(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092834
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】電力変換装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
H02M3/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209023
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚斗
(72)【発明者】
【氏名】半田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】筒 雄樹
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA19
5H730AS08
5H730AS17
5H730BB27
5H730BB57
5H730BB66
5H730BB80
5H730BB83
5H730BB88
5H730CC01
5H730DD04
5H730EE07
5H730EE13
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD31
5H730FD41
5H730FF09
5H730XX50
5H730ZZ01
(57)【要約】
【課題】インダクタンスの推定精度の低下を抑制できる電力変換装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】電力変換装置100は、第1,第2,第3フルブリッジ回路10,20,30と、第1,第2トランス60,70と、制御装置110とを備えている。制御装置110は、例えば、第1,第2フルブリッジ回路10,20のスイッチング制御により、第1トランス60を介して第1フルブリッジ回路10と第2フルブリッジ回路20との間で電力を伝達する電力伝達処理を行う。また、制御装置110は、第1,第2トランス60,70の励磁インダクタンスの推定処理を行う。推定処理において用いられるテスト電圧の基本波成分の周波数は、電力伝達処理において第1,第2トランス60,70に出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1外部端子(CH1,CL1)に接続されたブリッジ回路である第1回路(10)と、
第2外部端子(CH2,CL2)に接続されたブリッジ回路である第2回路(20)と、
前記第1回路の第1交流端子(CA1,CB1)及び前記第2回路の第2交流端子(CA2,CB2)を接続する第1インダクタンス要素(60)と、
前記第1インダクタンス要素に接続された共振キャパシタ(63)と、
前記第2交流端子に接続された第2インダクタンス要素(70,71)と、
制御部(110)と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1回路及び前記第2回路の少なくとも一方のスイッチング制御により、前記第1インダクタンス要素を介して前記第1外部端子及び前記第2外部端子の間で電力を伝達する電力伝達処理と、
前記第1インダクタンス要素及び前記第2インダクタンス要素の一方である対象要素にテスト電圧を出力することにより、前記対象要素のインダクタンスを推定する推定処理と、
を行い、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記対象要素に出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている、電力変換装置(100,200,300)。
【請求項2】
第3外部端子(CH3,CL3)に接続されたブリッジ回路である第3回路(30)を備え、
前記第1交流端子に接続された第1コイル(61)、及び前記第2交流端子に接続された第2コイル(62)を有する第1トランス(60)が前記第1インダクタンス要素として備えられ、
前記共振キャパシタは、前記第1コイル又は前記第2コイルに直列接続された第1共振キャパシタであり、
前記第2交流端子に接続された第3コイル(71)、及び前記第3回路の第3交流端子(CA3,CB3)に接続された第4コイル(72)を有する第2トランス(70)が前記第2インダクタンス要素として備えられ、
前記第3コイル又は前記第4コイルに直列接続された第2共振キャパシタ(64)を備え、
前記電力伝達処理は、前記第1回路、前記第2回路及び前記第3回路のうち少なくとも1つのスイッチング制御により、前記第1外部端子、前記第2外部端子及び前記第3外部端子のうち少なくとも2つの間で電力を伝達する処理であり、
前記制御部は、
前記第2外部端子から前記第2回路を介して前記第3コイルに至るまでの電流流通経路のうち、前記第2交流端子よりも前記第2外部端子の側の経路に流れる電流である推定用電流を取得し、
前記推定処理において、前記第2回路のスイッチング制御により前記第2交流端子からテスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、取得した前記推定用電流とに基づいて、前記第2トランスの励磁インダクタンスを推定し、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記第2交流端子から出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている、請求項1に記載の電力変換装置(100)。
【請求項3】
前記推定用電流は、第2推定用電流であり、
前記第1共振キャパシタは、前記第2コイルに直列接続されており、
前記制御部は、
前記第1外部端子から前記第1回路を介して前記第1コイルに至るまでの電流流通経路のうち、前記第1交流端子よりも前記第1外部端子の側の経路に流れる電流である第1推定用電流を取得し、
前記推定処理において、前記第1回路のスイッチング制御により前記第1交流端子から前記テスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、前記第1推定用電流とに基づいて、前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
第1外部端子(CH1,CL1)に接続されたブリッジ回路である第1回路(10)と、
第2外部端子(CH2,CL2)に接続されたブリッジ回路である第2回路(20)と、
第3外部端子(CH3,CL3)に接続されたブリッジ回路である第3回路(30)と、
前記第1回路の第1交流端子(CA1,CB1)に接続された第1コイル(61)、及び前記第2回路の第2交流端子(CA2,CB2)に接続された第2コイル(62)を有する第1トランス(60)と、
前記第2コイルに直列接続された第1共振キャパシタ(63)と、
前記第2交流端子に接続された第3コイル(71)、及び前記第3回路の第3交流端子(CA3,CB3)に接続された第4コイル(72)を有する第2トランス(70)と、
前記第3コイル又は前記第4コイルに直列接続された第2共振キャパシタ(64)と、
制御部(110)と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1回路、前記第2回路及び前記第3回路のうち少なくとも1つのスイッチング制御により、前記第1外部端子、前記第2外部端子及び前記第3外部端子のうち少なくとも2つの間で電力を伝達する電力伝達処理と、
前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する推定処理と、
を行い、
前記第1外部端子から前記第1回路を介して前記第1コイルに至るまでの電流流通経路のうち、前記第1交流端子よりも前記第1外部端子の側の経路に流れる電流である推定用電流を取得し、
前記推定処理において、前記第1回路のスイッチング制御により前記第1交流端子からテスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、前記推定用電流とに基づいて、前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定し、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記第1交流端子から出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている、電力変換装置(100)。
【請求項5】
前記第1交流端子に接続された第1コイル(61)、及び前記第2交流端子に接続された第2コイル(62)を有するトランス(60)が前記第1インダクタンス要素として備えられ、
前記共振キャパシタは、前記第2コイルに直列接続されており、
前記第2交流端子に接続された第3コイル(71)が前記第2インダクタンス要素として備えられ、
前記電力伝達処理は、前記第1回路及び前記第2回路のうち少なくとも1つのスイッチング制御により、前記第1外部端子及び前記第2外部端子の間で電力を伝達する処理であり、
前記制御部は、前記推定処理において、前記第1回路のスイッチング制御により前記第1交流端子からテスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、前記第1コイルに流れる電流である推定用電流とに基づいて、前記トランスの励磁インダクタンスを推定し、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記第1交流端子から出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている、請求項1に記載の電力変換装置(200)。
【請求項6】
前記第2トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第2トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタ及び前記第2共振キャパシタのインピーダンスよりも小さくなる周波数に設定されている、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第2トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第2トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタ及び前記第2共振キャパシタのインピーダンスの1/3以下となる周波数に設定されている、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第1トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタのインピーダンスよりも小さくなる周波数に設定されている、請求項3又は4に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第1トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタのインピーダンスの1/3以下となる周波数に設定されている、請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
第1外部端子(CH1,CL1)に接続されたブリッジ回路である第1回路(10)と、
第2外部端子(CH2,CL2)に接続されたブリッジ回路である第2回路(20)と、
第3外部端子(CH3,CL3)に接続されたブリッジ回路である第3回路(30)と、
前記第1回路の第1交流端子(CA1,CB1)に接続された第1コイル(61)、及び前記第2回路の第2交流端子(CA2,CB2)に接続された第2コイル(62)を有する第1トランス(60)と、
前記第1コイル又は前記第2コイルに直列接続された第1共振キャパシタ(63)と、
前記第2交流端子に接続された第3コイル(71)、及び前記第3回路の第3交流端子(CA3,CB3)に接続された第4コイル(72)を有する第2トランス(70)と、
前記第3コイル又は前記第4コイルに直列接続された第2共振キャパシタ(64)と、
制御部(110)と、
を備え、
前記制御部は、
前記第2外部端子から前記第2回路を介して前記第2コイルに至るまでの電流流通経路のうち、前記第2交流端子よりも前記第2外部端子の側の経路に流れる電流である推定用電流を取得し、
前記第2回路のスイッチング制御により前記第2交流端子からテスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、前記推定用電流とに基づいて、前記第2トランスの励磁インダクタンスを推定する推定処理を行い、
前記第2トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第2トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタ及び前記第2共振キャパシタのインピーダンスよりも小さくなる周波数に設定されている、電力変換装置(100)。
【請求項11】
第1外部端子(CH1,CL1)に接続されたブリッジ回路である第1回路(10)と、
第2外部端子(CH2,CL2)に接続されたブリッジ回路である第2回路(20)と、
第3外部端子(CH3,CL3)に接続されたブリッジ回路である第3回路(30)と、
前記第1回路の第1交流端子(CA1,CB1)に接続された第1コイル(61)、及び前記第2回路の第2交流端子(CA2,CB2)に接続された第2コイル(62)を有する第1トランス(60)と、
前記第2コイルに直列接続された第1共振キャパシタ(63)と、
前記第2交流端子に接続された第3コイル(71)、及び前記第3回路の第3交流端子(CA3,CB3)に接続された第4コイル(72)を有する第2トランス(70)と、
前記第3コイル又は前記第4コイルに直列接続された第2共振キャパシタ(64)と、
制御部(110)と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1外部端子から前記第1回路を介して前記第1コイルに至るまでの電流流通経路のうち、前記第1交流端子よりも前記第1外部端子の側の経路に流れる電流である推定用電流を取得し、
前記第1回路のスイッチング制御により前記第1交流端子からテスト電圧を出力する場合、前記テスト電圧と、前記推定用電流とに基づいて、前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する推定処理を行い、
前記第1トランスの励磁インダクタンスを推定する場合における前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記第1トランスの励磁インダクタンスから定まるインピーダンスが、前記第1共振キャパシタのインピーダンスよりも小さくなる周波数に設定されている、電力変換装置(100)。
【請求項12】
前記制御部は、前記推定処理における前記基本波成分の振幅を前記電力伝達処理における出力電圧の基本波成分の振幅よりも小さくする、請求項2~7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記第1回路の前記第1外部端子側の入力電圧及び前記第2回路の前記第2外部端子側の入力電圧のうち、少なくとも一方を調整する電圧調整回路(15,25)を備え、
前記制御部は、前記推定処理における前記入力電圧を前記電力伝達処理における前記入力電圧よりも低くするように前記電圧調整回路を制御する、請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記推定処理において、前記基本波成分を変調波とし、前記変調波とキャリア信号とを用いたPWM処理により、前記スイッチング制御におけるスイッチング周波数を、前記共振キャパシタを含む共振回路の共振周波数よりも高い周波数に設定する、請求項2~7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記キャリア信号は、三角波信号であり、
前記制御部は、前記推定処理において、前記キャリア信号が最大値となるタイミング又は前記キャリア信号が最小値となるタイミングを前記推定用電流の検出タイミングに設定する、請求項14に記載の電力変換装置。
【請求項16】
第1外部端子(CH1,CL1)に接続されたブリッジ回路である第1回路(10)と、
第2外部端子(CH2,CL2)に接続されたブリッジ回路である第2回路(20)と、
前記第1回路の第1交流端子(CA1,CB1)及び前記第2回路の第2交流端子(CA2,CB2)を接続する第1インダクタンス要素(60)と、
前記第1インダクタンス要素に接続されたキャパシタ(63)と、
前記第2交流端子に接続された第2インダクタンス要素(70,71)と、
制御部(110)と、
を備える電力変換装置(100,200,300)に適用されるプログラムにおいて、
前記制御部に、
前記第1回路及び前記第2回路の少なくとも一方のスイッチング制御により、前記第1インダクタンス要素を介して前記第1外部端子及び前記第2外部端子の間で電力を伝達する電力伝達処理と、
前記第1インダクタンス要素及び前記第2インダクタンス要素の一方である対象要素にテスト電圧を出力することにより、前記対象要素のインダクタンスを推定する推定処理と、
を実行させ、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記対象要素に出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置として、第1外部端子に接続されたブリッジ回路である第1回路と、第2外部端子に接続されたブリッジ回路である第2回路と、第1回路の第1交流端子及び第2回路の第2交流端子を接続するトランスとを備えるものが知られている。この電力変換装置を具体化したものとして、例えば特許文献1には、マルチポート式のコンバータが記載されている。特許文献1に記載の電力変換装置は、トランスのインダクタンスの推定処理が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力変換装置としては、特許文献1に記載された装置以外にも、LC共振を利用してスイッチング損失を低減可能なものがある。詳しくは、電力変換装置は、第1回路の第1交流端子及び第2回路の第2交流端子を接続する第1インダクタンス要素と、第1インダクタンス要素に接続されたキャパシタと、第2交流端子に接続された第2インダクタンス要素とを備えている。この電力変換装置において、第1,第2インダクタンス要素の少なくとも一方である対象要素のインダクタンスを推定する場合において、対象要素にテスト電圧を出力する。テスト電圧の周波数が適正に設定されていない場合、対象要素のインダクタンスの推定精度が低下し得る。
【0005】
本発明は、インダクタンスの推定精度の低下を抑制できる電力変換装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1外部端子に接続されたブリッジ回路である第1回路と、
第2外部端子に接続されたブリッジ回路である第2回路と、
前記第1回路の第1交流端子及び前記第2回路の第2交流端子を接続する第1インダクタンス要素と、
前記第1インダクタンス要素に接続された共振キャパシタと、
前記第2交流端子に接続された第2インダクタンス要素と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1回路及び前記第2回路の少なくとも一方のスイッチング制御により、前記第1インダクタンス要素を介して前記第1外部端子及び前記第2外部端子の間で電力を伝達する電力伝達処理と、
前記第1インダクタンス要素及び前記第2インダクタンス要素の一方である対象要素にテスト電圧を出力することにより、前記対象要素のインダクタンスを推定する推定処理と、
を行い、
前記テスト電圧の基本波成分の周波数は、前記電力伝達処理において前記対象要素に出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている。
【0007】
共振キャパシタのインピーダンスは、周波数が低いほど大きくなる傾向がある。一方、インダクタンス要素のインピーダンスは、周波数が低いほど小さくなる傾向がある。このため、第1,第2インダクタンス要素の一方である対象要素に出力するテスト電圧の基本波成分の周波数を、第1,第2インダクタンス要素のうち対象要素ではないインダクタンス要素に電流を極力流さないような低い周波数に設定することにより、対象要素のインダクタンスの推定精度の低下を抑制できると考えられる。
【0008】
この点、本発明では、テスト電圧の基本波成分の周波数は、電力伝達処理において対象要素に出力される電圧の基本波成分の周波数よりも低い周波数に設定されている。これにより、推定処理において、第1,第2インダクタンス要素のうち対象要素ではないインダクタンス要素に電流を極力流さないような低い周波数を有するテスト電圧を出力することができる。その結果、対象要素のインダクタンスの推定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図2】第1トランスの励磁インダクタンスの推定処理における回路状態を示す図。
【
図4】第2トランスの励磁インダクタンスの推定処理における回路状態を示す図。
【
図5】共振キャパシタ及び励磁インダクタンスのインピーダンス周波数特性を示す図。
【
図6】第1,第2閉ループ回路のインピーダンス周波数特性を示す図。
【
図7】励磁インダクタンスの推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図9】第2実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図10】励磁インダクタンスの推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図11】第3実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図12】第4実施形態に係るテスト電圧の出力態様を示す図。
【
図13】テスト電圧等の推移を示すタイムチャート。
【
図14】電流サンプリングタイミングの一例を示す図。
【
図15】電流サンプリングタイミングの一例を示す図。
【
図16】第5実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図17】第5実施形態の変形例に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図18】第5実施形態の変形例に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図19】その他の実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図20】その他の実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図21】その他の実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【
図22】その他の実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分及び/又は関連付けられる部分には同一の参照符号、又は百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分及び/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る電力変換装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の電力変換装置は、マルチポート型のものである。電力変換装置は、例えば、車両、航空機又は船舶等の移動体に搭載される。車両は、例えば、ハイブリッド車、電気自動車又は鉄道車両である。
【0012】
図1に示すように、電力変換装置100は、複数の外部端子と、各外部端子に対応して設けられたフルブリッジ回路とを備えている。フルブリッジ回路のスイッチング制御により、各外部端子のうち少なくとも2つの外部端子の間で電力伝達が行われる。
【0013】
電力変換装置100は、第1外部端子、第2外部端子及び第3外部端子を備えている。第1外部端子、第2外部端子及び第3外部端子には、充放電可能な蓄電池、AC-DCコンバータ及び電気負荷等が接続される。充放電可能な蓄電池、AC-DCコンバータ及び電気負荷等と、電力変換装置100とによりシステムが構成されている。電力変換装置100は、第1外部端子である第1高電位側端子CH1及び第1低電位側端子CL1に対応するフルブリッジ回路として、第1フルブリッジ回路10を備えている。
【0014】
第1フルブリッジ回路10は、第1A~第4AスイッチQA1~QA4を備えている。本実施形態において、第1A~第4AスイッチQA1~QA4は、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを有している。第1スイッチQA1及び第3AスイッチQA3の高電位側端子であるドレインには、第1高電位側端子CH1が接続されている。第1AスイッチQA1の低電位側端子であるソースには、第2AスイッチQA2のドレインが接続され、第3AスイッチQA3のソースには、第4AスイッチQA4のドレインが接続されている。第2AスイッチQA2及び第4AスイッチQA4のソースには、第1低電位側端子CL1が接続されている。第1高電位側端子CH1には、電力変換装置100が備える第1キャパシタ11の第1端が接続されている。第1キャパシタ11の第2端には、第1低電位側端子CL1が接続されている。第1キャパシタ11は、平滑コンデンサ及びノイズ除去の役割を果たす。なお、第1キャパシタ11は、第1フルブリッジ回路10に内蔵されていてもよい。
【0015】
電力変換装置100は、第2外部端子である第2高電位側端子CH2及び第2低電位側端子CL2に対応するフルブリッジ回路として、第2フルブリッジ回路20を備えている。第2フルブリッジ回路20は、第1B~第4BスイッチQB1~QB4を備えている。本実施形態において、第1B~第4BスイッチQB1~QB4は、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを有している。本実施形態において、第2フルブリッジ回路20の構成は、第1フルブリッジ回路10の構成と同様であるため、第2フルブリッジ回路20の詳細な説明を省略する。
【0016】
第2高電位側端子CH2には、電力変換装置100が備える第2キャパシタ21の第1端が接続されている。第2キャパシタ21の第2端には、第2低電位側端子CL2が接続されている。第2キャパシタ21は、平滑コンデンサ及びノイズ除去の役割を果たす。なお、第2キャパシタ21は、第2フルブリッジ回路20に内蔵されていてもよい。
【0017】
電力変換装置100は、第3外部端子である第3高電位側端子CH3及び第3低電位側端子CL3に対応するフルブリッジ回路として、第3フルブリッジ回路30を備えている。第3フルブリッジ回路30は、第1C~第4CスイッチQC1~QC4を備えている。本実施形態において、第1C~第4CスイッチQC1~QC4は、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを有している。本実施形態において、第3フルブリッジ回路30の構成は、第1フルブリッジ回路10の構成と同様であるため、第3フルブリッジ回路30の詳細な説明を省略する。
【0018】
第3高電位側端子CH3には、電力変換装置100が備える第3キャパシタ31の第1端が接続されている。第3キャパシタ31の第2端には、第3低電位側端子CL3が接続されている。第3キャパシタ31は、平滑コンデンサ及びノイズ除去の役割を果たす。なお、第3キャパシタ31は、第3フルブリッジ回路30に内蔵されていてもよい。
【0019】
電力変換装置100は、第1フルブリッジ回路10と第2フルブリッジ回路20との間の電力伝達を行うための第1トランス60(「第1インダクタンス要素」に相当)を備えている。第1トランス60は、第1コイル61と、第2コイル62と、第1コイル61及び第2コイル62が巻回されたコアとを備えている。第1コイル61及び第2コイル62は、コアを介して磁気結合する。
【0020】
第1コイル61の第1端には、第1フルブリッジ回路10の第1A交流端子CA1が接続されている。第1A交流端子CA1には、第1AスイッチQA1のソース及び第2AスイッチQA2のドレインが接続されている。第1コイル61の第2端には、第1フルブリッジ回路10の第1B交流端子CB1が接続されている。第1B交流端子CB1には、第3AスイッチQA3のソース及び第4AスイッチQA4のドレインが接続されている。
【0021】
第2コイル62の第1端には、電力変換装置100が備える第1共振キャパシタ63の第1端が接続されている。第1共振キャパシタ63の第2端には、第2フルブリッジ回路20の第2A交流端子CA2が接続されている。第2コイル62の第2端には、第2フルブリッジ回路20の第2B交流端子CB2が接続されている。
図1には、第1,第2コイル61,62の漏れインダクタンス61a,62aも合わせて示す。
【0022】
第1コイル61において第2端に対する第1端の電位が高くなる場合、第2コイル62には、その第2端よりも第1端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。一方、第1コイル61において第1端に対する第2端の電位が高くなる場合、第2コイル62には、その第1端よりも第2端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。
【0023】
電力変換装置100は、第2フルブリッジ回路20と第3フルブリッジ回路30との間の電力伝達を行うための第2トランス70(「第2インダクタンス要素」に相当)を備えている。第2トランス70は、第1コイル71(「第3コイル」に相当)と、第2コイル72(「第4コイル」に相当)と、第1コイル71及び第2コイル72が巻回されたコアとを備えている。第1コイル71及び第2コイル72は、コアを介して磁気結合する。
【0024】
第1コイル71の第1端には、第2A交流端子CA2が接続されている。第1コイル71の第2端には、第2B交流端子CB2が接続されている。つまり、第2トランス70の第1コイル71は、第1トランス60の第2コイル62及び第1共振キャパシタ63の直列接続体に並列接続されている。
【0025】
第2トランス70の第2コイル72の第1端には、電力変換装置100が備える第2共振キャパシタ64の第1端が接続されている。第2共振キャパシタ64の第2端には、第3フルブリッジ回路30の第3A交流端子CA3が接続されている。第2コイル72の第2端には、第3フルブリッジ回路30の第3B交流端子CB3が接続されている。
図1には、第1,第2コイル71,72の漏れインダクタンス71a,72aも合わせて示す。
【0026】
第1コイル71において第2端に対する第1端の電位が高くなる場合、第2コイル72には、その第2端よりも第1端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。一方、第1コイル71において第1端に対する第2端の電位が高くなる場合、第2コイル72には、その第1端よりも第2端の電位が高くなるような誘起電圧が発生する。
【0027】
電力変換装置100は、第1電圧センサ12、第2電圧センサ22及び第3電圧センサ32を備えている。第1電圧センサ12は、第1キャパシタ11の電圧を検出し、第2電圧センサ22は、第2キャパシタ21の電圧を検出し、第3電圧センサ32は、第3キャパシタ31の電圧を検出する。
【0028】
電力変換装置100は、第1電流センサ13、第2電流センサ23及び第3電流センサ33を備えている。第1電流センサ13は、第1フルブリッジ回路10と第1低電位側端子CL1との間を流れる電流を検出する。第2電流センサ23は、第2フルブリッジ回路20と第2低電位側端子CL2との間を流れる電流を検出する。第3電流センサ33は、第3フルブリッジ回路30と第3低電位側端子CL3との間を流れる電流を検出する。
【0029】
なお、第1電流センサ13を例にして説明すると、第1電流センサ13は、例えば、第1フルブリッジ回路10と第1高電位側端子CH1との間を流れる電流を検出してもよい。
【0030】
第1,第2,第3電圧センサ12,22,33の検出値Vdc1,Vdc2,Vdc3及び第1,第2,第3電流センサ13,23,33の検出値I1,I2,I3は、電力変換装置100が備える制御部としての制御装置110に入力される。制御装置110は、マイコン111を主体として構成され、マイコン111は、CPUを備えている。マイコン111が提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコン111がハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコン111は、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、後述する
図7等に示す処理のプログラムが含まれる。制御装置110にインストールされたプログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、例えばOTA(Over The Air)等、インターネット等の通信ネットワークを介してダウンロード及び更新が可能である。
【0031】
続いて、制御装置110が行う電力伝達処理について説明する。
【0032】
電力伝達処理は、第1~第3外部端子のうち少なくとも2つの間で電力伝達を行う処理である。この処理では、共振キャパシタ及び漏れインダクタンスからなるLC直列共振回路が利用される。
【0033】
第1フルブリッジ回路10、第1トランス60、第1共振キャパシタ63及び第2フルブリッジ回路20を含む閉ループ回路を第1閉ループ回路と称す。第1閉ループ回路において、第1共振キャパシタ63及び第1トランス60の漏れインダクタンス61a,62aからなるLC直列共振回路が形成されている。本実施形態では、漏れインダクタンス61a,62aの値は等しい。
【0034】
第2フルブリッジ回路20、第2トランス70、第2共振キャパシタ64及び第3フルブリッジ回路30を含む閉ループ回路を第2閉ループ回路と称す。第2閉ループ回路において、第2共振キャパシタ64及び第2トランス70の漏れインダクタンス71a,72aからなるLC直列共振回路が形成されている。本実施形態では、漏れインダクタンス71a,72aの値は等しい。また、本実施形態では、各トランス60,70の漏れインダクタンス61a,62a,71a,72aの値は等しい。
【0035】
なお、第1,第2閉ループ回路において、LC直列共振回路を構成するインダクタンスとして、漏れインダクタンスに代えて、受動素子部品である追加のインダクタが設けられてもよい。
【0036】
第1外部端子及び第2外部端子の間で電力伝達を行う場合について説明する。電力伝達の制御方法は、例えば特開2021-145407号公報に記載の方法を採用することができる。
【0037】
制御装置110は、第1AスイッチQA1及び第4AスイッチQA4の組と、第2AスイッチQA2及び第3AスイッチQA3の組とを交互にオンする。また、制御装置110は、第1BスイッチQB1及び第4BスイッチQB4の組と、第2BスイッチQB2及び第3BスイッチQB3の組とを交互にオンする。制御装置110は、第1AスイッチQA1のオフへの切り替えタイミングと、第1BスイッチQB1のオフへの切り替えタイミングとの位相差を調整することにより、電力伝達方向及び電力伝達量を制御することができる。
【0038】
続いて、第2外部端子及び第3外部端子の間で電力伝達を行う場合について説明する。制御装置110は、第1BスイッチQB1及び第4BスイッチQB4の組と、第2BスイッチQB2及び第3BスイッチQB3の組とを交互にオンする。また、制御装置110は、第1CスイッチQC1及び第4CスイッチQC4の組と、第2CスイッチQC2及び第3CスイッチQC3の組とを交互にオンする。制御装置110は、第1BスイッチQB1のオフへの切り替えタイミングと、第1CスイッチQC1のオフへの切り替えタイミングとの位相差を調整することにより、電力伝達方向及び電力伝達量を制御することができる。
【0039】
電力伝達処理における各スイッチQA1~QA4,QB1~QB4,QC1~QC4のスイッチング周波数fβは、第1,第2閉ループ回路の共振周波数のうち高い方よりも高周波側の周波数(例えば、100kHz)に設定されている。例えば、第1共振キャパシタ63の静電容量と第2共振キャパシタ64の静電容量とが等しい場合、第1,第2閉ループ回路の共振周波数は等しい値になる。本実施形態において、各スイッチQA1~QA4,QB1~QB4,QC1~QC4のスイッチング周期Tβ(=1/fβ)は等しい値に設定されている。スイッチング周波数fβが共振周波数に近いほど、スイッチのスイッチング損失の低減効果が大きい。なお、スイッチング周波数fβは、例えば、共振周波数の1.3倍の周波数以上であって、かつ、共振周波数の2倍の周波数以下に設定されていればよい。
【0040】
続いて、制御装置110により実行されるトランスの励磁インダクタンスの推定処理について説明する。
【0041】
まず、
図2を用いて、第1トランス60の励磁インダクタンスの推定方法について説明する。
図2では、各交流端子等の図示を省略している。
【0042】
第1トランス60の励磁インダクタンスは、第1,第2コイル61,62のいずれか一方への通電により発生する磁束のうち、第1,第2コイル61,62の双方を鎖交する磁束(励磁磁束)に関するインダクタンスである。
【0043】
制御装置110は、各フルブリッジ回路10,20,30のうち、テスト電圧Vtestの出力元となるフルブリッジ回路以外のフルブリッジ回路が備える各スイッチを全てオフする。詳しくは、制御装置110は、第2フルブリッジ回路20の各スイッチQB1~QB4を全てオフし、第3フルブリッジ回路30の各スイッチQC1~QC4を全てオフする。
【0044】
制御装置110は、テスト電圧Vtestの周波数を設定する機能を有している。テスト電圧Vtestの周波数は、テスト電圧Vtestの基本波成分が、後述する周波数となるように設定される。制御装置110は、各スイッチQB1~QB4,QC1~QC4をオフした状態において、第1AスイッチQA1及び第4AスイッチQA4の組と、第2AスイッチQA2及び第3AスイッチQA3の組とを交互にオンする。これにより、第1フルブリッジ回路10から第1トランス60の第1コイル61にテスト電圧Vtestが出力される。テスト電圧Vtestは、
図3に示すように、振幅Vaを有する交流電圧であり、具体的には矩形波電圧である。Vaは、第1キャパシタ11の端子電圧と同等の電圧である。本実施形態において、制御装置110は、第1電圧センサ12の検出値Vdc1をテスト電圧Vtestとして検出し、検出したテスト電圧Vtestを励磁インダクタンスの推定に用いる。
図3において、Tswは、推定処理における第1フルブリッジ回路10の各スイッチQA1~QA4のスイッチング周期を示す。
【0045】
第1コイル61にテスト電圧Vtestが印加されると、第1コイル61に電流が流れる。第1コイル61に流れる電流は、第1電流センサ13により検出される。制御装置110は、第1電圧センサ12により検出されたテスト電圧Vtestと、第1電流センサ13により検出された電流Itest(「第1推定用電流」に相当)とに基づいて、第1トランス60の励磁インダクタンスL1を推定する。詳しくは、制御装置110は、検出されたテスト電圧Vtestの振幅Vaを、検出された電流Itestの変化速度(例えば、上昇速度又は下降速度)で除算することにより、第1トランス60の励磁インダクタンスL1を推定する。
【0046】
続いて、
図4を用いて、第2トランス70の励磁インダクタンスの推定方法について説明する。
【0047】
制御装置110は、第1フルブリッジ回路10の各スイッチQA1~QA4を全てオフし、第3フルブリッジ回路30の各スイッチQC1~QC4を全てオフする。制御装置110は、各スイッチQA1~QA4,QC1~QC4をオフした状態において、第1BスイッチQB1及び第4BスイッチQB4の組と、第2BスイッチQB2及び第3BスイッチQABの組とを交互にオンする。これにより、第2フルブリッジ回路20から第2トランス70の第1コイル71に
図3に示すテスト電圧Vtestが出力される。
【0048】
第1コイル71にテスト電圧Vtestが印加されると、第1コイル71に電流が流れる。第1コイル71に流れる電流は、第2電流センサ23により検出される。第2トランス70の励磁インダクタンスの推定処理において、制御装置110は、第2電圧センサ22の検出値Vdc2をテスト電圧Vtestとして検出し、検出したテスト電圧Vtestを励磁インダクタンスの推定に用いる。制御装置110は、第2電圧センサ22により検出されたテスト電圧Vtestと、第2電流センサ23により検出された電流Itest(「第2推定用電流」に相当)とに基づいて、第2トランス70の励磁インダクタンスL2を推定する。詳しくは、制御装置110は、検出されたテスト電圧Vtestの振幅Vaを、検出された電流Itestの変化速度(例えば、上昇速度又は下降速度)で除算することにより、第2トランス70の励磁インダクタンスL2を推定する。
【0049】
なお、テスト電圧Vtestの周波数が低すぎると、第1コイルが磁気飽和し、テスト電圧Vtestの印加時に第1コイルを含む閉回路に過電流が流れるおそれがある。また、磁気飽和すると、励磁インダクタンスが一時的に小さくなり、励磁インダクタンスの推定精度が低下し得る。このため、テスト電圧Vtestの周波数は、磁気飽和しない周波数に設定されるのが望ましい。
【0050】
本実施形態では、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数設定方法に特徴がある。以下、
図5を用いて、この特徴について説明する。
【0051】
図5に、LC直列共振回路を構成する共振キャパシタ及びトランスの励磁インダクタンスのインピーダンス周波数特性を示す。下式(eq1)に示すように、キャパシタのインピーダンスZcは、周波数が低いほど高くなる。このため、周波数が低いほど、キャパシタに電流が流れづらくなる。一方、下式(eq2)に示すように、励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLは、周波数が低いほど低くなる。このため、周波数が低いほど、コイルに電流が流れやすくなる。下式において、ωは各周波数を示し、Cはキャパシタの静電容量を示し、Lは励磁インダクタンスを示す。
【0052】
【0053】
【数2】
第1トランス60の励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第1共振キャパシタ63のインピーダンスZcと等しくなる周波数を基準周波数fαとする。基準周波数fαは、例えば、電力変換装置100の製造工程において測定された値、又は電力変換装置100のリユース時の検査工程において測定された値に設定されていればよい。本実施形態では、第1,第2トランス60,70の基準周波数fαが同じ値であるとする。第1トランス60の励磁インダクタンスの推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、基準周波数fαよりも低い周波数に設定されている。詳しくは、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、第1トランス60の励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第1共振キャパシタ63のインピーダンスZcの1/3以下となる周波数に設定されている。これにより、第1コイル61にテスト電圧が印加される場合において、第2コイル62側において電流を流れにくくできる。その結果、第1トランス60の励磁インダクタンスL1の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0054】
これに対し、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数が、基準周波数fαよりも高い周波数に設定される比較例では、第1コイル61にテスト電圧が印加される場合において、第2コイル62側に電流が流れやすくなる。詳しくは、第2コイル62、第1共振キャパシタ63、及び第2フルブリッジ回路20のスイッチのボディダイオードを含む閉ループ回路に電流が流れたり、第2コイル62、第1共振キャパシタ63及び第2トランス70の第1コイル71を含む閉ループ回路に電流が流れたりする。その結果、第1電流センサ13により検出される電流が、本実施形態の場合よりも大きくなる。これにより、第1トランス60の励磁インダクタンスL1の推定精度が低下してしまう。また、電流の流通により損失が発生してしまう。
【0055】
なお、第1トランス60の励磁インダクタンスの推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第1共振キャパシタ63のインピーダンスZcの1/5以下となる周波数又は1/10以下となる周波数に設定されていることが望ましい。
【0056】
一方、第2トランス70の励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第2共振キャパシタ64のインピーダンスZcと等しくなる周波数を基準周波数fαとする。第2トランス70の励磁インダクタンスの推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、基準周波数fαよりも低い周波数に設定されている。詳しくは、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、第2トランス70の励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第2共振キャパシタ64のインピーダンスZcの1/3以下となる周波数に設定されている。これにより、第1コイル71にテスト電圧が印加される場合において、第2コイル72側において電流を流れにくくできる。その結果、第2トランス70の励磁インダクタンスL2の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0057】
なお、第2トランス70の励磁インダクタンスの推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、励磁インダクタンスから定まるインピーダンスZLが、第1,第2共振キャパシタ63,64のインピーダンスZcの1/5以下となる周波数又は1/10以下となる周波数に設定されていることが望ましい。
【0058】
図6に、第1閉ループ回路のインピーダンス周波数特性K1及び第2閉ループ回路のインピーダンス周波数特性K2を示す。K1は、
図2に示した状態でテスト電圧Vtestを印加した場合における第1電圧センサ12の検出値Vdc1及び第1電流センサ13の検出値I1に基づいて算出したインピーダンス(Vdc1/I1)から算出される。K2は、
図4に示した状態でテスト電圧Vtestを印加した場合における第2電圧センサ22の検出値Vdc2及び第2電流センサ23の検出値I2に基づいて算出したインピーダンス(Vdc2/I2)から算出される。
【0059】
第1,第2トランス60,70の新品時の励磁インダクタンスが同じ値(例えば1.36mH)であったのに対し、第2トランス70の実際の励磁インダクタンスが劣化により低下した値(例えば250μH)になる状況を想定している。
【0060】
推定処理におけるテスト電圧Vtestの基本波成分の周波数を電力伝達処理時のスイッチング周波数fβにする場合、
図6に示すように、K1,K2のインダクタンスが同等の値になる。このことは、第1,第2トランス60,70の励磁インダクタンスを正しく推定できていないことを示す。これに対し、本実施形態では、基本波成分の周波数が基準周波数fαよりも低い周波数に設定されている。この場合、励磁インダクタンスを正しく推定することができる。
【0061】
なお、
図6に示す例において、各閉ループ回路の共振周波数と基準周波数fαとは同じ値又は同等の値である。各トランス60,70の励磁インダクタンスの推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、基準周波数fαの1/5以上であってかつ1/3以下の値、又は基準周波数fαの1/10以上であってかつ1/5以下の値に設定されていてもよい。
【0062】
図7に、制御装置110により実行される励磁インダクタンスの推定処理のフローチャートを示す。
【0063】
ステップS10では、第1,第2トランス60,70の中から推定対象となるトランスを選択する。本実施形態では、まず、第1トランス60(「対象要素」に相当)が推定対象に選択されることとする。
【0064】
ステップS11では、
図2に示すように、第2フルブリッジ回路20の各スイッチQB1~QB4を全てオフし、第3フルブリッジ回路30の各スイッチQC1~QC4を全てオフする。
【0065】
ステップS12では、現在のテスト電圧Vtestを取得し、ステップS13では、テスト電圧Vtestが印加されている場合における第1電流センサ13の検出値Itestを取得する。
【0066】
ステップS14では、取得したテスト電圧Vtest及び電流Itestに基づいて、第1トランス60の励磁インダクタンスL1を推定する。
【0067】
ステップS15では、第1,第2トランス60,70双方の励磁インダクタンスの推定が完了したか否かを判定する。ステップS15において否定判定した場合、ステップS10に移行し、第2トランス70(「対象要素」に相当)を励磁インダクタンスの推定対象として選択する。そして、第1トランス60の励磁インダクタンスの推定処理の場合と同様に、ステップS11~S14の処理を行う。
【0068】
ステップS15において肯定判定した場合には、ステップS16に進み、電力伝達処理を実行するモードに移行する。
【0069】
なお、励磁インダクタンスの推定対象となる第1,第2トランス60,70の選択順序は、第1トランス60を選択した後に第2トランス70を選択する等、特定順序であることに限らず、適宜変更されてもよい。
【0070】
図8に、本実施形態及び上記比較例それぞれにおける励磁インダクタンスの推定処理結果を示す。
図8に示す例では、第1,第2トランス60,70の励磁インダクタンスの真値が同じ値である。本実施形態によれば、第1,第2トランス60,70の励磁インダクタンスの推定値が真値に近い結果となる。これに対し、比較例では、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数が基準周波数fαよりも高い周波数に設定されているため、第1トランス60の第2コイル62に対して第2トランス70の第1コイル71が等価的に並列接続状態となる、このため、第1,第2トランス60,70の励磁インダクタンスの推定値が真値の1/2程度の値になり、推定精度が大きく低下してしまう。
【0071】
以上詳述した本実施形態によれば、トランスの励磁インダクタンスの推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0072】
<第1実施形態の変形例>
・第1共振キャパシタ63は、第1トランス60の第2コイル62ではなく第1コイル61に直列接続されていてもよい。
【0073】
・第2共振キャパシタ64は、第2トランス70の第2コイル72ではなく第1コイル71に直列接続されていてもよい。
【0074】
・各スイッチQA1~QA4,QB1~QB4,QC1~QC4のスイッチング周波数fswは、第1,第2閉ループ回路の共振周波数のうち低い方よりも低周波側に設定されていてもよい。
【0075】
・
図7に示す推定処理は、制御装置110の起動直後に実行されてもよいし、電力伝達処理の実行期間以外の期間であれば起動直後以外の期間に実行されてもよい。
【0076】
・例えば制御装置110の起動直後に実行される推定処理において、励磁インダクタンスの推定対象となるトランスは、電力変換装置100が備える全てのトランスに限らず、一部のトランスであってもよい。この場合、推定対象となる一部のトランスは、制御装置110の起動毎に変更されてもよい。
【0077】
・制御装置110は、励磁インダクタンスの推定値がその正常範囲から外れていると判定した場合、正常範囲から外れている推定値に対応するトランスに異常が発生していると判定してもよい。この場合、制御装置110は、電力伝達処理の実行を禁止したり、異常が発生している旨をユーザに通知する処理を行ったりしてもよい。ここで、通知処理は、例えば、システムが備える通知部(例えば、ブザー等の音生成部、電灯等の光生成部)を制御することによりユーザに通知する処理とすればよい。
【0078】
・制御装置110は、推定処理の実行に先立ち、各外部端子に接続された電気負荷と各外部端子との電気的な接続を遮断してもよい。
【0079】
・推定処理におけるフルブリッジ回路のスイッチング制御や、推定処理時にフルブリッジ回路等に電流が流れることに伴い発生する損失エネルギが、フルブリッジ回路の外部端子側のコンデンサ(例えば、
図2の回路状態における第1キャパシタ11)に蓄積されている静電エネルギに対して大きいことがある。この場合、制御装置110は、外部端子に接続された電圧源からコンデンサに、推定処理時に必要な電力を供給する制御を行ってもよい。
【0080】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図9に示すように、電力変換装置100は、第1電圧調整回路15及び第2電圧調整回路25を備えている。なお、
図9では、便宜上、第3フルブリッジ回路30等の図示を省略している。
【0081】
本実施形態において、第1電圧調整回路15は、第1放電抵抗体15a及び第1放電スイッチ15bの直列接続体を備え、第1キャパシタ11の放電回路である。第2電圧調整回路25も、第2放電抵抗体25a及び第2放電スイッチ25bの直列接続体を備え、第2キャパシタ21の放電回路である。第1電圧調整回路15は、第1キャパシタ11に並列接続され、第2電圧調整回路25は、第2キャパシタ21に並列接続されている。本実施形態において、各電圧調整回路15,25は、推定処理時にトランスが磁気飽和する事態の発生を抑制するために用いられる。
【0082】
電力変換装置100は、第1高電位側端子CH1及び第1低電位側端子CL1と第1電圧調整回路15との間を電気的に接続又は遮断するための第1遮断スイッチSMR1(例えばリレー)を備えている。また、電力変換装置100は、第2高電位側端子CH2及び第2低電位側端子CL2と第2電圧調整回路25との間を電気的に接続又は遮断するための第2遮断スイッチSMR2(例えばリレー)を備えている。
図9には、第1高電位側端子CH1及び第1低電位側端子CL1に第1蓄電池B1が接続され、第2高電位側端子CH2及び第2低電位側端子CL2に第2蓄電池B2が接続される例を示す。
【0083】
制御装置110は、第1遮断スイッチSMR1をオフした状態で第1放電スイッチ15bの制御により第1キャパシタ11から電荷を放電させる。これにより、第1トランス60の励磁インダクタンスの推定処理時における第1キャパシタ11の端子電圧を、電力伝達処理時における第1キャパシタ11の端子電圧(具体的には定格電圧)よりも低くする。その結果、推定処理時におけるテスト電圧Vtestの基本波成分の振幅が、電力伝達処理時において第1フルブリッジ回路10から出力される電圧の基本波成分の振幅よりも小さくなる。
【0084】
推定処理時におけるテスト電圧Vtestの基本波成分の周波数は、上述したように低い周波数に設定されている。このため、第1トランス60の磁気飽和が生じ易い。磁気飽和が生じると、第1フルブリッジ回路10及び第1コイル61を含む閉ループ回路に過電流が流れる懸念がある。そこで、テスト電圧Vtestの基本波成分の振幅を小さくすることにより、第1トランス60の磁気飽和が発生する事態を抑制する。
【0085】
同様に、制御装置110は、第2遮断スイッチSMR2をオフした状態で第2放電スイッチ25bの制御により第2キャパシタ21から電荷を放電させる。これにより、第2トランス70の励磁インダクタンスの推定処理時における第2キャパシタ21の端子電圧を、電力伝達処理時における第2キャパシタ21の端子電圧よりも低くする。
【0086】
なお、推定処理時において第1,第2コンデンサ11,21の端子電圧を下げすぎると、トランスのコイルに流れる電流の変化が小さくなり、励磁インダクタンスの推定精度が低下し得る。このため、推定処理時において第1,第2コンデンサ11,21の端子電圧は、磁気飽和の防止と推定精度の確保とを考慮した値に設定されることが望ましい。
【0087】
図10に、制御装置110により実行される励磁インダクタンスの推定処理のフローチャートを示す。なお、
図10において、先の
図7に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0088】
ステップS10の処理の完了後、ステップS17に進む。第1トランス60を推定対象として選択している場合、ステップS17では、第1遮断スイッチSMR1をオフした状態で、第1放電スイッチ15bの制御により第1キャパシタ11から電荷を放電させる。これにより、ステップS12におけるテスト電圧Vtestの基本波成分の振幅を、電力伝達処理時において第1フルブリッジ回路10から出力される電圧の基本波成分の振幅よりも小さくする。
【0089】
第2トランス70を推定対象として選択している場合、ステップS17では、第2遮断スイッチSMR2をオフした状態で、第2放電スイッチ25bの制御により第2キャパシタ21から電荷を放電させる。これにより、ステップS12におけるテスト電圧Vtestの基本波成分の振幅を、電力伝達処理時において第2フルブリッジ回路20から出力される電圧の基本波成分の振幅よりも小さくする。
【0090】
以上説明した本実施形態によれば、推定処理時においてトランスが磁気飽和する事態の発生を抑制することができる。
【0091】
<第2実施形態の変形例>
・コンデンサの端子電圧を調整する電圧調整回路としては、放電回路に限らず、例えばDCDCコンバータであってもよい。
【0092】
・制御装置110は、
図2に示す回路状態で推定処理を実行する場合において、第1キャパシタ11の端子電圧を第1トランス60の巻数比倍した値よりも、第2キャパシタ21の端子電圧を高くするように、第1放電スイッチ15bを制御してもよい。これにより、第1コイル61にテスト電圧Vtestが印加される場合において、第2コイル62、第1共振キャパシタ63、及び第2フルブリッジ回路20のスイッチのボディダイオードを含む閉ループ回路に電流が流れることを防止できる。
【0093】
制御装置110は、
図4に示す回路状態で推定処理を実行する場合において、第2キャパシタ21の端子電圧を第2トランス70の巻数比倍した値よりも、第3キャパシタ31の端子電圧を高くするように、第2放電スイッチ25bを制御してもよい。また、制御装置110は、
図4に示す回路状態で推定処理を実行する場合において、第2キャパシタ21の端子電圧を第1トランス60の巻数比倍した値よりも、第1キャパシタ11の端子電圧を高くするように、第2放電スイッチ25bを制御してもよい。
【0094】
・
図10に示す処理では、ステップS10で推定対象となるトランスが選択されるたびにステップS17において電圧調整が実施されたがこれに限らず、例えば、
図10に示す処理の開始時に第1,第2,第3キャパシタ11,21,31の全ての電圧調整が実施されてもよい。
【0095】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図11に示すように、電力変換装置100は、第1スイッチ16、第2スイッチ26及び第3スイッチ36を備えている。本実施形態の各スイッチ16,26,36は、リレーである。第1スイッチ16は、第1A交流端子CA1から第1コイル61を介して第1B交流端子CB1に至る電気経路に設けられている。第2スイッチ26は、第2A交流端子CA2から第1共振キャパシタ63及び第2コイル62を介して第2B交流端子CB2に至る電気経路に設けられている。第3スイッチ36は、第3A交流端子CA3から第2共振キャパシタ64及び第2コイル72を介して第3B交流端子CB3に至る電気経路に設けられている。
【0096】
制御装置110は、
図2に示す回路状態で推定処理を行う場合、第1スイッチ16をオンするとともに第2スイッチ26及び第3スイッチ36をオフする。これにより、第1コイル61にテスト電圧Vtestが印加される場合において、第2コイル62、第1共振キャパシタ63、及び第2フルブリッジ回路20のボディダイオードを含む閉ループ回路と、第2コイル72、第2共振キャパシタ64、及び第3フルブリッジ回路30のボディダイオードを含む閉ループ回路とに電流が流れることを回避できる。
【0097】
制御装置110は、
図4に示す回路状態で推定処理を行う場合、第2スイッチ26をオンするとともに第1スイッチ16及び第3スイッチ36をオフする。これにより、第1コイル71にテスト電圧Vtestが印加される場合において、第1コイル61及び第1フルブリッジ回路10のボディダイオードを含む閉ループ回路と、第2コイル72、第2共振キャパシタ64、及び第3フルブリッジ回路30のボディダイオードを含む閉ループ回路とに電流が流れることを回避できる。
【0098】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
先の
図6に示したように、インピーダンス周波数特性において、LC直列共振回路のLC共振によりピークが出現する。
図6に示す例では、5kHz~10kHz付近にピークが出現する。なお、
図6は、3ポートの電力変換装置のインピーダンス周波数特性であるが、ポート数が増えると、出現するピーク数も増える。
【0100】
励磁インダクタンスの推定処理におけるテスト電圧Vtestが矩形波電圧の場合、その矩形波には高調波成分が含まれる。その結果、高調波成分の周波数がLC共振の共振周波数又はその付近の周波数となり、共振電流が流れてしまう。この場合、励磁インダクタンスの推定精度が低下したり、トランスのコイル等に過電流が流れたりする懸念がある。
【0101】
そこで、制御装置110は、
図12の上段に示すように、推定処理において、第1,第2閉ループ回路の共振周波数よりも高いスイッチング周波数(例えば100kHz)でフルブリッジ回路のスイッチング制御を行うことにより、フルブリッジ回路からテスト電圧Vtestを出力する。詳しくは、制御装置110は、三角波であるキャリア信号SgCと、正弦波状の変調波SgMとの大小比較に基づくPWM処理により、フルブリッジ回路のスイッチング制御を行う。変調波SgMは、共振周波数よりも低い周波数(例えば1kHz)を有する信号であり、キャリア信号SgCは、第1,第2閉ループ回路の共振周波数よりも高いスイッチング周波数を有する信号である。これにより、テスト電圧Vtestに含まれる高調波成分の周波数が、共振周波数又はその付近の周波数となることを回避し、共振電流の流通を回避する。なお、
図12のTvtは、テスト電圧Vtestの基本波成分の1周期を示す。
【0102】
第1トランス60の励磁インダクタンスの推定処理を例に説明すると、上記PWM処理が行われる場合、
図13に示すように、第1電流センサ13により検出される電流I1は、高周波リプルを含むものとなる。一方、第1トランス60の第1コイル61に流れる電流ILは、第1電流センサ13により検出された電流I1の波形とは大きくことなるものとなる。
【0103】
そこで、制御装置110は、キャリア信号SgCが最小値となるタイミング、又はキャリア信号が最大値となるタイミングを、第1電流センサ13による電流サンプリングタイミングとする。これにより、励磁インダクタンスの推定に用いられる第1電流センサ13の検出値Itestは、第1コイル61に流れる電流ILに近い値となる。その結果、励磁インダクタンスの推定精度の低下を抑制できる。
【0104】
図14に、キャリア信号SgCが最小値となるタイミングtaを電流サンプリングとする例を示し、
図15に、キャリア信号SgCが最大値となるタイミングtbを電流サンプリングとする例を示す。
図14及び
図15には、テスト電圧Vtest、第1トランス60の第1コイル61に流れる電流IL、第1電流センサ13により検出された電流Itest、キャリア信号SgC及び変調波SgMの推移を示す。
【0105】
以上説明した電流サンプリングタイミングによれば、電流リプルを含む第1コイル61に流れる電流ILの中央値付近の値を検出できる。これにより、励磁インダクタンスの推定精度の低下を抑制することができる。
【0106】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。電力変換装置100のポート数は、3つに限らず、
図16に示すように4つであってもよい。なお、
図16では、便宜上、制御装置110等の図示を省略している。
【0107】
電力変換装置100は、第4外部端子として、第4高電位側端子CH4及び第4低電位側端子CL4を備えている。また、電力変換装置100は、第4フルブリッジ回路40及び第4コンデンサ41を備えている。第4フルブリッジ回路40は、第1D~第4DスイッチQD1~QD4を備えている。本実施形態において、第1D~第4DスイッチQD1~QD4は、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを有している。本実施形態において、第4フルブリッジ回路40の構成は、第1フルブリッジ回路10の構成と同様であるため、第4フルブリッジ回路40の詳細な説明を省略する。
【0108】
なお、本実施形態では、第2共振キャパシタ64が第2トランス70の第1コイル71に直列接続されている。
【0109】
電力変換装置100は、第3フルブリッジ回路30と第4フルブリッジ回路40との間の電力伝達を行うための構成として、第3トランス80と、第3共振キャパシタ65とを備えている。第3トランス80は、第1コイル81と、第2コイル82と、第1コイル81及び第2コイル82が巻回されたコアとを備えている。第1コイル81及び第2コイル82は、コアを介して磁気結合する。
【0110】
第1コイル81の第1端には、第3共振キャパシタ65を介して第3A交流端子CA3が接続されている。第1コイル81の第2端には、第3B交流端子CB3が接続されている。第2コイル82の第1端には、第4フルブリッジ回路40の第4A交流端子CA4が接続されている。第2コイル82の第2端には、第4フルブリッジ回路40の第4B交流端子CB4が接続されている。なお、
図16には、第1,第2コイル81,82の漏れインダクタンス81a,82aも合わせて示す。
【0111】
電力変換装置100は、第4電圧センサ42及び第4電流センサ43を備えている。第4電圧センサ42は、第4キャパシタ41の電圧を検出する。第4電流センサ43は、第4フルブリッジ回路40と第4低電位側端子CL4との間を流れる電流を検出する。第4電圧センサ42の検出値Vdc4及び第4電流センサ43の検出値I4は、制御装置110に入力される。
【0112】
なお、
図17に示すように、電力変換装置100のポート数は5つ以上であってもよい。この場合、電力変換装置100は、少なくとも、第1コイル91及び第2コイル92を有する第4トランス90と、第4共振キャパシタ66とを備えていればよい。なお、
図17には、第1,第2コイル91,92の漏れインダクタンス91a,92aも合わせて示す。
【0113】
また、
図17に示した構成を
図18のように変更することもできる。電力変換装置100は、第1モジュール18、第2モジュール28、第3モジュール38及び第4モジュール48を備えている。第1モジュール18は、第1フルブリッジ回路10と、第1キャパシタ11と、第1トランス60の第1コイル61及びコアの一部と、第1電圧センサ12と、第1電流センサ13とが第1筐体に収容されてモジュール化された機器である。第2モジュール28は、第2フルブリッジ回路20と、第2キャパシタ21と、第1トランス60の第2コイル62及びコアの一部と、第2トランス70の第1コイル71及びコアの一部と、第2共振キャパシタ64と、第2電圧センサ22と、第2電流センサ23とが第2筐体に収容されてモジュール化された機器である。
【0114】
第1モジュール18の第1筐体のうち第2モジュール28の第2筐体との当接面からは、第1トランス60の第1コイル61が巻回されたコアの一部が露出している。また、第2モジュール28の第2筐体のうち第1モジュール18の第1筐体との当接面からは、第1トランス60の第2コイル62が巻回されたコアの一部が露出している。第1筐体の当接面と第2筐体の当接面とが当接して第1,第2筐体が一体化されることにより、第1トランス60の第1コイル61が巻回されたコアの一部と、第1トランス60の第2コイル62が巻回されたコアの一部とが当接する。これにより、第1トランス60において第1コイル61と第2コイル62とが磁気結合する。
【0115】
第3モジュール38は、第3フルブリッジ回路30と、第3キャパシタ31と、第2トランス70の第2コイル72及びコアの一部と、第3トランス80の第1コイル81及びコアの一部と、第3共振キャパシタ65と、第3電圧センサ32と、第3電流センサ33とが第3筐体に収容されてモジュール化された機器である。
【0116】
第2モジュール28の第2筐体のうち第3モジュール38の第3筐体との当接面からは、第2トランス70の第1コイル71が巻回されたコアの一部が露出している。また、第3モジュール38の第3筐体のうち第2モジュール28の第2筐体との当接面からは、第2トランス70の第2コイル72が巻回されたコアの一部が露出している。第2筐体の当接面と第3筐体の当接面とが当接して第2,第3筐体が一体化されることにより、第2トランス70の第1コイル71が巻回されたコアの一部と、第2トランス70の第2コイル72が巻回されたコアの一部とが当接する。これにより、第2トランス70において第1コイル71と第2コイル72とが磁気結合する。
【0117】
第4モジュール48は、第4フルブリッジ回路40と、第4キャパシタ41と、第3トランス80の第2コイル82及びコアの一部と、第4トランス90の第1コイル91及びコアの一部と、第4共振キャパシタ66と、第4電圧センサ42と、第4電流センサ43とが第4筐体に収容されてモジュール化された機器である。
【0118】
第3モジュール38の第3筐体のうち第4モジュール48の第4筐体との当接面からは、第3トランス80の第1コイル81が巻回されたコアの一部が露出している。また、第4モジュール48の第4筐体のうち第3モジュール38の第3筐体との当接面からは、第3トランス80の第2コイル82が巻回されたコアの一部が露出している。第3筐体の当接面と第4筐体の当接面とが当接して第3,第4筐体が一体化されることにより、第3トランス80の第1コイル81が巻回されたコアの一部と、第3トランス80の第2コイル82が巻回されたコアの一部とが当接する。これにより、第3トランス80において第1コイル81と第2コイル82とが磁気結合する。
【0119】
図18に示す構成によれば、ユーザが望むポート数等に応じた電力変換装置100を実現することができる。なお、
図18に示す構成において、各モジュール18,28,38,48のうちいずれかのモジュールが、トランスの励磁インダクタンスの推定順序等を決めるマスターモジュールとされることが望ましい。
【0120】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0121】
・
図19に示すように、電力変換装置200のポート数が2つであってもよい。この場合であっても、第1フルブリッジ回路10から出力するテスト電圧Vtestの基本波成分の周波数が基準周波数fαよりも低い周波数に設定されることにより、励磁インダクタンスの推定精度の低下を抑制できる。なお、
図19に示す構成において、第1コイル71が「第2インダクタンス要素」に相当する。
【0122】
・フルブリッジ回路が有するスイッチは、NチャネルMOSFETに限らず、例えば、フリーホイールダイオードが逆並列接続されたIGBTであってもよい。この場合、スイッチの高電位側端子がコレクタであり、スイッチの低電位側端子がエミッタである。
【0123】
・
図20に示すように、電力変換装置300のポート数が2つであってもよい。
【0124】
・
図21に示すように、推定対象のトランスのコイルにのみ電流が流れるように、電力変換装置400は、リレーSR1,SR2を備えていてもよい。
【0125】
・上記各実施形態の推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数が、基準周波数fαよりも高周波側に設定されていてもよい。
【0126】
・
図22に示すように、電力変換装置500は、各コイル61,62,71,72に流れる電流を個別に検出する電流センサCT1,CT2,CT3,CT4を備えていてもよい。この場合、推定処理において、テスト電圧Vtestの基本波成分の周波数が、基準周波数fαよりも高周波数に設定されていてもよい。
【0127】
・ブリッジ回路としては、フルブリッジ回路に限らず、極性が交互に反転する電圧(例えば交流電圧)をトランスのコイルに出力可能なものであれば、他のブリッジ回路であってもよい。
【0128】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0129】
10,20,30…第1,第2,第3フルブリッジ回路、60…第1トランス、63…第1共振キャパシタ、64…第2共振キャパシタ、70…第2トランス、100…電力変換装置。