(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092972
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】硬化型粘接着シート、接着キット、接着方法及び接着構造体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240701BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207856
(22)【出願日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022208890
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜樹子
(72)【発明者】
【氏名】下岡 稔
(72)【発明者】
【氏名】水野 瑞穂
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA13
4J004AA17
4J004AB01
4J004FA08
4J040EC061
4J040HC24
4J040HC25
4J040HD36
4J040JB02
4J040JB09
4J040KA16
(57)【要約】
【課題】被着体表面へ十分に追従・密着でき、強度の高い積層体が得られ、かつ常温接着が可能な硬化型粘接着シートを提供する。
【解決手段】硬化型粘接着剤層と、前記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられた分子接着剤層と、を有し、前記硬化型粘接着剤層は硬化型粘接着剤組成物からなり、硬化剤との反応により硬化層を形成する、硬化型粘接着シート。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化型粘接着剤層と、前記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられた分子接着剤層と、を有し、
前記硬化型粘接着剤層は硬化型粘接着剤組成物からなり、硬化剤との反応により硬化層を形成する、
硬化型粘接着シート。
【請求項2】
前記硬化型粘接着剤組成物はエポキシ樹脂を主成分として含有する、請求項1に記載の硬化型粘接着シート。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂として、常温で固体のエポキシ樹脂および常温で液体のエポキシ樹脂を含有する、請求項2に記載の硬化型粘接着シート。
【請求項4】
前記硬化型粘接着剤層は、前記硬化剤との反応により形成される硬化層の23℃における引張初期弾性率が5×107Pa以上である、請求項1に記載の硬化型粘接着シート。
【請求項5】
前記硬化型粘接着剤層の厚みが1~1000μmである、請求項1に記載の硬化型粘接着シート。
【請求項6】
前記硬化剤はイミダゾール化合物を含有する、請求項1に記載の硬化型粘接着シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化型粘接着シートと、前記硬化剤とを含む、接着キット。
【請求項8】
第1被着体上に配置された請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化型粘接着シートと、第2被着体上に配置された硬化剤層とを備える、接着キット。
【請求項9】
第1被着体上に、請求項1に記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
第2被着体上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化型粘接着シートと前記硬化剤層とを、それらが前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれるように接触させる工程(3)
を含む、接着方法。
【請求項10】
前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、請求項9に記載の接着方法。
【請求項11】
前記工程(2)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層を配置する、請求項9に記載の接着方法。
【請求項12】
第1被着体上に、請求項1に記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
前記硬化型粘接着シート上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化剤層上に、第2被着体を配置する工程(3)
を含む、接着方法。
【請求項13】
前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、請求項12に記載の接着方法。
【請求項14】
前記工程(3)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層上に前記第2被着体を配置する、請求項12に記載の接着方法。
【請求項15】
前記硬化型粘接着剤層の硬化後の23℃における引張初期弾性率(Pa)が、前記硬化型粘接着剤層の硬化前の23℃における引張初期弾性率(Pa)に対して10倍以上である、請求項9~14のいずれか1項に記載の接着方法。
【請求項16】
第1被着体と、
前記第1被着体と対向配置される第2被着体と、
前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれる硬化層及び分子接着剤層と
を備え、
前記硬化層は、硬化型粘接着剤組成物からなる硬化型粘接着剤層が硬化剤との反応により硬化して形成されている、
接着構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型粘接着シート、接着キット、接着方法及び接着構造体に関し、詳細には、硬化型粘接着剤層と分子接着剤層を有する硬化型粘接着シート、接着キット、接着方法、及び接着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被着体同士を接着する方法として、分子接着剤を用いた方法が知られている。
特許文献1には、基体Aと、基体Bとを、基体Aの表面に設けられたトリアジン環構造を有する特定化合物を含む剤を介して接合する旨が開示されている。また、特許文献2には、粘着性樹脂を含む粘着剤層上に、特定の反応性基を有する分子接着剤を含む分子接着剤層が積層された接着シートであって、粘着性樹脂は分子接着剤の反応性基と化学結合を形成し得る反応性部分構造を有する接着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5083926号公報
【特許文献2】特許第6452919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術における分子接着剤や粘着剤では、被着体表面に対する追従性および密着性、被着体同士を分子接着剤や粘着剤で接着させて得られる積層体の強度は十分ではなかった。また、接着時には加熱プレスが必要な場合もあり、加熱により被着体が劣化してしまうという問題もあった。
【0005】
したがって本発明の目的は、被着体表面へ十分に追従、密着でき、強度の高い積層体が得られ、かつ常温での接着が可能な硬化型粘接着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
〔1〕硬化型粘接着剤層と、前記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられた分子接着剤層と、を有し、
前記硬化型粘接着剤層は硬化型粘接着剤組成物からなり、硬化剤との反応により硬化層を形成する、
硬化型粘接着シート。
〔2〕前記硬化型粘接着剤組成物はエポキシ樹脂を主成分として含有する、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔3〕前記エポキシ樹脂として、常温で固体のエポキシ樹脂および常温で液体のエポキシ樹脂を含有する、前記〔2〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔4〕前記硬化型粘接着剤層は、前記硬化剤との反応により形成される硬化層の23℃における引張初期弾性率が5×107Pa以上である、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔5〕前記硬化型粘接着剤層の厚みが1~1000μmである、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔6〕前記硬化剤はイミダゾール化合物を含有する、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートと、前記硬化剤とを含む、接着キット。
〔8〕第1被着体上に配置された前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートと、第2被着体上に配置された硬化剤層とを備える、接着キット。
〔9〕第1被着体上に、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
第2被着体上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化型粘接着シートと前記硬化剤層とを、それらが前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれるように接触させる工程(3)
を含む、接着方法。
〔10〕前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、前記〔9〕に記載の接着方法。
〔11〕前記工程(2)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層を配置する、前記〔9〕に記載の接着方法。
〔12〕第1被着体上に、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
前記硬化型粘接着シート上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化剤層上に、第2被着体を配置する工程(3)
を含む、接着方法。
〔13〕前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、前記〔12〕に記載の接着方法。
〔14〕前記工程(3)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層上に前記第2被着体を配置する、前記〔12〕に記載の接着方法。
〔15〕前記硬化型粘接着剤層の硬化後の23℃における引張初期弾性率(Pa)が、前記硬化型粘接着剤層の硬化前の23℃における引張初期弾性率(Pa)に対して10倍以上である、前記〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の接着方法。
〔16〕第1被着体と、
前記第1被着体と対向配置される第2被着体と、
前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれる硬化層及び分子接着剤層と
を備え、
前記硬化層は、硬化型粘接着剤組成物からなる硬化型粘接着剤層が硬化剤との反応により硬化して形成されている、
接着構造体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化型粘接着シートによれば、被着体表面へ十分に追従、密着でき、強度の高い積層体が得られる。また、常温での接着が可能であるため、加熱による被着体の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1の(a)、(b)は、本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを被着体上に配置した態様を示す断面図である。
【
図2】
図2の(a)、(b)は、本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを被着体上に配置した別の態様を示す断面図である。
【
図3】
図3の(a)、(b)は、硬化剤層を被着体上に配置した態様を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを用いた接着方法の一態様を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを用いて被着体同士を接着させた態様を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態の硬化型粘接着シート上に硬化剤層を配置した態様を示す断面図である。
【
図7】
図7の(a)~(e)は、実施例、比較例における硬化型粘接着シートや粘着シートの積層構造を示す断面図である。
【
図8】
図8の(a)~(g)は、実施例、比較例における硬化型粘接着シートや粘着シートを用いて被着体同士を接着させた態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0010】
本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」は、それぞれ同義語として扱う。
また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の装置等のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0011】
本明細書において「粘着剤」とは、固化せずに剥離抵抗力を発揮するものをいう。具体的には、粘着剤は、感圧性接着剤(pressure-sensitive adhesive)ともいい、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここでいう粘着剤は、「C.A.Dahlquist,“Adhesion:Fundamentals and Practice”,McLaren & Sons,(1966)P.143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E*(1Hz)<107dyne/cm2を満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。また、「粘着剤層」とは、粘着剤(粘着剤組成物)で形成された層をいう。また、「粘着性」とは、粘着剤が有する上記特性をいう。
【0012】
本明細書において「硬化型粘接着剤」とは、粘着性を有するとともに、硬化剤との反応により硬化することで剥離抵抗力が増大し接着性を発現する材料をいう。また「硬化型粘接着剤層」とは、硬化型粘接着剤(硬化型粘接着剤組成物)で形成された層をいう。
【0013】
本明細書において、「X上にYを配置する(設ける)」等は、X上にYが直接接触して配置する(設ける)態様(X/Y)に限定されるものではなく、XとYの間に他の層(Z)を介して配置する(設ける)態様(X/Z/Y)を含むものとする。例えば、被着体上に硬化型粘接着シートを配置する(設ける)とは、被着体に直接接触するように硬化型粘接着シートを配置する(設ける)態様(被着体/硬化型粘接着シート)であってもよく、あるいは被着体と硬化型粘接着シートの間に分子接着剤層を配置する(設ける)態様(被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート)であってもよい。一方、「X直上にYを配置する(設ける)」とは、X上にYが直接接触して配置する(設ける)態様(X/Y)に限定されるものとする。
【0014】
≪硬化型粘接着シート≫
本発明の一実施形態に係る硬化型粘接着シートは、硬化型粘接着剤層と、前記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられた分子接着剤層と、を有し、前記硬化型粘接着剤層は硬化型粘接着剤組成物からなり、硬化剤との反応により硬化層を形成することを特徴とする。
【0015】
本発明の実施形態に係る硬化型粘接着シートは、少なくとも上記硬化型粘接着剤層と分子接着剤層を含む。本発明の実施形態に係る硬化型粘接着シートは、上記硬化型粘接着剤層および分子接着剤層のみからなるシートであってもよい。また、本発明の実施形態に係る硬化型粘接着シートは、硬化型粘接着剤層および分子接着剤層をそれぞれ一層または二層以上含んでいてもよい。硬化型粘接着剤層と分子接着剤層のそれぞれの層数は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、本発明の実施形態に係る硬化型粘接着シートは、後述するように、基材を含み、基材の一方または両方の主面に上記硬化型粘接着剤層および分子接着剤層を有するシートであってもよい。
また、本発明の実施形態に係る硬化型粘接着シートは、硬化型粘接着剤層や分子接着剤層直上に、はく離ライナーを設けていてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態に係る硬化型粘接着シートとしては、例えば、下記の層構造を有するものが挙げられる。
・硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・はく離ライナー/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・基材/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/はく離ライナー
・基材/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・基材/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・はく離ライナー/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・はく離ライナー/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・硬化型粘接着剤層/基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層
・はく離ライナー/硬化型粘接着剤層/基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
・はく離ライナー/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/基材/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/はく離ライナー
【0017】
[硬化型粘接着剤層]
本発明の一実施形態に係る硬化型粘接着シートを構成する硬化型粘接着剤層は、未硬化の状態では粘着性を有し、シートとして被着体に貼付でき、かつ、硬化剤との反応により硬化することで接着性も発現させることができる。
硬化型粘接着剤層は、硬化型粘接着剤組成物から形成され、後述する分子接着剤層を固定する役割、及び、硬化型粘接着シートを使用する際に、分子接着剤層と被着体との密着性を高める役割を担う。また、硬化型粘接着剤層は、硬化剤層との反応により硬化層を形成し、第1被着体と第2被着体を強固に接着する役割を担う。さらに、粘着剤で接着する場合、粘着剤層に起因して積層体の強度が低下する傾向があるのに対し、硬化型粘接着剤で接着する場合、高い強度(弾性率)を有して接着するため、接着剤層に起因する積層体の強度低下を抑制することができる。
【0018】
硬化型粘接着剤組成物は、エポキシ樹脂を主成分として含有するのが好ましい。硬化型粘接着剤組成物は、エポキシ樹脂を主成分として含有することにより、被着体同士を簡便かつ強固に接着できる。また、粘着性を有するとともに、硬化剤との反応により硬化することで剥離抵抗力が増大し、優れた接着性を発現できる。ここで「主成分」とは、質量基準で組成物中に最も多く含有される成分を意味する。
【0019】
上記エポキシ樹脂は、後述する分子接着剤層に含まれる分子接着剤の反応性基Aと化学結合する部分構造Cを有するのが好ましい。
【0020】
硬化型粘接着剤組成物は、エポキシ樹脂以外の成分として、例えば、シリコーン化合物、ポリプロピレングリコ-ルなどのポリオール化合物、ウレタン樹脂などを含有してもよい。これらも、後述する分子接着剤層の反応性基Aと化学結合する部分構造Cを有するのが好ましい。
【0021】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール系エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ型エポキシ樹脂、脂環族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートエポキシ樹脂、ヒダントインエポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、およびグリシジルアミノ系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
またエポキシ樹脂としては、3官能以上の多官能エポキシ樹脂を使用することもできる。このような多官能エポキシ樹脂としては、例えば、多官能エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルアミノ系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0023】
グリシジルエーテル系エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0024】
グリシジルアミノ系エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジル1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントイン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0025】
エポキシ樹脂としては、好ましくはビスフェノール系エポキシ樹脂、より好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。
エポキシ樹脂は、単独で用いることができ、また2種以上を併用することもできる。
多官能エポキシ樹脂を用いる場合は、エポキシ樹脂全体に対する多官能エポキシ樹脂の配合割合は、0.1~50質量%が好ましく、0.5~40質量%がさらに好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂は、常温で、液状(液体)、半固形状(半固体)および固形状(固体)のいずれの形態であってもよい。好ましくは、半固形状のエポキシ樹脂の単独使用、および、液状のエポキシ樹脂と固形状のエポキシ樹脂との併用が挙げられる。これにより、硬化型粘接着剤組成物からタックのある層状の硬化型粘接着剤層をより確実性高く形成できる。
【0027】
常温で液状のエポキシ樹脂は、具体的には、25℃で液状である。液状のエポキシ樹脂の粘度は、25℃において、例えば、0.01Pa・s以上、好ましくは、1Pa・s以上である。また、例えば、50Pa・s以下、好ましくは、30Pa・s以下である。
【0028】
常温で固形状のエポキシ樹脂は、具体的には、25℃で固形状である。固形状のエポキシ樹脂の軟化点は、例えば、70℃以上、好ましくは、75℃以上である。
【0029】
硬化型粘接着剤層を容易にシート化できるという観点から、硬化型粘接着剤層中の硬化前の固体樹脂(常温で固形状の樹脂)の割合は、15質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
液状のエポキシ樹脂の固形状のエポキシ樹脂に対する配合割合(質量比)(液状のエポキシ樹脂/固形状のエポキシ樹脂)は、例えば0.25以上、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.5以上である。また、例えば6.0以下、好ましくは3.0以下である。
液状のエポキシ樹脂の固形状のエポキシ樹脂に対する配合割合が、上記の下限以上であれば、硬化型粘接着剤組成物の粘度を低減させて、塗膜のムラの発生を防止して、均一な硬化型粘接着剤層を得ることができる。液状のエポキシ樹脂の固形状のエポキシ樹脂に対する配合割合が、上記の上限以下であれば、タックのある層状の硬化型粘接着剤層を得ることができる。
【0031】
エポキシ樹脂の配合割合は、硬化型粘接着剤組成物において、エポキシ樹脂が主成分となる割合に設定されており、具体的には、硬化型粘接着剤組成物に対して、例えば、70質量%以上、好ましくは80質量%以上であり、また、例えば100質量%以下である。
硬化型粘接着剤組成物はエポキシ樹脂のみからなるのが好ましく、すなわち、硬化型粘接着剤組成物に対してエポキシ樹脂の配合割合が100質量%であるのが好ましい。
【0032】
硬化型粘接着剤組成物は、必要により、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及びゴム系ポリマー等(以下、単にポリマーともいう)を含有してよい。これにより、硬化型粘接着剤組成物の凝集力を向上させたり、脆弱性を改善できる。
【0033】
硬化型粘接着剤組成物に含まれるエポキシ樹脂やポリマーは、後述する分子接着剤層中の分子接合化合物が有する反応性基Aと反応する部分構造Cを含むのが好ましい。部分構造Cとしては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、アミノ基、-CH3、-CH2-、―CH<、及び-CH=CH-からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらは、上記反応性基Aに合わせて適宜選択される。
例えば、上記反応性基Aが、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である場合、部分構造Cとしては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
また、上記反応性基Aが、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基からなる群から選ばれる少なくとも一種である場合、部分構造Cとしては、-CH3、-CH2-、-CH<、及び-CH=CH-からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0034】
硬化型粘接着剤組成物は、後述する硬化剤層を形成する硬化剤とは別に、硬化型粘接着剤組成物中に硬化剤を微量配合することもできる。これにより、硬化型粘接着剤層の凝集力を向上させることができる。硬化剤の種類は、後述する硬化剤層を形成する硬化剤と同種のものを使用できる。
【0035】
硬化型粘接着剤組成物に硬化剤を配合する場合の配合割合は、硬化型粘接着剤層の剥離接着力を向上させる一方、硬化型粘接着剤組成物をわずかに硬化させる(完全硬化させない)割合に調整される。硬化剤の配合割合は、具体的には、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.05質量部以上、好ましくは0.15質量部以上であり、また、例えば5質量部以下、好ましくは3質量部以下である。また、硬化剤が後述するイミダゾール化合物である場合には、その配合割合は、具体的には、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.05質量部以上、好ましくは0.15質量部以上であり、また、例えば5質量部以下、好ましくは3質量部以下である。
【0036】
硬化剤の配合割合が、上記の下限以上であれば、硬化型粘接着剤層の剥離接着力を向上することができる。硬化剤の配合割合が、上記の上限以下であれば、硬化型粘接着剤層が完全硬化することを抑制し、硬化型粘接着剤層と後述する硬化剤層との反応性の低下を抑制でき、後述する硬化層をより確実性高く形成できる。
【0037】
硬化型粘接着剤組成物を得るには、例えば、エポキシ樹脂と、必要により、種々のポリマー(アクリル系ポリマー溶液、ウレタン系ポリマー溶液、ポリエステル系ポリマー溶液、及びゴム系ポリマー溶液等)および/または微量の硬化剤とを配合し、必要により、溶媒で希釈して、ワニスを調製する。
【0038】
溶媒としては、硬化型粘接着剤組成物を溶解できるものであればよく、好ましくは、ケトン系溶媒が挙げられる。
【0039】
ワニスにおける硬化型粘接着剤組成物の濃度は、例えば20質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、例えば80質量%以下、好ましくは70質量%以下である。
【0040】
また、硬化型粘接着剤組成物にポリマーが配合される場合は、硬化型粘接着剤組成物を調製するときに架橋剤を配合することもできる。
【0041】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤などが挙げられ、好ましくは、イソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤が挙げられる。
【0042】
イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート類、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製,商品名コロネートL)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製,商品名コロネートHL)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製,商品名コロネートHX)などのイソシアネート付加物、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名D110N)、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学社製,商品名D160N);ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、ならびにこれらと各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合などで多官能化したポリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0043】
エポキシ系架橋剤はエポキシ基を1分子中に2つ以上有する多官能エポキシ化合物である。エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA、エピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテルの他、分子内にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ系樹脂などが挙げられる。エポキシ系架橋剤としては、例えば、三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッドC」、「テトラッドX」などを用いることができる。
【0044】
架橋剤の配合割合は、ポリマー100質量部に対して、例えば0.5質量部以上、好ましくは5質量部以上であり、また、例えば20質量部以下、好ましくは15質量部以下である。
【0045】
硬化前における硬化型粘接着剤層の23℃における引張初期弾性率は、0.01~1.0MPaが好ましく、0.02~0.5MPaがより好ましく、0.04~0.20MPaが特に好ましい。23℃における引張初期弾性率が0.01MPa以上であると、硬化型粘接着剤層の凝集力の低下が抑えられ、硬化型粘接着剤層の形状を維持できる。また1.0MPa以下であると、硬化型粘接着剤層が硬くならず、被着体への追従性の低下を抑えることができ、接着性に優れた硬化型粘接着シートとなる。
硬化前における硬化型粘接着剤層の23℃における引張初期弾性率は、実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0046】
硬化型粘接着剤層の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~500μmがより好ましく、5~250μmが更に好ましく、10~100μmが特に好ましい。
硬化型粘接着剤層の厚さが1μm以上であると、所望の被着体表面に対するより高い追従性、密着性が得られる。また1000μm以下であると、生産性の低下を抑制することができる。
【0047】
以上により、硬化型粘接着剤組成物を調製する。その後、硬化型粘接着剤組成物を、例えば、基材やはく離ライナーの表面に塗布し、その後、乾燥することで、硬化型粘接着剤層が得られる。
塗布方法としては、特に制限されず、例えば、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロール法、スクリーン法、グラビア法、スプレー法などが挙げられる。
上記乾燥は加熱により行ってもよく、加熱温度は、例えば70℃以上160℃以下であってよく、加熱時間は、例えば1分以上5分以下であってよい。
【0048】
硬化型粘接着剤組成物が、架橋剤を含有する場合には、架橋剤の種類に応じて、上記加熱後に、さらに加熱して、架橋剤によりポリマーを架橋させるエージング処理を行ってもよい。さらなる加熱における温度は30℃以上60℃以下であってよく、時間は、例えば1時間以上、好ましくは1日以上であり、また、例えば7日以下であってよい。
【0049】
硬化型粘接着剤組成物が硬化剤を含有する場合には、加熱温度が70℃以上160℃以下であってよく、加熱時間が5分以上5時間以下であってよい。これにより、硬化剤のすべてがエポキシ樹脂の一部と反応する。
【0050】
以上により、硬化型粘接着剤層が得られる。
【0051】
[分子接着剤層]
本発明の一実施形態に係る硬化型粘接着シートを構成する分子接着剤層は、上記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられる。
【0052】
分子接着剤層は、接着剤のように分子間力で接着対象に接着されるのではなく、共有結合等の化学結合により接着対象と分子接着剤層とが化学的に結合する。このため、第1被着体と第2被着体とが異種の材料であったり、難接着材料あっても、接着強度に優れ、密着性の高い積層体を形成することができる。
ここで、化学結合とは、共有結合、配位結合、イオン結合を含み、分子間力は含まない。
【0053】
分子接着剤層は分子接着剤により形成することができる。
分子接着剤は、被着体と硬化型粘接着剤層とを化学的に結合させるため、被着体と化学的に結合する反応性基、及び硬化型粘接着剤層と化学的に結合する反応性基を有する化合物を含有することが好ましい。
【0054】
被着体と化学的に結合する反応性基は、被着体を構成する材料に応じて適宜選択することができる。また、硬化型粘接着剤層と化学的に結合する反応性基は、硬化型粘接着剤層を構成する材料に応じて適宜選択することができる。
【0055】
被着体と化学的に結合する反応性基としては、例えば、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基等が好ましい。被着体として表面にヒドロキシ基等の反応性基が存在する樹脂材料等を用いる場合は、洗浄処理又は表面処理をすることなく、分子接着剤層の反応性基と反応させることができる。ただし、後述するように被着体の表面に対し表面処理等を実施すると、被着体表面のヒドロキシ基を増加させることができるため、分子接着剤が有する反応性基と反応しやすくなり、接合力をより一層向上させることができる。
【0056】
本発明の実施形態に係る分子接着剤は、例えば、アミノ基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の反応性基Aと、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選択された少なくとも1種の反応性基Bを有する分子接合化合物を含有することが好ましい。
すなわち、本発明の実施形態に係る分子接着剤は、反応性基Aと反応性基Bとを有する分子接合化合物(以下、単に化合物ともいう)を含有し、前記反応性基Aがアミノ基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種であり、前記反応性基Bがシラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
硬化型粘接着剤層を構成する材料に含まれる化合物が、上記反応性基Aと強固に化学結合する部分構造Cを有していると、分子接着剤層と硬化型粘接着剤層とが化学結合により強固に分子接合される。
また、被着体を構成する材料に含まれる化合物が、上記反応性基Bと強固に化学結合する反応性基Dを有していると、分子接着剤層と被着体とが化学結合により強固に分子接合される。
【0058】
反応性基Bは、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基から選択される少なくとも1種であり、例えば、下記一般式(S)で表される基であってもよい。
【0059】
-Si(R1S)n(OR2S)3-n (S)
【0060】
一般式(S)中、R1Sは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、炭素数1~20の炭化水素基を表す。R2Sは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~10の鎖状の炭化水素基を表す。nは、0~2の整数を表す。
【0061】
一般式(S)中、R1Sで表される炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、アルキニル基、又はアリール基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等のアルキニル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
R1Sはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1~4の鎖状の炭化水素基を表すことが好ましく、エチル基を表すことがより好ましい。
【0062】
一般式(S)中、R2Sで表される炭素数1~10の鎖状の炭化水素基としては、R1Sで表される炭素数1~20の炭化水素基のうち、炭素数が1~10の鎖状炭化水素基が挙げられる。
R1Sは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1~4の鎖状の炭化水素基を表すことが好ましく、エチル基を表すことがより好ましい。
【0063】
一般式(S)中、nは、0~2の整数を表し、0であることが好ましい。
一般式(S)中にR1S又はR2Sが複数存在する場合、複数のR1S又はR2Sはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
分子接着剤に含まれる化合物は、反応性基A及び反応性基Bをそれぞれ1以上有するのが好ましい。一分子中の反応性基Aの数は1~4が好ましく、1又は2が好ましく、2がより好ましい。反応性基Bの数は、1又は2が好ましい。
【0065】
反応性基Aと反応性基Bとを有する化合物は、芳香環を有することが好ましい。芳香環は、芳香族炭化水素環であってもよく、芳香族ヘテロ環であってもよいが、芳香族ヘテロ環であることが好ましく、トリアジン環であることがより好ましい。芳香環、特にトリアジン環(共役系骨格)に結合したアジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基は、カルベン又はナイトレンへの分解エネルギーが高い。従って、近紫外線、可視光による影響が起き難い。この為、紫外線露光の作業性が改善される。芳香環、特にトリアジン環に結合したカルベン又はナイトレンは、そうではないカルベン又はナイトレンに比べて安定であるため、カルベン又はナイトレン同士の結合が抑制される。また、C-H結合に対する水素引抜き活性や不飽和結合に対する付加活性が増強する。すなわち、少ない露光量で効果的な反応が可能である。
【0066】
上記反応性基Aと反応性基Bとを有する化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
(RA)x-L1-(RB)y (1)
【0068】
一般式(1)中、
RAは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、反応性基Aを含む基を表す。
RBは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、反応性基Bを含む基を表す。
L1は、(x+y)価の連結基を表す。
x及びyは1以上の整数を表す。
【0069】
RAが含む反応性基(反応性基A)は、アミノ基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アミノ基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、アミノ基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0070】
RAは、反応性基Aそのものであってもよく、連結基を介して反応性基Aを有する基であってもよい。
【0071】
例えば、反応性基Aがアミノ基である場合、RAは、下記一般式(a)で表される基であることが好ましい。
【0072】
【0073】
一般式(a)中、*は、一般式(1)におけるL1との結合手を表す。
Ra1は、炭素数1~10の2価の炭化水素基を表す。
mは0又は1の整数を表す。
一般式(a)中にRa1が複数存在する場合、複数のRa1は同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
一般式(a)中、Ra1が表す炭素数1~10の2価の炭化水素基としては、炭素数2~6の2価の炭化水素基が好ましい。Ra1としては、例えば、炭素数1~10のアルキレン基、又はアリーレン基が挙げられ、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等のアルキレン基;o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基等のアリーレン基;が挙げられる。
【0075】
なお、本発明の実施形態において、一般式(1)中のRAが含む反応性基はアミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、上述の硬化型粘接着剤層を構成する材料が有する部分構造Cが有する官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい態様の1つである。
【0076】
また、本発明の実施形態において、一般式(1)中のRAが含む反応性基はアジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基からなる群から選択される少なくとも一種であって、上述の硬化型粘接着剤層を構成する材料が有する部分構造Cが有する官能基は、-CH3、-CH2-、―CH<、及び-CH=CH-からなる群から選択される少なくとも一種であることが別の好ましい態様の1つである。
【0077】
RAは、上記一般式(a)で表される基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、一般式(a)で表される基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0078】
一般式(1)中のxが2以上の整数を表す場合、複数存在するRAは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0079】
RBが表す反応性基Bを含む基における反応性基Bは上述のとおりであり、好ましい例も同様である。
RBは、反応性基Bそのものであってもよく、連結基L2を介して反応性基Bを有する基であってもよい。該連結基L2としては、後述の一般式(2)におけるL2と同様であり、好ましい例も同様である。
【0080】
L1が表す(x+y)価の連結基としては、炭素数1~20のヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基が挙げられる。なかでも、芳香環を含む基であることが好ましい。
芳香環は、芳香族炭化水素環であってもよく、芳香族ヘテロ環であってもよいが、芳香族ヘテロ環であることが好ましく、トリアジン環であることがより好ましい。すなわち、L1はトリアジン環を含む基であることが好ましい。
【0081】
トリアジン環を含む基としては、例えば、下記一般式(T1)~(T3)のいずれかで表される基が好ましく挙げられる。
【0082】
【0083】
一般式(T1)~(T3)中、*は、一般式(1)中のRAとの結合手を表し、**は、一般式(1)中のRBとの結合手を表す。
RTは、単結合、又は、-N(RT2)-で表される2価の基を表す。RT2は、水素原子、又は炭素数1~20の炭化水素基を表す。
【0084】
RT2が表す炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等のアルキニル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
RTは、-NH-を表すことが好ましい。
【0085】
一般式(1)中、x及びyは1以上の整数を表す。
xは、1~4が好ましく、1又は2が好ましく、2がより好ましい。
yは、1又は2が好ましい。
【0086】
一般式(1)中のxが2以上の整数を表す場合、複数存在するRAは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
一般式(1)中のyが2以上の整数を表す場合、複数存在するRBは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0087】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0088】
(RA)x-L1-[L2-Si-(R1)n(OR2)3-n]y (2)
(一般式(2)中、
RAは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、反応性基Aを含む基を表す。
L1は、(x+y)価の連結基を表す。
L2は、複数存在する場合はそれぞれ独立に、2価の連結基又は単結合を表す。
R1は、複数存在する場合はそれぞれ独立に、炭素数が1~4の鎖状の炭化水素基を表す。
R2は、複数存在する場合はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~4の鎖状の炭化水素基を表す。
nは0~2の整数を表す。
x及びyは1以上の整数を表す。)
【0089】
一般式(2)中のRA、L1、x及びyは、一般式(1)中のRA、L1、x及びyと同義であり、好ましい例も同様である。
【0090】
L2は、2価の連結基又は単結合を表す。
L2が表す2価の連結基としては、-N(RT2)-、炭化水素基、またはこれらを組み合わせた2価の基を挙げることができる。炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~20の2価の炭化水素基が挙げられ、炭素数が1~12の鎖状の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数が1~10の鎖状の2価の炭化水素基であることがより好ましい。中でも炭素数が1~6の直鎖状のアルキレン基が好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられ、プロピレン基が好ましい。
【0091】
R1及びR2が表す炭素数が1~4の鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、メチル基又はエチル基を表すことが好ましい。
【0092】
なお、一般式(1)中のRAが含む反応性基が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種である場合には、R2は、水素原子を表してもよい。
【0093】
nは0~2の整数を表し、nは0であることが好ましい。
【0094】
x及びyは1以上の整数を表す。ただし、(x+y)≧3を満たす。
xは、1~4が好ましく、1又は2が好ましく、2がより好ましい。
yは、1又は2が好ましい。
【0095】
以下に、反応性基Aと反応性基Bを有する化合物を例示するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
一般式(1)で表される化合物としては、中でも、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン又は6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジドの化合物が好ましい。
【0105】
分子接着剤層を形成する分子接着剤において、反応性基Aと反応性基Bとを有する化合物は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0106】
分子接着剤は、分子接合化合物を含有し、分子接合化合物(好ましくは、反応性基Aと、反応性基Bとを有する化合物)を溶媒に溶解することにより調製することができる。次に、塗布した分子接着剤を乾燥させることにより、分子接着剤層を形成することができる。
【0107】
なお、塗布した分子接着剤がアジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、及びジアジリン基からなる群から選択される少なくとも一種を有する化合物を含有する場合には、紫外線(UV:ultraviolet)を照射することが好ましい。紫外線照射によって、接着剤分子のアジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、あるいはジアジリン基が分解する。アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基、あるいはジアジリン基の分解により、カルベン又はナイトレンが生成する。このカルベン又はナイトレンが光学シート表面の官能基(例えば、-CH3,-CH2-,-CH<,-CH=CH-)を攻撃する。そして、水素引抜きラジカル付加あるいはラジカル付加反応が起き、ベースポリマーが有し得る官能基との間で化学結合が生じる。
光(紫外線)照射には、例えばUV照射装置(例えば、高圧水銀UVランプ、低圧水銀UVランプ、蛍光式UVランプ(ショートARCキセノンランプ、ケミカルランプ)、メタルハライドランプ)が用いられる。そして、例えば200~450nmの紫外線が照射される。照射光量が少な過ぎると、反応が進み難い。逆に、照射光量が多すぎると、ベースポリマーや他層の劣化のおそれがある。従って、好ましい照射光量(光源波長:254nm)は1mJ/cm2~5J/cm2であり、より好ましくは5mJ/cm2~1J/cm2である。
また、分子接着剤がアミノ基を有する化合物を含有する場合には、例えば、40~150℃の温度で加熱することが好ましい。加熱の温度は、シランカップリングの水素結合形成の観点から60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。また、反応性の失活を抑制する観点から150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。
【0108】
さらに、アジド基を有する化合物を含有する分子接着剤、又はアミノ基を有する化合物を含有する分子接着剤を、塗布し、乾燥させる工程を複数回繰り返してもよい。これにより、分子接着剤層における反応性基A及び反応性基Bの濃度を高めることができる。
また、異なる種類の分子接着剤を用いることもできる。例えば、アジド基を有する化合物を含有する分子接着剤を1回又は複数回塗布・乾燥した後、アミノ基を有する化合物を含有する分子接着剤を1回又は複数回塗布・乾燥することもできる。
このように、同一の、又は互いに異なる分子接合化合物を含有する分子接着剤を積層し、反応性基A及び反応性基Bの濃度を高めると、分子接着剤層と伸縮性基材との間、及び分子接着剤層と粘着剤層との間の接着力をより一層向上させることができる。
【0109】
分子接着剤層の厚さは、例えば、接合力の観点から5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。また、接合力の観点から300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0110】
(基材層)
本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートは基材層を含んでいてもよい。基材層は、硬化型粘接着剤層に靱性を付与する支持層であり、硬化型粘接着剤層の面方向に沿って延びる略平板(シート)形状を有してよい。基材層は、軟質および硬質のいずれを有してもよい。また、基材層は気泡を含んでもよい。さらに、基材層は、多孔処理によって厚み方向を貫通する多孔体であってもよい。具体的には、基材層としては、例えば、発泡体シートなどの多孔質シートが挙げられる。
【0111】
発泡体シートの材料としては、例えば、非晶質系の架橋タイプであって、例えば、ポリウレタン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、および、それらのコポリマーなど)、シリコーン、アクリルなどの樹脂、例えば、ゴムなどが挙げられる。好ましくは、樹脂、より好ましくは、ポリウレタン、ポリオレフィン、さらに好ましくは、ポリウレタンが挙げられる。ポリウレタンは、圧縮硬さが低く、段差に対して容易に変形することができ、段差を有する被着体に追従することができる(段差追従性に優れる)。発泡体シートの発泡形態としては、例えば、連続発泡型、独立発泡型などが挙げられ、好ましくは、硬化剤成分液の浸透性から、連続発泡型が挙げられる。
【0112】
なお、多孔質シートとしては、複数の孔を有すれば特に限定されず、例えば、上記した発泡体シート以外にも、例えば、不織布などが挙げられる。そのような不織布として、例えば、ポリエステル不織布などが挙げられる。
【0113】
後述する硬化剤層を、基材層を介して硬化型粘接着剤層の反対側に積層させる場合であっても、基材層が多孔体であれば、硬化剤層に含まれる硬化剤が基材層内の複数の孔を通って硬化型粘接着剤層へ浸透し、硬化型粘接着剤層を硬化させることができる。
【0114】
また、基材層が多孔体である場合は、基材層内に存在する複数の孔中に上記硬化型粘接着剤組成物を含有する、単層構造であってもよい。かかる態様では、上記した複数の孔中と、基材層の上下両面とにおいて、上記硬化型粘接着剤組成物が存在する。かかる態様の硬化型粘接着剤層を作製するには、例えば、上記した硬化型粘接着剤組成物を多孔質シートに含侵させた後、溶剤を揮発させる。
【0115】
基材層の厚みは、例えば2μm以上、好ましくは10μm以上であり、また、例えば75μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0116】
基材層が発泡体シートであれば、その厚みは、例えば0.5mm以上、好ましくは1mm以上であり、また、例えば8mm以下、好ましくは5mm以下である。基材層の厚みが上記下限以上であれば、段差追従性に優れる。
【0117】
なお、硬化型粘接着剤層が、上述した基材層内に存在する複数の孔中に硬化型粘接着剤組成物を含有する態様の場合は、基材層の厚みは硬化型粘接着剤層の厚みと一致する。
【0118】
また、基材層の物性は、被着体に応じて適宜設定され、特に限定されない。
【0119】
(はく離ライナー)
本発明の一実施形態に係る硬化型粘接着シートは、硬化型粘接着剤層または分子接着剤層直上に、はく離ライナーを設けてもよい。はく離ライナーは、例えば、略矩形平板形状のはく離シートであって、上面および下面が平坦状に形成されていてもよい。
【0120】
はく離ライナーは、例えば、ポリオレフィン(具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などのビニル重合体、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのポリエステル、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などの樹脂材料などから、フィルムに形成されている。また、はく離ライナーは、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属材料などからも形成されてもよい。
【0121】
はく離ライナーとしては、好ましくはポリエステルフィルム、より好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。
なお、はく離ライナーの表面には、必要により、長鎖アルキル系やシリコーン系の剥離処理層を設ける等、適宜の剥離処理が施されていてもよい。
はく離ライナーの厚みは、例えば10μm以上1000μm以下である。
【0122】
≪接着方法≫
本発明の第一の実施形態に係る接着方法は、
第1被着体上に、上述した本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
第2被着体上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
硬化型粘接着シートと硬化剤層とを、それらが第1被着体と第2被着体とに挟まれるように接触させる工程(3)
を含むことを特徴とする。
【0123】
(1)第1被着体上に硬化型粘接着シートを配置する工程
本工程(1)では、第1被着体上に硬化型粘接着シートを配置する。
第1被着体としては、特に制限はなく、例えば、金属、ガラス、プラスチック、スレートや不織布のような多孔質材料、モルタル、コンクリート、ゴム、木材、皮、布、紙などが挙げられる。
【0124】
具体的には、
図1の(a)に示すように、硬化型粘接着シート1を第1被着体2上に配置する。この場合、
図1の(a)に示すように、第1被着体2、分子接着剤層1a、硬化型粘接着剤層1bがこの順に積層されるように、硬化型粘接着シート1を配置してもよいし、
図1の(b)に示すように、第1被着体2、硬化型粘接着剤層1b、分子接着剤層1aがこの順に積層されるように、硬化型粘接着シート1を配置してもよい。
【0125】
また、
図2の(a)に示すように、第1被着体2上に分子接着剤層3を配置し、該分子接着剤層3を介して前記硬化型粘接着シート1を配置してもよい。この場合、
図2の(a)に示すように、例えば、第1被着体2、分子接着剤層3、分子接着剤層1a、硬化型粘接着剤層1bがこの順に積層されるように、硬化型粘接着シート1を配置してもよいし、第1被着体2、分子接着剤層3、硬化型粘接着剤層1b、分子接着剤層1aがこの順に積層されるように、硬化型粘接着シート1を配置してもよい。
【0126】
なお、
図1の(a)、(b)および
図2の(a)、(b)ともに、硬化型粘接着シート1が硬化型粘接着剤層1bと分子接着剤層1aとをそれぞれ一層ずつ含む場合であるが、これに限らず、硬化型粘接着剤層1bと分子接着剤層1aとをそれぞれ二層以上含んでもよい。
【0127】
第1被着体上に硬化型粘接着シートや分子接着剤層を配置する前に、第1被着体の主面に、表面処理を行ってもよい。
表面処理としては、例えば、コロナ処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理等が挙げられる。また、表面処理により、第1被着体に、反応性基Bと反応し得る反応性基Dが導入されていてもよい。なお、反応性基Dとしては、例えば、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0128】
コロナ処理としては、例えば、コロナ処理機により常圧空気中で放電する方式が挙げられる。例えば、コロナ処理は、高周波電源のコロナ表面処理装置を用いて、第1被着体の表面に放電照射することにより実施される。放電出力強度は、好ましくは0.05kW以上であり、より好ましくは0.08kW以上であり、さらに好ましくは0.1kW以上である。
【0129】
スパッタエッチング処理は、例えば、ガスに由来するエネルギー粒子を基材の表面に衝突させる。第1被着体における当該粒子が衝突した部分において、第1被着体の主面に存在する原子または分子が放出されて反応性基が形成され、これにより接着性が向上する。
スパッタエッチング処理は、例えば、第1被着体をチャンバーに収容し、次いでチャンバー内を減圧した後、雰囲気ガスを導入しながら高周波電圧を印加することによって実施できる。
【0130】
雰囲気ガスは、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等の希ガス、窒素ガスおよび酸素ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
印加する高周波電圧の周波数は、例えば1~100MHz、好ましくは5~50MHzである。
高周波電圧を印加する際のチャンバー内の圧力は、例えば0.05~200Pa、好ましくは1~100Paである。スパッタエッチングのエネルギー(処理時間と印加した電力との積)は、例えば1~1000J/cm2、好ましくは2~200J/cm2である。
【0131】
プラズマ処理は、例えば、プラズマ放電機により常圧空気中で放電する方式が挙げられる。第1被着体をプラズマ装置内にセットし、所定のガスでプラズマ照射することにより行われ得る。
プラズマ処理の条件は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な条件に設定され得る。
上記プラズマ処理は、大気圧下で行われるプラズマ処理であってもよく、減圧下で行われるプラズマ処理であってもよい。プラズマ処理時の圧力(真空度)は、例えば0.05Pa~200Paであり、好ましくは0.5Pa~100Paである。
【0132】
プラズマ処理に用いる高周波電源の周波数は、例えば1MHz~100MHzであり、好ましくは5MHz~50MHzである。
プラズマ処理時のエネルギー量は、好ましくは0.1J/cm2~100J/cm2であり、より好ましくは1J/cm2~20J/cm2である。
プラズマ処理時間は、好ましくは1秒~5分であり、より好ましくは5秒~3分である。
プラズマ処理時のガス供給量は、好ましくは1sccm~150sccmであり、より好ましくは10sccm~100sccmである。
【0133】
上記プラズマ処理に用いる反応ガスとしては、例えば、水蒸気、空気、酸素、窒素、水素、アンモニア、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール)等のガスが挙げられる。このような反応ガスを用いれば、接着性に優れる基材を得ることができる。また、反応ガスと併用して、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスが用いられ得る。
【0134】
表面処理の種類は、第1被着体を構成する材料に応じて適宜選択することができる。
【0135】
(2)第2被着体上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程
本工程(2)では、第2被着体上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する。
第2被着体としては、第1被着体と同様、例えば、金属、ガラス、プラスチック、スレートや不織布のような多孔質材料、モルタル、コンクリート、ゴム、木材、皮、布、紙などが挙げられる。
なお、第2被着体が多孔質材料の場合は、後述する硬化剤が当該多孔質材料に浸透してしまい、これにより硬化型粘接着剤層と硬化剤層(硬化剤)との反応が妨げられるおそれがある。したがって、第一の実施形態の接着方法においては、第2被着体は多孔質材料でない方が好ましく、また第2被着体として多孔質材料を用いる場合は、後述する第二の実施形態の接着方法を用いることが好ましい。なお、第一の実施形態の接着方法において、第2被着体として多孔質材料を用いる場合であっても、孔内への硬化剤の浸透を加味して、硬化剤の量を増やす等により、同方法を実施できる。
【0136】
具体的には、
図3の(a)に示すように、硬化剤層5を第2被着体4上に配置する。
具体的には、硬化剤を第2被着体4の主面に塗布する。なお、後述するように、第2被着体4と硬化剤層5との間に分子接着剤層等の他の層を設ける場合は、当該他の層の表面に硬化剤を塗布することになる。
以下、硬化剤および硬化剤層について説明する。
【0137】
硬化剤は、硬化型粘接着剤層と反応することにより、硬化型粘接着剤層を硬化させる成分である。硬化剤は、重合触媒型硬化剤であってよい。重合触媒型硬化剤とは、よく知られているように、エポキシ基の自己重合反応を触媒する化合物であり、例えば、その機能として3段階での反応をもたらすものである。第1段階目はエポキシ樹脂との付加体を形成し、第2段階目はさらにエポキシ樹脂に付加してイオン体となり、第3段階目にエポキシ樹脂同士の重合反応を開始させるというものである。
重合触媒型硬化剤としては、例えば、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩類、ホスフィン類、ホスホニウム塩類、イミダゾール化合物等が挙げられる。なかでも、イミダゾール化合物は硬化速度が速いため好ましい。
【0138】
イミダゾール化合物としては、例えば、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール(1B2MZ)、1,2-ジメチルイミダゾール(1,2DMZ)、1-ブチルイミダゾール(1BZ)、1-デシル-2-メチルイミダゾール(1D2MZ)、1-オクチルイミダゾール(1OZ)、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール(1PZ)、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられ、硬化速度の観点から、1位置換イミダゾール化合物が好ましい。
【0139】
硬化剤は、単独で用いることができ、2種以上を併用することもできる。硬化剤には、必要により、硬化型粘接着剤層に用いられるものと同様のエポキシ樹脂を配合してもよい。
エポキシ樹脂の配合割合は、硬化剤100質量部に対して、通常30質量部以上、好ましくは、40質量部以上であり、また、例えば70質量部以下、好ましくは60質量部以下である。
エポキシ樹脂の配合割合が、上記の上限以下であれば、硬化剤のほぼ全部がエポキシ樹脂と反応することが防止され、硬化剤の硬化型粘接着剤層に対する反応性が低下することを防止できる。
【0140】
また、硬化剤には、必要に応じて反応希釈剤や金属触媒等を配合することもできる。
反応希釈剤としては、例えばグリシジルエーテル等が挙げられ、単官能でも多官能でもよい。金属触媒としては、例えばAl、Sn、Zr、Feなどの有機金属化合物等が挙げられる。
反応希釈剤の配合割合は、硬化剤100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上であり、また、例えば、80質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
金属触媒の配合割合は、硬化剤100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上であり、また、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0141】
固形状の硬化剤に、他の成分を配合する場合は、必要により、溶媒で硬化剤を溶解してから、他の成分を配合する。溶媒としては、硬化剤を溶解できるものであればよく、例えば、上記した溶媒が挙げられる。
【0142】
硬化剤に他の成分を配合する場合、硬化剤の濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、100質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0143】
硬化剤の塗布方法としては、例えば、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロール法、スクリーン法、グラビア法、スプレー法などが挙げられる。
その後、必要により、第2被着体の表面の余分な硬化剤を除去する。例えば、第2被着体の表面の余分な硬化剤を拭き取る。
【0144】
以上により、硬化剤層5が第2被着体4上に配置される。硬化剤層5は、面方向(厚み方向に直交する方向)に沿って延び、平坦な表面と裏面とを有する略平板形状を有してよい。
【0145】
また、
図3の(b)に示すように、第2被着体上に分子接着剤層6を配置し、該分子接着剤層6を介して前記硬化剤層5を配置してもよい。この場合、第2被着体4、分子接着剤層6、硬化剤層5がこの順に積層される。
【0146】
なお、第1被着体と同様、第2被着体においても、第2被着体上に硬化剤層や分子接着剤層を配置する前に、第2被着体の主面に、表面処理を行ってもよい。表面処理については、第1被着体と同様の方法で実施できる。
【0147】
(3)硬化型粘接着シートと硬化剤層とを、それらが第1被着体と第2被着体とに挟まれるように接触させる工程
本工程(3)では、硬化型粘接着シートと硬化剤層とを、それらが第1被着体と第2被着体とに挟まれるように接触させる。つまり、
図4に示すように、第1被着体2と第2被着体4とを、硬化型粘接着シート1と硬化剤層5が互いに接触するように、重ね合わせる。なお、硬化型粘接着シート1において、硬化型粘接着剤層と分子接着剤層の向きは問わない。すなわち、硬化型粘接着剤層が硬化剤層側にあってもよいし、分子接着剤層が硬化剤層側にあってもよい。また、上述のとおり、第1被着体2と硬化型粘接着シート1との間に分子接着剤層3が設けられていてもよいし、また、第2被着体4と硬化剤層5との間に分子接着剤層6が設けられていてもよい
【0148】
硬化型粘接着シートと硬化剤層とを、それらが第1被着体と第2被着体とに挟まれるように接触させると、硬化剤層中の硬化剤の作用により、硬化型粘接着シートにおける硬化型粘接着剤層と硬化剤層とが反応する。ここで、硬化剤の作用とは、例えば硬化型粘接着剤層への硬化剤の浸透作用等が挙げられる。
【0149】
本発明の一実施形態における硬化型粘接着シートにおいて、硬化型粘接着剤層と硬化剤層中の硬化剤との反応温度は、例えば、常温であってもよいし、加温してもよい。
【0150】
反応温度としては、好ましくは、常温である。常温は、硬化型粘接着剤層と硬化剤層中の硬化剤とを反応させるための後述する加熱(例えば、50℃以上の加熱)をしない温度であり、例えば、50℃未満、好ましくは、40℃以下であり、また、例えば、15℃以上、好ましくは、20℃以上である。
【0151】
硬化型粘接着剤層と硬化剤層との反応を常温で行うことで、加熱による被着体の劣化を抑制できる。また、反応温度が常温であれば、硬化型粘接着剤層と硬化剤層とを反応させるための加熱を必要としないため、第1被着体と第2被着体とをより一層簡便に接着することができる。そのため、硬化型粘接着剤層と硬化剤層との反応は、常温で行うのが好ましい。
【0152】
また、被着体が劣化しない程度であれば、加熱により硬化型粘接着剤層と硬化剤層との反応を促進させてもよい。加熱温度は、被着体、硬化型粘接着剤層、硬化剤等の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば50℃以上であり、好ましくは70℃以上であり、また、例えば180℃以下であり、好ましくは150℃以下である。
【0153】
反応時間は、例えば10分以上であり、1時間以上であり、12時間以上であり、また、例えば96時間以下であり、好ましくは48時間以下である。
【0154】
以上により、
図5に示すように、硬化型粘接着剤層が硬化し、硬化層7になる。すなわち、第1被着体2と第2被着体4とに硬化層7及び分子接着剤層(図示せず)とが挟まれてなる接着構造体が得られる。
【0155】
本発明の第一の実施形態に係る接着方法において、上記(1)~(3)の工程を経て得られる構造体としては、例えば、下記の層構造を有するものが挙げられる。
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
【0156】
なお、硬化剤層と分子接着剤層とが接触しないように配置すると、分子接着剤が硬化剤とともに硬化型粘接着剤層に拡散するのを抑制でき、被着体との界面に残る分子接着剤の濃度の低下を抑制でき、密着力が十分に得られ、高いせん断強度が得られるため好ましい。
【0157】
本発明の第二の実施形態に係る接着方法は、
第1被着体上に、上述した本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
硬化型粘接着シート上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
硬化剤層上に、第2被着体を配置する工程(3)
を含むことを特徴とする。
【0158】
(1)第1被着体上に硬化型粘接着シートを配置する工程
本工程(1)は、上記の第一の実施形態に係る接着方法の工程(1)と同様である。
また、第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して硬化型粘接着シートを配置してもよい。
【0159】
(2)硬化型粘接着シート上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程
本工程では、硬化型粘接着シート上に、硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する。
【0160】
図6に示すように、硬化剤層5を硬化型粘接着シート1上に配置する。
硬化剤層5の配置方法、すなわち、硬化剤の塗布方法も、上記の第一の実施形態に係る接着方法の工程(2)において、第2被着体上に硬化剤を塗布する方法と同様の方法で実施できる。また、硬化剤の種類も上記と同様である。
【0161】
(3)硬化剤層上に第2被着体を配置する工程
本工程では、硬化剤層上に第2被着体を配置する。
第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して硬化剤層上に前記第2被着体を配置してもよい。
また、硬化型粘接着シートにおける硬化型粘接着剤層と硬化剤層との反応についても上記の第一の実施形態に係る接着方法の工程(3)に記載されたものと同様の方法で実施できる。以上により、硬化型粘接着剤層が硬化し、硬化層になる。
【0162】
本発明の第二の実施形態に係る接着方法において、上記(1)~(3)の工程を経て得られる構造体としては、例えば、下記の層構造を有するものが挙げられる。
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/硬化剤層/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/第2被着体
・第1被着体/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/分子接着剤層/第2被着体
・第1被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着シート(分子接着剤層/硬化型粘接着剤層)/硬化剤層/硬化型粘接着シート(硬化型粘接着剤層/分子接着剤層)/分子接着剤層/第2被着体
【0163】
なお、硬化剤層と分子接着剤層とが接触しないように配置すると、分子接着剤が硬化剤とともに硬化型粘接着剤層に拡散するのを抑制でき、被着体との界面に残る分子接着剤の濃度の低下を抑制でき、密着力が十分に得られ、高いせん断強度が得られるため好ましい。
【0164】
第一および第二の実施形態に係る接着方法において、硬化層、すなわち硬化後における硬化型粘接着剤層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは15μm以上である。また、例えば、1300μm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。
【0165】
硬化層、すなわち硬化後における硬化型粘接着剤層の23℃における引張初期弾性率は、50MPa(5×107Pa)以上が好ましく、75MPa(7.5×107Pa)以上がより好ましく、100MPa(1×108Pa)以上がさらに好ましい。硬化層の引張初期弾性率が50MPa(5×107Pa)以上であると、硬化型粘接着剤層の硬化が十分に進み、硬化のバラツキが十分に少ないといえる。また100MPa(1×108Pa)以上であると、被着体をより強固に接着でき、より高いせん断強度を有する積層体が得られる。
硬化層の硬化型粘接着剤層の23℃における引張初期弾性率は、実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0166】
ここで、硬化層、すなわち硬化型粘接着剤層の硬化後の23℃における引張初期弾性率(Pa)は、硬化型粘接着剤層の硬化前の23℃における引張初期弾性率(Pa)に対して10倍以上であることが好ましい。また、100倍以上がより好ましく、500倍以上がさらに好ましく、1000倍以上が特に好ましい。
【0167】
以上の工程により、本発明の一実施形態の接着構造体が製造される。当該接着構造体は、第1被着体と、前記第1被着体と対向配置される第2被着体と、前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれる硬化層及び分子接着剤層とを備え、前記硬化層は、硬化型粘接着剤組成物からなる硬化型粘接着剤層が硬化剤との反応により硬化して形成されていることを特徴とする。
【0168】
≪接着キット≫
本発明の第一の実施形態の接着キットは、上記の本発明の一実施形態の硬化型粘接着シートと、上記の硬化剤とを含むことを特徴とする。かかる接着キットは、上記の本発明の第一及び第二の実施形態に係る接着方法に用いることができる。
【0169】
また、本発明の第二の実施形態の接着キットは、第1被着体上に配置された硬化型粘接着シートと、第2被着体上に配置された硬化剤層とを備えることを特徴とする。
本発明の一実施形態の接着キットは、上記の本発明の第一の実施形態に係る接着方法における工程(1)および工程(2)を経て得ることができる。
第1被着体上に配置された硬化型粘接着シートとしては、第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して硬化型粘接着シートを配置したものであってもよい。また、第2被着体上に配置された硬化剤層としては、第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層上に前記第2被着体を配置したものであってもよい。
【0170】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
〔1〕硬化型粘接着剤層と、前記硬化型粘接着剤層の少なくとも一方の主面に設けられた分子接着剤層と、を有し、
前記硬化型粘接着剤層は硬化型粘接着剤組成物からなり、硬化剤との反応により硬化層を形成する、
硬化型粘接着シート。
〔2〕前記硬化型粘接着剤組成物はエポキシ樹脂を主成分として含有する、前記〔1〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔3〕前記エポキシ樹脂として、常温で固体のエポキシ樹脂および常温で液体のエポキシ樹脂を含有する、前記〔2〕に記載の硬化型粘接着シート。
〔4〕前記硬化型粘接着剤層は、前記硬化剤との反応により形成される硬化層の23℃における引張初期弾性率が5×107Pa以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シート。
〔5〕前記硬化型粘接着剤層の厚みが1~1000μmである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シート。
〔6〕前記硬化剤はイミダゾール化合物を含有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シート。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートと、前記硬化剤とを含む、接着キット。
〔8〕第1被着体上に配置された前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートと、第2被着体上に配置された硬化剤層とを備える、接着キット。
〔9〕第1被着体上に、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
第2被着体上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化型粘接着シートと前記硬化剤層とを、それらが前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれるように接触させる工程(3)
を含む、接着方法。
〔10〕前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、前記〔9〕に記載の接着方法。
〔11〕前記工程(2)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層を配置する、前記〔9〕に記載の接着方法。
〔12〕第1被着体上に、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化型粘接着シートを配置する工程(1)、
前記硬化型粘接着シート上に、前記硬化型粘接着剤層を硬化しうる硬化剤層を配置する工程(2)、および、
前記硬化剤層上に、第2被着体を配置する工程(3)
を含む、接着方法。
〔13〕前記工程(1)において、前記第1被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化型粘接着シートを配置する、前記〔12〕に記載の接着方法。
〔14〕前記工程(3)において、前記第2被着体上に分子接着剤層を配置し、該分子接着剤層を介して前記硬化剤層上に前記第2被着体を配置する、前記〔12〕に記載の接着方法。
〔15〕前記硬化型粘接着剤層の硬化後の23℃における引張初期弾性率(Pa)が、前記硬化型粘接着剤層の硬化前の23℃における引張初期弾性率(Pa)に対して10倍以上である、前記〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の接着方法。
〔16〕第1被着体と、
前記第1被着体と対向配置される第2被着体と、
前記第1被着体と前記第2被着体とに挟まれる硬化層及び分子接着剤層と
を備え、
前記硬化層は、硬化型粘接着剤組成物からなる硬化型粘接着剤層が硬化剤との反応により硬化して形成されている、
接着構造体。
【実施例0171】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、「液状」、「固形状」とは常温での性状である。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0172】
<実施例1~3>
(硬化型粘接着剤組成物の調製)
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER828」、Mw:370、三菱ケミカル社製)50部と、固形状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER1256」、Mw:50,000、三菱ケミカル社製)30部と、液状の多官能フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名「jER152」、三菱ケミカル社製)20部を混合し、エポキシ樹脂濃度が65%になるようにメチルエチルケトンを加えて希釈し、硬化型粘接着剤組成物(ワニス)を調製した。
【0173】
(硬化型粘接着シートの作製)
上記調製したワニスを乾燥後の厚みが50μmになるように、シリコーン剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ダイアホイルMRF#38」、三菱ケミカル社製)の剥離処理面にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で3分、加熱して乾燥させ、硬化型粘接着剤層を得た。
次いで、分子接着剤試薬の6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%エタノール溶液を3mLスプレーで塗布し、室温で120秒風乾して、分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/PETフィルムの積層体を得た。
続いて、分子接着剤層の表面に紫外線を照射した後、シリコーン剥離処理されたPETフィルム(商品名「ダイアホイルMRE#38」、三菱ケミカル社製)を貼り合せて、PETフィルム/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する「第1積層体」を作製した。なお、上記の紫外線照射は、LEDランプ(株式会社クォークテクノロジー製、ピーク照度:45mW/cm
2、積算光量100mJ/cm
2(ピーク波長265nm))を使用し、紫外線の照度は紫外線積算光量計(本体装置名「UIT-250」、受光器装置名「UVD-S254」、ウシオ電機株式会社製)を使用して測定した。
上記で得られた「第1積層体」の表裏を反転し、分子接着剤層の無い面(硬化型粘接着剤層)上のPETフィルムを剥離し、露出させた硬化型粘接着剤層の表面に分子接着剤試薬(6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド)0.5質量%エタノール溶液を3mLスプレーで塗布し、室温で120秒風乾し、分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する「第2積層体」を得た。
次いで、第2積層体におけるPETフィルムを貼り合わせていない方の分子接着剤層の表面に、上記と同条件で紫外線を照射した後、再度、剥離処理されたPETフィルムを貼り合せて、PETフィルム/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する硬化型粘接着シート(
図7の(a))を作製した。
【0174】
(硬化剤の調製)
硬化剤として、1,2-ジメチルイミダゾール(商品名「1.2DMZ」、四国化成工業社製)80部と、エタノール20部を混合して調製した。
【0175】
<実施例4~6>
実施例4~6は、分子接着剤試薬として、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%水溶液を使用した点を除いては、実施例1と同様にして、PETフィルム/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する硬化型粘接着シート(
図7の(a))を作製した。硬化剤は、実施例1と同様に調製した。
【0176】
<実施例7~9>
実施例7~9は、最終的に得られる硬化型粘接着シートを、PETフィルム/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/PETフィルム(実施例1における第1積層体)の積層構造とした点を除いては、実施例1と同様にして硬化型粘接着シート(
図7の(b))を作製した。硬化剤は、実施例1と同様に調製した。
【0177】
<比較例1~3、6>
比較例1~3、6は、実施例1における第1積層体の作製において、分子接着剤層の作製および紫外線照射を行わなかった点を除いては実施例1と同様にして、PETフィルム/硬化型粘接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する硬化型粘接着シート(
図7の(c))を作製した。
【0178】
<比較例4>
分子接着剤試薬として6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%エタノール溶液を、ワイヤーバー#14(ポケット容積37.56cc/m
2)を用いて、厚さが300μmであるポリエチレン(PE)シート(コルゴ社製)に塗工し、室温で120秒風乾した後、紫外線照射し(ピーク照度:45mW/cm
2、積算光量100mJ/cm
2(LEDランプ、ピーク波長265nm)、第1の分子接着剤層を形成した。次いで、分子接着剤試薬として、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%水溶液を、ワイヤーバー#14(ポケット容積37.56cc/m
2)を用いて、上記で形成した第1の分子接着剤層上に塗工し、室温で120秒風乾することで、第1の分子接着剤層上に第2の分子接着剤層を形成した。表裏を反転し、分子接着剤層の無い面(PEシート)上に、上記と同様の操作により分子接着剤層を形成して、分子接着剤層/PEシート/分子接着剤層の積層構造を有する接着シート(
図7の(d))を得た。なお、
図7の(d)中においては、第1の分子接着剤層と第2の分子接着剤層の積層体を「分子接着剤層」としている。
【0179】
<比較例5>
(粘着剤組成物溶液の調製)
まず、アクリル系ポリマーを調製した。攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、n-ブチルアクリレート99質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、重合溶媒として酢酸エチル200重量部と共にフラスコに仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して1時間窒素置換した後、フラスコ内の液温を55℃近傍で保って10時間重合反応を行い、重量平均分子量150万のアクリル系ポリマー溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー溶液の固形分100質量部に対して、イソシアネート系架橋剤(商品名「タケネートD-101E」、三井化学社製)10質量部を配合し、固形分が15質量%になるように酢酸エチルをさらに加えて、粘着剤組成物溶液を調製した。
【0180】
(粘着シートの作製)
上記粘着剤組成物溶液を乾燥後の厚みが50μmになるように、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「ダイアホイルMRF#38」、三菱ケミカル社製)の剥離処理面にアプリケーターを用いて塗工し、130℃で3分、加熱して乾燥させ、粘着剤層を形成した。
次いで、分子接着剤試薬として6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%エタノール溶液を3mLスプレー塗布し、室温で120秒風乾して、分子接着剤層/粘着剤層の積層体を得た。
続いて、分子接着剤層の表面に紫外線を照射した後、剥離処理されたPETフィルム(商品名「ダイアホイルMRE#38」、三菱ケミカル社製)を、分子接着剤層および粘着剤層の表面に貼り合せて、PETフィルム/分子接着剤層/粘着剤層/PETフィルムの積層構造を有する粘接着シートを作製した。なお、上記の紫外線照射は、LEDランプ(株式会社クォークテクノロジー製、ピーク照度:45mW/cm
2、積算光量100mJ/cm
2(ピーク波長265nm))を使用し、紫外線の照度は紫外線積算光量計(本体装置名「UIT-250」、受光器装置名「UVD-S254」、ウシオ電機株式会社製)を使用して測定した。
上記で得られた粘接着シートの表裏を反転し、分子接着剤層の無い面(粘着剤層)上のPETフィルムを剥離し、露出させた粘着剤層の表面に分子接着剤試薬(6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド)0.5質量%エタノール溶液を3mLスプレー塗布し、室温で120秒風乾し、PETフィルム/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層の積層構造を有する積層体を得た。
次いで、PETフィルムを貼り合わせていない方の分子接着剤層の表面に、上記と同条件で紫外線を照射した後、再度、剥離処理されたPETフィルムを貼り合せて、PETフィルム/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層/PETフィルムの積層構造を有する粘着シート(
図7の(e))を作製した。
【0181】
≪接着構造体の作製および強度の評価≫
(接着構造体の作製)
[被着体の準備]
被着体(第1被着体及び第2被着体)として、SPCC材、PP材、PPS材を準備した。
SPCC材は、幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mm(品番「STKSLA00102」、株式会社スタンダードテストピース製)をトルエン中に10分以上浸漬した後、表面を酢酸エチルで洗浄し、乾燥させたものを使用した。
PP材は、幅25mm×長さ100mm×厚み1.5mm(品番「PP-N-BN」、株式会社スタンダードテストピース製)をエタノールでふき取り洗浄し、乾燥させた後、被着体の一方の面に対し、放電量122W・min/m2の条件でコロナ処理を行ったものを使用した。
PPS材は、幅25mm×長さ100mm×厚み1.5mm(商品名「PPS(N)」、株式会社スタンダードテストピース製)をエタノールでふき取り洗浄し、乾燥させた後、被着体の一方の面に対し、放電量122W・min/m2の条件でコロナ処理を行ったものを使用した。
【0182】
[接合]
表1に記載の、第1被着体の接合面と第2被着体の接合面との間に、上記で作製した各種シートを配置して、第1被着体と第2被着体とを接合することにより、実施例および比較例の接合体サンプルを得た。以下、各実施例および比較例の接合体サンプルについて、それぞれの作製方法を記載する。
【0183】
(実施例1~6)
得られた硬化型粘接着シート(PETフィルム/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルム:
図7の(a))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は分子接着剤層)を、幅25mm×長さ100mmの第1被着体の先端に配置した。次いで、他方のPETフィルムを剥離し、露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は分子接着剤層)に硬化剤を塗布し、硬化剤層を形成した。表面に硬化剤を形成した硬化型粘接着剤層側に対して、幅25mm×長さ100mmの第2被着体の先端を接触させることで、2つの被着体を貼り合わせた積層体(第2被着体/硬化剤層/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/第1被着体:
図8の(a))を得た。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。これにより、硬化型粘接着剤層と硬化剤との反応により形成された硬化層、および、分子接着剤層によって、2つの被着体が接合された接着構造体(第2被着体/分子接着剤層/硬化層/分子接着剤層/第1被着体)が得られた。
なお、実施例2、3、5、6については、第1被着体および第2被着体において、コロナ処理を行った面にそれぞれの層を積層した。
【0184】
(比較例1~3)
得られた硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/PETフィルム:
図7の(c))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)を幅25mm×長さ100mmの第1被着体の先端に配置した。次いで、他方のPETフィルムを剥離し、露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤を塗布し、硬化剤層を形成した。表面に硬化剤を形成した硬化型粘接着剤層側に対して、第2被着体の先端を接触させることで、2つの被着体を貼り合わせた積層体(第2被着体/硬化剤層/硬化型粘接着剤層/第1被着体:
図8の(b))を得た。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。
これにより、硬化型粘接着剤層と硬化剤との反応により形成された硬化層によって、2つの被着体が接合された接着構造体(第2被着体/硬化層/第1被着体)が得られた。
なお、比較例2、3については、第1被着体および第2被着体において、コロナ処理を行った面に他の層を積層した。
【0185】
(比較例4)
得られた接着シート(分子接着剤層/PEシート/分子接着剤層:
図7の(d))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、幅25mm×長さ100mmの第1被着体の先端に配置した。次いで、第2被着体の先端を接触させ、被着体同士を互いに密着させる方向に押圧しつつ、150℃で加熱し、加圧力を1MPaとして、20分間保持した。これにより、PEシートと結合した分子接着剤層によって、2つの被着体が接合された接着構造体(第2被着体/分子接着剤層/PEシート/分子接着剤層/第1被着体:
図8の(c))が得られた。
【0186】
(比較例5)
得られた粘接着シート(PETフィルム/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層/PETフィルム:
図7の(e))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された粘着剤層(最表面は分子接着剤層)を幅25mm×長さ100mmの第1被着体の先端に配置した。次いで、他方のPETフィルムを剥離し、露出させた粘着剤層(最表面は分子接着剤層)に対して、第2被着体の先端を接触させることで、2つの被着体を貼り合わせた積層体(第2被着体/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層/第1被着体:
図8の(d))を得た。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。
これにより、粘着剤層と結合した分子接着剤層によって、2枚の被着体が接合された接着構造体(第2被着体/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層/第1被着体)が得られた。
【0187】
(実施例7)
得られた硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルム:
図7の(b))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は分子接着剤層)を、第1被着体である幅25mm×長さ100mmのPP材のコロナ処理面に対して、その先端に配置した。
次いで、他方のPETフィルムを剥離し、露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤を塗布し、硬化剤層を形成した。表面に硬化剤を形成した硬化型粘接着剤層側に対して、第2被着体であるSPCC材の先端を接触させることで、2つの被着体を貼り合わせた積層体(第2被着体(SPCC材)/硬化剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/第1被着体(PP材):
図8の(e))を得た。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。これにより、硬化剤と分子接着剤を接触させることなく、硬化型粘接着剤層と硬化剤との反応により形成された硬化層、および、硬化型粘接着剤層と結合した分子接着剤層によって、2枚の被着体が接合された接着構造体(第2被着体(SPCC材)/硬化層/分子接着剤層/第1被着体(PP材))が得られた。
【0188】
(比較例6)
得られた硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/PETフィルム:
図7の(c))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)を、第1被着体である幅25mm×長さ100mmのPP材のコロナ処理面の先端に配置した。
次いで、他方のPETフィルムを剥離し、露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤を塗布し、硬化剤層を形成した。表面に硬化剤を形成した接着剤層側に対して、第2被着体としてSPCC材の先端を接触させることで、2つの部材を貼り合わせた積層体(第2被着体(SPCC材)/硬化剤層/硬化型粘接着剤層/第1被着体(PP材):
図8の(f))を得た。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。これにより、硬化型粘接着剤層と硬化剤との反応により形成された硬化層によって、2つの被着体が接合された接着構造体(第2被着体(SPCC材)/硬化層/第1被着体(PP材))が得られた。
【0189】
(実施例8、9)
まず、幅25mm×長さ100mmの被着体のコロナ処理面に対して、分子接着剤試薬として6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(株式会社いおう化学研究所製)の0.5質量%エタノール溶液を3mLスプレー塗布し、室温で120秒風乾した後、紫外線照射し(ピーク照度:45mW/cm
2、積算光量100mJ/cm
2(LEDランプ、ピーク波長265nm)、分子接着剤層/被着体の積層体を得た。
次いで、得られた硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/PETフィルム:
図7の(b))を幅25mm×長さ10mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は分子接着剤層)を、上記被着体上の分子接着剤層に対して、その先端に配置した。これにより、PETフィルム/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/分子接着剤層/被着体の積層構造を有する積層体を得た。同様の操作により、もう1つ同一の積層体を作製した。
2つ作製した上記積層体のうち、一方の積層体上からPETフィルムを剥離した。露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤を塗布し、第1の硬化剤層を形成した。
次いで、他方の積層体上からPETフィルムを剥離して硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)を露出させた。露出させた硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤を塗布し、第2の硬化剤層を形成した。表面に第1の硬化剤層を形成した硬化型粘接着剤層側に対して、他方の積層体の第2の硬化剤層を形成した硬化型粘接着剤層(最表面は第2の硬化剤層)の先端を接触させることで、2つの被着体(第1被着体、第2被着体)を貼り合わせた積層体(第2被着体/分子接着剤層/硬化型粘接着剤層/硬化剤層/硬化型粘接着剤層/分子接着剤層/第1被着体:
図8の(g))を得た。なお、
図8の(g)中においては、第1の硬化剤層と第2の硬化剤層の積層体を「硬化剤層」、硬化型粘接着剤層上の分子接着剤層と被着体上の分子接着剤層の積層体を「分子接着剤層」としている。続いて、2つの被着体をクリップで固定し、40℃で3日間放置した。これにより、硬化剤と分子接着剤を接触させることなく、硬化型粘接着剤層と硬化剤との反応により形成された硬化層、および、硬化型粘接着剤層と結合した分子接着剤層によって、2枚の被着体が接合された接着構造体(第2被着体/分子接着剤層/硬化層/分子接着剤層/第1被着体)が得られた。
【0190】
<接着構造体のせん断強度の測定>
上記のようにして得られた接着構造体サンプルに対して、せん断強度を測定することにより、硬化型粘接着シートの被着体に対する追従性、密着性、及び接着構造体の強度を評価した。せん断強度は、得られた接着構造体の両端を引張圧縮試験機(装置名「AGX-V」、島津製作所社製)に固定して、せん断方向(長さ方向)に引張速度5.0mm/minで引っ張り、2つの部材のうち一方が剥がれた、あるいは破損した際の試験力を測定した。せん断強度は以下の式により算出した。
せん断強度(MPa)=試験力(N)/250mm2 (1)
【0191】
<引張初期弾性率の評価>
(測定用サンプルの作製)
[実施例1~9、比較例1~3、6]
分子接着剤層を除いた硬化型粘接着剤層の引張初期弾性率を測定することにより、硬化型粘接着剤層の強度を評価した。
硬化前の引張初期弾性率の測定用サンプルは、以下のように作製した。硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/PETフィルム)を幅30mm×長さ30mmに切り出し、一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層を円筒状に丸めて測定用サンプルを作製した。
硬化後の引張初期弾性率の測定用サンプルは、以下のように作製した。硬化型粘接着シート(PETフィルム/硬化型粘接着剤層/PETフィルム)から一方のPETフィルムを剥離し、露出された硬化型粘接着剤層(最表面は硬化型粘接着剤層)に硬化剤層を配置した後、再度、剥離処理されたPETフィルムを貼り合せて、40℃で3日間放置した。このようにして得られた硬化後の硬化型粘接着剤層(硬化層)を含む接着シートを幅15mm×長さ40mmに切り出し、その後、PETフィルムを2枚剥離し、露出された硬化後の硬化型粘接着剤層(硬化層)をそのまま測定用サンプルとした。
【0192】
[比較例4]
上記の接着シートを幅10mm×長さ30mmのサイズに切り出して、測定用サンプルとした。
【0193】
[比較例5]
比較例5の粘着シートにおいて、分子接着剤層の作製および紫外線照射を行なわず、PETフィルム/粘着剤層/PETフィルムの積層構造を有する粘着シートを作製した。当該粘着シートを幅30mm×長さ30mmのサイズにカットし、その後、一方のPETフィルムを剥離し、露出された粘着剤層を円筒状に丸めて、測定用サンプルとした。
【0194】
<引張初期弾性率の測定>
23℃65%RH(室温)において、上記の測定用サンプルを引張圧縮試験機(装置名「AGS-50NX」、島津製作所社製)にセットし、チャック間距離10mm、引張速度50mm/minの条件でサンプル長さ方向に伸長したことによるその変化量(mm)を測定した。これにより、得られたS-S(Strain-Strength)曲線において、最初の部分(接線)の傾き(上記S-S曲線の弾性変形領域、具体的には変位がおおよそ10%未満の範囲における傾き)により、測定用サンプルの引張初期弾性率(Pa)を求めた。
また、比較例4においては、貼り付け時弾性率も測定した。比較例4の貼り付け時弾性率は、恒温槽付き引張圧縮試験機(装置名「TG-1kN」、ミネベア社製)を用いて測定した。恒温槽を150℃で1時間以上保持した後、上記の測定用サンプルをチャック間距離10mmでセットした。20分間曝したのち、引張速度50mm/minの条件でサンプル長さ方向に伸長したことによるその変化量(mm)を測定した。これにより、得られたS-S(Strain-Strength)曲線において、最初の部分(接線)の傾き(上記S-S曲線の弾性変形領域、具体的には変位がおおよそ10%未満の範囲における傾き)により、測定用サンプルの貼り付け時弾性率(Pa)を求めた。
結果を表1に示す。
【0195】
【0196】
実施例1と比較例1とを比べると、硬化型粘接着剤層の主面に分子接着剤層が設けられた実施例1の方が、分子接着剤層が設けられていない比較例1に比べ、接着構造体におけるせん断強度が高かった。実施例1は、硬化型粘接着剤層の最表面に分子接着剤層を配置し、さらに分子接着剤層の上に硬化剤層を配置したものである。分子接着剤層が被着体に直接接触しない構成であっても、後述のように、硬化剤層が硬化型粘接着剤層に拡散するため、分子接着剤層と被着体とが反応して、優れた密着性を示したと考えられた。また、硬化剤層が硬化型粘接着剤層と直接接触しない構成であっても、後述のように、硬化剤層が硬化型粘接着剤層に拡散するため硬化層を形成することができ、高い強度(弾性率)を有して接着できたと考えられた。
同様に、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3とを比較しても、実施例の方が比較例よりも接着構造体における際のせん断強度が高かった。
また、分子接着剤層の種類を変えた実施例4~6においても、それぞれ実施例1~3と同等のせん断強度が得られた。
また、実施例7と比較例6とを比べると、硬化型粘接着剤層の主面片側に分子接着剤層が設けられた実施例7の方が、分子接着剤層が設けられていない比較例6に比べ、接着構造体におけるせん断強度が高かった。
実施例8と実施例2、実施例9と実施例3とを比べると、硬化剤層を分子接着剤層側に配置しない実施例8および実施例9は、硬化剤層を分子接着剤層側に配置した実施例2および実施例3に比べ、接着構造体におけるせん断強度が高かった。これは、硬化剤層と分子接着剤層とが接触しないように配置すると、分子接着剤が硬化剤とともに硬化型粘接着剤層に拡散するのを抑制でき、被着体との界面に残る分子接着剤の濃度の低下を抑制でき、密着力が十分に得られ、材料破壊するほどの高いせん断強度が得られたためと考えられた。
以上のように、実施例の硬化型粘接着シートは、被着体への追従性、密着性に優れ、より強度の高い積層体が得られることが示された。
【0197】
一方、比較例4の接着シートは接着温度が150℃と高いため、被着体の劣化が懸念される。また、実施例の硬化型粘接着シートの硬化後引張初期弾性率と比較して、接着シートの引張初期弾性率は低い値となった。また、実施例の硬化型粘接着シートの硬化前引張初期弾性率と比較して、貼り付け時弾性率は高い値となった。
また、比較例5の粘着シートでは、せん断強度が低く、被着体同士を接着することが出来なかった。また、実施例の硬化型粘接着シートの硬化後引張初期弾性率と比較して、粘着シートの引張初期弾性率は低い値となった。また、実施例の硬化型粘接着シートの硬化前引張初期弾性率と比較して、引張初期弾性率は高い値となった。
また、比較例6では、分子接着剤層を有していないため、せん断強度が低い値となった。