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特開2024-92920ポリプロピレンフィルムおよび離型用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092920
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリプロピレンフィルムおよび離型用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240701BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104070
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022207851
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】郡司 淳史
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伸之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA21
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH01
4F071AH03
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC02
4F071BC12
4F071BC15
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK08A
4F100AK08C
4F100AL05A
4F100AL05C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA16
4F100DD07A
4F100DD07B
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100EJ383
4F100EJ94
4F100JA03
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明は、耐転写性とハンドリング性に優れたポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】 表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
両面が前記A面であることを特徴とする、請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
少なくとも一方の前記A面において、最大谷深さSvが30nm以上300nm以下である、請求項1または請求項2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値が0.05N/2mm以上0.20N/2mm以下であり、熱収縮応力の立ち上がり温度が130℃以上150℃以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
150℃で15分処理した際のフィルム幅方向の熱収縮率のばらつきΔtが、0.01%以上0.50%以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
少なくとも2層以上の積層構成を有する、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルムを用いてなる、離型用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐転写性とハンドリング性に優れたポリプロピレンフィルム、及びこれを用いた離型用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等の種々の特性に優れるため、包装用途、離型用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。特に、表面の剥離特性や機械特性に優れることから、プラスチック製品や建材や光学部材など、様々な部材を保護する離型用フィルムや工程フィルムとして好適に用いられる。
【0003】
通常、離型用フィルムへの要求特性はその用途によって適宜設定されるが、近年の機器の小型化や高精度化により、保護する対象となる製品にも薄膜かつ高品位が求められる場合がある。ポリプロピレンフィルムの表面平滑性が悪いと、例えば光学用部材の離型用フィルムとして用いたときに、ポリプロピレンフィルムの表面凹凸が光学用部材に転写され、光学用部材の視認性に影響を及ぼす場合があった。
【0004】
そのため、従来からポリプロピレンフィルムの表面粗さを小さくする試みがなされており、例えば特許文献1には、粗大突起を形成させずにポリプロピレンフィルムの表面を微細に粗面化する方法が開示されている。また、特許文献2には、ロールとしたときにフィルム間のエアー量および間隙距離を均一に制御することが可能な表面形状を有するポリプロピレンフィルムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/071291号公報
【特許文献2】国際公開第2020/142713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、離型用フィルムを適用する製品の更なる高精度化や小型化などにより、特許文献1,2に記載の方法で表面の突起を抑制したポリプロピレンフィルムであっても、表面の凹凸転写が品位や歩留まりの低下に繋がる場合も出てきた。また、転写抑制のために平滑な表面設計としてロール状に巻き取った際に、フィルム間でエアーを保持出来ずにシワが生じる等、ハンドリング性の問題もあった。そこで本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち本発明は、耐転写性とハンドリング性に優れたポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明のポリプロピレンフィルムは以下の構成よりなる。すなわち、本発明のポリプロピレンフィルムは、表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリプロピレンフィルムである。
【0008】
なお、本発明のポリプロピレンフィルムは以下の態様とすることもでき、また離型用フィルムに好適に用いることもできる。
(1) 表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリプロピレンフィルム。
(2) 両面が前記A面であることを特徴とする、(1)に記載のポリプロピレンフィルム。
(3) 少なくとも一方の前記A面において、最大谷深さSvが30nm以上300nm以下である、(1)または(2)に記載のポリプロピレンフィルム。
(4) フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値が0.05N/2mm以上0.20N/2mm以下であり、熱収縮応力の立ち上がり温度が130℃以上150℃以下である、(1)から(3)のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
(5) 150℃で15分処理した際のフィルム幅方向の熱収縮率のばらつきΔtが、0.01%以上0.50%以下である、(1)から(4)のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
(6) 少なくとも2層以上の積層構成を有する、(1)から(5)のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
(7) (1)から(6)のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムを用いてなる、離型用フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、耐転写性、ハンドリング性に優れ、離型フィルムとして好適に用いることができるポリプロピレンフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリプロピレンフィルムは、表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする。以下、本発明のポリプロピレンフィルムについて具体的に説明する。
【0011】
ポリプロピレンフィルムとは、ポリプロピレン樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。主成分とは、対象物(ここではフィルム)の全構成成分を100質量%としたときに、50質量%より多く100質量%以下含まれる成分をいい、以下、主成分については同様に解釈することができる。なお、ポリプロピレン樹脂に該当する成分が複数含まれる場合は、その合計量が50質量%より多ければポリプロピレン樹脂を主成分とするものとみなす。なお、本発明のポリプロピレンフィルムにおいては、ポリプロピレン樹脂の含有量はフィルムの全構成成分中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは96質量%以上、特に好ましくは97質量%以上、最も好ましくは98質量%以上である。
【0012】
ポリプロピレン樹脂とは、主たる構成単位がプロピレン単位である樹脂をいい、主たる構成単位とは、全構成単位を100mol%としたときに、50mol%を超えて100mol%以下含まれる構成単位をいう(この定義は、他のオレフィン樹脂についてもプロピレン単位が他のオレフィン単位に置き換わる以外は同様に解釈できる。)。
【0013】
本発明のポリプロピレンフィルムは、特に表面平滑性や品位、後述する熱収縮特性の観点から二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向とは直交する2方向に分子配向を有することをいい、未延伸シートを直交する2方向(通常は長手方向と幅方向)に延伸することにより実現できる。長手方向とは、製造工程中をポリプロピレンフィルムが走行する方向(フィルムロールの状態であれば巻き方向に相当)をいい、幅方向とは長手方向とフィルム面内で直交する方向をいう。
【0014】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは、多機能化の観点から、少なくとも2層以上の積層構成を有することが好ましい。積層とは、組成の異なる2種類以上の層が厚み方向(フィルム面に垂直な方向)に重なっていることをいう。このような態様とすることにより、例えば、強度を高める役割を担う層と離型性を高める役割を担う層の積層構成とすることにより、ポリプロピレンフィルムはハンドリング性と離型性を両立することができる。
【0015】
本発明のポリプロピレンフィルムは、耐転写性、ハンドリング性の観点から、表面の高さ分布の鋭さSkuが1.0以上50.0以下であり、かつ最大山高さSpが30nm以上300nm以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることが重要である。上記観点からA面においては、Skuが1.0以上40.0以下、Spが30nm以上200nm以下であることが好ましく、Sku1.0以上29.0以下、Spが30nm以上150nm以下であることがより好ましい。なお、以下「表面の高さ分布の鋭さSku」および「最大山高さSp」について、単に「Sku」、「Sp」ということがある。
【0016】
Skuとは表面形状の高さ分布の鋭さを表したパラメータであり、より具体的には、値が大きいほど表面に鋭い山や谷が多く、値が小さいほど平坦な表面であることを意味する。ポリプロピレンフィルムの表面のSkuが50.0を超えると表面に鋭い山や谷が多くなるため、離型用フィルムとして用いた場合に製品となる被着体が当該表面に接触すると、被着体に転写痕が発生して品位が著しく低下する可能性がある。一方で、ポリプロピレンフィルムの表面のSkuが1.0を下回ると、当該面が平坦な表面に近づくことにより、ロールとするときにポリプロピレンフィルム間の隙間が形成し辛くなり、ハンドリング性や巻取り性が低下する。
【0017】
また、Spとは表面性状の最大山高さを表したパラメータであり、より具体的には、Spが大きいほど表面に粗大な突起が存在することを意味する。ポリプロピレンフィルムの表面のSpが300nmを超えると、表面に粗大な突起が存在することとなるため、離型用フィルムとして用いた場合に製品となる被着体が当該表面に接触すると、被着体に転写痕が発生して品位が著しく低下する可能性がある。一方でSpが30nmを下回ると、当該面が平坦な表面に近づくことにより、ロールとするときにポリプロピレンフィルム間の隙間が形成し辛くなり、ハンドリング性や巻取り性が低下する。
【0018】
すなわち、ポリプロピレンフィルムはA面を有することにより、A面と被着体とを貼り合わせたときに転写により被着体の品位を悪化させることがなく、且つ、優れたハンドリング性を実現することができる。そのため、このようなポリプロピレンフィルムは、離型用フィルムとして好適に用いることができる。
【0019】
Sku及びSpは公知の層断面形状測定装置を用いて測定することができ、測定装置としては、例えば株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0等を用いることができる。なお、同装置を用いたときのSku及びSpの具体的な測定方法は後述する。
【0020】
表面の高さ分布の鋭さSku、及び最大山高さSpを上記範囲の値とするには、ポリプロピレンフィルムの原料組成および製膜条件を後述する範囲とすることが効果的である。より具体的には、表層(I)と基層(II)を含む積層構成として表層(I)に高融点樹脂を含有させること、キャストドラムの温度を15℃以上60℃以下とすること、キャストドラムとシートの接触時間を10~20秒とすること等が効果的である。なお、これらの方法は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
本発明のポリプロピレンフィルムは、製品となる被着体へのダメージの軽減や、フィルムの搬送性と巻き取り性改善の観点から、両面がA面であることが好ましい。一方の面のSkuが1.0未満もしくはSpが30nm未満であると、ポリプロピレンフィルムをロール状に巻き取る際にフィルム層間でエアーを保持しにくくなることで、巻取り皺を生じさせる要因となることがある。また、一方の面でSkuが50を超える、もしくはSpが300nmを超えるとフィルムをロール状に巻取り積層した際に、表面突起によりもう一方の面への背面転写を生じさせる要因となることがある。なお、両面がA面である場合、SkuやSpは両面で同じ値であっても異なっていてもよく、これは後述する最大谷深さSvについても同じである。
【0022】
本発明のポリプロピレンフィルムは、離型用フィルムとして用いたときの被着体の品位及びハンドリング性の観点から、少なくとも一方のA面において、最大谷深さSvが30nm以上300nm以下であることが好ましい。最大谷深さSvとは表面性状の最大谷高さを表した値であり、この値が大きいことはポリポロピレンフィルムの表面により深い凹形状があることを意味する。なお、以下「最大谷深さSv」について、単に「Sv」ということがある。上記観点からA面のSvは、より好ましくは30nm以上200nm以下、更に好ましくは30nm以上150nm以下である。
【0023】
A面のSvが300nm以下であると、A面に過度に深い凹形状が存在しないこととなり、被着体への表面形状の転写による品位の著しい低下を軽減することができる。一方で、Svが30nm以上であると、A面が過度に平坦にならずロールとするときにフィルム間に適度な隙間が形成され、巻取り性が向上する。なお、上記観点から両面がA面である場合は、両面において最大谷深さSvが30nm以上300nm以下又は上記の好ましい範囲であることが好ましい。
【0024】
最大谷深さSvは公知の層断面形状測定装置を用いて測定することができ、測定装置としては、例えば株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0等を用いることができる。なお、同装置を用いたときのSvの具体的な測定方法は後述する。
【0025】
また、最大谷深さSvを上記範囲の値とするには、ポリプロピレンフィルムの原料組成および製膜条件を後述する範囲とすることが効果的であり、また、キャストドラム温度やキャストドラムとの密着時間を調整することにより、β晶の形成をコントロールすることが効果的である。より具体的には、表層(I)と基層(II)を含む積層構成として表層(I)に高融点樹脂を含有させること、キャストドラムの温度を15℃以上60℃以下とすること、キャストドラムとシートの接触時間を10~20秒とすること等が効果的である。なお、これらの方法は適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
本発明のポリプロピレンフィルムは、耐熱性の観点から、フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値が0.05N/2mm以上0.20N/2mm以下であり、熱収縮応力の立ち上がり温度が130℃以上150℃以下であることが好ましい。フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値および熱収縮応力の立ち上がり温度は、TMA(Thermo Mechanical Analysis)法にて測定することができ、その詳細は後述する。
【0027】
例えば、本発明のポリプロピレンフィルムを離型用フィルムとして用いる場合、フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値が0.20N/2mm以下であるとポリプロピレンフィルムの熱収縮による平面性不良が抑えられ、加工適正が良好となる。一方でフィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値が0.05N/2mm以上であると、加工工程における弛みが抑えられる。
【0028】
また、熱収縮応力の立ち上がり温度が130℃以上であると、加工工程でポリプロピレンフィルムの収縮が生じにくくなり、加工適正が良好となる。また、熱収縮応力の立ち上がり温度が150℃以下であることで、加工工程におけるポリプロピレンフィルムの弛みが抑えられることにより、同様に加工適正が良好となる。
【0029】
フィルム幅方向の150℃での熱収縮応力値を0.05N/2mm以上0.20N/2mm以下とする方法としては、例えば、表層(I)と基層(II)を有する積層構成とした上で、ポリプロピレンフィルムの基層(II)にMFRが1.0g/10分以上5.0g/10分以下、好ましくは2.0g/10分以上5.0g/10分以下であるポリプロピレン樹脂を用いる方法が挙げられる。また、このようなポリプロピレン樹脂を用いた上で、製膜条件に関して、横延伸(幅方向への延伸)工程における延伸温度を150℃~165℃(好ましくは160℃~165℃)、熱処理工程における弛緩率を5.0%以上15.0%以下(好ましくは7.0%以上13.0%以下)、熱処理の温度を141℃~155℃とすることも効果的である。なお、これらの方法は適宜組み合わせることが可能である。横延伸や熱処理を上記の条件とすることで、ポリプロピレンフィルム内部の応力が緩和された状態で延伸や熱固定等を行うことができるため、得られるポリプロピレンフィルムは熱収縮応力を抑えたものとなる。熱収縮応力の立ち上がり温度を130℃以上150℃以下とする方法としても上記方法を用いることができ、適宜組み合わせることができる点も同様である。
【0030】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは、幅方向での平面性の均一性の観点から、150℃で15分処理した際のフィルム幅方向の熱収縮率のバラツキΔtが、0.01%以上0.50%以下であることが好ましく、0.01%以上0.35%以下であることがより好ましい。なお、以下「150℃で15分処理した際のフィルム幅方向の熱収縮率のバラツキΔt」を単に「Δt」ということがあり、その測定方法は後述する。
【0031】
ポリプロピレンフィルムのΔtが0.50%以下であることにより、幅方向での局所的な収縮挙動、膨張挙動の差による表面の平面性における均一性の悪化が抑えられ、離型用フィルムとして用いる際にコート層の形成の悪化が軽減される。また、Δtを0.01%以上とすることで、ポリプロピレンフィルムがフィルム幅方向の熱収縮率のバラツキをある一定程度もつこととなり、離型用フィルムなどへ加工する際に受ける張力や熱負荷による熱シワの発生を軽減することができる。該熱シワ抑制のメカニズムとしては、熱加工する際に受ける張力や熱負荷を受けた際にポリプロピレンフィルムに発生するポリプロピレン主鎖の伸縮が、幅方向に寸法変化率のバラツキを一定量有することにより、縮む箇所と伸びる箇所が均一化されて、熱しわの発生を抑制する効果が得られているものと推定している。
【0032】
なお、Δtを0.01%以上0.50%以下とする方法は特に限られるものではないが、ポリプロピレンフィルムの厚みのバラツキを小さくする方法や、幅方向への延伸工程(予熱、延伸)及び熱処理工程において、幅方向の温度バラツキをコントロールする方法などが挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせることが可能である。
【0033】
本発明のポリプロピレンフィルムの厚みは用途によって適宜調整されるものであり特に限定はされないが、5.0μm以上70.0μm以下であることが好ましい。厚みが5μm以下であるとハンドリングが良好となり、70.0μm以下であると樹脂量の増加に伴う生産性の低下が抑えられる。本発明のポリプロピレンフィルムは、厚みを薄くしても、適度な強度(ヤング率)を維持しハンドリング性を保つことができる。このような特徴を活かすためには、ポリプロピレンフィルムの厚みは5.0μm以上60.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以上40.0μm以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレンフィルムの厚みは、公知の電子マイクロメーターで測定することができ(測定方法の詳細は後述)、押出機のスクリュー回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムは、本発明の効果を損なわない限りポリプロピレン樹脂以外の樹脂を含むこともできる。本発明のポリプロピレンフィルムに用いることができるポリプロピレン樹脂以外の樹脂としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン等を主たる構成単位とするポリオレフィン(中でも、ポリエチレン、ポリメチルペンテンが好ましい。)や、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルなどが挙げられるが、前述の例示に限定されるものではない。これらはポリプロピレン樹脂に1種類を単独で加えてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて加えてもよく、単独重合体でも共重合体でもよい。また、これらの樹脂の含有量は、耐絶縁破壊特性、寸法安定性の点から、ポリプロピレンフィルムを構成する全成分中の10質量%未満とするのが好ましい。
【0035】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいては、製膜性やフィルム強度の観点から主成分であるポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン樹脂Aということもある。)のメルトフローレート(以下、MFRと記載)はJIS K 7210(1999)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した場合において、製膜安定性・厚み斑の観点から1.0g/10分以上5.0g/10分以下であることが好ましく、2.0g/10分以上5.0g10分以下であることがより好ましい。2.2g/10分以上5.0g10分以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0036】
主成分であるポリプロピレン樹脂AのMFRが1.0g/10分以上であることにより、製膜性が安定し、かつ厚み斑が抑えられる。一方、ポリプロピレン樹脂のMFRが5.0g/10分以下であることにより、ポリプロピレンフィルムとしたときの熱収縮率を低く抑えることができる。
【0037】
また、上記樹脂以外の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、易滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることもできる。なお、これらの成分は本発明の効果を損なわない限り、複数種を組み合わせて用いることも可能である。
【0038】
酸化防止剤の選定や添加量の調整は、酸化防止剤のブリードアウトの観点から重要である。酸化防止剤としては、立体障害性を有するフェノール系のものが好ましく、複数種類の酸化防止剤を併用する場合、少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものであることが好ましい。本発明のポリプロピレンフィルムに用いることができる酸化防止剤の具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに、1,3,5-トリメチル- 2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。
【0039】
これら酸化防止剤の総含有量は、ポリマーの劣化による着色や酸化防止剤のブリードアウトによる透明性低下を軽減する観点から、ポリプロピレンフィルムを得るための原料全体を100質量%としたときに、0.03%以上1.0質量%以下の範囲が好ましい。酸化防止剤が0.03質量%以上であることにより、押出工程でのポリマーの劣化に起因するフィルムの着色や長期耐熱性の低下を軽減できる。一方、酸化防止剤が1.0質量%以下であることにより、酸化防止剤のブリードアウトによる透明性の低下が抑えられる。上記観点から、酸化防止剤のより好ましい含有量は0.05質量%以上0.90質量%以下であり、さらに好ましくは0.10質量%以上0.80質量%以下である。なお、ポリプロピレンフィルムが積層構成である場合、これらの酸化防止剤はいずれの層に添加してもよく、複数の層に添加してもよい。
【0040】
強度や耐熱性、製膜安定性の観点から、ポリプロピレン樹脂Aのメソペンタッド分率は0.90以上であることが好ましく、より好ましくは0.93以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温での寸法安定性が高くなるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように立体規則性の高い樹脂を得るには、n-ヘプタン等の溶媒で得られた樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。
【0041】
ポリプロピレン樹脂Aは、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分を含有してもよい。共重合成分としては、例えばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量は、耐絶縁破壊特性、寸法安定性の点から、1mol%未満とすることが好ましい。
【0042】
本発明のポリプロピレンフィルムは、融点が180℃以上の樹脂(以下、高融点樹脂)を含有することが好ましい。高融点樹脂の融点はより好ましくは180℃以上240℃以下である。ポリプロピレンフィルムの表層に高融点樹脂を含有させ、後述する条件でフィルム化することにより、Sku及びSp、Svについて、上述した範囲内の表面形状を形成させることが容易となり、滑り性を向上させることができる。このような場合は、表層(I)と基層(II)の少なくとも2層からなる積層フィルムとした上で、表層(I)に高融点樹脂が含まれることが好ましい。高融点樹脂を表層(I)に存在させると、後述する溶融押出工程では、融解してポリプロピレン中に分散し、延伸工程では変形せず上述した突起を形成させることが可能となる。なお、高融点樹脂とポリプロピレン樹脂のブレンド条件、及びフィルム製膜時の溶融押出条件については後述する。なお、本発明において樹脂の融点は、JIS K7121-1987に準じて示差走査熱量計(DSC)により測定するものとする。
【0043】
形成させる突起を上述したような微細なものにするためには、溶融押出工程においてポリプロピレン中に高融点樹脂を微分散させることが好ましいため、高融点樹脂にはポリプロピレン樹脂との親和性が高いことが求められる。この観点から、高融点樹脂はオレフィン系樹脂であることが好ましいが、オレフィン系樹脂の中でも、特に、4-メチルペンテン-1単位を主たる構成単位とするオレフィン系樹脂(ポリメチルペンテン)が好ましい。4-メチルペンテン-1単位を含む樹脂は非オレフィン系樹脂と比較して、ポリプロピレン樹脂との親和性が高いため、分散性を高めることができる。本発明のポリプロピレンフィルムにおいて好適に用いることが可能な4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂としては、例えば、三井化学株式会社製、“TPX”(登録商標)DX310、“TPX”(登録商標)DX231、“TPX”(登録商標)MX004などが例示できる。
【0044】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、表層(I)における4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂の含有量は、0.1~4.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~4.0質量%、更に好ましくは0.1~3.0質量%、さらに好ましくは0.1~2.5質量%である。表層(I)における4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂の含有量が4.5質量%以下の場合、突起が長手方向に長い山脈状にならず、形成される突起のサイズが抑えられる。そのため、このようなポリプロピレンフィルムを基材フィルムやカバーフィルム、離型用フィルムとして用いた際、被着体の表面への凹凸の転写が抑えられる。また、着層を塗工して保護フィルムとして使用する際など巻取りが困難な場合においては、エアー噛みなどの欠点を抑えることができる。表層(I)における4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂の含有量が0.1質量%以上である場合、形成される突起の頻度が適度に保たれることで滑り性が良好となり、巻取性が向上する。
【0045】
本発明のポリプロピレンフィルムの表層(I)に使用する原料を得るためには、高融点樹脂とポリプロピレン樹脂Aをブレンドすることが好ましく、あらかじめ両者を二軸押出機で混練させてチップ化しておくことがより好ましい。この際の混練温度は、高融点樹脂の融点より高い方が分散均一性の観点から好ましく、混錬温度と高融点樹脂の融点の差が10℃以上であることがより好ましく、両者の差が20℃以上であることがさらに好ましい。混練温度が高融点樹脂の融点より高いことにより、分散性が高まり、粗大突起の形成が抑えられる。混練温度の上限は特に定めないが、ポリプロピレン樹脂Aの熱分解を抑える観点から280℃が好ましい。
【0046】
本発明のポリプロピレンフィルムは、巻き取り性、幅方向での熱収縮挙動のバラツキ抑制の観点から、幅方向の厚み斑が5.0%以下であり、より好ましくは3.0%以下である。幅方向の厚み斑が5.0%より大きいと厚み斑箇所でフィルムが変形したり、局所的にエアーが溜まることでシワになったり、熱処理をかけた際に収縮挙動のバラツキを生じさせる。また、局所的に厚み斑を上記範囲とするためには、製膜時の横延伸条件、熱固定条件、リラックス条件を後述する範囲内とすることで達成することができる。より具体的には、例えば横延伸倍率を8.0倍以上11倍以下とすることや、熱処理温度を110℃以上160℃以下とすること等が効果的であり、これらは適宜組み合わせてもよい。
【0047】
次に本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法について、二軸配向ポリプロピレンフィルムの一態様を例に具体的に説明するが、本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法は、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0048】
まず、上述した好ましいポリプロピレン樹脂を溶融押出機に供給し、230℃以上260℃以下にて溶融押出を行う。次に、ポリマー管の途中に設置したフィルターで異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。また、キャストドラムは、表面のSku、Sp、Svを適切な範囲に制御するために、表面温度が15℃以上60℃以下であることが好ましく、15℃以上45℃以下であるとより好ましく、さらに好ましくは15℃以上30℃以下である。キャストドラムへシートを密着させる方法としては、静電印加法、エアーナイフ法、ニップロール法、水中キャスト法などの手法を採用することができるが、異物レスやフィルム冷却化の観点でエアーナイフ法が好ましい。
【0049】
また、キャストドラムへシートを確実に密着させた上で10~20秒間、好ましくは13~20秒間、上記温度にて冷却させることが好ましい。上記記載のキャストドラムの温度及び時間を制御することにより、β晶の形成を抑制できることから粗大な突起が形成されず、平滑且つブロードな突起形成となる。
【0050】
次に、得られた未延伸シートを二軸延伸し、二軸配向せしめる。具体的な延伸条件としては、まず、未延伸シートを長手方向に延伸する温度を制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向に延伸する際のフィルム温度(予熱温度及び延伸温度)としては、表面のSku、Sp、Svを好ましい範囲に制御することと、安定製膜性、及び汚れ状欠点を減らす観点も考慮すると、140℃以上155℃以下であることが好ましい。延伸倍率としては、熱収縮率、破断伸度を好ましい範囲に制御するために3.5倍以上6.0倍以下であると好ましく、より好ましくは4.0倍以上5.0倍以下である。延伸倍率が3.5倍以上であることにより、より均一に延伸ができるため厚み斑が軽減される。一方、延伸倍率を6.0倍以下に抑えることで、縦延伸工程でのフィルム破断や次の横延伸工程でフィルム破断を軽減することができる。
【0051】
次いで、長手方向への延伸で得られた一軸配向フィルムを一旦10℃以上70℃以下に冷却する。冷却温度が10℃以上の場合、フィルムのカールを抑制することができる。一方で、冷却温度が70℃以下の場合、熱結晶化が促進されることを抑制することができ、熱収縮応力や収縮応力立ち上がり温度を容易にコントロールすることができる。
【0052】
次に、このようにして得られた一軸配向フィルムを、その幅方向両端部をクリップで把持してテンター式延伸機に導入し、幅手方向に延伸する。厚み斑や安定製膜性の観点で、好ましくは145℃以上170℃以下、より好ましくは150℃以上165℃以下、さらに好ましくは160℃以上165℃以下に加熱して、幅手方向に7.0倍以上12倍以下、より好ましくは8.0倍以上11倍以下の倍率で延伸を行う。
【0053】
次いで、そのままテンター内で熱処理を行う。このとき、幅方向の熱収縮率を制御するために、熱処置温度は110℃以上160℃以下であることが好ましく、120℃以上155℃以下であるとより好ましい。さらに好ましくは141℃以上155℃以下である。さらに、熱処理時にはフィルムの幅手方向に弛緩させながら行ってもよく、特に、幅手方向の弛緩率を5.0%以上15.0%以下、より好ましくは7.0%以上13.0%以下とすることで、幅方向の熱収縮率を適切な範囲とし、寸法安定性のバランスを適切化する観点で好ましい。
【0054】
このようにして得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に表面平滑性や品位に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルム、離型用フィルム、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途フィルム等として好ましく用いることができ、離型用フィルムとして特に好ましく用いることができる。ここで、離型用フィルムとは、部材の表面を保護や樹脂形成のために使用する基材など最終製品とて使用する前に部材や製品から剥離するフィルムを指す。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、製造方法によって得られたフィルムの特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0056】
[各特性の評価方法]
(1)フィルム厚み、厚み斑
ポリプロピレンフィルムを5枚重ねて測定サンプルとし、電子マイクロメーター(TESA社製 TT80)を用いて測定サンプルの厚みを測定した。次いで、得られた値を5で除してポリプロピレンフィルム1枚当たりの厚みを算出した。さらに幅方向に50mmずらした位置を測定点として同様の測定を行い、同様の測定を合計5回繰り返した。得られた測定結果より、ポリプロピレンフィルム1枚当たりの厚みの最大値、最小値、平均値を求め、平均値をフィルム厚み(μm)とし、下記式より厚み斑(%)を求めた。
(式1)厚み斑(%)=((厚み最大値-厚み最小値)/厚み平均値)×100 。
【0057】
(2)表面の高さ分布の鋭さ(Sku)、最大山高さ(Sp)、最大谷深さ(Sv)
株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0(型式:R3300GL-Lite-AC)を用いて下記手順、条件で測定した。まず、フィルムロールよりポリプロピレンフィルムを巻き出し、幅方向中央部を通りかつ長手方向に平行な直線上に無作為に定めた10箇所が測定箇所となるように測定サンプルを採取し、その10箇所においてSku、Sp、Svを測定した。得られた各測定値の平均値を算出し、それぞれ当該ポリプロピレンフィルムのSku、Sp、Svとした。その後、測定面を替えて同様の測定を行った。なお、1回の測定においては、1視野(視野面積:縦939μm×横1,252μm=1,175,628μm)の測定を行った。
【0058】
A.測定条件
CCDカメラ:SONY HR-57 1/2
対物レンズ:10X
鏡筒:0.5X BODY
波長フィルター:530 white
測定モード:Wave
視野サイズ:640×480
スキャンレンジ:(スタート)5μm、(ストップ)-5μm。
【0059】
B.測定サンプルの固定方法
測定サンプルの固定には専用のサンプルホルダーを使用した。サンプルホルダーは中心に円形の穴が空いた脱着可能な2枚の金属板であり、その間にシワがない状態で測定サンプルを挟み固定し、円形の穴部分に位置する測定サンプルについて測定した。
【0060】
C.解析方法
上記測定により得られたデータを“VertScan”(登録商標)2.0の画像解析ソフトVS-Viewerで解析した。まず、メディアンフィルター(5×5)によりノイズを除去し、カットオフ値250μmのガウシアンフィルターによりうねり成分を除去した。次いで、「ISOPara」機能により、ISO25178(2012)で定義されるSpd、Spc、Saを測定した。なお、「ISOPara」機能において、S-Filterを6.0μmに設定した。
【0061】
(3)フィルム幅方向の熱収縮応力値
TMA(Thermo Mechanical Analysis)法にて、各温度における試料の変化率を測定して横軸を温度、縦軸を試料の長さの変化量としてプロットした曲線(TMA曲線)を描き、TMA曲線から幅方向の熱収縮応力の立ち上がり温度を読み取り、各温度における熱収縮応力を測定した。なお、測定装置と測定条件は以下の通りとした。
<測定装置、測定条件>
応力負荷装置:セイコーインスツル(株)製の「TMA/SS 6100」
データ処理装置:セイコーインスツル(株)製の「EXSTAR 6000」
測定モード:10℃/分の等速昇温
装置載置雰囲気:室温の大気中
サンプル:15mm×2mmの矩形(測定方向である主収縮方向(X方向)が15mm)。
【0062】
(4)幅方向(TD方向)の150℃15分処理した際の熱収縮率のバラツキΔt
ポリプロピレンフィルム表面に、幅10mm、測定長約100mmとなるように(かつ、測定長の方向が長手方向となるように)2本のラインを引き、この2本のライン間の距離を23℃で正確に測定しこれをL0とした。このサンプルを100℃オーブン中に30分間、1.5gの荷重下で放置した後、23℃環境下で再び2本のライン間の距離を測定し、これをL1として下式によりそれぞれの温度での寸法変化率を求めた。
(式2) 寸法変化率(%)=[(L0-L1)/L0]×100。
評価するポリプロピレンフィルムについて、幅方向の一方の端部から他方の端部まで、100mm毎で同様に測定し、最大値と最小値との差をΔtとして算出した。
【0063】
(5)製品ロール巻き姿
製品ロールの巻き取り後に製品ロールを目視で確認し、以下の基準で評価した。なお、評価結果が○及び△の場合を合格とした。
(転写痕に関しては、ロールより巻き出したポリプロピレンフィルムに蛍光灯の光を照射し、その反射光を目視で確認することにより判定した。)
○:製品ロールにシワ、巻きズレ、及び転写痕がいずれも発生しなかった。
△:製品ロールにシワ、巻きズレ、及び転写痕の少なくとも一つが発生したが、加工上実害がない軽微なレベルであった。
×:加工上実害があるレベルで、製品ロールにシワ、巻きズレ、転写痕の少なくとも一つが発生した。
【0064】
[原料]
実施例及び比較例のポリプロピレンフィルムを製造するために、以下の原料を使用した。なお、下記の酸化防止剤については、各ポリプロピレン樹脂原料に既に混合されているものであるため、実施例および比較例では含有量の微調整は行わなかった。また、各ポリプロピレン樹脂原料に含有される酸化防止剤は微量(全成分中1.0質量%未満)であり、フィルムとしたときの揮発分を考慮すると、さらに酸化防止剤の量が少なくなるため、後述の実施例および比較例における製造方法および表1には記載しないものとする。
【0065】
(1)樹脂
ポリプロピレン樹脂原料I:(株)プライムポリマー社製、MFRが2.9g/10分、融点が164℃、メソペンタッド分率が0.94である高立体規則性のホモポリプロピレン樹脂(ホモPP1)。
ポリプロピレン樹脂原料II:以下の手順により、ホモPP1に4-メチル-1-ペンテン系重合体(三井化学(株)製、“TPX”(登録商標)MX004、融点:230℃)を2質量%混合したもの。
<混合手順>
ホモPP1が90質量部、“TPX”(登録商標)MX004が10質量部となるように、各樹脂を計量ホッパーから二軸押出機に供給して260℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して25℃の水槽にて冷却固化した後、チップ状にカットして混合ポリプロピレン原料を得た。得られた混合ポリプロピレン原料とポリプロピレン樹脂原料Iを20:80(質量比)でドライブレンドして、ポリプロピレン樹脂原料IIを得た。
ポリプロピレン樹脂原料III:(株)住友化学社製、MFRが2.1g/10分、融点160℃であるホモポリプロピレン樹脂(ホモPP2)。
ポリプロピレン樹脂原料IV:(株)プライムポリマー社製、MFRが2.0g/10分、融点161℃であるホモポリプロピレン樹脂(ホモPP3)に平均粒径2μmのシリカ粒子を0.5質量%混合したもの。
ポリプロピレン樹脂原料V:(株)住友化学社製、MFRが1.3g/10分、融点159℃であるホモポリプロピレン樹脂(ホモPP4)。
ポリプロピレン樹脂原料VI:(株)住友化学社製、MFRが4.0g/10分、融点158℃であるホモポリプロピレン樹脂(ホモPP5)に平均粒径2μmのアクリルビーズ粒子を0.3質量%混合したもの。
分岐鎖状ポリプロピレン樹脂:日本ポリプロ社製“WAYMAX”(登録商標)(MFX3) MFRが9.0g/10分である分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(分岐鎖状PP)。
【0066】
(2)酸化防止剤
酸化防止剤1:BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1010。
酸化防止剤2:ADEKA社製2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)。
【0067】
(実施例1)
表層(I)用の原料としてポリプロピレン樹脂原料IIを、基層(II)用の原料としてポリプロピレン樹脂原料I(ホモPP1)を、それぞれ別々の単軸押出機に供給した。その後、各単軸押出機で樹脂組成物を240℃で溶融して押し出し、30μmカットの焼結フィルターでそれぞれの溶融樹脂から異物を除去した。次いで、フィードブロック型の複合TダイにてI/II/Iが0.5/23.5/0.5の厚み比となるように各原料を積層して、20℃に表面温度を制御したキャスティングドラムに吐出し、エアーナイフによりキャスティングドラムに密着させて未延伸シートを得た。この際、キャスティングドラムの周速はキャスティングドラムとフィルムの密着時間が15秒間となるように調整し、エアーナイフのエアー温度は30℃に設定した。続いて、搬送ロールを用いて未延伸シートを148℃に予熱し、周速差を設けたロール間において温度144℃で長手方向に4.2倍延伸し、さらに40℃のロールで冷却した。次に、得られた一軸延伸フィルムを、その幅方向両端部をクリップで把持してテンター式延伸機に導入し、162℃で3秒間予熱後、162℃で幅方向に8.8倍に延伸した。その後、同じテンター式延伸機内で、幅方向に12%の弛緩を与えながら150℃で熱処理を行い、140℃の冷却工程を経てテンター式延伸機の外側へ導いてクリップを開放した。続いて、幅方向両端部を除去したポリプロピレンフィルムを巻取機で巻取り、厚み24.5μmのポリプロピレンフィルムのロールを得た。得られたポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2~8、比較例1~5)
実施例1において、フィルム構成及び製膜条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様の方法で表1に示す厚みのポリプロピレンフィルムのロールを得た。得られたポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。なお、厚みの調整は、押出機の回転数によって樹脂吐出量を制御することや、キャスト速度や縦延伸倍率および横延伸倍率を制御することにより行った。比較例2、比較例4の表層原料については、実施例1の表層原料に代えて、順にポリプロピレン樹脂原料IV、ポリプロピレン樹脂原料VIを使用した。比較例1の表層原料には、ホモPP1と分岐鎖状PPを質量比8:2で混合したものを使用し、基層原料には分岐鎖状PPが2質量%なるようにホモPP1と混合したものを使用した。
【0069】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0070】
上述のとおり、本発明のポリプロピレンフィルムは耐転写性とハンドリング性に優れるため、離型用フィルムや工程フィルムとして好適に用いることができ、例えば、粘着性樹脂層のカバーフィルムなどの離型用フィルムとして特に好適である。さらに本発明のポリプロピレンフィルムは表面平滑性にも優れるため、表面平滑性が要求される部材の離型用フィルム、工程フィルムとしても好ましく用いることができる。また、上記特性を具備する本発明のポリプロピレンフィルムは、包装用フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることもできる。