(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092646
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】自動車クリアー塗膜上のコーティング膜およびそれを有する自動車
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240701BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240701BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240701BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240701BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D133/14
C09D7/63
C09D7/61
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208732
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】古田 謙一
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】阪本 順一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 優
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 和久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038DG191
4J038DG261
4J038DL032
4J038GA08
4J038NA05
4J038NA07
4J038PA19
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】
本発明は、自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、一度固着すると容易に取れない水に含まれるミネラル成分が凝固した水垢の汚れが付きにくいコーティング膜を提供する。
【解決手段】
本発明は、メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれからなる自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、
前記コーティング膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の動的ガラス転移温度100~300℃を有し、かつ
昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率1.0×109~1.0×1013dyn/cm2を有する、
ことを特徴とする自動車クリアー塗膜上のコーティング膜およびそれを有する自動車を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれかからなる自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、
前記コーティング膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の動的ガラス転移温度100~300℃を有し、かつ
昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率1.0×109~1.0×1013dyn/cm2を有する、
ことを特徴とする自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項2】
前記コーティング膜が、水酸基含有アクリル樹脂(A)および硬化剤(B)を含有するコーティング膜形成性組成物から形成される、請求項1記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項3】
前記コーティング膜形成性組成物に、更に以下に記載の成分のいずれか:
ポリシロキサン基含有樹脂(C)、
4級アンモニウム基含有樹脂(D)、
変性シリコーンオイル(E)または
無機シリカ(F)
またはそれらの組合せを含有する、請求項1または2記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項4】
前記ポリシロキサン基含有樹脂(C)が、下記式I:
【化1】
[式中、Meはメチル基を示し、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
13は酸素原子が介在することもある炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0または1以上の整数を表す。]
で表されるポリシロキサン基を有するアクリル樹脂である、請求項3記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項5】
前記4級アンモニウム基含有樹脂(D)が、式IV:
【化2】
[式中、R
2は酸素を介することもある炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、同一または異なって、水素または置換もしくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]を有するアクリル樹脂である、請求項3記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項6】
前記変性シリコーンオイル(E)が、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエステル変性シリコーンオイル及びポリアクリル変性シリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項7】
前記無機シリカ(F)が、平均粒子径5nm以上60nm以下である、請求項3記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項8】
前記自動車クリアー塗膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率が1.0×109dyn/cm2以下であることを特徴とする、請求項1記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング塗膜。
【請求項9】
前記自動車クリアー塗膜、コーティング膜の順に積層され、前記自動車クリアー塗膜の膜厚が15μm~50μmであり、前記コーティング塗膜の膜厚が0.3μm~25μmである、請求項1または2記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項10】
前記コーティング膜が、撥水性である、請求項1または2記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項11】
前記コーティング膜が、親水性である、請求項1または2記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
【請求項12】
請求項1または2記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜を有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車クリアー塗膜上のコーティング膜およびそれを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGsの観点から、自動車の洗車においても節水などが望まれている。自動車等の車両(特にタクシーや公共交通機関)においては、汚れが目立つ(所謂、外観不良)と印象が良くなく、洗車は定期的に行う必要がある。汚れが付きにくい塗膜であれば洗車回数も減らすことができ環境負荷低減につながると考えられる。
【0003】
自動車は、通常、着色塗膜とその上に光沢や着色の深みと保護機能を付与するためにクリアー塗膜を形成しているが、上記した汚れが付きにくくかつその効果が続くように、クリアー塗膜上にコーティング膜を形成することが増えてきた。
【0004】
自動車用のコーティング膜としてはワックスタイプやガラス系コーティング剤などがある。ワックスタイプは自動車クリアー塗膜と化学的に結合しているものではなく洗車することで徐々に効果が無くなっていく。また、ガラス系コーティング剤は自動車クリアー塗膜の小さな傷などにしみこみアンカー効果により、容易に除去されない塗膜となるが、洗車時の水道水に含まれるミネラル分はガラスコーティング塗膜と反応しやすく水痕がついてしまう。
【0005】
しかし、樹脂層が洗車や劣化等、何らかの影響により除去された場合、ガラスコーティング層がむき出しとなり、水痕が付着しやすくなってしまう。さらに樹脂のコーティング層が柔らかい場合、例えば、洗車時の水道水に含まれる水垢汚れや、ミネラル分を多く含んだ泥水などからくる水垢汚れは、塗膜に食い込む形で固着するため一度固着すると容易に除去できなかった。このような水垢が固着した塗膜に泥汚れやカーボン汚れが引っかかり、容易に取れない汚れになっていることが分かってきた。
【0006】
これら課題を解決するために、シリコーン系材料は、汎用的に使用しやすい利点もあり開発が進んでいる。例えば、特開2016-117829号公報(特許文献1)等には、加水分解性シリコーンレジンを用いたコーティング剤が提案されている。樹脂成分のみで水痕がつくような反応基がないため抑制できると考えられるが、例えば、洗車時の水道水に含まれる水垢汚れや、ミネラル分を多く含んだ泥水などからくる水垢汚れは、塗膜に食い込む形で固着するため一度固着すると容易に除去できない。このような水垢が固着した塗膜に泥汚れやカーボン汚れが引っかかり、容易に取れない汚れになっていることが分かってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、一度固着すると容易に取れない水に含まれるミネラル成分が凝固した水垢の汚れが付きにくいコーティング膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の態様を提供する:
[1]
メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれかからなる自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、
前記コーティング膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の動的ガラス転移温度100~300℃を有し、かつ
昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率1.0×10
9~1.0×10
13dyn/cm
2を有する、
ことを特徴とする自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[2]
前記コーティング膜が、水酸基含有アクリル樹脂(A)および硬化剤(B)を含有するコーティング膜形成性組成物から形成される、[1]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[3]
前記コーティング膜形成組成物に、更に以下に記載の成分のいずれか:
ポリシロキサン基含有樹脂(C)、
4級アンモニウム基含有樹脂(D)、
変性シリコーンオイル(E)または
無機シリカ(F)
またはそれらの組合せを含有する、[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[4]
前記ポリシロキサン基含有樹脂(C)が、下記式I:
【化1】
[式中、Meはメチル基を示し、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
13は酸素原子が介在することもある炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0または1以上の整数を表す。]
で表されるポリシロキサン基を有するアクリル樹脂である、[3]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[5]
前記4級アンモニウム基含有樹脂(D)が、式IV:
【化2】
[式中、R
2は酸素を介することもある炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、同一または異なって、水素または置換もしくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]を有するアクリル樹脂である、[3]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[6]
前記変性シリコーンオイル(E)が、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエステル変性シリコーンオイル及びポリアクリル変性シリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1つである、[3]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[7]
前記無機シリカ(F)が、平均粒子径 5nm以上60nm以下である、[3]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[8]
前記自動車クリアー塗膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率が1.0×10
9dyn/cm
2以下であることを特徴とする、[1]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング塗膜。
[9]
前記自動車クリアー塗膜、コーティング膜の順に積層され、前記自動車クリアー塗膜の膜厚が15μm~50μmであり、前記コーティング塗膜の膜厚が0.3μm~25μmである、[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[10]
前記コーティング膜が、撥水性である、[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[11]
前記コーティング膜が、親水性である、[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[12]
[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜を有する自動車。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれからなる自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜の特定の物理的特性、具体的には動的ガラス転移温度および弾性率を制御することにより、コーティング膜に水垢が付着するのを改善する。具体的には、前記コーティング膜の動的ガラス転移温度が100~300℃であることによって、夏場に自動車表面が高温に上がった際に、水道水などのミネラル水等が乾燥し水痕が塗膜に食い込む形で形成するのを抑制する。また、前記コーティング膜の弾性率を1.0×109~1.0×1013dyn/cm2に制御することにより、水垢の付着を大きく改善することができた。コーティング膜上に水滴が残って乾燥し水垢となっても、塗膜が固く物理的に固着することがないので、水垢をきっかけとして汚れが蓄積することがなくなると考えられている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<自動車クリアー塗膜>
本発明の自動車クリアー塗膜は、メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれから形成されることが必要である。
【0012】
上記自動車クリアー塗膜は、前述のようにメラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料および酸エポキシ熱硬化型塗料の3種類が基本として用いられる。メラミン樹脂熱硬化型塗料とは、水酸基含有樹脂とメラミン樹脂との反応を基本とする塗料であり、イソシアネート熱硬化型塗料は水酸基含有樹脂とイソシアネート化合物との反応を基本とする塗料である。また、酸エポキシ熱硬化塗料とは、ポリエポキシドとポリ酸との反応を基本とする塗料である。
【0013】
メラミン樹脂熱硬化型塗料およびイソシアネート熱硬化型塗料に使用される水酸基含有樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。水酸基含有樹脂として、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を用いるのが、耐候性、耐水性などの塗膜性能面から好ましい。
【0014】
前記メラミン樹脂熱硬化型塗料に使用されるメラミン樹脂としては、例えば、メラミンとアルデヒドとの反応によって得られる部分又は完全メチロール化メラミン樹脂を使用することができる。上記アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられ、なかでもホルムアルデヒドを好適に使用することができる。また、前記部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を、適当なアルコールによって、部分的に又は完全にエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂も使用することができる。
【0015】
前述のようにイソシアネート熱硬化型塗料は、既に説明した水酸基含有樹脂とイソシアネート化合物とを使用する熱硬化型塗料であり、このイソシアネート化合物は、より具体的にはポリイソイソシアネート硬化剤である。イソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式ポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチルなどの脂環族ポリイソシアネート、これらのビュレット体、ヌレート体などの多量体および混合物などを挙げることができる。
【0016】
酸エポキシ熱硬化型塗料は、酸無水物基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂を含むことが好ましい。このような酸エポキシ硬化系クリアー塗料組成物は、高固形分濃度であり、また耐酸性に優れた塗膜を形成することができるという利点もある。なお、酸無水物基含有アクリル樹脂は、貯蔵安定性の観点から、酸無水物基含有アクリル樹脂内の酸無水物基が低分子量のアルコールなどによってハーフエステル化されていることが好ましい。また、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂は、水酸基を有している。
【0017】
クリアー塗料には、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、レオロジーコントロール剤としての架橋樹脂粒子、表面調整剤、硬化触媒などの、当業者において通常用いられる添加剤を含んでもよい。
【0018】
架橋樹脂粒子は、クリアー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.01質量部以上15質量部以下が好ましく、0.1質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。
【0019】
クリアー塗料の製造方法は、特に限定されず、当業者の周知の任意の方法を用いることができる。また、クリアー塗料組成物として、市販品を用いることもできる。例えば、ポリエポキシドとポリ酸とを含有する酸エポキシ熱硬化型塗料である、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社から発売されている「マックフローO-1820クリアー」(商品名)などが挙げられる。また、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むイソシアネート熱硬化型塗料である、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社から販売されている「ポリウレエクセルO-2100」(商品名)などが挙げられる。水酸基含有アクリル樹脂とメラミン樹脂とを含むメラミン樹脂熱硬化型塗料である、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社から発売されている「スーパーラック O-150クリアー」(商品名)などが挙げられる。
【0020】
自動車クリアー塗膜は、着色塗膜上に上記のクリアー塗料を、公知の方法、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の方法によって塗装することができ、塗装の際、静電印加を行ってもよい。クリアー塗膜は、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~60μm、そしてさらに好ましくは20~50μmの範囲の硬化膜厚を有するように塗装される。
【0021】
熱硬化型塗料は、塗料を塗装後、得られた塗膜は加熱硬化される。加熱手段は、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等が挙げられる。加熱温度は、60~160℃が好ましく、80~150℃がより好ましい。また加熱時間は、10~60分間が好ましく、15~40分間がより好ましい。
【0022】
前記クリアー塗膜は、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率が1.0×109dyn/cm2以下であることを必要とする。弾性率は、後述するコーティング膜の弾性率の測定方法と同じである。
【0023】
コーティング膜
上記自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜は、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の動的ガラス転移温度が100℃~300℃、好ましくは110℃~200℃、更に好ましくは120℃~150℃であることが必要である。動的ガラス転移温度(動的Tg)がこの温度範囲にあると、水垢形成時にコーティング塗膜に水垢が食い込み固着するのを抑制できる。そのため、さらに汚れが付くような状況になっても、水垢をトリガーとした汚れの蓄積を抑制できる。
【0024】
動的ガラス転移温度(動的Tg)は、まず、ポリプロピレン製試験板にエアスプレーにて、単膜の乾燥膜厚が30μmとなるように塗料組成物を塗装し、120℃で30分間加熱硬化して塗膜を形成する。次に、塗膜を試験板から剥離し、5mm×20mmの大きさに切断して試験片とし、この試験片について強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック社の「バイブロン」)を使用して動的粘弾性測定を行い、昇温速度2℃/分、測定周波数8Hzの条件で、tanδを求める。塗膜の動的Tgは、損失正接tanδが最大値を示した時の温度とした。「損失正接tanδ」は、JIS-K7244-4:1999の引張振動-非共振法に準拠して測定される値である。
【0025】
本発明では、自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜は、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率が1.0×109~1.0×1013dyn/cm2であることが必要である。この弾性率を有すると、水垢の付着を大きく改善することができる。コーティング膜上に水滴が残って乾燥し水垢となっても、塗膜が固く物理的に固着することがないので、水垢をきっかけとして汚れが蓄積することがなくなると考えられている。
【0026】
弾性率は、上記の動的ガラス転移温度の測定とほぼ同じように、ポリプロピレン製試験板にエアスプレーにて、単膜の乾燥膜厚が30μmとなるように塗料組成物を塗装し、120℃で30分間加熱硬化して塗膜を形成する。次に、塗膜を試験板から剥離し、5mm×20mmの大きさに切断して試験片とし、この試験片について強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック社の「バイブロン」)を使用して動的粘弾性測定を行い、昇温速度2℃/分、測定周波数8Hzの条件で、弾性率を測定する。
【0027】
コーティング膜の動的ガラス転移温度および弾性率を所定の範囲を満足すれば、垢のもととなる水分の付着・残存の抑制、自動車塗面に求められる美観や耐スリ傷性などの機能性を付与することができるのであり、コーティング膜は基本的に水酸基含有アクリル樹脂(A)および架橋剤(B)を含むコーティング膜形成性樹脂組成物から所定の動的ガラス転移温度と弾性率を満足するようにすることが可能である。また、水酸基含有アクリル樹脂(A)および架橋剤(B)を含むコーティング膜形成性組成物に、更に添加剤的に特定の撥水性官能基または親水性官能基、具体的には撥水性官能基であるポリシロキサン基を含有する樹脂(C)、親水性官能基である4級アンモニウム基を含有する樹脂(D)を必要量添加するか、または添加剤として変性シリコーンオイル(E)や無機シリカ(F)を添加することにより、防汚性能および傷つき抑制等の機能性を付与できる。
【0028】
<水酸基含有アクリル樹脂(A)>
本発明のコーティング膜形成樹脂組成物に使用する架橋性を付与する水酸基を含有するアクリル樹脂(以下、「水酸基含有アクリル樹脂(A)」と呼ぶ。)が好ましい。
【0029】
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリルモノマー、水酸基含有アクリルモノマー、そして他の共重合性モノマーなどの、アクリル樹脂の調製において通常用いられる不飽和モノマーを1種または2種以上用いて調製することができる。
【0030】
上記(メタ)アクリルモノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n、iまたはt-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキルエステル類;(メタ)アクリルアミドなどのアミド類;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル類などが挙げられる。
【0031】
水酸基含有アクリルモノマーの例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエテレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
その他の共重合性モノマーとしては、アクリルモノマーと共重合するモノマーであって、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類;酢酸ビニルなどのビニル化合物などを含む。
【0033】
上記水酸基含有アクリル樹脂(A)の製造方法としては特に限定されず、例えば、通常のラジカル重合などの溶液重合などにより行うことができる。
【0034】
上記水酸基含有アクリル樹脂(A)は、重量平均分子量(Mw)が1,000~20,000であるのが好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることによって、塗料用組成物の粘度および得られる塗膜の耐候性などの塗膜物性のバランスを良好な範囲に保つことができる。
【0035】
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、コーティング膜形成性組成物中に、組成物の固形分を100として、10~90重量%、好ましくは20~70重量%、より好ましくは30~60重量%の量で含有する。水酸基含有アクリル樹脂(A)が10重量%より少ないと、十分な塗膜物性が得られず、耐候性が低下する。水酸基含有アクリル樹脂(A)が90重量%を超えた場合、硬化が不十分となりコーティング膜の物理的性能が不十分になる。
【0036】
<架橋剤(B)>
本発明のコーティング膜形成樹脂組成物に配合する架橋剤(B)は、特に限定されるものではないが、水酸基含有アクリル樹脂(A)に存在する水酸基と架橋反応するものであり、ポリイソシアネート系架橋剤が挙げられる。
【0037】
ポリイソシアネート系架橋剤とは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネート系架橋剤は、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートおよびこれらポリイソシアネートの誘導体などを挙げることができる。ポリイソシアネート系架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
架橋剤(B)に用いられる脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート;例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0039】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-または1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート;例えば、1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,6-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)-ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0040】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-もしくは1,4-キシリレンジイソシアネートまたはその混合物、ω,ω’-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-または1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート;例えば、1,3,5-トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0041】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4’-または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;例えば、トリフェニルメタン-4,4’,4’’’-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート;例えば、4,4’-ジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどを挙げることができる。
【0042】
上記の芳香族ポリイソシアネートは、紫外線により黄変することがあり耐候性の観点から好ましくなく。脂肪族ポリイソシアネートが耐候性などの観点から好ましく、必要に応じて脂環族ポリイソシアネートを併用して用いてもよい。
【0043】
本発明では、架橋剤(B)は、上記に列挙したポリイソシアネート架橋剤の中で、脂環族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートとの組合せが好ましく、脂環族ポリイソシアネートの具体例はイソホロンジイソシアネートであり、脂肪族ポリイソシアネートの具体例はヘキサメチレンジイソシアネートまたはペンタメチレンジイソシアネートであり、これらの組合せがより好ましい。この組合せの時に、動的ガラス転移温度の範囲を制御することが容易になる。尚、これらのポリイソシアネート系架橋剤は、以下に説明の誘導体の形態であってもよい。
【0044】
また、ポリイソシアネート系架橋剤の誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート系架橋剤のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)およびクルードTDIなどを挙げることができる。特に、ビウレット、アロファネート、イソシアヌレートが好ましく、イソシアヌレートが塗膜の物性バランスの観点から最も好ましい。
【0045】
上記ポリイソシアネート系架橋剤は、通常ブロック剤でイソシアネート基をブロックして使用する。ブロック剤は、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得る。ブロック剤は、活性水素基を有する化合物(例えば、アルコール類、オキシム類等)が挙げられる。ブロック剤の例としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはそのヌレート体をブロック剤によりブロックしたブロックイソシアネート化合物がより好ましく用いられる。
【0046】
架橋剤(B)は、水酸基含有アクリル樹脂(A)、ポリシロキサン基を含有する樹脂(C)および添加剤に由来する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.5~1.7の範囲内となるように構成するのが好ましい。上記含有量が下限を下回ると硬化性が不十分となり、上限を上回ると硬化膜が堅くなりすぎ脆くなる。上記下限は、0.7がより好ましく、上記上限は、1.5がより好ましい。
【0047】
本発明では、コーティング膜が上記の動的ガラス転移温度および弾性率を保持しつつ、水酸基含有アクリル樹脂(A)および架橋剤(B)を含むコーティング膜形成性樹脂組成物に、添加剤的に撥水性官能基であるポリシロキサン基を含有する樹脂(C)(以下、「ポリシロキサン基含有樹脂(C)」と言う。)、親水性官能基である4級アンモニウム基を含有する樹脂(D)(以下、「4級アンモニウム基含有樹脂(D)」と言う。)を必要量添加するか、または添加剤として特定の変性シリコーンオイル(E)や無機シリカ(F)を必要量添加することで、撥水性・防汚性能の向上、および傷つき抑制等の機能性を付与することができる。
【0048】
<ポリシロキサン基含有樹脂(C)>
ポリシロキサン基含有樹脂(C)は、ポリシロキサン基を有する(メタ)アクリルモノマー、水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体および、必要に応じて、それらと共重合し得る単量体のモノマーと反応することにより樹脂を形成する。
【0049】
ポリシロキサン基は、通常のシロキサン基が連続するポリシロキサン基であってよく、ポリシロキサン基は通常、以下式I
【化3】
[式中、Meはメチル基を示し、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
13は酸素原子が介在することもある炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0または1以上の整数を表す。]
で表される。この式Iのポリシロキサン基は、以下の式IIに示されるポリシロキサン基含有(メタ)アクリルモノマーから導入される:
【化4】
[式中、Meはメチル基を示し、R
11は水素原またはメチル基を示し、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
13は酸素原子が介在することもある炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0または1以上の整数を表す。]
で表されるものである。上記式(II)のシロキサン基含有(メタ)アクリルモノマーは下記式III:
【化5】
で表されるポリシロキサンの末端にあるアルコール基と(メタ)アクリル酸との反応物であるシロキサン基(より具体的には、ポリシロキサン基)含有(メタ)アクリレートが好適である。上記式I中、R
11は、水素原子またはメチル基を示す。上記式Iおよび式II中において、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、Meはメチル基である。R
13は炭素数1~6のアルキル基である。nは0または1以上の整数あり、nは好ましくは6~300である。
【0050】
上記式IIを有するシロキサン基含有(メタ)アクリルモノマーは、より具体的には、信越化学工業社(変性シリコーンオイルシリーズ)やJNC株式会社(サイラプレーン(登録商標))から市販されており、信越化学社製のX-22-2404[官能基当量(g/mol):420][数平均分子量:420]、X-22-174ASX[官能基当量(g/mol):900][数平均分子量:900]、X-22-174BX[官能基当量(g/mol):2,300][数平均分子量:2300]、KF-2012[官能基当量(g/mol):4,600]X-22-2426[官能基当量(g/mol):12,000][数平均分子量:12000]、JNC株式会社製のFM-0711[数平均分子量:1000]、FM-0721[数平均分子量:5000]、FM-0725[数平均分子量:10000](以上、商品名)等が挙げられる。尚、シロキサン基含有アクリルモノマーが1官能である場合、官能基当量[g/mol]はシロキサン1モルに対するシロキサン基含有アクリルモノマーの数平均分子量(Mn)と見做すことができる。
【0051】
上記シロキサン基含有アクリルモノマーIIは、水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体および、必要に応じて、それらと共重合し得る単量体のモノマーと反応することにより樹脂を形成する。水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体は、一般に使用される水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体であって、具体的には2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これら(メタ)アクリル系単量体は、合成品、市販品のいずれを用いてもよい。これらの単量体は、1種単独を用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0052】
必要に応じて使用される共重合し得る単量体は、上記ポリシロキサン基や水酸基に影響を与える基を含まなければどのようなものでも良く、具体的には官能基を含まないアルキル(メタ)アクリレート(具体的には、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等);アクリロニトリル;スチレン;等が一般的である。また、共重合し得る単量体は、前述のようにシロキサン基や4級アンモニウム塩基や水酸基に影響を与えなければ、カルボン酸基、シリコーン変性基、フッ素含有基などを含んでもよい。そのような共重合し得る単量体の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体;東亞合成株式会社製のAK-30、AK-32、AK-5等のシリコーン変性基含有(メタ)アクリル系単量体;2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有基を含む(メタ)アクリル系単量体;等が挙げられる。
【0053】
ポリシロキサン基含有樹脂(C)は、コーティング膜形成性組成物中に、組成物の固形分100に対して1~80重量%、好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~50重量%、の量で含有する。ポリシロキサン基含有樹脂(C)が、1重量%より少ないと、[接触角]評価にて十分な撥水性能が得られない欠点を有し、ポリシロキサン基含有樹脂(C)が80重量%を超えると、十分な塗膜物性が得られず、耐候性が低下する欠点を有する。
【0054】
ポリシロキサン基含有樹脂(C)は、ポリジメチルシロキサン基Iをポリシロキサン基含有樹脂(C)100に対して、5~80重量%、好ましく5~60重量%、より好ましく10~40重量%の量で含有する。ポリジメチルシロキサン基の量が5重量%より少ないと、[接触角]評価にて期待される撥水性能が得られない欠点を有し、80重量%より多いと、塗膜が白濁してしまい自動車に求められる美観が得られない欠点を有する。
【0055】
<4級アンモニウム基含有樹脂(D)>
4級アンモニウム基含油樹脂(D)に導入される4級アンモニウム基は以下式IV
【0056】
【化6】
[式中、R
2は酸素を介することもある炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、同一または異なって、水素または置換もしくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]
である。この式IVの4級アンモニウム基は、以下の式Vに示される4級アンモニウム基含有(メタ)アクリルモノマーから導入される:
【化7】
(式中、R
1は、水素またはメチル基であり、R
2は、酸素を介することもある炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、同一または異なって、水素または置換もしくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0057】
上記4級アンモニウム基含有(メタ)アクリルモノマーVは、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系単量体とアルキル酸との塩が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。4級アンモニウム基含有アクリルモノマーVは、合成品、市販品のいずれを用いてもよい。
【0058】
上記4級アンモニウム基含有アクリルモノマーVは、シロキサン基含有樹脂(C)で説明した水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体および、必要に応じて、それらと共重合し得る単量体のモノマーと反応することにより樹脂を形成する。水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体や必要に応じて使用される共重合し得る単量体は、シロキサン基含有樹脂(C)の説明で示されたものが使用されるが、簡単に例示すると、水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体、具体的には2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。必要に応じて使用される共重合し得る単量体は、上記ポリシロキサン基または4級アンモニウム塩基や水酸基に影響を与える基を含まなければどのようなものでも良く、具体的には官能基を含まないアルキル(メタ)アクリレート(具体的には、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等);アクリロニトリル;スチレン;等が一般的である。また、共重合し得る単量体は、前述のようにシロキサン基や4級アンモニウム塩基や水酸基に影響を与えなければ、カルボン酸基、シリコーン変性基、フッ素含有基などを含んでもよい。そのような共重合し得る単量体の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体;東亞合成株式会社製のAK-30、AK-32、AK-5等のシリコーン変性基含有(メタ)アクリル系単量体;2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有基を含む(メタ)アクリル系単量体;等が挙げられる。
【0059】
4級アンモニウム基含有樹脂(D)は、コーティング膜形成性組成物中に、組成物の固形分100に対して0.01~10重量%、好ましくは0.05~8重量%、より好ましくは0.1~5重量%、の量で含有する。4級アンモニウム基含有樹脂(D)が、0.01重量%より少ないと、期待される汚れの付着抑制が得られない。4級アンモニウム基含有樹脂(D)が10重量%を超えると、[接触角]評価にて期待される撥水性能が得られない欠点を有する。
【0060】
<変性シリコーンオイル(E)>
本発明において、所望の動的ガラス転移温度および弾性率を達成するために、変性シリコーンオイル(E)を添加剤としてコーティング膜形成性組成物に添加してもよい。変性シリコーンオイル(E)は、より具体的にはポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエステル変性シリコーンオイル及びポリアクリル変性シリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1つである。本発明のコーティング膜形成性組成物には、これら変性シリコーンオイル(E)を単独で含んでもよく、組合せて含んでもよい。
【0061】
ポリエーテル変性シリコーンオイルとして、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリエーテル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリエーテル鎖以外の置換基を更に有してもよい。ポリエーテル変性シリコーンオイルは、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリエーテル鎖が導入された化合物である。
【0062】
ポリエステル変性シリコーンオイルとして、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリエステル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリエステル鎖以外の置換基を更に有してもよい。ポリエステル変性シリコーンオイルは、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリエステル鎖が導入された化合物である。
【0063】
ポリアクリル変性シリコーンオイルとして、ポリシロキサンの末端および/または側鎖に、ポリアクリル鎖が導入された化合物等が挙げられる。例えば、ポリシロキサンにポリアクリル鎖以外の置換基を更に有してもよい。ポリアクリル変性シリコーンオイルは、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン等の側鎖に、ポリアクリル鎖が導入された化合物である。
【0064】
変性シリコーンオイル(E)は、コーティング膜形成性組成物中に、組成物の固形分100に対して0.5~30重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは1~15重量%、の量で含有する。変性シリコーンオイル(E)が、0.5重量%より少ないと、[接触角]評価にて期待される撥水性能が得られない。変性シリコーンオイル(E)が30重量%を超えると、塗膜が白濁してしまい自動車に求められる美観が得られない欠点を有する。
【0065】
<無機シリカ(F)>
無機シリカ(F)は、好ましくは粒子であり、粒子の平均粒子径は、好ましくは5nm以上60nm以下、より好ましくは6nm以上30nm以下、例えば6nm以上25nm以下、7nm以上20nm以下であってもよい。なお、本開示において、無機シリカ(F)の平均粒子径は、レーザー散乱法や回折法等を用いた通常の測定機器により求めた体積平均粒子径(D50)を指すものであり、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2300(島津製作所社製)等を使用して測定することができる。
【0066】
無機シリカ(F)は、特に限定されないが、湿式法、乾式法のいずれの方法によって製造されたものであってもよい。無機シリカ(F)としては、例えば、表面が無処理のシリカ粒子、表面が有機物で処理されたシリカ粒子、有機溶剤分散性コロイダルシリカ等を挙げることができる。
【0067】
無機シリカ(F)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、サイリシア710、サイリシア740、サイリシア550(以上、いずれも富士シリシア化学社製)、ミズカシルP-73(水澤化学工業社製)、ニップシールE-200A、ニップジェルAZ-6A0(いずれも東ソー・シリカ社製)、GASIL HP270、GASIL HP395(いずれもPQコーポレーション社製)等を挙げることができる。
【0068】
無機シリカ(F)の含有量は、コーティング膜形成性組成物の樹脂固形分100に対して、0.2重量%~5重量%であってもよく、0.5~4重量%、より好ましくは2~4重量%であってもよい。無機シリカ(F)の含有量が0.2重量%より少ないと、期待される傷つき耐性が得られない。5重量%を超えると艶消し外観となり、自動車に求められる外観が得られない。
【0069】
コーティング膜形成樹脂組成物
本発明のコーティング膜形成樹脂組成物は、上記成分(水酸基含有アクリル樹脂(A)、硬化剤(B)、必要に応じてポリシロキサン基含有樹脂(C)、4級アンモニウム基含有樹脂(D)、変性シリコーンオイル(E)および無機シリカ(F))を、通常用いられる手段によって混合することによって、調製することができる。上記コーティング膜形成樹脂組成物には、必要に応じて、顔料、表面調整剤(消泡剤、レベリング剤等)、顔料分散剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、静電助剤、熱安定剤、光安定剤、溶剤(水、有機溶剤)その他の添加剤を含有してもよい。
【0070】
本発明のコーティング膜形成樹脂組成物は、被塗物上に塗布した後、好ましくは70~170℃、より好ましくは70~160℃、さらに好ましくは70~150℃で硬化する。
【0071】
本発明のコーティング膜形成樹脂組成物の塗装及または塗工は、特段制限されるものではなく、通常用いられる塗装または塗工方法によって塗装または塗工することができる。
【実施例0072】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0073】
製造例1(水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂aの合成)
温度調節器、攪拌翼、還流管、窒素導入口を備えた2Lのセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)280gを仕込み、フラスコ内部を窒素雰囲気下にした後、温度を120℃に昇温して一定に保った。一方、スチレン(ST)80g、アクリル酸ノルマルブチル(nBA)108g、メタクリル酸ノルマルブチル(nBMA)37.2g、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(HPMA)164.4g、アクリル酸(AA)35.1g、およびカヤエステルO 12gとPM 24gの混合液を滴下ロートに入れて、3時間かけて滴下した。次いで、0.5時間反応を継続した後、後開始剤として、PM 12g、カヤエステルO 5.9gの混合液を0.5時間かけて滴下し、更に1時間反応を継続して固形分64%になるようにPMで希釈を行い、水酸基含有アクリル樹脂の樹脂aを得た。
【0074】
製造例2(水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂bの合成)
温度調節器、攪拌翼、還流管、窒素導入口を備えた2Lのセパラブルフラスコに、酢酸ブチル 225gを仕込み、フラスコ内部を窒素雰囲気下にした後、温度を120℃に昇温して一定に保った。一方、アクリル酸ノルマルブチル(nBA)7.3g、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)40.6g、メタクリル酸イソボルニル(IBXMA)125.2g、メタクリル酸メチル(MMA)75g、メタクリル酸(MAA)1.9g、およびカヤエステルO 7.5gと酢酸ブチル15gの混合液を滴下ロートに入れて、3時間かけて滴下した。次いで、0.5時間反応を継続した後、後開始剤として、酢酸ブチル7.5g、カヤエステルO 1.3gの混合液を0.5分間かけて滴下し、更に1時間反応を継続して固形分50%になるように酢酸ブチルで希釈を行い、水酸基含有アクリル樹脂の樹脂bを得た。
【0075】
(実施例1~4)
コーティング塗膜の作成
製造例1で合成した水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂aと、架橋剤としてIPDI(イソホロンジイソシアネート)イソシアヌレート構造を有するZ4470(Coventro AGから市販)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)イソシアヌレート構造を有するN3600(Coventoro AGから市販)とを両方またはいずれかを表1に記載した配合量で配合し、酢酸ブチルおよび3-エトキシプロピオン酸エチル(EEP)を用いて樹脂分を35質量%に希釈したコーティング組成物を、エアスプレーを用いて、乾燥膜厚が30μmになるように、別で作成した自動車クリアー塗膜(実施例1~2、実施例5~9および比較例1~5ではマックフローO-1820クリアー 日本ペイント社製クリアー塗膜(酸エポキシ熱硬化型塗膜)を塗装、実施例3ではスーパーラックO-150クリアー 日本ペイント社製クリアー塗膜(メラミン樹脂熱硬化型塗膜)を塗装、実施例4ではポリウレエクセルO-2100 日本ペイント社製クリアー塗膜(イソシアネート熱硬化型塗膜を塗装))上に塗装し、試験片は、温度20±5℃、相対湿度78%以下の塗装環境下で7分間放置した。表1のクリアーの「種類」の欄には、マックフローO-1820は「1820」と表示し、スーパーラックO-150は「SPO150」と表示し、ポリウレエクセルO-2100は「O2100」と表示した。
【0076】
次いで、熱風乾燥機を用いて120℃下で、30分間乾燥及び加熱硬化させて、基材と塗膜とを有する試験片を得た。得られた塗膜に関する配合を表1に示した。また、所定測定条件における動的ガラス転移温度(動的Tg)、所定測定条件における弾性率を以下に記載のように測定し、結果を表1のコーティング膜の特性の欄に示す。念のため、表1にはまた、コーティング膜の膜厚をコーティング膜の特性の欄に示す。更に、コーティング膜の評価として、接触角、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験を以下に記載の通り行い、結果を表1に示す。
【0077】
(コーティング膜の特性の測定方法)
[動的Tgの測定]
得られたコーティング組成物を、ポリプロピレン製試験板にエアスプレーにて、単膜の乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、120℃で30分間加熱硬化して塗膜を形成する。次に、塗膜を試験板から剥離し、5mm×20mmの大きさに切断して試験片とし、この試験片について強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック社の「バイブロン」)を使用して動的粘弾性測定を行い、昇温速度2℃/分、測定周波数8Hzの条件で、昇温時に発生する応力と振動歪との間に生じる位相差から-20℃損失正接tanδを求めた。塗膜の動的Tgは、損失正接tanδが最大値を示した時の温度とした。「損失正接tanδ」は、JIS-K7244-4:1999の引張振動-非共振法に準拠して測定される値である。
【0078】
[弾性率の測定方法]
得られたコーティング組成物を、ポリプロピレン製試験板にエアスプレーにて、単膜の乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、120℃で30分間加熱硬化して塗膜を形成する。次に、塗膜を試験板から剥離し、5mm×20mmの大きさに切断して試験片とし、この試験片について強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック社の「バイブロン」)を使用して動的粘弾性測定を行い、昇温速度2℃/分、測定周波数8Hzの条件で、80℃の弾性率E‘を求めた。
【0079】
(塗膜の評価の測定方法)
[接触角]
脱イオン水(DIW)を十分に含ませたネル(布)を用いて塗面を加重500g~1kgで200往復ラビングした後、脱イオン水(DIW)で洗い、エアーブローで乾燥させて、表面の劣化を促進させた。この塗面に蒸留水1μLを滴下し、3000ms後の接触角を測定、5回の測定平均を接触角の測定結果とした。
【0080】
[水垢試験]
塗膜の上に、硬水(商品名:エビアン)50μLの液滴を塗板に作成した。これを熱風乾燥機で80℃下、10分間乾燥させ、水垢を塗膜に固着させた。塗膜の水垢を水道水で濡らしたクロスを用い10往復洗浄した後の塗膜に残った水垢を目視で5階評価した。
1:洗浄前後で固着量に変化がほとんどない
2:洗浄により固着物が50~80%残る(輪郭のみならず、水垢内部の固着残りも見られる。)
3:洗浄により固着物が20~50%残る
4:洗浄により固着物が0~20%残る(一部輪郭が残る程度)
5:洗浄により水垢固着前の状態に戻る
【0081】
[汚れ試験]
屋外に塗板を1か月間架設(隔週で、流水下、カースポンジで塗面を10往復洗浄)後に汚れ具合を目視評価。5点を最良、現行クリアーを1点として、各塗面を比較評価した。
【0082】
[傷つき試験]
塗板を屋外に1か月間架設(傷つきの原因となる砂などの粒子汚れを付着)した後に、塗板を自動車に取り付け、洗車機で高圧水洗浄(ENEOSの水洗い洗車を実施。高圧水洗を一往復行った後、ブラシを用いた洗浄を1往復、最後にエアーブローで水気を飛ばす。)を行う。残った水気を雑巾で拭き取り、塗板の傷つき具合を目視で評価。5点を最良、現行クリアーを3点として、各塗面を比較評価した。
【0083】
(実施例5~9)
コーティング塗膜の作成
製造例1で合成した水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂aと、架橋剤としてIPDI(イソホロンジイソシアネート)イソシアヌレート構造を有するZ4470(Coventro AGから市販)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)イソシアヌレート構造を有するN3600(Coventoro AGから市販)とを両方またはいずれかを表1に記載した配合量で配合し、酢酸ブチルおよび3-エトキシプロピオン酸エチル(EEP)を用いて樹脂分を35質量%に希釈したコーティング膜形成性組成物中に、表1に記載の式Iのポリシロキサン基含有樹脂(C)、4級アンモニウム基含有樹脂(D)、シリコーンオイル(E)および無機シリカ(F)をコーティング膜形成性組成物中に添加した後、エアスプレーを用いて、乾燥膜厚が30μmになるように、別で作成した自動車クリアー塗膜上に塗装し、試験片は、温度20±5℃、相対湿度78%以下の塗装環境下で7分間放置した。
【0084】
尚、表1に記載の式Iのポリシロキサン基含有樹脂(C)は日油株式会社から市販のFS-710-1であり、4級アンモニウム基含有樹脂(D)は大成ファインケミカル株式会社から市販の1SX-1090であり、シリコーンオイル(E)は信越化学工業株式会社から市販のX―22-170BXであり、無機シリカ(F)は日産化学株式会社から市販のMEK-EC-2130Yであった。
【0085】
次いで、熱風乾燥機を用いて120℃下で、30分間乾燥及び加熱硬化させて、基材と塗膜とを有する試験片を得た。得られた塗膜に関する配合、動的ガラス転移温度(動的Tg)80℃における弾性率を以下に記載のように測定し、結果を表1に示す。また、塗膜の評価として、接触角、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験を実施例1~4に記載の通り行い、結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
比較例1は、コーティング膜形成性組成物によるコーティング膜を形成しない例である。
【0087】
(比較例2~5)
表1に記載のように、比較例2では、水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂(a)を61重量部とHDIを31重量部、IPDIを8重量部添加した。比較例2では、動的ガラス転移温度が85℃になり、請求項1の下限値以下の例である。比較例3では製造例2で合成した水酸基含有アクリル樹脂(A)の樹脂(b)を80重量部とHDIを20重量部添加した。比較例3では弾性率が2.0×108であり、請求項1の下限値以下の例である。比較例4は、動的ガラス転移温度および弾性率の両方とも低い例として、「マックフローO-1820クリアー」(商品名)を塗装した。
【0088】
次いで、熱風乾燥機を用いて比較例2は80℃、比較例3~4は120℃下で、30分間乾燥及び加熱硬化させて、基材と塗膜とを有する試験片を得た。得られた塗膜に関する配合、動的ガラス転移温度(動的Tg)80℃における弾性率を以下に記載のように測定し、結果を表1に示す。また、塗膜の評価として、接触角、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験を実施例1~4に記載の通り行い、結果を表1に示す。
【0089】
比較例5は、コーティング膜が、KeePer技研株式会社から市販のダイヤモンドキーパーを施工マニュアルに従って施工したものである。これはシラノール系のクリアー塗料上にオーバー塗装したものである。塗膜の評価として、接触角、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験を実施例1~4に記載の通り行い、結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
実施例1~9では、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験と接触角の全てにおいて、優れた特性を示している。特に、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で優れた特性を示している。更に、実施例5~9では、実施例の中でも、接触角、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で優れた結果が得られている。比較例1は、本発明のコーティング膜を形成しない例(即ち、クリアー塗膜のみの例)であり、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で悪い値が出ている。比較例2では、動的ガラス転移温度が85℃と低く、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で悪い値が出ている。比較例3では、弾性率が2.0×108と低く、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で悪い値が出ている。比較例4では、動的ガラス転移温度および弾性率の両方が低い例で、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で悪い値が出ている。比較例5は、市販のコーティング剤の例であり、接触角は高い値が出ているものの、水垢試験、汚れ試験および傷つき試験で悪い値が出ている。
【0092】
[1]
メラミン樹脂熱硬化型塗料、イソシアネート熱硬化型塗料、酸エポキシ熱硬化型塗料のいずれかからなる自動車クリアー塗膜上に形成されるコーティング膜であって、
前記コーティング膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の動的ガラス転移温度100~300℃を有し、かつ
昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率1.0×10
9~1.0×10
13dyn/cm
2を有する、
ことを特徴とする自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[2]
前記コーティング膜が、水酸基含有アクリル樹脂(A)および硬化剤(B)を含有するコーティング膜形成性組成物から形成される、[1]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[3]
前記コーティング膜形成組成物に、更に以下に記載の成分のいずれか:
ポリシロキサン基含有樹脂(C)、
4級アンモニウム基含有樹脂(D)、
変性シリコーンオイル(E)または
無機シリカ(F)
またはそれらの組合せを含有する、[1]または[2]記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[4]
前記ポリシロキサン基含有樹脂(C)が、下記式I:
【化8】
[式中、Meはメチル基を示し、R
12は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
13は酸素原子が介在することもある炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0または1以上の整数を表す。]
で表されるポリシロキサン基を有するアクリル樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[5]
前記4級アンモニウム基含有樹脂(D)が、式IV:
【化9】
[式中、R
2は酸素を介することもある炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、同一または異なって、水素または置換もしくは非置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。]を有するアクリル樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[6]
前記変性シリコーンオイル(E)が、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエステル変性シリコーンオイル及びポリアクリル変性シリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[5]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[7]
前記無機シリカ(F)が、平均粒子径 5nm以上60nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[8]
前記自動車クリアー塗膜が、昇温速度2℃/分、周波数8Hzでの条件の80℃における弾性率が1.0×10
9dyn/cm
2以下であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング塗膜。
[9]
前記自動車クリアー塗膜、コーティング膜の順に積層され、前記自動車クリアー塗膜の膜厚が15μm~50μmであり、前記コーティング塗膜の膜厚が0.3μm~25μmである、[1]~[8]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[10]
前記コーティング膜が、撥水性である、[1]~[9]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[11]
前記コーティング膜が、親水性である、[1]~[10]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の自動車クリアー塗膜上のコーティング膜を有する自動車。