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特開2024-92652風味改善用組成物、食品組成物及びその製造方法、並びに風味改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092652
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】風味改善用組成物、食品組成物及びその製造方法、並びに風味改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240701BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20240701BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20240701BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240701BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20240701BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240701BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240701BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20240701BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/21
A23L27/30 A
A23J3/16
A23J3/00 502
A23L11/00 Z
A23L13/00 A
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208743
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】小林 鈴花
(72)【発明者】
【氏名】神長 佑貴
【テーマコード(参考)】
4B020
4B036
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B020LB19
4B020LB24
4B020LC02
4B020LG04
4B020LK05
4B036LC01
4B036LF13
4B036LH10
4B036LH14
4B036LH16
4B036LH25
4B036LH26
4B042AC03
4B042AD20
4B042AD36
4B042AK08
4B042AK10
4B042AK13
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF03
4B047LF04
4B047LG15
4B047LG18
4B047LG22
4B047LG23
4B047LG24
4B047LG40
(57)【要約】
【課題】豆類タンパク原料を含む食品の風味を改善することを課題とする。
【解決手段】β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上を含む、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上を含む、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物。
【請求項2】
豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料であり、そして、風味改善が、大豆風味の低減である、請求項1に記載の風味改善用組成物。
【請求項3】
豆類タンパク原料を含む食品が、豆類タンパク原料を含む代替肉食品である、請求項1又は2に記載の風味改善用組成物。
【請求項4】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の添加量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で5.0~99質量%である、請求項1又は2に記載の風味改善用組成物。
【請求項5】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と
豆類タンパク原料と
を含む食品組成物。
【請求項6】
豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料である、請求項5に記載の食品組成物。
【請求項7】
代替肉食品である、請求項5又は6に記載の食品組成物。
【請求項8】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の含量が、食品組成物全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、食品組成物全量基準で5~99質量%である、
請求項5又は6に記載の食品組成物。
【請求項9】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と
豆類タンパク原料又は豆類タンパク原料を含む食品と
を接触させることを含む、豆類タンパク原料を含む食品組成物の製造方法。
【請求項10】
前記食品組成物が、代替肉食品である、請求項9に記載の食品組成物の製造方法。
【請求項11】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と
豆類タンパク原料又は豆類タンパク原料を含む食品と
を接触させることを含む、豆類タンパク原料を含む食品組成物における風味改善方法。
【請求項12】
前記食品組成物が、代替肉食品である、請求項11に記載の風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物及び食品組成物に関する。本発明は、豆類タンパク原料を含む食品組成物の製造方法及び豆類タンパク原料を含む食品組成物における風味改善方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、菜食主義者(ベジタリアン)又は完全菜食主義者(ヴィーガン)等の健康志向又は環境問題への意識の高まりにより、大豆、エンドウ豆等のプラントベースの代替肉(肉様食品)の市場が拡大している。より実際の肉に近い食感又は風味を引き出すための代替肉(肉様食品)技術開発も進んでいる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-009617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、代替肉のベースとして使用される豆類タンパク原料は、豆類由来の臭いが大きな課題として挙げられている。また、豆類素材を原料とした肉様食品(最終食品)全般についても同様の課題がある。
本発明の目的は、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物及びこれを含む豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物について、鋭意研究した。その結果、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上を豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品に添加することで、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品の風味を改善できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上を含む、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善用組成物、
[2]豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料であり、そして、風味改善が、大豆風味の低減である、[1]に記載の風味改善用組成物、
[3]豆類タンパク原料を含む食品が、豆類タンパク原料を含む代替肉食品である、[1]又は[2]に記載の風味改善用組成物、
[4]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の添加量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で5.0~99質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の風味改善用組成物、
[5]β-アラニン又は還元糖が、遊離のβ-アラニン又は遊離の還元糖である、[1]~[4]のいずれかに記載の風味改善用組成物、
[6]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の添加量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.1以上5質量%未満、好ましくは、0.1以上3質量%未満、より好ましくは0.1~2.5質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の風味改善用組成物、並びに
[7]大豆タンパク原料が、組織化した状態の大豆タンパク原料である、[1]~[6]のいずれかに記載の風味改善用組成物、
に関する。
【0006】
本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と豆類タンパク原料と
を含む食品組成物、
[2]豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料である、[1]に記載の食品組成物、
[3]代替肉食品である、[1]又は[2]に記載の食品組成物、
[4]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の含量が、食品組成物全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、食品組成物全量基準で5~99質量%である、
[1]~[3]のいずれかに記載の食品組成物、
[5]β-アラニン又は還元糖が、遊離のβ-アラニン又は遊離の還元糖である、[1]~[4]のいずれかに記載の食品組成物、
[6]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の含量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.1以上5質量%未満、好ましくは、0.1以上3質量%未満、より好ましくは0.1~2.5質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の食品組成物、並びに
[7]大豆タンパク原料が、組織化した状態の大豆タンパク原料である、[1]~[6]のいずれかに記載の食品組成物、
にも関する。
【0007】
本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と豆類タンパク原料又は豆類タンパク原料を含む食品とを接触させることを含む、豆類タンパク原料を含む食品組成物の製造方法、
[2]前記食品組成物が、代替肉食品である、[1]に記載の食品組成物の製造方法、
[3]豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料である、[1]又は[2]に記載の食品組成物の製造方法、
[4]前記食品組成物において、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の含量が、豆類タンパク原料を含む食品組成物全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、豆類タンパク原料を含む食品組成物全量基準で5.0~99質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の食品組成物の製造方法、
[5]β-アラニン又は還元糖が、遊離のβ-アラニン又は遊離の還元糖である、[1]~[4]のいずれかに記載の食品組成物の製造方法、並びに
[6]以下の工程のいずれか1つ以上をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の食品組成物の製造方法、
・所定の量の水を原料に加える工程、
・混合した原料を所定の形状に成形する工程、
・混合した原料を加熱処理、例えば、焼成、油ちょう、蒸し、茹でに供する工程、
・加熱処理及び/又は成形したものを包装容器に充填する工程、及び、
・成形したものを冷蔵又は冷凍する工程、
にも関する。
【0008】
本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と
豆類タンパク原料又は豆類タンパク原料を含む食品と
を接触させることを含む、豆類タンパク原料を含む食品組成物における風味改善方法、
[2]前記食品組成物が、代替肉食品である[1]に記載の風味改善方法、
[3]豆類タンパク原料が、大豆タンパク原料であり、そして、風味改善が、大豆風味の低減である、[1]又は[2]に記載の風味改善方法、
[4]前記食品組成物において、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の含量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.01~20質量%であり、そして
豆類タンパク原料の含量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で5.0~99質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の風味改善方法、
[5]β-アラニン又は還元糖が、遊離のβ-アラニン又は遊離の還元糖である、[1]~[4]のいずれかに記載の風味改善方法、
[6]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の添加量が、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で0.1以上5質量%未満、好ましくは、0.1以上3質量%未満、より好ましくは0.1~2.5質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の風味改善方法、並びに
[7]大豆タンパク原料が、組織化した状態の大豆タンパク原料である、[1]~[6]のいずれかに記載の風味改善方法、
にも関する。
【0009】
本発明は、以下の態様も含む。
[A]β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上の、豆類タンパク原料を含む食品における風味改善のための使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の風味改善用組成物によれば、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品の風味を改善することができる。本発明の風味改善用組成物によれば、豆類タンパク原料の風味が改善された食品、特に大豆タンパク原料の大豆風味が低減された食品を提供することができる。
また、ベジタリアン(ヴィーガン)食で不足しがちな栄養素として、クレアチンやカルノシン等の食肉のみに由来する成分が挙げられている。β-アラニンはカルノシン前駆体として用いられる素材であり、プラントベースミートへのβ-アラニンの添加は、栄養学的に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。なお本明細書においては、特に断らない限り、数値A及び数値Bについて「A~B」という表記は「A以上B以下」と等価であるものとする。すなわち、「A~B」という表記には、両端の数値A及び数値Bが含まれる。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
本明細書においては、発明の態様(aspect)に分けて説明をしているが、それぞれの態様に記載の事項、語句の定義、及び実施形態は、他の態様においても適用可能である。
【0012】
1.風味改善用組成物
(β-アラニン)
β-アラニンは、βアミノ酸の1つである。β-アラニンは、以下の構造を有する化合物である。
【化1】
β-アラニンは、3-アミノプロパン酸とも呼ばれ、CAS登録番号は107-95-9である。
【0013】
β-アラニンの塩としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、ナトリウム塩、又はカリウム塩等が挙げられる。
β-アラニン又はその塩としては、遊離のβ-アラニン又はその塩を用いる事が好ましい。遊離のβ-アラニン又はその塩は、例えば、合成、微生物の培養、又は抽出により調製することができる。遊離のβ-アラニン又はその塩とは、ペプチド中、例えば、カルノシン、アンセリン、及びパントテン酸中に取り込まれておらず、単独の状態で存在しているβ-アラニン又はその塩である。
【0014】
(還元糖)
還元糖とは、分子内に遊離性のアルデヒド基又はケトン基を有し、還元性を示す糖化合物を意味する。還元糖又はその塩としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、単糖類、二糖類、多糖類、又はこれらの塩が挙げられる。還元糖又はその塩としては、単糖類又はその塩が好ましい。単糖類又はその塩としては、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、リボース、アラビノース、及びこれらの塩が挙げられる。二糖類又はその塩としては、例えば、マルトース、スクロース、ラクトース、及びこれらの塩が挙げられる。
還元糖又はその塩としては、遊離の還元糖又はその塩が好ましい。遊離の還元糖又はその塩は、例えば、合成、微生物の培養、又は抽出により調製することができる。遊離の還元糖又はその塩とは、他の分子中に取り込まれておらず、単独の状態で存在している還元糖又はその塩である。
【0015】
β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上(以下、単にβ-アラニン等と称することがある)の、特に、遊離のβ-アラニン若しくはその塩、又は遊離の還元糖若しくはその塩の、風味改善用組成物全量基準における含量は、1~100質量%、10~100質量%、30~100質量%、50~100質量%、75~100質量%、90~100質量%、又は99~100質量%であることができる。また、上記含量では、上限を90、80、70、60、50、40、又は30質量%とすることもできる。
上記含量は、風味改善用組成物において、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩の2つ以上が含まれる場合、それら2つ以上の合計の含量であるが、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩の各々を上記含量とすることもできる。
【0016】
本発明の風味改善用組成物は、β-アラニン等、特に遊離のβ-アラニン等を含んでもよく、β-アラニン等、特に遊離のβ-アラニン等から成るものでもよい。本発明の風味改善用組成物は、β-アラニン又はその塩、特に遊離のβ-アラニン又はその塩のみを含んでもよく、β-アラニン又はその塩及び還元糖又はその塩の両方、特に遊離のβ-アラニン又はその塩及び遊離の還元糖又はその塩の両方を含むこともできる。
【0017】
(豆類タンパク原料を含む食品への添加量)
β-アラニン等は、豆類タンパク原料を含む食品全量基準におけるβ-アラニン等の割合が、0.01~20質量%となるように添加することが好ましく、0.1~10質量%となるように添加することがより好ましく、0.1~5.0質量%(又は0.1質量%以上5.0質量%未満)となるように添加することがさらに好ましく、0.1~3.0質量%(又は0.1以上3.0質量%未満)となるように添加することがさらに好ましく、0.1~2.5質量%となるように添加することが最も好ましい。β-アラニン等を0.1~2.5質量%となるように添加することで、豆類タンパク原料を含む食品の風味を維持しながら、豆類風味の低減をすることができる。
また、添加量の下限を0.3又は0.5質量%とすることもできる。添加量の上限を1.5又は2.0質量%とすることもできる。
上記添加量は、風味改善用組成物において、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩の2つ以上が含まれる場合、それら2つ以上の合計の添加量であるが、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩の各々を上記含量とすることもできる。
【0018】
(剤形)
本発明の風味改善用組成物は、本発明の効果が得られる限り、任意の剤形であることができる。以下に限定されるものではないが、本発明の風味改善用組成物の剤形は、固形状、液状、顆粒状、粉末状、タブレット状、カプセル状、又はゲル状であることができる。また、本発明の風味改善用組成物は、結晶状粉末であることができる。
【0019】
(豆類タンパク原料を含む食品)
豆類タンパク原料とは、豆類由来のタンパク質を含む食品原料を意味する。豆類としては、タンパク質を含む豆であれば、限定無く使用することができる。豆類の種類としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アズキ、レンズマメ、ヒヨコマメ、ソラマメ、エンドウマメ、及び大豆などが挙げられる。豆類は、好ましくはエンドウマメ又は大豆であり、より好ましくは大豆である。
【0020】
(大豆タンパク原料を含む食品)
大豆タンパク原料とは、大豆由来のタンパク質を含む食品原料を意味する。大豆の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、黄大豆、黒大豆、赤大豆、青大豆、白大豆、大粒種、中粒種、及び小粒種の各種大豆が挙げられる。全脂大豆及び脱脂大豆のいずれでもよい。脱脂大豆には、粒状、フレーク状、又は粉状でタンパク質含有量40~90%のものが市販されている。脱脂大豆には、大豆タンパク粉及び分離大豆タンパクなどがある。分離大豆タンパクは、タンパク質のみを分離したものであり、約90%(例えば、80~95%)の大豆タンパク質を含む、純度の高い大豆タンパク原料である。
大豆タンパク原料は、本発明の効果が得られる限り、任意の剤形であることができる。以下に限定されるものではないが、大豆タンパク原料の形態は、固形状、液状、顆粒状、粉末状、又はゲル状であることができる。大豆タンパク原料の剤形は、組織化した状態(繊維状又はスポンジ状)であることができる。組織化した状態(繊維状又はスポンジ状)の大豆タンパク原料は、例えば、大豆タンパク原料に加水して加圧加熱することにより製造することができる。
【0021】
(組織化)
本発明において、大豆タンパク原料、及び大豆タンパク原料を含む食品は、組織化した状態であることができる。「組織化」とは、繊維状又はスポンジ状であること、換言すれば、弾力及び多孔性を有する状態であることを意味する。
大豆タンパク原料又はこれを含む食品の組織化は、公知の機器、例えば、押出機(エクストルーダー)により行うことができる。押出機では、原料供給口内に大豆タンパク原料及びその他の原料を投入して、スクリューによりバレルに大豆タンパク原料及びその他の原料を送る。このとき、大豆タンパク原料及びその他の原料を送るのと同時に、原料が混合及び圧縮される。また、大豆タンパク原料及びその他の原料を送るときに、同時に加熱を行うことができる。加熱温度は、特に限定されず、例えば、100℃~250℃、110℃~220℃、120℃~200℃、又は140℃~180℃である。加熱時の圧力は、例えば、30~5000kPa、40~4000kPa、50~3000kPa、又は60~2000kPaである。加熱及び加圧には、圧力鍋を用いることもできる。
【0022】
大豆タンパク原料又はこれを含む食品の組織化では、大豆タンパク原料に加水を行うことが好ましい。加水の時点は特に限定されず、例えば、大豆タンパク原料及びその他の原料を投入する前、投入と同時、そして投入の後、いずれの時点で行ってもよい。また、加水の量も、適宜決定することができる。
【0023】
大豆タンパク原料とβ-アラニン等との混合は、任意のタイミングで行うことができる。例えば、組織化を行う前に大豆タンパク原料とβ-アラニン等とを混合し、その後組織化を行ってもよく、組織化の途中、例えばエクストルーダーのスクリューによりバレルに大豆タンパク原料及びその他の原料を送っているときに、バレル内にβ-アラニン等を添加してもよく、大豆タンパク原料を組織化した後で、組織化した大豆タンパク原料にβ-アラニン等を添加して混合してもよい。
押出機に投入する大豆タンパク原料は、既に組織化をした大豆タンパク原料であってもよい。この場合、押出機における任意の工程において、β-アラニン等を添加することができる。
【0024】
本発明において、豆類タンパク原料を含む食品は、特に制限されるものではなく、液状、固形状、又はゲル状であることができる。豆類タンパク原料を含む食品は、例えば、豆乳、クッキー、ドーナツ、豆腐、パン、調味料、及び代替肉食品が挙げられる。
本発明において、豆類タンパク原料を含む食品は、代替肉食品であることが好ましい。本明細書において、代替肉食品とは、畜肉様の風味及び食感を有する、植物由来のタンパク原料を主原料とする畜肉様食品、及びこの畜肉様食品を含む食品をいう。代替肉食品、及びこの代替肉食品を含む食品としては、特に制限されるものではなく、ハンバーグ、ミートボール、シューマイ、ギョーザタネ、ソーセージ、フライドチキン、メンチカツ、ステーキ、ピザ、パスタ、コロッケ、唐揚げ、そぼろ、又はレトルト食品を挙げることができる。
【0025】
本発明における豆類タンパク原料を含む食品は、特に制限されるものではなく、常温保存食品、チルド食品又は冷凍食品であることができる。本発明において、大豆タンパク原料を含む食品は、その目的とする形態に応じて、加熱処理、例えば、焼成、油ちょう、蒸し、茹でにすでに供したもの、又は加熱処理、例えば、焼成、油ちょう、蒸し、茹でに供するためのものであることができる。
【0026】
本発明における豆類タンパク原料を含む食品は、畜肉を含有してもよいが、畜肉を含有しなくともよい。本明細書において「畜肉」には、あらゆる獣の肉、例えば、牛肉、豚肉、羊肉、山羊肉、馬肉、鹿肉、イノシシ肉、及びウサギ肉が含まれる。
本発明において、豆類タンパク原料を含む食品は、畜肉を含有しない、ベジタリアン向け食品、ヴィーガン向け食品、又はハラールフードであることができる。
本発明の豆類タンパク原料を含む食品は、必要に応じて、タンパク質を含む他の原料、例えば、乳タンパク原料及び卵タンパク原料を含む事ができる。
乳タンパク原料は、牛乳、低脂肪乳、クリーム、又は脱脂粉乳であることができる。乳タンパク原料の含量は、大豆タンパク原料を含む食品全量基準において、例えば、1~20質量%、又は3~10質量%である。
卵タンパク原料は、卵白、卵黄、又は全卵であることができる。卵タンパク原料の含量は、大豆タンパク原料を含む食品全量基準において、例えば、5~30質量%、又は10~20質量%である。
【0027】
豆類タンパク原料を含む食品中の、豆類タンパク原料の含量は、豆類タンパク原料を含む食品全量基準で、1.0~99質量%、5.0~99質量%、7.5~99質量%、10~99質量%、15~99質量%、25~99質量%、30~99質量%、50~99質量%、又は75~99質量%であることができる。
また、含量の上限を90、70、50、30、又は10質量%とすることもできる。
【0028】
豆類タンパク原料を含む食品中の、豆類タンパク原料由来のタンパク質の量は、豆類タンパク原料を含む食品中のβ-アラニン等を1とした場合、1.0~99、2.5~95、5.0~90、7.5~80、10~75、又は20~60であることができる。
【0029】
(風味改善)
本発明の風味改善用組成物を、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品に添加することによって、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品の風味を改善することができる。風味としては、特に、大豆風味を低減することができる。風味を改善したか否か、及び大豆風味を低減したか否かは、β-アラニン等を添加した食品とβ-アラニン等を添加していない食品とを官能評価等で比較することにより評価することができる。
「風味改善」及び「大豆風味の低減」には、これらのような用途を表示することが含まれる。前記の「表示」には、消費者に前記の用途を知らしめる行為の全てが含まれる。表示される対象は、包装、容器、カタログ、パンフレット、及びホームページなどその媒体を問わない。
【0030】
2.食品組成物
本発明の食品組成物は、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と、豆類タンパク原料とを含む。
【0031】
(任意添加物)
本発明の食品組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加物及び素材、例えば、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類を単独で又は2種以上組み合わせて含むことができる。
【0032】
本発明の食品組成物は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、金属缶、金属箔又はプラスチックフィルムと複合された紙容器、アルミパウチ等のパウチ、プラスチック容器、ビニール容器、及び瓶等の包装容器に充填して提供することができる。
【0033】
3.食品組成物の製造方法及び食品組成物における風味改善方法
本発明の食品組成物の製造方法及び食品組成物における風味改善方法(以下、併せて本発明の方法と呼ぶことがある)は、β-アラニン又はその塩、及び、還元糖又はその塩から成る群から選択される1つ以上と豆類タンパク原料又は豆類タンパク原料を含む食品とを接触させること(以下、接触工程と称することがある。)を含む。
【0034】
「接触」させることとしては、β-アラニン等と豆類タンパク原料とを接触できる任意の方法を採用することができる。例えば、β-アラニン等と豆類タンパク原料とを同じ容器に投入し、混合することが挙げられる。投入の順序は特に限定されず、事前にβ-アラニン等と他の原料とのプレミックスを調製してから容器に投入してもよい。
本発明の方法では、豆類タンパク原料又は大豆タンパク原料を含む食品が、豆類タンパク原料を含む組織化原料に加水して加圧加熱することにより製造されるタンパク組織化物であることができる。β-アラニン等を投入するタイミングも特に限定されず、加水の前後又は加圧加熱の前後のいずれのタイミングでβ-アラニン等を投入してもよい。
【0035】
本発明の方法は、接触工程に加えて、必要に応じて、以下の工程を任意の順序で含むことができる。
・所定の量の水を原料に加える工程、
・混合した原料を所定の形状に成形する工程、
・混合した原料を加熱処理、例えば、焼成、油ちょう、蒸し、茹でに供する工程、
・加熱処理及び/又は成形したものを包装容器に充填する工程、及び、
・成形したものを冷蔵又は冷凍する工程。
【実施例0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に説明のない場合は、「%」は質量%を示す。
【0037】
《実施例1》
本実施例では、β-アラニン、キシロース、及びグルコースの大豆タンパク原料を含む食品に対する風味改善効果について、加熱した大豆生地を用いて検証した。手順は以下の通りである。なお、実施例で用いたβ-アラニン又は還元糖は、β-アラニン又は還元糖の含量が約100%であり、且つ結晶状である。また、実施例で用いたβ-アラニン又は還元糖は、遊離のβ-アラニン又は遊離の還元糖である。
【0038】
1.手順
(1)容器に表の組成で材料を入れ、3分間混錬した。その際、β-アラニン、キシロース、グルコースは水に溶解してから添加した。
(2)圧力鍋に水を入れ、ステンレス製のすのこを置いた。その上に、大豆生地を4gずつクッキー型(丸、直径3.2cm)に詰めた。その大豆生地を型の中央まで押し上げたものを置いた。
(3)大豆生地を圧力鍋で3分間加熱加圧調理した。
(4)圧力鍋に布巾をかけ、蓋のふちに水をかけて急冷した。この際、ピンが下がってから1分間流水をかけ続け、完全に内圧を常圧に戻してから蓋を開けた。
(5)クッキー型から組成物(加熱した大豆生地)を取り出し、120℃のオーブンで水分量が15%以下になるまで乾燥させた。
(6)組成物を水で戻し、官能評価に供した。なおこの組成物(大豆生地)は、組織化した状態の大豆タンパク原料に該当する。なお、下表の「BA0.5%」は、原料の合計値に対するβ-アラニン等の割合である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
※表中の略称は以下の通りである。
Cont.:コントロール
BA:β-アラニン
Xyl:キシロース
Glc:グルコース
【0044】
2.結果
官能評価では、以下の2項目を設けている。
・コントロール(Cont.)を0とし、強く感じた場合を+、弱く感じた場合を-として-2~+2の範囲で大豆由来の風味、苦味、甘味、収斂味を評価する項目
・大豆肉の味として非常に好ましいと感じた場合は◎、好ましいと感じた場合は○、好ましくないと感じた場合は×、どちらとも言えない場合は△と評価する項目。表中の数値は、○及び◎の割合を示す。
【0045】
【表6】
【0046】
BAを0.5%~10.0%の間で添加量を振った。すべてのBA添加区で大豆風味の低減効果が見られた。BA1.0~10.0%添加では、効果にあまり差が見られなかった。大豆肉として好ましいかの項目では、BA0.5%~1.5%ではパネル全員が好ましいとの評価だった。BA3.0%以上ではCont.と同等か、それ以下の評価となった。
【0047】
【表7】
【0048】
還元糖としては、五炭糖のキシロース(Xyl)と六炭糖のグルコース(Glc)を選択した。官能評価の結果、Xyl、Glcの両方において、大豆由来の風味に低減がみられた。その効果は、Xylで添加量依存的であったが、Glcでは添加量と大豆風味低減効果の間に相関は見られなかった。また、Xylでは添加量が増えるほど大豆肉として好ましいかの評価が下がったが、Glcではすべての添加区でパネル全員が大豆肉として好ましいとの評価をつけた。これについては、メイラード反応の結果生じた独特な風味により大豆由来の風味がマスキングされているのではないかと考えている。すなわち、よりメイラード反応の起こりやすい五炭糖Xylでは、添加量が増えるほど独特な風味が強くなり、結果として大豆風味が低減するが大豆肉としての好ましさに影響を及ぼしている可能性があると考えている。
【0049】
【表8】
【0050】
BA+Xyl、BA+Glcの両方において、大豆由来の風味が低減したが、添加量と大豆由来の風味低減効果に相関はみられなかった。また、大豆肉として好ましいかの評価も、すべての添加区でコントロールよりも好ましいとの評価だったが、評価の高さは添加量に依存的ではなかった。
【0051】
《実施例2》
本実施例では、β-アラニン、キシロース、及びグルコースの大豆タンパク原料を含む食品に対する風味改善効果について、大豆タンパク原料を含む食品(大豆ハンバーグ)を用いて検証した。手順は以下の通りである。
【0052】
1.手順
(1)玉ねぎ(中)を2cm角に切り、チョッパーでみじん切りにした。
(2)ボウルに「まめたん(昭和産業、粒状大豆たん白)」と3倍量の水を入れ、3分後水気を切った。なお、この「まめたん」は、大豆タンパク原料を含む組織化原料に加水して加圧加熱することにより製造されるタンパク組織化物であり、100g中に大豆タンパク質を47.5g含む。
(3)ボウルに以下の分量で材料を加え、ゴムベラで3分間混ぜた。その際、β-アラニン、キシロース、グルコースは卵液に溶解してから添加した。
(4)大さじ1/2ずつ生地をとり、形を整えて皿に並べた。
(5)常温のフライパンにサラダ油小さじ1を入れ、キッチンペーパーでなじませた。
(6)フライパンに、(4)で調製した形を整えた生地を並べ、中火(火力5)で3分焼いた。生地を一度火からおろし、裏返して蓋をし、中火(火力5)で2分焼いた。
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
※表中の略称は以下の通りである。
Cont.:コントロール
BA:β-アラニン
Xyl:キシロース
Glc:グルコース
【0055】
2.結果
官能評価では、以下の2項目を設けている。
・コントロール(Cont.)を0とし、強く感じた場合を+、弱く感じた場合を-として-2~+2の範囲で大豆由来の風味、苦味、甘味、収斂味を評価する項目
・大豆肉の味として非常に好ましいと感じた場合は◎、好ましいと感じた場合は○、好ましくないと感じた場合は×、どちらとも言えない場合は△と評価する項目。表中の数値は、○及び◎の割合を示す。
【0056】
大豆ハンバーグに対するBAと還元糖の添加による効果を評価するにあたり、まずBAの添加量の検討を行った。
【0057】
【表11】
【0058】
BAをそれぞれ1.0%、2.0%添加した大豆ハンバーグの官能評価の結果、どちらの試験区でも大豆風味低減効果を確認した。外観は、BAを2.0%添加した場合の方がBAを2.0%添加した場合よりも焦げ目が濃かった。還元糖と併用した時、BA単体よりもさらに強く焦げ目がつくことが予想された。
【0059】
【表12】
【0060】
続いて、還元糖の添加量を検討した。
BA1.0%に加えて、Xylを0.2%、0.5%、又は1.0%をそれぞれ添加した結果と、Glcを1.0%、1.5%、又は2.0%をそれぞれ添加した結果を表12に示す。
Xylの添加区ではBA1.0%+Xyl1.0%で最も大豆風味の低減効果が見られ、Glcの添加区ではBA1.0%+Glc1.5%とBA1.0%+Glc2.0%で最も大豆風味の低減効果が見られた。大豆ハンバーグとして好ましいかとの項目に関しては、すべての還元糖添加区でパネル全員が好ましいとの評価をした。また、外観はCont.よりも還元糖添加区で焦げ目が濃かったが、還元糖添加区間では焦げ目の濃さに大きな違いはなかった。
【0061】
【表13】
【0062】
BA単体、還元糖単体、BA+還元糖の添加効果について評価した結果を表13に示す。
いずれの結果も、BA単体で若干の大豆風味低減効果が見られた。また、還元糖単体ではBA単体よりこの効果が大きく、BA+還元糖は還元糖単体とほぼ同等であった。また、大豆ハンバーグとして好ましいかとの項目に関しては、いずれの結果も、BA単体、還元糖単体、BA+還元糖の添加区でパネル全員が好ましいとの評価をした。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の風味改善用組成物によれば、豆類タンパク原料を含む食品、特に大豆タンパク原料を含む食品の風味を改善することができる。本発明の風味改善用組成物によれば、豆類タンパク原料の風味が改善された食品、特に大豆タンパク原料の大豆風味が低減された食品を提供することができる。