(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092825
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02M 26/41 20160101AFI20240701BHJP
F02M 26/23 20160101ALI20240701BHJP
F02M 26/28 20160101ALI20240701BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240701BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20240701BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20240701BHJP
F01N 3/30 20060101ALI20240701BHJP
F02F 1/42 20060101ALI20240701BHJP
F02F 1/36 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
F02M26/41 311
F02M26/23
F02M26/28
F02M21/02 G
F01N13/08 G
F01P3/02 G
F01N3/30 A
F01N3/30 G
F02F1/42 G
F02F1/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209006
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 将仁
(72)【発明者】
【氏名】久野 篤志
【テーマコード(参考)】
3G004
3G024
3G062
3G091
【Fターム(参考)】
3G004AA02
3G024AA11
3G024CA11
3G024EA04
3G024FA13
3G024FA14
3G062ED02
3G062ED04
3G062ED08
3G062ED13
3G091AA03
3G091AA19
3G091CA22
(57)【要約】
【課題】排気の循環通路を備えたエンジンにおいて、排気管に及ぼす影響が抑制されるとともに、循環通路を短くできるエンジンを提供する。
【解決手段】
本開示のエンジンEは、燃焼室10に吸気Iを導く吸気ポート12と燃焼室10から排気ガスGを排出させる排気ポート14とがそれぞれ形成されるシリンダヘッド8と、排気ガスGの一部を吸気Iとして通路に循環させる循環通路28とを備えている。循環通路28の一端が、シリンダヘッド8の内部に形成されて、排気ポート14に連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に吸気を導く吸気ポートと、燃焼室から排気ガスを排出させる排気ポートとがそれぞれ形成されるシリンダヘッドと、
排気ガスの一部を吸気として通路に循環させる循環通路と、を備え、
前記循環通路の一端が、前記シリンダヘッドの内部に形成されて、前記排気ポートに連通しているエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンにおいて、さらに、前記循環通路内の排気ガスを冷却する冷却構造を備えたエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンにおいて、前記冷却構造は、エンジンの発熱部分を冷却するための冷却液で、前記循環通路内の排ガスを冷却するエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンにおいて、さらに、シリンダブロックまたは前記シリンダヘッドを冷却するウォータジャケットを備え、
前記循環通路の一部が、前記ウォータジャケットに臨んでいるエンジン。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジンにおいて、前記循環通路は、前記シリンダブロックのウォータジャケットに臨んでいるエンジン。
【請求項6】
請求項2に記載のエンジンにおいて、前記循環通路における冷却構造によって冷却される部分が、残余の部分に比べて通路面積が大きく設定されているエンジン。
【請求項7】
請求項2に記載のエンジンにおいて、前記冷却構造は、前記循環通路のうちで燃焼室を冷却する前記ウォータジャケットとは離間している部分を冷却するエンジン。
【請求項8】
請求項1または2に記載のエンジンにおいて、さらに、空気を前記排気ポートに供給するエア通路を備え、
前記循環通路のうち、前記排気ポートに接続される部分が、前記エア通路と共通化されているエンジン。
【請求項9】
請求項1または2に記載のエンジンにおいて、燃料が水素であるエンジン。
【請求項10】
請求項1または2のエンジンが搭載された鞍乗型車両であって、
前記排気ポートに接続され、前記エンジンの外部に延びて、外側に露出する排気管を備えた鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、排気ガスの一部を吸気として通路に循環させる循環通路を備えたエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
NOxの低減を目的として、排気ガスの一部を吸気に送る排気再循環(Exhaust Gas Recirculation)が知られている(特許文献1)。自動車の排気再循環の一例として、シリンダヘッドの下流側の排気管に排気再循環用の分岐通路が形成されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような排気再循環では、エンジンの排気管に排気ガスを分流するための循環通路(配管)を設置し、吸気側の通路に接続する必要がある。この場合、循環通路を接続することで、排気管に影響を及ぼすことが懸念される。
【0005】
本出願の開示は、排気の循環通路を備えたエンジンにおいて、排気管に及ぼす影響が抑制されるとともに、循環通路を短くできるエンジンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエンジンは、燃焼室に吸気を導く吸気ポートおよび燃焼室から排気ガスを排出させる排気ポートがそれぞれ形成されるシリンダヘッドと、排気ガスの一部を吸気として通路に循環させる循環通路とを備え、前記循環通路の一端が、前記シリンダヘッドの内部に形成されて、前記排気ポートに連通している。
【発明の効果】
【0007】
本開示のエンジンによれば、排気管に循環通路を接続する場合に比べて、循環通路の接続に起因する排気管への影響を少なくできる。また、循環通路の一端を吸気側に近づけることができ、循環通路を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るエンジンを示す断面図である。
【
図4】同エンジンの別の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の好ましい形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本開示の第1実施形態に係るエンジンを示す概略断面図である。本明細書において、「上流」、「下流」は、排気ガスまたは吸気の流れ方向の「上流」、「下流」をいう。
【0010】
本開示のエンジンEは、例えば、自動二輪車のような鞍乗型車両の駆動源として用いられる。本開示のエンジンEは、レシプロエンジンであり、燃料として、例えば、水素ガス、炭化水素を含有するガス燃料などの気体燃料が用いられる。ただし、燃料は、これに限定されず、例えば、液化石油ガス(LPG)、ガソリン燃料、ディーゼル燃料、エタノール燃料等の液体燃料であってもよい。
【0011】
本開示のエンジンEは、エンジン回転軸であるクランクシャフト2と、クランクシャフト2を支持するクランクケース4と、クランクケース4から突出するシリンダブロック6と、シリンダブロック6の突出端に取り付けられたシリンダヘッド8とを備えている。
【0012】
シリンダブロック6およびシリンダヘッド8の内部に燃焼室10が形成されている。シリンダヘッド8の内部に、吸気ポート12および排気ポート14が形成されている。
【0013】
吸気ポート12は、一端12aがシリンダヘッド8の外部に開口し、他端12bが燃焼室10に開口している。吸気ポート12の一端12aに、吸気通路16を構成する吸気管18が接続されている。吸気通路16は、空気または空気と燃焼の混合気を吸気IとしてエンジンEに供給する。吸気ポート12は、吸気通路16からの吸気Iを燃焼室10に導く。
【0014】
排気ポート14は、一端14aが燃焼室10に開口し、他端14bがシリンダヘッド8の外部に開口している。排気ポート14の他端14bに、排気通路20を構成する排気管22が接続されている。燃焼室10からの排気ガスGは排気ポート14を介して排出され、排気通路20に導出される。自動二輪車のような鞍乗型車両では、排気管22は、シリンダヘッド8の外部に延びて、車体の外側に露出する。つまり、排気管22が、車両における意匠部品を構成する。
【0015】
シリンダヘッド8に点火プラグ24が設けられている。点火プラグ24は、その点火部が燃焼室10に臨むように配置されている。点火プラグ24の火花により、吸気ポート12から燃焼室10に導入された吸気Iが点火され燃焼し、燃焼後の排気ガスGが排気ポート14を介して燃焼室10から排出される。
【0016】
本実施形態のエンジンEは、ウォータジャケット26を備えている。ウォータジャケット26は、シリンダブロック6、シリンダヘッド8を冷却する冷却液が循環する通路である。つまり、本実施形態のエンジンEは、エンジンの発熱部分を冷却液で冷却する液冷エンジンである。冷却液は、例えば、水である。ただし、冷却液は、これに限定されない。本実施形態では、ウォータジャケット26は、例えば、型成形や鍛造により、シリンダブロック6およびシリンダヘッド8と一体に形成されている。
【0017】
本開示のエンジンEは、排気ガスGの一部を吸気Iとして通路に循環させる循環通路28を備えている。つまり、本開示のエンジンEは、排気ガスGの一部を吸気Iに送るEGR(排気再循環;Exhaust Gas Recirculation)構造を備えている。
【0018】
EGR構造は、例えば、排気ガス中のNOxの低減を目的としている。具体的には、排気ガスGの一部を吸気Iに送ることで、吸気中の酸素濃度が低減し、燃焼温度(筒内の温度)が下がる。これにより、排気ガス中のNOxが低減される。また、燃焼温度が低減することにより、熱エネルギーの拡散が抑制されてノッキングを抑制する効果も期待できる。さらに、スロットル弁による絞りを抑えつつ、酸素濃度を低減させて出力低減を実現できる。これによって、吸気管18の流路抵抗(スロットル損失)が低減されることに寄与して燃費の向上も期待できる。また、排気通路20に三元触媒が設けられている場合、NOxの低減は三元触媒メインで、EGR構造は、ノッキングの抑制、燃費向上が主目的となることもある。
【0019】
本実施形態のエンジンEでは、循環通路28の一端部28aが、シリンダヘッド8の内部に形成され、排気ポート14に連通している。一端部28aは、排気再循環を行う場合における循環通路28の上流端部となる。一方、循環通路28の他端部28bは、シリンダヘッド8の外部の吸気通路16に連通している。他端部28bは、排気再循環を行う場合における循環通路28の下流端部となる。本実施形態では、循環通路28は、シリンダヘッド8に形成される内部空間と、パイプ部材によって形成される内部空間とによって構成されている。パイプ部材は、シリンダヘッド8と、吸気管18とを接続するように延びる。
【0020】
循環通路28のうちでパイプ部材によって形成される部分に再循環バルブ30が設けられており、吸気側へ戻される排気ガスGが調節されている。再循環バルブ30によって循環通路28の遮断/非遮断状態が切り替えられてもよい。これによって、吸気側へ戻される排気ガスGの遮断状態と移動状態とが切り替えられてもよい。また、再循環バルブ30の開度が調整可能に構成されることで、吸気側へ戻される排気ガスGの流量が調整されてもよい。再循環バルブ30は、例えば、ソレノイドバルブ、電動ボール弁、油圧弁等である。再循環バルブ30がエンジンEの運転状態に応じて電子制御されることで、適切なタイミングで排気ガスGを吸気ポート12に供給することができる。
【0021】
再循環バルブ30の制御条件は、燃料がガソリンの場合と水素ガスの場合で異なる。ガソリン燃料では、エンジンの負荷が高い領域でNOxが発生し易いので、高負荷時に再循環バルブ30が開くように設定される。エンジンの負荷は、例えば、エンジン回転数、スロットル開度、冷却水の温度等で判断する。水素燃料の場合、エンジンの負荷が低い領域でも燃料温度が高くなり易いので、ガソリン燃料に比べてエンジンの負荷が低い領域でも、再循環バルブ30を開くように設定される。再循環バルブ30は、例えば、エンジンEの電子制御ユニット(ECU)により制御される。
【0022】
本実施形態では、エンジンEは、循環通路28内の排気ガスGを冷却する冷却構造32を有している。本実施形態では、循環通路28の一部28cがウォータジャケット26に臨んでおり、ウォータジャケット26内の冷却液により、循環通路28が冷却される。これによって循環通路28内の排気ガスGが冷却される。このように、排気ポート14から分流された排気ガスGが、冷却構造32を介して温度を下げてから吸気側へと戻されることで、吸気の温度上昇を抑えることができる。
【0023】
ウォータジャケット26は、シリンダブロック6およびシリンダヘッド8の温度上昇を抑制するための冷却液が循環する流路である。ウォータジャケット26は、シリンダヘッド8における排気ポート14周囲の空間、シリンダブロック6における気筒のうちで軸線方向に延びる空間に形成される。冷却液はウォータポンプにより循環させられ、熱を奪って温度が上昇した冷却液はラジエータにより冷却される。
【0024】
本実施形態では、ウォータジャケット26におけるシリンダブロック6に形成される領域に、循環通路28の一部28cが臨んでいる。シリンダブロック8には排気ポート14が形成されており、その周辺はウォータジャケット26の冷却液の温度が高くなり易いが、シリンダブロック6に形成される領域では、ウォータジャケット26の冷却液の温度は比較的低くなるので、循環通路28内の排気ガスGを冷やしやすい。
【0025】
循環通路28を冷却するウォータジャケット26は、排気ポート14よりもクランクシャフト2側であって、燃焼室10よりも排気通路22側に形成される。循環通路28は、排気ポート14からクランクシャフト2側に延びて、シリンダブロック8に形成されるウォータジャケット26を通過する。
【0026】
本実施形態では、循環通路28における冷却構造32によって冷却される部分、すなわち循環通路28におけるウォータジャケット26に臨む部分28cが、残余の部分に比べて通路面積が大きく設定されている。換言すれば、循環通路28は、ウォータジャケット26内で通路面積が増大している。さらに換言すれば、循環通路28は、ウォータジャケット内の通路面積A2は、ウォータジャケットに達するまでの通路面積A1よりも大きく形成される(A2>A1)。これにより、ウォータジャケット26内の循環通路28を流れる排気ガスGの流速が下がって、ウォータジャケット26内にとどまりやすく、冷却性を高めることができる。
【0027】
本実施形態では、排気管22には、循環通路28に接続する接続部分が形成されていない。これによって、排気管22の設計自由度を高めることができる。また、排気管22に循環通路28を接続するための接続跡をなくすことができるので、排気管22の美観を向上させて、排気管22を意匠部品として活用しやすくできる。また、循環通路28をシリンダ6またはシリンダヘッド8に設けられるウォータジャケット26を利用して冷却することで、循環通路28を冷却するための構造を別途設ける必要がなくなって、エンジンEの構造を簡単化できる。
【0028】
排気ポート14から吸気通路16への循環通路28の経路は、任意に設定できる。シリンダヘッド8の上方を通過してもよく、あるいは、シリンダブロック6のクランク軸線方向外側を通過して吸気通路16に延びてもよい。これによって、シリンダヘッドカバーと循環通路28との干渉を防いで、シリンダヘッドカバーの着脱が容易になる。
【0029】
図2は、本実施形態の変形例を示す。
図2の例では、循環通路28におけるシリンダヘッド8の内部に形成されて排気ポート14に接続される部分が、空気Aを排気ポート14に供給するエア通路40と共通化されている。エア通路40は、排気ガスGに含まれる未燃焼燃料を完全燃焼させるために設けられる。詳細には、エア通路40を介して外気(空気)Aが排気通路内に供給され、排気ガスGに含まれる炭化水素が酸素と反応して取り除かれる。
【0030】
詳細には、
図3に示すように、エア通路40と循環通路28の共通部分42が、排気ポート14に連通している。エア通路40および循環通路28は、分岐点P1で共通部分42から分岐している。つまり、共通部分42は、分岐点P1と排気ポート14との間の部分である。
【0031】
循環通路28は、分岐点P1から吸気側に延び、吸気通路16に連通している。再循環バルブ30は、循環通路28における分岐点P1よりも下流側に配置されている。換言すれば、バルブ30は、分岐点P1と循環通路28の他端部28bとの間に設けられている。
【0032】
一方、循環通路28は、分岐点P1から吸気系統に延びて、例えば、エアクリーナ(図示せず)に接続される。循環通路28における分岐点P1よりも上流側に、リードバルブ44が設けられ、その上流側にソレノイド式のカットバルブ46が設けられている。リードバルブ44は、流体を一方向にのみ流す一方向弁で、本実施形態では、エア通路40内の空気Aは、排気ポート14に向かってのみ流れ、その逆方向には流れない。カットバルブ46は、エア通路40内の空気Aの流れを制御する。エア通路40のうちで分岐点P1と接続される部分と反対側(
図3の上側)の端部40aが外部空間に開口する。分岐点P1と端部40aとの間に、カットバルブ46およびリードバルブ44が設けられる。
【0033】
エア通路40から排気ポート14に空気Aを導入している時は、再循環バルブ30を閉とし、循環通路28から吸気通路16へのガスの通過が阻止される。つまり、排気ガスGが吸気通路16に導入されない。一方、循環通路28から吸気通路16に排気ガスGを導入している時は、カットバルブ46を閉とし、排気ポート14への空気Aの導入が阻止される。カットバルブ46も、再循環バルブ30と同様に、例えば、エンジンEの電子制御ユニット(ECU)により制御される。
【0034】
つぎに、再循環バルブ30およびカットバルブ46の制御の一例を説明する。カットバルブ46も、再循環バルブ30と同様に、エンジンEの負荷に応じて制御される。エンジンEの負荷は、エンジン回転数、スロットル開度、冷却水の温度等で判断される。
【0035】
エンジンEが始動してからエンジンEの負荷が低い領域では、再循環バルブ30は閉じ、カットバルブ46が開く。つまり、吸気通路16への排気ガスGの供給は停止され、排気ポート14に空気Aが供給される。空気Aは、始動初期の冷気状態での未燃焼炭化水素を燃焼させるために供給される。排気通路20に三元触媒が配置されている場合、排気ポート14に空気Aを供給することで排気温度が高くなり、触媒のウォームアップを促進できる。一方、低負荷の領域では、NOxはほとんど発生しないので、排気ガスGを吸気通路16に供給する必要性は低い。
【0036】
エンジンの回転数が上がり、エンジン負荷が一定以上となると、再循環バルブ30が開き、カットバルブ46が閉じる。つまり、排気ガスGが吸気通路16に供給され、排気ポート14への空気Aの供給は停止される。高負荷時では、エンジンEが暖気されているので、未燃焼炭化水素は出ないので、空気Aを排気ポート14に供給する必要はない。上述のように、高負荷領域では、NOxが発生しやすいので、排気ガスGが吸気通路16に供給される。排気通路20に三元触媒が配置されている場合、空燃比制御、すなわちO2フィードバックが開始されると、再循環バルブ30が開き、カットバルブ46が閉じるようにしてもよい。
【0037】
このように、吸気通路16への排気ガスGの供給と、排気ポート14への空気Aの供給は、要求される負荷領域が異なるので、循環通路28とエア通路40は共通部分42で通路を共通化できる。特に、共通部分42はシリンダヘッド8の内部に形成される部分であるので、これを共通化できるメリットは大きい。
【0038】
なお、水素エンジンでは、燃え残った燃料(水素)は排ガス規制対象であり、敢えて燃焼させる必要がないので、排気ポート14に空気Aを供給する必要性は小さい。同様の理由から、水素エンジンでは、排気通路20に三元触媒を配置しないので、触媒をウォームアップする要求もない。ただし、水素エンジンに
図2、3の構造を適用してもよい。
【0039】
図4は、本実施形態の別の変形例を示す。
図4の例では、
図2の例に比べて、ウォータジャケット26の配置が異なっている。具体的には、
図4の例では、冷却構造32を構成するウォータジャケット26における循環通路28が通過する部分は、シリンダブロック6およびシリンダヘッド8から離れた位置にある。換言すれば、循環通路28の一部28cが、ウォータジャケット26における燃焼室10を冷却する領域とは離間している領域に臨んでいる。
【0040】
循環通路28を冷却するウォータジャケット26に導かれる冷却液は、シリンダヘッド8またはシリンダブロック6で熱を奪った冷却液が導かれてもよい。また、シリンダヘッド8またはシリンダブロック6で熱を奪う前の冷却液が導かれてもよい。これによって、循環通路28の冷却効果をさらに高めることができる。
【0041】
このような燃焼室10から離れた領域は、冷却液の温度が低くなり易い。その他の構成は
図2の例と同じである。循環通路は28、シリンダヘッド8に形成されるウォータジャケット26に臨んで形成されてもよい。また、循環通路28は、シリンダヘッド8またはシリンダブロック6に形成されるウォータジャケット26と、別体のウォータジャケットとの両方で冷却されてもよい。
【0042】
上記構成によれば、
図1に示すように、循環通路28の上流端28aが、シリンダヘッド8の内部に形成されて、排気ポート14に連通している。つまり、EGR構造の排気ガスGが排気ポート14から分流されている。これにより、排気管22に循環通路28を接続する場合に比べて、循環通路28の接続に起因する排気管22への影響を少なくできる。具体的には、排気管22の接続跡を防いで美観を向上させたり、排気管22の配置の自由度を確保したり、排気管22の交換、共通化を容易化させたりできる。また、循環通路28の上流端28aを吸気側に近づけることができ、循環通路28を短くできる。
【0043】
特に、自動二輪車のような鞍乗型車両の場合、排気管22は意匠部品を構成するので、排気管22に分岐通路を形成することが難しい。また、排気管22に循環通路28を構成する配管を溶接する場合、溶接跡が意匠に悪影響を与える場合がある。上記実施形態では、車外に露出する排気管への悪影響を抑えつつ、EGR構造を導入することができる。これによって、排気管22の設計の自由度や、排気管22の意匠性を高めやすい。すなわち、排気管22を意匠部品として利用しやすい。
【0044】
自動二輪車のような鞍乗型車両の場合、エンジンEが前輪と後輪との間に配置され、排気管22がエンジンEの排気ポート14から前方に向かって延びているので、車両の外側から排気管22を目視可能である。そのため、エンジンEの前方に配置されるラジエータと、循環通路28が干渉し難くなる。
【0045】
本実施形態において、燃料が水素であってもよい。水素エンジンでは、点火プラグ24が点火する前にシリンダ内の混合気(空気/燃料)が自然発火するプレイグニッションが発生しやすい。この構成によれば、EGR構造により、吸気に含まれる酸素濃度を低減できるので、プレイグニッションを防ぎやすい。
【0046】
本実施形態において、循環通路28内の排気ガスGを冷却する冷却構造32を備えていてもよい。この構成によれば、上述のEGR構造の効果、すなわち、燃焼温度の低下によるNOx低減、ノッキングの抑制等の効果が向上する。また、燃焼温度が下がることで、点火前にシリンダ内の混合気(空気/燃料)が自然発火するプレイグニッションの抑制を図ることもできる。
【0047】
本実施形態において、冷却構造32は、エンジンEのシリンダブロック6およびシリンダヘッド8を冷却するための冷却液で、循環通路28内の排気ガスGを冷却してもよい。この構成によれば、冷却構造32の一部をエンジンEの構成部品と共有化することができ、構造を簡単にすることができる。また、循環通路28が排気ポート14に接続されることで、エンジンEの発熱部分を冷却する冷却液で循環通路28内の排気ガスGを冷却しやすい。さらに、循環通路28専用のクーラが不要となり、部品点数の増加を抑制できる。
【0048】
本実施形態において、循環通路28の一部28cが、ウォータジャケット26に臨んでいてもよい。この構成によれば、エンジンEを冷却するウォータジャケット26で、循環通路28内の排気ガスGも冷却することができ、部品点数を低減できる。また、循環通路28の熱を奪った冷却液によって燃焼室10が温まりやすい。これによって、初期段階で冷却液の温度が高くなりやすく、エンジンEの暖気を促進することができる。
【0049】
本実施形態において、循環通路28は、シリンダブロック6のウォータジャケット26に臨んでいてもよい。この構成によれば、シリンダヘッド8よりも比較的大形のシリンダブロック6を用いることで、循環通路28の効果的な冷却を兼ねた形状のウォータジャケット26を形成しやすい。
【0050】
本実施形態において、循環通路28における冷却構造32によって冷却される部分28cが、残余の部分に比べて通路面積が大きく設定されていてもよい。この構成によれば、通路面積が大きくなることで、循環通路28におけるウォータジャケット26に臨む部分28cを流れる排気ガスGの流速が小さくなる。これにより、排気ガスGが冷却液に接する時間が長くなって、冷却効率が向上する。
【0051】
本実施形態において、
図2に示すように、循環通路28における排気ポート14に接続される上流側部分が、空気Aを排気ポート14に供給するエア通路40と共通化されていてもよい。この構成によれば、シリンダヘッド8の内部に形成される共通部分42を共通化することで、シリンダヘッド8の構造が複雑化することを防いで、排気ポート14への空気Aの供給と、吸気通路16への排気ガスAの供給とを両立できる。
【0052】
本実施形態において、
図4に示すように、冷却構造32は、循環通路28における燃焼室10を冷却するウォータジャケット26とは離間している部分を冷却してもよい。この構成によれば、燃焼室10の影響を防いで、ウォータジャケット26の温度が低くでき、循環通路28の冷却に低温の冷却液を利用できる。
【0053】
本実施形態において、排気ポート14およびこれを開閉する排気バルブを複数備え、複数の排気バルブのうちの1つの排気バルブの周辺に循環通路28の一端28aが配置されてもよい。この構成によれば、他の排気バルブには循環通路28がないので、構造が簡単になる。また、他の排気バルブには通路が形成されないので、循環通路28を流れる排気ガスGの流速増加を抑えることができ、冷却性を高めやすい。
【0054】
本開示は、以上の形態に限定されるものでなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。循環通路28を冷却するウォータジャケット26は、シリンダヘッド8に形成される空間でもよいし、シリンダブロック4に形成される空間でもよい。本開示のエンジンは、吸気ポート12に循環通路28が接続される構造であればよく、冷却構造が設けられない構造も本開示に含まれる。また、循環する冷却液によって循環通路28を冷却する構造のほかに、走行風を導くダクトまたは電動ファンによって空気を吹き付けて、循環通路28を冷却してもよい。
【0055】
エンジンEは、単気筒エンジンであっても、多気筒エンジンであってもよい。多気筒エンジンの場合、気筒ごとに循環通路が形成されてもよい。また、各排気ポートに形成される循環通路28が合流して、吸気通路16に導かれてもよい。例えば、ウォータジャケット26に臨む循環通路部分28cで、各排気ポート14から流れる排気ガスGが合流する構造であってもよい。合流した循環通路28は、各吸気通路16に隣接する部分で、吸気通路16ごとに分岐してもよい。これによって、循環通路28の構造を簡易化しやすい。また、本開示のエンジンEは、燃焼室10に直接燃料を噴射する直噴エンジンであってもよい。
【0056】
上記実施形態における再循環バルブ30、カットバルブ46の制御は、あくまでも一例であり、エンジンEの状態や車両の状況に応じて任意の制御が可能である。循環通路28の他端部28bが、吸気ポート12に連通する構造であってもよい。これによって、循環通路28をさらに短くすることができる。
【0057】
例えば、上記実施形態では、冷却構造32としてウォータジャケット26が用いられていたが、冷却構造32はウォータジャケット26に限定されない。一例として、冷却構造32は、循環通路28専用のクーラであってもよい。また、冷却構造32はなくてもよい。本開示のエンジンは、自動二輪車以外の車両、三輪車や四輪バギー等にも適用できる。本開示のエンジンEは、排気管22が車外に露出する車両に好適に適用することができる。また、車両以外のエンジンにも適用できる。したがって、そのようなものも本開示の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
6 シリンダブロック
8 シリンダヘッド
10 燃焼室
12 吸気ポート
14 排気ポート
22 排気管
26 ウォータジャケット
28 循環通路
32 冷却構造
40 エア通路
E エンジン。
G 排気ガス
I 吸気