(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092869
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】スタンプ台用又は浸透印用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/00 20140101AFI20240701BHJP
【FI】
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209084
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 博志
(72)【発明者】
【氏名】水野 清和
(72)【発明者】
【氏名】安江 明哲
(72)【発明者】
【氏名】小田木 俊
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕吾
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BC02
4J039BC07
4J039BC20
4J039BC22
4J039BC23
4J039BC79
4J039BE12
4J039CA01
4J039EA48
4J039GA34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象物の所望箇所に天然系抗菌剤の所望量を集中塗布可能とした、スタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を提供する。
【解決手段】天然系抗菌剤と、揮発性溶剤とを少なくとも配合することを特徴とするスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物。前記天然系抗菌剤がアリルイソチオシアネートであり、前記アリルイソチオシアネートが80~90重量%であることを特徴とするスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物。前記スタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を内蔵し、1回の捺印量を0.005mg~0.2mgとしたことを特徴とするスタンプ台又は浸透印。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然系抗菌剤と、揮発性溶剤とを少なくとも配合することを特徴とするスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物。
【請求項2】
前記天然系抗菌剤がアリルイソチオシアネートであることを特徴とする請求項1に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物。
【請求項3】
前記アリルイソチオシアネートが80~90重量%であることを特徴とする請求項2に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を内蔵し、1回の捺印量を0.005mg~0.2mgとしたことを特徴とするスタンプ台又は浸透印。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の所望箇所に天然系抗菌剤の所望量を集中塗布可能とした、スタンプ台用又は浸透印用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、わさび、とうがらし、ニンニク等から抽出される抗菌性物質アリルイソチオシアネート(イソチオシアン酸アリル)は、抗菌、消臭、鮮度保持等の効能を有することが知られている。そして、アリルイソチオシアネートを含有したシートや、アリルイソチオシアネートを含有したインキを目的物(シート等)に印刷し、種々の対象物に抗菌、消臭、鮮度保持の効果を発揮させることは特許文献1に開示がある。また、強い刺激臭を抑制するため、アリルイソチオシアネートを0.01~5重量%の割合で有機液体に溶解させ、低濃度の溶液状態で噴霧可能としたスプレー溶液も特許文献2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-241660号公報
【特許文献2】特開平02-273603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗菌効果を高めるためには、対象物の所望箇所に抗菌剤の所望量を集中塗布することが好ましい。しかし、従来のシートや印刷物では、流通等により対象物が移動する際、所望箇所からシートや印刷物がズレやすく、また、シートや印刷物に含有したアリルイソチオシアネートが固定量のため、所望量の微調整が困難だった。
また、スプレー溶液の場合、ワンプッシュの吐出量が一般的に約0.4mg~1gと多く、また広範囲に噴霧されるため、望まない箇所にまで付着し、アリルイソチオシアネートを所望箇所に所望量集中塗布することが困難だった。
そこで本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、対象物の所望箇所に天然系抗菌剤の所望量を集中塗布することができる、スタンプ台用若しくは浸透印用インキ組成物を提供することを目的としている。また、前記スタンプ台用若しくは浸透印用インキ組成物を内蔵するスタンプ台又は浸透印を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた第1の発明のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物は、天然系抗菌剤と、揮発性溶剤を少なくとも配合することを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、天然系抗菌剤がアリルイソチオシアネートであることを特徴とする第1の発明に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物である。
【0007】
第3の発明は、アリルイソチオシアネートが80~90重量%であることを特徴とする第2の発明に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物である。
【0008】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を内蔵し、1回の捺印量を0.005mg~0.2mgとしたことを特徴とするスタンプ台又は浸透印である。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明は、天然系抗菌剤と、揮発性溶剤とを少なくとも配合するスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物であるため、対象物の所望箇所に天然系抗菌剤の所望量を集中塗布できる。
【0010】
第2の発明は、天然系抗菌剤がアリルイソチオシアネートであるため、高い安全性と高い抗菌性を有するスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を得ることができる。
【0011】
第3の発明は、アリルイソチオシアネートが80~90重量%であるため、対象物の所望箇所にアリルイソチオシアネートの所望量を数回の捺印で集中塗布できる。
【0012】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明に記載のスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物を内蔵し、1回の捺印量を0.005mg~0.2mgとしたことを特徴とするスタンプ台又は浸透印であるため、所望箇所に天然系抗菌剤の所望量を集中的に塗布でき、極めて微量の塗布で抗菌効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では溶剤として揮発性溶剤を配合する。揮発性溶剤としては低級脂肪族アルコールが好ましい。低級脂肪族アルコールとは炭素数1~4の脂肪族アルコールであって、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールを指し、本発明ではこれらから選択される1又は2以上の脂肪族アルコールを用いることができる。低級脂肪族アルコールは安全性が比較的高いので好ましく、インキ全量に対して10~80重量%ほどを配合することができる。上記アルコールの中でも、エタノールが特に好ましい。
本発明では他の有機溶剤を幾分配合することもでき、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコールや、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素や、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、4-メトキシ-4-メチルペンタノン等のケトンや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステルや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテルなどを添加することができる。
上記各材料は一般工業品グレードでもよいが、対象物として弁当容器等の食品用容器等に使用する場合は、安全性の面から、食品添加物グレードを用いることが好ましい。
【0014】
本発明では、安全性が高い天然系抗菌剤を配合する。
植物系由来の天然系抗菌剤としては、ヒノキオイル、ヒバ油、アロエエキス、ヨモギェキス、ドクダミ、お茶(ポリフェノール)、ワサビ、カラシ抽出油、竹抽出油等を配当することができる。
また、動物系由来の天然系抗菌剤としては,キチン・キトサン、タンパク質系のプロタミン(白子タンパク)、プロポリス(フラボノイド化合物)、リゾチーム、ラクトフェリンなどを配合することができる。
これらの中でもワサビ、カラシ抽出油(アリルイソチオシアネート)は、高い抗菌性を有する点で特に好ましい。アリルイソチオシアネートとしては、商品名Allyl Isothiocyanate(東京化成工業株式会社製)を用いることができる。
アリルイソチオシアネートの配合量は、インキ全量に対して20~90重量%が好ましいが、80~90重量%であれば数回捺印で有効濃度を塗布することができ、特に好ましい。
【0015】
また本発明では、スタンプ台用又は浸透印用インキに用いられる、ph調整剤、浸透剤、水酸化アンモニウム・水酸化ナトリウム・尿素・ポリビニルアルコールなどの粘度調整剤、塗布位置を明確にする目的で染料・顔料等を適宜配合してもよい。
【実施例0016】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。
【0017】
本発明のインキ組成物は、揮発性溶剤中に天然系抗菌剤、必要に応じて各種添加剤を投入、1時間撹拌して調整する。
【0018】
実施例1~3及び比較例1~3の浸透印用インキ配合を表1に示す。実施例1~3と比較例1~3はそれぞれ同じ配合であるが、それらを内蔵する塗布用品が相違する。実施例は浸透印(シヤチハタ株式会社製タートスタンパー丸形11号品番XQT―11C 印面サイズ直径11mm)、比較例はスプレー容器とし、当該浸透印は捺印量が0.01mg/回となるもの、当該スプレー容器は、1プッシュで吐出量が400mgとする一般的なスプレー容器を採用した。
浸透印又はスタンプ台による1回の捺印量は、極めて微量の塗布で抗菌効果を得るためには、0.005mg~0.2mgが好ましい。これは、印面サイズを調整することにより、種々設定可能である。
【0019】
また、実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行なった際の結果を表1に示す。
抗菌性試験
(試験方法)
実施例のインキ組成物を含浸した浸透印を用いて、弁当容器の蓋裏に各インキ組成物を3回(0.03mg)又は11回(0.11mg)捺印後、30℃・80%恒温恒湿器にオープン状態で10分間放置し、蓋をして30℃・80%恒温恒湿器に1日間放置する。
比較例として、比較例のインキ組成物を含浸したスプレー容器を用いて、弁当容器の蓋裏に各インキ組成物を1回プッシュ(400mg)後、30℃・80%恒温恒湿器にオープン状態で10分間放置し、蓋をして30℃・80%恒温恒湿器に1日間放置する。
ここで、実施例、比較例とも、前記弁当容器は縦16cm×横12cmとし、上部に1cmの隙間が生じるよう白飯を詰めたものを用いた。これにより、当該弁当容器内の隙間は192mlとなる。
(結果確認方法)
○:かびが発生しなかった。×:かびが発生した。
【0020】
臭気移行性試験
(試験方法)
実施例のインキ組成物を含浸した浸透印を用いて、弁当容器の蓋裏に各インキ組成物を3回(0.03mg)又は11回(0.11mg)捺印後、30℃・80%恒温恒湿器にオープン状態で10分間放置し、蓋をして30℃・80%恒温恒湿器に放置し、1時間後、6時間後、12時間後、24時間後の白飯に対するアリルイソチオシアネート臭気の移行性を食して確認した。
比較例として、比較例のインキ組成物を含浸したスプレー容器を用いて、弁当容器の蓋裏に各インキ組成物を1回プッシュ(400mg)後、30℃・80%恒温恒湿器にオープン状態で10分間放置し、蓋をして30℃・80%恒温恒湿器に放置し、1時間後、6時間後、12時間後、24時間後の白飯に対するアリルイソチオシアネート臭気の移行性を食して確認した。
なお、弁当容器の条件は、上記抗菌性試験と同じとした。
(結果確認方法)
○:臭気が移行しなかった。△:少し臭気が移行した。×:臭気が移行した。
【0021】
なお、本実施例におけるアリルイソチオシアネート塗布量の設定は、「Preliminary examination of allyl isothiocyanate vapor for food preservation Biosci. Biotech.Biochem., 56, 1476-1477 (1992)」論文を参考にした。当該論文によれば、9菌種の細菌(Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Salmonella enteritidis、Vibrio parahaemolyticus、Pseudomonas aeruginosa)、6菌種の酵母(Saccharomyces cerevisiae、Hansenula anomala、Torulaspora delbreuckii、Zygosaccharomyces rouxii、Candida tropicalis、Canadida albicans)、10菌種のカビ(Aspergillus niger、Aspergillus flavus、Penicillium islandicum、Penicillium citrinum、Penicillium chrysogenum、Fusarium oxysporum、Fusarium graminearum、Fusarium solani、Alternaria alternata、Mucor racemosus)は、いずれも気相中濃度16~110ng/mlのアリルイソチオシアネートにより生育が阻止されるとされ、本実施例では、アリルイソチオシアネート気相中濃度を110ng/mlとなるよう設定し弁当容器内(目的物)への塗布を行った。
本実施例及び比較例の弁当容器内の隙間は192mlとしたため、アリルイソチオシアネートは0.021mg(110ng/ml×192ml)を超えるように塗布量を設定した。
【0022】
表1から明らかなように、浸透印を用いた実施例1~3は、捺印(0.01mg/回)という極めて微量の塗布を可能とする特性を生かし、所望箇所にアリルイソチオシアネートの所望量を集中的に塗布できることが分かる。また、極めて微量の塗布でも抗菌効果を得ることが可能なため、12時間後まで白飯への臭気移行もなかった。
他方、スプレー容器を用いた比較例1~3は、1プッシュでの吐出量が400mgと多いため、抗菌効果は得られるものの、アリルイソチオシアネートの塗布量が必要量(0.021mg)の数千倍~1万倍を超える上、所望箇所以外の広範囲に付着するため、1時間後から白飯への臭気移行がおきた。
これら結果から、実施例1~3は所望箇所にアリルイソチオシアネートの所望量を集中的に塗布でき、極めて微量の塗布で抗菌効果を得られることが分かった。
なお、本実施例では浸透印のみを示したが、実施例1~3のインキ組成物をスタンプ台(捺印するたびに印面にインキが付着するスタンプ台内蔵式の回転スタンプを含む。例えばシヤチハタ株式会社製タート回転スタンプ丸形11号品番GFQ―11/MO 印面サイズ直径11mm)に内蔵し、同じ塗布量となるよう直径11mmのゴム印(シリコーン等安全性に配慮した素材)等を用いて弁当容器に捺印すれば、上記試験と同じ結果が得られるものである。
また、本実施例では弁当容器内の隙間を192ml設定としたため、実施例1では3回捺印を必要としたが、弁当容器内の隙間が73mlであれば1回、146mlであれば2回捺印で抗菌効果を得ることができる。よって、弁当容器(対象物)の隙間に対する捺印回数を設定すれば、使用者は効率よく、アリルイソチオシアネートの所望量を所望箇所に集中的に塗布することができる。
【0023】
なお、ここまで、浸透印やゴム印等の印面サイズを直径11mmで説明したが、丸、角、楕円等形状を問わず、印面サイズ(印面面積)を調整することで、1回の捺印量は種々設定可能である。
また、本実施例では対象物として弁当容器で説明したが、アリルイソチオシアネートの抗菌、消臭効果を利用し、靴や靴下の臭い抑制、ゴミ箱(生ごみ、オムツ等)の臭い抑制、季節用品等の長期保管品の臭い抑制等でも利用可能である。
【0024】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスタンプ台用又は浸透印用インキ組成物もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。