(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092926
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20240101AFI20240701BHJP
A61L 15/22 20060101ALI20240701BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A61F13/02 390
A61F13/02 310D
A61F13/02 340
A61L15/22 100
A61L15/26
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113747
(22)【出願日】2023-07-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2022208269
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507134655
【氏名又は名称】有限会社ちょうりゅう
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】平島 利文
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA03
4C081CA21
4C081DA02
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法を提供する。
【解決手段】溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、非伸縮機能を有し、前記伸縮性基材部を保持する機能を有する支持体部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部とを備え、前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている医療用テープの製造方法であって、当該医療用テープの製造工程において、前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを、前記支持体部の上層に塗布する工程、及び前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、前記伸縮性基材部と前記支持体部との積層を行う工程、を備える医療用テープの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、
非伸縮機能を有し、前記伸縮性基材部を保持する機能を有する支持体部と、
前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、
前記粘着部を保護する機能を有する剥離部とを備え、
前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている医療用テープの製造方法であって、
当該医療用テープの製造工程において、前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを、前記支持体部の上層に塗布する工程、及び
前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、前記伸縮性基材部と前記支持体部との積層を行う工程、
を備えることを特徴とする医療用テープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場等において、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定、創傷や皮膚の被覆保護等には、防水性、透湿性、及び皮膚追従性等に優れた機能を備えたポリウレタンフィルム等のフィルム状素材を用いた医療用テープが選択されている。留置針(りゅうちしん)とは、採血・点滴の際に、静脈内に挿入し身体に固定して使用する注射針であり、一週間前後に渡る点滴等にも使用される。
【0003】
これらのフィルム状素材は、厚さ10~30μm程度と非常に薄いため、単独では平面形態を保持できず、自然環境下では丸まりやすい。そのため、平面形態を保持するための支持体として、フィルム状素材の伸縮性基材より剛性の高い保形用カバー、例えば、非伸縮性のプラスチックフィルムにフィルム状素材を積層させることで平面形態を保持し、しわ等を形成しないようにしている。
【0004】
なお、その製造工程では、非伸縮性のプラスチックフィルムの上層(片面)に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布し、ポリウレタンフィルムの原料となる混液に対して、非伸縮性のプラスチックフィルムとは反対側の面に、粘着部を介して非伸縮性の剥離部を積層させ、ポリウレタンフィルムの原料となる混液を硬化させ製膜する方法が汎用されている。
【0005】
しかし、上述の方法では、非伸縮性のプラスチックフィルムと接するポリウレタンフィルムの原料となる混液の面(以下、「下底部分」と称する。)は、非伸縮性のプラスチックフィルムとよく付着し、また、粘着部と接するポリウレタンフィルムの原料となる混液の面(以下、「上底部分」と称する。)は、粘着部を介して非伸縮性の剥離部とよく付着しているため、ポリウレタンフィルムの原料となる混液が硬化し製膜されることで、製膜後のポリウレタンフィルムは、膜厚方向以外には自由に収縮できず、製膜後のポリウレタンフィルム内に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)が隈なく発生する。以下、「製造過程において溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮によって伸縮性基材に隈なく残留し、該医療用テープの使用時に支持体を取り除くことで放出され、伸縮性基材全体を収縮させる力を伴う収縮力」を「残留収縮力」と称する。
【0006】
よって、上述の方法で得られたポリウレタンフィルムを医療用テープの伸縮性基材、非伸縮性のプラスチックフィルムを医療用テープの支持体として用いた医療用テープ、すなわち、「ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を用い、下底部分が非伸縮性のプラスチックフィルムである支持体とよく付着し、上底部分が粘着部を介して非伸縮性の剥離部とよく付着している状態で、ポリウレタンフィルムの原料となる混液が硬化し製膜された医療用テープ」(以下、「従来型支持体付き医療用テープ」と称する。)では、伸縮性基材であるフィルム状素材に、残留収縮力が存在することになる。なお、従来型支持体付き医療用テープの貼付手順は、1.剥離紙を取り除く。2.皮膚に貼付する。3.支持体を取り除く。となる。また、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力は、剥離紙をすべて取り除いても消失されず、皮膚に貼付した後、支持体を取り除くことで放たれ、皮膚を持続的に収縮させる力となり、皮膚を収縮させるため、貼付期間中の持続的な皮膚刺激の原因となる。
【0007】
ここで、
図1及び
図2を用い、従来型支持体付き医療用テープに存在する残留収縮力について説明する。
図1は、支持体が二分された構造からなる従来型支持体付き医療用テープを皮膚に貼付した後、親指側の支持体を取り除いた様子を示した説明図である。親指側の支持体及び小指側の支持体の下層に位置する伸縮性基材の状態を比較するため、親指側の支持体は、取り除いた状態であり、小指側の支持体は、取り除いていない状態である。皮膚に貼付した後、支持体を取り除いた親指側の伸縮性基材には、細かな皺が出現したが、支持体を取り除いていない小指側の伸縮性基材には、変化は確認できなかった。
図2は、残りの支持体である、小指側の支持体を取り除いた状態を示しており、小指側の伸縮性基材にも細かな皺が出現している。このことは、従来型支持体付き医療用テープでは、支持体を取り除くことで、伸縮性基材内に隈なく存在していた残留収縮力が支持体から解放されて、伸縮性基材全体を収縮させ、伸縮性基材全体に細かな皺を出現させると同時に従来型支持体付き医療用テープ貼付部位の皮膚を収縮させたことを示しており、したがって、伸縮性基材内には残留収縮力が存在していたといえる。このように、従来型支持体付き医療用テープでは、支持体を取り除くことで残留収縮力が放たれる。よって、従来型支持体付き医療用テープに存在する残留収縮力は、皮膚に貼付した後、支持体を取り除くことで、伸縮性基材全体を収縮させ、その結果、伸縮性基材に細かな皺を出現させることで確認できる。
【0008】
なお、医療テープ業界では、製品の取り扱い説明書等において、「皮ふ刺激の原因となりますので、引っ張らずに(伸ばさずに)、貼ってください」といった注意喚起がおこなわれている。このことから、医療テープ業界において、伸縮性医療テープの伸縮性基材部分を「引き伸ばした状態」で皮膚に貼付することの危険性については、当業者常識として十分に浸透していると推察される。また、プラスチック業界において、ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を用い、下底部分が非伸縮性のプラスチックフィルムである支持体とよく付着し、上底部分が粘着部を介して非伸縮性の剥離部とよく付着している状態で、ポリウレタンフィルムの原料となる混液を硬化させ製膜すれば、ポリウレタンフィルム内に残留収縮力が発生することは、当業者常識といえる。
【0009】
一方、医療テープ業界においては、従来型支持体付き医療用テープの伸縮性基材部分であるポリウレタンフィルム内に、残留収縮力が存在することに対する認識(当業者常識)は乏しいと推察する。仮に、医療テープ業界に残留収縮力の存在についての認識(当業者常識)があり、残留収縮力が弊害を伴うと捉えているのであれば、製品の取り扱い説明書等に「伸縮性基材部分に実在する残留収縮力」に対する注意等の記載があるはずである。しかしながら、現在、製造販売されている医療用テープの取り扱い説明書等には、「本品の使用中に皮膚障害(発疹・発赤、かゆみ等)と思われる症状が現れた場合には、使用を中止し、適切な治療を行ってください。」といった注意喚起のみで、使用者の体質的な内因と捉えかねないような問題を含む注意喚起の記載であり、伸縮性基材部分に実在する残留収縮力に伴う弊害を使用者自身が認識することなく、さらに防ぐ術もないまま使用してしまうという問題があった。さらに、この問題の根幹となる残留収縮力は、プラスチック業界においては当業者常識であるが、同様の素材を用いた製品を製造販売する医療テープ業界においては、残留収縮力そのものに対する認識がなく、当業者常識ではないという矛盾が生じていることにあり、医療テープ業界では、従来型支持体付き医療用テープの製造設備等の効率や生産性向上に対応し、弊害を伴う残留収縮力について対応がなされていないという現状がある。その背景には、伸縮性基材内の残留収縮力の弊害について医学的に言及している書籍や論文は乏しく、解決法のみならず、弊害についても臨床研究に言及している論文等は見当たらず、確立されていないという現状があり、医療現場においては、皮膚炎等の原因は、医療用テープの粘着剤の刺激(外因)や使用患者の粘着剤に対する過敏性(内因)にあり、医療関連機器圧迫創傷等の原因は、使用法の注意喚起に対する不注意であるという当業者常識が存在し、弊害を伴う残留収縮力については問題提起されることも殆ど無いというのが現況である。
【0010】
一部では、成形収縮に伴う残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減する効果が高い、成形収縮追従部付き医療用テープ及びその製造方法(例えば、特許文献1参照)が提案され、従来型支持体付き医療用テープの貼付期間中の持続的な皮膚刺激が改善されている。しかし、該医療用テープでは、溶液ポリマーの成形収縮に追従可能な追従機能を有する、成形収縮追従部という新たな素材が必要となり、新たな素材の開発、製造設備や製造コスト等の問題が浮上した。また、復元力温存部付き医療用テープ及びその製造方法(例えば、特許文献2参照)が提案され、従来型支持体付き医療用テープの貼付期間中の持続的な皮膚刺激が改善されている。しかし、該医療用テープでは、復元力温存部の素材として、該復元力温存部付き医療用テープの形状変化に対応する可とう性、及びポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって生じる残留収縮力に若干勝る復元力を備えた、復元性機能を有する非伸縮性の素材が必要となるため、新たな素材の開発、製造設備や製造コスト等の問題が浮上した。また、製膜土台部を用いた医療用テープ及びその製造方法(例えば、特許文献3参照)が提案され、従来型支持体付き医療用テープの貼付期間中の持続的な皮膚刺激が改善されている。しかし、該医療用テープでは、製造工程において、製膜土台部を伸縮性基材部から剥離させて取り除き、伸縮性基材部に支持体部を積層することが必須となり、製造設備や製造コスト等の問題が浮上した。ゆえに、従来の残留収縮力を減少させた医療用テープでは、新たな素材の開発、専用の製造設備の導入、製造コスト等の問題が障壁となり、残留収縮力に対応する医療用テープの製造は容易ではなく、このような不利を適切に解決できる手段がなかったのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6832470号公報
【特許文献2】特許第6961116号公報
【特許文献3】特許第6874202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑み、従来型支持体付き医療用テープの各部を構成する素材と同様の機能を有する素材を活用することで製造可能な残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の製造方法で得られる残留収縮力を減少させた医療用テープは、溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、非伸縮機能を有し、前記伸縮性基材部を保持する機能を有する支持体部と、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する剥離部とを備え、前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている医療用テープであり、本発明は、当該医療用テープの製造工程において、前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを、前記支持体部の上層に塗布する工程、及び前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、前記伸縮性基材部と前記支持体部との積層を行う工程、を備えることを特徴とする前記医療用テープの製造方法である。なお、「成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態」とは、当該医療用テープの有効性が医学的に認められる程度まで、成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態をいい、該医療用テープの効果が医学的に有効であれば、溶液ポリマーの下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を完全に減少させた状態でなくてもよい。また、本発明の医療用テープの製造方法において、上記工程以外の工程については、任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用テープの製造方法によれば、以下の医療用テープ、すなわち、従来の従来型支持体付き医療用テープ、特に、後に伸縮性基材となる溶液ポリマーを原料とし、溶液ポリマーの製膜及び支持体との積層を同時に行うことで生じる成形収縮を伴う医療用テープの伸縮性基材の残留収縮力を減少させるための手段を医療用テープの製造方法に構成として取り入れることで、従来の従来型支持体付き医療用テープの製造方法では成し得なかった医療用テープ、すなわち、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力(物理的刺激)によって生じる皮脂腺や汗腺の開口部の変形や閉塞、及び、医療関連機器圧迫創傷等を防止することができる医療用テープ、を製造することが可能となる。さらに、前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、前記伸縮性基材部と前記支持体部との積層を行う工程は、溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部を得ることを可能とする。さらに、本発明の医療用テープの製造方法では、従来型支持体付き医療用テープの各部を構成する素材と同様の機能を有する素材を用いることが可能であり、新たな素材を開発せずとも、該医療用テープの製造段階において、残留収縮力を減少させた医療用テープを容易に、かつ、効率よく製造することができる。また、従来技術により確立された従来素材の使用が可能となることで、既知の素材による実績から安全性や耐久性が確保され、突っ張り防止機能(伸縮性機能)、防水機能、透湿機能(蒸れ防止機能)、固定機能、保護機能(細菌やウイルスの侵入防止機能)等の機能性についても状況を把握しやすく、性能を選択することができ、それぞれの機能に特化させることや、もしくは総合的に優れた残留収縮力を減少させた医療用テープを製造することが可能となる。したがって、本発明の製造方法で得られる残留収縮力を減少させた医療用テープでは、該医療用テープの完成時点で既に前記伸縮性基材部の下底部分の残留収縮力が減少させており、さらに、前記伸縮性基材部の上底部分に存在する部分内部応力は、前記剥離部を取り除くことで放出させることができるため、該医療用テープの使用時には、前記伸縮性基材部内の残留収縮力を減少させた状態で皮膚に貼付することができ、該医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることができ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を減少させることができる。このことにより、原因となる残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等を提供することができる。また、皮脂腺や汗腺の炎症、毛根やその周辺組織の炎症、圧迫によって生じる皮膚の細胞や毛細血管等に対する血液循環不良による医療関連機器圧迫創傷等を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、段落[0007]に記載の残留収縮力の確認に用いた親指側の非伸縮性の支持体を取り除いた様子を示す説明図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した説明図の残りの非伸縮性の支持体である小指側の支持体を取り除いた様子を示す説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す図であり、加熱冷却作業台6の上に支持体部2を置き、支持体部2の上層に、後に伸縮性基材部1となる溶液ポリマー5を塗布した積層過程の様子を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す図であり、支持体部2と、後に伸縮性基材部1となる溶液ポリマー5からなる2層の積層体の上層に、粘着部3と剥離部4との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体とした、積層過程の様子を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す図であり、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台6により、下方から、4層の積層体の溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化しない程度に保ちながら、さらに、粘着部3を介し剥離部4の上方から、溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化する程度に保ち、加熱し、溶液ポリマーの下底5b部分と溶液ポリマーの上底5a部分の硬化する速度に差異を生じさせ、溶液ポリマーの下底5b部分を自由に収縮できる状態で製膜する製造過程の様子を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す概略断面図であり、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得て、本発明の第1の実施の形態である残留収縮力を減少させた医療用テープが完成した様子を示す。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの概略断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの使用時を示す図であり、剥離部4を取り除き、伸縮性基材部の上底1aに存在していた部分内部応力が消失した様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、鋭意研究を重ねていく過程で、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力の要因は、支持体となる非伸縮性のプラスチックフィルムの上層(片面)に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布し、ポリウレタンフィルムの原料となる混液を硬化させ製膜させる工程において、製膜と積層がほぼ同時に行われるため、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の上底部分と下底部分の硬化する速度に差異が生じにくいことにあると知見した。その結果、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の下底部分は、膜厚方向以外には自由に収縮できない状態で製膜され、製膜後のポリウレタンフィルムには、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)がポリウレタンフィルム内に発生する。この成形収縮に伴う内部応力は、該医療用テープの使用時に支持体を取り除くまで留まり、支持体を取り除くことで放出されるが、ポリウレタンフィルムからなる伸縮性基材全体を縮ませる力である残留収縮力となる。ここで、製造過程においてポリウレタンフィルムの原料となる混液の上底部分と下底部分の硬化する速度に差異を生じさせ、下底部分を自由に収縮できる状態で製膜すれば、製膜後のポリウレタンフィルムの下底部分に残留収縮力は存在しない。すると、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の上底部分は、膜厚方向以外には自由に収縮できない状態で製膜され、製膜後のポリウレタンフィルムには、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)がポリウレタンフィルム内の上底部分に発生するものの、この成形収縮に伴う内部応力は、該医療用テープの使用時に剥離部を取り除くことで放出されるが、ポリウレタンフィルムからなる伸縮性基材全体を縮ませる力である残留収縮力とはならないことがわかった。そこで、これらの知見に基づき、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の下底部分を硬化させて製膜することで生じる成形収縮に伴う残留収縮力に対応するために、溶液ポリマーを原料とする医療用テープの製造工程において、非伸縮性の支持体の上層に、ポリウレタンフィルムの原料となる混液を塗布し、硬化させて製膜する際、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、ポリウレタンフィルムの原料となる混液の下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、支持体との積層を行い、従来型支持体付き医療用テープの製膜後のポリウレタンフィルム内に存在していた成形収縮に伴う残留収縮力を減少させる手段について着目した。
【0017】
また、従来型支持体付き医療用テープは、様々な場面で汎用されている。それゆえ、問題となる場面は多いものの、該医療用テープの弊害は、使用者が無自覚のうちに進行する。よって、その問題の表面化が遅れることにより、初期対応もおのずと遅れることになる。さらに、これらの医学知識が製造現場へ届きにくく、製品に反映されないという問題もはらんでいる。ここで、医療用テープとは、健康な皮膚に対応するものではなく、あくまで、病み患う者の皮膚に対応するものであるという視点から、従来型支持体付き医療用テープの具体的な使用例に基づき、該医療用テープの弊害について説明する。従来型支持体付き医療用テープを、創傷や皮膚の被覆保護等を目的として使用した場合の皮膚刺激について説明する。皮膚表面には、皮脂腺や汗腺の開口部があり、毛が存在する。そのため、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力は、皮脂腺や汗腺の開口部を持続的に変形させ、時に閉塞させる力となり、皮脂腺や汗腺の炎症(発赤、腫脹、発熱、疼痛、機能障害)を促すことも少なくない。また、皮膚を持続的に収縮させる力は、皮膚を収縮させ、持続的に毛を引き上げる力ともなり、毛根やその周辺組織に炎症を引き起こすことも稀ではない。
【0018】
次に、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定を目的として従来型支持体付き医療用テープを使用した場合の皮膚刺激について説明する。従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力は、留置針やカテーテル等を固定するに留まらず、留置針やカテーテル等の固定部位の皮膚を持続的に圧迫する力として作用し、これらの処置具を介し、皮膚の細胞や毛細血管等を持続的に圧迫する力に変わる。
【0019】
次に、皮膚の細胞や毛細血管等を持続的に圧迫する力について説明する。例えば、血管は全身に張り巡らされており、その総延長は10万km程度、地球2周半程度に及ぶ。その95パーセント程度が、毛細血管である。毛細血管の直径は、わずか7μm程度であり、その壁の厚さは1μm以下と極めて薄い。そのため、無自覚的な軽微な圧迫であっても、皮膚の毛細血管には容易に変形や閉塞が生じうる。
【0020】
また、全身の細胞に酸素を運ぶ役割を担う赤血球は、血液1マイクロリットル中に500万個程度存在し、直径が7から8μm程度、厚さが2μm程度の両面中央が凹んだ円盤状の固形物であり、変形することで直径7μm程度の毛細血管を通過している。しかし、固形物である赤血球の変形には限度があるため、毛細血管にわずかな変形が生じても通過が困難となり、赤血球が詰まることによって毛細血管の閉塞が生じることも稀ではない。その結果、細胞に血液循環不良に伴う酸素不足が生じることも少なくない。
【0021】
また、圧迫に伴う血液循環不良が起因となり、皮膚の組織や細胞が局部的に死ぬ疾患に褥瘡、いわゆる床ずれがある。実験的には、身体の同一箇所に2時間以上の持続的な圧が加わると褥瘡が発生するといわれている。そのため、医療現場においては、ベッド等で寝ている状態の寝たきり患者に対しては約2時間間隔、車椅子等に座った状態では約30分間隔で、体位の変換を行なうことを推奨し、褥瘡の発生を予防している。このように、褥瘡は数時間単位の圧迫に伴う血液循環不良が起因となって生じる。
【0022】
さらに、近年の従来型支持体付き医療用テープは、従来の伸縮性医療用テープより皮膚追従性、透湿性、防水性、皮膚粘着性等が飛躍的に向上しており、一週間前後の継続貼付が可能となった。そのため、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、特に、一週間前後に渡る点滴などの留置針の固定に、従来型支持体付き医療用テープが使用されることも少なくなく、処置具を覆い皮膚を持続的に収縮させる力は、留置針やカテーテル等の医療関連機器の固定部位の皮膚を、数日間持続的に圧迫する力として作用することとなり、固定部位に医療関連機器圧迫創傷等の発生が危惧される。これは、褥瘡発生を予防するための数時間という限度をはるかに超えた時間であると言える。
【0023】
また、粘着剤や伸縮性基材の品質の向上により、剥がれにくく長時間の固定が可能となり、一週間以上の貼付が可能な製品も登場している。このように、剥がれにくく長時間の固定に優れた製品では、取扱説明等に「本品をはがす時は、皮膚を傷めないよう体毛の流れに沿ってゆっくりはがしてください。」といった注意喚起が重要となり、製品をはがす時の皮膚刺激を軽減するためには、製品をはがすことなく、はがれるまで放置する手段が有効となる。しかし、はがれるまで放置するという手段を用いれば、貼付期間は自ずと長くなり、残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激は、増加の一途を辿ることになる。
【0024】
なお、軽微な刺激であっても、違和感や苦痛を訴える患者は少なくない。しかし、身体に軽微な刺激が持続的に加わると、刺激に対し感覚が鈍くなる「知覚鈍麻」が生じ、違和感や苦痛を訴える患者が減少する。このことは、一般に「慣れ」と呼ばれているが、身体に加わっていた刺激が消失したことを意味するものではなく、さらに、皮膚の毛細血管に生じた変形や閉塞、及び血液循環不良等が改善されたことではない。段落[0017]~[0023]で述べたところの残留収縮力の程度は、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても十分にその原因となりうる。
【0025】
このように、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するためには、成形収縮に至る過程を考慮し、医療用テープの伸縮性基材部内に、残留収縮力を生じさせないようにし、残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させることが肝要となる。そのため、本発明では、溶液ポリマーを原料とする医療用テープの製造工程において、非伸縮性の支持体の上層に、伸縮性基材の原料となる溶液ポリマーを塗布し、硬化させて製膜する際、前記溶液ポリマーの下底部分と上底部分の硬化する速度に差異を生じさせ、前記溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得て、成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた医療用テープを製造する。ここで、該残留収縮力を減少させた医療用テープの製造工程において、加熱冷却作業台の上に前記支持体部を置き、前記支持体部の上層に、後に前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを塗布する。このとき、前記支持体部と前記溶液ポリマーの断面形状は、同じ長さの長方形となる(
図3参照)。その後、
図3に示した、前記支持体部と、後に前記伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーからなる2層の積層体の上層に、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する非伸縮性の剥離部との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体を得る(
図4参照)。
【0026】
そして、自在な温度調節機能を備える前記加熱冷却作業台により、下方から、
図4に示す4層の積層体の前記溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保ちながら、さらに、前記粘着部を介し前記剥離部の上方からは、前記溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化する程度に保ち、加熱する。すると、前記粘着部を介し、非伸縮性の前記剥離部の上方から、前記溶液ポリマーが硬化する温度で加熱された前記溶液ポリマーの上底5a部分は、直ちに硬化し製膜され、前記伸縮性基材部の上底1a部分となり、同時に前記粘着部を介し、非伸縮性の前記剥離部との積層も完了した。現時点において、後に前記伸縮性基材部の下底1b部分となる部位は、前記溶液ポリマーのままであり、前記溶液ポリマーの下底5bである(
図5参照)。この過程で、前記溶液ポリマーの下底5b部分を前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させることで、前記溶液ポリマーの下底5b部分を自由に収縮できる状態で製膜することができる。このとき、前記伸縮性基材部の上底1a部分では、膜厚方向以外には自由に収縮できず、前記溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)が生じる。一方、前記加熱冷却作業台により、表面温度を前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保たれていた前記溶液ポリマーの下底5b部分では、前記溶液ポリマーが硬化する温度で加熱された前記溶液ポリマーの上底5a部分が、前記伸縮性基材部の上底1a部分へと変化するに従い、その熱が、前記溶液ポリマーの上底5a部分から前記溶液ポリマーの下底5b部分に伝わり、徐々に、前記溶液ポリマーの下底5b部分も硬化し、前記伸縮性基材部の下底1b部分へと変化していく(
図6参照)。しかし、前記溶液ポリマーの下底5b部分の前記支持体部と接する面は、温度調節機能を備える前記加熱冷却作業台により、その表面温度を前記溶液ポリマー5が硬化しない程度に保たれているため、前記溶液ポリマーの下底5b部分は、前記溶液ポリマーに生じる成形収縮に伴い、前記溶液ポリマーの上底5a部分より自由に収縮することができる。そして、前記溶液ポリマーの加熱時間が進むにつれ、前記溶液ポリマーの下底5b部分の一部を除き、前記溶液ポリマーが粗製膜され、前記伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得ることができる。この時点において、前記溶液ポリマーの下底5b部分の一部は、前記溶液ポリマーのままで、前記支持体部との積層は完了していない。そこで、硬化していない前記溶液ポリマーの下底5b部分の一部を硬化させると共に、前記溶液ポリマーの下底5b部分と前記支持体部との積層を完了させるため、前記加熱冷却作業台の温度を前記溶液ポリマーの下底5b部分が硬化する温度まで上昇させ、加熱する。上述の過程により、前記溶液ポリマーの下底5b部分を前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させ、上底部分と下底部分の硬化する速度に差異を生じさせることができ、前記溶液ポリマーの下底5b部分は製膜され、前記伸縮性基材部の下底1b部分となり、前記溶液ポリマー全体を前記伸縮性基材部1とすることができ、前記伸縮性基材部の下底1bと前記支持体部との積層を完了させ、前記伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得ることができ、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープは完成する(
図7参照)。
【0027】
したがって、従来技術(従来型支持体付き医療用テープ)では、製膜後の伸縮性基材内には、成形収縮に伴う内部応力が伸縮性基材全体に隈なく生じ、この成形収縮に伴う内部応力は、該医療用テープの使用時に支持体を取り除くことで放出され、伸縮性基材全体を縮ませる残留収縮力となっていたが、該残留収縮力を減少させた医療用テープでは、前記伸縮性基材部の上底1a部分に残留した、前記溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮力(内部応力)は、該医療用テープの使用時に前記剥離部を取り除くことで、伸縮性基材全体を縮ませる力を伴わない収縮力として放出される。なお、「製造過程において溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮によって伸縮性基材の上底部分に残留し、該医療用テープの使用時に剥離部を取り除くことで放出され、伸縮性基材全体を縮ませる力を伴わない収縮力」を「部分内部応力」と称する。その結果、前記伸縮性基材部の上底1a部分と前記伸縮性基材部の下底1b部分は同じ長さとなる(
図8参照)。ここでいう「伸縮性基材部の上底部分」及び「伸縮性基材部の下底部分」とは、伸縮性基材部が接する面を限定して指すのではなく、あくまで、伸縮性基材部を上底部分と下底部分とに分け称している。
【0028】
上述のように製造された残留収縮力を減少させた医療用テープの使用手順は、1.剥離部を取り除く、2.粘着部で皮膚に貼付する、3.支持体部を取り除く、となり、このとき、溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮力は、剥離部を取り除くことにより、部分内部応力として放出される。このように、製造段階から成形収縮に対応することで、溶液ポリマーの成形収縮に伴い生じる残留収縮力を減少させた状態の医療用テープを使用することができる。よって、該残留収縮力を減少させた医療用テープの製造工程において、残留収縮力を減少させることは、成形収縮を伴う従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減するための有効な手段となる。
【0029】
これらの有効な手段を残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法に取り入れることで、該医療用テープの完成時点で残留収縮力を減少させ、該医療用テープの使用時に、該医療用テープの残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付し、該医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることが可能となり、軽微な刺激であっても過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となる。さらに、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を原因とする皮膚トラブルや医療関連機器圧迫創傷等の予防に期待することができる。これらの観点から見ると、従来の従来型支持体付き医療用テープにおいては、弊害を伴う残留収縮力に対する考慮がなされておらず、また、従来の残留収縮力を減少させた医療用テープにおいては、残留収縮力に対応する医療用テープの製造は容易ではなく、適切な解決がなされていないことがわかる。
【0030】
そこで、本発明者は、従来の従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力を減少させた機能を取り入れた、残留収縮力を減少させた医療用テープを提供するために、当該医療用テープの製造工程において、溶液ポリマーの下底部分を溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、伸縮性基材部と支持体部との積層を行い、伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部を得るための材料として、後に伸縮性基材部となる溶液ポリマーの材料として、支持体部の上層に塗布した後、製膜することが可能な素材から、製膜後に、伸縮性基材部として機能する素材を選択し、さらに、医療用として使用可能な防水性、透湿性、及び皮膚追従性等に優れた素材を選択した。次に、支持体部の材料として、非伸縮機能を有する素材の中から、溶液ポリマーを上層に塗布し、溶液ポリマーの製膜と伸縮性基材部との積層を行うことが可能で、該医療用テープの使用時に伸縮性基材部を保持する機能を有し、皮膚に貼付した後の伸縮性基材部から剥離が容易な素材を選択した。また、粘着部の材料として、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、剥離時の糊残りや角質損傷等が少ない医療用粘着剤を選択し、また、剥離部の材料として、粘着部を保護する機能を有する素材を選択し、各素材が有する機能を利用して、残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法を構成することを着想した。
【0031】
これらの素材を組み合わせ、該残留収縮力を減少させた医療用テープの製造工程において、加熱冷却作業台の上に支持体部を置き、支持体部の上層に、伸縮性基材の原料となる溶液ポリマーを塗布し、支持体部と、伸縮性基材の原料となる溶液ポリマーからなる2層の積層体の上層に、粘着部と剥離部との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体を得て、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台により、下方から、4層の積層体の溶液ポリマーの下底部分の表面温度を、溶液ポリマーが硬化しない程度に保ちながら、粘着部を介し剥離部の上方からは、溶液ポリマーの上底部分の表面温度を、溶液ポリマーが硬化する程度に保ち、加熱し、溶液ポリマーの下底部分を溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させることで、溶液ポリマーの下底部分の製膜を、溶液ポリマーの上底部分より遅らせ、溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、支持体部との積層を行い、伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部を得て、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープを完成するに至った。
【0032】
本発明の製造方法で得られる医療用テープは、前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている。製造工程において、加熱冷却作業台の上に前記支持体部を置き、前記支持体部の上層に、後に前記伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーを塗布し、前記支持体部と後に前記伸縮性基材部となる前記溶液ポリマーからなる2層の積層体の上層に、前記粘着部と前記剥離部との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体を得て、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台により、下方から、4層の積層体の前記溶液ポリマーの下底部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保ちながら、前記粘着部を介し前記剥離部の上方からは、前記溶液ポリマーの上底部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化する程度に保ち、加熱し、前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させることで、前記溶液ポリマーの下底部分の製膜を、前記溶液ポリマーの上底部分より遅らせ、前記溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、前記支持体部との積層を行い、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得る。このとき、
図3に示すように、前記支持体部と前記溶液ポリマーの断面形状は、同じ長さの長方形となる。その後、前記支持体部と前記溶液ポリマーからなる2層の積層体の上層に、前記粘着部と前記剥離部との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体を得て(
図4)、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台により、下方から、4層の積層体の前記溶液ポリマーの下底部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保ちながら、一方で、前記粘着部を介し、非伸縮性の前記剥離部の上方からは、前記溶液ポリマーの上底部分の表面温度を、前記溶液ポリマーが硬化する程度に保ち、加熱することで、前記溶液ポリマーの上底部分は、直ちに硬化し製膜され、前記伸縮性基材部の上底部分となり、同時に前記粘着部を介し、非伸縮性の前記剥離部との積層も完了する。現時点において、後に前記伸縮性基材部の下底部分となる部位は、前記溶液ポリマーのままであり、前記溶液ポリマーの下底である(
図5)。この過程で、前記溶液ポリマーの下底部分を前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させることで、前記溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜することができる。このとき、前記伸縮性基材部の上底部分では、膜厚方向以外には自由に収縮できず、前記溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)が生じる。一方、前記加熱冷却作業台により、表面温度を前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保たれていた前記溶液ポリマーの下底部分では、前記溶液ポリマーが硬化する温度で加熱された前記溶液ポリマーの上底部分が、前記伸縮性基材部の上底部分へと変化するに従い、その熱が、前記溶液ポリマーの上底部分から前記溶液ポリマーの下底部分に伝わり、徐々に、前記溶液ポリマーの下底部分も硬化し、前記伸縮性基材部の下底部分へと変化していく(
図6)。しかし、前記溶液ポリマーの下底部分の前記支持体部と接する面は、前記加熱冷却作業台により、その表面温度を前記溶液ポリマーが硬化しない程度に保たれているため、前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーに生じる成形収縮に伴い、前記溶液ポリマーの上底部分より自由に収縮することができる。そして、前記溶液ポリマーの加熱時間が進むにつれ、前記溶液ポリマーの下底部分の一部を除き、前記溶液ポリマーが粗製膜され、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得ることができる。この時点において、前記溶液ポリマーの下底部分の一部は、前記溶液ポリマーのままで、前記支持体部との積層は完了していない。そこで、硬化していない前記溶液ポリマーの下底部分の一部を硬化させると共に、前記溶液ポリマーの下底部分と前記支持体部との積層を完了させるため、前記加熱冷却作業台の温度を前記溶液ポリマーの下底部分が硬化する温度まで上昇させ、加熱する。上述の過程により、前記溶液ポリマーの下底部分を前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、上底部分と下底部分の硬化する速度に差異を生じさせることができ、前記溶液ポリマーの下底部分は製膜され、前記伸縮性基材部の下底部分となり、前記溶液ポリマー全体を前記伸縮性基材部とすることができ、前記伸縮性基材部の下底と前記支持体部との積層を完了させ、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得ることができ、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープは完成する(
図7)。このように、本発明は、前記伸縮性基材部の原料である溶液ポリマーの下底部分を、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させることで、前記溶液ポリマーの下底部分の製膜を、前記溶液ポリマーの上底部分より遅らせ、前記溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、前記支持体部との積層を行い、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得ることを特徴とするものである。
【0033】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は残留収縮力を減少させた医療用テープを構成する素材の適切な選択・組み合わせ及び、製造工程において、前記溶液ポリマーの製膜を可能とする機能を有する非伸縮性のプラスチックフィルムを前記支持体部として選択し、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台の上に前記支持体部を置き、前記支持体部の上層に、後に前記伸縮性基材部となるポリウレタンフィルムの原料である溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)を塗布し(
図3)、前記支持体部と前記溶液ポリマーからなる2層の積層体の上層に、前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する前記粘着部と、前記粘着部を保護する機能を有する非伸縮性の前記剥離部との積層を完了させた2層の構造体を重ね(
図4)、前記加熱冷却作業台により、下方から、4層の積層体の前記溶液ポリマーの下底部分の表面温度を、溶液ポリマーが硬化しない程度に保ちながら、さらに、前記粘着部を介し前記剥離部の上方から、前記溶液ポリマーの上底部分の表面温度を、溶液ポリマーが硬化する程度に保ち、加熱することで、前記溶液ポリマーの下底部分を前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ(
図5)、前記溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、前記溶液ポリマーの下底部分の一部を除き、前記溶液ポリマーが粗製膜され、前記伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の前記伸縮性基材部を得て、加熱冷却作業台の温度を前記溶液ポリマーの下底部分が硬化する温度まで上昇させ、加熱することで、前記溶液ポリマーの下底部分は製膜され、伸縮性基材部の下底部分となり、前記溶液ポリマー全体を前記伸縮性基材部とし、前記伸縮性基材部の下底と前記支持体部との積層を完了させ、本発明の第1の実施の形態である残留収縮力を減少させた医療用テープは完成する(
図6)。
【0034】
図3から
図8に示す本発明の第1の実施の形態である残留収縮力を減少させた医療用テープでは、伸縮性基材部1の原料となる溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)5で製膜された、伸縮性機能を有する伸縮性基材部1と、非伸縮機能を有し、伸縮性基材部1を保持する機能を有する支持体部2と、伸縮性基材部1を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3と、粘着部3を保護する機能を有する剥離部4から構成され、前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、及び前記剥離部の順に設けられている。
【0035】
図3は、本発明の第1の実施の形態を示す残留収縮力を減少させた医療用テープの製造過程の一部を示す概略断面図であり、加熱冷却作業台6の上に支持体部2を置き、支持体部2の上層に、後に伸縮性基材部1となる溶液ポリマー5を塗布した積層過程の様子を示す概略断面図である。第1の実施の形態である残留収縮力を減少させた医療用テープでは、非伸縮機能を有し、伸縮性基材部1を保持する機能を有する非伸縮性のプラスチックフィルムを支持体部2として選択し、支持体部2を自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台6の上に置き、支持体部2の上層に、後に伸縮性機能を有する伸縮性基材部1となるポリウレタンフィルムの原料である溶液ポリマー(ウレタン樹脂液と架橋剤液)5を塗布した。このとき、支持体部2と溶液ポリマー5の断面形状は、
図3で示すように、同じ長さの長方形となる。なお、符号2は、支持体部、符号5は、溶液ポリマー、符号5aは、溶液ポリマーの上底、符号5bは、溶液ポリマーの下底、符号6は、加熱冷却作業台である。
【0036】
図4は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す概略断面図であり、
図3に示した、支持体部2と、後に伸縮性基材部1となる溶液ポリマー5からなる2層の積層体の上層に、伸縮性基材部1を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部3と粘着部3を保護する機能を有する非伸縮性の剥離部4との積層を完了させた2層の構造体を重ね、4層の構造体を得た、積層過程の様子を示す概略断面図である。このとき、溶液ポリマーの上底5aと溶液ポリマーの下底5bの断面形状は、
図4で示すように、同じ長さの長方形となる。なお、符号2は、支持体部、符号3は、粘着部、符号4は、剥離部、符号5は、溶液ポリマー、符号5aは、溶液ポリマーの上底、符号5bは、溶液ポリマーの下底、符号6は、加熱冷却作業台である。
【0037】
図5は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す概略断面図であり、溶液ポリマーの下底5b部分と上底5a部分の硬化する速度に差異を生じさせ、溶液ポリマーの下底5b部分を自由に収縮できる状態で製膜する製造過程の様子を示す概略断面図である。自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台6により、下方から、
図4に示す4層の積層体の、溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化しない程度に保ちながら、一方で、粘着部3を介し剥離部4の上方から、溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化する程度に保ち、加熱し、溶液ポリマー5の下底5b部分を、前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させる。すると、溶液ポリマーの上底5a部分は、直ちに硬化し製膜され、伸縮性基材部上底1a部分となり、同時に粘着部3を介し、非伸縮性の剥離部4との積層も完了する。このとき、伸縮性基材部上底1a部分では、膜厚方向以外には自由に収縮できず、溶液ポリマー5の硬化に伴う成形収縮によって残留した収縮力(内部応力)が生じる。一方、加熱冷却作業台6により、表面温度を溶液ポリマー5が硬化しない程度に保たれた溶液ポリマーの下底5b部分では、溶液ポリマー5が硬化する温度で加熱された溶液ポリマーの上底5a部分が、伸縮性基材部の上底1a部分が変化するにつれ、その熱が、溶液ポリマーの上底5a部分から溶液ポリマーの下底5b部分に伝わり、徐々に溶液ポリマーの下底5b部分も硬化し、伸縮性基材部下底1b部分へと変化していく。しかし、溶液ポリマーの下底5b部分の支持体部2と接する面は、加熱冷却作業台6により、その表面温度を溶液ポリマー5が硬化しない程度に保たれているため、溶液ポリマーの下底5b部分は、溶液ポリマー5に生じる成形収縮に伴い、溶液ポリマーの上底5a部分より、自由に収縮することができる。なお、符号1aは、伸縮性基材部の上底、符号2は、支持体部、符号3は、粘着部、符号4は、剥離部、符号5は、溶液ポリマー、符号5bは、溶液ポリマーの下底、符号6は、加熱冷却作業台である。
【0038】
図6は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの製造過程の一部を示す図であり、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得て、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープが完成した様子を示す概略断面図である。
図5に示した時点から、溶液ポリマー5の加熱が進むにつれ、溶液ポリマーの下底5b部分の一部を除き、溶液ポリマー5が粗製膜され、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得ることができる。しかし、現時点において、溶液ポリマーの下底5b部分の一部は溶液ポリマー5のままで、支持体部2との積層は完了していない。そこで、硬化していない溶液ポリマーの下底5b部分の一部を硬化させると共に、支持体部2との積層を完了させるため、加熱冷却作業台6の温度を溶液ポリマーの下底5b部分が硬化する温度まで上昇させ、加熱する。このことで、溶液ポリマーの下底5b部分は製膜され、伸縮性基材部の下底1b部分となり、溶液ポリマー5全体を伸縮性基材部1とすることができ、伸縮性基材部の下底1bと支持体部2との積層を完了させ、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープは完成する。なお、符号1は、伸縮性基材部、符号1aは、伸縮性基材部の上底、符号1bは、伸縮性基材部の下底、符号2は、支持体部、符号3は、粘着部、符号4は、剥離部、符号6は、加熱冷却作業台である。
【0039】
図7は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの概略断面図である。なお、符号1は、伸縮性基材部、符号1aは、伸縮性基材部の上底、符号1bは、伸縮性基材部の下底、符号2は、支持体部、符号3は、粘着部、符号4は、剥離部である。
図8は、本発明の第1の実施の形態を示す医療用テープの使用時を示す図であり、剥離部4を取り除き、伸縮性基材部の上底1aに存在していた部分内部応力が消失した様子を示す概略断面図である。本発明の第1の実施の形態では、
図4に示した4層の構造体を、粘着部3を介し、剥離部4の上方から溶液ポリマー5が硬化する温度で加熱したことで、該医療用テープの完成時点(
図7)では、該医療用テープの伸縮性基材部の上底1a部分には、溶液ポリマー5の硬化に伴う成形収縮による部分内部応力が存在する。しかし、この部分内部応力は、該医療用テープの使用時に、剥離部4を取り除くことで放出されるため、皮膚に貼付する前の段階で、該医療用テープから消失させることができる。その結果、
図8で示すように、伸縮性基材部の上底1aと伸縮性基材部の下底1bの長さは、同じ長さとなった。なお、符号1は、伸縮性基材部、符号1aは、伸縮性基材部の上底、符号1bは、伸縮性基材部の下底、符号2は、支持体部、符号3は、粘着部である。
【0040】
該残留収縮力を減少させた医療用テープの使用手順は、1.剥離部を取り除く、2.粘着部で皮膚に貼付する、3.支持体部を取り除く、となり、従来技術で製造された従来型支持体付き医療用テープと同様の使用方法のため、使用時の混乱を避けることができる。また、該残留収縮力を減少させた医療用テープでは、従来技術において、発生を防止することが困難であった伸縮性基材部の残留収縮力の発生を、製造工程において抑え、従来技術より、残留収縮力を減少させた伸縮性基材部を得ることができている。そのため、従来技術の従来型支持体付き医療用テープのように、皮膚に貼付した後に、支持体部を取り除いても、残留収縮力により伸縮性基材部全体の長さが縮むという変化は生じない。なぜなら、剥離部を取り除くことで、伸縮性基材部の上底部分に存在する溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮力が放出されても、伸縮性基材部の上底部分の収縮は認められるが、伸縮性基材部全体の長さが縮むことはなく、伸縮性基材部の上底部分に存在する溶液ポリマーの硬化に伴う成形収縮力は、伸縮性基材部全体の長さに影響を与えない収縮力である部分内部応力として、伸縮性基材部内に留まっていたに過ぎないからである。
【0041】
該残留収縮力を減少させた医療用テープでは、製造工程において、溶液ポリマーの下底部分を、溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させることで、溶液ポリマーの下底部分の製膜を、溶液ポリマーの上底部分より遅らせ、溶液ポリマーの下底部分を自由に収縮できる状態で製膜し、支持体部との積層を行い、伸縮性基材部の下底部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部を得て、従来技術より、残留収縮力を減少させた状態の残留収縮力を減少させた医療用テープを完成させている。そのため、該残留収縮力を減少させた医療用テープは、残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付することができる。よって、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減することが可能となる。したがって、本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法では、従来技術の従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力を原因とする皮膚を持続的に収縮させる力を減少させるための手段を医療用テープの製造方法に構成として取り入れることができ、該残留収縮力を減少させた医療用テープの使用時に該医療用テープの残留収縮力を減少させた状態で、皮膚に貼付し、該医療用テープの残留収縮力による皮膚を持続的に収縮させる力を減少させ、該残留収縮力を原因とする貼付期間中の持続的な皮膚刺激を軽減させることが可能となる。このことにより、原因となる残留収縮力の程度が、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルといえるような軽微な刺激であっても、過敏に反応してしまう皮膚への貼付が可能となり、低刺激の医療用テープや貼付剤等の製造方法を提供することができる。
【0042】
具体的には、本発明の第1の実施の形態において、ウレタン樹脂液と架橋剤液を溶液ポリマー5とし、溶液ポリマー5で製膜された伸縮性機能を有するポリウレタンフィルムを伸縮性基材部1とし、溶液ポリマー5の製膜を可能とする機能を有する非伸縮性のプラスチックフィルムを支持体部2とし、伸縮性基材部1を皮膚に貼付し保持する機能を有するアクリル系粘着剤を粘着部3とし、上質紙の表面に剥離剤をコーティングした剥離紙を粘着部4とした。製造工程において、加熱冷却作業台6の上に支持体部2を置き、支持体部2の上層に、溶液ポリマー5であるウレタン樹脂液と架橋剤液を製膜後の厚みが20μmとなるように、バーコーティング法にて塗布し、支持体部2と溶液ポリマー5からなる2層の構造体の上層に、粘着部3と剥離部4との積層を完了させた2層の構造体を重ね、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台6により、下方から、4層の積層体の溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化しない30℃程度に保ちながら、さらに、粘着部3を介し剥離部4の上方から、溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化する50℃程度に保ち、加熱し、溶液ポリマーの下底5b部分を、前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させ、溶液ポリマーの上底5a部分より、溶液ポリマーの下底5b部分を自由に収縮できる状態で製膜し、積層を完了させることで、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得た。
【0043】
また、本発明の第1の実施の形態では、溶液ポリマーの下底5b部分を、前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させ、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得るために、支持体部2と溶液ポリマー5からなる2層の構造体の上層に、粘着部3と剥離部4との積層を完了させた2層の構造体を重ね、自在な温度調節機能を備える加熱冷却作業台6により、下方から、4層の積層体の溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化しない30℃程度に保ちながら、さらに、粘着部3を介し剥離部4の上方から、溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化する50℃程度に保ち、加熱したが、支持体部2と溶液ポリマー5からなる2層の構造体の、溶液ポリマーの下底5b部分の表面温度を、溶液ポリマー5が硬化しない温度に保ち、溶液ポリマーの上底5a部分の表面温度を溶液ポリマー5が硬化する温度で加熱することで、溶液ポリマーの下底5b部分を、前記溶液ポリマーの上底5a部分よりも遅い速度で硬化させ、伸縮性基材部の下底1b部分に生じる成形収縮に伴う残留収縮力を減少させた状態の伸縮性基材部1を得て、粘着部3および剥離部4を積層してもよく、溶液ポリマー5に対する加熱加減は、製造設備やコスト等により任意でよく、加熱冷却作業台6の機能を他の製造設備等で補うことができれば、加熱冷却作業台6を備えなくてもよく、粘着部3および剥離部4を積層する時機は任意でよく、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。また、支持体部2、伸縮性基材部1、粘着部3、及び剥離部4の厚みは特に制限されるものではない。本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。
【0044】
また、第1の実施の形態では、溶液ポリマーの素材として、ウレタン樹脂液と架橋剤液を用いたが、支持体部の上層に塗布し、製膜後に伸縮性機能を有し、上層に粘着部を備えることができる医療用溶液ポリマー素材であればよい。また、上底部分と下底部分において、異なる溶液ポリマーを積層し使用してもよく、上底部分と下底部分で濃度の異なる溶液ポリマーを使用してもよい。また、ガーゼ及びパッド等の被覆固定、留置針やカテーテル等の処置具の固定、創傷や皮膚の被覆保護等の用途に応じ、それぞれに適した機能を備えさせることが可能な溶液ポリマー素材でもよく、他の新素材等を用いてもよい。また、支持体部の素材として、非伸縮性のプラスチックフィルムを用いたが、上層に溶液ポリマーを塗布し、伸縮性基材部を保持する機能を有し、伸縮性基材部と支持体部との積層を行うことが可能な非伸縮性素材であれば、用途や利便性に応じ、板状のプラスチックフィルムに切れ目を入れてもよく、その切れ目を覆う剥離可能な帯状のテープを備えてもよく、素材や形状等による制限を受けない。また、粘着部の素材は、アクリル系粘着剤を用いたが、伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有し、医療用として使用可能な粘着剤であればよく、用途に応じ、粘着剤を塗布する部位は一部もしくは全部でもよく、素材や形状等による制限を受けず、本発明の効果を奏することができる限りにおいて特に限定されるものではない。また、本発明の第1の実施の形態である残留収縮力を減少させた医療用テープでは、粘着部の上層に、上質紙の表面に剥離剤をコーティングした剥離紙を備えたが、粘着部を保護する機能を有し、使用時に粘着部から容易に剥離可能であればよく、素材や形状等による制限を受けない。また、該残留収縮力を減少させた医療用テープの各部に、用途やデザイン、利便性等に応じ、他の機能を付加させてもよい。
【0045】
以上、第1の実施の形態では、医療用テープの形状を長方形とした例について説明してきたが、医療用テープの形状は、用途に応じ自由な形状を選択できる。例えば、ロール形状やシート形状でもよく、身体の各部位に適した形状とすることもできる。また、該医療用テープは、支持体部、伸縮性基材部、粘着部、剥離部がこの順に積層されている構成を基本とするが、用途やデザイン、利便性等に応じ、ガーゼ及びパッド等を備えさせてもよい。なお、本発明で得られる医療用テープは、皮膚に密着して貼付することを基本としているが、場合によっては、皮膚を医療用粘着剤等から保護するための保護材等を介して該医療用テープを貼付してもよい。
【0046】
また、残留収縮力は、すべてを減少させることが望ましいが、概ね減少させた状態でも、当該医療用テープの有効性が医学的に認められる程度に減少させていればよい。なぜなら、段落[0017]~[0024]で述べたように、本特許が解決しようとする残留収縮力の程度は、肉眼的なレベルではなく、拡大鏡又は顕微鏡レベルであるからである。よって、減少させる残留収縮力の程度が軽微であっても、その効果に医学的有効性があれば、本発明の効果を十分に奏することができる。本明細書では、医療用テープの製造から貼付に至るまでの過程を記しており、「使用時」と「貼付期間中」を以下のように定義している。「使用時」とは、医療用テープの使用手順に従い、剥離部を取り除き、皮膚に貼付し、支持体部を取り除く迄を表す。「貼付期間中」とは、残留収縮力を減少させた医療用テープを継続して貼付している間を表す。
【0047】
なお、本発明の製造方法で得られる医療用テープの機能は、身体への貼付を目的とする医療用テープに有効に作用する。例えば、皮膚刺激過敏症患者は、軽微な皮膚刺激にも激しく反応するため、経皮吸収可能な薬物を含有する医療用テープの使用が見送られることも少なくなかった。しかし、本発明で得られる、残留収縮力を減少させた医療用テープは、軽微な皮膚刺激を軽減できるため、粘着部に経皮吸収可能な薬物を配合することで、貼付薬として使用することができる。また、本発明で得られる医療用テープにパッドを備えることで、処置製品として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の残留収縮力を減少させた医療用テープの製造方法では、従来の従来型支持体付き医療用テープの製造方法では成し得なかった医療用テープ、すなわち、従来型支持体付き医療用テープの残留収縮力(物理的刺激)によって生じる皮脂腺や汗腺の開口部の変形や閉塞、及び、医療関連機器圧迫創傷等の招来を防止することができる医療用テープを製造することが可能となる。さらに、該医療用テープの製造方法では、従来型支持体付き医療用テープの各部を構成する素材と同様の機能を有する素材を用いることが可能であり、新たな素材を開発せずとも、該医療用テープの製造段階において、残留収縮力を減少させた医療用テープを容易に、かつ、効率よく製造することができ、医療業界に貢献するところ大である。
【符号の説明】
【0049】
1 伸縮性基材部
1a 伸縮性基材部の上底
1b 伸縮性基材部の下底
2 支持体部
3 粘着部
4 剥離部
5 溶液ポリマー
5a 溶液ポリマーの上底
5b 溶液ポリマーの下底
6 加熱冷却作業台
【手続補正書】
【提出日】2023-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液ポリマーで製膜された伸縮性機能を有する伸縮性基材部と、
非伸縮機能を有し、前記伸縮性基材部を保持する機能を有する支持体部と、
前記伸縮性基材部を皮膚に貼付し保持する機能を有する粘着部と、
前記粘着部を保護する機能を有する剥離部とを備え、
前記支持体部、前記伸縮性基材部、前記粘着部、前記剥離部の順に設けられている医療用テープの製造方法であって、
当該医療用テープの製造工程において、前記伸縮性基材部となる溶液ポリマーを、前記支持体部の上層に塗布する工程、及び
前記溶液ポリマーの下底部分は、前記溶液ポリマーの上底部分よりも遅い速度で硬化させ、前記伸縮性基材部と前記支持体部との積層を行う工程、
を備え、
前記溶液ポリマーにおいて、前記支持体部上に位置する部分が前記下底部分であることを特徴とする医療用テープの製造方法。