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特開2024-92902感活性光線性または感放射線性樹脂組成物、パターン形成方法および電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092902
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】感活性光線性または感放射線性樹脂組成物、パターン形成方法および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/038 20060101AFI20240701BHJP
   C08F 22/06 20060101ALI20240701BHJP
   C08F 32/00 20060101ALI20240701BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20240701BHJP
   C08F 12/04 20060101ALI20240701BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G03F7/038
C08F22/06
C08F32/00
C08F20/00
C08F12/04
G03F7/20 503
G03F7/20 504
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053668
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022207935
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】早川 瞬
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐輝
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
4J100
【Fターム(参考)】
2H197CA09
2H197CA10
2H197CE01
2H197HA03
2H225AE01P
2H225AH17
2H225AJ13
2H225AJ52
2H225AM13P
2H225AM15P
2H225AM18P
2H225AM39P
2H225AM43P
2H225AM79P
2H225AM99P
2H225AN39P
2H225BA32P
2H225CA12
2H225CB14
2H225CB18
2H225CC01
2H225CC11
4J100AB02P
4J100AB07Q
4J100AJ02P
4J100AK32P
4J100AL08Q
4J100AR11Q
4J100BA03Q
4J100BA04Q
4J100BB18Q
4J100BC09Q
4J100BC43Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100GC07
4J100GC17
4J100GC26
4J100HA08
4J100HA61
4J100HB25
4J100HC09
4J100HC45
4J100HE14
4J100JA37
(57)【要約】
【課題】EUV露光や電子線照射によるリソグラフィープロセスに好ましく適用可能な、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂(A)と、1分子中に2以上のジアジリン構造を含む化合物(B)と、を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。また、この感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を用いたパターン形成方法。さらに、このパターン形成方法で得られた、樹脂パターンが形成された基板をエッチングする工程などを含む、電子デバイスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と、1分子中に2以上のジアジリン構造を含む化合物(B)と、を含む、電子線またはEUV光用の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記化合物(B)が、以下一般式(b)で表される構造を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化1】
一般式(b)中、
EWGは、電子求引性基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは、0~4の整数を表し、
*は、他の化学構造との結合を表す。
【請求項3】
請求項2に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記化合物(B)が、以下一般式(b1)で表される構造を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化2】
一般式(b1)中、
EWGは、電子求引性基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは、0~4の整数を表し、
*は、他の化学構造との結合を表す。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、アルカリ可溶性樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、環状オレフィンに由来する構造単位を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、酸無水物に由来する構造単位を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、(メタ)アクリル系樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、以下一般式(MI-1)で表される構造単位および以下一般式(MI-2)で表される構造単位の一方または両方を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化3】
一般式(MI-1)中、
Xは、環状骨格を含む1価の有機基である。
【化4】
一般式(MI-2)中、
Aは、水素原子、または、アルカリ可溶性基を含む基である。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
ネガ型である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
非化学増幅型である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記感活性光線性または感放射線性樹脂組成物により形成した樹脂膜の、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液への溶解速度が、3~100nm/sである、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
エッチングプロセスの際のレジストパターンの形成用である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を基板上に塗布して樹脂膜を形成する第一工程と、
前記樹脂膜に電子線を照射するか、またはEUV光を照射する第二工程と、
前記第二工程後の樹脂膜を現像して、樹脂パターンが形成された基板を得る第三工程と、
を含む、パターン形成方法。
【請求項15】
請求項14に記載のパターン形成方法で得られた、樹脂パターンが形成された基板を、エッチングする第四工程と、
前記第四工程後の基板上に残存する樹脂パターンを除去する除去工程と、
を含む、電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物、パターン形成方法および電子デバイスの製造方法に関する。より具体的には、極紫外光(EUV光)によるリソグラフィープロセスに好ましく用いられる感活性光線性または感放射線性樹脂組成物、この組成物を用いたパターン形成方法および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造プロセスにおいては、リソグラフィープロセスによる微細パターンの形成が行われている。近年、集積回路の高集積化に伴い、超微細パターンの形成が要求されるようになってきている。
【0003】
理論的には、リソグラフィープロセスで用いる光の波長が短いほど、より微細なパターンを解像可能である。よって、近年では、極紫外光(EUV光)を用いたリソグラフィープロセスや、このプロセスに好ましく適用されるレジスト組成物の開発が進んでいる。
【0004】
EUV光を用いたリソグラフィープロセスに好ましく適用されるレジスト組成物としては、これまで、化学増幅型の組成物の開発が主として進められてきた。
例えば、特許文献1には、活性光線又は放射線の照射により分解して酸を発生する、特定の一般式で表される繰り返し単位(P1)、および、繰り返し単位(P1)とは異なる少なくとも1つの芳香環を有する繰り返し単位(a)を有する樹脂、を含む感活性光線性または感放射線性樹脂組成物が記載されている。特許文献1に記載の組成物で形成された膜に活性光線又は放射線を照射すると、繰り返し単位(P1)から発生した酸が、樹脂中の酸分解性保護基を脱保護し、脱保護後には、発生した酸が「再生」して樹脂中の別の酸分解性保護基を脱保護する、という化学増幅型メカニズムが起こる。膜において活性光線又は放射線が照射された部分は、脱保護により極性が変化するため、現像液への溶解性が変化する。このためパターン露光と現像によりパターン形成が可能となる。
【0005】
これに対し、上記のような化学増幅型メカニズムとは異なるメカニズムにより、現像液への溶解性が変化する感活性光線性または感放射線性樹脂組成物も知られている。例えば、特許文献2には、カルベンと反応してカルベン挿入生成物を形成可能なポリマーと、ジアジリン化合物と、を含む、光現像性組成物が記載されている。この組成物は、非化学増幅型メカニズムによりパターン形成が可能となっていると考えられる。
ただし、特許文献2には、EUV光を用いたリソグラフィープロセスに関する記載はない。特許文献2に記載の組成物は、最終製品である電子デバイス中に残存する絶縁膜を形成するために好ましく用いられるものであり、レジスト膜のように、電子デバイスの製造プロセスで用いられた後は除去される用途に用いられることは意図されていない。
【0006】
ちなみに、EUV露光装置は高価であるため、EUV露光装置そのものを用いた評価の機会は限られる。よって、EUV露光に代えて電子線照射により感活性光線性または感放射線性樹脂組成物の性能を評価することがしばしば行われる。過去の知見によれば、ある組成物に電子線照射をしたときの性能は、その組成物をEUV露光したときの性能とよく相関する。このことは、例えば非特許文献1で言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-131762号公報
【特許文献2】国際公開第2016/049123号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Volume 33, Number 2 (2020) 221-228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、これまで、EUV光を用いたリソグラフィープロセスには、化学増幅型の組成物の開発が主として進められてきた。しかしながら、なお一層の性能改良の余地があった。
【0010】
本発明の目的の1つは、EUV露光や電子線照射によるリソグラフィープロセスに好ましく適用可能な、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0012】
1.
樹脂(A)と、1分子中に2以上のジアジリン構造を含む化合物(B)と、を含む、電子線またはEUV光用の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
2.
1.に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記化合物(B)が、以下一般式(b)で表される構造を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化1】
一般式(b)中、
EWGは、電子求引性基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは、0~4の整数を表し、
*は、他の化学構造との結合を表す。
3.
1.または2.に記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記化合物(B)が、以下一般式(b1)で表される構造を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化2】
一般式(b1)中、
EWGは、電子求引性基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは、0~4の整数を表し、
*は、他の化学構造との結合を表す。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、アルカリ可溶性樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、環状オレフィンに由来する構造単位を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、酸無水物に由来する構造単位を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、(メタ)アクリル系樹脂を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)が、以下一般式(MI-1)で表される構造単位および以下一般式(MI-2)で表される構造単位の一方または両方を含む、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
【化3】
一般式(MI-1)中、
Xは、環状骨格を含む1価の有機基である。
【化4】
一般式(MI-2)中、
Aは、水素原子、または、アルカリ可溶性基を含む基である。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
ネガ型である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
11.
1.~10.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
非化学増幅型である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
前記感活性光線性または感放射線性樹脂組成物により形成した樹脂膜の、2.38質量%テトラメチルアンモニウム水溶液への溶解速度が、3~100nm/sである、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物であって、
エッチングプロセスの際のレジストパターンの形成用である、感活性光線性または感放射線性樹脂組成物。
14.
1.~13.のいずれか1つに記載の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を基板上に塗布して樹脂膜を形成する第一工程と、
前記樹脂膜に電子線を照射するか、またはEUV光を照射する第二工程と、
前記第二工程後の樹脂膜を現像して、樹脂パターンが形成された基板を得る第三工程と、
を含む、パターン形成方法。
15.
14.に記載のパターン形成方法で得られた、樹脂パターンが形成された基板を、エッチングする第四工程と、
前記第四工程後の基板上に残存する樹脂パターンを除去する除去工程と、
を含む、電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、EUV露光や電子線照射によるリソグラフィープロセスに好ましく適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書における「電子デバイス」の語は、半導体チップ、半導体素子、プリント配線基板、電気回路ディスプレイ装置、情報通信端末、発光ダイオード、物理電池、化学電池など、電子工学の技術が適用された素子、デバイス、最終製品等を包含する意味で用いられる。
【0015】
<感活性光線性または感放射線性樹脂組成物>
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、樹脂(A)と、1分子中に2以上のジアジリン構造を含む化合物(B)と、を含む。
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、電子線またはEUV光用である。つまり、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、電子線またはEUV光リソグラフィープロセスにおいて用いられる組成物である。
【0016】
ジアジリン構造とは、お互いに二重結合で結ばれた窒素原子に炭素原子が結合し、シクロプロペン様の環を作る構造のことである。
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物によって形成された樹脂膜に、EUV光が照射されると、それにより発生した二次電子の作用により、化合物(B)におけるジアリジン構造からNが脱離し、カルベン(価電子を六個しか持たず、電荷を持たない、二配位の炭素)が生成する。同様に、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物によって形成された樹脂膜に、電子線が照射されると、照射された電子により同様の化学変化(カルベンの発生)が起こる。ちなみに、ジアリジン構造を有する化合物に紫外線を照射することによりカルベンが生成することは知られていたが、本発明者らは、ジアリジン構造に「電子」が作用することによってもカルベンが生成することを、今回新たに見出した。
【0017】
カルベンは化学的に非常に活性が高い。よって、発生したカルベンは樹脂(A)と反応して結合を成する。特に、発生したカルベンはC-H結合に挿入されるため、カルベンの反応相手である樹脂(A)は特別な官能基を有している必要がない。よって、化合物(B)は様々な樹脂(A)と結合形成可能である。本実施形態においては、「1分子中に2以上のジアジリン構造を含む」化合物(B)を用いているため、樹脂(A)が化合物(B)によって「架橋」される。このため、樹脂膜において電子線またはEUV光が照射された部分は、現像液に対して不溶化または難溶化する。よって、樹脂膜に電子線またはEUV光を選択的に照射し、その後現像処理をすることで、所望のパターンを形成することができる。
【0018】
上記のようなメカニズムを考慮すると、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、非化学増幅型ということができる。
従来の化学増幅型の組成物では、電子線またはEUV光の照射により発生した酸の「拡散」が必要とされていた。しかし、酸の「拡散」は、ランダムな熱運動に起因するものであり、拡散には「ゆらぎ」が存在する。この「ゆらぎ」が、従来の化学増幅型の組成物を用いてパターンを形成した際の、パターンのエッジ部分のラフネス(デコボコ・ギザギザ)の原因の1つとなっていた可能性がある。
これに対し、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、非化学増幅型であるため、原理的に、酸の「拡散」は存在しない。このため、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を用いてパターンを形成することで、パターンのエッジ部分のラフネスを小さくできる場合がある。
【0019】
念のため述べておくと、上述の「架橋」メカニズムを考慮すると、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、通常、ネガ型である。
【0020】
さらに念のため述べておくと、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、非化学増幅型であるものの、感度が低すぎるということはない。後掲の実施例においても、通常想定される照射量の電子線により樹脂膜は硬化(現像液に不溶化)している。これは、おそらくはジアリジン構造が電子に対して十分に敏感に反応するためと推測される。
ちなみに、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を、非化学増幅型の画像形成メカニズムと、化学増幅型の画像形成メカニズムの「ハイブリッド」によりパターン形成を行うように設計してもよい。もちろん、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、非化学増幅型の画像形成メカニズムのみによりパターン形成されるものであってもよい。
【0021】
付言するに、上述の化学メカニズムを踏まえると、本実施形態において、EUV光または電子線の照射により発生するガスは、主としてNであり、原理的に揮発性の有機物は発生しない。
従来のEUVリソグラフィーにおいては、「アウトガス」が課題の1つとしてある。具体的には、EUV光の照射により発生する揮発性物質が露光装置を汚染することが問題となっており、揮発性物質は主として酸発生剤の分解物である有機物と考えられる。
これに対し、本実施形態において発生するNガスは、通常不活性であるため、基本的に露光装置を汚染しない。また、本実施形態においてパターン形成のためには酸発生剤を要しないため、酸発生剤の分解物がアウトガスとして放出されることもない。
【0022】
以上、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、1または2以上の観点で、EUVまたは電子線リソグラフィーへ好ましく適用可能である。
【0023】
(樹脂(A))
使用可能な樹脂(A)は特に限定されない。膜形成が可能であり、現像液に溶解可能な樹脂を特に制限なく使用することができる。
【0024】
上述の、カルベン生成を伴う硬化(現像液への不溶化)メカニズムを考慮すると、樹脂(A)は、C-H結合を有することが好ましい。
カルベンについては、C-H結合への挿入反応が知られている。よって、C-H結合を有する樹脂(A)を用いることにより、化合物(B)と樹脂(A)とが効率的に反応して結合形成すると考えられる。化合物(B)と樹脂(A)とが効率的に反応するということは、組成物の性能としては高感度化につながる。
【0025】
特に、カルベンのC-H結合への挿入しやすさという観点では、樹脂(A)は、直鎖または分岐のアルキル基、シクロアルキル基、脂環式基のいずれかを有することが好ましい。これら基が有するC-Hは、結合解離エネルギーの観点で、カルベンと反応しやすいと考えられる。
参考までに、文献値として、メタン(CH)のC-Hの結合解離エネルギーは439kJ/mol、エタン(CH-CH)のC-Hの結合解離エネルギーは414kJ/mol、(CHC-Hにおける一番右側のC-Hの結合解離エネルギーは389kJ/mol、ベンゼンにおけるC-Hの結合解離エネルギーは460kJ/molである。これら数値からは、直鎖のアルキル基よりも、分岐のアルキル基、シクロアルキル基、脂環式基のような、2~4級炭素を多く含む炭化水素基を有する樹脂(A)を用いることで、組成物をより高感度化することができる可能性がある。
【0026】
カルベンについては、C-H結合だけでなくO-H結合やN-H結合への挿入反応も知られている。よって、これら結合を有する樹脂(A)も好ましく用いられる。
【0027】
現像液としてアルカリ現像液を用いるときの良好な現像性の観点から、樹脂(A)は、アルカリ可溶性樹脂、つまり、アルカリ可溶性基を有しておりアルカリ現像液に可溶である樹脂を含むことが好ましい。アルカリ可溶性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などを挙げることができる。
ちなみに、現像液として有機溶剤を主成分とする現像液を用いる場合は、樹脂(A)はアルカリ可溶性でなくてもよい。
【0028】
樹脂(A)は、環状オレフィンに由来する構造単位を有する樹脂を含むことが好ましい。このような樹脂を用いることで、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を用いて形成されるレジストパターンのエッチング耐性が向上する。つまり、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を、エッチングプロセスの際のレジストパターンの形成により好ましく適用できる。
環状オレフィンの骨格としては、ノルボルネン骨格、ノルボルナジエン骨格などを挙げることができる。
【0029】
環状オレフィンに由来する構造単位として、具体的には、以下一般式(NB)で表される構造単位を挙げることができる。
【0030】
【化5】
【0031】
一般式(NB)中、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30の有機基またはアルカリ可溶性基を含む基であり、
は0、1または2である。
【0032】
一般式(NB)における、R、R、RおよびRの炭素数1~30の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
、R、RおよびRは、アルカリ可溶性基を含む基であってもよいし、アルカリ可溶性基を含まない基であってもよい。アルカリ可溶性基は、例えばフェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などであり、好ましくは-C(CFOH基である。アルカリ可溶性基を含む基は、例えば一般式-L-Aで表すことができる。この一般式において、Lは単結合または炭素数1~6のアルキレン基であり、Aはアルカリ可溶性基である。
【0033】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0034】
前述の、カルベンのC-H結合への挿入メカニズムを踏まえると、R、R、RおよびRとして、C-Hを多く含むものを選択することが、感度の一層の向上につながると考えられる。この観点では、R、R、RおよびRの有機基としては、炭素数3~30の直鎖アルキル基が好ましい。他の性能のバランスも踏まえると、R、R、RおよびRの有機基は、炭素数4~20の直鎖アルキル基が好ましく、炭素数4~10の直鎖アルキル基がより好ましい。
具体例として、環状オレフィンに由来する構造単位としてヘキシルノルボルネンに由来する構造単位を含む樹脂(A)を用いることで、感度の一層の向上を期待することができる。
【0035】
EUV光照射時の二次電子の発生効率の向上(およびそれによる感度の一層の向上)や、ドライエッチングの際のエッチング耐性の一層の向上の観点から、R、R、RおよびRの炭素数1~30の有機基は、ベンゼン環などの芳香環を含む基(アリール基、アラルキル基など)であることが好ましい。
具体例として、環状オレフィンに由来する構造単位としてフェネチルノルボルネンに由来する構造単位を含む樹脂(A)を用いることで、感度の一層の向上やエッチング耐性の一層の向上を期待することができる。
【0036】
EUV光照射時の二次電子の発生効率の向上(およびそれによる感度の一層の向上)の点では、R、R、RおよびRの炭素数1~30の有機基として、その水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換されているものも好ましく挙げられる。すなわち、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、上掲のアルキル基などの各種有機基中の水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換されているものであってもよい。このような有機基として好ましくはフルオロアルキル基、より好ましくは炭素数1~8のフルオロアルキル基、さらに好ましくはノナフルオロブチル基である。
具体例として、一般式(NB)において、R、R、RおよびRのうち1つが直鎖のノナフルオロブチル基であり、その他が水素原子である構造単位を含む樹脂(A)を用いることで、感度の一層の向上を期待することができる。
【0037】
一般式(NB)において、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つがアルカリ可溶性基を含む基である場合、アルカリ可溶性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などを挙げることができる。
、R、RおよびRは、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などのアルカリ可溶性基そのものであることができる。また、R、R、RおよびRは、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などのアルカリ可溶性基が置換した有機基であることもできる。ここでの有機基としては、R、R、RおよびRにおける炭素数1~30の有機基を挙げることができる。
特に、-C(CFOH基は、フッ素原子を含むため、樹脂(A)のアルカリ可溶性を適切に調整することに加えて、EUV光照射時の二次電子の発生効率の向上(およびそれによる感度の一層の向上)にも寄与すると考えられる。具体例として、一般式(NB)において、R、R、RおよびRのうち1つが-C(CFOHを含む基であり、その他が水素原子である構造単位を含む樹脂(A)を用いることで、樹脂(A)のアルカリ可溶性を適切に調整することができ、かつ、感度の一層の向上を期待することができる。
【0038】
樹脂(A)は、環状オレフィンに由来する構造単位を、1または2以上含むことができる。
例えば、樹脂(A)は、環状オレフィンに由来する構造単位として、一般式(NB)においてR、R、RおよびRが水素原子または炭素数1~30の有機基であるものと、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つがアルカリ可溶性基を含む基であるものと、の両方を含むことができる。
【0039】
樹脂(A)が、環状オレフィンに由来する構造単位を含む場合、その構造単位の樹脂(A)中の比率は、例えば30~70mol%、好ましくは40~60mol%である。
【0040】
樹脂(A)は、好ましくは、酸無水物に由来する構造単位を有する樹脂を含む。
酸無水物に由来する構造単位として具体的には、以下式(MA)で表される構造単位を挙げることができる。この構造単位は、アルカリ現像液により開環して2つのカルボキシル基が生じ得る。このことは現像性の一層の向上に寄与すると考えられる。
【0041】
【化6】
【0042】
また、酸無水物に由来する構造単位としては、下記一般式(a2-1)、(a2-2)または(a2-3)により示される構造単位を挙げることもできる。これらは、上記式(MA)で表される構造単位が、アルコールや水の作用により開環したものである。
【0043】
【化7】
【0044】
一般式(a2-1)および一般式(a2-2)中、R14、R15およびR16は、それぞれ独立して炭素数1~30の有機基である。炭素数1~30の有機基の具体例としては、一般式(NB)における炭素数1~30の有機基と同様のものを挙げることができる。
【0045】
樹脂(A)は、酸無水物に由来する構造単位を1のみ含んでもよいし、2以上含んでもよい。例えば、樹脂(A)は、式(MA)で表される構造単位と、一般式(a2-1)、(a2-2)または(a2-3)により示される構造単位のうち少なくとも1つと、を好ましく含むことができる。
【0046】
樹脂(A)が、酸無水物に由来する構造単位を含む場合、その構造単位の樹脂(A)中の比率は、例えば30~70mol%、好ましくは40~60mol%である。
【0047】
樹脂(A)は、フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂を含んでもよい。具体的には、樹脂(A)は、電子線またはEUV光用の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物でしばしば用いられている、ヒドロキシスチレン系の樹脂を含んでもよい。
ヒドロキシスチレン系の樹脂として具体的には、ポリ(p-ヒドロキシスチレン)、ポリ(m-ヒドロキシスチレン)、ポリ(o-ヒドロキシスチレン)などを挙げることができる。これらの中ではポリ(p-ヒドロキシスチレン)が好ましい。また、ヒドロキシスチレン系の樹脂は、アルカリ可溶性の制御やエッチング耐性の向上のため、ヒドロキシスチレン構造単位のほか、その他の構造単位を有していてもよい。その他の構造単位としては、例えば、無置換のスチレンモノマーに由来する構造単位、ヒドロキシ基以外の置換基で置換されたスチレンモノマーに由来する構造単位、などを挙げることができる。
【0048】
樹脂(A)は、(メタ)アクリル系樹脂を含んでもよい。(メタ)アクリル系樹脂として具体的には、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー等に由来する構造単位を含む樹脂を挙げることができる。
エッチング耐性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂は、脂環式骨格を含むことが好ましい。脂環式骨格としては、アダマンタン骨格、ノルボルナン骨格などを挙げることができる。
【0049】
樹脂(A)は、以下一般式(MI-1)で表される構造単位および以下一般式(MI-2)で表される構造単位の一方または両方を含んでもよい。
【0050】
【化8】
一般式(MI-1)中、
Xは、環状骨格を含む1価の有機基である。
【0051】
【化9】
【0052】
一般式(MI-2)中、
Aは、水素原子、または、アルカリ可溶性基を含む基である。
【0053】
一般式(MI-1)で表される構造単位は、極性基であるC=O構造を有するものの、基本的には疎水的である原子団Xを有する。よって、樹脂(A)のアルカリ現像液に対する溶解性を適切に調整する機能を有していると考えられる。
ポリマーに一般式(MI-2)で表される構造単位を含めることにより、アルカリ可溶性の最適化や、種々の性能の調整を行いうる。具体的には、ポリマーに一般式(MI-2)で表される構造単位を含めることにより、本実施形態の樹脂組成物を用いてパターン形成をする場合に、現像液によるパターンの膨潤を抑えやすくなる場合がある。
【0054】
一般式(MI-1)におけるXは、環状骨格を含む1価の有機基であればよい。この環状骨格は、ベンゼン環などの芳香族基であってもよいし、環状脂肪族基であってもよい。諸性能のバランスの点では、Xは、環状脂肪族基を含むことが好ましい。環状脂肪族基は好ましくは飽和しており、炭素―炭素二重結合を含まないことが好ましい。
具体的には、Xは、シクロアルキル基または環状脂肪族基であることが好ましい。より具体的には、Xは、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などであることが好ましい。
Xは置換基を有していてもいなくてもよい。アルカリ現像液に対する溶解性の適切な制御の点では、Xは置換基を有しないことが好ましい。
【0055】
一般式(MI-2)において、Aがアルカリ可溶性基を含む基である場合、Aが含むアルカリ可溶性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-C(CFOH基などを挙げることができる。
アルカリ現像液への溶解性の最適化や諸性能のバランスの観点から、Aは、フェノール性ヒドロキシ基を含む基であることが好ましい。より具体的には、Aは、-C-OHであることが好ましい。
ちなみに、Aが水素原子である場合も、一般式(MI-2)で表される構造単位は、ポリマーのアルカリ可溶性を向上させる機能を有する。これは、構造単位中の2つのカルボニル基がN原子の電子を求引することにより水素原子が解離しやすくなっているためである。
【0056】
特に、樹脂(A)は、(i)前述の環状オレフィンに由来する構造単位と、(ii)一般式(MI-1)で表される構造単位および一般式(MI-2)で表される構造単位の一方または両方と、を含む共重合体であることが好ましい。とりわけ、この共重合体において、(i)環状オレフィンに由来する構造単位は、一般式(NB)で表される構造単位を含み、そして、一般式(NB)で表される構造単位において、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つはアルカリ可溶性基を含む基であることが好ましい。
このような樹脂(A)は、特にアルカリ現像液に対する適当な溶解性を有する。よって、化合物(B)との併用により、特に微細なパターン形成が可能な樹脂組成物を構成することができる。また、このような樹脂(A)は、親水性が過度に大きくない傾向がある。よって、このような樹脂(A)と化合物(B)とを併用した樹脂組成物を用いることで、形成されるパターンの膨潤を抑えられる傾向がある。
【0057】
樹脂(A)そのもののアルカリ溶解性は、現像液への適度な溶解性などを考慮して適宜調整すればよい。
具体的には、樹脂(A)により形成した樹脂膜の、2.38質量%テトラメチルアンモニウム水溶液への溶解速度は、例えば3~500nm/s、好ましくは3~300nm/s、より好ましくは3~100nm/s、さらに好ましくは5~80nm/s、特に好ましくは20~70nm/sである。
【0058】
樹脂(A)の重量平均分子量は、現像液への適度な溶解性などを考慮して適宜調整すればよい。樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば3000~100000、好ましくは3000~50000、さらに好ましくは3000~12000、特に好ましくは3000~6000である。
パターン形成の際のパターンのラフネスの一層の低減の観点から、樹脂(A)の分散度(PDI)は、好ましくは1.1~2.0、より好ましくは1.1~1.6である。
【0059】
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、1のみの樹脂(A)を含んでもよいし、2以上の樹脂(A)を含んでもよい。
組成物中の樹脂(A)の含有量は、組成物の全不揮発成分中、通常1~30質量%、好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは1~15質量%である。
(「全不揮発成分」とは、通常、溶剤以外の全成分を意味する。)
【0060】
(化合物(B))
化合物(B)は、1分子中に2以上のジアジリン構造を含む化合物である限り、特に限定されない。
化合物(B)1分子中のジアジリン構造の個数は、通常2~6個、好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個である。
【0061】
化合物(B)は、好ましくは、以下一般式(b)で表される構造を含む。具体的には、化合物(B)は、1分子中に2以上の以下一般式(b)で表される構造を含むことができる。
【0062】
【化10】
【0063】
一般式(b)中、
EWGは、電子求引性基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは、0~4の整数を表し、
*は、他の化学構造との結合を表す。
【0064】
化合物(B)1分子中に2以上存在する一般式(b)で表される構造は、同一の構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。後者の例としては、1分子中に、nが0である一般式(b)で表される構造と、nが1である一般式(b)で表される構造と、を有する化合物(B)などが挙げられる。
【0065】
EWGは、有機化学の分野で一般に電子求引性基と認識されている任意の基であることができる。
EWGとして具体的には、フッ化アルキル基、塩素化アルキル基、-NO,-CN、-CHO,-COR,-COOR,-COOH,-SOR,-SOHなどを挙げることができる。ここで、Rは1価の有機基であり、具体的には一般式(NB)における炭素数1~30の有機基と同様のものを挙げることができる。
合成容易性やコストと、電子線またはEUV光への敏感性の観点から、REWGはフッ化アルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0066】
Rの具体例としては、一般式(NB)におけるR、R、RおよびRの炭素数1~30の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基などを挙げることができる。
化合物(B)の合成/入手容易性の観点からは、nは好ましくは0である。
【0067】
化合物(B)は、より好ましくは、以下一般式(b1)で表される構造を含む。
【0068】
【化11】
【0069】
一般式(b1)中、REWG、R、nおよび*の定義は、一般式(b)のこれらと同様である。
EWG、Rおよびnの好ましい態様も、一般式(b)で挙げたものと同様である。
【0070】
一般式(b1)で表される構造においては、酸素原子の電子供与性により、ジアリジン構造部分の反応性が高まり、電子線またはEUV光の照射によりカルベンがより発生しやすい傾向がある。つまり、一般式(b1)で表される構造を含む化合物(B)を用いることにより、感度をより高められる傾向がある。
【0071】
化合物(B)1分子中に2以上存在する一般式(b1)で表される構造は、同一の構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。後者の例としては、1分子中に、nが0である一般式(b1)で表される構造と、nが1である一般式(b1)で表される構造と、を有する化合物(B)などが挙げられる。
【0072】
化合物(B)は、具体的には以下一般式(BB)で表される構造であることができる。
【0073】
【化12】
【0074】
一般式(BB)において、
Aは、上記一般式(b)または一般式(b1)で表される基を表し、
kは、2以上の整数であり、
Lは、k価の連結基である。
【0075】
一般式(BB)においては、複数のAが存在しうる。複数のAは、同一構造であってもよいし、互いに異なる構造であってもよい。
【0076】
合成・入手容易性や、各種性能のバランスの観点から、kは2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2~3がさらに好ましい。
【0077】
Lが2価の連結基である場合、Lは、具体的には、直鎖または分岐のアルキレン基、脂環式基から2つの水素原子を除いた基、アリーレン基、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NR-(Rは1価の有機基)、-S-、-SO-、これらの基のうち2以上が連結した基、などであることができる。Lは、好ましくは、直鎖または分岐のアルキレン基、アリーレン基、-O-、または、これら基のうち2以上が連結した基である。
Lが3価以上の連結基である場合、Lは、具体的には、上記の2価の連結基からさらに1以上の水素原子を除いた基であることができる。
Lは、典型的にはk価の有機基である。
【0078】
化合物(B)の合成容易性や、適度な硬化性などの点で、L部分の「長さ」が適度であることが好ましい。
ここでのL部分の「長さ」とは、一般式(BB)で表される化合物(B)中、Lにおいて、あるAが直接共有結合している原子を起点として、L中の共有結合のみを辿って、別のAが直接共有結合している原子に到着するまで(終点)の最短経路中に存在する原子の数、と定義される。ただし、L部分のAが一般式(b1)で表される基である場合には、一般式(b1)においてベンゼン環に連結している酸素原子もLに含めて、L部分の「長さ」を求める。つまり、L部分のAが一般式(b1)で表される基である場合には、一般式(b1)における酸素原子を起点または終点とする。また、化合物(B)が3以上のAを有する場合には、定義可能な長さのうち最も短い長さを、「長さ」として採用する。例えば化合物(B)がAとしてA1、A2およびA3の3つを有し、A1からA2までの「長さ」が10、A1からA2までの「長さ」が12である場合、この化合物(B)におけるL部分の「長さ」は10である。
例えば、後掲の実施例で使用のBondLynx GEN-IにおけるL部分の「長さ」は1、BondLynx GEN-IIIaにおけるL部分の「長さ」は10、BondLynx GEN-IIIeにおけるL部分の「長さ」は14である。
【0079】
化合物(B)の合成容易性や、適度な硬化性などの点で、L部分の「長さ」は、一例として1~20、好ましくは1~16である。別の例として、L部分の「長さ」は、好ましくは6~20、より好ましくは8~20である。L部分が「適度に長い」ことにより、組成物を膜としたときの膜中での化合物(B)(または化合物(B)から生成したカルベン)が樹脂(A)と反応しやすくなり、感度の一層の向上を図れる場合がある。一方、L部分が「長すぎない」ことにより、化合物(B)(または化合物(B)から生成したカルベン)と樹脂(A)との接触が抑えられるため、組成物の経時安定性が高まる可能性がある。
【0080】
Lが電子求引性であるか、または、Lが電子求引性基で置換されていることにより、これにより組成物の経時安定性を高められる傾向がある。例えば、一般式(BB)においてLがフッ素原子を有している化合物(B)、一般式(BB)においてLがフッ素原子で置換された有機基である化合物(B)、一般式(BB)においてLがフッ化アルキレン基である化合物(B)、などを用いることで、組成物の経時安定性を高められる傾向がある。
Lが電子求引性であるか、または、Lが電子求引性基で置換されていることにより、N2が脱離してのカルベンの発生が熱力学的に若干不利となる、つまりカルベンが若干発生しにくくなると考えられる。このため、化合物(B)の意図せぬ分解が抑えられて、感度が向上すると考えられる。感度は若干悪くなる可能性はあるが、組成物の経時安定性を重視する場合には、Lが電子求引性であるか、または、Lが電子求引性基で置換されている化合物(B)を選択することが好ましい。
【0081】
化合物(B)の分子量は、典型的には100~2000、好ましくは100~1000である。化合物(B)は、典型的には低分子化合物であり、ポリマーではない。
【0082】
化合物(B)は、例えば、カナダを本拠地とするXlynX Materials Inc.社から購入することができる。
また、化合物(B)としては、特許文献2で例示されているジアリジン構造を有する化合物を具体的に挙げることもできる。
さらに、以下に示される構造を有する化合物(B)も好ましく用いられる。
【0083】
【化13】
【0084】
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、1のみの化合物(B)を含んでもよいし、2以上の化合物(B)を含んでもよい。
各種性能のバランスの観点から、組成物中の化合物(B)の量は、樹脂(A)100質量部に対して、通常5~50質量部、好ましくは8~40質量部、さらに好ましくは10~30質量部である。
【0085】
(溶剤)
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、好ましくは溶剤を含む。別の言い方として、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、好ましくは、少なくとも樹脂(A)および化合物(B)が、溶剤に溶解または分散したものである。
溶剤は、典型的には有機溶剤を含む。具体的には、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ラクトン系溶剤、カーボネート系溶剤などが挙げられる。
【0086】
好ましい溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、乳酸エチル、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、N-メチルピロリドン(NMP)、メチル-n-アミルケトン(MAK)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、シクロヘキサノン、これらの混合物、などを挙げることができる。
【0087】
溶剤を用いる場合、1のみの溶剤を用いてもよいし、2以上の溶剤を併用してもよい。
溶剤の使用量は、組成物中の不揮発成分濃度が、通常1~20質量%、好ましくは1~15質量%程度となる量で適宜調整される。
【0088】
(その他任意成分)
本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、上記以外の任意成分を含むことができる。任意成分の例としては、現像助剤、可塑剤、酸化防止剤、レベリング剤、界面活性剤、等が挙げられる。
【0089】
特に、塗布により面内均一性が良好な樹脂膜を得る観点で、1または2以上の界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤の種類は特に限定されない。溶剤に適切に溶解または分散するものを適宜用いることができる。
界面活性剤としては、例えば、米国特許出願公開第2008/0248425号明細書の[0276]に記載の界面活性剤が挙げられる。また、新秋田化成社の「エフトップ」シリーズ、スリーエム社の「フロラード」シリーズ、DIC社の「メガファック」シリーズ、AGCセイケミカル社の「サーフロン」シリーズなどを挙げることができる。
界面活性剤としては、好ましくは、フッ素系界面活性剤やシリコン系界面活性剤を用いることができる。特に、フッ素原子を含有するノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。
界面活性剤を用いる場合、その使用量は、樹脂(A)100質量部に対して、例えば0.01~3質量部、具体的には0.1~1質量部とすることができる。
【0090】
(アルカリ現像液への溶解性)
現像液としてアルカリ現像液を用いてパターンを形成する場合、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、アルカリ現像液に適度に溶解する性質を有することが好ましい。
具体的には、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物により形成した樹脂膜の、2.38質量%テトラメチルアンモニウム水溶液への溶解速度は、例えば3~500nm/s、好ましくは3~300nm/s、より好ましくは3~100nm/s、さらに好ましくは5~75nm/s、特に好ましくは10~50nm/sである。この溶解速度が適度に大きいことにより、短時間での現像が可能となるため、スループットを高めることができる。また、この溶解速度が大きすぎないことにより、現像条件が少々変動したとしても得られるパターンの形状変化が抑えられる。このことは量産プロセスにおいて好ましい特性である。
【0091】
<組成物の用途、パターン形成方法および電子デバイスの製造方法>
上述の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を基板上に塗布して樹脂膜を形成する第一工程と、
第一工程で形成された樹脂膜に電子線を照射するか、またはEUV光を照射する第二工程と、
第二工程後の樹脂膜を現像して、樹脂パターンが形成された基板を得る第三工程と、
により、基板上に樹脂パターンを形成することができる。
【0092】
また、上記のようにして得られた樹脂パターンが形成された基板を、エッチングする第四工程、
第四工程後の基板上に残存する樹脂パターンを除去する除去工程、
などの工程を行うことにより、電子デバイスを製造することができる。
【0093】
以下、これら工程について具体的に説明する。
【0094】
(第一工程:樹脂膜の形成)
樹脂膜を形成する基板は特に限定されない。例えばガラス基板、シリコンウェハ、セラミック基板、アルミ基板、SiCウエハー、GaNウエハー、銅基板、銅メッキ基板などを挙げることができる。
基板は、未加工の基板であってもよいし、電極や素子が表面に形成された基板であってもよい。
基板上に予め反射防止膜を設けておいてもよい。反射防止膜としては、チタン、二酸化チタン、窒化チタン、酸化クロム、カーボン、アモルファスシリコン等の無機膜型と、吸光剤とポリマー材料からなる有機膜型のいずれも用いることができる。また、有機反射防止膜として、ブリューワーサイエンス社製のDUV30シリーズや、DUV-40シリーズ、シプレー社製のAR-2、AR-3、AR-5等の市販の有機反射防止膜を使用することもできる。
【0095】
樹脂膜の形成方法は特に限定されない。電子デバイスの製造分野では、スピナーを用いた回転塗布が一般的だが、他の方法でもよい。例えば、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング、インクジェット法などでもよい。
【0096】
基板上に塗布された組成物の乾燥は、典型的には加熱処理により行われる。加熱温度は、通常50~140℃、好ましくは60~120℃である。溶剤の迅速かつ十分な乾燥と、化合物(B)からのカルベン発生抑制の観点から、適切な乾燥温度を設定すればよい。加熱の時間は、加熱装置により異なるが、ホットプレートを使用した場合、通常30~300秒、好ましくは60~180秒程度、熱風式オーブンを使用した場合、通常5~60分、好ましくは10~30分程度である。
【0097】
樹脂膜の膜厚(乾燥厚み)は、特に限定されず、最終的に得ようとするパターンのサイズやアスペクト比に応じて適宜調整すればよい。膜厚は、組成物中の不揮発成分濃度の調整や塗布方法の変更などにより調整可能である。膜厚は、例えば10~1000nm、具体的には20~500nmである。
【0098】
(第二工程:電子線またはEUV光の照射)
露光工程は、通常、電子線またはEUV光を樹脂膜に照射することにより行われる。
電子線を照射する場合、その照射量は、例えば10~1000μC/cm、具体的には20~500μC/cmとすることができる。電子線の加速電圧は、例えば10~200keV、具体的には30~150keVとすることができる。
EUV光を照射する場合、その照射量は、例えば0.1~500mJ/cm、具体的には1~250mJ/cmとすることができる。
【0099】
樹脂膜を「パターニング」するため、EUV光を照射する場合には、通常、フォトマスクを介してEUV光を照射する。
【0100】
必要に応じ、電子線またはEUV光の照射後、かつ第三工程(現像)の前に、樹脂膜を加熱してもよい(露光後加熱:Post Exposure Bake)。その温度は、例えば70~150℃、好ましくは70~120℃である。また、時間は、例えばホットプレートを使用した場合、通常30~300秒、好ましくは50~180秒である。
従来、露光後加熱は、化学増幅型の組成物において、活性光線または放射線の照射により発生した酸の働きによる連鎖的な反応を促進するために行われている。本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、典型的には非化学増幅型であるため、露光後加熱を行わなくてもよい。しかしながら、化合物(B)の分解の促進、かつ/または、樹脂(A)と化合物(B)との結合形成の促進のため、露光後加熱を行うことが有効な場合もある。
【0101】
(第三工程:現像)
電子線またはEUV光が照射された樹脂膜を、現像することで、パターンを得ることができる。通常、現像は、現像液を用い、浸漬法、パドル法、回転スプレー法などの方法により行うことができる。現像により、通常、感光性樹脂膜の未露光部が溶出除去され、ネガ型のパターンが得られる。
【0102】
現像液としては、通常、アルカリ水溶液が用いられる。アルカリ水溶液として具体的には、(i)水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニアなどの無機アルカリ水溶液、(ii)エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン水溶液、(iii)テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩の水溶液などが挙げられる。
現像液としては、特に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液が好ましい。テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの濃度は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0103】
また、現像液としては、有機溶剤を含有する現像液、具体的には有機溶剤を主成分とする現像液(現像液の50質量%以上が有機溶剤である)を用いることもできる。有機溶剤を含有する現像液として、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、アミド系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などを用いることができる。有機溶剤を含有する現像液についてより具体的には、特許文献1の段落0299~0305の記載を参考にすることができる。
【0104】
第三工程を経ることにより、基板上に樹脂パターンを得ることができる。現像の後、リンス液により樹脂パターンおよび基板を洗浄することが好ましい。リンス液としては、超純水やアルコールが好適である。
【0105】
(第四工程:エッチング)
上記第一~第三工程のようにして得られた樹脂パターンが形成された基板をエッチングすることで、基板を加工することができる。具体的には、樹脂パターンが形成された基板にエッチングガスを当てることで、基板における樹脂パターンが形成されていない部分にパターンを形成することができる。つまり、樹脂パターンは、エッチングの際に、基板が加工されないようにする「レジストパターン」として機能する。エッチングは、ウェットエッチングでもよいが、微細加工のしやすさの点では通常はドライエッチングである。
エッチングの具体的条件や、使用可能なエッチングガスなどについては、製造しようとする電子デバイスの構造やスペックに応じて適宜変更・最適化すればよい。
【0106】
上述のように、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物で形成したパターンは、エッチングの際にレジストパターンとして機能する。換言すると、本実施形態の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物は、好ましくは「エッチングプロセスの際のレジストパターンの形成用」である。
【0107】
(除去工程)
第四工程(エッチング)の後に残存する樹脂パターンは、通常、レジスト剥離液により除去される。
また、エッチングにより発生した残渣は、エッチング残渣除去液により除去することができる。
レジスト剥離液やエッチング残渣除去液としては、公知のものを適宜用いることができる。
【0108】
(その他工程)
電子デバイスの製造に当たっては、上記以外の種々の工程、例えば、イオンインプランテーション工程、バンプ電極形成工程、再配線形成工程などを行ってもよい。
【0109】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0110】
本発明の実施態様を、実施例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
以下において、記号「HFANB」は、以下化学式で表される化合物(モノマー)を表す。
【0111】
【化14】
【0112】
<樹脂の準備>
(ポリマーAの合成)
無水マレイン酸(58.8g、0.6mol)、HFANB(16.5 g、0.06 mol)、フェネチルノルボルネン(107g、0.54mol)および富士フイルム和光純薬社製の重合開始剤V601(13.8g、0.06mol)を、メチルエチルケトン(127g)およびトルエン(63.3g)に溶解させて溶液とした。
この溶液を、適切なサイズのフラスコに投入した。フラスコ中の溶液を10分間窒素バブリングして酸素を除去し、撹拌しながら70℃に加熱した。5時間後、反応液を室温まで冷却しイソプロパノール(2kg)に滴下し、白色の沈殿を生成した。
沈殿を濾過により得た後、真空下80℃で終夜乾燥させた。これにより白色の粉体を得た(収量146g、収率74%)。
【0113】
得られた粉体(30g)をメチルエチルケトン(70g)に溶解し、適切なサイズのフラスコへ投入した。溶液を撹拌しながら70℃まで昇温した後、反応液に1-ブタノール(73.1g)およびトリエチルアミン(4.99g)を添加し、5時間攪拌した。
攪拌終了後、反応液を室温まで冷却し、その後、88%ギ酸(7.04g)を添加した。反応液を水で3回洗浄した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶媒置換した。このようにしてポリマー溶液を得た。
【0114】
以上のようにして、以下化学式で表されるポリマーAを得た。上記において用いたトリエチルアミン等の量を踏まえると、以下化学式においてnは25以上と推定される。
標準物質としてポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定に基づく、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分散度PDIの値を後掲の表に示す。
【0115】
【化15】
【0116】
(ポリマーBの準備)
無水マレイン酸(36.8g、0.4mol)、フェネチルノルボルネン(74.4g、0.4mol)およびV601(3.45g、0.02mol)をアニソール(584g)に溶解させて溶液とした。
この溶液を、適切なサイズのフラスコに投入した。その溶液を10分間窒素バブリングして酸素を除去し、撹拌しながら90℃に加熱した。2時間後、反応液を室温まで冷却しメタノール(3kg)に滴下し、白色の沈殿を生成した。
生成した沈殿をメタノール(764g)およびアセトン(764g)で洗浄し、濾過により得た後、真空下80℃で終夜乾燥させた。これにより白色の粉体を得た(収量31.0g、収率28%)。
得られた粉体(30g)をメチルエチルケトン(70g)に溶解し、適切なフラスコへ投入した。溶液を撹拌しながら70℃まで昇温した後、反応液に1-ブタノール(73.1g)およびトリエチルアミン(4.99g)を添加し、5時間攪拌した。
攪拌終了後、反応液を室温まで冷却し、88%ギ酸(7.04g)を添加した。反応液を水で3回洗浄した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶媒置換した。このようにしてポリマー溶液を得た。
【0117】
以上のようにして、以下化学式で表されるポリマーBを得た。上記において用いたトリエチルアミン等の量を踏まえると、以下化学式においてnは25以上と推察される
標準物質としてポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定に基づく、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分散度PDIの値を後掲の表に示す。
【0118】
【化16】
【0119】
(ポリマーCの準備)
フェネチルノルボルネンを、同molのヘキシルノルボルネンに変更した以外は同様にしてポリマー溶液を得た。
【0120】
以上のようにして、以下化学式で表されるポリマーCを得た。用いたトリエチルアミン等の量を踏まえると、以下化学式においてnは25以上と推察される
標準物質としてポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定に基づく、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分散度PDIの値を後掲の表に示す。
【0121】
【化17】
【0122】
(ノボラック樹脂の準備)
住友ベークライト株式会社製のノボラック樹脂「PR-56001」を準備した。
【0123】
(フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂(ポリヒドロキシスチレン)の準備)
まず、スチレンンモノマーと、p-t-ブトキシスチレンンモノマーと、を、mol比10:90で準備した。これらモノマーをプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)溶剤中に入れた。そして、モノマー全量に対して0.8mol%のドデカンチオール(連鎖移動剤)と、モノマー全量に対して4mol%の富士フイルム和光純薬社製のアゾ重合開始剤「V-601」とを加え、70℃で6時間反応させた。このようにして、スチレンンモノマーに由来する構造単位と、p-t-ブトキシスチレンンモノマーに由来する構造単位と、を有する前駆体樹脂のPGME溶液を得た。
次に、得られた前駆体樹脂のPGME溶液に、塩酸を加え、70℃で3時間加熱した。これによりt-ブトキシ基を脱離させた。
加熱終了後、得られたポリマーを定法に従い精製した。このようにして、スチレン単位:ヒドロキシスチレン単位=10:90(mol比)のポリヒドロキシスチレンを得た。
【0124】
((メタ)アクリル系樹脂の準備)
アクリル酸モノマーと、アクリル酸2-メチルアダマンタン-2-イルモノマーと、を等mol量準備した。これらモノマーをプロピレングリコールモノメチルエーテル溶剤中に入れた。そして、モノマー全量に対して0.8mol%のドデカンチオール(連鎖移動剤)と、モノマー全量に対して4mol%の富士フイルム和光純薬社製のアゾ重合開始剤「V-601」とを加え、70℃で6時間反応させた。
反応後、得られたポリマーを定法に従い精製した。このようにして(メタ)アクリル系樹脂を得た。
【0125】
<ジアジリン構造を含む化合物の準備>
以下の3種の化合物を準備した。これらは、カナダを本拠地とするXlynX Materials Inc.社から入手した。
【0126】
【化18】
【0127】
<組成物の調製>
上掲の樹脂およびジアジリン構造を含む化合物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて溶液とした。樹脂の量は、溶液中の樹脂濃度が後掲の表に記載の量となるように調整した。また、ジアジリン構造を含む化合物の量は、後掲の表に記載の量とした(phr:樹脂の量を100質量部としたときの量)。
得られた溶液をフィルターでろ過して不純物を除いた。これにより実施例の感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を得た。
なお、一部組成物については、塗布性向上のために界面活性剤を添加した。界面活性剤としては、DIC社製のF-563(含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、ノニオン系)を用いた。
【0128】
<組成物のアルカリ溶解速度の測定>
感活性光線性または感放射線性樹脂組成物を、スピンコート法によりシリコンウェハ上に塗布し、溶剤を乾燥させて膜厚Tがおよそ1μmの樹脂膜を得た。
この樹脂膜を、25℃下で、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬した。膜厚ゼロになるまでの時間tを計測し、T/tの計算により溶解速度を算出した。
【0129】
<評価:電子線照射量と残膜率>
まず、シリコンウェハ上に、スピンコート法により組成物を塗布し、溶剤を乾燥させることにより樹脂膜を形成した。このときの樹脂膜の厚みは表1に示したとおりとした。
次に、樹脂膜に、加速電圧130keVの電子線を照射した。電子線照射量と残膜率の関係を把握するため、1枚の樹脂膜中に、電子線照射量が20~400μC/cmの間で異なるドーズの電子線を照射した複数の領域を設けた。
実施例4-2においては、電子線の照射後、露光後加熱を行った。この条件は100℃で60秒とした。
電子線の照射後(実施例4-2においては露光後加熱の後)、樹脂膜を、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬した。浸漬時間は表1に示したとおりとした。
【0130】
各種情報をまとめて表1に示す。表1中、「電子線照射量と残膜率」の欄で、「-」は未測定であることを表す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示されるとおり、実施例1~8の組成物で形成した樹脂膜に電子線を照射することにより、樹脂膜はアルカリ現像液に不溶化した。具体的には、電子線の照射量の増加に伴い残膜率が大きくなった。
つまり、実施例1~8の組成物のような、樹脂(A)と化合物(B)とを含む組成物で形成された樹脂膜に、電子線を選択的に照射することにより、パターンを形成可能なことが示された。また、電子線照射によりパターンを形成可能であることから、EUV光の選択的照射によってもパターンを形成可能なことが理解される。
【0133】
表1をより詳細に分析すると、実施例1および5と、実施例4-1の組成物(樹脂は同じだが、ジアジリン構造を含む化合物が異なる)の比較では、実施例1および5のほうが、より高感度(少ない電子線照射量で硬化しやすい)傾向がみられた。この結果から、高感度化の観点では、ジアジリン構造を含む化合物としては、BondLynx GEN-IIIaやBondLynx GEN-IIIeのような、前述の一般式(b1)で表される構造を有する化合物を用いることが好ましいと言える。
また、樹脂としては、ポリマーA~Cのような、環状オレフィンに由来する構造単位や酸無水物に由来する構造単位を有する樹脂が好ましい傾向がみられる。
さらに、実施例4-1と4-2の対比から、露光後加熱を行ったほうが感度向上を見込めることが理解される。
【0134】
<パターン露光評価>
上記<評価:電子線照射量と残膜率>において、電子線を、150μC/cmの照射量で、ライン:スペース=500nm:500nmのパターンが最終的に得られるように樹脂膜に照射した以外は、実施例1と同様のプロセスを行った。これにより基板上にラインアンドスペースパターンを得た。
得られたラインアンドスペースパターンを電子顕微鏡で観察した。ラインエッジ部分に目立ったデコボコ・ギザギザは確認されなかった。
【0135】
また、上記<評価:電子線照射量と残膜率>において、電子線を、250μC/cmの照射量で、ライン:スペース=500nm:500nmのパターンが最終的に得られるように樹脂膜に照射した以外は、実施例2と同様のプロセスを行った。これにより基板上にラインアンドスペースパターンを得た。
得られたラインアンドスペースパターンを電子顕微鏡で観察した。ラインエッジ部分に目立ったデコボコ・ギザギザは確認されなかった。
【0136】
<アウトガスに関する評価>
上記各実施例において、電子線照射により発生するアウトガスの検出を試みた。検出されたアウトガスは主としてNであった。EUV露光装置を汚染してしまう有機物は、検出できなかったか、きわめてわずかであった。
【0137】
<経時安定性に関する評価>
(経時による粘度変化)
実施例1と実施例4-1の組成物(樹脂は同じだが、ジアジリン構造を含む化合物が異なる)それぞれの粘度を、室温で、回転粘度計を用いて回転速度100rpmで測定した。これにより初期粘度ηを求めた。
また、各組成物を、室温で2週間静置した後、同様にして粘度を測定した。これにより経時後粘度ηを求めた。
そして、{(η-η)/η}×100の式から、各組成物の粘度変化率(%)を求めた。
【0138】
実施例1の組成物の粘度変化率は11%であった。これに対し、実施例4-1の組成物の粘度変化率は2%であった。つまり、実施例4-1の組成物のほうが、経時による粘度変化が小さかった。
【0139】
(経時によるアルカリ溶解速度の変化)
実施例1の組成物を室温で2週間静置した組成物を用いて、上記<組成物のアルカリ溶解速度の測定>に記載のようにしてアルカリ溶解速度を測定した。測定されたアルカリ溶解速度は5nm/s以下であり、表1に示されている実施例1の組成物のアルカリ溶解速度よりもかなり小さかった。
これに対し、実施例4-1の組成物を室温で2週間静置した組成物のアルカリ溶解速度は、表1に記載の数値と同程度であった。
【0140】
以上のことから、用いるジアジリン構造を含む化合物の構造により、組成物の経時安定性が変わりうることが理解される。ちなみに、粘度変化や溶解速度の変化の原因は、樹脂と、ジアリジン構造を含む化合物との間での反応にあると考えられる。
【0141】
<樹脂を変更した追加実施例>
実施例1~8で用いた樹脂とは異なる樹脂を合成し、その合成した樹脂を用いた樹脂組成物を調製した。そして追加評価を行った。以下に詳細を示す。
【0142】
(モノマーの準備)
以下のモノマーを準備した。
【0143】
【化19】
【0144】
(ポリマーの合成(製造))
後掲の表2に示す合成例1のポリマーは、以下のようにして合成(製造)した。
【0145】
(1)HFANB(9.2g、33mmol)、CyMI(6.0g、33mmol)およびH-MI(3.2g、33.3mmol)を量り取った。これらを、重合溶媒(アニソール、67g)中に投入した。モノマーが投入された溶液を窒素雰囲気下で撹拌しながら150℃まで加温した。
(2)富士フイルム和光純薬株式会社製の重合開始剤VR-110(0.51g、2mmol)を溶媒(アニソール、7.5g)に投入した。この重合開始剤溶液を窒素雰囲気下で150℃に加温されたモノマー重合溶液へ投入した。重合開始剤の量は、モノマー1molに対して0.02molとした。また、モノマーおよび重合開始剤の不揮発成分が20質量%程度となるように、モノマーの投入量および重合溶媒の量を調整した。
(3)上記(2)の、モノマーおよび重合開始剤が投入された重合溶媒を、窒素雰囲気下で150℃のまま1.5時間攪拌を継続した。
(4)加熱および攪拌終了後、室温まで放冷した。重合溶媒の4倍質量のヘプタンに、冷却した重合溶媒を滴下し、白色~黄色の粉体を沈殿させた。粉体をろ過し、ヘプタンで洗浄した後、80℃の真空乾燥機で終夜乾燥させ、白色~黄色のポリマー粉体を得た。
【0146】
ちなみに、得られたポリマー中の各構造単位の比率は、上記(3)の終了後の重合溶媒中の、各残存モノマーの量を、ガスクロマトグラフィー測定することにより求めた。つまり、仕込みモノマー量から残存モノマー量を引いた量のモノマーがポリマー中に導入されたとみなした。
【0147】
得られたポリマーについては、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwを求めた。
【0148】
合成例2以降のポリマーについては、使用モノマーの種類および比率、ならびに重合溶媒を表2に記載のように変更した以外は合成例1と同様にして合成した。
【0149】
(ポリマーの溶解速度の測定)
合成されたポリマーを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解して、濃度が10質量%の溶液を調製した。
この溶液をそれぞれシリコンウェハ上にスピンコートし、溶剤を乾燥させて膜厚Tがおよそ300nmの樹脂膜を得た。
この樹脂膜を、25℃下で、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬して、膜厚ゼロになるまでの時間tを計測した。
そして、T/tの計算により溶解速度を算出した。
【0150】
(感光性の樹脂組成物の調製、および評価:実施例1B~7B)
後掲の表3に記載のポリマーと、ジアリジン化合物(上掲のGEN-I、GEN-IIIaおよびGEN-IIIeのいずれか)と、を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解した。これにより感光性の樹脂組成物を調製した。
ジアリジン化合物の量は、ポリマー100質量部に対して20質量部とした。
不揮発成分濃度については、後述のアルカリ溶解性(表3)および電子線照射量と残膜率(表4)の評価用には不揮発成分濃度が10質量%となるようにした。また、ラインアンドスペース(L/S)パターン形成(表5)の評価用には不揮発成分濃度が3質量%となるようにPGMEAの量を調整した。
【0151】
得られた樹脂組成物を用いて、以下の測定・評価を行った。
【0152】
・アルカリ溶解性
樹脂組成物を、スピンコート法によりシリコンウェハ上に塗布し、溶剤を乾燥させて膜厚Tがおよそ70nmの樹脂膜を得た。
この樹脂膜を、25℃下で、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬した。膜厚ゼロになるまでの時間tを計測し、T/tの計算により溶解速度を算出した。
【0153】
・電子線照射量と残膜率
まず、シリコンウェハ上に、スピンコート法により組成物を塗布し、溶剤を乾燥させることにより樹脂膜を形成した。このときの樹脂膜の厚みは表4に示したとおりとした。
次に、樹脂膜に、加速電圧130keVの電子線を照射した。電子線照射量と残膜率の関係を把握するため、1枚の樹脂膜中に、電子線照射量が20~300μC/cmの間で異なるドーズの電子線を照射した複数の領域を設けた。
電子線の照射後、樹脂膜を、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に浸漬した。現像時間(樹脂膜を現像液に浸漬していた時間)は表4に示したとおりとした。
【0154】
・ラインアンドスペース(L/S)パターン形成
まず、シリコンウェハ上に、スピンコート法により組成物を塗布し、溶剤を乾燥させることにより樹脂膜を形成した。このときの樹脂膜の厚みは表5に示したとおりとした。
次に、樹脂膜に、加速電圧130keVの電子線を照射した。電子線の照射は、50nmラインアンドスペース(L/S)パターン、100nm L/Sパターン、または200nm L/Sパターンが形成されるように選択的に行った。ライン部への電子線の照射量については、上記[電子線照射量と残膜率]の結果を踏まえつつ、以下のようにした。
[実施例1]
200nm L/S:150μC/cm、100nm L/S:150μC/cm、50nm L/S:150μC/cm
[実施例2]
200nm L/S:150μC/cm (100nm L/S以下は満足に解像せず)
[実施例3]
200nm L/S:150μC/cm、100nm L/S:200μC/cm、50nm L/S:250μC/cm
電子線の照射後、樹脂膜を、シリコンウェハごと、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、または、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド濃度が1.19質量%になるように純水で希釈した水溶液に浸漬した。現像時間(樹脂膜を現像液に浸漬していた時間)は表5に示したとおりとした。
現像後のシリコンウェハ表面を電子顕微鏡で観察することで、L/Sパターンの解像性を評価した。また、パターンが解像していた場合、パターンの膨潤の程度を観察した。
【0155】
主としてポリマーに関する情報をまとめて表2に示す。また、主として樹脂組成物の組成および評価結果に関する情報をまとめて表3~表5に示す。
表2において、溶媒の「GBL」はγ-ブチロラクトンを意味する。
表2において、重合溶媒の混合比は質量比である。
表2において、ポリマー中の各モノマー由来の構造単位の比率の「%」は、mol%の意味である。
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
表2に示される通り、合成例1~4のポリマーは、アルカリ現像液に対して適度な溶解性を有することが確認された。また、表3に示される通り、合成例で得られたポリマーとジアリジン化合物とを用いて調製した樹脂組成物も、アルカリ現像液に対して適度な溶解性を有することが確認された。
【0161】
さらに、表4に示される樹脂組成物で形成した樹脂膜に電子線を照射することにより、樹脂膜はアルカリ現像液に不溶化した。具体的には、電子線の照射量の増加に伴い残膜率が大きくなった。つまり、表4に示される組成物は、EUV露光や電子線照射によるリソグラフィープロセスに好ましく適用可能であることが示された。
【0162】
加えて、表5に示される組成物で形成した樹脂膜に電子線を照射することにより、微細なパターンを形成することができた。特に実施例1Bおよび3Bの樹脂組成物を用いた場合、50nm L/Sという非常に微細なパターンを形成することができた。
ちなみに、電子顕微鏡での観察の限り、実施例1B~3Bで得られたL/Sパターンの、現像液による膨潤は十分に抑えられていた。