗り塗装膜形成工程では、前記下塗り塗装膜の上に、上塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、上塗り塗装膜を形成する。これにより、未乾燥の下塗り塗装膜上に、未乾燥の上塗り塗装膜が形成された状態となる。
【0025】
代表的には、ウェットオンウェットには、未乾燥の下塗り塗装膜上に、未乾燥の上塗り塗装膜を形成し、未乾燥の下塗り塗装膜と未乾燥の上塗り塗装膜とを同時に乾燥させて複層塗膜とする塗装方法が含まれる。ウェットオンウェット塗装により、塗装工程を短縮することが可能であり、また、下塗り塗装膜を乾燥させる必要がないため、エネルギー効率が良好である。また、本開示の複層塗膜の製造方法では、後述する下塗り塗料組成物を用いるため、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装を実施した場合であっても、平滑な表面を有する複層塗膜を製造できる。
【0026】
一態様において、下塗り塗料組成物、上塗り塗料組成物及び後述する中塗り塗料組成物を塗装した膜が未乾燥であることは、JIS K 5600-1-1の規定による「指触乾燥」に至らない状態であることを意味し、例えば、塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れることにより確認してもよい。
【0027】
下塗り塗装膜を形成した後、上塗り塗料組成物を塗装するまでの間隔(以下、「塗装間隔」、「インターバル」ともいう)は、作業効率の観点から、0分超であり、1~60分であってよく、1~30分であってよく、1~15分であってもよい。本開示の複層塗膜形成方法を用いれば、下塗り塗装膜がほとんど乾いていない状態で上塗り塗料組成物を塗装しても、塗膜外観に優れた複層塗膜を得ることが可能である。インターバルの間の温度は、例えば0℃以上40℃未満であってよく、5℃以上35℃以下であってよい。
【0028】
また、下塗り塗装膜を形成した後、上塗り塗料組成物を塗装する前に、下塗り塗装膜が一般的な室温を超える温度(例えば40~100℃、より好ましくは40~80℃)で1分~10分間程度仮乾燥させ、下塗り塗装膜が半乾燥の状態で上塗り塗料を塗装することも可能である。
【0029】
上塗り塗料組成物の塗装方法は、特に限定されないが、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアスプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。前記スプレー塗装においては、必要に応じて2液混合ガンを用いてもよい。これらは被塗物に応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記上塗り塗料組成物の塗装は、上塗り塗装膜の乾燥膜厚(以下、「上塗り塗膜の膜厚」ともいう)が10~100μm、好ましくは20~80μmとなるように実施されうる。一態様において、前記上塗り塗料組成物の塗装は、上塗り塗膜の膜厚が、30~70μm、更に40~60μmとなるように実施されうる。後述する上塗り塗料組成物及び下塗り塗料組成物を用いることで、厚膜に塗装した場合でも、平滑で欠陥の無い複層塗膜を得ることができる。また、上塗り塗膜の膜厚を10μm以上とすることで、下塗り塗膜の隠蔽性を向上することが容易となり、100μm以下とすることで、複層塗膜におけるワキ等の不具合の発生を抑制することが容易となる。
【0031】
(乾燥工程)
乾燥工程では、前記下塗り塗装膜及び前記上塗り塗装膜を同時に乾燥させる。これにより、複層塗膜が形成される。
【0032】
乾燥温度は、好ましくは5~100℃、更に15~80℃であり得る。一態様において、乾燥温度は、5~35℃であってよく、乾燥時間は1~10日であってよい。別の態様において、乾燥温度は、例えば50~100℃、更に60~80℃であってよく、この場合の乾燥時間は、15~60分であってよい。更に別の態様において、5~35℃で、15~60分乾燥(常温乾燥)した後、50~100℃(好ましくは60~80℃)で、15~60分乾燥(強制乾燥)させてもよい。
【0033】
(中塗り塗装膜形成工程)
本開示の複層塗膜の製造方法は、未乾燥の下塗り塗装膜の上に、中塗り塗料組成物を、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の中塗り塗装膜を形成する工程を更に含んでいてもよく、前記未乾燥の中塗り塗装膜の上に、中塗り塗料組成物を、更に、ウェットオンウェットで塗装し、未乾燥の中塗り塗装膜を形成する工程を更に含んでいてもよい。
【0034】
下塗り塗装膜を形成した後、中塗り塗料組成物を塗装するまでの間隔、及び、中塗り塗装膜を形成した後、中塗り塗料組成物を更に塗装するまでの間隔は、下塗り塗装膜を形成した後、上塗り塗料組成物を塗装するまでの間隔として前記した条件を適宜使用できる。
【0035】
中塗り塗料組成物の塗装方法としては、上塗り塗料組成物の塗装方法として前記した方法を適宜使用できる。また、中塗り塗料組成物を塗装する際、中塗り塗装膜の乾燥膜厚(以下、「中塗り塗膜の膜厚」ともいう)が、上塗り塗装膜の乾燥膜厚として前記した範囲となるように塗装してよい。
【0036】
中塗り塗料組成物としては、特に限定されず、水性塗料組成物又は溶剤系塗料組成物のいずれでもよく、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系及び/又は無機系の着色顔料及び/又は体質顔料等が含有された中塗り塗料組成物として当業者に公知の塗料組成物を適宜使用してよい。
【0037】
複層塗膜の製造方法が中塗り塗膜形成工程を含む場合、上塗り塗装膜形成工程において、下塗り塗装膜を中塗り塗装膜と読み替える。また、複層塗膜の製造方法が中塗り塗膜形成工程を含む場合、ウェットオンウェットには、
未乾燥の下塗り塗装膜上に未乾燥の中塗り塗装膜及び上塗り塗装膜を形成し、未乾燥の下塗り塗装膜と未乾燥の中塗り塗装膜と未乾燥の上塗り塗装膜とを全て同時に乾燥させて複層塗膜とする塗装方法;
未乾燥の下塗り塗膜上に未乾燥の中塗り塗装膜を形成し、未乾燥の下塗り塗装膜と未乾燥の中塗り塗装膜を同時に乾燥させて予備複層塗膜とした後に、予備複層塗膜上に上塗り塗装膜を形成し、上塗り塗装膜を乾燥させて複層塗膜とする塗装方法;
未乾燥の下塗り塗装膜を乾燥させて下塗り塗膜とし、更に下塗り塗膜上に未乾燥の中塗り塗装膜及び未乾燥の上塗り塗装膜を形成し、未乾燥の中塗り塗装膜及び未乾燥の上塗り塗装膜を同時に乾燥させて複層塗膜とする塗装方法も含まれる。
【0038】
(下塗り塗料組成物)
前記下塗り塗料組成物は、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を含む2液硬化形の水性塗料組成物である。水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)は、別々に保管され、塗装直前に混合し、混合物として塗装に供される。
【0039】
水性塗料組成物は、分散媒体として水を用いており、分散媒体として溶剤を用いる溶剤系塗料組成物に比べて分散媒体の乾燥速度が低い。特に、ウェットオンウェット塗装においては、下塗り塗料組成物が水性塗料組成物である場合に、溶剤系塗料組成物を用いる場合と比較して、未乾燥の下塗り塗装膜と未乾燥の上塗り塗装膜との間で混じり合い(混層)が発生しやすい傾向が顕著である。しかしながら、本開示の複層塗膜の製造方法では、特定の下塗り塗料組成物を用いるため、かかる混層を抑制し、平滑な表面を有する複層塗膜を形成することができる。
【0040】
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂(A)の水分散体を含み、前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含む。また、前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)及び/又はシランカップリング剤(D)の加水分解物若しくは縮合物の少なくとも一方を含み、有機溶剤(C)、防錆顔料(E1)、防錆剤(E2)及び粘性調整剤から選ばれる1種以上を更に含んでいてもよい。
【0041】
(A)エポキシ樹脂水分散体
前記水性主剤(I)に含まれるエポキシ樹脂水分散体(A)は、エポキシ樹脂が水中に分散された成分である。
【0042】
エポキシ樹脂は、一分子当たり平均して少なくとも二つのエポキシ基を有することが好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq以上10,000g/eq以下であってよく、100g/eq以上3,000g/eq以下であってよく、100g/eq以上2,000g/eq以下であってよく、150g/eq以上1,000g/eq以下であってよい。エポキシ当量がこのような範囲内にあることで、エポキシ樹脂の水分散安定性、得られる塗料組成物の塗装作業性、得られる複層塗膜の成膜性、良好な塗膜外観及び耐食性を確保できるという利点がある。
なお、本開示におけるエポキシ当量は、固形分エポキシ当量を表し、JIS K 7236に準拠した方法により測定できる。
【0043】
前記エポキシ樹脂は、飽和又は不飽和であってよく、脂肪族、脂環式、芳香族及び複素環式のいずれであってもよく、ヒドロキシル基を有するものであってもよく、脂肪族ポリオール化合物により変性された変性物であってもよい。
【0044】
前記エポキシ樹脂としては、多価フェノール類、多価フェノール類の水素添加生成物、多価アルコール類及び/又はノボラックフェノールに基づく骨格を有するポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。前記骨格は、多価アルコール類及び/又はフェノール類に基づく骨格を含むことが好ましく、二価アルコール類に基づく骨格を含むことが好ましい。
【0045】
前記多価フェノール類としては、レソルシノール、ヒドロキノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)、テトラブロモビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス[4-(2’-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、ビス(2-ヒドロキシナフチル)メタン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等、並びに前記化合物のハロゲン化が挙げられる。
前記多価フェノール類の水素添加生成物としては、前記化合物の水素添加生成物をいずれも挙げることができる。
【0046】
前記多価アルコール類としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(n=4~35)、1,2-プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(n=2~15)、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパン等を挙げることができる。前記化合物のなかでもポリプロピレングリコール(n=8~10)が特に好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂として、例えば、ポリカルボン酸とエピクロロヒドリン又はその誘導体との反応によって得られるポリグリシジルエステルを使用することもできる。前記ポリカルボン酸としては特に限定されず、例えば、脂肪族、脂環式又は芳香族ポリカルボン酸、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び二量化したリノレン酸等を挙げることができる。なかでもジグリシジルアジペート、ジグリシジルフタレート及びジグリシジルヘキサヒドロフタレートが好ましい。
【0048】
前記エポキシ樹脂のなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0049】
前記エポキシ樹脂は、必要に応じてエポキシ樹脂に対して脂肪族ポリオール化合物を反応させた、ポリオール変性エポキシ樹脂であってもよい。ポリオール変性エポキシ樹脂は、前記エポキシ樹脂及び脂肪族ポリオール化合物を縮合反応させることによって調製することができる。前記縮合反応における、エポキシ樹脂及び脂肪族ポリオール化合物の質量比(エポキシ樹脂の質量:脂肪族ポリオール化合物の質量)は、=95:5~5:95の範囲内であるのが好ましい。ポリオール変性エポキシ樹脂は、良好な水分散性能を有する利点がある。
なお、本開示において、脂肪族ポリオール化合物は、分子中に芳香族炭化水素基を含まないポリオール化合物を意味する。
【0050】
前記脂肪族ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、脂肪族ポリエーテルポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリウレタンポリオール等を挙げることができ、なかでもポリエーテルポリオールが好ましく、ポリアルキレングリコールが更に好ましい。前記ポリアルキレングリコールとしては、炭素数4以下のアルキレン基を有するポリアルキレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー等を挙げることができる。また、前記ポリアルキレングリコールの混合物や共重合物等を使用することもできる。また、部分的に1価アルコール等によって末端封鎖されたものであってもよい。前記ポリアルキレングリコールは部分的に分岐構造を有するものであってもよいが、直鎖のポリアルキレングリコールであることがより好ましい。
【0051】
前記脂肪族ポリオール化合物は、前記ポリエーテルポリオール(特に、ポリアルキレングリコール)とその他の脂肪族ポリオールとの混合物であってもよい。前記その他の脂肪族ポリオールとしては、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリアミドポリオール、脂肪族ポリウレタンポリオール等を挙げることができ、特に脂肪族ポリエステルポリオールが好ましい。脂肪族ポリオール化合物における、ポリエーテルポリオールの含有率は、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0052】
前記その他の脂肪族ポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールの脂肪族ポリエステルポリオール、3~40個の炭素原子を有するジカルボン酸、2~20個の炭素原子を有するジオール、2~40個の炭素原子を有する第一級ジアミン又はポリアルキレンポリアミン化合物又はアミノアルコール等から選ばれる化合物の縮合反応によって得られる化合物等を挙げることができる。
【0053】
前記縮合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する脂肪族ポリオール化合物のヒドロキシル基当量との比z(OH):z(EP)が1:3.6~1:10となるような比率で縮合反応を行ったものであることが好ましい。前記z(OH):z(EP)は、1:4~1:9の範囲内であることがより好ましく、1:4.5~1:8の範囲内であることが更に好ましい。前記範囲で反応を行うことによって、良好な水分散性を得ることができる利点がある。前記変性後のエポキシ樹脂(ポリオール変性エポキシ樹脂)のエポキシ当量は、好ましくは100g/eq以上10,000g/eq以下、より好ましくは150g/eq以上5,000g/eq以下、更に好ましくは200g/eq以上2,000g/eq以下である。
【0054】
エポキシ樹脂水分散体(A)中に含まれるエポキシ樹脂は、ポリオール変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリオール変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の、ポリオール変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。これらのポリオール変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、好適な水分散性を有すると共に、得られる複層塗膜の物性が良好となる利点がある。他の態様として、例えば、前記ポリオール変性エポキシ樹脂(好ましくはポリオール変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む)とビスフェノール型エポキシ樹脂(ポリオール変性を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂)とを組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記エポキシ樹脂の数平均分子量は、好ましくは200~20,000、より好ましくは300~10,000であってよい。このような範囲内にあることで、エポキシ樹脂の水分散安定性、得られる塗料組成物の塗装作業性及び得られる複層塗膜の成膜性が確保できるという利点がある。
なお、本開示において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0056】
エポキシ樹脂水分散体(A)の調製は、無溶媒又は適当な有機溶媒存在下においてエポキシ樹脂(ポリオール変性エポキシ樹脂)の合成反応を行った後、水中に滴下、混合し、必要に応じて過剰な溶媒を除去することによって、水分散体とすることができる。エポキシ樹脂を水分散させる際において、必要に応じて、界面活性剤等の分散剤を用いてもよい。
【0057】
前記エポキシ樹脂水分散体(A)として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、BECKOPOXシリーズ(オルネクス・ジャパン社製)、jERシリーズ(三菱ケミカル社製)、アデカレジンEMシリーズ(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0058】
前記エポキシ樹脂水分散体は、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0059】
前記水性主剤(I)は、エポキシ樹脂水分散体(A)に加えて、必要に応じ、他の樹脂成分を含んでもよい。他の樹脂成分として、例えば、ポリウレタン樹脂水分散体、ポリエステル樹脂水分散体、アクリル樹脂水分散体等が挙げられる。他の樹脂成分を更に含む場合における好ましい樹脂成分として、エポキシ樹脂水分散体(A)との相溶性等の点からポリウレタン樹脂水分散体が好ましい。前記水性主剤(I)がポリウレタン樹脂水分散体等の他の樹脂成分を更に含む場合における好ましい量は、前記水性塗料組成物の諸性能及び得られる複層塗膜の諸性能等が損なわれない量であることを条件とする。
前記水性主剤(I)が、エポキシ樹脂水分散体(A)に加えて更にポリウレタン樹脂水分散体を含む場合は、ポリウレタン樹脂水分散体の含有量は、エポキシ樹脂水分散体(A)の樹脂固形分100質量部に対して、樹脂固形分として、好ましくは0.5~20質量部である。
【0060】
なお、本開示において、下塗り塗料組成物の「樹脂固形分」は、エポキシ樹脂(A)の固形分及びポリアミン化合物(B)の固形分に加えて、所望により添加されるポリウレタン樹脂水分散体、ポリエステル水分散体、アクリル樹脂水分散体の固形分及びその他の塗膜形成樹脂に含まれ得る樹脂の固形分の合計量を意味する。
【0061】
下塗り塗料組成物における樹脂固形分の量は、下塗り塗料組成物に含まれる固形分の合計100質量部中、好ましくは10質量部以上55質量部以下、より好ましくは15質量部以上50質量部以下であり得る。
本開示において、固形分は、105℃で3時間乾燥した後の加熱残分を意味する。
【0062】
(B)ポリアミン化合物
前記ポリアミン化合物(B)は、1分子中に2以上のアミノ基を有する化合物である。
【0063】
ポリアミン化合物(B)としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリオキシアルキレン基含有ポリアミン、ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミン、ポリアミドアミン化合物等が挙げられる。
【0064】
脂肪族系アミンとしては、例えば、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、その他の脂肪族系アミン等が挙げられる。
アルキレンポリアミンとしては、例えば、H2N-R3-NH2(式中、R3は、1個以上の炭素数1~10の炭化水素基で置換されていてもよい炭素数1~12の二価の炭化水素基である。)で表されるポリアミン化合物が挙げられる。
より具体的には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン等が挙げられる。
【0065】
ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。
【0066】
その他の脂肪族系アミンとしては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2’-アミノエチルアミノ)プロパン、トリエチレン-ビス(トリメチレン)ヘキサミン、ビス(3-アミノエチル)アミン、ビスヘキサメチレントリアミン等が挙げられる。
【0067】
脂環式ポリアミンとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4’-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)等を含む脂環式ポリアミンが挙げられる。
【0068】
芳香族ポリアミンとしては、例えば、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物、及びその他の芳香族系ポリアミン化合物等が挙げられる。芳香族ポリアミンは特に限定されるものではないが、より具体的には、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4
’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン等が挙げられる。
【0069】
ポリオキシアルキレン基含有ポリアミンは、ポリオキシアルキレン鎖を有するポリアミン化合物であって、以下に示す「ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミン」に該当しないもの、すなわち芳香族基を有しないもの、をいう。ポリオキシアルキレン基含有ポリアミンが有するポリオキシアルキレン鎖として、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)鎖、ポリ(オキシテトラメチレン)鎖等が挙げられる。
【0070】
ポリオキシアルキレン基含有ポリアミンとして、例えば、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン等が挙げられる。これらは、脂肪族ポリアミンにポリオキシアルキレン基が導入された化合物であり、ポリオキシアルキレン基含有脂肪族ポリアミンということもできる。
【0071】
他のポリオキシアルキレン基含有ポリアミンとして、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールに、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを反応させて得られる化合物のヒドロキシル基の2個以上をアミノ基に変換させたポリアミン等が挙げられる。
【0072】
前記ポリオキシアルキレン基含有ポリアミンの分子量は、好ましくは200以上5,000以下、より好ましくは600以上3,000以下である。分子量が前記範囲内であることによって、得られる塗膜の外観が良好になるという利点がある。前記分子量は、ポリアミン化合物の分子式が判明している場合は、分子式に従って計算することにより求めることができる。また前記分子量は、ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシアルキレンの繰り返し単位数が自然数ではない場合は、数平均分子量であってもよい。
【0073】
前記ポリオキシアルキレン基含有ポリアミンとして市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ジェファーミンシリーズ(HUNTSMAN Advanced Material社製)等のポリオキシアルキレン基含有脂肪族ポリアミン等が挙げられる。
【0074】
ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミンは、ポリオキシアルキレン鎖及び芳香族基を有するポリアミン化合物である。ポリオキシアルキレン鎖の具体例は前記と同様である。
【0075】
ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミンは、例えば、ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及び/又はテトラメチレンオキシド等のアルキレンオキシドに、アミノ基含有芳香族化合物を導入したポリアミン等が挙げられる。
【0076】
ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミンとして、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、エラスマーシリーズ(クミアイ化学協業社製)が挙げられる。
【0077】
本開示の製造方法に用いられるポリアミドアミン化合物としては、分子中にポリアミド構造を有し、かつ少なくとも2つの活性水素を有する化合物であれば特に制限されない。本明細書において活性水素とは、ポリアミドアミン化合物及びポリアミン化合物中の、アミノ基の窒素原子に結合した水素をいう。
【0078】
ポリアミドアミン化合物に用いられるポリアミドアミン化合物の製造方法としては一般的な方法を用いることができ、例えばポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物との縮合反応により得ることができる。この際、反応に用いるポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物の比率を調整することにより、得られるポリアミドアミン化合物の活性水素量を調整することができる。
【0079】
ポリアミドアミン化合物の製造に用いるポリアミン化合物としては、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されず、脂肪族鎖状ポリアミン、脂肪族環状ポリアミン、及び芳香族ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。脂肪族鎖状ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンも好適に用いられる。
【0080】
ポリアミドアミン化合物の製造に用いるポリカルボン酸化合物としては分子中に少なくとも2つのカルボキシ基を有する化合物であれば特に制限されないが、脂肪族ジカルボン酸、ダイマー酸等のジカルボン酸であることが好ましい。
【0081】
ポリアミドアミン化合物の製造において、ポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物の他に、アミノカルボン酸化合物、ポリオール化合物、ラクタム化合物等を適宜反応させて変性ポリアミドアミン化合物としてもよい。
【0082】
ポリアミドアミン化合物は、ポリアミドアミン化合物の他、水又は水性溶剤を含有していてもよい。当該水性溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール等のプロトン性極性溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記の中でも、ポリアミドアミン化合物は水を含有していることが好ましい。
ポリアミドアミン化合物の固形分濃度は、ポリアミン化合物(B)中、好ましくは20質量%以上90質量%以下である。
【0083】
ポリアミドアミン化合物として、市販のポリアミドアミン化合物を使用することもできる。当該ポリアミドアミン化合物としては、HUNTSMAN Advanced Materials社製Aradur 3986、Aradur 38-1、HEXION社製EPIKURE Curing Agent 8535-W-50、EPIKURE Curing Agent 8530-W-75等が挙げられ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
前記ポリアミン化合物(B)は、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。一態様において、前記ポリアミン化合物(B)としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリオキシアルキレン基含有ポリアミン、ポリオキシアルキレン基含有芳香族ポリアミン、及び、ポリアミドアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0085】
前記水性硬化剤(II)は、ポリアミン化合物(B)を含むものであればよく、一態様において、ポリアミン化合物(B)の水分散体であってもよい。ポリアミン化合物(B)の水分散体は、前記ポリアミン化合物(B)を水系溶媒中に分散させることにより調製できる。水系溶媒として、水(イオン交換水、純水、上水、工業水等)、及び水と水混和性有機溶媒との混合物等が挙げられる。水混和性有機溶媒として、エポキシ樹脂(A)及びポリアミン化合物(B)と反応性を有しないものを用いることができ、例えば、イソプロパノール等のアルコール類;グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0086】
ポリアミン化合物(B)を水系溶媒中に分散させる方法として、前記ポリアミン化合物(B)が親水性基を有する場合は、前記ポリアミン化合物(B)を水中に加えてかくはんすることによって分散させることができる。また、前記ポリアミン化合物(B)の分散において、必要に応じて、界面活性剤、分散樹脂等を併用してもよい。
【0087】
前記ポリアミン化合物(B)の分散における1態様として、ポリアミン化合物(B)及び界面活性剤を水系溶媒中で混合して、ポリアミン化合物水分散体を調製する態様が挙げられる。
【0088】
前記界面活性剤は、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤のうち少なくとも1種を含むのが好ましい。そして前記アニオン界面活性剤は、リン酸エステル型界面活性剤、カルボン酸型界面活性剤、スルホン酸型界面活性剤、及び硫酸エステル型界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0089】
アニオン界面活性剤の1種である、リン酸エステル型界面活性剤は、陰イオン基としてリン酸基を有する界面活性剤である。リン酸エステル型界面活性剤として、例えば、リン酸基を有する界面活性剤の例としては、以下が挙げられる:ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル等;及びこれらの塩、例えばアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等。
【0090】
前記リン酸エステル及びその塩として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ディスパロンPW-36、ディスパロンAQ-330(楠本化成社製)、DISPERBYK-103、DISPERBYK-111、DISPERBYK-145(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0091】
アニオン界面活性剤の1種である、カルボン酸型界面活性剤は、陰イオン基としてカルボン酸基を有する界面活性剤である。カルボン酸型界面活性剤として、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2-エチルカプロン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の飽和脂肪酸;クロトン酸、ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジン酸、ドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、エイコサトリエン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;ポセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズポンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸等のペンタ不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸;ヒマシ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、糠脂肪酸、コメ油脂肪酸、ダイズ脂肪酸、サフラワー脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸等の植物油誘導体及び混合脂肪酸;セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸等のジカルボン酸;安息香酸、サリチル酸、ケイ皮酸等の芳香族カルボン酸;及びこれらの塩、例えば、アンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0092】
前記カルボン酸型界面活性剤としては、市販品を用いてよく、例えば、キシダ化学社、東京化成工業社、日本精化社等から入手することができる。
【0093】
アニオン界面活性剤の1種である、スルホン酸型界面活性剤は、陰イオン基としてスルホン酸基を有する界面活性剤である。スルホン酸基を有する界面活性剤の例としては、以下が挙げられる:
アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ペルフルオロアルキルオキシベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、N-アシルスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸、アルキルアミド硫酸等;及びこれらの塩、例えばアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等。
前記スルホン酸基を有する界面活性剤として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ペレックスSS-H、ネオペレックスG-25(花王社製)、リポランPB-800(ライオン社製)、テイカパワーL128(テイカ社製)、ニューコール565SNC、ニューコール707SF(日本乳化剤社製)、アクアロンKH-10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
アニオン界面活性剤の1種である、硫酸エステル型界面活性剤は、陰イオン基として硫酸エステル基を有する界面活性剤である。硫酸エステル型界面活性剤として、例えば、脂肪酸硫酸エステル塩、アルキルサルフェート塩、アルキルエーテルサルフェート塩、アマイドエーテルサルフェート塩等が挙げられる。前記硫酸エステル基を有する界面活性剤としては、市販品を用いてもよい。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ノニオン界面活性剤として市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、Genapolシリーズ、Genagenシリーズ(クラリアントジャパン社製)、ノイゲンシリーズ(第一工業製薬社製)、ニューコールN700シリーズ(日本乳化剤社製)等が挙げられる。
前記界面活性剤は、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。例えば、アニオン界面活性剤のみを用いてもよく、ノニオン界面活性剤のみを用いてもよく、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。
前記分散体調製工程における温度及び分散条件は、当業者において通常行われる範囲で適宜選択することができる。
【0094】
界面活性剤を用いる場合、ポリアミン化合物(B)の水分散体における界面活性剤の含有量は、ポリアミン化合物(B)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上20質量部以下である。界面活性剤の含有量が前記範囲内であることによって、得られるポリアミン化合物(B)の水分散体の水分散性及び得られる複層塗膜の耐水性等が良好になるという利点がある。
【0095】
ポリアミン化合物(B)の水分散体に含まれるポリアミン化合物(B)の含有率は、ポリアミン化合物(B)の構造及び分子量等に応じて適宜選択することができ、例えば、好ましくは20質量%以上90質量%以下、より好ましくは30質量%以上80質量部%以下である。前記範囲内であることによって、前記水性主剤(I)と前記水性硬化剤(II)とを混合した混合物の分散安定性等が向上する利点がある。
本開示において、ポリアミン化合物(B)の含有率及び含有量は、固形分基準の含有率及び含有量である。
【0096】
前記ポリアミン化合物(B)の活性水素当量は、好ましくは20g/eq以上1,000g/eq以下、より好ましくは30g/eq以上500g/eq以下、更に好ましくは30g/eq以上300g/eq以下である。
なお、本開示において、ポリアミン化合物の活性水素当量は、固形分活性水素当量を表し、JIS K 7237:1995に準拠した方法により測定できる。
また、後述のポリアミン化合物を2種以上併用した場合は、各ポリアミン化合物の活性水素当量及び固形分質量比に基づき、加重平均値として算出することができる。
【0097】
ポリアミン化合物(B)の水分散体中、水分散体(分散されたポリアミン化合物(B))の平均粒子径は、好ましくは100~1,000nm、より好ましくは100~300nmである。水分散体の平均粒子径が前記範囲内であることによって、前記水性主剤(I)と前記水性硬化剤(II)とを混合した混合物の分散安定性等が向上する利点がある。また、エポキシ樹脂水分散体(A)及びポリアミン化合物(B)のより良好な反応性が確保され、得られる複層塗膜の外観が良好となるという利点がある。
なお本開示において、水分散体の平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径を意味し、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。
【0098】
前記ポリアミン化合物(B)の活性水素当量と、前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)は、好ましくは0.2以上1.0以下、より好ましくは0.4以上1.0以下、更に好ましくは0.5以上0.9以下である。
前記範囲内であることで、エポキシ樹脂水分散体(A)及びポリアミン化合物(B)のより良好な反応性が確保され、かかる下塗り塗料組成物から得られる複層塗膜は、良好な外観となりうる利点がある。
【0099】
なお、ポリアミン化合物を2種以上併用する場合の活性水素当量は、以下の計算式により算出してよい。すなわち、活性水素当量がH1であるポリアミン化合物(B1)M質量部(固形分質量部)と、活性水素当量がH2であるポリアミン化合物(B2)N質量部(固形分質量部)とを混合して得られるポリアミン化合物の活性水素当量をZとすると、Zは、以下の式に従って算出される。
Z=[(M+N)×H1×H2]/(M×H2+N×H1)
【0100】
(C)有機溶剤
有機溶剤(C)としては、塗料分野で用いられる有機溶剤を用いてよい。特定の理論に拘束されないが、有機溶剤(C)は、水とは異なる極性や沸点を有することから、有機溶剤(C)を用いることで、下塗り塗装膜の乾燥性を制御しうる。また、有機溶剤(C)は、希釈剤として作用しうる。一態様において、有機溶剤(C)は、下塗り塗装膜の乾燥を加速するために用いられうる。
【0101】
有機溶剤(C)としては、特に限定されず、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、2-ブトキシプロパノール、メチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール等のアルコール溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤;N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤等が挙げられる。
【0102】
前記有機溶剤(C)は、酢酸ノルマルブチルを1とした場合における相対蒸発速度が0.5~6である有機溶剤(C1)を含むことが好ましい。有機溶剤(C1)の相対蒸発速度は、好ましくは1~5、より好ましくは1~2である。相対蒸発速度が前記範囲内にあることで、得られる塗料組成物の乾燥性が良好となり、得られる複層塗膜の外観が良好になるという利点がある。相対蒸発速度が0.5~6の有機溶媒としては、2-メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
なお本開示において、有機溶剤(C)の蒸発速度は、米国材料試験協会のASTM D3539-87(2004)に規定された試験法に準じて測定される値に基づくものであり、n-酢酸ブチルの蒸発速度の値を1としたときの換算値を表したものである。
【0103】
前記有機溶剤(C)を用いる場合、下塗り塗料組成物における有機溶剤(C)の含有率は、下塗り塗料組成物中、好ましくは0.1~25質量%、より好ましくは0.5~20質量%、更に好ましくは1~18質量%である。
なお、前記下塗り塗料組成物における有機溶剤(C)の含有率は、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)に含まれる有機溶剤(C)量(質量部)の合計を下塗り塗料組成物(水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の合計)量(質量部)で除した値である。
【0104】
前記有機溶剤(C1)を用いる場合、有機溶剤(C1)の含有率は、有機溶剤(C)中、一態様において、100質量%であってよく、別の態様において、好ましくは10~80質量%、より好ましくは30~75質量%である。
【0105】
有機溶剤(C)を用いる場合、有機溶剤(C)は、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)のいずれに含まれていてもよく、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の両方に含まれることが好ましい。
【0106】
水性主剤(I)における有機溶剤(C)の含有率は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、更に好ましくは1~10質量%である。
また、水性硬化剤(II)における有機溶剤(C)の含有率は、好ましくは0.1質量%以上65質量%以下、より好ましくは1質量%以上60質量%以下、更に好ましくは5質量%以上55質量%以下である。
有機溶剤(C)の含有量が前記範囲内にあることで、得られる塗料組成物の乾燥性が良好となり、得られる複層塗膜の外観が良好になるという利点がある。
【0107】
(D)シランカップリング剤
本開示の製造方法において、下塗り塗料組成物における水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、シランカップリング剤(D)を含む。
【0108】
本開示において、前記シランカップリング剤(D)は、加水分解性シリル基と、該加水分解性シリル基のケイ素原子に結合する有機基とを有する化合物を表し、好ましくは、1つの加水分解性シリル基と1つの有機基とを有する化合物;該1つの加水分解性シリル基と1つの有機基とを有する化合物の加水分解物(以下、「シランカップリング剤の加水分解物」ともいう);及び該1つの加水分解性シリル基と1つの有機基とを有する化合物の加水分解縮合物(以下、「シランカップリング剤の加水分解縮合物」ともいう)から選ばれる1種以上を表す。前記縮合物は、例えば、シランカップリング剤(D)の2量体~4量体であってよい。
【0109】
前記シランカップリング剤(D)は、好ましくは、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び/又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含む。前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)又はエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含むことが好ましく;アミノ基含有シランカップリング剤(D1)を少なくとも含むことがより好ましく;アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及びエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)を含むことが更に好ましい。前記シランカップリング剤(D)を含むことで、得られる複層塗膜の耐食性が更に良好となるという利点がある。
【0110】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、アミノ基を有するシランカップリング剤を表す。前記アミノ基は、第1級及び/又は第2級アミノ基であり得る。
【0111】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、好ましくは、以下の式(1a)又は(1b):
X1-R2-SiR1
n(OR1)3-n (1a)
X1-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (1b)
[式(1a)及び(1b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X1は、アミノ基を含む有機基を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含む。
【0112】
前記アミノ基を含む有機基は、好ましくは、第1級及び/又は第2級アミノ基を含む有機基であり得る。前記アミノ基を含む有機基としては、好ましくは、以下の式:
-NR11-R12-NR11
2
-NR11
2
[式中、
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいC1-6アルキル基、置換基を有していてもよいC6-10芳香族炭化水素基又は水素原子を表し、
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-10アルキレン基を表し、好ましくはC1-6アルキレン基、より好ましくはC1-4アルキレン基を表す。]
で表される基が挙げられる。
【0113】
R12で表されるC1-10アルキレン基及びR12で表されるC6-10芳香族炭化水素基が有していても良い置換基としては、ビニル基及びC6-10芳香族炭化水素基が挙げられる。R11で表されるC6-10芳香族炭化水素基及び前記置換基であるC6-10芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビニルフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0114】
X1-R2-としては、好ましくは、NH2-R2-、NH(-C6H5)-R2-及びNH2-R12-NH-R2-等が挙げられ、より好ましくはNH2-R2-、NH2-R12-NH-R2-等の末端にNH2-基を含むものが挙げられる。
【0115】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)としては、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン等が挙げられる。
【0116】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)としては、市販品を用いてもよい。該市販品としては、KBM-602、KBM-603、KBE-603、KBM-903、KBM-6803、KBM-573、KBP-90(以上、信越化学工業社製)、Dynasylan AMEO、Dynasylan DAMO、Dynasylan 1124、Dynasylan HYDROSIL 1151、Dynasylan HYDROSIL 2776(以上、エボニック社製)等が挙げられる。
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0117】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)の有効成分の含有量は、シランカップリング剤(D)の合計100質量部中、好ましくは0質量部以上100質量部以下、より好ましくは50質量部以上100質量部以下、更に好ましくは80質量部以上100質量部以下であり得る。前記範囲内にあることで、得られる複層塗膜の耐水性及び耐食性が向上するという利点がある。
【0118】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)の有効成分の含有量は、下塗り塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下、更に好ましくは4質量部以上8質量部以下、より更に好ましくは5質量部以上7質量部以下であり得る。
【0119】
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)は、エポキシ基を有するシランカップリング剤を表す。
【0120】
前記エポキシ基含有シランカプリング剤(D2)は、好ましくは、以下の式(2a)又は(2b):
X2-R2-SiR1
n(OR1)3-n (2a)
X2-R2-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R2-X1 (2b)
[式(2a)及び(2b)中、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、C1-4アルキル基又は水素原子を表し、
R2は、C1-6アルキレン基を表し、
X2は、エポキシ基、エポキシシクロアルキル基及びグリシドキシ基から選ばれる1種を表し、
nは、0~2の整数を表す。]
で表される化合物を含む。
【0121】
エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0122】
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)としては、市販品を用いてもよい。かかる市販品としては、KBM-403、KBE-403、KBE-402、KBM-303(以上、信越化学工業社製)、Dynasylan GLYMO、Dynasylan HYDROSIL 2926(以上、エボニック社製)、CoatOSil MP200(モメンティブ社製)等が挙げられる。
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)の有効成分の含有量は、シランカップリング剤(D)の有効成分の含有量の合計100質量部中、好ましくは0質量部以上100質量部以下、より好ましくは50質量部以上100質量部以下、更に好ましくは80質量部以上100質量部以下であり得る。前記範囲内にあることで、得られる複層塗膜の耐水性及び耐食性が向上するという利点がある。
【0124】
前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)の有効成分の含有量は、下塗り塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下、更に好ましくは4質量部以上8質量部以下、より更に好ましくは5質量部以上7質量部以下であり得る。
【0125】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)の有効成分の合計の含有量は、下塗り塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下、更に好ましくは4質量部以上8質量部以下、より更に好ましくは5質量部以上7質量部以下であり得る。
【0126】
前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及び前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)の有効成分の合計の含有率は、シランカップリング剤(D)の合計100質量部中、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは95質量%以上100質量%以下であり得る。
【0127】
前記シランカップリング剤(D)は、アミノ基含有シランカップリング剤(D1)及びエポキシ基含有シランカップリング剤(D2)以外に、その他のシランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0128】
前記シランカップリング剤(D)は、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の少なくとも1つに含まれていればよく、水性主剤(I)のみに含まれていてもよく、水性硬化剤
(II)のみに含まれていてもよく、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の両方に含まれていてもよい。前記アミノ基含有シランカップリング剤(D1)は、水性硬化剤(II)に含まれることが好ましく、前記エポキシ基含有シランカップリング剤(D2)は、水性主剤(II)に含まれることが好ましい。
【0129】
防錆成分(E)
前記水性主剤(I)及び前記水性硬化剤(II)の少なくとも1つは、防錆成分(E)を含むことが好ましい。防錆成分(E)を含むことで、得られる複層塗膜の耐食性がよりいっそう向上する。防錆成分としては、防錆顔料(E1)及び防錆剤(E2)が挙げられる。
【0130】
本開示において、前記防錆顔料(E1)は、防錆作用を示し、インヒビターとして機能し得る顔料を表す。前記防錆顔料(E1)としては、鉛系防錆顔料、ホウ酸系防錆顔料、ケイ酸系防錆顔料、アルカリ土類金属複合酸化物系防錆顔料等の塩基性防錆顔料、クロム酸系防錆顔料、モリブデン酸及び/又はタングステン酸系防錆顔料、リン酸系防錆顔料、有機金属塩系防錆顔料等の不動態被膜形成防錆顔料;金属系防錆顔料、リン化物系防錆顔料、亜リン酸系防錆顔料、次亜リン酸系防錆顔料等の還元性防錆顔料;雲母状酸化鉄、リーフィングアルミニウム等の形状を利用した顔料が挙げられる。
【0131】
前記防錆顔料(E1)としては、不動態被膜形成防錆顔料が好ましく、リン酸系防錆顔料がより好ましい。前記リン酸系防錆顔料としては、リン酸類の金属塩が挙げられる。前記リン酸類としては、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、メタリン酸等が挙げられ、前記金属塩に含まれ得る金属としては、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、モリブデン、亜鉛等が挙げられる。前記リン酸系防錆顔料としては、具体的には、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛等が挙げられる。
【0132】
前記防錆顔料(E1)としては、市販品を用いてもよい。該市販品としては、LFボウセイZP-DL、LFボウセイPM-303W、LFボウセイMZP-500、LFボウセイMGM-200、LFボウセイCP-Z、LFボウセイAP-200(キクチカラー社製)等が挙げられる。
防錆顔料(E1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
前記防錆顔料(E1)の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上20μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下であり得る。
なお、前記防錆顔料(E1)の平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(島津製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0134】
前記防錆顔料(E1)の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上50質量部以下、より好ましくは3質量部以上40質量部以下、更に好ましくは5質量部以上30質量部以下であり得る。前記範囲内にあることで、得られる複層塗膜の耐水性及び耐食性が向上するという利点がある。
【0135】
前記防錆顔料(E1)の含有量は、防錆成分(E)の合計100質量部中、好ましくは0質量部以上100質量部以下、一態様において、より好ましくは50質量部以上100質量部以下、更に好ましくは70質量部以上100質量部以下であり、別の態様において、より好ましくは0質量部以上50質量部以下、更に好ましくは0質量部以上30質量部以下であり得る。
【0136】
前記防錆剤(E2)は、防錆作用を示し、インヒビターとして機能し得る化合物を意味する。ただし、防錆剤(E2)は、前記防錆顔料(E1)とは異なる。
【0137】
前記防錆剤(E2)としては、亜硝酸金属塩、アゾール系化合物及びチアゾール系化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0138】
前記亜硝酸金属塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜硝酸塩が好ましく、アルカリ金属の亜硝酸塩がより好ましい。前記亜硝酸金属塩としては、具体的には、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸亜鉛等が挙げられる。
亜硝酸金属塩としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
前記アゾール系化合物としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール等の窒素原子を1つ以上含む5員環化合物が挙げられる。これらの化合物は、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0140】
前記アゾール系化合物としては、具体的には、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、アミノトリアゾール、メルカプトベンゾオキサゾール、ニトロベンゾトリアゾール、1H-ナフト[2,3-d]トリアゾール、メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
アゾール系化合物としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0141】
前記チアゾール系化合物としては、チアゾール、イソチアゾール等の窒素原子及び硫黄原子を含む5員環化合物が挙げられる。これらの化合物は、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0142】
前記チアゾール系化合物としては、具体的には、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。
チアゾール系化合物としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
前記防錆剤(E2)の含有量は、樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下、より好ましくは0.3質量部以上30質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以上20質量部以下であり得る。前記範囲内にあることで、得られる複層塗膜の耐食性が更に向上するという利点がある。
【0144】
前記防錆顔料(E1)及び防錆剤(E2)の合計の含有量は、防錆成分(E)の合計100質量部中、好ましくは80質量部以上100質量部以下、より好ましくは90質量部以上100質量部以下、更に好ましくは95質量部以上100質量部以下であり得る。前記範囲内にあることで、得られる複層塗膜の耐食性が更に向上するという利点がある。
【0145】
前記防錆成分(E)は、前記防錆顔料(E1)及び防錆剤(E2)以外に、防錆作用を示すその他の成分を含んでいてもよい。
【0146】
前記防錆成分(E)は、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の少なくとも1つに含まれていることが好ましく、水性主剤(I)のみに含まれていてもよく、水性硬化剤(II)のみに含まれていてもよく、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)に含まれていてもよい。
【0147】
前記下塗り塗料組成物は、前記成分に加えて、目的、用途に応じて、他の成分を含んでもよい。他の成分として例えば、有機溶剤、顔料、樹脂粒子、樹脂成分、分散剤、硬化触媒、粘性調整剤、造膜助剤、そして塗料組成物において通常用いられる添加剤(例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤等)等が挙げられる。これらの成分は、主剤及び/又は硬化剤に、本開示の塗料組成物及び/又は得られる複層塗膜が有する諸物性を損なわない態様で添加することができる。
【0148】
<下塗り塗料組成物の調製>
前記下塗り塗料組成物の水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)は、前記各種成分を、それぞれ当業者に知られた方法によって混合することによって調製することができる。塗料組成物の調製方法は、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ニーダー又はロール等を用いた混練混合手段、又は、サンドグラインドミル又はディスパー等を用いた分散混合手段等の、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。
【0149】
前記下塗り塗料組成物における、水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)の混合時期については、使用前に水性主剤(I)及び水性硬化剤(II)を混合して、通常の塗装方法により塗装してもよい。また、2液混合ガンでそれぞれの液をガンまで送液し、ガン先で混合する方法で塗装してもよい。
【0150】
(上塗り塗料組成物)
前記上塗り塗料組成物としては、特に限定されないが、主剤(III)及び硬化剤(VI)を含む2液硬化形の塗料組成物を用いることが好ましい。主剤(III)及び硬化剤(VI)は、別々に保管され、塗装直前に混合し、混合物として塗装に供される。
【0151】
一態様において、前記主剤(III)は、水酸基を有する塗膜形成樹脂を含み、前記硬化剤(VI)は、ポリイソシアネート化合物を含む。塗膜形成樹脂の水酸基と、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してウレタン結合を形成することにより、上塗り塗装膜を硬化させることができる。
【0152】
前記上塗り塗料組成物は、分散媒体として水を用いる水性塗料組成物であってもよく、分散媒体として溶剤を用いる溶剤系塗料組成物であってもよい。
【0153】
(水系上塗り塗料組成物)
前記水性上塗り塗料組成物は、主剤(III)として水性主剤(IIIa)を含み、硬化剤(VI)として水性硬化剤(VIa)を含む2液硬化形の塗料組成物であることが好ましい。水性主剤(IIIa)は、水酸基を有する塗膜形成樹脂を含むことが好ましく、水性硬化剤(VIa)は、ポリイソシアネート化合物を含むことが好ましい。
【0154】
一態様において、前記水性主剤(IIIa)は、塗膜形成樹脂として、アクリル樹脂水分散体(Fa)を含み、前記水性硬化剤(VIa)は、ポリイソシアネート化合物として、水分散性ポリイソシアネート(Ga)を含む。
【0155】
アクリル樹脂水分散体(Fa)
アクリル樹脂水分散体(Fa)に含まれるアクリル樹脂は、エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物の重合体であり、水酸基を有する。前記主剤(IIIa)がアクリル樹脂水分散体(Fa)を含むことによって、複層塗膜に付着性、耐水性等の良好な塗膜性能が付与されうる。また、表面形状が平滑な複層塗膜を形成でき、例えば、優れた表面平滑性を有する複層塗膜を形成できる。
【0156】
前記エチレン性不飽和モノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー及びその他のモノマーが挙げられる。
【0157】
前記水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、2,3-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノエステル;前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、前記(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノエステルのε-カプロラクトン変性物(「ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリート」ともいう)等が挙げられる。ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリレートの具体例としては、ダイセル化学工業社製のプラクセルFA-1、プラクセルFA-2、プラクセルFA-3、プラクセルFA-4、プラクセルFA-5、プラクセルFM-1、プラクセルFM-2、プラクセルFM-3、プラクセルFM-4及びプラクセルFM-5等が挙げられる。なお、本明細書中において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を意味する。
【0158】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-エチルプロペン酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のジカルボン酸モノエステル等を挙げることができる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。
【0159】
アクリル樹脂水分散体(Fa)に用いられるその他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n、i及びt-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリルアミド等のアミド類等を挙げることができる。
前記エチレン性不飽和モノマーは、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0160】
前記アクリル樹脂水分散体(Fa)の水酸基価は、好ましくは、40~200mgKOH/g、より好ましくは50~200mgKOH/gである。かかる水酸基価が40mgKOH/g以上であることにより、水分散性ポリイソシアネート(Ga)との反応性良好であり、得られる複層塗膜の物理的強度を保つことが容易である。また、かかる水酸基価が200mgKOH/g以下であることにより、得られる複層塗膜の耐水性を保つことが容易である。
【0161】
前記アクリル樹脂水分散体(Fa)の酸価は、好ましくは、2~150mgKOH/g、より好ましくは2~100mgKOH/gである。かかる酸価が前記範囲内にあることにより、得られる複層塗膜の物理的強度を保つことが容易である。
なお、本明細書中において、酸価及び水酸基価は、いずれも固形分換算での値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
【0162】
前記アクリル樹脂水分散体(Fa)の数平均分子量は、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは1,000~50,000である。かかる数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる複層塗膜の物理的強度を保つことが容易であり、また、かかる数平均分子量が100,000以下であることにより、得られる複層塗膜の平滑性を保つことが容易である。
【0163】
アクリル樹脂水分散体(Fa)は、無溶媒又は適当な有機溶媒の存在下において前記モノマー混合物を重合し、得られた重合物を水中に滴下、混合し、必要に応じて過剰な溶媒を除去することによって調製することができる。
【0164】
重合反応の際は、重合開始剤を用いてよく、かかる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用してよい。重合開始剤の具体例として、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシド及びクメンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸及びアゾイソブチロニトリル等の有機アゾ化合物等が挙げられる。
【0165】
重合温度は、例えば80~140℃であってよく、重合時間は、重合温度及び反応スケールに応じて適宜調整でき、例えば1~8時間あってよい。重合反応は、例えば、加熱した重合溶媒中に、前記モノマー混合物及び必要に応じて用いる重合開始剤を滴下することにより実施してよい。前記重合溶媒としては、特に限定されないが、沸点が60~250℃程度のものが好ましい。
好適に用いることができる重合溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテートのような非水溶性有機溶媒;及びテトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートのような水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0166】
重合により得られたアクリル樹脂に中和剤を加えて、アクリル樹脂に含まれる酸基の少なくとも一部を中和してもよい。この工程により、アクリル樹脂に対して水分散性を良好に付与することができる。中和剤としては、特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びジメチルエタノールアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等の無機塩基類を用いることができる。これらの中和剤は、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0167】
必要に応じて中和したアクリル樹脂に対して水を混合するか、又は水中にアクリル樹脂を混合することにより、アクリル樹脂水分散体(Fa)を調製することができる。アクリル樹脂水分散体(Fa)の調製において、必要に応じて、中和剤の添加前又は水分散後に、過剰な有機溶媒を除去してもよい。
【0168】
アクリル樹脂水分散体(Fa)として市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えば、MACRYNAL VSM6299/42WA等の、MACRYNALシリーズ(Surface Specialties社製)、BAYHYDROL XP2470等のBAYHYDROLシリーズ(Bayer AG社製)、バーノックWD-551等のバーノックシリーズ(DIC社製)、NeoCryl XK-555等のNeoCrylシリーズ(DSM社製)等を挙げることができる。
【0169】
水分散性ポリイソシアネート(Ga)
前記水分散性ポリイソシアネート(Ga)は、水分散性を有し、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であって、水性媒体に添加したときに分離することなく分散させることができるポリイソシアネート化合物をいう。水分散性ポリイソシアネート(Ga)は、必要に応じて、親水基を有する親水性化合物によって変性されたものであってもよい。前記親水基は、イオン性の親水基であってもよく、ノニオン性の親水基であってもよい。
【0170】
前記水分散性ポリイソシアネート(Ga)としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)等の芳香族ジイソシアネート;トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート;及びかかる芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートのビュレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパン(TMP)アダクト体等の多量体を挙げることができる。これらの水分散性ポリイソシアネート(Ga)は、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
なお、本開示において、「脂環式」は、分子中に脂環構造を有することを意味する。
【0171】
前記水分散性ポリイソシアネート(Ga)は、好ましくは、脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネートであり、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)及び/又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)である。脂肪族ジイソシアネートや脂環式ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネートと比べて反応性が低く、水等の水性媒体との副反応を抑制できる。
【0172】
前記水分散性ポリイソシアネート(Ga)において、ポリイソシアネート基は変性されていてもよく、複数のポリイソシアネート化合物間あるいは単独のポリイソシアネート化合物中に、複数のイソシアネート基による架橋構造が存在していてもよい。前記多量体ポリイソシアネート化合物は、3官能以上であることから、複数のイソシアネート基のうち少なくとも1つを変性してもよく、少なくとも2つのイソシアネート基が架橋構造形成に寄与していてもよい。
【0173】
前記水性上塗り塗料組成物において、水分散性ポリイソシアネート(Ga)が有するイソシアネート基と、アクリル樹脂水分散体(Fa)が有する水酸基とのモル比(NCO/OH)は、好ましくは0.5~3.0であり、より好ましくは0.8~2.0である。前記モル比(NCO/OH)がかかる範囲にあることにより、水性上塗り塗料組成物の硬化反応性を良好な範囲で確保できる利点がある。
【0174】
水性主剤(IIIa)及び水性硬化剤(IVa)は、分散媒体として水を含む。水としては、イオン交換水、蒸留水等を使用してよい。
【0175】
前記水性上塗り塗料組成物において、水性主剤(IIIa)及び/又は水性硬化剤(IVa)は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒として、例えば、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(酢酸ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルジグリコール、N-メチルピロリドン、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネート等が挙げられる。これらの有機溶媒は、アクリル樹脂水分散体(Fa)、水分散性ポリイソシアネート(Ga)などの調製において用いた有機溶媒であってもよく、水性塗料組成物の調製において別途加えたものであってもよい。
【0176】
水性主剤(IIIa)及び水性硬化剤(IVa)において、水と有機溶媒の合計における水の含有率は、それぞれ、例えば50質量%以上100質量%以下であってよく、70質量%以上100質量%以下であってよい。
【0177】
その他の成分
前記水性上塗り塗料組成物は、前記成分に加えて、目的、用途に応じて、顔料、樹脂粒子、樹脂成分、分散剤、硬化触媒、粘性剤、造膜助剤、塗料組成物において通常用いられる添加剤(例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤、防錆剤等)等の他の成分を含んでいてもよい。これらの成分は、水性主剤(IIIa)及び水性硬化剤(IVa)のいずれに含まれていてもよい。
【0178】
(溶剤系上塗り塗料組成物)
前記溶剤系上塗り塗料組成物は、主剤(III)として主剤(IIIb)を含み、硬化剤(IV)として硬化剤(IVb)を含む2液硬化形の塗料組成物であることが好ましい。主剤(IVb)は、塗膜形成樹脂として、アクリル樹脂(Fb)を含むことが好ましく、硬化剤(IVb)は、ポリイソシアネート化合物(Gb)を含むことが好ましい。また、主剤(IIIb)及び/又は硬化剤(IVb)は、体質顔料及び粘性調整剤を含んでいてもよい。
【0179】
アクリル樹脂(Fb)
アクリル樹脂(Fb)は、エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物の重合体であり、水酸基を有する。前記主剤(IIIb)がアクリル樹脂(Fb)を含むことによって、下塗り塗膜に対する上塗り塗膜の付着性が付与され得、複層塗膜に耐水性等の良好な塗膜性能が付与されうる。また、表面形状が平滑な複層塗膜を形成でき、例えば、優れた表面平滑性を有する複層塗膜を形成できる。
【0180】
前記エチレン性不飽和モノマーとしては、水酸基含有モノマー及びその他のモノマーが挙げられる。
【0181】
水酸基含有モノマーとしては、前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、前記(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノエステル、前記ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0182】
アクリル樹脂(Fb)に用いられるその他のモノマーとしては、前記カルボキシル基含有モノマー;前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリルモノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;前記スチレン系モノマー等を挙げることができる。
前記エチレン性不飽和モノマーは、単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0183】
前記アクリル樹脂(Fb)に用いられるその他のモノマーとしては、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル、前記脂環式(メタ)アクリルモノマーが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等がより好ましい。
【0184】
前記アクリル樹脂(Fb)の水酸基価は、好ましくは40~200mgKOH/g、より好ましくは50~200mgKOH/gである。固形分水酸基価が前記の範囲内にあることにより、後述するポリイソシアネート化合物(Gb)と適切に反応させることができ、所望の塗膜物性が得られる。
【0185】
前記アクリル樹脂(Fb)の酸価は、好ましくは2~150mgKOH/g、より好ましくは5~30mgKOH/gである。酸価が前記の範囲内にあることにより、所望の塗膜物性が得られる。アクリル樹脂(Fb)の固形分酸価は5~30mgKOH/gであるのがより好ましい。
【0186】
前記アクリル樹脂(Fb)の数平均分子量は、好ましくは3,000~20,000、より好ましくは3,500~15,000、更に好ましくは3,500~12,000である。アクリル樹脂(Fb)の数平均分子量が3,000以上であることにより、塗料組成物の乾燥性を向上させることができ、塗装ブース内に飛び散った塗料組成物のベタツキによるダスト付着等を防止でき、良好な塗装環境を保つことができるとともに、得られる複層塗膜の塗膜物性を良好なものとすることができる。また、アクリル樹脂(Fb)の数平均分子量が20,000以下であることにより、複層塗膜の光沢を向上させうる。
【0187】
アクリル樹脂(Fb)は、無溶媒又は適当な有機溶媒の存在下において前記モノマー混合物を重合することにより製造することができる。重合方法としては、例えば、ラジカル重合法が挙げられ、かかるラジカル重合法は、ラジカル重合開始剤を用いて実施することができ、具体的に、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状-懸濁二段重合法等であってよい。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく、例えば、前記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、例えば80~200℃の温度でかくはんしながら加熱する方法等が挙げられる。
【0188】
アクリル樹脂(Fb)として、市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えば、アクリディックA-428等のアクリディックシリーズ(DIC社製)、ダイヤナールLC-2657等のダイヤナールシリーズ(三菱ケミカル社製)、ヒタロイドシリーズ(昭和電工マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0189】
前記塗膜形成樹脂は、アクリル樹脂(Fb)に加えて、必要に応じ、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を含んでいてもよい。
【0190】
塗膜形成樹脂の固形分100質量%におけるアクリル樹脂(Fb)の固形分の含有率は、塗膜耐水性及び仕上がり性の観点から、好ましくは40質量%以上100質量%以下、より好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、一態様においては50質量%以上90質量%以下、別の態様においては、90質量%以上100質量%以下である。このような範囲でアクリル樹脂を含むことにより、ウェットオンウェット塗装により、被塗物上に乾燥性により優れた複層塗膜を形成できる。
なお、本開示において、「塗膜形成樹脂の固形分」は、アクリル樹脂の固形分に加えて、エポキシ樹脂の固形分及びその他の塗膜形成樹脂に含まれ得る樹脂の固形分の合計量を意味する。
【0191】
ポリイソシアネート化合物(Gb)
ポリイソシアネート化合物(Gb)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を表す。
【0192】
前記ポリイソシアネート化合物(Gb)としては、脂肪族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート;芳香族ジイソシアネート;脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートの多量体等が挙げられる。かかるポリイソシアネート化合物(Gb)は、いわゆるアシンメトリー型のものであってもよい。ポリイソシアネート化合物(Gb)に含まれる炭素原子の数は、好ましくは5~24、より好ましくは6~18である。
【0193】
前記脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート-(1,11)、
リジンエステルジイソシアネート、ジエチレングリコールジイソシアネート、ジプロピレングリコールジイソシアネート、トリエチレングリコールジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート等が挙げられる。
前記脂環式ジイソシアネートとしては、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
前記芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ジメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5-トリメチル-2,4-ビス(ω-イソシアナトエチル)-ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリエチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、2,4-及び/又は2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
前記多量体としては、ビュレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパン(TMP)アダクト体等が挙げられる。
前記ポリイソシアネート化合物(Gb)は、単独で使用してよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0194】
前記ポリイソシアネート化合物(Gb)は、前記脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのイソシアヌレート体を少なくとも含むことが好ましく、前記脂肪族ジイソシアネートのイソシヌレート体を含むことが好ましい。ポリイソシアネート化合物(Gb)がかかるイソシアヌレート体を含む場合、イソシアヌレート体の含有率は、前記ポリイソシアネート化合物(Gb)中、好ましくは60質量%以上である。
【0195】
前記溶剤系上塗り塗料組成物において、ポリイソシアネート化合物(Gb)が有するイソシアネート基と、塗膜形成樹脂が有する水酸基とのモル比(NCO/OH)は0.5~2.0の範囲内となる量であるのが好ましく、より好ましくは0.8~1.6である。前記モル比(NCO/OH)がかかる範囲にあることにより、溶剤系上塗り塗料組成物が十分に硬化し、所望の塗膜物性が得られる。
【0196】
一態様において、前記アクリル樹脂(Fb)と組み合わせて、体質顔料及び粘性調整剤とを併用してもよい。この組合せによって、塗料の乾燥性を更に向上することができ、塗膜外観を良好なものとすることができる。
【0197】
前記体質顔料としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸、ケイ酸塩、酸化アルミニウム水和物、硫酸カルシウム、石膏、雲母状酸化鉄(MIO)、ガラスフレーク、スゾライト・マイカ、クラライト・マイカ等が挙げられる。
【0198】
ある態様において、体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクからなる群から選択されるものである。例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム及び表面処理タルク等を用いることができる。このような体質顔料を単独で用いてもよく、組合せて用いてもよい。
【0199】
体質顔料は、前記塗膜形成樹脂100質量部に対して、好ましくは0質量部以上100質量部以下、より好ましくは0質量部以上50質量部以下である。
【0200】
体質顔料と粘性調整剤とを併用することにより、上塗り塗料組成物の粘度及び粘性挙動、例えば粘度回復性を適切に調整でき、適度なレベリングとタレ性を付与しうる。
【0201】
前記粘性調整剤としては、前記下塗り塗料組成物に用いられる粘性調整剤として説明した化合物をいずれも用いることができる。
【0202】
粘性調整剤は、前記塗膜形成樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上10質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以上5質量部以下である。
【0203】
例えば、前記塗膜形成樹脂、硬化剤(IVb)、体質顔料及び粘性調整剤の固形分の合計を100質量%としたとき、塗膜形成樹脂(Fb)の固形分の含有率は、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは30質量%以上60質量%以下であり、一態様においては35質量%以上55質量%以下である。
【0204】
前記溶剤系上塗り塗料組成物において、主剤(IIIb)及び硬化剤(IVb)は、分散媒体として有機溶剤を含む。有機溶剤としては、溶剤型塗料において通常用いられるものを含むことができ、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(エクソン化学社製)、メトキシブチルアセテート、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサ等が挙げられる。特に、使用量により特化側の法的制限を受ける有機溶剤、例えば、キシレン等を選択しなくても塗料設計が可能となる。
【0205】
その他の成分等
前記溶剤系上塗り塗料組成物は、必要に応じて、公知の各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤としては、塗料組成物に用いられる添加剤を適宜使用でき、例えば、着色顔料、防錆顔料等の顔料、タレ止め・沈降防止剤、硬化触媒(有機金属触媒)、色分れ防止剤、分散剤、消泡・ワキ防止剤、増粘剤、レベリング剤、ツヤ消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤等を挙げることができる。これらの構成要素の配合量は、本開示の効果を損なわない範囲で、適宜調整される。
【実施例0206】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0207】
<下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト1の調製例>
分散容器に、イオン交換水19.3質量部、消泡剤としてBYK-011 0.4質量部、分散剤としてBYK-2015 5.0質量部、粘性調整剤としてBENTONE LT 0.2質量部、防錆顔料(E1-1)としてLFボウセイZP-DL 6.0質量部、顔料として、LOMON Titanium Dioxide R-996 9.3質量部、SSSタルク 12.0質量部、TAROX合成酸化鉄LL-XLO 6.0質量部及び沈降性硫酸バリウムPS07 3.2質量部を、ディスパーを用いて予備混合した。その後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500rpmで、顔料の粗粒が25μm以下になるまで分散処理を行い、下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト1を得た。
【0208】
<下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト2の調製例>
分散容器に、イオン交換水19.3質量部、消泡剤としてBYK-011 0.4質量部、分散剤としてBYK-2015 5.0質量部、粘性調整剤としてBENTONE LT 0.2質量部、防錆顔料(E1-2)としてLFボウセイPM-303W 6.0質量部、顔料として、LOMON Titanium Dioxide R-996 9.3質量部、SSSタルク 12.0質量部、TAROX合成酸化鉄LL-XLO 6.0質量部及び沈降性硫酸バリウムPS07 3.2質量部を、ディスパーを用いて予備混合した。その後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500rpmで、顔料の粗粒が25μm以下になるまで分散処理を行い、下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト2を得た。
【0209】
<下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト3の調製例>
分散容器に、イオン交換水19.3質量部、消泡剤としてBYK-011 0.4質量部、分散剤としてBYK-2015 5.0質量部、粘性調整剤としてBENTONE LT 0.2質量部、顔料として、LOMON Titanium Dioxide R-996 9.3質量部、SSSタルク 18.0質量部、TAROX合成酸化鉄LL-XLO 6.0質量部及び沈降性硫酸バリウムPS07 3.2質量部を、ディスパーを用いて予備混合した。その後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500rpmで、顔料の粗粒が25μm以下になるまで分散処理を行い、防錆顔料無配合である下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト3を得た。なお、ペースト3は、ペースト1又はペースト2と比較し、防錆成分(E)(防錆顔料(E1))の代わりに、顔料2(タルク)を同量(6.0質量部)用いた。
【0210】
<下塗り塗料組成物の調製例>
(下塗り塗料組成物用水性主剤)
エポキシ樹脂水分散体(A-1)としてEM-101-50 50.0質量部、有機溶剤(C-1)としてダワノールPM グリコールエーテル 2.0質量部、防錆成分(E2-1)として15%亜硝酸ナトリウム水溶液 1.3質量部及び下塗り塗料組成物用顔料分散ペースト1 61.4質量部をディスパーにより混合、かくはんし、下塗り塗料組成物用水性主剤1を得た。また、前記成分の代わりに、表1~3に示す成分及び量を用いたこと以外は同様にして、下塗り塗料組成物用水性主剤2~15を得た。なお、表1に示す防錆顔料(E1-1)及び防錆顔料(E1-2)の量は、下塗り塗料組成物用顔料分散ペーストに含まれる防錆顔料(E1-1)及び防錆顔料(E1-2)の量を表す。
【0211】
(下塗り塗料組成物用水性硬化剤)
ポリアミン化合物(B-1)としてANQUAMINE100 13.0質量部、有機溶剤(C1-1)としてダワノールPM グリコールエーテル 0.7質量部及び有機溶剤(C1-2)としてIPA 2.6質量部、シランカップリング剤(D1-1)としてKBP-90 5.1質量部及び硬化触媒としてカオーライザーNo.20 0.3質量部をディスパーにより混合、かくはんし、水性硬化剤1を得た。また、ポリアミン化合物(B)、有機溶剤(C)及びシランカップリング剤(D)を、表1~3に示す成分及び量に変更したこと以外は同様にして、水性硬化剤2~24を得た。
【0212】
(下塗り塗料組成物に使用した材料の詳細)
エポキシ樹脂水分散体(A)
(A-1)EM-101-50(Adeka社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂水分散体)、エポキシ当量:505g/eq、固形分濃度:47質量%
(A-2)EM-0427WC(Adeka社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂水分散体)、エポキシ当量:230g/eq、固形分濃度:50質量%
(A-3)BECKOPOX EP 2307W/45WAMP(Allnex社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂ディスパージョン)、エポキシ当量:1,980g/eq、固形分濃度:45質量%
ポリアミン化合物(B)
(B-1)ANQUAMINE100(エボニック社製、ポリアミン化合物水分散体)、活性水素当量:193g/eq、固形分濃度:55質量%
(B-2)B-5115(大都産業社製、ポリアミン化合物)、活性水素当量:39g/eq、固形分濃度:100質量%
(B-3)Aradur38-1(HUNTSMAN Advanced Material社製、ポリアミドアミン化合物水分散体)、活性水素当量:150g/eq、固形分濃度:80質量%
(B-4)Aradur3986(HUNTSMAN Advanced Material社製、ポリアミドアミン化合物水分散体)、活性水素当量:415g/eq、固形分濃度:40質量%
(B-5)P-6281(大都産業社製、ポリアミン化合物)、活性水素当量:123g/eq、固形分濃度:65質量%
(B-6)ジエチレントリアミン(富士フィルム和光純薬社製、ポリアミドアミン化合物)、活性水素当量:21g/eq、有効成分濃度:100質量%
(B-7)BECKOCURE EH2260w/41WA(オルネクス社製、ポリアミン化合物水分散体)、活性水素当量:410g/eq、固形分濃度:41質量%
有機溶剤(C)
(C-1)PGM(ダワノールPM グリコールエーテル、ダウ・ケミカル社製、プロピレングリコールモノメチルエーテル)、蒸発速度:0.71
(C-2)IPA(昭永ケミカル社製、イソプロピルアルコール)、蒸発速度:1.5
シランカップリング剤(D)
(D1-1)KBP-90(信越シリコーン社製、アミノ基含有シランカップリング剤の加水分解縮合物)、有効成分濃度:30質量%
(D1-2)KBM-903(信越シリコーン社製、アミノ基含有シランカップリング剤)、有効成分濃度:100質量%
(D1-3)KBM-6803(信越シリコーン社製、アミノ基含有シランカップリング剤)、有効成分濃度:100質量%
(D2-1)CoatOSil MP200(モメンティブ社製、エポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解縮合物)、有効成分濃度:100質量%
(D2-2)KBM-403(信越シリコーン社製、エポキシ基含有シランカップリング剤)、有効成分濃度:100質量%
(D2-3)KBM-4803(信越シリコーン社製、エポキシ基含有シランカップリング剤)、有効成分濃度:100質量%
(d-1)KBM-3033(信越シリコーン社製、n-プロピルトリメトキシシラン)、有効成分濃度:100質量%
防錆成分(E)
防錆顔料(E1-1)LFボウセイZP-DL(キクチカラー社製、リン酸亜鉛系防錆顔料)
防錆顔料(E1-2)LFボウセイPM-303W(キクチカラー社製、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛系防錆顔料)
防錆剤(E2-1)亜硝酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)、水溶液、有効成分濃度:15質量%
防錆剤(E2-2)ベンゾトリアゾール(富士フィルム和光純薬社製)、エタノール溶液、有効成分濃度:15質量%
防錆剤(E2-3)3-(2-ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸(富士フィルム和光純薬社製)、エタノール溶液、有効成分濃度:15質量%
その他の材料(下塗り塗料組成物調製用材料)
・BYK-011(ビックケミー・ジャパン社製、消泡剤)、固形分濃度:30質量%
・BYK-2015(ビックケミー・ジャパン社製、分散剤)、固形分濃度:40質量%
顔料
・BENTONE LT(エレメンティスジャパン社製、ヘクトライト系粘性調整剤)、固形分濃度:100質量%
・LOMON Titanium Dioxide R-996(SICHUAN LOMON TITANIUM INDUSTRY社製、酸化チタン)
・SSSタルク(日本タルク社製、タルク)
・TAROX合成酸化鉄LL-XLO(チタン工業社製、黄色酸化鉄)
・沈降性硫酸バリウム PS07(Guangxi Xiangzhou Lianzhuang Chemical社製、沈降性硫酸バリウム)
・カオーライザーNo.20(花王社製、硬化触媒)、有効成分濃度:100質量%
・消泡剤:BYK-011(ビックケミー・ジャパン社製)、固形分濃度:30質量%
・分散剤:BYK-2015(ビックケミー・ジャパン社製)、固形分濃度:40質量%
顔料
・粘性調整剤:BENTONE LT(エレメンティスジャパン社製、ヘクトライト系粘性調整剤)、固形分濃度:100質量%
・顔料1:LOMON Titanium Dioxide R-996(SICHUAN LOMON TITANIUM INDUSTRY社製、酸化チタン)
・顔料2:SSSタルク(日本タルク社製、タルク)
・顔料3:TAROX合成酸化鉄LL-XLO(チタン工業社製、黄色酸化鉄)
・顔料4:沈降性硫酸バリウム PS07(Guangxi Xiangzhou Lianzhuang Chemical社製、沈降性硫酸バリウム)
・硬化触媒:カオーライザーNo.20(花王社製)、有効成分濃度:100質量%
【0213】
<製造例2>水性上塗り塗料組成物の調製例
<水性上塗り塗料組成物用顔料分散ペーストの調製例>
(水性上塗り塗料組成物用顔料分散ペースト)
分散容器に、イオン交換水23.4質量部、粘性剤としてBYK-420 0.5質量部、分散剤としてBYK-2015 5.6質量部、消泡剤としてSurfynol440 2.0質量部及び顔料としてTI-PURE R-960 70質量部を、ディスパーを用いて予備混合した。その後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,500rpmで、顔料の粗粒が25μm以下になるまで分散処理を行い、水性上塗り塗料組成物用顔料分散ペースト1を得た。
【0214】
<水性上塗り塗料組成物の調製>
(水性上塗り塗料組成物用水性主剤1)
アクリル樹脂水分散体としてSetaqua6515 56.0質量部、有機溶剤としてソルベッソ100 5.0質量部、ブチルセロソルブ 2.0質量部、イオン交換水 2.0質量部、水性上塗り用顔料分散ペースト1 103.5質量部をディスパーにより混合、かくはんし、水性上塗り塗料組成物用主剤1を得た。
【0215】
(水性上塗り塗料組成物用硬化剤1)
水分散性ポリイソシアネートとしてデュラネート TPA-100 8.10質量部及びバイビジュール401-60 2.20質量部をディスパーにより混合、かくはんし、水性上塗り塗料組成物用硬化剤1を得た。
【0216】
(水性上塗り塗料組成物調製用材料の詳細)
・Setaqua6515(Allnex社製、ポリオールアクリル水分散体)、水酸基価:109mgKOH/g、固形分濃度:45質量%
・デュラネート TPA-100(旭化成社製、イソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI))、NCO含有量:23.1質量%、固形分濃度:100質量%
・バイビジュール401-60(住化バイエルウレタン社製、親水化修飾イソホロンジイソシアネート)、NCO含有量:13.3質量%、固形分濃度:60質量%
・ソルベッソ100(昭永化学工業社製、有機溶剤)
・ブチルセロソルブ(三協化学社製、有機溶剤)
(水性上塗り塗料組成物用顔料分散ペースト用材料の詳細)
・BYK-420(ビックケミー・ジャパン社製、粘性調整剤)、固形分濃度:52質量%)
・BYK-2015(ビックケミー・ジャパン社製、分散剤)、固形分濃度:40質量%
・Surfynol 440(日信化学工業社製、消泡剤)、固形分濃度:100質量%
・TI-PURE R-960(デュポン社製、酸化チタン)
【0217】
<複層塗膜の形成>
(実施例1)
大きさ0.8×70×150mmのJIS G 3141(SPCC-SB)冷間圧延鋼板を、キシレンで脱脂した。次いで、前記製造例で得られた、下塗り塗料組成物用水性主剤1 114.7質量部及び下塗り塗料組成物水性硬化剤1 21.7質量部を、ディスパーを用いて混合し(下塗り(1))、前記鋼板上に、45μmの乾燥膜厚になるようにエアスプレーを用いて塗装して、未乾燥の下塗り塗装膜を形成した。
なお、下塗り(1)は、下塗り塗料組成物用水性硬化剤1中のポリアミン化合物の活性水素当量と、下塗り塗料組成物水性主剤1中の塗膜形成樹脂であるエポキシ樹脂のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が0.8となるように配合した。
【0218】
続けて、室温(25℃)で7分のインターバルを置いて、前記下塗り塗装膜が未乾燥の状態で、前記下塗り塗装膜の表面に、前記製造例で得られた水性上塗り塗料組成物用硬化剤1中のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と、水性上塗り塗料組成物用主剤1中の塗膜形成樹脂であるアクリル樹脂の水酸基とのモル比(NCO/OH)が1.0となるようにディスパーを用いて混合し(上塗り(1))、45μmの乾燥膜厚になるようにエアスプレーを用いてウェットオンウェット塗装をして未乾燥の上塗り塗装膜を形成した。
20分間室温(25℃)で放置した後、60℃で60分間乾燥させて(強制乾燥)、乾燥膜厚90μmの複層塗膜を得た。
【0219】
<実施例2~35及び比較例1、2>
各成分の種類及び/又は量を、表1~3に示す量に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、下塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物を製造した。
実施例34では、溶剤系上塗り塗料組成物として、ニッペウレトップエコ(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、溶剤系2液型ウレタン系塗料)(上塗り(2))を用いた。
また、下塗り塗膜の膜厚を表1に示す塗装条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして複層塗膜を得た。
【0220】
<評価項目>
1)塗膜外観(光沢値)
実施例及び比較例で得られた複層塗膜の光沢値(20°光沢値)を、光沢計GM-268A(コニカミノルタ社製)により測定し、以下の基準により評価した。いずれも2点以上を合格とした。
4点:70以上である
3点:60以上70未満である
2点:50以上60未満である
1点:50未満である
【0221】
2)耐水性
実施例及び比較例で得られた試験板を40℃の温水に浸漬し、24時間ごとに引き上げて表面の水分を拭き取り後、外観を目視観察し、ブリスタの発生の状態を、以下の基準により評価した。2点以上を合格とした。
4点:72時間経過時点でも塗膜外観に変化が認められない
3点:48時間経過時点で塗膜外観に変化が認められないが、72時間経過時点でブリスタの発生が認められる
2点:24時間経過時点で塗膜外観に変化が認められないが、48時間経過時点でブリスタ発生が認められる
1点:24時間経過時点でブリスタ発生が認められる
【0222】
3)耐食性(塩水噴霧試験((SST))
実施例及び比較例で得られた試験板の塗膜に、基材に達するようにカッターナイフで長さ10cmのクロスカット傷を入れ、JIS K 5600-7-1(JIS Z 2371)記載の耐中性塩水噴霧性試験法に従い、塩水噴霧試験機ST-11L(スガ試験機社製)で480時間、塩水噴霧試験(SST)を行った。試験終了後、クロスカット部に沿ってセロハンテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼付してはがし、カット部からの両側最大はく離幅を測定し、耐食性を以下の基準により評価した。2点以上を合格とした。
4点:クロスカット部からの両側最大はく離幅が2mm未満である
3点:クロスカット部からの両側最大はく離幅が2mm以上4mm未満である
2点:クロスカット部からの両側最大はく離幅が4mm以上6mm未満である
1点:クロスカット部からの両側最大はく離幅が6mm以上である
【0223】
【0224】
【0225】
【0226】
実施例1~35は、本発明の実施例であり、下塗り塗料組成物として水性塗料組成物を用い、ウェットオンウェット塗装した場合においても、平滑な外観を維持しつつ、耐食性の良好な複層塗膜を得ることができた。
【0227】
比較例1は、シランカップリング剤を含有しない例であり、得られた複層塗膜の耐食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2は、アミノ基及びエポキシ基を含有しないシランカップリング剤を用いた例であり、得られた複層塗膜の耐食性が十分に満足できるものではなかった。
【0228】
本開示は、ウェットオンウェット塗装した場合においても、外観を維持しつつ、耐食性が良好な複層塗膜を実現可能な製造方法を提供でき、産業機械及び建設機械に好適に適用できる。