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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092930
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】マツタケ原基およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20240701BHJP
   A01G 18/40 20180101ALI20240701BHJP
【FI】
C12N1/14 G
A01G18/40
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116301
(22)【出願日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2022209036
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 登志子
【テーマコード(参考)】
2B011
4B065
【Fターム(参考)】
2B011AA07
2B011BA06
2B011KA04
4B065AA71X
4B065BB01
4B065BC03
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】植物と共生しない環境下においてマツタケの子実体原基を人工的に製造するための方法および該方法により製造されるマツタケの子実体原基、ならびに該マツタケの子実体原基を製造するために用いられ得る新規マツタケ菌株を提供する。
【解決手段】マツタケ子実体から分離された原基形成能を有する細胞を、タンパク質分解物を含み、特定の遊離アミノ酸濃度である培地で培養する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長したマツタケ原基を製造する方法であって、
(a)マツタケの子実体から分離された原基形成能を有する細胞を、第1のタンパク質分解物またはアミノ酸を含み、遊離アミノ酸濃度が0.1~2.5(w/v)%である第1の培地中で培養して、マツタケ原基を形成する工程、および
(b)前記マツタケ原基を、第2のタンパク質分解物またはアミノ酸を含み、遊離アミノ酸濃度が0.05~2.5(w/v)%である第2の培地を浸潤させた高吸収性素材を含む培養支持体で培養して前記マツタケ原基を鉛直上方向に伸長させて、伸長したマツタケ原基を得る工程
を含み、
前記第1のタンパク質分解物および第2のタンパク質分解物が、それぞれ、酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解物を含むか、またはカザミノ酸と酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解物との組み合わせを含む、
前記方法。
【請求項2】
前記工程(a)における培養温度が18~25℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(b)における培養温度が18~30℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高吸収性素材が、植物繊維、高吸収性繊維、高吸収性樹脂、寒天および人造鉱物繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の培地および第2の培地の両方または一方が、0.2~5(w/v)%の糖類をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の培地および第2の培地の両方または一方が、無機塩類、ビタミン、脂質およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記子実体が、ITS-5.8S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析によりTricholoma matsutakeと同定される子実体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記子実体が、受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により得られる前記伸長したマツタケ原基を生長させる工程をさらに含む、子実体様マツタケ原基を製造する方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により製造される、伸長したマツタケ原基。
【請求項11】
請求項9に記載の方法により製造される、子実体様マツタケ原基。
【請求項12】
受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規マツタケの菌株、ならびに該マツタケの原基およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、完全人工培養により数ミリ程度のマツタケの子実体原基が形成されたという報告はあるものの(例えば、非特許文献1および2)、子実体原基が生長したという報告はない。また、子実体原基の形成が再現されたという報告も少なく、マツタケの子実体原基の形成およびその生長について確立された手法には至っていないのが現状である(例えば、非特許文献3)。
【0003】
土壌中のマツタケの菌糸とアカマツの根との集合体である、いわゆる「シロ」についても長年研究が行われており、自然界では胞子落下からシロが形成され、初めて子実体が発生するまでの期間はおよそ7年であると推定されている(例えば、非特許文献4)。また、マツタケの子実体原基は栄養生長している菌糸体から発生し、マツタケの子実体を1本発生させるためには乾燥重量で約100gの菌糸体が必要であるとされている(例えば、非特許文献5)。そのため、マツタケの人工栽培においても、マツタケの子実体原基に向けて生育するひとまとまりコロニーとして機能する成熟段階のマツタケの菌糸が大量に必要であると考えられている(例えば、非特許文献4および6)。さらに、マツタケの菌糸の生長は極めて遅く(約20mm/月)、生長に長い時間を必要とするため(例えば、非特許文献7)、従来、マツタケの菌糸の大量培養を目的として、培養条件の検討や生長促進物質についての探求が行われている(例えば、非特許文献3、8および9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本菌学会会報 16(4),p406-415,1976-01
【非特許文献2】「森林総合研究所研究報告」(Bulletin of FFPRI)Vol.19-No.2 (No.454)153-157 August 2020
【非特許文献3】2009年 東京大学 博士論文(進藤克実)
【非特許文献4】広島県林試研報 28:49-54,1993
【非特許文献5】日林誌87:90-102
【非特許文献6】「マツタケ」の生物学 P326,1978
【非特許文献7】Mycobiology 29(4):183-189(2001)
【非特許文献8】Mycol Prog 2,37-44,2003
【非特許文献9】岡山県農林水産総合センター森林研究所研報32:19-23(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでに人工的にマツタケの子実体原基への分化を引き起こし、さらに子実体に分化させたという報告はなく、従来技術では、マツタケの子実体原基を安定的に得、該子実体原基を生長させる方法としては限定的な効果が得られるにとどまっている。
【0006】
したがって、本願発明は、植物と共生しない環境下においてマツタケの子実体原基を人工的に製造するための方法および該方法により製造されるマツタケの子実体原基、ならびに該マツタケの子実体原基を製造するために用いられ得る新規マツタケ菌株に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、マツタケの子実体から分離された細胞を特定の条件下で培養することにより、上記の課題を解決できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1]伸長したマツタケ原基を製造する方法であって、
(a)マツタケの子実体から分離された原基形成能を有する細胞を、第1のタンパク質分解物またはアミノ酸を含み、遊離アミノ酸濃度が0.1~2.5(w/v)%である第1の培地中で培養して、マツタケ原基を形成する工程、および
(b)前記マツタケ原基を、第2のタンパク質分解物またはアミノ酸を含み、遊離アミノ酸濃度が0.05~2.5(w/v)%である第2の培地を浸潤させた高吸収性素材を含む培養支持体で培養して前記マツタケ原基を鉛直上方向に伸長させて、伸長したマツタケ原基を得る工程
を含み、
前記第1のタンパク質分解物および第2のタンパク質分解物が、それぞれ、酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解物を含むか、またはカザミノ酸と酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解物との組み合わせを含む、
前記方法。
[2]前記工程(a)における培養温度が18~25℃である、[1]に記載の方法。
[3]前記工程(b)における培養温度が18~30℃である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記高吸収性素材が、植物繊維、高吸収性繊維、高吸収性樹脂、寒天および人造鉱物繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記第1の培地および第2の培地の両方または一方が、0.2~5(w/v)%の糖類をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記第1の培地および第2の培地の両方または一方が、無機塩類、ビタミン、脂質およびアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記子実体が、ITS-5.8S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析によりTricholoma matsutakeと同定される子実体である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記子実体が、受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体である、[7]に記載の方法。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の方法により得られる前記伸長したマツタケ原基を生長させる工程をさらに含む、子実体様マツタケ原基を製造する方法。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の方法により製造される、伸長したマツタケ原基。
[11][9]に記載の方法により製造される、子実体様マツタケ原基。
[12]受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物と共生しない環境下においてマツタケの子実体原基を人工的に製造するための方法および該方法により製造されるマツタケの子実体原基、ならびに該マツタケの子実体原基を製造するために用いられ得る新規マツタケ菌株を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の製造方法により得られた、伸長したマツタケ原基を示す写真である。
図2図2は、NITE P-03769およびNBRC#109050の各マツタケ細胞から得られたマツタケ原基またはコロニーの外観を示す写真である。
図3図3は、NITE P-03769およびNBRC#109050の各マツタケ細胞から得られたマツタケ原基またはコロニーにおける菌糸の伸長を示す写真である。
図4図4は、NITE P-03769、NBRC#33136およびNBRC#109050の各マツタケ細胞から得られたマツタケ原基またはコロニーの外観を示す写真である。
図5図5は、NITE P-03769のマツタケ細胞から得られたマツタケ原基を培地含有高吸収性素材で培養後、別の培地含有高吸収性素材でさらに培養した場合の経時的な成長を示す写真である。
図6図6は、NITE P-03769、NBRC#109050、NBRC#108259およびNBRC#108261のマツタケ細胞から得られたマツタケ原基またはコロニーの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[マツタケ子実体原基の製造方法]
本発明の一つの態様によれば、伸長したマツタケ子実体原基(以下、単に「マツタケ原基」とも言う。)を製造する方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも言う。)が提供される。
【0012】
本明細書において、「マツタケ子実体原基」、「マツタケ原基」とは、二核菌糸(二次菌糸)が増殖し、一定の方向性をもって集合した菌糸の塊(菌糸塊)であって、その一部(特に、中央部)が鉛直上方向に隆起した菌糸塊を意味し、言わばマツタケ子実体の「基」となるものである。一般に、このように一定の方向性をもって集合した二次菌糸は、そのような方向性をもたない二次菌糸と比較して分化が進んでいると考えられており、二次菌糸と区別して三次菌糸と呼称する場合もある。また、「伸長したマツタケ原基」とは、上述したマツタケ原基の隆起部分がさらに隆起して、それに伴いマツタケ原基の全体またはほぼ全体が隆起した状態のマツタケ原基を意味する。
【0013】
本明細書において、「マツタケの子実体から分離された原基形成能を有する細胞」に関し、「原基形成能を有する」とは、マツタケ子実体から分離された細胞が、平板寒天培地において、遊離アミノ酸濃度依存的に菌糸が鉛直上方向へ生育(伸長)し、遊離アミノ酸が一定の濃度に達すると、隆起した菌糸塊が形成される性質を意味する。そのような細胞としては、典型的には、日本国 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-03769として寄託されている、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞が挙げられる。後述する実施例9に示すように、受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞は、遊離アミノ酸濃度が0.05(w/v)%以上0.1(w/v)%未満の平板寒天培地においては、コロニーの中心部分に菌糸が密集し、さらに密集した菌糸が鉛直上方向に隆起する特徴を有する。さらに、後述する実施例7に示すように、遊離アミノ酸濃度が0.1~2.5(w/v)%の平板寒天培地においては、コロニーの中心部分に密集および隆起した菌糸が鉛直上方向にさらに隆起および伸長して菌糸塊(すなわち、マツタケ原基)を形成する特徴を有する。一方、原基形成能を有さない細胞としては、典型的には、NPMDにNBRC#109050として寄託されている、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞が挙げられる。後述する実施例9に示すように、NBRC#109050として寄託されている、Tricholoma matsutakeの子実体から分離された細胞は、遊離アミノ酸濃度が0.05(w/v)%以上0.1(w/v)%未満の平板寒天培地においては、菌糸が主に水平方向に伸長し、コロニーの中心部分への菌糸の密集や鉛直上方向への隆起はほとんどみられない。さらに、後述する実施例7に示すように、遊離アミノ酸濃度が0.1~2.5(w/v)%の平板寒天培地においては、コロニーの中心部分への菌糸の密集はみられるようになるものの、菌糸塊を形成することはない。
【0014】
本発明の製造方法は、マツタケ子実体から分離された細胞を特定の条件下で培養してマツタケ原基を形成する工程(工程(a))、および形成されたマツタケ原基を特定の条件下で培養して、伸長したマツタケ原基を得る工程(工程(b))を含む。本発明の製造方法によれば、植物と共生しない環境下において、伸長したマツタケ原基を人工的に製造することができる。以下、本発明の製造方法の工程(a)および(b)について詳細に説明する。
【0015】
<工程(a)>
工程(a)では、マツタケ子実体から分離された原基形成能を有する細胞を特定の条件下で培養して、マツタケ原基が形成される。
【0016】
マツタケ子実体としては、マツタケ(Tricholoma matsutake)の子実体であれば特に限定されることなく用いることができる。マツタケ子実体としては、好ましくはITS-5.8S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析によりTricholoma matsutakeと同定される子実体、特に好ましくは受託番号NITE P-03769で特定される、Tricholoma matsutakeの子実体が用いられる。
【0017】
(培地)
工程(a)において用いられる第1の培地としては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられる培地であれば特に限定されることなく用いることができる。第1の培地としては、固体培地、液体培地のいずれも用いることができるが、好ましくは固体培地が用いられる。固体培地としては、例えば、液体培地を固化剤で固体化した培地、好ましくは流動性を有さないゲル状の固体培地が挙げられる。固体培地としては、平板培地、斜面培地、半斜面培地、高層培地のいずれを用いてもよいが、好ましくは平板培地が用いられる。
【0018】
液体培地は、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられる液体培地であれば特に限定されることなく用いることができる。また、液体培地を固体化する固化剤としては、例えば、寒天、マンナン、ジェラン、ゼラチン、ケルコゲル等が挙げられる。固化剤としては、好ましくは寒天が用いられ、すなわち第1の培地としては好ましくは寒天培地が用いられる。
【0019】
第1の培地として寒天培地が用いられる場合、培地中の寒天の濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば0.5~3.0(w/v)%、1.0~2.0(w/v)%、1.2~1.8(w/v)%であり、好ましくは1.5(w/v)%程度である。
【0020】
一つの実施形態において、第1の培地は、第1のタンパク質分解物を含む。また、第1の培地は、上述した第1のタンパク質分解物に加えて、糖類、ミネラル(例えば、無機塩類等)、ビタミン、脂質、アミノ酸等のさらなる成分を含んでいてもよい。これらのさらなる成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
第1のタンパク質分解物としては、タンパク質を酵素や酸等を用いて分解して得られるアミノ酸やペプチドの集合物であれば特に限定されず、タンパク質の加水分解物、タンパク質の酵素消化物等が挙げられる。
【0022】
第1のタンパク質分解物としては、本発明の効果が奏される限り限定されないが、例えば、酵母エキス、ビーフエキス、ペプトン、トリプトン、カザミノ酸等が挙げられる。第1のタンパク質分解物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
一つの実施形態において、第1のタンパク質分解物としては、酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0024】
別の実施形態において、第1のタンパク質分解物としては、カザミノ酸と酵母エキス、ビーフエキス、ペプトンおよびトリプトンからなる群から選択される少なくとも1種とが組み合わせて用いられる。
【0025】
さらに別の実施形態において、第1のタンパク質分解物としてカザミノ酸が単独で用いられる場合、必要に応じてマグネシウム塩等の無機塩類が培地中にさらに添加され、好ましくは後述するトリプトファン等のアミノ酸、ビタミン、脂質等がさらに添加される。
【0026】
一つの実施形態において、第1の培地は、上述した第1のタンパク質分解物に代えて、または第1のタンパク質分解物に加えて、アミノ酸を含む。本実施形態において、「アミノ酸」とは、上述した「第1のタンパク質分解物」に由来するアミノ酸以外のアミノ酸をいう。アミノ酸は、合成されたアミノ酸(合成アミノ酸)であっても天然に存在するアミノ酸(天然アミノ酸)であってもよく、いずれのアミノ酸も用いることができる。アミノ酸は、例えば、発酵法、酵素法、抽出法、合成法等のアミノ酸の製造に通常用いられる方法により得ることができる。
【0027】
アミノ酸の種類は、本発明の効果が奏される限り特に限定さないが、タンパク質を構成するアミノ酸(すなわち、α-アミノ酸)、タンパク質を構成しないアミノ酸、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0028】
タンパク質を構成するアミノ酸としては、例えば、ヒトの必須アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジン)、非必須アミノ酸(チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、アルギニン)等が挙げられる。
【0029】
誘導体としては、例えば、2個のシステイン分子が水硫基(-SH)の酸化により生成するジスルフィド結合を介して結合したシスチン(3,3’-ジチオビス(2-アミノプロピオン酸))等が挙げられる。
【0030】
第1の培地は、上述したアミノ酸および誘導体から選択される少なくとも1種を含んでいればよいが、好ましくは2種以上、より好ましくは5種以上、より一層好ましくは10種以上、特に好ましくは15種以上のアミノ酸および/または誘導体を含む。好ましい実施形態において、第1の培地は、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、トリプトファン、リシン、ヒスチジン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、セリン、シスチンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸および/または誘導体を含み、より好ましくは2種以上、より一層好ましくは5種以上、より一層好ましくは10種以上、より一層好ましくは15種以上のアミノ酸および/または誘導体を含み、特に好ましくは18種すべてのアミノ酸および誘導体を含む。
【0031】
第1の培地におけるアミノ酸および誘導体の合計の濃度は、第1の培地が後述する遊離アミノ酸濃度の範囲を満たす限り特に限定されず、用いられるアミノ酸の種類、第1の培地の他の成分の種類や濃度、後述する全窒素量等に応じて適宜設定することができる。例えば、第1の培地におけるアミノ酸および誘導体の合計の濃度は、0.1~3.0(w/v)%、0.5~2.0(w/v)%、0.7~1.8(w/v)%等とすることができる。また、第1の培地が、上述した第1のタンパク質分解物に由来するアミノ酸以外のアミノ酸および/または誘導体を含む場合、第1の培地における例えば、各アミノ酸および誘導体の濃度はそれぞれ以下のように設定することができる。
バリン:0.001~2.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.2(w/v)%)
ロイシン:0.001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
イソロイシン:0.001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
スレオニン:0.001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
メチオニン:0.001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
トリプトファン:0.0001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
リシン:0.001~1.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.5(w/v)%)
ヒスチジン:0.001~0.5(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
グリシン:0.001~0.5(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
アルギニン:0.001~0.2(w/v)%(好ましくは0.01~0.1(w/v)%)
グルタミン酸:0.01~1.0(w/v)%(好ましくは0.03~0.5(w/v)%)
アラニン:0.01~0.5(w/v)%(好ましくは0.05~0.2(w/v)%)
アスパラギン酸:0.001~0.5(w/v)%(好ましくは0.01~0.2(w/v)%)
アスパラギン:0.0001~0.1(w/v)%(好ましくは0.01~0.05(w/v)%)
プロリン:0.001~2.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.5(w/v)%)
セリン:0.001~2.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.5(w/v)%)
シスチン:0.0001~0.05(w/v)%(好ましくは0.001~0.01(w/v)%)
チロシン:0.001~2.0(w/v)%(好ましくは0.01~0.5(w/v)%)
【0032】
第1の培地に含まれる糖類としては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられる糖類であれば特に限定されず、単糖類であってもよく、二糖以上の糖類であってもよい。単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、マンノース、ガラクトース、ラムノース、アラビノース、フコース等が挙げられる。また、二糖以上の糖類としては、例えば、ラクトース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等が挙げられる。糖類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、好ましくはグルコースが単独で用いられる。
【0033】
第1の培地における糖類の濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、用いられる糖類の種類、第1の培地の他の成分の種類や濃度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、第1の培地における糖類の濃度は、0.2~5.0(w/v)%、0.4~4.0(w/v)%、0.5~2.0(w/v)%等とすることができる。
【0034】
第1の培地に含まれるミネラルとしては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられるミネラルであれば特に限定されず、例えば、各種の無機塩類が挙げられる。無機塩類としては、例えば、種々のカルシウム塩(例えば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等)、種々のカリウム塩(例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等)、種々のマグネシウム塩(例えば、硫酸マグネシウム、塩酸マグネシウム等)、種々の銅塩(例えば、クエン酸銅、フタル酸銅、酒石酸銅、硫酸銅、塩化銅等)、種々の鉄塩(例えば、フマル酸鉄、クエン酸鉄、塩化鉄、グルコン酸鉄、乳酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄等)、種々のマンガン塩(例えば、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン、グルコン酸マンガン、等)、種々の亜鉛塩(例えば、乳酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等)、種々のアンモニウム塩(例えば、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム等)、種々の亜硝酸塩(例えば、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム等)、種々の硝酸塩(例えば、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等)、セレン塩(例えば、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム等)、種々のクロム塩、種々のモリブデン塩等が挙げられる。ミネラルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
第1の培地におけるミネラルの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、用いられるミネラルの種類、第1の培地の他の成分の種類や濃度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、第1の培地におけるミネラルの濃度は、0.05~0.5(w/v)%、0.075~0.3(w/v)%、0.1~0.2(w/v)%等とすることができる。
【0036】
一つの好ましい実施形態において、ミネラルとしては、リン酸二水素カリウムが単独で用いられる。本実施形態において、第1の培地におけるリン酸二水素カリウムの濃度は、0.05~0.5(w/v)%、0.075~0.3(w/v)%、0.1~0.2(w/v)%等とすることができる。
【0037】
別の好ましい実施形態において、上述したリン酸二水素カリウムと組み合わせて、ミネラルとして、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、セレン、クロム、モリブデンの少なくとも1種が単独で用いられ、好ましくは2種以上、より好ましくは4種以上、より一層好ましくは6種以上が組み合わせて用いられ、特に好ましくは8種すべてが組み合わせて用いられる。本実施形態において、第1の培地におけるリン酸二水素カリウム以外のミネラルの合計の濃度は、本発明の効果が奏される範囲で適宜設定することができる。
【0038】
第1の培地に含まれるビタミンとしては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられるビタミンであれば特に限定されず、脂溶性ビタミンであってもよく、水溶性ビタミンであってもよい。脂溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等が挙げられる。また、水溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンB群(例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン等)、ビタミンC等が挙げられる。ビタミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
第1の培地におけるビタミンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、用いられるビタミンの種類、第1の培地の他の成分の種類や濃度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、第1の培地におけるビタミンの濃度は、0.001~0.05(w/v)%、0.005~0.03(w/v)%、0.01~0.02(w/v)%等とすることができる。
【0040】
一つの好ましい実施形態において、ビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンDの少なくとも1種が単独で用いられ、好ましくは2種以上、より好ましくは4種以上、より一層好ましくは6種以上、より一層好ましくは8種以上、より一層好ましくは10種以上が組み合わせて用いられ、特に好ましくは12種すべてが組み合わせて用いられる。本実施形態において、第1の培地におけるビタミンの合計の濃度は、本発明の効果が奏される範囲で適宜設定することができる。
【0041】
第1の培地に含まれる脂質としては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられるビタミンであれば特に限定されず、例えば、脂肪アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、糖脂質、ポリケチド等が挙げられる。脂質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
第1の培地における脂質の濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、用いられる脂質の種類、第1の培地の他の成分の種類や濃度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、第1の培地における脂質の濃度は、0.01~0.2(w/v)%、0.03~0.1(w/v)%、0.04~0.08(w/v)%等とすることができる。
【0043】
第1の培地は、遊離アミノ酸を0.1~2.5(w/v)%の濃度で含み、好ましくは遊離アミノ酸を好ましくは0.12~2.4(w/v)%、より好ましくは0.14~2.3(w/v)%、より一層好ましくは0.145~2.2(w/v)%の濃度で含む。なお、本明細書において、遊離アミノ酸についての「濃度」とは、培地に含まれるすべての成分に由来する遊離アミノ酸の合計の濃度を意味する。第1の培地における遊離アミノ酸濃度が上述した範囲にある場合、マツタケ子実体から分離された細胞が増殖して菌糸の集合体(菌糸塊)を形成し、菌糸塊が鉛直上方向に隆起したマツタケ原基が形成される。第1の培地における遊離アミノ酸の濃度は上述したタンパク質分解物の種類や濃度によって主に調整することができ、上述したさらなる成分の添加によってさらに調整することもできる。本明細書において、培地の遊離アミノ酸濃度は、Difco & BBL Manual(Second Edition)のデータに基づき算出することができる。
【0044】
第1の培地は、好ましくは窒素源を含む。第1の培地における全窒素量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、0.01~5(w/v)%、0.05~3(w/v)%、0.1~2(w/v)%等とすることができる。第1の培地における窒素源は上述したタンパク質分解物によって主に含まれており、必要に応じて上述したさらなる成分、特にアンモニウム塩、亜硝酸塩、硝酸塩等の窒素を含む無機塩類、トリプトファン、ヒスチジン等の窒素を含むアミノ酸の添加によってさらに調整することもできる。本明細書において、培地の窒素量は、Difco & BBL Manual(Second Edition)のデータに基づき算出することができるほか、ケルダール法、燃焼法などにより測定することもできる。
【0045】
本工程(a)において、マツタケ子実体から分離された細胞を培養する温度は、好ましくは15~30℃、より好ましくは18~29℃、より一層好ましくは19~28℃、特に好ましくは20~25℃である。本工程(a)における培養温度が上述した範囲にある場合、マツタケ原基の形成がより促進される。
【0046】
本工程(a)において、マツタケ子実体から分離された細胞を培養する時間は、マツタケ原基が形成されるのに十分な時間であれば特に限定されず、培地の組成、培養開始時の細胞の数、培養温度等に応じて適宜設定することができる。マツタケ子実体から分離された細胞を培養する時間は、例えば、2~12週間、3~10週間、4~7週間等とすることができる。
【0047】
本工程(a)において、マツタケ子実体から分離された細胞を培養する際の湿度は、過度な乾燥または湿潤により細胞の増殖が阻害されない湿度であれば特に限定されず、例えば、50~100%、60~90%、70~100%等とすることができる。
【0048】
<工程(b)>
工程(b)では、上述した工程(a)で形成されたマツタケ原基を特定の条件下で培養し、マツタケ原基を鉛直上方向に伸長させて、伸長したマツタケ原基が得られる。
【0049】
(培地)
工程(b)において用いられる第2の培地としては、菌類、特にキノコの細胞の培養に通常用いられる培地であれば特に限定されず、第1の培地として上述されたものを適宜選択して用いることができる。
【0050】
一つの実施形態において、第2の培地は、第2のタンパク質分解物を含む。第2のタンパク質分解物としては、第1のタンパク質分解物として上述されたものを適宜選択して用いることができる。
【0051】
第2の培地は、上述した第2のタンパク質分解物に加えて、糖類、無機塩類等のミネラル、ビタミン、脂質、アミノ酸等のさらなる成分を含んでいてもよい。これらのさらなる成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。糖類、ミネラル(無機塩類)、ビタミン、脂質およびアミノ酸の種類としては、第1の培地について上述されたものを適宜選択して用いることができる。また、糖類、ミネラル(無機塩類)、ビタミン、脂質およびアミノ酸のそれぞれの濃度は、第1の培地について上述された糖類、ミネラル(無機塩類)、ビタミン、脂質およびアミノ酸のそれぞれの濃度とすることができる。
【0052】
第2の培地は、遊離アミノ酸を0.05~2.5(w/v)%の濃度で含み、好ましくは遊離アミノ酸を0.05~2.0(w/v)%、より好ましくは0.055~1.8(w/v)%、より一層好ましくは0.06~1.5(w/v)%、より一層好ましくは0.065~1.4(w/v)%の濃度で含む。第2の培地における遊離アミノ酸濃度が上述した範囲にある場合、マツタケ原基の伸長がより促進される。第2の培地における遊離アミノ酸の濃度は上述したタンパク質分解物の種類や濃度によって主に調整することができ、上述したさらなる成分の添加によってさらに調整することもできる。
【0053】
第2の培地は、好ましくは窒素源を含む。第2の培地における全窒素量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、0.01~2(w/v)%、0.02~1.5(w/v)%、0.05~1(w/v)%等とすることができる。第2の培地における窒素源は上述したタンパク質分解物によって主に含まれており、必要に応じて上述したさらなる成分、特にアンモニウム塩、亜硝酸塩、硝酸塩等の窒素を含む無機塩類、トリプトファン、ヒスチジン等の窒素を含むアミノ酸の添加によってさらに調整することもできる。
【0054】
本工程(b)において、マツタケ原基を培養する温度は、好ましくは15~30℃、より好ましくは16~29℃、より一層好ましくは17~28℃、特に好ましくは18~25℃である。本工程(b)における培養温度が上述した範囲にある場合、マツタケ原基の伸長がより促進される。
【0055】
本工程(b)において、マツタケ原基を培養する時間は、マツタケ原基が所望の大きさに伸長するのに十分な時間であれば特に限定されず、培地の組成、培養温度等に応じて適宜設定することができる。マツタケ原基を培養する時間は、例えば、2~30週間、2~20週間、2~15週間、2~12週間、4~10週間、5~8週間等とすることができる。
【0056】
本工程(b)において、マツタケ原基を培養する際の湿度は、過度な乾燥または湿潤によりマツタケ原基の伸長が阻害されない湿度であれば特に限定されず、例えば、50~100%、60~90%、70~100%等とすることができる。
【0057】
本工程(b)におけるマツタケ原基の培養は、上述したような特定の濃度の遊離アミノ酸を含む第2の培地を浸潤させた高吸収性素材を含む培養支持体を用いて行われる。培養支持体とは、マツタケ原基と接触してマツタケ原基に第2の培地の成分を供給し、かつ伸長するマツタケ原基を支持するものである。
【0058】
培養支持体に用いられる高吸収性素材としては、第2の培地が十分に浸潤することができ(すなわち、高吸収され得)、菌類、特にキノコの細胞の培養に用いられ得る素材であれば特に限定されることなく用いることができる。高吸収性素材としては、例えば、植物繊維、高吸収性繊維(SAF)、高吸収性樹脂(SAP)、寒天、人造鉱物繊維等が挙げられる。高吸収性素材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
<工程(c)>
本発明の製造方法は、上述した工程(a)および(b)に加えて、工程(c)として、工程(a)および(b)により得られる伸長したマツタケ原基を生長させて子実体様マツタケ原基を得る工程をさらに含んでもよい。
【0060】
伸長したマツタケ原基を生長させる方法としては、例えば、上述した工程(b)の途中または後に、マツタケの原基や子実体の生長に必要な栄養成分(遊離アミノ酸、糖類、ビタミン類、無機塩類等のミネラル、脂質、水分等)を、伸長したマツタケ原基に供給する方法がある。栄養成分の供給方法としては、例えば、栄養成分を培地に添加する等の方法が挙げられる。上述した工程(b)の途中に栄養成分を供給する場合、例えば、原基の伸長のために消費された栄養成分の種類や量に基づき、栄養成分を添加した培養液を培地(すなわち、培養支持体)に追加する。また、上述した工程(b)の後に栄養成分を供給する場合、例えば、必要な栄養成分を添加した培地で、伸長したマツタケ原基をさらに培養する。供給される栄養成分の種類や量は、不足している栄養成分(必要な栄養成分)の種類や量に応じて適宜設定することができる。
【0061】
本発明の別の態様によれば、上述した本発明の製造方法に用いられ得る、受託番号NITE P-03769で特定されるTricholoma matsutake菌株である菌株が提供される。
【0062】
受託番号NITE P-03769で特定される菌株は、本発明の製造方法において良好なマツタケ原基形成を示し、伸長したマツタケ原基の製造に好適に用いることができる。
【実施例0063】
以下の実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例において、培地の遊離アミノ酸濃度は、Difco & BBL Manual(Second Edition)のデータに基づき算出した。
【0064】
実施例1:タンパク質分解物含有培地を用いたマツタケの原基形成の検討1
下記の手順に従って、タンパク質分解物を含有する培地を用いたマツタケの原基形成の検討を行った。なお、本実施例は、上述した工程(a)に対応するものである。
【0065】
マツタケ細胞
マツタケの子実体由来の細胞として、天然産のマツタケの子実体から分離された組織から、スクリーニング等の単離工程によって新たなマツタケ細胞(菌株)を取得した。なお、得られたマツタケ細胞は、日本国 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE P-03769として2022年10月18日付で寄託されている。
【0066】
マツタケ細胞保存用斜面培地の作製
上述したマツタケ細胞を培養するための培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.2(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco社製)、1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン社製)、2(w/v)%グルコース含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、寒天およびグルコース以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブで加熱した後、試験管に8mlずつ培養液を分注し、シリコ栓で密封した。次いで、試験管を121℃で20分間高圧滅菌し、斜めにして室温に静置し、培養液を固化させて斜面培地を作製した。
【0067】
マツタケ細胞の斜面培地での培養および保存
上述した手順に従って得られた斜面培地に、上述したマツタケ細胞を植菌した。次いで、20℃で静置して2ヶ月間培養を行い、マツタケ菌糸を試験管内に充分蔓延させ、使用時まで4℃で低温保管した。
【0068】
前培養用平板培地の作製
上述した手順に従って得られたマツタケ菌糸を培養するための培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.2(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco社製)、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン社製)含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、リン酸二水素カリウムおよび寒天以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を最終濃度2%となるように添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、前培養用の平板培地を作製した。
【0069】
マツタケ菌糸の前培養
マツタケ菌糸を、上述した手順に従って得られた前培養用の平面培地を用いて、以下の手順に従って前培養した。
まず、斜面培地による培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を用いて菌糸の一部を切り出し、前培養用の平板培地に植菌した。次いで、20℃で静置して2ヶ月間培養を行い、放射状に広がった菌糸を得た。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0070】
マツタケの原基形成の検討用の平板培地の作製
マツタケの原基形成を検討するための試験区1-1~1-12の平板培地を、以下の手順に従って作製した。
0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン製)、およびタンパク質分解物である酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)、ペプトン(Bacto Peptone、Gibco製)、トリプトン(Bacto Tryptone、Gibco製)またはビーフエキス(Beef Extract Powder、Gibco製)を含む培養液を調製した。なお、培養液中、リン酸二水素カリウム、寒天およびタンパク質分解物以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、マツタケの原基形成の検討用の平板培地を作製した。なお、各試験区の培地のタンパク質分解物およびグルコースの最終濃度はそれぞれ表1のとおりとした。
【0071】
【表1】
【0072】
マツタケの原基形成
上述した前培養で得られた放射状に広がった菌糸を、直径3.5mmの滅菌済ストローで寒天ごと打ち抜き、寒天部分を極力除去し、上述した手順により作製されたマツタケの原基形成の検討用の平板培地に植菌した。次いで、20℃または25℃で静置して4~7週間培養を行った。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら暗所にて培養を行った。各試験区の培養温度および培養期間を表1に示す。
【0073】
培地成分およびマツタケの原基形成の検討
試験区1-1~1-13の各培地を用いてマツタケ菌糸を培養した場合の、マツタケの原基形成の有無を表1に示す。なお、マツタケの原基形成は、菌糸塊が形成され、その一部が鉛直上方向に隆起したものを「原基形成有り」とし、菌糸塊が形成されず、植菌した菌糸の周辺に放射状に栄養菌糸が伸長したものを「原基形成無し」とした。
【0074】
表1に示す結果から、遊離アミノ酸濃度が0.148~0.984(w/v)%である試験区1-2~1-13においてはマツタケの原基形成が確認された。一方、遊離アミノ酸濃度が0.066(w/v)%(タンパク質分解物添加量0.2(w/v)%)である試験区1-1においてはマツタケの原基形成が確認されなかった。
【0075】
実施例2:タンパク質分解物含有培地を用いたマツタケの原基形成の検討2
下記の手順に従って、タンパク質分解物を含有する培地を用いたマツタケの原基形成の検討を行った。なお、本実施例は、上述した工程(a)に対応するものである。
【0076】
マツタケ菌糸の前培養
マツタケ菌糸を、上述した手順に従って得られた前培養用の平面培地を用いて、以下の手順に従って前培養した。なお、マツタケ菌糸としては、実施例1において説明した受託番号NITE P-03769で特定されるマツタケの子実体由来の細胞から得られたマツタケ菌糸を用いた。
まず、斜面培地による培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、前培養用の平板培地に植菌した。次いで、20℃で静置して2ヶ月間培養を行った。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0077】
マツタケの原基形成の検討用の平板培地の作製
マツタケの原基形成を検討するための試験区2-1~2-5の平板培地を、以下の手順に従って作製した。
0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン製)を含み、さらにL-トリプトファン(富士フイルム和光純薬製)とタンパク質分解物である酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)、カザミノ酸(Bacto Casamino Acids、Gibco製)とを単独または組み合わせて含む培養液を調製した。なお、培養液中、リン酸二水素カリウム、寒天、L-トリプトファンおよび各種タンパク質分解物以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、マツタケの原基形成の検討用の平板培地を作製した。なお、各試験区の培地のL-トリプトファンと各種タンパク質分解物との合計の最終濃度およびグルコースの最終濃度はそれぞれ表2のとおりとした。
【0078】
また、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムおよび1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン製)に、タンパク質分解物である2(w/v)%カザミノ酸およびアミノ酸(下記に示すアミノ酸組成を有するアミノ酸-ビタミン-ミネラル配合サプリメントとして各濃度で添加)を添加したこと以外は試験区2-1~2-5の平板培地と同様にして、試験区2-6および2-7の平板培地を作製した。
バリン 21.65mg/g
ロイシン 30.30mg/g
イソロイシン 21.65mg/g
スレオニン 15.15mg/g
メチオニン 28.14mg/g
フェニルアラニン 30.30mg/g
トリプトファン 7.58mg/g
リシン 25.97mg/g
ヒスチジン 17.32mg/g
グリシン 34.34mg/g
アルギニン 25.40mg/g
グルタミン酸 20.85mg/g
アラニン 19.91mg/g
アスパラギン酸 12.19mg/g
プロリン 10.61mg/g
セリン 7.07mg/g
シスチン 3.25mg/g
チロシン 1.15mg/g
合計 332.828mg/g
なお、各試験区の培地のタンパク質分解物とアミノ酸-ビタミン-ミネラル配合サプリメントとの合計の各成分についての最終濃度およびグルコースの最終濃度はそれぞれ表2のとおりとした。
【0079】
【表2】
【0080】
マツタケの原基形成
上述した前培養で得られた放射状に広がった菌糸を、直径3.5mmの滅菌済ストローで寒天ごと打ち抜き、寒天部分を極力除去し、上述した手順により作製されたマツタケの原基形成の検討用の平板培地に植菌した。次いで、20℃または25℃で静置して5週間培養を行った。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら暗所にて培養を行った。
【0081】
培地成分およびマツタケの原基形成の検討
試験区2-1~2-7の各培地を用いてマツタケ菌糸を培養した場合の、マツタケの原基形成の有無を表2に示す。なお、マツタケの原基形成の有無は、目視により行った。
【0082】
表2に示す結果から、遊離アミノ酸濃度が0.164(w/v)%であり、かつタンパク質分解物として酵母エキスを含む試験区2-1では、マツタケ原基の形成が確認された。また、遊離アミノ酸濃度が0.501~2.186(w/v)%であり、かつタンパク質分解物として酵母エキスとカザミノ酸との組み合わせを含む試験区2-2~2-5においてはマツタケの原基形成が確認された。また、遊離アミノ酸濃度がそれぞれ1.331および1.361(w/v)%であり、かつアミノ酸-ビタミン-ミネラル配合サプリメントを含む試験区2-6および2-7においてもマツタケの原基形成が確認された。なお、表2には示していないが、特に、酵母エキス、カザミノ酸およびトリプトファンを含む培地を用いた試験区2-2~2-5において温度が20℃である場合には、酵母エキスのみを含む培地を用いた試験区2-1と比較して、より高いマツタケの原基形成が確認された。
【0083】
実施例3:高吸収性素材を培養支持体として用いたマツタケの原基伸長の検討
下記の手順に従って、高吸収性素材を培養支持体として用いてマツタケ原基を培養した場合のマツタケの原基伸長の検討を行った。なお、本実施例は、上述した工程(b)に対応するものである。
【0084】
マツタケの原基形成
上述した手順に従って得られたマツタケの原基形成の検討用の平面培地を用いて、以下の手順に従ってマツタケ菌糸からマツタケの原基を形成した。なお、マツタケ菌糸としては、実施例1において説明した受託番号NITE P-03769で特定されるマツタケの子実体由来の細胞から得られたマツタケ菌糸を用いた。
まず、斜面培地による培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、マツタケの原基形成の検討用の平板培地(0.5(w/v)%酵母エキス、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、2(w/v)%グルコース、1.5(w/v)%寒天、残りは蒸留水)に植菌し、25℃で静置して6週間培養を行い、マツタケの原基を形成した。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら暗所にて培養を行った。
【0085】
培地含有高吸水性素材(培養支持体)の作製
下記の手順に従って、試験区3-1~3-12に示す培地含有高吸収性素材(培養支持体)を作製した。
まず、タンパク質分解物である酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)およびリン酸二水素カリウムを含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキスおよびリン酸二水素カリウム以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を室温まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を表3に示す濃度で添加し、十分に混和させて液体培地を作製した。各試験区の培地の酵母エキスおよびグルコースの最終濃度はそれぞれ表3のとおりとした。
【0086】
一方で、高吸水性ポリマーを容量125mlのプラントボックス(植物培養用、アズワン株式会社製)に1gずつ計り取り、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。得られたプラントボックスに、上述した手順に従って得られた各試験区の液体培地をそれぞれ50mlずつ添加し、液体培地を高吸水性ポリマーに吸収させて、培養支持体となる培地含有高吸水性素材を作製した。
【0087】
培地含有高吸水性素材による培養
上述した手順に従って形成したマツタケの原基を直径0.5cm、高さ0.5cm程度となるように寒天から切り出し、試験区3-1~3-12の各培地含有高吸収性素材にマツタケの原基を植菌した。次いで、18℃、20℃、22℃または25℃の暗所で静置して7週間培養を行った。なお、各試験区における高吸収性素材に含有される培地の遊離アミノ酸およびグルコースの最終濃度、ならびに培養温度および培養期間はそれぞれ表3のとおりとした。
【0088】
【表3】
【0089】
培地含有高吸水性素材およびマツタケの原基伸長の検討
試験区3-1~3-12の各培地含有高吸収性素材を用いた場合の、マツタケ原基の高さを表3に示す。また、各試験区の伸長したマツタケ原基の写真を図1に示す。
【0090】
表3に示す結果から、遊離アミノ酸濃度が0.066~0.328(w/v)%である培地を含む高吸収性素材(培養支持体)を用いて培養した試験区3-1~3-12のいずれにおいても、マツタケ原基の伸長が確認された。また、培養温度ごとの比較から、遊離アミノ酸濃度が高くなるほどマツタケ原基の伸長の程度が大きく、特に、試験区3、6、9および12ではマツタケ原基の伸長が顕著であった。また、培養温度が高いほどマツタケ原基の伸長の程度が大きい傾向が見られた。
【0091】
また、図1に示すように、試験区3、6、9および12のように遊離アミノ酸濃度が比較的高い場合には、マツタケ原基の周辺にヒダ状の菌糸がみられず、マツタケ原基が良好な形状を有していた。
【0092】
実施例4:各種高吸収性素材を培養支持体として用いたマツタケの原基伸長の検討
下記の手順に従って、各種高吸収性素材を培養支持体として用いた場合のマツタケの原基伸長の検討を行った。なお、本実施例は、上述した工程(b)に対応するものである。
【0093】
マツタケの原基形成
上述した手順に従って得られたマツタケの原基形成の検討用の平面培地を用いて、以下の手順に従ってマツタケ菌糸からマツタケの原基を形成した。なお、マツタケ菌糸としては、実施例1において説明した受託番号NITE P-03769で特定されるマツタケの子実体由来の細胞から得られたマツタケ菌糸を用いた。
まず、斜面培地による培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、マツタケの原基形成の検討用の平板培地(0.5(w/v)%酵母エキス、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、2(w/v)%グルコース、1.5(w/v)%寒天、残りは蒸留水)に植菌し、25℃で静置して6週間培養を行い、マツタケの原基を形成した。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0094】
培地含有高吸収性素材(培養支持体)の作製
下記の手順に従って、試験区4-1~4-7および4-9~4-10に示す培地含有高吸収性素材(培養支持体)を作製した。
まず、タンパク質分解物である1(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)および0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムを含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキスおよびリン酸二水素カリウム以外は蒸留水とし、培養液の遊離アミノ酸濃度は0.328(w/v)%であった。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を室温まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液(最終濃度2(w/v)%)を添加し、十分に混和させて液体培地を作製した。
【0095】
また、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムに、1(w/v)%酵母エキスに代えて2(w/v)%カザミノ酸およびアミノ酸(実施例2で用いたのと同じアミノ酸-ビタミン-ミネラル配合サプリメントとして0.1(w/v)%の濃度で添加)を添加して培養液を調製したこと以外は試験区4-1~4-7および4-9~4-10の液体培地と同様にして、試験区4-8の液体培地を作製した。
【0096】
一方で、表4に示す各高吸収性素材を容量125mlのプラントボックス(植物培養用、アズワン株式会社製)に入れ、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。得られたプラントボックスに、上述した手順に従って得られた液体培地を添加し、培地含有高吸水性素材(培養支持体)を作製した。なお、液体培地の添加量は、高吸収性素材の種類に応じてそれぞれ表4のとおりとした。
【0097】
【表4】
【0098】
各種培地含有高吸収性素材による培養
上述した手順に従って形成したマツタケの原基を直径0.5cm、高さ0.5cm程度となるように寒天から切り出し、試験区4-1~4-10の各培地含有高吸収性素材にマツタケの原基を植菌した。次いで、表4に記載の各温度(18~25℃)の暗所で静置して5~14週間培養を行った。
【0099】
試験区4-1~4-10の各培地含有高吸収性素材を用いてマツタケ原基を培養した場合のマツタケ原基の高さを表4に示す。表4に示す結果から、遊離アミノ酸濃度が0.328(w/v)%または1.361(w/v)%である培地を含む各種高吸収性素材(培養支持体)を用いて培養した試験区4-1~4-10のいずれにおいても、マツタケ原基の伸長が確認された。
【0100】
実施例5:共焦点レーザー顕微鏡による各種マツタケ細胞に由来する原基形状の比較
異なる系統のマツタケ細胞を用いて、上述した工程(a)に対応する手順に従ってマツタケ原基を形成し、その形状を共焦点レーザー顕微鏡により観察した。マツタケ細胞としては、日本国 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE P-03769として寄託されているマツタケ細胞、およびNBRC#109050として寄託されているマツタケ細胞を用いた。
【0101】
マツタケの原基形成用の平板培地の作製
マツタケの原基形成用の平板培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.5(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムおよび1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン製)含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、リン酸二水素カリウムおよび寒天以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、マツタケの原基形成用の平板培地を作製した。
【0102】
マツタケの原基形成
上述した手順に従って得られたマツタケの原基形成用の平面培地を用いて、以下の手順に従って、各系統のマツタケ菌糸からマツタケの原基を形成した。
まず、斜面培地により培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、マツタケの原基形成用の平板培地に植菌し、20℃で静置して10週間培養を行い、マツタケの原基を形成した。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0103】
マツタケ菌糸の観察
NITE P-03769およびNBRC#109050のマツタケ細胞から得られたコロニーの外観を図2に示す。図2に示すように、NITE P-03769のマツタケ細胞を用いた場合には、菌糸が固く盛り上り鉛直方向に伸長してマツタケ原基の形成が確認された。一方、NBRC#109050のマツタケ細胞を用いた場合には、ヒダ状の栄養菌糸が広がり、水平方向に菌糸が伸長し、マツタケ原基の形成が確認されなかった。
【0104】
実施例6:共焦点レーザー顕微鏡による各種マツタケ細胞に由来する菌糸伸長の比較
異なる系統のマツタケ細胞に由来するマツタケ原基における菌糸伸長を、下記の手順に従って、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。
まず、NITE P-03769およびNBRC#109050の各マツタケ細胞に由来するマツタケ原基における菌糸を採取し、Calcofluor white(メルク社製)でそれらの細胞壁を蛍光染色し、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 FV1000)で観察を行った。100倍の油浸対物レンズ(N.A. 1.4)を用いて、励起波長405nm、蛍光波長425~475nmにてCalcofluor whiteを検出した。鉛直上方向に伸長したNITE P-03769由来の原基における菌糸については、菌糸の立体的な伸長を観察するため、約10μmの深さをZ軸方向に0.5μmずつずらしながら撮影を行い、最終的に20枚の画像を1枚に重ねた立体的なスタック画像を得た。水平方向に菌糸の伸長が見られたNBRC#109050由来の原基における菌糸については、最も菌糸が良く見える焦点に合わせて二次元の画像を得た。結果を図3に示す。
【0105】
図3に示すように、NITE P-03769由来の原基においては菌糸が分岐し、水平方向および鉛直方向のあらゆる方向へ菌糸が伸長している形態が観察された。一方、NBRC#109050由来の原基においては菌糸が分岐せず、水平方向へのみ菌糸が伸長する形態が観察された。
【0106】
実施例7:各種マツタケ細胞に由来するマツタケ原基の形態的特徴の比較
NITE P-03769、NBRC#33136およびNBRC#109050の各マツタケ細胞に由来するマツタケ原基の形態的特徴の比較を行った。
【0107】
マツタケ菌糸の前培養
各マツタケ細胞を斜面培地で培養して菌糸を得、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、前培養用の平板培地に植菌した。次いで、20℃で静置して2ヶ月間培養を行い、放射状に広がった菌糸を得た。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0108】
マツタケの原基形成用の平板培地の作製
マツタケの原基形成用の培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.5(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムおよび1.5(w/v)%天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン製)含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、ン酸二水素カリウムおよび寒天以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液(最終濃度2(w/v)%)を添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、マツタケの原基形成用の平板培地を作製した。
【0109】
マツタケの原基形成
上述した前培養で得られた放射状に広がった各マツタケ細胞に由来する菌糸を、直径3.5mmの滅菌済ストローで寒天ごと打ち抜き、寒天部分を極力除去し、上述した手順により作製された原基形成用の平板培地に植菌した。次いで、25℃の暗所で静置して6週間培養を行った。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0110】
マツタケ原基の観察
NITE P-03769、NBRC#33136およびNBRC#109050のマツタケ細胞から得られたコロニーの外観を図4に示す。図4に示すように、NITE P-03769のマツタケ細胞を用いた場合には、菌糸が固く盛り上り鉛直方向に伸長してマツタケ原基の形成が確認された。一方、NBRC#33136のマツタケ細胞およびNBRC#109050のマツタケ細胞を用いた場合には、いずれもヒダ状の栄養菌糸が大きく広がり、主に水平方向に菌糸が伸長し、マツタケ原基の形成が確認されなかった。
【0111】
表5に、それぞれのコロニーの外観的特徴および、形態を数値化して示す。
【0112】
【表5】
【0113】
表5に示す結果から、NITE P-03769のマツタケ細胞を用いた場合には、「菌糸塊の高さ/コロニーの直径」が0.37となり、NBRC#33136およびNBRC#109050の各マツタケ細胞を用いた場合には、それぞれ0.09、0.07(いずれもP<0.01)となり、形態に大きな違いが見られることが確認された。
【0114】
実施例8:本発明の製造方法により得られるマツタケ原基の形態的特徴
本発明の製造方法により得られるNITE P-03769マツタケ細胞に由来するマツタケ原基の形態を、以下の手順に従って観察した。
【0115】
マツタケの原基形成
NITE P-03769マツタケ細胞を斜面培地で培養して菌糸を得、柄付き針を使って菌糸の一部を切り出し、原基培養用の平板培地(0.5(w/v)%酵母エキス、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウム、2(w/v)%グルコースおよび1.5(w/v)%寒天、残りは蒸留水)に植菌し、20℃で静置して5週間培養を行い、マツタケの原基を形成した。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。
【0116】
培地含有高吸水性素材(培養支持体)の作製
下記の手順に従って、培地含有高吸収性素材(培養支持体)を作製した。
まず、タンパク質分解物である1(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco製)および0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムを含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキスおよびリン酸二水素カリウム以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を室温まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液(最終濃度4(w/v)%)を添加し、十分に混和させて液体培地を作製した。
【0117】
一方で、高吸水性ポリマー1gを容量125mlのプラントボックス(植物培養用、アズワン株式会社製)に計り取り、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。得られたプラントボックスに、上述した手順に従って得られた液体培地を50ml添加し、液体培地を高吸収性ポリマーに吸収させて、培養支持体となる培地含有高吸収性素材を作製した。
【0118】
培地含有高吸収性素材による培養
上述した手順に従って形成したマツタケの原基を直径0.3cm、高さ0.3cm程度となるように寒天から切り出し、上述した手順に従って作製した培地含有高吸収性素材にマツタケの原基を植菌した。次いで、20℃で静置して11週間培養を行った。その結果、マツタケの原基が直径0.6cm、高さ0.7cmに生長したことが確認された。
【0119】
培地含有高吸収性素材により培養されたマツタケ原基の植え替え
以下の手順に従って、さらなる培地含有高吸収性素材(培養支持体)を作製した。
まず、パルプ(キムタオル、日本製紙クレシア株式会社製)4gをプラントボックスに計り取り、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。得られたプラントボックスに、上述した手順に従って得られた液体培地を20ml添加し、液体培地をパルプに吸収させて、培養支持体となる培地含有高吸収性素材を作製した。
【0120】
上述した生長したマツタケの原基を、上述した手順に従って得られたさらなる培地含有高吸収性素材に植え替えた。次いで、20℃で静置して12週間培養を行った。その結果、マツタケの原基が直径1.8cm、高さ1.3cmに生長したことが確認された。培養中の各時点におけるマツタケの原基の観察結果(写真)を図5に示す。
【0121】
図5に示すように、12週間の培養終了後、マツタケ原基の断面を観察したところ、原基がキノコの傘様に分化していることが観察された。また傘様に分化した部分を鉛直方向に切断し、断面を観察したところ、左右対称に亀裂が入っている箇所(矢印)があり、その部分については茶色く変色していることが観察された。これらのことから、マツタケ原基を、マツタケ原基の生長をより促進する高吸収性ポリマーで培養して生長させた後、浸透圧ストレスを低減させるために培養液の吸水率がやや低い繊維状の培養支持体に植え替えてさらに培養することで、マツタケ原基が徐々に分化しながら生長することが確認された。
【0122】
実施例9:マツタケの新規菌種の原基形成能の確認
下記の4種のマツタケ細胞について、本発明の製造方法におけるマツタケ原基を形成する工程(すなわち、本発明の「工程(a)」)により、原基形成能の有無を確認した。
【0123】
マツタケ細胞
マツタケ細胞として、上述した各実施例において用いられたNITE P-03769およびNBRC#109050、ならびにそれらとは異なるNBRC#108259およびNBRC#108261の4種のマツタケ細胞を用いた。
【0124】
マツタケ細胞保存用斜面培地の作製
上述した各マツタケ細胞を培養するための培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.2(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco社製)、1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン社製)および2(w/v)%グルコースを含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、寒天およびグルコース以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブで加熱した後、試験管に8mlずつ培養液を分注し、シリコ栓で密封した。次いで、試験管を121℃で20分間高圧滅菌し、斜めにして室温に静置し、培養液を固化させて斜面培地を作製した。
【0125】
マツタケ細胞の斜面培地での培養および保存
上述した手順に従って作製された斜面培地に、上述した各マツタケ細胞を植菌した。次いで、20℃で静置して2ヶ月間培養を行い、マツタケ菌糸を試験管内に充分蔓延させ、次いで、使用時まで4℃で低温保管した。
【0126】
前培養用平板培地の作製
上述した手順に従って作製されたマツタケ菌糸を培養するための培地を、以下の手順に従って作製した。
まず、タンパク質分解物である0.2(w/v)%酵母エキス(Bacto Yeast Extract、Gibco社製)、0.1(w/v)%リン酸二水素カリウムおよび1.5(w/v)%寒天(Bacto Agar、ベクトン・ディッキンソン社製)を含む培養液を調製した。なお、培養液中、酵母エキス、リン酸二水素カリウムおよび寒天以外は蒸留水とした。次いで、HClを用いて培養液のpHを5.0に調整し、オートクレーブにより121℃で20分間高圧滅菌した。次いで、培養液を60~70℃程度まで冷却させ、あらかじめ滅菌しておいたグルコース溶液を最終濃度1%となるように添加し、十分混和させた。次いで、滅菌済プラスチックシャーレ(直径90mm)に18mlずつ培養液を分注し、室温に静置して培養液を固化させて、前培養用の平板培地を作製した。
【0127】
マツタケ菌糸の培養
マツタケ菌糸を、上述した手順に従って得られた前培養用の平面培地を用いて、以下の手順に従って前培養した。
まず、斜面培地による培養により得られたマツタケ菌糸から、柄付き針を用いて菌糸の一部を切り出し、前培養用の平板培地に植菌した。次いで、25℃で静置して13週間培養を行い、各マツタケ細胞に由来するマツタケ原基を得た。なお、平板培地の側面をフィルムで覆って密封し、乾燥を防ぎながら培養を行った。培養終了後の各コロニーの観察結果(写真)を図6に示す。
【0128】
図6に示すように、13週間の培養終了後、いずれのマツタケ細胞から得られた菌糸も、中心部分に菌糸が密集した形態(すなわち、マツタケ原基様の形態)のコロニーを形成していた。表6に、培養終了後の各コロニーの外観的特徴、および菌糸が密集した中心部分の直径を示す。
【0129】
【表6】
【0130】
表6および図6に示す結果から、NITE P-03769のマツタケ細胞を用いた場合には、多くの菌糸がコロニーの中心部分に密集し、鉛直上方向に伸長し、一方で水平方向に伸長した菌糸が少なく、マツタケの原基形成能を有していることが確認された。一方、他の3種のマツタケ細胞を用いた場合には、いずれも中心部分に密集して鉛直上方向に伸長した菌糸が少なく、一方で水平方向に伸長した菌糸が多かった。したがって、これらの各細胞は、マツタケの原基形成能を有していないことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】