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特開2024-92934薄膜トランジスタ基板及び薄膜トランジスタの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092934
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタ基板及び薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
H01L29/78 618E
H01L29/78 618B
H01L29/78 618F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129535
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022207860
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521515757
【氏名又は名称】厦門天馬顕示科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
(72)【発明者】
【氏名】竹知 和重
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110AA01
5F110BB02
5F110CC02
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD11
5F110EE03
5F110EE04
5F110EE30
5F110EE44
5F110FF02
5F110FF29
5F110GG01
5F110GG07
5F110GG19
5F110GG28
5F110GG29
5F110GG43
5F110HJ01
5F110HJ06
5F110HJ13
5F110HL03
5F110HL04
5F110HL23
5F110HM14
5F110HM17
5F110NN03
5F110NN23
5F110NN27
5F110NN35
5F110NN73
5F110NN78
5F110QQ11
5F110QQ19
(57)【要約】
【課題】積層酸化物層を含む薄膜トランジスタを効率的に製造する。
【解決手段】薄膜トランジスタは、ゲート電極と、基板とゲート電極との間の積層酸化物領域とを含む。積層酸化物領域は、第1酸化物層と第2酸化物層とを含み。チャネル領域は、第1酸化物層の第1領域を含み、ソース/ドレイン領域は、積層された、第1酸化物層の第2領域と第2酸化物層の第1領域とを含む。第1酸化物層の酸化物の移動度は、第2酸化物層の酸化物の移動度より大きい。第1不純物原子の積層方向における濃度プロファイルのピーク位置は、第2酸化物層の第1領域の上面に、第1酸化物層の第2領域の上面より近い。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタ基板であって、
基板と、
前記基板上の薄膜トランジスタと、
を含み、
前記薄膜トランジスタは、
ゲート電極と
前記基板と前記ゲート電極との間の積層酸化物領域と、
前記積層酸化物領域と前記ゲート電極との間のゲート絶縁層と、
を含み、
前記積層酸化物領域は、
前記ゲート電極に覆われたチャネル領域と、
前記ゲート電極の外側のソース/ドレイン領域と、
第1酸化物の第1酸化物層と、
前記第1酸化物と異なる第2酸化物の第2酸化物層と、を含み、
前記第1酸化物層と前記第2酸化物層とは界面を構成し、
前記チャネル領域は、前記第1酸化物層の第1領域を含み、
前記ソース/ドレイン領域は、積層された、前記第1酸化物層の第2領域と前記第2酸化物層の第1領域とを含み、
前記第2酸化物層の前記第1領域の抵抗は、前記第1酸化物層の前記第2領域の抵抗より小さく、
前記第1酸化物層の前記第2領域を前記第2酸化物層の前記第1領域と同一抵抗にするために必要な第1不純物原子の量は、前記第2酸化物層の前記第1領域の前記第1不純物原子の量より多く、
前記第1不純物原子の積層方向における濃度プロファイルのピーク位置と前記第2酸化物層の前記第1領域の上面との距離は、前記ピーク位置と前記第1酸化物層の前記第2領域の上面との距離より、小さい、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記チャネル領域は、前記第2酸化物層の第2領域をさらに含む、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項3】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記第1酸化物及び前記第2酸化物は、インジウムを含む酸化物であり、
前記第1酸化物のインジウムの原子組成百分率は、前記第2酸化物のインジウムの原子組成百分率より大きい、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記第1酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は、50atm%以上であり、
前記第2酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は、50atm%未満である、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項5】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記第1酸化物の移動度は、前記第2酸化物の移動度より大きい、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項6】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記ピーク位置は、前記第2酸化物層の前記第1領域の上面の近傍に位置する、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項7】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記第1酸化物層は下側の層であり、前記第2酸化物層は上側の層である、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項8】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記第1酸化物層は上側の層であり、前記第2酸化物層は下側の層である、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項9】
請求項7に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記積層酸化物領域は、さらに、前記第2酸化物層上に第3酸化物層を含み、
前記第3酸化物層と前記第2酸化物層とは界面を構成し、
前記第1酸化物の移動度は、前記第2酸化物の移動度より大きく、
前記第3酸化物層の酸化物の移動度は、前記第2酸化物の移動度より大きく、
前記チャネル領域は、前記第2酸化物層の第2領域と前記第3酸化物層の第1領域をさらに含み、
前記ソース/ドレイン領域は、前記第3酸化物層の第2領域をさらに含む、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項10】
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記積層酸化物領域は、前記ゲート電極の外側において前記ソース/ドレイン領域と前記チャネル領域との間に存在し、前記ソース/ドレイン領域より高抵抗のオフセット領域を含み、
前記チャネル領域は、前記第1酸化物層の前記第1領域で構成され、
前記オフセット領域は、前記第1酸化物層の第3領域で構成されている、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項11】
請求項10に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
一方の前記ソース/ドレイン領域と、前記ゲート電極を挟んで対向する、他方の前記ソース/ドレイン領域との距離が、前記薄膜トランジスタのチャネル幅方向で異なる、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜トランジスタ基板であって、
前記薄膜トランジスタのチャネル幅方向端部における、一方の前記ソース/ドレイン領域と、前記ゲート電極を挟んで対向する、他方の前記ソース/ドレイン領域との距離が、前記薄膜トランジスタのチャネル幅方向中央部よりも長い、
薄膜トランジスタ基板。
【請求項13】
薄膜トランジスタの製造方法であって、
積層された第1酸化物層及び第2酸化物層を含む積層酸化物領域を形成し、
前記積層酸化物領域上に絶縁層を形成し、
前記絶縁層上にゲート電極を形成し、
前記ゲート電極をマスクとして、前記積層酸化物領域に不純物イオンを注入して、前記第2酸化物層の一部の領域を低抵抗化する、ことを含み、
前記第1酸化物層の抵抗を前記第2酸化物層の前記一部の領域の抵抗と同一にするために必要な前記不純物イオンの注入量は、前記一部の領域に対する前記不純物イオンの注入量より多く、
前記不純物イオンの注入濃度プロファイルのピーク位置と前記第2酸化物層の上面との距離は、前記ピーク位置と前記第1酸化物層の上面との距離より、小さい、
薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜トランジスタ基板及び薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物薄膜トランジスタ(TFT)が、液晶表示装置やOLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置等の表示装置やメモリデバイス等の様々なデバイスにおいて利用されている。酸化物薄膜トランジスタは、リーク電流が少ない特性を有している一方、低温ポリシリコンTFTと比較して、その移動度が小さい。そのため、高移動度の酸化物半導体材料の研究が進められている。
【0003】
酸化物TFTの酸化物層は、チャネル領域と、チャネル領域を挟むソース/ドレイン領域を含む。ソース/ドレイン領域は、チャネル領域より低抵抗の低抵抗化領域である。低抵抗化領域は、酸化物層を所定元素のプラズマにさらすことで形成することができる他、酸化物層に対する不純物イオン注入によって形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0149132号
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0091233号
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0321280号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物TFTの特性を改善する手法の一つとして、酸化物材料が異なる酸化物層を積層する手法が知られている。また、不純物イオン注入による低抵抗化は、プラズマによる低抵抗化と比較して、設計チャネル長と実効チャネル長との差ΔLを小さくすることができ、その結果、TFTの短チャネル化が実現できる。しかし、発明者らの研究によれば、いくつかの酸化物材料は、他の酸化物材料と比較して、低抵抗化のためにより多くの不純物イオンを注入することが必要であることがわかった。したがって、酸化物積層を含むTFTを効率的に製造することができる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、薄膜トランジスタ基板であって、基板と、前記基板上の薄膜トランジスタと、を含み、前記薄膜トランジスタは、ゲート電極と前記基板と前記ゲート電極との間の積層酸化物領域と、前記積層酸化物領域と前記ゲート電極との間のゲート絶縁層と、を含み、前記積層酸化物領域は、前記ゲート電極に覆われたチャネル領域と、前記ゲート電極の外側のソース/ドレイン領域と、第1酸化物の第1酸化物層と、前記第1酸化物と異なる第2酸化物の第2酸化物層と、を含み、前記第1酸化物層と前記第2酸化物層とは界面を構成し、前記チャネル領域は、前記第1酸化物層の第1領域を含み、前記ソース/ドレイン領域は、積層された、前記第1酸化物層の第2領域と前記第2酸化物層の第1領域とを含み、前記第2酸化物層の前記第1領域の抵抗は、前記第1酸化物層の前記第2領域の抵抗より小さく、前記第1酸化物層の前記第2領域を前記第2酸化物層の前記第1領域と同一抵抗にするために必要な第1不純物原子の量は、前記第2酸化物層の前記第1領域の前記第1不純物原子の量より多く、前記第1不純物原子の積層方向における濃度プロファイルのピーク位置と前記第2酸化物層の前記第1領域の上面との距離は、前記ピーク位置と前記第1酸化物層の前記第2領域の上面との距離より、小さい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、積層酸化物層を含む薄膜トランジスタを効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】OLED表示装置の構成例を模式的に示す。
図2】画素回路の構成例を示す。
図3】TFT基板の一部の断面構造を模式的に示す。
図4】積層酸化物TFTの構造を模式的に示す断面図である。
図5】積層酸化物TFTへの不純物イオン注入の例を示す。
図6A】積層酸化物TFTを製造するための工程を示す。
図6B】積層酸化物TFTを製造するための工程を示す。
図6C】積層酸化物TFTを製造するための工程を示す。
図6D】積層酸化物TFTを製造するための工程を示す。
図7】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図8】積層酸化物TFTへの不純物イオン注入の例を示す。
図9】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図10】積層酸化物TFTへの不純物イオン注入の例を示す。
図11】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図12】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図13】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図14】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図15】積層酸化物TFTへの不純物イオン注入の例を示す。
図16】積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。
図17】積層酸化物TFTへの不純物イオン注入の例を示す。
図18図14の積層酸化物TFTの構造例を模式的に示す平面図の一例である。
図19A図18の例におけるW方向中央部での断面を示す。
図19B図18の例におけるW方向端部での断面を示す。
図20A】TFTの信頼性評価の結果を示す。
図20B】TFTの信頼性評価の結果を示す。
図20C】TFTの信頼性評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。本実施形態は本開示を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0010】
[概略]
以下において、薄膜トランジスタ基板を含む装置の例として、OLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置を説明する。本開示のOLED表示装置は、画素回路内及び/又は周辺回路内に、酸化物薄膜トランジスタ(TFT)を含む。本開示の酸化物TFTは、OLED表示装置に限らず、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、メモリデバイスや高耐圧デバイスなどの電子デバイスにも用いることができる。
【0011】
TFTは、ソース/ドレイン領域及びそれらの間のチャネル領域を含む。ソース/ドレイン領域の抵抗は、チャネル領域の抵抗より低い。ソース/ドレインは、ソースとドレインの総称である。例えば、ソース/ドレイン領域、ソース/ドレイン電極、ソース/ドレイン端子等が存在する。ソース/ドレインは、チャネル領域を流されるキャリアの方向によって、ソース又はドレインとなり得る。
【0012】
酸化物TFTはリーク電流が小さい特性を有している。そのため、例えば、酸化物TFTは、画素回路やOLED表示装置の周辺回路、例えば走査回路の回路に利用することができる。
【0013】
酸化物TFTの特性を改善する手法の一つとして、酸化物材料が異なる酸化物層を積層する手法が知られている。また、不純物イオン注入による低抵抗化は、プラズマによる低抵抗化と比較して、設計チャネル長と実効チャネル長との差ΔLを小さくすることができ、その結果、TFTの短チャネル化が実現できる。しかし、発明者らの研究によれば、いくつかの酸化物材料は、他の酸化物材料と比較して、低抵抗化のためにより多くの不純物イオンを注入することが必要であることがわかった。
【0014】
本明細書の一実施形態は、積層酸化物領域を含む、トップゲート構造の酸化物TFTを開示する。積層酸化物領域は、第1酸化物層と第2酸化物層とを含む。酸化物TFTのチャネル領域は、第1酸化物層の第1領域を含み、ソース/ドレイン領域は、積層された、第1酸化物層の第2領域と第2酸化物層の第1領域とを含む。第1酸化物層の酸化物を低抵抗化するために必要な不純物注入量は、第2酸化物層の酸化物を低抵抗化するために必要な不純物注入量より多い。不純物原子の積層方向における濃度プロファイルのピーク位置と第2酸化物層の上面との距離は、ピーク位置と第1酸化物層の上面との距離より、小さい。これにより、積層酸化物層を含む薄膜トランジスタを効率的に製造できる。
【0015】
<実施形態1>
[表示装置構成]
図1は、OLED表示装置1の構成例を模式的に示す。OLED表示装置1は、OLED素子及び画素回路が形成されるTFT(Thin Film Transistor)基板10と、OLED素子を封止する薄膜封止構造(TFE:Thin Film Encapsulation)20と、を含んで構成されている。薄膜封止構造20は、封止構造部の一つであり、他の例として、封止構造部は、有機発光素子を封止する封止基板と、TFT基板10と封止基板とを接合する接合部(ガラスフリットシール部)を含むことができる。TFT基板10と封止基板との間には、例えば、乾燥窒素が封入される。
【0016】
TFT基板10の表示領域25の外側のカソード電極形成領域14の周囲に、走査ドライバ31、エミッションドライバ32、保護回路33、ドライバIC34、デマルチプレクサ36が配置されている。ドライバIC34は、FPC(Flexible Printed Circuit)35を介して外部の機器と接続される。走査ドライバ31、エミッションドライバ32、保護回路33は、TFT基板10に形成された周辺回路である。
【0017】
走査ドライバ31はTFT基板10の走査線を駆動する。エミッションドライバ32は、エミッション制御線を駆動して、各画素の発光期間を制御する。ドライバIC34は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。
【0018】
保護回路33は、表示領域25の画素回路内の素子の静電破壊を防ぐ。ドライバIC34は、走査ドライバ31及びエミッションドライバ32に電源及びタイミング信号(制御信号)を与える。さらに、ドライバIC34は、デマルチプレクサ36に、電源及びデータ信号を与える。
【0019】
デマルチプレクサ36は、ドライバIC34の一つのピンの出力を、d本(dは2以上の整数)のデータ線に順次出力する。デマルチプレクサ36は、ドライバIC34からのデータ信号の出力先データ線を、走査期間内にd回切り替えることで、ドライバIC34の出力ピン数のd倍のデータ線を駆動する。
【0020】
[回路構成]
TFT基板10上には、複数の副画素(単に画素とも呼ぶ)のアノード電極にそれぞれ供給する電流を制御する複数の画素回路が形成されている。図2は、画素回路のシンプルな構成例を示す。各画素回路は、駆動トランジスタT1と、選択トランジスタT2と、エミッショントランジスタT3と、保持容量C1とを含む。画素回路は、OLED素子E1の発光を制御する。トランジスタは、TFTである。駆動トランジスタT1以外のトランジスタは、スイッチトランジスタである。
【0021】
選択トランジスタT2は画素を選択するスイッチである。選択トランジスタT2はNチャネル型酸化物TFTであり、ゲート端子は、走査線16に接続されている。ソース/ドレイン端子の一方は、データ線15に接続されている。ソース/ドレイン端子の他方は、駆動トランジスタT1のゲート端子に接続されている。
【0022】
駆動トランジスタT1はOLED素子E1の駆動用のトランジスタ(駆動TFT)である。駆動トランジスタT1はNチャネル型酸化物TFTであり、そのゲート端子は選択トランジスタT2のソース/ドレイン端子に接続されている。駆動トランジスタT1のドレイン端子は、エミッショントランジスタT3のソース端子に接続され、ソース端子はOLED素子E1に接続されている。駆動トランジスタT1のゲート端子とソース端子との間に保持容量C1が形成されている。
【0023】
エミッショントランジスタT3は、OLED素子E1への発光電流の供給と停止を制御するスイッチである。エミッショントランジスタT3はNチャネル型酸化物TFTであり、ゲート端子はエミッション制御線17に接続されている。エミッショントランジスタT3のドレイン端子は、電源線18に接続されている。ソース端子は駆動トランジスタT1のドレイン端子に接続されている。
【0024】
次に、画素回路の動作を説明する。走査ドライバ31が走査線16に選択パルスを出力し、選択トランジスタT2をオン状態にする。データ線15を介してドライバIC34から供給されたデータ電圧は、保持容量C1に格納される。保持容量C1は、格納された電圧を、1フレーム期間を通じて保持する。保持電圧によって、駆動トランジスタT1のコンダクタンスがアナログ的に変化し、駆動トランジスタT1は、発光階調に対応した順バイアス電流をOLED素子E1に供給する。
【0025】
エミッショントランジスタT3は、駆動電流の供給経路上に位置する。エミッションドライバ32は、エミッション制御線17に制御信号を出力して、エミッショントランジスタT3のオンオフを制御する。エミッショントランジスタT3がオン状態のとき、駆動電流がOLED素子E1に供給される。エミッショントランジスタT3がオフ状態のとき、この供給が停止される。エミッショントランジスタT3のオンオフを制御することにより、1フレーム周期内の点灯期間(デューティ比)を制御することができる。なお、図2の画素回路は例であって、画素回路は他の構成を有してよい。
【0026】
[TFT基板の構成]
以下において、積層構造を有する酸化物TFTを含むTFT基板の構成例を説明する。積層構造を有する酸化物TFTは、積層された複数の酸化物層を含む。積層された複数の酸化物領域を積層酸化物領域と呼び、積層酸化物領域を含むTFTを積層酸化物TFTとも呼ぶ。積層酸化物領域は、異なる材料の酸化物層を含む。異なる材料は、組成元素の組合せが異なる又は同一組成元素の組合せにおいて組成比が異なる。つまり、同一又は異なる材料は同一又は異なる元素組成の材料であり、元素組成は、構成元素の種類とそれらの比率を示す。なお、元素組成は、主要元素を示し、低抵抗化のための不純物は含まれないものとする。積層酸化物領域の詳細は後述する。
【0027】
図3は、TFT基板の一部の断面構造を模式的に示す。絶縁基板101上に、積層酸化物TFT141、積層酸化物TFT142、及びOLED素子144が形成されている。これらは、それぞれ、図2に示す駆動トランジスタT1、選択トランジスタT2、及びOLED素子E1に対応する。
【0028】
絶縁基板101は、樹脂又はガラスで形成された可撓性又は不撓性の基板であり。単層又は積層構造を有し得る。絶縁体層112が、絶縁基板101の上面を覆う。ここで、絶縁基板101に違い位置が下の位置であり、絶縁基板101から遠い位置が上の位置である。各層又は膜において、絶縁基板101側が下面であり、反対側が上面である。
【0029】
酸化物TFT141は、積層構造を有する酸化物領域103を含む。積層酸化物領域103は、絶縁体層112上に形成されている。図3に示す構成例において、積層酸化物領域103は、下層酸化物領域104と上層酸化物領域105を含む。下層酸化物領域104と上層酸化物領域105は、異なる酸化物層に含まれる。各酸化物層は、複数の酸化物TFTの酸化物領域を含む。
【0030】
積層酸化物領域103は、ソース/ドレイン領域と、面内方向においてソース/ドレイン領域間のチャネル領域を含む。ソース/ドレイン領域は、低抵抗化された酸化物層を含み、チャネル領域はゲート電極覆われた低抵抗化されていない酸化物で構成されている。チャネル領域の抵抗は、ソース/ドレイン領域の抵抗より高い。
【0031】
酸化物TFT141は、トップゲート構造を有する。酸化物TFT141は、トップゲートに加えてボトムゲートを含んでもよい。酸化物TFT142は、ゲート電極107と、積層方向においてゲート電極107とチャネル領域との間に存在するゲート絶縁体領域を含む。ゲート絶縁体領域は、絶縁体層117におけるゲート電極107とチャネル領域との間の部分である。絶縁体層117は、例えば、シリコン酸化物で形成される。
【0032】
チャネル領域、ゲート絶縁体領域及びゲート電極107は、この順で下から(基板側から)並ぶように積層されており、ゲート絶縁体領域は、チャネル領域及びゲート電極107と接触している。ゲート電極107は導体で形成され、導体層に含まれる。ゲート電極107は、例えば、金属で形成される。金属材料は任意であり、例えば、Mo、W、Nb、Al等が使用される。
【0033】
絶縁体層121が、酸化物TFT141の酸化物領域103、ゲート絶縁体領域、ゲート電極107、及び絶縁体層117を覆うように形成されている。絶縁体層121は、例えば、シリコン酸化物で構成できる。
【0034】
ソース/ドレイン電極109、110は絶縁体層121上に形成され、絶縁体層121及び絶縁体層117のコンタクトホールを介して、ソース/ドレイン領域に直接接触している。ソース/ドレイン電極109、110の材料は、例えば、AlやTiを使用できる。
【0035】
酸化物TFT142は、積層構造を有する酸化物領域113を含む。積層酸化物領域113は、絶縁体層112上に形成されている。図3に示す構成例において、積層酸化物領域113は、下層酸化物領域114と上層酸化物領域115を含む。下層酸化物領域114と上層酸化物領域115は、異なる酸化物層に含まれる。下層酸化物領域114は、下層酸化物領域104と同一層(同一プロセスで形成)にあり、上層酸化物領域115は、上層酸化物領域105と同一層にある。
【0036】
積層酸化物領域113は、ソース/ドレイン領域と、面内方向においてソース/ドレイン領域間のチャネル領域を含む。ソース/ドレイン領域は、低抵抗化された酸化物層を含み、チャネル領域はゲート電極覆われた低抵抗化されていない酸化物で構成されている。チャネル領域の抵抗は、ソース/ドレイン領域の抵抗より高い。積層酸化物領域113の詳細は後述する。
【0037】
酸化物TFT142は、トップゲート構造を有する。酸化物TFT142は、トップゲートに加えてボトムゲートを含んでもよい。酸化物TFT142は、さらに、ゲート電極119と、積層方向においてゲート電極119とチャネル領域との間に存在するゲート絶縁体領域を含む。ゲート絶縁体領域は、絶縁体層117におけるゲート電極119とチャネル領域との間の部分である。
【0038】
チャネル領域、ゲート絶縁体領域及びゲート電極119は、この順で下から(基板側から)並ぶように積層されており、ゲート絶縁体領域は、チャネル領域及びゲート電極119と接触している。ゲート電極119は導体で形成され、ゲート電極107と同一の導体層に含まれる。絶縁体層121が、酸化物TFT142の酸化物領域113、ゲート絶縁体領域、及びゲート電極119を覆うように形成されている。
【0039】
酸化物TFT142のソース/ドレイン電極122、123が、絶縁体層121上に形成されている。ソース/ドレイン電極122、123は、絶縁体層121及び絶縁体層117に形成されたコンタクトホールを介して、酸化物TFT142のソース/ドレイン領域に接続されている。ソース/ドレイン電極122、123は、ソース/ドレイン電極109、110と同じ金属層(導体層)に含まれる。
【0040】
上記導体層及び絶縁体層121の露出部分を覆うように、絶縁性の平坦化膜124が積層されている。平坦化膜124は、例えば、有機材料で形成できる。平坦化膜124の上に、アノード電極125が形成されている。アノード電極125は、平坦化膜124のコンタクトホールを介して、酸化物TFT141のソース/ドレイン電極109に接続されている。
【0041】
アノード電極125は、例えば、ITO、IZO等の透明膜、Ag、Mg、Al、Pt等の金属又はこれらの金属を含む合金の反射膜、上記透明膜の3層を含む。なお、アノード電極125の3層構成は、一例であり2層でもよい。
【0042】
アノード電極125の上に、OLED素子144を分離する絶縁性の画素定義層126が形成されている。画素定義層126は、例えば、有機材料で形成できる。アノード電極125上に、有機発光膜127が形成される。有機発光膜127は、下層側から、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層によって構成される。有機発光膜127の積層構造は設計により決められる。
【0043】
さらに、有機発光膜127の上にカソード電極128が形成される。一つのOLED素子144のカソード電極128は、連続する導体膜の一部である。カソード電極128は、有機発光膜127からの可視光の一部を透過させる。画素定義層126の開口に形成された、アノード電極125、有機発光膜127及びカソード電極128の積層膜が、OLED素子144を構成する。
【0044】
[積層酸化物TFTの構成例]
以下において、積層酸化物TFTの構成の詳細を説明する。図4は、積層酸化物TFT142の構造を模式的に示す断面図である。積層酸化物領域113は、下層酸化物領域114と上層酸化物領域115で構成されており、それらの間に界面が存在する。下層酸化物領域114と上層酸化物領域115とは、異なる材料の酸化物で構成されている。
【0045】
上層酸化物領域115は、ゲート電極119に覆われている高抵抗領域203と、高抵抗領域203を層内方向において挟む低抵抗領域201、202とを含む。ソース/ドレイン電極122、123が、それぞれ、低抵抗領域201、202の上面と接触している。低抵抗領域201、202は、例えば、10-4Ωcm以下の抵抗率を有している。後述するように、酸化物に対して不純物イオンを注入することで、低抵抗領域が形成される。
【0046】
下層酸化物領域114は、実質的に低抵抗化されていなくてもよい。下層酸化物領域114は、それのみでソース/ドレイン領域を構成し得る低い抵抗率の低抵抗領域を有していない。下層酸化物領域114のいずれの部分の抵抗率も、低抵抗領域201、202の抵抗率より大きい。
【0047】
積層酸化物領域113は、チャネル領域210と、チャネル領域210を層内方向において挟むソース/ドレイン領域211、212とを含む。チャネル領域210の抵抗は、ソース/ドレイン領域211、212の抵抗より大きい。積層酸化物領域113のチャネル領域210は、積層構造を有している。具体的には、ゲート電極119に覆われているチャネル領域210は、下層酸化物領域114の一部と上層酸化物領域115の高抵抗領域203で構成されている。
【0048】
積層酸化物領域113のソース/ドレイン領域211、212は、積層構造を有している。具体的には、ソース/ドレイン領域211は、下層酸化物領域114の一部と上層酸化物領域115の低抵抗領域201の一部とで構成されている。ソース/ドレイン領域212は、下層酸化物領域114の一部と上層酸化物領域115の低抵抗領域202の一部とで構成されている。
【0049】
図4において、積層酸化物領域113内の矢印は、ゲート電極119にハイレベル電位が与えられ、積層酸化物TFT142がON状態であるときの、電流を模式的に示す。ここでは、ソース/ドレイン電極122はドレイン電極であり、ソース/ドレイン電極123がソース電極であるとする。電流は、ソース/ドレイン領域211内の低抵抗領域201、チャネル領域210の2層、及びソース/ドレイン領域212内の低抵抗領域202を通過する。ソース/ドレイン領域211、212は、高抵抗の下層と低抵抗の上層とで構成され、全体として、その抵抗は、チャネル領域210の抵抗より小さい。
【0050】
チャネル領域210が積層構造を有することで、チャネル領域210のON電流特性を改善することができる。本明細書の一実施形態において、下層酸化物領域114(第1酸化物層の例)の酸化物の移動度が、上層酸化物領域115(第2酸化物層の例)の酸化物の移動度より大きい。これにより、チャネル領域210のON電流特性をさらに改善することができる。二つの酸化物の間において、移動度が大きいことは、バンドギャップが小さいことを意味する。
【0051】
[積層酸化物領域の不純物濃度プロファイル]
以下において、積層酸化物TFTの不純物濃度プロファイルを説明する。本明細書の一実施形態は、不純物イオン注入によって、積層酸化物TFTの積層酸化物領域における低抵抗領域を形成する。低抵抗化に使用される低抵抗化要因不純物元素は、例えば、B、He、Ne、Ar、H、P等を含む。不純物イオン注入は、水素プラズマによる低抵抗化と比較して、チャネルのΔLを小さくすることができ、結果として、積層酸化物TFTの短チャネルを実現できる。
【0052】
図5は、積層酸化物TFT142への不純物イオン注入の例を示す。不純物イオンは例えばBイオンである。図5に示す状態において、ゲート電極119をマスクとして、不純物イオン注入が実行され、上層酸化物領域115に、低抵抗領域201、202が形成される。層内方向において、低抵抗領域201、202に挟まれている領域203は、高抵抗のチャネル領域の一部である。
【0053】
図5は、注入された不純物原子の、積層方向における濃度プロファイルを模式的に示す。不純物濃度プロファイルは、不純物イオンの加速電圧と注入量を制御することが調整することができる。例えば、不純物濃度ピークの位置(注入ターゲット位置)は、不純物イオンの加速電圧を制御することが調整することができる。また、不純物濃度の値は、注入量を制御することで調整できる。
【0054】
図5の例において、不純物濃度プロファイルは、一つのピーク301を示し、そのピーク301は、下層酸化物領域114の上面より、上層酸化物領域115の上面に近い位置にある。つまり、ピーク301の位置と上層酸化物領域115の上面との距離は、ピーク301の位置と下層酸化物領域114の上面との距離より小さい。図5の例において、ピーク301は、上層酸化物領域115の上面の近傍(一致を含む)にある。これにより、上層酸化物領域115の低抵抗領域201、202をより効率的に形成することができる。図5において、ピーク301と上層酸化物領域115の上面の位置が一致しているが、ピーク301の位置は、上層酸化物領域115の上面のわずかに上又は下であってもよい。
【0055】
図4及び5に示す積層酸化物TFT142の構成例において、上層酸化物領域115の低抵抗領域201、202と同一の抵抗値の低抵抗領域を、下層酸化物領域114に形成するためには、低抵抗領域201、202より多くの不純物イオン(不純物原子)を注入することが必要である。そのため、下層酸化物領域114のソース/ドレイン領域に不純物イオンが注入されているが、その量は、単層のソース/ドレイン領域を構成するほど抵抗を小さくするには不十分であり得る。
【0056】
上層酸化物領域115に合わせて低抵抗化のための不純物イオンを注入することで、少ない不純物イオン量で効率的にソース/ドレイン領域を形成することができる。図4を参照して説明したように、ソース/ドレイン領域211、212において、電流は主に、上層酸化物領域115の低抵抗領域201、202を流れる。低抵抗領域201、202は、ソース/ドレイン領域211、212に必要な特性を実現できる。
【0057】
本明細書の一実施形態において、下層酸化物領域114の移動度は、上層酸化物領域115の酸化物の移動度より高い。例えば、下層酸化物はIGZO(In:Ga:Zn=2:1:1)であり、上層酸化物がIGZO(In:Ga:Zn=1:1:1)であってもよい。これにより、TFTの特性を改善できる。
【0058】
発明者らの研究によれば、移動度が高い酸化物の低抵抗化は、より多くの不純物イオンの注入量を必要とすることが多い。そのため、下層酸化物領域114を移動度が高い酸化物で構成し、上層酸化物領域115を移動度が小さい酸化物で構成し、上層酸化物領域115をターゲットとして不純物イオンを注入することで、酸化物TFTの特性改善と効率的製造が可能となる。
【0059】
高移動度酸化物材料は、In-O系のキャリア伝導を利用することが多い。その一例は、IGZOである。酸化物におけるInの組成比を増加させることで、キャリア濃度を高め、移動度を高め得る。一方、発明者らの研究によれば、Inの組成比が高い酸化物は、低抵抗化のために、より多くの不純物イオン(不純物原子)を注入することが必要となることが多い。
【0060】
本明細書の一実施形態において、下層酸化物領域114の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率(at%)は、上層酸化物領域115の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率より大きい。
【0061】
例えば、下層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は、50atm%以上であり、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は、50atm%未満であってもよい。一例として、下層酸化物領域114はIGZO(In:Ga:Zn=6:2:1)であり、上層酸化物領域115は、IGZO(In:Ga:Zn=1:1:1)であってもよい。このように、下層酸化物領域114と上層酸化物領域115の元素組合せは、共にIn、Ga、Zn及びOであり、これらの間でInの原子組成百分率が異なっていてよい。
【0062】
[積層酸化物TFTの製造]
以下において、積層酸化物TFTを製造する方法の例を説明する。図6Aを参照して、製法は、絶縁体層112を、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)を使用して形成した後、下層酸化物領域314及び上層酸化物領域315からなる積層酸化物領域を形成する。積層酸化物領域の形成は、例えば、スパッタ法等により積層酸化物層を成膜し、フォトリソグラフィによりパターニングを行う。
【0063】
次に、絶縁体層117を、例えばCVDを使用して形成する。製法は、スパッタ法等により金属膜を成膜し、フォトリソグラフィによるマスクのパターニングの後に金属膜エッチングして、ゲート電極119を形成する。
【0064】
図6Bを参照して、製法は、絶縁体層117越しに不純物イオン(例えばボロンイオン)を積層酸化物領域に注入する。下層酸化物領域314及び上層酸化物領域315は、それぞれ、下層酸化物領域114及び上層酸化物領域115に変化する。不純物イオン注入により、上層酸化物領域に低抵抗領域201、202が形成される。それらの間の領域は、高抵抗領域203である。
【0065】
下層酸化物領域114のゲート電極119の外側に不純物原子は存在するが、その領域の抵抗は、低抵抗領域201、202より高い。当該領域の抵抗は、下層酸化物領域114のゲート電極119に覆われた部分(チャネル領域の部分)の抵抗より小さくてよい。不純物イオンの濃度プロファイルは、図5を参照して説明した通りである。
【0066】
図6Cを参照して、製法は、ゲート電極119及び絶縁体層117を覆うように、絶縁体層121を形成する。絶縁体層121の形成は、例えば、CVDを使用することができる。図6Dを参照して、製法は、フォトリソグラフィによるマスクのパターニングの後のエッチングによりコンタクトホールを絶縁体層121及び絶縁体層117に形成する。さらに、製法は、スパッタ法等により金属膜を成膜し、フォトリソグラフィによるマスクのパターニングの後に金属膜エッチングして、ソース/ドレイン電極122、123を形成する。
【0067】
<実施形態2>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図7は、積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。以下においては、図4に示す構造例との相違を主に説明する。積層酸化物TFT400は、積層酸化物領域403を含む。積層酸化物領域403は、下層酸化物領域404と上層酸化物領域405で構成されており、それらの間に界面が存在する。
【0068】
下層酸化物領域404と上層酸化物領域405とは、異なる材料の酸化物で構成されている。例えば、下層酸化物領域404は、図4及び5を参照して説明した上層酸化物領域115と同じ材料で形成され、上層酸化物領域405は、下層酸化物領域114と同じ材料で形成されてよい。
【0069】
例えば、下層酸化物領域404(第2酸化物層の例)の酸化物(下層酸化物)は相対的に低い移動度の酸化物であり、上層酸化物領域405(第1酸化物層の例)の酸化物(上層酸化物)は相対的に高い移動度の酸化物であってよい。または、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率(at%)は、下層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率より大きくてよい。例えば、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%以上であり、下層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%未満であってもよい。
【0070】
下層酸化物領域404は、ゲート電極119に覆われている高抵抗領域413と、高抵抗領域413を層内方向において挟む低抵抗領域411、412とを含む。低抵抗領域411、412は、不純物イオン注入により形成される。
【0071】
上層酸化物領域405は、低抵抗領域431、432及びそれら以外の高抵抗領域で構成されている。低抵抗領域431、432の上面は、ソース/ドレイン電極122、123と接触しており、低抵抗領域431、432の下面は下層酸化物領域404の低抵抗領域411、412と接触している。低抵抗領域431、432は、上層酸化物領域405が金属からなるソース/ドレイン電極122、123と接触していることで、形成される。低抵抗領域431、432の抵抗率は、高抵抗領域413より低い。
【0072】
積層酸化物領域403は、チャネル領域420と、チャネル領域420を層内方向において挟むソース/ドレイン領域421、422とを含む。チャネル領域420の抵抗は、ソース/ドレイン領域421、422の抵抗より大きい。チャネル領域420は、積層構造を有している。具体的には、チャネル領域420は、下層酸化物領域404の高抵抗領域413と上層酸化物領域115の高抵抗領域の一部とで構成されている。
【0073】
ソース/ドレイン領域421、422は、積層構造を有している。具体的には、ソース/ドレイン領域421は、下層酸化物領域404の低抵抗領域411の一部、上層酸化物領域405の低抵抗領域431、及び上層酸化物領域405の高抵抗領域の一部、で構成されている。ソース/ドレイン領域422は、下層酸化物領域404の低抵抗領域412の一部、上層酸化物領域405の低抵抗領域432、及び上層酸化物領域405の高抵抗領域の一部、で構成されている。
【0074】
図7に示す構成例において、電流は、主に、低抵抗領域431、低抵抗領域411、チャネル領域420の2層、低抵抗領域412、低抵抗領域432を通過する。ソース/ドレイン領域421、422の抵抗は、チャネル領域420の抵抗より小さい。
【0075】
図8は、積層酸化物TFT400への不純物イオン注入の例を示す。不純物イオンは例えばBイオンである。図8に示す状態において、ゲート電極119をマスクとして、不純物イオン注入が実行され、下層酸化物領域404に、低抵抗領域411、412が形成される。層内方向において、低抵抗領域411、412に挟まれている領域413は、高抵抗のチャネル領域の一部である。
【0076】
図8は、注入された不純物原子の、積層方向における濃度プロファイルを模式的に示す。図8の例において、不純物濃度プロファイルは、一つのピーク302を示し、そのピーク302は、上層酸化物領域405の上面より、下層酸化物領域404の上面に近い位置にある。つまり、ピーク302の位置と下層酸化物領域404の上面との距離は、ピーク302の位置と上層酸化物領域405の上面との距離より、小さい。図8の例において、ピーク302は、下層酸化物領域404の上面の近傍(一致を含む)にある。これにより、下層酸化物領域404の低抵抗領域411、412をより効率的に形成することができる。図8において、ピーク302と下層酸化物領域404の上面の位置が一致しているが、ピーク302の位置は下層酸化物領域404の上面のわずかに上又は下であってもよい。
【0077】
図7及び8を参照して説明した積層酸化物TFT400は、図6Aから6Dを参照して説明したように、製造することができる。不純物イオン注入は、図8を参照して説明したように制御される。
【0078】
<実施形態3>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図9は、積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。以下においては、図4に示す構造例との相違を主に説明する。積層酸化物TFT450は積層酸化物領域453を含む。積層酸化物領域453は、下層酸化物領域454、中間層酸化物領域455、上層酸化物領域456を含む。下層酸化物領域454と中間層酸化物領域455との間に界面が存在する。上層酸化物領域456と中間層酸化物領域455との間に界面が存在する。
【0079】
下層酸化物領域454は、例えば、図4に示す下層酸化物領域114と同じ材料で構成され同一の構造を有することができる。中間層酸化物領域455は、例えば、図4に示す上層酸化物領域115と同じ材料で構成され同一の構造を有することができる。上層酸化物領域456と中間層酸化物領域455とは、異なる材料の酸化物で構成されている。例えば、上層酸化物領域456の酸化物は、下層酸化物領域454(第1酸化物層の例)の酸化物と同一材料であってよく、異なっていてもよい。
【0080】
例えば、上層酸化物領域456(第3酸化物層の例)の酸化物(上層酸化物)は相対的に高い移動度の酸化物であり、中間層酸化物領域455(第2酸化物層の例)の酸化物(中間層酸化物)は相対的に低い移動度の酸化物であってよい。または、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率(at%)は、中間層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率より大きくてよい。例えば、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%以上であり、中間層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%未満であってもよい。
【0081】
上層酸化物領域456は、低抵抗領域471、472及びそれら以外の高抵抗領域で構成されている。低抵抗領域471、472の上面は、ソース/ドレイン電極122、123と接触しており、低抵抗領域471、472の下面は中間層酸化物領域455の低抵抗領域481、482と接触している。低抵抗領域471、472は、上層酸化物領域456が金属からなるソース/ドレイン電極122、123と接触していることで、形成される。低抵抗領域471、472の抵抗率は、中間層酸化物領域455の高抵抗領域483より低い。
【0082】
積層酸化物領域453は、チャネル領域460と、チャネル領域460を層内方向において挟むソース/ドレイン領域461、462とを含む。チャネル領域460の抵抗は、ソース/ドレイン領域461、462の抵抗より大きい。チャネル領域460は、積層構造を有している。具体的には、チャネル領域460は、下層酸化物領域454の高抵抗領域の一部、中間層酸化物領域455の高抵抗領域483、上層酸化物領域456の高抵抗領域の一部、で構成されている。
【0083】
ソース/ドレイン領域461、462は、積層構造を有している。具体的には、ソース/ドレイン領域461は、下層酸化物領域454の高抵抗領域の一部、中間層酸化物領域455の低抵抗領域481の一部、上層酸化物領域456の低抵抗領域471、上層酸化物領域456の高抵抗領域の一部、で構成されている。ソース/ドレイン領域462は、下層酸化物領域454の高抵抗領域の一部、中間層酸化物領域455の低抵抗領域482の一部、上層酸化物領域456の低抵抗領域472、上層酸化物領域456の高抵抗領域の一部、で構成されている。
【0084】
図9に示す構成例において、電流は、主に、低抵抗領域471、低抵抗領域481、チャネル領域460の3層、低抵抗領域482、低抵抗領域472を通過する。ソース/ドレイン領域461、462の抵抗は、チャネル領域460の抵抗より小さい。
【0085】
図10は、積層酸化物TFT450への不純物イオン注入の例を示す。不純物イオンは例えばBイオンである。図10に示す状態において、ゲート電極119をマスクとして、不純物イオン注入が実行され、中間層酸化物領域455に、低抵抗領域201、202が形成される。層内方向において、低抵抗領域201、202に挟まれている領域203は、高抵抗のチャネル領域の一部である。
【0086】
図10は、注入された不純物原子の、積層方向における濃度プロファイルを模式的に示す。図10の例において、不純物濃度プロファイルは、一つのピーク303を示し、そのピーク303は、上層酸化物領域456の上面及び下層酸化物領域114の上面より、中間層酸化物領域455の上面に近い位置にある。つまり、ピーク303の位置と中間層酸化物領域455の上面との距離は、ピーク303の位置と上層酸化物領域456の上面との距離及びピーク303の位置と下層酸化物領域114の上面との距離より、小さい。
【0087】
図10の例において、ピーク303は、中間層酸化物領域455の上面の近傍(一致を含む)にある。これにより、中間層酸化物領域455の低抵抗領域201、202をより効率的に形成することができる。図10において、ピーク303と中間層酸化物領域455の上面の位置が一致しているが、ピーク303の位置は中間層酸化物領域455の上面のわずかに上又は下であってもよい。
【0088】
図9及び10を参照して説明した積層酸化物TFT450は、図6Aから6Dを参照して説明したように、製造することができる。不純物イオン注入は、図10を参照して説明したように制御される。なお、積層酸化物領域は、4層以上の酸化物領域で構成されていてもよい。
【0089】
<実施形態4>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図11から13は、積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。図11に示す積層酸化物TFT455は、図4に示す積層酸化物TFT142の構成に加えて、さらに、ボトムゲート電極181を含む。ボトムゲート電極181の少なくとも一部は、積層酸化物領域113のチャネル領域と積層方向において対向する。ボトムゲート電極181と積層酸化物領域113との間の絶縁体層112の一部は、ボトムゲート絶縁膜を構成する。ボトムゲート電極181には、例えば、ゲート電極119(トップゲート電極)と同一電位が与えられてもよく、異なる電位が与えられてもよい。
【0090】
図12に示す積層酸化物TFT456は、図7に示す積層酸化物TFT400の構成に加えて、さらに、ボトムゲート電極182を含む。ボトムゲート電極182の少なくとも一部は、積層酸化物領域403のチャネル領域と積層方向において対向する。ボトムゲート電極182と積層酸化物領域403との間の絶縁体層112の一部は、ボトムゲート絶縁膜を構成する。ボトムゲート電極182には、例えば、ゲート電極119(トップゲート電極)と同一電位が与えられてもよく、異なる電位が与えられてもよい。
【0091】
図13に示す積層酸化物TFT457は、図9に示す積層酸化物TFT450の構成に加えて、さらに、ボトムゲート電極183を含む。ボトムゲート電極183の少なくとも一部は、積層酸化物領域453のチャネル領域と積層方向において対向する。ボトムゲート電極183と積層酸化物領域453との間の絶縁体層112の一部は、ボトムゲート絶縁膜を構成する。ボトムゲート電極183には、例えば、ゲート電極119(トップゲート電極)と同一電位が与えられてもよく、異なる電位が与えられてもよい。
【0092】
<実施形態5>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図14は、積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。以下においては、図4に示す構造例との相違を主に説明する。以下に説明する積層酸化物TFTは、チャネル領域とソース/ドレイン領域との間に、ソース/ドレイン領域より高抵抗のオフセット領域を含む。これにより、積層酸化物TFTの耐圧特性を高めることができる。
【0093】
積層酸化物TFT500は積層酸化物領域513を含む。積層酸化物領域513は、下層酸化物領域514と、上層酸化物領域515を含む。下層酸化物領域514と上層酸化物領域515との間に界面が存在する。下層酸化物領域514(第1酸化物層の例)は、例えば、図4に示す下層酸化物領域114と同じ酸化物で構成できる。上層酸化物領域515(第2酸化物層の例)は、例えば、図4に示す上層酸化物領域115と同じ酸化物で構成できる。
【0094】
上層酸化物領域515は、下層酸化物領域514上でパターン化されており、ゲート電極119と重なる領域を含む領域が除去されている。上層酸化物領域515は、低抵抗領域521及び522を含む。低抵抗領域521及び522の間の領域を除去されており、下層酸化物領域514の上面の一部が、絶縁体層117と界面を形成する。
【0095】
下層酸化物領域514は、実質的に低抵抗化されていなくてもよい。下層酸化物領域514は、それのみでソース/ドレイン領域を構成し得る低い抵抗率の低抵抗領域を有していない。下層酸化物領域514のいずれの部分の抵抗率も、低抵抗領域521、522の抵抗率より大きい。
【0096】
積層酸化物領域513は、チャネル領域530と、チャネル領域530を層内方向において挟むソース/ドレイン領域531、532とを含む。積層酸化物領域513は、さらに、チャネル領域530とソース/ドレイン領域531との間にオフセット領域536を含み、チャネル領域530とソース/ドレイン領域532との間にオフセット領域537を含む。オフセット領域536、537は、積層方向においてみて(平面視において)、ゲート電極119の外側にある。
【0097】
チャネル領域530は、単層構造を有している。具体的には、ゲート電極119に覆われているチャネル領域530は、下層酸化物領域514の一部で構成されている。下層酸化物領域514を高移動度の酸化物で構成することで、TFTのチャネルの特性を改善できる。ソース/ドレイン領域531、532は、積層構造を有している。具体的には、ソース/ドレイン領域531は、下層酸化物領域514の一部と上層酸化物領域515の低抵抗領域521の一部とで構成されている。ソース/ドレイン領域532は、下層酸化物領域514の一部と上層酸化物領域515の低抵抗領域522の一部とで構成されている。オフセット領域536、537は、それぞれ、下層酸化物領域514の一部で構成されている。
【0098】
電流は、主に、ソース/ドレイン領域531の低抵抗領域521、オフセット領域536、チャネル領域530、オフセット領域537、及びソース/ドレイン領域532の低抵抗領域522を通過する。オフセット領域536、537により、電流は制限される。なお、積層酸化物TFT500にボトムゲート電極を追加してもよい。
【0099】
図15は、積層酸化物TFT500への不純物イオン注入の例を示す。不純物イオンは例えばBイオンである。図15に示す状態において、ゲート電極119をマスクとして、パターニングによるゲート電極119に覆われている領域が除去された上層酸化物領域515に、不純物イオン注入が実行され、低抵抗領域521、522が形成される。
【0100】
図15は、注入された不純物原子の、積層方向における濃度プロファイルを模式的に示す。図15の例において、不純物濃度プロファイルは、一つのピーク304を示し、そのピーク304は、下層酸化物領域514の上面より、上層酸化物領域515の上面に近い位置にある。つまり、ピーク304の位置と上層酸化物領域515の上面との距離は、ピーク304の位置と下層酸化物領域514の上面との距離より、小さい。
【0101】
図10の例において、ピーク303は、上層酸化物領域515の上面の近傍(一致を含む)にある。これにより、上層酸化物領域515の低抵抗領域521、522をより効率的に形成することができる。図15において、ピーク304と上層酸化物領域515の上面の位置が一致しているが、ピーク304の位置は上層酸化物領域515の上面のわずかに上又は下であってもよい。
【0102】
図14及び15を参照して説明した積層酸化物TFT500の製造は、図6Aから6Dを参照して説明した製造に、上層酸化物領域515をパターニングする工程を追加する。不純物イオン注入は、図15を参照して説明したように制御される。
【0103】
<実施形態6>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図16は、積層酸化物TFTの他の構造例を模式的に示す断面図である。以下においては、図4に示す構造例との相違を主に説明する。以下に説明する積層酸化物TFTは、チャネル領域とソース/ドレイン領域との間に、ソース/ドレイン領域より高抵抗のオフセット領域を含む。これにより、積層酸化物TFTの耐圧特性を高めることができる。
【0104】
積層酸化物TFT550は、積層酸化物領域563を含む。積層酸化物領域563は、下層酸化物領域564と上層酸化物領域565で構成されており、それらの間に界面が存在する。下層酸化物領域564は、絶縁体層112上でパターン化されており、ゲート電極119と重なる領域を含む領域が除去されている。下層酸化物領域564は、低抵抗領域551及び552を含む。低抵抗領域551、552は、不純物イオン注入により形成される。低抵抗領域551及び552の間の領域を除去されており、上層酸化物領域565の下面の一部が、絶縁体層112と界面を形成する。
【0105】
下層酸化物領域564と上層酸化物領域565とは、異なる材料の酸化物で構成されている。例えば、下層酸化物領域564(第2酸化物層の例)は、図4及び5を参照して説明した上層酸化物領域115と同じ酸化物で形成され、上層酸化物領域565(第1酸化物層の例)は、下層酸化物領域114と同じ酸化物で形成されてよい。
【0106】
例えば、下層酸化物領域564の酸化物(下層酸化物)は相対的に低い移動度の酸化物であり、上層酸化物領域565の酸化物(上層酸化物)は相対的に高い移動度の酸化物であってよい。または、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率(at%)は、下層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率より大きくてよい。例えば、上層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%以上であり、下層酸化物の酸素元素を除く元素組合せにおけるインジウムの原子組成百分率は50atm%未満であってもよい。
【0107】
上層酸化物領域565は、低抵抗領域581、582及びそれら以外の高抵抗領域で構成されている。低抵抗領域581、582の上面は、ソース/ドレイン電極122、123と接触しており、低抵抗領域581、582の下面は下層酸化物領域564の低抵抗領域551、552と接触している。低抵抗領域581、582は、上層酸化物領域565が金属からなるソース/ドレイン電極122、123と接触していることで、形成される。低抵抗領域581、582の抵抗率は、チャネル領域570より低い。
【0108】
積層酸化物領域563は、チャネル領域570と、チャネル領域570を層内方向において挟むソース/ドレイン領域571、572とを含む。さらに、積層酸化物領域563は、ソース/ドレイン領域571とチャネル領域570との間にオフセット領域576を、チャネル領域570とソース/ドレイン領域572との間にオフセット領域577を、含む。ソース/ドレイン領域571、572及びオフセット領域576、577は、積層方向において見て(平面視において)、ゲート電極119の外側にある。
【0109】
チャネル領域570、オフセット領域576、577の抵抗は、ソース/ドレイン領域571、572の抵抗より大きい。チャネル領域570は、単層構造を有している。具体的には、チャネル領域570は、上層酸化物領域565の高抵抗領域の一部で構成されている。上層酸化物領域565を高移動度酸化物で構成することで、チャネル特性を改善できる。
【0110】
ソース/ドレイン領域571、572は、積層構造を有している。具体的には、ソース/ドレイン領域571は、下層酸化物領域564の低抵抗領域551の一部、上層酸化物領域565の低抵抗領域581、及び上層酸化物領域565の高抵抗領域の一部、で構成されている。ソース/ドレイン領域572は、下層酸化物領域564の低抵抗領域552の一部、上層酸化物領域565の低抵抗領域582、及び上層酸化物領域565の高抵抗領域の一部、で構成されている。オフセット領域576、577は、それぞれ、上層酸化物領域565の高抵抗領域の一部で構成されている。
【0111】
図16に示す構成例において、電流は、主に、低抵抗領域581、低抵抗領域551、オフセット領域576、チャネル領域570、オフセット領域577、低抵抗領域552、低抵抗領域582を通過する。オフセット領域576、577により、電流は制限される。なお、積層酸化物TFT550にボトムゲート電極を追加してもよい。
【0112】
図17は、積層酸化物TFT550への不純物イオン注入の例を示す。不純物イオンは例えばBイオンである。図17に示す状態において、ゲート電極119をマスクとして、パターニングによりゲート電極119に覆われた領域が除去されている下層酸化物領域564に、不純物イオン注入が実行され、低抵抗領域551、552が形成される。
【0113】
図17は、注入された不純物原子の、積層方向における濃度プロファイルを模式的に示す。図17の例において、不純物濃度プロファイルは、一つのピーク305を示し、そのピーク305は、上層酸化物領域565の上面より、下層酸化物領域564の上面に近い位置にある。つまり、ピーク305の位置と下層酸化物領域564の上面との距離は、ピーク305の位置と上層酸化物領域565の上面との距離より、小さい。図17の例において、ピーク305は、下層酸化物領域564の上面の近傍(一致を含む)にある。これにより、下層酸化物領域564の低抵抗領域551、552をより効率的に形成することができる。図17において、ピーク305と下層酸化物領域564の上面の位置が一致しているが、ピーク305の位置は下層酸化物領域564の上面のわずかに上又は下であってもよい。
【0114】
図16及び17を参照して説明した積層酸化物TFT550の製造は、図6Aから6Dを参照して説明した製造に、下層酸化物領域564をパターニングする工程を追加する。不純物イオン注入は、図17を参照して説明したように制御される。
【0115】
<実施形態7>
積層酸化物TFTの他の構成例を説明する。図18は、図14の積層酸化物TFTの構造例を模式的に示す平面図の一例である。この積層酸化物TFTは、チャネル領域とソース/ドレイン領域との間に、ソース/ドレイン領域より高抵抗のオフセット領域を含む。これにより、積層酸化物TFTの耐圧特性を高めることができる。これに加え、以下に説明するように、ソース領域とドレイン領域の間の距離を場所によって変化させることで、TFTの信頼性を高めることができる。
【0116】
積層酸化物TFT600は積層酸化物領域513を含む。積層酸化物領域513は、下層酸化物領域514と、上層酸化物領域515を含む。下層酸化物領域514と上層酸化物領域515との間に界面が存在する。下層酸化物領域514(第1酸化物層の例)は、例えば、図4に示す下層酸化物領域114と同じ酸化物で構成できる。上層酸化物領域515(第2酸化物層の例)は、例えば、図4に示す上層酸化物領域115と同じ酸化物で構成できる。
【0117】
上層酸化物領域515は、下層酸化物領域514上でパターン化されており、ゲート電極119と重なる領域を含む領域が除去されている。上層酸化物領域515は、低抵抗領域521及び522を含む。低抵抗領域521及び522の間の領域を除去されており、下層酸化物領域514の上面の一部が、絶縁体層117と界面を形成する。また、この図の例では、低抵抗領域521と522の間の距離がTFTのチャネル幅W方向によって異なっている。W方向中央部における低抵抗領域521と522の間の距離612よりも、W方向端部における低抵抗領域521と522の間の距離622は、長くなっている。
【0118】
図19Aは、図18の例におけるW方向中央部611での断面を、図19Bは、図18の例におけるW方向端部621での断面を示す。図19Aにおける低抵抗領域521と522の間の距離612よりも、図19Bにおける低抵抗領域521と522の間の距離622は長くなっている。
【0119】
図18図19A及び19Bに示す構造によって、TFTの信頼性を高めることができる。その理由を図20A、20B、20Cの実験例を用いて説明する。
【0120】
図20A、20B、20Cは、それぞれ、TFT-A、TFT-B、TFT-Cの3種類のTFTの信頼性評価の結果を示す。各TFTは、チャネル幅Wや低抵抗領域間の距離が異なっており、TFT-Aはチャネル幅4μmで低抵抗領域間の距離は4μmである。TFT-Bはチャネル幅50μmで低抵抗領域間の距離は4μmである。TFT-Cはチャネル幅4μmで低抵抗領域間の距離は6μmである。各TFT作製後のIdVg特性を点線で、ストレス印加後に測定したIdVg特性を実線で示す。なお、ストレスは、60℃の環境においてソース電極とドレイン電極には0V、ゲート電極には+30Vを1時間印加して与えた。
【0121】
図20Aに示すように、TFT-Aのストレス後のIdVg特性はマイナス方向へシフトした。この特性は、ゲート電圧が0Vでもドレイン電流が流れてしまうため、回路動作で致命的な問題が発生することが多い。
【0122】
また、図20Bに示すように、TFT-Bのストレス後のIdVg特性は、サブスレッショルド領域はマイナス方向へシフトしたものの、ドレイン電流が約1e-5[A]以上ではプラス方向へシフトしており、ハンプ特性となった。ハンプ特性は、チャネル領域内で異なる特性を持つ領域があると出現することが知られているが、TFT-Aとの比較からW端部の特性がマイナス方向へシフトしていることが分かる。すなわち、W端部でマイナス方向へシフトする現象が発生していることが分かる。
【0123】
一方で、図20Cに示すように、TFT-Cのストレス後のIdVg特性は、全体的にプラス方向へシフトした。このことから、低抵抗領域間の距離を長くするとマイナス方向へシフトが抑制されることが分かる。プラス方向へのシフトであれば、ゲート電圧が0Vでもドレイン電流が流れないため、回路動作で致命的な問題が発生することは、ほぼ無い。ただし、TFT-Cは低抵抗領域間の距離を長くしたため、TFT-Aに比べてオン電流が低くなってしまっている。
【0124】
そこで、図18図19A及び19Bのように、ゲート電圧ストレスでマイナス方向へシフトする現象が発生するW方向端部のみ低抵抗領域間の距離を長くし、W方向中央部の低抵抗領域間の距離はそのままとすることで、オン電流の低下を抑制ながら、TFTの信頼性を高めることができる。
【0125】
本実施形態の製造方法は、図15の上層酸化物領域515のパターン形状を変更するだけで、その他は実施形態5の製造方法とほぼ同様である。
【0126】
本実施形態は、下層酸化物領域514(第1酸化物層の例)は、例えば、図4に示す下層酸化物領域114と同じ酸化物で構成し、上層酸化物領域515(第2酸化物層の例)は、例えば、図4に示す上層酸化物領域115と同じ酸化物で構成し、上層酸化物領域515は、下層酸化物領域514上でパターン化したが、実施形態5に対する実施形態6のように、下層酸化物領域564(第2酸化物層の例)を、図4及び5を参照して説明した上層酸化物領域115と同じ酸化物で構成し、上層酸化物領域565(第1酸化物層の例)は、下層酸化物領域114と同じ酸化物で構成し、下層酸化物領域564を、絶縁体層112上でパターン化することで、適用可能である。
【0127】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 OLED表示装置、10 TFT基板、31 走査ドライバ、32 エミッションドライバ、112、117、121 絶縁体層、119 ゲート電極、122、123 ソース/ドレイン電極、142、400、450、455、456、457、500、550 積層酸化物TFT、113、403、453、513、563 積層酸化物領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20A
図20B
図20C