(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092701
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/14 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
F16F13/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208819
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】幾久 光一
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA05
3J047CA02
3J047DA10
3J047FA01
3J047GA01
(57)【要約】
【課題】設計や製造に要する工数を抑制できる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】オリフィス形成部材50には、外周面に開口する凹設溝62が形成される。一対のオリフィス形成部材50の凹設溝62によって形成され、オリフィス73を連通させるバイパス74は、オリフィス形成部材50の径方向の最外方となる位置に形成される。バイパス74は、オリフィス形成部材50の底面部54の外周面54aから径方向外方に所定距離を離隔する位置に形成され、その所定距離がバイパス74の径方向の寸法よりも大きくされる。これにより、キャビテーションの発生の抑制と減衰特性の確保とを図ることができる。そのため、ゴム弁を不要とでき、設計や製造を容易とできる。その結果、設計や製造に要する工数を抑制できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成される内筒と、前記内筒の外周側を取り囲む筒状の外筒と、前記内筒および前記外筒を連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記防振基体により前記内筒を挟んで相対する位置に区画される第1液室および第2液室と、流路長さが周方向に1周を越えるオリフィスを形成し前記オリフィスにより前記第1液室および前記第2液室を連通させるオリフィス形成部材と、を備える液封入式防振装置において、
前記オリフィス形成部材は、周方向に沿って形成される周壁部と、前記周壁部の外周面から径方向外方へ張り出す一対の第1張出部と、一対の前記第1張出部の間に並設されつつ前記周壁部の外周面から径方向外方へ張り出す第2張出部と、を備え、
前記オリフィス形成部材には、前記オリフィスの2点間を前記オリフィスの流路断面積よりも小さく且つ前記オリフィスの前記2点間の流路長さよりも短い流路で連通させるバイパスが形成され、
前記バイパスは、前記周壁部の外周面から径方向外方に所定距離を離隔する位置に形成された前記第2張出部の開口または切り欠きにより形成され、
前記第2張出部を挟んで軸方向に隣り合う前記オリフィスどうしが前記バイパスによって前記オリフィスの径方向最外方となる位置で連通されることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記第2張出部の開口または切り欠きは、周方向の寸法が径方向の寸法よりも大きい形状に形成されることを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記バイパスの流路断面積は、前記オリフィスの流路断面積の略12%以上の大きさとされることを特徴とする請求項2記載の液封入式防振装置。
【請求項4】
前記バイパスの径方向の寸法は、前記所定距離よりも小さくされることを特徴とする請求項3記載の液封入式防振装置。
【請求項5】
一対の前記第1張出部には、前記第1液室と前記オリフィスとを連通させる開口部が一方の前記第1張出部に形成されると共に、前記第2液室と前記オリフィスとを連通させる開口部が他方の前記第1張出部に形成され、
一方の前記第1張出部の開口部から前記第2張出部のバイパスまでの前記オリフィスの流路長さと、他方の前記第1張出部の開口部から前記第2張出部のバイパスまでの前記オリフィスの流路長さとが略同一とされることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液封入式防振装置。
【請求項6】
前記バイパスは、直線状に延設され、
軸方向に直交する平面に対して前記バイパスの延設方向がなす角度は、略45度以上かつ略90度未満の範囲とされることを特徴とする請求項5記載の液封入式防振装置。
【請求項7】
前記バイパスは、前記第2張出部を外縁から径方向内方へ向けて凹設した切り欠きにより形成されることを特徴とする請求項6記載の液封入式防振装置。
【請求項8】
前記バイパスは、前記第2張出部を貫通する開口により形成され、
前記オリフィス形成部材は、前記周壁部、前記第1張出部および前記第2張出部の周方向の端面どうしを互いに当接させて前記オリフィスを形成する一対からなり、
一対の前記オリフィス形成部材の内の少なくとも一方の前記オリフィス形成部材の前記第2張出部は、前記第2張出部の周方向の端面を周方向へ向けて凹設した凹部を備え、
前記一対のオリフィス形成部材の周方向の端面どうしが当接された状態において、前記凹部により前記開口が形成されることを特徴とする請求項6記載の液封入式防振装置。
【請求項9】
前記周壁部の外周面は、軸方向視において径方向外方に少なくとも前記バイパスが形成される領域に対応する第1外周面と、その第1外周面の周方向の両端に隣接される第2外周面と、を備え、
前記第1外周面は、前記軸方向視において前記第2外周面の周方向の両端を延長して形成される仮想円よりも径方向内方となる領域に位置されることを特徴とする請求項6記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液封入式防振装置に関し、特に、設計や製造に要する工数を抑制できる液封入式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第1液室と第2液室との間を、オリフィスにより連通させると共に短絡経路により短絡させ、通常時は短絡経路の内壁にゴム弁を着座させ短絡経路を閉塞させておく液封入式防振装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
この液封入式防振装置によれば、第1液室と第2液室との間の液圧差が所定以上になると、ゴム弁が弾性変形され、短絡経路の内壁からゴム弁が離れることで、短絡経路が開放される。これにより、第1液室または第2液室の負圧が低減され、キャビテーションの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019―19836号公報(例えば、段落0043,0048、
図7など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、短絡経路の開閉にゴム弁を利用する構成であるため、キャビテーションの発生の抑制と減衰特性の確保との両立が困難であった。そのため、設計や製造の工数が嵩むという問題点があった。
【0006】
例えば、ゴム弁を弾性変形し易くすると、キャビテーションの発生を早期に抑制できるが、第1液室と第2液室との間の液圧差が所定以上になる前にゴム弁が弾性変形して減衰特性が低下する虞がある。一方、ゴム弁を弾性変形し難くすると、減衰特性を確保し易くできるが、第1液室と第2液室との間の液圧差が所定以上になってもゴム弁が弾性変形せずキャビテーションの発生を抑制できない虞がある。所定の液圧差が生じた際にゴム弁が弾性変形するか否かは、ゴム弁のゴム硬度や形状だけでなく、寸法公差や組み立て公差(短絡経路の内壁へのゴム弁の密着度合いのばらつき)や経年劣化による劣化(ゴム弁の硬化やへたり)も影響する。そのため、これらを考慮して設計および製造する必要があり、工数が嵩む。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、設計や製造に要する工数を抑制できる液封入式防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明の液封入式防振装置は、筒状に形成される内筒と、前記内筒の外周側を取り囲む筒状の外筒と、前記内筒および前記外筒を連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記防振基体により前記内筒を挟んで相対する位置に区画される第1液室および第2液室と、流路長さが周方向に1周を越えるオリフィスを形成し前記オリフィスにより前記第1液室および前記第2液室を連通させるオリフィス形成部材と、を備えるものであって、前記オリフィス形成部材は、周方向に沿って形成される周壁部と、前記周壁部の外周面から径方向外方へ張り出す一対の第1張出部と、一対の前記第1張出部の間に並設されつつ前記周壁部の外周面から径方向外方へ張り出す第2張出部と、を備え、前記オリフィス形成部材には、前記オリフィスの2点間を前記オリフィスの流路断面積よりも小さく且つ前記オリフィスの前記2点間の流路長さよりも短い流路で連通させるバイパスが形成され、前記バイパスは、前記周壁部の外周面から径方向外方に所定距離を離隔する位置に形成された前記第2張出部の開口または切り欠きにより形成され、前記第2張出部を挟んで軸方向に隣り合う前記オリフィスどうしが前記バイパスによって前記オリフィスの径方向最外方となる位置で連通される。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、筒状に形成される内筒と、内筒の外周側を取り囲む筒状の外筒と、内筒および外筒を連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、防振基体により内筒を挟んで相対する位置に区画される第1液室および第2液室と、流路長さが周方向に1周を越えるオリフィスを形成しオリフィスにより第1液室および第2液室を連通させるオリフィス形成部材と、を備え、オリフィス形成部材には、オリフィスの2点間をオリフィスの流路断面積よりも小さく且つオリフィスの2点間の流路長さよりも短い流路で連通させるバイパスが形成されるので、比較的大きな振幅の外力が入力され、第1液室と第2液室との間の液圧差が所定以上になった場合に、バイパスを介して液体を流動させることで、第1液室または第2液室の負圧を低減して、キャビテーションの発生を抑制できる。
【0010】
バイパスは、周壁部の外周面から径方向外方に所定距離を離隔する位置に形成された第2張出部の開口または切り欠きにより形成され、第2張出部を挟んで軸方向に隣り合うオリフィスどうしがバイパスによってオリフィスの径方向最外方となる位置で連通されるので、比較的大きな振幅の外力が入力された場合に、オリフィスの外周側(径方向外方側)を流動する流速が速い液体をバイパスに流入させることができる。よって、第1液室または第2液室の負圧を早期に低減でき、キャビテーションの発生を効果的に抑制できる。
【0011】
一方、周壁部とバイパスとの間には第2張出部が存在するので、比較的小さな振幅の外力が入力された場合に、液体をオリフィスに沿って流動し易くできる。よって、減衰特性を確保できる。
【0012】
このように、キャビテーションの発生の抑制と減衰特性の確保とを図りつつ、ゴム弁を不要とでき、設計や製造を容易とできる。その結果、設計や製造に要する工数を抑制できる。
【0013】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、請求項1記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、第2張出部の開口または切り欠きは、周方向の寸法が径方向の寸法よりも大きい形状に形成されるので、オリフィスを流動する液体の流動方向に沿った形状とできる。よって、比較的大きな振幅の外力が入力された場合に、オリフィスの外周側(径方向外方側)を流動する流速が速い液体をオリフィスからバイパスへ効率的に流入させることができる。その結果、第1液室または第2液室の負圧を早期に低減でき、キャビテーションの発生を効果的に抑制できる。
【0014】
また、第2張出部の開口または切り欠きの面積を大きくしても、周壁部からバイパスまでの距離(即ち、周壁部とバイパスとの間に存在する第2張出部の面積)を確保できる。よって、比較的小さな振幅の外力が入力された場合に、オリフィスに沿った液体の流動を確保し易くでき、液体がバイパスに流入することを抑制できる。よって、減衰特性を確保できる。
【0015】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、請求項2記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、バイパスの流路断面積は、オリフィスの流路断面積の略12%以上の大きさとされるので、バイパスを流動可能な液体の流量を確保できる。よって、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0016】
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、請求項3記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、バイパスの径方向の寸法は、所定距離よりも小さくされるので、周壁部とバイパスとの間に存在する第2張出部の面積を確保できる。よって、比較的小さな振幅の外力が入力された場合に、液体をオリフィスに沿って流動し易くでき、減衰特性を確保できる。
【0017】
請求項5記載の液封入式防振装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、一対の第1張出部には、第1液室とオリフィスとを連通させる開口部が一方の第1張出部に形成されると共に、第2液室とオリフィスとを連通させる開口部が他方の第1張出部に形成され、一方の第1張出部の開口部から第2張出部のバイパスまでのオリフィスの流路長さと、他方の第1張出部の開口部から第2張出部のバイパスまでのオリフィスの流路長さとが略同一とされるので、キャビテーションの発生を抑制する効果が、液体がオリフィスを流動する方向によって異なるものとなることを抑制できる。即ち、第1液室または第2液室のどちらが負圧になる場合であっても、キャビテーションの発生を同等に抑制できる。
【0018】
請求項6記載の液封入式防振によれば、請求項5記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、バイパスは、直線状に延設されるので、バイパスを液体が流動する際の流動抵抗を抑制でき、オリフィスを流動する液体をバイパスに流入し易くすることができる。よって、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0019】
軸方向に直交する平面に対してバイパスの延設方向がなす角度は、略45度以上かつ略90度未満の範囲とされるので、オリフィス形成部材の製造(バイパスの形成)を容易とできる。また、オリフィス形成部材におけるバイパスが形成される部分の強度を確保できる。
【0020】
請求項7記載の液封入式防振装置によれば、請求項6記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、バイパスは、第2張出部を外縁から径方向内方へ向けて凹状に凹設した切り欠きにより形成されるので、オリフィスの最も外周側(径方向の最外方)にバイパスを位置させることができる。よって、オリフィスの外周側(径方向外方側)を流動する流速が速い液体をバイパスに効率的に流入させることができる。その結果、第1液室または第2液室の負圧を早期に低減でき、キャビテーションの発生を効果的に抑制できる。
【0021】
請求項8記載の液封入式防振装置によれば、請求項6記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、バイパスは、第2張出部を貫通する開口により形成されるので、第2張出部の外縁(径方向外方側の縁部)が防振基体に食い込む食い込み量にばらつきが生じる場合でも、そのばらつきの影響を受け難くして、バイパスの流路断面積を一定とし易くできる。よって、キャビテーションの発生を抑制する効果を安定して発揮できる。
【0022】
オリフィス形成部材は、周壁部、第1張出部および第2張出部の周方向の端面どうしを互いに当接させてオリフィスを形成する一対からなり、一対のオリフィス形成部材の内の少なくとも一方のオリフィス形成部材の第2張出部は、第2張出部の周方向の端面を周方向へ向けて凹設した凹部を備え、一対のオリフィス形成部材の周方向の端面どうしが当接された状態において、凹部により開口が形成される構成であるので、バイパスが開口により形成される場合であっても、オリフィス形成部材を成形するための型の構造を簡素化できる。また、ドリルによる後加工や別部材の圧入を不要とできる。よって、製造コストを低減できる。
【0023】
請求項9記載の液封入式防振装置によれば、請求項6記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、周壁部の外周面は、軸方向視において径方向外方に少なくともバイパスが形成される領域に対応する第1外周面と、その第1外周面の周方向の両端に隣接される第2外周面と、を備え、第1外周面は、軸方向視において第2外周面の周方向の両端を延長して形成される仮想円よりも径方向内方となる領域に位置されるので、オリフィス形成部材は、バイパスが形成される領域に対応する部分において、第2張出部の面積(周壁部からバイパスまでの径方向の距離)を大きくすることができる。よって、比較的小さな振幅の外力が入力された場合に、液体をオリフィスに沿って流動し易くできる(バイパスに流入し難くできる)。よって、減衰特性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は、第1実施形態における液封入式防振装置の平面図であり、(b)は、液封入式防振装置の正面図である。
【
図2】(a)は、
図1(a)のIIa-IIa線における液封入式防振装置の断面図であり、(b)は、
図1(a)のIIb-IIb線における液封入式防振装置の断面図である。
【
図3】
図1(b)のIII-III線における液封入式防振装置の断面図である。
【
図5】(a)は、
図2(b)のVa部における拡大断面図であり、(b)は、
図5(a)のVb-Vb線における拡大断面図であり、(c)は、
図5(a)のVc-Vc線における拡大断面図である
【
図6】(a)は、成形体の側面図であり、(b)は、成形体の正面図である。
【
図7】(a)は、オリフィス形成部材が組み付けられた成形体の正面図であり、(b)は、オリフィス形成部材が組み付けられた成形体の背面図である。
【
図8】(a)は、第2実施形態における液封入式防振装置の断面図であり、(b)は、
図8(a)のVIIIb-VIIIb線における液封入式防振装置の断面図であり、(c)は、
図8(a)のVIIIc-VIIIc線における液封入式防振装置の断面図である。
【
図9】(a)は、第3実施形態における液封入式防振装置の断面図であり、(b)は、
図9(a)のIXb-IXb線における液封入式防振装置の断面図であり、(c)は、
図9(a)のIXc-IXc線における液封入式防振装置の断面図である。
【
図10】(a)は、第4実施形態における液封入式防振装置の断面図であり、(b)は、第5実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
【
図11】第6実施形態における液封入式防振装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1(a)は、第1実施形態における液封入式防振装置100の平面図であり、
図1(b)は、液封入式防振装置100の正面図である。
図1(a)及び
図1(b)に示すように液封入式防振装置100は、軸線Oを中心とする円環状に形成された内側部材10と、内側部材10を同心状に取り囲む円環状の外側部材20と、外側部材20及び内側部材10の間に介設される防振基体30とを備えて構成される。液封入式防振装置100の軸方向は、軸線Oが延びる方向とされる。
【0026】
図2(a)は、
図1(a)のIIa-IIa線における液封入式防振装置100の断面図であり、
図2(b)は、
図1(a)のIIb-IIb線における液封入式防振装置100の断面図である。
図3は、
図1(b)のIII-III線における液封入式防振装置100の断面図である。
【0027】
図2(a)に示すように、内側部材10は、液封入式防振装置100の軸方向(
図2(a)上下方向)に延びる円筒状に形成される。
【0028】
外側部材20は、内側部材10を同心状に取り囲む円筒状の部材であり、円筒状に形成された筒部21と、筒部21の内周面に加硫接着されると共にゴム状弾性体から構成されるゴム膜22と、筒部21が外嵌される中間筒40とを備えている。
【0029】
防振基体30は、内側部材10と外側部材20とを連結すると共にゴム状弾性体から構成される部材である。防振基体30は、内側部材10及び外側部材20の軸方向両側に円環状に形成される一対の径方向隔壁31と、一対の径方向隔壁31の間に形成されるゴム膜部32とを備えている。径方向隔壁31及びゴム膜部32は、一体に加硫成形され、径方向隔壁31の内周は内側部材10の外周に加硫接着される。径方向隔壁31の外周は内側部材10を同心状に取り囲む中間筒40の嵌合周壁41の内周に加硫接着される。一対の径方向隔壁31によって、外側部材20の軸方向両端が閉鎖されることにより、第1液室71及び第2液室72が形成される。第1液室71及び第2液室72にはエチルグリコールなどの不凍液(液体)が封入される。
【0030】
図2(b)に示すように、中間筒40は、筒部21が外嵌される一対のリング状の嵌合周壁41と、嵌合周壁41同士を連結すると共に嵌合周壁41よりも径方向内方に位置し軸直方向断面が円弧状の連結壁42とを備えている。連結壁42は、径方向隔壁31と一体に加硫形成される一対の軸方向隔壁33が、内周面に加硫接着される。また、連結壁42は、径方向隔壁31と一体加硫成形されるゴム膜状の外面部34が、外周面に加硫接着される。
【0031】
外面部34の軸方向両側に、ゴム状弾性体から構成される壁面部36,38が形成される。壁面部36,38は、内側部材10を挟んで軸方向隔壁33の各々の径方向外方に配置され、それぞれ径方向外方へ向かって延設される。一対の壁面部36は、壁面部36の間の軸方向距離が、壁面部38の軸方向距離より大きく設定される。
【0032】
図3に示すように、第1液室71及び第2液室72は、径方向隔壁31の間を軸方向に連結する軸方向隔壁33により、周方向に区画される。これにより、内側部材10を挟んで相対する略対称な2つの第1液室71及び第2液室72が形成される。
図2及び
図3に示すように、内側部材10と外側部材20(筒部21)との間に一対のオリフィス形成部材50が配置される。オリフィス形成部材50は、第1液室71及び第2液室72を連通するオリフィス73(
図3参照)を形成するための部材である。
【0033】
次に、
図4を参照してオリフィス形成部材50について説明する。
図4は、オリフィス形成部材50の斜視図である。
図4に示すように、オリフィス形成部材50は、断面円弧状に形成される本体部51と、本体部51の径方向内方に形成されると共にゴム膜部32(内側部材10)の軸直角方向(
図3左右方向)に配置される断面円形状のストッパ52と、本体部51の周方向両側にそれぞれ突出する第1突部53及び第2突部58とを備えている。なお、オリフィス形成部材50は、合成樹脂から射出成型により一体成型される。よって、後述する凹設溝62を、その形状に寄らず、別工程を行うことなく形成することができる。従って、例えば、凹設溝62を切削加工により形成する場合と比較して、製造コストの削減を図ることができる。
【0034】
第1突部53は、周方向に沿って湾曲状に形成される底面部54と、底面部54の幅方向(軸方向)の両側縁に径方向外方へ向けて立設されると共に周方向に延在する一対の立設部55と、一対の立設部55の間に並設されつつ、径方向外方へ向けて底面部54に立設されると共に周方向へ延在する仕切部56とを備えている。底面部54に立設部55及び仕切部56が立設されることで、仕切部56を挟んで軸方向に隣り合う第1凹溝57a及び第2凹溝57bが形成される。第1凹溝57a及び第2凹溝57bは、第1突部53の周方向端部に開口する。
【0035】
仕切部56には、第1突部53の周方向の端面かつ径方向の外周面に開口する矩形の凹設溝62(切り欠き)が凹設される。凹設溝62は、軸方向(
図4上下方向)に沿って直線状に延設され、仕切部56を貫通し、第1凹溝57a及び第2凹溝57bを連通する。凹設溝62の径方向の外周面は、仕切部56の径方向の外周面の接線と平行な直線状に形成される。
【0036】
第2突部58は、周方向に沿って湾曲状に形成される底面部59と、底面部59の幅方向(軸方向)の両側縁に径方向外方に向けて立設されると共に周方向に延在する一対の立設部60とを備えている。底面部59に立設部60が立設されることで、第2凹溝57bが形成される。第2凹溝57bは、オリフィス形成部材50(第1突部53、本体部51及び第2突部58)の周方向に亘って形成される。第1突部53に凹設された第1凹溝57aは、本体部51の第1突部53寄りに形成された連通開口61が端部に形成され、本体部51の軸方向に開口する。
【0037】
一対のオリフィス形成部材50は、軸方向の一側(
図4上側)及び他側(
図4下側)の向きを互いに逆とした姿勢(一方のオリフィス形成部材50を他方のオリフィス形成部材50に対して裏返した姿勢)で第1突部53の端面どうし及び第2突部58の端面どうしがそれぞれ互いに突き合わされ、連結壁42と筒部21との間に配置される(
図3参照)。本実施形態では、
図2(b)に示すように、第1突部53(底面部54)は、一対の壁面部36の軸方向内側に配設され、第2突部58(底面部59)は、一対の壁面部38の軸方向内側に配置される。第1突部53及び第2突部58がそれぞれ突き合わされることにより、第1凹溝57a及び第2凹溝57bにより筒部21(ゴム膜22)の内側にオリフィス73が形成される。
【0038】
また、一対のオリフィス形成部材50は、それらの第1突部53の端面どうしが互いに突き合わされると、一方のオリフィス形成部材50の仕切部56に形成した凹設溝62と他方のオリフィス形成部材50の仕切部56に形成した凹設溝62とが重なり合わされ、オリフィス73の2点間を連通させるバイパス74が形成される。このバイパス74の詳細構成について、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)を参照して説明をする。
【0039】
図5(a)は、
図2(b)のVa部における拡大断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)のVb-Vb線における拡大断面図であり、
図5(c)は、
図5(a)のVc-Vc線における拡大断面図である。
【0040】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)に示すように、一対のオリフィス形成部材50が互いに上下反転された姿勢とされ、第1突部53(仕切部56)の端面どうしが互いに突き合わされると、一方の仕切部56に形成される凹設溝62と、他方の仕切部56に形成される凹設溝62とが周方向(
図5(b)左右方向)に重ね合わされ、両凹設溝62の開口が互いに連通されることで、オリフィス73の流路断面積よりも小さく且つオリフィス73よりも流路長さが短いバイパス74が形成される。
【0041】
ここで、オリフィス73の流路断面積は、軸線Oを含む平面で切断した断面(
図5(a)参照)において、凹溝57とゴム膜22とで囲まれる空間の面積と定義する。また、軸線Oに直交し仕切部56を通る平面で切断した断面(
図5(c)参照)において、仕切部56の外縁56aが径方向外方に位置するゴム膜22に食い込み、凹設溝62にゴム膜22が径方向内方に入り込む。この状態において、バイパス74の流路断面積は、凹設溝62とゴム膜22とで囲まれる空間の面積と定義する。このとき、バイパス74の流路断面積は、オリフィス73の流路断面積の12%以上かつ50%未満の大きさに設定される。
【0042】
また、
図5(c)に示すように、バイパス74は、周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laよりも大きい形状に形成される。本実施形態では、バイパス74の周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laの略3倍に設定される。
【0043】
さらに、バイパス74の径方向の寸法Laは、バイパス74が底面部54の外周面54aから径方向外方に離隔する距離より小さい寸法とされる。本実施形態では、バイパス74の径方向の寸法Laは、バイパス74が底面部54の外周面54aから径方向外方に離隔する距離の1/2程度に設定される。
【0044】
バイパス74は、一対のオリフィス形成部材50のうちの一方の立設部55の連通開口61から仕切部56のバイパス74までのオリフィス73の流路長さと、他方の立設部55の連通開口61から仕切部56のバイパス74までのオリフィス73の流路長さとが略同一の位置となるように形成される(
図7(a)参照)。そのため、キャビテーションの発生を抑制する効果が、液体がオリフィス73を流動する方向によって異なるものとなることを抑制できる。即ち、第1液室71又は第2液室72のどちらが負圧になる場合であっても、キャビテーションの発生を同等に抑制できる。
【0045】
以上のように構成される液封入式防振装置100によれば、軸直角方向に比較的大きな振幅が入力されると、軸方向隔壁33が弾性変形して、内側部材10と外側部材20とが相対変位される。これにより、第1液室71及び第2液室72を区画する軸方向隔壁33が変形するので、第1液室71及び第2液室72の液圧変動が生じ、第1液室71及び第2液室72内の液体がオリフィス73を通って流れる。
【0046】
この場合、バイパス74の流路断面積がオリフィス73の流路断面積に対して12%以上の大きさで形成されるので、比較的大きな振幅の入力時は、オリフィス73を通過する液体の流速が比較的速くても、バイパス74に液体を通過させ易くできる。そのため、比較的大きな振幅の外力が入力され、第1液室71と第2液室72との間の液圧差が所定以上になった場合に、バイパス74を介して液体を流動させることで、第1液室71又は第2液室72の負圧を低減して、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0047】
一方、バイパス74の流路断面積がオリフィス73の流路断面積に対して50%未満の大きさで形成されるので、底面部54の外周面54aとバイパス74との間には仕切部56が存在する領域を確保できる。よって、比較的小さな振幅の入力時には、液体をオリフィス73に沿って流動し易くできる。そのため、減衰特性を確保できる。
【0048】
第1実施形態の液封入式防振装置100によれば、一方のオリフィス形成部材50における仕切部56の端面と他方のオリフィス形成部材50における仕切部56の端面とが突き合わされた状態では、突き合わされた2つの凹設溝62が仕切部56を軸方向に直線状に貫通し、第1凹溝57a及び第2凹溝57bを連通する開口として形成される。従って、かかるバイパス74の途中(流路上)に、仕切部56の端面どうしの重ね合わせ方向(
図5(b)左右方向)に屈曲する部分を形成する場合と比較して、比較的大きな振幅の入力時に、液体がバイパス74を流動し易くできるので、バイパス74を介して液体を流動させることができ、第1液室71及び第2液室72の負圧を低減して、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0049】
第1実施形態の液封入式防振装置100によれば、凹設溝62は、仕切部56の径方向の外側に形成されるので、仕切部56のうちの外縁56aにバイパス74を配置できる。オリフィス73のうちの径方向外方の部分は、径方向内方の部分よりも液体の流速が速くなる。バイパス74が仕切部56のうちの外縁56aに配置されるので、オリフィス73に流れる液体のうちの流速の速い部分の液体をバイパス74に通過させ易くできる。そのため、比較的大きな振幅の外力が入力され、第1液室71と第2液室72との間の液圧差が所定以上になった場合に、バイパス74を介して液体を流動させることで、第1液室71又は第2液室72の負圧を低減して、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0050】
第1実施形態の液封入式防振装置100によれば、バイパス74の開口の周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laよりも大きく設定されるので、オリフィス73の流路断面の径方向の寸法に対して、バイパス74の開口が径方向に占める範囲を小さくできる。さらに、オリフィス73を液体が流れる流動方向(周方向)に沿ってバイパス74の開口の長さを確保できる。よって、オリフィス73を流れる液体の量を確保しつつ、オリフィス73を流れる液体をバイパス74へ流し易くできる。
【0051】
第1実施形態の液封入式防振装置100によれば、バイパス74の径方向の寸法Laが底面部54の外周面54aとバイパス74との間に存在する仕切部56の径方向の寸法(所定距離)よりも小さく設定されるので、オリフィス73の径方向内方側の流路面積を十分に確保し、液体をオリフィス73に通過させることができる。よって、液封入式防振装置100の減衰特性を確保できる。
【0052】
次に、
図6及び
図7を参照して、液封入式防振装置100の製造工程について説明する。
図6(a)は、成形体80の側面図であり、
図6(b)は、成形体80の正面図である。
図7(a)は、オリフィス形成部材50が組み付けられた成形体80の正面図であり、
図7(b)は、オリフィス形成部材50が組み付けられた成形体80の背面図である。
【0053】
成形体80は、内側部材10と中間筒40とを成形金型(図示せず)に装着した後、防振基体30を加硫接着すると共に内側部材10及び中間筒40に加硫接着することにより形成される。形成された成形体80に対して、中間筒40を縮径加工することにより防振基体30に予圧縮を与える。なお、
図6(a)及び
図6(b)は、縮径加工された後の状態が図示される。
【0054】
次いで、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、一対のオリフィス形成部材50を成形体80に組み付ける。即ち、
図7(a)に示すように、一対の壁面部36の間には、一対のオリフィス形成部材50の底面部54を嵌挿する。一方、
図7(b)に示すように、一対の壁面部38の間には、一対のオリフィス形成部材50の底面部59を嵌挿する。
【0055】
次いで、一対のオリフィス形成部材50が組み付けられた成形体80に、液体中で筒部21を被せた後に筒部21を縮径して、その両端部を内側に折曲することにより外側部材20を配置する。筒部21が縮径されることで、一対のオリフィス形成部材50の底面部54,54の隙間と底面部59,59の隙間とが詰められる。これにより、第1突部53,53の各端面及び第2突部58,58の各端面が突き当てられる。その結果、壁面部36間で第1凹溝57aと第2凹溝57bとが連通接続され、壁面部38間で第2凹溝57b同士が連通接続されることで、オリフィス73が形成されると共に、バイパス74が形成される。これにより、液封入式防振装置100が形成される。
【0056】
液封入式防振装置100は、周方向に延びるオリフィス73により、第1液室71及び第2液室72が互いに連通される。具体的には、一方の液室(第1液室71)に開口する連通開口61と他方の液室(第2液室72)に開口する連通開口61とが、第1凹溝57a、第2凹溝57b及び第1凹溝57aにより連通される。その結果、オリフィス形成部材50により外側部材20の内周側を周方向に略一周半する長さのオリフィス73が形成される。本実施形態では、外側部材20の内周側を周方向に略一周半する長さのオリフィス73が形成されるが、このほかに、オリフィス73が周方向に形成される長さは一周より長く、二周よりも短い長さとされる。
【0057】
液封入式防振装置100によれば、一対のオリフィス形成部材50(一方のオリフィス形成部材50及び他方のオリフィス形成部材50)が互いに同一の形状に形成される。よって、例えば、一方のオリフィス形成部材と他方のオリフィス形成部材とが互いに異なる形状の2種類のオリフィス形成部材からなる場合と比較して、部品点数を削減でき、その分、製品コストの削減を図ることができる。
【0058】
更に、一方のオリフィス形成部材と他方のオリフィス形成部材とが互いに異なる形状の2種類のオリフィス形成部材からなる場合には、2種類のオリフィス形成部材のうちの一方のオリフィス形成部材どうしを組み合わせて一対のオリフィス形成部材として組み付けるといった誤った組み付けが生じるおそれがあるところ、本発明によれば、かかる誤った組み付けが生じることを回避できる。
【0059】
次に、
図8(a)、
図8(b)及び
図8(c)を参照して、第2実施形態における液封入式防振装置200について説明する。第1実施形態では、凹設溝62が仕切部56の外周面に開口する形状(切り欠き)であったのに対して、第2実施形態では、凹設溝262が仕切部56の外周面には開口しておらず、オリフィス形成部材250の周方向の端面に開口する形状とされる。
【0060】
図8(a)は、第2実施形態における液封入式防振装置200の断面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のVIIIb-VIIIb線における液封入式防振装置200の断面図であり、
図8(c)は、
図8(a)のVIIIc-VIIIc線における液封入式防振装置200の断面図である。なお、
図8(a)は、
図5(a)に対応する。また、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0061】
図8(a)、
図8(b)及び
図8(c)に示すように、第2実施形態における液封入式防振装置200の凹設溝262は、一方および他方のオリフィス形成部材250における仕切部56の端面において、一端および他端を第1凹溝57a側の縁部および第2凹溝57b側の縁部にそれぞれ連ならせると共に、それら一端および他端の間が、仕切部56(オリフィス形成部材250)の軸方向(
図8(a)上下方向)に沿って直線状に延設される。
【0062】
これにより、一対のオリフィス形成部材250が互いに上下反転された姿勢とされ、仕切部56の端面どうしが互いに突き合わされることで、オリフィス73の流路断面積よりも小さく且つオリフィス73よりも流路長さが短い流路であって、オリフィス73の2点間を連通させるバイパス274を形成できる。バイパス274の延設方向は、軸方向に沿う方向となる。
【0063】
ここで、液封入式防振装置100,200を製造する際は、別々に製造したオリフィス形成部材50及び外側部材20を組み付けるので、組み付ける際に、径方向の寸法公差、及び、径方向の組み付け公差によってオリフィス形成部材50が外側部材20のゴム膜22に対して食い込む量(ゴム膜22が凹設溝62に入り込む量)がばらつく。そのため、第1実施形態の液封入式防振装置100では、外側部材20のゴム膜22が一対のオリフィス形成部材50の凹設溝62に対して径方向内方に入り込む量が少ない場合は、凹設溝62とゴム膜22とで囲まれるバイパス74の流路断面積を大きく確保できるが、ゴム膜22が凹設溝62に対して径方向内方に入り込む量が大きい場合は、入り込む量が少ない場合と比較してバイパス74の流路断面積が小さくなる。即ち、第1実施形態における液封入式防振装置100は、ゴム膜22が一対のオリフィス形成部材50の凹設溝62に対して径方向内方に入り込む量によってバイパス74の流路断面積がばらつく。この場合、液封入式防振装置100ごとのキャビテーションを抑制する効果がばらつくという虞がある。
【0064】
これに対して、本実施形態の液封入式防振装置200では、バイパス274よりも径方向外方に仕切部56が一定の距離存在するので、仕切部56がゴム膜222に対して食い込む量(即ち、ゴム膜222が凹溝57に対して径方向内方に入り込む量)のばらつきが大きい場合であっても、その食い込み量のばらつきを考慮して、ゴム膜222によって塞がらないように凹設溝262を径方向内方に配置することができる。ゴム膜222が凹溝57に対して径方向内方に入り込む量に関係なく、バイパス274の流路断面積のばらつきを小さくできる。よって、液封入式防振装置200ごとのキャビテーションを抑制する効果を安定にできる。
【0065】
次に、
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)を参照して、第3実施形態における液封入式防振装置300について説明する。第2実施形態では、バイパス274の延設方向が軸方向に沿うように形成されるのに対して、第3実施形態では、軸方向に直交する平面に対してバイパス374の延設方向が所定の延設角度θだけ傾斜するように形成される。
【0066】
図9(a)は、第3実施形態における液封入式防振装置300の断面図であり、
図9(b)は、
図9(a)のIXb-IXb線における液封入式防振装置300の断面図であり、
図9(c)は、
図9(a)のIXc-IXc線における液封入式防振装置300の断面図である。なお、
図9(a)は、
図8(a)に対応する。また、第2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0067】
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)に示すように、第3実施形態における液封入式防振装置300は、一方および他方のオリフィス形成部材350において、仕切部56の第1凹溝57a側の面から仕切部56の周方向の端面に向かって貫通する貫通孔362が形成される。
【0068】
これにより、一対のオリフィス形成部材350が互いに上下反転された姿勢とされ、仕切部56の端面どうしが互いに突き合わされることで、オリフィス73の流路断面積よりも小さく且つオリフィス73よりも流路長さが短い流路であって、オリフィス73の2点間を連通させるバイパス374を形成できる。バイパス374は、一方のオリフィス形成部材350の第1凹溝57aから他方のオリフィス形成部材350の第2凹溝57bに向けて直線状に延設され、そのバイパス374の延設方向は、軸方向に直交する平面に対して一方のオリフィス形成部材350の連通開口61から他方のオリフィス形成部材350の連通開口61に向けて傾斜する方向となる。このとき、軸方向に直交する平面に対するバイパス374の延設角度θは、略45度以上かつ略90度未満とされる。
【0069】
本実施形態では、軸方向に直交する平面に対してバイパス374の延設角度θが90度未満とされるので、オリフィス73からバイパス374に液体が流入する角度を緩やかにすることができる。よって、バイパス374に液体を案内し易くできる。その結果、比較的大きな振幅の入力時に、液体がバイパス374を流動し易くできるので、バイパス374を介して液体を流動させることでき、第1液室71及び第2液室72の負圧を低減して、キャビテーションの発生を抑制し易くできる。
【0070】
本実施形態では、軸方向に直交する平面に対してバイパス374の延設角度θが45度以上とされるので、延設角度が45度未満とされる場合と比較して、凹溝57とバイパス374とで挟まれる仕切部56の軸方向の厚さを確保できる。よって、オリフィス形成部材350を製造する際に、仕切部56の軸方向の厚さ不足による欠けなどを発生し難くできる。
【0071】
次に、
図10(a)を参照して、第4実施形態における液封入式防振装置400について説明する。第1実施形態では、一対のオリフィス形成部材50によって凹設溝62が形成する形状が軸方向視略矩形の開口(切り欠き)であったのに対して、第4実施形態では、一対のオリフィス形成部材450によって凹設溝462が形成する形状が軸方向視略台形の開口(切り欠き)とされる。
【0072】
図10(a)は、第4実施形態における液封入式防振装置400の断面図である。なお、
図10(a)は、
図5(c)に対応する。また、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0073】
図10(a)に示すように、液封入式防振装置400の一対の凹設溝462が形成する形状は、軸方向視台形の開口とされるので、一対の凹設溝462と外側部材20のゴム膜22とで形成されるバイパス474の径方向外方の周方向の寸法が径方向内方の周方向の寸法よりも大きくされる。そのため、オリフィス73を流れる液体のうちの径方向外方の部分を流れる比較的流速の速い液体をバイパス474に流し易くできる。また、径方向内方の周方向の寸法が径方向外方の周方向の寸法よりも小さいので、オリフィス73を流れる液体のうちの径方向内方の部分を流れる液体をオリフィス73に流し易くできる。よって、減衰特性を確保しつつ、キャビテーションの発生を抑制できる。
【0074】
次に、
図10(b)を参照して、第5実施形態における液封入式防振装置500について説明する。第1実施形態では、バイパス74が形成される領域に対応する底面部54の外周面と、それ以外の部分の底面部54の外周面とが軸線Oを中心とする同一円周上に形成される形状であったのに対して、第5実施形態では、バイパス74が形成される領域に対応する部分およびその部分の周方向の近傍を含む底面部54の形成領域外周面54a1がそれ以外の部分の底面部54の非形成領域外周面54a2よりも径方向内方に凹む形状とされる。
【0075】
図10(b)は、第5実施形態における液封入式防振装置500の断面図である。なお、
図10(b)は、
図5(c)に対応する。また、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0076】
図10(b)に示すように、第5実施形態における液封入式防振装置500は、一方および他方のオリフィス形成部材550の底面部54の外周面54aが、軸方向視において径方向外方にバイパスが形成される領域およびその領域の周方向の近傍を含む領域に対応する形成領域外周面54a1と、その形成領域外周面54a1の周方向の両端に隣接される(形成領域外周面54a1以外の部分である)非形成領域外周面54a2とを備える。
【0077】
形成領域外周面54a1は、軸方向視において非形成領域外周面54a2の周方向の両端を延長して形成される仮想円Cよりも径方向内方となる領域に位置される。仮想円Cは、軸線Oを中心とする非形成領域外周面54a2と同心上に形成され、且つ、非形成領域外周面54a2の直径の大きさと同じ大きさの直径に形成される。本実施形態では、軸方向視において、非形成領域外周面54a2は、軸線Oを中心とする円弧状とされ、形成領域外周面54a1は、非形成領域外周面54a2の円弧上の2点を結んだ直線状の弦とされる。なお、本実施形態の形成領域外周面54a1は、軸方向視において径方向外方にバイパスが形成される領域よりも周方向に大きい領域の外周面であったが、軸方向視において径方向外方にバイパスが形成される領域と同じ大きさ、又は、それよりも小さいものであっても良い。また、本実施形態の形成領域外周面54a1は、非形成領域外周面54a2の円弧上の2点から径方向内方に凹む円弧状であっても良い。
【0078】
これにより、本実施形態では、形成領域外周面54a1からバイパス74までの距離を大きくすることができる。よって、オリフィス73のうちの径方向内方側を流れる液体の量を多くして、オリフィス73に液体を流れ易くできる。その結果、減衰特性を確保できる。
【0079】
次に、
図11を参照して、第6実施形態における液封入式防振装置600について説明する。第3実施形態では、バイパス374の延設方向が軸方向に直交する平面に対して直線状に傾斜するようにバイパス374が形成されるのに対して、第6実施形態では、バイパス674の延設方向が軸方向に直交する平面に対して傾斜し、且つ、一対のオリフィス形成部材650どうしが突き合わされた部分で屈曲するようにバイパス674が形成される。
【0080】
図11は、第6実施形態における液封入式防振装置600の断面図である。なお、
図11は、
図8(b)に対応する。また、第3実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0081】
図11に示すように、第6実施形態における液封入式防振装置600は、バイパス674の延設方向が軸方向に直交する平面に対して傾斜し、且つ、一対のオリフィス形成部材650どうしが突き合わされた部分で屈曲するようにバイパス674が形成されるので、液体がバイパス674に流れる流入角度およびバイパス674の周方向の寸法Lbの大きさを第1凹溝57a側と第2凹溝57b側とで異なるものとできる。そのため、バイパス674に対して、液体が流入し易い方向と、流入し難い方向とを生じさせることができる。その結果、第1液室71からオリフィス73及びバイパス674を介して第2液室72に液体が流れるときのキャビテーションを抑制する大きさと、第2液室72からオリフィス73及びバイパス674を介して第1液室71に液体が流れるときのキャビテーションを抑制する大きさとを異ならせることができる。
【0082】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0083】
上記各実施形態における構成の一部または全部を他の実施形態における構成の一部または全部と組み合わせることは当然可能である。
【0084】
上記各実施形態では、バイパス74,274,374,474,674が、オリフィス73の2点間(第1凹溝57a及び第2凹溝57b)を連通する流路として形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、オリフィス73(第1凹溝57a又は第2凹溝57b)と第1液室71又は第2液室72とを連通する流路として形成しても良い。
【0085】
なお、この場合には、凹設溝を、仕切部56ではなく、第1突部53における立設部55の周方向の端面または第2突部58における立設部60の周方向の端面に形成(凹設)すると共に、その凹設溝(バイパス)と第1液室71又は第2液室72とを連通させるための流路を防振基体30の壁面部36,38に形成する。
【0086】
上記各実施形態では、オリフィス形成部材50~650が、合成樹脂で形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の素材から形成されるものであっても良い。他の素材としては、例えば、鉄やアルミニウム合金などが例示される。
【0087】
上記各実施形態では、凹設溝62,262,462、又は、貫通孔362,662が凹設された状態のオリフィス形成部材50~650を鋳造または射出成型により型成形する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、凹設溝62,262,462、又は、貫通孔362,662が非形成の状態でオリフィス形成部材50~650を鋳造または射出成型により型成形し、別工程(例えば、切削や研削、レーザー加工など)において、凹設溝62,262,462、又は、貫通孔362,662を形成するものであっても良い。この場合には、成形金型を流用しつつ、車種ごとに異なる形状のバイパスを設定できる。
【0088】
上記各実施形態では、仕切部56の端面の正面視における凹設溝62,262,462、又は、貫通孔362,662の形状が、直線からなる又は直線を組み合わせた形状とされる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、曲線からなる又は直線と曲線とを組み合わせた形状であっても良い。
【0089】
上記各実施形態では、バイパス74~674が断面台形状または断面矩形状とされる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の断面形状であっても良い。他の断面形状としては、例えば、断面半円状、断面U字状、断面V字状などが例示される。また、上記各実施形態では、凹設溝62,262,462、又は、貫通孔362,662の径方向の外周面は、仕切部56の径方向の外周面の接線と平行な直線状に形成される場合について説明したが、仕切部56の径方向の外周面に沿った円弧状に形成されても良い。
【0090】
上記各実施形態では、第6実施形態を除き、バイパス74~474は、一方から他方の開口に向かって流路断面積が一定である場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。バイパス74~474は、一方から他方の開口に向かって流路断面積が小さく、又は、大きくなるものであっても良い。この場合、第1液室71から第2液室72に液体が流動する場合と、第2液室72から第1液室71に液体が流動する場合とで、減衰特性およびキャビテーションの抑制効果とを異なるものとできる。
【0091】
上記各実施形態では、バイパス74~674は、仕切部56に開口する部分に面取りを設けても良い。この場合、オリフィス73に流れる液体をバイパス74~674に案内し易くできる。
【0092】
上記各実施形態では、バイパス74~674は、周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laの略3倍である場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。バイパス74~674は、周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laの略1.5倍から略5倍までの範囲に設定されるものであっても良い。周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laの略1.5倍よりも大きいので、略1.5倍よりも小さい場合と比べて、オリフィス73の流路断面の径方向の寸法に対して、バイパス74の開口が径方向に占める範囲を小さくできる。さらに、オリフィス73を液体が流れる流動方向(周方向)に沿ってバイパス74~674の開口の長さ(周方向の寸法Lb)を確保できる。また、周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laの略5倍よりも小さいので、バイパス74~674の径方向の開口の長さ(径方向の寸法La)を確保できる。よって、外側部材20,220のゴム膜22,222がバイパス74~674に対して径方向内方に入り込んだとしても、バイパス74~674が開口する流路断面積を確保できる。
【0093】
上記各実施形態では、バイパス74~674は、周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laよりも大きい場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。周方向の寸法Lbが径方向の寸法Laよりも小さいものであっても良い。
【0094】
上記各実施形態では、バイパス74~674の径方向の寸法Laは、バイパス74~674が底面部54の外周面54aから径方向外方に離隔する距離より小さい寸法とされる場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。バイパス74~674の径方向の寸法Laがバイパス74~674が底面部54の外周面54aから径方向外方に離隔する距離よりも大きい寸法とされても良い。
【0095】
上記各実施形態では、バイパス74~674は、一対のオリフィス形成部材50~650のうちの一方の立設部55の連通開口61から仕切部56のバイパス74~674までのオリフィス73の流路長さと、他方の立設部55の連通開口61から仕切部56のバイパス74~674までのオリフィス73の流路長さとが略同一の位置となるように形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。オリフィス73は、一方側の流路長さが他方側の流路長さより長くなるように形成されても良い。また、他方側の流路長さが一方側の流路長さよりも長くなるように形成されても良い。この場合、第1液室71から第2液室72に液体が流動する場合と、第2液室72から第1液室71に液体が流動する場合とで、減衰特性およびキャビテーションの抑制効果とを異なるものとできる。
【符号の説明】
【0096】
100,200,300,400,500,600 液封入式防振装置
10 内側部材(内筒)
20,220 外側部材(外筒)
30 防振基体
50,250,350,450,550,650 オリフィス形成部材
54,59 底面部(周壁部)
54a 外周面
54a1 形成領域外周面(第1外周面)
54a2 非形成領域外周面(第2外周面)
55 立設部(第1張出部)
56 仕切部(第2張出部)
56a 外縁
61 連通開口(開口部)
62,262,462 凹設溝(切り欠き、開口、凹部)
362,662 貫通孔(開口)
71 第1液室
72 第2液室
73 オリフィス
74,274,374,474,674 バイパス
C 仮想円
La 径方向の寸法
Lb 周方向の寸法
θ 延設角度