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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092882
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】鳥食品を製造する方法及び鳥食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/20 20160101AFI20240701BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240701BHJP
【FI】
A23L13/20
A23L13/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209110
(22)【出願日】2022-12-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (A)令和4年1月6日に飲食店「鳥焼き小花」(東京都渋谷区恵比寿三丁目28番2号)でメニュー提供を開始。 (B)令和4年3月1日発行の月刊誌GOETHE[ゲーテ]2022年3月号(第17巻第3号通巻191号)(株式会社幻冬舎発行)に掲載。 (C)令和4年4月1日発行の雑誌「食楽SYOKURAKU」2022 SPRING 通巻123号(株式会社徳間書店発行)に掲載。 (D)令和4年1月21日発行の雑誌「東京カレンダー」March 2022 no.248(第22巻第3号通巻248号)(東京カレンダー株式会社発行)に掲載。 (E)令和4年7月1日発行の雑誌「婦人画報」2022年8月号(通巻1429号)(株式会社ハースト婦人画報社発行)に掲載。 (F)令和4年2月7日にウェブサイト「GOETHE(ゲーテ)」(https://goetheweb.jp/gourmet/article/20220207-toriyakikohana、https://news.line.me/detail/oa-rp13691/q58tbtjcexc5)に掲載。 (G)令和4年2月5日にウェブサイト「東京カレンダーWEB」(https://tokyo-calendar.jp/article/22863?page=2)に掲載。 (H)令和4年7月29日にウェブサイト「婦人画報」(https://www.fujingaho.jp/gourmet/japanese-quisine/g40551380/washoku-shinnchizu-yakitori-toriyaki-ohana-220729/?slide=3)に掲載。 (I)令和4年7月29日にウェブサイト「ヒトサラ」(https://hitosara.com/0031523445/、https://hitosara.com/0031523445/recommend.html、https://hitosara.com/0031523445/photo/、https://hitosara.com/0031523445/food.html)に掲載。 特許30条記事欠損あり
(71)【出願人】
【識別番号】516281919
【氏名又は名称】株式会社LDHkitchen
(74)【代理人】
【識別番号】100168251
【弁理士】
【氏名又は名称】矢上 礼宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】池川 義輝
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC10
4B042AG06
4B042AH01
4B042AH03
4B042AK08
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP18
4B042AP30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鳥軟骨を利用した食品の製造及び料理メニューの提供において、食感及び食味並びに全体外観の意匠性における向上、斬新さ及び面白さを実現し得る技術を確立すること。
【解決手段】(a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、を含み、工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、鳥食品を製造する方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、
を含み、
工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、
鳥食品を製造する方法。
【請求項2】
工程(a)で取得される部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、食鳥屠体(X)の上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で食鳥屠体(X)から切り離し、部位(Y)を取得する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、食鳥屠体(X)として、食鳥屠体から内臓、脚部、手羽部及び胸肉を除去して取得した首部付き屠体を用意し、該首部付き屠体の胸骨稜において軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で該首部付き屠体から切り離し、部位(Y)を取得する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、食鳥屠体(X)としての上記首部付き屠体から、下記の(i)~(iii)に沿って、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁をそれぞれ切り離し、部位(Y)を取得する、請求項4に記載の方法:
(i)胸骨における1対の中間柱の腹部側先端、
(ii)複数の肋骨のうち最後部に位置する1対の肋骨の腹部側輪郭、並びに
(iii)1対の恥骨により構成される坐恥骨窓の下面。
【請求項6】
(b)工程(a)で取得した部位(Y)に対し、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つを施すこと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
食鳥における胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を含み、該腹壁の少なくとも一部は、これが連結する上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対して翼状の形状を有する、食鳥食品。
【請求項8】
上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向においてそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、請求項7に記載の食鳥食品。
【請求項9】
冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つが施された、請求項7に記載の食鳥食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥食品を製造する方法及び鳥食品に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥類の食肉生産や流通については、一般に、屠畜場や食肉処理場において、搬入された鳥類に対し屠殺処理や食肉処理が施され、最終的に各種部位に切り分けられた各種精肉品が生産され、それらの各種精肉品が、市場に流通しているのが現状である。そして、食品製造、食品加工、飲食業等に従事する各種事業者や一般消費者は、市場に流通する各種精肉品のうち所望の用途に応じて好適な商品が選択され及び利用されている。鳥類の精肉品の具体例としては、各種部位がまとまって存在する丸鶏の他、むね肉、モモ肉、ささみ、手羽、鳥皮、ハラミ、軟骨部位、鶏ガラ、ホルモン(各種内臓)等の各種部位に切り分けられたものが挙げられる。即ち、食鳥を用いた各種食品製造や各種料理メニューの調理においては、所望の各用途に適した種類の精肉品や部位を仕入れて利用され、あるいは複数の食肉部位を含む丸鶏や屠殺体を仕入れ、それらを各部位に切り分けた後に、それぞれの部位が各種用途に利用されているのが現状と言える。
【0003】
ところで、食用に積極的に利用される食鳥軟骨部位としては、いわゆる焼き鳥料理において利用されるヤゲン軟骨やゲンコツが挙げられる。ヤゲン軟骨は、むね肉の先端部に位置する胸骨稜軟骨部に相当し、ゲンコツは、ひざ関節部の軟骨に相当する。ヤゲン軟骨として、当該軟骨部とその周辺のむね肉部分とが連結した塊として切り分けられ、また、ゲンコツとしても、当該軟骨部とその周辺のもも肉部分とが連結した塊として切り分けられ、それらの軟骨部及び肉部分を含む塊を、串に刺し、焼き鳥料理に供することも多い。ヤゲン軟骨やゲンコツ等の鳥軟骨を利用した焼き鳥料理のメニューは、各軟骨部に独特な噛み応えと言った食感と肉部分の旨味とを同時に味わうことができことから、焼き鳥専門店等の飲食店メニューとして人気を博している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「食肉手帳、牛・豚・鳥肉のすべてがわかる決定版の肉図鑑」株式会社▲えい▼出版、2014年4月10日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、食品製造や料理メニューの提供において、需要者や取引者から、当該食品や料理メニューおける食感及び食味、並びに外観意匠性の向上、斬新さ及び面白さを求められることはしばしばである。そこで、本発明者は、鳥軟骨を利用した食品の製造及び料理メニューの提供において、食感及び食味並びに全体外観の意匠性における向上、斬新さ及び面白さを実現し得る技術の確立を新たな課題として見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、食鳥屠体から軟骨部を含む特定領域の切り出し方法について鋭意検討した結果、胸骨稜軟骨部(ヤゲン軟骨)と腹壁(ハラミ)とを含む領域を一体的に切り出し、これを食材として利用すれば、食感及び食味並びに全体外観の意匠性における向上、斬新さ及び面白さを実現し得る食品及び料理メニューの提供が可能になることを発見した。本発明は、係る発見により完成された発明である。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によれば、以下が提供される。
[1](a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、
を含み、
工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、
鳥食品を製造する方法。
【0008】
[2]工程(a)で取得される部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、[1]に記載の方法。
【0009】
[3]工程(a)において、食鳥屠体(X)の上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で食鳥屠体(X)から切り離し、部位(Y)を取得する、[1]又は[2]に記載の方法。
【0010】
[4]工程(a)において、食鳥屠体(X)として、食鳥屠体から内臓、脚部、手羽部及び胸肉を除去して取得した首部付き屠体を用意し、該首部付き屠体の胸骨稜において軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で該首部付き屠体から切り離し、部位(Y)を取得する、[1]~[3]の何れか1つに記載の方法。
【0011】
[5]工程(a)において、上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、食鳥屠体(X)としての上記首部付き屠体から、下記の(i)~(iii)に沿って、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁をそれぞれ切り離し、部位(Y)を取得する、[4]に記載の方法:
(i)胸骨における1対の中間柱の腹部側先端、
(ii)複数の肋骨のうち最後部に位置する1対の肋骨の腹部側輪郭、並びに
(iii)1対の恥骨により構成される坐恥骨窓の下面。
【0012】
[6](b)工程(a)で取得した部位(Y)に対し、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つを施すこと、を更に含む、[1]~[5]の何れか1つに記載の方法。
【0013】
[7]食鳥における胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を含み、該腹壁の少なくとも一部は、これが連結する上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対して翼状の形状を有する、食鳥食品。
【0014】
[8]上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向においてそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、[7]に記載の食鳥食品。
【0015】
[9]冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つが施された、[7]又は[8]に記載の食鳥食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食鳥における胸骨稜軟骨部(ヤゲン軟骨)に独特の食感と、腹壁部位(ハラミ)に独特の食味とを同時に味わうことができる。加えて、本発明によれば、胸骨稜軟骨部に対して腹壁部位が翼形状を有している点で、食品や料理メニューにおける外観意匠性の向上、斬新さ及び面白さも実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】鳥類の骨格を示す模式図である。
図2】鳥類の胸骨の構造を示す模式図である。
図3】本発明に係る鳥食品の製造方法において材料として利用され得る首部付き屠体の一例を示す図である。
図4図3に示す首部付き屠体に含まれる骨格の位置を示す模式図である。
図5】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(平面図)である。
図6】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(底面図)である。
図7】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(左側面図)である。
図8】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(背面図)である。
図9】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(正面図)である。
図10】本発明に係る鳥食品の一例を示す外観図(斜視図)である。
図11】本発明に係る鳥食品の一例における寸法を説明する模式図である。
図12】本発明に係る鳥食品の一例の外観写真(調理前)である。
図13】本発明に係る鳥食品の一例の外観写真(加熱調理後)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(用語の説明)
本発明において「食鳥」とは、字義どおりに解釈すれば足り、食用に利用され得る鳥類を意味する。
本発明に係る鳥食品は、後述のとおり、「胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)」を主要な構成要素として含むものであり、当該部位(Y)が、所定の構成ないし形状を有することを特徴としている。この点で、本発明において利用される「食鳥」の種類は、当該所定の構成ないし形状を有する部位(Y)を取得できるものでありかつ食用に利用できるものである限り、特に限定無く用いることができる。本発明における「食鳥」の具体例として、ブロイラー用種、各種の地鶏、銘柄鶏、合鴨、真鴨、七面鳥、ダチョウ、アヒル、シャモ、キジ等の鳥類が挙げられる。
【0019】
本発明において、「胸骨稜」とは、字義通りに解釈すれば良く、鳥類における胸骨を構成する1要素である。
ここで、鳥の胸骨の構造を図1及び2に示す。図2(a)は、内臓が位置する側を上方から視た図である。図2(b)は、図1に相応して胸骨を側面から視た図である。より詳細には、これらの図に示すとおり、鳥類の胸骨130は、概略、1つの胸骨稜(竜骨突起、正中柱)130c、1対の中間柱130b、1対の外側柱130a等の部位で構成されているが、本発明における部位(Y)は、胸骨の構成要素のうち胸骨稜(竜骨突起)130cの先端付近に存在する軟骨部132(胸骨稜軟骨部132)の少なくとも一部を含むものである。胸骨稜130cにおける軟骨部132は、食肉業界では通称ヤゲン軟骨(薬研軟骨)と呼ばれる部位であり、当該部位に特徴的な噛み応えのある食感を有する。この点、本発明に係る鳥食品も、当該部位を含むものであることから当該食感を実現できる。
【0020】
本発明において、「腹壁」とは、字義どおりに解釈すれば足り、内臓を取り囲んでいる部位に相当する。鳥類における「腹壁」は、いわゆる腹肉と呼ばれる筋肉を主に含む。「腹壁」(腹筋)は、解剖学的には、外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋、腹横筋等から構成されるものであるが、食肉業界では通称「ハラミ」と呼ばれる食材部位に相当し、他の食材部位と比較する独特の旨味を有することを特徴とする部位である。したがって、当該部位を含むものである食材部位(Y)を含む本発明に係る鳥食品によれば、上記ヤゲン軟骨に独特の食感や食味に加え、ハラミに独特の食味や旨味を同時に味わうことができる。
以下、本発明について、具体的な実施形態を示しながら詳述する。
【0021】
<第一の態様>
本発明の第一の態様によれば、下記の方法が提供される。
(a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜軟骨部から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、
を含み、
工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、
鳥食品を製造する方法。
【0022】
工程(a)において、「胸骨稜軟骨部と胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)」は、これを字義通りに解釈すれば足り、食鳥屠体(X)として、胸骨稜軟骨部(ヤゲン)と、当該軟骨部に連結する腹壁(ハラミ)とを少なくとも含む、食肉加工済みの食鳥屠体を利用すればよい。
【0023】
食鳥屠体(X)として、例えば、丸鶏等の食鳥屠体から各種内臓(鳥もつ)、脚部、手羽部及び胸肉を除去して取得した首部付き屠体を利用することができる。さらに、特定の実施形態では、食鳥屠体(X)として、丸鶏等の食鳥屠体から各種内臓(鳥もつ)、胸骨稜軟骨部(ヤゲン)及び腹壁(ハラミ)を覆う鳥皮部分の少なくとも一部、脚部、手羽部、胸肉、頭部を除去して取得した首部付き屠体を利用することができる。このような首部付き屠体の例を図3及び図4に示す。図3(a)は、該首部付き屠体200の外観を示す模式図である。図3(b)は、丸鶏等から実際に作製した首部付き屠体の外観写真である。図4は、該首部付き屠体200の内部に含まれる骨格を示す模式図である。
【0024】
図1~4から把握されるとおり、食鳥屠体(X)としての当該首部付き屠体200は、複数頚椎や周辺の筋肉等で構成される首部204;複数の椎肋骨118a及び胸肋骨118bを含む肋骨118、鎖骨122、肩甲骨126、胸椎(癒合胸椎)106、尾椎108、座骨134、恥骨135等の骨格;胸骨稜軟骨部132を含む胸骨稜(竜骨突起、正中柱)130c、1対の中間柱130b及び1対の外側柱130aから主に構成される胸骨130;胸骨稜軟骨部132に連結する腹壁(ハラミ)240を含む。
なお、図3、4に示す首部付き屠体200において、腹壁(ハラミ)240の沿線にある臀部側下部には、内臓等を取り出す際に開けられた穴が存在する。
【0025】
上述のとおり、工程(a)は、食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得する工程であるが、本発明に係る方法は、工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出すことを特徴とするものである。
【0026】
部位(Y)において腹壁(ハラミ)の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部(ヤゲン)に対して翼形状を有するように食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す方法としては、例えば、食鳥屠体(X)の胸骨稜において軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁(ハラミ)の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で食鳥屠体(X)から切り離す方法が挙げられる。
【0027】
より具体的には、図2及び4に示すとおり、首部付き屠体200の胸骨稜130cにおいて、図2(a)における一点鎖線X-X´、図2(b)における一点鎖線X-Y及び図4における一点鎖線X-Yに相応する位置で、胸骨稜軟骨部132の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、図4に示す一点鎖線Y-Zに沿って上記胸骨稜軟骨部132の少なくとも一部から展延する腹壁(ハラミ)を首部付き屠体200から切り離すことにより、部位(Y)を取得することができる。なお、図4に示す一点鎖線Y-Zは、上記胸骨稜軟骨部132の左右両側のうち一方から展延する腹壁(ハラミ)を切り離すための切り取り線を示すものであるが、胸骨稜軟骨部132の左右両側のうちもう一方から展延する腹壁も、同様の手順で首部付き屠体200から切り離せばよい。
なお、上述のとおり、首部付き屠体200において、腹壁(ハラミ)240の沿線にある臀部側下部(つまり一点鎖線Y―Zの下部)は開口しているため、胸骨稜軟骨部132の少なくとも一部の左右両側において、それぞれ、一点鎖線Y-Zに沿うように腹壁(ハラミ)を首部付き屠体200から切り離せば、所望の形状を有する部位(Y)を取得することができる。
【0028】
ここで、「図4に示す一点鎖線Y-Zに沿って上記胸骨稜軟骨部132の少なくとも一部から展延する腹壁240を首部付き屠体200から切り離すこと」は、より具体的には、下記の(i)~(iii)に沿って、胸骨稜軟骨部132の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁240をそれぞれ切り離すことに一般化され、本発明の方法において、このような実施形態を好ましく採用できる。
(i)胸骨における1対の中間柱の腹部側先端、
(ii)複数の肋骨のうち最後部に位置する1対の肋骨の腹部側輪郭、並びに
(iii)1対の恥骨により構成される坐恥骨窓の下面。
【0029】
上述のような手順により工程(a)を行うと、本発明に係る鳥食品又は鳥食品を構成する要素として、1つ胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と、これから左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有する腹壁(ハラミ)から構成される部位(Y)を取得することができる。
【0030】
特定の実施形態において、本発明に係る方法は、必ずしも必須ではないが、工程(b)として、工程(a)で取得した部位(Y)に対し、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つを施すこと、を更に含んでもよい。
【0031】
調味処理としては、工程(a)で取得した部位(Y)に対し、例えば、塩、砂糖、醤油、みりん、酒、味噌、胡椒、ハーブ、香味野菜、唐辛子、特定のソース等の各種調味料を一種で又は複数種類組み合わせて加味してもよい。加熱調理処理としては、工程(a)で取得した部位(Y)に対し、例えば、湿式加熱(e.g.茹でる、煮る、蒸す、炊く)、乾式加熱(e.g.焼く、炒める、揚げる、オーブン加熱)、電磁調理器を用いた電磁誘導加熱、いわゆる電子レンジ等を用いた誘電加熱(マイクロ波加熱)を、一種で又は複数種類組み合わせて施してもよい。冷凍処理は、各種の方法を用いればよく、鳥食品としての部位(Y)を冷凍処理すれば、所定の期間保存することが可能となり、さらに冷凍状態で又冷凍食品として市場に流通させることもできる。
【0032】
なお、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち2つ以上を施す場合において、矛盾の生じない限り、各処理の順序は問わず、限定無く任意の処理を任意の順序で組み合わせて採用することができる。
【0033】
<第二の態様>
本発明の第二の態様によれば、下記の鳥食品が提供される。
食鳥における胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を含み、該腹壁の少なくとも一部は、これが連結する上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対して翼状の形状を有する、食鳥食品。
【0034】
いくつか実施形態では、部位(Y)において、上記腹壁の少なくとも一部は、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部から左右方向においてそれぞれ展延する2つの翼形状を有する。さらに、特定の実施形態では、部位(Y)において、上記腹壁の少なくとも一部は、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部から左右方向においてそれぞれ展延する2つの翼形状を有し、かつ該2つの翼形状は、互いに、胸骨稜軟骨部の中心線に対して略線対象である翼形状である。
【0035】
上述のように胸骨稜軟骨部の中心線に対して略線対象である2つの翼形状により構成される部位(Y)は、例えば、図5(平面図)、図6(底面図)、図7(左側面図)、図8(背面図)、図9(正面図)、図10図5の上面を視た斜視図)に示される外観を有する。なお、当該部位(Y)は、概略、胸骨稜軟骨部の縦方向又は垂直方向の中心線に対して概ね左右対称の形状を有しているため、その右側側面は、図7の左側面図に相応する外観を有し得る。従って、当該部位(Y)の右側側面図を省略した。特定の実施形態においては、このように図5~10によって特定される左右対称の外観形状ないし外観意匠を有する部位Yを好ましく採用することができる。
【0036】
さらに、一例として、図12(a)及び(b)に、本発明に係る方法(工程(a))により実際に取得した部位(Y)(首部付き屠体から切り出した直後の部位(Y)、加熱調理前)の外観写真を示す。図12(a)及び(b)から把握されるとおり、本発明に係る鳥食品としての部位(Y)は、ユニークな外観形状を有していることから、外観意匠性の向上、斬新さ及び面白さが実現される。
【0037】
さらに、図13(a)及び(b)に、本発明に係る方法における工程(b)として、部位(Y)に対し、炭火焼きによる加熱調理処理を施すことにより取得した調理品(いわゆる「焼き鳥」)の外観写真を示す。図13(a)及び(b)から把握されるとおり、部位(Y)に対し、炭火焼による加熱調理処理を施すと、翼形状を有する2つの腹壁部分(ハラミ)の熱収縮により、当該腹壁部分が胸骨量軟骨部に対して上方に翼を広げたような形状を呈すると共に、部位(Y)全体の表面に焼き目による色彩のコントラストが付くことから、更なる外観意匠性の向上、斬新さ及び面白さの実現が期待できる。これに加えて、食鳥における胸骨稜軟骨部(ヤゲン軟骨)に独特の食感と、腹壁部位(ハラミ)に独特の食味や旨味とを同時に味わうこともできる。
【0038】
本発明に係る鳥食品における部位(Y)の寸法は、上述のとおり、一般には、材料として利用する食鳥の大きさに依存するものとも言え、腹壁の少なくとも一部が胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対し翼形状を形成している限り特に限定されるものでもない。特定の実施形態においては、部位(Y)の寸法として、例えば、以下のような寸法を採用することができる。
(i)図11(a)に示す一対の翼形状部分における左右方向の最大長(H)は、例えば約5cm~約15cm、好ましくは約6cm~約14cm、より好ましくは約7cm~約13cm、さらにより好ましくは8cm~12cm、特に好ましくは9cm~11cm、例えば約10cm;
(ii)図11(a)に示す胸骨稜軟骨部(ヤゲン軟骨)における縦方向長さ(V)は、例えば約3cm~約7cm、好ましくは約4cm~約6cm、より好ましくは約4.5cm~約5.5cm、例えば約5cm;
(iii)図11(b)に示す胸骨稜軟骨部(ヤゲン軟骨)における厚さ(L)は、例えば約1cm~3cm、好ましくは1.5cm~2.5cm、例えば約2cm;
(iv)図11(b)に示す腹壁(ハラミ)における厚さ(L)は、例えば約3mm~1.5cm、好ましくは約3mm~約1cm、例えば約5mm。
なお、図11(a)は、図5に相応し、図11(b)は、図9に相応する。加えて、上記の(i)、(iii)及び(iii)に示す各数値範囲又は数値による寸法は、加熱前の生の部位(Y)、及び加熱後(調理後)の部位(Y)の両方において採用し得る。
【0039】
以上、本発明の具体的な実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨から逸脱しない範囲において各構成、要素及び特徴について種々の改変、修正、任意の組合せが採用され得る。なお、本発明において「含む」及び「有する」の語はそれぞれ、特に断わりのない限り、これらの語が目的語として言及する要素以外の要素の存在を排除するものではなく、これらの用語は混用される。なお、本発明に係る方法及び鳥食品についてそれぞれ示した実施形態並びに構成要素及び技術的特徴は、特に矛盾が生じない限り、本発明に係る方法及び鳥食品のそれぞれにおいて相互に採用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、食鳥を利用する食肉加工や食品製造並びに飲食業に関連する産業において極めて高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0041】
100 鳥骨格
102 頭部骨
104 首部骨(頚椎)
106 胸椎(癒合胸椎、背骨)
108 尾椎
112 翼(前肢)骨
118 肋骨
118a 椎肋骨
118b 胸肋骨
122 鎖骨
126 肩甲骨
130 胸骨
130a 外側柱
130b 中間柱
130c 胸骨稜(竜骨突起、正中柱)
132 胸骨稜軟骨部(ヤゲン)
134 座骨
135 恥骨
136 後肢骨
200 首部付き屠体
204 首部
240 腹壁(ハラミ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、
を含み、
工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して、該胸骨稜軟骨部の少なくとも一部から左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、
鳥食品を製造する方法。
【請求項2】
(a)胸骨稜軟骨部と該胸骨稜胸骨稜から展延する腹壁とを少なくとも含む食鳥屠体(X)から、上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と上記腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を切り出し、これを取得すること、及び、
(b)工程(a)で取得した部位(Y)に対し、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つを施すこと、
を含み、
工程(a)において、部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部が上記胸骨稜軟骨部に対して翼形状を有するように、食鳥屠体(X)から部位(Y)を切り出す、
鳥食品を製造する方法。
【請求項3】
工程(a)で取得される部位(Y)における上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、食鳥屠体(X)の上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で食鳥屠体(X)から切り離し、部位(Y)を取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、食鳥屠体(X)として、食鳥屠体から内臓、脚部、手羽部及び胸肉を除去して取得した首部付き屠体を用意し、該首部付き屠体の胸骨稜において軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁の少なくとも一部をこれが該軟骨部の少なくとも一部と連結した状態で該首部付き屠体から切り離し、部位(Y)を取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、上記胸骨稜において上記軟骨部の少なくとも一部と胸骨稜残部とを切断すると共に、食鳥屠体(X)としての上記首部付き屠体から、下記の(i)~(iii)に沿って、上記軟骨部の少なくとも一部の左右両側から展延する腹壁をそれぞれ切り離し、部位(Y)を取得する、請求項に記載の方法:
(i)胸骨における1対の中間柱の腹部側先端、
(ii)複数の肋骨のうち最後部に位置する1対の肋骨の腹部側輪郭、並びに
(iii)1対の恥骨により構成される坐恥骨窓の下面。
【請求項7】
(b)工程(a)で取得した部位(Y)に対し、冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つを施すこと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
食鳥における胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を含み、該腹壁の少なくとも一部は、これが連結する上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対して、該胸骨稜軟骨部の少なくとも一部から左右方向にそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、食鳥食品。
【請求項9】
食鳥における胸骨稜軟骨部の少なくとも一部と腹壁の少なくとも一部とを一体として含む部位(Y)を含み、該腹壁の少なくとも一部は、これが連結する上記胸骨稜軟骨部の少なくとも一部に対して翼状の形状を有し、
冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つが施された、食鳥食品。
【請求項10】
上記腹壁の少なくとも一部は、上記軟骨部の少なくとも一部から左右方向においてそれぞれ展延する2つの翼形状を有する、請求項に記載の食鳥食品。
【請求項11】
冷凍処理、調味処理、及び加熱調理処理のうち少なくとも1つが施された、請求項に記載の食鳥食品。