(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092942
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】パルボシクリブ含有医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240701BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240701BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240701BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20240701BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240701BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/30
A61K47/18
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149535
(22)【出願日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2022208662
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 正樹
(72)【発明者】
【氏名】津田 俊太
(72)【発明者】
【氏名】草川 鋭一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA44
4C076CC27
4C076DD51
4C076DD51Q
4C076DD51Z
4C076FF61
4C076FF63
4C086AA01
4C086CB09
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA41
4C086NA03
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】パルボシクリブの類縁物質を生じさせにくく、安定性をより向上させたパルボシクリブを含む医薬製剤を提供すること。
【解決手段】パルボシクリブおよび酸性アミノ酸を含有する医薬製剤、好ましくは、酸性アミノ酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミン酸であり、酸性アミノ酸の含有量が、好ましくは3~30質量%である医薬製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボシクリブおよび酸性アミノ酸を含有する医薬製剤。
【請求項2】
酸性アミノ酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミン酸である請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
酸性アミノ酸の含有量が、3~30質量%である請求項1または2記載の医薬製剤。
【請求項4】
剤形が顆粒剤または錠剤である、請求項1または2記載の医薬製剤。
【請求項5】
剤形が錠剤であり、フィルムコーティングを含む、請求項4記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルボシクリブを含む製剤に関する。より詳細には、良好な薬物安定性を有するパルボシクリブを含む製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パルボシクリブ、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、つぎの式:
【化1】
で表される、CDK4およびCDK6の強力な選択的阻害剤である。
【0003】
特許文献1には、約10wt%~約35wt%のパルボシクリブ、約5wt%~約25wt%のコハク酸、リンゴ酸および酒石酸からなる群から選択される水溶性酸、ならびに薬学的に許容できる担体を含む固形剤形が、有利な貯蔵安定性および溶解特性を示すこと、ならびに重大な食事の影響がないまたはプロトンポンプ阻害剤(PPI)との不都合な相互作用がないパルボシクリブの実質的にpH非依存性の送達を提供することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の固形製剤については、パルボシクリブの安定性、すなわち類縁物質の生成になお改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、パルボシクリブの類縁物質を生じさせにくく、安定性をより向上させたパルボシクリブを含む医薬製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、上記課題を検討した結果、酸性アミノ酸を使用することにより、提供できること見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]パルボシクリブおよび酸性アミノ酸を含有する医薬製剤、
[2]酸性アミノ酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミン酸、好ましくはL-アスパラギン酸および/またはL-グルタミン酸である上記[1]記載の医薬製剤、
[3]酸性アミノ酸の含有量が、3~30質量%、好ましくは5~20質量%、より好ましくは7~15質量%である上記[1]または[2]記載の医薬製剤、
[4]剤形が顆粒剤または錠剤である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の医薬製剤、ならびに
[5]剤形が錠剤であり、フィルムコーティングを含む、上記[4]記載の医薬製剤
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、pH調節剤として酸性アミノ酸を用いることにより、パルボシクリブの類縁物質を生じさせにくく、安定性をより向上させたパルボシクリブを含む医薬製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】パルボシクリブの総類縁物質量(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のパルボシクリブを含有する医薬製剤は、有効成分としてのパルボシクリブとpH調節剤とを含むものであり、pH調節剤が酸性アミノ酸であることを特徴とする。本発明の医薬製剤が、パルボシクリブの類縁物質を生じさせにくく、安定性がより向上されていることは、酸性アミノ酸が、コハク酸等の場合と比較してアミノ基の存在によりカルボキシル基の反応性が抑えられ、結果としてパルボシクリブの類縁物質を生じさせにくいためであると推認される。なお、本発明の医薬製剤は、酸性アミノ酸により、コハク酸と同様に良好な溶出特性を示すものであり、後述する実施例3において製造した酸性アミノ酸を用いた本発明の医薬製剤は、後述する試験例2に示すように、現在市販されているパルボシクリブを含有する錠剤、例えば「イブランス(登録商標)錠25mg」と同様の溶出特性を有することが確認されている。
【0012】
パルボシクリブは、特に制限されることなく、商業的に入手可能なものを用いてもよく、また、公知の合成法により合成して用いてもよい。
【0013】
本発明の医薬製剤中のパルボシクリブの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。医薬製剤中のパルボシクリブの含有量を5質量%以上とすることにより、服用に適した錠剤サイズとなる。また、医薬製剤中のパルボシクリブの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。医薬製剤中のパルボシクリブの含有量を、50質量%以下とすることにより、製造性が良好となる傾向がある。
【0014】
本発明の医薬製剤に含有させる酸性アミノ酸としては、特に限定されるものではなく、天然または合成、あるいはD体またはL体を問わず、アスパラギン酸およびグルタミン酸が好ましく用いられ、L-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸がより好ましく用いられる。
【0015】
酸性アミノ酸の医薬製剤中の含有量は、医薬製剤のpHを所望のものとするというpH調節剤としての役割を果たすことのできる範囲であれば特に限定されるものではないが、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。医薬製剤中の酸性アミノ酸の含有量を3質量%以上とすることにより、所望の溶出特性を得やすい傾向がある。また、酸性アミノ酸の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。医薬製剤中の酸性アミノ酸の含有量を30質量%以下とすることにより、パルボシクリブの類縁物質を生じさせにくい傾向がある。
【0016】
本発明の医薬製剤には、上述の有効成分であるパルボシクリブ、および酸性アミノ酸に加え、例えば、賦形剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、結合剤、甘味剤、香料など、この分野で通常使用される添加剤を、例えば医薬製剤の剤形などに応じて含有させることができる。また、本発明の医薬製剤は、フィルムコーティング錠であってもよい。本発明の医薬製剤をフィルムコーティング錠とする場合、上記添加剤に加えてさらにフィルムコーティング層を形成するフィルムコーティング基剤などを含むことができる。
【0017】
賦形剤は、特に限定されるものではなく、例えば結晶セルロース、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチなど)およびその誘導体、糖(ブドウ糖、乳糖、白糖、精製白糖、粉糖、トレハロース、デキストラン、デキストリン、デキストレイトなど)、糖アルコール(D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)、グリセリン脂肪酸エステル、無機粉体(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト)、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩が挙げられる。賦形剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、錠剤成形性の点から結晶セルロース、および微結晶セルロースが好ましく、結晶セルロースがより好ましい。
【0018】
賦形剤を使用する場合の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、錠剤成形性の点から5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、医薬製剤中の賦形剤の含有量は、特に限定されるものではないが、活性成分であるパルボシクリブの量に応じて、錠剤成形性の点から90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0019】
崩壊剤は、特に限定されるものではなく、例えば、カルメロース、カルメロースナトリウム、微結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、錠剤崩壊性の点からクロスポビドンが好ましく用いられる。
【0020】
崩壊剤を使用する場合の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、錠剤崩壊性の点から1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、医薬製剤中の崩壊剤の含有量は、特に限定されるものではないが、錠剤崩壊性の点から22質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
流動化剤としては、特に限定されるものではないが、例えばケイ酸カルシウムなどのケイ酸塩、軽質無水ケイ酸などの無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、タルク、酸化チタン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コーンスターチ、ラウリル硫酸ナトリウム、などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、連続打錠時の粉体流動性の点から軽質無水ケイ酸が好ましい。
【0022】
流動化剤を使用する場合の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、連続打錠時の粉体流動性の点から0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、医薬製剤中の流動化剤の含有量は、特に限定されるものではないが、連続打錠時の粉体流動性の点から5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0023】
滑沢剤としては、特に限定されるものではないが、例えばステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、硬化油、グリセリン脂肪酸エステル(ステアリン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ベヘン酸グリセリル)、タルク、蜜蝋、カルナウバロウ、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、滑沢性および錠剤崩壊性の点からステアリン酸マグネシウムが好ましい。
【0024】
滑沢剤を使用する場合の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、滑沢性の点から0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、医薬製剤中の滑沢剤の含有量は、特に限定されるものではないが、錠剤崩壊性の点から5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0025】
結合剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、粉末セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸ポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸ポリマー、メタクリル酸コポリマー、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、アラビアゴム末、カラヤガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グァーガム、アカシアガム、カラギーナン、ポビドン、ポリエチレンオキサイド、部分けん化ポリビニルアルコール、プルラン、デンプン、部分α化デンプンが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
結合剤を使用する場合の医薬製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、成形性の点から、1~15質量%が好ましく、3~12質量%がより好ましい。
【0027】
甘味剤、香料などの添加剤は、特に限定されるものではなく、当該技術分野において通常使用されるものが用いられ、その医薬製剤中の含有量も用いる添加剤の種類に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0028】
本発明の医薬製剤の剤形は、特に限定されるものではないが、経口用の固形製剤が好ましく、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などが挙げられ、服用性の点から錠剤が好ましい。
【0029】
本発明の医薬製剤を錠剤とする場合、フィルムコーティング基剤を使用し、錠剤の表面に被膜を施したフィルムコーティング錠とすることもできる。それにより、水分、光または酸素などの外的条件からの主薬の安定性向上、外観の改善と商品価値の増加、医療従事者の成分への曝露からの保護などの効果が得られる傾向がある。
【0030】
フィルムコーティング基剤としては、特に限定されるものではないが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルメロースナトリウム、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの高分子を用いることができる。フィルムコーティング基剤には、必要に応じてポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチルなどの可塑剤、酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、アルミニウムレーキなどの着色剤、カルナウバロウなどの光沢化剤などを適宜添加することができる。
【0031】
本発明の医薬製剤をフィルムコーティング錠とする場合のフィルムコーティング層の質量は、錠剤全体を被覆できる程度の量であれば、特に限定されるものではないが、通常、服用後に錠剤中のパルボシクリブを速やかに溶出させる点から、錠剤中のフィルムコーティング層以外の部分の質量を100質量部とした場合、その1~20質量部とすることが好ましく、その2~10質量部とすることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の一実施形態においては、上記医薬製剤は安定なものであり、保管時にパルボシクリブの類縁物質を生じさせにくいものである。パルボシクリブの類縁物質については、例えば、本発明の医薬製剤を溶媒に溶解させ試料溶液として、液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより確認することができ、液体クロマトグラフィー分析において検出されるピークのうち、試料溶液を注入した際に認められるピークからパルボシクリブおよび添加剤のピークを除いた全てのピークを、パルボシクリブの類縁物質のピークとする。
【0033】
本発明の好ましい形態においては、例えば温度60℃の環境下にて3週間保存する苛酷試験に供した場合の医薬製剤に含まれる総類縁物質は、当該医薬製剤に含まれるパルボシクリブに対して、3.0%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。かかる総類縁物質の量(%)は、例えば、実施例において後述するように、下記式より算出できる。
【数1】
【0034】
本発明の医薬製剤は、CDK4およびCDK6阻害剤として抗悪性腫瘍剤、具体的には乳がん、特にホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能、または再発乳がんなどの治療に有用である。
【0035】
本発明の医薬製剤の投与量は、本技術分野の常識の範囲内であれば特に限定されるものではなく、例えば悪性腫瘍への治療については、通常成人に、パルボシクリブとして1日1回125mgを3週間連続して経口投与し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして、繰り返す。また、例えば副作用があらわれた場合などには基本の用量を減量することができる。
【0036】
(医薬製剤の製造方法)
本発明の医薬製剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、剤形によって当該技術分野において公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、錠剤の製造方法としては、パルボシクリブを賦形剤等と混合造粒し、得られた造粒物にpH調節剤である酸性アミノ酸を混合し、打錠することにより製造することができる。この際、パルボシクリブおよび賦形剤と共に、崩壊剤や流動化剤、さらには滑沢剤もあわせて造粒することが好ましく、さらに得られた造粒物に酸性アミノ酸を混合する際には賦形剤、崩壊剤および滑沢剤を混合することが好ましい。造粒方法は、特に限定されるものではなく、乾式造粒および湿式造粒など、製剤分野において通常使用される造粒法を用いることができるが、安定性の点から乾式造粒が好ましい。また、得られる造粒物は、整粒することが好ましく、500~850μmの篩を用いて篩過することがより好ましい。打錠方法は、特に限定されるものではなく、例えば、打錠用臼、打錠用上杵および下杵を用いて、油圧式ハンドプレス機、単発式打錠機、ロータリー式打錠機などにより行う方法などを用いることができる。打錠は、得られる錠剤が適度な硬度を有するような打錠圧で行えばよく、打錠圧は、打錠方法、打錠に用いる機器、錠剤の大きさなどに応じて適宜調整される。
【0037】
得られる錠剤の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円盤状、ドーナツ状、多角形板状、球状、楕円状、カプレット状などの形状とすることができる。
【0038】
(フィルムコーティング方法)
フィルムコーティング方法としては、本技術分野において使用されている通常のフィルムコーティング錠剤の製造方法を用いることができる。例えば、パルボシクリブを含む錠剤をフィルムコーティング機に仕込み、上記フィルムコーティング剤や添加物を水やエタノールなどの有機溶媒、またはそれらの混合溶液(例えば、水/エタノール混液)などの適切な溶媒に溶解または分散したコーティング液を錠剤に噴霧し、乾燥することによりコーティングすることができる。
【0039】
以下、本発明を実施例にもとづき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【実施例0040】
実施例において使用した試薬の詳細を以下に記載する。
結晶セルロース:日局XVIII
軽質無水ケイ酸:日局XVIII
クロスポビドン:日局XVIII
L-アスパラギン酸:日局XVIII
L-グルタミン酸:日局XVIII
コハク酸:薬添規
マレイン酸:薬添規
フマル酸:薬添規
ステアリン酸マグネシウム:植物性、日局XVIII
【0041】
上記において、日局XVIIIとは第十八改正日本薬局方を表す。
【0042】
実施例1および2
以下、表1の組成にしたがい、パルボシクリブ、結晶セルロースの一部(47.12mg/錠)、軽質無水ケイ酸、クロスポビドンの一部(5.63mg/錠)およびステアリン酸マグネシウムの一部(0.4mg/錠)を混合し、混合物を、簡易錠剤成形機(市橋精機(株)製)を用いてスラグ打錠した。得られた圧縮固体を、乳鉢(アズワン(株)製)を用いて粉砕し、500μmの篩により篩過して整粒顆粒を得た。得られた整粒顆粒にpH調節剤、結晶セルロースの残部(28.75mg/錠)、クロスポビドンの残部(3.75mg/錠)およびステアリン酸マグネシウムの残部(0.6mg/錠)を加えて帯電防止袋(アズワン(株)製)により混合し、混合物を打錠機((株)菊水製作所製)に投入して、硬度約60N、錠剤径7mmで打錠した。
【0043】
比較例1~3
以下、表1の組成にしたがい、実施例1と同様にして、整粒顆粒を得た。得られた整粒顆粒にpH調節剤、結晶セルロースの残部(28.75mg/錠)、クロスポビドンの残部(3.75mg/錠)およびステアリン酸マグネシウムの残部(0.6mg/錠)を加えて乳鉢(アズワン(株)製)により混合し混合物を簡易錠剤成形機(市橋精機(株)製)に投入して、硬度約60N、錠剤径7mmで打錠した。
【0044】
【0045】
実施例3
実施例1で得られた錠剤を素錠とし、これをフィルムコーティング機(PRC-GTXmini、(株)パウレック製)へ投入した。一方で、ヒプロメロース(3.41mg/錠)および酸化チタン(0.975mg/錠)、トリアセチン(0.485mg/錠)、青色2号アルミニウムレーキ(0.065mg/錠)および黄色三二酸化鉄(0.065mg/錠)を、精製水に溶解・分散させて、コーティング液(固形分濃度10%w/w)を調製した。その後、このコーティング液をフィルムコーティング機内で噴霧してコーティングを行い、乾燥させ、1錠あたり130mgのフィルムコーティング錠を得た。
【0046】
実施例4
実施例2で得られた錠剤を素錠とし、実施例3と同様にフィルムコーティング錠を得た(1錠あたり130mg)。
【0047】
試験例1:安定性試験
実施例1~4ならびに比較例1~3で得られたパルボシクリブの錠剤をアルミ袋に入れて溶着して気密包装し、この包装物を、温度60℃の環境下にて保存した。保存開始時(n=1)、および保存後1、2、3週間目(各n=1)の錠剤の類縁物質量を測定した。各錠剤にそれぞれ0.02mol/L塩酸試液/アセトニトリル混液(4:1)40mLを加え、超音波で処理して孔径0.45μm以下のメンブランフィルターでろ過した。初めのろ液1mLを除去して残りを試料溶液とした。以下の条件で液体クロマトグラフィーにより試験し、それぞれの液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、次式により類縁物質の量を求めた。測定した結果を
図1および表2に示す。ここで、総類縁物質量(%)とは、錠剤中のすべての類縁物質のパルボシクリブに対する割合を示すものである。
【数2】
試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相A:薄めたトリフルオロ酢酸(1→5000)
移動相B:トリフルオロ酢酸の液体クロマトグラフィー用アセトニトリル溶液(1→5000)
移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配を制御した。
流量:毎分約1.0mL
面積測定範囲:60分間
【0048】
【0049】
図1および表2より、pH調節剤として酸性アミノ酸を用いた実施例1~4は、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸をそれぞれ用いた比較例1~3と比較して開始から1週間目より顕著に安定性が向上されていることがわかる。
【0050】
試験例2:溶出試験
実施例3で製造した錠剤(n=3)について溶出試験を行った。溶出試験は、日本薬局方溶出試験法にしたがい、溶出試験機(NTR-6000シリーズ、富山産業(株)製)において、溶出試験液として水を用いてパドル法により実施した。試験条件は、溶出試験液の容積900mL、温度37±0.5℃、パドル速度50rpmとした。錠剤1個をとり、溶出試験液に入れて試験を開始し、規定時間後、溶出試験液15mLを正確に抜きとり、直ちに37±0.5℃に加温した新しい溶出試験液15mLを正確に補った。抜きとった溶出試験液は孔径0.45μm以下のメンブランフィルターでろ過した。初めのろ液10mLを除き、残りのろ液から2mLを正確に量り、0.1mol/L塩酸試液/アセトニトリル混液(1:1)2mLを正確に加え、試料溶液とした。
【0051】
別にパルボシクリブ約28mgを精密に量り、0.1mol/L塩酸試液/アセトニトリル混液(1:1)に溶かして正確に200mLとした。この液10mLを正確に量り、0.1mol/L塩酸試液/アセトニトリル混液(1:1)を加えて正確に50mLとした。この液10mLを正確に量り、溶出試験液(水)10mLを正確に加え、標準溶液とした。試料溶液および標準溶液それぞれ50μLを正確にとり、以下の条件で液体クロマトグラフィーにより試験し、各溶液のパルボシクリブのピーク面積ATおよびASを測定し、次式により溶出率を求めた。結果を表3に示す。
【数3】
試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:365nm)
カラム:内径4.6mm,長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素カリウム2.7gを水1000mLに溶かし,トリエチルアミン3mLを加えた後、リン酸を加えてpH2.5に調整し、この液750mLにアセトニトリル250mLを加えたもの
流量:パルボシクリブの保持時間が約4分になるように調整
【0052】
【0053】
表3より、実施例3の錠剤の溶出特性が、10分時点で溶出率67.6%、15分時点で73.1%と、それぞれ先発医薬品であるイブランス(登録商標)錠25mgの溶出特性と遜色のない良好なものであることがわかる。