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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092799
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20240701BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240701BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208966
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】夛田 亮佑
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA03
5E322FA02
5E322FA04
5F136BC07
5F136FA23
5F136FA70
5F136FA75
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】 電子機器内部に設けられた発熱体の発する熱の影響が低減された電子機器を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は、発熱体と、前記発熱体に積層された断熱シートとを含む積層体を備え、前記断熱シートが、多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含むエアロゲル複合材を備え、前記エアロゲル複合材の厚みが3mm以下であることを特徴とする、電子機器である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と、
前記発熱体に積層された断熱シートと
を含む積層体を備え、
前記断熱シートが、多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含むエアロゲル複合材を備え、
前記エアロゲル複合材の厚みが3mm以下である
ことを特徴とする、電子機器。
【請求項2】
前記エアロゲル複合材の厚み方向の熱伝導率が0.020W/(m・K)以下である、請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記積層体は、前記断熱シートにおける前記発熱体が積層された面の反対の面に積層された放熱シートを更に備える、請求項1又は2記載の電子機器。
【請求項4】
前記電子機器は、前記電子機器の外郭を構成する筐体を備え、
前記発熱体に対して前記断熱シートが設けられた側の前記積層体の面と、前記筐体と、の間に空隙が存在する、請求項1又は2記載の電子機器。
【請求項5】
モバイル電子機器である、請求項1又は2記載の電子機器。
【請求項6】
前記発熱体が、プロセッサー、記憶装置、バッテリー、又は、光学ドライブである、請求項1又は2記載の電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット、ノートパソコンに代表されるモバイル機器(小型又は軽量で持ち運びが容易であり、バッテリーを内蔵し、データ保存や通信機能を有する電子機器)をはじめとして、近年の電子機器は小型化や高性能化が進んでいる。電子機器に含まれる電子部品は使用時に発熱を伴うが、電子部品に用いられる半導体素子の高集積化等により更に熱が生じやすくなる。その結果、例えば、電子機器の熱によって、使用者が不快感を覚えたり、使用者が低温火傷する事態が発生し得ることから、このような熱の影響が無視できなくなってきている。
【0003】
特許文献1においては、ノートパソコンの筐体部分に真空断熱材を組み付ける等により、発熱体であるCPUに由来する熱が使用者へ与える影響を低減させた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第654546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る技術では、真空断熱材の厚みが薄く、金属部分が熱橋になる等、電子機器内部に設けられた発熱体(例えば、CPU)の発する熱の影響が十分に低減しない場合があった。
【0006】
そこで本発明は、電子機器内部に設けられた発熱体の発する熱の影響が低減された電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を行い、特定の構造を有する電子機器によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明のある形態は、
発熱体と、
前記発熱体に積層された断熱シートと
を含む積層体を備え、
前記断熱シートが、多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含むエアロゲル複合材を備え、
前記エアロゲル複合材の厚みが3mm以下である
ことを特徴とする、電子機器である。
【0009】
前記エアロゲル複合材の厚み方向の熱伝導率が0.020W/(m・K)以下であることが好ましい。
前記積層体は、前記断熱シートにおける前記発熱体が積層された面の反対の面に積層された放熱シートを更に備えることが好ましい。
前記電子機器は、前記電子機器の外郭を構成する筐体を備え、
前記発熱体に対して前記断熱シートが設けられた側の前記積層体の面と、前記筐体と、の間に空隙が存在することが好ましい。
前記電子機器は、モバイル電子機器であることが好ましい。
前記発熱体が、プロセッサー、記憶装置、バッテリー、又は、光学ドライブであることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、電子機器内部に設けられた発熱体の発する熱の影響が低減された電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、電子機器の側面断面図の一部を拡大した模式図である。
図2図2は、発熱体に対する断熱シートの積層形態の変更例を示す模式図である。
図3図3(A)は、積層体(発熱体)の設置形態の変更例を示す模式図であり、図3(B)は、積層体の積層構造の変更例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0013】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(23℃)として実施する。
【0014】
以下において、密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に準拠して測定された見掛け密度である。
【0015】
以下、発熱体及び断熱シートを含む電子機器、並びに、電子機器に用いるのに好適な断熱シートについて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
<<<<電子機器10>>>>
図1は、筐体120を備える電子機器10の側面断面図の一部を拡大した模式図である。図1に示されるように、本開示に係る電子機器10は、発熱体102と、発熱体102に積層された断熱シート104とを含む積層体100を備える。
【0017】
なお、図1では、筐体120、基板110、及び、発熱体102を含む積層体100以外の部品については省略している。
【0018】
図1において、積層体100は、基板110と共に筐体120内に収容されている。より具体的には、図1において、積層体100が、発熱体102の一方の表面が基板110に接するように設置された状態で、筐体120内に収容されている形態を示している。この形態は、例えば、発熱体102がCPU等の場合において想定される形態である。
【0019】
本開示に係る電子機器10によれば、断熱シート104を発熱体102に積層させた構造を有することから、発熱体102の少なくとも一方の面(断熱シート104が積層された側の面)に対する熱の影響を低減することができる。このように構成した結果、例えば、発熱体102に由来する熱が筐体120に直接的に伝わることを抑止して、筐体120が急激に温度上昇して、そこに接触した使用者が低温火傷してしまうといった事態を抑制することや、発熱体102に由来する熱が発熱体102の周囲に配置された部品に直接的に伝わることを抑止して、上記部品への熱の影響を抑制したり、発熱体102の周囲に配置される部品として使用可能な材質の制限を緩和すること等が可能と考えられる。換言すれば、本開示に係る電子機器10によれば、断熱シート104を発熱体102に積層させた積層構造とすることで、筐体120内部における熱分布を適度に制御することが可能と考えられる。
【0020】
本開示において、電子機器10は、従来公知の電子機器とすることができる。電子機器の具体例としては、デスクトップパソコン、ノートパソコン、サーバー、タブレットPC、スマートフォン、電子辞書、プリンター、ハードディスク、液晶ディスプレイ、テレビ、BDレコーダー、DVDレコーダー、ゲーム機、デジタルカメラ、冷蔵庫、冷暖房機、洗濯機、炊飯器、掃除機、オーブン、電子レンジ、空気清浄機、食器洗浄機等が挙げられる。
【0021】
電子機器10は、スマートフォン、タブレットPC、ノートパソコン等のモバイル電子機器であることが好ましい。
【0022】
<<<積層体100>>>
図1においては、積層体100は、発熱体102の一方の面に断熱シート104が直接積層されて構成されているが、断熱シート104は、発熱体102の一方の面に、他の層を介して積層されてもよい。他の層は、例えば、接着剤層、ヒートシンク等である。本開示の効果を高めるためには、断熱シート104は、直接発熱体102に積層されること、或いは、粘着剤層のみを介して発熱体102に積層されることが好ましい。この場合、粘着剤層を形成するために用いられる接着剤としては、電子機器内部の部品の固定に通常使用されるものであればよく、特に限定されないが、発熱体102の発する熱に耐える程度の耐熱性を有するものであることが好ましい。
【0023】
電子機器10が複数の発熱体102を含む場合、断熱シート104は、複数の発熱体102に積層されてもよい。換言すれば、本開示に係る電子機器10は、発熱体102と、発熱体102に積層された断熱シート104とを備える積層体100を複数有していてもよい。
【0024】
また、1つの断熱シート104が、隣接する2つ以上の発熱体102に跨って積層されることで、積層体100を構成していてもよい。
【0025】
また、図1に示されるように、積層体100は、断熱シート104における発熱体102が積層された面の反対の面(図1における上面)に積層された放熱シート106を更に備えることが好ましい。断熱シート104の上に更に放熱シート106が積層されることで、断熱シート104によって筐体等が急激に温度上昇することが抑止されつつも、発熱体102が過熱され難くなると考えられる。また、電子機器10がファンを備える場合等において、放熱シート106を介した放熱が促進され、更に発熱体102が過熱され難くなると考えられる。
【0026】
図1では、断熱シート104が、発熱体102の表面のみを覆い、発熱体102の側面を覆わない形態を示したが、断熱シート104の積層形態はこれには限定されない。
【0027】
図2は、発熱体102に対する断熱シート104の積層形態の変更例を示す模式図である。図2に示すように、断熱シート104の積層形態は、断熱シート104が発熱体102の表面及び側面の両方を覆う形態や、断熱シート104と発熱体102の設置面(図2においては基板110)によって発熱体102を封止する形態であってもよい。
【0028】
図2に示すように、断熱シート104が発熱体102の表面及び側面の両方を覆う形態や、発熱体102が断熱シート104によって封止された形態においては、断熱シート104が段差や凹凸に追従できずに生じてしまう微小な空間が存在していてもよいし存在しなくともよい。
【0029】
図1では、発熱体102の一方の表面の全てが断熱シート104で覆われた積層体100形態を示したが、積層体100は、発熱体102の一方の表面の一部のみ(例えば、発熱体102に由来する熱による影響を抑止したい領域付近のみ)が断熱シート104で覆われた形態であってもよい。
【0030】
<<発熱体102>>
発熱体102は、電子機器10の使用時に通電し発熱する電子部品或いはモジュールであり、電子機器10の種類によってさまざまなものが該当する。
【0031】
発熱体102の発熱温度(通常使用に際して想定される温度或いは最高温度)は、特に限定されないが、例えば、30℃以上、40℃以上、又は、50℃以上となるものが挙げられる。発熱体102の発熱温度の上限値は、例えば、300℃以下、200℃以下、又は、100℃以下等である。
【0032】
発熱体102の具体例としては、例えば、プロセッサー、記憶装置、バッテリー、又は、光学ドライブ等が挙げられる。
【0033】
プロセッサーとしては、CPU、GPU等が挙げられる。
【0034】
記憶装置としては、HDD、SSD、メモリ等が挙げられる。
【0035】
バッテリーとしては、二次電池(ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等)を含む電池パック等が挙げられる。
【0036】
光学ドライブとしては、CDドライブ、DVDドライブ、BDドライブ等が挙げられる。
【0037】
電子機器10において発熱し得るその他の電子部品或いはモジュール(電源等)を、本開示における発熱体102として考えることができ、その一部又は全部に断熱シート104を積層させることができる。
【0038】
<<断熱シート104>>
断熱シート104の具体的な構成については後述する。
【0039】
<<放熱シート106>>
放熱シート106は、電子機器の分野で用いられる従来公知の放熱シートを使用可能であり、その材質や厚み等は特に限定されない。放熱シート106は、例えば、面方向において高い熱伝導率をもつ材料であることが好ましい。
【0040】
放熱シートの具体例としては、グラファイトシート又はグラフェンシート等が挙げられる。
【0041】
<<<基板110>>>
基板110としては特に限定されず、従来公知のものを使用可能である。また、基板110の上には積層体100以外の種々の部品が組み付けられていてもよい。
【0042】
<<<筐体120>>>
図1においては、筐体120は、並行した板状部材によって主に構成されているが、筐体120は、電子機器の形状に応じてより複雑な形状を有するものであってもよい。筐体120は、全体として、直方体や板状体であってもよいし、それ以外の立体形状、例えば、曲面で構成された形状や、曲面と平面とを組み合わせて構成される形状であってもよい。
【0043】
筐体120の大きさ(筐体120の内部空間の大きさ)、筐体120を構成する部材の厚みや材質等についても、電子機器の種類に合わせて適宜選択可能である。また、筐体120は、複数の部材を組み合わせて構成されていてもよい。
【0044】
筐体120は、その一部が開口されている、或いは、開口可能に構成されていてもよい。例えば、筐体120は、スリットを有していたり、取り外し可能な蓋状の部材或いはヒンジ等で一部が固定された扉状の部材等を含んでいてもよい。
【0045】
このように、筐体120は、内部に発熱体102等を含む部品やモジュールを収容可能な空間を有し、一般的な電子機器の外郭を構成するものであればよく、電子機器10の種類によって異なり、適宜自由な構造とすることができる。
【0046】
図1に示されるように、発熱体102に対して断熱シート104が設けられた側の積層体100の面(図1における積層体100の上側の面)と、筐体120と、の間に空隙S1が存在することが好ましい。積層体100と筐体120との間に空隙を設けることで、積層体100が発する発熱体102に由来する熱が直接的に筐体120に伝わることが抑制される。特に、筐体120内部にファン(図示せず)を備える場合、空隙S1によって当該ファンによる空気の流路が形成され、筐体120内部からの排熱を促進させることができる。また、図1に示されたように、積層体100が放熱シート106を有する場合、このような空隙S1によって奏される効果がより高まると考えられる。
【0047】
積層体100と筐体120との距離(空隙S1の幅)は、電子機器10の種類や筐体120自体の大きさによって異なるが、例えば、0.1mm以上、0.2mm以上、又は、0.3mm以上であることが好ましい。この上限値は特に限定されず、100.0mm以下、50.0mm以下等であってもよいが、例えば、電子機器10をモバイル機器とする場合には、10.0mm以下、5.0mm以下、又は、3.0mm以下であることが好ましい。
【0048】
<<<電子機器10のその他の形態>>>
電子機器10において、発熱体102の設置形態は、図1に示された形態に限定されない。
【0049】
図3(A)は、積層体100(発熱体102)の設置形態の変更例を示す模式図であり、図3(B)は、積層体100の積層構造の変更例を示す模式図である。図3(A)に示されるように、発熱体102が板状の部材である場合に、発熱体102の側面が設置面(図3(A)においては基板110)に接するように設置された形態であってもよい。
【0050】
図3(A)及び図3(B)に示す形態は、発熱体102の一方の表面にある断熱シート104(第1の断熱シート104-1)を積層させ、発熱体102の他方の表面に別の断熱シート104(第2の断熱シート104-2)を積層させることで、発熱体102の両面が断熱シート104で覆われて積層体100を構成する形態である。この形態は、例えば、発熱体102がメモリ等の場合において想定される形態である。
【0051】
図3(A)に示す形態において、発熱体102の片方の表面のみに断熱シート104が積層されていてもよい。
【0052】
図3(A)に示す形態では、発熱体102の側面(基板110と接触していない範囲以外の側面)が断熱シート104で覆われていないものを例示しているが、第1の断熱シート104-1及び第3の断熱シート104-2の端部同士を接着させて、発熱体102を断熱シート104で封止する構成としてもよい。また、図3(A)に示す形態において、積層体100は、放熱シート106を有していてもよい。第1の断熱シート104-1の表面のみに放熱シート106を積層させてもよいし、第2の断熱シート104-2の表面のみに放熱シート106を積層させてもよいし、第1の断熱シート104-1の表面及び第2の断熱シート104-2の表面に放熱シート106を積層させてもよい。
【0053】
図1及び図3(A)は、発熱体102が、基板110の上に組み付けられた形態を示したが、発熱体102が基板110の上に組み付けられる以外の形態、例えば、発熱体102が基板110等とは物理的に離隔した位置に設置される形態であってもよい。この形態は、例えば、発熱体102がバッテリーや光学ドライブである場合において想定される形態である。
【0054】
本開示においては、積層体100が筐体120に内包された電子機器10について説明したが、このような筐体120を有さない電子機器10も、本開示の技術範囲に含まれる。
【0055】
また、本開示では、発熱体102に対して断熱シート104を積層させた積層体100を備える電子機器10について説明したが、本開示の概念を適用した別の電子機器として、筐体120に対して断熱シート104を積層させた積層構造(筐体120における発熱体102と対向する面に断熱シート104を積層させた積層構造)を有する電子機器が考えられる。この場合、発熱体102と断熱シート104とは隔離して設けられることとなる。また、この場合、断熱シート104における筐体120が積層された面の反対の面に、放熱シート106が積層されてもよい。また、この場合、発熱体102、断熱シート104、筐体120等の構成については本開示で説示された事項を適用することができる。また、この場合、発熱体102と断熱シート104との間の空間(空隙)の幅等については、空隙S1として説示された事項を適用することができる。
【0056】
また、発熱体102に対して断熱シート104を積層させる工程を有する、電子機器内部の断熱方法も本開示の技術範囲に含まれる。
【0057】
<<<<断熱シート>>>>
以下、前述した発熱体102に積層させる(積層体100を構成する)断熱シート104として好ましく用いられる断熱シートについて詳述する。
【0058】
断熱シートは、多孔質基材と、多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含むエアロゲル複合材であることが好ましい。
【0059】
エアロゲル複合材(又は断熱シート)の厚みは、3.0mm以下、2.8mm以下、2.6mm以下、又は、2.4mm以下であることが好ましい。厚みの下限値は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上、0.5mm以上、1.0mm以上、又は、1.5mm以上である。なお、上記厚みは、エアロゲル複合材の厚みを説明したものであるが、エアロゲル複合材の原料である発泡体の好ましい厚みとして読み替えてもよい。
【0060】
また、エアロゲル複合材(又は断熱シート)の厚み方向の熱伝導率は、0.020W/(m・K)以下、0.018W/(m・K)以下、又は、0.016W/(m・K)以下であることが好ましい。熱伝導率の下限値は、例えば、0.005W/(m・K)、0.010W/(m・K)、又は、0.012W/(m・K)であることが好ましい。
【0061】
熱伝導率は、JIS A1412-2:1999「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に従って、熱伝導率測定装置(英弘精機社製:HC-72)を用いて測定されたものとする。
【0062】
このような厚み或いは熱伝導率のエアロゲル複合材(又は断熱シート)を用いた場合、適切な断熱性能が奏されつつも、発熱体が極度に蓄熱してしまうことが抑止され、電子機器の性能を極端に下げることなく、使用上の安全性を向上させることができると考えられる。
【0063】
また、エアロゲル複合材を用いることで、スマートフォンやタブレット等のモバイル電子機器のように、断熱シートの厚みに制約がある場合であっても、前述した熱伝導率を達成しやすい。
【0064】
エアロゲル複合材としては、例えば、特開2022-011146号公報、特開2021-109435号公報、特開2021-036038号公報、特開2020-019925号公報、特開2019-094234号公報、特開2016-074841号公報等に開示されたものや市販品等を用いることができる。
【0065】
エアロゲル複合材の密度は、0.05g/cm以上、0.08g/cm以上、又は、0.10g/cm以上であることが好ましく、また、0.40g/cm以下、0.30g/cm以下、020g/cm以下、又は、016g/cm以下であることが好ましい。エアロゲル複合材の密度をこのような範囲とすることにより、断熱性能や、柔軟性と粉落ちの抑制とを両立させることができる。
【0066】
エアロゲル複合材は、基材層からのエアロゲルの脱落(粉落ち)の防止を目的とした層(例えば、エアロゲルを含まない発泡体層、繊維体層、フィルム層)等が積層されていてもよい。
【0067】
以下、エアロゲル複合材を構成する各要素を説明する。
【0068】
<<<多孔質基材>>>
多孔質基材は、エアロゲルを保持可能な孔を多く有する材料である。
【0069】
多孔質基材中の孔の大きさは、特に限定されない。多孔質基材は、例えば、マイクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料等であってもよい。
【0070】
多孔質構造中の孔は、連通孔であることが好ましい。多孔質構造体が連通孔を有することで、エアロゲルを十分に充填させることが容易となる等の理由により、複合体の断熱性が優れたものとなりやすい。
【0071】
多孔質基材としては、具体的には、発泡体、繊維によって形成された繊維基材(例えば、織布や不織布)、3次元で複雑な骨格を形成している基材(例えば、多孔質セラミック基材)等が挙げられる。多孔質基材は、エアロゲル複合体の断熱性、加工性、製造容易性等をバランスよく高めるという観点から、発泡体又は不織布であることが好ましく、更にエアロゲルの保持性を高めるという観点から、発泡体であることが特に好ましい。
【0072】
繊維基材を構成する繊維としては、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属で構成された金属繊維、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース等の有機物で構成された有機繊維、ガラス、炭素、シリカ、ロックウール、セラミック等の無機物で構成された無機繊維等を用いることができる。
【0073】
発泡体としては、オレフィン樹脂発泡体、アクリル樹脂発泡体、ウレタン樹脂発泡体、酢酸ビニル樹脂発泡体、塩化ビニル樹脂発泡体、エポキシ樹脂発泡体、ゴム発泡体、シリコーン樹脂発泡体、メラミン樹脂発泡体、ポリイミド樹脂発泡体等の公知の発泡体が挙げられる。
【0074】
発泡体は、熱圧縮されたものであってもよい。発泡体を熱圧縮することで、発泡基材の密度、厚み、通気度等を所望の範囲としやすくなり、得られるエアロゲル複合体の断熱性、製造容易性等を高めることができる。
【0075】
また、発泡体は、表皮層を有するものであってもよい。表皮層は、一般的に、発泡体の中心部よりも高い密度を有する(気泡が少ない)領域である。発泡体が表皮層を有することで、エアロゲル複合体を使用する際のエアロゲルの脱離(粉落ち)を防止しやすい。
【0076】
発泡体を熱圧縮する方法や、発泡体に表皮層を形成する方法については、特開2022-011146号公報等に開示された方法を用いることができる。
【0077】
多孔質基材の密度は、0.01g/cm以上、0.02kg/m以上、0.05kg/m以上、0.08g/cm以上、又は、0.10g/cm以上であることが好ましく、また、2.0g/cm以下、1.0g/cm以下、0.80g/cm以下、0.60kg/m以下、0.40g/cm以下、又は、0.25g/cm以下であることが好ましい。多孔質基材の密度がこのような範囲であると、優れた断熱性を得やすい。
【0078】
<<エアロゲル>>
エアロゲルとしては、特に限定されず、シリカエアロゲル及びアルミナエアロゲル等の無機エアロゲル、レゾルシノール・ホルムアルデヒド・エアロゲル(RFエアロゲル)、セルロースナノファイバー・エアロゲル(CNFエアロゲル)等の有機エアロゲル、炭素エアロゲル、並びに、これらの混合物等が挙げられる。エアロゲルは、シリカエアロゲルであることが好ましい。
【0079】
エアロゲルの密度は、0.001g/cm以上、0.01kg/m以上、0.05kg/m以上、0.08g/cm以上、又は、0.10g/cm以上であることが好ましく、また、2.0g/cm以下、1.0g/cm以下、0.80g/cm以下、0.60kg/m以下、0.40g/cm以下、0.25g/cm、又は、0.20g/cm以下であることが好ましい。エアロゲルの密度がこのような範囲であると、優れた断熱性を得やすい。
【0080】
<<<製造方法>>>
以下、エアロゲル複合材の製造方法の一例を示す。
【0081】
本開示に係るエアロゲル複合体は、例えば、以下の工程を実施することで製造することができる。
(1)ゾル溶液を調製するゾル調製工程
(2)多孔質基材中にゾル溶液を充填する充填工程
(3)多孔質基材中のゾル溶液をゲル化して湿潤ゲルを調製するゲル調製工程
(4)多孔質基材中の湿潤ゲルの水分を非水溶媒に置換する溶媒置換工程
(5)多孔質基材中の湿潤ゲルの表面を疎水化させる疎水化工程
(6)多孔質基材中の湿潤ゲルを乾燥させエアロゲルを調整する乾燥工程
【0082】
本開示に係るエアロゲル複合体の製造方法は、得られたシリカエアロゲル複合体の形状を別の形状に加工する加工工程を含んでいてもよい。
【0083】
これらの工程は、連続的に或いは断続的に実施されてもよいし、複数の工程が同時に実施されてもよい。
【0084】
以下、各工程を順に説明する。なお、以下においては、シリカエアロゲル複合体に係る製造方法について詳述するが、シリカエアロゲル以外のエアロゲルを含む複合体についても、原料を変更する以外は同様の方法を適用して製造することができる。
【0085】
<<ゾル調製工程>>
ゾル調製工程は、所定の溶媒中に主剤(シリカ原料)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合することにより、ゾル溶液を調製する工程である。
【0086】
<主剤>
主剤は、シリカエアロゲルの原料となる成分であれば特に限定されず、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩やアルコキシシランを挙げることができる。
【0087】
ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。例えば、ケイ酸ナトリウムは、NaO・nSiO・mHOの分子式で表される。係数nはSiO・NaOのモル比であり、係数mはNaOに対するHOのモル比であり、SiO及びNaO成分の質量比とモル比の関係は次の式1で示される。
(式1) モル比=(a/b)×1.032
式1において、aは、SiOの質量、bは、NaOの質量である。また、定数である1.032は、SiOの分子量とNaOとの分子量の比である。一般に、製造されているケイ酸ナトリウムのモル比(n値)は、0.5~5.0である。ケイ酸ナトリウムは、NaO・nSiOで示される構造であればよく、n値は、特に限定されない。ケイ酸ナトリウムのn値は、入手が容易であるため0.5~5.0が好ましいが、一般に製造されていない0.5~5.0の範囲外のものでもよい。ケイ酸ナトリウムは、例えば、他の原料と混合する前に水に溶解させ、ケイ酸ナトリウム水溶液として用いることができる。その場合に、n値が、1未満の場合には結晶性であり、水への溶解性が容易ではないため、水への溶解が容易である1.0~5.0がより好ましい。
【0088】
アルコキシシランとしては、特に限定されるものではなく、2官能、3官能又は4官能のアルコキシシランを単独で又は複数種を混合して用いることができる。2官能アルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン等が挙げられる。3官能アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。4官能アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。また、アルコキシシランとして、ビストリメチルシリルメタン、ビストリメチルシリルエタン、ビストリメチルシリルヘキサン、ビニルトリメトキシシラン等を用いることもできる。また、アルコキシシランの部分加水分解物を原料として用いてもよい。
【0089】
<溶媒>
溶媒としては、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール等)、非プロトン性極性有機溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭化水素(n-ヘキサン、ヘプタン等)、含フッ素溶媒(2H,3H-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン等)及びこれらの混合物等が挙げられる。ここで、主剤としてアルコキシシランを用いる場合、アルコキシシランの加水分解と縮重合は、水の存在下で行うことが好ましく、更に水との相溶性を有し、且つアルコキシシランを溶解する有機溶媒と水との混合液を用いて行うことが好ましい(加水分解工程と縮重合工程を連続して行うことが可能となる)。ここで、水との相溶性を有し且つアルコキシシランを溶解する溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコールや、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0090】
<界面活性剤>
主剤以外の各種原料として、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、後述するゲル調製工程において、エアロゲルを構成するバルク部と気孔部とを形成することに寄与する。ここで、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤(例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤)等を例示することができる。
【0091】
<<充填工程>>
充填工程は、ゾル溶液を多孔質基材中に充填する工程である。
【0092】
充填工程は、例えば、ゾル溶液に多孔質基材を含侵させることで実施できる。この場合、含侵時間等は、多孔質基材中にゾル溶液が十分に充填される時間となるように適宜調整すればよい。また、多孔質基材中へのゾル溶液の充填を促進させるためにゾル溶液に振動を与えてもよい。
【0093】
<<ゲル調製工程>>
ゲル調製工程は、多孔質基材中に充填されたゾル溶液をゲル化する工程、即ち、湿潤ゲルが多孔質基材中に充填されたゲル複合体を得る工程である。
【0094】
ゲル調製工程は、例えば、ゾル調製工程において得られたゾル溶液に触媒を添加することで実施できる。
【0095】
触媒の内、塩基性触媒の具体例としては、アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化テトラアルキルアンモニウム類;トリメチルアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ類;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;及びアルカリ金属ケイ酸塩、等が挙げられる。また、酸性触媒としては、例えば、塩酸、クエン酸、硝酸、硫酸、フッ化アンモニウム等が挙げられる。これらの内、金属元素の混入がなく、水洗操作が不要である点で、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウム類、又はアミン類を用いることが好ましく、特にアンモニアが好ましい。
【0096】
触媒の量は、ゾル溶液を十分にゲル化できる量であればよく、特に限定されない。
【0097】
ここで、ゾル調製工程或いは充填工程において、ゾル溶液に予め触媒が添加されていてもよい。この場合、例えば、ゾル溶液がゲル化するまでの間に充填工程を完了させる、或いは、失活した触媒をゾル溶液に含有させ、充填工程が完了した後に触媒を活性化させる等の手法によって、湿潤ゲルが多孔質基材中に充填されたゲル複合体を得ることができる。
【0098】
ゲル調製工程は、ゾル溶液に触媒を添加する方法に限定されない。例えば、ゲル調製工程は、ゾル溶液を高温に加熱して、加水分解や縮重合を実施する工程等であってもよい。
【0099】
ゲル調製工程は、球状のエアロゲルを調製すべく、W/O型エマルションを形成させる工程を含んでいてもよい。具体的には、該工程は、水性ゾル溶液を疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成する工程である。換言すれば、水性ゾル溶液を分散質とし疎水性溶媒を分散媒として、エマルションを形成させる工程である。
【0100】
このようなW/Oエマルションを形成することにより、分散質であるゾル溶液は、表面張力等により球状になる。この状態で、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているゾル溶液をゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。ここで、W/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。
【0101】
<<溶媒置換工程>>
溶媒置換工程は、乾燥工程におけるゲル(湿潤ゲル)の収縮を抑えるため、ゲルの表面及び内部の水(又は水と有機溶剤)を非水溶媒と置換する工程である。
【0102】
非水溶媒は、水以外の溶媒であり、例えば、好ましくは極性溶媒であり、更に好ましくは水と相溶性を示す溶媒である。具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、メチルノナフルオロブチルエーテル等のフッ素系溶媒等を挙げることができる。非水溶媒としては、単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0103】
溶媒置換工程の実施回数は、一回でも複数回でもよい。環境負荷や作業性、コスト削減等の観点から、溶媒置換回数は一回が好適である。尚、溶媒置換を複数回実施する場合、ある回での溶媒と別の回での溶媒とで異なったものを用いてもよい。例えば、乾燥工程直前に用いる溶媒として、20℃における表面張力(以下、STとする。)が45mN/m以下の有機溶剤を用いてもよい。例えば、このような有機溶剤として、ジメチルスルホキシド(ST:43.5mN/m)、シクロヘキサン(ST:25.2mN/m)、イソプロパノール(ST:21mN/m)、ヘプタン(ST:20.2mN/m)、ペンタン(ST:15.5mN/m)、エタノール(ST:22.4mN/m)、メタノール(ST:22.6mN/m)、パーフルオロヘキサン(ST:12mN/m)、パーフルオロオクタン(ST:15mN/m)、メチルノナフルオロブチルエーテル(ST:13.6mN/m)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0104】
一回当たりの溶媒置換工程に使用される溶媒の量は、例えば、ゲル複合体の容量に対し、例えば、2倍以上1000倍以下の量である。溶媒置換の方法としては、全置換、部分置換、循環置換のいずれの方法であってもよい。
【0105】
<<疎水化工程>>
疎水化工程は、ゲルの内壁に存在する水酸基同士が乾燥時に脱水縮合し、収縮するのを防ぐためにエアロゲルの表面を疎水化剤(例えば、シリル化剤や機能性シラン)で疎水化させる工程である。
【0106】
機能性シランとしては、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザンで構成される一群のケイ素化合物を挙げることができる。
【0107】
脱水工程において脱水剤を用いた溶媒置換を行った場合、疎水化剤の作用が阻害されず、疎水化度の高いエアロゲルが形成される。さらに、このように疎水化度の高いエアロゲルは、断熱性に優れるものとなる。
【0108】
<<乾燥工程>>
乾燥工程は、ゲルを乾燥させてシリカエアロゲルを得る工程である。ここで、乾燥の手法としては特に制限されず、超臨界乾燥法、常圧乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。これらの内、本形態に係る製造方法は、超臨界乾燥法を用いる場合に特に適している。
【実施例0109】
以下、実施例及び比較例により、本発明に係る技術を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0110】
<<<エアロゲル複合材の製造>>>
以下の手順に従って、エアロゲル複合材を準備した。
【0111】
所望の発泡体(材質、厚み、表皮層の有無等を選択した発泡体)を基材として準備する。
【0112】
テトラメトキシシランを主剤として使用し、主剤1モルに対し、45モルのメタノール、25モルのイオン交換水を混合する。その後、0.01モルの触媒を配合し、ゾル溶液とする。
【0113】
発泡体を300mm幅、長さ10mに裁断しセパラブルフラスコに収納する。調製したゾル溶液を発泡体が完全に浸漬するまで加えて、減圧下で3時間静置し、湿潤ゲルが充填された発泡体を得る。
【0114】
湿潤ゲルが充填された発泡体をメタノールに浸漬し、撹拌しながらメタノールを繰り返し交換し、溶媒置換を24時間行う。次に、ゲル表面を疎水化するため、ヘキサメチルジシランのメタノール溶液(濃度20質量%)中に浸漬し、撹拌しながら疎水化処理を24時間行う。得られたゲル含有発泡体をメタノールに浸漬し、撹拌しながらメタノールを繰り返し交換し、溶媒置換を24時間行う。
【0115】
ゲル表面が疎水化された発泡体を、80℃、20MPaの二酸化炭素中に含浸させ、超臨界乾燥を12時間行い、発泡体を基材とするエアロゲル複合材を得る。
【0116】
<<断熱シートの積層>>
<実施例1>
断熱シートとして、厚みが2.0mmの表皮付きポリオレフィン発泡体を基材として、前述した方法に基づき製造されたエアロゲル複合材を用いた。用いたエアロゲル複合材の、密度、厚み、及び、熱伝導率を表1に示す。
【0117】
電子機器としてノートパソコンを用いた。ノートパソコンのCPUに、断熱シートを直接積層させ、積層体を形成した。積層体と筐体との間に、0.4mmの空隙が形成されるように設定した。以上のようにして、実施例1に係る電子機器を作製した。
【0118】
<実施例2>
発熱体(断熱シートを積層させる対象)をノートパソコンのバッテリーに変更して、バッテリーと断熱シートとを含む積層体を形成したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例2に係る電子機器を作製した。
【0119】
<実施例3>
発熱体(断熱シートを積層させる対象)をノートパソコンのメモリに変更して、メモリと断熱シートとを含む積層体を形成したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例3に係る電子機器を作製した。
【0120】
<実施例4>
断熱シートとして使用するエアロゲル複合材を表1に示したものに変更したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例4に係る電子機器を作製した。用いたエアロゲル複合材の、密度、厚み、及び、熱伝導率を表1に示す。
【0121】
<実施例5>
積層体と筐体との間に空隙を設けなかったこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例5に係る電子機器を作製した。
【0122】
<実施例6>
発熱体の上に断熱シートを直接積層させた後に、断熱シートの上に更に放熱シート(グラファイトシート)を積層させて積層体を形成したこと以外は実施例1と同様の手順により、実施例6に係る電子機器を作製した。
【0123】
<実施例7>
エアロゲル複合材を表2に示したものに変更したこと以外は実施例6と同様の手順により、実施例7に係る電子機器を作製した。用いたエアロゲル複合材の、密度、厚み、及び、熱伝導率を表2に示す。
【0124】
<比較例1>
断熱シートを発熱体に積層させないノートパソコンを準備し、比較例1の電子機器とした。なお、積層体と筐体との距離(比較例1においては、発熱体と筐体との距離)は、実施例1と同様に0.4mmとなるように設定した。
【0125】
<比較例2>
断熱シートとして、表3に示されたガラスウール製のシートを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、比較例2に係る電子機器を作製した。
【0126】
<<評価>>
下記手法に従って、各実施例及び各比較例の電子機器の評価を行った。評価結果を、表1-3に示す。
【0127】
<評価手法>
CPUの動作が最大処理能力の90%になるよう、電子機器を2時間運転した。熱電対を用いて、試験前後での積層体設置位置付近の筐体表面の温度(比較例1においては、発熱体であるCPU付近の筐体表面の温度)を測定し、温度変化を算出した。
温度変化(℃)は[試験後の筐体の表面温度(℃)-試験前の筐体の表面温度(℃)]で計算した。
【0128】
<評価基準>
「A」は「温度変化が7.0℃以下」、「B」は「温度変化が7.0℃超10.0℃以下」、「C」は「温度変化が10.0℃超15.0℃以下」、「D」は「温度変化が15.0℃超」、であることを示す。
【0129】
評価結果から、各実施例に係る電子機器は、発熱体による熱の影響が少ないことが理解される。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【符号の説明】
【0133】
10 電子機器
100 積層体
102 発熱体
104 断熱シート
106 放熱シート
110 基板
120 筐体
S1 空隙

図1
図2
図3