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特開2024-92636学習済みモデル生成方法、物性推定方法、学習済みモデル生成プログラム、物性推定プログラムおよび学習済みモデル生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092636
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】学習済みモデル生成方法、物性推定方法、学習済みモデル生成プログラム、物性推定プログラムおよび学習済みモデル生成装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/20 20190101AFI20240701BHJP
【FI】
G06N20/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208718
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 海
(72)【発明者】
【氏名】北畑 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 智裕
(57)【要約】
【課題】複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる学習済みモデル生成方法、物性推定方法、学習済みモデル生成プログラム、物性推定プログラムおよび学習済みモデル生成装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る学習済みモデル生成方法は、コンピュータが、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法であって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法であって、
物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、
各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、
各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、
を含む学習済みモデル生成方法。
【請求項2】
前記ドメイン分割ステップは、パラメータに対して予め設定されている条件に基づいて前記パラメータ空間を分割する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項3】
前記ドメイン分割ステップは、物性に対して予め設定されている条件に基づいて前記パラメータ空間を分割する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項4】
前記ドメイン分割ステップは、共通のパラメータ空間に依存する二種類の物性を示す曲線同士の交点に基づいて前記パラメータ空間を分割する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項5】
前記ドメイン分割ステップは、前記物性を示す曲線の極値に基づいて前記パラメータ空間を分割する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項6】
前記ドメイン分割ステップは、
予備閾値によって前記パラメータ空間を分割して複数の予備部分空間を設定し、
前記予備部分空間ごとに予め設定されている関数によってフィッティングし、
前記フィッティングによって得られる関数同士の交点に基づいて前記パラメータ空間を分割する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項7】
前記アンサンブル学習ステップは、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたスタッキング法によって前記アンサンブル学習済みモデルを生成する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項8】
前記アンサンブル学習ステップは、指定された関数形を用いて前記アンサンブル学習済みモデルを生成する、
請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項9】
互いに異なるドメイン分割数について、前記ドメイン分割ステップ、前記ドメイン別学習ステップおよび前記アンサンブル学習ステップを実行し、各ドメイン分割数に対して予測精度を算出し、最も予測精度が高いドメイン分割数によるアンサンブル学習済みモデルを選択する学習済みモデル選択ステップ、
をさらに含む請求項1に記載の学習済みモデル生成方法。
【請求項10】
コンピュータが、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定する物性値推定方法であって、
物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、
各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、
各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、
前記アンサンブル学習済みモデルに基づいて、推定対象の材料の物性を算出する算出ステップと、
を含む物性推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成プログラムであって、
物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、
各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、
各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、
を前記コンピュータに実行させる学習済みモデル生成プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定させる物性推定プログラムであって、
物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、
各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、
各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、
前記アンサンブル学習済みモデルに基づいて、推定対象の材料の物性を算出する算出ステップと、
を前記コンピュータに実行させる物性推定プログラム。
【請求項13】
材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習用データ生成装置であって、
物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割部と、
各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するモデル構築部と、
各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習部と、
を備える学習済みモデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習済みモデル生成方法、物性推定方法、学習済みモデル生成プログラム、物性推定プログラムおよび学習済みモデル生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、材料設計を効率化させるため、多岐にわたる原料の組み合わせから所望の物性を有する組み合わせを設定する技術として、設計パラメータを入力して、該設計パラメータによって作製される材料のうちの目的とする特性を推定する技術が開示されている(例えば、特許文献1、2を参照)。この技術では、例えば、設計パラメータを入力して、ガラス転移点温度の推定値が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-87429号公報
【特許文献2】特許第7078944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような推定技術によって推定したい特性は、一つの数値に限らず、二つ以上の値を有するものや、複数の値によってなる直線または曲線をなすものがある。この際、単純に機械学習をさせるのみでは予測精度が低くなる場合がある。このため、例えば、曲線によって表現される特性を高精度に推定することが求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる学習済みモデル生成方法、物性推定方法、学習済みモデル生成プログラム、物性推定プログラムおよび学習済みモデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、コンピュータが、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法であって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によって、ドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、を含む。
【0007】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記ドメイン分割ステップは、パラメータに対して予め設定されている条件に基づいて前記パラメータ空間を分割する。
【0008】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記ドメイン分割ステップは、物性に対して予め設定されている条件に基づいて前記パラメータ空間を分割する。
【0009】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記ドメイン分割ステップは、共通のパラメータ空間に依存する二種類の物性を示す曲線同士の交点に基づいて前記パラメータ空間を分割する。
【0010】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記ドメイン分割ステップは、前記物性を示す曲線の極値に基づいて前記パラメータ空間を分割する。
【0011】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記ドメイン分割ステップは、予備閾値によって前記パラメータ空間を分割して複数の予備部分空間を設定し、前記予備部分空間ごとに予め設定されている関数によってフィッティングし、前記フィッティングによって得られる関数同士の交点に基づいて前記パラメータ空間を分割する。
【0012】
また、本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記アンサンブル学習ステップは、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いた機械学習によって前記アンサンブル学習済みモデルを生成する。
【0013】
本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、前記アンサンブル学習ステップは、指定された関数形を用いて前記アンサンブル学習済みモデルを生成する。
【0014】
本発明に係る学習済みモデル生成方法は、上記発明において、互いに異なるドメイン分割数について、前記ドメイン分割ステップ、前記ドメイン別学習ステップおよび前記アンサンブル学習ステップを実行し、各ドメイン分割数に対して予測精度を算出し、最も予測精度が高いドメイン分割数によるアンサンブル学習済みモデルを選択する学習済みモデル選択ステップ、をさらに含む。
【0015】
また、本発明に係る物性推定方法は、コンピュータが、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定する物性値推定方法であって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、前記アンサンブル学習済みモデルに基づいて、推定対象の材料の物性を算出する算出ステップと、を含む。
【0016】
また、本発明に係る学習済みモデル生成プログラムは、コンピュータに、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成プログラムであって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、を前記コンピュータに実行させる。
【0017】
また、本発明に係る物性推定プログラムは、コンピュータに、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定させる物性推定プログラムであって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割ステップと、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するドメイン別学習ステップと、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習ステップと、前記アンサンブル学習済みモデルに基づいて、推定対象の材料の物性を算出する算出ステップと、を前記コンピュータに実行させる。
【0018】
また、本発明に係る学習済みモデル生成装置は、材料の物性であって、複数の値を含む物性を推定するための学習済みモデルを生成する学習用データ生成装置であって、物性が依存するパラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定するドメイン分割部と、各部分区間について、部分区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習によってドメイン別学習済みモデルを部分区間ごとに生成するモデル構築部と、各部分区間のドメイン別学習済みモデルを用いたアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するアンサンブル学習部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが備える学習装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、学習装置が行う学習処理の概要について説明するための図(その1)である。
図4図4は、学習装置が行う学習処理の概要について説明するための図(その2)である。
図5図5は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが備える推定装置の構成を示すブロック図である。
図6図6は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが行う推定処理の流れを説明するための図である。
図7図7は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが行う推定処理の概要を示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の実施形態1に係る学習装置が行う学習処理を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、図8に示すドメイン分割処理の例(その1)を示すフローチャートである。
図10図10は、ドメイン分割処理の分割例(その1)を説明するための図である。
図11図11は、ドメイン分割処理の分割例(その2)を説明するための図である。
図12図12は、ドメイン分割処理の分割例(その3)を説明するための図である。
図13図13は、図8に示すドメイン分割処理の例(その2)を示すフローチャートである。
図14図14は、ドメイン分割処理の分割例(その4)を説明するための図である。
図15図15は、図8に示すドメイン別学習処理を示すフローチャートである。
図16図16は、図8に示すアンサンブル学習処理を示すフローチャートである。
図17図17は、実施の形態1の変形例に係るアンサンブル学習処理を示すフローチャートである。
図18図18は、本発明の実施形態2に係る学習装置が行う学習用データ生成処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る物性値推定システムの実施形態を、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本発明の個々の実施形態は、独立したものではなく、それぞれ組み合わせて適宜実施することができる。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムの概略構成を示す図である。これらの図に示す物性値推定システム1は、学習用データを作成し、該作成した学習用データを用いて学習した学習済みモデルを生成する学習装置2と、学習装置2が生成した学習済みモデルを用いて、推定対象の物性を推定する推定装置3と、推定装置3の推定結果を含む情報を表示する表示装置4と、入力装置5とを備える。
【0023】
推定装置3が推定する物性は、複数の原料、その配合比率や、製造時の温度等の設定条件のいずれかを示す、その材料の設計パラメータに基づいて推定される。推定装置3は、例えば、樹脂組成物を製造する際に用いる原料や、その配合比率、製造条件の少なくとも一つを含む設計パラメータを学習済みモデルに入力し、出力された推定の特性を取得する。具体的には、例えば原料およびその配合比率を、目的の物性(動的粘弾性、応力-ひずみ曲線等)を推定する学習済みモデルに入力し、推定結果を取得する。
【0024】
学習装置2は、推定装置3と電気的に接続されている。学習装置2は、学習用データを選択的に抽出して、抽出した学習用データを用いた学習によって学習済みモデルを生成して出力する。図2は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが備える学習装置の構成を示すブロック図である。学習装置2は、ドメイン分割部21、モデル構築部22、アンサンブル学習部23、制御部24および記憶部25を有する。
【0025】
ドメイン分割部21は、推定対象の特性を示すデータ(特性データ)に対し、ドメイン分割処理を実行する。ドメイン分割部21は、予め設定された方法にしたがって、特性データ範囲を複数の区間に分割することによって部分区間を設定する。
【0026】
モデル構築部22は、ドメイン分割部21によって分割された各部分区間の学習済みモデル(ドメイン別学習済みモデル)を生成することによって、各部分区間におけるモデル構築を実行する。モデル構築部22は、例えば、特性データの全区間のデータに対し、対象の部分区間内のデータの重みを大きくして学習を行ってドメイン別学習済みモデルを生成する。モデル構築部22は、部分区間ごとにドメイン別学習済みモデルを生成する。例えば、貯蔵弾性率を推定する場合、材料の情報(原料や配合比率等)、角周波数、および、からみ合いのセグメント数を説明変数、貯蔵弾性率を目的変数として学習することによって、貯蔵弾性率の推定特性を出力する学習済みモデルが得られる。
【0027】
学習済みモデルは、例えば、入力層、中間層および出力層からなり、各層が一または複数のノードを有するニューラルネットワークである。学習済みモデルは、学習を行うことによって生成されたものである。学習済みモデルにおけるネットワークパラメータ等の情報は、記憶部25に格納されている。ネットワークパラメータには、ニューラルネットワークの層間の重みやバイアスに関する情報が含まれる。
【0028】
モデル構築部22が行う学習は、公知の学習方法を採用することができる。例えば、正則化を用いた学習によって学習済みモデルを生成する場合、回帰モデルのハイパーパラメータの候補値を複数与え、与えられたハイパーパラメータの候補値のそれぞれに対して学習を実行する。その後、各候補値によって学習して得たモデルに対し、学習用データを用いて、交差検証またはホールドアウト検証による予測誤差を算出し、最小の予測誤差を与える回帰モデルを選択する。選択された回帰モデルが、学習済みモデルとして出力される。なお、ここでいうハイパーパラメータは、例えばニューラルネットワークの層の数や、正則化の係数である。
【0029】
アンサンブル学習部23は、モデル構築部22が生成した複数のドメイン別学習済みモデルを用いてアンサンブル学習を実行することによって、アンサンブル学習済みモデルを生成する。アンサンブル学習の方法としては、回帰モデル等を用いた機械学習や、予め設定した関数が有するパラメータの機械学習が挙げられる。
【0030】
制御部24は、学習装置2の動作を統括して制御する。
【0031】
記憶部25は、学習装置2を動作させるための各種プログラム、および学習装置2の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。各種プログラムには、学習用データを用いて学習して学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成プログラムも含まれる。
【0032】
記憶部25は、各種プログラム等があらかじめインストールしたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いて構成される。
【0033】
各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、学習装置2が、通信ネットワークを介して各種プログラムを取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0034】
以上の機能構成を有する学習装置2は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0035】
図3および図4は、学習装置が行う学習処理の概要について説明するための図である。学習装置2では、パラメータを複数の部分区間(図3では部分区間R01、R02)に分割し、部分区間R01、R02それぞれに対して学習済みモデルを生成する。この際、学習装置2は、部分区間R01内の物性値の重みを、この区間外となる部分区間R02の物性値の重みよりも大きくしてドメイン別学習済みモデルF01を生成する。同様に、部分区間R02についても、部分区間R02内の物性値の重みを、区間外(部分区間R01)の物性値の重みよりも大きくしてドメイン別学習済みモデルF02を生成する。これにより、該当部分区間における物性値の推定精度が高いドメイン別学習済みモデルが得られる。その後、各ドメイン別学習モデルを用いてアンサンブル学習することによって、すべての区間(ここでは部分区間R01およびR02)について高精度に推定が可能なアンサンブル学習済みモデルF03が生成される。
この際、曲線F00は、実測値に基づいて生成される理想的な物性の曲線の一例を示すものである。アンサンブル学習によって、曲線F00と略一致するアンサンブル学習済みモデルF03が得られる。
【0036】
推定装置3は、学習装置2および表示装置4と電気的に接続されている。推定装置3は、推定対象のポリマー組成物の製造条件と、学習装置2から取得した学習済みモデルとを用いて、ポリマー組成物の推定物性値を含む推定結果を出力する。図5は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが備える推定装置の構成を示すブロック図である。推定装置3は、算出部31、制御部32および記憶部33を有する。
【0037】
算出部31は、入力装置5から取得した、推定対象のポリマー組成物の製造条件と、学習装置2から取得した、学習済みモデルとを用いて推定される物性値を算出する。
【0038】
制御部32は、推定装置3の動作を統括して制御する。制御部32は、算出部31の算出結果(推定結果)を表示装置4に表示させる表示制御部321を有する。表示制御部321は、推定結果に加えて、推定対象の設計パラメータ(原料や、該原料の配合比率、設定条件等)の情報を表示装置4に表示させてもよい。
【0039】
記憶部33は、推定装置3を動作させるための各種プログラム、および推定装置3の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。各種プログラムには、学習済みモデルを用いて実行される物性値推定プログラムも含まれる。記憶部33は、各種プログラム等があらかじめインストールしたROM、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM、HDD、SSD等を用いて構成される。
【0040】
各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、推定装置3が、通信ネットワークを介して各種プログラム取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN、WAN等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0041】
以上の機能構成を有する推定装置3は、CPU、GPU、ASIC、FPGA等の1または複数のハードウェアを用いて構成されるコンピュータである。
【0042】
表示装置4は、液晶や有機EL(Electro Luminescence)などからなるディスプレイであり、推定装置3と電気的に接続されている。表示装置4は、表示制御部321の制御のもとで推定装置3から出力される表示用データを取得して表示する。なお、表示装置4がスピーカ等の音声出力機能を有してもよい。
【0043】
入力装置5は、物性値を推定する処理に関する設定等の情報を含む各種情報の入力を受け付け、受け付けた情報を学習装置2および推定装置3に出力する。入力装置5は、キーボード、マウス、マイク、タッチパネル等のユーザインタフェースを用いて構成される。
【0044】
図6は、本発明の実施形態1に係る物性値推定システムが行う推定処理の流れを説明するための図である。算出部31は、複数の学習用データIPを用いて学習された学習済みモデル100であって、推定対象の物性を推定する学習済みモデル100を取得する。算出部31は、この学習済みモデル100を用いて、推定対象の設計パラメータに対する推定の物性曲線OPを出力する。
【0045】
図7は、推定装置3が行う推定処理の概要を示すフローチャートである。図7に示す推定処理は、学習処理および推定処理の一連の流れを示しているが、学習済みモデルが予め生成されており、新たに生成・更新する必要がない場合は、学習処理を実行せずに推定処理を行うようにしてもよい。
【0046】
まず、学習装置2は、入力装置5を介して推定条件を取得する(ステップS1)。ここで入力される推定条件とは、推定対象とする材料の設計パラメータおよび物性である。
【0047】
学習装置2は、入力装置5を介して入力された推定条件に基づいて学習処理を実行する(ステップS2)。
【0048】
図8は、本発明の実施形態1に係る学習装置が行う学習処理を説明するためのフローチャートである。本学習処理では、推定対象の物性について、当該物性を示す複数のデータが学習用データとして用いられる。この際、複数のデータは、同一の材料についての物性データや、配合比率等が異なる複数の材料についての物性データを含んでいる。また、学習用データは、材料を構成する原料やその配合比率、構造等の設計パラメータを説明変数、物性を目的変数とするものである。
【0049】
学習処理では、まず、ドメイン分割部21が、ドメイン分割処理を実行する(ステップS11)。
【0050】
ドメイン分割部21が、パラメータ範囲を分割することによって、複数の部分区間を設定する。この際、ドメイン分割部21は、例えば、以下(1)~(5)のいずれかの方法によって、部分区間の設定を行う。
【0051】
(1)パラメータの値に基づくドメイン分割
図9は、図8に示すドメイン分割処理の一例を示すフローチャートである。ドメイン分割処理では、まず、ドメイン分割部21が、分割数n(≧2)を設定する(ステップS21)。その後、パラメータ空間に対し、n-1個の閾値を設定する(ステップS22)。そして、このパラメータ空間を、閾値をもとにn個の部分区間に分割する(ステップS23)。
【0052】
この際、ドメイン分割部21は、パラメータの値に対し、分割数に応じて1つ以上の閾値を設定する。図10は、ドメイン分割処理の分割例を説明するための図である。図10では、振動数がパラメータ、弾性率が物性値に相当する。また、弾性率の周波数依存性を示す曲線であって、実測値から求められる曲線の一例を示している。
なお、分割数は、予め設定された数値を用いるものであってもよいし、曲線の形状等によって設定されるものであってもよいし、機械学習によって設定されるものであってもよい。
【0053】
ドメイン分割部21は、例えば、図10に示すように、予め設定されている振動数や、分割数に応じて設定される間隔で抽出した振動数を閾値とする(図10では二点設定される例を示す)。そして、ドメイン分割部21は、設定された閾値を境界として分割した部分区間RD1~RD3を設定する。
パラメータの値に基づくドメイン分割では、パラメータに対して設定されている分割条件に基づいてドメイン分割を実行する。
【0054】
(2)物性値に基づくドメイン分割
ドメイン分割部21は、物性値に対し、分割数に応じて1つ以上の閾値を設定する。なお、この際のドメイン分割処理の流れは、図9に示すフローチャートに準ずる。ドメイン分割部21は、例えば、予め設定されている弾性率や、分割数に応じて設定される間隔で抽出した弾性率を閾値とする(図10参照)。
物性値に基づくドメイン分割では、物性に対して設定されている分割条件に基づいてドメイン分割を実行する。
【0055】
(3)二つの物性の交点に基づくドメイン分割
ドメイン分割部21は、二つの物性に基づいて1つ以上の閾値を設定する。この二つの物性は、共通のパラメータ(ここでは振動数)に依存するものが選択される。例えば、貯蔵弾性率G´(Pa)および損失弾性率G´´(Pa)が選択される。なお、この際のドメイン分割処理の流れは、図9に示すフローチャートに準ずる。図11は、ドメイン分割処理の分割例を説明するための図である。
【0056】
ドメイン分割部21は、例えば、図11に示すように、第1の物性を示す曲線F11と、第2の物性を示す曲線F12との交点P11、P12を検出し、交点の検出数に1を加えた数を分割数nとする(図11では二点検出された例を示す)。ドメイン分割部21は、検出したn-1個の交点をそれぞれ閾値として設定し、閾値をもとにn個の部分区間に分割する。例えば、図11では、部分区間RD11~RD13が設定される。
二つの物性の交点に基づくドメイン分割では、検出された交点に基づいてドメイン分割を実行する。
【0057】
本ドメイン分割の際に使用される曲線は、例えば、実測値に基づいて生成された曲線や、理想的な物性の曲線を示すものである。具体的には、学習用データとして使用される、物性を示すデータのうちの一つのデータが使用される。このデータは、最も理論的な値(曲線)に近いものが使用されてもよいし、複数の物性を示すデータの平均値によって生成されるデータが使用されてもよい。
【0058】
(4)極値に基づくドメイン分割
ドメイン分割部21は、物性を示す曲線の極値に基づいて1つ以上の閾値を設定する。なお、この際のドメイン分割処理の流れは、図9に示すフローチャートに準ずる。図12は、ドメイン分割処理の分割例を説明するための図である。
【0059】
ドメイン分割部21は、例えば、図12に示すように、物性を示す曲線の極値を検出し、極値の検出数に1を加えた数を分割数nとする(図12では二点検出された例を示す)。ドメイン分割部21は、検出したn-1個の交点をそれぞれ閾値として設定し、閾値をもとにn個の部分区間に分割する。例えば、図12では、部分区間RD21~RD23が設定される。
極値に基づくドメイン分割では、検出された極値に基づいてドメイン分割を実行する。
【0060】
(5)フィッティングに基づくドメイン分割
ドメイン分割部21は、物性を示す曲線のフィッティングに基づいて1つ以上の閾値を設定する。図13は、図8に示すドメイン分割処理の一例を示すフローチャートである。図14は、ドメイン分割処理の分割例を説明するための図である。図14では、溶融粘度の温度依存性を示す曲線の例を示しており、振動数がパラメータ、溶融粘度が物性値に相当する。
【0061】
本ドメイン分割処理では、まず、ドメイン分割部21が、分割数n(≧2)を設定する(ステップS24)。その後、パラメータ空間に対し、n-1個の予備閾値を設定する(ステップS25)。図14では、n=2とし、一つの予備閾値が設定された例を示している。ドメイン分割部21は、予備閾値PPを設定する。この予備閾値PPは、予め設定された温度や、曲線形状(例えば曲率等)に基づいて設定される。
【0062】
そして、ドメイン分割部21は、パラメータ空間を、予備閾値に基づいてn個の予備部分区間に分割する(ステップS26)。図14に示す例では、予備閾値PPを境界として分割した予備部分区間を設定する。
【0063】
その後、ドメイン分割部21は、予備部分空間ごとにフィッティングする(ステップS27)。この際、ドメイン分割部21は、溶融粘度を示す曲線F20を、予備部分空間ごとに適当な関数を用いてフィッティングすることによって関数F21、F22を得る。適当な関数としては、一次関数、二次関数、アレニウス則等がある。
【0064】
ドメイン分割部21は、フィッティングで得られた関数の交点を閾値に設定(ステップS28)。ドメイン分割部21は、例えば、関数F21、F22の交点PFを閾値に設定する。
【0065】
その後、このパラメータ空間を、閾値をもとにn個の部分区間に分割する(ステップS29)。ドメイン分割部21は、例えば、閾値PFを境界として分割した部分区間RD31、RD32を設定する。
フィッティングに基づくドメイン分割では、フィッティングによって得られた関数の交点に基づいてドメイン分割を実行する。
【0066】
なお、閾値の設定は、上述した方法に限らず、例えば、ドメイン分割部21が、曲線の曲率が変化する点や変曲点を検出し、検出点数に1を加えた数を分割数nとし、各点(n-1個の点)を閾値とするようにしてもよい。この際、ドメイン分割部21は、検出点に対応する振動数を閾値とし、この閾値を境界として分割することによって、複数の部分区間を設定する。
【0067】
図8に戻り、ドメイン分割処理後、モデル構築部22は、ドメイン別学習処理を実行する(ステップS12)。図15は、図8に示すドメイン別学習処理を示すフローチャートである。なお、ドメイン別学習処理では、ドメイン分割処理によって設定されたn個の部分区間に対し、1~nの番号が付されているものとして説明する。
【0068】
モデル構築部22は、まず、部分区間を指定する数値mをm=1に設定する(ステップS31)。そして、モデル構築部22は、m番目の部分区間を学習ドメインに設定する(ステップS32)。
【0069】
モデル構築部22は、パラメータ空間に対し、学習ドメインの重みが大きくなるようなサンプル重みを設定する(ステップS33)。この際、サンプル重みは、学習用データの各水準に対して定義され、0~1の値をとる。例えば、区間内のサンプル重みを1、区間外のサンプル重みを0としたり、区間内から区間外に近付くにしたがって1から0に連続的に変化するように設定したりすることができる。
【0070】
その後、モデル構築部22は、サンプル重みを用いた重み付け学習によってドメイン別学習済みモデルを生成する(ステップS34)。
なお、モデル構築部22が実行する学習処理は、重み付け学習に限らず、例えば対象の部分区間のみのデータを学習用データとして用いた学習等、公知の学習処理を用いることができる。ここでの学習処理は、区間内の物性値に対する予測精度を高くする学習方法を採用することができる。
【0071】
モデル構築部22は、m番目のドメイン別学習済みモデルを生成後、mを1増加させる(ステップS35)。そして、モデル構築部22は、m>nであるか否かを判断する(ステップS36)。この際、モデル構築部22は、mがn以下であると判断した場合(ステップS36:No)、ステップS32に戻り、新たに設定したm番目の部分区間について、ドメイン別学習済みモデルを生成する。これに対し、モデル構築部22は、mがnより大きいと判断した場合(ステップS36:Yes)、ステップS13のアンサンブル学習処理に移行する。
【0072】
図8に戻り、ドメイン別学習処理後、アンサンブル学習部23は、アンサンブル学習処理を実行する(ステップS13)。図16は、図8に示すアンサンブル学習処理を示すフローチャートである。なお、アンサンブル学習処理では、t個のアンサンブル学習用のアルゴリズム候補が予め用意されているものとして説明する。アルゴリズム候補としては、サポートンベクター回帰(Support Vector Regression:SVR)、ランダムフォレスト(Random Forests)、Elastic Net回帰等の公知の回帰アルゴリズムを用いることができる。なお、以下の説明では、各回帰アルゴリズムに番号が付されているものとして説明する。
【0073】
アンサンブル学習部23は、まず、アルゴリズムを指定する番号tをt=1に設定する(ステップ41)。そして、アンサンブル学習部23は、t番目のアルゴリズム候補を選択する(ステップS42)。
【0074】
アンサンブル学習部23は、選択したアルゴリズム候補を用いてドメイン別学習モデルのスタッキングを実行する(ステップS43)。このスタッキング法によって、ドメイン別学習済みモデルを積み上げたアンサンブル学習済みモデル候補が得られる。
【0075】
その後、アンサンブル学習部23は、選択したアルゴリズム候補のアンサンブル学習済みモデルの予測精度を算出する(ステップS44)。この際、例えば、K分割交差検証、一個抜き交差検証、ホールドアウト検証等の公知の検証方法によって算出される値が予測精度として出力される。
【0076】
アンサンブル学習部23は、予測精度を算出後、tを1増加させる(ステップS45)。そして、アンサンブル学習部23は、t>tMAXであるか否かを判断する(ステップS46)。この際、アンサンブル学習部23は、tがtMAX以下であると判断した場合(ステップS46:No)、ステップS42に戻り、新たに設定したt番目のアルゴリズム候補について処理を実行する。これに対し、アンサンブル学習部23は、tがtMAXより大きいと判断した場合(ステップS46:Yes)、ステップS47に移行する。
【0077】
ステップS47において、アンサンブル学習部23は、最も予測精度が高いアンサンブル学習済みモデル候補を、アンサンブル学習済みモデルとして選択する。これにより、対象の物性を予測する学習済みモデルが設定される。
なお、アンサンブル学習済みモデル生成の際、スタッキングのハイパーパラメータ最適化に加えて、アルゴリズム(SVR等)のハイパーパラメータ最適化を行ってもよい。
【0078】
図7に戻り、学習済みモデル生成後、推定装置3において、推定対象の材料の物性を推定する。算出部31は、学習装置2が生成した学習済みモデル(アンサンブル学習済みモデル)に、推定対象の設計パラメータを入力することによって、推定対象の材料の物性を算出する(ステップS3)。
【0079】
続いて、表示制御部321は、算出部31による推定結果を表示装置4に出力し、該表示装置4に推定結果を表示させる表示制御を行う(ステップS4)。この際、表示装置4は、推定結果とともに、推定対象の材料の原料やその配合比率等を表示する。
【0080】
以上説明した実施の形態1では、パラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定し、部分区間ごとに学習を実行してドメイン別学習済みモデルを生成して、各ドメイン学習済みモデルを用いてアンサンブル学習済みモデルを生成するようにした。本実施の形態1によれば、部分区間ごとに生成されたドメイン別学習済みモデルをベースとして物性を推定する学習済みモデルが生成されるため、曲線等、複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる。
【0081】
(実施の形態1の変形例)
次に、本発明の実施の形態1の変形例について説明する。本変形例に係る推定システムは、実施の形態1に係る物性値推定システム1の構成要素と同様であるため、説明は省略する。以下、実施の形態1とは異なる処理について説明する。なお、本変形例では、アンサンブル学習処理が、実施の形態1と異なる。具体的には、実施の形態1では、スタッキング法を用いてアンサンブル学習済みモデルを設定していたが、本変形例では、関数形を指定してアンサンブル学習済みモデルを生成する。
【0082】
図17は、変形例に係るアンサンブル学習処理を示すフローチャートである。アンサンブル学習部23は、まず、関数形を指定する(ステップ48)。ここで指定される関数形は、アンサンブル学習処理に用いる関数形であり、例えば、F=Σwiiや、F=1/(Σwi/fi)等が指定される。ここで、wiは係数、fiはドメイン別学習済みモデルである。この際、関数Fは、例えば、wi=0(i≠n)のときに、F=fnを満たす。
【0083】
また、アンサンブル学習部23は、指定した関数形におけるパラメータの設定を行う(ステップS49)。関数Fの係数wiは、Σwi=1、0≦wi≦1を満たす。なお、関数Fのパラメータ(wi等)は、アンサンブル学習済みモデルの予測精度を指標として最適化されることが好ましい。また、関数Fのパラメータは、定数であってもよいし、ドメイン別学習済みモデルの特徴量に依存する関数であってもよい。この際、特徴量ベクトルをXとするとwi(X)と表される。
なお、関数形は、複数の候補を抽出したうえで、予測精度が最も高くなるように最適化したものを指定してもよい。
【0084】
その後、アンサンブル学習部23は、指定された関数形、および設定されたパラメータを用いてアンサンブル学習済みモデルを生成する(ステップS50)。これにより、対象の物性を予測する学習済みモデルが設定される。
【0085】
以上説明した変形例では、パラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定し、部分区間ごとに学習を実行してドメイン別学習済みモデルを生成して、各ドメイン学習済みモデルを用いて、関数形を指定したアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するようにした。本変形例によれば、実施の形態1と同様に、部分区間ごとに生成されたドメイン別学習済みモデルをベースとして物性を推定する学習済みモデルが生成されるため、曲線等、複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる。
【0086】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2に係る推定システムは、実施の形態1に係る物性値推定システム1の構成要素と同様であるため、説明は省略する。以下、実施の形態1とは異なる処理について説明する。なお、本実施の形態2では、学習処理が、実施の形態1と異なる。具体的には、実施の形態2では、ドメイン数を最適化してアンサンブル学習済みモデルを生成する。図18は、本発明の実施形態2に係る学習装置が行う学習用データ生成処理を説明するためのフローチャートである。
【0087】
本実施の形態2に係る学習処理では、ドメイン分割部21が、まず、ドメイン数を指定する数値sをs=1に設定する(ステップ51)。そして、ドメイン分割部21は、パラメータ空間の分割数をsに設定する(ステップS52)。
【0088】
その後、ドメイン分割部21は、ドメイン分割処理を実行する(ステップS53)。ステップS53では、実施の形態1と同様にして、ドメイン分割処理を実行することができる。この際、分割方法としては、例えば上記(1)または(2)が選択される。なお、(3)~(5)を用いて分割を行う際は、分割位置の削減または追加の処理が実行される。
【0089】
ドメイン分割処理後、モデル構築部22は、ドメイン別学習処理を実行する(ステップS54)。ステップS54では、実施の形態1と同様にして、ドメイン別学習済みモデル生成処理を実行することができる。
【0090】
その後、アンサンブル学習部23は、ステップS54において生成されたドメイン別学習済みモデルを用いてアンサンブル学習済みモデルを生成する(ステップS55)。ステップS54では、実施の形態1または変形例と同様にして、アンサンブル学習済みモデル生成処理を実行することができる。ステップS55において、アンサンブル学習済みモデルの候補であるアンサンブル学習済みモデル候補が生成される。
【0091】
アンサンブル学習処理後、アンサンブル学習部23は、生成したアンサンブル学習済みモデル候補の予測精度を算出する(ステップS56)。この際、ステップS44において算出された予測精度を用いてもよいし、K分割交差検証、一個抜き交差検証、ホールドアウト検証等の公知の検証方法によって算出してもよい。
【0092】
その後、制御部24は、sを1増加させる(ステップS57)。そして、制御部24は、s>sMAXであるか否かを判断する(ステップS58)。この際、制御部24は、sがsMAX以下であると判断した場合(ステップS58:No)、ステップS52に戻り、新たに設定した分割数をsとして処理を繰り返す。これに対し、制御部24は、sがsMAXより大きいと判断した場合(ステップS58:Yes)、ステップS59に移行する。
【0093】
ステップS59において、アンサンブル学習部23は、ステップS59において取得した予測精度もうち、最も予測精度が高いアンサンブル学習済みモデル候補を、アンサンブル学習済みモデルとして選択する。これにより、対象の物性を予測する学習済みモデルが設定される。
【0094】
以上説明した実施の形態2では、パラメータ空間を分割して複数の部分区間を設定し、部分区間ごとに学習を実行してドメイン別学習済みモデルを生成して、各ドメイン学習済みモデルを用いて、関数形を指定したアンサンブル学習によってアンサンブル学習済みモデルを生成するようにした。本実施の形態2によれば、実施の形態2と同様に、部分区間ごとに生成されたドメイン別学習済みモデルをベースとして物性を推定する学習済みモデルが生成されるため、曲線等、複数の値によって構成される物性を高精度に推定することができる。
【0095】
また、実施の形態2では、ドメイン数を最適化することによって、最も適切な区間分割を行ってドメイン別学習済みモデルが生成されるため、一層高精度なアンサンブル学習済みモデルが生成される。
【0096】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は、上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、推定装置が学習部の機能を備えてもよい。この場合、推定装置は、推定対象の目的変数を算出することに加え、学習用データを生成し、学習済みモデルを逐次更新する。
【符号の説明】
【0097】
1 物性値推定システム
2 学習装置
3 推定装置
4 表示装置
5 入力装置
21 ドメイン分割部
22 モデル構築部
23 アンサンブル学習部
24、32 制御部
25、33 記憶部
31 算出部
321 表示制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18