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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092919
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】溶湯金属保持炉
(51)【国際特許分類】
   B22D 45/00 20060101AFI20240701BHJP
   B22D 17/30 20060101ALI20240701BHJP
   B22D 17/28 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B22D45/00 B
B22D17/30 A
B22D17/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101858
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022208883
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 節也
(57)【要約】
【課題】従来よりも開閉蓋の開放時間が短縮された溶湯金属保持炉を提供する。
【解決手段】
溶湯金属保持炉は、溶湯金属を保持している坩堝と、坩堝上に配置され、坩堝を覆っているとともに複数の蓋で構成されている開閉蓋と、坩堝内の溶湯金属を汲み上げるラドルを備えている。この溶湯金属保持炉では、ラドルは、開閉蓋が閉じているときに、開閉蓋の上方の待機位置で静止しており、ラドルが待機位置で静止している状態で溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、ラドルが、複数の蓋同士の接触部分と重複しており、開放蓋が開放する際、各々の蓋が、ラドルとの距離を縮めることなく、互いの距離が大きくなるように移動する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯金属を保持する溶湯金属保持炉であって、
溶湯金属を保持している坩堝と、
前記坩堝上に配置され、前記坩堝を覆っているとともに複数の蓋で構成されている開閉蓋と、
前記坩堝内の溶湯金属を汲み上げるラドルと、を備えており、
前記ラドルは、前記開閉蓋が閉じているときに、前記開閉蓋の上方の待機位置で静止しており、
前記ラドルが前記待機位置で静止している状態で前記溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、前記ラドルが、前記複数の蓋同士の接触部分と重複しており、
前記開放蓋が開放する際、各々の蓋が、前記ラドルとの距離を縮めることなく、互いの距離が大きくなるように移動する溶湯金属保持炉。
【請求項2】
請求項1に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記複数の蓋が、第1蓋と第2蓋で構成されている溶湯金属保持炉。
【請求項3】
請求項2に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記第1蓋と前記第2蓋は、前記開閉蓋の外周の外側に位置する支点を中心とし、互いに水平方向の反対側に回って移動する溶湯金属保持炉。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記開閉蓋上に、前記第1蓋と前記第2蓋が接触する部分に向けて傾斜しているカバーが設けられている溶湯金属保持炉。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記開閉蓋は、ギア機構によって駆動される溶湯金属保持炉。
【請求項6】
請求項5に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、前記ギア機構を駆動するアクチュエータが、前記坩堝が収容されている筐体よりも外側に位置している溶湯金属保持炉。
【請求項7】
請求項1に記載の溶湯金属保持炉であって、
さらに、熱電対を備えており、
前記開閉蓋に、前記熱電対を挿入するための開口が設けられている溶湯金属保持炉。
【請求項8】
請求項1に記載の溶湯金属保持炉であって、
前記開閉蓋が、ステンレス製である溶湯金属保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、溶湯金属保持炉に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ダイカスト用の溶湯金属(溶湯アルミニウム)を保持している坩堝上に開閉蓋を備えた溶湯金属保持炉が開示されている。特許文献1では、通常、開閉蓋が坩堝上に位置しており、溶湯金属の温度が低下することを抑制している。そして、ラドルで溶湯金属を汲み出す際、手動あるいはモータによって開閉蓋を一方向にスライドさせ、坩堝上を開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58-172799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の溶湯金属保持炉のように、坩堝上に開閉蓋を設けることにより、溶湯金属の温度低下を抑制することができる。溶湯金属の温度低下を抑制することにより、バーナー出力の増大を抑制することができ、エネルギーロスを低減することができる。しかしながら、開閉蓋が開放状態のときは、溶湯金属の温度が低下することを避けられない。そのため、開閉蓋の開放時間(開閉蓋の開放開始から再度閉じるまでの時間)は短いことが好ましい。本明細書は、従来よりも開閉蓋の開放時間が短縮された溶湯金属保持炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する第1技術は、溶湯金属を保持する溶湯金属保持炉であって、溶湯金属を保持している坩堝と、上記坩堝上に配置され、上記坩堝を覆っているとともに複数の蓋で構成されている開閉蓋と、上記坩堝内の溶湯金属を汲み上げるラドルと、を備えていてよい。この溶湯金属保持炉では、上記ラドルは、上記開閉蓋が閉じているときに、上記開閉蓋の上方の待機位置で静止しており、上記ラドルが上記待機位置で静止している状態で上記溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、上記ラドルが、上記複数の蓋同士の接触部分と重複しており、上記開放蓋が開放する際、各々の蓋が、上記ラドルとの距離を縮めることなく、互いの距離が大きくなるように移動してよい。
【0006】
本明細書で開示する第2技術は、上記第1技術の溶湯金属保持炉であって、上記複数の蓋が、第1蓋と第2蓋で構成されていてよい。
【0007】
本明細書で開示する第3技術は、上記第2技術の溶湯金属保持炉であって、上記第1蓋と上記第2蓋は、上記開閉蓋の外周の外側に位置する支点を中心とし、互いに水平方向の反対側に回って移動してよい。
【0008】
本明細書で開示する第4技術は、上記第2又は第3技術の溶湯金属保持炉であって、上記開閉蓋上に、上記第1蓋と上記第2蓋が接触する部分に向けて傾斜しているカバーが設けられていてよい。
【0009】
本明細書で開示する第5技術は、上記第2から第4技術のいずれかの溶湯金属保持炉であって、上記開閉蓋は、ギア機構によって駆動されてよい。
【0010】
本明細書で開示する第6技術は、上記第5技術の溶湯金属保持炉であって、上記溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、上記ギア機構を駆動するアクチュエータが、上記坩堝が収容されている筐体よりも外側に位置していてよい。
【0011】
本明細書で開示する第7技術は、上記第1から第6技術のいずれかの溶湯金属保持炉であって、さらに、熱電対を備えており、上記開閉蓋に、上記熱電対を挿入するための開口が設けられていてよい。
【0012】
本明細書で開示する第8技術は、上記第1から第7技術のいずれかの溶湯金属保持炉であって、上記開閉蓋が、ステンレス製であってよい。
【発明の効果】
【0013】
第1技術によると、開閉蓋の開放時間を短縮することができる。具体的には、開閉蓋が開放動作を開始してから、ラドルが溶湯金属を汲み上げるまでの時間を短縮することができる。例えば、ラドルは、開閉蓋の開放動作の途中(開閉蓋か完全に開放するより前のタイミング)で坩堝内に移動することもできる。ラドルが溶湯金属を汲み上げるまでの時間を短縮することにより、結果として開閉蓋の開放時間を短縮することができる。なお、第1技術によると、開閉蓋を一方向に移動させる形態と比較して、開閉蓋が閉じている状態から開閉蓋が全開するまでの時間、及び、開閉蓋が全開の状態から開閉蓋が閉じるまでの時間を短縮することもできる。開閉蓋の開放時間を短縮することにより、溶湯金属の温度低下が抑制され、溶湯金属の温度を維持するためのエネルギーを低減することができる。また、上記したように、第1技術によると、開閉蓋の開放開始からラドルが溶湯金属を汲み上げるまでの時間を短縮することができる。その結果、溶湯金属を用いた鋳造品(例えば、アルミニウム鋳造品)の製造サイクルタイムを短縮することもできる。
【0014】
第2技術によると、最小の部品数(蓋の数)で第1技術を実現することができる。溶湯金属保持炉の構造を簡素化することができるとともに、溶湯金属保持炉の製造コストを低減することができる。
【0015】
第3技術によると、開閉蓋を駆動する部品(後述するアクチュエータ等)を1箇所にまとめて配置することができる。その結果、溶湯金属保持炉の構造を簡素化することができるとともに、溶湯金属保持炉のサイズを小さくすることができる。例えば、第1蓋と第2蓋が水平方向の直線に沿って反対方向に移動する場合、第1蓋を駆動する部品と第2蓋を駆動する部品を別の位置に配置することが必要である。その結果、溶湯金属保持炉の構造が複雑になるとともに、溶湯金属保持炉のサイズが増大する。
【0016】
第4技術によると、開閉蓋の上面に金属(溶湯金属が冷えて硬化した固体)が溜まることを抑制することができる。ダイカストでは、ラドルが溶湯金属保持炉とダイカストマシンの間を往復する。ダイカストマシンに溶湯金属(例えばアルミニウムダイカストの場合、アルミニウム)を供給したラドルは、溶湯金属保持炉の上方(開閉蓋の上方)で停止し、開閉蓋が開放するまで待機する。その際、ラドルに付着した金属(金属カス)が開閉蓋の上面に落下することがある。第4技術では、開閉蓋上(カバー上)に落下した金属が、カバーの傾斜面を転がるように移動し、開閉蓋が開放するときに坩堝内に落下する。すなわち、第2技術によると、ラドルから落下した溶湯金属を坩堝内に戻し、再利用することができる。
【0017】
第5技術によると、開閉蓋を確実に開閉することができる。開閉蓋は溶湯金属の熱により高温となるため、例えばモータで開閉蓋を駆動しようとしても、モータが故障したり、正常に駆動しないことが起こり得る。ギア機構を用いて開閉蓋を駆動することにより、不具合による製造の停止、装置メンテナンスの頻度等を低減することができる。
【0018】
第6技術も、開閉蓋を確実に開閉することに寄与する。すなわち、アクチュエータが高温になることが抑制され、アクチュエータの故障を抑制することができる。
【0019】
第7技術によると、溶湯金属の温度を所定温度に維持することができる。熱電対を用いて溶湯金属の温度を測定し、測定値に基づいてバーナー出力を調整することにより、溶湯金属の温度が所定温度に維持される。また、熱電対の挿入箇所から熱が放出されて溶湯金属の温度が低下することも抑制することができる。
【0020】
第8技術によると、開閉蓋の耐久性(寿命)を向上させることができる。具体的には、熱による変形を抑制することができ、開閉蓋と坩堝の間に隙間が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ダイカストの概要を簡易的に示す。
図2】溶湯金属保持炉の断面図を示す。
図3】溶湯金属保持炉の平面図を示す。
図4】開閉蓋の駆動原理を説明する図を示す。
図5】ラドルと開閉蓋の位置関係を説明するための図を示す。
図6】溶湯金属保持炉の変形例の平面図を示す。
図7】溶湯金属保持炉の変形例の断面図を示す。
図8】開閉蓋の変形例を示す。
図9】開閉蓋の変形例を示す。
図10】変形例の開閉蓋を用いた溶湯金属保持炉の断面図を示す。
図11】開閉蓋の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(鋳造アルミニウムダイカスト)
図1に、鋳造アルミニウムダイカスト100を示している。鋳造アルミニウムダイカスト100は、ダイカストマシン10と溶湯金属保持炉40を備えている。溶湯金属保持炉40は、溶湯供給装置20とコントローラ30を備えている。溶湯供給装置20が、溶湯アルミニウム46を保持している坩堝44内の溶湯アルミニウム46を汲み上げ、ダイカストマシン10に供給する。溶湯アルミニウム46は、溶湯金属の一例である。溶湯供給装置20は、駆動装置22と、アーム24と、ラドル26を備えている。駆動装置22は、ラドル26を、坩堝44の上方を覆っている(坩堝44の開口を塞いでいる)開閉蓋50の上方の位置A1、坩堝44内の位置A2、ダイカストマシン10の溶湯導入口(図示省略)が設けられている位置A3に移動させることが可能である。具体的には、駆動装置22は、アーム24を矢印23方向に回転させ、ラドル26を位置A1又は位置A3に移動させる。また、駆動装置22は、アーム24を矢印25方向に上下動させ、ラドル26を位置A1又は位置A2に移動させる。
【0023】
ラドル26は、開閉蓋50が閉じている間、開閉蓋50の開閉部分の直上(位置A1)で静止している。位置A1は、待機位置の一例である。ラドル26が位置A1で静止しているときに溶湯供給装置20を上方から矢印90方向に観察すると、ラドル26は、開閉蓋50の開閉部分と重複する位置に存在する。ラドル26と開閉蓋50の位置関係の詳細については後述する。
【0024】
また、溶湯金属保持炉40は、溶湯アルミニウム46を保持する坩堝44と、坩堝44を収容している筐体42と、坩堝44の上方を覆っている(坩堝44の開口を塞いでいる)開閉蓋50を備えている。開閉蓋50の材質はステンレス(SUS304)である。詳細は後述するが、溶湯金属保持炉40には、バーナー、熱電対が配置されている。溶湯アルミニウム46の温度は、熱電対の測定値に応じてバーナー出力を調整することにより、所定温度に維持されている。坩堝44の材質は黒鉛であり、内部におよそ650度の溶湯アルミニウム46が保持されている。開閉蓋50は、コントローラ30により開閉される。コントローラ30は、アルミニウム鋳造品の製造サイクルに応じて開閉蓋50を開閉する。具体的には、コントローラ30は、ダイカストマシン10に溶湯アルミニウムを供給するタイミング、ラドル26の位置等を考慮し、開閉蓋50の開放時間が最小になるように、開閉蓋50を開閉する。なお、コントローラ30には、手動で開閉蓋50を開閉するためのボタン、リモコン操作によって開閉蓋50を開閉するためのリモコン信号受信部等も備えている(図示省略)。
【0025】
(溶湯金属保持炉)
図2から図4を参照し、溶湯金属保持炉40について詳細に説明する。図2に示すように、溶湯金属保持炉40には、溶湯アルミニウム46(図1を参照)の温度を測定するための熱電対72を備えている。熱電対72は、開閉蓋50の上部から、開閉蓋50を通過し、坩堝44内(溶湯アルミニウム46内)に挿入される。また、溶湯金属保持炉40には、開閉蓋50を駆動するための駆動部60が設けられている。開閉蓋50と駆動部60は、スティック状の固定部材52によって固定されている。また、溶湯金属保持炉40は、坩堝44の外部を加熱し、坩堝44内の溶湯アルミニウム46の温度を調整するためのバーナー70を備えている。バーナー70の出力は、熱電対72の測定値に基づいて調整される。図2及び図3に示すように、バーナー70は、筐体42の外部から筐体42内に挿入されており、先端(炎吐出口)が坩堝44に向かうように配置されている。
【0026】
図3に示すように、開閉蓋50の外形は、坩堝44の開口の外形より大きい。開閉蓋50の外形が坩堝44の開口の外形より大きいので、開閉蓋50は、坩堝44の開口全体を覆うことができる。なお、溶湯金属保持炉40では、開閉蓋50及び坩堝44の開口が略円形のため、開閉蓋50の外径が、坩堝44の開口の外径より大きいと表現することもできる。開閉蓋50は、第1蓋50aと、第2蓋50bを備えている。すなわち、開閉蓋50は、2個の蓋で構成されている。第1蓋50aと第2蓋50bは、各々略半円形である。第1蓋50aに第1固定部材52aが固定されており、第2蓋50bに第2固定部材52bが固定されている。駆動部60は、第1蓋50aと第2蓋50bを駆動し、開閉蓋50が閉じている状態(実線で示す状態)と開閉蓋50が開いている状態(破線で示す状態)を切り換える。駆動部60は、支点C1を中心として第1蓋50aと第2蓋50bを水平方向の反対側に回転させ、開閉蓋50を開閉する。第1蓋50aと第2蓋50bは水平方向に移動するので、開閉蓋50が開閉する際、第1蓋50aと第2蓋50bは上方(図1も参照)に移動しない。すなわち、開閉蓋50が開閉する際(開放及び閉鎖する際)、第1蓋50a及び第2蓋50bは、ラドル26との距離を縮めることなく、互いの距離が離れるように移動する。開閉蓋50が閉じている状態では、第1蓋50aと第2蓋50bが互いに接触し、坩堝44の開口を塞いでいる。詳細は後述するが、駆動部60は、ギア機構62を備えている。第1蓋50aと第2蓋50bは、駆動部60(ギア機構62)によって同期して反対方向に回転する。なお、支点C1は、開閉蓋50の外周の外側に位置している。
【0027】
第1蓋50aと第2蓋50bには、両者が接触する部分(第1蓋50aの端縁及び第2蓋50bの端縁)の一部に窪みが設けられおり、2つの窪みによって熱電対挿入口54が形成されている。熱電対72(図2を参照)は、熱電対挿入口54を通過して坩堝44内に挿入される。蓋50a,50bの接触部分の端縁に熱電対挿入口54を設けることにより、開閉蓋50の開閉に伴って熱電対72を移動させる必要がない。すなわち、熱電対72を坩堝44内に挿入したまま、開閉蓋50を開閉することができる。なお、開閉蓋50が閉じている状態では、熱電対72によって、熱電対挿入口54が塞がれている。そのため、開閉蓋50が閉じている際、坩堝44内の熱が熱電対挿入口54から放出されることを抑制することができる。
【0028】
図4を参照し、駆動部60の詳細について説明する。なお、図4では、図面の明瞭化のため、駆動部60の説明に必要な部品のみ示し、例えば、蓋50a,50b等の図示を省略している。図4は、開閉蓋50が閉じているときの固定部材52a,52bの状態(a)と、開閉蓋50が開いているときの固定部材52a,52bの状態(b)を示している。駆動部60は、ギア機構62と、エアシリンダー66を備えている。エアシリンダー66は、ギア機構62を駆動するためのアクチュエータの一例である。ギア機構62は、第1固定部材52aに固定されている第1ギア62aと、第2固定部材52bに固定されている第2ギア62bを備えている。第1ギア62aと第2ギア62bはかみ合っており、例えば第1ギア62aが矢印61a方向に回転すると、第2ギア62bは矢印61aとは反対方向の矢印61b方向に回転する。第1ギア62aにはエアシリンダー66のピストン66aと連結するフランジ64が設けられている。なお、ギア機構62は、筐体42の外側部分上に配置されている。また、図4では、エアシリンダー66及びギア機構62が露出しているが、通常、エアシリンダー66及びギア機構62はカバー(図示省略)に覆われており、外部に露出していない(図3等も参照)。
【0029】
エアシリンダー66は、ピストン66aと、本体部66bと、フランジ66cを備えている。ピストン66aとフランジ66cは、本体部66bを介して反対側に設けられている。ピストン66aは、本体部66bに対して進退可能である。また、ピストン66aは、第1ギア62aに設けられているフランジ64に連結されており、フランジ64に対して回動可能である。フランジ66cは、筐体42に固定されている連結部68に連結されており、連結部68に対して回動可能である。
【0030】
上述したように、第1ギア62aが第1固定部材52aに固定されており、第1固定部材52aは第1蓋50aに固定されている。また、第2ギア62bが第2固定部材52bに固定されており、第2固定部材52bは第2蓋50bに固定されている。そのため、ピストン66aが本体部66bに対して伸張すると、第1ギア62aが矢印61a方向に回転し、第2ギア62bが矢印61b方向に回転し、開閉蓋50が開く(図3も参照)。一方、ピストン66aが本体部66bに対して縮退すると、開閉蓋50が閉じる。なお、図4から明らかなように、エアシリンダー66は、常に筐体42よりも外側に位置している。
【0031】
図5を参照し、ラドル26と開閉蓋50の位置関係について説明する。図5は、開閉蓋50が閉じているときのラドル26と開閉蓋50を、上方から(図1の矢印90方向に)観察した状態を示している。上述したように、ラドル26は、開閉蓋50が閉じている間、位置A1に静止している。すなわち、図5は、ラドル26が位置A1で待機している状態を示している(図1も参照)。図5に示すように、位置A1では、ラドル26は、第1蓋50aと第2蓋50bの接触部分51と重複している。より具体的には、ラドル26は、接触部分51の中心51a(開閉蓋50の中心)と重複している。
【0032】
(溶湯金属保持炉40の利点)
以下、溶湯金属保持炉40の利点を記す。溶湯金属保持炉40では、2つの蓋(第1蓋50aと第2蓋50b)によって開閉蓋50が構成されている。そして、開閉蓋50が閉じているときに、ラドル26は、第1蓋50aと第2蓋50bの接触部分51の直上(位置A1)で静止している。そのため、開閉蓋50が開放動作を開始すると、直ぐに坩堝44内に移動し、溶湯アルミニウム46を汲み上げることができる。溶湯金属保持炉40は、ラドルが2個の蓋の接触部分の直上以外の位置で待機している形態と比較して、ラドル26が溶湯アルミニウム46を汲み上げる時間を短縮することができる。すなわち、溶湯金属保持炉40は、開閉蓋50の開放時間を短縮することができる。その結果、溶湯金属保持炉40は、溶湯アルミニウム46の温度低下を抑制することができ、エネルギーロスを低減することができる。溶湯金属保持炉40は、バーナー70の出力を低くすることができ、バーナー70の燃料を低減することができる。また、溶湯金属保持炉40は、ラドル26が溶湯アルミニウム46を汲み上げる時間を短縮することができるので、ラドルが2個の蓋の接触部分の直上以外の位置で待機している形態と比較して、アルミニウム鋳造品の製造サイクルタイムを短縮することもできる。なお、溶湯金属保持炉40は、1つの開閉蓋(例えば、蓋50a,50bが一体の蓋)を有する溶湯金属保持炉と比較して、開閉蓋50の開閉時間を速くすることもできる。
【0033】
なお、溶湯金属保持炉40では、溶湯金属保持炉40を上方から観察したときに、ラドル26が接触部分51の中心51aと重複する位置(中心51aの直上)で静止している。しかしながら、ラドル26は、接触部分51と重複する位置であれば、必ずしも中心51aと重複する位置でなくてもよい。ラドル26が溶湯アルミニウム46を汲み上げるときにラドル26と坩堝44が接触することを避けるため、ラドル26は、接触部分51の中央部分に位置していることが好ましい。具体的には、ラドル26は、接触部分51のエアシリンダー66側の端部51bと中心51aの中点51dと、接触部分51のエアシリンダー66とは反対側の端部51cと中心51aの中点51eの間(中点51d~中点51eの間)で、接触部分51と重複していることが好ましい。すなわち、ラドル26は、中心51aから、開閉蓋50の直径の4分の1の範囲内で、接触部分51と重複していることが好ましい。なお、図3に示すように、開閉蓋50は、開放する際、エアシリンダー66とは反対側がより早く開く(早く開放面積が大きくなる)。ラドル26がより早く坩堝44内に移動することができるように、ラドル26は、中心51aと中点51eの間で接触部分51と重複していることが特に好ましい。
【0034】
溶湯金属保持炉40では、開閉蓋50が開く際、先ず、坩堝44の開口の中央部分(接触部分51)が開放される。また、開閉蓋50が閉じる際、坩堝44の開口の中央部分が最後に閉じられる。そのため、ラドル26が坩堝44内に移動する際(図1:位置A1→位置A2)、開閉蓋50が全開する前にラドル26を坩堝44内に移動させることができる。また、ラドル26が溶湯アルミニウム46を汲み上げて坩堝44外に移動する際(図1:位置A2→位置A1)、ラドル26が坩堝44外に完全に移動する前に開閉蓋50を閉じ始めることができる。そのため、溶湯金属保持炉40は、一枚の開閉蓋が横スライドして坩堝の開口を開閉する形態の溶湯金属保持炉と比較しても、開閉蓋50の開放時間を短くすることができるとともに、アルミニウム鋳造品の製造サイクルタイムを短縮することができる。
【0035】
また、溶湯金属保持炉40では、開閉蓋50がステンレス(SUS304)製のため、熱による開閉蓋50の変形が抑制されている。その結果、開閉蓋50と坩堝44の間に隙間が生じることが抑制され、開閉蓋50のメンテナンス頻度を少なくすることができる。
【0036】
また、開閉蓋50がギア機構62を有する駆動部60によって駆動されるため、開閉蓋50を確実に開閉することができ、製造トラブル(開閉蓋50の動作不良)の発生を低減する。すなわち、ギア機構62を用いて開閉蓋50を開閉することにより、溶湯アルミニウム46の熱を起因とする駆動部60の動作不良を抑制することができる。また、ギア機構62は、筐体42の外側部分上に配置され熱の影響を受けにくい(高温になりにくい)。さらに、エアシリンダー66が常に筐体42よりも外側に位置しているので、エアシリンダー66が高温になることが抑制され、エアシリンダー66が故障することも抑制されている。
【0037】
また、開閉蓋50に熱電対挿入口54が設けられているので、他の場所から坩堝44内に熱電対を挿入する形態と比較して、熱電対が挿入される部分からの放熱を抑制することができる。また、熱電対挿入口54が、蓋50a,50bの端縁に形成された窪みによって形成されているので、熱電対72の位置を維持したまま、開閉蓋50を開閉することができる。なお、熱電対挿入口54を形成するための窪みは、蓋50a,50bの両方に設けられていなくてもよい。例えば、第1蓋50aのみに熱電対挿入口を形成するための窪みが設けられていてもよい。この場合でも、熱電対挿入口が第1蓋50aの端縁に形成されていれば、熱電対72の位置を維持したまま、開閉蓋50を開閉することができる。
【0038】
開閉蓋50は、リモコン操作によって開閉することができる。そのため、坩堝44内に新たな溶湯アルミニウム(およそ680℃の溶湯)を供給する際、作業者は、溶湯アルミニウムを運搬する重機(例えばフォークリフト)を操作しながら開閉蓋50を開くことができる。開閉蓋50の開閉を手動で行う場合、作業者は重機の操作を停止し、開閉蓋50を開放した後に新たな溶湯アルミニウムを坩堝44に供給し、再度重機の操作を停止し、開閉蓋50を閉じることが必要である。開閉蓋50の開放時間が長くなるので、新たな溶湯アルミニウムの供給作業を行う間に、溶湯アルミニウムの温度が低下する。あるいは、重機の操作を行う作業者と、開閉蓋50の開閉を行う作業者が共同して作業を行うことが必要となる。開閉蓋50をリモコン操作で開閉することにより、溶湯アルミニウムの温度低下を抑制しつつ、重機を操作する作業者単独で、新たな溶湯アルミニウムの供給作業を行うことができる。
【0039】
(溶湯金属保持炉40の変形例)
図6及び図7を参照し、溶湯金属保持炉140について説明する。溶湯金属保持炉140は、溶湯金属保持炉40の変形例であり、溶湯金属保持炉40が有する構造全てを備えている。以下の説明では、溶湯金属保持炉40と同じ構造については、溶湯金属保持炉40に付した参照番号と同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する。
【0040】
溶湯金属保持炉140では、開閉蓋50上にカバー80が設けられており、開閉蓋50の表面の一部を覆っている。なお、カバー80は、熱電対挿入口54の上部は覆っていない。具体的には、カバー80は第1カバー80aと第2カバー80bを備えており、第1カバー80aが第1固定部材52aに固定されており、第2カバー80bが第2固定部材52bに固定されている。第1カバー80a及び第2カバー80bは、開閉蓋50の中央(第1蓋50aと第2蓋50b)が接触する部分に向けて傾斜する傾斜面82を備えている。カバー80a,80bは鉄製であり、表面に耐熱塗装が施されている。
【0041】
溶湯金属保持炉140の利点について説明する。溶湯金属保持炉140は、溶湯金属保持炉40が有する利点の全てを有している。溶湯金属保持炉140はさらに、ラドル26から落下したアルミニウムを、坩堝44内に戻すことができる。上述したように、ラドル26は、ダイカストマシン10と溶湯金属保持炉40の間を移動する(図1を参照)。ダイカストマシン10に溶湯アルミニウムを供給した後も、ラドル26には溶湯アルミニウムが付着している。ラドル26が開閉蓋50上で待機(停止)している間、ラドル26に付着していた溶湯アルミニウムが固化し、落下することがある。溶湯金属保持炉140では、ラドル26から落下したアルミニウムは、カバー80上に溜まる。そして、開閉蓋50か開放する際、アルミニウムがカバー80の傾斜面82を転がり、坩堝44内に落下する。坩堝44内に落下したアルミニウムは、再度溶融し、溶湯アルミニウムとして再利用される。溶湯金属保持炉140は、ラドル26から落下したアルミニウムを再利用することができ、アルミニウムの原料ロスを低減することができる。また、開閉蓋50上にアルミニウムが堆積することが抑制されるので、作業環境が悪化することも抑制することができる。
【0042】
(開閉蓋50の変形例)
図8から図11を参照し、開閉蓋150、250、350について説明する。開閉蓋150、250、350は、溶湯金属保持炉40で用いられている開閉蓋50、及び溶湯金属保持炉140で用いられている開閉蓋50に代えて使用することができる。開閉蓋150、250、350について、開閉蓋50と同じ構造には開閉蓋50に付した参照番号と同じ番号を付すことにより、説明を省略する。
【0043】
図8に示す開閉蓋150の形状は、開閉蓋50と同一である(図5も参照)。第1蓋50aと第2蓋50bが水平方向の直線に沿って反対方向に移動する。具体的には、開閉蓋50が開放する際、第1蓋50aは、接触部分51と直交する方向(矢印53a方向)に、第2蓋50bから離れる(第2蓋50bとの距離が大きくなる)ように移動する。また、開閉蓋50が開放する際、第2蓋50bは、接触部分51と直交する方向(矢印53b方向)に、第1蓋50aから離れる(第1蓋50aとの距離が大きくなる)ように移動する。
【0044】
図9に示す開閉蓋250は、3個の蓋、すなわち、第1蓋250a、第2蓋250b及び第3蓋350cで構成されている。開閉蓋250においても、開閉蓋250が閉じているときに、ラドル26は、第1蓋250aと、第2蓋250b及び第3蓋350cとの接触部分251の直上、あるいは、第2蓋250bと第3蓋350cの接触部分252の直上で静止している。なお、開閉蓋250を用いる場合も、ラドル26は、開閉蓋250の中心253から、開閉蓋250の直径の4分の1の範囲内で、接触部分251又は接触部分252と重複していることが好ましい。開閉蓋250が開閉する際、第1蓋250a、第2蓋250b及び第3蓋350cは、水平方向に互いの距離が大きくなるように移動する
【0045】
図10は、溶湯金属保持炉40に対し、開閉蓋50に代えて開閉蓋350を取り付けたときの断面図を示している。図11は、開閉蓋350の平面図を示している。開閉蓋350は、第1蓋350aと第2蓋350bを備えている。第1蓋350aは可動部分355aを備えており、第2蓋350bは可動部分355bを備えている。第1蓋350aの可動部分355aより外側部分、及び第2蓋350bの可動部分355bより外側部分は、筐体42に固定されている。図10に示すように、開閉蓋350が開放する際、第1蓋350aの可動部分355aより内側部分は、可動部分355aを中心に、下方(坩堝44内)に回動する。また、第2蓋350bの可動部分355aより内側部分は、可動部分355aを中心に、下方(坩堝44内)に回動する。そのため、開閉蓋350が開放する際、第1蓋350a及び第2蓋350bは、ラドル26との距離を縮めることなく、互いの距離が大きくなるように移動する。なお、開閉蓋350においても、ラドル26は、接触部分351の端部351bと中心351aの中点351dと、接触部分351の端部351bとは反対側の端部351cと中心351aの中点351eの間(中点351d~中点351eの間)で、接触部分351と重複していることが好ましい。すなわち、ラドル26は、中心351aから、開閉蓋350の直径の4分の1の範囲内で、接触部分351と重複していることが好ましい。
【0046】
(他の実施形態)
上記実施例では、鋳造アルミニウムダイカストで利用される溶湯金属保持炉について説明した。すなわち、溶湯金属保持炉で保持する溶湯金属がアルミニウムの例について説明した。しかしながら、本明細書で開示する溶湯金属保持炉は、アルミニウム以外の溶湯金属、例えば、溶湯マグネシウム、溶湯亜鉛等を保持することもできる。
【0047】
上記実施例では、開閉蓋を構成する蓋が2個及び3個の例について説明した。しかしながら、複数の蓋によって開閉蓋が構成されていればよく、例えば。開閉蓋は4個以上の蓋によって構成されていてもよい。
【0048】
上記実施例では、開閉蓋がギア機構によって駆動される溶湯金属保持炉について説明した。しかしながら、開閉蓋は、必ずしもギア機構によって駆動する必要はなく、筐体が十分に断熱されていれば、例えば、モータによって駆動されてもよい。また、ギア機構を駆動するアクチュエータは、必ずしもエアシリンダーでなくてよく、熱対策が行われていれば、例えば、モータであってもよい。
【0049】
また、筐体が十分に断熱されていれば、ギア機構を駆動するアクチュエータ(エアシリンダー)の位置も、必ずしも筐体より外側でなくてもよい。すなわち、溶湯金属保持炉を上方から観察したときに、アクチュエータの一部又は全てが、筐体と重複する位置に配置されていてもよい。アクチュエータを、その一部又は全てが筐体と重複するように配置することにより、溶湯金属保持炉のサイズ(水平方向サイズ)が低減し、コンパクトな溶湯金属保持炉を実現することができる。
【0050】
また、開閉蓋に、熱電対を挿入するための開口が設けられていなくてもよい。例えば、筐体の端部(開閉蓋に覆われる部分)に窪みを設け、その窪みから熱電対を坩堝内に挿入してもよい。
【0051】
なお、開閉蓋の材質はSUS304に限定されず、他のステンレス、又は、ステンレス以外の金属であってもよい。あるいは、開閉蓋の材質は、例えば、セラミックスであってもよい。開閉蓋の材質をセラミックスにすることにより、開閉蓋の断熱性を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0053】
26:ラドル
40:溶湯金属保持炉
44:坩堝
50:開閉蓋
50a,50b:蓋
A1:待機位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11