(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092777
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】動揺病抑制装置
(51)【国際特許分類】
A61F 7/00 20060101AFI20240701BHJP
B60N 2/56 20060101ALN20240701BHJP
A47C 7/74 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
A61F7/00 320Z
A61F7/00 310Z
B60N2/56
A47C7/74 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208928
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
4C099
【Fターム(参考)】
3B084JC11
3B084JF00
3B087DE10
4C099AA01
4C099CA01
4C099CA07
4C099CA11
4C099EA02
4C099EA08
4C099GA02
4C099GA22
4C099HA02
4C099HA03
4C099JA01
4C099LA01
4C099LA21
4C099PA01
(57)【要約】
【課題】個人差の影響を抑えつつ、動揺病を抑制することが可能な動揺病抑制装置を提供すること。
【解決手段】
動揺病抑制装置は、対象者の深部体温を調整して対象者の動揺病を抑える抑制部(10)を備える。概日リズムに基づいて想定される深部体温の単位時間あたりの変化幅を基準幅としたとき、抑制部は、対象者における深部体温の単位時間あたりの変化が基準幅より小さくなるように対象者の深部体温を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動揺病抑制装置であって、
対象者の深部体温を調整して前記対象者の動揺病を抑える抑制部(10)を備え、
概日リズムに基づいて想定される前記深部体温の単位時間あたりの変化幅を基準幅としたとき、前記抑制部は、前記対象者における前記深部体温の単位時間あたりの変化が前記基準幅より小さくなるように前記対象者の前記深部体温を調整する、動揺病抑制装置。
【請求項2】
前記基準幅は、0.2℃である、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項3】
前記抑制部は、報知装置によって、咀嚼動作を所定時間継続することを促す情報を前記対象者に伝える情報伝達部(11)を含んでいる、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項4】
前記情報伝達部は、前記咀嚼動作を継続するためにガムの咀嚼を提案する、請求項3に記載の動揺病抑制装置。
【請求項5】
前記抑制部は、酸素飽和度が85%~95%となるように、前記対象者の周囲の空間の吸入酸素分圧を調整する分圧調整部(14)を含んでいる、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項6】
前記分圧調整部は、前記吸入酸素分圧が50~80Torrとなるように調整する、請求項5に記載の動揺病抑制装置。
【請求項7】
前記抑制部は、前記対象者の周囲の空間における二酸化炭素の濃度を前記対象者の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整する濃度調整部(15)を含んでいる、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項8】
前記濃度範囲は、1000~50000ppmである、請求項7に記載の動揺病抑制装置。
【請求項9】
前記抑制部は、前記対象者の身体における動静脈吻合を含む局所部位を加温対象として温める局所加温部(16)を含んでいる、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項10】
前記局所部位は、膝下、手先、首筋、頬のいずれか1つを含んでいる、請求項9に記載の動揺病抑制装置。
【請求項11】
前記抑制部は、前記対象者の身体における頭部以外の部位を冷却対象として冷却する冷却部(13)を含んでいる、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
【請求項12】
前記対象者は、車両に搭乗している乗員である、請求項1ないし11のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動揺病抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耳の穴に装着されたデバイスによって患者の前庭に熱的な刺激を与えることで、患者の概日温度サイクルを制御して、船酔いや乗物酔い等を抑える技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、耳の穴の形状や刺激に対する反応の感度には個人差がある。このため、特許文献1の如く、耳の穴に装着させるデバイスを用いる場合、狙いの刺激を付与することができず、動揺病の抑制効果が得られない虞がある。
【0005】
本開示は、個人差の影響を抑えつつ、動揺病を抑制することが可能な動揺病抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
動揺病抑制装置であって、
対象者の深部体温を調整して対象者の動揺病を抑える抑制部(10)を備え、
概日リズムに基づいて想定される深部体温の単位時間あたりの変化幅を基準幅としたとき、抑制部は、対象者における深部体温の単位時間あたりの変化が基準幅より小さくなるように対象者の深部体温を調整する、動揺病抑制装置。
【0007】
本発明者らは、動揺病が生じた際の対象者の深部体温を調査したところ、動揺病が進行する際に、対象者の深部体温が低下する傾向があることが判った。また、本発明者らの更なる調査によると、対象者の深部体温の変化が概日リズムに基づいて想定される深部体温の単位時間あたりの変化幅よりも小さい場合には、個人差がほとんどなく、動揺病の進行が遅れることが確認された。
【0008】
本開示の動揺病抑制装置は、上記の知見に基づいて案出されたものであり、対象者の深部体温の単位時間あたりの変化が基準幅よりも小さくなるように、対象者の深部体温を調整するようになっている。
【0009】
このように、深部体温の変化を小さくすれば、個人差の影響を抑えつつ、動揺病の進行を遅らせることができる。したがって、本開示の動揺病抑制装置によれば、個人差の影響を抑えつつ、動揺病を抑制することができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図2】動揺病が発生した際の人の状態およびMISCの変化を示す図である。
【
図4】人がガムを噛んだ際の深部体温の変化を示す図である。
【
図5】ガムの咀嚼の有無による深部体温変化およびMISC変化の違いを示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図7】第3実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図8】第4実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図9】酸素飽和度と動脈血酸素分圧との関係を示す図である。
【
図10】酸素飽和度と動脈血酸素分圧と吸入気酸素分圧との関係を示す図である。
【
図11】第5実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図12】第6実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図13】二酸化炭素濃度が人の健康状態に与える影響を説明するための図である。
【
図14】第7実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図15】第8実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【
図16】人に対して足湯を行った際の深部体温の変化を示す図である。
【
図17】足湯の有無による深部体温変化およびMISC変化の違いを示す図である。
【
図18】第9実施形態に係る動揺病抑制装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示す本実施形態の動揺病抑制装置1は、車両に搭載される電子制御装置で構成されており、車両に搭載されている。具体的には、動揺病抑制装置1は、車両の運転モードを自動運転モードおよび手動運転モードに切り替え可能な自動運転車両に搭載されている。自動運転モードは、車両に搭乗している乗員が不図示のステアリングホイールやアクセルペダル、ブレーキペダル等を操作することなく車両を自動で走行させることが可能なモードである。これに対して、手動運転モードは、車両に搭乗している乗員が不図示のステアリングホイールやアクセルペダル、ブレーキペダル等を操作して乗員自身の操作で車両走行させることが可能なモードである。
【0014】
そして、自動運転車両に搭載される動揺病抑制装置1は、不図示のCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータで構成されており、非遷移的実体的記憶媒体であるROM、RAMなどの半導体メモリに格納されたコンピュータプログラムを実行する。すなわち、車両に搭載される電子制御装置は、そのコンピュータプログラムに従って種々の制御処理を実行することで動揺病抑制装置1として機能する。車両に搭載される電子制御装置は、ECUと呼ばれるものであって、本実施形態の動揺病抑制装置1は、ECUによって構成される。なお、ECU、はElectronic Control Unitの略である。
【0015】
動揺病抑制装置1は、
図1に示すように乗員の動揺病を抑える抑制部10を備え、乗員の動揺病の発生を抑制するとともに、乗員に発生した動揺病の促進を抑制する。すなわち、乗員は、動揺病が抑えられる対象者であって、動揺病抑制装置1は、車両に搭乗する乗員の動揺病を抑える。動揺病抑制装置1が搭載される車両としては、例えば、乗用車、商用車、またはMaaS車両など種々の車両を想定できる。また、動揺病抑制装置1を用いて動揺病を抑制される乗員としては、例えば、運転者、その運転者以外の乗員など種々の乗員を想定できる。なお、MaaSは、Mobility as a Serviceの略である。
【0016】
ここで、本実施形態の動揺病抑制装置1が抑える動揺病について説明する。動揺病とは、人に吐き気(嘔気)、嘔吐、めまい、顔面蒼白や冷や汗などの症状を発生させるものである。動揺病は、視覚情報(目からの情報)、前庭情報(耳からの情報)および深部感覚情報(筋肉や腱などからの情報)に基づく感覚情報パターンと過去の経験に基づく空間知覚情報パターンとの不整合が生じると発生すると言われている。また、動揺病は、前庭気管内での三半規管情報と耳石情報との不整合が生じると発生すると言われている。
【0017】
感覚情報パターンと空間知覚情報パターンとの不整合は、乗物に乗った状態での読書や携帯電話の操作を行ったり、揺れの大きな乗物に乗ったり、動いている船から波を見たりした場合に生じ易い。また、感覚情報パターンと空間知覚情報パターンとの不整合は、左右が反転して視えるプリズム眼鏡を装着して頭を動かしたり、VRゴーグルまたはHMDを装着した状態や大型ディスプレイで映画等を視聴したりした場合に生じ易い。VRは、Virtual Realityの略である。HMDは、Head Mounted Displayの略である。
【0018】
これに対して、三半規管情報と耳石情報との不整合は、耳石入力に対して三半規管入力が一致しなかったり、宇宙などの無重力環境や悪天候下での飛行機内に存在することで、耳石入力および三半規管入力の一方の入力が欠如したりした場合に生じ易い。
【0019】
乗物に乗った際に発生する動揺病は、乗り物酔いとも呼ばれる。VRゴーグルまたはHMDを装着した際に発生する動揺病は、VR酔いとも呼ばれる。大型ディスプレイで映画等を視聴した際に発生する動揺病は、画面酔いとも呼ばれる。宇宙などの無重力環境下で発生する動揺病は、宇宙酔いとも呼ばれる。
【0020】
ところで、乗物に乗った際に発生する動揺病は、例えば、車両の走行に伴う振動や旋回に伴う荷重によって乗員の視覚による認識と前庭による認識との不整合が生じる際に発生し易い。そして、自動運転モードで走行する自動運転車両では、人が車両を運転する場合に比較して、急発進や急停止などの動作が生じたり、車室内で人がくつろぐことで車室外の景色を見る機会が減ったりすることで、比較的短時間で乗員に動揺病が発生する可能性がある。
【0021】
そこで、乗員は、車両に乗車する際に予め酔い止め薬を服用することで、動揺病の発生を抑制することがある。しかし、酔い止め薬は、一般的に睡眠導入作用を含む。このため、酔い止め薬を服用した乗員は、車両から下車後に活動的な行動を行うことが難しい。また、乗員が短時間の乗車を繰り返す場合に、乗車の度に酔い止め薬を服用すると、生活に支障をきたす虞がある。
【0022】
このため、発明者らは、酔い止め薬を服用することなく動揺病を抑えることを検討した。そして、動揺病が症状を調査することを目的として、以下の実験を行うことで、動揺病が発生する際に生じる人の身体の状態の変化を調査した。
【0023】
まず、7人の被検者A~被検者Gに対して、左右が反転して見えるプリズム眼鏡を装着した状態で首を左右に振らせることで、動揺病を模擬的に発生させて、7人の被検者それぞれの身体の状態の変化を調べた。
図2では、プリズム眼鏡を装着した状態で動揺病が発生し易い周波数である0.25Hzの周期で首を左右に振った際の被検者A~被検者Gそれぞれの動揺病の症状と、身体の状態の変化と、変化が生じるまでに経過した時間を示す。
【0024】
本実施形態では、動揺病の症状を示す指標としてのMISC(Misery Scale)を用いて、動揺病の症状の進行度を
図3に示す「MISC0」~「MISC10」の11段階で説明する。MISCは、値が大きくなるほど、動揺病の症状の進行していることを示す。具体的に、「MISC0」は、人に動揺病の症状が無い状態を示す。「MISC1」は、人に動揺病の症状が略無い状態か、僅かな不快を感じる状態を示す。「MISC2」は、吐き気を感じないが、胃の不快感などが僅かに有る状態を示す。「MISC3」は、吐き気を感じないが、胃の不快感などを「MISC2」より感じる状態を示す。「MISC4」は、吐き気を感じないが、胃の不快感などを「MISC3」よりも強く、はっきりと感じる状態を示す。「MISC5」は、吐き気を感じないが、胃の不快感などを「MISC4」よりも強く、非常に強く感じる状態を示す。「MISC6」は、吐き気を僅か感じる状態を示す。「MISC7」は、吐き気の症状を「MISC6」よりも強く、はっきりと感じる状態を示す。「MISC8」は、吐き気を「MISC7」よりも強く、非常にはっきりと感じる状態を示す。「MISC9」は、吐き気を「MISC8」よりも強く、非常にはっきりと感じ、嘔吐直前の状態を示す。「MISC10」は、嘔吐した状態を示す。
【0025】
発明者らの実験によれば、被検者A~被検者Gは、プリズム眼鏡を装着した状態で首を左右に振る実験を開始してから暫く時間が経過すると、気分が悪くなる兆候を感じ、「MISC1」に到達することが判った。そして、首を振る動作を継続すると、被検者A~被検者Gの身体には、発汗が生じ始めることが判った。そして、更に首を振る動作を継続すると、被検者A~被検者Gは、深部体温が低下し始めることが判った。なお、深部体温は、人の脳や内蔵など体の内部の温度である。
【0026】
ただし、
図2に示すように、実験を開始後「MISC1」に到達するまでの時間、発汗が生じ始めるまでの時間、深部体温が下がり始めるまでの時間それぞれは、被検者A~被検者Gによって異なる。
【0027】
また、実験を開始してから所定時間が経過後における被検者A~被検者Gは、深部体温がそれぞれ異なる温度だけ低下するとともに、被検者A~被検者GそれぞれのMISCが
図2に示す値となった。具体的に、実験を開始してから所定時間が経過後における被検者A~被検者Gは、動揺病の進行度が「MISC2」~「MISC7」のいずれかの値となった。
【0028】
発明者らの鋭意検討によれば、動揺病が生じる場合、人は、まず、気分が悪くなる兆候を感じ、その後、身体に発汗が生じ、そして、深部体温が低下することが判った。そして、動揺病が生じた際の人の深部体温は、動揺病が進行する際に、深部体温が低下していく傾向があることが判った。そして、低下する深部体温の変化の大きさが大きいほど、MISCの値が大きくなり易い傾向があり、これに対して、低下する深部体温の変化の大きさが小さいほど、MISCの値が小さくなり易い傾向があることが判った。
【0029】
ところで、深部体温は、一般的に37℃前後であるところ、概日リズム(すなわち、サーカディアンリズム)によって、約24時間の周期で1℃程度変化する。具体的には、深部体温は、午後に最も高くなるように徐々に変化し、これに対して、明け方に最も低くなるように徐々に変化する。このような深部体温の変化は、人の身体が正常である場合の常態的な変化である。そして、人の身体が正常である場合、概日リズムによって変化する際の深部体温の単位時間当たりの変化幅は、最大でも0.2℃程度である。
【0030】
しかし、人の身体が不調である場合、深部体温が概日リズムに基づいて変動する際の単位時間当たりの変化幅より大きい変化幅で単位時間当たりに変化することがある。そして、そのような深部体温の単位時間当たりに変化幅が概日リズムに基づいて変動する際の単位時間当たりの変化幅より大きいと、人に嘔吐を誘発し易いことが分かっている。例えば、深部体温が10分間で0.2℃の変化幅で上昇または低下する場合、そのような深部体温の変化は、人に嘔吐を誘発する可能性がある。
【0031】
ここで、概日リズムに基づいて想定される深部体温の単位時間当たりの変化幅を基準幅とする。また、概日リズムに基づいて想定される単位時間当たりの変化幅より大きい変化幅であって、人の身体の不調に起因する嘔吐を誘発する単位時間当たりの変化幅を誘発幅とする。
【0032】
そして、発明者らは、動揺病の発生の起因となる深部体温の変動幅が基準幅より小さい場合、個人差がほとんどなく、人は嘔吐を誘発され難いことを見出した。また、発明者らは、動揺病の発生にともなう深部体温の変動量が基準幅より小さい場合、動揺病が生じる虞がある環境下に人がおかれても、「MISC0」~「MISC10」のうち、吐き気の症状が生じ始める「MISC6」に到達し難いことを見出した。
【0033】
例えば、
図2に示すように、深部体温の変化幅が0.2℃であった被検者Dは、所定時間経過後のMISCの値が「MISC6」以下である「MISC2」であった。また、深部体温の変化幅が0.2℃であった被検者Gは、所定時間経過後のMISCの値が「MISC」6以下である「MISC3」であった。
【0034】
このような実験結果から、動揺病が生じる虞がある環境下に人がおかれても、人の深部体温を調整することで、人の動揺病を抑えることが可能であることが判った。そして、発明者らは、人の深部体温を上昇させるように調整することで、人の動揺病を抑える方法を検討した。
【0035】
具体的には、以下に説明する実験を行うことで、被検者が咀嚼動作を行うことで深部体温を上昇させることができることが判った。
図4には、被検者が咀嚼動作を行うことで変動する深部体温を調べるために被検者にガムを咀嚼させる実験を行った際の深部体温の変化を示す。
図4に示す実験は、安静状態にした被検者がガムを噛むという咀嚼動作を10分間行い、咀嚼動作前、咀嚼動作中および咀嚼動作後の深部体温の変化を調べた。なお、深部体温は、温度センサ(3M社の「bair hugger360」)を被検者の額に装着して取得した。また、
図4に示す実験結果は、ガムを10分間噛む実験を複数回行った際の深部体温の平均値の変化を示している。
【0036】
また、
図4に示す実験は、ガムの成分による影響を考慮して、異なる成分を含む2種類のガムを用いて同じ実験をそれぞれのガムを用いて行った。
図4では、実線が2種類のガムの一方の第1ガムを噛んだ場合の被験者の深部体温の変化を示し、破線が2種類のガムの他方の第2ガムを噛んだ場合の被験者の深部体温の変化を示す。
【0037】
図4に示すように、被検者がガムを噛むと、深部体温は、ガムを噛む前に比較して時間の経過に伴い上昇した。具体的に、ガムを噛む動作を継続している間、深部体温は、時間の経過に伴い上昇した。そして、ガムを噛む動作を終了すると、深部体温は、時間の経過に伴い低下した。また、深部体温は、ガムを噛む動作を終了後、15分経過するまで徐々に低下し、その後略一定となった。
【0038】
また、第1ガムを10分間噛むことによって上昇した深部体温の変動幅は、約0.22℃であった。そして、第2ガムを10分間噛むことによって上昇した深部体温の変動幅は、約0.14℃であった。このデータは、同一の被検者が異なる日に5回実施した結果の平均値である。
【0039】
このように、人が咀嚼動作を行うと、深部体温を上昇させることができることが判った。そして、本実験では、ガムを噛む動作を10分間のみ行ったが、咀嚼動作を継続している間は、所定の深部体温までであれば、深部体温を継続して上昇させることができる。これは、ガムを噛むという咀嚼動作を行うことによって、人の脳血流が増加し、脳血流が増加することで深部体温を上昇させることができるためである。
【0040】
そして、発明者らは、人の咀嚼動作によって深部体温を上昇させることで、動揺病を抑えることが可能か調べるため、
図5に示す実験結果を得るための実験を行った。
【0041】
図5に示す実験結果は、左右が反転して見えるプリズム眼鏡を被検者に装着させて首を左右に±45°ずつ、0.25Hzの周期で振らせて動揺病が生じ易くさせた際の、ガムを噛む場合とガムを噛まない場合の被験者の深部体温の違いおよびMISCの違いを示す。本実験では、被験者が吐き気を感じ始め、MISCの値が「MISC6」に到達した時点で首を振る動作を停止させた。また、ガムを噛む場合の実験では、被検者にガムを噛む動作を首振る5分前から行い、MISC6に到達した時点でガムを噛むことを終了した。なお、
図5では、実線が、被検者がガムを噛む場合の被験者の深部体温の変化およびMISCの変化を示し、破線が、被検者がガムを噛まない場合の被験者の深部体温の変化およびMISCの変化を示す。
【0042】
図5に示すように、被検者がガムを噛まない場合、プリズム眼鏡を装着させて首を振らせると、首を振り始めた直後から時間の経過とともに、深部体温が徐々に低下した。そして、被検者がガムを噛まない場合、凡そ6分後に深部体温が0.3℃だけ低下した。
【0043】
また、MISCは、首を振り始めた直後から深部体温の低下に伴い上昇した。具体的に、MISCは、時間に比例して略比例的にMISCの値が上昇し、首を振り始めてから深部体温が0.3℃だけ低下した凡そ6分後にMISCの値が「MISC6」になった。
【0044】
これに対して、被検者がガムを噛む場合、プリズム眼鏡を装着させて首を振らせると、首を振り始めてから暫くの間、深部体温が低下することなく、首を振り始める前の温度で維持された。これは、プリズム眼鏡を装着させて首を振ることで動揺病が生じることに起因して深部体温が低下する症状が、ガムを噛むことによって深部体温が上昇する効果に相殺されるためと想定される。そして、被検者がガムを噛む場合、首を振り始めてから凡そ6分後に深部体温が低下し始め、首を振り始めてから凡そ11分後に深部体温が0.2℃だけ低下した。
【0045】
また、MISCは、首を振り始めてから凡そ1分間は「MISC0」で維持された。すなわち、ガムを噛む場合、動揺病の発生を遅らせることができた。
【0046】
また、MISCは、首を振り始めてから凡そ1分後に徐々に上昇し始めた。しかし、被検者がガムを噛む場合、MISCの値は、略比例的に上昇した被検者がガムを噛まない場合と異なり、階段状に徐々に上昇した。そして、首を振り始めてから深部体温が0.2℃だけ低下した凡そ11分後にMISCの値が「MISC6」になった。すなわち、MISCが上昇し始めてから「MISC6」に至るまでに経過した時間は10分であった。
【0047】
このように、ガムを噛む場合、ガムを噛まない場合に比較して、MISCが上昇を始めてから「MISC6」に至るまでに経過する時間を6分から10分へ延長させることができた。すなわち、ガムを噛む場合、ガムを噛まない場合に比較して、MISCの値が上昇する際の単位時間当たりの上昇幅を小さくすることができた。
【0048】
そして、ガムを噛む場合、ガムを噛まない場合に比較して、被検者が動揺病を生じる虞がある環境下においてから「MISC6」に至るまでにかかる時間を6分から11分へ延長させることができた。
【0049】
なお、
図5では、被検者1人の実験結果を示しているが、その他4人の被検者に同様の実験をおこなったところ、全ての被検者に対してガムを噛むことで同様の実験結果が得られた。
【0050】
以上の実験結果から、発明者らは、乗員にガムを噛むことを促すことで人の深部体温を上昇させるように調整させ、人の動揺病を抑える方法を検討した。以下に、本実施形態の具体的な動揺病抑制装置1について説明する。
【0051】
図1に示すように、本実施形態の動揺病抑制装置1は、報知装置20を備える車両に設けられている。報知装置20は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される情報を乗員に報知するものである。具体的に、報知装置20は、表示装置21およびスピーカ22を有する。
【0052】
本実施形態の表示装置21は、乗員の動揺病に関する情報を視覚的に乗員に伝達するディスプレイであって、例えば、不図示のダッシュボードに設けられたメータパネルで構成されている。そして、表示装置21は、抑制部10から送信される情報を表示可能に構成されている。表示装置21は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号に応じた情報を表示する。
【0053】
なお、表示装置21は、インストルメントパネルなど、乗員が視認可能な位置に設けられたマルチインフォメーション用表示部やナビゲーション装置用表示部等によって構成されていてもよい。
【0054】
スピーカ22は、乗員の動揺病に関する情報を音声によって乗員に伝達する音声発生装置であって、車室内に設置されている。本実施形態のスピーカ22は、抑制部10から送信される制御信号に応じた情報を出力可能に構成されている。これら表示装置21およびスピーカ22は、抑制部10が有する情報伝達部11に接続されている。
【0055】
本実施形態の抑制部10は、
図1に示すように情報伝達部11を含む。情報伝達部11は、報知装置20の動作を制御するものである。具体的に、情報伝達部11は、表示装置21が表示する表示内容およびスピーカ22が出力する音声内容を制御するものである。情報伝達部11は、表示装置21に制御信号を送信することで、表示装置21が表示する表示内容を制御する。情報伝達部11は、スピーカ22に制御信号を送信することで、スピーカ22が出力する音声内容を制御する。情報伝達部11は、表示装置21およびスピーカ22に制御信号を送信することで、乗員の動揺病を抑えることを目的とした動作を促すための情報を表示装置21およびスピーカ22から出力させる。
【0056】
ここで、上述したように、乗員が咀嚼動作を行っている間、深部体温が低下し難いため、動揺病を抑えることができる。このため、本実施形態の情報伝達部11は、乗員が咀嚼動作を所定時間継続することを促すため、ガムの咀嚼を提案するための情報を表示装置21およびスピーカ22から出力させるための制御信号を表示装置21およびスピーカ22へ送信可能に構成されている。
【0057】
このように構成される動揺病抑制装置1の作動について説明する。抑制部10は、車室内に乗員が存在する場合、所定の開始タイミングで情報伝達部11から表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させるための制御信号を送信する。所定のタイミングは、予め抑制部10に設定されており、例えば、車両のイグニッションスイッチがオンされたタイミングであってもよいし、乗員の操作(例えば、酔い防止スイッチのオン操作)が行われたタイミングであってもよい。
【0058】
また、情報伝達部11は、所定の終了タイミングまで表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させるための制御信号を繰り返し送信してもよい。例えば、情報伝達部11は、車両のイグニッションスイッチがオフされるまで繰り返し制御信号を送信してもよいし、乗員の操作(例えば、酔い防止スイッチのオフ操作)が行われるまで繰り返し制御信号を送信してもよい。
【0059】
表示装置21およびスピーカ22は、情報伝達部11から当該制御信号を受信すると、乗員に対してガムの咀嚼を所定時間継続させる提案を行うための情報を出力する。咀嚼動作を継続するために適した所定時間は、例えば、予め実験することによって得られる咀嚼動作によって可能な深部体温の上昇幅によって定められてもよい。
【0060】
表示装置21は、ガムの咀嚼を乗員に提案するための情報として、例えば、「車酔いを防止するため、ガムを10分間噛んでください」と表示してもよい。また、スピーカ22は、ガムの咀嚼を乗員に提案するための情報として、例えば、「車酔いを防止するため、ガムを10分間噛んでください」と音声出力してもよい。なお、表示装置21が表示する内容は上記に限定されず、ガムの咀嚼を乗員に提案するための情報であれば、例えば、ガムを示す表示ランプを点灯させてもよいし、ガムを示す絵を表示させてもよい。また、スピーカ22が音声出力する内容は上記に限定されず、ガムの咀嚼を乗員に提案するための情報であれば、例えば、車酔いの虞を示す警告音を音声出力させてもよい。
【0061】
そして、表示装置21およびスピーカ22から出力されるガムの咀嚼を提案する情報に対して、乗員がガムの咀嚼を所定時間継続して行うことで、乗員は、動揺病を生じる起因となる深部体温の低下が抑制される。これにより、乗員の深部体温の単位時間当たりの変化幅は、基準幅より小さくできる。すなわち、抑制部10は、表示装置21およびスピーカ22にガムの咀嚼を所定時間継続することを促す情報を出力させることで、乗員の深部体温の単位時間当たりの変化幅が基準幅よりも小さくなるように乗員の深部体温を調整する。
【0062】
以上の如く、本実施形態の動揺病抑制装置1は、乗員の深部体温を調整して乗員の動揺病を抑える抑制部10を備える。抑制部10は、乗員における深部体温の単位時間あたりの変化が基準幅より小さくなるように乗員の深部体温を調整する。
【0063】
これによれば、乗員の深部体温の変化を小さくできるので、個人差の影響を抑えつつ、動揺病の進行を遅らせることができる。したがって、本開示の動揺病抑制装置1によれば、個人差の影響を抑えつつ、動揺病を抑制することができる。
【0064】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
(1)上記実施形態では、基準幅は、0.2℃である。
【0066】
概日リズムに基づいて想定される人の深部体温の単位時間あたりの変化幅は一般的に0.2℃程度である。このため、基準幅を0.2℃とすることで、個人差による影響を低減することができる。
【0067】
(2)上記実施形態では、抑制部10は、報知装置20である表示装置21およびスピーカ22によって、咀嚼動作を所定時間継続することを促す情報を乗員に伝える情報伝達部11を含む。
【0068】
本発明者らの調査によると、咀嚼動作を所定時間継続することで深部体温が上昇することが確認された。このため、咀嚼物の咀嚼を所定時間継続することを促す情報を対象者に伝えるようになっていれば、動揺病に起因する深部体温の低下が発生する状況であっても、咀嚼物の咀嚼によって深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0069】
(3)上記実施形態では、情報伝達部11は、咀嚼動作を継続するためにガムの咀嚼を提案する。
【0070】
これによると、咀嚼物の対象をガムとすることで、咀嚼動作を継続し易くなるので、深部体温の低下を適切に抑制することができる。また、仮に咀嚼物が食べ物の場合、胃の消化による体温の増減が生じる可能性があるため、胃の消化による深部体温の変化を考慮する必要がある。これに対して、咀嚼物がガムであれば乗員がガムを飲み込む可能性が低く、胃の消化による深部体温の変化を考慮する必要が無くなる。このため、咀嚼物がガムであることが好ましい。
【0071】
(4)上記実施形態では、動揺病抑制装置1が車両に搭乗する乗員の動揺病を抑制する。
【0072】
これによれば、乗員の快適性を向上させることができる。
【0073】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図6を参照して説明する。本実施形態では、動揺病抑制装置1が深部体温検出部30を備える車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含む点が第1実施形態と相違している。それ以外は第1実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0074】
図6に示すように、本実施形態の動揺病抑制装置1は、深部体温検出部30を備える車両に設けられている。深部体温検出部30は、乗員の深部体温を検出する温度センサであって、乗員の深部体温に応じた情報を検出可能に構成されている。深部体温検出部30は、例えば、車両のステアリングホイールに設けられており、乗員のステアリングホイールを握る手の温度を直接検出し、検出した温度に応じた検出信号を抑制部10の深部体温算出部12に送信する。
【0075】
なお、深部体温検出部30は、上記に限定されず、例えば、乗員から放射される赤外線を取得することで乗員の温度分布を非接触で検出するサーモグラフィで構成されていてもよい。または、乗員の座席に設置された温度センサで検出してもよい。更に、これらの複数の温度を検出して、所定の式にのっとって推定してもよい。
【0076】
本実施形態の抑制部10は、深部体温算出部12を含む。深部体温算出部12は、深部体温検出部30から送信される検出信号に基づいて乗員の深部体温を算出するものである。深部体温算出部12は、算出した乗員の深部体温の情報を情報伝達部11に送信する。
【0077】
本実施形態の情報伝達部11は、深部体温算出部12から送信される深部体温の情報に基づいて、表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させる制御信号を送信する。例えば、情報伝達部11が表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させる制御信号を送信するタイミングが乗員の深部体温の情報に基づいて決定される。
【0078】
情報伝達部11は、時間経過に伴い乗員の深部体温の変化する場合であって、単位時間当たり変化量が予め設定される設定変化量より大きい場合、表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させる制御信号を送信する。または、情報伝達部11は、時間経過に伴い乗員の深部体温の変化する場合であって、乗員の深部体温が予め設定される設定下限値を下回った場合、表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させる制御信号を送信する。
【0079】
このように乗員の深部体温の情報に基づいて表示装置21およびスピーカ22へガムの咀嚼を提案させる制御信号を送信することで、動揺病が生じる虞があるタイミングで表示装置21およびスピーカ22にガムの咀嚼を促す情報を出力させることができる。そして、動揺病が生じる虞がある際に、乗員の深部体温の単位時間当たりの変化幅が基準幅よりも小さくなるように乗員の深部体温を調整することができる。
【0080】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0081】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、
図7を参照して説明する。本実施形態では、動揺病抑制装置1が冷却装置40を備える車両に設けられており、抑制部10が冷却部13を含む点が第2実施形態と相違している。それ以外は第2実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第2実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0082】
上述したように、人が咀嚼動作を行うと脳血流が増加することで深部体温が上昇する。ただし、脳血流が増加するに伴い、身体全体を循環する血液が増加すると、乗員の皮膚体温が上昇する可能性が有る。このため、報知装置20によって乗員に咀嚼動作を継続することを促すことで乗員の体温が上昇すると、乗員の快適性が低下する可能性がある。例えば、乗員の手の皮膚体温が上昇し、手汗が出ると乗員が不快と感じる可能性がある。このため、本実施形態の動揺病抑制装置1は、
図7に示すように、乗員の身体を冷却する冷却装置40を備える車両に設けられている。
【0083】
冷却装置40は、脳血流の増加が妨げられ難いように、乗員の身体における頭部以外の部位を冷却可能に構成されている。例えば、冷却装置40は、冷凍サイクルを構成する不図示の蒸発器および蒸発器によって冷却した空気を乗員の身体における特定の部位に向けて吹き出す送風機を備えた車両用空調装置で構成される。すなわち、冷却装置40は、乗員の身体における頭部以外の部位を冷却対象として冷却する。冷却装置40は、例えば、車両のインストルメントパネルに吹出口が設けられており、当該吹出口から乗員の足、胴体、腕等に向けて冷却した空気を吹き出し可能に構成される。
【0084】
冷却装置40は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号によって動作が制御される。
【0085】
なお、冷却装置40は、乗員が着座するシートに設けられており、乗員の背中および臀部に向けて冷却した空気を吹き出し可能に構成されていてもよい。また、冷却装置40は、冷却した空気を乗員の身体における特定の部位に向けて吹き出す車両用空調装置に限定されない。例えば、冷却装置40は、乗員が着座するシートに設けられるペルチェ素子を有するシート冷却装置で構成されていてもよい。この場合、シート冷却装置は、例えば、シートバックおよびシートクッションにペルチェ素子が配置されており、シートバックおよびシートクッションそれぞれに配置されたペルチェ素子によって、乗員の背中および乗員の臀部を冷却することができる。
【0086】
本実施形態の抑制部10は、冷却部13を含む。冷却部13は、冷却装置40に制御信号を送信することで、乗員の身体における頭部以外の部位を冷却する。
【0087】
本実施形態の冷却部13は、深部体温算出部12が算出する深部体温の情報に基づいて、冷却装置40の動作を制御する制御信号を送信する。換言すれば、冷却装置40は、深部体温算出部12が算出する深部体温の情報に基づいて、その動作が制御される。
【0088】
冷却部13は、例えば深部体温算出部12が算出する深部体温が、冷却装置40の動作開始を判定する開始判定温度より高くなった場合、冷却装置40の動作を開始させるための制御信号を冷却装置40に送信する。
【0089】
また、冷却部13は、例えば深部体温算出部12が算出する深部体温が高くなるほど、冷却装置40が乗員を冷却する際の冷却能力(例えば、空気の吹出量)を上昇させるための制御信号を冷却装置40に送信してもよい。
【0090】
冷却装置40は、冷却部13から動作を開始させるための制御信号を受信すると、乗員の身体における頭部以外の部位に向けて冷却した空気を吹き出すことで、乗員の頭部以外の部位を冷却する。
【0091】
これによれば、脳血流が増加するに伴い、乗員の体温が上昇しても、乗員の頭部以外の部位を冷却することで、乗員の快適性が低下することを抑制することができる。
【0092】
その他については、第2実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第2実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第2実施形態と同様に得ることができる。
【0093】
(第3実施形態の変形例)
上述の第3実施形態では、動揺病抑制装置1が深部体温検出部30を備えた車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含む例について説明したが、これに限定されない。
【0094】
例えば、動揺病抑制装置1は、深部体温検出部30を備えていない車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含んでいない構成であってもよい。
【0095】
この場合、冷却部13は、例えば、車両のイグニッションスイッチがオンされたタイミングで冷却装置40の動作を開始させるための制御信号を冷却装置40に送信してもよい。また、冷却部13は、乗員の操作(例えば、冷却装置40のオン操作)が行われたタイミングで冷却装置40の動作を開始させるための制御信号を冷却装置40に送信してもよい。
【0096】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、
図8~
図10を参照して説明する。本実施形態では、抑制部10が情報伝達部11を有しておらず、分圧調整部14を含む点が第1実施形態と相違している。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0097】
ところで、第1実施形態では、乗員にガムを噛むことを促すことで人の深部体温を上昇させるように調整させ、人の動揺病を抑える動揺病抑制装置1について説明した。そして、この第1実施形態の動揺病抑制装置1は、上述したように、人がガムを噛むという咀嚼動作を行うことによって人の脳血流が増加し、脳血流が増加することで深部体温が上昇するという効果を利用している。
【0098】
ここで、発明者らは、人の脳血流を制御することで、人の深部体温を調整することを検討した。そして、脳血流は、人の血液の赤血球に含まれるヘモグロビンの酸素の結合量を示す酸素飽和度(すなわち、SaO2)に応じて変化する。例えば、人の身体が正常状態である場合の酸素飽和度の正常値が95~99%程度であるところ、酸素飽和度がこの正常値より低下すると、脳血流は増加する傾向がある。
【0099】
そして、酸素飽和度は、
図9に示すように、動脈血中の酸素分圧を示す動脈血酸素分圧(すなわち、PaO
2)と相関関係を有する。具体的に、酸素飽和度は、動脈血酸素分圧が低下するほど低下する。
【0100】
また、酸素飽和度および動脈血酸素分圧は、
図10に示すように、人が吸入する大気中の酸素分圧を示す吸入気酸素分圧(すなわち、PIO
2)と相関関係を有する。具体的に、酸素飽和度および動脈血酸素分圧は、吸入気酸素分圧が低下するにともない低下する。そして、これら酸素飽和度、動脈血酸素分圧および吸入気酸素分圧は、大気中の酸素が少ないほど低下する。また、大気中の酸素は、高度が高いほど薄くなる。このため、
図10に示すように、吸入気酸素分圧は、人が存在する位置の高度が高いほど低下する。これは、高度が高いほど、大気圧が低下するためである。換言すれば、大気圧が低いほど吸入気酸素分圧が低くなり、吸入気酸素分圧が低くなるにしたがい酸素飽和度および動脈血酸素分圧が低くなる。
【0101】
ここで、吸入気酸素分圧は下記数式1より算出できる。
(式1)
吸入気酸素分圧「Torr」=(大気圧「mmHg」-47「mmHg」)×大気中の酸素濃度[%]
上記数式1によれば、大気圧を低下させるほど吸入気酸素分圧を低下させることができる。また、大気中の酸素濃度を減少させるほど吸入気酸素分圧を低下させることができる。そして、吸入気酸素分圧を低下させることで動脈血酸素分圧を低下させて酸素飽和度を低下させることができる。したがって、大気圧および大気中の酸素濃度を減少させることで、個人差がほとんどなく、酸素飽和度を正常値より低下させて、脳血流の増加を促進させることができる。このようなことは、発明者らの鋭意検討によって見出された。
【0102】
以上を鑑みて、発明者らは、車室内の大気圧を減少させることで人の深部体温を上昇させるように調整させ、人の動揺病を抑える動揺病抑制装置1を検討した。以下に、本実施形態の具体的な動揺病抑制装置1について説明する。
【0103】
図8に示すように、本実施形態の動揺病抑制装置1は、大気圧調整装置50を備える車両に設けられている。大気圧調整装置50は、例えば、真空ポンプで構成されており、車室内の空気を吸引して車室内の大気圧を低下させることで車室内の大気圧を調整可能に構成されている。大気圧調整装置50は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号に基づいて動作が制御される。
【0104】
なお、大気圧調整装置50は、真空ポンプに限定されず、例えば、車室内の空気を車室外に吹き出すエジェクタまたはブロアで構成されており、車室内の空気を車室外に吹き出すことで車室内の大気圧を調整する構成であってもよい。大気圧調整装置50は、抑制部10が有する分圧調整部14に接続されている。
【0105】
本実施形態の抑制部10は、
図8に示すように分圧調整部14を含む。分圧調整部14は、大気圧調整装置50の動作を制御するものである。分圧調整部14は、大気圧調整装置50に制御信号を送信することで、真空ポンプで構成される大気圧調整装置50が吸引する空気の量を調整する。
【0106】
このように構成される動揺病抑制装置1の作動について説明する。抑制部10は、車室内に乗員が存在する場合、所定のタイミングで分圧調整部14が大気圧調整装置50を動作させるための制御信号を大気圧調整装置50に送信する。
【0107】
大気圧調整装置50は、分圧調整部14から制御信号を受信すると、車室内の空気を吸引して車室内の大気圧を低下させる。具体的に、大気圧調整装置50は、分圧調整部14から送信される制御信号に基づいて車室内の大気圧を目標の大気圧まで低下させる。分圧調整部14には、予め実験等によって得られる大気圧調整装置50が吸引する空気の量と大気圧との関係が示された制御マップが予め記憶されている。そして、分圧調整部14は、当該制御マップに基づいて大気圧調整装置50に制御信号を送信する。
【0108】
ところで、上述したように、動脈血酸素分圧および酸素飽和度は、互いに相関関係を有する。そして、車室内の大気圧を低下させて動脈血酸素分圧を低下させるほど、酸素飽和度が正常値から低下する。
【0109】
また、酸素飽和度を低下させるほど深部体温を上昇させることができる。しかし、酸素飽和度は、人の血液の赤血球に含まれるヘモグロビンの酸素の結合量を示すものであって、人が安定して体内に酸素を取り込むため、所定の値以上であることが望ましい。例えば、人が安定して体内に酸素を取り込むため、酸素飽和度は、85%以上で維持されることが望ましい。
【0110】
このため、本実施形態の分圧調整部14は、乗員が安定して体内に酸素を取り込むことができるように、乗員の酸素飽和度が85%以上となるように大気圧調整装置50を制御する。また、分圧調整部14は、乗員の深部体温を上昇させるため、乗員の酸素飽和度が一般的な正常値の下限値である95%以下となるように大気圧調整装置50を制御する。換言すれば、分圧調整部14は、乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように大気圧調整装置50を制御して、乗員の周囲の空間である車室内の吸入気酸素分圧を調整する。
【0111】
ここで、
図9に示すように、動脈血酸素分圧が80Torrの場合、酸素飽和度は95%となる。また、動脈血酸素分圧が50Torrの場合、酸素飽和度は85%となる。したがって、本実施形態の分圧調整部14は、動脈血酸素分圧が50Torr~80Torrとなるように大気圧調整装置50を制御して車室内の大気圧を調整する。
【0112】
なお、乗員の酸素飽和度は、例えば、パルスオキシメータで計測される動脈血酸素分圧に基づいて推定可能である。このため、分圧調整部14は、パルスオキシメータで計測される酸素飽和度に基づいて、乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように大気圧調整装置50を制御してもよい。
【0113】
以上の如く、本実施形態の動揺病抑制装置1は、抑制部10における分圧調整部14が乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように吸入気酸素分圧を調整する。
【0114】
これによれば、吸入気酸素分圧を低下させて動脈血酸素分圧および酸素飽和度を低下させることで、乗員の脳血流の増加を促進させて、乗員の深部温度を上昇させることができる。そして、酸素飽和度が85%~95%となるように調整することで、乗員が安定して体内に酸素を取り込むことを可能としつつ、乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0115】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0116】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0117】
(1)上記実施形態では、分圧調整部14は、動脈血酸素分圧が50Torr~80Torrとなるように乗員の周囲の空間である車室内の大気圧を調整する。
【0118】
ところで、
図9に示すように、酸素飽和度の正常値が95~99%程度であるのに対し、正常状態における動脈血酸素分圧は、80Torr~100Torrである。そして、これによりも、動脈血酸素分圧を低下させれば、酸素飽和度が正常値より低下することで脳血流の増加を促進して、深部体温の低下を適切に抑制することができる。
【0119】
ここで、酸素飽和度が小さすぎると、対象者が息苦しさを感じてしまう虞がある。このため、酸素飽和度が85%以上とするため、動脈血酸素分圧を50Torr~80Torrとなるように車室内の大気圧を調整することで、深部体温の低下を適切に抑制することができる。
【0120】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、
図11を参照して説明する。本実施形態では、動揺病抑制装置1が空調装置60を備える車両に設けられており、抑制部10が当該空調装置60の動作を制御する点が第4実施形態と相違している。それ以外は第4実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第4実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0121】
図11に示すように、本実施形態の動揺病抑制装置1は、空調装置60を備える車両に設けられている。空調装置60は、所望の温度に調整した空気を車室内へ吹き出すことで、車室内の空気温度を調整するものである。空調装置60は、送風機、冷凍サイクルを構成する不図示の圧縮機などを有し、車室内に設けられた吹出口から温度調整した空気を車室内へ吹き出すことが可能に構成されている。また、本実施形態の空調装置60は、車室内に吹き出す空気中の酸素の濃度を調整することで、車室内の空気中の酸素濃度を調整する酸素濃度調整部61を有する。空調装置60は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号に基づいて動作が制御される。
【0122】
酸素濃度調整部61は、例えば、窒素ガスを封入した窒素ガスボンベを有しており、空調装置60が車室内に空気を吹き出す際に窒素ガスボンベに封入された窒素ガスを混入させることで、吹き出す空気中の酸素の濃度を低下させることが可能に構成されている。または、酸素濃度調整部61は、酸素を吸着させる吸着材を有しており、空調装置60が車室内に空気を吹き出す際に吹き出す空気に含まれる酸素を吸着することで、吹き出す空気中の酸素の濃度を低下させることが可能に構成されていてもよい。これにより、空調装置60は、車室内に空気を吹き出す際に、車室内の酸素濃度を調整することができる。
【0123】
ここで、このように空調装置60が車室内の酸素濃度を調整可能に構成されている理由について説明する。
【0124】
第1実施形態および第4実施形態で説明したように、乗員の吸入気酸素分圧を低下させて酸素飽和度を低下させることで、乗員の脳血流の増加を促進させて、乗員の深部温度を上昇させることができる。そして、第4実施形態で示した数式1によれば、大気中の酸素濃度を減少させるほど吸入気酸素分圧を低下させることができる。
【0125】
このため、本実施形態の動揺病抑制装置1は、空調装置60が車室内の酸素濃度を低下させて乗員の酸素飽和度を低下させることで、乗員の脳血流の増加を促進させて、乗員の深部温度を上昇させることが可能に構成されている。
【0126】
続いて、本実施形態の動揺病抑制装置1の作動について説明する。抑制部10は、車室内に乗員が存在する場合、所定のタイミングで分圧調整部14が空調装置60を動作させるための制御信号を空調装置60に送信する。
【0127】
空調装置60は、分圧調整部14から制御信号を受信すると、車室内に向けて空気を吹き出す。この際、空調装置60は、分圧調整部14から送信される制御信号に基づいて吹き出す空気中の酸素の濃度を目標の濃度まで低下させる。分圧調整部14には、予め実験等によって得られる空調装置60が混入させる窒素の量と酸素の濃度との関係が示された制御マップが予め記憶されている。そして、分圧調整部14は、当該制御マップに基づいて空調装置60に制御信号を送信する。本実施形態の分圧調整部14は、乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように空調装置60を制御して、乗員の周囲の空間である車室内の吸入気酸素分圧を調整する。具体的に、分圧調整部14は、動脈血酸素分圧が50Torr~80Torrとなるように空調装置60を制御して車室内の酸素濃度を調整する。
【0128】
なお、分圧調整部14は、パルスオキシメータで計測される酸素飽和度に基づいて、乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように空調装置60を制御してもよい。
【0129】
これによれば、吸入気酸素分圧を低下させて動脈血酸素分圧および酸素飽和度を低下させることで、乗員の脳血流の増加を促進させて、乗員の深部温度を上昇させることができる。そして、酸素飽和度が85%~95%となるように調整することで、乗員が安定して体内に酸素を取り込むことを可能としつつ、乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0130】
なお、空調装置60は、吹き出す空気の風向きを切り替える風向切替機構を備える構成であってもよい。これによれば、空調装置60は、車室内に複数の乗員が存在する場合、特定の乗員に向けて酸素の濃度を低下させた空気を吹き出すことで、当該特定の乗員の周囲の空気における酸素濃度を調整することができる。そして、特定の乗員の脳血流の増加を促進させて深部温度を上昇させることで、特定の乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0131】
風向切替機構は、例えば、左右方向に回転することで風向きを左右方向に変更させる左右ルーバおよび上下方向に回転することで風向きを上下方向に変更させる上下ルーバを有するアクチュエータで構成される。
【0132】
その他については、第4実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第4実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第4実施形態と同様に得ることができる。
【0133】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について、
図12を参照して説明する。本実施形態では、第4実施形態および第5実施形態に比較して、抑制部10が分圧調整部14を備えておらず、代わりに濃度調整部15を備えている。また、空調装置60が内外気切替装置62を備えており、抑制部10における濃度調整部15が当該内外気切替装置62の動作を制御する点が第5実施形態と相違している。それ以外は第5実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第4実施形態および第5実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0134】
ところで、第4実施形態および第5実施形態では、乗員の脳血流の増加を促進させて、乗員の深部体温の低下を抑制することで動揺病の進行を抑える動揺病抑制装置1について説明した。そして、第4実施形態および第5実施形態の動揺病抑制装置1は、乗員の脳血流の増加を促進させるために、抑制部10が、乗員の酸素飽和度が85%~95%となるように吸入気酸素分圧を調整する分圧調整部14を有する。
【0135】
なお、人の脳血流は、大気中の二酸化炭素濃度と相関関係を有する。例えば、大気中の二酸化炭素濃度が通常の大気中の二酸化炭素濃度より高いと、人の脳血流が増加する傾向がある。そして、大気中の二酸化炭素濃度が高いほど、人の脳血流が増加する。
【0136】
ここで、発明者らは、車室内の空気中の二酸化炭素濃度を上昇させて乗員の脳血流の増加を促進させることが可能な動揺病抑制装置1を検討した。以下、本実施形態の動揺病抑制装置1について説明する。
【0137】
図12に示すように、本実施形態の動揺病抑制装置1は、空調装置60を備えた車両に設けられている。そして、空調装置60は、内外気切替装置62を備えている。内外気切替装置62は、空調装置60の内部に導入する内気の風量と、空調装置60の内部に導入する外気の風量との割合(すなわち、内外気比率)を調整するものである。ここで、内気は、車室内空気であり、外気は、車室外空気である。
【0138】
内外気切替装置62は、内気を導入させる不図示の内気導入口および外気を導入させる不図示の外気導入口それぞれの開口面積を不図示の内外気切替ドアによって調整することで、内気の導入風量と外気の導入風量との導入割合を変化可能に構成されている。また、内外気切替装置62は、内外気切替ドアを回転させる不図示の電動アクチュエータを有する。当該電動アクチュエータは、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号に基づいて動作が制御される。
【0139】
ところで、車室内空気である内気は、乗員の呼吸によって外気に比較して二酸化炭素が多く含まれる。すなわち、内気は、外気に比較して空気中の二酸化炭素濃度が高い。このため、内外気切替装置62によって、外気の導入風量に比較して内気の導入風量を多くして、より多くの内気を車室内に循環させることで、空調装置60は、車室内の酸素濃度を低下させるとともに、二酸化炭素濃度を上昇させることができる。内外気切替装置62は、抑制部10が有する濃度調整部15に接続されており、動作が当該濃度調整部15によって制御される。
【0140】
本実施形態の抑制部10は、
図12に示すように濃度調整部15を含む。濃度調整部15は、内外気切替装置62の動作を制御するものである。濃度調整部15は、内外気切替装置62に制御信号を送信して電動アクチュエータを制御することで内外気切替ドアの回転位置を調整する。
【0141】
続いて、本実施形態の動揺病抑制装置1の作動について説明する。抑制部10は、車室内に乗員が存在する場合、所定のタイミングで濃度調整部15が内外気比率を調整するための制御信号を空調装置60における内外気切替装置62に送信する。
【0142】
内外気切替装置62は、濃度調整部15から制御信号を受信すると、内外気切替ドアを回転させる。具体的に、内外気切替装置62は、内気の導入風量の導入割合に比較して外気の導入風量の導入割合を小さくなるように内外気切替ドアの回転位置を調整する。これにより、車室内の空気は、酸素濃度を低下するとともに、二酸化炭素濃度が上昇する。濃度調整部15は、乗員の周囲の空間である車室内の空気の二酸化炭素濃度を、乗員の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整する。
【0143】
すなわち、濃度調整部15は、内気の導入風量の導入割合に比較して外気の導入風量の導入割合を小さくなるように内外気切替装置62の動作を制御することで、乗員の脳血流の増加を促進させる。例えば、濃度調整部15は、内外気切替装置62の内外気切替ドアを回転させて、内気導入口を開放するとともに外気導入口を閉塞する。内外気切替装置62は、濃度調整部15から送信される制御信号に基づいて車室内の二酸化炭素濃度が目標の濃度に近づくように内外気切替ドアの回転位置が調整される。
【0144】
濃度調整部15には、予め実験等によって得られる内外気切替装置62の内外気切替ドアの回転位置と二酸化炭素濃度との関係が示された制御マップが予め記憶されている。そして、濃度調整部15は、当該制御マップに基づいて内外気切替装置62に制御信号を送信する。
【0145】
ここで、人が吸引する空気中の二酸化炭素の濃度は、
図13に示すように、人の健康状態に影響を与える。例えば、空気中の二酸化炭素が500ppm以上である場合、動脈血中の二酸化炭素分圧を示す動脈血二酸化炭素分圧(すなわち、pCO
2)、心拍数および血圧の増加などの影響がある。また、空気中の二酸化炭素が1000ppm以上である場合、意思決定、問題解決などの認識能力に影響がある。そして、空気中の二酸化炭素が10000ppm以上である場合、呼吸数の増加や酸塩基平衡障害の一つである呼吸性アシドーシスの発生などの虞がる。また、空気中の二酸化炭素が50000ppm以上である場合、めまい、頭痛など、人の健康状態に悪影響を与える可能性が有る。
【0146】
このため、本実施形態の濃度調整部15は、車室内の二酸化炭素濃度が1000~50000ppmとなるように内外気切替装置62の内外気切替ドアを制御して、乗員の周囲の空間である車室内の二酸化炭素濃度を調整する。
【0147】
なお、空調装置60は、吹き出す空気の風向きを切り替える風向切替機構を備える構成であってもよい。これによれば、空調装置60は、車室内に複数の乗員が存在する場合、特定の乗員に向けて二酸化炭素濃度の濃度を上昇させた空気を吹き出すことで、当該特定の乗員の周囲の空気における二酸化炭素濃度を調整することができる。そして、特定の乗員の脳血流の増加を促進させて深部温度を上昇させることで、特定の乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0148】
以上の如く、本実施形態の抑制部10は、乗員の周囲の空間における二酸化炭素の濃度を乗員の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整する濃度調整部15を含んでいる。
【0149】
そして、上述したように、車室内の二酸化炭素濃度の増加に伴って、乗員の動脈血二酸化炭素分圧が増えると、脳血流が増加させることができる。そして、脳血流の増加は、深部温度の上昇を引き起こす要因となる。このため、二酸化炭素の濃度を乗員の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整するようになっていれば、乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0150】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0151】
(1)上記実施形態では、濃度調整部15は、車室内の二酸化炭素濃度が1000~50000ppmとなるように車室内の二酸化炭素濃度を調整する。
【0152】
二酸化炭素の濃度が1000以上で脳血流の増加が顕著となる。一方、二酸化炭素の濃度が50000ppmを超えると、身体へ悪影響が出る虞がある。このため、二酸化炭素の濃度は上記の濃度範囲に調整することが望ましい。
【0153】
その他については、第5実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第5実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第5実施形態と同様に得ることができる。
【0154】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について、
図14を参照して説明する。本実施形態では、空調装置60が内外気切替装置62を備えておらず、代わりに二酸化炭素濃度調整部63を備えている点が第6実施形態と相違している。それ以外は第6実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第6実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0155】
二酸化炭素濃度調整部63は、例えば、二酸化炭素ガスを封入した二酸化炭素ガスボンベを有している。そして、二酸化炭素濃度調整部63は、空調装置60が車室内に空気を吹き出す際に二酸化炭素ガスボンベに封入された二酸化炭素ガスを混入させることで、吹き出す空気中の二酸化炭素の濃度を上昇させることが可能に構成されている。または、二酸化炭素濃度調整部63は、酸素を吸着させる吸着材を有しており、空調装置60が車室内に空気を吹き出す際に吹き出す空気に含まれる酸素を吸着することで、吹き出す空気中の二酸化炭素の濃度を上昇させることが可能に構成されていてもよい。これにより、空調装置60は、車室内に空気を吹き出す際に、車室内の二酸化炭素濃度を、乗員の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整することができる。
【0156】
具体的に、本実施形態の濃度調整部15は、車室内の二酸化炭素濃度が1000~50000ppmとなるように空調装置60を制御して、乗員の周囲の空間である車室内の二酸化炭素濃度を調整する。
【0157】
これによれば、車室内の二酸化炭素濃度を乗員の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整することによって、乗員の動脈血二酸化炭素分圧を増加させて脳血流を増加させることができる。そして、脳血流を増加させることで、乗員の深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0158】
その他については、第6実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第6実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第6実施形態と同様に得ることができる。
【0159】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について、
図15を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態に比較して、抑制部10が情報伝達部11を備えておらず、代わりに局所加温部16を備えている。また、動揺病抑制装置1が加温装置70を備える車両に設けられている点が第1実施形態と相違している。それ以外は第1実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0160】
第1実施形態~第7実施形態では、乗員にガムを噛むことを促したり、吸入気酸素分圧を低下させたり、車室内の空気中の二酸化炭素濃度を上昇させたりすることで、乗員の深部体温の低下を抑制することで動揺病の進行を抑える動揺病抑制装置1について説明した。すなわち、第1実施形態~第7実施形態では、間接的に乗員の深部体温を上昇させることで、動揺病の進行を抑える動揺病抑制装置1について説明した。これに対して、本実施形態では、直接的に乗員の深部体温を上昇させることで、動揺病の進行を抑える動揺病抑制装置1について説明する。
【0161】
ここで、発明者らは、人の特定の部位を加温した際の深部体温の変化を調べるための実験を行った。
図16は、身体の部位における膝から下の部位である膝下部位を30分間お湯に浸し、その後、お湯から膝下部位を出した際の時間経過にともなう深部体温の変化を調べた実験結果を示す。なお、深部体温は、第1実施形態で説明した実験と同様に、温度センサ(3M社の「bair hugger360」)を人の額に装着して取得した。なお、
図16では、丸がお湯の平均温度を40℃に設定した場合の実験結果を示し、四角がお湯の平均温度を37℃に設定した場合の実験結果を示す。
【0162】
図16に示すように、膝下部位をお湯に浸す足湯を行うと、深部体温は、足湯を行う前に比較して時間の経過に伴い上昇した。具体的に、膝下部位がお湯に入った状態が維持されている間、深部体温は、時間の経過に伴い上昇した。そして、膝下部位をお湯から出すと、深部体温は、お湯から出す前に比較して低下した。また、深部体温は、お湯の平均温度が37℃で設定された場合に比較して40℃で設定された場合の方が高い温度まで上昇した。
【0163】
このように、身体の一部が加温されると、深部体温を上昇させることができる。また、発明者らの鋭意検討によれば、身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温することで、深部体温を上昇させ易いことが判った。動静脈吻合は、血管における毛細血管に枝分かれする前の動脈と静脈とを接続させる部位であって、例えば、足裏、掌、首筋、頬等に存在する。そして、動静脈吻合は、深部体温を維持させるため、縮小および拡張して、動静脈吻合を流れる血液の量を調整することができる。このため、身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温することで、血液を加温し易く、これにより深部体温を上昇させることができる。また、動静脈吻合を含む局所部位のうち、加温する部位が頭部に近いほど、頭部を暖めやすく、乗員の脳血流の増加を促進させることができる。
【0164】
なお、
図16では、被検者1人の実験結果を示しているが、複数の被検者に同様の実験をおこなったところ、略同様の実験結果を得ることができた。
【0165】
そして、発明者らは、人の動静脈吻合を含む局所部位を加温して深部体温を上昇させることで、動揺病を抑えることが可能か調べるため、
図17に示す実験結果を得るための実験を行った。この実験では、動静脈吻合を有する足裏を加温し、足湯を行った際の深部体温を調査した。
【0166】
図17に示す実験結果は、左右が反転して見えるプリズム眼鏡を装着させて首を左右に±45°ずつ、0.25Hzの周期で振らせて動揺病が生じ易くさせた際の、足湯を行わない場合と足湯を行う場合の被験者の深部体温の違いおよびMISCの違いを示す。本実験では、足湯を行わない条件下では、被験者が吐き気を感じ始め、MISCの値が「MISC6」に到達した時点で首を振る動作を停止させた。これに対して、足湯を行う条件下では、被験者が吐き気を感じ始めることがなかったため、首を振る動作を開始後、15分が経過した時点で首を振る動作を停止させた。また、足湯を行う条件下では、膝下部位をお湯に浸して10分後に、首を振る動作を開始させた。なお、
図17では、実線が足湯を行った場合の被験者の深部体温の変化およびMISCの変化を示し、破線が足湯を行わなかった場合の被験者の深部体温の変化およびMISCの変化を示す。
【0167】
図17に示すように、足湯を行わない場合、プリズム眼鏡を装着させて首を振らせると、首を振り始めてから約7分経過すると、その後の時間において時間の経過とともに、深部体温が徐々に低下した。そして、足湯を行わない場合、凡そ13分後に深部体温が0.2℃だけ低下した。
【0168】
また、MISCは、首を振り始めた直後から上昇した。具体的に、MISCは、階段状にMISCの値が上昇し、首を振り始めてから凡そ9分後にMISCの値が「MISC4」になった。そして、首を振り始めてから深部体温が0.2℃だけ低下した凡そ13分後にMISCの値が「MISC6」になった。
【0169】
これに対して、足湯を行う場合、プリズム眼鏡を装着させて首を振らせると、深部体温は、首を振り始めてから約3分間上昇し、その後、膝下部位がお湯に入った状態が維持されている間、維持された。これは、プリズム眼鏡を装着させて首を振ることで動揺病が生じることに起因して深部体温が低下する症状が、足湯を行うことによって深部体温が上昇する効果に相殺されるためと想定される。そして、膝下部位がお湯に入った状態が維持されている間、首を振り続けても深部体温が維持された。
【0170】
また、MISCは、首を振り始めてから凡そ4分間は「MISC0」で維持された。すなわち、足湯を行うことによって、首を振ることに起因するMISCの上昇を遅らせることができた。
【0171】
また、MISCは、首を振り始めてから凡そ4分後に徐々に上昇し始めた。そして、足湯を行わない場合において「MISC6」まで上昇した凡そ13分後において、足湯を行う場合ではMISCの値が「MISC4」になった。
【0172】
このように、人の特定の部位を加温する場合、加温しない場合に比較して、動揺病の症状が生じ始めるまでの時間を遅らせることができた。すなわち、人の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温する場合、加温しない場合に比較して、動揺病の発生を抑制することができた。
【0173】
そして、人の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温する場合、加温しない場合に比較して、MISCの値を「MISC6」から「MISC4」へ抑制することができた。すなわち、人の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温する場合、加温しない場合に比較して、動揺病の進行を抑制することができた。
【0174】
なお、
図17では、被検者1人の実験結果を示しているが、その複数の被検者に同様の実験をおこなったところ、略同様の実験結果を得ることができた。
【0175】
以上の実験結果から、発明者らは、乗員の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温することで人の動揺病を抑えることが可能な動揺病抑制装置1を検討した。以下に、本実施形態の具体的な動揺病抑制装置1について説明する。
【0176】
本実施形態の動揺病抑制装置1は、
図15に示すように、乗員の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位を加温する加温装置70を備える車両に設けられている。
【0177】
加温装置70は、抑制部10に接続されており、抑制部10から送信される制御信号に基づいて、乗員を加熱することで乗員の身体の部位を加温するものである。具体的に、加温装置70は、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74を有する。
【0178】
ヒータ71は、乗員の身体の部位のうち、膝下部位を加温するものである。ヒータ71は、例えば、乗員がシートに着座した際の足元またはハンドルの下に設けられており、乗員の膝下部位を加温可能に構成されている。ヒータ71は、赤外線によって乗員を加温する電気ヒータで構成される。なお、ヒータ71は、電気ヒータに限定されず、温風を吹き出して乗員を加温する暖房装置等で構成されていてもよい。
【0179】
ハンドルウォーマ72は、乗員の身体の部位のうち、掌を加温するものである。ハンドルウォーマ72は、例えば、車室内の運転席前方に配置されたハンドルに設けられており、乗員の掌を加温可能に構成されている。ハンドルウォーマ72は、通電によって発熱することで乗員を加温する電気ヒータで構成される。
【0180】
シートヒータ73は、乗員の身体の部位のうち、首筋を加温するものである。シートヒータ73は、例えば、乗員が着座するシートのヘッドレストに設けられており、乗員の首筋を加温可能に構成されている。シートヒータ73は、温風を乗員の首筋に向けて吹き出すことで乗員の首筋を加温するシート空調装置で構成される。
【0181】
ネックウォーマ74は、乗員の身体の部位のうち、頬を加温するものである。ネックウォーマ74は、例えば、乗員が着座するシートのヘッドレストに設けられており、乗員の頬を加温可能に構成されている。ネックウォーマ74は、温風を乗員の頬に向けて吹き出すことで乗員の頬を加温するシート空調装置で構成される。
【0182】
これらヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74は、抑制部10における局所加温部16に接続されており、局所加温部16から送信される制御信号によって、動作が制御される。
【0183】
本実施形態の抑制部10は、
図15に示すように局所加温部16を含む。局所加温部16は、加温装置70におけるヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれの動作を制御するものである。局所加温部16は、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれに制御信号を送信することで、動静脈吻合を含む局所部位を加温対象として加温する。また、局所加温部16は、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれに制御信号を送信することで、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれの加熱能力を調整する。
【0184】
このように構成される動揺病抑制装置1の作動について説明する。抑制部10は、車室内に乗員が存在する場合、所定のタイミングで局所加温部16が加温装置70を動作させるための制御信号を加温装置70に送信する。すなわち、局所加温部16は、所定のタイミングでヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれに制御信号を送信する。
【0185】
ヒータ71は、局所加温部16から制御信号を受信すると、乗員の膝下部位を加温する。ハンドルウォーマ72は、局所加温部16から制御信号を受信すると、乗員の掌を加温する。シートヒータ73は、局所加温部16から制御信号を受信すると、乗員の首筋を加温する。ネックウォーマ74は、局所加温部16から制御信号を受信すると、乗員の頬を加温する。具体的に、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれは、局所加温部16から送信される制御信号に基づいて乗員の深部体温の単位時間当たりの変化幅が基準幅よりも小さくなるように深部体温を調整する。
【0186】
局所加温部16には、予め実験等によって得られるヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれの発熱量と深部体温との関係が示された制御マップが予め記憶されている。そして、局所加温部16は、当該制御マップに基づいてヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74それぞれに制御信号を送信する。
【0187】
ここで、局所加温部16は、乗員に応じて発熱量を調整してもよい。例えば、動揺病の進行が比較的早い乗員である場合、動静脈吻合を含む局所部位を加温する際の発熱量を比較的高めに設定してもよい。また、動揺病の進行が比較的遅い乗員である場合、動静脈吻合を含む局所部位を加温する際の発熱量を比較的低めに設定してもよい。
【0188】
または、局所加温部16は、動揺病の進行が比較的早い乗員である場合、動静脈吻合を含む局所部位を加温する際の加温範囲を比較大きく設定してもよい。例えば、動揺病の進行が比較的早い乗員である場合、加温する部位を増やしてもよい。また、動揺病の進行が比較的遅い乗員である場合、動静脈吻合を含む局所部位を加温する際の加温範囲を比較小さく設定してもよい。例えば、動揺病の進行が比較的遅い乗員である場合、加温する部位を減らしてもよい。
【0189】
これにより、乗員の身体の部位のうち、動静脈吻合を含む局所部位は、深部体温の単位時間当たりの変化幅が基準幅よりも小さくなるように調整される。
【0190】
以上の如く、本実施形態の抑制部10は、乗員の身体における動静脈吻合を含む局所部位を加温対象として温める局所加温部16を含んでいる。
【0191】
このように、動静脈吻合を含む部位を加温対象とすれば身体を循環する血液を温めて深部体温を上昇させることができるので、個人差の影響を抑えつつ、深部体温の低下を抑制して、動揺病の進行を抑えることができる。
【0192】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0193】
局所部位は、膝下、掌、首筋、頬を含んでいる。
【0194】
これにより、局所部位が膝下、掌、首筋、頬を含んでいない場合に比較して身体を循環する血液を温めやすいので、深部体温の低下を抑制し、動揺病の進行を抑えることができる。
【0195】
(第8実施形態の変形例)
上述の第9実施形態では、加温装置70がヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74を有する例について説明したが、これに限定されない。
【0196】
例えば、加温装置70は、ヒータ71、ハンドルウォーマ72、シートヒータ73およびネックウォーマ74のいずれか1つを有さない構成でもよく、例えば、これらのうち1つまたは複数を有する構成であってもよい。
【0197】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態について、
図18を参照して説明する。本実施形態では、動揺病抑制装置1が冷却装置40を備える車両に設けられており、抑制部10が冷却部13を含む点が第8実施形態と相違している。それ以外は第8実施形態と同じである。このため、本実施形態では、第8実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0198】
上述したように、加温装置70によって乗員の動静脈吻合を含む局所部位を加温すると深部体温が上昇する。ただし、加温装置70によって乗員を加温すると、乗員の体温が上昇する。このため、加温装置70によって乗員の動静脈吻合を含む局所部位を加温すると、乗員の快適性が低下する可能性がある。このため、本実施形態の動揺病抑制装置1は、
図18に示すように、乗員の身体を冷却する冷却装置40と、深部体温を検出する深部体温検出部30とを備える車両に設けられている。また、抑制部10は、深部体温算出部12および冷却部13を含む。
【0199】
深部体温算出部12および深部体温検出部30は、第2実施形態で説明した深部体温算出部12および深部体温検出部30と同様であるため、それらの詳細な説明は省略する。また、冷却部13および冷却装置40は、第3実施形態で説明した冷却部13および冷却装置40と同様であるため、それらの詳細な説明は省略する。
【0200】
これによれば、加温装置70によって乗員の体温が上昇しても、乗員の頭部以外の部位を冷却することで、乗員の快適性が低下することを抑制することができる。
【0201】
その他については、第8実施形態と同様である。本実施形態の動揺病抑制装置1は、第8実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第8実施形態と同様に得ることができる。
【0202】
(第9実施形態の変形例)
上述の第9実施形態では、動揺病抑制装置1が深部体温検出部30を備えた車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含む例について説明したが、これに限定されない。
【0203】
例えば、動揺病抑制装置1は、深部体温検出部30を備えていない車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含んでいない構成であってもよい。
【0204】
この場合、冷却部13は、例えば、車両のイグニッションスイッチがオンされたタイミングで冷却装置40の動作を開始させるための制御信号を冷却装置40に送信してもよい。また、冷却部13は、乗員の操作(例えば、冷却装置40のオン操作)が行われたタイミングで冷却装置40の動作を開始させるための制御信号を冷却装置40に送信してもよい。
【0205】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0206】
上述の実施形態では、動揺病抑制装置1が車両に搭載されており、車両に搭乗する乗員の動揺病を抑制する例について説明したが、これに限定されない。動揺病抑制装置1は、動揺病が発生する虞がある環境下であれば、例えば、船、飛行機、宇宙船等に搭載されており、これら船、飛行機、宇宙船等に搭乗する乗員の所謂乗り物酔いを抑制するために用いられてもよい。また、動揺病抑制装置1は、VRゴーグルまたはHMDを装着した際に発生するVR酔いを抑制するために用いられてもよい。動揺病抑制装置1は、大型ディスプレイで映画等を視聴した際に発生する画面酔いを抑制するために用いられてもよい。
【0207】
上述の実施形態では、基準幅が0.2℃である例について説明したが、これに限定されない。乗員の個人差に合わせて、基準幅を0.2℃より小さい幅(例えば、0.15℃)、または、0.2℃より大きい幅(例えば、0.3℃)であってもよい。
【0208】
上述の第1実施形態では、情報伝達部11が咀嚼動作を継続するためにガムの咀嚼を提案する例について説明したが、これに限定されない。例えば、情報伝達部11は、咀嚼動作を継続するためにガムとは異なる食物の咀嚼を提案してもよい。
【0209】
上述の第4実施形態および第5実施形態では、分圧調整部14が、酸素飽和度が85%~95%となるように対象者の周囲の空気の吸入酸素分圧を調整する例について説明したが、これに限定されない。例えば、分圧調整部14は、対象者の周囲の空気の吸入酸素分圧を調整する際、対象者の脳血流を増加させることが可能であれば、酸素飽和度が85%より小さくなるように調整してもよいし、95%より大きくなるように調整してもよい。
【0210】
上述の第4実施形態および第5実施形態では、分圧調整部14が、動脈血酸素分圧が50Torr~80Torrとなるように対象者の周囲の空気の吸入酸素分圧を調整する例について説明したが、これに限定されない。例えば、分圧調整部14は、対象者の周囲の空気の吸入酸素分圧を調整する際、対象者の脳血流を増加させることが可能であれば、動脈血酸素分圧が50Torrより小さくなるように調整してもよいし、80Torrより大きくなるように調整してもよい。
【0211】
上述の第6実施形態および第7実施形態では、濃度調整部15が、車室内の二酸化炭素濃度が1000~50000ppmとなるように車室内の二酸化炭素濃度を調整する例について説明したが、これに限定されない。例えば、濃度調整部15は、対象者の周囲の空気の吸入酸素分圧を調整する際、対象者の脳血流を増加させることが可能であれば、二酸化炭素濃度が1000ppmより小さくなるように調整してもよいし、50000ppmより大きくなるように調整してもよい。
【0212】
上述の第4実施形態~第7実施形態では、動揺病抑制装置1が深部体温検出部30を備えていない車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含まない例について説明したが、これに限定されない。第4実施形態~第7実施形態において、動揺病抑制装置1は、深部体温検出部30を備えている車両に設けられており、抑制部10が深部体温算出部12を含む構成であってもよい。
【0213】
上述の第4実施形態~第7実施形態では、動揺病抑制装置1が冷却装置40を備えていない車両に設けられており、抑制部10が冷却部13を含まない例について説明したが、これに限定されない。第4実施形態~第7実施形態において、動揺病抑制装置1は、冷却装置40を備えている車両に設けられており、抑制部10が冷却部13を含む構成であってもよい。
【0214】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0215】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0216】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0217】
本開示の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせで構成された一つ以上の専用コンピュータで、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0218】
(本発明の特徴)
[請求項1]
動揺病抑制装置であって、
対象者の深部体温を調整して前記対象者の動揺病を抑える抑制部(10)を備え、
概日リズムに基づいて想定される前記深部体温の単位時間あたりの変化幅を基準幅としたとき、前記抑制部は、前記対象者における前記深部体温の単位時間あたりの変化が前記基準幅より小さくなるように前記対象者の前記深部体温を調整する、動揺病抑制装置。
[請求項2]
前記基準幅は、0.2℃である、請求項1に記載の動揺病抑制装置。
[請求項3]
前記抑制部は、報知装置によって、咀嚼動作を所定時間継続することを促す情報を前記対象者に伝える情報伝達部(11)を含んでいる、請求項1または2に記載の動揺病抑制装置。
[請求項4]
前記情報伝達部は、前記咀嚼動作を継続するためにガムの咀嚼を提案する、請求項3に記載の動揺病抑制装置。
[請求項5]
前記抑制部は、酸素飽和度が85%~95%となるように、前記対象者の周囲の空間の吸入酸素分圧を調整する分圧調整部(14)を含んでいる、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
[請求項6]
前記分圧調整部は、前記吸入酸素分圧が50~80Torrとなるように調整する、請求項5に記載の動揺病抑制装置。
[請求項7]
前記抑制部は、前記対象者の周囲の空間における二酸化炭素の濃度を前記対象者の脳血流が増加すると想定される濃度範囲に調整する濃度調整部(15)を含んでいる、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
[請求項8]
前記濃度範囲は、1000~50000ppmである、請求項7に記載の酔い防止装置。
[請求項9]
前記抑制部は、前記対象者の身体における動静脈吻合を含む局所部位を加温対象として温める局所加温部(16)を含んでいる、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
[請求項10]
前記局所部位は、膝下、手先、首筋、頬のいずれか1つを含んでいる、請求項9に記載の動揺病抑制装置。
[請求項11]
前記抑制部は、前記対象者の身体における頭部以外の部位を冷却対象として冷却する冷却部(13)を含んでいる、請求項1ないし10のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
[請求項12]
前記対象者は、車両に搭乗している乗員である、請求項1ないし11のいずれか1つに記載の動揺病抑制装置。
【符号の説明】
【0219】
10 抑制部