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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092802
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】鋼管杭及び鋼管杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/56 20060101AFI20240701BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20240701BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E02D5/56
E02D5/28
E02D7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208974
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100224926
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 雄久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】澤石 正道
(72)【発明者】
【氏名】東海林 智之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】長浦 崇晃
【テーマコード(参考)】
2D041
2D050
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA11
2D041CA05
2D041CB06
2D041DB02
2D041FA14
2D050AA06
2D050CB23
(57)【要約】
【課題】押し抜き抵抗力を向上させることが可能となる鋼管杭を提供する。
【解決手段】実施形態における鋼管杭2は、鋼管下端側の内周面3に、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起4を有することを特徴とする。突起4の合計のらせん長さLとし、鋼管の周方向における内周長Rとしたとき、Lcosθ≧Rを満たすことを特徴とする。突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径分の1.5倍の長さ上方の範囲における前記突起の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rを満たすことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管下端側の内周面に、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有すること
を特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記突起の合計のらせん長さLとし、前記鋼管の周方向における内周長Rとしたとき、
Lcosθ≧Rを満たすこと
を特徴とする請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記突起の始端から鋼管軸方向に沿って前記鋼管の外径分の1.5倍の長さ上方の範囲における前記突起の合計のらせん長さL’としたとき、
L’cosθ≧Rを満たすこと
を特徴とする請求項2に記載の鋼管杭。
【請求項4】
鋼管軸方向で離間する前記突起同士の間隔sとし、鋼管半径方向における前記突起の高さhとしたとき、13<s/h<68を満たすこと
を特徴とする請求項2又は3に記載の鋼管杭。
【請求項5】
鋼管下端側の内周面に、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有する鋼管杭を地盤に回転圧入すること
を特徴とする鋼管杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面にらせん状の突起を有する鋼管杭及び鋼管杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、らせん状の突起を有する鋼管杭に関する技術として、例えば特許文献1~4、非特許文献1が開示されている。
【0003】
特許文献1の回転圧入鋼管杭は、杭の先端部近傍の鋼管の外周に、回転圧入方向に正旋回のらせん状突起を設け、鋼管の内周には逆旋回のらせん状突起を取付けたことを特徴とする。
【0004】
特許文献2の回転圧入鋼管杭は、杭先端部が開口している回転圧入鋼管杭における鋼管杭本体を構成する素管として、鋼管内面にらせん状突起を有する鋼管または鋼管外面にらせん状突起を有する鋼管あるいは鋼管内面および外面にらせん状突起を有する鋼管を用いた回転圧入鋼管杭とする。
【0005】
特許文献3の鋼管杭の施工方法は、第1回転圧入工程においては、リブの傾斜角度<圧入回転角度となるように、鋼管杭の鉛直下向き変位と回転変位量とを調節しつつ鋼管杭を回転圧入することで、管内土に上向きの応力を与えて鋼管内周面との摩擦力を低減することにより、管内土の閉塞を抑制することができ、圧入抵抗の増加を抑えて施工性を向上させることができる。
【0006】
特許文献4の鋼管杭は、鋼管の下部側の外周面に、鋼管軸線方向に対する傾斜角度が4~15°の緩らせんをなす複数本のスパイラルリブが形成されてなる。
【0007】
非特許文献1の突起付き鋼管は、主としてコンクリートや地盤改良体などとの付着強度を高めるものとしてスパイラル状の突起が設けられ、突起同士の間隔が30mm以上40mm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04-85415号公報
【特許文献2】特開2005-299192号公報
【特許文献3】特開2011-157780号公報
【特許文献4】特許5932124号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本製鉄株式会社、「鋼管杭・鋼矢板」、突起付き鋼管、[online]、 [2022年10月13日検索]、インターネット、<URL:https://www.nipponsteel.com/product/construction/list-construction/11.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
らせん状の突起を有する鋼管杭は、施工時においては回転圧入による抵抗を減少させながら管内土の閉塞度を高め、施工後においては地盤からの押し抜けに対する抵抗力を高めて支持力の増大が期待されている。しかしながら、特許文献1~4、非特許文献1の開示技術では、地盤の押し抜けに対する抵抗力を向上させるために鋼管杭の内周面に形成されるらせん状の突起の傾斜角等の仕様については、詳細な記載はなされていない。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋼管内周面と管内土の間に作用する摩擦により管内土の押し抜けに抵抗する押し抜き抵抗力を向上させることが可能となる鋼管杭及び鋼管杭の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る鋼管杭は、鋼管下端側の内周面に、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有することを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る鋼管杭は、第1発明において、前記突起の合計のらせん長さLとし、前記鋼管の周方向における内周長Rとしたとき、Lcosθ≧Rを満たすことを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る鋼管杭は、第2発明において、前記突起の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径分の1.5倍の長さ上方の範囲における前記突起の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rを満たすことを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る鋼管杭は、第2発明又は第3発明において、鋼管軸方向で離間する前記突起同士の間隔sとし、鋼管半径方向における前記突起の高さhとしたとき、13<s/h<68を満たすことを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る鋼管杭は、鋼管下端側の内周面に、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有する鋼管杭を地盤に回転圧入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明~第5発明によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有する。これにより、らせん角度θが0°の場合と同等以上の押し抜き抵抗力を発揮できる。このため、押し抜き抵抗力を向上させることが可能となる。
【0018】
また、第1発明~第5発明によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起を有する。これにより、らせん角度θによらずに、施工時における施工抵抗を同程度としつつ、管内土の閉塞度を高めることが可能となる。
【0019】
特に、第2発明によれば、突起の合計のらせん長さLとし、鋼管の周方向における内周長Rとしたとき、Lcosθ≧Rである。これにより、内周面に突起を少なくとも1段以上配置できるため、らせん状の突起が管内土をより確実に把持できる。このため、押し抜き抵抗力をより確実に発揮できる。
【0020】
特に、第3発明によれば、突起の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径分の1.5倍の長さ上方の範囲における前記突起の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rである。これにより、突起の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ上方の範囲において、突起を1段以上配置できるため、らせん状の突起が管内土を効果的に把持できる。このため、押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0021】
特に、第4発明によれば、13<s/h<68を満たす。これにより、らせん状の突起が管内土を把持し易くなる。このため、押し抜き抵抗力を一層発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)は、実施形態における鋼管杭の第1例を示す図であり、図1(b)は、鋼管杭の第1例の展開図である。
図2図2(a)は、実施形態における鋼管杭の第2例を示す図であり、図2(b)は、鋼管杭の第2例の展開図である。
図3図3(a)は、実施形態における鋼管杭の第3例を示す図であり、図3(b)は、鋼管杭の第3例の展開図である。
図4図4(a)は、実施形態における鋼管杭の第4例を示す図であり、図4(b)は、鋼管杭の第4例の展開図である。
図5図5は、管内土押し抜き試験を説明するための図である。
図6図6は、実施例1の管内土押し抜き試験の結果を、押し抜き抵抗力度を地盤強度で除した値を縦軸とし、らせん角度を横軸として示す。
図7図7は、実施例1の管内土押し抜き試験の結果を、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力度を地盤強度で除した値を縦軸とし、らせん角度を横軸として示す。
図8図8は、らせん状の突起が管内土の押し抜けに対して抵抗する機構を説明する図である。
図9図9は、鋼管を貫入した際の管内土高さの上昇値の測定方法を説明する図である。
図10図10は、実施例2の回転圧入試験の結果を示し、図10(a)は、貫入量と圧入力との関係を示し、図10(b)は、貫入量と管内土高さの上昇値との関係を示す。
図11図11は、実施例3の管内土押し抜き試験の結果を、0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度を縦軸とし、取り付け範囲を横軸として示す。
図12図12は、実施例4の解析モデルを説明するための図である。
図13図13は、実施例4の解析の結果を、押し抜き抵抗力度を縦軸とし、s/hを横軸として示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した鋼管杭及び鋼管杭の施工方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、鋼管杭2は、図示しない回転圧入装置により回転されるとともに下方に圧入される回転圧入工法によって地盤に貫入される。鋼管杭2は、鋼管下端側の内周面3にらせん状の突起4が形成された内面突起付きの鋼管である。突起4は、深さ方向(図中の下方)に向かって時計回りのらせん状に形成される。突起4は、例えば鋼管杭2の内周面3に連続的に形成される。
【0025】
鋼管杭2は、例えばスパイラル鋼管のように、予め突起4が形成された鋼板を筒状にすることにより形成されてもよい。鋼管杭2は、予め筒状に形成された鋼管の内周面3に棒鋼や平鋼を溶接する、もしくは溶接金属を盛り上げることにより突起4が後付けされて形成されてもよい。このように、突起4の設置の順序は、任意である。
【0026】
ここで、鋼管杭2(鋼管)の外径Dとする。内周面3における突起4の合計のらせん長さLとし、鋼管杭2の周方向における内周長Rとする。突起4の始端(下端)から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ(1.5D)上方の範囲における突起4の合計のらせん長さL’とする。鋼管軸方向で離間する突起4同士の間隔sとし、鋼管杭2の半径方向における突起4の高さhとする。
【0027】
突起4は、鋼管杭2の鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°である。これにより、らせん角度θが0°の場合と同等以上の押し抜き抵抗力を発揮できる。このため、鋼管内周面と管内土の間に作用する摩擦により管内土の押し抜けに抵抗する押し抜き抵抗力を向上させることが可能となる。
【0028】
突起4は、より好ましくは、らせん角度θがθ≦29°である。これにより、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0029】
突起4は、より好ましくは、らせん角度θが5°≦θである。これにより、らせん状の突起4を1段より多く設ける場合であっても、らせん状の突起4同士の間隔sが小さくなりすぎず、一つ一つの突起4による管内土の把持が有効に機能する。このため、押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0030】
図1(a)及び図1(b)に示す鋼管杭2では、1条の突起4が、鋼管杭2の内周面を2周している。突起4の合計のらせん長さLは、1段目の突起4のらせん長さL1と、2段目の突起4のらせん長さL2と、の和として表せる。鋼管杭2では、Lcosθ≧Rを満たすことが好ましい。これにより、内周面3に突起4を少なくとも1段以上配置できるため、らせん状の突起4が管内土をより確実に把持できる。このため、押し抜き抵抗力をより確実に発揮できる。
【0031】
突起4の段数は、Lcosθ/Rと表記できる。突起4の段数は、2段である。また、突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と一致される。管内土の自重は鋼管の下端に近づくにつれて大きくなることから、突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と一致される場合、突起4の始端(下端)と鋼管杭2の始端(下端)とが離間される場合よりも、管内土が突起4を乗り越えようとする際に管内土の応力上昇が大きくなるため、押し抜き抵抗力を更に大きくできる。
【0032】
鋼管杭2では、突起4の始端(下端)から突起4の終端(上端)までを突起4の取り付け範囲Bとしたとき、突起4の取り付け範囲Bが、鋼管の下端から鋼管の外径Dの2.0倍以下等の鋼管下端側に形成されることが好ましい。これにより、管内土が突起4を乗り越えようとする際に管内土の応力上昇が大きくなり易く、押し抜き抵抗力を大きくできる。
【0033】
突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さは、例えば鋼管杭2の外径Dの0.5倍以上2.0倍以下とされていてもよい。突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さは、例えば鋼管杭2の外径Dの1.5倍以下がより好ましい。突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さが鋼管杭2の外径Dの1.5倍以下の場合、突起4の取り付けによる押し抜き抵抗力の向上が効率よく発揮できる。
【0034】
また、鋼管杭2では、突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ(1.5D)上方の範囲における突起4の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rを満たすことが好ましい。これにより、突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ上方の範囲に突起4を少なくとも1段以上配置できるため、らせん状の突起4が管内土を効果的に把持できる。このため、押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0035】
例えば図1(a)及び図1(b)に示す鋼管杭2において、突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さが鋼管杭2の外径Dの1.5倍以下の場合には、L=L’となる。
【0036】
鋼管杭2は、13<s/h<68を満たすことが好ましい。13<s/hの場合、突起4が管内土をより確実に把持することができる。また、管内土を把持させるためには突起4が少なくとも1段配置されることが望ましく、例えば鋼管杭の外径Dを1500mmとし、突起4の高さhを22mmとした場合を考慮すると、間隔sが1500mmとなることから、s/h<68とすることが好ましい。
【0037】
図1(a)及び図1(b)に示す鋼管杭2の仕様の一例として、外径Dが1000mm、板厚が16mmである。突起4は、例えばらせん角度が9°、条数が1本、段数が2段、取り付け範囲Bが鋼管の下端から0~1000mm、間隔sが500mm、高さhが22mm、s/hが22.7である。
【0038】
図2(a)及び図2(b)に示す鋼管杭2では、2条の突起4が、鋼管杭2の内周面をそれぞれ1周している。突起4の合計のらせん長さLは、1条目の突起4のらせん長さL1とらせん長さL3との和と、2条目の突起4のらせん長さL2と、の和として表せる。鋼管杭2では、Lcosθ≧Rを満たす。突起4の段数は、2段である。また、突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と一致される。
【0039】
図2(a)及び図2(b)に示す鋼管杭2の仕様の一例として、外径Dが1000mm、板厚が16mmである。突起4は、例えばらせん角度が18°、条数が2本、段数が2段、取り付け範囲Bが鋼管の下端から0~1000mm、間隔sが500mm、高さhが22mm、s/hが22.7である。
【0040】
図3(a)及び図3(b)に示す鋼管杭2では、2条の突起4が、鋼管杭2の内周面をそれぞれ半周している。突起4の合計のらせん長さLは、1条目の突起4のらせん長さL1と、2条目の突起4のらせん長さL2と、の和として表せる。鋼管杭2では、Lcosθ≧Rである。突起4の段数は、1段である。また、突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と一致される。
【0041】
図3(a)及び図3(b)に示す鋼管杭2の仕様の一例として、外径Dが1000mm、板厚が16mmである。突起4は、例えばらせん角度が18°、条数が2本、段数が1段、取り付け範囲Bが鋼管の下端から0~500mm、間隔sが500mm、高さhが22mm、s/hが22.7である。
【0042】
図4(a)及び図4(b)に示す鋼管杭2では、2条の突起4が、鋼管杭2の内周面をそれぞれ1周している。突起4の合計のらせん長さLは、1条目の突起4のらせん長さL1とらせん長さL3との和と、2条目の突起4のらせん長さL2と、の和として表せる。鋼管杭2では、Lcosθ≧Rを満たす。突起4の段数は、2段である。また、突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と離間される。
【0043】
突起4の始端(下端)は、鋼管杭2の始端(下端)と離間される場合、突起4を内周面3に溶接する際の溶接欠陥を抑制することができる。また、突起4の始端と鋼管杭2の始端とが離間されるため、鋼管杭2の始端に先端ビットなどを取り付ける場合であっても、当該先端ビットを鋼管杭2の始端に取り付け易くできる。突起4の始端と鋼管杭2の始端(下端)とが離間される場合、その離間距離は、例えば100~1000mm程度であることが好ましい。
【0044】
図4(a)及び図4(b)に示す鋼管杭2の仕様の一例として、外径Dが1000mm、板厚が16mmである。らせん角度が18°、条数が2本、段数が2段、取り付け範囲Bが鋼管の下端から200~1200mm、間隔sが500mm、高さhが22mm、s/hが22.7である。
【0045】
なお、図示は省略するが、鋼管杭2では、突起4の取り付け範囲Bが鋼管杭2の下端から上端までの全長に形成されてもよい。この場合、L>L’となる。この場合であっても、鋼管杭2では、突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ上方の範囲における突起4の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rであることが好ましい。
【0046】
次に、鋼管杭の施工方法について説明する。鋼管杭の施工方法は、内面にらせん状の突起4を有する鋼管杭2を地盤に回転圧入する。
【0047】
本実施形態によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起4を有する。これにより、らせん角度θが0°の場合と同等以上の押し抜き抵抗力を発揮できる。このため、押し抜き抵抗力を向上させることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起4を有する。これにより、らせん角度θによらずに、施工時における施工抵抗を同程度にしつつ、管内土の閉塞度を高めることが可能となる。
【0049】
本実施形態によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θがθ≦29°であるらせん状の突起4を有する。これにより、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0050】
本実施形態によれば、鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが5°≦θであるらせん状の突起4を有する。これにより、らせん状の突起4の段数を1段より多く設ける場合であっても、らせん状の突起4同士の間隔sが小さくなりすぎず、一つ一つの突起による管内土の把持が有効に機能する。このため、押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0051】
本実施形態によれば、突起4の合計のらせん長さLとし、鋼管の周方向における内周長Rとしたとき、Lcosθ≧Rを満たす。これにより、内周面3に突起4を少なくとも1段以上配置できるため、らせん状の突起4が管内土をより確実に把持できる。このため、押し抜き抵抗力をより確実に発揮できる。
【0052】
本実施形態によれば、突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ(1.5D)上方の範囲における突起4の合計のらせん長さL’としたとき、L’cosθ≧Rを満たす。これにより、突起4の始端から鋼管軸方向に沿って鋼管の外径D分の1.5倍の長さ上方の範囲に突起4を少なくとも1段以上配置できるため、らせん状の突起4が管内土を効果的に把持できる。このため、押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0053】
本実施形態によれば、鋼管軸方向で離間する突起4同士の間隔sとし、鋼管半径方向における突起4の高さhとしたとき、13<s/h<68を満たす。これにより、らせん状の突起4が管内土を把持し易くなる。このため、押し抜き抵抗力を一層発揮できる。
【0054】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、この発明は、上記の実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記の実施形態は、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【実施例0055】
実施例1では、押し抜き抵抗力度を評価した。押し抜き抵抗力は、鋼管内周面と管内土の間に作用する摩擦により管内土の押し抜けに抵抗する力であり、その摩擦を実際に測定することは難しい。そこで、実施例1では、管内土押し抜き試験を行い、管内土押し抜き試験の載荷荷重を押し抜き抵抗力として測定した。また、測定した押し抜き抵抗力を鋼管の管内面積で割り戻すことで押し抜き抵抗力度を評価した。実施例1では、突起の取り付け範囲を統一し、らせん角度を異ならせた。
【0056】
実施例1では、模型の鋼管を供試体として作製した。図5に示すように、供試体は、鋼管の外径Dとしたとき、らせん状の突起の始端は、鋼管の下端から1.0D離間した位置に設けられる。
【0057】
管内土押し抜き試験は、鋼管の内部の下方に円柱体を設け、円柱体の上方に地盤となる砂を設け、らせん状の突起の始端を円柱体の天端から0.5D離間させておく。その後、鋼管を上方から載荷して、鋼管を0.5D下方に押し込むまでの押し抜き抵抗力度を測定した。鋼管杭の外径Dを101.6mmとし、鋼管杭の板厚を5.7mmとし、地盤高さを350mmとした。
【0058】
表1は、実施例1の供試体の概要と、結果を示す。図6に、実施例1の結果を、押し抜き抵抗力度を地盤強度で除した値を縦軸とし、らせん角度を横軸として示す。図7に、実施例1の結果を、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力度(kN/m2)を地盤強度(kN/m2)で除した値を縦軸とし、らせん角度を横軸として示す。なお、図6及び図7における点線部は、外挿である。
【0059】
【表1】
【0060】
図8は、らせん状の突起が管内土の押し抜けに対して抵抗する機構を説明する図である。ここで、上載荷重Pが鋼管杭2に作用したとき、らせん状の突起4が管内土の押し抜けに対して抵抗する機構としては、管内土がらせん状の突起を乗り越えようとする抵抗τ1と、管内土がらせん状の突起4に沿うように移動する抵抗τ2が考えられる。前者は、らせん角度が比較的小さい場合に卓越して発生する現象であり、砂のせん断抵抗によってその抵抗力が決定されると考えられる。一方、後者は、らせん角度が大きい場合に卓越して発生する現象であり、その抵抗力は突起と砂の間の摩擦として考えられる。管内土がらせん状の突起4を乗り越えようとした際に、管内土の応力上昇が期待できることや砂のせん断摩擦が砂と鋼材の摩擦よりも大きいことから、後者よりも前者のほうがその抵抗力が大きくなると考えられる。
【0061】
表1及び図6に示すように、押し抜き抵抗力度を地盤強度で除した値は、らせん角度が52°の場合、らせん角度が10°、29°、42°の場合よりも小さな値を示した。管内土がらせん状の突起を乗り越えようとする現象は、らせん角度θが0°(リング状突起)である場合に確実に発生すると考えられる。したがって、らせん角度θが45°より小さければ、らせん角度θが0°の場合と同等以上の押し抜き抵抗力を発揮できると考えられる。
【0062】
さらに、図7に示すように、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力度を地盤強度で除した値は、らせん角度が10°、29°の場合は、ほぼ同程度であり、らせん角度が42°、52°の場合よりも大きくなった。したがって、らせん角度θ≦29°の場合、らせん長さあたりの押し抜き抵抗力を効果的に発揮できる。
【0063】
一方、らせん角度θが例えば5°未満等のあまりに小さい場合には、施工抵抗が大きくなることが予想される。また、らせん状の突起の段数を1段より多く設ける場合、らせん状の突起同士の間隔sが小さくなり、一つ一つの突起による管内土の把持が有効に機能しないおそれもある。よって、5°≦θが好ましい。
【実施例0064】
実施例2では、供試体を用いて回転圧入試験を行った。実施例2では、鋼管は模型試験サンプルとし、内面らせん突起付きを準備し、これを乾燥砂で構成された砂地盤へ回転圧入を行った。内面らせん突起付きの鋼管については、正旋回方向への回転圧入を行った。鋼管の外径は101.6mmであり、内面らせん突起高さは3mm(外径の約3%)であり、内面のらせん状の突起は杭の下端から外径と同じ長さ(1D)の範囲のみに設置されている。
【0065】
実施例2では、各種鋼管を回転圧入した際の貫入量と、圧入力と、貫入に伴う管内土高さの上昇値と、を測定した。図9に示すように、鋼管内部に設けられたワイヤー変位計9は、砂地盤に貫入中の管内土Qの天端位置を経時的に測定できる。管内土高さの上昇値Wは、基準となるある時点Aにおける管内土Qの天端位置と時点Aから一定時間が経過した後のある時点Bにおける管内土Qの天端位置との差分により、算出した。
【0066】
表2は、実施例2の供試体の概要を示す。図10は、実施例2の結果を示し、図10(a)は、貫入量と圧入力との関係を示し、図10(b)は、貫入量と管内土高さの上昇値との関係を示す。
【0067】
【表2】
【0068】
図10(a)に示すように、らせん角度が10°、29°、42°、52°の何れのケースにおいても、圧入力は同程度となった。このため、らせん角度θによらずに、施工抵抗は、同程度であるといえる。また、図10(b)に示すように、らせん角度が10°、29°、42°、52°の何れのケースにおいても、管内土高さの上昇値は同程度となった。このため、らせん角度θによらずに、管内土の閉塞度を高めることができる。
【0069】
実施例2によれば、鋼管杭が鋼管軸に垂直な断面に対する傾斜角度であるらせん角度θが0°<θ<45°であるらせん状の突起4を有する。これにより、らせん角度θによらずに、施工時における施工抵抗を同程度にしつつ、管内土の閉塞度を高めることが可能となる。
【実施例0070】
実施例3では、押し抜き抵抗力度を評価した。実施例3では、実施例1と同様にらせん状の突起の始端は、鋼管の下端から1.0D離間した位置に設けられ、管内土押し抜き試験を行い、押し抜き抵抗力を測定した。実施例3では、らせん角度を統一し、突起の取り付け範囲(突起の始端から鋼管軸方向の長さ)を異ならせた。
【0071】
表3は、実施例3の供試体の概要と、結果を示す。図11は、実施例3の結果を、0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度を縦軸とし、取り付け範囲を横軸として示す。
【0072】
【表3】
【0073】
取り付け範囲が大きくなるにつれて、0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度が向上することが確認できた。取り付け範囲が1.0Dの場合の0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度は、取り付け範囲が0.5Dの場合と比較し2割程度増加した。また、取り付け範囲が1.5Dの場合の0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度は、取り付け範囲が0.5Dの場合と比較し8割程度増加した。一方、取り付け範囲が1.5Dの場合の0.1D押し込み時の押し抜き抵抗力度は、取り付け範囲が2.0Dの場合よりもわずかに小さくなった。
【0074】
このように、取り付け範囲が0.5D以上2.0D以下の場合、押し抜き抵抗力度を効果的に発揮できる。よって、突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さは、鋼管杭2の外径Dの0.5倍以上2.0倍以下が好ましい。一方、取り付け範囲が1.5Dを超えた場合、らせん状の突起による押し抜き抵抗力度の増加効果が飽和し、コストが増加するおそれがある。よって、突起4の取り付け範囲Bの鋼管軸方向の長さは、鋼管杭2の外径Dの1.5倍以下がより好ましい。
【0075】
また、いずれのケースにおいても、らせん状の突起が鋼管の下端部近傍に取り付けられている。管内土の応力は鋼管杭の下端に近づくにつれ大きくなるため、らせん状の突起を取り付ける範囲も下端付近に集中させることで効率よく押し抜き抵抗力を発揮することができる。
【実施例0076】
実施例4では、管内土押し抜きについて、二次元の有限要素解析モデルを作成し、s/hを異ならせて、押し抜き抵抗力度を解析した。
【0077】
図12は、実施例4の解析モデルの概要を示す。解析において、CASE1では、鋼管の内面に突起を設けず、CASE2~5では、図12に示すように、鋼管の内面に突起を設定した。解析モデルの境界条件として、鋼管杭上端で鉛直変位を拘束した。解析モデルの接触条件として、管内土-鋼管間の摩擦と、管内土-突起間の摩擦係数を0.55とした。解析モデルの載荷条件として、管内土自重と初期応力場の釣り合いを作成し、管内土底面に等分布圧力を漸増載荷させた。鋼管杭上端で鉛直変位を拘束した。また、突起の取り付け範囲の長さは、鋼管の外径Dの1.0倍(1.0D)とした。
【0078】
表4に、解析パラメータの概要を示す。表5に、解析ケースの概要と、結果を示す。図13は、実施例4の解析の結果を、押し抜き抵抗力度を縦軸とし、s/hを横軸として示す。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
表5及び図13に示すように、突起を取り付けたCASE2~5の押し抜き抵抗力度は、突起を取り付けなかったCASE1の場合よりも、大きくなった。
【0082】
また、CASE2~CASE5に示すように、鋼管杭の始端(下端)から鋼管の外径1.0Dの範囲の中で突起の間隔sを変化させて押し抜き時の荷重を比較した結果、突起の段数が3段であるCASE3において、押し抜き抵抗力度が最大となることが確認できた。これは、13≧s/hの場合、突起の高さhに対する突起の間隔sが小さくなりすぎてしまい、一つ一つの突起による管内土の把持が有効に機能しなくなるおそれがある。よって、13<s/hとすることが好ましい。これにより、らせん状の突起が管内土を把持し易くなる。このため、地盤に対する押し抜き抵抗力を一層発揮できる。
【0083】
s/hの上限値については、管内土を把持させるためには突起が少なくとも一段設けられていることが望ましく、例えば鋼管杭の外径Dを1500mmとし、突起の高さを22mmとした場合を考慮すると、間隔sが1500mmとなることから、s/h<68とすることが好ましい。よって、13<s/h<68が好ましい。
【符号の説明】
【0084】
2 :鋼管杭
3 :内周面
4 :突起
9 :ワイヤー変位計
B :取り付け範囲
D :外径
P :上載荷重
Q :管内土
R :内周長
h :高さ
θ :らせん角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13