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特開2024-92644タービン翼及びその製造方法、並びに、ガスタービンエンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092644
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】タービン翼及びその製造方法、並びに、ガスタービンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F01D 5/14 20060101AFI20240701BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20240701BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240701BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20240701BHJP
   B23P 15/02 20060101ALI20240701BHJP
   B23K 26/361 20140101ALI20240701BHJP
   C23C 4/073 20160101ALI20240701BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20240701BHJP
【FI】
F01D5/14
F01D5/28
F02C7/00 D
F01D25/00 X
B23P15/02
B23K26/361
C23C4/073
C23C4/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208729
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根上 将大
(72)【発明者】
【氏名】久間 康平
(72)【発明者】
【氏名】東 誠
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 良造
【テーマコード(参考)】
3G202
4E168
4K031
【Fターム(参考)】
3G202BA03
3G202BA06
3G202BA10
3G202BB04
3G202EA08
4E168AD03
4E168AD18
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA01
4E168JA15
4E168JB04
4K031AA02
4K031AB03
4K031CB21
4K031CB42
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】ガスタービンエンジンのタービン翼において、遮熱コーティングの剥離を抑制しつつ耐熱性を高め得る技術を提案する。
【解決手段】タービン翼は、耐熱合金製の基材と、基材の表面を被覆する遮熱コーティングとを有する翼型の翼体を備える。翼体のコード方向の中央より後縁側の後部分の遮熱コーティングの平均厚さが、翼体のコード方向の中央より前縁側の前部分の遮熱コーティングの平均厚さよりも大きい。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱合金製の基材と、前記基材の表面を被覆する遮熱コーティングとを有する翼型の翼体を備え、
前記翼体のコード方向の中央より後縁側の後部分の前記遮熱コーティングの平均厚さが、前記翼体の前記コード方向の中央より前縁側の前部分の前記遮熱コーティングの平均厚さよりも大きい、
タービン翼。
【請求項2】
前記遮熱コーティングは、セラミック製の遮熱層と、前記遮熱層と前記基材の間に介在する結合層とを含み、
前記翼体の前記後部分の前記遮熱層の平均厚さが、前記翼体の前記前部分の前記遮熱層の平均厚さよりも大きい、
請求項1に記載のタービン翼。
【請求項3】
前記翼体は、前記遮熱層の膜厚が第1膜厚であって前記翼体の前記前縁を含む第1領域と、前記遮熱層の膜厚が前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚であって前記第1領域よりも前記コード方向の前記後縁側に配置された第2領域とを、有する、
請求項2に記載のタービン翼。
【請求項4】
前記翼体は、前記第1領域と前記第2領域の前記コード方向の間に配置され、前記遮熱層の膜厚が前記第1領域から前記第2領域へ向かって、前記第1膜厚から前記第2膜厚へ漸次増加する第3領域を有する、
請求項3に記載のタービン翼。
【請求項5】
前記第3領域は、前記翼体の前記前部分に配置されている、
請求項4に記載のタービン翼。
【請求項6】
前記第1領域の遮熱層表面の界面の展開面積比Sdrが0.5以下である、
請求項3に記載のタービン翼。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のタービン翼を備える、ガスタービンエンジン。
【請求項8】
翼型の翼体を有するタービン翼の製造方法であって、
耐熱合金製の基材で前記翼体となる部分を含む成形部品を作製すること、
前記成形部品の表面に結合層となる第1層をコーティングすること、
前記第1層の表面に遮熱層となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって前記第2層の表面から材料の一部を除去することにより、前記翼体のコード方向の中央より前縁側の前部分の前記遮熱層の平均厚さを、前記翼体の前記コード方向の中央より後縁側の後部分の前記遮熱層の平均厚さよりも小さくすること、を含む、
タービン翼の製造方法。
【請求項9】
前記第2層の表面から材料の一部を除去することが、
前記翼体に、前記遮熱層の膜厚が第1膜厚であって前記翼体の前記前縁を含む第1領域と、前記遮熱層の膜厚が前記第1膜厚よりも大きい第2膜厚であって前記第1領域よりも前記コード方向の前記後縁側に配置された第2領域とを形成すること、を含む、
請求項8に記載のタービン翼の製造方法。
【請求項10】
前記第2層の表面から材料の一部を除去することが、
前記第1層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第1の形状計測結果を得ること、
前記第1層及び前記第2層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第2の形状計測結果を得ること、
前記第2の形状計測結果と前記第1の形状計測結果の差に基づいて前記第2層の膜厚を求めること、
前記第2層の膜厚と前記遮熱層の所定の設計膜厚の差に基づいて前記第2層の表面からの材料の除去厚さを求めること、及び、
前記第2層の表面から前記除去厚さの材料を除去すること、を含む、
請求項8又は9に記載のタービン翼の製造方法。
【請求項11】
耐熱合金製の基材でタービン翼の翼体となる部分を含む成形部品を作製すること、
前記成形部品の表面に結合層となる第1層をコーティングすること、
前記第1層の表面に遮熱層となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって前記第2層の表面から材料の一部を除去すること、を含み、
前記第2層の表面から材料の一部を除去することが、
前記第1層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第1の形状計測結果を得ること、
前記第1層及び前記第2層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第2の形状計測結果を得ること、
前記第2の形状計測結果と前記第1の形状計測結果の差に基づいて前記第2層の膜厚を求めること、
前記第2層の膜厚と前記遮熱層の所定の設計膜厚の差に基づいて前記第2層の表面からの材料の除去厚さを求めること、及び、
前記第2層の表面から前記除去厚さの材料を除去すること、を含む、
タービン翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タービン翼及びガスタービンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのタービン翼は高温の燃焼ガス流れに曝される。そこで、タービン翼を高温ガスから保護するために、タービン翼には遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)が施されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のガスタービンエンジンのガスタービン部材は、耐熱合金基材の上に、酸化物セラミックスからなるセラミックス層を含む遮熱コーティングが形成されたものである。このガスタービン部材では、高温下での使用の際の遮熱コーティングの剥離を抑制するために、セラミックス層に結晶安定性の高い材料が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-163185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、ガスタービンエンジンのタービン翼の遮熱コーティングの一部が運転中に剥離して、タービン翼の耐熱性が損なわれることが課題となっている。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、ガスタービンエンジンのタービン翼において、遮熱コーティングの剥離を抑制しつつ耐熱性を高め得る技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るタービン翼は、
耐熱合金製の基材と、前記基材の表面を被覆する遮熱コーティングとを有する翼型の翼体を備え、
前記翼体のコード方向の中央より後縁側の後部分の前記遮熱コーティングの平均厚さが、前記翼体の前記コード方向の中央より前縁側の前部分の前記遮熱コーティングの平均厚さよりも大きいものである。
【0008】
本開示の一態様に係るタービン翼の製造方法は、翼型の翼体を有するタービン翼の製造方法であって、
耐熱合金製の基材で前記翼体となる部分を含む成形部品を作製すること、
前記成形部品の表面に結合層となる第1層をコーティングすること、
前記第1層の表面に遮熱層となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって前記第2層の表面から材料の一部を除去することにより、前記翼体のコード方向の中央より前縁側の前部分の前記遮熱層の平均厚さを、前記翼体の前記コード方向の中央より後縁側の後部分の前記遮熱層の平均厚さよりも小さくすること、を含むものである。
【0009】
本開示の一態様に係るタービン翼の製造方法は、
耐熱合金製の基材でタービン翼の翼体となる部分を含む成形部品を作製すること、
前記成形部品の表面に結合層となる第1層をコーティングすること、
前記第1層の表面に遮熱層となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって前記第2層の表面から材料の一部を除去すること、を含み、
前記第2層の表面から材料の一部を除去することが、
前記第1層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第1の形状計測結果を得ること、
前記第1層及び前記第2層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第2の形状計測結果を得ること、
前記第2の形状計測結果と前記第1の形状計測結果の差に基づいて前記第2層の膜厚を求めること、
前記第2層の膜厚と前記遮熱層の所定の設計膜厚の差に基づいて前記第2層の表面からの材料の除去厚さを求めること、及び、
前記第2層の表面から前記除去厚さの材料を除去すること、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
上記した本開示の一態様によれば、ガスタービンエンジンのタービン翼において、遮熱コーティングの剥離を抑制しつつ耐熱性を高め得る技術を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るガスタービンエンジンの概略構成を示す一部破断側面図である。
図2図2は、動翼を周方向から見た側面図である。
図3図3は、図2のIII-III断面図である。
図4図4は、タービン翼の翼体の遮熱コーティングのコード方向の位置と厚さとの関係の第1例を示す図表である。
図5図5は、タービン翼の翼体の遮熱コーティングのコード方向の位置と厚さとの関係の第2例を示す図表である。
図6図6は、タービン翼の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。先ず、図1を参照して、本開示の一実施形態に係るガスタービンエンジン1の概略構成について説明する。図1はガスタービンエンジン1の概略側面図であって、その一部を破断して内部構造が示されている。
【0013】
ガスタービンエンジン1は、圧縮機2と、燃焼器13と、タービン14とを備える。
【0014】
圧縮機2は空気Aを吸入して圧縮する。圧縮機2は、圧縮機ロータ23と、圧縮機ロータ23を囲む圧縮機ステータ24とを備える。圧縮機ロータ23はガスタービンエンジン1の軸方向Xに延びる。圧縮機ステータ24と圧縮機ロータ23の半径方向の間には吸い込んだ空気Aを圧縮する圧縮通路が形成されている。圧縮通路に導入された空気Aは、圧縮されながら燃焼器13へ向かって軸方向Xへ流れる。
【0015】
燃焼器13は圧縮機2から導入した圧縮空気で燃料Fを燃焼させて高温高圧の燃焼ガスGを発生させる。高温高圧の燃焼ガスGは、タービン14の作動流体となる。
【0016】
タービン14は、燃焼ガスGのエネルギーを機械的動力に変換する。タービン14は、タービンロータ3と、タービンロータ3を囲むタービンステータ4とを備える。
【0017】
タービンステータ4は、ケーシング41と、ケーシング41の内周面において軸方向Xに並んだ複数の静翼列とを備える。各静翼列は、周方向に並んだ複数の静翼40で構成されている。
【0018】
タービンロータ3は、軸方向Xに並んだ複数のロータディスク31と、各ロータディスク31の外周面において周方向に並んだ複数の動翼30とを備える。周方向に並んだ複数の動翼30によって一列の動翼列が形成されており、複数の動翼列が軸方向Xに並んでいる。静翼列と動翼列は軸方向Xに交互に配列されている。
【0019】
タービンロータ3とタービンステータ4の径方向の間には、燃焼ガスGが流れる燃焼ガス流路が形成されている。燃焼ガス流路を流れる燃焼ガスGによって、タービンロータ3が回転駆動される。タービンロータ3は圧縮機ロータ23と結合されており、タービン14の回転動力によって圧縮機2が駆動される。発電用のガスタービンエンジン1では、タービンロータ3に発電機が接続されており、タービン14の回転動力によって発電機で電力が生成される。
【0020】
<タービン翼5の構造>
タービン14の動翼30及び静翼40をタービン翼5と称する。タービン翼5の構造について、動翼30を例に挙げて説明する。図2は動翼30を周方向から見た側面図であり、図3図2のIII-III断面図である。図3ではタービン翼5の遮熱コーティング55の膜厚が誇張して示されている。
【0021】
図2及び図3に示すように、タービン翼5の一例としての動翼30は、翼体301と、翼根303と、翼体301とプラットフォーム302の間に配置された板状のプラットフォーム302とを有する。翼根303はロータディスク31に埋設され、動翼30をロータディスク31に支持させる。翼体301及びプラットフォーム302は、燃焼ガス流路に露出し高温高圧の燃焼ガスGに晒されることから、タービン翼5は耐熱性を備えている。
【0022】
翼体301は、前縁LEが丸く、後縁TEが尖った、所謂、翼型を呈する。前縁LEと後縁TEとを結ぶ線分、即ち、翼弦の延びる方向を「コード方向Y」と称する。翼体301は、燃焼ガスGからの流圧を受ける腹面56と、腹面56と反対側の面である背面58とを有する。腹面56は正圧面とも称され、背面58は負圧面とも称される。
【0023】
タービン翼5は、高温用耐熱合金製の基材51と、基材51を被覆している遮熱コーティング55からなる。なお、遮熱コーティング55は、タービン翼5の表面の全体を覆っていてもよいし、タービン翼5の表面のうち燃焼ガスGに晒される部分を覆っていてもよい。遮熱コーティング55は、熱伝導率の小さいセラミックス製の遮熱層53と、遮熱層53と基材51との間に介在する結合層52とを基材51に成膜した2層構造を有する。基材51は、特に限定されるわけではないが、Ni基合金や、Co基合金などの、一般にガスタービン翼に使用されている耐熱合金からなる。このような耐熱合金として、特に限定されるものではないが、例えば、MAR-M-247(登録商標)CMSX-4(登録商標)などの耐熱合金が挙げられる。遮熱層53は、特に限定されるわけではないが、ZrO系の材料、特にYで部分安定化又は完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)などの比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有するセラミックス材料で構成されていてよい。結合層52は、遮熱層53と基材51の間の熱膨張差を緩和して密着性を向上する。遮熱層53は、特に限定されるわけではないが、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)で構成されていてよい。
【0024】
タービン翼5の内部には冷却通路が設けられており、当該冷却通路を冷媒が流通することによってタービン翼5が冷却される。しかし、従来のタービン翼では翼部の表面温度は均一とはならない。従来のタービン翼の翼部の腹面の後縁TEの近傍に局所的に高温となる部分が発生する。このようなタービン翼における高温部分の偏在は、酸化やクリープによるタービン翼の損傷を招く。タービン翼の耐熱性を高めるためには、単純に遮熱コーティングを全体的に厚くすることに想到し得るが、遮熱コーティングを一様に厚くした場合には、タービン翼の他の部分と比較して曲率の大きい前縁LEの遮熱コーティングの剥離が生じやすくなる。
【0025】
そこで、本開示に係るタービン翼5では、曲率の大きい前縁LEの遮熱コーティング55の厚さを従来と同じ程度に維持しながら、高い遮熱性の要求される翼体301の後縁TE及びその近傍の遮熱コーティング55の厚さを前縁LEよりも厚くした。これにより、遮熱コーティング55の剥離に対する信頼性を損ねることなく、従来局所的に高温となりやすい箇所の遮熱性能が高まり、タービン翼5の翼体301全体として耐熱性能を高めることができる。
【0026】
具体的に、タービン翼5の翼体301は、コード方向Yの中央33より後縁TE側の後部分35の遮熱コーティング55の平均厚さが、コード方向Yの中央33より前縁LE側の前部分34の遮熱コーティング55の平均厚さよりも大きいという特徴を有する。後縁TEは後部分35に含まれ、前縁LEは前部分34に含まれる。上記の特徴は、翼体301の腹面56及び背面58の両面が有していてもよいし、背面58と比較して高温となりやすい腹面56のみが有していてもよい。
【0027】
本実施形態に係るタービン翼5では、結合層52の厚さを略一定とし、遮熱層53の厚さを部位によって違えることによって、上記の特徴を実現している。即ち、タービン翼5の翼体301は、コード方向Yの後部分35の遮熱層53の平均厚さが、コード方向Yの前部分34の遮熱層53の平均厚さよりも大きい。
【0028】
図4は、タービン翼5の翼体301の遮熱コーティング55のコード方向Yの位置と厚さとの関係の第1例を示す図表である。図4の図表において、縦軸が遮熱コーティング55の遮熱層53の厚さを表し、横軸が前縁LEから後縁TEまでのコード方向Yの位置を表している。なお、このグラフは翼体301の腹面56の遮熱コーティング55の遮熱層53の厚さを表したものであるが、背面58の遮熱コーティング55の遮熱層53の厚さも同様に表される。
【0029】
翼体301の前縁LEを含む第1領域A1の遮熱層53の厚さは「第1膜厚T1」である。また、翼体301の後縁TEを含む第2領域A2の遮熱層53の厚さは「第2膜厚T2」である。第2膜厚T2は第1膜厚T1よりも大きい。第2膜厚T2は、好ましくは、第1膜厚T1の膜厚の1.3倍以上2.0倍以下である。なお、実際のタービン翼5において、遮熱層53の表面には微細な凹凸が存在し、遮熱層53の膜厚を厳密に一定の値とすることは難しい。したがって、第1膜厚T1及び第2膜厚T2は、遮熱層53の設計値であってもよいし、膜厚測定値の平均値であってもよい。
【0030】
第3領域A3は、第1領域A1と第2領域A2のコード方向Yの間に配置されている。第3領域A3の遮熱コーティング55の膜厚は、第1領域A1から第2領域A2へ向かって、第1膜厚T1から第2膜厚T2へ漸次増加する。つまり、第3領域A3は、第1領域A1と第2領域A2とを滑らかに接続している。このようなタービン翼5の翼体301では、第1領域A1は前部分34に配置されることから、後部分35の遮熱コーティング55の平均厚さは、前縁LE側の前部分34の遮熱コーティング55の平均厚さよりも大きい。
【0031】
翼体301の遮熱性能を高める観点から第2領域A2の面積は第1領域A1の面積より大きいことが好ましく、第3領域A3は翼体301のコード方向Yの中央33よりも前側に位置することが望ましい。但し、第3領域A3がコード方向Yの中央33を含むより広い範囲であってもよい。図5は、タービン翼5の翼体301の遮熱コーティング55のコード方向Yの位置と厚さとの関係の第2例を示す図表である。図5に示す第2例では、第3領域A3が翼体301のコード方向Yの中央33を含み、前部分34から後部分35にまたがって設けられている。
【0032】
<タービン翼5の製造方法>
従来のタービン翼の製造方法では、鋳造によって耐熱合金をタービン翼の形状に成形した耐熱合金基材を作製し、耐熱合金基材の上に大気プラズマ溶射等の溶射法によって遮熱コーティングを形成する。しかし、溶射法では、タービン翼の複雑な曲面を部位ごとに異なる膜厚とすることが難しい。そこで、本開示に係るタービン翼5の製造方法では、基材51の上に結合層52及び遮熱層53となるコーティング層を形成したのち、このコーティング層の表面の余分な材料をレーザアブレーション加工で除去することによって、遮熱コーティング55の特に遮熱層53を所望の膜厚に成形する。以下、タービン翼5の製造方法について具体的に説明する。
【0033】
図6は、タービン翼5の製造方法のフローチャートである。図6に示すように、先ず、耐熱合金製の基材51からなる成形部品を作製する(ステップS01)。この成形部品は、鋳造によって耐熱合金が翼体301を含むタービン翼5の形状に成形されたものであって、タービン翼5の中間製品である。但し、成形部品の成形方法は鋳造に限定されず、機械加工などの他の成形方法が用いられたり組み合わされたりしてもよい。
【0034】
次に、成形部品の表面に第1層をコーティングする(ステップS02)。第1層は、結合層52となる。ここで、成形部品の表面に結合層52のコーティング剤が溶射され、成形部品の表面に結合層52となる第1層が形成される。
【0035】
続いて、第1の形状計測を行い、第1の形状計測結果を得る(ステップS03)。第1の形状計測では、第1層で被覆された成形部品の外形形状が計測される。ここで、形状計測の手法は限定されないが、例えば、形状計測に非接触式の三次元形状測定装置が用いられる。このような三次元形状測定装置として、光コム技術を利用した三次元形状測定装置や、ステレオカメラを用いた三次元形状測定装置が例示される。
【0036】
次に、第1層で被覆された成形部品の表面に第2層をコーティングする(ステップS04)。ここで、第1層の表面に遮熱層53のコーティング剤が溶射され、第1層の上に遮熱層53となる第2層が形成される。
【0037】
続いて、第2の形状計測を行い、第2の形状計測結果を得る(ステップS05)。第2の形状計測では、第1層及び第2層で被覆された成形部品の外形形状が計測される。第2の形状計測は、第1の形状計測と同様に行われる。
【0038】
第1の形状計測結果及び第2の形状計測結果を用いて、第2層の膜厚を求める(ステップS06)。第2の形状計測結果と第1の形状計測結果の差が第2層の膜厚である。鋳造で得られた成形部品は、製法上の固体誤差を含有するが、このように成形部品ごとに第2層の膜厚を測定することによって、製品の遮熱層53の厚さをより精確に制御することが可能となる。
【0039】
タービン翼5には、性能上要求される遮熱層53の膜厚に基づいて遮熱層53の設計膜厚が与えられている。例えば、翼体301の表面のうち第1領域A1の遮熱層53の設計膜厚は第1膜厚T1であり、第2領域A2の遮熱層53の設計膜厚は第2膜厚T2である。第2層の膜厚から遮熱層53の設計膜厚を差し引いて、加工量を決定する(ステップS07)。加工量は、即ち、第2層の表面から除去される材料の表面からの厚さである。上記のステップS06及びS07の処理はコンピュータによって行われてよい。
【0040】
レーザアブレーション加工によって、第2層の表面から決定された加工量の厚さの材料を除去する(ステップS08)。この除去処理には、公知の短パルスレーザ加工機が用いられる。短パルスレーザ加工機では、短パルスレーザの照射によって、照射部表面の材料の分子や原子の結合を切断して材料を分解及び飛散させる非熱的加工、即ち、レーザアブレーション加工が行われる。ここで短パルスレーザは、ピコ秒レーザ又はフェムト秒レーザである。決定された加工量はレーザアブレーション加工の加工深さに相当し、決定された加工量に基づいて短パルスレーザ加工機の加工パスが決定される。
【0041】
第2層の表面の材料の除去が非熱的加工によって行われるので、熱加工や研削加工で除去処理が行われる場合と比較して、遮熱コーティング55が受ける熱や摩擦のダメージが小さい。また、短パルスレーザ加工機が用いられることによって金属やセラミックスの微細加工が可能であり、複雑な三次元曲面形状を有するタービン翼5の表面に沿って所望厚さの材料の除去が可能である。
【0042】
上記の第2層の表面の材料の除去は、第2層の表面の全体にわたって施されてもよいし、第2層の表面のうち一部分に施されてもよい。例えば、翼体301の第1領域A1及び第3領域A3に対応する第2層の表面の材料が除去され、第2領域A2には溶射による表面が残存していてもよい。タービン翼5に施された遮熱コーティング55において、レーザアブレーション加工が施された表面、即ち、遮熱層53表面の「界面の展開面積比Sdr」は0.5以下であり、レーザアブレーション加工が施されていない表面と界面の展開面積比Sdrに基づいて区別できる。なお、界面の展開面積比Sdrは、ISO25178に規定された面粗さのパラメータの一つであって、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表す。次の表1では、タービン翼5の実施例1-4と、参考例1-2の展開面積比Sdrの測定結果が示されている。実施例1-4では、タービン翼5の遮熱コーティング55のうち短パルスレーザ加工機でレーザアブレーション加工が施された表面の界面の展開面積比Sdrの測定結果が示されている。参考例1-2では、タービン翼5の遮熱コーティング55のうち溶射により形成された遮熱層53の表面(即ち、レーザアブレーション加工が施されていない表面)の界面の展開面積比Sdrの測定結果が示されている。なお、遮熱層53表面の界面の展開面積比Sdrの測定は、レーザー顕微鏡「キーエンス株式会社製 VK-X250」を用いて行った。
【0043】
【表1】
【0044】
〔総括〕
本開示の第1の項目に係るタービン翼5は、耐熱合金製の基材51と、基材51の表面を被覆する遮熱コーティング55とを有する翼型の翼体301を備え、
翼体301のコード方向Yの中央33より後縁TE側の後部分35の遮熱コーティング55の平均厚さが、翼体301のコード方向Yの中央33より前縁LE側の前部分34の遮熱コーティング55の平均厚さよりも大きいことを特徴としている。
【0045】
本開示の第2の項目に係るタービン翼5は、第1の項目に係るタービン翼5において、遮熱コーティング55は、セラミック製の遮熱層53と、遮熱層53と基材51の間に介在する結合層52とを含み、翼体301の後部分35の遮熱層53の平均厚さが、翼体301の前部分34の遮熱層53の平均厚さよりも大きいものである。
【0046】
本開示の第3の項目に係るタービン翼5は、第2の項目に係るタービン翼5において、翼体301は、遮熱層53の膜厚が第1膜厚T1であって翼体301の前縁LEを含む第1領域A1と、遮熱層53の膜厚が第1膜厚T1よりも大きい第2膜厚T2であって第1領域A1よりもコード方向Yの後縁TE側に配置された第2領域A2とを、有するものである。
【0047】
第1乃至3の項目に係るタービン翼5では、従来のタービン翼において局所的に高温となる傾向のあった翼体301の後縁TE及びその近傍の遮熱性が高められ、全体として耐熱性が高められる。また、翼体301の前縁LEの遮熱コーティング55の厚さはコード方向Yの後部分35よりも小さく、遮熱コーティング55の剥離は抑制される。このように、本開示によれば、ガスタービンエンジン1のタービン翼5において、遮熱コーティング55の剥離を抑制しつつ耐熱性を高め得る技術を提案できる。
【0048】
本開示の第4の項目に係るタービン翼5は、第3の項目に係るタービン翼5において、翼体301は、第1領域A1と第2領域A2のコード方向Yの間に配置され、遮熱層53の膜厚が第1領域A1から第2領域A2へ向かって、第1膜厚T1から第2膜厚T2へ漸次増加する第3領域A3を有するものである。
【0049】
このように、第3領域A3によって、第1領域A1から第2領域A2へ遮熱層53の膜厚を徐々に変化させることができる。
【0050】
本開示の第5の項目に係るタービン翼5は、第4の項目に係るタービン翼5において、第3領域A3は、翼体301の前部分34に配置されているものである。
【0051】
このように、第3領域A3が前部分34に配置されることによって、翼体301における第2領域A2の割合を大きくできる。
【0052】
本開示の第6の項目に係るタービン翼5は、第3乃至5のいずれかの項目に係るタービン翼5において、第1領域A1の遮熱層53表面の界面の展開面積比Sdrが0.5以下であるものである。
【0053】
このように、タービン翼5の第1領域A1は、遮熱層53表面の界面の展開面積比Sdrが0.5以下となる加工面、即ち、レーザアブレーション加工によって材料が除去された表面を有する。
【0054】
本開示の第7の項目に係るガスタービンエンジン1は、第1乃至6のいずれかの項目に係るタービン翼5を備えるものである。
【0055】
上記構成のタービン翼5は遮熱コーティング55の剥離を抑制しつつ耐熱性を高め得るので、ガスタービンエンジン1のタービン14に具備される静翼40及び動翼30を含むタービン翼5として好適である。
【0056】
本開示の第8の項目に係るタービン翼5の製造方法は、翼型の翼体301を有するタービン翼5の製造方法であって、
耐熱合金製の基材51で翼体301となる部分を含む成形部品を作製すること、
成形部品の表面に結合層52となる第1層をコーティングすること、
第1層の表面に遮熱層53となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって第2層の表面から材料の一部を除去することにより、翼体301のコード方向Yの中央33より前縁LE側の前部分34の遮熱層53の平均厚さを、翼体301のコード方向Yの中央33より後縁TE側の後部分35の遮熱層53の平均厚さよりも小さくすること、を含むものである。
【0057】
本開示の第9の項目に係るタービン翼5の製造方法は、第8の項目に係る方法において、第2層の表面から材料の一部を除去することが、翼体301に、遮熱層53の膜厚が第1膜厚T1であって翼体301の前縁LEを含む第1領域A1と、遮熱層53の膜厚が第1膜厚T1よりも大きい第2膜厚T2であって第1領域A1よりもコード方向Yの後縁TE側に配置された第2領域A2とを形成すること、を含むものである。
【0058】
第8及び9の項目に係る方法では、レーザアブレーション加工によって第2層の表面から材料の一部が除去されるので、遮熱コーティング55の膜厚を精密に制御できる。また、従来のタービン翼において局所的に高温となる傾向のあった翼体301の後縁TE及びその近傍の遮熱性が高められることによって、全体として耐熱性が高められたタービン翼5を製造できる。
【0059】
本開示の第10の項目に係るタービン翼5の製造方法は、第8又は9の項目に係る方法において、第2層の表面から材料の一部を除去することが、第1層で被覆された成形部品の形状計測を行って第1の形状計測結果を得ること、第1層及び第2層で被覆された成形部品の形状計測を行って第2の形状計測結果を得ること、第2の形状計測結果と第1の形状計測結果の差に基づいて第2層の膜厚を求めること、第2層の膜厚と遮熱層53の所定の設計膜厚の差に基づいて第2層の表面からの材料の除去厚さを求めること、及び、第2層の表面から除去厚さの材料を除去すること、を含むものである。
【0060】
本開示の第11の項目に係るタービン翼5の製造方法は、
耐熱合金製の基材でタービン翼の翼体となる部分を含む成形部品を作製すること、
前記成形部品の表面に結合層となる第1層をコーティングすること、
前記第1層の表面に遮熱層となる第2層をコーティングすること、及び、
レーザアブレーション加工によって前記第2層の表面から材料の一部を除去すること、を含み、
前記第2層の表面から材料の一部を除去することが、
前記第1層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第1の形状計測結果を得ること、
前記第1層及び前記第2層で被覆された前記成形部品の形状計測を行って第2の形状計測結果を得ること、
前記第2の形状計測結果と前記第1の形状計測結果の差に基づいて前記第2層の膜厚を求めること、
前記第2層の膜厚と前記遮熱層の所定の設計膜厚の差に基づいて前記第2層の表面からの材料の除去厚さを求めること、及び、
前記第2層の表面から前記除去厚さの材料を除去すること、を含むものである。
【0061】
上記第10及び第11の項目に係るタービン翼5の製造方法によれば、遮熱層53となる第2層の厚さを計測して第2層の表面からの除去厚さを求めるので、遮熱層53の厚さを精密に制御できる。
【0062】
本明細書で開示するコンピュータの機能は、開示された機能を実行するように構成又はプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせを含む回路、又は、処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見做される。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、或いは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0063】
以上の本開示の議論は、例示及び説明の目的で提示されたものであり、本開示を本明細書に開示される形態に限定することを意図するものではない。例えば、前述の詳細な説明では、本開示の様々な特徴は、本開示を合理化する目的で1つの実施形態に纏められているが、複数の特徴のうち幾つかが組み合わされてもよい。また、本開示に含まれる複数の特徴は、上記で論じたもの以外の代替の実施形態、構成、又は態様に組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 :ガスタービンエンジン
5 :タービン翼
14 :タービン
33 :中央
34 :前部分
35 :後部分
51 :基材
52 :結合層
53 :遮熱層
55 :遮熱コーティング
301 :翼体
A1 :第1領域
A2 :第2領域
A3 :第3領域
LE :前縁
T1 :第1膜厚
T2 :第2膜厚
TE :後縁
Y :コード方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6