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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092945
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】鋼管杭および鋼管杭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/28 20060101AFI20240701BHJP
   E02D 5/56 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D5/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172319
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022208481
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大前 憲盛
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA33
2D041BA44
2D041CA05
2D041CB01
2D041CB04
2D041CB06
2D041DB02
(57)【要約】
【課題】周面摩擦力の向上に寄与するほか、上方への持ち上がりを防止でき、しかも製造時のねじれ加工を可能とすることで加工難度を低下することができる。
【解決手段】地盤G内に打ち込まれる鋼管部2と、鋼管部2の外周面2aに設けられ、管軸方向Xに対して傾斜する螺旋状の羽根部3と、を備え、3枚以上の羽根部3が管軸方向Xに沿って連続的または断続的に設けられ、羽根部3は、管軸方向Xから見た平面視において周方向に隣接する羽根部3の投影部同士が隙間なく重なって配置されている鋼管杭および鋼管杭の製造方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に打ち込まれる鋼管部と、
前記鋼管部の外周面に設けられ、管軸方向に対して傾斜した形状の羽根部と、を備え、
3枚以上の前記羽根部が管軸方向に沿って連続的または断続的に設けられ、
前記羽根部は、前記管軸方向から見た平面視において周方向に隣接する前記羽根部の投影部同士が隙間なく重なって配置されている鋼管杭。
【請求項2】
前記鋼管部の円筒状の前記外周面のうち前記羽根部と接地している長さが外周長の0.68倍以下に設定されている、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記羽根部、前記鋼管部、および前記羽根部と前記鋼管部との接合部の材料成分が同一である、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項4】
前記鋼管部の内周面に設けられ、前記管軸方向に対して傾斜した形状の内面突起部を備える、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項5】
前記鋼管部の円筒状の外周長に対して前記外周面のうち前記羽根部と接地している長さの割合と、
前記鋼管部の円筒状の内周長に対して前記内周面のうち前記内面突起部と接地している長さの割合と、の合計値が0.69以下である、請求項4に記載の鋼管杭。
【請求項6】
前記羽根部、前記内面突起部、前記鋼管部、前記羽根部と前記鋼管部との接合部、および前記内面突起部と前記鋼管部との接合部の材料成分が同一である、請求項4記載の鋼管杭。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鋼管杭の製造方法であって、
少なくとも前記管軸方向に3枚以上の前記羽根部を備えた前記鋼管部に対して管軸方向回りに回転を付与する回転付与工程を有し、
前記羽根部を前記管軸方向に対して傾斜させた形状に形成する鋼管杭の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鋼管杭の製造方法であって、
少なくとも前記管軸方向に3枚以上の前記羽根部を備えた前記鋼管部を熱間押出法により製造する熱間押出工程と、
前記熱間押出工程で製造された前記鋼管部に対して管軸方向回りに回転を付与する回転付与工程と、
を有し、
前記羽根部を前記管軸方向に対して傾斜させた形状に形成する鋼管杭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭および鋼管杭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に打ち込まれる杭の鉛直支持力は、杭先端における抵抗力と杭周面の摩擦力からなる。そのため、杭の支持力増大を図る場合には、杭径を大きくしたり、杭の本数を増やしたりすることは一般的に行われている。このような杭径や杭本数を増加させる方法では、施工時においてより大きな重機が必要となるうえ、工期の延長や作業者が増員され、工事にかかるコストが大きくなってしまう。そこで、例えば、特許文献1、2に示されるような、鋼管杭の外周面に羽根を取り付けることで周面摩擦力を向上させるものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、基礎杭に延長方向が杭軸方向と平行となる剛性板を固定することで羽根部を設けて周面摩擦力を増加した構造について記載されている。
特許文献2には、鋼管外周面に螺旋状の羽根を備える回転圧入鋼管杭について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-20944号公報
【特許文献2】特許第5868636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した鋼管杭の支持力を増大させる施工では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に示すような羽根が管軸方向に対して平行である鋼管杭では、鋼管杭に大きな引抜き力が作用した場合に、施工の際に地盤に形成される羽根に沿った縦溝を通過する形で、鋼管杭が上方へ持ち上がってしまうことから、その点で改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献2に示すような鋼管外周面に螺旋状の羽根を備える杭の場合には、羽根による鉛直方向の支圧抵抗により、大きな引抜き力が作用しても上方へ抜けにくい構成である。しかしながら、通常は平板を螺旋状に曲げ加工を行い、溶接により鋼管部に羽根を形成する必要があるため、加工難度が高くなり、製造現場での負荷が大きくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、周面摩擦力の向上に寄与するほか、上方への持ち上がりを防止でき、しかも製造時のねじれ加工を可能とすることで加工難度を低下することができる鋼管杭および鋼管杭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る鋼管杭の態様1は、地盤内に打ち込まれる鋼管部と、前記鋼管部の外周面に設けられ、管軸方向に対して傾斜した形状の羽根部と、を備え、3枚以上の前記羽根部が管軸方向に沿って連続的または断続的に設けられ、前記羽根部は、前記管軸方向から見た平面視において周方向に隣接する前記羽根部の投影部同士が隙間なく重なって配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る鋼管杭によれば、鋼管部に設けられる3枚以上の羽根部において、平面視して周方向に隣接する羽根部の投影部同士が隙間なく重なって配置されていることで、地盤からの力を余さず受けながら、支圧抵抗と周面摩擦からなる周面摩擦力を向上させることができる。そのため、鋼管杭に大きな引抜き力が発生した場合であっても、管軸方向に対して傾斜した形状に形成された羽根部の鉛直方向における支圧抵抗により、鋼管部の上方への持ち上がりを抑制することができる。
【0010】
また、本発明に係る鋼管杭によれば、鋼管部に3枚以上の羽根部が設けられていることから、鋼管杭の一断面において、羽根部を用いて地盤からの力を余さず受ける場合、ねじり加工によって初期の鋼管断面形状から逸脱することを防止できる。このように本発明では、鋼管杭の製造過程においてねじり加工が可能となるので、従来のように羽根部を管軸方向に対して傾斜した形状に曲げ加工するという難度の高い加工が不要となり、加工難度を低下させることができる。
さらに、本発明に係る鋼管杭によれば、予め鋼管部に3枚以上の羽根部を設けておくことで、一度のねじり加工でロングスパンの羽根付き鋼管を製造することが可能であるため、製造効率の向上が期待できる。
【0011】
(2)本発明の態様2は、態様1の鋼管杭において、前記鋼管部の円筒状の前記外周面のうち前記羽根部と接地している長さが外周長の0.68倍以下に設定されていることが好ましい。
【0012】
この場合には、製造過程において鋼管部に発生する塑性ひずみを低減することができ、靭性の低下による割れや破断を抑制することで耐久力の低下を防止することができる。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1又は態様2の鋼管杭において、前記羽根部、前記鋼管部、および前記羽根部と前記鋼管部との接合部の材料成分が同一であることが好ましい。
【0014】
この場合には、鋼管杭の製造時に熱押鋼管のねじり加工を採用することができ、熱押鋼管のねじり加工を行うことで、溶接作業を行うことなく一体成型で鋼管断面を形づくることが可能となる。そのため、製造される鋼管杭における溶接欠損の発生を防ぐことができ、品質を向上させることができる。
【0015】
(4)本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの鋼管杭において、前記鋼管部の内周面に設けられ、前記管軸方向に対して傾斜した形状の内面突起部を備えることが好ましい。
【0016】
この場合には、施工時において、鋼管を地盤内に圧入させる場合において、鋼管内周面に設けられた内面突起部によって管内土を乱すことで先端閉塞効果を抑制することができ、貫入時の抵抗を低減することができる。
また、本発明では、供用時において、地盤から受ける力に対して内面突起部の支圧抵抗及び内面突起部に沿った管内摩擦抵抗の2種類の抵抗力を着実に発揮させることができる。
【0017】
(5)本発明の態様5は、態様4の鋼管杭において、前記鋼管部の円筒状の外周長に対して前記外周面のうち前記羽根部と接地している長さの割合と、前記鋼管部の円筒状の内周長に対して前記内周面のうち前記内面突起部と接地している長さの割合と、の合計値が0.69以下であることが好ましい。
【0018】
この場合には、製造過程において鋼管部に発生する塑性ひずみを低減することができ、靭性の低下による割れや破断を抑制することで耐久力の低下を防止することができる。
【0019】
(6)本発明の態様6は、態様4の鋼管杭において、前記羽根部、前記内面突起部、前記鋼管部、前記羽根部と前記鋼管部との接合部、および前記内面突起部と前記鋼管部との接合部の材料成分が同一であることが好ましい。
【0020】
この場合には、鋼管杭の製造時に熱押鋼管のねじり加工を採用することができ、熱押鋼管のねじり加工を行うことで、溶接作業を行うことなく一体成型で鋼管断面を形づくることが可能となる。そのため、製造される鋼管杭における溶接欠損の発生を防ぐことができ、品質を向上させることができる。
【0021】
(7)本発明の態様7は、態様1から態様6のいずれか一つの鋼管杭の製造方法において、前記管軸方向に3枚以上の前記羽根部を備えた前記鋼管部に対して管軸方向回りに回転を付与する回転付与工程を有し、前記羽根部を前記管軸方向に対して傾斜させた形状に形成することを特徴としている。
【0022】
本発明に係る鋼管杭の製造方法によれば、ストレート型の平板を備えた鋼管部に対して回転付与工程で鋼管部を管軸方向回りに回転させてねじり加工を実施して鋼管杭を製造できる。この場合には、従来のように平板を管軸方向に対して傾斜させた形状に曲げ加工して溶接する必要がなくなり、加工難度を低減することができる。ストレート型の平板を鋼管部に取り付ける方法としては、例えば、素管に後付けで平板を溶接する方法や、熱押形鋼によってストレート型の羽根付き鋼管を一体成型で製造する方法を採用できる。
【0023】
(8)本発明の態様5は、態様1から態様6のいずれか一つの鋼管杭の製造方法において、前記管軸方向に3枚以上の前記羽根部を備えた前記鋼管部を熱間押出法により製造する熱間押出工程と、前記熱間押出工程で製造された前記鋼管部に対して管軸方向回りに回転を付与する回転付与工程と、を有し、前記羽根部を前記管軸方向に対して傾斜させた形状に形成することを特徴としてもよい。
【0024】
本発明に係る鋼管杭の製造方法によれば、熱間押出工程により熱押形鋼によってストレート型の羽根付き鋼管を一体成型で製造し、その鋼管部に対して回転付与工程で管軸方向回りに回転させてねじり加工を実施して鋼管杭を製造できる。この場合には、従来のように平板を管軸方向に対して傾斜した形状に曲げ加工して溶接する必要がなくなり、加工難度を低減することができる。しかも、熱間押出工程を行う製造方法となるので、鋼管杭の製造工程にあたって溶接作業が不要となり、溶接による鋼管への欠損等を完全に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の鋼管杭および鋼管杭の製造方法によれば、周面摩擦力の向上に寄与するほか、上方への持ち上がりを防止でき、しかも製造時のねじれ加工を可能とすることで加工難度を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態による地盤に打ち込まれた鋼管杭を示す縦断面図である。
図2図1に示す鋼管杭の側面図である。
図3図2に示す鋼管杭の部分拡大図である。
図4】鋼管杭を管軸方向から見た平面図である。
図5】螺旋状の羽根部の地盤に対する抵抗力を示した図である。
図6】鋼管杭の製造方法を示す図である。
図7】第1実施例による解析モデルを示す図である。
図8】第1実施例による解析結果を示す図である。
図9】第1実施例による解析結果を示す図である。
図10】第2実施例による解析結果を示す図である。
図11】第3実施例による解析モデルを示す図である。
図12】第3実施例による解析モデルを示す図である。
図13】第3実施例による解析結果を示す図である。
図14】第2実施形態による鋼管杭の内面突起部の形状を示す側面図である。
図15図14に示す鋼管杭の断面図である。
図16】羽部と内面突起部の位置関係を説明するための部分断面図である。
図17】鋼管杭の内面突起部の製造方法を示す図である。
図18】第4実施例による解析結果を示す図である。
図19】第4実施例による解析結果を示す図である。
図20】第5実施例による試験結果を示す図である。
図21】第3実施形態による鋼管杭の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態による鋼管杭および鋼管杭の製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態による鋼管杭1は、例えば回転圧入工法により地盤Gに略鉛直方向に打ち込まれることにより施工される。鋼管杭1は、複数本が接続継手で直列に接続されている。なお、鋼管杭1の施工方法は、上記の回転圧入工法に限定されず、他の施工方法を採用することも可能である。
【0029】
図2に示すように、鋼管杭1において、鋼管の中心軸(管軸O)に沿う方向を管軸方向Xとし、管軸Oに直交する方向を径方向といい、管軸方向Xから見て管軸O回りに周回する方向を周方向とする。管軸方向Xにおいて、鋼管杭1を打ち込む前進側を下側X1といい、その反対側を上側X2という。そして、径方向で管軸O側を内側、内側の反対側で管軸Oから離れる側を外側として、以下説明する。
【0030】
図2及び図3に示すように、鋼管杭1は、地盤Gに打ち込まれる鋼管部2と、鋼管部2の外周面2aの管軸方向Xに対して傾斜した形状の羽根部3と、を備えている。
【0031】
鋼管部2は、上述したように複数本が連結され、管軸方向Xに直列に接続される。接続部20は、例えば溶接で接続することが考えられるが、ねじ継手部をはじめとした機械的な継手によって接続してもよい。鋼管部2としては、例えば、JIS G3444に規定される一般構造用炭素鋼鋼管、建築構造用炭素鋼鋼管などを用いることができる。
【0032】
図1に示すように、鋼管部2の外周面2aには、管軸方向Xに複数箇所(本実施形態では3箇所)において複数枚の羽根部3により構成された羽根群30(30A、30B、30C)が断続的に設けられている。このように羽根部3を管軸方向Xに断続的に設ける場合には、事前ボーリングにより得られた柱状図等を参考にして、比較的N値が高い深度(例えば、20~30<N値)に羽根部3が配置されるように設けることができる。
【0033】
羽根群30は、鋼管部2の外周面2aの周方向に沿って複数枚(図4では4枚)の羽根部3が配列されている。羽根部3は、径方向外側に突出するとともに管軸Oに対して傾斜している。羽根部3の径方向外側への突出長としては、とくに限定されないものの、鋼管部2の直径の1/4程度以上の突出長を有していることが周面摩擦力向上の観点から望ましい。
【0034】
本実施形態では、鋼管部2の管軸方向Xで複数箇所に配置される羽根群30は、下側X1の第1羽根群30Aと、管軸方向Xで中間部に配置された第2羽根群30Bと、上側X2の第3羽根群30Cと、が設けられている。各羽根群30A、30B、30Cは、それぞれ同一方向に傾斜した同一形状となっている。
【0035】
ここで、羽根部3、鋼管部2および羽根部3と鋼管部2との接合部3aの材料成分が同一となっている。
また、羽根部3は、管軸方向Xから見て上側X2から下側X1に向かうに従い漸次、周方向(本実施形態では反時計回り)に向けて緩やかに湾曲した状態で傾斜している。
【0036】
図5は、螺旋状の羽根部3の地盤Gに対する抵抗力を示した図である。地盤Gから受ける力Pに対する羽根部3の抵抗力は、羽根部3の管軸Oからの傾斜角度θに沿った第1分力F1と、羽根部3に対して垂直な第2分力F2に分解される(図3参照)。この傾斜角度θが大きくなると、第2分力F2が次第に大きくなり、この場合、羽根部3が管軸方向Xとは垂直関係に近づき、施工時の貫入抵抗の増大に繋がる。これは、回転圧入工法や打撃工法等によって地盤Gに直接、杭を打ち込む場合に適用される。また、傾斜角度θが小さくなると、第1分力F1が次第に大きくなり、この場合、羽根部3が管軸方向Xとは平行関係に近づく。その結果、前述したような羽根部3に沿った縦溝を通過する引抜きが発生するおそれが高まることに加えて、支圧抵抗の減少に繋がる。一般的には、支圧抵抗>周面摩擦となる。これらを防ぐため、傾斜角度θを20度~70度付近で設定することが好ましい。さらには、ねじり加工による塑性ひずみの発生を抑制するため、傾斜角度θを30度~60度付近で設定することがより好ましい。例えば、直径が76.3mm、長さ1000mmの鋼管で、管軸方向Xから見た平面視において周方向に隣接する羽根部の投影部同士が隙間なく重なって配置されている場合における傾斜角度θとして、6枚羽根で約37度に設定でき、4枚羽根で約49度に設定でき、3枚羽根で約56度に設定できる。
このように、本実施形態による鋼管杭1では、地盤Gから受ける力に対して羽根部3の支圧抵抗及び羽根に沿った周面摩擦抵抗の2種類の抵抗力を着実に発揮させるように設定される。
【0037】
図4に示すように、本実施形態では全ての羽根部3が同一形状である。
鋼管杭1は、羽根部3によって硬い地盤に抵抗させることができ、鋼管杭1の地盤Gへの打ち込み後に地盤Gに対する抵抗力が効果的に作用する。
【0038】
図4に示すように、第1羽根群30Aにおける羽根部3Aの周方向の取り付け位置と、第2羽根群30Bの羽根部3Bの周方向の取り付け位置と、が異なっている。第1羽根群30Aおよび第2羽根群30Bは、それぞれ羽根部3A、3Bが周方向に等間隔で4枚設けられている。鋼管杭1は、管軸方向Xから見た平面視において第1羽根群30Aの周方向に隣接する羽根部3A同士の間に第2羽根群30Bの羽根部3Bが少なくとも一部(ここでは鋼管部2側の部分、径方向内側の部分)が重なった状態で配置されている。なお、第1羽根群30Aの羽根部3Aの周方向の取り付け位置と、第3羽根群30Cの羽根部3の周方向の取り付け位置とは同じである。
【0039】
このように、鋼管部2の管軸方向Xから見て周方向に隣接する羽根部3の投影部同士が隙間なく重なった状態で配置されている。すなわち、管軸方向Xから見たときに、周方向に隣接する羽根部3同士が少なくとも一部で重なっている。このように重なっていることで、羽根部3は地盤Gからの力を余さず受けることができ、より高い補強効果が得られる。
【0040】
さらに、具体的には、鋼管部2における鋼管断面の円筒状部の外周面2aのうち羽根部3と接地している長さは、外周面2aの外周長の0.68倍以下に設定されている。すなわち、鋼管外周のうち羽根部3との接地長割合(必要に応じて「羽根割合」という)は、0.68以下にすることが好ましい。この羽根割合が0.68より大きい場合には、製造過程において、材料としての靭性の低下によって割れや破断が発生しやすくなり、耐久力が低下するため、好ましくない。
例えば、鋼管杭1を後述する熱間押出工程により製造する場合には、熱押形鋼の材料として一般的に用いられる一般構造用圧延鋼材(SS400、SS490)の伸びが0.15以上と規定(JIS G3101)され、羽根割合が0.68よりも大きい場合、ねじり過程において伸びが0.15に達してしまう可能性が高まるといった材料特性の観点からも羽根割合を0.68以下にすることが好ましい。
【0041】
また、図4に示すように、例えば、鋼管杭1を後述する熱間押出工程により製造する場合には、上述したように管軸方向Xから見たときに周方向に隣接する羽根部3同士が少なくとも一部で重なる条件において、管軸方向Xから見た平面視して羽根部3の羽根枚数を3枚以上に設定することが好ましい。すなわち、平面視して羽根部3が2枚の場合には、鋼管部2の管軸方向Xから見て周方向に隣接する羽根部3の投影部同士が隙間なく重なった状態で配置する場合に必要なねじり角度(必要に応じて「必要ねじり角度」と呼ぶ)である180度に達する前に、ねじり加工によって初期断面形状を維持できなくなるため、ねじり加工に不適である。
【0042】
本実施形態の鋼管杭1の製造方法としては、素管に後付けで平板を溶接する方法、熱押形鋼によってストレート型の羽根付き鋼管を一体成型で製造する方法の2種類の方法を採用できる。
【0043】
溶接による方法では、一般的にアーク溶接によって羽根部31(図6参照)を形成する平板を鋼管本体(鋼管部2)に対して溶着する。そのため、羽根部3の根本には溶接による余盛が残存する他、母材とは異なる成分の鋼材が溶材として用いられる。
【0044】
一体成型で鋼管を製造する方法、管軸方向Xに3枚以上を有する羽根部31を備えた鋼管部2を熱間押出法により製造する(熱間押出工程)。この場合、鋼管部2、羽根部3の成分と、鋼管部2と羽根部3の接合部3a(図4参照)の成分と、は同一になる。
なお、同一成分であるか否かの検証方法としては、例えば、発光分光分析装置(図示省略)を用いて材料成分の炭素当量の誤差が±20%以内、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内であることを確認する方法が挙げられる。具体的な炭素当量の算出方法としては、JIS G3475に記載される算出方法を採用できる。
【0045】
次に、上述したように、管軸方向Xに3枚以上有する真直の羽根部31を備えた鋼管部2に対して管軸O回りに回転を付与する(回転付与工程)。熱間押出工程の場合も、製造された鋼管部2に対して管軸O回りに回転を付与する(回転付与工程)。これにより、羽根部31は、管軸方向Xに対して傾斜する螺旋状に形成される。
具体的には、図6に示すように、真直の羽根部材31を一体で設けた鋼管部2(図6の紙面左側の図)をねじり加工によって羽根部材31に傾斜を形成して羽根部3とする(図6の紙面右側の図)方法が採用される。
【0046】
次に、上述した鋼管杭1および鋼管杭1の製造方法の作用について、図1図6に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係る鋼管杭1によれば、地盤G内に打ち込まれる鋼管部2と、鋼管部2の外周面2aに設けられ、管軸方向Xに対して傾斜する螺旋状の羽根部3と、を備える。3枚以上の羽根部3は、管軸方向Xに沿って連続的または断続的に設けられている。羽根部3は、管軸方向Xから見た平面視において周方向に隣接する羽根部3の投影部同士が隙間なく重なって配置されている。
【0047】
本実施形態に係る鋼管杭1によれば、鋼管部2に設けられる3枚以上の羽根部3において、平面視して周方向に隣接する羽根部3の投影部同士が隙間なく重なって配置されていることで、地盤Gからの力を余さず受けながら、支圧抵抗と周面摩擦からなる周面摩擦力を向上させることができる。そのため、鋼管杭1に大きな引抜き力が発生した場合であっても、螺旋状に形成された羽根部3の鉛直方向における支圧抵抗により、鋼管部2の上方への持ち上がりを抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、鋼管部2に3枚以上の羽根部3が設けられていることから、鋼管杭1の一断面において、羽根部3を用いて地盤Gからの力を余さず受ける場合、ねじり加工によって初期の鋼管断面形状から逸脱することを防止できる。このように本実施形態では、鋼管杭1の製造過程においてねじり加工が可能となるので、従来のように羽根部3を螺旋状に曲げ加工するという難度の高い加工が不要となり、加工難度を低下させることができる。
さらに、本実施形態によれば、予め鋼管部2に3枚以上の羽根部3を設けておくことで、一度のねじり加工でロングスパンの羽根付き鋼管を製造することが可能であるため、製造効率の向上が期待できる。
【0049】
また、本実施形態では、鋼管部2の円筒状の外周面2aのうち羽根部3と接地している長さが外周長の0.68倍以下に設定されている。
【0050】
この場合には、製造過程において鋼管部2に発生する塑性ひずみを低減することができ、靭性の低下による割れや破断を抑制することで耐久力の低下を防止することができる。
そして、この場合には、羽根部3の枚数が必要以上に多くなることがなく、適正な周方向の間隔をあけて羽根部3が配置させることができる。そのため、羽根部3の周方向の溶接部同士の間隔が狭くなることを抑制でき、溶接にかかる作業スペースを十分に確保することができる。さらに隣接する羽根部3同士の周方向の間隔をもたせることができるので、溶接部の余盛同士が干渉することを防止でき、干渉部において二度の溶接が施されるような不具合がなくなり、材料強度の低下や溶接欠陥が発生することを防止できる。
【0051】
また、本実施形態では、羽根部3、鋼管部2、および羽根部3と鋼管部2との接合部3aの材料成分が同一である。
【0052】
この場合には、鋼管杭1の製造時に熱押鋼管のねじり加工を採用することができ、熱押鋼管のねじり加工を行うことで、溶接作業を行うことなく一体成型で鋼管断面を形づくることが可能となる。そのため、製造される鋼管杭1における溶接欠損の発生を防ぐことができ、品質を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態に係る鋼管杭1の製造方法によれば、管軸方向に3枚以上の羽根部3を備えた鋼管部2を熱間押出法により製造する熱間押出工程と、熱間押出工程で製造された鋼管部2に対して管軸方向回りに回転を付与する回転付与工程と、を有する。鋼管杭1の製造方法では、羽根部3を管軸方向Xに対して傾斜させて螺旋状に形成する。
【0054】
本発明に係る鋼管杭1の製造方法によれば、熱間押出工程により熱押形鋼によってストレート型の羽根付き鋼管を一体成型で製造し、その鋼管部2に対して回転付与工程で管軸方向回りに回転させてねじり加工を実施して鋼管杭1を製造できる。この場合には、従来のように平板を螺旋状に曲げ加工して溶接する必要がなくなり、加工難度を低減することができる。しかも、熱間押出工程を行う製造方法となるので、鋼管杭1の製造工程にあたって溶接作業が不要となり、溶接による鋼管への欠損等を完全に防ぐことができる。
【0055】
上述した本実施形態による鋼管杭1および鋼管杭1の製造方法では、周面摩擦力の向上に寄与するほか、上方への持ち上がりを防止でき、しかも製造時のねじれ加工を可能とすることで加工難度を低下することができる。
【0056】
次に、上述した実施形態による鋼管杭および鋼管杭の製造方法の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0057】
(第1実施例)
第1実施例では、数値シミュレーション解析(有限要素解析)を使用して、図7に示すような鋼管外周11に複数枚の羽根12を有する鋼管10を対象に、羽根枚数B及び羽根厚tをパラメータとして、管軸Oを中心としたねじり角度を鋼管端部に与えることで、構造解析によりねじり加工を実施し、鋼管外周11のうち羽根12との接地長割合について評価した。なお、本解析においては、この接地長割合を以下、羽根割合と呼ぶ。
【0058】
本解析では、円形の鋼管10の鋼管外周11に周方向に60度の間隔をあけて6枚の羽根12を設けた解析モデルM1を作成し、羽根厚tを変えて数値シミュレーション解析を行った。解析モデルM1の条件としては、鋼管径Dが76.3mm、鋼管厚t1が4.2mm、羽根高Hが38mm、鋼管長Lが1000mmであり、降伏応力は235MPaとした。
第1実施例による数値解析では、6枚の羽根12を有する鋼管10の解析モデルM1において、管軸方向(図7の紙面に直交する方向)から見て隣接する羽根12同士が重なる回転角度となる60度のねじり角度を付与し、羽根割合を変えて最大塑性ひずみを求めた。すなわち、羽根割合を0~1の範囲で変えた各ケースにおいて、それぞれに60度でねじりを与えた際に作用する最大塑性ひずみを解析により求めた。
【0059】
図8及び図9は、第1実施例の解析結果を示している。図8は、60度のねじり角度を付与した時点で発生していた最大の塑性ひずみと鋼管外周11のうち羽根12との接地長割合(上記の羽根割合)の関係を示している。図8において、横軸が羽根割合であり、縦軸が最大塑性ひずみである。図9は、鋼管10を示す解析モデルM1における塑性ひずみの分布を示している。
【0060】
図8に示す解析の結果、羽根割合が大きいほど発生する最大塑性ひずみも大きくなる傾向にあることが確認できる。これは、図9に示すように、鋼管外周のうち羽根部と設置していない部分が弱部となり、ねじり加工による変形が集中するためである。具体的には、図8に示すように、羽根割合が0.7を超えるケース(図8では3点のプロット)とそれ以外(羽根割合0.7未満)のケースでは、最大塑性ひずみの傾向が明らかに異なっている。すなわち、羽根割合が0.7を超えるケースでは、最大塑性ひずみの増加率(変形)が大きくなることが確認できた。そして、この最大塑性ひずみの変形が顕著になる羽根割合を考慮して、最適な羽根割合を算出した。ここでは、羽根割合が0.7を超えるケースの近似直線R2と0.7未満のケースの近似直線R1との交点となる0.68を算出し、羽根割合が0.68以下とすることで最大塑性ひずみが抑えられ好ましいことが確認できた。
【0061】
また,熱押形鋼の材料として一般的に用いられる一般構造用圧延鋼材SS400、SS490の伸びは、JIS規格(JIS G3101)において0.15以上と規定されていることから、材料特性の観点からも羽根割合を0.68以下とすることが好ましい。
このような第1実施例の結果より、羽根割合を0.68以下とすることで、ねじり加工による塑性ひずみの発生を抑制できることから、製造過程において大きな塑性ひずみが発生する場合にとくに好適であり、材料としての靭性の低下によって割れや破断の発生を抑え、耐久力の低下を抑制できる効果が得られることが確認できる。
【0062】
(第2実施例)
第2実施例では、構造解析により、鋼管の限界ねじり角度(度)と羽根厚(mm)との関係から、鋼管に備えられる羽根部の羽根枚数について評価した。
【0063】
一連の構造解析により、鋼管に発生するねじりモーメントの値がピークに達したとき、過度なねじり変形が生じて初期断面形状を維持できなくなることがわかっている。そこで、本第2実施例では、ねじりモーメントの値がピークに達したねじり角度、つまり、ねじり加工によって初期断面形状を維持できなくなる角度(必要に応じて「限界ねじり角度」と呼ぶ)と羽根厚の関係を求め、適正な羽根枚数を求めた。
ここで、羽根付きの鋼管は、管軸方向から見て周方向に隣接する羽根の投影部を重ねた場合、羽根枚数に応じて必要なねじり角度(必要ねじり角度)は異なる。すなわち、必要ねじり角度は、例えば6枚羽根の場合で60度であり、2枚羽根の場合で180度となる。
【0064】
図10は、第2実施例の解析結果を示している。図10は、羽根枚数を変えた鋼管毎における、羽根厚と限界ねじり角度との関係を示している。図10において、横軸が羽根厚であり、縦軸が限界ねじり角度である。第2実施例では、鋼管の羽根の枚数が6枚、4枚、3枚、2枚の4ケースで解析を行った。
【0065】
図10に示す解析の結果、2枚羽根の鋼管を用いた場合、いずれの羽根厚においても限界ねじり角度が必要ねじり角度180度に達していないことがわかる。一方、羽根枚数が増えるほど限界ねじり角度は増加するため、羽根枚数が3枚以上の場合には必要ねじり角度を満足することがわかる。そのため、鋼管の羽根枚数は、3枚以上設けることが好ましいことが確認できた。
【0066】
(第3実施例)
第3実施例では、数値シミュレーション解析(有限要素解析)を使用して、図11および図12に示す解析モデルM2のように鋼管外周14に複数枚の羽根15を有する鋼管10Aを対象とし、鋼管10Aの軸方向の一端を周方向に回転させてねじりを付与したときの鋼管10Aにおける断面形状からねじり加工の可否について評価した。
【0067】
図11は、解析モデルM2の全体斜視図である。図12は、解析モデルM2の断面図である。本解析では、円形の鋼管の鋼管外周14に周方向に60度の間隔をあけて6枚の羽根15を設けた解析モデルM2を作成し、数値シミュレーション解析を行った。
解析モデルM2は、直径Dが76.3mm、板厚tが4.2mm、長さLが1200mm、降伏応力を235MPaとした鋼管であり、外周面14には幅8mmで高さ38mmの羽根を6枚備えたモデルである。
【0068】
第3実施例による数値解析では、図11に示すように、6枚の羽根15を有する鋼管10Aの解析モデルM2において、鋼管10Aの両端を固定治具16A、16Bによって固定した状態としている。各固定治具16A、16Bは、符号P1、P2で示す向かい合う1組2枚のそれぞれの羽根を挟み込む第1挟持部16aと、鋼管10Aの上部と下部から挟み込む第2挟持部16bと、を有する形状とし、各固定治具16A,16Bの管軸方向の長さを100mmとした。
【0069】
そして、固定治具16A、16Bによって鋼管10Aの両端を固定した後、一方の固定治具(ここでは、符号16A)を固定したまま(固定端)、他方の固定治具(ここでは、16B)を図12に示すように管軸回りに回転させ(矢印E方向)、片端にねじりを付与することで鋼管10Aにねじり加工を施す状態とし、ねじり区間における初期状態で管軸方向の固定端からの距離毎の断面において解析を行った。ねじり区間における管軸方向で固定端から所定の距離となる5地点(A地点、B地点、C地点、D地点、E地点)それぞれの断面形状変化を検証した。各地点の固定端から距離は、A地点で150mm、B地点で350mm、C地点で500mm、D地点で650mm、E地点で850mmである。解析におけるねじりの回転角度は、管軸方向から見て羽根部の投影部が周方向に隣接する羽根同士で重複する60度とした。
【0070】
図13は、第3実施例の解析結果を示している。図13は、A~E地点における,回転角度が60度での鋼管断面を示している。なお、図10に示した固定治具16A、16Bによって挟み込んだ2つの羽根を符号P1、P2で示している。
【0071】
図13に示すように、鋼管形状は、A~E地点の全地点においてほぼ円形状を確保できていることが確認できた。そのため、長さ1000mmの鋼管10Aに対する回転角度60度のねじり加工では鋼管10Aとしての性能を欠損することなくねじり部材を製造できることがわかった。つまり、鋼管断面に鋼管杭としての性能に影響があるほどの変形が生じないことから、製造過程におけるねじり加工が有効であることが確認できた。
【0072】
(第2実施形態)
図14及び図15に示すように、第2実施形態による鋼管杭1Aは、鋼管部2の内周面2bに管軸方向Xに対して傾斜した形状をなす螺旋状の内面突起部6を設けた構成である(図16参照)。
鋼管部2の内周面2bには、周方向に複数(本実施形態では6個)の内面突起部6が設けられている。本実施形態では、全ての内面突起部6が同一形状である。内面突起部6は、角部を丸めた板状の断面形状である。周方向に配列される複数の内面突起部6により突起群60が構成されている。図14及び図15は、管軸方向Xに沿って断続的に設けられた場合(図15は内面突起部6の断続部分の一部を示している)であるが、管軸方向Xの全長にわたって連続的に設けられていてもよい。内面突起部6を管軸方向Xに断続的に設ける場合には、事前に実施したボーリングにより得られた柱状図等を参考にして、比較的N値が高い深度(例えば、20~30<N値)に配置される。
なお、内面突起部6の鋼管部2に対する取り付け位置としては、例えば管軸方向Xの長さで鋼管部2の先端から外径の1.0~5.0倍の範囲に設置されていることが好ましい。
【0073】
突起群60は、鋼管部2の内周面2bの周方向に沿って複数枚(図14では6条)の内面突起部6が配列されている。内面突起部6は、径方向内側に突出するとともに管軸Oに対して傾斜している。内面突起部6の径方向内側への突出長としては、とくに限定されないものの、例えば、少なくとも鋼管内径の5%程度の突出長を有していることが管内摩擦力向上の観点から望ましい。
【0074】
ここで、内面突起部6、鋼管部2および内面突起部6と鋼管部2との接合部の材料成分が同一となっている。
また、内面突起部6は、管軸方向Xから見て上側X2から下側X1に向かうに従い漸次、周方向(本実施形態では反時計回りE1)に向けて緩やかに湾曲した状態で管軸方向Xに対して傾斜する螺旋状に形成されている。なお、内面突起部6は、管軸方向Xに対して回転しながら一定の割合で変化する螺旋状であることに限定されることはなく、直線状に延びる形状でもよいし、断続的に屈曲するような形状であってもよい。
【0075】
本実施形態による鋼管杭1Aでは、施工時において、複数の内面突起部6を有する管を地盤G内に圧入させる場合には、内面突起部6によって管内土を乱すことで先端閉塞効果を抑制することができ、貫入時の抵抗を低減することができる。
また、本実施形態による鋼管杭1Aでは、供用時において、地盤Gから受ける力に対して内面突起部6の支圧抵抗及び内面突起部6に沿った管内摩擦抵抗の2種類の抵抗力を着実に発揮させるように設定される。
【0076】
本実施形態では、ねじり加工を施す前で、内面突起部6が傾斜していない状態における鋼管杭1Aの製造方法として、熱間押出しによってストレート型の突条付き鋼管を一体成型で製造する方法を採用できる。なお、第2実施形態は熱間押出しによって製造しているが、素管に後付けで平板を溶接する方法であってもよい。この場合には接合部の材料成分が同一でない場合がある。
【0077】
溶接による方法では、一般的にアーク溶接によって内面突起部6(図17参照)を形成する平板を鋼管本体(鋼管部2)に対して溶着する。そのため、内面突起部6の根本には溶接による余盛が残存する他、母材とは異なる成分の鋼材が溶材として用いられる。
【0078】
一体成型で鋼管を製造する方法では、内面突起部6を備えた鋼管部2を熱間押出法により製造する(熱間押出工程)。この場合、鋼管部2、内面突起部6の成分と、鋼管部2と内面突起部6の接合部の成分と、は同一になる。なお、同一成分であるか否かの検証方法としては、例えば、発光分光分析装置(図示省略)を用いて材料成分の炭素当量の誤差が±20%以内、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内であることを確認する方法が挙げられる。具体的な炭素当量の算出方法としては、JIS G3475に記載される算出方法を採用できる。
【0079】
次に、上述したように、真直の内面突起部61(図17参照)を備えた鋼管部2に対して管軸O回りに回転を付与する(回転付与工程)。熱間押出工程の場合も、製造された鋼管部2に対して管軸O回りに回転を付与する(回転付与工程)。これにより、内面突起部61は、管軸方向Xに対して傾斜して形成される。
具体的には、図17に示すように、真直の内面突起部61を一体で設けた鋼管部2(図17(a))をねじり加工によって内面突起部61に傾斜を形成して内面突起部6とする(図17(b))方法が採用される。
【0080】
鋼管外周面に設けた図14に示す羽根部3は,供用時には支圧抵抗と周面摩擦からなる周面摩擦力を向上させることができるが,一方で施工時には施工抵抗となる。そこで、内面突起部6を設けることで,貫入時に管内土を乱して先端閉塞を抑制することが可能となり、施工性の向上に繋がる。とくに回転圧入時には、顕著な効果が得られる。傾斜する内面突起部6の製造方法としては、上述したように鋼管内面に後付けで棒鋼等(ストレート)を溶接、もしくは熱押形鋼によってストレート型の内面突起付き鋼管を一体成型で製造した後にねじり加工を施すことで形づくることが可能である。
【0081】
なお、ねじり加工時の変形の偏りを防ぐために少なくとも、突起条数と内面突起個数が同一である第1配置パターン、羽根部3が円環状に均等配置される第2配置パターン、あるいは内面突起部6が円環状に均等配置される第3配置パターンであることが好ましい。また、より好ましくは、第1配置パターン、または第2配置パターン及び第3配置パターンの組み合わせによる配置パターンとされる。さらに好ましくは、第1配置パターン、第2配置パターン及び第3配置パターンの組み合わせによる配置パターンとされる。
【0082】
螺旋状の内面突起部6をねじり加工にて製造する場合、鋼管円環部のうち羽根部3もしくは内面突起部6と接している長さの割合(以下、突起割合)が大きいほど、最大塑性ひずみは大きくなることが想定される。これは、鋼管円環部のうち羽根部3もしくは内面突起部6と接地していない部分が弱部となり、ねじり加工による変形が集中するためである(図16参照)。
なお、突起割合は、鋼管内周のうち内面突起部6との接地長割合(以下、内面突起割合)と羽根割合とを合計した値とする。また、図16に示すように、管軸方向からみて鋼管中心Oと羽根部根本3bとを繋ぐ略三角形断面の領域に内面突起部6が存在した場合、その部分は内面突起割合からは除外して突起割合を算出するものとする。
【0083】
このように第2実施形態による鋼管杭1Aでは、鋼管部2の内周面2bに設けられ、管軸方向に対して傾斜する螺旋状の内面突起部6を備える。そのため、鋼管杭1Aを地盤内に圧入させる場合において、内周面2bに設けられた内面突起部6によって管内土を乱すことで先端閉塞効果を抑制することができ、貫入時の抵抗を低減することができる。
【0084】
また、第2実施形態では、鋼管部2の円筒状の外周長に対して外周面2aのうち羽根部3と接地している長さの割合と、鋼管部2の円筒状の内周長に対して内周面2bのうち内面突起部6と接地している長さの割合と、の合計値が0.69以下である。そのため、製造過程において鋼管部2に発生する塑性ひずみを低減することができ、靭性の低下による割れや破断を抑制することで耐久力の低下を防止することができる。
【0085】
また、第2実施形態では、羽根部3、内面突起部6、鋼管部2、羽根部3と鋼管部2Aとの接合部、および内面突起部6と鋼管部2との接合部の材料成分が同一である。これにより、鋼管杭1Aの製造時に熱押鋼管のねじり加工を採用することができ、熱押鋼管のねじり加工を行うことで、溶接作業を行うことなく一体成型で鋼管断面を形づくることが可能となる。そのため、製造される鋼管杭1Aにおける溶接欠損の発生を防ぐことができ、品質を向上させることができる。
【0086】
(第4実施例)
第4実施例は、数値シミュレーション解析(有限要素解析)を使用して、図14に示すような鋼管部2の外周面2aに羽根部3を有し、鋼管部2の内周面2bに内面突起部6を有する鋼管を対象に、鋼管の内周面2bにおける周長に対する内面突起部6の突起割合をパラメータとして、管軸を中心としたねじり角度を鋼管端部に与えることで、構造解析にてねじり加工を実施し、評価した。
【0087】
本解析では、円形の鋼管10の鋼管外周11に周方向に60度の間隔をあけて6枚の羽根12を設け、鋼管の内周面2bにおいて周方向に隣り合う一対の羽根12同士の間に内面突起部6を設けた解析モデルを作成し、数値シミュレーション解析を行った。解析モデルの条件としては、鋼管径Dが76.3mm、鋼管厚t1が4.2mm、羽根高Hが38.0mm、内面突起部6の突起長が4.0mmであり、鋼管長Lが1000mmであり、降伏応力は235MPaとした。
第4実施例による数値解析では、6枚羽根を有する鋼管(鋼管杭1A)において、管軸方向から見て隣接する羽根同士が重なる回転角度となる60度のねじり角度を付与し、その時点で発生していた最大塑性ひずみを求めた。
【0088】
図18及び図19は、第4実施例の解析結果を示している。図18は、鋼管を示す解析モデルにおける塑性ひずみの分布を示している。図19は、6枚羽根を有する鋼管において、管軸方向から見て隣接する羽根同士が重なる回転角度となる60度のねじり角度を付与した時点で発生していた最大塑性ひずみと突起割合の関係を示している。図19において、横軸が突起割合であり、縦軸が最大塑性ひずみである。図19に示すように、突起割合が大きいほど発生する最大塑性ひずみも大きくなる傾向になっている。
【0089】
また、突起割合が0.00~0.69の範囲ではおおよそ突起割合と最大塑性ひずみが一意的な関係であるのに対して、0.69を超える場合には突起割合に関係なく大きな最大塑性ひずみが発生していることがわかる。すなわち、突起割合が0.69を超える場合には、ねじり変形が不安定となり塑性ひずみの集中が顕著になることを示し、製造過程での変形抑制を考慮すると突起割合は0.69以下であることが望ましい。そのため、突起割合の閾値としては、図19に示す突起割合のデータ(プロットの数値)において、突起割合と最大塑性ひずみが一意的な関係となる0.692に基づき、0.69に設定することができる。図19に示す太線は、0.69の突起割合を示している。さらに、突起割合が0.692のケースにおいて、10%の安全率を考慮すると0.622となることから、0.62を突起割合の閾値としてもよい。
また、他の突起割合の閾値として、図19に示す0.655のデータ(プロットの数値)を採用してもよい。0.655を採用する場合も、安全率10%を考慮すると0.590となることから、0.59を突起割合の閾値に設定できる。
【0090】
(第5実施例)
第5実施例では、螺旋突起からなる内面突起部による先端閉塞抑制の効果を確認するための実験を行った。
【0091】
本実験において、試験体として内面螺旋突起付きと突起なしの通常鋼管(素管)を準備し、これを乾燥砂で構成された砂地盤へ回転圧入を行った。鋼管の外径Dは101.6mm、肉厚tは5.7mmであり、内面螺旋突起高さは3.0mm(外径の約3%)であり、内面螺旋は杭先端付近から外径と同じ長さの範囲(1D)のみに設置されている。
【0092】
図20は、試験による貫入量と管内土高さとの関係を示している。横軸が管内土高さであり、縦軸が貫入量である。図中の実線は鋼管内に螺旋丸鋼の内面突起を有する試験体の結果を示し、破線は素管の試験結果を示している。
【0093】
図20に示す試験結果より、内面螺旋突起を有する試験体を回転圧入した場合の貫入量に対する管内土高さの上昇値は、素管を回転圧入した場合の貫入量に対する管内土高さの上昇値よりも大きくなった。これは、内面螺旋突起を有する場合は、内面螺旋突起により管内土が上方に移動し易くなったためと考えられる。これにより、内面螺旋突起を有する場合では、素管の場合よりも先端閉塞の発現が阻害され易いと考えられる。以上から、内面螺旋突起を有することにより、圧入抵抗を低減させることができ、施工性を向上させることが可能となる。
【0094】
(第3実施形態)
図21に示す第3実施形態による鋼管杭1Bは、上述した第1実施形態の鋼管杭1の第2羽根群30Bの羽根部3の管軸方向Xに対する傾斜方向を反転させた形状のものである。すなわち、第1羽根群30Aの羽根部3と第2羽根群30Bの羽根部3とは逆向きに取り付けられている。
このように、鋼管杭において、管軸方向Xに異なる箇所に存在する羽根部の取り付け方向は必ずしも同じ方向である必要はない。
【0095】
以上、本発明による鋼管杭および鋼管杭の製造方法の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0096】
例えば、本実施形態では、羽根部3が3枚以上で管軸方向Xに断続的に設けられた構成としているが、管軸方向Xに連続的に延びる形状の羽根部を採用することも可能である。
【0097】
また、本実施形態では、鋼管部2の円筒状の外周面2aのうち羽根部3と接地している長さが外周長の0.68倍以下に設定されていることが好ましいが、0.68倍以下であることに限定されることがない。
【0098】
また、羽根部3、鋼管部2、および羽根部3と鋼管部2との接合部3aの材料成分は、同一であることに限定されることはい。
【0099】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0100】
1、1A、1B 鋼管杭
2 鋼管部
2a 外周面
2b 内周面
3 羽根部
3a 接合部
30、30A、30B、30C 羽根群
6 内面突起部
G 地盤
O 管軸
X 管軸方向
X1 下側
X2 上側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21