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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092914
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】炭酸感増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240701BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20240701BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240701BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20240701BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20240701BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/54
A23L2/00 T
A23L2/00 Z
A23L27/20 E
C12G3/04
C12G3/06
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086614
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2022207857の分割
【原出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千春
(72)【発明者】
【氏名】影山 廉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 将司
(72)【発明者】
【氏名】周 蘭西
(72)【発明者】
【氏名】釼持 久典
【テーマコード(参考)】
4B047
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF07
4B047LG01
4B047LG05
4B047LG06
4B047LG14
4B047LP02
4B115LG02
4B115LH03
4B115LH11
4B115LP02
4B115MA03
4B117LC14
4B117LE10
4B117LG05
4B117LG16
4B117LK04
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK16
4B117LL02
4B117LL03
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】 炭酸刺激飲食品用炭酸感増強剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
【化1】
で表わされるエステル(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基
、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足
して4以上である。)から選択される1種または2種以上を炭酸刺激飲食品用炭酸感増強剤として使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を有効成分とする、炭酸刺激飲食品用炭酸感増強剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【請求項2】
さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の炭酸刺激飲食品用炭酸感増強剤。
【請求項3】
次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を0.0005ppb~5%含有することを特徴とする、炭酸刺激飲食品用香料組成物。
【化2】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【請求項4】
さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、請求項3に記載の炭酸刺激飲食品用香料組成物。
【請求項5】
次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を0.0005ppt~50ppm含有することを特徴とする、炭酸刺激飲食品。
【化3】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の
分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【請求項6】
さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、請求項5に記載の炭酸刺激飲食品。
【請求項7】
次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を、炭酸刺激飲食品に0.0005ppt~50ppm添加することを特徴とする、炭酸刺激飲食品の製造方法。
【化4】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【請求項8】
さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することを特徴とする、請求項7に記載の炭酸刺激飲食品の製造方法。
【請求項9】
次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を、炭酸飲料に0.0005ppt~50ppm添加することを特徴とする、炭酸刺激飲食品の炭酸感増強方法。
【化5】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【請求項10】
さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することを特徴とする、請求項9に記載の炭酸刺激飲食品の炭酸感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化合物を使用する炭酸飲料などの炭酸刺激飲食品における炭酸感を増強させる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料などの炭酸刺激飲食品の分野においては、近年、炭酸刺激飲食品の摂取時に強い炭酸感を求める消費者のニーズがある。
これまでに、炭酸刺激飲食品における炭酸感を増強させるために、様々な試みがなされてきた。
炭酸刺激飲食品を収納する容器の気密性を上げることや、炭酸刺激飲食品の流通過程における炭酸ガスの漏れをも予め加味して、炭酸刺激飲食品中の炭酸ガス圧を上げておくこともそれらの試みの一つである。
また、炭酸刺激飲食品に、各種の化合物を配合することで、炭酸刺激飲食品の摂取時の炭酸感を増強する試みもなされてきた。炭酸感を増強させる有効成分として、クマリン、エレミシン、ミリスチシン、5-HMF、または5-MF(特許文献1)、炭素数5~11の2-飽和メチルケトン(特許文献2)、ロタンドン、スピラントール、またはポリゴジアール(特許文献3)、アマノリ抽出物(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-151259号公報
【特許文献2】特開2021-132581号公報
【特許文献3】特開2021-094024号公報
【特許文献4】国際公開2016/043021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~4に記載されている有効成分は主に辛味成分や強い刺激的な香味を有する成分であり、これらを含有する植物抽出物や精油が炭酸感増強剤として用いられる場合も多い。しかし、辛味成分や香味の強い成分は飲食品の香味に影響を及ぼす可能性が高く、その影響を考慮しながら使用する必要がある。また、植物抽出物や精油は天候やその他の影響により、需要に応じた量の確保が困難となる場合や、有効成分の含有量が不安定になるなど、供給や品質面に不安がある。
このため、供給や品質面で不安がなく、飲食品の香味に影響を与えることがない炭酸感増強剤の提供が求められている。
本発明は、特定の構造を有する化合物を有効成分とする新規な炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤、斯かる炭酸感増強剤を含有する炭酸刺激飲食品、斯かる炭酸刺激飲食品の製造方法、特定の構造を有する化合物を使用する炭酸刺激飲食品の炭酸感増強方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、少なくとも以下の態様を含むものである。
【0006】
<1>次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を有効成分とする、炭酸刺激飲食品用炭酸感増強剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)

<2>さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、<1>に記載の炭酸感増強剤。

<3>次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を0.0005ppb~5%含有することを特徴とする、炭酸刺激飲食品用香料組成物。
【化2】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【0007】
<4>さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、<3>に記載の炭酸刺激飲食品用香料組成物。

<5>次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を0.0005ppt~50ppm含有することを特徴とする、炭酸刺激飲食品。
【化3】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)

<6>さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、<5>に記載の炭酸刺激飲食品。

<7>次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を、炭酸刺激飲食品に0.0005ppt~50ppm添加することを特徴とする、炭酸刺激飲食品の製造方法。
【化4】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
【0008】
<8>さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することを特徴とする、<7>に記載の炭酸刺激飲食品の製造方法。

<9>次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を、炭酸飲料に0.0005ppt~50ppm添加することを特徴とする、炭酸刺激飲食品の炭酸感増強方法。
【化5】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)

<10>さらにスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することを特徴とする、<9>に記載
の炭酸刺激飲食品の炭酸感増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭酸感増強剤を炭酸飲料などの炭酸刺激飲食品に使用することにより、斯かる炭酸刺激飲食品を摂取した際の炭酸感が向上する。
本発明の炭酸感増強剤は辛味等の刺激の強い香味を飲食品に付与するおそれがないので、炭酸刺激飲食品の香味に過度な影響を与えることなく炭酸感を増強することができる。
本願明細書において、「炭酸感」あるいは「炭酸刺激」とは、炭酸ガスの気泡が口腔内や喉(中咽頭部)で発生・成長する時やはじける時に感じられる刺激を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に記載する。
本発明の炭酸感増強剤は、次の一般式(1)で表わされるエステルから選択される1種または2種以上を有効成分とするものである。
【化6】
(式中、R1は炭素数1~4の分岐もしくは直鎖状のアルキレン基、R2は炭素数1~5の分岐もしくは直鎖状のアルキル基を示し、R1とR2の炭素数は足して4以上である。)
上記の一般式(1)で表される脂肪族酸と芳香族アルコールのエステルは、フルーティー、フローラルな穏やかな香調を有し、香料素材として使用される化合物である。しかしながら、斯かる化合物が炭酸飲料等の炭酸刺激飲食品における炭酸感を増強する効果を有することは知られていなかった。
斯かる一般式で記載される化合物としては、スチラリルイソブチレート、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
スチラリルイソブチレート(CAS:7775-39-5)は、ジャスミン様のフローラ
ルな香りがあることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
スチラリルブチレート(CAS:3460-44-4)は、フローラルフルーティーな香
りがあることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
スチラリルプロピオネート(CAS:120-45-6)は、フローラルグリーンな香り
があることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
フェニルエチルイソバレレート(CAS:140-26-1)は、フルーティーなバラの
香りがあることが知られている(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB7664746.htm)。
フェニルエチルヘキサノエート(CAS:6290-37-5)は、フルーティーグリー
ンな香りがあることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
ベンジルブチレート(CAS:103-37-7)は、プラム様のフルーティーフローラ
ルな香りがあることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
ベンジルイソバレレート(CAS:103-38-8)は、重厚な花の香りを持つ香料化
合物であって、オリエンタルな香りや重厚な花の香りを有する香水に使用することが知られている(https://m.chemicalbook.com/ProductChemicalPropertiesCB7365094_JP.htm)。
【0011】
3-フェニルプロピルアセテート(CAS:122-72-5)は、フローラルでスパイ
シーな香りを有する香料化合物として知られている(https://www.chemicalbook.com/Che
micalProductProperty_JP_CB6128366.htm)。
ジメチルベンジルカルビニルアセテート(CAS:151-05-3)は、フローラルで
ウッディな香りを有する香料化合物であって、スズラン、ローズ、ゼラニウム様香料組成物の調製に使用することが知られている(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0697646.htm)。
ジメチルベンジルカルビニルブチレート(CAS:10094-34-5)は、草っぽさ
とプラム様のフルーティーな香りがあることが知られている(Fenaroli's Handbook of flavor ingredients fifth edition, 2005, CRC Press)。
上記のエステル化合物はいずれも香料素材や試薬として市販されており、市場で容易に入手することができる。
【0012】
炭酸刺激飲食品の炭酸感を向上させるために、対象の炭酸刺激飲食品に上記の一般式(1)で表わされるエステル化合物を1種以上配合することが必要であり、単独で使用してもよいし、2種以上の該エステル化合物を組み合わせて使用することもできる。2種以上
の該エステル化合物を組み合わせて使用することにより、炭酸刺激飲食品の種類に応じて所望の炭酸感や香りを調整することができる。
【0013】
また、該エステル化合物と共に、スピラントール、ポリゴジアール、メントール、またはメンチルラクテートの1種または2種以上を使用することもできる。これらの組み合わせ成分の炭酸刺激飲食品への添加濃度は、炭酸感増強効果が得られる限り制限はないが、好ましくはスピラントール:0.01~150ppb、ポリゴジアール:0.01~500ppb、メントール:0.1~1000ppb、メンチルラクテート:0.01~1000ppbであり、さらに好ましくはスピラントール:0.1~100ppb、ポリゴジ
アール:0.1~100ppb、メントール:1~100ppb、メンチルラクテート:0.1~100ppbである。
スピラントール、ポリゴジアールには、それら自身に炭酸感増強作用があることが知られている化合物である(特許文献3)。
スピラントール(Spilanthol、IUPAC名(2E,6Z,8E)-N-Isobutyl-2,6,8-decatrienamide
)は、分子式C1423NO、分子量221.34、融点23℃の化合物であり、以下の構造を有する脂肪酸アミドである。
【化7】
【0014】
スピラントールは、化学的な手法で合成された合成品の他、動植物から抽出されたもの(オランダセンニチ(Spilanthes acmella)又はキバナオランダセンニチ(Spilanthes acmella var. oleracea)の抽出物又は精油を例示することができる)であっても使用でき、また、本発明の効果が得られる限り、純度が高いものである必要はない。
ポリゴジアール(Polygodial、IUPAC名(1R,4aS,8aS)-5,5,8a-Trimethyl-1,4,4a,6,7,8-hexahydronaphthalene-1,2-dicarboxaldehyde)は、分子式C15222、分子量234.33、融点57℃の化合物であり、以下の構造を有するジテルペンアルデヒドである。
【化8】
ポリゴジアールは、化学的な手法で合成された合成品の他、動植物から抽出されたもの(そのような植物としては、ヤナギタデ(Persicaria hydropiper、別名:ウォーターペ
ッパー)、マウンテンペッパー(Tasmannia Lanceolata)、シダ植物であるBlechnum fluviatile、同Thelypteris hispidula、コケ植物であるPorella vernicosaの仲間を例示す
ることができる。そのような動物としては、ウミウシ類に属するDendrodoris limbata、Doriopsilla pharpaを例示することができる。)であってもよい。本発明ではいずれの方
法により得られたポリゴジアールであっても使用でき、また、本発明の効果が得られる限り、純度が高いものである必要はない。
【0015】
上記のスピラントール、ポリゴジアール、メントール、メンチルラクテートはいずれも口腔内で温度感覚や疼痛感覚を刺激する化合物であり、炭酸感を増強する効果を有することが知られているが、それらの炭酸刺激に対する作用や感覚刺激の程度は一様ではない。例えば、スピラントールとポリゴジアールはいずれも辛味を有するが、スピラントールの炭酸感増強効果はポリゴジアールに比べて遅効性である。また、メントールとメンチルラクテートはいずれも冷涼感を与える化合物であるが、メントールがハッカ様の強い香味と清涼感を有するのに対し、メンチルラクテートは持続する穏やかな冷涼感を付与する。そのため、本発明の一般式(1)で表されるエステル化合物とこれらの感覚刺激物質を適宜組み合わせることにより、炭酸刺激飲食品の種類に応じて炭酸刺激強度を好ましいレベルに調整することが可能となる。
【0016】
本発明の炭酸感増強剤の炭酸刺激飲食品への添加方法は、特に制限はされない。例えば、炭酸刺激を増強したい飲食品に本願発明に係る炭酸感増強剤をそのまま添加することができるし、また、水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の単独又は混合の溶剤に溶解させた希釈液剤として飲食品に添加してもよい。
さらに、例えば、本願発明に係る炭酸感増強剤を、各種の飲食品用香料と組み合わせ、炭酸感増強剤を含有する香料組成物として、炭酸刺激飲食品に添加してもよい。
ここで、組み合わせる香料として、例えば、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)等に記載された香料原料(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出精油、合成香料)、各種植物エキス、酸化防止剤等が例示される。
【0017】
本発明の炭酸感増強用香料組成物は、添加する対象の飲食品の形態に応じて適宜、剤形を変えて使用することができる。例えば、乳化剤を利用して乳化組成物として、又、賦形剤を利用して粉末として飲食品に添加することができる。
【0018】
炭酸刺激飲食品用香料組成物中における上記の一般式(1)で表わされるエステル化合物(1種または2種以上)の含有量は、0.0005ppb~5%である。好ましくは50ppb~1%であり、さらに好ましくは1ppm~1000ppmである。
【0019】
本発明の炭酸感増強剤、香料組成物は、各種の炭酸刺激飲食品に用いることができる。
炭酸刺激飲食品とは、炭酸刺激を呈する飲食物であれば特に限定は無く、炭酸飲料、炭酸刺激が付与された冷菓、キャンディ、ゼリー、グミ、錠菓、チュイーンガムなどを例示することができる。
非飲料の固形食品の態様では重曹(炭酸水素ナトリウム)と酸味料(クエン酸など)を共存させておき、口腔内で両成分が溶ける際に炭酸ガスが発生することで特有の発泡感を呈する食品(サイダー、ラムネ風の錠菓子など)、内部の空洞に炭酸ガスを封入したキャンディなどを例示することができる。
なお、炭酸飲料とは「炭酸飲料品質表示基準」(平成12年12月19日農林水産省告示第1682号)では、飲用に適した水に二酸化炭素を圧入したもの、及び、これに甘味料、酸味料、フレーバリング等を加えたものをいうが、本発明においてはさらに炭酸入りアルコール飲料も炭酸飲料に含まれる。
たとえば以下の炭酸飲料に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(1)非アルコール系炭酸飲料
炭酸入りナチュラルミネラルウォーター、炭酸水(ソーダ水)、トニックウォーター;レモン、レモンライム、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、グレープ、アップル等の香味を付与した炭酸飲料(サイダー、ラムネ、クリームソーダ等);ジンジャエール、コーラ、ガラナ飲料等の炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、ビール風味のノンアルコール炭酸飲料、シャンパン風味のノンアルコール炭酸飲料、缶チューハイ風味のノンアルコール炭酸飲料、ハイボール風味のノンアルコール炭酸飲料;エナジードリンク等の炭酸入り栄養ドリンク、炭酸入りコーヒー、炭酸入り紅茶、ルートビア。
(2)アルコール系の炭酸飲料
焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカ、テキーラ等の蒸留酒を炭酸水で割った酒類(例えば、缶チューハイ、サワー、ハイボール、カンパリソーダ等);スパークリングワイン(発泡性ワイン)、発泡日本酒、クワス;ビール、発泡酒、ビール風味の発泡アルコール飲料。
【0021】
炭酸刺激飲食品中での上記の一般式(1)で表わされるエステル化合物(1種または2種以上)の使用量は、0.0005ppt~50ppmである。好ましくは50ppt~10ppmであり、さらに好ましくは1ppb~1ppmである。炭酸刺激飲食品中で50ppmを超える量を使用すると、配合されている炭酸刺激飲食品の風味や香りが該エステル化合物の有する風味や香りによって損なわれることがあり、好ましくない。
【0022】
炭酸飲料においては、容器中において炭酸ガスが加圧により飲料に溶解しているが、開栓して常圧に戻るときに溶け込んでいた二酸化炭素が飲料からガス状の炭酸ガスの気泡となって発生する。
ヒトが感じる炭酸刺激は口腔内でその気泡がはじける際に舌の感覚細胞の圧覚又は痛覚を刺激して、独特の感覚を生じさせるという説があり、飲料の味にも影響を与える感覚であるとも考えられている。
また、溶存する二酸化炭素が味覚や体性感覚を刺激することで、我々が炭酸感と感じる感覚が誘起されるとする説もある。
炭酸感は、甘味、苦味のように感覚受容器やその作用機構の研究が進んでいる感覚に比べて、正確な科学的根拠はいまだ明らかにされておらず、一義的な定義も困難である。従って、炭酸感増強効果の評価についても、専門パネリストによる官能評価に頼らざるを得ないのが現状である。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
【0024】
(実施例1)
一般式(1)で表わされるエステル化合物として、スチラリルイソブチレート、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを選択した。これらの化合物のそれぞれを市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に表中の濃度になるよう添加して評価サンプルを作成した。
【0025】
表1の評価基準で、市販の炭酸水(有効成分無添加品)をコントロールとして、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。
パネリストの評価点の平均値を、各化合物の炭酸水中の濃度毎に表2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
パネリストは、上記化合物を配合した炭酸水を摂取し、上記化合物を加えていない炭酸水(コントロール)を摂取した際の炭酸感よりも強い炭酸感を感じた。
【0029】
(実施例2)
以下の化合物を表中の濃度になるように市販の炭酸水に添加(いずれも、合計で0.1ppm)し、表1の評価基準で、熟練したパネリスト3名にて官能評価を行った。パネリストの評価点の平均値を[表3]に示す。
【表3】
【0030】
たとえば、スチラリルイソブチレート単独を0.1ppmとなるように使用した場合の炭酸感の評価点数は5.3、フェニルエチルヘキサノエート単独を0.1ppmとなるように使用した場合の炭酸感の評価点数は5.4であったが、スチラリルイソブチレートを0.05ppmとフェニルエチルヘキサノエートを0.05ppmとを使用した場合の炭酸感は5.7と、2成分を使用することによって炭酸感が向上した。他の組み合わせにおいても、個々の化合物を倍量使用した場合と比較して、同等ないしはわずかに向上した効果があった。
【0031】
(実施例3)
一般式(1)で表わされるエステル化合物として、スチラリルイソブチレートを選択し、スピラントール、ポリゴジアール、メントール、またはメンチルラクテートと共に、表中の濃度で添加し、表1の評価基準で、熟練したパネリスト3名にて官能評価を行った。パネリストの評価点の平均値を[表4]に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
実施例2での結果と同様に、個々の化合物を倍量使用した場合と比較して、同等ないしはわずかに向上した効果があった。
【0034】
上記官能試験で、スチラリルイソブチレートに代えて、一般式(1)で表わされる他のエステル化合物を使用しても同様の効果が得られる。
【0035】
(実施例4)
本発明を使用した応用事例と共にその効果を以下に示す。
【0036】
(4-1)レモン風味炭酸飲料への適用
蒸留水194.9g、砂糖60g、果糖ブドウ糖液糖40g、レモン透明ストレート果汁3.0g、クエン酸1.0g、レモン香料1.0g及びスチラリルイソブチレート10ppm希釈品0.1gを添加し均一に溶解させた。この溶液を氷水で5 ℃ まで冷却し、250ml容量の缶に75g量りとった。この溶液に炭酸水175gを加えることにより評価サンプルを作製した。(飲料中のスチラリルイソブチレート濃度は1ppb)
また、スチラリルイソブチレートの代わりに蒸留水を添加した以外は、上記内容と同じ
方法でコントロールの評価サンプルを作製した。
レモン風味炭酸飲料について、熟練したパネリスト3名により官能評価を行った。その結果、専門パネリスト3名全員がコントロールと比較して、炭酸感が増強されたと回答した。
スチラリルイソブチレートの代わりに、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0037】
(4-2)10%オレンジ果汁入り炭酸飲料への適用
蒸留水463gにオレンジ5倍濃縮果汁20g 、果糖ブドウ糖液糖114.3g 、クエン酸1.5g 、ビタミンC0.1g 、オレンジ香料1.0g( 小川香料株式会社製)
及びスチラリルイソブチレート10ppm希釈品0.1gを添加し均一に溶解させた。
この溶液を氷水で5 ℃ まで冷却し、250ml容量の缶に150g量りとった。この溶液に炭酸水100gを加えることにより評価サンプルを作製した。(飲料中のスチラリルイソブチレート濃度は1ppb)
また、スチラリルイソブチレートの代わりに蒸留水を添加した以外は、上記内容と同じ方法でコントロールの評価サンプルを作製した。
10%オレンジ果汁入り炭酸飲料について、熟練したパネリスト3名により官能評価を行った。その結果、専門パネリスト3名全員がコントロールと比較して、炭酸感が増強されたと回答した。
スチラリルイソブチレートの代わりに、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0038】
(4-3)レモンチューハイ飲料への適用
蒸留水168.9g にウォッカ180g 、レモン透明5倍濃縮果汁6.1g 、果糖
ブドウ糖液糖42g 、クエン酸0.9g 、レモン香料2g(小川香料株式会社製) 及
びスチラリルイソブチレート10ppm希釈品0.1gを添加し均一に溶解させた。この溶液を氷水で5℃まで冷却し、250ml容量の缶に100g量りとった。この溶液に炭
酸水150gを加えることにより評価サンプルを作製した。(飲料中のスチラリルイソブチレート濃度は1ppb)
また、スチラリルイソブチレートの代わりに蒸留水を添加した以外は、上記内容と同じ方法でコントロールの評価サンプルを作製した。
レモンチューハイ飲料について、熟練したパネリスト3名により官能評価を行った。その結果、専門パネリスト3名全員がコントロールと比較して、炭酸感が増強されたと回答した。
スチラリルイソブチレートの代わりに、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0039】
(4-4)コーラ飲料への適用
市販のコーラ飲料(原材料:糖類、炭酸、カラメル色素、酸味料、香料、カフェイン)に、スチラリルイソブチレートを飲料中の濃度が1pppとなるよう添加し、評価サンプルを作製した。
上記評価サンプルついて、熟練したパネリスト3名により官能評価を行った。その結果、専門パネリスト3名全員が有効成分無添加の市販品と比較して、炭酸感が増強されたと回答した。
スチラリルイソブチレートの代わりに、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0040】
(4-5)ノンアルコールビール風味飲料への適用
市販のノンアルコールビールテイスト飲料(原材料:麦芽、ホップ、酸味料、香料、カラメル色素、酸化防止剤(ビタミンC)、甘味料(アセスルファムK))に、スチラリルイソブチレートを飲料中の濃度が1pppとなるよう添加し、評価サンプルを作製した。
上記評価サンプルついて、熟練したパネリスト3名により官能評価を行った。その結果、専門パネリスト3名全員が有効成分無添加の市販品と比較して、炭酸感が増強されたと回答した。
スチラリルイソブチレートの代わりに、スチラリルブチレート、スチラリルプロピオネート、フェニルエチルイソバレレート、フェニルエチルヘキサノエート、ベンジルブチレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルブチレートを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0041】
一般式(1)で表わされるエステル化合物は、炭酸刺激飲食品を摂取した際の炭酸感を増強する効果を有しており、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤として有用である。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチラリルブチレート、スチラリルイソブチレート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、フェニルエチルイソバレレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を1ppb~10ppm含有する炭酸刺激飲食品であって、
(A)飲食品中のスピラントール濃度が0.01ppb~150ppbである;
(B)飲食品中のメントール濃度が0.1ppb~1ppmである;
(C)飲食品中のメンチルラクテート濃度が0.01ppb~1ppmである、
のうちの少なくとも1つを満たす、前記炭酸刺激飲食品。
【請求項2】
炭酸刺激飲食品の製造方法であって、
炭酸刺激飲食品に、スチラリルブチレート、スチラリルイソブチレート、ジメチルベンジルカルビニルブチレート、フェニルエチルイソバレレート、ベンジルイソバレレート、3-フェニルプロピルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を1ppb~10ppm添加し、さらに、
(A)スピラントールを0.01ppb~150ppb添加;
(B)メントールを0.1ppb~1ppm添加;
(C)メンチルラクテートを0.01ppb~1ppm添加、
のうちの少なくとも1つを行う、前記炭酸刺激飲食品の製造方法。