(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092850
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】被覆超硬合金
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20240701BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240701BHJP
C04B 35/56 20060101ALI20240701BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20240701BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 A
C04B35/56 260
C22C1/051 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209045
(22)【出願日】2022-12-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月10日に講演概要集のウェブサイト掲載による公開 令和4年5月24日に一般社団法人粉体粉末冶金協会の2022年度春季大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼増 旭俊
(72)【発明者】
【氏名】大理 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】原 宏樹
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF21
3C046FF23
3C046FF24
3C046FF25
4K018AB02
4K018AB03
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA13
4K018BA20
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA22
4K018DA29
4K018DA32
4K018FA06
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を向上させた被覆超硬合金を提供する。
【解決手段】超硬合金からなる基体と、基体の表面に形成された被覆層と、を備える被覆超硬合金であって、超硬合金が硬質相と結合相とを含み、硬質相の含有割合は超硬合金に対し80.0体積%以上95.0体積%以下であり、結合相の含有割合は超硬合金に対し5.0体積%以上20.0体積%以下であり、硬質相はWCからなる第1硬質相を含み、結合相はCoとNiとFeとCr及びMoのうち1種以上とを含み、結合相はK1=(MCR+MMO)/M1で表されるK1の値が0以上0.15未満である第1領域と0.15以上0.30未満である第2領域と0.30以上である第3領域とからなり、第3領域の含有割合は結合相に対し10%以上40%以下であり、超硬合金の全体においてK2=mFE/Nで表されるK2の値が0.05以上0.35以下である、被覆超硬合金。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金からなる基体と、前記基体の表面に形成された被覆層と、を備える被覆超硬合金であって、
前記超硬合金が、硬質相と結合相とを含み、
前記硬質相の含有割合は、前記超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下であり、
前記硬質相は、WCからなる第1硬質相を含み、
前記結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上と、を含み、
前記結合相は、下記式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、
K1=(MCR+MMO)/M1 (1)
M1=MCR+MMO+MFE+MCO+MNI+MMN (2)
(式(1)及び式(2)中、MCRは、前記結合相における全元素に対するCr元素の原子比を示し、MMOは、前記結合相における全元素に対するMo元素の原子比を示し、MFEは、前記結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示し、MCOは、前記結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、前記結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MMNは、前記結合相における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
前記第3領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下であり、
前記超硬合金の全体において、下記式(3)で表されるK2の値が、0.05以上0.35以下である、
K2=mFE/N (3)
N=mCR+mMO+mFE+mCO+mNI+mMN (4)
(式(3)及び式(4)中、mFEは、前記超硬合金における全元素に対するFe元素の原子比を示し、mCRは、前記超硬合金における全元素に対するCr元素の原子比を示し、mMOは、前記超硬合金における全元素に対するMo元素の原子比を示し、mCOは、前記超硬合金における全元素に対するCo元素の原子比を示し、mNIは、前記超硬合金における全元素に対するNi元素の原子比を示し、mMNは、前記超硬合金における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
被覆超硬合金。
【請求項2】
前記結合相が、Mn元素をさらに含む、
請求項1に記載の被覆超硬合金。
【請求項3】
前記第3領域の全体において、前記式(1)で表されるK1の平均値が、0.35以上0.45以下である、請求項1又は2に記載の被覆超硬合金。
【請求項4】
前記第2領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、0%以上35%以下である、請求項1又は2に記載の被覆超硬合金。
【請求項5】
前記第1領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、45%以上90%未満である、請求項1又は2に記載の被覆超硬合金。
【請求項6】
前記結合相の全体において、下記式(5)で表されるK3の平均値をX、前記第1領域における前記K3の平均値をY、前記第3領域における前記K3の平均値をZ、としたとき、Z>X≧Yの関係を満たし、
K3=MFE/M2 (5)
M2=MCO+MNI+MFE (6)
(式(5)及び式(6)中、MCOは、前記結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、前記結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MFEは、前記結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示す。)
下記式(7)で表されるK4は0.01以上0.15以下である、
K4=Z-Y (7)
請求項1又は2に記載の被覆超硬合金。
【請求項7】
前記被覆層が、Ti、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含む単層又は積層であり、
前記被覆層全体の平均厚さは、2.0μm以上5.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆超硬合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆超硬合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機部品等に使用されるチタン合金、並びに発電機用のタービンブレードに使用されるニッケル基耐熱合金及びコバルト基耐熱合金のような難削材を、切削加工により加工する機会が増えている。ニッケル基耐熱合金及びコバルト基耐熱合金のような熱伝導率が低い難削材の切削加工においては、切削温度が高くなりやすい。そのような高温の加工においては、切削工具の刃先の強度が低下することにより欠損が生じるため、これまでの一般鋼の加工よりも工具寿命が極端に短くなる。そこで、そのような難削材の切削加工においても切削工具の長寿命を達成するために、切削工具の高温強度を高めることが要求されている。
【0003】
そのような要求に対し、近年、超硬合金を用いた切削工具が提案されている。例えば、特許文献1には、第1硬質相及び結合相を含む超硬合金であって、第1硬質相はWCからなり、結合相は、Co、Ni及びCrの3種の元素、又はCo、Ni、Cr及びMoの4種の元素から構成され、超硬合金中のCo、Ni、Cr及びMoの含有量について所定の条件を満たし、さらに、超硬合金中においてCr及びMoのリッチ粒子が占める面積の割合が1%未満になるようにすることで、超硬合金の耐熱性及び耐欠損性が向上することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、炭化タングステン基の硬質金属基材と被膜とからなる切削工具インサートにおいて、上記硬質金属が、固溶元素に加えて35~65wt%のFeと残部Niとからなるバインダー相とを有することで、機械加工において、Coバインダー相を有する当業界のインサートの従来状態と同様の良好な性能が得られる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/090280号
【特許文献2】特表2004-516948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、近年では結合相においてCr、Mo、又はFeを添加することが試みられているが、そのような結合相を有する超硬合金は、耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を全て優れたものとすることが困難である。例えば、Cr及びMoを多く含む領域の割合を単に小さくすると、Cr及びMoの添加による効果が十分に発揮されない傾向にあり、また、Feを含まない場合は、耐摩耗性及び耐塑性変形性が十分でない可能性がある等、その制御において更なる改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を向上させた被覆超硬合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究をした結果、超硬合金において、Co、Ni、Fe、Cr、Mo、及びMnの含有割合を所定の基準により制御することで、被覆超硬合金が耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
超硬合金からなる基体と、前記基体の表面に形成された被覆層と、を備える被覆超硬合金であって、
前記超硬合金が、硬質相と結合相とを含み、
前記硬質相の含有割合は、前記超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下であり、
前記硬質相は、WCからなる第1硬質相を含み、
前記結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上と、を含み、
前記結合相は、下記式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、
K1=(MCR+MMO)/M1 (1)
M1=MCR+MMO+MFE+MCO+MNI+MMN (2)
(式(1)及び式(2)中、MCRは、前記結合相における全元素に対するCr元素の原子比を示し、MMOは、前記結合相における全元素に対するMo元素の原子比を示し、MFEは、前記結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示し、MCOは、前記結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、前記結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MMNは、前記結合相における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
前記第3領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下であり、
前記超硬合金の全体において、下記式(3)で表されるK2の値が、0.05以上0.35以下である、
K2=mFE/N (3)
N=mCR+mMO+mFE+mCO+mNI+mMN (4)
(式(3)及び式(4)中、mFEは、前記超硬合金における全元素に対するFe元素の原子比を示し、mCRは、前記超硬合金における全元素に対するCr元素の原子比を示し、mMOは、前記超硬合金における全元素に対するMo元素の原子比を示し、mCOは、前記超硬合金における全元素に対するCo元素の原子比を示し、mNIは、前記超硬合金における全元素に対するNi元素の原子比を示し、mMNは、前記超硬合金における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
被覆超硬合金。
[2]
前記結合相が、Mn元素をさらに含む、
[1]に記載の被覆超硬合金。
[3]
前記第3領域の全体において、前記式(1)で表されるK1の平均値が、0.35以上0.45以下である、[1]又は[2]に記載の被覆超硬合金。
[4]
前記第2領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、0%以上35%以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の被覆超硬合金。
[5]
前記第1領域の含有割合は、前記結合相の全体100%に対して、45%以上90%未満である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の被覆超硬合金。
[6]
前記結合相の全体において、下記式(5)で表されるK3の平均値をX、前記第1領域における前記K3の平均値をY、前記第3領域における前記K3の平均値をZ、としたとき、Z>X≧Yの関係を満たし、
K3=MFE/M2 (5)
M2=MCO+MNI+MFE (6)
(式(5)及び式(6)中、MCOは、前記結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、前記結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MFEは、前記結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示す。)
下記式(7)で表されるK4は0.01以上0.15以下である、
K4=Z-Y (7)
[1]~[5]のいずれか1つに記載の被覆超硬合金。
[7]
前記被覆層が、Ti、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含む単層又は積層であり、
前記被覆層全体の平均厚さは、2.0μm以上5.0μm以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の被覆超硬合金。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐摩耗性、耐塑性変形性及び耐欠損性が向上した超硬合金及び被覆超硬合金を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[被覆超硬合金]
本実施形態の被覆超硬合金は、超硬合金からなる基体と、基体の表面に形成された被覆層と、を備える被覆超硬合金であって、
超硬合金が、硬質相と結合相とを含み、
硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であり、
結合相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下であり、
硬質相は、WCからなる第1硬質相を含み、
結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上と、を含み、
結合相は、下記式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、
K1=(MCR+MMO)/M1 (1)
M1=MCR+MMO+MFE+MCO+MNI+MMN (2)
(式(1)及び式(2)中、MCRは、結合相における全元素に対するCr元素の原子比を示し、MMOは、結合相における全元素に対するMo元素の原子比を示し、MFEは、結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示し、MCOは、結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MMNは、結合相における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
第3領域の含有割合(以下、「含有割合C」とも表記する。)は、結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下であり、
超硬合金の全体において、下記式(3)で表されるK2の値が、0.05以上0.35以下である。
K2=mFE/N (3)
N=mCR+mMO+mFE+mCO+mNI+mMN (4)
(式(3)及び式(4)中、mFEは、超硬合金における全元素に対するFe元素の原子比を示し、mCRは、超硬合金における全元素に対するCr元素の原子比を示し、mMOは、超硬合金における全元素に対するMo元素の原子比を示し、mCOは、超硬合金における全元素に対するCo元素の原子比を示し、mNIは、超硬合金における全元素に対するNi元素の原子比を示し、mMNは、超硬合金における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
【0013】
このような被覆超硬合金が、耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を向上させたものとなる要因は、詳細には明らかでないが、下記のように推定される。ただし、要因は下記に限定されない。
硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上であると、超硬合金の硬さが向上して耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、95.0体積%以下であると、結合相の割合が高くなり超硬合金の靭性が向上して耐欠損性が向上するとともに、超硬合金の焼結性が向上して耐摩耗性及び耐欠損性が向上する。
結合相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上であると、超硬合金の靭性が向上し耐欠損性が向上するとともに、超硬合金の焼結性が向上することで耐摩耗性及び耐欠損性が向上する。結合相の含有割合が超硬合金100体積%に対して、20.0体積%以下であると、硬質相の割合が高くなることで超硬合金の硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。
硬質相は、WCからなる第1硬質相を含むことにより、超硬合金の硬さが向上し耐摩耗性が向上する。
結合相が、Ni元素を含むことにより、Cr元素及びMo元素の炭化物の析出が抑制され、上記第3領域を形成することが容易になる。結合相が、Fe元素を含むことにより、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。結合相がCr元素及びMo元素の少なくとも1種を含むことにより、超硬合金の耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。
また、結合相の全体100%に対して、含有割合Cが10%以上であると、超硬合金の耐熱性が向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。結合相の全体100%に対して、含有割合Cが40%以下であると、超硬合金の靭性が向上し、耐欠損性が向上する。
超硬合金において、上記式(3)で表されるK2の値が0.05以上であると、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。また、K2の値が0.35以下であると、靭性が向上し、耐欠損性が向上する。
これらの効果が相俟って、本実施形態の被覆超硬合金は耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を向上させたものとなる。
なお、本実施形態においてK1及びK2は、それぞれ後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
[超硬合金]
超硬合金の全体において、下記式(3)で表されるK2の値は、0.05以上0.35以下である。K2の値が0.05以上であると、硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。また、K2の値が0.35以下であると、靭性が向上し、耐欠損性が向上する。同様の観点から、K2の値は、0.17以上0.30以下であることが好ましく、0.19以上0.25以下であることがより好ましい。
K2=mFE/N (3)
N=mCR+mMO+mFE+mCO+mNI+mMN (4)
(式(3)及び式(4)中、mFEは、超硬合金における全元素に対するFe元素の原子比を示し、mCRは、超硬合金における全元素に対するCr元素の原子比を示し、mMOは、超硬合金における全元素に対するMo元素の原子比を示し、mCOは、超硬合金における全元素に対するCo元素の原子比を示し、mNIは、超硬合金における全元素に対するNi元素の原子比を示し、mMNは、超硬合金における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
【0015】
上記式(4)で表されるN(以下、「合計原子比N」とも表記する。)に対するCr元素の原子比であるmCR/Nは、特に限定されないが、例えば、0.00以上0.25以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、mCR/Nが0.07以上0.23以下であると好ましく、0.10以上0.19以下であるとより好ましい。
【0016】
合計原子比Nに対するMo元素の原子比であるmMO/Nは、特に限定されないが、例えば、0.00以上0.25以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、mMO/Nが0.07以上0.19以下であると好ましく、0.09以上0.17以下であるとより好ましい。
【0017】
合計原子比Nに対するCo元素の原子比であるmCO/Nは、特に限定されないが、例えば、0.10以上0.50以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、mCO/Nが0.15以上0.46以下であると好ましく、0.26以上0.40以下であるとより好ましい。
【0018】
合計原子比Nに対するNi元素の原子比であるmNI/Nは、特に限定されないが、例えば、0.05以上0.35以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、mNI/Nが0.10以上0.30以下であると好ましく、0.14以上0.24以下であるとより好ましい。
【0019】
合計原子比Nに対するMn元素の原子比であるmMN/Nは、特に限定されないが、例えば、0.00以上0.10以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、mMN/Nが0.04以上0.09以下であると好ましく、0.04以上0.08以下であるとより好ましい。
【0020】
[結合相]
本実施形態の結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上、を含み、上記式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、上記第3領域の含有割合は、結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下である。
【0021】
本実施形態の結合相は、Mn元素をさらに含むと好ましい。結合相がMn元素を更に含むことにより、脱酸素効果が生じることで超硬合金の焼結性が向上する傾向にあり、耐摩耗性及び耐欠損性が向上する。
【0022】
上記第1領域の含有割合(以下、「含有割合A」とも表記する。)は、結合相の全体100%に対して、45%以上90%未満であると好ましい。含有割合Aが45%以上であることにより超硬合金の靭性が向上し耐欠損性が向上する傾向にあり、含有割合Aが90%未満であることにより超硬合金の耐熱性が向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する傾向にある。同様の観点から、含有割合Aは、結合相の全体100%に対して、54%以上78%以下であるとより好ましく、55%以上71%以下であると更に好ましい。
【0023】
上記第2領域の含有割合(以下、「含有割合B」とも表記する。)は、結合相の全体100%に対して、0%以上35%以下であると好ましい。含有割合Bが上記範囲であれは、焼結が十分であることを示し、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、含有割合Bは、結合相の全体100%に対して、0%以上30%以下であるとより好ましく、0%以上20%以下であると更に好ましい。
【0024】
上記第3領域の含有割合(含有割合C)は、結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下である。含有割合Cが10%以上であると、超硬合金の耐熱性が向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。含有割合Cが40%以下であると、超硬合金の靭性が向上し、耐欠損性が向上する。同様の観点から、同様の観点から、含有割合Cは、結合相の全体100%に対して、12%以上39%以下であるとより好ましく、14%以上33%以下であると更に好ましく、20%以上33%以下であるとより更に好ましい。
なお、本実施形態において各領域の含有割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
第3領域の全体において、式(1)で表されるK1の平均値が、0.35以上0.45以下であると好ましい。第3領域の全体におけるK1の平均値が0.35以上であると、結合相の耐熱性が向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する傾向にある。また、第3領域の全体におけるK1の平均値が0.45以下であると、結合相の靭性が向上し、耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、上記平均値は、0.36以上0.44以下であるとより好ましく、0.37以上0.43以下であると更に好ましい。
なお、本実施形態において、第3領域の全体におけるK1の平均値は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
本実施形態の超硬合金は、結合相の全体において、下記式(5)で表されるK3の平均値をX、第1領域におけるK3の平均値をY、第3領域におけるK3の平均値をZ、としたとき、Z>X≧Yの関係を満たし、下記式(7)で表されるK4は0.01以上0.15以下であることが好ましい。Z>X≧Yの関係を満たすことにより、超硬合金が耐摩耗性及び耐欠損性に優れる傾向にある。
また、式(7)で表されるK4が0.01以上であることで、結合相の耐熱性及び靭性のバランスに優れる傾向にあり、超硬合金の耐摩耗性及び耐欠損性に優れる。さらに、式(7)で表されるK4が0.15以下であると、製造の容易になる傾向にある。このような観点から、式(7)で表されるK4は、0.02以上0.14以下であるとより好ましく、0.03以上0.12以下であると更に好ましい。
K3=MFE/M2 (5)
M2=MCO+MNI+MFE (6)
K4=Z-Y (7)
(式(5)及び式(6)中、MCOは、結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MFEは、結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示す。)
なお、本実施形態において、上記K3及びK4は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
本実施形態において、結合相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下である。結合相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上であると、超硬合金の靭性が向上し耐欠損性が向上するとともに、超硬合金の焼結性が向上することで耐摩耗性及び耐欠損性が向上する。結合相の含有割合が超硬合金100体積%に対して、20.0体積%以下であると、硬質相の割合が高くなることで超硬合金の硬さが向上し、耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。同様の観点から、結合相の含有割合が、6.0体積%以上17.0体積%以下であると好ましく、7.0体積%以上15.0体積%以下であるとより好ましい。
なお、結合相の含有割合は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
[第1硬質相]
本実施形態の超硬合金は、WC(炭化タングステン)からなる第1硬質相を有する。WCからなる第1硬質相を含むことにより、超硬合金の硬さが向上し耐摩耗性が向上する。
【0029】
第1硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であると好ましい。第1硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上であると、超硬合金の硬さが向上して耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する傾向にある。また、第1硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、95.0体積%以下であると、結合相の割合が高くなり超硬合金の靭性が向上して耐欠損性が向上するとともに、超硬合金の焼結性が向上して耐摩耗性及び耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、第1硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、81.0体積%以上94.0体積%以下であるとより好ましく、82.0体積%以上93.0体積%以下であると更に好ましい。
【0030】
[第2硬質相]
本実施形態の硬質相は、Ti、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、及びMoからなる群より選ばれる1種以上の元素の、炭化物、窒化物、又は炭窒化物の少なくとも1種からなる第2硬質相を含んでいてもよい。また、第2硬質相には、TaC、NbC、TiC、TiN、及びZrCからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、TaC、NbC、ZrC、及びTiCからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0031】
上述した第2硬質相の含有割合は、特に限定されず、例えば、超硬合金100体積%に対して、0.5体積%以上5.0体積%以下であってもよく、0.5体積%以上2.0体積%以下であってもよい。
なお、本実施形態において、各相の割合は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
本実施形態の超硬合金は、上記の第1硬質相、及び結合相を有しており、さらに第2硬質相を有していてもよい。また、超硬合金は、第1硬質相、結合相、及び第2硬質相以外の異なる相を更に有していてもよい。そのような相は、特に限定されないが、例えば、第1硬質相、結合相、及び第2硬質相のいずれの相にも固溶しなかった金属元素からなる相が挙げられる。本実施形態の超硬合金は、本発明の効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、第1硬質相、及び結合相からなるか、第1硬質相、結合相、及び第2硬質相からなることが好ましい。
【0033】
本実施形態の超硬合金が、いずれの相を有するかを確かめるためには、例えば、下記の方法を用いればよい。超硬合金内部の任意の断面組織(例えば、表面から、内部に向かって深さ100μm以上の位置の断面組織)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査型電子顕微鏡(SEM)にて1000~10000倍で観察し、SEM像においてその断面組織における相構成を確認する。その後、SEM像において互いに異なる相と認められる相のそれぞれについて、EDSを用いて組成を測定する。その結果から、その断面組織が、いずれの相を有するかを確かめることができる。なお、主成分が炭化タングステン(WC)である相を第1硬質相とし、また、Ti、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、及びMoからなる群より選ばれる1種以上の元素の、炭化物、窒化物、又は炭窒化物の少なくとも1種からなる相を第2硬質相とする。また、硬質相間を結合する相であって、Coと、Niと、Cr及びMoのうち1種以上と、を含む相を結合相とする。硬質相間を結合する相とは、例えば、超硬合金が硬質相を島とした海島構造のような相構成である場合に、いわゆる海とされる相のことである。したがって、このような場合、比較的連続した結合相の中に、不連続に硬質相が存在することとなる。上述したSEM像による観察と、EDSによる組成の測定とを、少なくとも3つの断面組織について行い、いずれの観察においても、第1硬質相、結合相、及び第2硬質相とは異なる相が観察されなかった場合、その超硬合金は第1硬質相、結合相、及び第2硬質相からなるものであるとする。
【0034】
本実施形態において、硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下である。硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上であると、超硬合金の硬さが向上して耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。硬質相の含有割合が、超硬合金100体積%に対して、95.0体積%以下であると、結合相の割合が高くなり超硬合金の靭性が向上して耐欠損性が向上するとともに、超硬合金の焼結性が向上して耐摩耗性及び耐欠損性が向上する。同様の観点から、硬質相の含有割合が、83.0体積%以上94.0体積%以下であると好ましく、85.0体積%以上93.0体積%以下であるとより好ましい。
【0035】
[被覆層]
本実施形態の被覆超硬合金は、上記の超硬合金と、該超硬合金の表面に配置される被覆層とを有する。かかる被覆超硬合金は、本実施形態の超硬合金の表面に被覆層を配置することにより、耐摩耗性を一層向上させる。ここで、被覆層は、単層の化合物からなる層(以下、単に「化合物層」とも表記する。)であってもよく、組成の異なる化合物層が2層以上積層した構造であってもよい。
【0036】
本実施形態に用いる被覆層は、超硬合金の表面を被覆するものであれば特に限定されず、被覆切削工具の被覆層として使用されるものであってもよい。その中でも、被覆層は、好ましくはTi、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素と、C、N、O、及びBからなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含む単層又は積層である。より好ましくは、被覆層はTi、Cr、Nb、W、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素と、C及びNからなる群より選ばれる1種以上の元素と、を含む単層又は積層である。被覆層が上記構成を有すると、被覆超硬合金の耐摩耗性及び耐塑性変形性が一層向上する傾向にある。
【0037】
被覆層における化合物層の具体例としては、特に限定されないが、例えば、α型Al2O3層、TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層、TiCO層、(Al0.6Ti0.4)N層、(Al0.5Ti0.5)N層、(Al0.67Ti0.33)N層、(Ti0.9Si0.1)N層、(Ti0.5Al0.5)N層、(Ti0.6Al0.3W0.1)N層、(Ti0.9Mo0.1)N層、(Al0.5Cr0.5)N層、(Al0.7Cr0.3)N層、(Al0.7Cr0.2Ti0.1)N層、(Al0.6Cr0.2Ti0.1Si0.1)N層、NbN層、(Al,Cr)2O3層が挙げられる。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、被覆層における化合物層として、TiN層、TiCN層、(Al0.6Ti0.4)N層、(Al0.67Ti0.33)N層、(Ti0.9Si0.1)N層、(Ti0.5Al0.5)N層、(Ti0.6Al0.3W0.1)N層、(Al0.7Cr0.3)N層、(Al0.6Cr0.2Ti0.1Si0.1)N層、及びNbN層からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると好ましい。
【0038】
被覆層において、層を積層する場合の各層の平均厚さは本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。各層の平均厚さとして、例えば、0.1μm以上5.0μm以下であってもよい。本発明の効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、各層の平均厚さが0.2μm以上4.5μm以下であると好ましく、0.3μm以上3.5μm以下であるとより好ましい。
また、被覆層全体の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上10μm以下である。上述と同様の観点からは、被覆層全体の平均厚さが1.5μm以上8.0μm以下であると好ましく、2.0μm以上5.0μm以下であるとより好ましい。
【0039】
本実施形態に用いる被覆層を構成する各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、被覆超硬合金の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、本実施形態の被覆超硬合金における各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、例えば、少なくとも3箇所以上の断面から、各層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0040】
また、本実施形態の被覆超硬合金において、被覆層を構成する各層の組成は、被覆超硬合金の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いた測定により決定することができる。
【0041】
[超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法]
以下、本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法について、具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金の製造方法は、当該超硬合金の構造を達成し得る限り特に制限されるものではなく、下記の具体例に制限されない。
【0042】
例えば、本発明の超硬合金の製造方法は、以下の工程(A)~(H)を含む。
【0043】
工程(A):以下の粉末のうち必要に応じて選ばれる粉末を、合計100質量%となるように用意する工程。
(ア)平均粒径1.0μm以上10.0μm以下の炭化タングステン(WC)粉末を、85.0質量%以上98.0質量%以下の量
(イ)平均粒径0.5μm以上5.0μm以下のTi、Cr、Zr、Hf、V、Nb、Ta、及びMoからなる群より選ばれる1種以上の元素の、炭化物、窒化物、又は炭窒化物の少なくとも1種の粉末を、0質量%以上5.0質量%以下の量
(ウ)平均粒径0.5μm以上2.0μm以下のCo粉末を、0.5質量%以上5.0質量%以下の量
(エ)平均粒径0.8μm以上8.0μm以下のNi粉末を、0.1質量%以上3.0質量%以下の量
(オ)平均粒径3.0μm以上5.0μm以下のFe粉末を、0.1質量%以上3.0質量%以下の量
(カ)平均粒径4.0μm以上12.0μm以下のCr粉末を、0質量%以上2.5質量%以下の量
(キ)平均粒径1.0μm以上3.0μm以下のMo粉末を、0質量%以上5.0質量%以下の量
(ク)平均粒径1.0μm以上10.0μm以下のMn粉末を、0質量%以上1.0質量%以下の量
(ケ)平均粒径5.0μm以上15.0μm以下のCo元素、Fe元素、Ni元素、Cr元素及びMn元素を、原子比で等比に含む合金(以下、「HEA」とも記す。)粉末を、0質量%以上5.0質量%以下の量
【0044】
工程(B):工程(A)で用意した粉末に1.5質量%のパラフィンワックスを添加し、湿式ボールミルにより20~60時間混合する混合工程。
【0045】
工程(C):工程(B)で得られた混合した粉末を、100℃以下で加熱及び乾燥しながら溶媒を蒸発させて混合物を得る乾燥工程。
【0046】
工程(D):工程(C)で得られた混合物を所定の形状に成形する成形工程。
【0047】
工程(E):工程(D)で得られた成形体を、70Pa以下の真空にて、第2昇温工程における開始温度まで昇温する、第1昇温工程。
【0048】
工程(F):100~1000kPaの不活性ガス(例えば、Ar)雰囲気下にて、焼結工程における温度まで、1~10℃/分の速度で昇温する第2昇温工程。
【0049】
工程(G):工程(F)を経た成形体を、100~1000kPaの不活性ガス(例えば、Ar)雰囲気下にて、1400~1500℃の温度で20~40分保持して焼結する焼結工程。
【0050】
工程(H):工程(G)を経た成形体を、10~300kPa以下の不活性ガス(例えば、Ar)雰囲気下にて、焼結工程における温度から室温まで冷却する冷却工程。この工程において、温度が900℃に至るまでは、30~50℃/分の速度で冷却する。
【0051】
なお、工程(A)において使用される原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定されたものである。
【0052】
上記工程(A)~(H)は、以下の意義を有する。
工程(A)において、Cr及び/又はMoの配合割合を大きくすると、第3領域におけるK1の平均値が大きくなる傾向にあり、含有割合Aが小さくなる傾向にあり、含有割合Cが大きくなる傾向にある。
また、CrとMoの合計の配合割合に対する、Crの配合割合の比を大きくすると、Z>X≧Yの関係を満たしかつK4の値が大きくなる傾向にある。
さらに、Fe粉末の配合割合を小さくすると、第3領域におけるK1の平均値が大きくなる傾向にあり、含有割合Bが大きくなる傾向にあり、含有割合Cが小さくなる傾向にあり、Z>X≧Yの関係を満たしかつK4の値が大きくなる傾向にある。
また、Mn粉末の配合割合を大きくすると、含有割合Aが大きくなる傾向にあり、含有割合Bが小さくなる傾向にあり、Z>X≧Yの関係を満たしかつK4の値が大きくなる傾向にある。
Co粉末の配合割合を大きくすると、Z>X≧Yの関係を満たしかつK4の値が大きくなる傾向にある。
HEA粉末の配合割合を小さくすると、第3領域におけるK1の平均値が大きくなる傾向にあり、含有割合Cが小さくなる傾向にあり、Z>X≧Yの関係を満たしかつK4の値が大きくなる傾向にある。また、硬質相を構成する粉末の配合割合を小さくすると、第3領域におけるK1の平均値が大きくなる傾向にあり、含有割合Bが小さくなる傾向にある。
【0053】
工程(B)では、硬質相の平均粒径を調整することができる。工程(B)では、工程(A)で用意した原料粉末を均一に混合することができる。また、超硬合金の原料として、Co元素、Fe元素、Ni元素、Cr元素及びMn元素を、原子比で等比に含む合金を用いる場合は、例えば、当工程を50時間行うと好ましい。
【0054】
工程(C)では、工程(B)で得られた混合した粉末を加熱及び乾燥して溶媒を蒸発させて混合物を得る。
【0055】
工程(D)では、工程(C)で得られた混合物を所定の形状に成形する。得られた成形体を、以下の焼結工程で焼結する。
【0056】
工程(E)では、成形体を、70Pa以下の真空で昇温する。これにより、液相出現前及び液相出現直後での脱ガスを促進するとともに、以降の焼結工程における焼結性を向上させる。
【0057】
工程(F)では、成形体を、不活性ガス雰囲気下で1400~1500℃の温度まで昇温する。超硬合金の原料において、Mn粉末及び/又はHEA粉末を含む場合は、Mn元素の蒸発を抑制するため、工程(F)における圧力を、Mn粉末及び/又はHEA粉末を含まない場合に比べて大きくすることが好ましい。具体的には、超硬合金の原料においてMn粉末及び/又はHEA粉末を含む場合、工程(F)における圧力を400~1000kPaにすると好ましい。
【0058】
工程(G)では、成形体を、不活性ガス雰囲気下で1400~1500℃の温度で焼結する。これにより、成形体は緻密化し、成形体の機械的強度が高まる。また、焼結工程において、温度を高くすると、含有割合Aが大きくなる傾向にあり、含有割合Bが小さくなる傾向にあり、含有割合Cが大きくなる傾向にある。そして、超硬合金の原料において、Mn粉末及び/又はHEA粉末を含む場合は、Mn元素の蒸発を抑制するため、工程(G)における圧力を、Mn粉末及び/又はHEA粉末を含まない場合に比べて大きくすることが好ましい。具体的には、超硬合金の原料においてMn粉末及び/又はHEA粉末を含む場合、工程(G)における圧力を400~1000kPaにすると好ましい。
【0059】
工程(H)では、成形体を、不活性ガス雰囲気下で焼結工程における温度から室温まで冷却し、特に900℃になるまでは30~50℃/分の速度にて急速冷却する。このような冷却速度によれば、含有割合Bが小さくなる傾向にあり、含有割合Cが大きくなる傾向にあり、第3領域におけるKの平均値が大きくなる傾向にある。
【0060】
工程(A)から工程(H)を経て得られた超硬合金に対して、必要に応じて、研削加工や刃先のホーニング加工を施してもよい。
【0061】
[被覆層の形成方法]
本実施形態の被覆超硬合金において、被覆層は、化学蒸着法によって形成してもよく、物理蒸着法によって形成してもよい。その中でも、被覆層を物理蒸着法によって形成するのが好ましい。物理蒸着法としては、例えば、アークイオンプレーティング法、イオンプレーティング法、スパッタ法及びイオンミキシング法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、超硬合金と被覆層との密着性が一層優れるので好ましい。
【0062】
(物理蒸着法)
工具のような所定の形状に加工した本実施形態の超硬合金を物理蒸着装置の反応容器内に収容し、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。真空引きした後、反応容器内のヒーターにより超硬合金をその温度が200℃以上800℃以下になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にArガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa以上5.0Pa以下に調整する。圧力0.5Pa以上5.0Pa以下のArガス雰囲気下にて、超硬合金に-1000V以上-200V以下のバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに10A以上60A以下の電流を流して、超硬合金の表面にArガスによるイオンボンバードメント処理を施す。超硬合金の表面にイオンボンバードメント処理を施した後、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。
【0063】
次いで、超硬合金をその温度が200℃以上600℃以下になるまで制御する。その後、窒素ガスなどの反応ガスを必要に応じてArガスと共に反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を0.5Pa以上5.0Pa以下に調整する。そして、超硬合金に-150V以上-10V以下のバイアス電圧を印加し、被覆層の金属成分に応じた金属蒸発源を80A以上180A以下のアーク放電により蒸発させて、超硬合金の表面に被覆層を形成する。こうして、被覆超硬合金を得る。
【0064】
(化学蒸着法)
工具形状に加工した本実施形態の超硬合金の表面に、被覆層を構成する各元素の化合物からなる層を化学蒸着法により形成してもよい。
【0065】
例えば、Tiの窒化物層(TiN層)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:5.0~10.0mol%、N2:20~60mol%、H2:残部とし、温度を850~950℃、圧力を300~400hPaとする化学蒸着法で形成してもよい。
【0066】
また、例えば、Tiの炭窒化物層(TiCN層)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:5.0~7.0mol%、CH3CN:0.5~1.5mol%、H2:残部とし、温度を800~900℃、圧力を60~80hPaとする化学蒸着法で形成してもよい。
【0067】
上述の化合物層を順番に積層して形成することで、複数の化合物層から構成される被覆層を形成してもよい。
【0068】
本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金は、特に難削材の加工において、優れた加工性能を有するものであるため、工具の構成材料として好適に用いることができる。本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金を、例えば切削工具の構成材料として用いた場合、特に難削材の切削加工に対し優れた性能を有する。また、熱伝導率が低い難削材を加工するための工具(例えば切削工具)の材料として本実施形態の超硬合金及び被覆超硬合金を用いた場合、その超硬合金及び被覆超硬合金は、優れた耐摩耗性、耐塑性変形性、及び耐欠損性を有するので、工具寿命が長くなる点で特に有用である。
【実施例0069】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
[超硬合金の製造]
原料粉末として、炭化タングステン(WC)粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末、Co粉末、Ni粉末、Fe粉末、Cr粉末、Mo粉末、Mn粉末、HEA粉末を用意した。なお、これらの原料粉末は、市販されているものを使用した。また、原料の炭化タングステン(WC)粉末は、粉末全体に対して、タングステンの量が93.8質量%であり炭素の量が6.2質量%であるものを用いた。そして、原料粉末の平均粒径はそれぞれ、WC粉末が1.2μm、TaC粉末が1.5μm、NbC粉末が1.5μm、TiC粉末が1.2μm、Co粉末が1.3μm、Ni粉末が1.5μm、Fe粉末が4.0μm、Cr粉末が10.0μm、Mo粉末が2.5μm、Mn粉末が2.5μm、HEA粉末が10.0μmであった。なお、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定した。
【0071】
発明品1~25、及び比較品1~14について、超硬合金の組成が下記表1及び表2に記載の組成になるように、用意した原料粉末を秤量した。秤量した原料粉末を、アセトン溶媒と原料粉末100質量%に対して1.5質量%のパラフィンワックスと超硬合金製ボールとを共にステンレス製ポットに収容して配合し、HEA粉末を用いる場合は50時間、それ以外の試料は30時間の間湿式ボールミルで混合及び粉砕を行い、混合物を得た。得られた混合物を80℃で加熱してアセトンを蒸発させることで、乾燥混合物を得た。得られた乾燥混合物を所定の金型を用いて圧力196MPaでプレス成型することで、混合物の成形体を得た。金型としては、焼結後の形状がISO規格インサート形状CNMG120408になる金型を用いた。
【0072】
各混合物の成形体を焼結炉内に収容した後、70Pa以下の真空にて室温から900℃まで昇温した(第1昇温)。さらに、下記表3及び表4に記載の各々の圧力において、記載の温度まで5℃/分の速度で昇温した(第2昇温)。その後、表3及び表4に記載の各々の焼結温度にて、30分間保持することにより成形体を焼結した。焼結後、成形体を250kPaのAr雰囲気下にて、冷却速度50℃/分で900℃に至るまで冷却し、さらに室温まで放冷した。
【0073】
上記のようにして、工具形状に加工した超硬合金を作製した。さらに、得られた超硬合金の切れ刃稜線部にSiCブラシによりホーニング処理を施した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
[超硬合金の組成]
得られた超硬合金の各組成及び各割合は、下記のようにして求めた。
超硬合金内部の任意の少なくとも3か所の断面組織(表面から、内部に向かって深さ500μmの位置の断面組織)を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)付き走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で観察した。また、SEMで撮影した超硬合金の組織写真から、観察される相の組成をEDSにより測定し、市販の画像解析ソフトで解析を行い、第1硬質相、第2硬質相、及び結合相の超硬合金における含有割合(体積%)を求めた。その結果を表5及び表6に示す。
【0079】
また、各元素の原子比は、超硬合金内部の任意の少なくとも3か所の断面組織(表面から内部に向かって深さ500μmの位置の断面組織)をEDS付きの走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で観察し、EDSによる面分析を行った。これにより超硬合金全体における全元素に対する各金属元素の原子比を測定し、下記式(3)で表されるK2の値を求めた。その結果を表5及び表6に示す。
K2=mFE/N (3)
N=mCR+mMO+mFE+mCO+mNI+mMN (4)
(式(3)及び式(4)中、mFEは、超硬合金における全元素に対するFe元素の原子比を示し、mCRは、超硬合金における全元素に対するCr元素の原子比を示し、mMOは、超硬合金における全元素に対するMo元素の原子比を示し、mCOは、超硬合金における全元素に対するCo元素の原子比を示し、mNIは、超硬合金における全元素に対するNi元素の原子比を示し、mMNは、超硬合金における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
【0080】
さらに、結合相に対しては以下の通り線分析を行った。まず、超硬合金の表面に対して直行する方向に鏡面研磨を行い、EDS付きSEMを用いて、超硬合金内部の任意の断面組織(表面から、内部に向かって深さ500μmの位置の断面組織)を観察し反射電子組成像(BSE像)を得た。この際、10000倍の倍率で拡大して観察し、EDSによる線分析を行った。線分析を行うと同時に、BSE像におけるコントラストの情報を取得し、結合相において0(黒色)、硬質相において0超の値(灰色から白色)を持つように調整した。
線分析は、結合相上の測定点の数の合計が500点以上となるよう、各視野の像において1本ずつ得られる結果の複数視野分を合わせた。この際、線はステップサイズ0.02μmの間隔で、長さ10μmの線について分析を行った。上記でコントラストが0である領域(結合相)の位置を特定し、EDSにより得られる各測定点での元素の含有量から、各測定点について下記式(1)におけるK1の値を算出した。
K1=(MCR+MMO)/M1 (1)
M1=MCR+MMO+MFE+MCO+MNI+MMN (2)
(式(1)及び式(2)中、MCRは、結合相における全元素に対するCr元素の原子比を示し、MMOは、結合相における全元素に対するMo元素の原子比を示し、MFEは、結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示し、MCOは、結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MMNは、結合相における全元素に対するMn元素の原子比を示す。)
例えば、結合相の測定点の数が500点である場合、そのうちK1の値が0以上0.15未満である測定点は第1領域に該当するとし、K1の値が0.15以上0.30未満であると第2領域に該当するとし、K1の値が0.30以上であると第3領域に該当するとして各領域の割合を測定点の数の比から算出した。また、第3領域におけるK1の値の平均は、コントラストが0であり、K1の値が0.30以上である全ての測定点におけるK1の値の相加平均値を求めることで算出した。このようにして得られた各領域の含有割合(%)と、第3領域におけるK1の値の平均を表7及び表8に示す。
【0081】
また、上記各測定点において、EDSにより得られる各測定点での元素の含有量から、下記式(5)におけるK3の、結合相の測定点全体における平均値Xと、上記第1領域に分類された測定点における平均値Yと、上記第3領域に分類された測定点における平均値Zと、をそれぞれ算出した。
K3=MFE/M2 (5)
M2=MCO+MNI+MFE (6)
(式(5)及び式(6)中、MCOは、結合相における全元素に対するCo元素の原子比を示し、MNIは、結合相における全元素に対するNi元素の原子比を示し、MFEは、結合相における全元素に対するFe元素の原子比を示す。)
また、下記式(7)で表されるK4の値を求め、さらに、Z>X≧Yの関係を満たすか否か確認した。その結果を表9及び表10に示す。
K4=Z-Y (7)
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
[被覆層の形成]
作製した超硬合金を、アークイオンプレーティング装置の反応容器内のホルダーに取り付けた。反応容器内の圧力を、1.0×10-2Pa以下の真空にした。炉内ヒーターで、超硬合金を500℃の温度に加熱した。超硬合金の温度が500℃になった後、反応容器内の圧力が3.0Paになるまで、反応容器内にArガスを導入した。反応容器内の超硬合金に-400Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに40Aの電流を流して、超硬合金の表面にArイオンボンバードメント処理を行った。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。
【0089】
真空引き後、超硬合金の温度が450℃になるように制御し、反応容器内にN2ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paの窒素雰囲気にした。その後、超硬合金に―60Vのバイアス電圧を印加するとともに、150Aのアーク放電によって金属蒸発源を蒸発させた。これにより、超硬合金の表面に、被覆層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却した。試料温度が100℃以下になった後、反応容器内から試料を取り出した。被覆層の構成として、それぞれ厚さ50nmの(Al0.5Ti0.5)Nと(Al0.67Ti0.33)Nを繰り返し数30回の交互積層構造にし、被覆層全体の厚さは3.0μmとなった。
【0090】
被覆層の各層の組成は、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、TEMに付属するEDSを用いて測定した。なお、化合物の金属元素の組成比は、化合物層を構成する金属化合物における金属元素全体に対する各金属元素の原子比を示す。
また、得られた被覆層の各層及び被覆層全体の平均厚さは、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3か所の断面をTEM観察し化合物層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定した後、その相加平均値を計算することで求めた。
【0091】
[切削試験]
得られた発明品1~25及び比較品1~14について、下記条件による切削試験1及び切削試験2を行った。
[切削試験1]
・被削材:インコネル(登録商標)718
・被削材形状:丸棒
・切削速度:80m/分
・切り込み深さ:1.0mm
・送り:0.1mm/rev
・クーラント:有り
・評価項目:工具の逃げ面摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。切削試験1の工具寿命が長いほど、高温での耐摩耗性及び耐塑性変形性に優れることを示す。本試験の加工時間について、24分以上を「A」、16分以上24分未満を「B」、16分未満を「C」と評価した。
【0092】
[切削試験2]
・被削材:SUS329J4L
・切削材形状:外周面に1本の溝が入っている丸棒
・切削速度:200m/分
・切り込み深さ:1.0mm
・1刃あたりの送り量:0.15mm/rev
・クーラント:有り
・評価項目:工具が欠損したとき、又は逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。切削試験2の工具寿命が長いほど、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることを示す。本試験の加工時間について、18分以上を「A」、13分以上18分未満を「B」、13分未満を「C」と評価した。
【0093】
上記試験で得られた評価の結果を表11及び表12に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
表11及び表12に示されている通り、発明品は、切削試験1及び切削試験2の評価がどちらもB以上であった。このような結果により、超硬合金が硬質相と結合相とを含み、硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であり、結合相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下であり、硬質相は、WCからなる第1硬質相を含み、結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上と、を含み、結合相は、式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、第3領域の含有割合は、結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下であり、結合相の全体において、式(3)で表されるK2の値が、0.05以上0.35以下である、発明品の方が、そうでない比較品より優れた耐欠損性、耐摩耗性及び耐塑性変形性を有し、長い工具寿命を有することがわかった。
【0097】
(実施例2)
基材として、上記発明品1における超硬合金をCNMG120408のインサート形状に加工したものを用意した。当該基材の表面に、イオンボンバードメント処理を施した後、アークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した。被覆層は、表13に記載の組成と平均厚さになるように形成した。また、複数の層を形成する場合、超硬合金の表面に第1層、第2層、第3層の順で形成した。被覆層を形成する方法としては以下のとおりにした。
【0098】
発明品1の超硬合金をアークイオンプレーティング装置の反応容器内のホルダーに取り付けた。反応容器内の圧力を、1.0×10-2Pa以下の真空にした。炉内ヒーターで、超硬合金を500℃の温度に加熱した。超硬合金の温度が500℃になった後、反応容器内の圧力が3.0Paになるまで、反応容器内にArガスを導入した。反応容器内の超硬合金に-400Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに40Aの電流を流して、超硬合金の表面にArイオンボンバードメント処理を行った。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。
【0099】
真空引き後、超硬合金の温度が450℃になるように制御し、反応容器内にN2ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paの窒素雰囲気にした。ここで、発明品27の第2層の形成時にのみ、N2ガス、Arガス、アセチレン(C2H2)ガスが、45:40:15の体積比である混合ガスを導入して、反応容器内を圧力3.0Paにした。
その後、超硬合金に-60Vのバイアス電圧を印加するとともに、150Aのアーク放電によって金属蒸発源を蒸発させ、超硬合金の表面に、被覆層を形成した。金属蒸発源としては、表13に示す各層の金属成分に応じたものを用いた。被覆層を形成した後、試料を冷却した。試料温度が100℃以下になった後、反応容器内から試料を取り出した。
【0100】
被覆層の各層の組成は、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、TEMに付属するEDSを用いて測定した。なお、化合物層の金属元素の組成比は、化合物層を構成する金属化合物における金属元素全体に対する各金属元素の原子比を示す。
また、被覆層の各層及び被覆層全体の平均の平均厚さは、上記断面において少なくとも3か所をTEM観察し化合物層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定した後、その相加平均値を計算することで求めた。これらの結果を表13に示す。
【0101】
また、得られた試料を用いて、実施例1と同じく切削試験を行い、発明品26~30を評価した。その結果を表14に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
表14に示されている結果より、超硬合金が硬質相と結合相とを含み、硬質相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、80.0体積%以上95.0体積%以下であり、結合相の含有割合は、超硬合金100体積%に対して、5.0体積%以上20.0体積%以下であり、硬質相は、WCからなる第1硬質相を含み、結合相は、Co元素と、Ni元素と、Fe元素と、Cr元素及びMo元素のうち1種以上と、を含み、結合相は、式(1)で表されるK1の値が、0以上0.15未満である第1領域と、0.15以上0.30未満である第2領域と、0.30以上である第3領域と、からなり、第3領域の含有割合は、結合相の全体100%に対して、10%以上40%以下であり、結合相の全体において、式(3)で表されるK2の値が、0.05以上0.35以下である被覆超硬合金は、優れた耐欠損性、耐摩耗性及び耐塑性変形性を有し、長い工具寿命を有することがわかった。