(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092681
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】鋼材の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/74 20060101AFI20240701BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20240701BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20240701BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20240701BHJP
F27B 9/30 20060101ALI20240701BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20240701BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C21D1/74 U
C21D9/56 102
F27B9/02
F27B9/04
F27B9/30
F27D7/06 B
F27D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208787
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】若月 健
【テーマコード(参考)】
4K043
4K050
4K063
【Fターム(参考)】
4K043AA02
4K043BA06
4K043DA00
4K043EA03
4K043FA07
4K043FA08
4K043FA09
4K043GA00
4K043GA03
4K043GA07
4K050AA02
4K050BA02
4K050CA10
4K050CA13
4K050CC07
4K050CD14
4K050CG04
4K050EA08
4K063AA05
4K063AA13
4K063AA15
4K063BA02
4K063CA03
4K063DA07
4K063DA23
4K063DA32
4K063EA06
(57)【要約】
【課題】水素を含む雰囲気下で加熱処理された鋼材の水素脆性を防止もしくは抑制しつつ、加熱処理から冷却までの一連の熱処理を生産性高く行うことができる鋼材の熱処理方法を提供する。
【解決手段】鋼材Wを搬送する搬送手段32~36と、加熱手段を備えて鋼材の加熱を行う加熱室20と、加熱室20よりも搬送方向下流側に位置し、冷却手段を備えて鋼材Wの冷却を行う冷却室24と、加熱室20と冷却室24との間に位置し、加熱室20の開口を閉塞する開閉扉45と、冷却室24の開口を閉塞する開閉扉96aとにより、加熱室20および冷却室24からそれぞれ区画された中間室22と、を備えた連続式熱処理炉10を用い、水素を含む雰囲気の加熱室20にて加熱処理された直後の高温状態の鋼材Wを、不活性ガス雰囲気下の中間室22に所定時間滞留させた後、冷却室24に搬送して所定温度までの冷却を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を搬送する搬送手段と、
加熱手段を備えて前記鋼材の加熱を行う加熱室と、
前記加熱室よりも搬送方向下流側に位置し、冷却手段を備えて前記鋼材の冷却を行う冷却室と、
前記加熱室と前記冷却室との間に位置し、前記加熱室の搬送方向下流側の開口を閉塞する開閉扉と、前記冷却室の搬送方向上流側の開口を閉塞する開閉扉とにより、前記加熱室および前記冷却室からそれぞれ区画された中間室と、
を備えた連続式熱処理炉を用い、
水素を含む雰囲気の前記加熱室にて加熱処理された直後の高温状態の前記鋼材を、不活性ガス雰囲気下の前記中間室に所定時間滞留させた後、前記冷却室に搬送して所定温度までの冷却を行う、鋼材の熱処理方法。
【請求項2】
前記中間室において前記鋼材を2分以上滞留させる、請求項1に記載の鋼材の熱処理方法。
【請求項3】
前記中間室に搬送された前記鋼材が200℃に冷却されるまでの平均冷却速度が20℃/分以下となるように前記冷却室にて前記鋼材の冷却を行う、請求項2に記載の鋼材の熱処理方法。
【請求項4】
前記鋼材が線材コイルであって、
前記冷却室に設けた前記線材コイルの上端に被せられる蓋部と、前記線材コイルの直下から前記線材コイルの内径穴に冷却用ガスを送り込むガス送込装置と、を用いて、前記線材コイルの冷却を行う、請求項1~3の何れかに記載の鋼材の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼材の熱処理方法に関し、詳しくは加熱から冷却までを連続的に行う連続式熱処理炉を用いた鋼材の熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を生産性高く熱処理するための手段として、加熱から冷却までを連続的に行う連続熱処理炉が用いられている(例えば下記特許文献1参照)。
ここで鋼材の熱処理に際しては、その目的に応じて様々なガスが用いられる。例えば、焼鈍処理に際し鋼材表面の酸化を防止するため水素を含む雰囲気下で加熱処理が実施される場合がある。
【0003】
しかしながら水素を含む雰囲気下で加熱処理された鋼材については、水素が鋼材中へ侵入することで延性や靱性が著しく損なわれる水素脆性が問題となる。
鋼材中における水素の残存を防ぐ方法としては、加熱処理後の冷却において緩やかに(冷却速度を抑えて)冷却する方法や、一連の熱処理を終えた鋼材に対し、別途の脱水素処理(一般的には約200℃で1~3時間程度加熱する)を行う方法などが知られているが、これらの方法はいずれも生産性、製造コストの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、水素を含む雰囲気下で加熱処理された鋼材の水素脆性を防止もしくは抑制しつつ、加熱処理から冷却までの一連の熱処理を生産性高く行うことができる鋼材の熱処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して本発明は、
鋼材を搬送する搬送手段と、
加熱手段を備えて前記鋼材の加熱を行う加熱室と、
前記加熱室よりも搬送方向下流側に位置し、冷却手段を備えて前記鋼材の冷却を行う冷却室と、
前記加熱室と前記冷却室との間に位置し、前記加熱室の搬送方向下流側の開口を閉塞する開閉扉と、前記冷却室の搬送方向上流側の開口を閉塞する開閉扉とにより、前記加熱室および前記冷却室からそれぞれ区画された中間室と、
を備えた連続式熱処理炉を用い、
水素を含む雰囲気の前記加熱室にて加熱処理された直後の高温状態の前記鋼材を、不活性ガス雰囲気下の前記中間室に所定時間滞留させた後、前記冷却室に搬送して所定温度までの冷却を行うことを特徴とする。
【0007】
従来の連続式熱処理炉を用いた熱処理方法にあっては、加熱処理後に実施される冷却室での冷却速度を速くすると鋼中に水素が残存してしまうところ、本発明によれば、加熱処理された直後の高温状態の鋼材を中間室に一時滞留させることで脱水素(鋼中の水素の放出)が促進されるため、その後に行う冷却室での冷却の速度を従来よりも高めることができる。このため本発明によれば、水素を含む雰囲気下で加熱された鋼材の水素脆性を防止もしくは抑制しつつ、加熱処理から冷却までの一連の熱処理を生産性高く行うことができる。
【0008】
ここで本発明では、前記中間室において前記鋼材を2分以上滞留させることができる。
【0009】
また本発明では、前記中間室に搬送された前記鋼材が200℃に冷却されるまでの平均冷却速度が20℃/分以下となるように、前記冷却室にて前記鋼材の冷却を行うことができる。
【0010】
また本発明では、前記鋼材が線材コイルの場合、前記冷却室に設けた前記線材コイルの上端に被せられる蓋部と、前記線材コイルの直下から前記線材コイルの内径穴に冷却用ガスを送り込むガス送込装置と、を用いて、前記線材コイルの冷却を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の熱処理方法にて用いられる連続式熱処理炉を示した図である。
【
図2】
図1の冷却室における搬送方向と直交する方向の断面図である。
【
図3】
図1の中間室および冷却室での線材コイルの温度変化を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の一実施形態の熱処理方法にて用いられる連続式熱処理炉を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、Wは被熱物としての鋼材であって、詳しくは線材をコイル状に巻回した線材コイルである。10はこの線材コイルWを焼鈍処理するための連続式熱処理炉である。
連続式熱処理炉10は、図中左端の装入テーブル12と、図中右端の抽出テーブル14との間に、入口側パージ室18、加熱室20、中間室22、冷却室24、出口側パージ室26が配置されている。
【0013】
連続式熱処理炉10を構成する各室には、それぞれ独立駆動する搬送手段としてのローラ群32、33,34,35,36が配設され、線材コイルWはトレイ38(
図2参照)上に載置された状態で、ローラ群32~36によって順次図中右方向に搬送され、連続的に焼鈍処理が行われる。
【0014】
搬送方向に長く延びた加熱室20では、水素を含む非酸化性雰囲気下で線材コイルWの加熱処理(加熱およびその後の均熱)が行われる。
加熱室20の搬送方向に沿って区画された各ゾーンには、水素ガスもしくは水素と窒素の混合ガスを供給するガス供給管43の一端が接続されている。ガス供給管43には流量制御弁52が設けられており、流量制御弁52は図示を省略するH2濃度センサの信号に基づいてその開度が調節され、加熱室20の各ゾーンの水素濃度が所定範囲内に維持されている。
【0015】
加熱室20は、前側(搬送方向上流側)の開口20aが開閉扉44によって閉塞可能とされている。この開閉扉44はワイヤーを介してプーリ46aに懸吊され、プーリ46aの回転により昇降する。
また加熱室20の後側(搬送方向下流側)の開口20bは、開閉扉45により閉塞可能とされている。この開閉扉45はワイヤーを介してプーリ46bに懸吊され、プーリ46bの回転により昇降する。
【0016】
加熱室20の各ゾーンには、加熱手段としてのラジアントチューブバーナ40および天井ファン42が搬送方向に沿って複数設けられている。各ゾーンでは図示を省略する温度センサで検出された雰囲気温度が、予め設定された目標雰囲気温度と一致するように、ラジアントチューブバーナ40の燃焼が適宜調整される。
【0017】
次に、加熱室20よりも搬送方向上流側に位置する入口側パージ室18について説明する。入口側パージ室18は、非酸化性雰囲気の加熱室20内に外気が侵入するのを防止する。入口側パージ室18の前後の開口66a,66bには、これら開口を閉塞し得る気密扉67a,67bが設けられている。気密扉67a,67bは、それぞれワイヤーを介してプーリ68a,68bに懸吊され、プーリ68a,68bの回転により昇降する。
この入口側パージ室18には、真空ポンプ71に接続された脱気用の配管70および窒素ガス供給用の配管73がそれぞれ接続されている。
【0018】
なお、入口側パージ室18と加熱室20との間には、外部と気密に遮断された区画室77が形成されており、入口側パージ室18の後側開口66bおよび加熱室20の前側開口20aが開いた際に、外気が室内へ進入するのを防止している。プーリ68bおよび気密扉67b、プーリ46aおよび開閉扉44は、この区画室77中に収容されている。
【0019】
次に、加熱室20よりも搬送方向下流側に位置する中間室22、冷却室24および出口側パージ室26について説明する。
中間室22は、加熱室20と冷却室24との間に位置し、加熱室20の搬送方向下流側の開口20bを閉塞する開閉扉45と、冷却室24の搬送方向上流側の開口95aを閉塞する開閉扉96aとにより、加熱室20および冷却室24からそれぞれ区画されている。
中間室22には窒素ガス供給用の配管80が接続され、中間室22内は窒素雰囲気とすることが可能である。加熱室20にて加熱処理された高温状態の鋼材Wを中間室22で所定時間滞留させることで、鋼中に含まれる水素の放出を促進させることができる。本例ではヒータ等の加熱手段やガスクーラ等の冷却手段は中間室22に設けられておらず、中間室22内に置かれた線材コイルWは、緩やかに徐冷される。
【0020】
なお、加熱室20と中間室22との間には、外部と気密に遮断された区画室87が形成されており、外気が室内へ進入するのを防止している。プーリ46bおよび開閉扉45は、この区画室87中に収容されている。また同様に中間室22と冷却室24との間には、外部と気密に遮断された区画室88が形成されており、外気が室内へ進入するのを防止している。プーリ97aおよび開閉扉96aは、この区画室88中に収容されている。
【0021】
中間室22の搬送方向下流側に設けられた冷却室24は、窒素雰囲気下で線材コイルWを冷却する。冷却室24には、前後の開口95a,95bを閉塞し得る開閉扉96a,96bが設けられている。これら開閉扉96a,96bは、ワイヤーを介してそれぞれプーリ97a,97bに懸吊され、プーリ97a,97bの回転により昇降する。冷却室24には窒素ガス供給用の配管90が接続されており、冷却室24内に窒素ガスが供給可能とされている。
【0022】
図2は、冷却室24における搬送方向と直交する方向の断面図で、室内に線材コイルWが装入された状態を示している。同図において、100は線材コイルWの上端近傍に配置される蓋部、104は線材コイルWの内径穴Waへ冷却用ガスとして窒素ガスを送り込むガス送込装置としてのブロア装置である。105は側壁上部に形成されたガス排出口である。
【0023】
この冷却室24では、蓋部100が冷却室24の上壁を上下方向に貫通する軸体101の先端に取り付けられ、線材コイルWの上端を閉塞するように線材コイルWに被せられている。また、ブロア装置104のガス吹出口104aは、線材コイルWの直下に配置されている。
【0024】
このように構成された本例の冷却室24では、冷却用ガスとしての窒素ガスが、ブロア装置104のガス吸込口104bから取り込まれ、線材コイルWの内径穴Waへと送り込まれる。詳しくは、ガス吹出口104aの直上に位置するトレイ38の中央には、板厚方向に貫通する貫通穴38aが形成されており、上向きの冷却用ガスは、貫通穴38aを通過した後に線材コイルWの内径穴Waに送られる。
そして線材コイルWの内径穴Waへと送り込まれた冷却用ガスは、線材コイルWを構成する線材の隙間を通って、矢印で示すように内径側から外径側に流通することとなる。このようなガス流れを実現させることで、線材コイルの内外および上下間の温度を最小に保ちながら、線材コイルWを短時間で所定の温度に冷却することができる。なお、冷却に用いられたガスは、ガス排出口105を通じて室外に排出される。
【0025】
冷却室24の室外には、ガス排出口105を通じて排出されたガスを流通させるガス流路106が設けられている。ガス流路106上にはガスクーラ108が設けられており、線材コイルWとの熱交換により温度が高められ室外に排出されたガスは、ガスクーラ108にて温度を一旦低下せしめられた後に、ガス供給口109を通じて冷却室24内の、ガス吸込口104b近傍に戻される。このように本例では冷却用ガスを循環させながら線材コイルWを所定の温度にまで冷却することができる。ここで線材コイルWの内径穴Waへと送り込まれるガス量を調整することにより線材コイルWの冷却速度を調整することができる。
【0026】
出口側パージ室26は、冷却室24内に外気が侵入するのを防止するためのものである。出口側パージ室26は、
図1に示すように、前後の開口116a,116bを閉塞し得る気密扉117a,117bが設けられている。気密扉117a,117bは、それぞれワイヤーを介してプーリ118a,118bに懸吊され、プーリ118a,118bの回転により昇降する。この出口側パージ室26には、真空ポンプ119に接続された脱気用の配管120および窒素ガス供給用の配管121がそれぞれ接続されている。
【0027】
なお、冷却室24と出口側パージ室26との間には、外部と気密に遮断された区画室122が形成されており、冷却室24の後側開口95bおよび出口側パージ室26の前側開口116aが開いた際に、外気が室内へ進入するのを防止している。
【0028】
次に、連続式熱処理炉10を用いた線材コイルWの熱処理方法について説明する。まず、線材コイルWを入口側パージ室18内に装入し、気密扉67aを閉じた後、入口側パージ室18内の圧力を減圧手段70,71を用いて減圧し、室内の大気を室外に放出する。入口側パージ室18における真空引きが完了した後、入口側パージ室18内に配管73を通じて窒素ガスを供給し、常圧まで復圧する。
【0029】
その後、入口側パージ室18の出側の気密扉67bおよび加熱室20の入側の開閉扉44を開いて、ローラ群32,33を駆動させ、線材コイルWを加熱室20内に移送し、気密扉67bおよび開閉扉44を閉じる。
【0030】
加熱室20は、水素を含んだ非酸化性雰囲気である。加熱室20の雰囲気としては、30体積%以下の水素と、残部が窒素からなる非酸化性雰囲気を例示することができる。
加熱室20内に搬送した線材コイルWは、加熱室20内の各ゾーンを移動しながら所定の処理温度にまで加熱され、その後均熱される。この際の加熱温度としては、600℃~850℃を例示することができる。
線材コイルWが加熱室20の出口側に到ると、加熱室20の開閉扉45を開いて、ローラ群33,34を駆動させ、線材コイルWを中間室22内に移送する。ここで加熱室20と中間室22とが開口を通じて連通した状態となるが、本例では加熱室20が中間室22よりも低圧となるように調整されているため、水素濃度の高い加熱室20の雰囲気ガスの中間室22への流入は抑制される。
【0031】
中間室22では、高温状態の線材コイルWを窒素雰囲気下(中間室22における雰囲気中の水素濃度は5体積%以下である)、所定時間滞留させる。ここで、
図3は中間室22および冷却室24での線材コイルWの温度変化を模式的に示した図である。中間室22中に滞留する間(
図3における滞留時間t
1の間)、加熱処理された高温状態の線材コイルWは、加熱処理直後の温度Kから徐冷される。この間の線材コイルW各部の平均冷却速度は20℃/分以下である。
本例では鋼中の水素の放出を促進させる観点から、中間室22での滞留時間t
1を2分以上とすることが好ましく、より好ましい滞留時間は20分以上である。一方、滞留時間の上限としては、30分以下あるいは60分以下を例示することができる。
そして、所定滞留時間経過後は冷却室24の開閉扉96aを開いて、ローラ群34,35を駆動させ、線材コイルWを冷却室24内に移送し、開閉扉96aを閉じる。
【0032】
冷却室24では、窒素ガスを冷却用ガスとして用いて線材コイルWを冷却する。ここで本例では、予め中間室22において脱水素(鋼中の水素の放出)の促進が図られているため、線材コイルWを、中間室22に搬入された直後の温度(
図3における温度K)から200℃にまで冷却するのに要する時間を、(中間室22を備えていない)従来の熱処理方法に比べて短くすることができる。但し、過度に冷却速度が速い場合は水素脆化が懸念されるため、線材コイルWが温度Kから200℃に冷却されるまでの平均冷却速度は、20℃/分以下が好ましい。
【0033】
そして冷却完了後、開閉扉96bおよび出口側パージ室26の入側の気密扉117aを開いて、ローラ群35,36を駆動させ、線材コイルWを出口側パージ室26内に移送する。この際、出口側パージ室26内は窒素雰囲気とした状態で線材コイルWを受入れ、気密扉67bおよび開閉扉44を閉じる。
続いて気密扉117bを開いて線材コイルWを抽出テーブル14に移送すれば、線材コイルWの熱処理に関する一連の動作が完了する。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。ここでは上記連続熱処理炉10を用いて線材コイルWに焼鈍を施した。その際の平均冷却速度を変化させて、かかる平均冷却速度で冷却された部位での絞り性を評価した。
熱処理された線材コイルおよびその熱処理条件についての詳細は、以下の通りである。
線材コイル:フェライト系ステンレス鋼(線材径φ5.5~25mm)
加熱処理条件:水素と窒素の混合雰囲気(水素濃度15~30体積%)、加熱温度750℃
中間室滞留時間:下記表1参照
平均冷却速度:下記表1参照。線材コイルの任意の箇所に熱電対を取り付け温度を測定し、700℃から200℃まで冷却される間の平均冷却速度を求めた。
【0035】
(絞り性評価)
温度測定された部位からJIS Z 2241に示されたJIS9号試験片または4号試験片を採取し。JIS Z 2241に従い、常温で引張試験を行った。ひずみ速度0.003~0.008/secで引張力を試験片が破断するまで与え、試験片の破断後の絞り値(断面収縮率)を測定した。絞り性の判定は、評価に用いた線材コイル材における過去の実績値(平均値)から15%低い値(具体的には絞り値64%)を閾値とし、試験により得られた絞り値が閾値以上であった場合を「〇」とし、試験により得られた絞り値が閾値未満であった場合を「×」とした。その結果を測定された絞り値とともに下記表1に示す。
【0036】
【0037】
以上のようにして得られた表1の結果から次のことが分かる。
表1の試験No.1~4の結果によれば、加熱処理後の高温状態の線材コイルWを中間室22で一時貯留させることで、平均冷却速度5℃/分の場合(試験No.1)はもちろん、平均冷却速度17℃/分で急速冷却した場合(試験No.4)であっても良好な絞り性が得られた。従来(中間室での一時貯留を実施しない場合)において、水素脆性の回避を考慮した平均冷却速度が略8℃/分であることを考慮すれば、加熱処理後の高温状態の線材コイルWを中間室22で一時貯留させることで、加熱処理後の冷却に要する時間を短くできることが分かる。
但し、平均冷却速度を更に高めた試験No.5、6においては、絞り値の低下(水素脆性)が認められることから、平均冷却速度については20℃/分以下とすることが好ましい。
【0038】
以上のように本実施形態の熱処理方法によれば、加熱処理された直後の高温状態の線材コイルWを中間室22に一時滞留させることで脱水素(鋼中の水素の放出)が促進されるため、その後に行う冷却室24での冷却の速度を従来よりも高めることができる。このため本実施形態によれば、水素を含む雰囲気下で加熱された鋼材の水素脆性を防止もしくは抑制しつつ、加熱処理から冷却までの一連の熱処理を生産性高く行うことができる。
【0039】
以上本発明の実施形態および実施例を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。上記実施形態では、加熱雰囲気中の水素濃度を30体積%以下としたが、水素濃度はその目的に応じて適宜変更可能である。また上記実施形態は、中間室にヒータ等の加熱手段が設けられていない例であったが、場合によっては、中間室にヒータ等の加熱手段を設けて中間室における鋼材の冷却速度の制御を行なうようにしてもよい。また中間室や冷却室に導入するガスとしては、窒素ガス以外のアルゴンガス等の不活性ガスを用いることも可能である。また被熱物としての鋼材は線材コイルに限定されるものではなく、例えば多数本の棒材を積層した形態であってもよい等、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。