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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092858
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗膜および物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20240701BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 163/02 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240701BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/02
C09D163/02
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209064
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】矢尾板 聡
(72)【発明者】
【氏名】大浦 麻美子
(72)【発明者】
【氏名】小野▲崎▼ 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038DB391
4J038KA06
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA25
4J038NA26
4J038PA06
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有する2液型水性塗料を提供すること。
【解決手段】2液型の水性塗料組成物であって、第1剤は、水性エポキシ系アミン樹脂を含み、第2剤は、エポキシ樹脂のエマルションを含み、水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基およびイミノ基からなる群より選択される基を有し、アミン当量が1000~1800(g/mol)であり、かつ、数平均分子量が1500~8000であり、水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量が、700~3800(g/mol)であり、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が、100~800nmであり、エポキシ樹脂の粒子径が、100~3000nmである、水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1剤と第2剤とからなる2液型の水性塗料組成物であって、
前記第1剤は、水性エポキシ系アミン樹脂を含み、
前記第2剤は、エポキシ樹脂のエマルションを含み、
前記水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基およびイミノ基からなる群より選択される1以上の基を分子内に有し、アミン当量が1000~1800(g/mol)であり、かつ、数平均分子量が1500~8000であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量が、700~3800(g/mol)であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が、100~800nmであり、
前記エマルションの前記エポキシ樹脂の粒子径が、100~3000nmである、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、150~1200(g/mol)である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性エポキシ系アミン樹脂が、水分散性エポキシ系アミン樹脂である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水性塗料組成物が造膜助剤をさらに含み、
前記造膜助剤の沸点は、150~320℃であり、
前記造膜助剤の量が、前記水分散性エポキシ系アミン樹脂および前記エマルションの合計固形分100質量部に対して、5~60質量部である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水性塗料組成物を用いた、塗膜。
【請求項6】
請求項5に記載の塗膜を有する、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗膜および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被塗物に防食(防錆)塗膜を形成するための防食塗料としては、エポキシ樹脂を含む主剤とポリアミン系硬化剤とからなる2液型の有機溶剤系塗料が主に使用されてきた。しかし、環境負荷低減の観点から、有機溶剤系塗料から水性塗料への転換が強く求められている。そして、近年では、各種の水性塗料が上市されるようになっている。
【0003】
例えば特許文献1には、第1剤と第2剤とからなる2液型の水性塗料組成物であって、第1剤が、アミノ基を分子内に有し、アミン当量が500~2000である水性エポキシ系アミン樹脂(A)を含み、第2剤が、エポキシ樹脂エマルション(B)を含む、水性塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-216689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような2液型の水性塗料組成物では、第1剤と第2剤を混合した後、使用できる時間(以下、「ポットライフ」という)が長いことが求められる。塗料ないし塗装環境の温度が高くなるほど第1剤と第2剤の反応が速く進行するため、ポットライフは短くなる。
【0006】
通常、ポットライフは、室温(23℃)における時間を示すが、夏季では塗装環境の温度が40℃程度になることも多いため、温度40℃程度の環境では実際のポットライフが23℃におけるポットライフよりも短くなってしまう。ポットライフを超えた塗料では、塗装できなくなる、または塗装できても塗膜に「塗膜ぶつ」と呼ばれる塗料の皮の小片などのつぶ状のものが生じて塗膜品質が低下してしまう。
【0007】
また、塗料は必ずしも温度が管理された環境で保管されるとは限らない。そのため、気温が0℃以下になることもある冬季では、水性塗料が凍結してしまう場合がある。また、常温(23℃)などの温度下で保管された場合であっても、冬季の塗装現場に塗料の入った缶を運び、使用しなかったまたは残った塗料の缶を再度常温で保管すると、塗料が凍結と融解を繰り返すことになる。このような凍結と融解を経た水性塗料も、塗装できなくなる、または塗装できても塗膜に塗膜ぶつが生じて塗膜品質が低下するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍結と融解に対する安定性(以下、凍結と融解に対する安定性を「凍解安定性」という)を有する2液型の水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水性塗料組成物は、
第1剤と第2剤とからなる2液型の水性塗料組成物であって、
前記第1剤は、水性エポキシ系アミン樹脂を含み、
前記第2剤は、エポキシ樹脂のエマルションを含み、
前記水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基及びイミノ基からなる群より選択される1以上の基を分子内に有し、アミン当量が1000~1800(g/mol)であり、かつ、数平均分子量が1500~8000であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量が、700~3800(g/mol)であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が、100~800nmであり、
前記エマルションの前記エポキシ樹脂の粒子径が、100~3000nmである、水性塗料組成物である。これによって、2液型の水性塗料組成物が40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有する。
【0010】
本発明に係る水性塗料組成物の一実施形態では、前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、150~1200(g/mol)である。
【0011】
本発明に係る水性塗料組成物の一実施形態では、前記水性エポキシ系アミン樹脂が、水分散性エポキシ系アミン樹脂である。
【0012】
本発明に係る水性塗料組成物の一実施形態では、前記水性塗料組成物が造膜助剤をさらに含み、
前記造膜助剤の沸点は、150~320℃であり、
前記造膜助剤の量が、前記水分散性エポキシ系アミン樹脂および前記エマルションの合計固形分100質量部に対して、5~60質量部である。
【0013】
本発明に係る塗膜は、上記いずれかの水性塗料組成物を用いた塗膜である。
【0014】
本発明に係る物品は、上記塗膜を有する物品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有する2液型水性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0017】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0018】
本明細書に記載の材料および化合物は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本明細書において、第1、第2などの符号は、ある要素、材料、工程などを他の要素、材料、工程などと区別するために使用しており、その要素または材料の多少および工程の順序を限定することを意図するものではない。
【0020】
本発明において、「水性」は、水溶性または水分散性を意味する。
【0021】
本明細書において、アミノ基およびイミノ基からなる群より選択される1以上の基を、「アミノ基/イミノ基」ということがある。
【0022】
本明細書において、第1剤に含まれるアミノ基およびイミノ基からなる群より選択される1以上の基を分子内に有するエポキシ樹脂は、「水性エポキシ系アミン樹脂」という。また、水性エポキシ系アミン樹脂を形成するためのベースとなるエポキシ樹脂を「ベースエポキシ樹脂」という。そして、以下、本明細書において、単に「エポキシ樹脂」という場合は、第2剤に含まれるエポキシ樹脂を指す。
【0023】
本明細書において、第2剤に含まれるエポキシ樹脂のエマルションを単に「エポキシ樹脂エマルション」ということがある。
【0024】
本明細書において、水性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求める。
【0025】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、100~800nmは、100nm以上800nm以下の範囲を意味する。
【0026】
本明細書において「40℃でも良好なポットライフを有し」は、本発明の水性塗料組成物の使用温度を40℃に限定する意図ではなく、ポットライフの温度の一例である。
【0027】
本明細書において「凍解安定性を有する」は、本発明の水性塗料組成物の保管温度を0℃以下に限定する意図ではなく、保管温度の一例である。
【0028】
本明細書において「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルからなる群より選択される1種以上を表す。
【0029】
水性塗料組成物
本発明に係る水性塗料組成物は、
第1剤と第2剤とからなる2液型の水性塗料組成物であって、
前記第1剤は、水性エポキシ系アミン樹脂を含み、
前記第2剤は、エポキシ樹脂のエマルションを含み、
前記水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基およびイミノ基からなる群より選択される1以上の基を分子内に有し、アミン当量が1000~1800(g/mol)であり、かつ、数平均分子量が1500~8000であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量が、700~3800(g/mol)であり、
前記水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が、100~800nmであり、
前記エマルションの前記エポキシ樹脂の粒子径が、100~3000nmである、水性塗料組成物である。
【0030】
以下、本発明の水性塗料組成物の各成分について例示説明する。
【0031】
・第1剤
第1剤(第1液)は、水性エポキシ系アミン樹脂を含む。
【0032】
水性エポキシ系アミン樹脂
水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ(-NH)基およびイミノ(-NH-)基からなる群より選択される1以上の基を分子内に有する。水性エポキシ系アミン樹脂は、そのアミノ基またはイミノ基によって後述する第2剤のエポキシ樹脂のエポキシ基と架橋構造を形成し得る。
【0033】
水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基またはイミノ基の少なくとも一方を有すればよく、アミノ基だけを有していてもよいし、イミノ基だけを有していてもよいし、アミノ基とイミノ基の両方を有していてもよい。
【0034】
一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂が有するアミノ基/イミノ基の数は、合計で2以上、3以上、4以上または5以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂が有するアミノ基/イミノ基の数は、合計で8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下である。これらの合計数は、アミノ基とイミノ基の両方が存在する場合に加えて、アミノ基のみ場合およびイミノ基のみの場合を含む。
【0035】
水性エポキシ系アミン樹脂は、水溶性または水分散性である。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂は、水溶性エポキシ系アミン樹脂である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂は、水分散性エポキシ系アミン樹脂である。水性エポキシ系アミン樹脂が水分散性であると、エポキシ樹脂エマルションと均一に混合しやすく、かつ、水性エポキシ系アミン樹脂とエポキシ樹脂との適度な反応性を得ることができる。その結果、水性塗料組成物の2液を混合した際のポットライフが長くなりやすい。
【0036】
水性エポキシ系アミン樹脂のアミン当量は、1000~1800(g/mol)である。アミン当量が1000(g/mol)以上であると塗膜の完全硬化前耐水性が高まり、1800(g/mol)以下であると水性エポキシ系アミン樹脂と水との相分離が抑制される。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のアミン当量は、1000(g/mol)以上、1100(g/mol)以上、1200(g/mol)以上、1300(g/mol)以上、1400(g/mol)以上、1500(g/mol)以上、1600(g/mol)以上または1700(g/mol)以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のアミン当量は、1800(g/mol)以下、1700(g/mol)以下、1600(g/mol)以下、1500(g/mol)以下、1400(g/mol)以下、1300(g/mol)以下、1200(g/mol)以下または1100(g/mol)以下である。
【0037】
「完全硬化前耐水性」とは、硬化初期段階の塗膜、具体的には完全硬化はしていないがベタツキがない程度には硬化している塗膜の耐水性をいう。完全硬化前耐水性に劣る場合、塗装後の塗膜が完全に硬化する前に雨などに晒されると、ワレまたはフクレを生じることがある。塗膜にワレまたはフクレが生じると、塗膜形成によって被塗物に付与されるべき性能(例えば、防食塗膜であれば防食性)が低下してしまう。
【0038】
本発明において「アミン当量」とは、水性エポキシ系アミン樹脂がアミノ基を有する場合、アミノ基1モルあたりの水性エポキシ系アミン樹脂の固形分質量グラム数(g/mol)を意味する。この場合、水性エポキシ系アミン樹脂は、アミノ基に加えてイミノ基を有していてもよいが、イミノ基はアミン当量の算出には考慮しない。一方、水性エポキシ系アミン樹脂がイミノ基のみを有し、アミノ基を有しない場合、イミノ基1モルあたりの水性エポキシ系アミン樹脂の固形分質量グラム数(g/mol)を意味する。
【0039】
水性エポキシ系アミン樹脂(A)のアミン当量は、原料配合量から求めることができる。
アミン当量の計算は、例えば、以下のとおりである。
(1)ベースエポキシ樹脂の固形分総量を求める。例えば、100質量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂と100質量部のビスフェノールAからベースエポキシ樹脂を合成した場合は、ベースエポキシ樹脂の固形分総量は、これらの配合量の和であり、200質量部である。
(2)次に、ベースエポキシ樹脂の合成に使用した原料から、ベースエポキシ樹脂の残存エポキシ基のモル数を求める。例えば、上記(1)の場合は、[ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部/ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量(188g/mol)]-[ビスフェノールA100質量部/ビスフェノールAのフェノール当量(114.2g/mol)]=(100/188)/(100/114.2)=0.607
(3)次に、ベースエポキシ樹脂のエポキシ当量を求める。例えば、上記(1)と(2)の場合は、エポキシ当量は、ベースエポキシ樹脂の固形分総量/ベースエポキシ樹脂の残存エポキシ基のモル数から、200/0.607=329である。
(4)ベースエポキシ樹脂にケチミン化合物を反応させ、さらにアミノ基をグリシジル基(例えば、ネオデカン酸グリシジルエステルのグリシジル基)と反応させた後のエポキシ樹脂の分子量を求める。計算式は、(エポキシ当量×2)+(エポキシ基1当量あたりのケチミン化合物量×(ケチミン化合物中のアミン(例えば、ジエチレントリアミン)量)×2)+(エポキシ基1当量あたりのネオデカン酸グリシジルエステル量×2)である。
(5)次に、アミン当量を求める。計算式は、(4)で求めた分子量/1分子あたりの残存アミノ基モル数である。ここで、1分子あたりの残存アミノ基モル数は、上記(4)の場合、(エポキシ基1当量あたりのケチミン化合物量×2×(ケチミン化合物中のアミン(例えば、ジエチレントリアミン)量)/アミン(例えば、ジエチレントリアミン)分子量×2(アミン一分子中のアミノ基数、例:ジエチレントリアミンの場合は2))-エポキシ基1当量あたりのネオデカン酸グリシジルエステル量×2/ネオデカン酸グリシジルエステル分子量から求める。
【0040】
水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量は、700~3800(g/mol)である。エポキシ当量が700(g/mol)以上であると塗膜の完全硬化前耐水性が高まり、3800(g/mol)以下であると水性エポキシ系アミン樹脂と水との相分離が抑制される。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量は、700(g/mol)以上、1000(g/mol)以上、1500(g/mol)以上、2000(g/mol)以上、2500(g/mol)以上、3000(g/mol)以上または3500(g/mol)以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のエポキシ当量は、3800(g/mol)以下、3500(g/mol)以下、3000(g/mol)以下、2500(g/mol)以下、2000(g/mol)以下、1500(g/mol)以下または1000(g/mol)以下である。
【0041】
本発明において「エポキシ当量」とは、水性エポキシ系アミン樹脂または第2剤に含まれるエポキシ樹脂が有するエポキシ基1モルあたりの水性エポキシ系アミン樹脂またはエポキシ樹脂の固形分質量グラム数(g/mol)を意味する。ベースエポキシ樹脂および第2剤に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236に従って求めることができる。
【0042】
水性エポキシ系アミン樹脂の中和率は、例えば、10~80%である。中和率をこの範囲とすることで、水性、とりわけ水分散性の水性エポキシ系アミン樹脂が得られやすくなる。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の中和率は、10%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上または75%以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の中和率は、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下または15%以下である。本明細書において「中和率」とは、エポキシ系アミン樹脂中のアミノ基およびイミノ基の全モル数に対する、酸で中和されたアミノ基およびイミノ基のモル数の割合である。
【0043】
エポキシ系アミン樹脂中のアミノ基/イミノ基を中和するための酸としては、特に限定されず、公知の有機酸、無機酸を用いることができる。有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸などのカルボン酸;ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などが挙げられる。
【0044】
水性エポキシ系アミン樹脂の数平均分子量(Mn)は、1500~8000である。水性エポキシ系アミン樹脂のMnが、この範囲であると塗膜の耐食性が高まる。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のMnは、1500以上、2000以上、2500以上、3000以上、3500以上、4000以上、4500以上、5000以上、5500以上、6000以上、6500以上、7000以上または7500以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂のMnは、8000以下、7500以下、7000以下、6500以下、6000以下、5500以下、5000以下、4500以下、4000以下、3500以下、3000以下、2500以下または2000以下である。
【0045】
本発明において、水性エポキシ系アミン樹脂は、粒子状で第1剤に存在する。そして、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、100~800nmである。水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が100nm未満では、40℃でも良好なポットライフが得られない。また、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が800nmを超えると、凍解安定性が不十分となる。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、100nm以上、110nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、300nm以上、350nm以上、400nm以上、450nm以上、500nm以上、550nm以上、600nm以上、650nm以上、700nm以上または750nm以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、800nm以下、750nm以下、700nm以下、650nm以下、600nm以下、550nm以下、500nm以下、450nm以下、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、200nm以下または150nm以下である。さらに別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、110~700nmである。
【0046】
水性エポキシ系アミン樹脂の上記粒子径は、一次粒子と二次粒子を含む粒子全体の平均粒子径である。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、一次粒子の平均粒子径である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、二次粒子の平均粒子径である。
【0047】
水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径100~800nmは、上述したように平均粒子径であるため、平均粒子径が100~800nmである限り、水性エポキシ系アミン樹脂は、粒子径が100nm未満の粒子または800nmを超える粒子を含んでいてもよい。
【0048】
一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、エポキシ樹脂の粒子径よりも大きい。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径は、エポキシ樹脂の粒子径よりも小さい。
【0049】
水性エポキシ系アミン樹脂のアミノ基のモル数と、エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数との比(エポキシ基のモル数/アミノ基のモル数)は、例えば、0.5~2.0である。一実施形態では、エポキシ基のモル数/アミノ基のモル数の比は、0.5以上、0.6以上、0.8以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上または1.8以上である。別の実施形態では、エポキシ基のモル数/アミノ基のモル数の比は、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下、1.2以下、1.0以下、0.8以下または0.6以下である。
【0050】
水性エポキシ系アミン樹脂の量は、水性塗料組成物(すなわち、第1剤および第2剤の合計)中の全固形分に対して、水性エポキシ系アミン樹脂の固形分として、例えば、5~95質量%である。一実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の固形分量は、水性塗料組成物中の全固形分に対して、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上または90質量%以上である。別の実施形態では、水性エポキシ系アミン樹脂の固形分量は、水性塗料組成物中の全固形分に対して、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下または10質量%以下である。
【0051】
第1剤のその他の成分
第1剤は、水性エポキシ系アミン樹脂に加えて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて、造膜助剤、顔料、分散剤、粘性調整剤、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、沈降防止剤、防腐剤、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、水、有機溶剤などを含んでいてもよい。これらのその他の成分は、例えば、特許文献1に記載の成分を用いることができる。
【0052】
造膜助剤
造膜助剤は、塗膜が乾燥する際に塗膜中に残存し、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子またはエポキシ樹脂の粒子の結合を促進する機能を有する。造膜助剤としては、例えば、沸点が100℃以上の有機化合物が挙げられる。造膜助剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、等のエチレン系グリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、等のプロピレン系グリコールエーテル類;2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、n-ペンチルプロピオネ-ト、フタル酸ジブチル等のエステル類などが挙げられる。
【0053】
造膜助剤の沸点は、適宜選択すればよいが、例えば、150~320℃である。一実施形態では、造膜助剤の沸点は、150℃以上、200℃以上、230℃以上、250℃以上、290℃以上または300℃以上である。別の実施形態では、造膜助剤の沸点は、320℃以下、300℃以下、260℃以下、250℃以下、230℃以下または200℃以下である。
【0054】
造膜助剤の量は、適宜調節すればよく、例えば、水性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂エマルションの合計固形分100質量部に対して、5~60質量部である。造膜助剤は、第1剤と第2剤の一方または両方に含まれていてもよく、造膜助剤が、第1剤と第2剤の両方に含まれる場合、第1剤と第2剤の造膜助剤の合計量は、例えば、水性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂エマルションの合計固形分100質量部に対して、5~60質量部である。一実施形態では、造膜助剤の合計量は、水分散性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂エマルションの合計固形分100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、35質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、50質量部以上または55質量部以上である。別の実施形態では、造膜助剤の合計量は、水分散性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂エマルションの合計固形分100質量部に対して、60質量部以下、55質量部以下、50質量部以下、45質量部以下、40質量部以下、35質量部以下、30質量部以下、25質量部以下、20質量部以下、15質量部以下または10質量部以下である。
【0055】
本発明に係る水性塗料組成物の一実施形態では、前記水性塗料組成物が造膜助剤をさらに含み、
前記造膜助剤の沸点は、150~320℃であり、
前記造膜助剤の量が、前記水分散性エポキシ系アミン樹脂および前記エマルションの合計固形分100質量部に対して、5~60質量部である。
【0056】
・第2剤
第2剤(第2液)は、エポキシ樹脂のエマルションを含む。
【0057】
エポキシ樹脂エマルション
エポキシ樹脂エマルションは、水などの水性媒体中にエポキシ樹脂が分散したエマルションである。
【0058】
エポキシ樹脂としては、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。一実施形態では、エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。本発明の趣旨から、第2剤のエポキシ樹脂は、アミノ基およびイミノ基を有しない。
【0059】
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を1以上有する。一実施形態では、エポキシ樹脂1分子が有するエポキシ基の数は、2以上、3以上、4以上または5以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂1分子が有するエポキシ基の数は、5以下、4以下、3以下または2以下である。
【0060】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、150~1200(g/mol)である。一実施形態では、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、150(g/mol)以上、200(g/mol)以上、300(g/mol)以上、400(g/mol)以上、500(g/mol)以上、600(g/mol)以上、700(g/mol)以上、800(g/mol)以上、900(g/mol)以上、1000(g/mol)以上または1100(g/mol)以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、1200(g/mol)以下、1100(g/mol)以下、1000(g/mol)以下、900(g/mol)以下、800(g/mol)以下、700(g/mol)以下、600(g/mol)以下、500(g/mol)以下、400(g/mol)以下、300(g/mol)以下または200(g/mol)以下である。
【0061】
エポキシ樹脂のMnは、例えば、300~3000である。一実施形態では、エポキシ樹脂のMnは、300以上、500以上、1000以上、1500以上、2000以上または2500以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂のMnは、3000以下、2500以下、2000以下、1500以下、1000以下または500以下である。
【0062】
エマルション中のエポキシ樹脂は、粒子状で第2剤に存在する。そして、エポキシ樹脂の粒子径は、100~3000nmである。エポキシ樹脂の粒子径が100nm未満では、40℃でも良好なポットライフが得られない。また、エポキシ樹脂の粒子径が3000nmを超えると、凍解安定性が不十分となる。一実施形態では、エポキシ樹脂の粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1000nm以上、1500nm以上、2000nm以上または2500nm以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂の粒子径は、3000nm以下、2500nm以下、2000nm以下、1500nm以下、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下または200nm以下である。さらに別の実施形態では、エポキシ樹脂の粒子径は、150~2500nmである。
【0063】
エポキシ樹脂の粒子径100~3000nmは、平均粒子径であるため、平均粒子径が100~3000nmである限り、エポキシ樹脂は、粒子径が100nm未満の粒子または3000nmを超える粒子を含んでいてもよい。
【0064】
エポキシ樹脂の量は、水性塗料組成物(すなわち、第1剤および第2剤の合計)中の全固形分に対して、エポキシ樹脂の固形分として、例えば、3~50質量%である。一実施形態では、エポキシ樹脂の固形分量は、水性塗料組成物中の全固形分に対して、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上または45質量%以上である。別の実施形態では、エポキシ樹脂の固形分量は、水性塗料組成物中の全固形分に対して、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下または5質量%以下である。
【0065】
第2剤のその他の成分
第2剤は、エポキシ樹脂に加えて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて、造膜助剤、pH調整剤、顔料、分散剤、粘性調整剤、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、沈降防止剤、防腐剤、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、水、有機溶剤などを含んでいてもよい。これらのその他の成分は、例えば、特許文献1に記載の成分を用いることができる。
【0066】
第1剤および第2剤には、この他、例えば、特許文献1に記載の非硬化性樹脂、換言すると、水性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂と硬化反応し得る官能基を有しない熱可塑性樹脂;またはアルコキシシラン化合物を含んでいてもよい。
【0067】
水性塗料組成物の調製方法
本発明の水性塗料組成物の調製方法は、水性エポキシ系アミン樹脂を含む第1剤と、エポキシ樹脂エマルションを含む第2剤とを調製することができる方法であれば、特に限定されない。例えば、まず、水性エポキシ系アミン樹脂を調製して第1剤としてもよい。そして、別途、例えば、エポキシ樹脂エマルションを調製して第2剤としてもよい。あるいは、水性エポキシ系アミン樹脂と顔料分散ペーストを調製して、これらを混合し、第1剤を調製してもよい。また、別途、例えば、エポキシ樹脂エマルションと、任意の成分を調製して、これらを混合して第2剤を調製してもよい。
【0068】
・水性エポキシ系アミン樹脂の調製
水性エポキシ系アミン樹脂は、例えば、ベースエポキシ樹脂をアミン変性して調製する。ベースエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。一実施形態では、ベースエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上である。
【0069】
ベースエポキシ樹脂をアミン変性する方法は、例えば、(1)アミノ基含有ポリアミンをベースエポキシ樹脂に付加させる方法;(2)ケチミン化したアミノ基含有化合物をベースエポキシ樹脂に付加させる方法などが挙げられる。これらの方法によってベースエポキシ樹脂の1分子中にアミノ基/イミノ基と水酸基が導入される。このアミン変性したベースエポキシ樹脂を水性エポキシ系アミン樹脂として用いてもよいし、アミン変性したベースエポキシ樹脂の官能基の一部に対して、エポキシ基、酸無水物基、酸ハロゲン基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基などの官能基を有する化合物を反応させてさらに変性して水性エポキシ系アミン樹脂としてもよい。
【0070】
水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径を100~800nmに調整する方法としては、例えば、水性エポキシ系アミン樹脂の中和率を調整する方法が挙げられる。他の条件が同じである場合、水性エポキシ系アミン樹脂の中和率が高いほど、水性エポキシ系アミン樹脂の粒子径が小さくなる。
【0071】
・エポキシ樹脂エマルションの調製
エポキシ樹脂のエマルションは、例えば、エポキシ樹脂および乳化剤を水などの水性媒体中で撹拌して乳化させることによって調製することができる。
【0072】
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系ノニオン界面活性剤;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのポリエーテル類;それらノニオン界面活性剤およびポリエーテル類の少なくとも一方とジイソシアネート化合物との付加物などが挙げられる。
【0073】
エポキシ樹脂の粒子径を100~3000nmに調整する方法としては、例えば、エポキシ樹脂のノニオン変性の量を調整する方法が挙げられる。例えば、エポキシ樹脂へのポリエチレングリコールの導入量が多くなるほど、粒子径が小さくなる
【0074】
エポキシ樹脂エマルションは、市販品を用いてもよい。エポキシ樹脂エマルションの市販品としては、例えば、DIC社製の商品名「EPICLON(登録商標) EM-85-75W」などが挙げられる。
【0075】
水性塗料組成物の使用方法は、例えば、第1剤と第2剤とを混合して水性塗料組成物とした後、被塗物に水性塗料組成物を塗布し、次いで、水性塗料組成物の塗膜(ウェット塗膜)を乾燥させて塗膜(乾燥塗膜)を形成する。
【0076】
水性塗料組成物の塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布手段を用いることができる。塗布手段としては、例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、コテ、浸漬などが挙げられる。
【0077】
被塗物の種類は特に限定されず、例えば、特許文献1に記載の金属、木材、プラスチック、ゴム、石材、スレート、コンクリート、モルタル、繊維、紙、ガラス、磁器、陶器などが挙げられる。また、被塗物は、下塗り塗料などの塗膜を有していてもよい。本発明に係る水性塗料組成物は、好ましくは、金属表面および旧塗膜の一方または両方に適用される。金属としては、例えば、鉄、銅、錫、亜鉛、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。
【0078】
塗膜は、自然乾燥または加熱乾燥など公知の手段によって乾燥させることができる。一実施形態では、本発明の水性塗料組成物は、自然乾燥型水性塗料組成物である。
【0079】
自然乾燥は、常温を含む塗装環境の温度以下の温度で行うことができる。自然乾燥の場合、乾燥時間は、例えば、1時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは1週間以上である。本発明に係る水性塗料組成物によれば、40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有するため、塗料組成物が塗装環境の温度の影響を受けにくく、また、塗膜の品質も良好である。
【0080】
加熱乾燥の場合、加熱条件は適宜調節すればよいが、例えば、温度は40~120℃、時間は5~120分である。
【0081】
本発明の水性塗料組成物の塗膜上に、特許文献1に記載のように中塗り塗膜または上塗り塗膜を形成してもよい。
【0082】
本発明に係る塗膜は、上記いずれかの水性塗料組成物を用いた塗膜である。
【0083】
本発明に係る物品は、上記塗膜を有する物品である。物品としては、例えば、建築物、船舶、車両、航空機、橋梁、海上構築物、プラント、タンク、パイプ、鋼管、鋳鉄管などが挙げられる。
【実施例0084】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0085】
実施例で用いた水性エポキシ系アミン樹脂とエポキシ樹脂エマルションの材料は以下のとおりである。
ネオデカン酸グリシジルエステル:ヘキシオン社製、商品名「Cardura E10P」
ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとから合成、エポキシ当量:188g/mol
ポリエチレングリコール:三洋化成社製、商品名「PEG-2000」
イソホロンジイソシアネート:エボニックインダストリーズAG社製、商品名「VESTANAT IPDI」
ジブチルスズラウレート:日東化成社製、商品名「TVS#Tin Lau」
エポキシ樹脂エマルション:DIC社製の商品名「EPICLON(登録商標) EM-85-75W」、固形分76%
【0086】
実施例で用いた水性塗料組成物の材料は以下のとおりである。
顔料分散剤:ビックケミー社製、商品名「Disperbyk-190」
リン酸系防錆顔料:キクチカラー社製、商品名「LFボウセイMZP-500」
会合型増粘剤:ADEKA社製、商品名「アデカノールUH-420」
【0087】
実施例における略号は以下のとおりである。
BAエポキシ:液状型ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量188g/mol)
MIBK:メチルイソブチルケトン
PEG:ポリエチレングリコール
IPDI:イソホロンジイソシアネート
DBTL:ジブチルスズラウレート
EPICLON:EPICLON EM-85-75W
BYK190:Disperbyk-190
UH-420:アデカノールUH-420
DPnB:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル
PnB:プロピレングリコールモノブチルエーテル
DIBA:ジイソブチルアジペート
PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0088】
実施例で調製した水性エポキシ系アミン樹脂のアミン当量は、原料配合量から算出した。
【0089】
水性エポキシ系アミン樹脂およびエポキシ樹脂の粒子径は、JIS Z 8828:2019に準拠して、温度23℃でELSZ-1000ZSで測定した流体力学的平均粒子径を粒子径とした。
【0090】
ケチミン化合物の調製
撹拌機、冷却器、窒素導入管、脱水装置および温度計を備えた反応槽に、28.05質量部のジエチレントリアミンおよび81.69質量部のMIBKを仕込んだ。次いで反応槽を100℃に保温してから10時間かけて140℃まで昇温した。次いで、140℃で保温しながらアミン当量が120g/molになるまで脱水反応を進めて、ジエチレントリアミンのケチミン化合物を得た。ケチミン化合物中のジエチレントリアミン量は28%である。このケチミン化合物を73質量%MIBK溶液として、後述の水性エポキシ系アミン樹脂の調製で使用した。
【0091】
水性エポキシ系アミン樹脂の調製例1
撹拌機、冷却器、窒素導入管および温度計を備えた反応槽に、690質量部のBAエポキシ、304.8質量部のビスフェノールA、190質量部のMIBKを仕込んだ。次いで、1質量部のベンジルジメチルアミンの存在下、エポキシ当量が1000g/molになるまで117℃で反応させてベースエポキシ樹脂を得た。次いで、360質量部のケチミン化合物(固形分262.8質量部)を加え、117℃で1時間反応させた。次いで、27質量部のイオン交換水、187.5質量部のネオデカン酸グリシジルエステルを仕込み、100℃で2時間反応させた。次いで、MIBKで不揮発分75質量%になるまで希釈してアミン当量が1200g/molのエポキシ系アミン樹脂を得た。次いで、中和率が20%となるように酢酸を加えた後、イオン交換水を加えて希釈した。次いで、固形分が40質量%となるまで減圧下でMIBKと水を除去して、乳白色の水性(水分散性)エポキシ系アミン樹脂1を得た。
【0092】
調製例2、4、5
配合を表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様に反応と処理を行い、それぞれ、乳白色の水性(水分散性)エポキシ系アミン樹脂2、4、5を得た。
【0093】
調製例3
撹拌機、冷却器、窒素導入管および温度計を備えた反応槽に、2000質量部のBAエポキシ、1100.2質量部のビスフェノールA、1100質量部のMIBKを仕込み、8質量部のベンジルジメチルアミンの存在下、エポキシ当量が3000g/molになるまで117℃で反応させてベースエポキシ樹脂を得た。次いで、360質量部のケチミン化合物を加え、117℃で1時間反応させた。次いで、MIBKで不揮発分60%になるまで希釈してアミン当量が1700g/molのエポキシ系アミン樹脂を得た。次いで、中和率が50%となるように酢酸を加えた後、イオン交換水を加えて希釈した。次いで、固形分が40質量%となるまで減圧下でMIBKと水を除去して、乳白色の水性(水分散性)エポキシ系アミン樹脂3を得た。
【0094】
比較調製例1~3、5~7
配合を表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様に反応と処理を行い、それぞれ、乳白色の比較水性エポキシ系アミン樹脂1~3、5~7を得た。
【0095】
比較調製例5
配合を表1に示すように変更したこと以外は、調製例3と同様に反応と処理を行い、乳白色の比較水性エポキシ系アミン樹脂4を得た。
【0096】
【表1】
【0097】
エポキシ樹脂エマルションの調製例E1
撹拌機、冷却器、窒素導入管および温度計を備えた反応槽に、200.0質量部のBAエポキシおよび7.3質量部のビスフェノールAを仕込んだ。次いで、1.0質量部のベンジルジメチルアミンの存在下、エポキシ当量が230g/molになるまで117℃で反応させて中間エポキシ樹脂を得た。次いでその中間エポキシ樹脂を50℃まで冷却した後、3.00質量部のIPDIと、0.0030質量部のDBTLを加えて100℃で2時間反応させた。次いで、そこに8.78質量部のトルエンで希釈した27.03質量部のPEGを加え、窒素雰囲気中で80℃で2時間反応させて、反応混合物を得た。その混合物にイオン交換水を加えて希釈した。次いで、固形分が40質量%となるまで減圧下でトルエンおよび水を除去して、乳白色のエポキシ樹脂エマルション1を得た。
【0098】
調製例E2
調製例E1において、反応槽に表2に示す配合のBAエポキシ、ビスフェノールAおよびMIBKを仕込んだことと、添加したIPDI、DBTL、トルエンおよびPEGの量を、それぞれ、表2に示す配合としたこと以外は、調製例E1と同じ反応と処理を行い、乳白色のエポキシ樹脂エマルション2を得た。
【0099】
調製例E3、E4
表2に示す配合とエポキシ当量に変更したこと以外は、調製例E2と同じ反応と処理を行い、それぞれ、乳白色のエポキシ樹脂エマルション3、4を得た。
【0100】
調製例E5
表2に示す配合に変更したこと以外は、調製例E1と同じ反応と処理を行い、乳白色のエポキシ樹脂エマルション5を得た。
【0101】
比較調製例E1、E2
表2に示す配合とエポキシ当量に変更したこと以外は、調製例E1と同じ反応と処理を行い、それぞれ、乳白色の比較エポキシ樹脂エマルション1、2を得た。
【0102】
【表2】
【0103】
実施例1
80質量部の水、25質量部の顔料分散剤、75質量部のタルク、40質量部の炭酸カルシウム、170質量部の酸化チタンおよび20質量部のリン酸系防錆顔料を混合し、ディスパーで30分間撹拌して顔料分散ペーストを調製した。
【0104】
次に、503.6質量部の水性エポキシ系アミン樹脂1、35.3質量部のDPnB、調製した顔料分散ペーストおよび5質量部の会合型増粘剤を混合し、第1剤を調製した。
【0105】
83.93質量部のエポキシ樹脂エマルション1を第2剤として用いて、第1剤と第2剤を含む水性塗料組成物を得た。
【0106】
実施例2~5
水性エポキシ系アミン樹脂とエポキシ樹脂エマルションを表3に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に第1剤と第2剤を調製し、水性塗料組成物を得た。
【0107】
【表3】
【0108】
実施例6~13
造膜助剤を表4に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に第1剤と第2剤を調製し、水性塗料組成物を得た。
【0109】
【表4】
【0110】
実施例14~18
エポキシ樹脂エマルションを表5に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に第1剤と第2剤を調製し、水性塗料組成物を得た。
【0111】
【表5】
【0112】
比較例1~9
水性エポキシ系アミン樹脂とエポキシ樹脂エマルションを表6に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に第1剤と第2剤を調製し、水性塗料組成物を得た。
【0113】
【表6】
【0114】
各実施例と比較例で得られた水性塗料組成物を用いて、以下の評価を行った。
【0115】
ポットライフの評価
得られた水性塗料組成物の第1剤と第2剤をディスパーで混合した後、40℃で6時間静置した。静置後の水性塗料組成物をガラス板にエアスプレーで塗装して試験片を作製した。試験片の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表3~6に合わせて示す。
A:塗膜ぶつが無い正常な塗膜である
B:塗膜の5%未満の面積に塗膜ぶつがある
C:塗膜の5%以上の面積に塗膜ぶつがある
D:エアスプレーで塗装できない
【0116】
凍解安定性
得られた水性塗料組成物の第1剤と第2剤とをそれぞれ、-5℃で18時間静置した後、23℃で6時間静置した。この冷温繰り返しを3セット行った後、第1剤と第2剤とをディスパーを用いて混合し、ガラス板にエアスプレーで塗装して試験片を作製した。第1剤と第2剤の混合状態および試験片の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表3~6に合わせて示す。
A:第1剤と第2剤が均一に混合でき、かつ、塗膜ぶつが無い
B:第1剤と第2剤が均一に混合できるが、塗膜の5%未満の面積で塗膜ぶつがある
C:第1剤と第2剤が均一に混合できるが、塗膜の5%以上の面積で塗膜ぶつがある
D:第1剤と第2剤が均一に混合できず、エアスプレー塗装ができない
【0117】
完全硬化前耐水性
得られた水性塗料組成物の第1剤と第2剤とをディスパーで混合した後、磨き鋼板に刷毛を用いて塗布量200g/mで塗装した。その塗装した磨き鋼板を温度5℃で8時間乾燥させて、完全に硬化していない塗膜を有する試験板を得た。その試験板を直ちに温度5℃の水中に浸漬して24時間後に引き上げた。次いで、その試験板を温度5℃で24時間静置した。試験板の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表3~6に合わせて示す。
A:塗膜外観に異常がない
B:塗膜に艶または色の変化が少しあるが、ワレまたはフクレの跡はない
C:塗膜にワレまたはフクレの跡がある。
【0118】
CCT耐食性
得られた水性塗料組成物の第1剤と第2剤とをディスパーで混合した後、寸法が縦15cm、横7cmのサンドブラスト板に刷毛を用いて塗布量200g/mで塗装した。その塗装したサンドブラスト板を温度20℃で7日間乾燥させて試験片を得た。その試験片に対し、JIS K 5600 7-9に定めるサイクル腐食試験を実施した。200サイクル後の塗膜に対して、試験片の塗膜表面積における錆の面積の割合を測定した。具体的には、1mm×1mmの面積の錆であれば面積0.01cmであり、錆の面積の割合は約0.01%となる。そして、以下の基準で評価した。結果を表3~6に合わせて示す。
A:0.05%未満
B:0.05%以上0.3%未満
C:0.3%以上
【0119】
塗料貯蔵安定性
得られた水性塗料組成物の第1剤と第2剤とをそれぞれ、50℃で60日間貯蔵した。次いで、第1剤と第2剤をディスパーで混合し、ガラス板にエアスプレーで塗装して試験片を作製した。第1剤と第2剤の貯蔵後の状態および試験片の塗膜の外観を観察し、以下の基準で評価した。結果を表3~6に合わせて示す。
A:第1剤と第2剤ともに均一な状態であり、塗膜外観に塗膜ぶつが無い
B:第1剤と第2剤の少なくとも一方で含有物の凝集または沈降が見られるが、撹拌後に塗装すると塗膜外観に塗膜ぶつが無い
C:第1剤と第2剤の少なくとも一方で含有物の甚だしい凝集または沈降が見られ、撹拌してもエアスプレー塗装ができない
【0120】
本発明によれば、40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有する2液型水性塗料を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、40℃でも良好なポットライフを有し、かつ、凍解安定性を有する2液型水性塗料を提供することができる。