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  • 特開-電動機の回転子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092790
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】電動機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240701BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208948
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】永徳 航一
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB04
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】外周寄り部分に、スロットが複数開設され、各スロットに永久磁石3が内挿され、各スロットの軸方向に直交する方向の断面形状は、径方向外側の辺の周方向長さが径方向内側の辺の周方向長さよりも長い、線対称な四角形の4つの角部がR状に形成された形状であり、永久磁石3の径方向の断面形状は、4つの角部C5,C6,C7,C8がR状に形成された形状である電動機の回転子において、各スロットが開設された部分に加わる、径方向外方に向かう応力を低減させて磁気特性と機械的耐久性との両立を図る。
【解決手段】各スロットの少なくとも径方向外側に位置する2つのR部の曲率が、径方向外側に位置する永久磁石3の2つのR部の曲率よりも大きく、永久磁石3の径方向外側に位置する各R部が、各スロットの径方向外側に位置する各R部の一部に内接する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周寄り部分に、軸方向にのびるスロットが、周方向の間隔を存して複数開設され、各スロットに永久磁石が内挿される電動機の回転子であって、
各スロットの軸方向に直交する方向の断面形状は、径方向外側の辺の周方向長さが径方向内側の辺の周方向長さよりも長く、各辺の中点と回転子の回転中心とを通る直線を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部がR状に形成された形状であり、永久磁石の径方向の断面形状は、各スロットの断面形状に対応して4つの角部がR状に形成された形状であるものにおいて、
各スロットの少なくとも径方向外側に位置する2つのR部の曲率が、各スロットの内部で径方向外側に位置する永久磁石の2つのR部の曲率よりも大きく、永久磁石の径方向外側に位置する各R部が、各スロットの径方向外側に位置する各R部の一部に内接するようになっていることを特徴とする電動機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周寄り部分に、軸方向にのびるスロットが、周方向の間隔を存して複数開設され、各スロットに永久磁石が内挿される電動機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機(いわゆる、IPMモータ)の回転子として、各スロットの軸方向に直交する方向の断面形状は、径方向外側の辺の周方向長さが径方向内側の辺の周方向長さよりも長く、各辺の中点と回転子の回転中心とを通る直線を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部がR状に形成された形状であり、永久磁石の径方向の断面形状は、各スロットの断面形状に対応して4つの角部がR状に形成された形状であるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電動機の回転子では、外周寄り部分に複数開設された各スロットに永久磁石が内挿されるため、永久磁石の漏れ磁束が減少して磁気特性が向上する。したがって、誘起電圧を高くすることができれば、回転子を囲うように設けられる固定子への通電電流が低くても、十分なトルクが発生し、電動機の出力が向上すると期待される。その一方で、回転子の径方向外端から各スロットの径方向外側の辺までの、軸方向に直交する方向の厚さが薄いため、回転子の機械的耐久性が低下しやすい。このように、電動機の上記回転子では、磁気特性と機械的耐久性とはトレードオフ関係にある。具体的には、電動機の上記回転子の機械的耐久性は、概ね回転子の周速で決まると言え、例えば、周速が100m/sを超えるような高速回転領域では、磁気特性と機械的特性との両立が非常に難しい。
【0004】
また、最近、上記電動機には高速回転化且つ高トルク化が要求されてきており、特許文献1記載の電動機の回転子では、その要求に応えるのが難しくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-158842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、例えば、周速が100m/sを超えるような高速回転時でも、各スロットが開設された部分に加わる、径方向外方に向かう応力を低減させることができ、磁気特性と機械的耐久性との両立を図ることができる電動機の回転子を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、外周寄り部分に、軸方向にのびるスロットが、周方向の間隔を存して複数開設され、各スロットに永久磁石が内挿される電動機の回転子であって、各スロットの軸方向に直交する方向の断面形状は、径方向外側の辺の周方向長さが径方向内側の辺の周方向長さよりも長く、各辺の中点と回転子の回転中心とを通る直線を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部がR状に形成された形状であり、永久磁石の径方向の断面形状は、各スロットの断面形状に対応して4つの角部がR状に形成された形状であるものにおいて、各スロットの少なくとも径方向外側に位置する2つのR部の曲率が、各スロットの内部で径方向外側に位置する永久磁石の2つのR部の曲率よりも大きく、永久磁石の径方向外側に位置する各R部が、各スロットの径方向外側に位置する各R部の一部に内接するようになっていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、回転子の回転時に、永久磁石の径方向外側に位置する各R部が、各スロットの径方向外側に位置する各R部の一部に内接するため、回転子の外周寄り部分に加わる、軸方向に直交する方向の応力が、各スロットが開設された部分に集中することはなく、回転子の外周寄り部分の全体に分散し、低減する。したがって、各スロットが開設された部分の、軸方向に直交する方向外方への変形が抑えられ、磁気特性と機械的耐久性との両立が図られる。例えば、周速が100m/sを超える高速回転に耐え得る電動機の回転子の実現が有望視される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の電動機の回転子の一実施形態を概略的に示す要部斜視図。
図2図1に示す電動機の回転子を構成する電磁鋼板の正面図。
図3】(a)は、図2に示す電磁鋼板に開設された、隣接する2つを示す正面図、(b)は、図2に示すスロットに内挿される永久磁石を示す、軸方向に直交する方向の断面図。
図4図1に示す電動機の回転子を回転させた時の、永久磁石のスロットへの接触状態を示す要部拡大断面図。
図5図1に示す電動機の回転子を回転させた時の、回転子の径方向の変位分布を解析した変位分布図。
図6】各スロット及び永久磁石のR部の夫々の曲率を同一にした電動機の回転子を回転させた時の、回転子の径方向の変位分布を解析した変位分布図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図4を参照して、本実施形態の電動機の回転子(以下、単に回転子と記す)について説明する。回転子1は、図2に示す複数枚の電磁鋼板11を、図外の、電動機に設けられる回転軸の軸方向に積層し、加圧した状態で回転軸に焼嵌めしたアッセンブリである。各電磁鋼板11は、中央部に、上記回転軸に外嵌可能な内径を有する中央開孔111が開設された環状の板材である。各電磁鋼板11には、その外周寄り部分に、図1に示す各スロット2を形成する開孔112が、周方向の間隔を存して複数開設されている。具体的には、図3(a)に示すように、各開孔112の平面形状は、径方向外側の辺112aの周方向長さL1が径方向内側の辺112bの周方向長さL2よりも長く、各辺112a,112bの中点と回転子1の回転中心とを通る直線CL1を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部C1,C2,C3,C4がR状に形成された形状である。このため、回転子1では、各スロット2の軸方向に直交する方向の断面形状は、径方向外側の辺の周方向長さが径方向内側の辺の周方向長さよりも長く、各辺の中点と回転子1の回転中心とを通る直線を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部がR状に形成された形状になる。そして、各スロット2では、各電磁鋼板11の各開孔112でR状に形成された4つの角部C1,C2,C3,C4がR部に相当する
【0011】
また、回転子1の外周寄り部分に対応する、各電磁鋼板11の外周寄り部分では、回転子1の磁気特性向上のために、径方向外端から各開孔112の径方向外側の辺112aまでの、軸方向に直交する方向の厚さが薄くなっている。このような開孔112の重なり合いによって形成される回転子1の各スロット2には、永久磁石3が内挿される。永久磁石3の断面形状は、図3(b)に示す通り、各スロット2の断面形状、すなわち、各電磁鋼板11に開設された各開孔112の平面形状に対応する形状になっている。つまり、永久磁石3の断面の形状及び大きさは、各スロット2への内挿が可能になる程度に、各電磁鋼板11に開設された各開孔112の形状及び大きさよりも若干小さい形状になっている。具体的には、永久磁石3の断面形状は、各開孔112の平面形状と同様に、各スロット2に内挿された際の、径方向外側の辺3aの周方向長さL3が径方向内側の辺3bの周方向長さよりも長く、各辺3a,3bの中点と回転子1の回転中心とを通る直線CL2を対称軸とする線対称な四角形の4つの角部C5,C6,C7,C8がR状に形成された形状である。そして、永久磁石3では、R状に形成された4つの角部C5,C6,C7,C8がR部に相当する。
【0012】
さらに、各スロット2の少なくとも径方向外側に位置する、図1に示す2つのR部21,22の曲率、言い換えると、図3(a)に示す各電磁鋼板11に開設された各開孔112の径方向外側に位置する、R状に形成された角部C1,C2の曲率R1が、各スロット2の内部で径方向外側に位置する永久磁石3の2つのR部(R状に形成された角部C5,C6)の曲率R2よりも大きくしている。R1>R2とすることによって、回転子1では、永久磁石3の径方向外側に位置する各R部(R状に形成された角部C5,C6)が、回転子1の回転時に、各スロット2の径方向外側に位置する各R部21,22の一部に内接するようにしている。
【0013】
図4に示すように、回転子1が回転する時、永久磁石3には、軸方向に直交する方向の外方に遠心力が作用するため、永久磁石3は、各スロット2の内部で径方向外側に移動する。この時、永久磁石3の2つのR部(R状に形成された角部C5,C6)が、各スロット2の径方向外側に位置する各R部21,22の一部に内接する。永久磁石3の2つのR部の、各スロット2の各R部21,22への内接は、回転子1の全体では、軸方向に沿った線接触になる。このように、永久磁石3の2つのR部が各スロット2の各R部21,22に内接すると、永久磁石3の径方向外側の面31は、各スロット2の径方向外側の面23には接触せず、両者間に微小なギャップG1が生じる。同様に、永久磁石3の周方向外側の面32も、各スロット2の周方向内側の面24には接触せず、両者間にも微小なギャップG2が生じる。このため、回転子1の回転に伴う遠心力によって、回転子1の外周寄り部分に加わる、軸方向に直交する方向の応力が、各スロット2が開設された部分に集中することはなく、回転子1の外周寄り部分の全体に分散する。したがって、各スロット1が開設された部分の、軸方向に直交する方向外方への変形を抑制することができ、電動機の回転子1の、磁気特性と機械的耐久性との両立を図ることができる。
【0014】
実際に、外径141mmの各電磁鋼板11において、径方向外端から2.8mmの位置に、径方向外側の辺112aの周方向長さが16.7mm、径方向内側の辺112bの周方向長さが15.0mmで、径方向幅が6.5mmである四角形の各開孔112を、隣接する2つの開孔112,112の各直線CL1間の間隔を30°として複数開設すると共に、各開孔112の4つの角部C1,C2,C3,C4を曲率1.5mmでR状に形成した。各電磁鋼板11を回転軸の軸方向に積層し、加圧した状態で回転軸に焼嵌めした。また、各開孔112によって形成される各スロット2に内挿する永久磁石3として、径方向外側の辺3aの周方向長さL3が16.5mm、径方向内側の辺3bの周方向長さL4が14.8mmで、径方向幅が6.4mmである四角形の4つの角部C5,C6,C7,C8を曲率1.35mmでR状に形成した断面形状を有するものを作製した。そして、永久磁石3を各スロット2に内挿し、回転子1を高速回転させた(20,000rpm)。以下、実施例と呼称する。
【0015】
一方、永久磁石3の断面の形状及び大きさを、実施例の各スロット2の断面の形状及び大きさと同じものを作製し、各スロット2に内挿した以外は、実施例と同一にした。以下、比較例と呼称する。なお、図5,6では、永久磁石3は図示を省略している。
【0016】
高速回転時の回転子1の外周寄り部分の変位を有限要素法の構造解析で求めたのが、図5(実施例)及び図6(比較例)である。図5及び図6に示す各数値の単位はmmである。図5図6の対比から明らかであるように、実施例では、回転軸1の外周寄り部分の内、永久磁石3の径方向外側に位置する各R部が内接する、各スロット2の径方向外側に位置する各R部21,22の間の範囲内で、径方向外方への変位が減少している。また、この変位の減少は、隣接する2つのスロット2,2の間の部分、通称リブ部での変位よりも小さくなっている。ただし、実施例の、リブ部での変位の大きさは、各スロット2の径方向外側に位置する各R部21,22の間の範囲内での変位の大きさとの対比であって、比較例の、リブ部での変位の大きさとの対比ではない。
【0017】
これに対し、比較例では、永久磁石3は、径方向外側に位置する各R部のみならず、各スロット2の径方向外側の部分に面接触するため、各スロット2の、径方向外側に位置すると共に、周方向中央に位置する部分から回転子1の径方向外方に向かう変位が、実施例と比較して大きい。この変位は、リブ部での変位に比べかなり大きい。
【0018】
以上の結果から、実施例では、回転子1の外周寄り部分に加わる、軸方向に直交する方向の応力が、各スロット2が開設された部分に集中することはなく、回転子1の外周寄り部分の全体に分散して、低減していることが確認される。したがって、各スロット2が開設された部分の、軸方向に直交する方向外方への変形が抑えられ、磁気特性と機械的耐久性との両立が図られると合理的に考えられる。例えば、周速が100m/sを超える高速回転に耐え得る電動機の回転子の実現が有望視される。
【0019】
一方、比較例では、回転子1の外周寄り部分に加わる、軸方向に直交する方向の応力が、各スロット2が開設された部分に集中することが確認される。したがって、各スロット2が開設された部分の、軸方向に直交する方向外方への変形を抑制するのが難しいと合理的に考えられ、磁気特性と機械的耐久性との両立は難しいと結論される。
【0020】
以上、本発明の実施形態及び実施例について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、各スロット2及び永久磁石3の具体的な寸法及び個数をはじめ、R部の曲率等については様々な態様が可能である。また、R1>R2は、各スロット2の径方向外側に位置する少なくとも2つのR部21,22と、各スロット2に内挿される永久磁石3の径方向外側に位置する各R部との間で成立すればよく、例えば、径方向内側に位置する各スロット2の各R部と永久磁石3の各R部とでは、R1=R2であっても構わない。
【符号の説明】
【0021】
1…回転子、2…スロット、3…永久磁石、112a…各スロット2を形成する、各電磁鋼板11に開設された各開孔112の、軸方向に直交する方向の断面の径方向外側の辺、L1…辺112aの周方向長さ、112b…各スロット2を形成する、各電磁鋼板11に開設された各開孔112の、軸方向に直交する方向の断面の径方向内側の辺、L2…辺112bの周方向長さ、CL1…直線、C1,C2,C3,C4…各開孔112の角部、21,22…各スロット2の径方向外側に位置するR部、R1…R部21,22に相当する、各開孔112の角部C1,C2の曲率、R2…各スロット2の内部で径方向外側に位置する永久磁石3の各R部に相当する角部C5,C6の曲率。
図1
図2
図3
図4
図5
図6