(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092766
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】金属印刷用インキ組成物および印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/105 20140101AFI20240701BHJP
【FI】
C09D11/105
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208913
(22)【出願日】2022-12-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】592057961
【氏名又は名称】マツイカガク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】庄司 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】植田 俊
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AE06
4J039BA04
4J039BA13
4J039BA21
4J039BC03
4J039BC07
4J039BC10
4J039BE01
4J039BE12
4J039EA43
4J039FA01
(57)【要約】
【課題】金属基材の表面に印刷する際のミスチングが抑えられ、かつ、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい、金属印刷用インキ組成物および印刷物を提供する。
【解決手段】顔料と樹脂と溶剤とを含み、樹脂は、脂肪酸を20~40質量%含み、溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と、炭素数が8~20であるアルコールとを含み、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤との配合割合(質量比)は、4/6~8/2であり、炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、0.5~8.0質量%である、金属印刷用インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂と溶剤とを含み、
前記樹脂は、脂肪酸を20~40質量%含み、
前記溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と、炭素数が8~20であるアルコールとを含み、
前記親水性溶剤と、前記炭素数が10~32である炭化水素系溶剤との配合割合(質量比)は、4/6~8/2であり、
前記炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、0.5~8.0質量%である、金属印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記炭素数が10~32である炭化水素系溶剤は、アルキルベンゼンを含む、請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記親水性溶剤は、ポリアルキレングルコールを含む、請求項1または2記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の金属印刷用インキ組成物が、基材に印刷された、印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属印刷用インキ組成物に関する。より詳細には、本発明は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングが抑えられ、かつ、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい、金属印刷用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶などの金属容器の表面には、金属印刷用インキ組成物が印刷され、各種意匠や成分表示等が設けられる。金属印刷用インキ組成物は、特に高極性の溶媒を含んでいる場合、印刷中にロールからインキ組成物が霧状に飛散する現象(ミスチング)を生じやすい。このようなミスチングを抑えるために、低極性の溶媒を配合したインキ組成物が開発されている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インキ組成物から得られた印刷層には、仕上げ加工としてニス組成物がオーバーコートされる場合がある。特に海外では、環境負荷低減を目的として溶剤成分を削減した水性オーバープリントニスが用いられる場合が多い。特許文献1に記載の金属印刷インキ組成物から得られる印刷層は、水の含有量が多い水性オーバープリントニスを付与すると、表面にハジキ(凹凸)を生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、金属基材の表面に印刷する際のミスチングが抑えられ、かつ、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい、金属印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の金属印刷用インキ組成物には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)顔料と樹脂と溶剤とを含み、前記樹脂は、脂肪酸を20~40質量%含み、前記溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と、炭素数が8~20であるアルコールとを含み、前記親水性溶剤と、前記炭素数が10~32である炭化水素系溶剤との配合割合(質量比)は、4/6~8/2であり、前記炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、0.5~8.0質量%である、金属印刷用インキ組成物。
【0008】
このような構成によれば、金属印刷用インキ組成物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングを生じにくい。また、金属印刷用インキ組成物は、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい。
【0009】
(2)前記炭素数が10~32である炭化水素系溶剤は、アルキルベンゼンを含む、(1)記載の金属印刷用インキ組成物。
【0010】
このような構成によれば、金属印刷用インキ組成物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングをより生じにくい。
【0011】
(3)前記親水性溶剤は、ポリアルキレングルコールを含む、(1)または(2)記載の金属印刷用インキ組成物。
【0012】
このような構成によれば、金属印刷用インキ組成物は、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキをより生じにくい。
【0013】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の金属印刷用インキ組成物が、基材に印刷された、印刷物。
【0014】
このような構成によれば、印刷物は、上記実施形態の金属印刷用インキ組成物が、金属基材に印刷された、印刷物である。そのため、印刷物は、印刷層上に、水性オーバープリントニスが塗工された場合であっても、インキ組成物とニス組成物との間にハジキを生じにくく、表面に凹凸を生じにくい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属基材の表面に印刷する際のミスチングが抑えられ、かつ、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい、金属印刷用インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<金属印刷用インキ組成物>
本発明の一実施形態の金属印刷用インキ組成物(以下、インキ組成物ともいう)は、顔料と樹脂と溶剤とを含む。樹脂は、脂肪酸を20~40質量%含む。溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と、炭素数が8~20であるアルコールとを含む。親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤との配合割合(質量比)は、4/6~8/2である。炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、0.5~8.0質量%である。以下、それぞれについて説明する。
【0017】
(顔料)
顔料は特に限定されない。一例を挙げると、顔料は、各種無機顔料または有機顔料である。
【0018】
無機顔料、有機顔料は、耐熱性、耐光性、レトルト耐性を有するものであることが好ましい。無機顔料は、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック等である。有機顔料は、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、キノフタロン系顔料等である。
【0019】
顔料の含有量は、種類や目的によって適宜調整され得る。一例を挙げると、顔料の含有量は、インキ組成物中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、顔料の含有量は、インキ組成物中、60質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有量が上記範囲内であることにより、インキ組成物は、良好な着色力、隠ぺい力を示し、分散安定性にも優れる。
【0020】
樹脂は、後述する溶剤(特に親水性溶剤、および、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤)との相溶性を示し、インキ組成物から得られる印刷層の水性オーバープリントニス適性の確保、顔料の分散安定性、印刷に適したインキ粘弾性の付与、基材へのインキ転移性の向上の為に配合される。
【0021】
樹脂は、脂肪酸を20~40質量%含む点以外は特に限定されない。例を挙げると、樹脂は、脂肪酸で変性されたアルキッド樹脂、フェノール樹脂等である。なお、本明細書において脂肪酸の含有量とは、脂肪酸を由来とする構成単位の含有量を意味する。
【0022】
脂肪酸で変性されたアルキッド樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの縮合物を骨格とするアルキッド樹脂であることが好ましい。また、脂肪酸で変性されたアルキッド樹脂は、脂肪酸または脂肪酸の水素添加物、油またはその水素添加物、1価の酸等で変性した樹脂であってもよい。アルキッド樹脂の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、アルキッド樹脂の製造方法は、油を原料とするエステル交換法、脂肪酸を原料とする脂肪酸法など、公知の方法である。
【0023】
多塩基酸は、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族2塩基酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式2塩基酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、フマル酸等の脂肪族2塩基酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物等の多塩基酸等である。
【0024】
多価アルコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの4価以上のアルコール等である。
【0025】
油、脂肪酸は、アマニ油、キリ油、サフラワー油、大豆油、トール油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヒマワリ油、ヤシ油、これら油の脂肪酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等である。また、これらの脂肪酸以外の一塩基酸として、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、アビエチン酸などが併用されてもよい。
【0026】
アルキッド樹脂の重量平均分子量は、3,000以上であることが好ましく、4,000以上であることがより好ましい。また、アルキッド樹脂の重量平均分子量は、30,000以下であることが好ましく、25,000以下であることがより好ましい。アルキッド樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、印刷適性においてミスチングが抑制されやすい。また、アルキッド樹脂は、樹脂粘度が適切であり、得られるインキ組成物は、インキ形状、印刷適性のバランスがよい。なお、本実施形態において、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography,SEC)により測定し得る。
【0027】
アルキッド樹脂の酸価は特に限定されない。一例を挙げると、酸価は、0.1mgKOH/g以上であることが好ましく、1.0mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であることにより、インキ組成物は、適正な流動性を確保でき、転移性への影響を極力回避することができる。本実施形態において、酸価は、樹脂1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で定義される。
【0028】
樹脂全体の説明に戻り、樹脂に含まれる脂肪酸の含有量は、樹脂中、20質量%以上であればよく、25質量%以上であることが好ましい。また、樹脂に含まれる脂肪酸の含有量は、樹脂中、40質量%以下であればよく、35質量%以下であることが好ましい。脂肪酸の含有量が20質量%未満である場合、樹脂は、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と混ざりにくい。一方、脂肪酸の含有量が40質量%を超える場合、インキ組成物は、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合において、ハジキを生じやすい。
【0029】
本実施形態の樹脂は、アルキッド樹脂に加え、従来、用いられるインキ用樹脂が併用されてもよい。すなわち、印刷適性等の要求性能に応じて、インキ組成物は、アルキッド樹脂と相溶する公知の樹脂が併用され得る。インキ用樹脂は、上記したアルキッド樹脂以外のアルキッド樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アミノ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等である。
【0030】
樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、樹脂の含有量は、インキ組成物中、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、樹脂の含有量は、インキ組成物中、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
(溶剤)
溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤と、炭素数が8~20であるアルコールとを含む。本実施形態のインキ組成物は、これらの溶剤が配合されることにより、本来はトレードオフの関係にある、ミスチングの発生とハジキとをいずれも良好に抑え得る。
【0032】
・親水性溶剤
親水性溶剤は特に限定されない。一例を挙げると、親水性溶剤は、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、ラクタム系溶剤、アミド系溶剤等である。
【0033】
グリコール系溶剤は、ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール等である。
【0034】
グリコールエーテル系溶剤は、ポリアルキレングリコールエーテル、アルキレングリコールエーテル等である。
【0035】
本実施形態の親水性溶剤は、ポリアルキレングリコールを含むことが好ましい。これにより、金属印刷用インキ組成物は、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキをより生じにくい。
【0036】
ポリアルキレングリコールは特に限定されない。一例を挙げると、ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体)、ポリ(メチル-エチレン)グリコール、ポリブチレングリコール等である。また、ポリアルキレングリコールは、2種以上の異なるアルキレンオキサイドを用いて得られるポリアルキレングリコールのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物であってもよい。
【0037】
ポリアルキレングリコールエーテルは、ブチルアルコールのポリオキシプロピレンエーテル、2-エチル-1-ヘキサノールのポリオキシエチレンエーテル、2-エチル-1-ヘプタノールのポリオキシエチレンエーテル、2-エチル-1-オクタノールのポリオキシエチレンエーテル、ラウリルアルコール(ドデカン-1-オール)のポリオキシエチレンエーテル、セチルアルコール(ヘキサデカン-1-オール)のポリオキシエチレンエーテル、ステアリルアルコール(1-オクタデカノール)のポリオキシエチレンエーテル、オレイルアルコール((E)-オクタデク-9-エン-1-オール)のポリオキシエチレンエーテル、またはステアリルアルコールとセチルアルコールの混合物(セチルステアリルアルコール)のポリオキシエチレンエーテル等である。
【0038】
親水性溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、親水性溶剤の含有量は、インキ組成物中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、親水性溶剤の含有量は、インキ組成物中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。親水性溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、インキ組成物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングをより生じにくく、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい。
【0039】
・炭素数が10~32である炭化水素系溶剤
炭素数が10~32である炭化水素系溶剤は特に限定されない。一例を挙げると、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤は、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤石油系炭化水素溶剤等である。
【0040】
芳香族炭化水素系溶剤は、リニアアルキルベンゼン、ブランチアルキルベンゼン等のアルキルベンゼンを含む。本実施形態の炭素数が10~32である炭化水素系溶剤は、アルキルベンゼンを含むことが好ましい。これにより、インキ組成物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングを、より生じにくい。なお、本実施形態において、「リニアアルキルベンゼン」とは、ベンゼン環の水素の一つが直鎖の飽和炭化水素で置換されたアルキルベンゼンである点において、分岐鎖をもつ飽和炭化水素で置換された「ブランチアルキルベンゼン」と区別される。
【0041】
脂肪族炭化水素系溶剤は特に限定されない。例を挙げると、脂肪族炭化水素系溶剤は、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式飽和炭化水素、脂環式不飽和炭化水素の炭化水素である。
【0042】
炭素数が10~32である炭化水素系溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤の含有量は、インキ組成物中、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤の含有量は、インキ組成物中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。炭素数が10~32である炭化水素系溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、インキ組成物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングをより生じにくく、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくい
【0043】
・炭素数が8~20であるアルコール
炭素数が8~20であるアルコールは特に限定されない。一例を挙げると、炭素数が8~20であるアルコールは、イソオクタデシルアルコール(C18)、トリデカノール(C13)、ドデシルアルコール(C12)、1-デカノール(C10)等の高級アルコール等である。
【0044】
炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、インキ組成物中、0.5質量%以上であればよく、1.0質量%以上であることが好ましい。また、炭素数が8~20であるアルコールの含有量は、インキ組成物中、8.0質量%以下であればよく、5.0質量%以下であることが好ましい。炭素数が8~20であるアルコールの含有量が0.5質量%未満である場合、インキ組成物は、それぞれの溶剤と樹脂との間で分離が発生しやすくなる。一方、炭素数が8~20であるアルコールの含有量が8.0質量%を超える場合、インキ組成物は、得られる印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合において、ハジキを生じやすい。
【0045】
溶剤全体の説明に戻り、本実施形態の溶剤は、親水性溶剤と、炭素数が10~32である炭化水素系溶剤との配合割合(質量比)が、4/6~8/2であり、5/5~7/3であることが好ましい。親水性溶剤の含有量が上記配合比から外れる場合、それぞれの溶剤間において分離が生じたり、それぞれの溶剤と上記樹脂との間に分離を生じたりしやすく、ミスチングの発生やハジキの発生を同時に抑制することができない。
【0046】
(任意成分)
本実施形態のインキ組成物は、上記した顔料、樹脂および溶剤のほか、体質顔料、分散剤等の任意成分を含んでもよい。
【0047】
体質顔料は、インキ組成物に粘弾性を付与したり、流動性を調整したり、ミスチングを防止する等のために、好適に含まれる。
【0048】
体質顔料は特に限定されない。一例を挙げると、体質顔料は、クレー、タルク、マイカ、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ベントナイト、重質炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ジルコニア、アルミナ等である。
【0049】
体質顔料が含まれる場合において、体質顔料の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、体質顔料の含有量は、インキ組成物中、0質量%を超えることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、体質顔料の含有量は、インキ組成物中、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。体質顔料の含有量が上記範囲内であることにより、インキ組成物は、粘弾性、流動性が調整されやすく、ミスチングが抑制されやすい。
【0050】
分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、カルボジイミド系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、変性ポリアクリレート系分散剤、変性ポリウレタン系分散剤、多鎖型高分子非イオン系分散剤、高分子イオン活性剤等である。
【0051】
分散剤が含まれる場合において、分散剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤の含有量は、着色剤を100質量%とした場合において、1~200質量%であることが好ましい。
【0052】
本実施形態のインキ組成物の調製方法は特に限定されない。一例を挙げると、インキ組成物は、ロールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いて、常法によって調製することができる。
【0053】
<印刷物>
本発明の一実施形態の印刷物は、上記実施形態の金属印刷用インキ組成物が、金属基材に印刷された、印刷物である。以下、一例として、金属板またはベースコート層を設けた金属基材に、上記したインキ組成物が印刷されて形成された印刷層とからなる印刷物について説明する。
【0054】
上記実施形態のインキ組成物は、金属基材に印刷されて、印刷層を形成する。金属基材は特に限定されない。一例を挙げると、金属板は、ステンレススチール、アルミニウム、錫メッキ鋼板、ティンフリースチール等の金属基材、または、これらの金属基材上にベースコート(プライマー)層を設けた金属下地板等である。ベースコート層の形成には、たとえば金属印刷において一般的に用いられるサイズ塗料やホワイトコーティングなどのベースコート用組成物が用いられてもよい。また、金属基材は、PETフィルムがラミネート処理されていてもよい。
【0055】
金属基材に本実施形態のインキ組成物を印刷する方法は特に限定されない。例を挙げると、印刷方法は、湿し水を利用したオフセット方式、ドライオフセット方式、水無し平版オフセット方式等の通常の印刷方式である。本実施形態の印刷物は、上記したインキ組成物が用いられる。そのため、印刷物は、金属基材の表面に印刷する際のミスチングを生じにくい。
【0056】
得られたインキ層上には、水性オーバープリントニスが塗工され、ニス層が形成される。水性オーバープリントニスは特に限定されない。例を挙げると、水性オーバープリントニスは、水溶性樹脂(水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性アルキッド樹脂、水溶性エポキシ樹脂等)、皮膜強化剤(ワックス)、造膜助剤(高沸点溶剤)、湿潤剤(界面活性剤)、水と混ざり合う有機溶剤、水等からなる。
【0057】
ニス層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、ニス層は、ニス組成物をロールコーター塗装し、150℃~250℃で5秒~15分間加熱乾燥されることによって形成し得る。
【0058】
ニス層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、ニス層の厚みは、3μm以上であることが好ましい。また、ニス層の厚みは、10μm以下であることが好ましい。ニス層の厚みが上記範囲内であることにより、印刷物は、傷や衝撃からの保護効果、耐久性が高くなる。
【0059】
本実施形態の印刷物は、上記実施形態の金属印刷用インキ組成物が、金属基材に印刷された、印刷物である。そのため、印刷物は、印刷層上に、水性オーバープリントニスが塗工された場合であっても、インキ組成物とニス組成物との間にハジキを生じにくく、表面に凹凸を生じにくい。
【実施例0060】
以下、実施例と比較例とにより本発明をより詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されない。なお、表中の各数値は質量%基準によるものである。
【0061】
使用した原料の詳細および合成方法は、以下の通りである。
<顔料>
カーボンブラック:商品名 三菱カーボンブラックMA7、販売者名 三菱ケミカル株式会社
<樹脂>
(樹脂1の合成方法)
ヤシ油脂肪酸15.0部、トリメチロールプロパン22.0部、ペンタエリスリトール22.0部、無水フタル酸48.0部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量15%、酸価7.0mgKOH/g、重量平均分子量7400の脂肪酸変性アルキッド樹脂(樹脂1)を得た。なお脱水量は7.0部であった。
(樹脂2の合成方法)
ヤシ油脂肪酸25.0部、トリメチロールプロパン20.5部、ペンタエリスリトール20.5部、無水フタル酸41.0部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量25%、酸価7.6mgKOH/g、重量平均分子量5700の脂肪酸変性アルキッド樹脂(樹脂2)を得た。なお脱水量は7.0部であった。
(樹脂3の合成方法)
ヤシ油脂肪酸35.0部、トリメチロールプロパン19.0部、ペンタエリスリトール19.0部、無水フタル酸34.0部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量35%、酸価6.6mgKOH/g、重量平均分子量4100の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た(樹脂3)。なお脱水量は7.0部であった。
(樹脂4の合成方法)
ヤシ油脂肪酸45.0部、トリメチロールプロパン17.5部、ペンタエリスリトール17.5部、無水フタル酸27.0部を常法にてエステル化し、脂肪酸含有量45%、酸価7.8mgKOH/g、重量平均分子量2500の脂肪酸変性アルキッド樹脂を得た(樹脂4)。なお脱水量は7.0部であった。
<親水性溶剤>
ポリプロピレングリコール:商品名 サンニックスPP400、販売者名 三洋化成工業株式会社
ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル:商品名 ノニオンEH-208、販売者名 日油株式会社
<炭素数が10~32である炭化水素系溶剤>
リニアアルキルベンゼン1:商品名 Linear Alkylbenzene、販売者名 三井物産ケミカル株式会社、炭素数16~19
リニアアルキルベンゼン2:商品名 アルケン200P、販売者名 新日本石油化学株式会社、炭素数19~31
αオレフィン:商品名 リニアレン168、販売者名 出光興産株式会社、炭素数16~18
<炭素数が8~20であるアルコール>
イソオクタデカノール:商品名 ファインオキソコール180A、販売者名 日産化学株式会社、炭素数18
トリデカノール:商品名 トリデカノール、販売者名 KHネオケム株式会社、炭素数13
<その他>
体質顔料:商品名 HF#5000PJ、販売者名 松村産業株式会社
分散剤:商品名 SOLSPERSE20000、販売者名 日本ルーブリゾール株式会社
【0062】
<実施例1>
表1に記載の処方に従い、各成分を混合した後、3本ロールミルを用いてインキ化することにより、実施例1のインキ組成物を調製した。得られたインキ組成物について、以下の評価方法により、保存安定性、水性仕上げニス適性、転移性およびミスチングを評価した。結果を表1に示す。
【0063】
<実施例2~10、比較例1~6>
表1に記載の処方に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、インキ組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0064】
<保存安定性>
作製されたインキ組成物を、室温(約25℃)で1週間静置し、溶剤の分離の有無を目視で観察した。
(評価基準)
○:溶剤は、分離していなかった。
○△:溶剤は、極わずかに分離したが実用上は問題の無い程度であった。
△:溶剤は、若干分離した。
×:溶剤は、強く分離した。
【0065】
<水性オーバープリントニス適性>
金属板(アルミニウム)に、印刷適性試験機PM-9000PTを用いて、インキ印刷速度8.0m/sという条件で、インキ組成物を展色し、膜厚が1.5μmの印刷層を形成した。印刷層上に、水性オーバープリントニス(AkzoNobel社製 Aquaprime105)を塗膜量25~35mg/100cm2、ニス塗装速度2.0m/sという条件で塗布し、ハジキや凝集の有無を目視および拡大鏡(10倍)で観察した。
(評価基準)
○:ハジキおよび凝集は、発生しなかった。
○△:ハジキは発生せず、僅かに凝集が発生したが実用上は問題の無い程度であった。
△:僅かにハジキが発生し、凝集が強く発生した。
×:ハジキおよび凝集が強く発生した。
※本実施形態において凝集とはインキ組成物上に水性オーバープリントニスを塗工することによって印刷層に縮みが生じ、印刷層によって被覆されていた金属板表面が露出する現象を指す。
【0066】
<転移性>
金属板(アルミニウム)に印刷適性試験機PM-9000PTを用いて、インキ印刷速度8.0m/sという条件で印刷を行い、膜厚が1.5μmの印刷層を形成し、金属板へのインキの着肉、金属板表面の露出の状態を拡大鏡(10倍)で観察した。
(評価基準)
○:インキが均一に着肉しており、金属板表面が殆ど露出していない状態であった。
○△:インキが均一に着肉しているが、金属板表面がやや露出している状態。実用上は問題の無い程度であった。
△:インキが均一に着肉しておらず、金属板表面が多く露出している状態であった。
×:インキが殆ど着肉しておらず、金属板表面の殆どが露出している状態であった。
【0067】
<ミスチング>
インコメーターのロール上に、2.62ccのインキ組成物を載せ、40℃、2400rpmで5秒間、ロールを回転させた際の、ロール下部へのインキ組成物の飛散量を評価した。
(評価基準)
○:インキ組成物の飛散量は、10mg以下であった。
○△:インキ組成物の飛散量は、10mgを超え、20mg以下であった。
△:インキ組成物の飛散量は、20mgを超え、30mg以下であった。
×:インキ組成物の飛散量は、30mgを超えた。
【0068】
【0069】
表1に記載のとおり、本発明の実施例1~10のインキ組成物は、金属基材の表面に印刷した際に、ミスチングが抑えられ、かつ、転移性が良好であった。また、本発明の実施例1~10のインキ組成物は、得られた印刷層に水性オーバープリントニスを塗工する場合であっても、ハジキを生じにくかった。さらに、本発明の実施例1~10のインキ組成物は、保存安定性が良好であった。