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特開2024-92839アクリル重合体のエマルションの製造方法、アクリル重合体のエマルション、表面処理剤および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092839
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】アクリル重合体のエマルションの製造方法、アクリル重合体のエマルション、表面処理剤および物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 5/02 20060101AFI20240701BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C09D5/02
C09D133/00
C09D133/14
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209029
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 宏一
(72)【発明者】
【氏名】松井 徳純
(72)【発明者】
【氏名】椎名 茉友
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB001
4J038CE021
4J038CG001
4J038CG002
4J038DD001
4J038DG001
4J038JB18
4J038JB20
4J038KA05
4J038KA09
4J038LA02
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】抗菌性の持続性と良好な耐食性を有する皮膜を形成可能な樹脂のエマルションの製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリル重合体のエマルションの製造方法であって、エチレン性不飽和モノマーと、乳化剤と、ラジカル重合開始剤と、水とを準備する工程A;および各成分を加熱して、エチレン性不飽和モノマーを重合させる工程B、を含み、エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含み、乳化剤は、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含み、ビグアナイド化合物は、分子内にビグアナイド構造を2以上有し、ビグアナイド化合物およびその塩の合計質量Bに対するエチレン性不飽和モノマーの合計質量Mの比(M/B)が、1.5~9である、アクリル重合体のエマルションの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体のエマルションの製造方法であって、
エチレン性不飽和モノマーと、乳化剤と、ラジカル重合開始剤と、水とを準備する工程A;および
前記エチレン性不飽和モノマー、前記乳化剤、前記ラジカル重合開始剤および前記水を加熱して、前記エチレン性不飽和モノマーを重合させる工程B、
を含み、
前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含み、
前記乳化剤は、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含み、
前記ビグアナイド化合物は、分子内に以下のビグアナイド構造:
【化1】
を2以上有し、
前記ビグアナイド化合物およびその塩の合計質量Bに対する前記エチレン性不飽和モノマーの合計質量Mの比(M/B)が、1.5~9である、アクリル重合体のエマルションの製造方法。
【請求項2】
前記ビグアナイド化合物の塩が、下記式(1)で示される構造を有するポリヘキサメチレンビグアナイドと、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、硫酸および重硫酸からなる群より選択される少なくとも一種との塩である、請求項1に記載の製造方法。
【化2】
(式中、nは、3~40の整数である)
【請求項3】
前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、下記式(2)で示される構造を有する、請求項1に記載の製造方法。
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはCHであり、mは2または3であり、nは、1~150の整数である。)
【請求項4】
前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、式(2)で示され、かつ、n=4~150である構造を有し、
当該アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの含有量が、前記エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、2~30質量部である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法で合成されたアクリル重合体のエマルション。
【請求項6】
請求項5に記載のアクリル重合体のエマルションを含む、表面処理剤。
【請求項7】
請求項6に記載の表面処理剤を用いた皮膜を含む、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル重合体のエマルションの製造方法、アクリル重合体のエマルション、表面処理剤および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基材表面に耐食性、親水性等の機能を付与する目的で表面処理コーティングが施される。
【0003】
これまで表面処理剤に樹脂エマルションが配合される場合、アニオン性やノニオン性のエマルションが使用されることがほとんどであった。例えば、アクリル系エマルションの場合には、アニオン性乳化剤またはノニオン性乳化剤を使用して乳化重合して得られるアクリル樹脂エマルションが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-207107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らが検討したところ、従来の樹脂エマルションを表面処理剤に用いて金属基材表面をコーティングした場合、耐食性と抗菌性を両立させることは難しかった。特に、時間の経過によって抗菌性が低下する場合があることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、抗菌性の持続性と、良好な耐食性を有する皮膜を形成可能な表面処理剤に用い得る樹脂エマルションの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアクリル重合体のエマルションの製造方法は、
エチレン性不飽和モノマーと、乳化剤と、ラジカル重合開始剤と、水とを準備する工程A;および
前記エチレン性不飽和モノマー、前記乳化剤、前記ラジカル重合開始剤および前記水を加熱して、前記エチレン性不飽和モノマーを重合させる工程B、
を含み、
前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含み、
前記乳化剤は、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含み、
前記ビグアナイド化合物は、分子内に以下のビグアナイド構造:
【化1】
を2以上有し、
前記ビグアナイド化合物およびその塩の合計質量Bに対する前記エチレン性不飽和モノマーの合計質量Mの比(M/B)が、1.5~9である、アクリル重合体のエマルションの製造方法である。これにより、抗菌性の持続性と良好な耐食性を有する皮膜を形成可能である。
【0008】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記ビグアナイド化合物の塩が、下記式(1)で示される構造を有するポリヘキサメチレンビグアナイドと、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、硫酸および重硫酸からなる群より選択される少なくとも一種との塩である。
【化2】
(式中、nは、3~40の整数である)
【0009】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、下記式(2)で示される構造を有する。
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはCHであり、mは2または3であり、nは、1~150の整数である。)
【0010】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、式(2)で示され、かつ、n=4~150である構造を有し、
当該アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの含有量が、前記エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、2~30質量部である。
【0011】
本発明に係るアクリル重合体のエマルションは、上記いずれかの製造方法で合成されたアクリル重合体のエマルションである。
【0012】
本発明に係る表面処理剤は、上記アクリル重合体のエマルションを含む、表面処理剤である。
【0013】
本発明に係る物品は、上記表面処理剤を用いた皮膜を含む、物品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗菌性の持続性と良好な耐食性を有する皮膜を形成可能な樹脂のエマルションの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0016】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0017】
本発明において、用語「固形分」は、固形分、不揮発分および有効成分を包括する概念である。
【0018】
本明細書において、第1、第2、工程A、工程Bなどの符号は、ある要素、材料、工程などを他の要素、材料、工程などと区別するために使用しており、その要素または材料の多少および工程の順序を限定することを意図するものではない。
【0019】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、20~30質量部は、20質量部以上30質量部以下の範囲を意味する。
【0020】
本明細書では、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上」を意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、「アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選択される1種以上」を意味する。
【0021】
本発明において、「アクリル重合体」は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含むエチレン性不飽和モノマーの重合体を意味する。
【0022】
本明細書では、アクリル重合体のエマルションを単に「アクリル重合体エマルション」ということがある。
【0023】
アクリル重合体のエマルションの製造方法
本発明に係るアクリル重合体のエマルションの製造方法は、
エチレン性不飽和モノマーと、乳化剤と、ラジカル重合開始剤と、水とを準備する工程A;および
前記エチレン性不飽和モノマー、前記乳化剤、前記ラジカル重合開始剤および前記水を加熱して、前記エチレン性不飽和モノマーを重合させる工程B、
を含み、
前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含み、
前記乳化剤は、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含み、
前記ビグアナイド化合物は、分子内に以下のビグアナイド構造:
【化4】
を2以上有し、
前記ビグアナイド化合物およびその塩の合計質量Bに対する前記エチレン性不飽和モノマーの合計質量Mの比(M/B)が、1.5~9である、アクリル重合体のエマルションの製造方法である。
【0024】
以下、本発明に係るアクリル重合体のエマルションの製造方法の各工程について説明する。
【0025】
・工程A
工程Aでは、エチレン性不飽和モノマーと、乳化剤と、ラジカル重合開始剤と、水とを準備する。
【0026】
エチレン性不飽和モノマー
エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種以上を含む。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、公知の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、N,N,N-トリメチル-N-(2-メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0028】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、CH=C(R)C(O)O(オキシアルキレン)-Rで示される構造を有するものも挙げられる。この式中、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはCHであり、nは、1~150の整数である。この式中のオキシアルキレンとしては、例えば、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドなどが挙げられる。オキシアルキレン鎖は、すべてプロピレンオキサイドであってよく、すべてエチレンオキサイドであってよく、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドが混在していてよい。
【0029】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、下記式(2)で示される構造を有する。
【化5】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立してHまたはCHであり、mは2または3であり、nは、1~150の整数である。)
【0030】
一実施形態では、式(2)中、RおよびRは、Hである。別の実施形態では、式(2)中、RおよびRは、CHである。さらに別の実施形態では、式(2)中、Rは、CHであり、Rは、Hである。さらに別の実施形態では、式(2)中、Rは、Hであり、Rは、CHである。
【0031】
式(2)中、mは2または3である。一分子中において、すべてm=2であってよく、すべてm=3であってよく、m=2とm=3が混在していてよい。
【0032】
一実施形態では、式(2)中、nは、1以上、4以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、110以上、120以上、130以上または140以上である。別の実施形態では、式(2)中、nは、150以下、140以下、130以下、120以下、110以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下または10以下である。
【0033】
エチレン性不飽和モノマーは、上述したアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸以外の公知のエチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。このようなエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;スチレン、ジビニルベンゼン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン;アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N―メチロールメタクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩;N,N’-メチレンビスアクリルアミド;2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0034】
一実施形態では、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、アクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸グリシジルからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルは、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルおよびメタクリル酸グリシジルからなる群より選択される1種以上である。
【0035】
エチレン性不飽和モノマーにおける、(メタ)アクリル酸エステルの量は、特に限定されず、適宜調節すればよいが、例えば、エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、30~100質量部である。
【0036】
エチレン性不飽和モノマーにおける、式(2)で示される構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの量は、例えば、エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、2~30質量部である。一実施形態では、式(2)で示される構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの量は、エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、2質量部以上、5質量部以上、8質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上または25質量部以上である。別の実施形態では、式(2)で示される構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの量は、エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、30質量部以下、25質量部以下、22質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、8質量部以下または5質量部以下である。
【0037】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが、式(2)で示され、かつ、n=4~150である構造を有し、
当該アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの含有量が、前記エチレン性不飽和モノマー100質量部に対して、2~30質量部である。
【0038】
乳化剤
乳化剤は、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含み、ビグアナイド化合物は、分子内に上述したビグアナイド構造を2以上有する。
【0039】
乳化剤として、ビグアナイド化合物の塩を用いた本発明の製造方法により得られたアクリル重合体エマルションには乳化剤由来のビグアナイド化合物の塩が含まれるため、本発明の製造方法により得られたアクリル重合体エマルションを用いた表面処理剤は、抗菌剤またはインヒビターを別途配合しなくても処理皮膜の耐食性(防錆性)、抗菌性および抗ウイルス性が良好である。
【0040】
また、従来のアニオン乳化剤またはノニオン乳化剤を使用して乳化重合して得られたアクリル重合体エマルションに、本発明で使用する量と同等のビグアナイド化合物またはその塩を添加した場合、アクリル重合体が凝集してしまい、表面処理による皮膜を形成することができない。一方、従来のアニオン乳化剤またはノニオン乳化剤を使用して乳化重合して得られたアクリル重合体エマルションに、アクリル重合体が凝集しない程度の量のビグアナイド化合物またはその塩を添加した場合は、皮膜の耐食性と、抗菌性の持続性を高めることができない。
【0041】
ビグアナイド化合物としては、特に限定されず、公知のビグアナイド化合物を用いることができる。ビグアナイド化合物としては、例えば、1-p-トリルビグアナイド、1-о-トリルビグアナイド、ポリヘキサメチレンビグアナイド、ポリヘキサエチレンビグアナイド、ポリペンタメチレンビグアナイド、ポリペンタエチレンビグアナイド、ポリビニルビグアナイド、ポリアリルビグアナイドなどが挙げられる。
【0042】
一実施形態では、ビグアナイド化合物は、式(1)で示される構造を有するポリヘキサメチレンビグアナイド(以下、「PHMB」ということがある。)である。
【化6】
式中、nは、3~40の整数である。
【0043】
ビグアナイド化合物の塩としては、特に限定されず、例えば、ビグアナイド化合物と、公知の酸との塩を用いることができる。塩を形成する酸としては、例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、硫酸、重硫酸などが挙げられる。一実施形態では、ビグアナイド化合物の塩は、ビグアナイド化合物と、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、硫酸および重硫酸からなる群より選択される少なくとも一種との塩である。
【0044】
また、ビグアナイド化合物の塩としては、例えば、PHMBの塩化水素酸塩、PHMBのメタンスルホン酸塩などが挙げられる。PHMBの塩化水素酸塩とは、式(1)の構造を有するビグアナイド化合物と塩化水素酸との塩である。PHMBのメタンスルホン酸塩は、式(1)の構造を有するビグアナイド化合物とメタンスルホン酸との塩である。
【0045】
一実施形態では、乳化剤は、ビグアナイド化合物の塩を含む。別の実施形態では、乳化剤は、ビグアナイド化合物の塩である。
【0046】
本発明の製造方法では、ビグアナイド化合物およびその塩の合計質量Bに対する、エチレン性不飽和モノマーの合計質量Mの比(M/B)が、1.5~9である。この比が1.5未満では、得られたアクリル重合体エマルションの皮膜の耐水性と抗ウイルス性が高まらず、良好な耐食性も得られない。また、比が9を超える場合、得られたエマルション中でアクリル重合体が凝集してしまう。一実施形態では、比(M/B)は、1.5以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上、5.0以上、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上、7.5以上、8.0以上または8.5以上である。別の実施形態では、比(M/B)は、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下または2.0以下である。皮膜の耐食性が良好となることから、M/Bは6.0以下であることが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法では、乳化剤として、ビグアナイド化合物およびその塩以外の化合物を含有することができる。乳化剤としてビグアナイド化合物およびその塩と併用できる化合物としては、第四級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルキルグリセリルエーテル、アルキルアルカノールアミド、アルキルポリグルコシド等のノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0048】
ラジカル重合開始剤
ラジカル重合開始剤は、特に限定されず、乳化重合で用いられる公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどなどが挙げられる。また、レドックス系開始剤を用いてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤との組合せが挙げられる。この他、例えば、特開2020-105426号公報に記載のラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0049】
ラジカル重合開始剤の使用量は、適宜調節すればよく、例えば、エチレン性不飽和モノマーに対して、0.1~5質量部である。
【0050】

水は、特に限定されず、公知の水を用いることができる。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、水道水、純水などが挙げられる。安定性の高いアクリル重合体のエマルションが得られやすいことから、水は、電導度が1μS/cm以下のものであることが好ましい。
【0051】
その他の成分
本発明の製造方法では、その他の成分として、有機溶剤、pH調整剤などを用いてもよい。
【0052】
・工程B
工程Bでは、エチレン性不飽和モノマー、乳化剤、ラジカル重合開始剤および水を加熱して、エチレン性不飽和モノマーを重合させる。
【0053】
工程Bでは、ビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種以上を含む乳化剤を用いること以外は、従来公知の乳化重合法によって、エチレン性不飽和モノマーを重合させればよい。
【0054】
アクリル重合体のエマルション
本発明に係るアクリル重合体のエマルションは、上記いずれかの製造方法で合成されたアクリル重合体のエマルションである。
【0055】
本発明の製造方法によって得られたエマルションが含むアクリル重合体は、例えば、重量平均分子量(Mw)が50,000~1,000,000である。一実施形態では、エマルションが含むアクリル重合体のMwは、50,000以上、100,000以上、200,000以上、300,000以上、400,000以上、500,000以上、600,000以上、700,000以上、800,000以上または900,000以上である。別の実施形態では、エマルションが含むアクリル重合体のMwは、1,000,000以下、900,000以下、800,000以下、700,000以下、600,000以下、500,000以下、400,000以下、300,000以下、200,000以下または100,000以下である。
【0056】
アクリル重合体エマルションの用途は、特に限定されず、例えば、金属基材の表面処理剤などが挙げられる。金属基材は、特に限定されず、例えば、アルミニウム板、亜鉛系めっき鋼板、ステンレス鋼板などが挙げられる。亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛・アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金めっき鋼板などが挙げられる。
【0057】
表面処理剤
本発明に係る表面処理剤は、上記アクリル重合体のエマルションを含む。
【0058】
本発明に係る表面処理剤は、上記アクリル重合体エマルションに加えて、公知の表面処理剤で用いられる成分を含んでいてもよい。表面処理剤は、例えば、アクリル重合体エマルションに加えて、有機水性樹脂、架橋剤、シリカ等の無機微粒子、キレート剤、界面活性剤、増粘剤、有機溶剤などを含んでいてもよい。
【0059】
有機水性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ビニル樹脂などの水溶液あるいは水性分散体が挙げられる。
【0060】
ビニル樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシル基変性PVA;ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体;α-オレフィン(例えば、イソブチレン、エチレン)と、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸)との共重合体、その共重合体の誘導体の水溶化物などが挙げられる。
【0061】
表面処理剤に有機水性樹脂を用いる場合、有機水性樹脂の量は適宜調節すればよい。有機水性樹脂の量は、例えば、本発明のアクリルエマルション樹脂の固形分1質量部に対して、0.1~50質量部である。
【0062】
有機溶剤としては、アルコール系、ケトン系、エステル系、グリコールエーテル系などが挙げられる。
【0063】
物品
本発明に係る物品は、上記表面処理剤を用いた皮膜を含む。
【0064】
物品、すなわち、被塗物は、特に限定されず、適宜選択することができる。被塗物は、例えば、上述した金属基材などが挙げられる。
【0065】
皮膜の形成方法は、特に限定されず、公知の皮膜形成方法を用いることができる。例えば、表面処理剤を被塗物に塗布し、被塗物を加熱して皮膜を形成してもよいし、予め加熱した被塗物に表面処理剤を塗布して、被塗物の熱によって皮膜を形成してもよい。
【0066】
表面処理剤の塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができる。塗布方法としては、例えば、ロールコート、シャワーコート、スプレー、浸漬、刷毛塗りなどが挙げられる。
【0067】
表面処理剤の加熱または乾燥温度は、特に限定されず、例えば、50~250℃である。
【0068】
表面処理剤の加熱または乾燥時間は、特に限定されず、例えば、5秒~1時間である。
【0069】
皮膜の膜厚は、特に限定されず、適宜調節すればよい。皮膜の膜厚は、例えば、0.1~10μmである。
【実施例0070】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0071】
実施例で使用したエチレン性不飽和モノマーは以下のとおりである。
メタクリル酸メチル:東京化成工業社製
アクリル酸ブチル:東京化成工業社製
メタクリル酸ブチル:東京化成工業社製
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル:東京化成工業社製
メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール:日油社製、式(2)において、RおよびRがCHであり、mが2であり、nが約90である。
メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル:信越化学社製
メタクリル酸グリシジル:富士フイルム和光純薬社製
アクリル酸:富士フイルム和光純薬社製
スチレン:富士フイルム和光純薬社製
アクリロニトリル:東京化成工業社製
【0072】
実施例で使用したビグアナイド化合物の塩は以下のとおりである。
PHMBの塩化水素酸塩:Lonza社製、式(1)のビグアナイド化合物(nが約10)と塩化水素酸との塩、商品名「プロキセル IB」
PHMBメタンスルホン酸塩:上記プロキセルIBをイオン交換しメタンスルホン酸との塩としたもの
【0073】
実施例で使用したその他の成分は以下のとおりである。
ラジカル重合開始剤:過硫酸アンモニウム、富士フイルム和光純薬社製
ノニオン界面活性剤1:花王社製、商品名「エマルゲン150」
ノニオン界面活性剤2:ADEKA社製、商品名「アデカノールB-722」(ポリオキシアルキレンエーテル)
ポリビニルアルコール:クラレ社製、商品名「クラレポバール25-100」
【0074】
実施例で使用した装置と材料は以下のとおりである。
粒子径測定装置:大塚電子社製、商品名「粒径アナライザー FPAR-1000」
pHメーター:東亜ディーケーケー社製、商品名「HM-42X」
アルミニウム試験片:A1100
脱脂剤:日本ペイント・サーフケミカルズ社製、商品名「サーフクリーナー EC371」
塩水噴霧試験機:スガ試験機社製、型式;ST-11L
【0075】
実施例1
撹拌機、窒素導入管、ジムロートコンデンサーおよび2本の滴下漏斗を備えたセパラブルフラスコと水浴を準備した。セパラブルフラスコ、第1の滴下漏斗および第2の滴下漏斗にそれぞれ、以下の成分を準備した。
セパラブルフラスコ:表1に示す量のビグアナイド化合物塩を脱イオン水で最終的な有効濃度を12%程度とした。
第1の滴下漏斗:表1に示す種類と量のエチレン性不飽和モノマーを混合して仕込んだ。
第2の滴下漏斗:第1の滴下漏斗中のエチレン性不飽和モノマーに対して2質量%の過硫酸アンモニウムを、脱イオン水300質量部に溶解して、仕込んだ。
【0076】
窒素ガスを流しながら撹拌下、セパラブルフラスコを80℃まで加熱した。第1および第2の滴下漏斗から同時に滴下を開始し、両者を2時間かけて均等に滴下した。その後、2時間、セパラブルフラスコを80℃に保持して重合反応を行い、アクリル重合体エマルションを得た。
【0077】
実施例2~11および比較例1~2
エチレン性不飽和モノマーおよびビグアナイド化合物塩を表1に示す種類と量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして重合反応を行い、アクリル重合体エマルションを得た。
【0078】
比較例3
特許文献1の実施例1(アニオン乳化剤を使用)を行い、アクリル重合体エマルションを得た。
【0079】
・ろ過性の評価
得られたアクリル重合体エマルションを200メッシュの網でろ過し、以下の基準でろ過性を評価した。
A:エマルションのろ過が容易だった
B:ろ過によって残渣が生じた
C:エマルションを殆どろ過できなかった
【0080】
・加熱残分の測定
実施例1~11、比較例1および比較例3のろ過したエマルションの約2.5gを秤量した。そのエマルションを150℃のオーブンで1時間加熱して、皮膜を形成した。加熱後の皮膜の質量を測定した。そして、加熱前のエマルションの質量に対する、加熱後の皮膜の質量割合を算出した。その結果を表1に併せて示す。比較例2ではエマルションを殆どろ過できなかったため、加熱残分、平均粒子径およびpHの測定ならびに皮膜耐水性および抗ウイルス性の評価を行わなかった。
【0081】
・皮膜耐水性の評価
加熱残分の測定で得られた皮膜に水滴を滴下した。指で皮膜上の水滴をラビングして皮膜の状態を観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1に併せて示す。
A:皮膜の損傷または皮膜の溶解がなく、皮膜に粘着性は認められない
B:皮膜の一部が損傷または溶解し、皮膜に粘着性が認められる
C:皮膜の粘着性が著しく、皮膜の損傷または溶解が明確に分かる
【0082】
・平均粒子径の測定
ろ過して得られたエマルションを脱イオン水で稀釈した。その希釈したエマルションの平均粒子径を粒子径測定装置で測定した。その結果を表1に併せて示す。
【0083】
・pHの測定
ろ過して得られたエマルションのpHをpHメーターで測定した。その結果を表1に併せて示す。
【0084】
・抗ウイルス性の評価
ガラス板を研磨して清浄化して試験板を得た。また、実施例1~11、比較例1および比較例3の各エマルションをアクリル重合体が5質量%濃度となるようにイオン交換水で希釈した。そして、そのエマルションの希釈液に試験板を浸漬した。次いで、浸漬後の試験板をオーブン中で160℃で10分間乾燥させ、表面に皮膜を形成した試験板を得た。その試験板について、JIS R 1756(バクテリオファージQβ)に記載の方法に従い、抗ウイルス活性値を測定した。上記JIS規格に記載の試験は、可視光応答光触媒の抗ウイルス性試験であるが評価対象の表面の抗ウイルス性を評価するため、可視光応答光触媒を含まず光照射を行わない場合であっても、評価対象の表面の抗ウイルス性評価に適用可能である。そして、ここでは、皮膜表面におけるビグアナイド化合物の塩の存在の有無によって、抗ウイルス性の発現が左右されると推測される。したがって、上記JIS規格に記載の試験はここでの皮膜の抗ウイルス性の評価に適用可能である。以下の基準で皮膜の抗ウイルス性を評価した。その結果を表1に併せて示す。
A:抗ウイルス活性値が4以上
B:抗ウイルス活性値が2以上4未満
C:抗ウイルス活性値が2未満
【0085】
【表1】
【0086】
実施例12
表2に示す配合でポリビニルアルコール、実施例1で製造したアクリル重合体エマルションおよびノニオン界面活性剤を混合し、表面処理剤におけるこれら成分の固形分質量の合計が4質量%となるように脱イオン水で希釈して表面処理剤を調製した。
【0087】
実施例13~22
実施例12において、アクリル重合体エマルションを表2に示す種類に変更したこと以外は、実施例12と同様に表面処理剤を調製した。
【0088】
比較例4
実施例12において、配合を表2に示すように変更したこと以外は、実施例12と同様に表面処理剤を調製した。
【0089】
比較例5
実施例14において、アクリル重合体エマルションを配合せず、表面処理剤の調製時に25.6質量部のPHMBのメタンスルホン酸塩を添加したこと以外は、実施例12と同様に表面処理剤を調製した。
【0090】
比較例6
実施例14において、配合を表2に示すように変更し、表面処理剤の調製時に6.4質量部のPHMBのメタンスルホン酸塩を添加したが、アクリル重合体が凝集した。そのため、後述する耐食性と抗菌性の評価を行わなかった。
【0091】
比較例7
実施例14において、配合を表2に示すように変更し、表面処理剤の調製時に0.5質量部のPHMBのメタンスルホン酸塩を添加したこと以外は、実施例12と同様に表面処理剤を調製した。
【0092】
・耐食性の評価
脱脂剤の1質量%水溶液を調製した。アルミニウム試験片を脱脂剤の水溶液に60℃で20秒間浸漬して脱脂した。脱イオン水で洗浄後オーブンに入れ40℃で15分間乾燥させた。次いで、その試験片を、表面処理剤に浸漬した。次いで、その試験片をオーブン中で160℃で10分間乾燥させ、乾燥皮膜を表面に有する試験片を得た。次いで、その試験片を用いてJIS Z 2371に準拠して塩水噴霧試験機を用いて塩水噴霧試験を行った。6時間後に試験片を取り出した。試験片の外観を目視で観察し、以下の基準で耐食性を評価した。評点3以上が合格である。その結果および耐食性評価に供した乾燥皮膜の単位面積当たりの皮膜質量を表2に併せて示す。
評価基準
4:外観に変化なし
3:黒変または白錆が少し確認される
2:黒変または白錆が全面的に確認される
1:全面に黒変または白錆、孔食も数点確認される
【0093】
・抗菌性の持続性の評価
各実施例および比較例で得られた表面処理剤をガラス板(5cm角、厚さ2mm)上に浸漬塗装した。その塗装したガラス板を乾燥炉で160℃10分間乾燥させて試験片を作成した。試験片上の皮膜量は、耐食性評価に供した皮膜量とほぼ同等であった。得られた試験片、および、試験片を十分量の純水に8時間浸漬した後の試験片を用いて、抗菌性試験を実施した。JIS Z 2801の抗菌性試験方法に準拠して、黄色ブドウ球菌および大腸菌を用い、生菌数1.4×10/mLで含む試験菌液を用いて評価試験を行った。試験片上の皮膜に対して試験菌液0.4mLを滴下して、皮膜表面にポリエチレンフィルムを被せて密着させ、温度35℃、相対湿度90%で24時間培養した。標準試料として、皮膜を有しないガラス板(5cm角、厚さ2mm)を用いた。標準試料および試験片の培養後の菌数を測定し、抗菌活性値Rを次式から算出した。式中、Uは、標準試料の培養後菌数の対数値であり、Aは、試験片の培養後菌数の対数値である。そして、以下の基準で抗菌性を評価した。その結果を表2に併せて示す。表2では、純水に浸漬していない試験片の結果を「浸水前」、純水に浸漬した試験片の結果を「浸水後」で示す。
R=U-A
A:2種の菌について抗菌活性値が2以上
B:一方の菌のみについて抗菌活性値が2以上
C:2種の菌について抗菌活性値が2未満
【0094】
【表2】
【0095】
本発明によれば、抗菌性の持続性と良好な耐食性を有する皮膜を形成可能な樹脂のエマルションの製造方法を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、抗菌性の持続性と良好な耐食性を有する皮膜を形成可能な樹脂のエマルションの製造方法を提供することができる。